とりあえず「悪の組織をつくろう」は今回で終わりです。
思ったように書ききれなかった面もありますが、とにかく完結できたことに満足です。
謎がいっぱいあったりしますが、こういうもんだと思って読んでやってください。
お楽しみいただければ幸いです。
ジュウジュウと言う音とともにいい香りが台所から漂ってくる。
翔の大好きなハンバーグの焼けるにおいだ。
台所ではハエ女に変貌した母親がかいがいしく食事を作っている。
「グギギギ、ああ、いい匂いですね、首領様」
二階から降りてきたゴキブリ女が入ってくる。
姿が変わり、思考も変わっているが、こうしているといつもの家族団欒と変わらない。
「うん。やっぱりお母さん、じゃ無かったハエ女の作るハンバーグは最高だよ」
「キキキキ、褒めていただけて光栄ですわ、首領様」
人間と変わらぬ口元に微笑みを浮かべ、焼きあがったハンバーグを持ったハエ女がテーブルのそばに来る。
背中の翅をふるふると震わせている姿はなかなかに可愛らしい。
「キキキキ、さあ、召し上がってください。首領様」
翔の前に綺麗に盛り付けられたハンバーグが差し出される。
「わあ、美味しそうだ」
待ち切れなさそうにすでに箸を手に取っていた翔は、早速茶碗を差し出してご飯を盛ってもらう。
「グギギギ、ホント美味しそう・・・でもハエ女、私・・・生ごみとかも結構好きなのよね」
ゴキブリ女となった恵美にとってはハンバーグよりも生ごみの方が食欲をそそるのかもしれない。
「キキキキ、わかっているわ。こっちに用意してあるわよ。ちゃんと腐りかけのをね」
「グギギギ、さすがハエ女ね。ちゃんとわかっているのね」
嬉しそうに台所へ向かうゴキブリ女。
「キキキキ、首領様のご気分を害してはいけませんから私たちはあちらで食べますわ。実は私も生ごみを食べたくて・・・」
「あ、そうなんだ・・・改造したから食べ物も変わっちゃうのか・・・」
ちょっと寂しくなる翔。
食事は一人で食べても美味しくない。
今度は一緒に食事ができる改造獣を作らなきゃ・・・
「キキキキ、それでは失礼しますわ」
そう言ってハエ女はゴキブリ女とともに台所の方へ行ってしまった。
その後ろ姿を翔は寂しく見送り、無言でハンバーグを食べる。
さっきまで美味しかったハンバーグは何か味気なくなっていた。
食事が終わったあとで翔は再び自室でパソコンに向かう。
エミーを呼び出してこのあとのことを考えなければならない。
そういえばハエ女も戦闘員がほしいって言っていたっけ・・・
翔はハエ女用の戦闘員の確保を含めるようにエミーに指示を出す。
『かしこまりました首領様。それではこんな作戦はいかがでしょうか?』
画面上に記される作戦案。
にこやかなエミーの笑顔とともに翔ははいをクリックしていた。
******
カーテンの隙間から差し込む日差し。
ベッドの上で翔はその日差しに起こされる。
「ん・・・あ・・・朝かぁ」
翔は上半身を起こすと、うんと腕を伸ばして背伸びをする。
結局夕べは0時近くまで起きていたのだ。
ハエ女の戦闘員確保と組織の資金調達のために行なったファミリーレストラン襲撃。
ハエ女とゴキブリ女、それに戦闘員たちの働きによって新たにウエイトレス三人を手に入れ、彼女たちはすでに戦闘員へと改造を行なってある。
資金の方も売り上げの15万円を奪ってあり、まずは上々の滑り出しと言っていいだろう。
あとはこの調子で改造獣を増やして・・・
そういえば今日は先生が家庭訪問に来る日だった。
ちょっときつめの顔立ちだけど、美人の部類に入る芹蔵先生。
先生を改造獣にしちゃえば、もうお小言を言われなくて済む。
あとは隣に座っている白糸(しらいと)さん。
結構可愛いし、猫あたりと合成したらきっと可愛い改造獣になるに違いない。
喉なんか鳴らして僕に擦り寄って・・・ふふふ・・・
そこまで考えたところでドアの向こうから声がする。
「グギギギ、首領様、起きていらっしゃいますか? 朝ですよ」
「あ、うん。今行く」
翔は起き上がってパジャマを着替える。
すでにハエ女がいつものように着替えを用意してくれているのだ。
着替えを終えた翔は下のリビングに降りて行く。
そういえば今日は土曜日だったっけ。
時計を見るとすでに9時を過ぎている。
いつもなら休みと言ってもこんなに寝てはいられない。
母親が起こしに来てしまうからだ。
でも今の翔はイレースの首領なのだ。
首領の眠りを妨げる者はいない。
「おはようお母さん、じゃないハエ女。それにゴキブリ女も」
「キキキキ、おはようございます、首領様」
「グギギギ、おはようございます、首領様」
二人ともすっと跪いて一礼をする。
「キキキキ、朝食の用意はすでに整っております」
ハエ女が指し示す先には美味しそうなベーコンエッグとトーストが置かれていた。
「美味しそう。いただきまーす」
翔はテーブルに着くと、手を拭いてトーストを手に取る。
「グギギギ、首領様、今日はいかがなさるおつもりですか?」
「うん、そうだね。今日はお昼に先生が来ることになっているから、三人目の改造獣を作るよ。そのためにも何か用意しておかなきゃね」
翔は芹蔵先生と合成する生き物を考える。
何がいいかなぁ・・・
ハエとゴキブリと来たから・・・
蜂? いやいやクモも捨てがたいよね・・・
そんなことを考えている翔。
TVのワイドショーでは昨夜起こったファミリーレストラン襲撃事件が報じられている。
『全身を特撮で使うような着ぐるみで覆った犯人は被害者の三人を拉致し、信じられないほどの速度で逃げ去ったとのことです』
「キキキキ、おろかな人間どもが昨晩のことをほざいておりますわ。被害者だなんて・・・あの三人も戦闘員になれたことを光栄に思っておりますのにね」
それは本当だ。
すでに三人とも戦闘員へ生まれ変わり、そのつややかな躰を喜んでいる。
でも、翔にとっても夕べの襲撃は驚きだった。
実際やってみるまではドキドキだったのだが、エミーの指示に従って襲撃をさせてみたら、あっけないほどたやすく行なえたのだ。
これからは誰に気兼ねをする必要も無い。
翔は力を手に入れたのだ。
立ちふさがるものは潰してやるのだ。
エミーに従っていれば何も心配する必要は無いのだから・・・
朝食を終えた翔は早速芹蔵先生と合成するための生き物を探しに行く。
本当はサソリとか毒グモとかあればよかったが、近所にそんなものがいるはずも無い。
だから翔は手近な生き物で何かいいものは無いかと探していた。
「あれ?」
翔は通りを歩いていく先生を見かける。
スーツ姿で颯爽と歩いていく芹蔵先生はすらっとしており、肩までの髪をなびかせている。
「そういえば午前中は赤林さんの家に行くって言っていたな・・・」
赤林由美(あかばやし ゆみ)もクラスでは一人で居ることが多く、おとなしい女の子だ。
普段から本を読んでいる姿しか見たことが無い。
でも、翔は一度だけ彼女がスーパーヒロインにあこがれていると聞いたことがあった。
特撮にでてくるような強いヒロインは彼女にとってはアイドルなんかよりも素敵な存在なのだろう。
でも、やっぱり一人で居ることが多いから芹蔵先生が家庭訪問に行くんだろうな。
土曜日だと普通の家は家族の人がいるだろうし・・・
でも今日から先生は生まれ変わるんだよ。
僕が先生を改造獣にしてあげる。
楽しみにしていてね。
翔は一人ほくそえむと、また生き物を探し始めた。
「ふふふ・・・」
翔は捕獲室に入った大きなカマキリを見つめていた。
あのあと探し回ってようやく手に入れたカマキリ。
翔はこのカマキリを芹蔵先生と融合させることに決めていた。
先生はカマキリ女となり、イレースのために働くようになるだろう。
翔はわくわくしながら先生を待っていた。
ピンポーンというベルの音が鳴る。
「来た!」
翔は玄関へ向かって階段を下りて行く。
ハエ女やゴキブリ女にはあらかじめ待機しているように言ってある。
後は先生を家の中へ入れてしまえばいいのだ。
『ごめんくださーい』
ドアの向こうで声がする。
芹蔵先生の優しい声だ。
「はーい」
翔が玄関を置ける。
少し茶色みがかった髪の毛をしたきつめの顔立ちだが充分に美人である。
「こんにちは瀧澤君。お父さんかお母さんはいらっしゃる?」
「こんにちは先生。奥にいますので入ってください」
翔は頭を下げて先生を迎え入れた。
「えっ?」
そのとき翔は玄関の向こう、通りの方に人影を見た。
「赤林・・・さん?」
それはチラッとしか見えなかったが、赤林さんのようだった。
翔は確かめたかったが、先生が待っているのでそうすることができず、結局そのまま扉を閉める。
「お邪魔いたします」
靴を脱いでストッキングの綺麗な足を見せる芹蔵先生。
そのまま廊下を過ぎて居間に入る。
「こんにちは。えっ?」
部屋に入るなり驚きの表情を見せる芹蔵先生。
そこには翔の指示で待機していたハエ女とゴキブリ女、それに戦闘員たちが控えていたのだ。
「な、あ、あなた方はいったい?」
「キキキキ、ようこそ芹蔵先生。我が組織イレースは先生を新たな改造獣として迎え入れますわ。おほほほほほ」
ハエ女が口元に手の甲を当てて高笑いをする。
改造獣として人間を見下すようになっているんだろう。
「あ、あああ・・・」
驚きのあまり口も聞けない芹蔵先生。
と、翔は自分が思い違いをしていたことに気がついた。
先生は恐怖で震えてなどいない。
どちらかというと戦うつもりに見える。
「由美司令! 現れました! 悪の組織のモンスターです!」
先生は突然腕時計に向かってしゃべり始める。
「由美司令?」
翔は何かいやな予感がした。
こういった悪の組織の暗躍には、いつも正義のヒーローが現れるものではなかったっけ・・・
『嘘? ホントにぃ? そんなのいたんだ?』
「はい、今目の前にいます。どうしますか?」
腕時計と会話する芹蔵先生。
そこから流れてくる声はあの赤林由美の声じゃないだろうか。
『もちろん退治よ。そのために私はあなたを正義のヒロインに改造したんじゃない』
「了解しました。変身!」
そう言うと芹蔵先生の姿が光に包まれる。
「キキキキ、これはどういうこと?」
「グギギギ、ちょっとまずいんじゃない?」
ハエ女もゴキブリ女も戸惑っている。
光が晴れると、そこには真っ赤なヘルメットと真っ赤なミニスカート型コスチュームを身につけた芹蔵先生が立っていた。
「悪の組織のモンスターども! あなたたちの野望はこのスーパーヒロイン、“シスターローズ”が打ち砕きます!」
「シスターローズですって? キキキキ、いかがいたしますか、首領様?」
ハエ女が翔の方を向く。
「仕方ない、押さえつけろ!」
「キキキキ、かしこまりました」
ハエ女はゴキブリ女に目配せしてシスターローズに立ち向かう。
でもあのヒロインは只者ではない。
二人係でも倒せるかどうか・・・
翔は二階へ駆け上がってパソコンのキーボードを叩く。
「エミー! 正義のヒロインが現れたよ! どうしたらいいんだい?」
『データを確認しました。どうやら“ヒーロー戦隊を作ろう”で作り出されたヒロインのようですわ』
エミーがこともなげに表示する。
「ヒーロー戦隊を作ろう?」
そんなものがあったなんて・・・
どうしたらいい?
翔はキーボードに打ち込む。
『戦うのです、首領様』
戦う?
『戦うか降伏するかですわ。戦いますか?:はい/いいえ』
翔は一瞬迷ったが、その間にも下ではドタンバタンと音がしている。
はい。
翔ははいを選んでクリックした。
『ふーん、そうかぁ』
突然パソコンから声が流れる。
『瀧澤君があたしの敵なんだね? すごいすごい。ようし、こうなったらもっと正義のヒロインを集めなくちゃ』
「赤林さんなのか?」
翔は画面に向かって話しかける。
『そうよ。私の夢がかなったわ。私ね、戦隊ヒロインの司令官になりたかったの』
「何だって・・・?」
翔はいやな予感が現実になったことにショックを受けていた。
しかもそれはクラスメイトなのだ。
『今日は引き上げるわね。でも覚悟してね。あなたの組織は私が潰すわ!』
一方的な宣言。
どこがおとなしい女の子なんだ?
いつもは猫をかぶっていたのか?
どちらにしてもこちらも対応策を考えなくちゃならないだろう。
新たな改造獣を揃え、ヒロインたちに対抗するのだ。
翔はまた新たな高揚感がわいてくるのを感じていた。
これから悪と正義の戦いが始まるのだ。
負けるわけには行かない。
翔は決意を新たにした。
[悪つく最終回]の続きを読む
- 2006/02/28(火) 22:19:51|
- 悪の組織を作ろう
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あっけない幕切れですみません。
ローネフェルトのアフリカ編の終了です。
とりあえず生きていますのでご安心をー。
ガタガタという振動・・・
暖かいぬくもり・・・
寒い・・・
寒い・・・
でも・・・
暖かい・・・
「!」
私は目を開けた。
「お・・・お姉さまぁ・・・」
私の隣で目を丸くしているアヤメ。
その表情がみるみる崩れて行く。
「あ・・・お・・・お姉さまぁっ!」
「あぐっ!」
いきなり抱きついてくるアヤメ。
驚いたことに下着も着けていない。
腹部に走る激痛。
「あぐうっ」
私は思わずうめいてしまう。
「あっ、ごめんなさい。お姉さまぁ」
慌てて離れるアヤメ。
どうやら彼女は無事だったみたいだわ。
それにしても、ここは?
「お、気がついたな?」
覗き込んでくる優しい声。
「ヒューリック大尉? ここはどこなんですか?」
「ホバートラックの中だよ。もうすぐオーネトに到着する」
「ホバートラック?」
どうりで振動が優しいはずだわ。
車輪型ではこうはいかない。
「私は・・・どうなったんですか?」
「お姉さまは腹部に被弾したんですぅ。内臓には問題無いようですけどぉ、出血がひどくてぇ・・・」
アヤメはうっすら涙を浮かべている。
その上目の周りには隈。
まったく寝ていないのかもしれない。
「まったく・・・そのお姫様には参ったぜ」
苦笑しているヒューリック大尉。
いったいあのあとに何があったのだろう。
「教えてください。私たちは無事に脱出できたのですか?」
「ああ、無事だ。もっとも、全員無事というわけには行かなかったがな」
ヒューリック大尉は壁に背をつけて立っていた。
プラチナブロンドの髪が輝いて結構美男子なのだ。
「脱出できたのは三分の一ってところだな。それでもずいぶんと助かったものだ」
「三分の一・・・ですか」
私はため息をつく。
確かにそれでもよく生き残った方・・・
「私は・・・誰が?」
私はベッドから上半身を起こす。
よく見ると胸からお腹の辺りまでびっしりと包帯が巻かれていた。
「ブラウン伍長だ。サムソントップで君のそばに行き、救い出した」
「でも、あの戦いの中では・・・」
私を救出するなど不可能では?
「ミナヅキ少尉のおかげさ」
ヒューリック大尉がウインクする。
「アヤメの?」
「そう、そのアヤメ・ミナヅキ少尉のおかげさ」
私がアヤメの方を見ると、ちょっと照れくさそうにしているアヤメの顔が見えた。
「私は何もしていないんですよぉ。ちょっとザクの融合炉を暴走させるって言っただけでぇ」
私は目が点になった。
なんてことを言うのかしら彼女は・・・
敵も味方もモビルスーツの核融合炉のの爆発だけは避けようとするというのに。
「彼女の気迫ったらなかったぜ。すぐにでも暴走させかねない感じでな。敵はびびっちゃったってわけさ」
それはそうでしょうね。
私は苦笑せざるを得ない。
核融合炉には何重もの制御装置があるけど、それを外して暴走させたらどうなるか知れたものじゃないものね。
「その間に撤収を?」
「まあ、そういうことだな。もちろんそう上手くは行かなかったんで、俺のモビルスーツもお釈迦だったがな」
なるほど・・・
でも無事に脱出できたということなのね。
「残念なのはボスマン少佐が戦死されたことだ。とりあえず俺が指揮を取っているが・・・同格の君が取るかい?」
「お任せしますわ。ヒューリック大尉」
私は首を振った。
どうやらまだ動けない私より彼の方がいいだろうし、この部隊の古参は彼なのだから。
私たちはオーネトにたどり着いた。
たった一機残ったガウ級が私たちを迎えてくれる。
モビルスーツをすべて失い、連邦軍から捕獲した車両のみと言っていい状態でたどり着いた私たち。
そんな私たちを彼らは優しく迎えてくれた。
脇腹をえぐられ、相当量の出血をした私は輸血によってかろうじて命を救われたのだった。
その輸血に一役買ってくれたのがアヤメだったという。
A型の血液をしていてくれたアヤメから私は血をもらった。
軍医の処置も適切だった。
連邦軍のホバー車両の設備も良かった。
連邦軍は前線で使用する軍用車両の一部にまで医療設備を備えた車両を用意しているのだ。
おかげで私は戦場に近い場所で手術を受けることができた。
ジオン製の車両ばかりだったら私は死んでいたかもしれない。
私は連邦に生かされている?
連邦のモビルスーツの防御力の高さが被弾しても爆発しないで済み、連邦の車両の設備が私の手術を可能としてくれた・・・
こんな相手と戦っている私たち・・・
スペースノイドにとって地球は本当に必要が無いの?
私はそう思わざるを得ない。
上昇して行くHLV。
じょじょに失われていく重力。
地上最後の拠点キリマンジャロから私たちは脱出する。
宇宙へ・・・
私は始まりの地点へ戻る。
もう二度とこの星の大地を踏むことは無いかもしれない。
宇宙・・・
私は帰ってきた。
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- 2006/02/27(月) 21:41:47|
- ガンダムSS
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北海道では深夜にやっているアニメなんですが、「よみがえる空」と言うアニメがあります。
舞方は結構年行っていますので、結構涙腺ゆるい部分もあるのですが、第七話目には泣かされてしまいました。
最初、タイトルだけ見たときにはどんな番組じゃ? と思っていたのですが、内容は公式サイトさん(http://www.rescue-w.jp/index.html)あたりに譲るとして、救難というものの大変さを改めて思い知らされる作品でした。
救難が話の中心である以上、救助される人たちがいます。
つまり事故や災害に遭う人たちです。
助かる人たちもいれば、助けられない人たちもいます。
第六話のオープニングで事故死した自衛隊員の葬儀に「ひょっこりひょうたん島」が流れるというちょっと驚きの始まり方で始まった前後編は、自衛隊機の事故へと進んで行き、その救助に向かう主人公たちという展開になりました。
ネタバレですみませんが、第七話で二名のパイロットのうち一名の遺体を収容。
基地全体も、話自体も重苦しくなります。
しかし、その後もう一名のパイロットを発見。
それが生きているとわかったとき、不覚にも泣けてしまいました。
「生きてる。生きてる」
このセリフが流れた時にはホントに嬉しくなったものです。
最後に救難隊のみんながカラオケへ行きひょっこりひょうたん島を歌って締めるんですが、なんと言うか・・・やられたなーという気分でしたね。
硬派なアニメで好き嫌いが分かれるかもしれませんが、私は楽しませていただきました。
今後も楽しみにしていきたいですね。
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- 2006/02/26(日) 22:12:03|
- アニメ
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いつもいつも拙いブログを見ていただいてありがとうございます。
いつもコメントをいただいている方々には、本当にお世話になっております。
そこでちょっと提案なんですけど、TRPGみたいに読者参加型SSというものが出来ないかなと思っております。
もちろん、ブログが閉鎖的になり、参加している方々だけが楽しむということになってしまっては困りますが、そんなことが無いようにはしていきたいつもりです。
形としては、SSの登場人物の行動を読者に提案していただこうというものです。
SSの登場人物の行動、もしくはこの後の展開をコメントで寄せてもらうのです。
無論、通常のTRPGのようにリアルで反応を返せるわけではなく、SSの中でできるだけ提案に沿った行動をとらせるということですが、できるだけ提案コメントに添った行動を取らせて行きます。
もちろん登場人物の一人になりきって、俺ならこういう行動をするというコメントは大歓迎となります。
上手く行くかどうか保証の限りではありませんが、こういった形でいつもコメントをいただいている方々と繋がることができればいいなと思っています。
早速提案。
ジャンルは先日のブログに書いたクトゥルフと帝国にちなんで、ホラーで行こうかなと思っております。
こんなSSキボンヌというのがあればコメント下さい。
ご意見をいただけたらと思います。
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- 2006/02/25(土) 21:56:58|
- 帝都奇譚
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学研よりでております歴史群像太平洋戦史シリーズに「戦場の衣食住」と言う本があります。
もう手に入れてから結構経つんですが、これを見ると戦時中及び平時の陸軍の兵隊さんが何を食べていたかが記されているんですね。
大正や昭和初期の日本はまだまだ洋食は普及していない時代で、カレーライスやとんかつなどは軍隊に入って始めて食したという方も結構いたようです。
平時は駐屯地で温食給与が行なわれ、麦ご飯に副食と汁物がついたようで、士官と下士官、兵とは分けられていたようですね。
保存食として用意されていた牛肉の缶詰あたりの保管期限が切れたりすると、それを使って混ぜご飯や肉うどんを作ったりと、主計官も大変だったようです。
前線では、やっぱり飯ごう炊飯や、握り飯が支給されるようですが、満州などの北方やフィリピンなどの南方では当然その調理方法も違いました。
汁物や温食をできるだけ配食しようとした北方に比べ、南方ではまさに腐敗との戦い。
酢や油などを使い、水分を減らしてウメボシなどを入れた握り飯にするなど苦労も多かったとか。
焼きおにぎりは凍結しづらく腐敗もしづらいということで、北方でも南方でも好まれたそうですね。
パン食は当時の日本人にはやはりなじみが薄く、あまり使われなかったようです。
保存食としてはカロリーメイトのようなものや、乾パンが多かったようですが、乾パンは最初は重焼麺麭(じゅうしょうめんぽう)と呼ばれていたそうで、ところがそれが重焼と言う音が重傷を思わせるということで軍には不適当とされ、乾麺麭と改められ、やがて乾パンとなったそうです。
ビンタや体罰は辛かったが、食事は良かったし軍隊生活は戦争さえなければ楽しかったとおっしゃる元軍人さんも多いと聞きます。
当時の日本においてわりと恵まれた食生活だったのかもしれませんね。
それではまた。
[腹が減っては戦はできぬ]の続きを読む
- 2006/02/24(金) 22:15:00|
- 本&マンガなど
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今日通販で申し込んでいたTRPGのサプリメント(いわゆる拡張キット)が到着しました。
その名も「クトゥルフと帝国」。
TRPG「クトゥルフの呼び声」はハワード・フィリップ・ラヴクラフト氏か書いた一連の小説をのちの人たちが体系化したりした、いわゆるクトゥルフシリーズに基づいたTRPGですが、その舞台は1920年代のアメリカでした。
禁酒法や経済発展のさなかのアメリカを舞台としていることは、アメリカ人にはノスタルジックであり、また新鮮味もあったでしょう。
ところが我々日本人には取り付きづらい世界観であり、いまいちのめり込めない世界であったのも確かでした。
もちろん私が以前一緒にプレイをした仲間たちは、そんなことをものともせずに1920年代のアメリカで散々暴れまわり、複葉機や自動車を駆使して探索に励んだものでした。
まだTRPG華やかなりしころ、ホビージャパン社はこのクトゥルフ世界に日本を取り入れようといたしました。
1920年代の第一次世界大戦後の日本。
大正ロマン華やかな大正後期から昭和初期の日本を舞台にクトゥルフの魔物たちとその眷属たちが暗躍する世界観。
それが「クトゥルフと帝国」として発売予定に載った時、私はわくわくしてその発売を待ちました。
大日本帝国の人々がクトゥルフのかもし出す狂気の世界に引きずり込まれるさまは、実にTRPGとしてマスタリングしたいものでした。
しかし・・・
時代はTRPG冬の時代に入ります。
「クトゥルフと帝国」はホビージャパン社がTRPGより手を引いた時にお蔵入りしてしまいました。
それから十数年。
再びTRPGはそれなりにファンを獲得し、新たにルールブックも発売されるようになりました。
「クトゥルフの呼び声」も再販され、その流れに乗って「クトゥルフと帝国」もついに発売されたのです。
エンターブレイン社様に感謝感謝です。
その実物が今日届きました。
中身はこれからじっくりと楽しませてもらいますが、また仲間を集めてクトゥルフのTRPGやりたいですねぇ。
今度は日本人としてクトゥルフに立ち向かって欲しいものです。
もちろん・・・最終勝利はクトゥルフ側なんですけどね。(笑)
人類に勝ち目は無いのですから。
[むちゃくちゃ嬉しー]の続きを読む
- 2006/02/23(木) 22:35:53|
- TRPG系
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大日本帝国陸軍の装備した火砲は幾種類もありますが、その中に機動という名称がついたものがありました。
機動90式野砲や一式機動47ミリ砲といったのがそれに当たります。
この機動とは何を意味するのか?
単なる90式野砲と、機動90式野砲とはどう違うのか?
その前に大砲という物を戦場に運び入れるにはいったいどうするのかということを考える必要がありますね。
日本陸軍ならずとも、大砲を戦場に運び入れるのに、第一次世界大戦まではどこの国の軍隊も馬を利用しておりました。
いわゆる輓馬搬送ですね。
もちろん我が日本陸軍も大砲を運ぶのは馬の仕事でした。
砲兵部隊には必ず搬送用の馬が用意され、その馬の世話をする者も用意されていたのです。
しかし、第一次世界大戦は軍隊の機械化を大いに促進いたしました。
内燃機関を持つ自動車が軍隊の移動に関わってきたのです。
各国の軍隊でも兵の移動のみならず、大砲の移動にも自動車が使われるようになりました。
牽引車が大砲を引っ張って戦場へ向かうようになったのです。
日本陸軍も牽引車を用意し、大砲を引っ張ることにしましたが、牽引車で引っ張るときには今までの木の車輪では路面の凹凸が直に砲に伝わります。
そこで大砲の車輪を木から空気を入れたゴムタイヤに変更したのが、機動砲と呼ばれるようになったのです。
つまり、90式野砲と機動90式野砲との違いは車輪が木かゴムタイヤかの違いでしか無いのですね。
歩兵師団や軍直轄の砲兵は日本の場合は基本的に輓馬牽引でした。
ごく一部の優良装備部隊だけが牽引車両を手に入れることができ、その部隊用に特に用意されたのが機動砲だったんですね。
他の国では一般的になっていった車両牽引が、日本の場合は特別なこととされ、そのために用意された砲に機動という名前をつける。
それこそが日本の国力の限界を如実に現しているのかもしれません。
それではまた。
[機動?]の続きを読む
- 2006/02/22(水) 22:18:42|
- 趣味
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どうも今週はパッとしません。
SSを楽しみにしてくださっている方には申し訳ないんですが、あまり書けませんでした。
とりあえずの部分ですが、よろしければドゾー。
『くそっ、こいつらぁっ!』
ヒューリック大尉のジムがマシンガンをばら撒いている。
その射撃はなかなかのもの。
一撃で近寄ってきたミサイルホバーも61式も数両がスクラップと化す。
だが、その背後に二機のジムが迫っていた。
「ヒューリック大尉!」
私は反射的に駆け出していた。
マシンガンを構えて、迫って行くジムを撃つ。
背後を取ろうとしたジムは反対に背後から撃ちぬかれてどっと倒れこんだ。
『オウ、すまんな。大尉』
「長居は無用です。大尉も早くこちらへ!」
ヒューリック大尉は街道に陣取って撤退を援護するつもりだわ。
すでに我が中隊は半数以上が丘陵を越えてきている。
もちろん無傷ではすまないから、サムソントレーラーも07Bも05も失っている。
でも、この状況なら悪くはないわ。
現状のままここを撤収できれば・・・
『キャァッ!』
アヤメの悲鳴?
振り向いた私の目にアヤメの06Dの右腕が吹き飛んで行くのが見えた。
「アヤメッ!」
『あうー、やったわね!』
アヤメは06Dの左手にヒートホークを取り出して白兵戦を挑もうとする。
「アヤメ、無理はだめ! こっちへ来なさい!」
私は残弾の少なくなってきたマシンガンを撃ってアヤメを援護する。
『でもお姉様、こいつら・・・』
「いいから来なさい! これは命令よ!」
『は、はい。了解しました』
良かった・・・
まだアヤメは自分をコントロールできる。
私は残弾を確認し予備弾倉を確認する。
この弾数で敵の数はこれだけ・・・
私は溜息をつきたくなる。
どうして連邦はこんな警戒拠点にまで豊富な戦力を展開できるのか?
これが国力の差だというのだろうか。
『えーい!』
アヤメの06Dがヒートホークでジムに切りつける。
たまらずジムは後退した。
『こちらゴダミス丘陵守備隊! 優勢なる敵の攻撃を受け現在交戦中! 救援を請う。救援を請う!』
私は苦笑した。
たった四機のモビルスーツと戦っているにしては大げさだこと。
突破されたりでもしたら一個師団と交戦したとでも言うつもりかも。
『たいちょーう!』
えっ?
エヴァ准尉の声?
私は周囲を確認する。
「!」
私は息を飲んだ。
先に行っていたはずのエヴァ准尉の09Dが炎上している。
「えっ? なぜ?」
『あーらら・・・もったいないわぁ』
アヤメの声が聞こえる。
『エヴァッ!』
ヒューリック大尉の悲痛な声。
その中を09Dはスローモーションのように倒れこんだ。
「ラフィード准尉!」
私は駆け寄ろうとした。
ガクン。
えっ?
ふわっとした無重力感。
エレベーターに乗っている感じの浮遊感。
それが片足が吹き飛んだのだと理解するまで0.5秒。
ジムが転倒するまでにほぼ同様の時間が経つ。
『お姉さまぁっ!』
どこかでアヤメが呼んでいる・・・
だからお姉さまはまずいんだってば・・・
私は特定の相手とそういうつもりは無いんだから・・・
バチンバチンと音がする。
計器類から火花が散る。
あれ?
被弾した?
コンソールパネルが赤い表示で真っ赤になる。
エマージェンシー表示がスクリーンに広がる。
直撃?
あははは・・・
まずったわね・・・
脱出しなくちゃ・・・
『お姉様ぁっ! 脱出してぇっ!』
だから脱出するってば・・・
お姉さまは二人きりの時だけにしなさいってあれほど・・・
『大尉を引きずり出せっ!』
あれ?
頭ががんがんして・・・
どこかに穴が開いた?
なぜ手袋が真っ赤なのかしら・・・
どこからか液漏れ?
ぼたぼた言う音・・・
赤い液体がコクピットに広がる・・・
困るなぁ・・・
整備隊に迷惑掛けちゃう・・・
それにしても眠いなぁ・・・
だから夜間行動って苦手・・・
くすっ・・・
宇宙じゃいつでも夜なのよね・・・
ああ・・・眠い・・・
少しだけ・・・ならいいよね・・・
ちょっとだけ・・・
ちょっとだけだから・・・
ちょっとだけ眠らせて・・・
『お姉様ぁっ! いやぁっ!』
アヤメ・・・
ひょんなことで一緒に居るようになっちゃったわね・・・
でも・・・
お姉さまは困るなぁ・・・
・・・・・・
ちょっとだけ・・・
ちょっとだけ一眠り・・・
・・・・・・
・・・
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- 2006/02/21(火) 20:50:32|
- ガンダムSS
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えーと・・・まずは言い訳から。
すみません。m(__)m
休みだったんでしたが、いろいろとやることがあってあまり書くことができませんでした。
「悪つく」のけりをつけたかったんですが、かないませんでした。
とりあえず出来上がった部分です。
楽しんでいただければ幸いです。
ウインウイン・・・
カプセルの周囲の機械がうなりを上げる。
それと同時にカプセルには光が走り、彼女たちの躰を照らし出して行く。
着ていたセーラー服はその光によるものかぽろぽろと剥がれ落ち、下着やソックス、明音が履いていた黒いタイツも崩れていく。
「ああっ、いやぁっ!」
「見ないで、見ないでぇ!」
「くそっ、変態野郎っ!」
三人は光の中に自分の裸体が晒されたことに驚きは隠せない。
みんな一所懸命になって両手で胸と股間を隠そうとするが、続いて光のリングのようなものが上から次々と降りてきてパルス状にカプセルの中を流れていく。
そしてカプセル内にはガスが充満し始めて、彼女たちの躰を作り変え始めるのだった。
「ひやぁっ!」
「ああっ!」
「くうっ、な、何なのよ、これ!」
白いガスとオレンジ色の光が彼女たちに苦痛を与えて行く。
痺れるような感覚と頭の中をかき混ぜられるような痛み。
頭を押さえたくても、狭いカプセルの中ではそれもかなわない。
「あうう・・・えっ? うそ・・・」
澪が気丈にも苦痛をこらえて目を開けた時、自分の躰に生じている変化に気が付いた。
いつも丁寧にボディソープで洗ってきた素肌が黒く変色し始めていたのだ。
「いやぁっ! なにこれぇっ!」
澪は悲鳴を上げる。
すでに他の二人は頭の中を襲う激痛に意識を取られて躰を見る余裕など無い状態だ。
「嘘、嘘よぉっ!」
黒くつやつやとした皮膚が澪の躰の表面を覆って行く。
恐る恐る指で触ると、とても硬くまるで昆虫の外骨格のようだ。
「私も・・・私も化け物になるんだ・・・」
澪はすごく悲しくなった。
頭を襲う激痛もこの悲しさに比べればさほどのものとは思えない。
いや、先ほどに比べると激痛は少し治まっているような気がする。
澪は悲しみに包まれながら躰を見下ろす。
形の良い、ひそかな自慢のバストはそのままの形を保ちながらも、黒いつやつやした外骨格に包まれていてどんな攻撃にも耐えられそうだ。
先ほどまで滑らかだった指先にも鋭い爪が伸びて来始めている。
柔らかで脆弱なぶよぶよした肉も硬い外骨格がしっかりと護ってくれている。
澪はなんだか、なぜ悲しかったのかよくわからなくなっていた。
私・・・何を悲しんでいたんだろう・・・
ガスの充満したカプセルの中で澪の躰はしっかりと強化されていく。
つややかな外骨格が黒々として美しい。
額には触角が伸びてきて命令をしっかりと受け取れる。
視界も複眼が確保してくれるので、広い範囲を同時処理できる。
そんな当たり前のことを悲しむなんてどうかしているわ。
澪はもう悲しくなかった。
それどころかこの状態こそが自然であり、当たり前の姿だった。
澪は深呼吸してガスを思い切り吸い込む。
躰の中にまで浸透したガスは、内臓も彼女に相応しいものに変えていく。
はあん・・・なんだか気持ちいい・・・
澪はゆったりした気分でカプセルの中で身を任せていた。
三人の姿はみるみるうちに変化していった。
黒い外骨格が皮膚を覆い、額の触覚と黒く大きな複眼。
それはまるで直立した蟻のような姿をしていた。
それもそのはずで、翔は戦闘員のモデル生物に黒蟻の働き蟻を選んでいたのだ。
『戦闘員が完成しました。このまま戦闘員という名称でよろしいですか?:はい/いいえ』
エミーの指し示す問いに翔は考える。
そのまま女戦闘員というのも捨てがたいが、何か別の名称を与えてやるのもいいかもしれない。
「うーん・・・何かあるかな・・・」
「キキキキ・・・女戦闘員でよろしいのではありませんか?」
ハエ女の言葉に翔は頷く。
お母さんもお姉ちゃんもシンプルなネーミングだったんだし、下っ端にかっこいい名前をつけてやる必要はないだろう。
翔はいいえでクリックして、新たに女戦闘員と打ち込んだ。
『女戦闘員一号、二号、三号の完成ですわ。これで組織構成に厚みが出ますわね、首領様』
画面でエミーがにこやかに微笑んでいる。
翔はカプセルを解放した。
白い靄のようなガスがカプセルから流れ出る。
その霧の中から黒々とした躰を誇らしげに晒しながら出てくる三人の女戦闘員たち。
すでにその脳には女戦闘員としての思考がインプットされ、人間の女子高校生であったことなど意味を無くしてしまっている。
三人はハエ女やゴキブリ女と同じようにまだ人間の形状を残している口元に笑みを浮かべ、直立不動の姿勢を取った。
「グギギギ、うふふ・・・戦闘員に生まれ変わったようね。これからは首領様のために働くのよ」
三人の前に立ち、満足そうに頷くゴキブリ女。
「「ヒュイーッ! もちろんです。私たちはイレースの女戦闘員。首領様のためにこの身を捧げます」」
三人は声を揃えて右手を上げる。
黒々とした外骨格が光を反射して輝いていた。
「グギギギ、いい娘ね。さあ、いらっしゃい」
先頭に立ち戦闘員たちを司令室へ連れて行くゴキブリ女。
三人の女戦闘員たちは無言でそのあとに続く。
その姿は仲のよかった女子高生グループとはまったくかけ離れたものだった。
「グギギギ、首領様、新たに三人の女戦闘員が完成いたしましたわ。さあ、お前たち、ご挨拶なさい」
レリーフを見上げて一礼するゴキブリ女。
「「ヒュイーッ。私たちはイレースの女戦闘員。首領様、何なりとご命令を」」
右手を上げて直立不動の姿勢を取る三人の少女たち。
蟻と見紛う外骨格の姿はそれぞれのラインを反映して美しかった。
「よし、お前たちはゴキブリ女に預けよう。命令があるまで待機室で待機するがいい」
「「ヒュイーッ。かしこまりました首領様」」
三人の声はまったく乱れなくハモッている。
すぐに回れ右をしてカツコツとヒール状に変化した足音を響かせて司令室を出ていった。
「あの三体を私の配下にしていただけるなんて嬉しいです、首領様」
ゴキブリ女が喜びに微笑む。
「ふふふ・・・友達が戦闘員になるなんて素敵だよね? お姉ちゃん」
「はい、おっしゃるとおりです。あの三人はきっと使い勝手が良いと思いますわ」
翔の言葉に改めて膝をつくゴキブリ女。
「キキキキ、いいわねぇゴキブリ女。私も戦闘員が欲しいですわ」
ちょっと寂しげにハエ女が言う。
翔は苦笑した。
「わかったよハエ女。でもその前にお腹すいたよ。ご飯できてる?」
「はい、首領様。あとは焼くだけですわ」
ハエ女が頷いた。
「そうか、それじゃ晩御飯にしようよ。ゴキブリ女も転送室へ入って」
「かしこまりました首領様」
ゴキブリ女は立ち上がり転送室へ向かった。
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- 2006/02/20(月) 22:29:59|
- 悪の組織を作ろう
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仕事終了後に書いたので、ほんのちょっとだけですがローネフェルトの続きです。
ドゾー。
次々と吹き飛んで行く連邦の戦車とホバー。
ジムのマシンガンは操作性も反動の少なさも申し分ない。
訓練を重ねて熟練になれなくても操作できるというのは兵器としては重要なことだ。
私はこのジムというモビルスーツがとても気持ちよく操縦できた。
「アヤメ、援護して!」
『ハーイ、了解ですぅ』
デザートイエローのアヤメの06D。
運動性は06Jに劣るものの、この砂漠での運用に特化した機体だ。
使い方次第では新型に優るとも劣らないはず。
私はアヤメの援護を背に受けて、集中砲火を受けないように敵を分散させようとした。
敵はジムを中心としてこちらを包囲しようとしている。
包囲されてしまえばこちらの負け。
その前に何とかこの街道を突破しなくてはならない。
エヴァ准尉の09Dがバズーカを撃ち、頂上にいるタンクもどきを破壊する。
その間にも車両隊は全速で街道を走り抜けて行く。
『走れぇっ! 落伍車両には構うな! 走れぇっ!』
ボスマン少佐の声が響く。
一台のサムソンが05とともに吹き飛ばされる。
『ぬうっ、まだ使えるものを・・・』
『キャアッ!』
ヘッドフォンに伝わる悲鳴。
ブラウン伍長のサムソンがトレーラー部分に被弾したのだ。
「ブラウン伍長!」
私は思わず目で追った。
ブラウン伍長のサムソンは運転席が分離して飛び上がる。
サムソンは運転席が独立したホバー車両として運用できるのだ。
私はホッとした。
あれならブラウン伍長は問題ない。
『あははははは・・・』
アヤメの笑い声。
信じられない動きで三機のジムを相手にしている。
「アヤメ!」
私はすぐに援護しようとマシンガンを構えた。
だが、その必要はなかった。
アヤメの06Dは一機のジムの懐に入り込み、至近距離でコクピットを撃ち抜く。
そしてそのジムの背後に回りこみ、他のジムの射線を封じたのだ。
『あはははは・・・お姉さまぁ、見てますかぁ?』
楽しそうなアヤメの声に私は少し寒気を感じる。
間違いなく彼女は戦いを楽しんでいる。
薬物の影響がでているのか?
アヤメの06Dは、パイロットを失い反応のなくなったジムを背後から蹴り飛ばして、もう二機のジムに向かわせる。
二機のジムは迫ってくるジムを回避するために一時動きを制限され、その隙をアヤメに突かれた。
アヤメの06Dのマシンガンが二機のジムのコクピットを直撃する。
一瞬にして二機のジムは崩れ落ちた。
[06D対ジム]の続きを読む
- 2006/02/19(日) 22:51:53|
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チハ車について書かせていただきますねー。
日中戦争の勃発によって始まったチハ車の量産ですが、チニ車との競作であり、意見の相違を乗り越えることができなかったことは前回触れました。
折から始まった日中戦争は日本の軍事予算を平時の3倍に跳ね上げ、それによって経済的な安い戦車を装備したいという参謀本部の思惑は無用となりました。
その結果チハ車は九七式中戦車として採用されましたが、当時の日本は戦車というものは歩兵の直接支援を目的としていました。
そのために搭載された主砲は57ミリ短砲身砲であり、低初速の榴弾を主に撃つための砲でした。
機関銃を装備する火点に対してはそれで充分と思われたのです。
敵の戦車に対しては高初速の対戦車砲で迎え撃ち、戦車は歩兵を相手にする兵器だったんですね。
のちに問題になる対戦車戦闘能力の不足は、チハ車にはもともともと求められていなかったんです。
装甲も敵の対戦車砲の弾を弾くことができればいいということで、しかも37ミリ対戦車砲の砲弾を約500メートルの距離で弾くことのできるぎりぎりの厚さの25ミリの装甲で忍ぶことになったんですね。
せめて30ミリや35ミリということであれば、もう少し装甲厚の貧弱さは解消されたのでしょうが、当時の日本はとにかく戦車は軽くしたかったんですね。
心臓部であるエンジンは最大出力170馬力のディーゼルエンジンでしかも空冷タイプでした。
真冬の満州はエンジンの冷却水を凍らせ、エンジンに深刻なダメージを与えてしまいます。
不凍液は価格も高く、手に入れづらいために日本軍はエンジンを空冷にすることにしていました。
しかもディーゼルエンジンは圧縮熱で発火させるために点火プラグなどの電装系部品が少なく、故障しづらい上に燃料も気化しづらく、火災の危険が減るというまことにうってつけのエンジンでした。
しかし、ディーゼルエンジンは圧縮のために頑丈に作らなければならず、必然的に重くなりました。
しかもその出力もガソリンエンジンに比べると劣るために、同程度の出力を得ようとするとガソリンエンジンよりも大きくなり、それも重量に跳ね返ってきました。
結局九七式中戦車の総重量の一割がエンジンで占められ、その反動として装甲に割ける重量が減少することになりました。
日本の誇る主力戦車ではありましたが、対戦車戦闘を念頭においていなく、さらに装甲もぎりぎりに削られた九七式中戦車は、敵の戦車の居ない中国戦線や、マレー戦では威力を発揮しましたが、敵の戦車が出てきたノモンハン戦や、太平洋戦争の後半には威力不足を露呈してしまいます。
そのため、のちに対戦車戦闘能力を強化した、九七式中戦車改型、いわゆるチハ改が登場します。
それについてはまた今度。
- 2006/02/18(土) 23:12:26|
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横須賀などに入港するたびに話題になるアメリカ海軍のイージス巡洋艦が「タイコンデロガ」級ですね。
満載排水量9500トン。
いわゆるイージスシステムを搭載した防空戦闘艦ですね。
計画された当時はソビエト連邦も健在で、長距離攻撃機多数による飽和攻撃がアメリカ海軍の防空システムの能力を超えるのではないかと不安に思われていた時期でした。
レーダーでの探知はできても対空ミサイルをロックオンして発射できる数には限りがあります。
その能力を超える数を一度に繰り出せば、対処しきれなくなってアメリカ海軍は防御能力を失うというのが当時のソ連軍の飽和攻撃の基本でした。
その飽和攻撃に対処するために、開発されたのが複数の目標の同時識別&攻撃能力を持つイージスシステムでした。
そのイージスシステムを最初に搭載したのが、このタイコンデロガ級巡洋艦ですね。
前後の構造物にフェーズドアレイレーダーシステムを搭載したため、巨大な艦橋構造物になった特異な外見を持っていますが、船体は「スプルーアンス」級駆逐艦が元であり、排水量こそ9500トンと大きなものの、駆逐艦に分類されてもおかしくない艦でした。
実際最初はアメリカ海軍の分類では駆逐艦に分類される予定だったそうですが、それが巡洋艦になったのはひとえに単艦行動が取れるように艦長を大佐クラスにしたからだと聞きます。
駆逐艦は基本的には駆逐艦隊を組んで初めて一つの艦として認められるようなものであり、艦長も少佐から中佐といったところで、単艦行動をとるには不足です。
大佐ともなると巡洋艦から戦艦の艦長としても認められ、単独行動をとるだけの権力も有することになります。
タイコンデロガ級はこの大佐クラスが艦長として任命されたために、駆逐艦としては格下に過ぎてしまうため巡洋艦にされたのだと聞きました。
事実とは違うのかもしれませんが、なんか納得できたのを覚えています。
そのタイコンデロガ級も1983年の一番艦の就役から20年。
冷戦も終結し維持費などのコストも掛かるのでしょうか、すでに退役が始まっています。
冷戦時の特異な艦として記憶にとどめられる艦なのかもしれませんね。
それではまた。
[タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦]の続きを読む
- 2006/02/17(金) 22:25:53|
- 趣味
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もう、ずいぶん前の話になりますが、ブックレットタイプのTRPGルールブックで「真・女神転生RPG」というものがありました。
皆様ご存知のコンシューマゲームRPGを基にしたTRPGのルールブックですが、その中にアルケニーというモンスターが出てきます。
もともとはアラクネ、いわゆるクモ女にされてしまった機織の女神ですが、それをモンスターとして取り入れているんですね。
アルケニーはこのゲームでは単なるモンスター扱いですが、その能力が結構好みなので紹介しますね。
アルケニーはクモ女として、若い男性を獲物にするのですが、その時におとりとして若い女性を捕らえてコントロールします。
コントロールされた女性はアルケニーの言いなりとなり、アルケニーのために男を呼び込みます。
この時点ではコントロールされているだけの女性はその洗脳を解くだけで元に戻りますが、アルケニーはその能力によって精神にも巣を張ることができるのです。
精神に巣を張られた女性は心の中にアルケニーを宿してしまうことになり、じょじょにその心をアルケニーに汚染されてしまうんですね。
やがて精神の変化は肉体にも影響を及ぼし、女性は新たなアルケニーへと変貌してしまいます。
救うには精神に入り込んで、巣くっているアルケニーを倒すしかありません。
しかも、一度アルケニーになってしまった女性は元には戻りません。
救いに行った少女が敵となって襲ってくることも充分にあるのです。
清楚な女性、例えばシスターなどの心にアルケニーを巣くわせて、アルケニーへと変化して行くあたりをSSなどで書いてみたいものですね。
なかなか楽しそうだと思いませんか?
それではまた。
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- 2006/02/16(木) 22:24:35|
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ホーリードールは小学生の女の子が光と闇の争いに巻き込まれてしまうお話ですが、その話の途中で給食を食べ損ねて紗希ちゃんが文句を言っていましたね。
その時に雪菜ちゃんが給食を取っておいてくれたんですが、そのときのメニューはイカのカリン揚げでした。
これを書くに当たって、やっぱりきちんと調べたほうがいいなと思ったので、最近の給食メニューについてググってみたんですね。
給食メニューの紹介これは臼杵市の給食センターの人気メニューを紹介しているページなんですが、いやぁ、最近の給食はほんとに美味しそうですよねぇ。
舞方は結構年齢が行っておりまして、給食もかなり昔のことなんですが、鯨肉のカツが提供されていた時代の給食を食べていました。
ビン入りの牛乳に粉末のココアを溶かしてココア牛乳にしたりもしました。
コッペパンに牛乳がメインで、それにおかずが一品つくような感じでしたね。
蒸し麺にスープをかけたラーメンとかは人気があって、いつもおかわりは足りなくなりましたし、年に数回ですが、カレーライスも出ました。
でも、最近の給食はビビンバが出たり、ご飯ものも結構出されたりするみたいですね。
いつの時代も給食は、というか食事の時間は楽しいものだとは思いますが、最近は好き嫌いも多くて残される量もかなりになるとか。
食育が叫ばれるというのも問題なのかもしれませんね。
ファーストフードの弊害なんでしょうか。
きちんと食事を楽しんで食べて欲しいものですね。
それではまた。
[最近の給食はいいなぁ]の続きを読む
- 2006/02/15(水) 22:18:53|
- ネット関連
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今日も「悪つく」の続きを投下しますねー。
来週こそはホーリードールを書きますのでお赦しを。
今回新たな改造獣はリクエストに基づきゴキブリ女です。
ゴキブリ嫌いな方も多いでしょうけど、ご勘弁下さいませ。m(__)m
3、
「お姉ちゃんってさ、ゴキブリが嫌いだったよね?」
翔がにやりと笑みを浮かべる。
「ええっ? ゴ、ゴキブリ? い、いやよ、見るのもいや」
恵美の背筋をぞっとしたものが走る。
ゴキブリは生理的に受け付けないのだ。
台所の隅で見かけたりするとそれだけで足がすくんでしまう。
そんなときにはいつも決まって翔を呼んでいたのだった。
「お姉ちゃんはいつもゴキブリが出たら僕に取らせようとしてたよね。僕はあんまり運動神経がよくないからいつも逃げられていたけど」
「ご、ごめんなさい。赦して。もう言わないから私を自由にして」
円形の台に固定された恵美は必死で手足をばたつかせるが、まったく効き目が無い。
それに恵美は裸にされていた。
高校生になった今、弟に裸を見られているというのがすごく恥ずかしかった。
「お願い・・・翔・・・許してぇ。もうゴキブリ取ってって言わないからぁ」
「ふふふふ・・・ねえ、お姉ちゃん、右側を見てみてよ」
翔に言われて恵美は右手の方を見る。
そこにはカプセルに入った巨大な黒ゴキブリが脚をばたつかせていた。
まるで大型の犬ほどの大きさのゴキブリを見た瞬間、恵美は失禁してしまっていた。
それほど恵美にとってゴキブリは不気味で汚らわしいものだったのだ。
「いやぁっ!」
顔をそむける恵美。
「あははは・・・ごめんねお姉ちゃん。でも僕はゴキブリって嫌いじゃないんだ。それにすぐに手に入る生き物ってこれぐらいしかなかったんだよ」
悪魔のような笑みを見せる翔。
翔はこの光景にすごく興奮していた。
美しい裸体の姉とグロテスクなゴキブリ。
その取り合わせは再び母親のような美しい改造獣を生み出すに違いない。
「お願い・・・赦して・・・」
泣きながら赦しを請う恵美。
「キキキキ、心配いらないのよ恵美。あなたも私と同じように改造獣として生まれ変わるの。素晴らしい世界が待っているのよ」
ハエ女が優しく言葉をかけるが、恵美には絶望を与えるに過ぎない。
「いや、いやぁ」
首を振り泣きじゃくる恵美。
その様子に翔はドキドキしていた。
普段見たことの無い姉の泣きじゃくる表情。
それは翔の心にどす黒い喜びを与えてくれる。
『首領様。改造獣の作成準備は完了いたしております。改造を開始しますか?:はい/いいえ』
画面ではエミーがムチを手に笑顔を見せていた。
「作成開始だ」
カーソルをはいに合わせてクリックする。
『かしこまりました。改造獣作成開始!』
一礼をしてムチを振るい画面上で指示を出すエミー。
緑色の液体がゴキブリのカプセルに注入され、たちまちのうちにどろどろに溶かされていく。
ゴキブリの溶けた液体はカプセルの下から吸収され、今度は恵美の横たわっている手術台からせり出す各種のチューブに送り込まれるのだ。
「いやぁっ!」
恵美の躰に突き立てられる複数のチューブ。
それらから液体が注入されると同時に光線が降り注いで行く。
「あぐ・・・あぐぅぅ」
恵美の躰に激痛が走る。
細胞が無理やり変えられ悲鳴を上げているのだ。
ゴキブリの遺伝子を飲み込み、人とゴキブリの融合した生物に作りかえられていく。
そんな変化に躰が痛みを訴えているのだ。
「あがぁぁぁ・・・ぐあぁぁぁ・・・」
躰をビクビクと震わせて痙攣する恵美。
やがて恵美の頭部に差し込まれた電極が洗脳パルスを流し込んで行く。
「ひ、ひぃぃぃぃ・・・」
躰だけではなく思考まで作り変えられていく恐怖。
恵美は必死に自分を保とうとする。
助けて・・・誰か助けて・・・
いやだいやだいやだ・・・
改造なんてされたくない・・・
改造なんていやだよぉ・・・
私は改造される・・・
改造されちゃう・・・
改造・・・
改造・・・
あはぁ・・・
なんだろう・・・
改造される・・・
そう・・・私は改造される
私は・・・
私はイレースの改造獣・・・
恵美の心が変えられる。
それとともに躰の方も変わって行く。
目は少し大きめの複眼に変わり、額からは細く長い触角が伸びて行く。
黒々とした外骨格が皮膚を覆っていき、つややかな翅が形成される。
腹部には節ができ、形の良い胸もくびれた腰もそのままのラインで黒い外骨格が覆って行く。
両手の肘から先は手袋を嵌めたようになり、鋭いとげが外側につく。
両脚はハイヒールのブーツ状になり、強靭な脚力が蓄えられる。
恵美の躰はゴキブリと融合し、美しいゴキブリ人間へと変化していった。
『改造が終了いたしましたわ、首領様。名前を付けてあげてください』
エミーが画面の上に入力スペースを表示する。
『 』
「ゴ、キ、ブ、リ、女・・・と」
翔は手早く入力した。
『ゴキブリ女』
Enter。
『ゴキブリ女と命名してよろしいですか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
恵美の脳に名前がインプットされる。
この瞬間から彼女は自分をゴキブリ女として認識した。
私は・・・ゴキブリ女・・・
人間のときの形状を残している口元に笑みが浮かんだ。
『改造獣ゴキブリ女が完成しました。どうかお声を掛けてあげてください首領様』
エミーがにこやかにゴキブリ女のスペックを表示する。
翔はハエ女のときと同様に手足の固定を解除してゴキブリ女を自由にする。
ハイヒール上に変化した両脚ですっと立ち上がるゴキブリ女。
体操で引き締まっていた恵美のボディラインをそのまま踏襲しているため、そのボディラインは流れるようだ。
ゴキブリ女は躊躇い無くその躰を司令室へ運び込み片膝をつく。
「ふふふふ・・・どうだい、お姉ちゃん。ゴキブリ女に改造された気分は?」
「グギギギギ、はい、首領様。すごくいい気分です。こんな素敵な躰に改造してくださって感謝しております」
喜びを微笑みで表わすゴキブリ女。
「あははは・・・ねえ、今もゴキブリは嫌いかい?」
「グギギギ、とんでもありませんわ。私はゴキブリ女です。ゴキブリは頬擦りしたくなるほど大好きですわ」
ゴキブリ女にされてしまった恵美はもはや本気でそう思っているのだろう。
満足げにレリーフを見上げている。
「キキキキ、首領様、可愛いゴキブリ女の完成ですわね」
ハエ女も嬉しそうに翔のそばに寄って司令室を見下ろす。
「キキキキ、首領様、早く実体化してあげて下さいませ。ゴキブリ女の姿を間近で見たいですわ」
「いや、その前にやることがあるよ」
翔は首を振った。
「ゴキブリ女。甲原玲奈、四坂澪、瑞原明音の三人は知っているよね?」
「グギギギ、もちろんです、首領様。私がまだ人間だった時の友人連中です」
ゴキブリ女は頷いた。
「グギギギギ、今日は一緒に勉強するつもりで連れてきて居ましたが、あの三人が何かしたのでしょうか、首領様?」
「いや、違うんだ。あの三人は捕獲室に捕まえてあるから、戦闘員にしちゃうんだ」
翔はパソコンを操作し、戦闘員化の項目を呼び出す。
『戦闘員を作成いたしますか?:はい/いいえ』
エミーが項目を指し示している。
すでにタイプは二足歩行タイプの生物を利用することで決定されていた。
「ゴキブリ女、三人をカプセルに入れて」
『グギギギ、かしこまりました首領様。クククク・・・』
冷酷な笑いを発するゴキブリ女。
すぐに立ち上がって捕獲室へ向かう。
「私たちどうなっちゃったの?」
「ここはどこなの?」
三人の女子高校生が捕獲室に捕らわれている。
ひざを抱えてうずくまっている者、出口は無いかと探す者、じっと天井から見下ろしている翔の顔をにらみつけている者。
さまざまな姿を見せる女生徒たちを翔は優越感を持って見下ろしていた。
「この人たちも僕のしもべになるんだ・・・」
つぶやく翔。
その思いはわくわくするような高揚感に繋がっている。
「キキキキ、この娘たちも首領様のしもべになれば幸福を感じるはずですわ」
ハエ女がくすくすとしのび笑いをもらしている。
彼女もしもべとなった幸福を感じているのだ。
「そうかな・・・幸せかな? 僕のしもべで」
「キキキキ、もちろんですわ」
ハエ女は微笑んだ。
シュインと音を立てて扉が開く。
透明な天井から不気味な巨大な少年の顔に見下ろされていた少女たちは、新たに現れた不気味な姿に再び悲鳴を上げた。
「グギギギギ、おとなしくするのね。これからお前たちを改造するわ。光栄に思いなさい」
ゴキブリ女が腰に手を当てて威圧する。
「いやぁ、お願い、家へ帰して・・・」
「瀧澤さんはどうなったの? 恵美に会わせて」
四坂澪がキッとゴキブリ女をにらみつけた。
「グギギギギ、おろかな女ね。目の前にいるじゃない」
「えっ?」
澪も玲奈も明音もその言葉の意味を図りかねた。
「グギギギ、私こそが恵美なのよ。もっとも、今の私は改造獣ゴキブリ女なんだけどね。クククク・・・」
聖子と同じく口元に手の甲を当てる仕草で笑うゴキブリ女。
「ま、まさか・・・そんな」
「いやぁっ! 瀧澤さんがそんなぁっ!」
「め、恵美ぃ」
三人の顔に衝撃が走る。
「グギギギ、さあ、お前たちにも新しい世界が待っているわ。来るのよ」
手を差し伸べるゴキブリ女。
その手には鋭い爪が光っていた。
「い、いや・・・いやよ」
あとずさる明音。
「グギギギ、手間を取らせるんじゃないわ」
手の甲で明音を張り飛ばすゴキブリ女。
「ギャッ」
たまらず明音は倒れこむ。
「ヒッ」
残る二人も身をすくめた。
「グギギギ、さあ、来るのよ」
「ああ、はい・・・」
仕方なく三人はゴキブリ女のあとに続いた。
そうするしかなかったのだ。
改造室の隣にある戦闘員製造室。
その前に三人は連れてこられていた。
セーラー服姿の三人は皆一様におびえた表情でゴキブリ女を見る。
「グギギギ、さあ、そのカプセルに入りなさい」
ゴキブリ女が指差す先には透明なカプセルが五つ並んでいた。
「あ、ああ・・・お願いよ、うちに帰して・・・」
玲奈が跪いて懇願する。
しかしゴキブリ女はその複眼で黙って見下ろすだけだった。
「グギギギ、もしかして死にたいのかしら? だったらすぐに殺してあげるわ」
ゴキブリ女が爪をかざす。
「玲奈、無駄だよ。こいつはもう恵美じゃないんだ・・・」
澪が玲奈を立たせる。
「グギギギ、そうよ。私はゴキブリ女。恵美ではなく生まれ変わったのよ」
ゴキブリ女の口元に冷たい笑みが浮かぶ。
「グギギギ、さあ、さっさと入りなさい!」
「入るよ。くそっ、死ぬよりはましか・・・」
澪が玲奈と明音を抱えるようにしてそれぞれをカプセルに入れる。
「み、澪ちゃん・・・」
「明音、我慢するんだ。死ぬよりはましだよ」
「う、うん・・・」
澪の言葉に頷き、しぶしぶカプセルに入る明音と玲奈。
最後に澪も自らがカプセルに入る。
「入ったぞ。これでいいんだろ!」
ふてくされたように言い放つ澪。
「グギギギ、その強がりがいつまで続くかしら? 首領様、準備完了です」
「よくやったぞ、ゴキブリ女」
翔は頷き、戦闘員作成をスタートさせた。
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- 2006/02/14(火) 21:07:07|
- 悪の組織を作ろう
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今日は「悪つく」の第二弾です。
まるでドラ○もんの道具を悪用するの○太君のようですが、実際にこんなセットがあったらいいと思うのは私だけ?
2、
『改造獣をご使用になるときには転送室へ連れて行き転送をしてください』
パソコンの画面に表示が出る。
翔は今まで気がつかなかった感情にドキドキしながら、ハエ女に転送室へ向かうように指示を出した。
翔の言葉はどういう理由か司令室の壁のレリーフから聞こえるらしく、ハエ女はレリーフに一礼すると転送室へ向かう。
ハエ女が転送室に入り気を付けをすると、再びパソコンに文字が映し出される。
『転送の準備が整いました。転送しますか?:はい/いいえ』
はいでクリックする。
するとハエ女の躰が光に包まれ消えて行き、換わりに翔の部屋に大きくなった姿のハエ女が現れた。
改めて翔はハエと融合し改造獣となった母親をじっくりと眺めた。
綺麗だったお母さん・・・
口やかましかったけれど優しかったお母さん・・・
でも・・・
それがいまや改造獣として翔の前に立っている。
巨大な複眼と額から伸びる触角。
口元だけは人間のままなのが余計に美しく思える。
肩までの黒髪もそのままだが、首から下は黒と緑色の混じった皮膚に硬く短い毛が生えていた。
両手の先は形は人間のままだが鋭い爪が生えていて、両脚はハイヒールのブーツでも履いたように形が変わっていた。
背中には薄く透明な翅が生え、まさしくハエ女に相応しい姿をしている。
美しい・・・
翔は本気で今の母親のすがたを美しいと思っていた。
特撮に出てくる怪人たちの中には魅力的な者も居て、翔はそういった怪人が大好きだったけれど、このハエ女はそれらにまったく負けないほど魅力的だった。
「綺麗だ・・・お母さんとても綺麗だよ・・・」
「キキキキキキ。私は首領様にお使えする改造獣ハエ女。もはや母親などではございませんですわ」
微笑むハエ女。
「そ、そうだったね。僕は首領なんだから、ハエ女は僕の言いなりになるんだ・・・」
翔はドキドキしながらも自分を首領であると言い聞かせる。
「はい、首領様。何なりとご命令を」
深々と頭を下げるハエ女。
「そ、そうだな・・・な、何をしてもらおうか・・・」
翔は考えるが、取り立ててしなければならないことは何だろうかと思う。
何を・・・
ぐう・・・
お腹が鳴る。
あれ?
そういえばもう午後の五時に近い。
「ま、まずは食事を作ってもらおうか。作れるよね?」
何となく命令というよりお願いになってしまう。
「キキキキ・・・もちろんです、首領様。お好きなハンバーグをお作りいたしますわ」
ハエ女がにっこりと微笑む。
「そ、それじゃ頼む。美味しいハンバーグを作れ」
「キキキキ、かしこまりました、首領様」
ハエ女はくるりと身を翻すと台所へ向かって部屋を出て行った。
「はあ・・・すごいや・・・」
ハエ女が出て行ったあとで、翔は改めてセットを見下ろした。
こんなおもちゃは見たこと無い。
いや、ただのおもちゃじゃない。
お母さんをあんなふうに改造しちゃうなんておもちゃにできるはずが無い。
でも・・・
そんなことはどうでもいいや。
僕はこれで好きなように生きるんだ。
僕が作った悪の組織イレースが日本を支配するんだ。
このセットはそのために僕に神様が与えてくれたんだ。
僕は首領様なんだから好きなようにしていいんだ。
そう思うと自然に笑いがこみ上げてくる。
翔は椅子に深々と腰掛けて満足感を味わっていた。
「でも、次はどうしたらいいんだろう・・・それにそろそろお姉ちゃんが帰ってくるなぁ」
翔には姉が居た。
高校一年生になる姉で、翔とは違って友人も多く、体操部で部活動もしているため帰りが遅いのだ。
翔はパソコンの画面を見る。
『チュートリアルを続けますか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
すると画面上に一人の女性が現れた。
黒いマントを羽織って、レオタードを着た妖艶な美女。
金色の髪が長く、手にはムチを持っている。
「あ、あれ?」
翔は驚いた。
今までこんな画面はでてこなかったのに・・・
『こんにちは、首領様』
画面の美女がにっこりと微笑む。
『私はエミー。首領様はすでに改造獣を手に入れ、悪の組織としての第一歩を踏み出されました。これからは私が首領様の片腕としてアドバイスをさせていただきますわ。よろしくお願いいたします、首領様』
エミーと名乗った画面の女性はそう言って片膝をつく。
『エミーを使用しますか?:はい/いいえ』
「うわ、どうしよう・・・」
翔は迷った。
確かに悪の組織に幹部は必要かもしれない。
特撮にでてくる悪の組織には美女が幹部として出てくることも多い。
迷った挙句に翔ははいを選んだ。
『ありがとうございます首領様。やはり組織にとって必要なのは兵力ですわ。戦闘員を量産されることをお薦めいたします』
エミーはすくっと立ち上がると画面の端へ移動し、開いたスペースに戦闘員の概要を表示する。
「戦闘員?」
そこには改造室の隣にあるさまざまな生物を使って戦闘員を量産するカプセルが表示され、基本形が示されていた。
『ごらんのように戦闘員は手に入りやすい素材でお作りすることをお薦めいたしますわ。飛行生物型、四足歩行生物型、二足歩行生物型と基本形は取り揃えてありますので、首領様はただお選びいただくだけで結構でございます』
エミーの示す表示を翔は見る。
「戦闘員か・・・簡易改造型の改造獣と言ってもいい存在・・・手軽に作れるだけに戦闘力は改造獣の比ではないが、集団戦闘による戦闘力は侮れない・・・か。いいぞぉ」
以前の悪の組織にはこういった雑魚が重要な戦力として配置されていたはずだった。
最近の特撮には無いけど、翔はビデオで見て結構気に入っていたのだった。
「二足歩行タイプで行こうっと」
翔はもう決めていた。
悪の組織は人間を改造して戦闘員にするのだ。
だから翔も人間を改造することに決めていた。
「でもお姉ちゃんは戦闘員にはしない。お姉ちゃんは・・・ふふふ」
「ただいまー」
「「お邪魔しまーす」」
階下から複数の声が響いてくる。
どうやらお姉ちゃんが友人を連れてきたみたいだ。
翔は嬉しくなった。
戦闘員にする人間が向こうから来てくれたのだ。
幸運に違いない。
翔は転送機を用意して、部屋を出る。
階段から下を見ると玄関に三人の女子高校生が鞄を持って立っていた。
姉の友人の甲原玲奈(かんばら れな)と四坂澪(しさか みお)、それに瑞原明音(みずはら あきね)の三人である。
姉の恵美(めぐみ)は台所に向かっているらしい。
きっとすぐに悲鳴が上がるかもしれないので、翔は部屋に戻って急いでパソコンに名前を打ち込む。
玄関にいる三人は翔にも顔見知りで、いつも姉と一緒に遊びに来る人たちだ。
「甲原玲奈、四坂澪、瑞原明音・・・と」
パソコンに名前を打ち込み、レンズ状の装置を手に取る翔。
この三人は戦闘員として組織の一員に迎えてやろう。
翔はわくわくしながら階下の三人にレンズ状の転送機を向けた。
「キャー!」
台所で上がる悲鳴。
三人がぎょっとした瞬間、転送機が光り輝き三人の女子高生を飲み込んでいった。
「ただいまー。友達を・・・」
恵美の声が凍りつく。
台所で包丁を握っていたのは不気味な生物であり、それが振り向いて微笑んだのだ。
「キキキキ、お帰りなさい。恵美」
巨大な複眼と額に生えた触角。
背中には透明な薄い翅。
黒と緑に包まれ、硬い毛の生えた皮膚。
ハエと人間が混じったような化け物がそこにはいたのだ。
「キャー!」
恵美は思わず悲鳴を上げていた。
「あ、あああ・・・ば、化け物・・・」
後ずさり壁に背中を付ける恵美。
「キキキキキ、失礼ね。化け物だなんてひどいわ」
笑みを浮かべてゆっくりと近づくハエ女。
「あああ・・・お母さん・・・お母さんをどうしたの?」
あまりの恐怖にへたり込んでしまう恵美。
その顔は引きつっている。
「キキキキ、心配はいらないわ。お母さんはイレースの改造獣にしていただいたの。見て、この素敵な躰。最高なのよ。ホホホホ・・・」
口元に手の甲を当てて笑うハエ女。
その仕草は以前聖子がよくしていたものだ。
「か、改造?」
「キキキキ、そうよ。とても素敵なのよ。あなたをどうするのか首領様にお伺いしなければね」
ハエ女は恐怖のあまり動けないでいる恵美の首を掴みあげる。
「あ、あががが・・・」
すごい力で持ち上げられ、足をじたばたさせる恵美。
「キキキキ、少し眠っていなさい」
右手に少し力を入れ血流を制御するハエ女。
やがて恵美はくたっとなり気を失ってしまう。
「キキキキ、首領様にお届けしなくちゃね」
そう言ってハエ女は恵美を抱きかかえると二階の翔の部屋へ向かった。
「ハッ」
ひんやりとした風に目を覚ます恵美。
「こ、ここは?」
躰を起こそうとするが、何か枷のようなものを嵌められていて手足が動かせない。
「ああ、そ、そんな・・・」
首をまわして両手を見ると、手首のところが固定されていた。
「だ、誰か・・・誰か助けてぇ!」
「おとなしくしてよ、お姉ちゃん」
どこからか翔の声が聞こえる。
「し、翔? 翔なの? 聞いて、お母さんが・・・お母さんが化け物に・・・」
「失礼だなぁ、お姉ちゃんは。ハエ女が聞いたら気分を悪くするよ」
恵美の上から覗きこんでくる巨大な翔の顔。
「いやぁぁぁぁぁ!」
恵美の悲鳴が上がる。
「ふふふふ・・・僕はイレースの首領なんだよ、お姉ちゃん」
得意げな翔の顔。
それは恵美にある意味恐怖を感じさせる。
「しゅ、首領? 翔が?」
「そうさ。そして僕がお母さんを改造してあげたんだ。今じゃお母さんは僕の忠実な改造獣に生まれ変わったんだよ」
「く、狂ってる・・・翔、あなた気が狂ったんじゃないの?」
恵美は何とか逃げ出そうと必死に身をよじる。
しかし手足の固定はびくともしない。
「狂ってなんかいないよ。僕は日本を支配するんだ。僕が作ったイレースが日本を支配するんだよ」
翔のそばにはうっとりとした笑みを口元に浮かべたハエ女が寄り添っていた。
「ば、馬鹿言ってないで離してよ! いい加減にして!」
「ふふふふ・・・おねえちゃんもすぐにわかるよ。これからお姉ちゃんも改造獣にしてあげるからね」
翔が笑う。
「か、改造獣?」
恵美の顔色が蒼白になった。
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- 2006/02/13(月) 22:45:15|
- 悪の組織を作ろう
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トリノオリンピック始まりましたね。
冬季オリンピックということで、いまいち盛り上がらないような気もしますが、日本選手の活躍に期待です。
さて、今日はローネフェルトの投下をしますねー。
偽装作戦はどうなるのでしょうかー。
『こちらゴダミス丘陵守備隊。接近中の部隊、所属を明らかにせよ! 繰り返す、所属を明らかにせよ』
ミノフスキー粒子下でも明瞭に聞こえる通信。
直射のレーザー通信が入っているのね。
『こちらは捕獲物資輸送中の第452師団第452連隊第3大隊第1小隊。パイロットのジョージ・カールセンです』
ジムから通信が流れる。
『捕獲物資を本隊に輸送中であり、敵モビルスーツも捕獲しております。通行許可を願います』
『・・・・・・・・・』
ドキドキする瞬間。
こんな子供だましに引っかかるはずも無い・・・
それでも接近さえできれば勝機はある。
『第3大隊は二日前にアルジェに居たはずだが、どうしてここへ?』
『我々は大隊本隊とは別行動をとっている。疑うのは当然だが確認を取ってくれ』
『了解した。だがすぐにというわけにはいかんな。朝を待て』
これも当然。
疑わしき者を通すわけには行かない・・・か・・・
『そうしたいのはやまやまだが、こちらも任務です。我々が捕獲した敵モビルスーツの中には未知のモビルスーツ、おそらく新型が含まれていて、一刻も早く分析のために本隊に届けよとのアレキサンダー師団長よりの命令なんです』
『アレキサンダー師団長の?』
ブリーフィングで出た名前。
実在の連邦軍アフリカ方面隊第452師団の師団長。
そのぐらいは私たちにもわかっているということね。
『・・・・・・・・・』
時間が流れる。
『もう一機のジムのパイロットは?』
「あ、はい。第452師団第452連隊第3大隊第1小隊所属、キャサリン・グリンウッド曹長です」
私は襟元を引き締めて通信に出る。
正面右上のパネルが点灯して連邦軍の士官が映し出された。
私は不自然に見えないようにジムを操縦して行く。
着々と私たちは丘陵の細い道を進み、敵の懐に入って行く。
『了解した。こちらの資料にもカールセン少尉とグリンウッド曹長がパイロットということで登録されている』
顔写真つきかしら?
『通過を許可します。どうぞ気をつけて』
嘘・・・
連邦には警戒心がまったく無いのかしら?
『・・・・・・感謝します』
ヒューリック大尉も戸惑ったようだわ。
一瞬答えに詰まったよう。
もしかしてこれは・・・罠?
私は手のひらにじっとりと汗をかいているのがわかった。
粛々と道を進む我が中隊。
先頭のヒューリック大尉のジムも何となく動きがぎこちなく見える。
もしかして私はもっとぎこちないのかしらね。
いつも乗りなれた06系や07系と操作がそれほど変わらないのが救いだけど・・・
タンクもどきやジムが我々の行軍を見つめている。
その砲身はいつでもこちらに向けられるだろう。
最初の一弾をどちらが撃つのか・・・
どうか・・・
どうかこのまま私たちを行かせて・・・
丘陵の間を通る部分に差し掛かる。
ここを通り抜ければ・・・
もしかしたら・・・
私は淡い期待を抱いてしまった。
『キャシー! 本当か? 本当にお前なのか? 俺だ、兄のマークだ。顔を見せてくれ!』
私のジムに通信が入る。
私は息を飲んだ。
最悪だ・・・
まさかこの軍服の持ち主の身内が居たとは・・・
『キャシー! キャシー! 連絡が取れなくて心配だったんだ。顔を見せてくれ』
『グリンウッド曹長は任務遂行中です。私用通信はやめていただきたい!』
ヒューリック大尉の助け舟。
でも、おそらくは無理だわ。
『あ、ああ、すまない少尉。私はマーク・グリンウッド中尉だ。妹のキャシーとは今までしばらく会えなかったんだ。顔ぐらい見ても構わんだろう?』
丘陵の頂上付近で手を振ってくるジムが居る。
あれがグリンウッド中尉の機体?
『わかりましたグリンウッド中尉殿。曹長、顔を見せてやれ』
「はい・・・」
私は観念してマシンガンのトリガーボタンに指をかけた。
「久し振りですね、兄さん」
私は通信をつなぐ。
実直そうなメガネをかけた青年がそこには映し出された。
『お、お前は?』
『各機起動! 攻撃だぁっ!』
ヒューリック大尉のジムがマシンガンを撃ち始める。
丘の上からこちらを覗き込んでいたグリンウッド中尉のジムがまず蜂の巣になっていった。
『うわぁっ!』
コクピットが爆発に包まれるのが映し出される。
私は思わず目をつぶる。
この軍服を着ていた兄と妹を私たちは殺してしまった・・・
だが、それが戦争。
殺らなければ殺られてしまう。
私は慌てて戦闘体勢をとり始めた連邦軍に向かってマシンガンのトリガーボタンを押した。
サムソンのトレーラーから横に転がり落ちるアヤメのMS-06Dザクデザートタイプ。
直接起き上がるリスクを避けた上手い行動だわ。
案の定連邦のタンクもどきの主砲弾がトレーラーを直撃する。
『オクストッ!』
ヒューリック大尉の悲痛な声。
ジョン・オクスト少尉の07Bか?
振り返るとサムソントレーラーから起き上がりざまを撃ち抜かれたオクスト少尉の07Bがドウッと倒れるのが見えた。
『オクストッ! 馬鹿者め!』
ヒューリック大尉が無念を振り払うようにマシンガンを撃つ。
私はブラウン伍長のサムソンに近づいてシールドを取り出した。
『ジオンだぁ! ジオンの襲撃だぁっ!』
『こちらゴダミス丘陵守備隊! こちらゴダミス丘陵守備隊! ジオンの攻撃を受け交戦中。救援を請う。救援を請う!』
『ガンタンクⅡ3番機は左の敵を撃てぇ! 左だぁっ!』
慌てふためく連邦の通信。
『お姉さま!』
あうー・・・
「ミナヅキ少尉! 普段はお姉さまはやめなさいって言っているでしょ!」
『了解ですぅ。お姉さまぁ』
わかっていない・・・
私は苦笑した。
「気をつけて。周り中は敵だらけよ! キャウッ!」
そう言っている間にもシールドに敵弾を受ける。
『お姉さまっ! よくもぉ!』
「アヤメ、私は大丈夫。気をつけて!」
私は体勢を立て直す。
いつもならこの連邦のシールドには手を焼くのだけど今日は感謝ね。
『食らえぇ!』
アヤメのデザートザクのマシンガンが火を噴く。
近づいて来ていたジムの一機が装甲を撃ち抜かれてダウンする。
だが敵は多い。
あちこちからの集中砲火が私たちのモビルスーツを狙ってくるのだ。
『山猫、付録、エヴァ、走り回るんだ! 囲まれるな!』
ヒューリック大尉の指示が入る。
ふふふ・・・
私が山猫なのはいいとして、アヤメは付録・・・か。
『大尉殿!』
『こっちだぁ! エヴァ』
私が振り向くと一機の09?がホバー機動しながらバズーカを発射していた。
「ドム? それにしてはちょっと感じが違うか・・・」
『エヴァ・ラフィード准尉のトロピカルドムテストタイプだそうですぅ』
アヤメのデザートザクが私の背後につく。
「トロピカルドム?」
ここにもテスト機か・・・
私はマシンガンを発射して展開しつつある61式を掃射した。
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- 2006/02/12(日) 19:05:24|
- ガンダムSS
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帝国陸軍チハ車。
ご存知の方も多いでしょう。
有名な九七式中戦車のことです。
日中戦争から太平洋戦争にかけての主力戦車であり、結局終戦まで使い続けられた戦車でした。
チハと言う名称は陸軍の設計順番を表わしており、チは中戦車のチで、ハはイロハニホヘトのハ、つまりチハ車は日本陸軍の三番目の設計の中戦車ということになります。
チハ車が設計された当時、陸軍では戦車というものに対する基本姿勢が定まっておらず、同時に二種類の戦車を試作して比べてみるといったことが行なわれていました。
そのとき同時に作られた試作車両がチニ車です。
四番目の中戦車ですね。
九五式軽戦車のときも述べましたが、運用する側の戦車部隊側としては多少の機動力を犠牲にしても装甲の厚く攻撃力の充実した戦車を求めておりました。
一方参謀本部は数が問題であるとして、多少の装甲防御力や攻撃力を犠牲にしても軽くて安く大量に作れる戦車を求めていました。
お互いの言い分は決着がつかず、結局チハ及びチニという二種類の中戦車を作ってみることになったのです。
九五式軽戦車を一回り大きくしただけのようなチニ車は、確かに安価でまとまった小型戦車ではありましたが、装甲も薄く、一人用砲塔のために発射速度も制限されるために、かえって八九式中戦車よりも攻撃力で劣るものでした。
しかし、安く数を作れる戦車というコンセプトは満たしており、装甲も厚く攻撃力にも優れたチハ車と容易に優劣は付けられませんでした。
この状況を打破したのが、折から始まった日中戦争でした。
日中戦争が始まった以上、経済的観点からの兵器開発は鳴りを潜め、攻撃力重視の兵器開発に重点がシフトすることになりました。
そのためチニ車よりも攻撃力も防御力も高いチハ車が正式に採用されることになったのです。
チハ車の特質についてはまた次の機会に。
それではまた。
- 2006/02/11(土) 22:53:18|
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闘姫陵辱の12、買ってきましたー。
みたくるみ先生の「ソウルレイザー☆ユナ」、もう期待以上の素晴らしさに感激。
必死に気丈に陵辱に耐えるユナが、心の弱点を突かれてじょじょに憎しみを呼び覚まされていくあたりは最高です。
次回が実に待ち遠しいですね。
他にも「魔法特捜グリーディア」や「ミュータントバスター」など、今回は豊作でした。
いずれも連載物となっているので、一発単品というわけではないため、次回での展開に期待なものが多いのですが、二次元エンドでなければいいなぁ。
今日は短いですが、これにて。
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- 2006/02/10(金) 22:22:15|
- 本&マンガなど
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夕べ書きました宗谷の記事の訂正です。
戦後灯台補給船として利用された宗谷が、その後お役御免となったと書きましたが、そんなことは無く、灯台補給船として利用中に南極観測船へ転用されることが決まったようです。
そのために海上保安庁は宗谷を巡視船に種別変更して、南極観測船へと改造したんですね。
南極観測に利用された後は再び巡視船として昭和53年まで使用されました。
その後船の科学館で余生を送っています。
記事に誤りがあったことをここに訂正し、お詫び申し上げます。
すみませんでした。
- 2006/02/10(金) 08:49:38|
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昭和13年。
ソ連向けの砕氷型貨物船として竣工した一隻の貨物船がありました。
しかし、国際情勢の悪化などにより、ソ連が契約を破棄。
この貨物船は行き場を失って、辰南汽船会社が引き取り「地領丸」という名前として使用します。
のちに帝国海軍が購入。
整備の上で昭和15年に運送艦「宗谷」として就役しました。
もともと砕氷型輸送船として建造された宗谷は、北方海域での輸送や、兵装を施しての警備行動、測量、気象観測といった多岐にわたる任務に投入されました。
さらに太平洋戦争が開始されると、南方戦線への物資輸送などにも使用され、文字通り東奔西走することになります。
幸い無事に生き残り終戦を迎えた宗谷は、今度は戦後発足した海上保安庁に所属することになります。
海上保安庁では灯台補給船として使われました。
その後老朽化したためにお役御免となるのですが、宗谷にはまだ引退することは許されませんでした。
国際共同による南極観測に戦後独立を果たした日本は参加を表明します。
その観測地点への補給業務には砕氷船が必要でした。
しかし、新造するにはコストも掛かり、また時間もかかるために、何とか適当な砕氷船が無いかと探されることになるのですが、その時に白羽の矢が立てられたのが宗谷でした。
もうぼろぼろになっていた宗谷でしたが、「プロジェクトX」に紹介されたほどの徹底した改造で、南極観測船として生まれ変わります。
宗谷はその任務を見事にこなし、南極観測には砕氷船が不可欠であると同時にその存在価値を大いに知らしめました。
そのため日本は南極観測船をその後「ふじ」「しらせ」と建造することに繋がります。
南極観測船としての任務をふじに継いで引退した宗谷は、その余生を船の科学館で今も過ごしています。
ソ連が引き取っていたならばこれほどの生涯にはならなかったでしょうね。
宗谷にとっては幸だったのか不幸だったのか・・・
私は紛れも無く幸運だったのではないかと思っています。
紆余曲折を経て今も残るということはそこらの船にはできないことでしょうからね。
それではまた。
- 2006/02/09(木) 22:38:07|
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日本最初の航空母艦はご存知でしょうか?
答えは「若宮」
水上機を運用する水上機母艦なんですが、日本で最初に航空母艦という艦種に類別されたんですね。
もともとは日露戦争で手に入れたロシア商船で、輸送船として海軍にご奉公していたんですが、大正2年の演習に水上機3機を搭載して参加。
以後水上機を運用する水上機母艦としてその使用法を研究し、第一次世界大戦では青島攻撃に参加。
その搭載機を活用して偵察などの任務を遂行しました。
以後艦隊に所属する航空機搭載艦として大正9年に日本で始めての航空母艦として類別されました。
もっとも、もともと輸送船でしかない本艦は搭載機もわずかに水上機が常用二機プラス補用二機でしかなく、航空機を戦力として運用するには力不足でした。
飛行甲板を持つわけでもなく、備えつけられたデリックで搭載機を吊り下げ、水面に下ろして自走発進させるという、まさに特設水上機母艦でありましたが、世界で最初に水上機母艦として戦闘に参加した艦でした。
全通飛行甲板を持つ「鳳翔」はまだ完成していない時期であり、わずかな搭載機しか持たない若宮でしたが、その海軍航空に対する貢献はなみなみならぬものがあり、まさに海軍航空隊の黎明期を支えた功労艦だったんですね。
老朽化のため昭和6年には除籍されましたが、こんな軍艦もあったんだなと思っていただければ幸いです。
それではまた。
- 2006/02/08(水) 22:34:36|
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えーと、本来ならホーリードールの更新をする日なんですが、ちょっと書いてみたくなったものがあったのでそちらを書いてみちゃいました。
この作品を書く元となったネタを下さったg-than様にこの場を借りてお礼を申し述べさせていただきます。
ホーリードールはまた日を改めて書きますので、お待ち下さいませ。
それでは投下です。
1、
「あーあ・・・明日は家庭訪問かぁ・・・いやだなぁ・・・」
面白く無さそうに足元の小石を蹴る。
小石はアスファルトの道路を音を立てて転がって行く。
鞄を持った少年はとぼとぼと独りで帰り道を歩いていた。
ここは小学校の通学路ではあるものの、新興住宅街であるため雑木林も多く、少年が歩いている道路もまわりは林が続いていて人通りは少ない。
変質者などの噂は出ていないが、何かあった時に助けを求めるのは困難だろう。
少年は憂鬱だった。
学校では目ぼしい友達も居なく、成績だってあまり良いほうではない。
虐められているわけではないものの、孤立しているには違いなかった。
そのことを担任の芹蔵亜希子先生が気に掛けていて、明日家庭訪問に来ることになっていたのだった。
芹蔵先生は嫌いな先生ではない。
しかし、あること無いこと言われて母親からお小言を受けるのはいやだった。
そして、そうなるであろう確率は非常に高いのだ。
「いやだなぁ・・・」
もう何度つぶやいたかわからないその言葉を少年は再びつぶやく。
また足元に転がっている小石を彼は蹴飛ばした。
石は勢いよく飛び出し、道路脇の林へ入って行く。
その様子をただ眺めていた少年は、その林の中に大きなトランク型のケースが二つ転がっていることに気がついた。
「あれ? なんだろう?」
少年はその黒いトランクケースが気になって林の中に入って行く。
このあたりの雑木林は人目に付きづらいこともあって不法投棄がよく行なわれるのだが、そういったものはたいてい壊れたりしたテレビとかであり、少年の気を引くようなものではなかった。
しかし、今林の中にあるのは大きな旅行鞄のような黒いトランクケースであり、しかも薄汚れていない捨てられたばかりのようなものが二つだったのだ。
少年はケースのところにたどり着くとそれを開けてみようと思った。
しかし、鍵が掛かっているのかスライドスイッチをずらそうとしても開かない。
「ちぇっ。開かないや」
二つとも試してみたが両方とも開かない。
「こっちも開かないや・・・」
少年はちょっと残念そうにしてその場を立ち去ろうとした。
しかし、二三歩歩いたところで立ち止まる。
「う~・・・気になるなぁ。中身は何なんだろう」
少年は振り向いてそう言うとトランクケースのところへ戻り、取っ手を持ち上げる。
「あ、そんなに重く無いや。これなら持って帰れるかな」
家に持って帰れば工具もあるし開けられるだろう。
開けてみて何かまずいものだったらおまわりさんに届ければいい。
少年はそう思うと、トランクケースを道路まで運び出す。
トランクケースはそれほどの重さではなく、下にキャスターが付いていたので道路まで持ち出せば転がして行けそうだった。
少年は二つのトランクケースを道路まで運び出すと、鞄を背中に背負ってガラガラと両手にトランクケースを持って引き摺って行く。
その様子はどこか滑稽でもあったが、少年は中身のことが気になって気になってひたすら自宅への道を急いでいた。
「ただいまー」
少年は自宅の玄関を開けて入り込む。
「お帰りなさい。おやつの用意があるから手を洗っていらっしゃい」
キッチンの方から優しい母親の声がする。
今年37歳の母親は充分に美しく、料理も得意でいつも美味しいおやつを作ってくれる。
「はあーい」
少年はそう言ったものの、すぐに二階の自分の部屋へトランクを運び込もうと階段を上り始めた。
「よいしょ、よいしょ」
大きなトランクケースはそれだけで少年の手に余る。
少年は必死になって何とか一つ目のケースを部屋に運び込む。
「ふう・・・」
汗がじわっと吹き出てくる。
「翔? 何やっているの?」
階下から母親の声がする。
「何でもないよ、鞄を部屋に置いているだけ」
嘘ではない。
少年は鞄を部屋に置き、上着を脱ぐとハンガーにかけて階下へ向かう。
そしてまた大きなケースを抱えてよろよろと階段を上がり始めた。
「翔?」
「お母さんに見せるプリントがあったんだ、取ってくる」
少年は必死になってごまかし、二つ目のケースも何とか部屋に運び込む。
こんな大きなものを拾ってきたと知ったら、きっと母親はいい顔はしないだろう。
少年は鞄から今日たまたま配られたお知らせのプリントを持って階下に下りていった。
チーズケーキを食べ終わった少年はすぐに自分の部屋に戻る。
部屋には先ほど運び込んだトランクケースが鎮座していた。
「ようし」
少年は力強く頷くとトランクケースを開けるためにケースの前にしゃがみこんだ。
スライドスイッチは再び試してもびくともしなかった。
しかも鍵穴らしきものも無い。
ところがよくよく調べてみると、側面にスライドカバーがあって、そこをスライドさせるとパソコンによく見られるようなUSB端子のような差込口のついたケーブルが現れる。
「あれ? パソコンとつないでキーロックするタイプなのかな?」
そんな鞄は聞いたことも無いが、とりあえず試してみることにする。
机の上のノート型パソコンを手元に寄せ、そのケーブルをUSB端子に差し込んでみる。
驚いたことに何となく形が違うような気がしたのだが、差込口に当てるとケーブルはぴったり嵌まった。
「当然か・・・規格で作られているんだし・・・」
少年はパソコンを立ち上げて、新しく接続された機器を認識させる。
するとパソコンの画面に変化が現れた。
『生体認証:OK』
『データ登録を行ないますか?:はい/いいえ』
データ登録?
少年は気になったものの、中身を見るという誘惑に負けて、はいを選ぶ。
『名前を入力してください: 』
た、き、ざ、わ、しょ、う・・・と。
漢字変換して入力する。
『名前を入力してください:瀧澤 翔』
Enterキーを押す。
『性別は存在しますか?:はい/いいえ』
性別がって・・・もちろんはいだよね。
翔ははいと入力する。
『性別区分を入力してください: 』
男性・・・と。
『性別区分を入力してください:男性』
Enter。
『生体年齢を入力してください: 』
生体年齢?
要するに歳ってことだよね・・・
『生体年齢を入力してください:11』
Enter。
『あなたの居住地域では?:成年/未成年』
未成年に決まっているよね。
『入力されたデータに間違いはありませんか?:はい/いいえ』
はい・・・と。
『入力されたデータを登録します。よろしいですか?はい/いいえ』
はい・・・と。
『データ登録が終了いたしました。お買い上げありがとうございました。これより起動いたします』
「ええっ?」
翔は驚いた。
まさかこれで僕が買っちゃったことになるんだろうか・・・
うわぁ、だとしたらすごくヤバいや。
翔は取り消しをしようと思ったものの、パソコン画面は一切の制御を受け付けず、カチッと言う音とともにトランクケースが二つとも開いてしまった。
「うわぁっ」
がたんと音を立ててトランクケースは片方を下にして開いている。
恐る恐る中を覗いてみる翔。
「えっ?」
トランクケースの中は驚いたことにミニチュアのセットだった。
「ミニチュア?」
それはすごく精密にできた特撮に出てくる秘密のアジトそのものだった。
片方のトランクは中を二つに仕切られ、その片方はふたを背景にするように壁におどろおどろしい髑髏のマークがかかれていて司令室になっている。
もう片側には通路を挟んでまた部屋があり、中央に円形の台があって周囲にいろいろな機械が取り巻いている。
「もしかして・・・改造室かな?」
翔は特撮は結構好きだった。
悪の組織と戦うヒーローもかっこよくて好きだが、悪の組織の首領になってみたいという気持ちも確かにあって、こういったアジトはすごく興味があったのだ。
もう片方のトランクはいくつかの部屋に仕切られている。
居住区と思われる部屋や、トレーニングルームなどもあるし、科学者用の実験室もある。
そしてこの二つのトランクは互いに隣接させることで接合でき、互いに行き来ができるようになっていた。
まさに二つ合わせることでミニチュアの悪の秘密結社のアジトのセットが出来上がるのである。
「へえ、よくできているなぁ」
翔は感心する。
こういったミニチュアは結構誰でも見ていて楽しいものである。
翔もいつしか見入ってしまっていた。
ピーという警告音がパソコンから流れる。
「あれ?」
翔はパソコンの画面を見た。
『このたびは弊社&%¥@#製の“悪の組織をつくろうDXセット”のご購入、誠にありがとうございました』
「悪の組織をつくろうDXセット?」
これはおもちゃなんだ・・・
きっと誰かが購入したものの、使えなかったか何かで捨てられていたんだ・・・
翔はわくわくしてきた。
悪の組織を作れるおもちゃなんて聞いたことが無いけど、きっと面白いに違いない。
『このセットは先に発売されました“悪の組織をつくろう基本セット”に追加キットであります“悪の組織をつくろう追加キット”をセットにした商品であり、内容に変更はありません』
「へえ、そんなセットがあったんだ」
翔は結構特撮のテレビ番組を見ているのだが、そんな商品のコマーシャルは見たことが無い。
『この商品は実際に悪の組織を運営する上での出来事をシミュレーションする玩具であり、法律上の許可も得ておりますが、くれぐれもA及びBランクの知的生命体への改造実験は行なわないようにしてください』
「A及びBランク?」
何のことかわからない。
『お客様は未成年との登録をされておりますので、くれぐれも保護者の方とご一緒にお楽しみになられますようお願いいたします』
「あ、それは無理だよ・・・」
翔の母親は特撮やアニメにはほとんど興味を持ってくれないのだ。
翔が勝手に見ているのを止めもしなければ一緒に見ようともしない。
きっと一緒に遊んでと言ったって遊んでくれるはずが無いし、翔にしても一緒に遊ぶなんて子供っぽい真似はしたくない。
『保護者の方々へ』
『商品の安全には充分気を配っておりますが、お子様が違法行為を行わないようご注意をお願いいたします』
「おもちゃで違法行為って何なのさ」
『それではお楽しみ下さいませ』
翔はわくわくしながらスタートにカーソルを合わせてクリックした。
『悪の組織本部へようこそ。このアジトはあなたのために設えられましたあなた専用の秘密のアジトです。どうぞお楽しみ下さいませ』
画面が暗くなり、怪しい感じのBGMが流れ始める。
『まずは組織の名前をお決め下さい。首領様』
翔はぞくっとした。
首領様・・・
いいぞいいぞ・・・
そうだ僕は首領様なんだ。
「えーと・・・何がいいかなぁ・・・」
翔はしばしモニターの前で悩みこむ。
「ゲームに出てきた悪の組織の名前をそのまま使おうっと・・・」
翔はイレースと打ち込む。
『組織名はイレースでよろしいですか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
『組織名はイレースとなりました。それでは組織運営についてのアドバイスを受けますか?:はい/いいえ』
どうしようかな・・・
翔はとりあえずはいでクリックする。
『それではまず組織に忠実な改造獣を作りましょう。組織の尖兵として破壊活動や誘拐、暗殺など首領様の手足となって働く人造生命体です』
「へえ、改造獣か・・・モンスターってところだな」
『まずは首領様の手近に居る生物を改造獣にすることをお薦めします。その方が手に入れやすいでしょう』
『改造する生物を入力してください: 』
「手近の生物か・・・何がいいかなぁ。」
翔は考える。
そのとき部屋の片隅を飛び回るハエが目に入る。
「こんなものでもいいのかな・・・」
翔はパソコンに向かってハエと入力する。
『改造する生物を入力してください:ハエ』
これでよしと。
『改造する生物に向かってキットの転送機を向けてください』
転送機?
これかな?
翔はトランクケースの脇についている四角いレンズ状のものを取り、飛んでいるハエに向ける。
『取り込み開始』
すると一瞬のうちにハエが消え去り、改造室の隣の捕獲室にハエが捕らえられていた。
『取り込み完了』
「へえ、本当に生き物を改造するのかな? すごいや」
翔はもうドキドキしていた。
『改造獣は二種類の生物を合成することが可能です。第二の生物を選んでください』
「第二の生物か・・・何がいいかなぁ」
翔は周りを見渡した。
「翔、翔! いつまで遊んでいるの? 少しは手伝ってちょうだい」
階下から母親の声が聞こえてくる。
「ああ、もう、うるさいなぁ」
いつもそうだ・・・
お母さんはいっつも勉強しろとかお手伝いしろとかしか言わないんだ。
こっちにだって都合があるのに・・・
そうだ。
人間なんて大きいものはどうせ無理だろうけど・・・
お母さんを改造獣にしちゃえば僕の言いなりになるんだ。
お母さんの改造獣を作ってこき使ってやるぞ。
翔はそう決めると第二の生物として瀧澤聖子と打ち込んだ。
『転送機を向けてください』
「向ける相手が居ないよ・・・」
そういいながらも翔はレンズ状の物体をドアの方へ向けた。
「翔! 入るわよ!」
「えっ?」
翔は驚いた。
いつもなら下へ降りて行くまで待っているのに・・・
今日は急ぎの用事だったらしい・・・
「急いでお使いに行ってちょうだ・・・えっ?」
レンズ状の物体が輝く。
「嘘だろ!」
「キャァッ!」
一瞬のうちに母親の姿は消え去っていた。
「お母さん! お母さん!」
翔は叫んだものの、母親はすでに転送されてしまい、捕獲室に捕らえられていた。
「こ、これはどうことなの? 翔! すぐにここから出して!」
聖子が周囲を見ると、無機質な何も無い部屋に閉じ込められていた。
片面だけがアクリルのような透明な壁になっていて、扉もあるもののまったく開けることができないのだ。
しかもそこから見える部屋の様子は、まるで自分が小さくなってしまったかのように見える。
「翔! 聞いてるの? 翔!」
「お母さん、ごめん。まさか取りこま・・・」
「キャァッ!」
翔が覗き込んだ途端に悲鳴を上げる聖子。
巨大な翔の顔が覗き込んできたことで驚いたのだ。
「し、翔・・・これはいったいどうなって?」
わなわなと震える聖子。
そこへパソコンの警告音が鳴る。
『取り込み完了。改造を開始します』
「わ、わあっ!」
慌てて取り消そうとする翔。
しかし、パソコンは受け付けない。
『改造作業中は改造終了まで操作できません』
「ち、違う! 違うんだぁっ!」
必死になってパソコンからケーブルを抜こうとする翔。
だがケーブルが抜けることも、電源を切ることもできない。
「ああっ! いやぁっ!」
聖子の悲鳴が再び上がる。
どこかから現れた円筒形のロボットのような物体が、聖子の居る捕獲室へ入ってきたのだ。
「くそっ! やめろぉっ!」
「いやぁっ! ヒッ!」
ロボットは聖子に電撃を与えて失神させると、そのまま引きずるようにして改造室へ連れて行く。
「ああ・・・あああ・・・」
それを翔は黙って見ているしかできなかった。
「ん・・・んん・・・」
うっすらと目を開ける聖子。
その目が自分を見下ろしている翔の巨大な顔を捉える。
「ひあっ! し、翔?」
「お母さん、ごめんね。もう止められないんだ・・・」
巨大な翔が首を振る。
「ど、どうなっているの? 私は・・・私はどうなるの?」
聖子は躰を起こして立ち上がろうとする。
しかし、その躰は台の上に固定され、身動きが取れなくなっていた。
「あ・・・いやぁっ! な、なによこれぇっ!」
「お母さんはこれから改造されるんだよ。僕の作った組織“イレース”の改造獣になるんだ・・・」
「ば、馬鹿なこと言ってないで私を早く出しなさい!」
必死になって躰をよじる聖子。
しかしがっちり固定された躰はどうにもすることができない。
「無理だよ・・・もう僕にもどうすることもできないのさ。それに・・・綺麗だよ・・・お母さん」
「えっ?」
聖子は自分が裸になっていることに気がついた。
「いやぁっ!」
思わず身をよじる聖子。
しかし両手両脚を固定されている今はどうしようもない。
聖子はただ恥ずかしさのあまり顔をそむけた。
「ヒッ!」
息を飲む聖子。
そこにはカプセルに入れられた巨大なハエが翅を震わせて彼女をにらんでいた。
「嘘・・・こんな巨大なハエが・・・」
「ハエが巨大なんじゃないんだ・・・お母さんが小さくなったんだよ・・・」
「わ、私が・・・?」
聖子は巨大な自分の息子を見上げる。
「これは何かの間違いよ・・・私は夢でも見ているんだわ・・・」
「ごめんなさい、お母さん。でもこれは夢じゃないんだ・・・お母さんはそのハエと融合して改造獣になるんだよ・・・」
翔は次第に興奮してきていることに気がついていた。
まだ充分に美しいお母さんの裸体。
それがハエと融合し、どんな姿になるのか?
改造獣になった人間がどうなるのか?
もしかしたら自分は本当にすごいものを拾ってしまったのかもしれない・・・
「そ、そんな・・・そんなのはいやぁっ!」
聖子の何度かの悲鳴が上がる。
ピー・・・
警告音だ。
翔はモニターを覗き込む。
『改造獣作成開始します』
翔はうっすらと笑みを浮かべた。
聖子の寝かされている台の周囲から幾つもの機械がせりあがってくる。
「いやぁっ!」
カプセルの中ではハエがどろどろに溶かされていき、その液体が泡を立てて床下に吸い込まれていく。
「たすけてぇっ! 翔!」
聖子が叫ぶ。
だが、その聖子に容赦なく機器が襲い掛かる。
躰のあちこちに打ち込まれるチューブを伝ってさまざまな液体が体内に注入されていく。
それと同時に周囲からさまざまな光線が照射され、聖子の細胞を活性化していく。
液体と光線の照射によって聖子の細胞は変化を受け入れ、ハエの遺伝子を受け入れて行く。
「あが・・・あががが・・・」
変化にともなう激痛が聖子を襲う。
それと同時に頭部に埋め込まれた電極からさまざまなパルスが送り込まれていく。
ビクビクと躰をしならせて痙攣する聖子の裸体は翔の股間を硬くさせ、まだあまり感じたことの無い性への欲望を感じさせた。
「あが・・・た・・たすけ・・・」
苦痛に躰を震わせている聖子。
「素敵だよ、お母さん」
翔の目の前で聖子はじょじょに躰を変化させ始める。
「あがががが・・・」
美しく滑らかだった手足に黒々とした剛毛が生え始め、じょじょに全身が黒と緑色の混じったつややかな皮膚に変化して行く。
「グギグギギギ・・・キ・・・キキキ・・・キキキキキキ」
聖子の声色が変わってくる。
肉体の変化とともに思考も変化し始めてきたのだ。
「キキ・・・キキキキ・・・」
聖子の目の周りが大きく変化し始め、巨大な複眼が形成されていく。
額からは触角が伸び、小刻みに震えている。
「キキキキキキキ」
口元だけを残し、聖子の躰はハエと人間の融合した改造獣へと変化していった。
パソコンの警告音が鳴る。
『改造獣が完成しました。名前をつけてください: 』
翔はベッドの上で薄く笑みを浮かべて横たわっているハエと母親の合体した生物を見つめる。
「は、え、お、ん、な・・・と」
『改造獣が完成しました。名前をつけてください:ハエ女』
Enter。
『改造獣ハエ女の完成です。声を掛けてあげてください。首領様』
翔はゾクゾクする喜びを感じた。
ハエ女だ・・・
お母さんはハエ女になったんだ・・・
もう僕の思いのままに動くんだ・・・
翔はパソコン画面で固定解除をクリックする。
カシンと音がして、ハエ女の手足の固定が解除された。
「キキキキキキ」
ゆっくりと立ち上がるハエ女と化した聖子。
ハイヒール状と化した脚でカツコツと音を立てて改造室を後にする。
そのままハエ女は司令室に入り、髑髏のレリーフの前に立った。
「ふふ・・・ふふふ・・・気分はどうだいハエ女?」
その声は髑髏のレリーフより発せられる。
司令室を覗き込む翔。
ミニチュアサイズだが、紛れも無く改造獣となった母親がそこにはいた。
「キキキキ・・・最高の気分ですわ首領様」
すっと膝をつき、敬意を表するハエ女。
「キキキキ、私はイレースの改造獣ハエ女。首領様、何なりとご命令を」
「はは・・・はははははは」
翔は笑いをこらえ切れなかった。
「これで・・・これでお母さんは改造獣だ。僕の言いなりなんだ! あははははは」
部屋には翔の笑い声がいつまでも響いていた。
[悪の組織をつくろう]の続きを読む
- 2006/02/07(火) 18:20:24|
- 悪の組織を作ろう
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私の住む北の大地で、冬の名物「サッポロ雪祭り」が始まりました。
今日は天気もよく、上々の滑り出しだったと思いますが、今年から自衛隊の参加規模の縮小にともない、真駒内駐屯地での開催が行なわれなくなってしまいました。
私が小さい頃は自衛隊の方に氷の滑り台に乗せてもらったり、普段見ることができない駐屯地内の売店や食堂で食事ができたり、たまに展示しているわけではないのですが、駐屯地に停車している戦車を見ることができたりと、非常に楽しみがあったんですけどね。
今年からは自衛隊員がただ雪像を作っているのを見るだけになってしまいましたですね。
新しいサッポロさとらんど会場はどうなのかなぁ。
子供たち用の滑り台とかあるのかなぁ。
さて、今日はローネフェルトさんの更新です。
ではではお楽しみいただければと思います。
ガタガタと砂利道を進むサムソントレーラー。
指揮車両のホバートラックを含め、中隊の車両の半分は連邦製。
さらにはモビルスーツまで連邦製。
我がジオン製のものは破壊されるか、修理用の部品が届かずに使用不能。
連邦軍の物資を奪い続けて戦う日々。
本国からの補給を待つよりもその方が武器も物資も手に入れることができる・・・
「末期症状ね・・・」
サムソンの助手席でポツリともらした私の言葉は運転席のブラウン伍長の耳に届いてしまったらしい。
「えっ? 何かおっしゃいましたか?」
「独り言よ。気にしないで」
私は笑ってごまかす。
地球の各地で我がジオン軍は後退を強いられている。
そんなことをこの少女が知ったところで益は無いわ・・・
小柄な少女でありながら、ブラウン伍長はこのサムソンを転がして行く。
砂漠と言っても砂ばかりではない。
このあたりは砂利が多く、タイヤには過酷な条件だろう。
明日あたりには多少は地形も変わるはず。
もっとも、そこには連邦軍の哨戒ラインがあるというし・・・
アヤメにも気をつけなければならない・・・か・・・
指揮車両の音響センサーと熱源センサー。
連邦製のセンサーの性能の良さに私は舌を巻く。
この距離から丘の周囲の連邦軍の配置がわかるなんて・・・
指揮車両に集まった私たちの前に模式図が示される。
「居るとは思ってはいましたが、これほどとは・・・」
「まったくだな。情報が漏れているということか・・・」
私の言葉にヒューリック大尉も頷く。
オーネトの油田まで行けば宇宙へ帰れる・・・
その情報がネズミ捕りの餌のようにジオンの孤立した部隊を引き寄せる。
もしかしたら・・・
その情報そのものが連邦の罠なのかもしれない。
模式図に示された光点。
それは無数にも思えるほどの光点。
「やはり我らの戦力で突破できるものではないか・・・」
ボスマン少佐も両手をテーブルにつき顔をしかめている。
「半数は戦車とミサイルバギーだろう。さらに残りの半数はミサイルホバーといったところか。しかし、それでもなお残り四分の一はモビルスーツか・・・」
「十数機のモビルスーツですか。歓迎されていますね」
「まったくだな。しかも連邦製のモビルスーツは侮れないと来ている。そうなんだろう? 山猫殿?」
ヒューリック大尉がにやりと笑う。
「ええ、山猫として意見を述べさせていただければ、連邦製のモビルスーツはまさにザクを凌駕しています。反応性、機動力、武装、どれをとってもザクを上回る上に操縦のしやすさこそ特筆すべきものです。パイロットの疲労度が比べ物になりません」
「そうか・・・グフやドムでも苦しいか?」
ボスマン少佐がため息をつきながら椅子に腰を下ろす。
「同数であれば・・・同数であれば、我が方が上です・・・」
そう・・・これが曲者・・・
我が軍が連邦とモビルスーツの数で上回れることはもはや無い。
開戦以来一年近く・・・
次々と私たちは仲間を失った・・・
今や本国はパトリシアのような学生にまで戦場に送り出してくる。
「同数ならば・・・か。もはや望めんな」
「まったくです。さて、暴れるか、山猫さん?」
「はい、ヒューリック大尉」
ヘルメットを片手にしてにこやかにウインクをしてくるヒューリック大尉。
私はにっこりと頷いた。
丘陵の間を通る道。
それを制するかのように布陣する連邦軍。
煌々とライトを照らしてその存在を隠そうともしない。
夜襲を防ぐというよりも、その戦力を誇示することでこちらの戦意を挫くつもりなのだろう。
丘の頂上には砲撃力にまさるガンタンクとか言う戦車もどきが陣取り、その周囲をジムが固めている。
夜の闇にまぎれながら接近した私たちは、息を潜めサムソンの屋根の上から双眼鏡を覗いていた。
「正面突破はやはりきつそうだな。気が進まないがあの手で行くしかないか・・・」
双眼鏡を下ろしてヒューリック大尉が首を振った。
「で? どうなんだ? お姫さんは?」
「やはり不安ですね。彼女は自らがジオンの軍人であることでその存在意義を見出しています。連邦の軍服を着せるのは・・・」
私も双眼鏡を下ろして口に入った砂塵を唾と一緒に吐き出した。
「やれやれ・・・キシリア・ザビ閣下は俺たちをモルモットとでも思っているんじゃないのかな・・・」
「それはなんとも。でも・・・」
「わかった。どちらにしろ一戦はまぬがれないだろうが、ここを突破しなければ中隊に明日は無い。となれば、この作戦は第一第二両小隊で危険を負担するべきだろう。一機のジムは俺が乗る」
「ヒューリック大尉・・・」
私は驚いた。
実際どうやってこの任務のことをアヤメにやってもらおうかと頭を悩めていたのだけど、これでそんな心配はなくなってしまう。
「心配するな。俺も何度かジムにはお世話になったことがある。動かし方も知っているさ」
笑っているヒューリック大尉。
「それに、いつ暴発するかわからん部下の心配をしながら戦うわけにはいかんだろ?」
「助かります。ヒューリック大尉」
「気にするな。一緒に宇宙へ上がろうぜ」
「ええ」
私は頷いていた。
背中に血の跡がついた連邦軍の軍服。
これを着ていた兵はどうなったのだろう・・・
「それにしても・・・」
私は苦笑した。
いくらなんでも曹長の軍服とは・・・
私は仕方なくそれを上着の上から羽織ってアヤメのところに行く。
「ミナヅキ少尉? 入るけど驚かないでね」
「あ、大尉殿ですかぁ? どうぞ」
アヤメの乗っているのはキャンピングカー代わりに使われているホバートラック。
他にも兵が居るかもしれないから気をつけないとね。
私はトラックの扉を開けて入り込んだ。
「あ、あはぁ・・・どうしたんですぅ、連邦軍の軍服なんか着てぇ? ああ、もしかしてそういうプレイをご希望ですかぁ?」
にこやかな顔をしてとんでもないことを言ってくるアヤメ。
そういえばガウの中で連邦の軍服姿でアドラーのをしゃぶっていたんだったっけ・・・
余計な心配だったのかしら・・・
「うふふふ・・・曹長ってことはぁ、私の方がタチでいいんですかぁ?」
他に兵がいなくてよかった・・・
私はまた真っ赤になっていたに違いない。
「ば、馬鹿なこと言っていないで支度しなさい。22:00に出撃よ」
アヤメの表情が引き締まる。
「了解です、大尉殿ぉ」
ピシッと敬礼をするアヤメ。
「今回あなたには私の命があるまではコクピットで待機してもらいますからね」
なんか調子が狂うのよね・・・
「わかりましたぁ。ところでどれに乗ればいいんですかぁ?」
「06Dよ。扱えるでしょ?」
砂漠専用に特化したザクデザートタイプ。
グフやドムよりは劣るけれど、仕方ないわね。
「もちろんですぅ。任せてくださいませぇ」
アヤメはにっこりと微笑んだ。
「ようし、行くぞ。準備はいいか? “キャサリン・グリンウッド曹長殿”」
サムソンのトレーラーからゆっくりとジムが起き上がる。
「準備OKです。“ジョージ・カールセン少尉殿”」
私もジムを立ち上げながらヒューリック大尉の役名で返事する。
「ようし、61式は後尾につけ。いいか? 俺たちはジオンの小部隊を撃破し、戦利品として捕獲したモビルスーツを本隊に運ぶ途中ということだ。それを忘れるな!」
ヒューリック大尉の檄が飛ぶ。
子供だましで、効果のほどは疑問だがやむを得ないわね。
私はジオンの国籍マークを描いたシールドをトレーラーに置き、マシンガンだけを構えて前進を開始する。
先頭にはヒューリック大尉が立ち、私は二番手に着いていく。
その後ろには車両縦隊が続き、最後尾には捕獲した61式戦車が三両固めていた。
他のモビルスーツにはそれぞれパイロットが乗り込んで待機する。
いつでも立ち上がって攻撃に出られるようにするためだ。
私たちはこうして敵の制圧する街道へ向かっていった。
[偽装作戦開始]の続きを読む
- 2006/02/06(月) 22:17:25|
- ガンダムSS
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昭和17年(1942年)。
ミッドウェー島沖において大日本帝国海軍の誇る南雲機動部隊に所属する航空母艦「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」の四隻は、まさに奢りとも言うべきミスによって失われました。
空母戦力を失った日本は商船改造や水上機母艦の改装などで必死に空母戦力の増強を図ります。
航空機が戦力の中心となったこの時期、戦艦の価値は半減し、もはや戦力の中心とはなれなくなってしまっていました。
そこで日本海軍は思い切って戦艦を改装し、空母の補助として使用することを決めました。
その第一弾として選ばれたのが伊勢型戦艦でした。
36センチ砲を十二門も搭載した超弩級戦艦として建造された伊勢型は日本戦艦の中でも屈指の砲撃力を持っていましたが、そのうちの後部砲塔を撤去し、飛行甲板を取り付けて彗星艦爆を発艦だけさせることにしたのです。
発艦し、攻撃をしたあとは味方の空母に帰還することになっていましたが、結局彗星の搭載はあきらめ、瑞雲水上攻撃機を搭載する計画に変更になります。
しかし、その瑞雲も完成が遅れに遅れ、結局飛行甲板は搭載機を乗せることがほとんどできませんでした。
飛行甲板の設置とともに行なわれた対空防御装備の増加により、対空艦としての能力を買われた伊勢型は、レイテ沖海戦において小沢中将のおとり機動部隊の一員として参加します。
航空機の無い機動部隊は小沢中将指揮の下、アメリカの機動部隊をひきつけます。
猛烈な空襲下で小沢中将の座上する瑞鶴をはじめ、航空母艦はすべて沈没。
しかし、その猛烈な対空砲火に恐れをなしたのか、伊勢と日向は生き残りました。
その後終戦までほとんど浮き砲台と化してしまった二隻は、大破着底して戦後を迎えます。
計画と実際のずれが浮き彫りになったような二隻の運命ですが、これもまた当時の日本のおかれていた状況の悪さだったんでしょうね。
それではまた。
[えっ? 航空戦艦?]の続きを読む
- 2006/02/05(日) 23:35:52|
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2378両。
日本最多の生産数。
一万両という単位で生産されたM4やT-34に比べれば微々たる数ですが、それでも昭和11年から18年までの間、乏しい工業力をフル活動させ生産された日本最多の戦車が95式軽戦車でした。
日本最初の国産戦車89式中戦車は、確かに国産戦車として申し分ない実力を持った戦車でしたが、いかんせん速度が遅く、トラックに乗った歩兵に置いて行かれてしまうこともしばしばでした。
89式中戦車の行動力に合わせると、今度は機動性が阻害され、機動戦力としての能力を発揮できなくなってしまいます。
そこで大日本帝国陸軍は速度の速い機動戦車としての高速戦車を開発することにしました。
その結果試作されたのがのちの95式軽戦車です。
設計から試作までの時間が短かったわりには、この戦車は試験結果が良好で、機動性能も目標を超えるようなものでした。
しかし、重量が7・5トンを超えてしまい、日本の道路事情や港湾の荷揚げ能力などに負担が掛かってしまうため、一グラムでも軽くすることが命じられました。
日本はインフラが貧弱で重い戦車というのはそれだけで行動に制約を受けたのですね。
このため95式軽戦車も、速度、攻撃力を維持したまま軽くするとなると、装甲が薄い状態で我慢するしかありませんでした。
騎兵部隊の代表は、機動力を重視する騎兵部隊の偵察用車両としてならOKということでGOサインを出します。
しかし、戦車部隊の代表は、いくら機動力があっても、歩兵の支援や敵陣の突破には正面から敵弾を受けなければならないため、装甲を現状の最大12ミリから最大30ミリに増加して欲しいと願いました。
しかし、そうなると機動力は極端に悪くなり、重量もかさみ、経費もかかるため数を揃えられないというジレンマに陥ることになりました。
結局、ないよりはあった方がいいだろうという極端な判断により、装甲厚12ミリのまま95式軽戦車は正式採用となりました。
日中戦争においては、95式軽戦車は信頼性の高いエンジンやその高機動力と、中国軍の対戦車戦力の乏しさにより、予想以上の活躍を収めます。
太平洋戦争の緒戦においても、連合軍のアジアにおける戦車戦力の乏しさにより、マレー半島などでは猛進撃を行い活躍をしました。
しかし、主砲の37ミリ砲は火薬を減らした弱装弾しか撃てない上に装甲の薄さが致命的となり、連合軍が戦車戦力を充実させるにしたがって一方的に破壊されることが多くなってしまいます。
戦争後半はまさに鉄の棺おけ状態となり、いかに超人的な努力で神業的な技量を戦車兵が発揮しようとも、連合軍の戦車には歯が立たなくなってしまいました。
確かに装甲の薄さといい、攻撃力の貧弱さといい、日本戦車の弱い面の代表的な部分を持った戦車です。
しかし、95式軽戦車が正式採用された頃には、イギリスもドイツも機関銃装備型の戦車を配備していたことを考えると、決して開発当時は劣った戦車ではありませんでした。
装甲の薄さも日本やアジアの不足したインフラ状況では、運用面を考慮するとやむを得ない部分もありました。
そして何より空冷ディーゼルエンジンの信頼性の高さは、精密さを重視するあまり、芸術品になってしまいがちな日本の兵器としては、破格の稼働率を生み出しました。
95式軽戦車が背負った弱点というのは、ひとえに日本が背負っていた国力の弱点であり、95式軽戦車自体に帰すべきものではなく、その意味でも95式軽戦車は優秀な戦車ということができるでしょう。
惜しむらくは、日本の全ての兵器開発にいえることですが、後継兵器が開発できなくて、世代が変わっている兵器に立ち向かわなければならなかったということでしょう。
それもやはり国力という枷の問題だったのでしょうね。
それではまた。
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- 2006/02/04(土) 21:58:33|
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96式十五センチ榴弾砲。
通称十五榴。
日本帝国陸軍の野戦重砲の傑作砲ですね。
昭和12年に正式採用された新型砲で、最大射程は12000メートルほどにも達します。
砲弾の威力も充分で、陸軍の砲兵ならびに歩兵から絶大な支持を受けました。
日中戦争やノモンハン事件、そして太平洋戦争において、この96式十五榴はその威力を発揮し、敵方に多大は損害を与えます。
もちろん太平洋戦争真っ只中に起こったガダルカナル島での日米両軍の死闘にも、激しい空襲の中水上機母艦を輸送船代わりに使い、陸軍野戦重砲兵第四連隊(野重四)の12門の96式十五榴が陸揚げされました。
彼らは参謀連中より、ガダルカナルへ行けばすでに弾薬だけは豊富に送ってあるので、遠慮なく撃ちまくれるぞ、と聞かされていたのですが、なんと到着した時に現地にあったのは、同じ十五榴でも大正四年に採用された四年式十五センチ榴弾砲の弾薬でした。
この弾薬は口径こそ同じ十五センチであったものの、薬筒の長さが違うために互換性がなく、四年式十五榴でしか使えないものでした。
幸い、ガダルカナルには四年式十五榴を装備した独立野戦重砲兵第二十一大隊(装備数4門)がいたので、彼らは豊富な弾丸を撃ちまくることができました。
しかし、肝心の96式十五榴は弾薬不足のために思うような砲撃を行なえず、はなはだ心もとない状態だったのです。
現地の状況とこれから送る部隊の装備、それらをまったく把握していない参謀連中。
そんな彼らが立てる作戦が上手く行くはずもなく、ガダルカナルは日本軍の撤退で幕を閉じます。
優秀な兵器であるはずの96式十五榴も、ただ撃つ弾も無く現地で朽ち果てるに任され、現在では戦争遺物として観光客の見世物として余生を送っているそうです。
このあたりにも日本軍の問題点があったのでしょうね。
それではまた。
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- 2006/02/03(金) 23:05:26|
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電撃コミックス「超常機動セイレーン」 井原裕士著 メディアワークス発行
いやー。
もうなんというかいいですねぇ。
個人的にすごく楽しませていただいています。
まあ、ストーリーはラブコメなんですけど、正義の味方対悪の組織というシチュを使ってのラブコメなんですよね。
悪の組織側の中間管理職のドクターMこと水凪俊一郎と正義側公共警備防衛機構のサイ・ドルフィンこと波好めるなちゃんは、互いに敵同士でありながら妙な出会いをして、知り合いになります。
水凪俊一郎の側はめるなが公警の隊員と知り、情報を得ようとして接近します。
一方めるなの方は思わぬことから人気者になってしまったセイレーンの一員としてストーカーに付け狙われたりしますが、それを俊一郎に助けてもらったりで、彼にまんざらでもない気持ちを持つんですね。
正義と悪の男女のそれぞれの立場を超えた(?)ラブロマンスが展開・・・ということになるんですが、井原先生のギャグセンスとも相まって楽しめる作品となっています。
しかもしかも、悪の組織側にはサイボーグとも言うべき怪人が登場するのですが、素敵なクモ女さんが登場するんですよね。
着ぐるみ的な怪人デザインなんですが、すごく女性的なフォルムで綺麗なんですよね。
やられちゃうんですが、上半身は無事なので、再登場を切に願っております。
二巻に入るとめるなを洗脳して情報を手に入れようともするんですが、まあ、ラブコメのお約束で当然失敗するんですけど、めるなを洗脳して欲しいと思うのは私だけかなぁ。
まあ、よければ見てみてください。
楽しめる作品だと思います。
それではまた。
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- 2006/02/02(木) 22:58:36|
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模型化もされたドイツ軍の有名なオートバイ型ハーフトラックがケッテンクラートですね。
映画「プライベートライアン」にも登場し、画面上を走り回っていました。
ドイツ軍の開発した数あるハーフトラックの中でも、とりわけそのスタイルとも相まって人気のある車両ではないでしょうか。
もともとケッテンクラートは、航空機で輸送可能な牽引車ということで開発されました。
かつてはオートバイメーカーだったNSU社が開発しただけあって、エンジンを中央に置き、前輪を一輪にして後輪部分を履帯にしたわけですが、履帯部分の接地長の長さもあって、最大450キログラムまでの牽引が可能となかなか侮れないものでした。
空挺部隊に装備する目的で作られたケッテンクラートでしたが、本来の空挺作戦はクレタ島の攻略戦で大損害を出したことでヒトラー自身が消極的になってしまったために行なわれなくなってしまい、空挺部隊用という目的とはかけ離れたところで使用されることになってしまいました。
1941年、ソ連に侵攻したドイツ軍は冬の訪れにともないソ連特有の泥濘に悩まされることになります。
泥濘には装輪車両はほとんど身動きがとれなくなり、装軌車両もしくはハーフトラックのみが行動できるような状態でした。
そこでケッテンクラートは実力を発揮することになりました。
履帯の威力は素晴らしく、泥濘の中でも行動にはほとんど支障をきたしませんでした。
結局終戦までに約一万両も造られたケッテンクラートは、東西両戦線で物資輸送や牽引に活躍することになります。
750CCオートバイ二台分ぐらいの価格とのことですので、結構調達しやすかったんでしょうね。
それではまた。
- 2006/02/01(水) 23:21:03|
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