今日はゴキブリさんの続きです。
身も心も変わってしまった彼女。
これからどういう行動に出るのでしょうか。
5、
黒のレオタードに網タイツ姿の女戦闘員が走ってくる。
「イーッ、目撃者の始末を終わりました。」
彼女は右手を上げて敬礼するとそう言った。
まだ高校生ぐらいの少女と言っていい感じの女性だが、発する言葉は普通では考えられない言葉である。
「シュシューッ、ご苦労様、F91号」
黒塗りのワンボックス車の後席で脚を組んで座っている蜘蛛女が笑みを浮かべる。
妖しく魅力的な笑みだ。
改造される以前にはさぞかし男の気を惹くに充分な笑みだったろう。
「イーッ、どうやらゴキブリ女様も改造された喜びに目覚めつつあるようですね」
「うふふ・・・当然でしょうね。改造された躰の素晴らしさに気が付けば、わがデライトの改造戦士であることを誇りに思うようになるわ」
蜘蛛女はそんなのは当たり前と言わんばかりだ。
「蜘蛛女様もそうだったのですか?」
「・・・ええ、そうね・・・」
蜘蛛女は表情を曇らせる。
「シュシューッ、以前の私は何のとりえも無い平凡な主婦だったわ。夫と娘に囲まれて日々を暮らすだけの無意味な存在だったの」
「蜘蛛女様・・・」
「でもね、あるとき偶然私はデライトに捕らえられてしまったのよ。そこで私は光栄なことにデライトの改造戦士の素体として選ばれたわ。改造を受けて蜘蛛女に生まれ変わった私は、今とても幸せなのよ」
そう言って蜘蛛女は優しく微笑んだ。
「シュシューッ、だからきっとゴキブリ女も自分が幸せであることに気がつくはずよ」
「イーッ、私もそう思います。私もデライトの女戦闘員であることに誇りと喜びを感じていますから」
右手を上げて嬉しそうにF91号も微笑み返した。
そのとき遠くからサイレンの音が近づいてくる。
「イーッ、蜘蛛女様、どうやら誰かが警察を呼んだようです」
運転席の女戦闘員F67号が振り向く。
「シュシューッ、なんてこと。仕方ないわ、ゴキブリ女がしくじるようなら始末しましょう。それまでは様子見よ」
「イーッ、了解です」
F91号もワンボックス車に乗り込みその場を離れ、様子を見ることにする。
程なく一台のパトカーがゴキブリ女のアパートの前に停車した。
「はあ・・・すごく気持ちいい・・・」
うっとりとした表情でそうつぶやくゴキブリ女。
姿見に映し出されたその姿はつややかな外骨格に覆われた昆虫特有の硬質さを持っている。
「うふふ・・・私はゴキブリ女・・・私はゴキブリ女」
自分の存在を確かめるように自らの躰を抱きしめるゴキブリ女。
彼女にとってもう百原鈴美という名前は意味を持たなくなっており、ゴキブリ女という名前だけが脳裏を支配しているのだ。
「うふふ・・・なんて素敵なのかしら・・・この躰・・・私に逆らう人間は皆殺しにしてやるわ・・・」
ぞっとする笑顔を浮かべるゴキブリ女。
かつての生徒思いの女教師はそこにはいない。
「?」
サイレンの音が近づいてくる。
「フシューッ、警察? うふふふ・・・誰かが呼んだのね・・・」
ゴキブリ女はぺろりと舌なめずりをした。
「ここですか? 化け物が人を襲ったって言うのは?」
パトカーのドアを開けて一人の女性警察官が降りてくる。
「ああ、まあ、いたずらだとは思うけど、ここの夫婦はしょっちゅう喧嘩をしててね。付近の住民から苦情も出ているから、それと関係があるかもしれない」
運転席の方からは中年の男性警察官が降り、そう言って彼女の方を見る。
「旦那の方は俺が話しをするから、君は奥さんと話をして欲しいんだ。以前男は旦那の味方をするから話したくないって言っていたんでさ、君に来てもらったんだ」
「それは構いませんよ。派出所勤務としては当然のことですから」
にこやかにうなずく女性警察官。
まだ若く栗色のショートカットが可愛い感じだ。
おそらく配属されたばかりなのだろう。
二人は何気なくアパートに近づいていくが、その夫婦の部屋の扉が壊れていることに気がついた。
「なんだ? ゆがんでいるぞ」
「何かで叩き壊したんでしょうか?」
二人の警察官は顔を見合わせると、部屋の中に入り込んだ。
「ご免下さい」
「お邪魔いたします」
二人が入っていくと、玄関先にどす黒い血だまりができていることに気がつく。
「こ、これは?」
「ヒッ!」
驚愕し、思わず口元を押さえる女性警察官。
「大変だ、応援を呼んでくる」
そう言って同僚が出て行くのを、吐き気を抑えながら何とかうなずく。
死体を見るのは初めてではないが、床に転がっている半ば潰れた首を見たのは初めてなのだ。
「ガフッ!」
ピシャッという音がして彼女の足元に赤い液体が撒き散らされる。
「えっ?」
口を押さえて下を向いていた彼女はゆっくりと振り向いた。
そこには外へ向かった同僚が立ち止まっていた。
だらんと両手を下にしてうつむいている彼の背中から妙なものが生えている。
グロテスクな鉤爪を持った昆虫の脚のようなもの。
その先からは赤い液体が滴り、彼の足元を見る見るうちに真っ赤にしていく。
「あ、後東さん・・・?」
彼女が派出所に配属されて以来何くれとなく面倒を見てくれた先輩警察官の名前を呼んでみる。
まるでその返事を聞けばこの悪夢から逃れられるような感じだったのかもしれない。
「うふふふ・・・」
後東警察官の向こうから笑い声が聞こえてくる。
まるで楽しくて仕方がなく、つい笑みが漏れてしまったかのよう。
「だ、誰?」
彼女の躰に震えが走る。
ガクガクとひざが震えてしまっているのだ。
「フシューッ、うふふふ・・・ぶざまよねぇ。こんなにもろい躰をしているんだものね」
ブンと腕を振り、胸を貫いた死体を振り払うゴキブリ女。
その姿があらわになり、女性警察官はぺたんと尻餅をついてしまう。
「あ、ああ・・・あ・・・」
「うふふふ・・・まったく人間てすぐ死んじゃうのね・・・」
鉤爪の先に付いた血を舌で舐め取るゴキブリ女。
「い、いや・・・いや・・・」
必死に後ずさりしようとするが、血濡れの廊下は滑ってしまう。
おびえた彼女の股間からはちょろちょろと液体が流れ始めていた。
ああ・・・なんて可愛いのかしら・・・
おびえて半泣きになっている女性警察官を見てゴキブリ女はそう思う。
この女を支配したら・・・うふふ・・・楽しそうだわ・・・
人間を支配する。
そのことこそが下等な人間に対する正しい接し方であるように彼女には思えた。
うふふ・・・この女で試してみようかな・・・
ゴキブリ女はにやりと笑うと目の前のおびえた女に話しかけた。
「フシューッ、うふふふ・・・心配はいらないわ。あなたは私が支配してあげる」
「し、支配?」
女性警察官は泣きべそをかき、ぶざまに彼女を見上げている。
「フシューッ、ええ、支配してあげるわ。私のペットにしてあげる」
「あ、ああ・・・そんなのいやぁ・・・」
涙を流しながらいやいやをするが、ゴキブリ女は冷酷な笑みを浮かべて見下ろしていた。
「フシューッ、ねえ、これを嗅いでみてよ」
ゴキブリ女は自分の股間からフェロモンを滲ませる。
それはたちまち気化して女性警察官の鼻腔をくすぐった。
「えっ? あ・・・はあ・・・ん・・・」
彼女は少しの間鼻をひくつかせると、すぐにうっとりとした表情を浮かべるようになる。
「ああ・・・ああん・・・」
「フシューッ、上手くいったようね。どう、気持ちいいでしょ?」
ゴキブリ女がそっと手を差し伸べる。
すると女性警察官はうっとりとして微笑みながらその手にのどを差し出した。
「はあ・・・気持ちいいですぅ・・・ああ・・・私・・・私ぃ・・・」
「うふふ・・・私はゴキブリ女よ。お前の名前は?」
ゴキブリ女は彼女ののどを撫でてやる。
「は、はい・・・私は・・・私は安栖麻理香(あんざい まりか)ですぅ・・・」
「フシューッ、私は安栖麻理香です、ゴキブリ女様。でしょ?」
意地悪そうにのどを撫でる手の動きを止めるゴキブリ女。
「あ・・・は、はい。すみません、ゴキブリ女様ぁ」
そういった麻理香の表情は幸せそうだった。
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- 2005/10/25(火) 21:17:05|
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