いよいよ最後の戦いです。
私自身、今日は書いていてわくわくものでした。
ご一緒に楽しんでいただければ幸いです。
35、
闇の中に目を凝らしてもその形はわからない。
だが“それ”は確実にそこに居て汀を狙っているのだ。
闇に目が慣れても近くを這いずる触手しか見えてこない。
それほどここは闇が深かった。
先ほどまでうっすらと差し込んでいた光も奥まではまったく届かないのだ。
「いきなりとはご挨拶ね」
汀が妖刀を構えあとずさる。
せめて背後を取られないようにしなければならない。
入り口の扉に背が触れたところで汀は態勢を整えた。
「で、あなたはしゃべれるのかしらね?」
汀の頬を一筋の汗が流れる。
ここに満ちている妖気はまさに圧倒的だった。
妖気の強さはそのまま相手の強さに結びつく。
汀は唾を飲み込んだ。
そこに居たのは何の変哲もない“人間”だった。
今まで何度となく精気を啜り、利用してきた存在。
それらとなんら変わるところは無いように“それ”には思えた。
唯一違いがあるとすれば、それは彼女が手に持っているもの。
何か強い力を持ち“それ”をも容赦なくねじ伏せてくるようなもの。
それを彼女は使役できるようだった。
ブキというものだろうか・・・
タイマシとはブキを使う人間のことだろうか・・・
確かにブキは強力そうだ。
だが、それを持つタイマシは人間と同じだとするともろい存在だ。
確認しなければならない。
タイマシが主なのか、ブキが主なのか・・・
“それ”は触手を再び伸ばしていった。
来るっ!
汀は左手で妖刀を振るい、飛び掛ってくる何本もの触手を切り裂いていく。
毒々しいどす黒い液体が切り口から飛び散り、汀の体を汚して行く。
噎せかえるような濃密な臭い。
まるで発情したメスのような濃厚な臭いがあたりに満ちていく。
いつこういうことがあるかわからないからと言われ、右手でも左手でも妖刀を振るえるように訓練してあったのが役に立っていた。
もう右手はほとんど動かない。
体内の血も足りない。
動くたびに動悸が激しく感じてくる。
長期の戦いはできっこない。
勝機は一瞬だろう。
それにしても奴は一体何本の触手を持っているのか?
真っ黒いゴムホースのような太い触手。
その先端はおぞましくも男の股間のものにそっくり。
鈴口からはいつ先走りの液が垂れてきても不思議では無さそう・・・
しごけばそのまま真っ白いどろっとした液体を吐き出してきそうな形状をそれはしていた。
汀が妖刀を振るうたびに触手が途中から切り取られ、ビチビチとのたうちながら床に転がる。
それはさながらバイブレーターが床の上で振動しているようにも見えてしまう。
「うふっ・・・うふふふ・・・」
汀は自分が何か滑稽に思えてきた。
幾人もの男性に囲まれ、そのたくましいペニスを何本も目の当たりにし、それを無慈悲にも切り落として行く魔女。
今の汀はその魔女なのかもしれない。
「あは・・・あははは・・・・」
汀は笑い声を上げながら触手との剣の舞を舞っていた。
イタミ・・・
これがイタミというものだろうか・・・
幾本もの触手がタイマシに向かって行き、ブキによって切り裂かれていく。
久しく感じたことのなかった感じ。
イタミ・・・
触手を伸ばす。
タイマシが動きブキが切り裂く。
イタイ・・・
イタイイタイ・・・
切り裂かれた触手は自らの内に引っ込めれば元に戻る。
だが、このイタミという感覚は不快この上ない。
触手の数を増し、タイマシの上からも下からも動かしてみる。
だが、タイマシはくるくるとブキをひらめかせ近づく触手を切り取っていく。
イタイイタイ・・・
イタイイタイイタイ・・・
切られた触手はすぐに引っ込めて新たな触手を伸ばす。
二本同時でだめなら三本。
三本同時でだめなら四本。
四本同時でだめなら五本。
それはいつ果てるとも知れない闇の中でのダンスの競演だった。
「はあ・・・はあ・・・」
息が切れてくる。
体が重くなってくる。
先ほどまで感じていた滑稽さは失せ、じょじょに絶望感がつのってくる。
触手は一向に数を減らさない。
それどころかますます数が増えている。
本体がある辺りは見当が付いても、そこへ行くことが出来ない。
背中を壁に押し付かせて妖刀を振るうのが精一杯だ。
体からかなり離れたところで切り裂いていた触手はいまや体の直前で切り落としている。
このままではいずれ体に接触されてしまうだろう・・・
どうしたらいい?
汀は唇を噛む。
周囲から群がってくる触手はすでに汀の処理能力を超えていた。
「キャッ」
足元を襲った触手が右足に絡みつく。
そのまま引っ張られた汀は思い切り尻餅をつくようにしてへたり込んだ。
「しまった!」
汀が気を取り直したときには触手は汀の左腕にも絡みつき、動きを止められてしまう。
ヤバ・・・これはまずい・・・
汀は何とか逃れようと体を動かそうとするが、すぐに触手が幾本も絡みついてきて両手両足そして首にも巻きついてしまう。
「あうっ・・・は、離せ!」
じたばたともがいてみるものの絡みついた触手を振りほどくことができない。
汀は血の気が引いていくのを感じていた。
「だ、誰か助けてー!」
それは汀の心が折れた瞬間だった。
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- 2005/10/03(月) 22:43:04|
- 退魔師
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