今年最初のSSは光と闇の戦いであるホーリードールを投下しようと思います。
まだ始まったばかりなんですが、皆さんから高い評価をいただけているようで、作者冥利に尽きるというものですね。
これからも皆さん楽しんでいただければと思います。
ホーリードールというタイトルですが、今回も紗希ちゃんと明日美ちゃんは出てきません。
対抗する闇側が着々と勢力を増やすための手駒をまずは確保といったところです。
3、
「お話ってなんでしょうか、主任」
バッグなどを自分の机に置いた美野里はすぐに荒蒔留理香のところへ行く。
「ええ、ちょっと込み入ったことなの。会議室へ行きましょう」
留理香が妖しく微笑む。
その笑みにどことなく不気味さを感じた美野里は一瞬ためらいを見せるが、気を取り直して頷いた。
「はい、わかりました」
「それじゃついて来て」
留理香は先に立って会議室へ向かう。
そのあとに美野里が続き、二人は会議室へ入っていった。
「それじゃそこに掛けて」
美野里は勧められるままに席に着いた。
カチッと音がして扉の鍵が掛かる。
「えっ?」
美野里は驚いた。
鍵を掛けるなんて普通じゃない。
「どうして鍵を掛けるんですか? 荒蒔主任」
美野里は訳を尋ねる。
「うふふふ・・・」
妖しく美しい笑みを湛えたまま留理香は美野里を見つめている。
「主任!」
「うふふふ・・・可愛いわ。上坂美野里。あなたは私のもの。私が真っ黒に染めてあげる・・・」
留理香がそっと人差し指を舐める。
その仕草はとても淫らな感じだった。
「な、何のことですか? いったい・・・」
普段の留理香の様子とは違う。
いつもの主任ならこんな淫らな感じを漂わせたりはしない。
いわれのない恐怖が美野里を包み込んだ。
「うふふふ・・・この世界を闇に導くのが私の使命。この世界を真っ黒な闇で覆うのよ。そのためにあなたには私のしもべとなってもらうわ」
留理香はゆっくりと美野里に近づいていく。
「い、いや・・・こないで・・・いやぁっ!」
美野里は大声を上げて壁にあとずさる。
だが、誰も入ってきたりドアをノックする者はいなかった。
「うふふふ・・・この部屋には結界を張ったわ。あなたの声はどこにも届きはしないのよ」
冷たく妖艶な笑みを浮かべながら留理香は美野里に近づく。
「やめて・・・やめてください・・・荒蒔主任・・・やめてぇ!」
壁際に追い詰められ逃げ場を失ってしまう美野里。
まるで獲物を追い詰めるかのように留理香はそれを楽しんでいた。
この女を闇に相応しい女にするのよ。
わたしの可愛い手駒になるの。
そして私とともにこの世界を闇に染めていくのよ。
留理香はそれが異常だとは思わなくなっていた。
彼女の心は闇に染まってしまって、デスルリカとしての意識に支配されてしまっていたのだ。
うふふふ・・・なんておびえた表情をしているのかしら・・・可愛いわぁ・・・
留理香はおびえて震えている美野里の前に立つと、その目を見つめる。
「あ・・・荒蒔主任・・・た、助けて・・・」
思わず助けてと言ってしまうほどに今の留理香はまがまがしかった。
美野里はもう立っているのがやっとであり、すぐにでも床に崩れ落ちそうだった。
「うふふふ・・・私は荒蒔留理香ではなくなっちゃったの」
「えっ?」
美野里は何がなんだかわからない。
「私は大いなる闇のしもべ。闇の魔女デスルリカ」
そういった途端にまがまがしい真っ黒な闇がまるで留理香の体から噴出したように現れて纏わりついていく。
「ひあっ」
美野里は息を呑む。
やがて闇が晴れると、そこにはエナメルのボンデージレオタードに身を包み、黒手袋に黒マントと黒のハイヒールブーツといういでたちの留理香が立っていた。
黒い宝石のはまったサークレットの両側からはねじれた角が額の正面に向かって伸びていて、黒いアイシャドーと黒い口紅が留理香の顔を妖しく彩っていた。
「あ・・・あああ・・・」
美野里は力が抜けたように床にへたり込んでしまう。
今まで尊敬し敬愛してきた荒蒔主任はそこにはいなかった。
そこにいたのはまがまがしさを漂わせた妖艶な魔女だったのだ。
「うふふふ・・・あははははは・・・ごらん、今の私は闇の魔女デスルリカなのよ。あっははははは」
口元に手を当てて高笑いをするデスルリカ。
「ああ・・・いやぁ・・・荒蒔主任が・・・荒蒔主任がぁ・・・」
「うふふふ・・・おびえているのね? 可愛い娘。でもおびえる必要は無いわ。あなたも闇に染めてあげる。それはそれは素敵な闇に・・・ね」
デスルリカはへたり込んでしまった美野里の顎を持ち上げる。
「さあ、私の目を見るのよ。あなたの心の奥底に潜む闇を私が導いてあげるわ」
「あ・・・あ・・・」
吸い込まれるかのように美野里はデスルリカの目を見つめてしまう。
いけない・・・
見てはいけない・・・
見て・・・は・・・
美野里は必死に目をそらそうとするが、どう頑張っても美野里の目はそれてはくれなかった。
「美野里・・・美野里・・・」
心に沁み込んでくるようなデスルリカの言葉。
それはいつも聞き慣れた荒蒔主任の言葉だった。
敬愛する主任が自分のことを上坂さんではなく美野里と呼んでくれている。
そのことだけで美野里はただただ幸福だった。
「美野里・・・返事をなさい」
「はい・・・」
美野里はゆっくりと返事をした。
心がすっと軽くなる。
目の前にいる女性にこの身をすべて投げ出したくなる。
「うふふ・・・可愛い娘。さあ、あなたの心の奥底を開きなさい。心の闇を解放し、その闇に身をゆだねなさい」
デスルリカの目が妖しく輝く。
「はい・・・はい・・・仰せのままに・・・」
美野里の目は虚ろになる。
口元が弛緩してうっすらと笑みが浮かぶ。
美野里の心は無防備になり、闇がじわじわと沁み込んでいく。
「うふふふ・・・さあ、言ってごらん。あなたが抱いている憎しみを。あなたが抱いている邪悪な心を」
「ああ・・・ああ・・・」
美野里は自分でも気が付かなかった心の奥底を覗き込む。
わずかでしかなかった心の闇はデスルリカによって膨れ上がり、さらに闇を呼び込んでいく。
「ああ・・・憎い・・・憎いわ・・・アイデアを奪ったあの女。あの女が憎い・・・」
うわごとのようにそう言い始める美野里。
「うふふ・・・そうでしょう。あなたのアイデアは奪われたわ。でも世界はそれを認めている。あなたのデザインであるにもかかわらずそれは他人の成果となっている。それが世界。そんな世界は破壊してやるのよ」
笑みを浮かべて優しく囁くデスルリカ。
おそらく実際にはたいしたことではないのだろう。
デザイナー同士で雑談していた時にでも会話中に出てしまったアイデアなのではないだろうか。
でも、そんなことはどうでもいいのよ。
美野里の心を闇に染めるきっかけになればいいだけ。
「破壊・・・世界を破壊・・・私のアイデアを奪った世界が憎いわ・・・」
美野里の目がじょじょに狂気をはらんでくる。
「闇・・・世界を闇に・・・世界を・・・闇に・・・」
美野里の口元にしっかりとした笑みが浮かんでくる。
「そう・・・うふふふ・・・闇の素晴らしさがわかってきたようね」
「はい・・・闇・・・闇こそが世界を支配する・・・闇こそが世界を支配するんですわぁ」
うっとりとした表情を浮かべデスルリカに答える美野里。
「うふふふ・・・それでいいのよ。さあ、あなたの闇を纏わせてあげるわ」
デスルリカはそう言ってそっと美野里に口付けをする。
「あはあ・・・素敵ぃ・・・」
美野里はその口付けを至福の喜びとともに受け止める。
やがて美野里の周りに闇がわだかまり始める。
「うふふふ・・・始まったわ」
妖しい眼差しで美野里の変化を見つめているデスルリカ。
美野里の周りにわだかまり始めた闇はやがて美野里の体に張り付くようにへばりついていく。
着ていた服も下着もアクセサリーさえも飲み込んで、闇は美野里の躰を染め上げていく。
生まれたままの姿になった美野里の躰に、闇はまるで薄衣をかぶせたかのように張り付いていく。
まるでストッキングのように薄く、それでいてタイツやレオタードのように光を通さない闇の衣。
それは美野里の首から下をすべて覆い、さらに足先と手の先にはより多くまとわりついて手袋とブーツを形成していく。
目元にはデスルリカと同じくアイシャドーが引かれ、唇もまた黒く染め上げられる。
すべての闇が美野里に吸収されると、美野里はゆっくりと立ち上がった。
その姿はまるで皮膚がそのままタイツになったかのような真っ黒な薄い全身タイツに包まれ、肘から先とひざから先がそれぞれ黒い艶のある手袋とハイヒールブーツに変わっていた。
躰のラインはより強調され、露出部分がほとんど無いにもかかわらず、まるで裸で立っているような艶めかしさが美野里を包んでいた。
「うふふふふ・・・」
美野里は先ほどまでとはまったく違う妖艶な笑みを浮かべる。
それはデスルリカが浮かべていた笑みと同じものだった。
美野里の心は闇に染まり、いまや闇の女として生まれ変わったのだった。
「うふふふ・・・すっかり闇に染まったようね。闇の女となった気分はどう?」
「はい。最高の気分ですわ。今までの私はなんてつまらない女だったのでしょう。これからはデスルリカ様の忠実なしもべとしてこの世界を闇で覆い尽くしてやりますわ。うふふふふ」
美野里は薄笑いを浮かべながら自分の胸に手を当てる。
全身を真っ黒な闇の衣で覆った美野里はまさしく闇の女となっていた。
「うふふふ・・・それでいいわ。あなたは闇の女レディアルファ。私のしもべ」
デスルリカはレディアルファとなった美野里をそっと抱き寄せてキスをする。
お互いの舌が絡み合い、唇を離すと唾液がつうっと糸を引いた。
「はあ・・・はい、デスルリカ様。私はレディアルファ。デスルリカ様の忠実なしもべです」
うっとりとデスルリカにまなざしを向けるレディアルファ。
その目は妖しい輝きに満ちていた。
「うふふふ・・・さあ、レディアルファ、あなたの力を見せて御覧なさい。世界を闇で覆い尽くすために」
「はい、デスルリカ様。喜んでお手伝いいたしますわ」
二人の闇の女は妖艶に微笑みながら会議室から出て行った。
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- 2006/01/02(月) 21:40:47|
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