fc2ブログ

舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

朝のひと時

「帝都奇譚」の続きです。

選択肢を提示したいんですが、まだそこまで行かないんですよね。
中途半端ですみません。

8、
「おはようございます、奥様」
朝の光がまぶしい。
いつものように起こしに来てくれたおヨネさんが恨めしく感じる。
「おはようございます、おヨネさん」
精いっぱいの笑顔を作って起き上がる雛華。
なんだかすごく気分が悪い。
胸がムカムカして食欲も無い。
ぺろりと舌なめずりをして布団から外へ出る。
「お食事の準備ができておりますのでどうぞ」
「ありがとうございます。旦那様は?」
「まだお休みでございます。これから起こしに行きますが、奥様が行かれますか?」
雛華は首を振った。
今はあの人の顔を見るのがつらい。
なぜだかわからないが、夕べから雛華は自分が得体の知れない感情を持って来始めていることに気が付いていた。
昨日までの自分であればあの人の顔を見るのがつらいなどと考えたりはしなかっただろう・・・
だが、雛華は夫の顔を見るのがつらかった。
「お願いするわ、おヨネさん」
微笑みを浮かべて着物を着替え始める雛華。
「かしこまりました、奥様」
おヨネさんが扉を閉めて出て行く。
雛華は唇が乾くような感じがして舌なめずりを繰り返すのだった。

「おはようございます。お父様、お母様、お爺様」
いつものように家族が揃う洋間に入ってくる摩耶子。
「おはよう、摩耶子」
「おはよう、摩耶子さん」
「おはよう」
テーブルについた家族がそれぞれに挨拶を返してくる。
鷹司家の毎朝の風景だが、今日は部屋の隅にいつもとは違う顔があった。
「あ、失礼いたしました。おはようございます、破妖さん」
「おはようございます摩耶子さん。夕べはゆっくりお休みになられましたでしょうか?」
先日とは違い、今日はシックな黒い上下を着ている破妖月子。
束ねた黒髪とも相まってなかなか魅力的だ。
「はい、それはもうぐっすりと」
「そうでしたか・・・それはよかった」
何となくホッとしたような表情を浮かべる月子に摩耶子は首をかしげる。
「何かあったのですか? 破妖さん」
「いえ、ただ私が実光様にわがままを言ってお泊めいただいたものですから、安眠を乱してはいないかと気になったものですから」
にこやかに微笑む月子。
「まったく驚きましたよ。父に言われてすぐでしたからね」
トーストを片手にした鷹司昭光が多少の不信さを覗かせる。
「申し訳ありません、昭光様」
月子が頭を下げる。
「宮内省の大柄(おおつか)がいきなり破妖さんを紹介してきたときにはわしも驚いたわい」
「大柄さんが?」
「ああ、しばらく摩耶子のそばにおいて欲しいとのことでな。なにやらわからんが摩耶子を呪うものがおるらしい」
実光が大きな湯飲みで日本茶をすする。
呪い?
摩耶子はテーブルについて朝食を食べ始めていたが、思わず手が止まってしまう。
「呪いですって?」
摩耶子の母親である鷹司幸子(さちこ)が声を荒げる。
「どこの誰が摩耶子を呪うというのですか? 一体誰が!」
「落ち着きなさい、幸子。誰がとかどうやってとかじゃ無く、単なる噂だよ。だが、鷹司家のことを思って大柄さんが破妖さんを寄越してくれたのだそうだ」
新聞を片手にコーヒーに口をつける昭光。
「そういうことじゃ。摩耶子も破妖さんからお守りをもらったじゃろ? あれは呪い返しの効果があるらしい」
ああ、なるほど・・・
それであのお守りを手渡されたと言うことなのね・・・
摩耶子はセーラー服のポケットに入っているお守り袋を確かめる。
「!」
一瞬摩耶子は指を引っ込めた。
なぜか知らないがお守り袋に触れたとたんに電気が走るような感触があったのである。
恐る恐る再びお守り袋に指を当てる摩耶子。
なんとも無い?
先ほどのような電気は走らない。
さっきは何だったのかしら?
考えてもわかるわけでもなく、摩耶子は食事を終えると席を立つ。
呪いがどんなものかは知らないが、何となく破妖さんがいてくれると大丈夫と言う感じがする。
「それでは学校へ行ってまいります」
摩耶子はそう言って頭を下げると心配そうな母を残して洋間を後にした。

気付かれなくてよかった・・・
痛む左手を押さえ月子はホッとする。
摩耶子を襲うのは呪いではない。
実体を持った魔物なのだ。
昨晩は顔見せのようなもの。
いずれ再びやってくることは目に見えている。
その時にはたして彼女を守りきることができるのか?
月子は表情を暗くした。
昨晩の戦いは相手が引いたもの。
それにこちらを人間風情と舐めてかかってきたところがある。
だから月子も隙を突くことができたが、それでも左腕にダメージを負わされた。
あの伯爵が全力で立ち向かってこられればどっちが勝つかはわからない。
厳しい戦いになるだろう。
「実光様。私もそれでは失礼いたします」
「うむ、頼みますぞ、破妖さん」
頭を下げて扉へ向かう月子を実光は見送った。

臭いが漂う。
人の好まない死の臭い。
死臭だ。
薄暗い地の底のような冷たい空間。
死臭はそこに満ちている。
当然だろう。
そこには死が満ちていた。
数体の死体が転がっていたのだ。
その死体の中から長い髪をたらし、ゆっくりと立ち上がる人影。
柔らかいその躰のラインからも若い女性であることが知れる。
その顔に生気は無く、ただ無表情に起き上がったのみ。
一言も発せずに周囲を見渡し、奥にいる人影に気が付くと、それを避けるように部屋の隅へ下がって行く。
「ふん・・・また役立たずが出来上がったか・・・」
地の底から聞こえるような太い声。
端正な顔立ちに苦悶の表情を浮かべている。
金色の髪と青い瞳が薄闇の中でひときわ輝いているかのよう。
胸に飾りをあしらった黒いスーツを見事に着こなしたその姿はまさに西洋の紳士。
「あの女・・・何者だ?」
鈍く痛む舌を伸ばす。
少し赤くなっているだけで、傷はまったく見えない。
それでも再生に多少手間取ったことが苛立ちを強めていた。
「まだ足りぬか・・・」
西洋の紳士、ヴォルコフは忌々しげにつぶやくと、たった一つあるソファに横になった。

[朝のひと時]の続きを読む
  1. 2006/04/03(月) 21:38:20|
  2. 帝都奇譚
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

カレンダー

03 | 2006/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

時計

プロフィール

舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

ブログバナー


バナー画像です。 リンク用にご使用くださってもOKです。

カテゴリー

FC2カウンター

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理人にメールなどを送りたい方はこちらからどうぞ

ブログ内検索

RSSフィード

ランキング

ランキングです。 来たついでに押してみてくださいねー。

フリーエリア

SEO対策: SEO対策:洗脳 SEO対策:改造 SEO対策:歴史 SEO対策:軍事

フリーエリア