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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

輪切り図鑑「大帆船」

今はもう無いと思うんですが、岩波書店からかつて輪切り図鑑というものが出ておりました。
いくつか種類があったようですが、私も帆船と中世の城の二冊を持っております。

中でも帆船の輪切り図鑑はすごく面白くて、結構勉強になりました。

これは1800年ごろのイギリスの帆走戦列艦を輪切りにしたもので、ウォーリーを探せのように艦内から一人の人物を探す楽しみもついています。
例えば暗くじめじめした船内ですが、意外と陸上で生活していた人たちと同じぐらいの病気にかかる率だったらしいですね。
これは船内の生活が結構規則正しいのと、当時の陸上に住む方々が健康に注意を払えるほど経済的に余裕がなかったことに起因するらしいです。

また、船首部分に穴の開いた椅子があって、それがトイレになったとのことなんですが、全乗組員約800名に対しわずか6個しかなく、いつも誰かが座っていたようですし、海が荒れたときには波にさらわれたりすることもあったようです。

ビスケットが主食として使われたんですけど、ウジやゾウムシがわくことが多く、船員はそれを落としてから食べるのが普通なんですが、一応はビスケットの袋の上には魚が置かれていて、ウジが魚にたかったところを捨てて、少しでもウジを減らそうとはしていたらしいです。

そんなビスケットに豆のスープ、塩漬けの肉の塩を抜いたもの、硬いチーズ・・・こんなのが軍艦の食事だったようです。
でも、こんな食事でも陸の人々の食事よりよかったらしく、海軍は食事がいいという評判が立ったというのですから驚きですよね。

船員の楽しみの一つにアルコールがあるのは皆さんもお判りと思いますが、英国海軍では水割りのラム酒を船員に支給していました。
これは飲みすぎを防ぐためとも、支給量をケチるためとも言われますが、エドワード・バーノン提督が始めたことのようで、彼がいつも身につけていたグログラムという生地のコートからグロッグと呼ばれるようになりました。
このグロッグを飲み過ぎてふらふらになることをグロッギーといい、それがなまって行くうちにグロッキーとなり、泥酔やパンチなどを受けてふらふらになることをグロッキーと言うようになったとのことですね。

いろいろと面白い話がほかにもありますので、またいずれ紹介したいと思います。
それではまた。
  1. 2006/08/31(木) 22:09:41|
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ミュー

「グァスの嵐」第九回です。

これでようやくメインキャラが全部出てきたかな。

9、
「マスター、出港いたしました」
白磁のような肌をした、金髪の少女が顔を上げる。
ガラスのような澄んだ瞳は青く、微笑みがとても可愛らしい。
「蒸気圧を上げろ。アルバへ向かう」
「かしこまりました。マスター」
痩せた老人が彼女に命じ、彼女はにこやかにそれに答える。
投入口を開け、背後にうずたかく積まれた薪をくべていく。
ごうごうという音がして、中では炎が燃え盛っていた。
少女は手際よくボイラーの投入口を閉じ、いくつかのハンドルを調節していく。
取り付けられたメーターの針が動いて内部の圧力を指し示す。
ガシュガシュという音が激しくなり、ピストンの上下動が激しくなる。
それにつれて後部の大きなプロペラの回転が早くなり、30フィートに満たない小柄な船体を10ノットほどの速度まで押し出して行く。
「速度10ノット。進路北西です。マスター」
「うむ。ミューよ、今日は多分よい日になるぞ」
少女の報告に満足そうにうなずく老人。
痩せて、老いてはいるものの、その眼差しは輝いている。
「はい、マスター」
少女は老人の何となく嬉しそうな様子に合わせるかのように微笑みを返す。
「でもマスター。ミューは心配です」
「ん? どうしたんじゃ?」
突然表情を暗くした少女を心配そうに振り向く。
先ほどとはうって変わった少女の表情だ。
「この世界は技術が未発達です。こう何度も蒸気船で往復しては、周囲の耳目を集める確率が幾何級数的に跳ね上がります」
「そのことか」
老人が笑う。
「はい。ミューのわがままでマスターには蒸気機関をお教えしてしまいました。もしかしたらミューはとんでもない事をしてしまったのかもしれないのです」
「心配せんでいい。ミューはワシの言いつけを守っただけじゃ。それに、この世界はいずれは発達せねばならないし、誰かが作り出したであろうよ」
「そうでしょうか・・・」
ミューと呼ばれた少女はまっすぐに老人を見詰める。
その眼差しはまっすぐで、純粋だ。
「ああ、それに今日はよい日になると言ったじゃろう。お前の手を借りずに一から作り上げた蒸気機関が完成するのじゃ」
「マスター。言ってくださればミューはいつでもこんなボイラーは作ることができます。場所と時間と材料さえあれば鉄を精錬し、加工して作ることが・・・」
「それではいかんのじゃよ、ミュー」
老人が教え諭すように少女に言う。
「確かにお前は星船の技術で作り出されたものじゃ。初めは信じられんかったが、ワシのところへ来て一年にもなるというのにお前はちっとも姿が変わらん。それにこの世界には無い知識が豊富すぎる」
「マスター・・・」
少女は困ったような表情をした。
感情というものは彼女には組み込まれていないはずだった。
しかし、老人の元での一年は彼女の高度に統御されたシナプス型回路に影響を与え、感情表現らしきものを生み出すことに成功しているのだった。

彼女・・・Μ-Τ6(ミュー-タウゼクス)は作られた存在である。
宇宙船に積まれていた彼女はこの星系探査の助手として組み込まれた。
姿が少女であるのは原住民に威圧感を与えないためと、よりいっそうの目的として宇宙船乗組員の愛玩目的もあったろう。
メンテナンス中に何があったかは記録に残っていないためわからないが、再起動したときには彼女はこの惑星に放り出されていた。
その後いくつかの原住民との接触の後、この老人と行動を共にすることを選んだのだ。
現時点で彼女の行動はマスターとしてのこの老人に捧げられているものではあったが、この世界に対してはあくまでも彼女を組み込んだ帝国探査局の行動規範が適用される。
本来であれば、現地原住民への介入は避けるべきものであるのだが、帝国探査局はある程度の介入は認めており、前工業後期レベルまでのテクノロジーに関してはかなりの裁量が認められていた。
さらに、今回の探査行自体がこの惑星での長期間滞在を必要としており、その際の現地住民からの便宜供与を受ける見返りとしてのテクノロジー供与は認められており、厳密に言えば彼女の行動は違反ではない。
さらに、よりいっそうの理由として、彼女には燃料電池が組み込まれており、三ヶ月に一度燃料補給をする必要があった。
燃料は水素と酸素であるのだが、酸素は大気中から取り入れることが可能であるものの、水素に関しては水から取り入れるしかない。
彼女の乗っていた宇宙船は、動力源を核融合炉でまかなっていたため、やはり同じように水素を燃料とする。
そのため、宇宙船さえ無事であれば彼女は燃料の水素に不足することはなかった。
しかし、彼女が気がついたときには宇宙船はそばになく、彼女が慣れ親しんだテクノロジーは一切身近には存在しなかったのだ。

彼女はそれを受け入れていた。
再起動した時点での水素残量は80パーセントほど。
おそらく二ヶ月ちょっとで彼女の機能は停止するはずだったのだ。
しかし、老人は彼女を失った娘の生まれ変わりのように扱った。
水素残量が二ヶ月ほどしかないこと。
そしてそれが切れた時点で彼女は機能停止をすることを知らせた時、老人は涙を流して悲しんだ。
そして何が必要なのか、それはどうしたら手に入るのかを彼女に尋ねたのだ。
マスターに尋ねられた彼女は、答えるしかなかった。
燃料としての水素が必要であること。
手っ取り早い方法としての水の電気分解とその方法。
この世界での使いやすい動力源としての蒸気機関と発電機の仕組み。
それを彼女は老人に伝えたのだ。

老人は彼女に命じた。
必要な材料を集めて、その発電機を作れと。
はたして彼女の中にそう命じられるであろうことの予測と、ある種の打算が無かったとは言い切れないかもしれない。
しかし、彼女にとってマスターの命令は果たされなければならないものだった。
彼女は鍛冶から鉄と石炭を手に入れ、天然マグネタイトから磁石を作って、簡単な蒸気ボイラーと発電機を組み上げた。
パワーも発電能力も微々たる物であったが、水を電気分解して水素を作り出すには充分だった。
作られた水素はすぐに彼女の内蔵タンクに吸収され、そこで圧縮されて液体水素となる。
彼女が必要とする水素量を確保するには一日がかりの作業ではあったが、とにかく彼女の燃料問題はこれで解決できたのだった。

老人は喜んだ。
これでミューがいなくなることは無い。
ホッとしたことで彼はこの蒸気機関に興味を抱いた。
これがあれば馬車や船を馬や帆がなくても動かせるのではないか?
そう思った老人はあれこれと仕組みを彼女に聞き、納得すると彼女に蒸気機関を船に組み込ませた。
今までは手漕ぎのボートで近くの島へ行くぐらいだった老人は喜び、手紙のやり取りをするだけだったアルバ島の友人宅へこっそりと出かけるようになったのだ。
だが、それは当然周囲の感心を引き寄せる。
ミューはそれが心配だった。

バリバリと硬いビスケットを頬張る。
マグに入れたワインで無理やりのどに流し込む。
「相変わらずの味だな。これぞ海軍の味ということか」
誰に言うともなく一人ごちる。
「サントリバルで補給すれば、少しはうまいものが食えますよ」
同じようにビスケットをかじっている艦長が肩をすくめる。
保存性が低い新鮮な野菜や焼きたてのパンなどは船内生活では望むべくも無い。
「自航船か・・・そういえば聞いたかね、艦長?」
「は? 何をですか? 提督」
艦長がいぶかしげな顔をする。
提督がニヤニヤしている時はろくなことが無いのだ。
「ラマイカ軍がろくでもないことをしたのさ」
「ラマイカ軍が?」
どこの国でもそうだが、このリューバ王国も近隣諸国とはあまり仲が良いものではない。
だからラマイカのへまはリューバにとっては痛快なことなのだ。
「セラトーリのやつが配下の者を使って、うまく女をたぶらかしたのはいいが、目当ての物は手に入れられないわ、女もろとも海賊に襲撃されるわで散々だったらしいぞ。わはははは・・・」
大笑いする提督。
「ラマイカ海軍のセラトーリ提督がですか? 女をたぶらかして?」
「うむ。女を惚れ込ませ、結婚を餌にして手に入れようとしたらしい」
うんうんとうなずいている提督。
「その目当てのものとは一体?」
「よくわからん・・・探らせておるが、星船に関するものでは無いか・・・ということだが」
「星船? あれは伝説では?」
艦長は驚いた。
ラマイカの提督ともあろう方が、伝説を追い求めているというのか?
「それは何とも言えんな。だが、何らかの手掛かりがあったのではないか」
うなずいて、ワインのマグを空にする艦長。
本来なら食事は部屋で取るのが普通だが、艦長室は提督が使用しており、士官室で食べるのも狭いので甲板上で食べていたのだ。
「セラトーリも回りくどいことをするから海賊にさらわれたりする。捕らえて白状させればいいのだ」
さすがに自国民をそうするのははばかられたのでは?
艦長はそう思ったものの口に出すのは差し控える。
リューバ海軍にその人ありと言われたペドロ・アンドレス・エスキベル提督の機嫌を損ねればただではすまないのだ。
「自航船のことが片付いたら海賊を追うぞ。その女を手に入れ、何を持っているのかを白状させねばな」
「ハッ」
そう答えながらも艦長はげんなりした。
当分この提督に付き従わねばならないということらしい。
彼はこの大型ギャレー『シファリオン』の艦長職にあることをこの日ばかりは呪っていた。

「艦長、前方をご覧下さい!」
水兵の怒鳴り声がする。
彼の指差す先には一筋の煙が立ち昇っていた。
「なんだ、あれは?」
艦長は両手をかざしてその煙をよく見ようとする。
「船火事か?」
「艦長、あの煙へ艦を向けたまえ。自航船は煙を上げると聞いている」
艦首へ行き、よく見極めようとした艦長は呼び止められる。
「は? ハハッ。進路を煙へ向けろ! 帆をいっぱいに張れ! 戦闘速度まで上げろ!」
「了解しました!」
艦長がすぐさま命令を下し、副長が命令を実行するために下甲板へ降りて行く。
「艦長! 船です! あの船は煙り出して帆を張っていない」
驚いた水兵たちのどよめきが走る。
帆を張っていない船が走っているなんてのは信じられないことだろう。
しかし、実際遠くを走っている船は、煙を吐き出しながら後ろにある風車を回しているだけで、帆もオールも持ってはいない。
「提督・・・」
艦長もいぶかしげに振り返る。
「見つけたぞ・・・自航船だ」
エスキベル提督の顔に笑みが浮かんだ。
  1. 2006/08/30(水) 21:19:24|
  2. グァスの嵐
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あ、結構あるじゃん

アリスソフトのエロゲー「大番長」
「大悪司」に続く地域支配型のシミュレーション系エロゲーです。

私は「大悪司」の方はやったことが無いのですが、「大番長」は結構楽しませていただきました。

結構古いゲームなので、クリアした後しばらく放ってあったんですが、先日久し振りにやり直したんです。

そこで思ったんですが、このゲームって結構洗脳とか操りってあるんですよね。

一番目立つのはやはりトランシルバニアの主であるカミラでしょう。

彼女は吸血鬼たちの女王として君臨しているのですが、あるイベントをこなすと、実は清楚なシスターだったことがわかるんですよね。

その彼女がある人物によって吸血鬼にされ、その人物が自分の存在を秘匿するために主として祭り上げるんです。

冷酷な美女吸血鬼のカミラは実に無力的なキャラで、シスターだったこととあわせてすごく好きなキャラでした。

さらにそのカミラの影響で、場合によってはウルルカというキャラも吸血鬼化してしまうイベントがあるんですが、吸血鬼化してしまうと結構強くなってしまうので、厄介な敵となります。
でも、ついついイベント見たさにセーブして、イベント見てからロードしたりしちゃうんですよね。(笑)

ほかにも果心と言うキャラに操られてセックス付けになってしまうおにゃのこがいたり、スパーンというキャラによってエルフに洗脳改造されてしまうおにゃのこがいたりと、結構そういうネタがありました。

ただ、いずれも短いイベントでしかないため、それを目当てにするのはやめたほうがいいですよ。
それよりも純粋にゲームとして面白いので、お薦めのゲームですよ。

機会があったら楽しまれるとよろしいと思います。
それではまた。
  1. 2006/08/29(火) 21:32:26|
  2. PCゲームその他
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海軍提督

「グァスの嵐」第八回です。

自航船がチラ見え?

8、
「はぅん、はん・・・ああん・・・はんあん・・・はああん・・・」
「う、うおっ、いい締め付けだぞ・・・うぉっ・・・いい・・・」
肉と肉がぶつかる音。
女のあえぎと男の愉悦の声が混じる。
狭い室内に肉の喜びが交じり合っている。
「ああん・・・はああぁぁぁぁん」
女の躰がしなり、絶頂を迎える。
「うぉぉぉぉぉぉ・・・」
それに導かれるかのように男のモノをたぎりを吐き出す。
「はあ・・・」
全てを吐き出した男はそのままごろんと横になった。
「いい味であったぞ。よい計らいをしてやろう」
「・・・・・・」
女はその言葉に無言で唇を噛み締める。
自由を失った今は彼女に選択の余地は無い。
男どもの慰み者になるしか無いのだ。
彼女は黙って下を向いていた。

ノックの音がする。
『提督。間もなくサントリバル島です』
「わかった。今行く」
ベッドから起き上がり、ズボンを穿き直す男。
引き締まった肉体には違いないが、年齢から来る衰えは隠しきれない。
上着を纏い、剣帯を巻きつける。
白髪が多くなった頭に三角帽を被ると、男はリューバ海軍の提督へと変わっていた。
「ふん・・・」
ベッドでうつむいている女に一瞥をくれ、彼はそのまま部屋を出る。
『いい女だ。士官連中にまわしてやれ』
冷酷な言葉がドアの向こうから彼女の耳に届いてきた。

「艦長、自航船が見かけられたのはこのあたりなんだな?」
航海甲板に出てくる艦長。
船体の左右にはうちわのようなオールが何本も連なり、ゆったりと前後に揺れている。
「ハッ! 貿易船が見かけたとのことです」
傍らの艦長が背筋を伸ばす。
この提督の下では気の休まる時が無いかのようだ。
「ふん・・・どういったことかは知らんが、自航船などをうろちょろさせておくわけには行かん。捜索艦からの連絡は?」
腰に両手を当て、風に上着の裾をなびかせる。
「今のところは・・・ですが、必ず見つけ出します」
「当然だな、艦長。君の将来にも関わることだ」
その言葉に艦長の口元がへの字にゆがむ。
「そういえばお孫さんの誕生日がお近くとか。こんな時ですが、乗組員一同よりお祝いを送らせて頂きます」
艦長が合図をすると、副長がリボンのついた箱を差し出した。
「どうぞ。シャルパンティエの人形です」
「おお、これはすまないね。手に入りづらかっただろう? ジュディッタはこれがお気に入りでね。いつもねだられるのだよ」
にこやかに箱を受け取る提督。
その表情はまさに好々爺と言ってよいだろう。
あなたも我々にねだっているようなものですよ・・・提督
艦長がそう思う。
「ワシの部屋に入れておいてくれ。艦長、サントリバルの港を捜索したら、アルバへ向かうぞ」
「了解しました、提督」
敬礼し、艦を港へ向ける艦長。

「はふー。くたびれたー」
運び終わった樽にもたれかかり、汗を拭いているフィオレンティーナ。
無事にクルークドまでの航海を終え、塩漬け肉を下ろした後、サントリバル島へ運んで欲しいという小麦の樽を積み込むという重労働を行なったのだ。
「ふあー・・・サンクスフィオ。助かったよ」
「まったくだ。ずいぶん助かった」
同じように樽にもたれて休んでいるエミリオとゴルドアン。
汗をかくということが無いバグリー人であるゴルドアンは、濡れタオルを躰に当てて気化熱を奪ってもらっている。
もっとも、ゴルドアンの体温を下げるよりも照りつける太陽の熱のほうがタオルに作用しているようだ。
「今日はここで一泊だな。明日、サントリバルへ向けて出港しよう」
「そうだね。サントリバルまでは四日ぐらいかかるかな」
四日か・・・そろそろフィオは飽きてくるだろうな・・・
エミリオはクスッと笑う。
さすがの元気娘も代わり映えしない景色には飽きてくるだろう。
「あとで酒場へ行こう。うまい酒を飲みながらこの付近の事を聞いてみるよ」
ゴルドアンの提案にエミリオはうなずく。
「お酒かぁ・・・ワインぐらいならいいんだけど・・・」
フィオレンティーナが苦笑する。
まだ十七歳の彼女はお酒はワインぐらいしか嗜んだことが無い。
だが、船乗りたちの酒場ではラム酒などをがぶ飲みしているのだ。
当然アルコールの度数も高く、フィオレンティーナにとっては飲めたものではない。
「ハハハハ・・・フィオにはラム酒はまだ早いか」
「そ、そんなこと無いよー。ただ、飲みなれていないだけ・・・よ・・・」
フィオレンティーナはむきになって否定するが、かえってゴルドアンとエミリオの笑いを誘ってしまっていた。
「わかったわかった。フィオにも飲める酒を用意させるよ」
ゴルドアンはそう言ってフィオレンティーナに手を振った。
フィオレンティーナは黙るしかなかった。

煙が立ち昇る。
タンクから水が注ぎ込まれる。
口が開いて薪が放り込まれる。
熱気がそこから漏れてくる。
ガシュガシュとピストンが上下する。
後部についた大きなプロペラがゆったりと回り始める。
その船はゆったりと桟橋を離れ始めていった。
  1. 2006/08/28(月) 21:16:48|
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トリプルプレイ

1942年9月15日。
ミッドウェー海戦から三ヵ月ちょっと後のこの日、アメリカ海軍にとっては厄日となりました。

木梨鷹一艦長率いる伊号第十九潜水艦(イ-19)が戦史上稀なる戦果を上げた日なのです。

出港してから約一ヶ月。
イ-19はソロモン海での哨戒行動に従事しておりました。

8月26日にはせっかくの米軍空母機動部隊を発見したものの、危うく空母に衝突されそうになり、潜航して逃げなくてはならないような羽目にもあったりしていました。

9月15日、幸運にめぐり合えたイ-19は米軍の空母機動部隊と再び会いまみえることになったのです。

木梨艦長は慎重にイ-19を魚雷発射のベストポジションに持って行こうとします。
しかし、空母艦隊は急速に遠ざかります。
またもチャンスを逸するかと思われたその時、米空母は進路を変更、イ-19への接近コースに乗りました。

イ-19は11時45分、魚雷を一斉に発射。
合計六本の魚雷が米空母目掛けて海中を進んで行きました。

日本海軍の誇る酸素魚雷は、気泡が出ないために航跡がわかりづらく、さらに高速で弾頭の炸薬量も多いという優れものでした。
太平洋戦争初期には調整などの問題があり、自爆などが頻発しましたが、この時点では酸素魚雷はそのもてる性能を遺憾なく発揮しました。

この青白い殺人者と米軍が呼んだ酸素魚雷の洗礼を受けたのは、小型空母ワスプでした。
一万五千トンの小型空母ワスプは、イ-19の六本の魚雷のうち三本を横腹に食らいました。

爆弾などに比べ炸薬の多い魚雷を三本も受けては一万五千トン程度の空母などひとたまりもありません。
ワスプは沈没します。

ワスプが魚雷を受けたのはすぐに周囲の護衛駆逐艦に知れ、駆逐艦はイ-19を沈めようと躍起になります。
そのため木梨艦長は、命中音を聞いたのみで撃沈確認はできませんでした。

その後、近くに居たイ-15がワスプの沈没を確認。
イ-19の戦果として報告したため、木梨艦長は空母を沈めた英雄として海軍より表彰されました。

しかし、イ-19の戦果はこれだけではありませんでした。

戦後判明したため、当時は日本軍も米軍も気がつかなかったのですが、イ-19の撃った六本の魚雷は立派に仕事を果たしていたのです。

ワスプが攻撃され、日本軍の魚雷が通り過ぎた時、近くの艦艇はその状況をおよそ10キロほど離れた別の機動部隊に報告しました。
しかし、その報告はほとんどかえりみられる事はありませんでした。

ワスプより10キロも離れたところに魚雷が届くわけは無いからです。
ですが、日本の酸素魚雷は約二万メートル、つまり20キロ走ることができたのです。

イ-19の六本の魚雷のうち、三本はワスプに命中しました。
残りの三本はこの10キロを走り抜け、米戦艦ノースカロライナに一本が命中します。
さらにそばにいた米駆逐艦オブライエンにも一本が命中。

つまり、六本の魚雷のうち五本が三隻の艦艇に命中するという恐るべき事態を成立させたのです。

駆逐艦オブライエンは船体が折れて沈没。
戦艦ノースカロライナは艦首部分が中破。
一瞬にして米軍は空母と戦艦、それに駆逐艦を失ったのです。

米軍は日本の潜水艦が複数いると信じて、周囲を徹底的に捜索しました。
イルカなどを間違えて攻撃したのも多かったようです。

しかし、戦後になって両軍の記録をつき合わせたとき、当時付近にいてしかも魚雷を発射したのはイ-19しか居ないということが判明しました。

米軍はあらためて日本の酸素魚雷の恐ろしさを、身に沁みて感じたとのことでした。

幸運があったとはいえ、一回の魚雷攻撃で六本の魚雷中五本が命中し、三隻の敵艦を撃沈破したというのはおそらく戦史上類を見ないでしょう。

すごいことですよねー。
それではまた。
  1. 2006/08/27(日) 21:47:48|
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妖魔セデューサ

パワーパフガールズZというアニメをご存知でしょうか?

もともとはアメリカで製作されたパワーパフガールズというアニメの日本でのリメイクというか、焼き直しというかの作品ですね。

ただ、どうやらアメリカ側から話が持ち込まれたらしく、日本の技術で作って欲しいと依頼されたというものらしいです。

そこらへんの事情は詳しくはちょっとわからないんですが、公式サイトさんはこちらになります。

http://www.sonymusic.co.jp/Animation/ppgz/index.html
(アニプレックス)
http://ani.tv/ppgz/
(TV東京あにてれ)
http://www.toei-anim.co.jp/tv/ppgz/
(東映アニメーション)

まあ、可愛いヒロイン活躍アニメということで、何の気なしに(?)見ていたんですが、8/19放映のサブタイトル「魅惑の乙女!セデューサ」にやられてしまいました。(笑)

金時堂という和菓子店の女性職人桜子さんが、ケミカルZの影響と嫉妬心からセデューサというモンスターになってしまうのです。

セデューサと化した桜子はドレスや化粧品、靴などを盗んで魅力的な女性になろうとします。
そして意中の男性を虜にしようとしますが、パワーパフガールズの活躍によってあえなく倒され、元に戻ってしまいます。

それだけの話なんですが、悪堕ちする桜子さん=セデューサが結構ツボでした。

ほかにもパワーパフガールズZは薬品によってモンスター化してしまう動物やら人物が出てきますので、結構悪堕ちが多いといえば多いのかも。

まあ、好みに合う合わないはあるでしょうけど、私は結構楽しめました。

それではまた。
  1. 2006/08/26(土) 19:03:58|
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宮古湾海戦

明治新政府軍艦「甲鉄」(こうてつ)

1864年にフランスで造られた軍艦です。
完成時の名称は「ストーンウォール」といいました。

もともとはアメリカ南北戦争(1861年から1865年)の時に、南部諸州同盟がフランスに発注して造ってもらった軍艦だったのですが、完成年を見てもわかるとおり南部同盟はもはや戦争遂行能力を失っておりました。

完成したストーンウォールは北部連邦に引き取られますが、行き場のなくなっていたこの軍艦に目を付けたのが江戸幕府でした。

開国にともない海軍戦力の充実を図っていた幕府は、このストーンウォールを購入。
鉄の装甲が張られた軍艦ということで、甲鉄とあだ名され(正式命名では無いらしい)幕府の軍艦として横浜に回航されました。

しかし、時はまさに新政府と幕府の戦争、いわゆる戊辰戦争が始まった時期でした。
新政府も幕府もそれぞれこの甲鉄を引き渡すようにアメリカに申し入れましたが、アメリカは中立を宣言。
どちらにも引き渡さないと突っぱねました。

幕府には当時東洋最強の軍艦「開陽」が存在しておりました。
(旧ブログ2005年10月20日参照)
幕府としては、最悪この甲鉄が新政府に渡らないというだけでも救いでした。

ですが、幕府軍にとって状況は悪化。
会津その他での敗北により、榎本率いる幕府艦隊は北海道に逃れざるを得ませんでした。

ここにいたりアメリカは中立を破棄。
甲鉄を新政府に譲渡することにしたのです。
新政府は甲鉄を買い取り、ここに新政府海軍の戦力は大幅にアップすることになりました。

さらに追い討ちをかけたのが、冬の北海道での開陽の遭難沈没でした。
旧幕府軍の海軍戦力は著しくダウンしたのです。

旧幕府軍の海軍力が優位にあるうちは、新政府軍も北海道侵攻を考えることはできませんでしたが、甲鉄の編入と開陽の喪失によって、海軍力は新政府側に大きく傾きました。

このままでは新政府軍の北海道上陸を阻止することはできないと考えた榎本たち旧幕府軍幹部は、一大作戦を決行することにしました。
「甲鉄奪取作戦」です。

停泊中の甲鉄を奇襲し、軍艦を横付けして兵士を乗り込ませ、甲鉄を奪い取るというこの作戦は、成功すれば再び海軍力を旧幕府軍の優位に戻すことができるものでした。

甲鉄が宮古湾に停泊中であることを察知した旧幕府軍は作戦を決行します。

しかし、作戦はつきに見放されていました。
海上の天候が悪く、風浪によって出港した三隻の旧幕府艦は、お互いを見失ってしまいます。

落ち合う場所で落ち合えたのは二艦のみ。
さらにその二艦も一艦は機関故障で速度が出ない状況でした。

夜明けの奇襲が必須のこの作戦は速度が勝負でした。
ついに作戦は回天(かいてん)一隻で決行することになります。

回天は新政府軍が停泊する宮古湾に侵入。
アメリカ国旗を掲げていた回天は気取られることなく甲鉄に接近。
ついに至近距離にて日章旗を掲げ、回天は甲鉄に接舷することに成功します。

しかし思わぬ事態が発生しました。
船首部分を接触させたために、回天の甲板と甲鉄の甲板とはかなりの高さに差ができてしまっていたのです。
その差は約三メートル。
切り込み隊が躊躇する間に甲鉄と周囲の艦艇は態勢を整えてしまいます。

それでも決死の思いで突入した切り込み隊でしたが、甲鉄の銃撃と周囲の艦艇からの銃撃で死傷者が続出。
作戦は失敗となりました。

撤収の時、回天の艦長を失い、さらに機関故障で遅れていたもう一隻を放棄するという事態になった旧幕府艦隊はほうほうの体で函館に逃げ帰ります。

これ以後、旧幕府海軍に活躍の場はなく、制海権を手に入れた新政府軍は北海道に上陸します。
最後は函館湾すらも我が物顔に動き回られ、新政府軍艦艇は五稜郭を砲撃します。

一隻の軍艦の存在が非常に大きな時代だったといえるんでしょうね。

その後甲鉄は「東」(あずま)と正式に命名され、西南戦争にも参加。
明治21年除籍されました。

明治から昭和に繋がる日本帝国海軍の基礎を作った軍艦の一隻と言っていいでしょうね。
それではまた。
  1. 2006/08/25(金) 22:17:21|
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バットビースト

お久し振りのホーリードールです。

どうもノリが悪くて短いですが、楽しんでいただければと思います。
前回の最後を一部分重ねていますがわかりやすくしたためですので。

それではー

15、
「ふふふ・・・ねえ、お母さん」
ミルクのカップを置いた少女がゆっくりと立ち上がる。
浮かんだ表情は妖しく、まさに闇の女に相応しい。
「お母さんの闇って何なのかなぁ。楽しみだよね」
少女、レディベータは自分の母親にそっと近づく。
「うふふ・・・精神支配しちゃったから何も考えられないか・・・えいっ」
ぱちんと指を鳴らすレディベータ。
すると千鳥の目が二三回瞬きし、意識が戻ってくる。
「え? あ、ええっ?」
一瞬状況判断に戸惑ったものの、やがて記憶が整理されていく。
「あ、ああ・・・ゆ、雪菜・・・その姿は一体?」
口元に手を当てて驚きを隠しきれない千鳥。
いつの間にか夜は明け、娘の姿が異様な衣装を纏っているのだから無理も無い。
「うふふ・・・私はレディベータ。もう小鳥遊雪菜なんかじゃないの」
「レ、レディベータ?」
思わず一歩あとずさる。
いつもなら娘の軽口にもノリで答えられるほどの仲の良さだったが、今の目の前の少女には異質な恐怖を抱いてしまうのだ。
「じょ、冗談はやめなさい、雪菜。お母さんを困らせないで」
「うふふ・・・あなたはもう私のお母さんではなくなるわ。これから私があなたの闇を引き出してあげる。あなたはビーストになるのよ」
一歩一歩ゆっくりと近づいてくるレディベータ。
「ビ、ビースト?」
千鳥もじりじりと下がらざるを得ない。
「そう。闇の魔獣ビースト。素敵なビーストになるといいな」
やがてリビングの壁が千鳥の背中を押し付ける。
「ヒッ、い、いやぁ」
「おとなしくなさい」
壁に背中を付けた千鳥は精いっぱい身をそらせて、一センチでも遠ざかろうとする。
だが、レディベータの右手が千鳥のブラウスを掴み、異常なほどの力で千鳥の胸を引き寄せた。
「うふふ・・・さよなら。お母さん」
「ん、んむぅぅぅぅぅぅ・・・」
グイッと引き寄せられた千鳥の顔にレディベータは自らの顔を寄せる。
やがて、レディベータの唇が千鳥の唇に重ねられた。
「んん・・・むぐぐ・・・」
閉じた口をこじ開けるかのように侵入してくる柔らかい舌。
口の中に流れ込んでくるどろっとした甘い液体。
それらが口の中で撹拌され、のどの奥に押し込まれるように流れ込む。
「むぐぅぅぅ・・・」
逃れようとしても躰はがっちりと引き寄せられていて逃げられない。
千鳥は何もできないままに、その液体がのどを通るのを黙って甘受するしかなかった。

あああああ・・・
千鳥の躰から力が抜ける。
のどが熱い。
胃が焼ける。
目の前が暗くなる。
これは・・・何?
千鳥はガクッと膝をつく。
「ふふふふふ・・・」
目の前で笑みを浮かべている雪菜が信じられない。
「ゆ・・・ゆ・・・き・・・」
千鳥の口から発せられた言葉が途切れる。
冷たい闇が躰の芯を冷やしていく。
寒い・・・
寒い・・・
寒い・・・
千鳥は両手をつくが、前のめりに倒れこむ。
躰が痙攣して言うことを聞かない。
助けて・・・
誰か・・・助けて・・・
あな・・・た・・・
床の上で小刻みに震えている躰。
寒い・・・
寒い寒い・・・
吸われる・・・
熱が吸い取られる・・・
躰の熱が吸い取られていく・・・
ああ・・・
吸わなきゃ・・・
熱を吸わなきゃ・・・
吸われるものは吸い返さなくちゃ・・・
温かいものが欲しい・・・
熱いものが欲しい・・・
そうよ・・・
私は・・・
私はいつも吸い取られてきた・・・
自由も・・・
時間も・・・
若さも・・・
命さえも・・・
得たものは何?
子供?
夫?
足りない・・・
それだけじゃ足りない・・・
若さ・・・
吸い取られた若さを奪い返す・・・
そうよ・・・
吸い取られたものは吸い返せばいい・・・
ククク・・・
そうよ・・・吸い尽くすのよ・・・
クククク・・・

変わって行く。
千鳥の肉体が変化を遂げて行く。
耳が尖り、歯が剥き出されていく。
服が引き裂かれすべすべした肌がこげ茶色の毛に覆われて行く。
両手の指の付け根が切れ込んで行き、腕から肩口まで裂けて行く。
両脚もこげ茶の短い毛に覆われ、指先からは鋭い爪が伸びて行く。
裂けた腕には膜が張り、飛膜が形成されていく。
やがて、千鳥の肉体はコウモリと人間が融合したような姿に変貌していった。

「ギギ・・・ギ・・・」
ゆっくりと起き上がるビースト化した千鳥。
柔らかなラインは美しい女性のラインを保持したまま。
全身を短いこげ茶の毛が覆い、脇から両手の先にかけて裂けた指の間に膜が張っている。
尖った耳は音波を拾うのに都合が良く、鋭い歯は牙となって獲物に噛み付くのに都合が良くなっていた。
「ふふふ・・・お母さんはコウモリなんだね」
妖しく微笑むレディベータ。
「ギギ・・・ワタ・・・シ・・・ハ・・・ビースト・・・」
「そうよ。お前はビースト。バットビーストってところかしらね」
「ギギ・・・ギ・・・」
バットビーストと化した千鳥はいきなりジャンプをする。
「わっ」
一瞬驚くレディベータ。
バットビーストは両足の鉤爪を天井の板に食い込ませると、さかさまにぶら下がって両手を閉じる。
「ギギ・・・ワタシハバットビースト。レディベータサマノチュウジツナシモベ」
歯をむき出して笑みを浮かべるバットビースト。
「へえ、結構使えそうじゃない。あとでたっぷり暴れてもらうわ」
「ギギ・・・オマ・・・カセヲ」
さかさまのまま一礼するバットビースト。
レディベータは満足そうに微笑んでいた。

学校が近づくにつれて子供たちの笑い声も響いてくる。
「おはよー」
「おはよー」
「おはよーございまーす」
さまざまな朝の挨拶が飛び交っている。
そんな中、いつもと同じように仲良く登校してくる紗希と明日美。
いつものように青をベースの紗希と赤をベースの明日美は、見た目からもいいコンビネーションだ。
「おはよー! 紗希ちゃん、明日美ちゃん」
「よう、荒蒔と浅葉はいっつも一緒だよな」
「・・・・・・」
女生徒の挨拶も男子生徒のからかうような声にも二人は反応しない。
「あら?」
「あれ?」
声をかけた子達も一瞬不思議そうな顔をする。
だが、何も言わずに手をつないで歩いていく二人にそれ以上声を掛けることもできず、黙って見送り他の友人たちのところへ行ってしまうのだった。

無言で歩いている二人。
その表情は虚ろで頬が上気している。
いつもならもう少し遅い時間に二人で走ってきたりすることが多いのだが、今日は手をつないでゆっくりと歩いているのだ。
「サキちゃん・・・」
明日美が口を開く。
「何? アスミちゃん」
無表情のまま答える紗希。
「もうすぐ学校に着きますわ」
「うん、そうだね」
やはり無表情のまま会話が進む。
だが、かすかに二人の表情には快楽を帯びているのがうかがえた。
「残念ですわ。もっとゆっくりサキちゃんと二人だけで居たかったですわ」
「うん。私もだよ、アスミちゃん」
握られた手が二人の気持ちを代弁しているかのようだ。
「今朝はとても気分がいいですわ」
まっすぐ正面を見据えている明日美。
その目は何も捉えていないかのよう。
「うん、とっても気持ちいいよ・・・私はドール・・・光のドール・・・サキ」
「ええ、私も同じですわ、サキちゃん。ドールであることはとても気持ちがいい・・・」
無表情のまま空いているほうの手で胸を押さえる。
「校門まであと少しですわ。サキちゃん」
「うん、そうだね」
そういった瞬間、二人の胸のペンダントが光る。
それと同時に二人の表情に精気がよみがえった。
「え? あれ?」
「あら? いつの間にか学校ですわ」
思わず手をつないだまま立ち尽くす二人。
校門の前で泊まってしまった二人を、他の生徒たちはきょとんとして見ているだけだ。
「おはよう、紗希ちゃん、明日美ちゃん」
そんな中声をかけてくる一人の少女。
白いブラウスにデニムのスカート、それに肩までの黒髪にカチューシャをつけている。
にこやかに微笑んでいる少女は小鳥遊雪菜だった。
「「雪菜ちゃん」」
思わず二人の声がハーモニーを奏でる。
「そんなところで立ち止まってどうしたの? 早く行こ」
雪菜は紗希の背中を押して校門をくぐらせる。
明日美も思わず微笑んで、その後を付き従った。
  1. 2006/08/24(木) 22:31:10|
  2. ホーリードール
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満天の星空

「グァスの嵐」第七回です。

なかなか進みませんねぇ。
お楽しみいただければ幸いです。

7、
「それで? 情報はあるのか?」
「まあまあ、坊ちゃんはすぐに話を進めたがる。まずはお茶でもいかがかな?」
老女はテーブルに着いたダリエンツォに背を向け、お茶の支度を始めている。
「茶を飲みにきたわけでは無いのでね」
「キシシシシ・・・わかっておるよ、そのぐらい。坊ちゃんが私に会いに来る理由なんぞ多くは無いからね」
ポットとカップを持ってテーブルに着く老女。
置かれたカップにお茶が注がれていく。
「さあ、どうぞ」
カップをダリエンツォの前に送る。
仕方なくカップを受け取り、立ち昇る香りを楽しむダリエンツォ。
「相変わらず美味い」
一口飲んでからそう言ってやる。
お世辞ではないが、言ってやらねば彼女は何も話し始めないだろう。
「キシシシ・・・ありがとうよボニファーノ坊ちゃん。それで? 聞きたいのは?」
「決まっているだろう。星船(ほしぶね)だ」
カップに再度口を付けるダリエンツォ。
彼の目的はただ一つ。
星船と呼ばれるものを見つけ出すことだったのだ。
「キシシシ・・・坊ちゃんも相変わらずだねぇ。まだ星船なんぞを追い掛けているのかい?」
老女が笑う。
それはそうだろう。
星々を渡り歩く船などあろうはずが無い。
「余計なお世話だ」
ギロリと老女をにらみつける。
「おお怖わ、年寄りを怖がらせるものじゃないよ」
大げさに怖がって見せる老女。
その実は少したりとも怖がっていないのは明らかだ。
「ふん・・・」
カップのお茶を傾けるダリエンツォ。
「星船に関しての情報は無いがね。その代わり奇妙な船の噂を聞いたよ」
自分用のカップにお茶を注ぐ老女。
一息ついてからゆっくりと飲んで行く。
「奇妙な船?」
「そうさ。煙を吐きながら、後ろにある風車をまわして進むらしい」
「ほう・・・」
ダリエンツォの目が輝く。
「それはどのあたりで見かけられたのかな?」
「アルバのあたりだったかねぇ」
それほど遠くは無い。
行ってみる価値はあるかもしれないな。
ダリエンツォはそう思う。
おそらく自航船だ。
星船の技術が使われているのかもしれない。
手に入れてみるに越したことは無い。
「邪魔したな。いつもの薬をくれ」
「あいよ」
すでに用意してある箱をテーブルに載せる老女。
ダリエンツォは中身を確認して小脇に抱える。
「金だ。大事に使え」
ゴトッと音がするほどの金貨の入った袋を置くダリエンツォ。
老女が受け取ったのを確かめ、その場を後にした。

クルークドまでの航海は島伝いに行くだけでいい。
さほどの難しさではないのだ。
ファヌーの前方ではゴルドアンが四本の腕で器用にロープを操り、帆を操作している。
滑るように走っていくファヌーの向きを決めるのはエミリオが握っている舵棒だ。
ファヌーの後部に縦に広がった板が、気流を捕らえて船の向きを変えるのだ。
「すごいすごい、気持ちいい」
風を切って進むファヌーの船べりに腰掛け、フィオレンティーナは髪を風にもてあそばせている。
涼しい風が頬を撫で、とても気持ちがいい。
「ねえ、ねえ、エミリオ。これってどのくらいのスピードが出ているの?」
後ろを振り返るフィオレンティーナ。
青空がまぶしい。
「そうだなぁ、大体五ノットから六ノットぐらいかな」
ノットで言われてもフィオレンティーナにはぴんとこない。
「それって馬より速いの?」
「そりゃ、短時間なら馬のほうがずっと速いさ。だが、馬は海を飛べないだろ」
ゴルドアンが笑って答える。
「そりゃそうだけど」
フィオレンティーナも苦笑する。
確かに海を飛ぶには船が必要には違いない。
馬は陸の乗り物なのだ。

「うわ」
見たこと無い景色に目を丸くするフィオレンティーナ。
「見、見て見て! あれ、あれ、川なんでしょ? すごい・・・」
フィオレンティーナが指差す先には、島の端から轟音を立ててずっと下の密雲に吸い込まれるように落ちていく滝のような河口の様子があった。
それは水しぶきを上げて、陽光に虹を作り出しており、まさに絶景というに相応しい。
「ああ、あれはバハタン島のリノコ川だよ。大きな島だから川の水量も多いんだ」
舵棒を操りながらエミリオが見慣れた光景を説明してあげる。
彼やゴルドアンにとっては見慣れていても、初めて船に乗る人には海の光景は珍しいものなのだ。
「じゃ、じゃあ魚は? 魚はどうなっちゃうの? 水と一緒に密雲の中へ落ちちゃうの?」
「それがそうでも無いんだな。魚は河口付近にはあまり寄らないのさ。もっとも、中には一緒に落ちる奴も居て、河口の下に網を張る漁師も居るんだよ」
他人が知らないことを教えるというのは気持ちがいい。
エミリオはまるで自分が発見したことであるかのように自慢げに話す。
「でも、そんなのはあまりお薦めできないぞ」
ゴルドアンが耳まで裂けた大きな口で笑っている。
「どうして?」
すぐにフィオレンティーナはゴルドアンのほうへ振り向いた。
「危険だからさ。フィオはこのファヌーがあの流れ落ちる河口のそばで無事でいられると思うかい?」
「あ、そうか・・・」
フィオレンティーナはうなずいた。
あの轟々と流れ落ちる水に巻き込まれれば、こんなファヌーはひとたまりも無いに違いない。
「まあ、確かにそうなんだけどね」
エミリオもうんうんとうなずく。
「でも、すごいわ・・・海がこんなに素敵なところとは思わなかった・・・」
手をかざして陽光をさえぎるフィオレンティーナに、エミリオもゴルドアンも顔を見合わせて苦笑した。
穏やかな海は確かに魅力的だ。
だが・・・
一度荒れたら、海は瞬く間に恐ろしいものとなるのだ。

「お帰りなさいやし、キャプテン。今日は泊りではなかったので?」
片目の小男が乱杭歯をむき出してにやりと笑う。
留守番を任された水夫のガルビンだ。
「調べものがある。海図をもってこい」
スマートな身ごなしで渡し板から甲板に降り立つキャプテンダリエンツォ。
「ヘイ」
そう言って海図室へ向かうガルビンをしり目に船長室へ向かう。
狭いながらも個室となっている船長室で、ダリエンツォはマントと三角帽を脱ぎ捨てた。
「ふう・・・」
シャツの首まわりを絞めているスカーフを緩め、飲みかけのワインのボトルを取り出して歯でコルク栓を抜き、一気にのどに流し込む。
どっかりと椅子に腰を下ろし、ボトルをテーブルに置いたところでノックの音が響いた。
『ガルビンです。海図を持ってまいりやした』
「入れ」
『失礼しやす』
ドアが開いて先ほどの小男が入ってくる。
携えた海図をテーブルに広げ、隅を重石で固定する。
「ここがポートアランスのあるヒスパナラ・・・ラマイカ・・・リューバ・・・ここがアルバか・・・」
セリバーン海の一つ一つの島を指差して確認する。
島々は浮かんでいるとはいえ、その位置はほぼ一定であり、こうした航海用海図も用意されているのだ。
「アルバ島に何か?」
「自航船だ」
「ジコウセン?」
何のことやらわからないという表情のガルビンにダリエンツォは舌打ちをする。
「帆もオールも無しで航海できる船のことだ。星船の技術が使われているに違いない」
「帆もオールも無しでですかい? そりゃ幽霊船では?」
ガルビンは思わず両手を合わせてお祈りする。
「バカ。そんなはずがあるか」
苦笑して海図をたたむダリエンツォ。
まだまだ船乗りには迷信深い者が多い。
自分で動く船など信じられないのも無理は無い。
だが、ダリエンツォは知っていた。
最近ひそかに自航船が一部の王侯貴族などに渡っていることを。
それが何を意味するのか・・・
星船を作った連中が何かをたくらんでいるのかもしれない・・・
彼はそう思っていた。
「明後日には出港する。奴隷を休めておけ。無論お前たちもだ」
「ヘイ」
ガルビンは海図を受け取ると、船長室を後にした。

きらめく星空。
天には巨大なアーチがかかり、七色にきらめいている。
夜の虹だ。
普通に雨上がりに見られる虹と違い、夜になれば常に天に広がっている巨大なアーチ。
子供の頃から当たり前に見慣れた光景だ。
アーチの周囲には白い大き目の星がいくつかあり、さらに無数の星々が全天に瞬いている。
白い大き目の星はその日によって数が違い、最低では二つ、最高では七つ見えるときがある。
それらは総称して月と呼ばれ、星とは違うものらしかった。
「ねえ、エミリオ・・・」
昼間の温かさが残る甲板に毛布に包まって寝転がっているフィオレンティーナがそっと声をかける。
「ん?」
もぞもぞと寝返りを打つ音がする。
少し離れたところにはエミリオとゴルドアンがやはり毛布に包まっていた。
「すごいね・・・私こんなふうに星空を見たことなんてなかったよ」
「ん? そうか?」
少し寝ぼけたような声が帰ってくる。
きっと半分以上寝ているのだろう。

エミリオのファヌー『エレーア』は夜の停泊中だった。
夜間の航海は危険が伴う。
岩礁や危険物が見えないのだ。
それに二人で操っているこのファヌーには交代要員がいない。
そのため、夜はこうやって島の適当な停泊場所に船を止めて停泊するのだ。
日が昇ればまた航海をする。
こうやってエミリオたちは島から島へ渡ってきたのだった。

「綺麗・・・あそこへ行ってみたいな・・・」
「あそこ?」
エミリオが目を擦っている。
「星々の世界。ねえ、星船ってあるのかな・・・」
「星船? 星と星の間を航海するって奴?」
フィオレンティーナの脇にもぞもぞと移動してくるエミリオ。
「そう。聞いたこと無い? 星々の間を飛ぶ星船のこと」
「そりゃあるけど・・・でもあれはおとぎ話だよ」
エミリオの答えにフィオレンティーナはちょっとがっかりする。
「夢が無いのねぇ。そういった船があったら素敵じゃない?」
「そうかなぁ・・・」
エミリオにしてみれば星の世界なんて想像もつかない。
このファヌーだけで充分だ。
もちろん将来的にはもっと大きな船を持ちたい。
だけど、それが星船ということにはなろうはずがなかった。
「もう・・・いいわよ」
フィオレンティーナにしてみれば、星船は口実に過ぎない。
素敵な星空を一緒に眺めて、ロマンに浸ることができればそれでよかったのだ。
でも、エミリオは乗ってこない。
ちょっとつまらなかった。
フィオレンティーナは目をつぶって横になる。
ペンダントの鎖がチャラと音を立てた。
  1. 2006/08/23(水) 21:32:16|
  2. グァスの嵐
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劣化ウラン弾

劣化ウラン弾というものをご存知でしょうか?

最近湾岸戦争後の被害などでその名を知られるようになりました。
しかし、それがどういったものかは、私もあまり知らなかったです。

劣化ウランとは核兵器用や原子力発電用などに使われる濃縮ウランを作り出した残りかすと言っていいものです。

ウランは、そのままでは核分裂を起こすにはウラン235という物質の割合が少なく、核分裂しにくい物質です。
そこでこのウラン235の割合を高めるために濃縮という行為を行います。
ウランはこの濃縮を経て、燃料や核兵器となる濃縮ウランと絞りかすのような劣化ウランに分けられます。

つまり、劣化ウランとはこの濃縮を経て生み出された廃棄物なんですね。

この劣化ウランを金属化したものが劣化ウラン金属です。
劣化ウラン金属は非常に高密度で比重が高い物質でした。
つまり、硬くて重いのです。

装甲板というものを撃ち抜くためには硬くて重い物体を高速で撃ち出してやるのが一番です。
硬くて重いほど衝撃もまた大きくなるからです。

硬くて重い物質ということであれば、タングステンも対戦車用の砲弾の弾頭として適切なのですが、タングステンは高価であると同時に融点が高く加工しにくいという特徴を持っておりました。
そのためにタングステン砲弾は高価でどんどん撃ちまくるというわけには行きません。

そこで目をつけたのが劣化ウラン金属でした。
劣化ウラン金属は濃縮の残りかすであるために、基本的にはただ同然です。
しかも融点が低く燃焼しやすいという特徴を持つために加工もしやすく、砲弾としてのコストダウンも可能でまさに一石二鳥三鳥の効果がありました。

しかし、劣化ウラン砲弾には問題点が多々ありました。

濃縮後の残りかすといえども、劣化ウラン金属は放射能を放出いたします。
もともとのウランよりは低くても、確実に放射能を撒き散らすのです。

しかも、燃焼しやすい劣化ウラン金属は、砲弾として相手に命中した場合、燃え上がり細かい金属粒子となって飛び散ります。
それをあやまって吸い込んでしまった場合、金属中毒と放射線障害を受けることになるのです。

さらに酸化しやすく水に溶けやすい劣化ウラン金属は、例えば命中しなかった弾頭部分が地面に突き刺さったりすると、そこで土と地下水を汚染するのです。

敵兵ばかりではなく、そこに住む民間人、さらには扱う味方の兵までもが危険に晒される劣化ウラン弾。
しかし、アメリカは劣化ウランの処理に困っていることもあり、危険との因果関係は説明できないとして廃棄を拒んでいます。

核兵器を使用していないにもかかわらず、核兵器のような被害をもたらす劣化ウラン弾は、やはり問題ではないでしょうか。

それではまたー。
  1. 2006/08/22(火) 21:42:58|
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決着がつきました

ついに夏の甲子園の高校野球の決着がつきました。

早稲田実業対駒大苫小牧。
結果は皆さんご存知の通り四対三のスコアで早稲田実業が初優勝を遂げました。

二日間にわたる熱戦を終えた球児の皆さん、本当にお疲れ様でした。
斉藤投手、田中投手ともに素晴らしい投球でしたが、もう投げる必要はありません。
今日はゆっくり肩を休めてくださいませ。

なんにしてもいい試合でしたね。
大会屈指の好投手斉藤の球を駒大苫小牧は最後まで打ちあぐねましたね。
力負けしたと言っていいのではないでしょうか。

ホームラン二本での3点のみ。
しかし、甲子園で対戦したどの高校よりも斉藤投手から点を取ったのも、また駒大苫小牧でした。

三連覇がならなかったのは、道民としては残念です。
しかし、期待がプレッシャーになったのもあったのではないでしょうか。

斉藤投手はじめ早稲田実業の球児の皆さんには素直におめでとうといわせていただきます。
同時に田中投手をはじめとする駒大苫小牧の球児の皆さんにも準優勝おめでとうといわせていただきます。

そして、北海道のチームが甲子園で三年連続決勝まで進出したという喜び。
これを与えてくれたことにありがとうといわせていただきます。

雲の上のことだった甲子園大会の決勝戦。
さらに優勝。

正直言って、私が生きている間に起こるとは思えなかったことがいくつかあります。

一つにはソビエト連邦という国家の消滅。
一つには東西ドイツの統合。
そして、白河の関を越えることさえできなかった甲子園の優勝旗が津軽海峡を渡ること。

その起こるとは思えなかったことが二年連続で起こっただけでも駒大苫小牧には感謝してもしきれません。
本当にありがとうございました。

来年は札幌の高校に駒大苫小牧に続いて甲子園での活躍を期待します。
それではまた。
  1. 2006/08/21(月) 22:08:50|
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ポートアランス

いやー。
すごかったですね、今日の高校野球の決勝戦。

両雄一歩も譲らずに延長の末再試合。
明日再度決勝戦が行なわれます。

もう息を飲む展開で、身が持ちませんですよね。(笑)
駒大苫小牧も早稲田実業もお疲れ様でした。

明日はまた死力を尽くすことになるのでしょうけど、野球を楽しんでくださいね。
お互いの健闘をお祈りいたします。

さて、「グァスの嵐」第六回ですー。
港町ポートアランスが舞台です。
それではー。

6、
前方に突き出したマストに広げられた白い帆が風をはらんでばたばたと音を立てる。
陸岸に引っ掛けられた錨を巻き上げ機が巻き上げる。
その巻き上げ機を操作しているのは他でも無い。
フィオレンティーナが操作しているのだった。
「うんしょ・・・うんしょ・・・」
ぎりぎりとドラムを回転させて巻き上げる。
最初は陸の上をずるずると引き摺られていた錨だったが、やがて岸から下にぶら下がる。
この瞬間は船が一瞬大きく傾く。
気を付けていないと転げ落ちることもあるので、要注意だ。
エミリオはフィオレンティーナのことを気にしながらも、ファヌーの後部で舵を握る。
「エミリオ。こっちはいつでもOKだ!」
船首で帆を操っているゴルドアンの声がする。
あとは舫いを離せばいつでも出港できるのだ。
きりきりと音を立てていた巻き上げ機も動きが止まる。
錨をしっかりと固定するフィオレンティーナの姿が目に入る。
「ようし、出港だぁ!」
エミリオは船尾の舫いを解き放った。
ぐんと背後に慣性で引かれ、滑るようにファヌーは桟橋を離れて行く。
航海の始まりだった。

ぎしぎしと木の軋む音がする。
ゆったりと風が流れて行く。
船尾楼の一段高くなったところで彼は黙って立っていた。
足元に広がる甲板からは左右に突き出たオールが見える。
先が広がり、大気を掻き分けるようにできたオール。
それが左右でゆったりと前後に動き、このギャレーを前進させているのだ。
「キャプテン、そろそろポートアランスです」
脇のほうからいかつい男が声をかける。
「うむ。身代金は届いているんだろうな」
確かめなくてもわかりきったことではあるが、あえて確かめる。
「ヘイ、バルトロマージ家からは正式に身代金が送られてきているそうです」
「奥方にとってはよい選択だったな。もっとも、ああいうご夫人を調教してメスにしたいと言う御仁もいるから、どちらでも構わないのだがな」
ブルーの瞳が近づいてくる陸岸を見つめている。
「左様ですな。それに侍女のほうは身代金を払うつもりは無いようですから」
下卑た笑みを浮かべる男。
「薬は忘れていないな?」
キャプテンと呼ばれた男の目つきが険しくなる。
三角帽を目深に被ったその顔つきは精悍だ。
「それはもう。戻ったころには色ボケになっていることでしょう」
「あまり色ボケでも困るのだがな。とくに、あの女は・・・」
そうつぶやくと、彼は手を振って男を下がらせる。
前方には海賊たちの町、ポートアランスが見えていた。

「これはこれはキャプテンダリエンツォ。ようこそポートアランスへ」
渡し板を渡って来るキャプテンを揉み手で出迎える太った親父。
「世話になるぞ、ニコリーニ」
一瞥をくれ、歩き出すダリエンツォ。
「それはもう。酒も食事もいいものを取り揃えております」
ニコニコとその名のように笑みを浮かべているニコリーニ。
彼はこの町ではそれなりの名士である。
だが、彼の商売にはキャプテンダリエンツォの存在が不可欠なのだ。
「話は通っているのだろ?」
彼の脇に従僕のように従うニコリーニの方を向きもせず、ダリエンツォはポートアランスの中心部へ向かう。

自由商人の町ポートアランス。
そういえば聞こえはいいが、実態は海賊たちによってもたらされた収奪物を取引する交易町である。
ニコロ・ニコリーニは商売として海賊の収奪物を引き取り、彼らの必要なものを手配して財を成した男で、もちろん収奪物の一環としての奴隷商売も商っている。
キャプテンダリエンツォの運んでくる収奪物は間違いが無いという評判で、彼としてももてなすのに真剣になるのは当然だったのだ。

「もちろんです。バルトロマージ家からは五万ルペソの金を支払うと言ってきております」
小男のニコリーニが相変わらず揉み手をしている。
五万ルペソとは法外な額だ。
普通の自由人であれば五千ルペソが相場だろう。
大事な奥方というところか。
「吹っかけたな。あの奥方にご執心という情報でもあったか?」
口の端を歪めるダリエンツォ。
五万ルペソのうち三万五千は彼の手元に入ることになり、残りがニコリーニの手元に入る。
海賊といえども、奪い取った代物を捌くにはこういった商人の手を煩わせる必要がある。
自分で捌こうとすれば有形無形の圧力がかけられることは間違いない。
商人たちは手数料を得るチャンスを失いたくは無いのだから。
「そこはそれ。へっへっへ・・・」
下卑た笑いを浮かべるニコリーニ。
さらった乗客を人質とするも奴隷とするも商人の影響が大きい。
身分の高い乗客であれば、商人が交渉を行い身代金と交換に解放する。
身代金が取れないような乗客であれば奴隷として売り払う。
そのあたりのさじ加減は商人たちの腕次第なのだ。
「まあ、いい。部下たちを楽しませてやってくれ」
「それはもう」
ダリエンツォに揉み手で答えるニコリーニ。
「任せたぞ、俺は行くところがある」
「行ってらっしゃいませ。キャプテンダリエンツォ」
手を振って立ち去る後ろ姿を、腰を折ってニコリーニは見送った。

薄暗い裏通り。
昼間だというのに喧騒とは無縁のようだ。
そんななか一人で歩いているダリエンツォ。
腰から下げたカトラスが無言の威圧を与えている。
三角帽から覗く眼差しは鋭い眼光をたたえていた。
彼は無言のまま一軒の家の扉を叩く。
「誰だい?」
年取った女性の声が中から聞こえる。
「ダリエンツォだ。ボニファーノ・ダリエンツォ」
ダリエンツォが自分の名を名乗る。
「まあ、ボニファーノ坊ちゃん。今開けますわ」
思わず苦笑するダリエンツォ。
泣く子も黙る海賊ダリエンツォも、彼女の前では形無しらしい。
扉が開くと一人の年取った太った女性が顔を出す。
「お久し振り。マダムアリチェ」
にこやかに微笑みかけ、三角帽を取るダリエンツォ。
「いらっしゃい、ボニファーノ坊ちゃん。さあ、お入りお入り」
マダムアリチェが招き入れる。
ダリエンツォは扉をくぐり、闇の中へ消えていった。
  1. 2006/08/20(日) 21:33:41|
  2. グァスの嵐
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掲示板更新ですー

私の書いた過去作品を掲載している「舞方雅人の趣味の掲示板」に「セミ女」SSを掲載いたしました。

ご覧いただければ嬉しいです。
  1. 2006/08/19(土) 20:20:24|
  2. ネット関連
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いよいよ決勝

今日は夜居ないのでこの時間で更新です。
更新と言ってもたいしたものじゃないですが。

駒大苫小牧勝ちましたねー。
今年はここまでか? ここまでか? と思わせるような試合ばかりでしたが、気が付くと決勝進出。

いよいよ明日は決勝戦。
相手は早稲田実業ですねー。

正直三連覇は望み薄だと思っておりましたが、ここまで来たからには勝って欲しいです。
頑張れ駒大苫小牧。

さて、今日は友人とTRPG。
楽しみですー。

それではー。
  1. 2006/08/19(土) 18:19:50|
  2. スポーツ
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Sフィールドにモビルスーツ隊を集中させい!

お久し振りのローネフェルトです。
モビルスーツ戦が始まりました。

あっという間に戦場は混乱と錯誤が支配する空間に陥って行く。
私の周囲にはすでに敵の大編隊が飛び交っているのだ。
「パット、アヤメ、私から離れないで」
『了解』
『大丈夫です、お姉さま』
二人の09Rはしっかりと付いてきている。
この分なら問題は無い。
私はシールドの裏からビームサーベルを取り出すと、不用意に接近してきたジム目掛けて突き出した。
「邪魔だぁ!」
ビームサーベルの一撃はジムの脇腹を切り裂いていく。
私の15がその場を離れた時にはジムは火球となって爆散した。

『うわあっ!』
『助けてぇ!』
レシーバーに飛び込んでくる絶叫の群れ。
あちこちでモビルスーツが火球になっていく。
09Rの蹴りを受けてひしゃげ散るボール。
サラミス級の主砲の直撃を受けて爆散する06F2。
MP-02Aの銃撃で炸裂して行く連邦の突撃艇。
どこから弾が来るのかわからない。
まったく速度の落ちない宇宙空間では、時限炸裂式の弾でなければ、敵も味方もどこで味方を撃ち落しているか知れたものでは無い。
『キャァー!』
「!」
レシーバーに入ってきた悲鳴に反射的に息を飲む。
「パット!」
私はパットの09Rを目で探す。
「パット!」
『大丈夫。大丈夫です、大尉殿』
パットの09Rが15の脇に滑り込んでくる。
右肩の装甲に傷が付き、塗装がはがれてさび止めの赤がむき出しになっている。
『直撃を受けちゃいました。でも、大丈夫です』
「気をつけなさい! 死んじゃだめよ」
私は思わず怒鳴りつける。
死んで欲しくない。
もう誰も死んで欲しくない。
「連邦め! いい加減にしなさいよ!」
私はビームサーベルを敵巡洋艦の横腹に突き刺した。

『あああ・・・お母さーん・・・』
火だるまになりながら飛び続けているガトル戦闘爆撃機。
それは私の目の前で四散する。
『いやぁー』
ビームサーベルに真っ二つにされるMP-02A。
数の差がじわりと響いてきている。
それもこんなに早く。
まだ戦闘が始まって一時間ほどしか経っていない。
数だけじゃないわ・・・
技量の差。
連邦のジムは恐るべきモビルスーツなのだ。
それは乗った私がよく知っている。
この戦争の中盤、連邦軍には各地で手に入れた06で編成された部隊があったという。
でも、それは奴らが言うほど活躍しては居ない。
06は一朝一夕に動かせる代物ではないからだ。
私も他のパイロットも数ヶ月におよぶ訓練を施して、やっと06を自在に動かせるようになったのだ。
捕獲した06に一週間やそこらで訓練したからと言って乗りこなせるはずが無い。
けど・・・
ジムは違う。
ジムはその運動のほとんどを搭載コンピュータが行なってくれるのだ。
だからパイロットのやることはジムを動かすことではなく、ジムを戦わせることなのだ。
だからこそ私でもジムを動かすことができた。
ジムを戦力として戦わせることができたのだ。
『ママー!』
私の目の前で最新鋭のMS-14が爆散する。
動かすことさえできていない機体は最新鋭だろうと敵の的にしかならない。
技量不足のパイロットでは使いこなせない。
「やめてよ・・・」
私はラッチからシュツルムファウストを取り出して構える。
「お願いだから・・・」
先端を接近してくるマゼラン級戦艦に向ける。
「もうやめようよ!」
私はトリガーを引いた。

いきなり側面から黄色いビームが突き刺さる。
一瞬の静寂のあと、船体が膨らんで爆散する。
『上角二度! 退避だ!』
ホワイトベースの反応は早い。
戦艦リバダビアの爆発による破片を被らないようにすぐに軌道を変えて行く。
がんがんと俺のボールにも破片が当たって不気味な音を立てて行く。
『『キャー!』』
アナスタシアとミスティが悲鳴を上げている。
そりゃそうだろう。
俺だって不気味この上ない。
破片だって下手したらボールぐらいはあっという間に破壊して行くのだからな。
「大丈夫だ! 心配するな!」
半ば自分に言い聞かせるように俺はそう言ってやる。
接近してくる敵モビルスーツ隊。
その中心には一瞬にして戦艦を沈めた見たこと無い機体がある。
「足が無い?」
俺はその特異なフォルムに目を引かれた。
大型のモビルアーマーと思われるが、宇宙空間では不要な足をはずしているということもありうる。
俺はその発する圧倒的な威圧感をひしひしと感じていた。
あいつにはベテラン、それも只者では無い奴が乗っている。
「二人とも離れるな! 来るぞ!」
俺はゴクリと唾を飲む。
味方モビルスーツ隊はここには居ない。
艦隊に付いているのは俺たちをはじめとした護衛のボール隊だけ。
ザクやドムならともかく、あの新型を止めるのは・・・
「来たっ」
ロケット弾が足の無い新型に向かって行く。
足無しのモノアイがぎょろりと上を向き、そこに居るものを認めたようだ。
「ようし。行っちまえ」
悔しいが俺には相手できない。
足無しの相手はお任せするよ、アムロ少尉。
足無しはまるで獲物を見つけたかのようにスラスターを吹かして上昇して行く。
ガンダム。
後は頼んだ。
俺は艦隊の護衛に専念する。

『どういうこと? 半数をNフィールドにって言う命令だったでしょ? 司令部は何を考えて・・・わかったわ! マリー、聞いての通りよ。すぐにSフィールドに向かってちょうだい』
リーザの苦悩の表情が映し出されている。
艦艇もモビルスーツも敵に翻弄されている。
Nフィールドの敵とSフィールドの敵のどちらに対応するかに混乱があるのだ。
先ほどはNフィールド、今はSフィールドを重点と見ているのだろう。
どうしようもないわ・・・
数も技量も全てが足りないのよ・・・
でも・・・
ここを落とさせるわけには行かない・・・
「わかったわ。パット、アヤメ、Sフィールドに向かうわよ」
私は15をSフィールドに向ける。
『気を付けて。Sフィールドにはあの白い悪魔が居るわ。シャア大佐と交戦中よ』
「了解よ。大佐に期待するわ」
私はリーザに手を振った。
  1. 2006/08/18(金) 21:50:45|
  2. ガンダムSS
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友鶴転覆

ワシントンで取り決められた海軍軍縮条約により、日本海軍は不本意ながら戦艦及び航空母艦を対米6割で忍ぶこととなりました。

これは日本海軍にとっては太平洋を押し渡ってくるアメリカ艦隊に対し、勝利を収めることが極めて厳しいものとの認識を与えました。

そこで日本は条約に含まれない巡洋艦以下を主力たる戦艦の補助として強化し、大量に配備する計画を立てました。

そういった目的で建造された日本の軍艦は、吹雪型駆逐艦など諸外国が驚くほどの重装備を施していました。

異常なほど強力な巡洋艦や駆逐艦が無制限に作られては、せっかく戦艦を制限した意味が無くなる。
そう考えた米国は、主力艦以外の巡洋艦や駆逐艦も制限するべくロンドン海軍軍縮条約を結びます。

日本は主力艦たる戦艦では6割に甘んじましたが、巡洋艦以下は約7割を確保できることになったため、この条約を批准します。

しかし、それでもやはりアメリカに対して不利であることは変わらないため、日本は一隻一隻の重武装化を進めていくことになります。

ロンドン軍縮条約で制限されなかったのは、基準排水量600トン以下の艦艇でした。

そこで日本は制限されてしまった高速大型の駆逐艦の代わりに、600トン以下の水雷艇に駆逐艦の代役を勤めさせることにしました。

そこで建造されたのが千鳥級の水雷艇です。

基準排水量535トン。
この小さな船体に千鳥は魚雷発射管を連装二基、12・5センチ砲三門という武装を施しました。

これは基準排水量1000トン級の駆逐艦の武装とほぼ同じでした。
つまり、千鳥は非常に頭でっかちで、船体と武装のバランスが取れていない艦となってしまっていたのです。

はたして千鳥級水雷艇はちょっとした波でもぐらぐらと傾く操船しづらい艦となり、ついに1934年3月、同型艦の水雷艇友鶴が荒天下の演習中にひっくり返ってしまいます。

本来であればひっくり返るはずの無い艦が、あっという間にひっくり返ってしまったのでした。

海軍は全力を挙げて救難活動に入りますが、死者・行方不明者計百人を数える大惨事となりました。
生存者はわずか13名でした。

転覆し、閉じ込められた乗組員は、逃げ場の無い船体内で窒息死した者が多かったと聞きます。
少しでも酸素が欲しかった乗組員たちは、開けられるものは全て開けてあったそうです。
机の引き出し、戸棚の扉、缶詰まで開けてあったとか・・・

この転覆事故は日本軍を震撼させました。
日本軍は全ての艦艇の設計を見直し、完成した艦艇も全て復元力強化の工事を行なうことになったのです。

武装を減らし、頭でっかちの状況を改善したのです。
この結果、以後の日本軍艦艇は復元力に問題を生じることはなくなりました。

小さな艦に大きな艦と同等の武装を持たせて米軍と戦うという考えは破綻したのです。
条約に縛られ、その抜け道を探った結果でしたが、大きな犠牲だったでしょう。

しかし、以後荒天で転覆するような艦艇が無かったことは、この事故が無駄にならなかったのだと思います。

それではまた。
  1. 2006/08/17(木) 22:25:28|
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ワシントン軍縮条約

ワシントン海軍軍縮条約というのをご存知でしょうか?

第二次世界大戦前の世界の海軍に大きな影響を与えた軍縮条約でした。

第一次世界大戦はまだまだ戦艦という艦種が力を充分に発揮した戦争でした。
一番破壊力が大きい兵器は大砲であり、大口径の大砲であればあるほど破壊力も大きかったのです。

当然大きな大砲を何門も積んで世界の海を自由に行き来するという戦艦は、当時の世界にとっては現在のICBMなどの核ミサイルよりも強力でインパクトのある兵器だったのです。

第一次世界大戦後、世界は次なる戦争に備え始めました。

第一次世界大戦の戦勝国であり、海軍国であったアメリカ、イギリス、日本は戦艦の建造に血道をあげることになるのです。

しかし、戦艦という兵器は建造するにしても維持するにしても、莫大な金がかかる兵器でした。
巨大な経済力を持つアメリカはともかく、第一次世界大戦をやっとの思いで勝ったイギリスや大正期に移り変わる最中の日本にとっては国家予算をいくらつぎ込んでも何隻も作れるものではありませんでした。

このままでは国を守るために戦艦を作るはずなのに、戦艦を作ることで国家財政が破綻するという本末転倒な事態が起こるのは明白でした。

そのため、各国は戦艦の建造に一定の枠組みを作って、それ以上建造しないようにしようと考えたのです。

もっとも、これにはアメリカの思惑もあり、日本海軍の勢力をこれ以上大きくしたくないという考えもありました。

1921年アメリカの首都ワシントンに(第一次世界大戦の)戦勝五カ国が集まります。
米、英、仏、伊、日の五カ国は、戦艦と空母を野放しで建造しまくるのではなく、建造の上限を決めようということで一致しました。

日本としてもこれ以上の建艦競争には国家の財政体力が持たないところまで来ていたのです。

日本の仮想敵国はアメリカでした。
太平洋に進出を狙うアメリカは、日本にとっては脅威だったのです。

日本としてもアメリカの国力の大きさは薄々感じてはいましたが、太平洋を押し渡ってくるアメリカ艦隊を西太平洋で迎撃するには対米七割の戦艦が必要だと考えていました。

ワシントンで提案された比率は日本の予想を下回るものでした。

米、英、日、仏、伊の比率は5:5:3:1.67:1.67というもので、アメリカ10に対する日本は6というものだったのです。

日本はこれを不服とし、何とか10:7にしようとしましたが、果たされませんでした。

そのため、日本は制限されていない巡洋艦や駆逐艦を強力にして対抗しようとします。
その歪みが引き起こした悲劇もあり、後日掲載しようと思いますが、日本にとっては不満の残る条約でした。

しかし、日本にとっては決して悪い条件ではなかったといえるでしょう。

山本五十六が言っているように、米英が対米6割を認めたということは、逆にアメリカに足かせを嵌めたともいえるのです。

自由に作られては手も足も出ないほどの開きが発生してしまうのは目に見えています。
それこそ太平洋戦争中のごとく、10:1すら維持できないのです。

それが条約のおかげで10:6にアメリカを押さえつけることができるのだから、この条約を喜ぶべきだと山本五十六はじめとした条約賛成派の軍人は考えました。

その考えは私は正しいとおもいます。

惜しむらくは、日本はその後ますますアメリカとの対立を深め、ワシントン及びその後に締結されたロンドン海軍軍縮条約の期限切れを持ってまたしても建艦競争にはいります。

当然のごとくアメリカの建造力は大きく、10:6を維持することもおぼつかなくなります。
日本はこれ以上戦力の差が広がると戦争にならないと考え、アメリカとの交渉に期限を設けてしまいます。

やがて日本は1941年の12月8日を迎えることになるのです。

それではまた。
  1. 2006/08/16(水) 21:46:32|
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新たにリンクをさせていただきました

このたびまた、新しく当ブログとリンクしていただけるブログサイトさんがございましたので、ご報告させていただきます。

Nine's Graphics BLOG Edition
URLはこちら、http://genshi.blog70.fc2.com/

こちらはGENSHI / 玄師様が管理人をなさっている、とても素晴らしいイラストがいっぱいのブログです。

もともとはイラスト満載のホームページを運営しておられ、現在でもそちらにはたくさんの素晴らしいイラストが掲載されておりますが、ブログも始められ、ブログには主に近況を綴られていらっしゃるみたいです。

ぜひぜひ一度足をお運びいただき、その素敵なイラストを目のあたりにしていただければと思います。

玄師様、これからよろしくお願いいたします。
  1. 2006/08/15(火) 23:36:49|
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蜘蛛女仁美

2chにちょっと投下してみたSSです。
楽しんでいただければ幸いです。

ぱしゃっと水音がはじけ、スイミングキャップが水面に姿を覗かせる。
「ふう・・・」
水から顔を上げ、足りなくなった酸素を補給する。
気持ちいい・・・
桜居仁美(さくらい ひとみ)はプールの底に足を着き、胸から上を水面に出した。
それほど大きいものではないが、形よい胸が水着の布地を押し上げる。
紺色のワンピースの水着はこのスイミングクラブのお仕着せだったが、彼女が着るととても似合っていた。
「桜居さん、相変わらず泳ぐの上手ねぇ」
「ホント、私なんかいつまで経っても息継ぎが上手く行かなくて・・・」
「アナタは特別へたっぴなのよ」
「言えてるぅ・・・あはははは」
彼女の周囲に同じ水着を着た数人の女性たちが集まってくる。
いずれもにこやかに彼女に笑いかけていた。
彼女たちはみなこのスイミングクラブの仲間たちだ。
年齢も職業も体重もまちまちな彼女たちだったが、いつもこのスイミングクラブで顔を合わせているうちに仲良くなったのだ。

仁美は別に水泳が上手くなりたいわけでは無い。
出産から五年。
子供も手が掛からなくなってきた今、彼女は再び以前のプロポーションを取り戻したかったのだ。
とはいえ、彼女自身のプロポーションが悪いわけではない。
一児の母親とは思えないほどの躰の張りを保っている。
腰もくびれ、お腹だって出てはいない。
だけど、仁美は気を抜きたくなかったのだ。
愛する夫のため。
このプロポーションを維持することこそが夫への愛の証だと思えたのだ。

「やあ、皆さん。どうですか、調子は?」
スイミングクラブのコーチである、猪坂広志(いさか ひろし)がやってくる。
先日、三十代になってしまったものの、まだまだ引き締まった躰とさわやかな印象は好青年を思わせる。
「「猪坂コーチ、こんにちは」」
仁美の周囲にいた女性たちがにこやかに挨拶をする。
それに対して猪坂も手を上げて答える。
「桜居さんもこんにちは」
その声を聞いた時、仁美は背筋がぞっとした。
他の女性たちは彼の事を気に入っているみたいだったが、仁美には彼に好意を持つことはできなかったのだ。
プールサイドで指導をしているときも、常に目の隅で彼女を見ているような感覚。
彼女が一人で休んでいる時に、気が付くと向いている躰を嘗め回すようなその視線。
まるでヘビが獲物を見つめているような感じを仁美は覚えるのだ。
注意しようにも明確に見つめられていたわけではないので、錯覚といわれてしまえばそれまでだ。
だが、明らかに仁美は猪坂の視線にいやらしいものを感じているのだった。
「こ、こんにちは」
努めて平静に挨拶する仁美。
「皆さん筋がいいですよ。その様子だと大澤さんは上級コースでも大丈夫ですね。どうですか? 一度昇級試験を受けられては」
「そ、そうですかぁ?」
まんざらでも無さそうな顔をしている大澤と呼ばれた女性。
実際猪坂コーチの評判はよく、彼目当てに通っている女性もいるらしい。
「考えてみてくださいよ。そうそう、明日の夜でしたね? 浜口さんのお祝いは」
「そうでーす」
「コーチも来てくださいね」
「彼女の目当てはコーチなんですから」
あはははと笑い声がプールに響く。
「もちろん伺いますよ」
猪坂も笑っている。
だが、仁美はどうしてもこの男を好きになれそうにはなかった。
「ごめんなさい。お先に失礼するわ」
仁美はそう言うと、プールから上がる。
水着に包まれた魅力的な後ろ姿を、猪坂は確かに目で追っていた。

「ほんとにいやらしい感じなのよ。まるで水着から滴る水まで飲み干しそうだわ」
パジャマ姿の仁美が髪の毛を梳いている。
「おいおい、そんな奴がコーチじゃヤバいんじゃないか?」
大きなベッドには夫の桜居幸太(さくらい こうた)が週刊誌を眺めていた。
「ええ、泳ぐの好きだし、やめたくは無いけれど・・・そろそろ考えるわ」
「そうだな・・・その方がいい」
何か考え込むような表情をして週刊誌をベッドの脇に置く幸太。
その目は妻の背に注がれる。
「明日はちょっと遅くなるわ。前に言っていたでしょ。プールのお仲間の浜口さんのお祝いなの」
「ああ、そういえば言っていたな。若いのに主任さんだって? やるもんだな」
「うふふ・・・あなただって課長さんでしょ。大丈夫よ。負けてないから」
そっと夫の自尊心をフォローする。
若い女性が主任で自分が平ではコンプレックスを抱くだろう。
だが、彼女の夫は課長だ。
だからコンプレックスを抱く必要は無いし、仁美もこのお祝いのことを打ち明けたのだ。
そうでなければ誕生日のお祝いとでも言ってごまかすほうがよかっただろう。
男というのはコントロールが大変なのだ。
「終わったわ」
寝る支度を終えて、仁美はベッドにもぐりこむ。
灯を消して布団をかける。
大きなベッドで愛する夫の隣に寝るのは至福のひと時だ。
「亮太(りょうた)は寝たのか?」
「ええ、先ほど覗いたらぐっすり」
その言葉が終わらないうちに仁美の腰に手が回される。
「あん、あなたったら・・・」
「そんな野郎の話を聞いたら黙ってられるかよ。仁美は僕の妻なんだぞ」
荒々しく仁美を引き寄せ、その首筋にキスをする。
「あん・・・もしかして、やきもち?」
「うるさい。仁美は僕のものだ」
「ああん・・・ええ、私はあなたのものよ・・・愛してるわ・・・」
仁美はまさに幸せだった。

ひとしきり食事とお酒を楽しんだ仁美たちは、猪坂コーチの提案でカラオケに行くことになっていた。
浜口という女性の会社内での昇進という、別に仁美にとってはどうでもいい出来事のお祝いだったが、プール仲間の集まりはやはり楽しい。
四十代後半の太った女性も二十代前半の若々しい女性も、みんな一緒に楽しめるのは水泳のいいところだ。
別に記録やスピードを意識しなければ、楽しく泳ぐことに問題は無い。
それだから仁美もこの集まりに顔を出しているのだった。
猪坂のことがなければまだまだ楽しめるはずなのに、彼の存在は仁美の心を翳らせる。
カラオケもどうしようかと迷った仁美だったが、もしかしたらクラブをやめるかもしれないし、そうなればみんなにも会えなくなる。
そう思って仁美はカラオケも付き合うことにしたのだった。
一次会のレストランからカラオケボックスまではちょっとある。
仁美たちはわいわい言いながら人通りの無い夜道に差し掛かっていた。

突然、ばらばらと人影が現れる。
「えっ? キャーッ!」
女たちが悲鳴をあげる。
人影は全身を黒い全身タイツ状のスーツで覆い、顔には緑と赤のペイントがされ、ベレー帽を被っている。
腰には北半球の上に乗ったワシのマークのベルトが飾られ、人影の中の二人は一部が赤い全身タイツを纏っていた。
「な、なんだ、君たちは」
猪坂コーチが女性たちをかばおうとするが、周囲はすでに囲まれている。
女性たちに逃げ場は無いのだ。
「クククク・・・われわれはショッカー」
「ショッカー?」
聞いた事が無い。
どこかの軍隊だろうか・・・
仁美は必死に逃げることを考える。
しかし、彼らの囲みを破って逃げられるかどうかはわからなかった。
「猪坂広志。お前は我がショッカーのコンピュータがはじき出した知能体力ともに優れた男だ。我がショッカーはお前を歓迎する」
一部が赤いスーツ姿の男がそう言って猪坂を指差す。
「なんだと?」
猪坂は戸惑う。
しかし、男どもは意に介さずに猪坂を両脇から捕らえてしまう。
「うわっ、なんて力だ」
猪坂は力だって弱くは無い。
水泳は全身スポーツだから筋肉も発達しているのだ。
しかし、この黒尽くめの男たちにはまったく歯が立たない。
「ククク・・・われわれはショッカーの戦闘員。強化された我々に生身の男がかなうものか」
「イーッ! この女どもはどうします?」
黒尽くめの男がリーダーと思われる一部が赤い男に尋ねる。
「連れて行け。何かの役に立つだろう」
冷酷な声に仁美は目の前が真っ暗になった。

薄暗いひんやりとしたホール。
黒尽くめの男たちに仁美たちは連れてこられていた。
猪坂は二人がかりで抑えられ、身動きが取れない。
仁美たち五人の女性もそれぞれ後ろ手に縛られて逃げられないようにされていた。
黒尽くめの男たちはみな一点を見つめている。
彼らのベルトと同じマーク。
地球をわしづかみにしたワシの姿がレリーフとして飾られている。
彼らはそれを見つめているのだ。
な、何なの・・・これは・・・
仁美は恐ろしかった。
ただここから逃げ出し、愛する夫の元へ戻りたかった。

『諸君、ようこそショッカーのアジトへ』
ワシのレリーフの腹の部分が光り、ホール内に声が響く。
「「イーッ!」」
黒尽くめの男たちがいっせいに奇声を上げる。
「お、俺たちをどうするつもりだ!」
「私たちを帰して!」
「お願い、帰してください」
みんなが口々にその声に哀願する。
だが、仁美は黙ってレリーフをにらみつけた。
こんな男たちを使って姿を現さない以上、ただで帰してはくれないだろう。
おそらく身代金が目的なのではないか?
でも・・・家にはそんなお金は・・・あなた・・・亮太・・・
『黙れ! お前たちに選択の権利は無い! お前たちに許されるのは我がショッカーの役に立つことだけなのだ』
レリーフの冷酷な声が響く。
『まずは猪坂広志。お前を我がショッカーの改造人間に改造する』
「改造人間? そんなのは願い下げだ!」
『貴様の意思など関係ない。お前はこれより改造手術を受け、ショッカーの一員となるのだ。そこに選択の余地は無い』
「や、やめろ! 俺はそんなものにはなりたくない!」
何とか黒尽くめの男たちを振り切ろうとする猪坂。
しかし、やはり身動きは取れない。
「くそっ、やめろ!」
『誰もが始めはそう言うのだ。だが、ショッカーの誇る脳改造を受ければ、その思考はショッカーのものとなり、改造人間であることを誇りに思うようになる』
脳改造?
そんなことが可能だというの?
仁美は息を飲む。
「どうしても俺を改造する気か?」
『くどい! ショッカーに選ばれたことを喜ぶがいい!』
「だったら条件がある!」
猪坂がレリーフをにらみつける。
「条件だと? ふざけるな!」
左右から押さえつけている黒尽くめの男が猪坂の頭を押さえつける。
『待て! この状況で条件を持ち出すとは面白い。言ってみるがいい』
「ふっ、俺を改造するなら、あそこにいる女、桜居仁美も改造してくれ」
な、何を言っているの?
猪坂の言葉に唖然とする仁美。
『ほほう。それはどういうことだ?』
「俺はあの女を狙っていたんだ。人妻だがいい女だからな。いずれセックス漬けにして俺のものにするつもりだったんだ」
なんてこと・・・
ぞっとする仁美。
猪坂の言葉に他の四人も顔を見合わせる。
『ほう。そんなことを考えていたとは、なかなか見所のある男だ』
「それが認められなければ俺はこの場で舌を噛み切る。俺が死ねばそっちも困るんだろう?」
「いやよ! あんたなんか・・・あんたなんか死んじゃえばいい」
仁美は我慢できなかった。
やはりこの男は最低だ。
ここから無事に帰ったら絶対にやめてやる。
でも・・・
無事に帰れるの?

『はっはっは・・・よかろう。欲しいものは奪い取る。それこそまさにショッカーの思考』
「それじゃぁ」
猪坂の顔が邪悪にゆがむ。
『うむ、その条件は考慮しよう。お前の働き如何でその女をお前のために改造し、脳改造もしてやろう』
「いやぁっ! そんなのはいやぁっ!」
仁美は半狂乱になって首を振る。
この人たちは狂っている。
ここは狂人たちの集まりだわ。
帰して!
私を帰して!
『その女たちを連れて行け。そこの桜居仁美は素質をチェックさせるのだ』
「「イーッ!」」
黒尽くめの男たちが女どもを引っ立てる。
仁美は絶望に打ちひしがれたままホールを後にした。

            ******

あれからどれくらい経ったのだろう。
仁美はアジトの牢獄に捕らえられたまま日々を無為に過ごしていた。
あれから仁美は徹底的に躰のチェックを受け、その結果戦闘員としての適性はあるものの、怪人としての適性には乏しいということだった。
猪坂はまったく姿を見せなくなり、大澤と野口は戦闘員適性も無いということでどこかへ連れ去られてしまっていた。
浜口も間中も極端に無口となり、黙って牢獄でただ時が過ぎるのを待つだけとなっていた。

キイと扉が軋む音がする。
仁美は時計を見た。
夜の十時。
戦闘員たちが来るにしては遅い時間だ。
何かあったのかしら・・・
仁美は顔を上げる。
カツコツと靴音が近づいてくる。
それも複数だ。
仁美は息を押し殺す。
いつかここを抜け出すまで死にたくない。
なるべくおとなしくしているほうが良さそうだった。

「ケケケケケ・・・」
鉄格子の向こうに姿を現したものを見て、仁美は息を飲んだ。
そこに現れたのは全身がうっすらと毛に覆われ、頭の左右からは角のような触角が伸び、顔の中央には大きな六角形の複眼状の目が三つ重なり、口元には大きな牙が生えている蜘蛛の化け物だった。
「ひぃっ」
「ケケケケケ・・・桜居仁美、俺を覚えているか?」
蜘蛛の化け物はそう話しかけてくる。
仁美は恐怖におののきながらも首を振った。
「ケケケケ・・・俺様はショッカーの改造人間蜘蛛男。元は猪坂広志といったが、そんな名前はもう意味が無い」
仁美は驚いた。
この蜘蛛の化け物があの猪坂だというのか?
「ま、まさか・・・」
「ケケケケ・・・待たせたな、仁美。俺は改造され、蜘蛛男として生まれ変わった。そして俺はショッカーに歯向かうものを殺し、必要な人材をさらってきてショッカーのために働いたのだ」
仁美はあとずさった。
この男はレリーフの声との取引を成立させたのだ。
「首領は俺の働きを評価してくれた。お前を俺のモノにすることを許可してくれたのだ」
「いやぁっ!」
仁美は首を振る。
こんな化け物のものになるなんていやだ。
死んでもいやだった。
「ケケケケ・・・連れて行け」
「「イーッ!」」
牢獄の鍵が開けられ、戦闘員たちが入ってくる。
仁美は必死に抵抗するが、所詮ははかない抵抗だった。
戦闘員たちは仁美を連れ出すと、手術室へ連れて行った。

ショッカーの誇る改造手術台。
その円形の手術台に仁美は寝かされていた。
衣服は全て取り去られ、二十七歳のみずみずしい肉体がさらけ出されている。
両手両脚は金具によって固定され、逃げ出すことはおろか、胸や股間を隠すことすらできなかった。
「いやぁっ、お願い、うちに帰してぇ! ここのことは誰にも言いません。主人にも言わないわ。だからお願いです。うちに帰してぇ」
必死になって身をよじりこの状態から逃れようとする仁美。
すでに周囲には白衣を身に纏い、不気味な赤と緑のペイントを施した医者らしき人物が控えており、さらにそのまわりを戦闘員が囲み、レリーフの下には蜘蛛男が立っている。
ああ・・・誰か助けて・・・
仁美の目から涙が流れる。

ウイーンウイーンという電子音とともにレリーフのお腹のランプが輝き始める。
『これより桜居仁美の改造を行なう。その前に彼女の適正に付いて報告せよ』
「はっ、この女、桜居仁美は知能体力ともに同年代の女性に比べて優れております。しかし、我がショッカーの求める改造人間としての適正までには至っておらず、戦闘員としての適性までと考えます」
白衣を着た医師の一人がレリーフに向かって答える。
「戦闘員だと? 俺はそんなものを求めているのではない。この女を俺に相応しい改造人間のパートナーとして作り変えて欲しいのだ」
蜘蛛男が医師団をにらみつける。
『どうなのだ? 医師たちよ』
「お待ち下さいませ。確かのこの女の単体での適性は戦闘員といったところです。しかし、単独行動をしない改造人間の支援用改造人間としてならば、その能力は充分です。蜘蛛男のパートナーとして常に行動を共にするのであれば、彼女を改造人間とすることに異存はございません」
「おお、それこそまさに望むところ。彼女を俺のパートナーに改造するがいい」
医師の言葉にうなずく蜘蛛男。
「いやぁ、そんなのはいやぁっ」
「クックック・・・心配はいらん。肉体の改造とともに脳改造も行なわれる。そうなればお前はショッカーの一員としての思考をするようになり、改造されたことを誇りに思うようになるだろう」
不気味に笑みを浮かべる医師たちを見て、仁美はもはや救われないことを知った。
あなた・・・亮太・・・ごめんなさい・・・
『よろしい。桜居仁美の改造をはじめよ』
レリーフの命令が下った。

             ******

「パパー」
保母さんの手に引かれて亮太が門の所までやってくる。
「亮太。お待たせ。さあ、帰ろうな」
可愛い息子を抱きしめ、車の後席に座らせる。
「ママは?」
幼い亮太はやはり母親がいないことが納得できない。
「ん? ママはもうすぐ帰ってくるよ。きっと帰ってくるさ・・・」
運転席について車を走らせる桜居幸太。
あの日から仁美は帰ってきていない。
彼女を含む六人が居なくなったというのに、警察はまったく手掛かりをつかめていなかった。
どこへ行ったのか・・・
幸太には信じて待つしかなかったのだ。

誰もいない我が家に帰ってくる。
灯の点いていない我が家。
だが、今日は違った。
幸太と亮太が帰ってきたとき、家には灯が点いていたのだ。
「まさか・・・」
幸太ははやる気持ちを抑えて、亮太を連れて自宅の玄関を開ける。
鍵は掛かっていない。
合鍵を持っているのは仁美だけ。
仁美が帰ってきたのだ。
幸太は居ても立ってもいられず、玄関をくぐるとすぐに居間に駆け込んだ。

「ククク・・・ようやく帰ってきたようね」
ソファーに座った仁美が入ってきた二人を射るような目で見つめていた。
「仁美・・・」
「ママー」
亮太がすぐに駆け寄った。
「うるさいわね」
抱きつこうとした亮太が跳ね飛ばされる。
仁美の手の甲が亮太を打ち据えたのだ。
「亮太!」
思わず駆け寄る幸太。
「う、うわーん」
頬を張られた亮太は火の点いたように泣き始める。
「りょ、亮太・・・何をするんだ!」
「お黙り! お前のような下等な人間と話すのは気が進まないのよ。私はお前にお別れを言いに来たの」
冷たい目で見つめる仁美。
彼女のこれほど冷たい目を彼は見たことはなかった。
「亮太・・・ママとお話があるから部屋へ行っていなさい」
幸太は泣きじゃくる亮太を部屋へ向かわせる。
その様子を仁美はくだらなそうに見つめていた。

「どういうことなんだ、仁美」
「どうもこうも無いわ。お前のようなくだらない下等な人間には興味が無くなったの」
うっすらと笑みを浮かべている仁美。
アイシャドウが引かれ、唇には黒いルージュが乗せられている。
妖しく美しいその顔は幸太にはまったく見知らぬ女性にすら思える。
「本気で言っているのか? 仁美」
「ええ、本気よ。私は生まれ変わったの。私は相応しいパートナーを得て人間であることを捨てたのよ」
「相応しいパートナーだって?」
幸太の心がざわめく。
一体どうしてしまったというのだろう。
「ええ、お前なんか比べ物にならない人よ。私はもうその方のものなの」
「だ、誰なんだ、そいつは!」
幸太が詰め寄る。
「ケケケケ・・・俺様のことさ」
背後の扉を開けて人影が入ってくる。
「うわぁ、ば、ば、化け物」
入ってきたのは蜘蛛の化け物だった。
「ふふふ・・・失礼な男ね。こんなに素敵な蜘蛛男を化け物だなんて」
仁美は笑みを浮かべながらゆっくりと蜘蛛男のそばに向かう。
「ひ、仁美、離れろ! そいつから離れろ!」
「ケケケケ・・・馬鹿な男。彼こそ私のパートナーなのよ。私はこの蜘蛛男のものなの」
蜘蛛男の腕を取り、寄り添う仁美。
「ば、馬鹿な・・・」
「ケケケケ・・・そういうことだ。この女は俺のもの。仁美、この馬鹿な男にそれをわからせてやれ」
蜘蛛男が顎をしゃくる。
「ケケケケ・・・ええ、そうしますわ。“あなた”」
「ひ、仁美・・・」
愕然とする幸太の目の前で仁美は煩わしそうに服を脱ぐ。
そして、裸になった仁美はにやりと笑うと細胞の配列を変えて行く。
「う、うわー!」
幸太の悲鳴がとどろいた。

そこに立っていたのはもはや仁美ではなかった。
美しいボディラインはそのままだが、全身を緑と赤の縞とうっすらとした毛で覆われ、頭の両脇からは二本の触角が伸びている。
口元は人間のときのままだが左右から牙が伸び、目の辺りには六角形の複眼状の目が覆っている。
両手の爪は鋭く、両脚は指が無くなりハイヒールの様になっている。
まさに隣に立っている蜘蛛の化け物の女性版だったのだ。
「ケケケケ・・・どう? これが私の姿。私はショッカーの改造人間蜘蛛女。蜘蛛男のパートナーよ」
「あああ・・・」
幸太には何がなんだかわからない。
仁美は一体どうしてしまったのだろう。
「ケケケケ・・・もはやお前に用は無いわ。死ね!」
蜘蛛女と化した仁美の口から糸が伸びる。
「ウグッ」
糸はすぐに幸太の体に巻きつくと、その自由を奪い去る。
「ケケケケ・・・お前は戦闘員にもなれ無いクズだわ。ショッカーにとって役に立たない男は無用よ」
蜘蛛女は糸をクイッと引いた。
「アガッ」
糸はあっけなく幸太の首を切り落とす。
血が飛び散って幸太の躰は床に転がった。
「ケケケケ・・・良くやったぞ、蜘蛛女」
蜘蛛男が彼女の肩を抱く。
「ケケケケ・・・ありがとう蜘蛛男」
それに寄り添うように蜘蛛女はもたれかかった。
「ガキはどうする? 戦闘員が確保しているが」
「どうでもいいわ。あんな下等な生き物なんか興味ないもの。一応連れ帰れば実験材料ぐらいにはなるんじゃない?」
足元に転がる幸太の死体を踏みつける。
「こんな男の妻だったなんてぞっとするわ。ショッカーの改造人間にしていただいてよかった・・・」
「ケケケケ・・・これからも俺とともにショッカーに尽くすのだ。いいな」
「ケケケケ・・・もちろんよ。私はショッカーの改造人間蜘蛛女。蜘蛛男のパートナーよ」
蜘蛛女は幸せそうに蜘蛛男にキスをした。
  1. 2006/08/15(火) 23:09:25|
  2. 怪人化・機械化系SS
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今年はこれまでかなぁ

8・5
中日ドラゴンズと阪神タイガースのゲーム差です。

つまり、直接対決でなければ、阪神が9連勝して中日が9連敗してくれないとひっくり返らないということですよね。

残り試合数が40試合前後。
厳しいというよりは、ほぼ無理でしょう。

今年のタイガースの優勝はほぼ無くなったと思います。
つらいですねー。

一番脂の乗り切った時期を阪神は過ぎようとしています。
金本はともかく、矢野も下柳も檜山も結構ベテランです。
来年活躍できるかどうかは未知数です。

今岡、浜中、赤星・・・
彼らに続く若い力が伸びてきていない気がします。
鳥谷ぐらい?

もちろん阪神は一軍の層が厚いから、二軍のいいのが上がれないんだといわれるでしょう。

しかし、今岡がいない、赤星が不振だ、久保田も藤川も故障だ、そんな状態なのに、これといった若者が出てきていない気がします。

桜井、喜田、赤松、林・・・
筒井、橋本、岩田、渡辺・・・
二軍のみんな、今がチャンスだよ。
来年の阪神は君たちが背負って行かなければだめだよ。

セ・リーグは連覇がここ10年ほど無い状態。
今年無理でも、来年中日に連覇されたらいかんよ。
期待しているからね。

もちろんまだ終わってはいませんから、今年の逆転優勝に望みはかけています。
でも、若手には頑張って欲しい。
また、あの暗黒時代には戻りたくないですよね。

頑張れ阪神タイガース。

それではまた。
  1. 2006/08/14(月) 21:35:38|
  2. スポーツ
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ああ・・・牛が流れて行く・・・

インパール作戦。

太平洋戦争中に日本軍が行なった数ある作戦のうちでも、もっとも悲惨な作戦と言ってもいいかもしれません。
ガダルカナル島の戦いといい、このインパール作戦といい、多数の餓死者を出した戦闘であり、太平洋戦争の日本軍は飢えているというイメージを植えつける戦いでもありました。

補給がまったく無い戦闘。
そんなことがどうして起こったのでしょうか・・・

1941年12月8日。
この日日本は米英軍に宣戦布告。
太平洋戦争が勃発しました。

日本軍は南方資源地帯の奪取のためにマレー、フィリピン、インドネシア、シンガポールなどに侵攻します。
その一環として日本軍は第十五軍に命じて、当時英国支配地だったビルマ(現ミャンマー)に侵攻しました。

四ヶ月の戦いで英軍はビルマから撤退。
日本軍はビルマ全域をほぼ手中に収めます。

この戦闘では、英軍は戦闘に不慣れであり、日本軍の攻撃にもろい面がありました。
このことが日本軍に英軍は弱いという先入観が植え付けられました。

時は移って1943年も後半になってくると、米英軍の反抗が始まり、日本軍は守勢に追い込まれてきます。
ビルマ方面でも英軍の圧力がひしひしと感じられるようになりました。

加えてビルマ方面は熱帯雨林と山岳が国土の大半を占め、道路事情が極めて悪いものでした。
このままでは敵の攻撃に対して受身でいたのではビルマ防衛はできない。
そう、日本軍は考えました。

そのため日本軍は、インドのビルマ国境近くの英軍の拠点インパールを攻撃し、これを陥落させることができれば、英軍のこの方面での反攻は頓挫すると考え、インパール攻撃を計画することにしたのです。

しかし、道路事情が悪くて防衛に困難をともなうということは、攻撃には余計困難なことは明白でした。
攻撃に参加する第十五軍の三個師団に対する補給は厳しいものとなることは予想されたのです。

当然十五軍の指揮官たる牟田口中将も補給が問題であることは認識していたようでした。
上部組織であるビルマ方面軍にトラックの大量増強を依頼していたのです。

しかし、その依頼は果たされませんでした。
なにせ、十五軍の要求は日本が南方に送っている全てのトラックに匹敵するようなものだったからです。

当然ビルマ方面軍も南方軍もそんな要求は突っぱねました。
結局ビルマに送られたのは要求の20分の1程度だったと聞きます。

で、あれば作戦の成功はおぼつきません。
南方軍もビルマ方面軍もそのあたりは不安視していたらしいですね。

しかし、牟田口中将には成算がありました。
彼は、作戦開始前までに集積した各師団一か月分の物資があれば、作戦は成功すると考えていたようでした。
英軍は貧弱な装備と低い士気であり、こちらの攻撃に対しては抵抗らしい抵抗もせずに逃げて行くと思っていたからです。
さらに彼は(これは彼だけではなく日本軍共通)インパールを落とせば、そこに集められた英軍の物資が日本軍を潤してくれるとも思っておりました。

牟田口中将は日中戦争の始まりに関わっておりました。
そのため何とかこの戦争を終わらせようと考えていたといいます。
そのため、多少の無理をしてでも英軍を撃破し、インドでの独立活動に力を与えて英国を太平洋戦争から脱落させようと考えていたようでした。
ですから、このインパール作戦にかけていたと聞きます。

南方軍もビルマ方面軍も、補給の面で厳しいこの作戦は中止したほうがいいと思っていたようでした。
しかし、実行担当の十五軍司令官ができると言い張る以上、やらせてもいいかという雰囲気に流れていったらしいです。
「牟田口がやりたいというならやらせてやれ」
そういう言葉までがでたと聞きました。

作戦が始まったのは1944年3月。
もちろんそのころの英軍は緒戦のころの英軍とはわけが違います。
士気も技量も高くなっていたのです。

それでも日本軍の攻撃に対しては、基本的には守勢で当たることになっていたため、日本軍の攻撃はそれなりに英軍を後退させていきました。
しかし、英軍は壊走ではなく整然とした後退でした。
日本軍はじりじりと引き寄せられていったのです。

日本軍の補給はあっという間に破綻しました。
もともとよくない道路事情でしたので、トラックがあっても通れないのです。
で、どうしたか・・・

トラックを分解して、人力でトラックを運ぶという本末転倒なことを始めます。
細い道をトラックを分解して運ぶのです。
物資だけでなくトラックまで運ぶ以上、運べる物資はさらに少なくなります。

牟田口中将自慢の種の一つに補給を牛で運ぶというのがありました。
牛の背中に物資を乗せ、その牛自体も食料とするという画期的(に思われた)アイディアで、十五軍は大量の牛を保有しておりました。

十五軍の進撃路には大きな川がありました。
十五軍の保有する牛は、背中に乗せた物資もろとも、大半が川の流れに飲み込まれていきました。

頑強に抵抗する英軍に対し、補給の届かない日本軍。
最初から勝敗は明らかと言っていいでしょう。

1944年6月末。
ついに十五軍は攻撃を中止、撤収に入りました。

おりしもビルマは雨季。
雨の降るぬかるみの中を食料も医薬品も弾も何も無くなった日本軍は後退します。
その有様はまさに悲惨の一語に尽きたとのことでした。

ビルマでの戦いはその後も終戦まで続きます。
しかし、それは英軍自体が基本的には攻勢に出なかったからで、日本軍の力がまだあったからでは無いでしょう。

インパール作戦はどの文献を見ても悲惨な状況が綴られています。
しかし、負けるべくして負けたとしかいいようがありません。
無責任な上層部の犠牲となった兵士は浮かばれません。
この作戦は忘れてはならない作戦だと思います。

それではまた。
  1. 2006/08/13(日) 22:06:37|
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闇の中で

「グァスの嵐」五回目ですー。

短いですけどよろしくお願いしますー。

5、
「まったく・・・夕べはお誘いがかかるものとばかり思っていたんだがな・・・」
笑いながら大きな腹をゆするマッツォーリ。
彼の部下たちはすでに倉庫から塩漬け肉の樽を運び出してきている。
「いやぁ、すまない。乗客が乗ることになったんでね。その打ち合わせをしていたのさ」
二本の右手で頭を掻いているゴルドアン。
「わっはっは。いいってことさ。で、乗客ってのはあの娘かい?」
マッツォーリの視線の先には、半袖半ズボン姿のフィオレンティーナがエミリオに食って掛かっていた。
「だからぁ、手伝うって言ってるでしょ! 荷運びぐらいどうとでもなるわよ!」
「危ないんだってば! 足元は渡し板だけだし、バランス崩して落ちたら雲の中なんだぞ!」
エミリオも負けてはいない。
それはそうだろう。
桟橋は島の端から突き出た木の橋だ。
そこに横付けされた船には渡し板しか渡されない。
手すりも何も無い渡し板を渡るには、結構バランスが重要なのだ。
もちろん港の桟橋の下側には、安全のためにネットが張ってある。
たまに慣れていない乗客が渡し板から落ちたりするため、ネットで受け止めるようになっているのだ。
だからと言ってぽろぽろ落ちられたのではたまらない。
引き上げるためには梯子をかけたりいろいろとしなくてはならないのだ。
それにネットがあると言っても100%安全とは限らない。
落ちないに越したことはないのである。
「でも・・・私にできることなんて・・・これぐらいしか無いみたいだもん・・・」
口を尖らせて不服そうなフィオレンティーナ。
「気にしなくてもいいよ。君はお客様なんだから、おとなしくしててもらってかまわないんだ」
エミリオが優しく言う。
だがフィオレンティーナは首を振った。
「それがいやなの! 私はお金を払っていないのよ! お客さんなんかじゃないわ! 働かせてよ!」
「でも・・・」
エミリオは困ったことになったと思った。

「お嬢ちゃん。樽を運べるのか?」
大きな腹をしたマッツォーリが話に割って入ってくる。
「馬鹿にしないで! 樽ぐらい運べるわよ。それに私の名前はフィオレンティーナ。お嬢ちゃんはやめて」
きっとマッツォーリをにらみつけるフィオレンティーナ。
「だったらやってみるといい。そうしないと納得しないだろ?」
マッツォーリがガハハハと笑う。
どうせ一度はやってみないとこの手のガキは納得しない。
それなら自分の目の届くところでやらせたほうがいいと踏んだのだ。
「そうだけど・・・いいの?」
フィオレンティーナの目が輝く。
「マッツォーリさん!」
「まあまあ、エミリオ。ここはやらせてみたらどうだ? お嬢ちゃんの気も済むだろうよ」
「まあ、それはそうだろうな」
聞いていたゴルドアンもうんうんとうなずいている。
「うーん・・・だったら、まあいいけど・・・」
港湾の荷運びの担当者がいいというのだ。
反対する理由は無いのだが、エミリオはちょっと釈然としなかった。

ゴロゴロと横倒しになった樽が渡し板を転がって行く。
小型の担いで行ける樽と違い、大型の樽はこうやって転がして行かなければとても船には積み込めない。
「なーんだ、意外と簡単じゃない!」
そう言ってのけるフィオレンティーナに周りの男たちは苦笑する。
彼女はわかっていないのだ。
一度コントロールを失えば、樽はどんなに暴れまわるかを。
そればかりは一朝一夕にはわからない。
慣れが必要なのである。
エミリオはそれがわかっているだけにはらはらする。
「フィオ、ちゃんと前見て!」
よたよたと渡し板の上を樽を転がしているフィオレンティーナに声をかける。
「大丈夫大丈夫。まっかせといてよ」
多少息を切らせながらも、ファヌーの荷室に樽を乗せて行くフィオレンティーナ。
なんだかんだ言ってもとりあえずミスをしてはいない。
マッツォーリもゴルドアンも腕組みをしながらその様子を眺め、うんうんとうなずいていた。
そうこうしているうちに50樽の塩漬け肉は荷室に収まり、出港の用意が出来上がる。
「たいしたもんだ。エミリオ、彼女はいい船乗りになれるかも知れんぞ」
マッツォーリがそう言ってウインクする。
「な、何言ってんだよ。彼女は単に運賃の替わりに働くというから働いてもらっただけだよ」
エミリオが大げさに両手を振る。
どうやら彼女が気になるのは間違いないらしい。
「はっはっは・・・まあ、次に来た時に彼女がいなかったら寂しいな」
大きな腹を揺らして豪快に笑うマッツォーリ。
エミリオは書類にサインをして渡す。
これでこの荷物はエミリオが預かったのだ。
以後の損失などは全てエミリオの責任となる。
油断はできない。
「はふー・・・つかれたぁ・・・」
樽に寄りかかって手で自分を扇いでいるフィオレンティーナ。
その額に汗が光り、胸元を開けているために形よく膨らんだ胸がちらりと見えている。
エミリオは思わず赤くなって目をそらした。
「ようし、出発するぞ、エミリオ」
ゴルドアンにバンと肩を叩かれる。
「うん、行こう」
エミリオは大きくうなずいた。

くちゅくちゅと静かな牢内に水音が聞こえる。
暗い闇の中で小さく体が揺れている。
ん・・・はん・・・あん・・・
声にならない喘ぎがかすかに聞こえてくる。
くちゅ・・・ちゅく・・・
「あ・・・ああ・・・」
出さないようにしているのに・・・
声が漏れる。
ど、どうして・・・
洞窟内の牢に閉じ込められているというのに・・・
そんな状況でどうして私は・・・
指が蠢く。
下着の中にもぐりこんだ指が敏感なところを的確に探り、確実に刺激を与えて行く。
「はあ・・・ん・・・あ・・・」
牢の片隅からも同じようなあえぎ声。
侍女が同じように身じろぎしているのを感じる。
夫人は食事の前に連れ出されていた。
ここには今は二人だけ。
だからと言って・・・
どうして?
どうしてこんなことしちゃうの?
くちゅ・・・くちゅ・・・
ああ・・・気持ち・・・いい・・・
どうし・・・て・・・?
目のすみに映る食事の器。
まさか・・・?
まさかこれは・・・薬?
やめなければ・・・
やめな・・・
ああん・・・いい・・・気持ち・・・いい・・・
指が止まらない。
「はあぁぁぁぁん」
片隅で侍女があられもなく果てて行く。
ダリオ・・・
彼女自身が絶頂に達するのも時間の問題だった。
  1. 2006/08/12(土) 21:53:16|
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リンクさせていただきました

このたびまた新たにリンクしていただくサイト様に恵まれました。

ジェットマグロ様が管理人をなさっている「オンナセントウイン」様です。
URLはこちら、http://blog.livedoor.jp/maguro2/

こちらでは、素晴らしいCGによる女戦闘員たちのワンシーンが収められており、とても素敵なサイト様となっております。

私も以前「アルバイト」というSSを書きましたが、こちらに触発されたものと言って間違いありません。
(旧ブログ2006年3月29日)

ぜひ一度訪れてみてあげて下さいませ。
虜になられること請け合いですよー。
  1. 2006/08/11(金) 22:27:26|
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イエニチェリ

オスマン帝国をご存知でしょうか?
オスマントルコとも言われ、現在のトルコ領に存在した一大帝国でした。

オスマン帝国はトルコ人の一人オスマン・ベイという人が建てたらしいのですが、彼らはイスラム教を国の宗教としており、隣国ビザンチン帝国とは宗教的にも領土的にも相容れることはできませんでした。

オスマン帝国はボスポラス海峡を渡り、ヨーロッパに侵攻します。

昔日の力を失っていたとはいえ、ビザンチン帝国の首都コンスタンチノープルは難攻不落の要塞都市であり、オスマン帝国といえど用意には攻め落とせませんでした。

オスマン帝国とビザンチン帝国の抗争は以後も長いこと続きますが、オスマン帝国は皇帝ムラト一世の時に面白い部隊を編成しました。
「イエニチェリ」です。

後にはイスラム教徒の中からも選ばれるようになりますが、イエニチェリとはヨーロッパから強制的に集めた眉目秀麗身体強健のキリスト教徒の少年たちを集めた部隊だったのです。

彼らは強制的につれてこられ、強制的にイスラム教に改宗させられます。
そして共同生活をさせられながら、軍事訓練を受けさせられ、じょじょにオスマン帝国と皇帝への忠誠心を植え付けられるのです。

やがてイエニチェリ軍団はオスマン帝国軍の中核となり、勇猛果敢な戦い方でキリスト教国にとっては恐怖の的になります。
軍楽隊を先頭に勇ましく行進するイエニチェリは美青年ばかりの軍団としてかっこよさと敵の与える恐怖心とで有名だったんでしょうね。

後にはキリスト教徒ではなく、純粋なトルコ人も多くなり、さらに政治権力と結びつくことで皇帝すら追い出してしまうようになると、イエニチェリにも落日が訪れます。

キリスト教国側の火器の発達によりイエニチェリ軍団は時代遅れとなって来たため、イエニチェリは廃止されるのですが、そこに至るまでにも紆余曲折がありました。
廃止しようとした皇帝が逆に殺されたりもしたようです。

結局19世紀にイエニチェリは廃止されました。

敵であるキリスト教徒を捕らえて改宗し、自軍戦力として使って行くというのは、まさに洗脳では無いでしょうか。
おにゃのこばかりのイエニチェリ軍団というのも妄想の上ではいいですよね。

それではまた。
  1. 2006/08/11(金) 22:12:16|
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お別れしてきました

昨日亡くなったうちの猫ですが、今日札幌市の動物管理センターに火葬を依頼してきました。

いつも病院へ連れて行くために車に乗せていたんですが、今日は郊外のセンターへ。

無言で箱に収まった猫を助手席に乗せ、走ってきました。

札幌市の場合は動物管理センターで他の薬殺処分の動物と一緒に火葬となるそうで、お骨を引き取ることはできません。

もしお骨が欲しければセンターではなく業者に頼む形になるそうなんですが、お骨に関しては家族で話し合って、引き取らずに動物センターにお願いすることにいたしました。

センターに遺体と火葬料5100円を渡して、その場で最後のお別れを済ませました。

本当に逝っちゃったんですねぇ。

布団の上で丸くなっていそうなんですけどねぇ。

でも、いろいろな楽しい思い出をいっぱいくれました。
ありがとうね、「ニャン」(うちの猫の名前。まんまやね)

親しい者が亡くなることはつらいですが、残された者は思い出を抱いて生きていかなければね。
頑張らねば。

そういえば、8月6日にガンダムのブライト艦長役の声優鈴置洋孝氏が肺がんのため亡くなられたそうですね。

リンクしていただいているgrendy様のブログで始めて知りました。
ご冥福をお祈りいたします。

それではまた。
明日からはまた普段どおり行きますねー。
  1. 2006/08/10(木) 21:31:53|
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逝ってしまいました

以前、旧ブログでも記述いたしましたが、うちには猫がおります。
(旧ブログ2006年3月2日)
(http://masatomaikata.spaces.live.com/blog/cns!129DEC1755C7C7C0!1055.entry)

糖尿病を患い、歳も取った老猫でした。

その猫が今日15時05分、ついに息を引き取りました。
享年(おそらく)17か18歳でした。

札幌はここ数日暑さが厳しく、7日連続の真夏日でした。

うちの猫は糖尿病の影響と歳の影響で腎臓も悪く、慢性的な貧血でした。
そのためこの暑さで体力を奪い取られ、躰が酸素を欲しがったにもかかわらず、血液がうまく酸素を運べない状態だったのです。

自然、呼吸は早くなり、心臓は足りない血液を送り出すためにフル稼働しておりました。

傍目から見ていても呼吸が早いなとは思っておりました。

ただ、病気であったために二日にいっぺん動物病院に行っておりましたので、問題があればそこでわかるだろうと思っておりました。

今日もいつものように動物病院へ連れて行ったところ、ちょっと変だということになり、一度預かって様子を見ると言われたため、預けて帰ってきたのです。

そのときはちょっとぐったりしておりましたが、「ニャァ・・・」と鳴いて、点滴で持ち直したように見えました。

15時少し前、病院から容態が急変したので至急来て欲しいと連絡があり、慌てて駆けつけました。

人工呼吸装置に繋がれ、心臓マッサージを受けていたうちの猫は、すでに心肺停止状態でした。

声をかけてやることもできず、うちの猫は旅立ってしまいました。

まだ、実感がわきません。

引き取ってきた遺体を見ていても、寝ているとしか思えません。

これからしばらくはつらいかな・・・

今日はこれにて。

それでは。
  1. 2006/08/09(水) 19:51:35|
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行き先決定

「グァスの嵐」の四回目です。
一応の顔合わせが終わりました。

うー・・・先は長いなー。

4、
ぎしぎしと鳴る渡し板を通り、男たちが桟橋に上がる。
「ようし、これで終いだ。積む荷が決まったら声をかけてくれ」
腹をゆすぶるようにしてドラ声を上げるマッツォーリ。
「ああ、すまないな。エミリオが戻ってきたら一杯やろう」
ゴルドアンが右上腕を上げて挨拶する。
四本の腕というのは実に便利だ。
「ああ、そうしよう。いつもの酒場で待っているよ」
そう言ってマッツォーリも右手を振る。
しばし彼らを見送ったゴルドアンは、船内の掃除を始めるのだった。

水を汲んできて甲板にぶちまける。
四本の腕を器用に使い、二本のモップを操るのだ。
鼻歌交じりで甲板磨きをやっていると、やがてエミリオが戻ってくる。
「ただいまー、ゴル」
さわやかな声がゴルドアンの耳に届く。
「おう、おかえ・・・り・・・」
振り向いたゴルドアンの目に、エミリオの背後に立ってちょっと恐々と覗いている少女の姿が映る。
「心配することは無いよ、フィオ。彼はゴルドアン。バグリー人なんだ」
「バ、バグリー人? あの、は、初めまして。フィオレンティーナ・モルターリです。このたびは乗せていただくことになりまして・・・よろしくお願いします」
恐る恐る前に出て挨拶するフィオレンティーナ。
それはそうだろう。
バグリーという種族を知識として知っていても、こうして目にすることなど無かっただろうから。
だからゴルドアンにとっては、彼女の反応はごく正常ないつものことなのだ。
「客人か。これはどうも。俺はゴルドアン。見ての通りバグリーだが、取って食いやしないよ」
そう言ってゴルドアンは大きく笑う。
見た目が異質なだけに恐ろしく感じるが、ゴルドアンは基本的には優しい男だ。
もっとも、喧嘩っ早いのもまぎれも無い事実だったが。
「ご、ごめんなさい。私バグリーの方って見るの初めてで。よろしくね、ゴルドアン。ゴルって呼んでもいいのかな?」
フィオレンティーナは自分から渡し板をわたってファヌーに乗り込むと、ゴルドアンに手を差し出す。
思った以上に打ち解けるのは早そうだ。
「こちらこそ。ゴルで構わない」
ゴルドアンがしっかりと手を握る。
ざらついた皮の感触がトカゲを思わせた。

「で、これが僕のファヌー。一応、『エレーア』って名付けている。とても小さくて僕とゴルの二人しか乗っていないけど、僕の大事な相棒だよ」
遅れてファヌーに乗り込んだエミリオが紹介する。
「『エレーア』? 風の女神ね? 素敵な名前だわ。ちょっと想像していたのとは違ったけどね」
クスッといたずらっぽく笑うフィオレンティーナ。
実際彼女が想像していたのよりははるかに小さいのだ。
これでは沿岸航海しかできないだろう。
「ひどいなぁ。これでも立派な船なんだぜ」
エミリオが苦笑する。
彼にしたってこのエレーアが小さいことは充分に承知しているのだ。
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのよ」
あわてて両手を振って謝罪するフィオレンティーナ。
「乗せてもらえるだけで充分。もちろん何でも言いつけて。できるだけのお手伝いはするわ」
「乗せてもらえるだけって・・・おい、エミリオ、まさか?」
ゴルドアンがエミリオの方を見る。
「し、仕方ないだろ。彼女はお金が無いって言うし、クルークドまで荷物を運ぶついでに乗せてあげるくらいいいじゃないか」
つい視線をはずして言い訳がましくなってしまうエミリオ。
このエレーアは人を乗せるようにはできてはいない。
近場の島々に荷物を運ぶのが主な仕事なのだ。
しかし、そのついでに安い運賃で人を乗せることもある。
だが、ただでとはね。
ゴルドアンは苦笑した。
困っている人を見過ごせない。
それがエミリオのいいところなのだろう。
もっとも、それが貧乏くじを引くこともよくあるのだが。
「まあ、いいさ。空荷で航海するわけじゃないんだ。一人ぐらいどうってこと無い」
肩をすくめるゴルドアン。
「ごめんよ、ゴル。相談もしないで」
「いいっていいって」
「あ、エミリオは悪く無いわ。私がお金持っていないから・・・」
口を出してきたフィオレンティーナの方を見てゆっくり手を振るゴルドアン。
「気にしなくていいよお嬢ちゃん。問題ないから」
「お嬢ちゃんはやめて。フィオでいいわ」
「了解だ、フィオ。ところで俺は先ほどまで荷揚げをしていて腹が減っているんだが・・・」
お腹をさするゴルドアン。
「うん、いい考えだ。みんなで食事に行こう。フィオもおいで。奢るよ」
エミリオが手を差し伸べる。
「え? いいの?」
「いいんだよ。奢ってもらえ」
意味ありげにウインクするゴルドアン。
フィオレンティーナは差し出された手を握る。
「ありがとうエミリオ。ご馳走になるわ」
「決まりだね。それじゃ行こう」
「よしきた」
三人はにこやかに笑いながらエレーアを後にした。

ひんやりとした岩肌。
あれから何日経ったのだろう。
塩辛い塩漬け肉がわずかに入った豆のスープと、硬く焼いたビスケットだけがある程度ごとに出されてくる。
牢屋内には他に二人。
美しいご夫人とそのお付の娘が一人。
夫人はここに入れられてからいつもぶつぶつと何かをつぶやいている。
まるで神様に対する呪いの言葉のようにも聞こえるからやめて欲しいのだけど・・・
お付の侍女はただおろおろするばかりで、何もしようとはしていない。
うふふ・・・
バカね・・・
何もできるわけ無いじゃない。
ここは洞窟の牢屋の中。
逃げる場所はどこにも無い。
ダリオはどうなったのだろう。
私はどうなるのだろう。
考えたく無いけど、いやでも考えさせられてしまう。
神様・・・
助けてください・・・

「で? クルークドまで塩漬け肉を50樽だって?」
町にある酒場にやってきたエミリオたち一行は、とりあえずの食事とお酒を楽しんでいた。
ゴルドアンはその体躯にたがわぬ健啖家で、四本の腕を巧みに使いパンとスープを頬張っていく。
「うん。エレーアなら問題ないでしょ」
エミリオもパンをぱくつく。
柔らかいパンはやはり美味しいものだ。
ファヌーやリンギーのように沿岸航海専門で、毎日のように港に入る船ならば食料はさほど積まなくてもいいが、長距離航海するカラビータやギャレー、クラヴェルのような大型船は食料もたくさん積まなくてはならない。
当然保存性が問題になり、柔らかいパンはすぐにカビが生えてしまうのだ。
だから船での食事となると、たいていは保存のよい塩漬け肉や塩漬けの魚、硬く焼いたビスケットやチーズなどが一般的だった。
「それは問題ない。するとフィオもクルークドまででいいのか?」
「え? ええ、それで構わないわ。そこから先はまた別の船を捜すから」
フィオレンティーナもウサギのスープを美味しそうに味わっている。
この町の食事は悪くない。
セリバーン海の島々は豊かな島が多いのだ。
このあたりから食料を積んでゲージアン海やガルティック海方面まで輸送していく船舶も決して少なくは無い。
「別の船を捜すって言うことは、目的地はクルークドでは無いということだよな?」
空いた手でワインのマグを傾けながら、パンをちぎっているゴルドアン。
「え? う、うん。行きたいのはラマイカなの」
「ラマイカ? そりゃ遠いな」
ゴルドアンが言う通り確かに遠い。
「よかったら、どうしてラマイカに行くのか聞かせてくれないか?」
「うん・・・私ね、お姉ちゃんを捜しに行きたいの」
フィオレンティーナが話す。
「お姉ちゃんを?」
「ええ」
エミリオにうなずくフィオレンティーナ。
「お姉ちゃんは先日結婚のためにラマイカに向かったの。でも、到着しなかった・・・」
「到着しなかった? 嵐かい?」
「いや、違うな・・・海賊・・・か?」
ゴルドアンの目が鋭くなる。
「ええ、そうなの。乗っていた船が海賊に襲撃されたという知らせだけが届いて・・・」
「海賊か・・・それじゃあ・・・」
言いかけてエミリオはしまったと思う。
「ご、ごめん」
「その通りだな。海賊に襲われたからって死んだとは限るまい。それで捜しにいくというわけか・・・」
ゴルドアンが腕を組む。
器用に四本の腕を組むのは結構見ものだ。
「ううん、いいの。エミリオの言うとおり、多分お姉ちゃんは生きちゃいない。でも、・・・もしかしたら生きているかもしれない。それを確かめたいの」
「当てはあるのか?」
ゴルドアンの問いにフィオレンティーナは首を振る。
「無いわ。向こうでの当てどころかラマイカまで行く当ても無い・・・」
「ゴル・・・」
エミリオには答えずにしばし目をつぶるゴルドアン。
「エミリオ・・・」
「ん? 何だい、ゴル?」
「しばらく遠出するか?」
エミリオがうなずく。
「僕もそう考えていたよ。でも、ここからラマイカまでは島伝いだとかなりかかるよ?」
「ああ、それはフィオ次第だ。時間がかかっても構わないか?」
ゴルドアンの言葉にフィオレンティーナの目が輝く。
「いいの? 連れて行ってくれるの? 時間がかかるのはホントはいやだけど・・・でも、高速船に乗るお金なんて無いんだし、連れて行ってくれるだけで大助かりよ」
「できるだけ急ぐよ。それじゃ決まりだ。僕の船でラマイカまで一緒に行こう」
「ありがとう、エミリオ」
フィオレンティーナがぺこりと頭を下げる。
「おいおい、俺も忘れてくれるなよ」
ゴルドアンが笑う。
「あ、ごめんなさい。ありがとう、ゴル」
フィオレンティーナは席を立ってゴルドアンにキスをした。
  1. 2006/08/08(火) 22:18:51|
  2. グァスの嵐
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出会い

「グァスの嵐」第三回目です。

じょじょに世界観が皆様に伝わればいいんですが・・・
それではドゾー。

3、
サマナケ島はそれほど大きな島ではない。
むしろ小さいほうだろう。
当然住んでいる人だって多くは無い。
そんな島では必要とする物資や、送り出す物資もそれほど多くは無い。
自然とカラビータのような中型船より、リンギーやファヌーのような小型船の方が好まれる。
そんな中で、エミリオはゴルドアンを相棒に小さなファヌーで船荷を運んでいるのだった。

「よう、ご苦労さん」
腹の突き出た中年男が若い連中を何人か連れてくる。
荷揚げの手伝いに来てくれたのだ。
「こんにちは、マッツォーリさん。メアグナからの届け物ですよ」
エミリオは船倉から樽を引き上げる。
「うんうん、助かるよ。さ、作業にかかれ」
「「ヘイ」」
マッツォーリが顎をしゃくると、男たちがどかどかとファヌーに乗り込んでくる。
エミリオは場所を開けて、作業しやすいようにしてやった。
山と詰まれた樽や木箱は見る見るうちに船から運び出されていく。
それは港でのいつもの風景だ。
「エミリオ、ここはいいから事務所へ行って来てくれ。次の仕事を請けてくるんだ」
四つの腕に荷物を抱え、ゴルドアンが首を振る。
「いいのか? じゃあ、後は任せるよ」
エミリオはそう言うと荷運びから離れ、彼のファヌーを後にした。

「さーて、仕事仕事・・・」
サマナケ島唯一の町サマナケの中心街にやってくるエミリオ。
この町はセリバーン海の他の島々にある町と同じく、中央に広場を持つ港町だ。
桟橋や倉庫がある港からちょっと離れておかれている。
大きな船なら固定のお得意さんがいて、それぞれ決まった航路を航海するものも多いが、エミリオのファヌーのような小型船はある時は荷運び、ある時は乗客の運送、ある時は狩猟にとさまざまな使われ方をする。
そのため港湾ギルドに登録しておいて、その時々に応じて仕事を回してもらうのだ。
そのため、小型船乗りの中には冒険者まがいのことをやっている者もいるという。
エミリオも当然港湾ギルドに登録して、仕事を回してもらっているのだった。

「こんちはー」
石造りの頑丈な建物に入るエミリオ。
ここはサマナケの港湾ギルドだ。
仕事をもらうにはここで交渉しなくてはならない。
「だからー、お金は働いて払うって言っているでしょ!」
元気のいい声が入るなり響いてきた。
「しかしなぁ。あんた船で働いたことはあるのかい?」
ギルドの親父が腕組みをしながら声の主を品定めする。
どうやら、相手は女性のようだ。
しかもどちらかというと少女と言ってもいいぐらいの若い女性。
「な、無いわよ。で、でも、一通りのことはできるつもりよ」
両手をぐっと握り締めて立っている少女。
一体何があったのだろう。
「親父さん、こんちはー」
少女の脇からカウンターに声をかけるエミリオ。
そのついでに横目で彼女の顔を伺い見る。
うわ・・・
美人だった。
ショートにした赤毛が眉の辺りに被さり、青い瞳がまっすぐに親父の顔を見つめている。
今はへの字になった口元だが、微笑んだら最高に違いない。
背丈は5フィートちょっとぐらい。
多分5フィート2インチってところか。
ちょっと日に焼けた小麦色の肌が元気さを象徴している。
「おお、エミリオか? 何時着いた?」
親父はすぐにエミリオの方に視線をずらす。
困った娘を相手にしている暇は無いのだ。
「ついさっき。荷揚げはゴルに任せてきた。仕事ある?」
「お前さんならいくらでも。ちょっと待ってろ」
そう言って親父は紙留めに綴られた書類をパラパラとめくっていく。
「ちょっと、話は終わっていないわよ!」
彼女が腰に手を当てて足を踏み鳴らす
「金も持たない女を乗せる船は無いよ。さあ、行った行った。仕事の邪魔だ」
手のひらを振りながら親父は追い払う仕草をする。
「な、何ですってぇ!」
バンとカウンターに手のひらを叩きつける。
「だから、お金は働いて払うって言っているでしょ! 乗せてくれたら何だってするわよ!」
「あんたみたいな小娘に何ができるって言うんだ。さあ、帰ってくれ!」
「う・・・わ、わかったわよ。もう頼まない!」
足元にあった荷物を抱えて少女は足音も荒々しく事務所を出て行く。
その後ろ姿はどこか寂しげだった。

「おう、これなんかどうだ?」
紙留めから一枚の書類をはずすギルドの親父。
「え? あ、ああ・・・」
去っていった少女の後ろ姿を目で追っていたエミリオは慌てて親父に向き直る。
「ここからクルークドまで塩漬け肉を50樽だ。期限としては四日後までに着けばいい。楽勝だろ?」
クルークドまでならエミリオのファヌーなら二日あれば何とかなる。
風向きが悪くても三日の行程だ。
「なあ、親父さん」
「ん?」
「彼女・・・どこへ行きたがっていたんだ?」
エミリオは何となく気にかかる。
「ああ、ラマイカの沖だよ」
「ラマイカの? ここからなら一ヶ月はかかるぜ」
エミリオが驚く。
ラマイカはここから1000リーグ近くも離れている。
とても一朝一夕に着ける距離ではない。
特にファヌーのような近海用の小型船では行き着くのはとてもじゃないが無理だろう。
「そうでも無いさ。カラビータやギャレーなら20日ぐらいで着く」
「そりゃそうだけど・・・」
「ま、わけありかも知れんが文無しじゃあな」
肩をすくめる親父。
確かに彼女を雇用船客として乗せるような船は無いだろう。
「で? どうする? これでいいのかい?」
「あ、うん。それでいいよ。手配を頼むよ」
エミリオは書類にサインをして契約を結ぶ。
「よし、荷はすでに倉庫に入っているからな。マッツォーリに言ってくれればいい」
「わかったよ。サンキュー」
エミリオは今回の運送代金を受け取り、ギルドを後にした。

「はあ・・・ごめんね、お姉ちゃん・・・」
広場の中央にある花壇を囲むベンチでため息をつく少女。
足元には先ほど抱えていた荷物が置いてある。
「お金無いしなぁ・・・この町で働いて・・・なんてやっていたらいつまで経ってもお姉ちゃんを探せないよー」
足元の石を見つけては蹴り飛ばす。
その姿を見つけるエミリオ。
何となく惹かれるものを感じたエミリオは彼女に近づいた。

「やあ」
手を上げて声をかけるエミリオ。
彼女はちょっとドキッとしたようだが、すぐに顔を上げる。
「あ、あんた・・・何よ、なんか用?」
「い、いや、用っていうか・・・君、ラマイカに行きたいって言うんだろ?」
ちょっと気圧されるエミリオ。
「そうよ。それがどうしたって言うの?」
彼女は立ち上がる。
「ラマイカまでは無理だけど、僕はこれからクルークドまで行くんだ。とりあえずそこまででよければ乗って行かないか?」
エミリオの言葉に彼女の目が見開かれる。
「ええっ? いいの? 乗せてくれるの? でも、私お金ほとんど持っていないよ」
「構わないよ。ただし、小さな狭い船だし、塩漬け肉と一緒だけどね」
「構わない。そんなのぜんぜん構わないわ。いいの?」
両手を胸の前で組み合わせる少女。
その胸に小さな宝石がいくつもはめ込まれたペンダントが輝いている。
売ればかなりの金額になるだろう。
だが、そうしないということはきっと大事な物なのだ。
エミリオはうなずいた。
「よし、話は決まりだ。僕はエミリオ。エミリオ・オルランディ」
「私はフィオレンティーナよ。フィオレンティーナ・モルターリ。よろしくね、オルランディさん」
彼女は右手を差し出した。
「エミリオでいいよ、モルターリさん」
エミリオがその手を受け取り、握手する。
フィオレンティーナの手はしなやかで柔らかかった。
「フィオレンティーナよ。フィオで結構」
満面の笑みを湛えてフィオレンティーナはエミリオの手を握る。
それはがっしりとしたたくましい青年の手だった。
  1. 2006/08/07(月) 21:44:41|
  2. グァスの嵐
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ファヌーの二人

暑いですねー。
本州の皆さんはもっと暑いんだろうなー。
溶けちゃうよー。
クーラー欲しいー。(笑)

ということで、ちょっとしか書けなかったんですが、「グァスの嵐」の二回目です。
主人公が顔出しますー。

2、
空を滑るように進んで行く一隻の小型船。
カラビータと違って船首に突き出した一本マストに大型の横帆が張られており、それが船体を引っ張る形になっている。
俗に言うファヌーである。
全長はわずかに20フィートほどの大きさだが、ごく少人数で動かすことができ、近海行動には便利なため、これもまたよく使われるタイプの船だった。

「もうすぐ港に着くぞ、どうやら何とかなったな」
異形の生き物が帆に張り巡らされたロープを器用に操っている。
セリバーン海ではほとんど見かけないが、南方のゲージアン海近辺に暮らすバグリーと呼ばれる種族である。
トカゲが直立したようなイメージであるバグリーであるが、何よりの特徴は上肢が二対あることである。
つまり、左右の肩からは二本ずつの腕が伸びているのだ。
まるで怪獣映画の怪獣と言っていいかもしれない。
体高は約6フィートほど。
一般的な人類に比べても少し高い。
太い足と尻尾が器用に甲板上でバランスを取り、四本の腕がロープを上手に操るため、バグリーは船乗りとしては優秀な種族である。
彼はその名をゴルドアンといった。
「仕方なかったんだよ。荷の分割はならないってことだったんだから。それに積めるだけ積んだ方が儲けも大きいじゃないか」
ファヌーの後部で舵を握るのは若い青年である。
茶色の髪の毛と多少浅黒い肌をした青年で、とび色の目が輝いている。
身長は5フィート8インチほど。
彼の名はエミリオ・オルランディ。
このファヌーの責任者である。
もっとも、船乗りとしての経験はゴルドアンのほうがはるかに高い。

今現在、このファヌーにはびっしりと樽や木箱が積み込まれ、舷側からはみ出しそうになっている。
明らかに積み過ぎと言っていい。
フローティで作られた船と言っても、当然積荷が重ければ大気の下方に沈んで行く。
大気のある程度から下は密雲が覆っており、そこに潜ってしまえば周囲の気圧で押しつぶされてしまうのだ。
古来そうして失われた船の数は計り知れない。
だから船乗りは、密雲のことを大気の底と呼んでいる。
このファヌーはまだまだ大気の底とはかけ離れた位置に浮いているものの、油断をすればどんなことになるかわからない。
それがわかっているだけにゴルドアンは苦笑する。
とはいえ、エミリオだってバカではない。
このファヌーに積めないと思えばこんなに積んではいないだろう。
それに積荷の輸送距離はたかが知れている。
メアグナ島からサマナケ島までという隣り合った島同士なのだ。
気流も特に難しいものではないので、これだけの積荷でも充分に渡れるだろう。
実際サマナケ島は目の前だ。
あとは帆と舵を操って港につければいいだけ。
造作も無いことだった。
  1. 2006/08/06(日) 21:14:29|
  2. グァスの嵐
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二水戦がサパーリ

先日、昨年公開された話題作の「男たちの大和」がDVDになってレンタルが開始されていましたので、早速借りてきました。

話題作だったんですが、ちょっと見るチャンスを逸していたので、今回はじめて見たんですよ。

前評判は上々だったですし、何よりも実物大セットが作られて撮影されたということで、結構楽しみにしておりました。

まあ、劇場の大画面とは違いますから、迫力は無いだろうと思っていましたが・・・

迫力以前でした。(笑)

これはあくまで舞方雅人個人の感想ですので、その点はご了承いただきたいんですが、どうもあまりのめることができなかったですね。

反町さんも獅童さんも悪くないんですけどね。
どうも大和が何をやっているのかさっぱりわからない。

もちろん実際の大和自体がなにやっているかわからないと言えるんですが、艦内の毎日の訓練風景が続くわけでも無いし、南方ブルネイに行っていた様子も無い。

レイテ沖海戦でも大和以外の艦艇はかけらも出てこない。
これは沖縄特攻にも言えるんですが、この映画には大和以外の艦艇がまったくと言っていいほどでてこない。

確かに映画の主題は大和でありますけど、戦争は大和だけでやっていたわけじゃないですしね。

沖縄特攻も渡哲也が出てきて無駄死にはさせられないとか、長島一茂がぽかんとした顔で死に方用意とか言ってもぴんとこないんですよね。

特設機銃班なんですから、主砲発射の時には退避するとかそういった描写も無いし、ただただ単独の大和が機銃を撃っているだけ。

米軍機の攻撃は雷撃機よりも爆撃機よりも戦闘機の機銃掃射のほうがダメージがでかく見えてしまう。

その間も大和の周囲で猛烈に対空砲火を撃ち上げていた護衛の第二水雷戦隊は一隻も出てこない。

結局なんか傾いたなと思ったら、そのまま爆沈。

もうね・・・よくわからん映画でした。

本田博太郎さんなんか第二水雷戦隊司令官という役職で出てきたのに、ただ一言しか出番が無い。
何のためにこの人を使ったんだ。
旗艦矢矧以下駆逐艦八隻を率いて必死に大和の護衛をしたのにね。

まあ、悪く無い映画でしたが、のめりこむほどではなかったです。
「連合艦隊」のほうがよかったかな。

ということで今日はこれにて。
それではまた。
  1. 2006/08/05(土) 19:34:47|
  2. 映画&TVなど
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グァスの嵐

えーと・・・
血迷いました。

むしゃくしゃしてやってしまいました。
今は反省しています。(笑)

ここのところ今までのSSがちょっと書く気力が湧かない状態でして、目先の変わったものを一つ書いて見たくなったんです。

ということで新SS「グァスの嵐」です。
書きたかったサイエンスファンタジーものです。
ちょっとの間お付き合いいただければと思います。

もちろん、今までのSSも忘れているわけではありませんので、ご心配なく。

それではどうぞ。

1、
「錨を揚げろー!! 出港!」
船長のドラ声が周囲に響く。
すぐさま幾多の船員たちが船の三方に突き出したマストに飛び移り、白い帆を広げていった。
ある者は巻き上げ機に取り付き、ある者はロープを張って固定する。
すぐに船は風を捕らえて帆が膨らんで行く。
陸に引っ掛けてあった錨が巻き上げられ、一度空に垂れ下がった後で船上に引き上げられる。
船腹にたくさんの貨物と、少数の客人を乗せた船はゆっくりと動き出した。
『気を付けてー』
『達者でなー』
『手紙ちょうだいねー』
桟橋から船に向かってかけられるさまざまな声。
そんな中を船はゆったりと船首をめぐらして雲海に躍り出る。
今日は天気がいい。
絶好の航海日和になるはずだった。

セリバーン海。
ここには水は無い。
海と呼んではいるが、ここは空と言ってもいいのだ。
眼下に広がるのは濃密な雲海。
その下に何があるのかを知るものはいない。
地表と呼ばれるものがあるのかどうかすらわからない。

だが、人々にとってはそんなことはどうでもよかった。
人々が暮らすことのできる大地はしっかり存在するのだから。
そう、このセリバーン海には無数の島々が浮いている。
巨大な岩盤が雲海に浮かび、その上面を人々は生活の大地としているのだ。

もちろんそこには何の不都合も無い。
雨も降れば風も吹く。
大地には川が流れ、湖が大量の水を保持している。
耕せば作物も育つし、穴を掘れば井戸も作れる。
牛や馬もいるし、危険な動物も事欠かない。
島と言っても巨大なものは差し渡しで二百リーグや三百リーグは優にあるのだ。(一リーグは約三キロ)
そういった島々がこの海と呼ばれる空間には浮いているのだった。

そしてその島々をつないでいるのは船舶である。
人々は有史以前からこの島々の間の空間を船を使って行き来してきた。
このセリバーン海に浮かぶ島々には密林が多い。
島の中心部はたいていが大きな山と、麓に広がる密林といった構成になっている。
その密林に生える樹木の中には、フローティと呼ばれる樹木が何種類か存在する。
フローティヴァナモや、フローティレブセルといった樹木がそうだ。
こういった樹木はその内部にガスを溜める。
細かい気室が無数にできて、その中にガスを溜めるのだ。
そのためにこういったフローティタイプの樹木は、切り倒した後には空に浮くのだ。
どうしてこんな構造になったかはわからないが、一説によると生きている時はガスは生命活動の副産物であり適度に使用された後で放出されるのだが、切り倒されるとそれが逃げ場を失って気室に蓄えられてしまうためにふわふわ浮いてしまうらしい。
もちろんフローティレブセルなどは、甘くて美味しいレブセルの実を実らせるために栽培もされている。
そういったフローティタイプの樹木を使って船を作ることで、人々は島々の間を行き来してきたのであった。

「うーん・・・いい風ですわね」
帽子を手で押さえながらにこやかに微笑む栗色の髪の女性。
レモンイエローのドレスの裾が風にもてあそばれている。
「幸せかい? クラリッサ」
グリーンの上着の軍服に身を包んだ青年が彼女の肩を抱く。
「当然でしょ・・・ダリオ」
にこやかに微笑んで青年の胸に寄りそうクラリッサ。
その様子に、甲板上の乗客も船員たちも思わず歓声を上げてしまう。
「あ、やだ、恥ずかしい」
「あ、これはまいったな」
二人ともここが船の上であることを一瞬忘れてしまったのである。
それほど二人は幸せに包まれていたのだ。
ダリオ・ガンドルフィとクラリッサ・モルターリの二人はもうすぐ結婚する。
二人はこれからダリオの故郷であるラマイカへ向かっているのだ。
ラマイカの教会で式を挙げ、クラリッサは晴れてガンドルフィ家の女となる。
その日が今から待ち遠しかった。

「キャプテン、あれを」
はげ頭にバンダナを巻いた男が船首右手を指差す。
多島海であるセリバーン海は、沖へ出ても必ずいくつかの島影が見える。
だから慣れた船乗りならば、それがどこの島であり、今自分がどこにいるのかを即座に判定できるのだ。
それだけにこのあたりは航海する船舶の数は多い。
男の指差す方角には、一隻の船がこちらに舳先を向けて航行してくるのが見えていた。

セリバーン海で航海する船舶には大小取り混ぜてさまざまな形のものがあるが、最近交易に主に使われるのはカラビータと呼ばれる胴が太くて上部・右下部・左下部の三方にマストを持つ横帆の船である。
当然のごとく、出会う確率が高いのも同型のカラビータだ。
だが、今向かってくる船はカラビータではなかった。
マストは先端に一つだけで、船体の前に大きな横帆を広げている。
そして船体側面からは左右に大きなオールが何本も突き出ていた。
オールは規則正しくゆったりと動いており、先端が広くなったオールが濃密な大気を掻いている。

「ありゃあギャレーじゃないか? 軍隊の船か?」
望遠鏡を覗いていた船長がそうつぶやく。
ギャレーとは帆に頼らずに主としてオールによる推進力で行動する船であり、風の向きなどに関わらずに自由に行動できるため軍事用に使われることが多かった。
「この近辺ですとリューバあたりの艦でしょうか?」
「とにかく無用の接触は避けよう。進路を二点ほど左にずらせ」
船長が指示を下す。
「了解」
すぐに舵輪がまわされ、じょじょに船首の向きが変わる。
「せ、船長!」
「ムッ」
カラビータが進路を変えるのに呼応してギャレーも向きを変えてくるのだ。
明らかに相手はこちらを意識している。
「まさか・・・」
船長は背中に冷たいものが走るのを感じた。

「船が近づいてくる?」
「ダリオ・・・あれは一体?」
クラリッサがダリオの袖にしがみつくようにして立っている。
「クラリッサ、下に降りているんだ」
「ダリオ・・・」
不安そうなクラリッサにダリオは微笑みかける。
「なに、心配ないよ。よくあることなんだ」
そう言ってダリオはクラリッサを船室のほうへ押しやった。
「ダリオ・・・」
おずおずと船室に向かうクラリッサ。
ダリオはその姿を目に焼き付ける。
彼女を守らねば・・・
彼は腰に下げた剣を手に取った。

「だめです・・・速度が・・・」
「クッ・・・風が・・・」
船長が歯噛みする。
向きを変えたせいで風を充分に捕らえきれなくなったのだ。
ギャレーはどんどん近づいてくる。
その意図はもう明白だ。
彼らはこの船を狙っている。
「右へさらに二点ほどずらしてみては?」
「だめだ、そうなればもう完全に風に向かうことになってしまう」
「船長! あれを!」
船員が指差す先では近づいてくるギャレーの後部に黒地に白い髑髏の旗が翻る。
「や、やはり海賊か・・・」
船長の肩ががくりと落ちた。
  1. 2006/08/04(金) 21:34:28|
  2. グァスの嵐
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北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
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