「スターリングラード」 アントニー・ビーヴァー著 朝日文庫
この本の中にちょっと面白いものを見つけたので紹介しますね。
第二次欧州大戦の東部戦線(独ソ戦)の激烈さは、皆さんもご存知かもしれません。
お互いにお互いの国民を完膚なきまでに叩きのめそうとした殲滅戦でありましたが、独ソ戦前半はソ連領内に侵入したドイツ軍と、混乱したソ連軍双方が住民に犠牲を強いる恐ろしい戦いでした。
その地獄のような東部戦線から、めでたく休暇をもらって一時帰国することになったドイツ兵たちは、自嘲的にその地獄の有様を皮肉を込めてこういった文章にしていました。
『休暇を取る兵士たちへの覚書』
諸君はこれより国家社会主義の国へ赴こうとしていることを忘れてはならない。
そこは諸君らがこれまで慣れ親しんだ生活環境(東部戦線の地獄)とは大いに異なる。
住民の習慣に合わせて如才なく付き合い、慣れ親しんだ習慣を捨て去ること。
1、食物
ジャガイモはきちんとした保管庫に保存してあるので、床板などを引き剥がして探してはならない。
(ソ連領内の農家ではジャガイモを床下などに隠してあることが多かった)
2、夜間外出禁止令
鍵を忘れてしまったらまずドアノブをまわしてみること。緊急時以外は手榴弾を使用してはならない。
(ソ連領内では敵の家屋は銃撃や手榴弾を放り込んでから入るのが普通)
3、対パルチザン防衛
通りで出会う民間人に合言葉を尋ねる必要はない。また、間違った返答があっても銃撃しなくてもよい。
(ソ連領内では民間人といえどもパルチザンであることが多かった)
4、動物対策
体に爆発物をつけているのはソ連特有の犬である。
ドイツの犬は最悪でも噛み付くだけであり、爆発はしない。
当地(ソ連領内)では犬は射殺するように奨励されているが、ドイツではそんな振る舞いは悪印象を与えるだけである。
(ソ連軍は犬に爆薬をつけてドイツ軍へ突入させた。たいした被害は出なかったが、不気味であった)
5、一般市民との関係
ドイツでは婦人服を着ているからと言ってパルチザンとは限らない。
ただ、諸君ら休暇中の兵士にとっては、美しい彼女たちは危険である。
(ソ連軍は女装までしてパルチザン活動をしたのかな?)
6、その他
休暇でドイツに帰ったら、家族といえど我々のいるこの地(ソ連領内)が楽園であることを話してはならない。
誰もがこの地へやってきて、我々の楽しみを奪いかねないからである。
(ゲシュタポやSSによって東部戦線の悲惨な状況を国民に知られないように監視されていた)
どうですか?
逆説的に現状の悲惨さを訴えているんですね。
戦場でのユーモアでしょうが、なかなかいい出来の作品ではないでしょうか。
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- 2006/04/19(水) 22:20:20|
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