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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

変わっていく日常

久々の「帝都奇譚」です。
ちょっとだけの更新ですが、お楽しみいただければと思います。

9、
いつもと変わらぬ授業。
教師の講義を聞き、ノートを取っていく。
いつもの当たり前の光景。
でも・・・
どうしたんだろう・・・
摩耶子は躰が火照っていることに奇妙なものを感じていた。
何となく唇が乾く。
舌で唇を舐めると気持ちがいい。
何となく力が内から湧きあがってくるような気がする。
私・・・どうしたんだろう・・・
でも・・・何となく気持ちいいわ・・・
摩耶子はそう思う。
ペロッ。
摩耶子はまた唇を舐めていた。

いつもと変わらぬ授業。
生徒たちは講義を聞き、ノートを取っていく。
いつもの当たり前の光景。
でも・・・
どうしたのかしら・・・
胸がムカムカする・・・
生徒たちのざわめきが気に食わない。
イライラする・・・
まぶしいのはいや・・・
早く夜にならないかしら・・・
夜が待ち遠しい・・・
無意識のうちに舌なめずりをする雛華。

「夢でも見たんじゃないかね? 君ぃ」
メガネの奥から上目遣いに見上げてくる編集長。
「ゆ、夢なんかじゃありません編集長! 私は見たんです! 本物の歩く死体を!」
必死になって訴える灯。
憲兵にはああ言われたものの、黙っているなんてできるはずが無い。
灯のあまりの剣幕に周囲の社員たちはみな驚いているが、編集長だけは平然としてメガネを取って拭き始める。
「夢だよ。夢を見たんだと思うことだ」
「どうしてですか、編集長?」
机に両手を付いて詰め寄る灯。
この件に関しては編集長も探ってみろと言っていたではないか・・・
「陸軍の憲兵が居たんだろ? 関わるなと言われたんじゃないか?」
「う・・・は、はい・・・」
灯はうなずく。
「軍が関わっているとなればうかつなことは出来んよ。うちみたいな弱小はにらまれたらひとたまりも無い」
「えっ?」
編集長の言葉にハッとなる灯。
確かに陸軍が絡んでいると言っていた・・・
手を引けとも言われている・・・
でも・・・
あんな化け物がもし誰にも知られずに徘徊していて、犠牲者がでるようなことになれば・・・
その危険を知らせなくてもいいのだろうか・・・
「まあ、この件はこれで終わりだ。山下の助手に戻っていいぞ」
編集長が手を振って灯を追いやる。
灯は唇を噛み締めて引き下がるしかなかった。

気分が晴れない・・・
どうしたというのだろう・・・
今朝はあの人の顔すら見ることができなかった・・・
生徒たちの顔もまともに見られない・・・
雛華は職員室で頭を抱える。
心がささくれ立つ・・・
いらいらする・・・
どうしたのだろう・・・
「白鳳先生。今使いのものがこれを」
紙片を手渡される雛華。
「ありがとう」
無造作に雛華は受け取る。
誰がこんなものを・・・
紙片を開く雛華。
『フジで待つ』
ドクン。
ドクンドクン。
雛華の心臓が高鳴る。
あ・・・
あの人だわ・・・
ドクンドクンドクン。
行かなければ・・・
でも・・・
でもいいの?
行ってしまってもいいの?
私は・・・
私は白鳳幸一の妻なのよ・・・
行ってもいいの?

「白鳳先生? どうしました? 授業始まりますよ」
同僚教師に言われてハッとする雛華。
「あ、すみません。すぐ行きます」
雛華は紙片をきちんと折りたたんでポケットにしまう。
すでに心は決まっていた。
あの人に会うのだ。
そう、あの三倉警部補に。
席を立つ雛華の足取りは軽い。
先ほどまでのいらいらが嘘のように消え去っていたことに、雛華は気が付いていなかった。

「鷹司さん」
廊下を歩いていた摩耶子を呼び止める声がする。
振り向いた摩耶子の目にクラスメートの姉川久(あねがわ ひさ)と、その背後に隠れるようにうつむいている見慣れない生徒の姿が映る。
栗色の髪をした少女と言ってもいい感じの娘で、下級生のように思える。
「こんにちは、姉川さん。そちらは?」
摩耶子はにこやかに微笑む。
長い黒髪が光に照り映える。
「呼び止めましてすみません鷹司さん。こちらは茶道部の後輩で真木野小夜(まきの さよ)さんですわ」
後ろに隠れるようにしている女子生徒を紹介する姉川。
清楚な感じの線の細い女性だが、芯はしっかりした女性との評判である。
「あ、あの・・・真木野小夜です。鷹司先輩のことはかねがね・・・」
赤くなってぺこんと頭を下げる小夜。
その仕草が愛らしい。
「鷹司摩耶子です。よろしくお願いいたしますわ」
摩耶子も礼をする。
挨拶は何をおいても基本である。
「お昼は教室でいただくのですか? よければ中庭でご一緒にいかが?」
姉川はどうやら摩耶子を誘いに来たようだ。
断る理由もないし、複数で食べる方が食事も美味しい。
「ええ、桜さんもお呼びしてよろしいかしら?」
「白妙さんね? もちろんですわ」
姉川もうなずく。
「それではお弁当を取ってきますわ」
「あ、一緒に行きますわ。真木野さん、行きましょう」
「はい、姉川先輩」
三人は教室へ向かって歩いていった。

「はあ・・・」
昼休みに食事に出てきた灯は何度目かになるため息を付いていた。
確かにあの瞬間は恐ろしかったものの、彼女とて新聞記者の端くれである。
編集長にああ言われてしまったものの、動く死体などというものが存在する以上、それを調べて市民に知らせるのが新聞記者の仕事ではないだろうか。
でも・・・
一人では・・・
「あ・・・」
通りを歩く灯の目に一人の人影が入る。
「こら! 引っ掻くんじゃねえ!」
ギニャーという鳴き声を発し、必死で逃れようとしている猫を抱きしめて歩いてくる袴姿の親父。
無精ひげを生やし髪はぼさぼさ。
「助兵衛さん!」
灯は思わずその人影、助野兵衛に声をかけていた。
「ん? おっ、灯じゃねえか。どうしたんだこんなところで? まさかクビになったのかい?」
助野は猫ののどを撫でながら灯の姿を認めて近づいてくる。
猫は観念したのか、仕方なく撫でられているようだ。
「違いますよ。今はお昼休みです」
「そうか。だったら蕎麦でもどうだい? 無論灯の奢りだ」
あっけらかんと言ってのける助野に灯は苦笑する。
「いいですけど。その代わり・・・手伝ってくれます?」
「おう。なんだか知らんがいいぜ」
再び内容も聞かずにあっけらかんと言う助野に灯は驚いた。
「内容も聞かないでいいんですか?」
「ああ、どうせろくでもないことだ」
「ぷっ・・・あはははは・・・」
笑う灯。
もしかしたら久し振りに笑っているかもしれない。
「ありがとう助兵衛さん。奢る奢る。お蕎麦奢っちゃう。行きましょ」
「おいおい、せっかく捕まえた猫が逃げるよ」
灯に腕をつかまれた助野はまんざらでもないようだった。

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  1. 2006/04/24(月) 22:17:31|
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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