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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

合唱部の女の子たち

すみません・・・orz
続いています。

文章中に悪事を肯定するような表現がありますが、あくまでSS中のフィクションですので、その辺はご理解のほどを。

ではでは。

4、
「はあ・・・」
購買で昼食用の調理パンを買い求めた後で、今日も紀代美はため息をついていた。
朝早々に教頭から昨日の無断欠勤の注意をねちねちといわれた後で、矢際真海から今度行なわれる研修旅行のパンフレット作成を押し付けられたのだ。
本来なら学院に勤めて間が無い紀代美のするようなことではなく、取引業者とかとそれなりの対応の取れる中堅の教師が行なうべきことなのだが、真海が安請け合いをして紀代美に丸投げしてきたのだ。
『研修旅行は毎年のことだからある程度はパターンが決まっているけど、トラブルが起こったらあんたのせいだからね。私に恥じかかせるんじゃないよ』
真海のその言葉に紀代美はいつに無く腹が立った。
殺してやりたいとさえ思ったのだ。
だが、紀代美はうなずいていた。
逆らうことの怖さと無意味さを知っていたからだ。
手を握り締めて耐えるだけ。
あくまで噂だが真海に逆らったために職場を失い、転々とする羽目になった教師が何人もいるとか。
せっかくの職場を失いたくは無かった。

「センセー! 恵畑センセー!」
「センセー!」
にこやかにやってくる女生徒たち五人。
手に手にとりどりの包みを持っている。
今日もお誘いに来てくれたのだろう。
いつも声をかけてくれる五人の女生徒たち。
もうすっかり顔なじみだが、もともとはこれも真海の押し付けから始まったことだった。
「先生、今日もお昼一緒に食べませんか?」
「今日は先生もうお昼用意しちゃいました?」
「見てください、綾乃がセンセの分のお弁当も作ってきたんですよ」
「お口に合うかどうかわからないんですけど、よろしければ食べてくれませんか?」
あっという間に紀代美を取り囲んで口々にしゃべり始める少女たち。
思わずその情景に紀代美は微笑んでしまう。

制服に身を包んだ五人の少女たちはいずれも紀代美が顧問を押し付けられた合唱部の娘たちだった。
吹奏楽部あたりは人気があって生徒たちもたくさんいるのだが、なぜかこの学院では合唱部は今まで無かったらしく、今年になって五人目が入ったということで同好会から格上げされたのだ。
格上げされたからには顧問が必要なのだが、出来たばかりの合唱部の顧問など誰もやりたがらず、音楽教師にいたっては自分の吹奏楽部の敵だと言わんばかりであったので、結局真海が紀代美に押し付けてきたのだった。
音楽の経験などまったくない一介の社会科教師、それも世界史担当とあっては合唱のことなどわかるはずも無い。
それでも紀代美は一所懸命に音楽関係の本を読んだり、TVの合唱コンクールを録画したりして何とか合唱を把握しようと努めてきた。
生徒たち五人も一緒に合唱部を作って行くんだという感じで、紀代美に逆に教えたり一緒に録画を見たりして仲良くなったのだ。
最近は体育館脇のスペースでCDを伴奏に歌っていると、数人の生徒たちが聞きに来てくれるまでになっていた。
残念ながら入部希望者まではいなかったが、五人と紀代美の仲はすごくよかったのだ。

紀代美は生徒たちの間では人気がある。
だからお昼のお誘いはそこそこあって、たまに十人以上の大所帯となることもあったが、中心となるのはいつもこの娘たちだった。
生徒たちととる食事は楽しく、またいろいろと生徒の悩みや相談ごとも聞くことができるので有意義だった。
そのことがまた真海にとっては面白くないらしく、いろいろと嫌みを言われたりもするので、紀代美にとっては真海に見つからないように校舎脇とか屋上の隅とかで集まることが多かった。
「今日はあっちに行きましょう」
紀代美は校舎脇の木陰に生徒たちを連れて行く。
夏の日差しが暑かったが、木陰で取る食事は美味しいだろう。
「「ハーイ」」
生徒たちの声が見事にハモる。
紀代美と五人の生徒たちはわいわいとしゃべりながら場所を移動していった。

「センセー、どうぞ」
目に前に差し出される四角い包み。
すごく嬉しい・・・
「でも、悪いわ。私ならほら、パンも買ってきたし」
紀代美は購買の袋を指し示す。
「それは後でも傷まないですよ。せっかく綾乃が作ってきたんですから食べてやってよ」
「綾乃ちゃん昨日はがっかりしてたんだよね」
「センセが来なかったもんね」
口々に言いながらひざの上にお弁当を広げて行く女生徒たち。
さすがに女の子。
お弁当の中身はカラフルである。
紀代美も料理は好きな方だったが、連日帰りが遅くなる状態では自炊はなかなか出来なかった。
それでついついスーパーの惣菜かコンビニのお弁当ということになってしまう。
お弁当だってそんな事情だからあまり作ることは無かった。
購買で調理パンを買うことが多かったのだ。
「センセ、お願いです。食べてみてください」
二年C組の佐崎綾乃(ささき あやの)がうつむきながら差し出しているお弁当。
紀代美はうなずいて受け取った。
「やったね、綾乃」
そっと綾乃の肩を小突く同じ二年C組の真柴里緒(ましば りお)
ソプラノの美しい声の持ち主である。
「佐崎先輩、おめでとうございます」
紀代美は苦笑した。
一年C組の飛鷹聡里(ひだか さとり)だ。
この娘のおかげで部に昇格したのだけど、お弁当を受け取ったぐらいでおめでとうとは・・・
「よかったね、綾乃。あんたずっとセンセにお弁当作ってくるって言っていたもんね」
二年D組の西来響子(にしき きょうこ)。
合唱部の部長をしている責任感の強い娘だ。
「センセー。早く食べて食べて」
二年A組の渡鍋美咲(わたなべ みさき)。
紀代美以上に興味深そうにお弁当箱が開けられるのを待っている。
「はいはい。それじゃいただくわね佐崎さん」
紀代美は受け取ったお弁当を開ける。
玉子焼きやから揚げといった定番のおかずが並び、ご飯には海苔がかぶせられている。
その海苔も一枚をきちんと食べやすいように切り分けて乗せてあり、綾乃の心遣いが感じられた。
「あ、あんまり見ないで下さい・・・恥ずかしいから」
綾乃は赤くなっている。
だが、紀代美が食べるのを待っていて、自分のお弁当には手がついていない。
「「・・・・・・」」
固唾を呑んで紀代美を見つめている女生徒たち。
紀代美は玉子焼きに箸をつけ、そっと口へ運んで行く。
玉子焼きが紀代美の口の中に消え、もぐもぐと咀嚼されていく。
ごくんという音が聞こえてきそうなのどの動きが終わり、一瞬静寂が訪れる。
「美味しい」
「「やったーっ!」」
五人は思わず両手を上に上げて万歳したり、こぶしを握り締めたりしていた。
この瞬間、紛れも無く紀代美は幸福だった。

セミが鳴いている・・・
ミーンミーンミーン・・・
ジージージー・・・
複数のセミが織り成す音のハーモニー。
思わず紀代美は顔を上げる。
木の幹で樹液をすすっているセミが目に入る。
あれはアブラゼミだわ・・・
セミの種類など気にしたことも無いのにそれはすぐにわかった。
なんて可愛いのかしら・・・
昆虫などグロテスクなはずだったが、セミは別だ。
セミは美しい生き物。
人間など比べ物にならないほどに美しい・・・
「えっ?」
私、私今何を・・・

「センセー、センセーってば」
呼びかけてくる声にハッとなる紀代美。
「えっ? あ、ごめんなさい。聞いていなかったわ」
食事を終えて昼休みをおしゃべりで過ごしている女生徒たち。
紀代美も午後の授業の準備まではまだ時間があったのだ。
少し意識が飛んでいたらしい。
寝不足だったかも。
紀代美は何の気なしに視線を落として愕然とした。
躰を支えている右手の指先が外骨格に覆われて鋭い爪が覗いていたのだ。
ああ・・・嘘・・・
すぐに擬態を施して人間の指先に戻す。
指先は再び滑らかな指先に変化した。
やっぱり・・・擬態は無意識状態になると失われちゃうんだわ・・・
昨晩自宅へ帰った紀代美はシャワーを浴びてそのまま眠りについたのだ。
だが、朝目が覚めたときには悲鳴を上げないようにするのが精いっぱいだった。
いつの間にか擬態は解け、セミ女の姿に戻っていたのだ。
急いで擬態を施し人間の姿になって学校へ来たのだが、常に意識の隅で擬態を意識していないとだめなのかもしれない。
もちろん、慣れればそんなことはなくなるのかもしれないが、紀代美にとっては重大事だった。

「センセー、聞いてます?」
「あ、ご、ごめんなさい。何の話だったかしら」
「綾乃のお姉さんのことですよぉ。綾乃のお姉さんたら会社の帰りに複数の男たちに襲われたんですって」
えっ?
襲われた?
「父も母もおろおろしちゃって馬鹿みたいなんですよ。隙があるからそんな目に遭うんだってわからないんですよ」
あっさりと言い切っている綾乃。
「だよねー。私だったらそんな奴ら殺しちゃうね」
「うんうん」
何?
この娘たちは何を言っているの?
紀代美は彼女たちの言葉が信じられない。
襲われたとか殺すとか・・・一体何を言っているの?
「うん、私もそういったの。殺してこなかったのって。そしたらそんなことは出来ないとか何を言っているんだとか・・・もううざいったらありゃしないわ」
「わかるわかる。うちもうざくってさ、早く始末していいよって指令が来ないかなぁ」
綾乃の言葉にうなずいている里緒。
クラスが同じだけに二人はいつも仲がよい。
「勝手な行動はだめよ、指示通りにするの。いいわね?」
「「わかってます、リーダー」」
響子の言葉にうなずく四人。
一体何がどうなっているのか・・・
紀代美は背筋が冷たくなる。
だが、同時に何か得体の知れない感情も沸き起こっていた。
殺す・・・
捕まえて殺す・・・
獲物を捕まえて引き裂いて殺す・・・
獲物を捕まえて引き裂いてぐちゃぐちゃにして原形をとどめないほど破壊して殺す・・・
ドキドキドキ・・・
心臓が早鐘のように連打する。
それは悪魔の鳴らす鐘の音だった。
「センセーもそう思いませんか? うざい連中やクズな人間は殺しちゃえって」
一年生の聡里が屈託の無い笑顔を向けてくる。
それは自分の言葉にまったく疑問を持っていないということ。
「えっ?」
紀代美は我に帰る。
「一体どうしたの? 何でそんなことを言うの? みんな変よ。どうかしているわ」
「そうですか先生?」
響子が不思議そうな顔で紀代美を見る。
「人間なんていう生物は無秩序すぎませんか? 支配されないと奴らはこの世界を食いつぶしませんか?」
「優れたものが奴らを支配して、クズどもを排除しないと世界の調和が取れないんじゃないですか?」
「センセーだってそう思いませんか?」
口々に笑みを浮かべながら語る生徒たち。
「そ、そんなこと・・・」
紀代美は答えられない。
混乱して答えられないのだ。

授業開始五分前の予鈴がなる。
すっと隙の無い動きで立ち上がる五人の女生徒たち
「先生は選ばれた存在です。支配者となる必要があるんですよ」
「えっ?」
そういい残して響子は他の四人とともに教室へもどって行く。
「私は選ばれた・・・存在・・・」
その後ろ姿を見送る紀代美はそうつぶやいていた。

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  1. 2006/04/13(木) 21:14:58|
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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