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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

四月馬鹿と入院中の少女

今年も四月一日がやってまいりました。
四月一日と言えばエイプリルフール。
エイプリルフールと言えば四月馬鹿。

ということで、今年もあのお方にご登場いただくこととなりました。
なんと今回で14回目。
すげぇ!
第1回目に時に生まれた子が中二になりますぞ。
Σ( ºΔº )

今回のタイトルは「四月馬鹿と入院中の少女」です。
正直今回は「それは君が騙したことになるのかい?」という気がしないでもないんですが……
まあ、笑って許してくださいませ。
(´▽`)ノ

それではどうぞ。


四月馬鹿と入院中の少女

 「それじゃまた来るわね鈴美(すずみ)。ゆっくり休んで体力を付けるのよ」
 「うん。それじゃねお母さん。行ってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
 パートに行くために病室から出ていくお母さんを私は見送る。
 にこやかな笑顔で出ていったお母さん。
 あの笑顔はきっとかなり無理をしているに違いない。
 私には悲しい顔を見せないようにと、頑張ってくれているのだろう。

 病室のベッドで上半身を起こしている私。
 窓からは春の風。
 躰には心地いい。
 おそらく来年の春を迎えることは私にはできない。
 あと何ヶ月……ううん、あと何日生きられるのだろうか……
 私はあと何日……

 胸が苦しい。
 手術の傷痕も痛い。
 先生は手術をしても治る確率は五分五分とおっしゃっていた。
 おそらく悪い方の五分に入ってしまったんだと思う。
 胸の苦しさはちっともよくならないし、かえって手術の傷痕の痛みが増えたくらい。
 お母さんも先生も手術は成功だと言っているし、あとは回復するだけだとも言う。
 でも、自分の躰は自分が一番よくわかる。
 私は多分助からない。
 私は……助からない……

 「ふう……」
 私は起こしていた上半身を横たえて布団をかける。
 少し寝よう。
 本当は残り少ない時間を眠りで過ごすのはもったいないのだけど……
 この躰が元気な躰だったら……
 悔しいなぁ……

 「ん?」
 目を閉じる直前に窓の外をちらっとよぎった影。
 今のは?
 私は目を開けて外を見る。
 見えるのは空ばかり。
 ここは三階。
 ベッドに横になったら空しか見えないのは当たり前。
 きっと何か見間違えなんだと思う。
 でも……
 妙にその姿が鮮明に思い出されてくる。
 ちらっとだったからよくわからないけど、頭に鹿のような角が付いていたような……
 鹿?
 鹿が三階の窓の外を横切った?
 そんなバカな……
 われながら可笑しくなる。
 鹿が空を飛ぶなんてありえない。
 バカじゃないの?
 バ……カ?
 私はハッとした。
 バカではなく馬鹿なら……
 馬鹿なら空も飛べるのかもしれない。

 以前ネットで見た記憶がある。
 確か馬のような頭部に鹿のような角が生えてて、人間を騙す妖怪だとか。
 そういえば今日は四月一日。
 誰かを騙すのにはふさわしい日。
 もしかしたら誰かを騙しに行くところだったのかもしれない。

 「ふふ……」
 ばかばかしい。
 あれはネットの都市伝説でしょ。
 気を付けないと馬鹿に騙されるよという注意喚起も兼ねているようなもの。
 電話による特殊詐欺なんかも減らないらしいし、馬鹿の話もずっと消えずに残っているのだろう。

 「ん……」
 胸が苦しい。
 少し眠ろう。
 目が覚めたら……元気になっているといいのにな……

                   ******

 「鈴美! 鈴美! 起きなさい鈴美! 学校に遅れるわよ!」
 うーん……
 もう少し寝かせてお母さん……
 「鈴美!」
 「ひゃあっ!」
 お母さんの怒鳴り声に私は思わず飛び起きる。
 あれ?
 朝?
 さっきはもうお昼近かったような気が……
 それにお母さんはパートに行ったんじゃ……

 「もう……早くしなさい。本当に遅れるわよ」
 「遅……れる?」
 腰に手を当ててあきれ交じりで怒っているお母さんに、私は思わずそう言ってしまう。
 遅れるってどこに?
 学校?
 私はいま入院中で学校には行っていないんじゃ?

 「何寝ぼけたこと言ってるの? 学校に遅れるって言っているでしょ!」
 「でも私入院中で学校には……」
 あれ?
 よく見たらここは私の部屋のベッド?
 病室じゃない?
 どういうこと?

 「入院中? もしかして中学の時の夢を見ていたとか?」
 「夢?」
 ウソ……
 あれは夢?
 「あの時は大変だったからねぇ。本当に鈴美が死んじゃうんじゃないかってお母さんも気が気じゃなかったわ」
 「あの……時?」
 「うんうん。でも、手術が成功してこうして元気になってくれて本当に良かったわ。その時の夢を見ていて、まだ入院していると思い込んだんじゃない? ほらほら早く支度して」
 お母さんに急き立てられるようにして私はベッドから出る。
 元気に?
 私はもう元気になったの?

 私は戸惑いながらも顔を洗いに部屋を出て洗面所に向かう。
 「お、起きたか鈴美」
 リビングではお父さんが朝食を食べていた。
 「あ、うん、おはよう」
 私はお父さんにおはようを言うと洗面所で顔を洗う。
 あれ?
 ふと顔を上げて鏡を見ると、いつもの見慣れた私の顔とちょっと違う。
 なんだか少し成長しているような……
 本当にさっきのは夢?

 顔を洗い終わった私は、お父さんと入れ替わるようにして朝食を食べる。
 その間にお父さんは支度を終えて会社に出かけ、お母さんは玄関で見送ってくる。
 食事を終えた私は、パジャマを脱いで制服に着替える。
 まったく覚えがない感じなのに、いつもの朝の行動なのを感じる。
 着替えるために用意した学校の制服も、これまで一度も着た記憶がないのに、毎日着て学校に行っている感じがするのだ。
 私はいったい……


 「おはようー」
 「おはようー」
 クラスメートたちが登校した私に挨拶してくる。
 一度もここに来た記憶がない学校なのに、なぜか私は自分の下足箱の位置も、自分の教室も、その座る位置さえわかっていた。
 まるでこれまで毎日同じように登校していたかのよう。

 「おはよう鈴美。ねぇねぇ、これ見た?」
 スマホを持ってやってくる二人の女子高生。
 「おはよう真紀(まき)、早苗(さなえ)」
 初めて会うはずなのに見慣れた友人たちだ。
 私は何の苦労もなく彼女たちの名前を言う。
 当然だ。
 私は毎日彼女たちと会って、話して、楽しい時間を過ごしているのだから。
 おかしいことなど何もない。

 中学校に比べるとやっぱり難しい高校の授業。
 でも理解できないことは無い。
 毎日授業を受けているのだから当然なのだろう。
 でも、気を抜くと置いて行かれるかもしれない。
 しっかり勉強しなくては……

 「鈴美、戸倉(とくら)君が来てるよ」
 昼休み、早苗がこそっと教えてくれる。
 途端に私は胸がきゅっとなる。
 早苗も真紀もにやにやとこっちを見ている。
 もう……
 光一(こういち)ったら、何の用かしら……

 「ごめんごめん。次の日曜日のことでさぁ」
 さわやかな笑顔の男子高生。
 どちらかというとインドア派の雰囲気だけど、スポーツもできないわけじゃないらしい。
 一度も会ったことないはずなのに、私は彼を見るとドキドキするし、好きなんだろう。
 彼も私を好いてくれているみたいで、私と付き合ってくれているのだ。
 なるほど……
 彼が私の彼氏ですか……


 「それじゃねー」
 「また明日ねー」
 「またねー」
 手を振って去っていく真紀と早苗。
 二人は本当に気持ちのいい友人だ。
 たぶん……私が本当に高校生になってあの二人と一緒のクラスになったら、間違いなく友人になるに違いない。

 夕暮れの道を歩く私。
 スイーツを食べながらの楽しいおしゃべりの時間は過ぎ、家に帰る時間。
 明日もまたクラスで会えるはずなのに、お別れしてちょっと寂しくなる時間。
 さようなら……
 夢でも本当に楽しかった。

 「ねえ、出てきてよ」
 人気のない道で私はそう口にする。
 いるはずなのだ。
 私にこの夢を見せているものが。

                   ******

 「はっ」
 私は目を覚ます。
 ここは病室。
 窓からは先ほどと同様に暖かな春の風。
 そして……
 つばの広い帽子を目深にかぶり、コートを着込んだ人物がベッドの脇に立っていた。

 「クックック……気付いていたのか」
 帽子のつばに隠れて顔は見えないが、その下から不気味な声が響いてくる。
 これが馬鹿の声なのだろう。
 「ええ」
 私は上半身を起こしてコクンとうなずく。
 「いつ頃気が付いた?」
 いつ頃かな……
 「途中から……ううん、最初からかな」
 「ほう? 最初からだと?」
 少し驚いたような声。
 馬鹿にとっては想定外だったのかもしれない。
 でも私は気付いていた。
 だってありえないもの……

 「むう……」
 明らかに不満そうな馬鹿の声。
 それでもコートのポケットに両手を入れ、帽子のつばで顔を隠している。
 「私を馬鹿にしようとしたんですよね?」
 「ああ、そうだ。お前を騙してしもべにする予定だった」
 その予定が狂ってしまったのでご不満ということなのだろう。

 「ごめんなさい、騙されなくて。でも……あの夢では私は騙されないです」
 「ほう? それはなぜだ?」
 興味を持ったのか声のトーンが少し変わる。
 それと同時に顔を上げて、帽子のつばの下からその馬の顔が姿を現す。
 うわぁ……
 本当に馬の顔をしているんだわ……
 でも……
 なんだかそんなに怖くない……

 「えーと……馬鹿さんは私に夢を見させて、私が元気になったことを信じ込ませたかったんですよね?」
 「ほう……」
 私の言葉を最後まで聞こうというのか、それしか言わない馬鹿。
 その目が私を見つめてくる。
 「それで私が元気になったことを信じたところでウソでしたってやるつもりだったのでは?」
 「ふむ……」
 否定しないということはその通りだったのかな?
 「確かに素敵な夢でした。私は元気になっていたし、楽しく話ができる友人たちもいたし、素敵な彼氏もいました。本当に楽しい夢でした。ありがとうございました」
 私は礼を言う。
 だって本当に素敵な夢だったから……

 「だが夢だと気付いていたな。どうしてだ? 俺様の与える夢は現実と区別がつかないものだが」
 納得がいかないという感じの馬鹿。
 確かにさっきの夢は本物そっくりだったし、たぶん私じゃなかったら騙されていたと思う。
 「だって……ありえないから……」
 「ありえない?」
 私はまたうなずく。
 だってありえないもの。
 「私の躰は高校生になるまではとても持ちません。今だって躰がだるいし胸も苦しい。おそらく夏まで生きられるかどうか……もしかしたら一週間後には死んでいるかもしれない……」
 だからあの夢はありえないの……

 「クククク……はたしてそうかな?」
 馬鹿がバカにしたように笑うが、私は首を振る。
 「わかるわ。自分の躰だもの。私はもうすぐ死ぬ。ごめんなさい馬鹿になることができなくて」
 もしかして妖怪の馬鹿になれば、ずっと生きていられるのだろうか……
 そうだったらいいな……

 「クククク……なるほど。確かにお前はこの病気で死ぬ」
 「ええ。私はこの病気で死ぬの。だから馬鹿には……えっ?」
 布団jの上に置いていた私の手から茶色の毛が生えてくる。
 「ウソ……どうして? 私は騙されてなんか……」
 私は自分の両手を見つめる。
 その手がみるみる変化して蹄のようになっていく。
 「ひーっひっひっひっひ……お前は騙されたのさ。俺様に」
 「ウソ。ウソよ。どうして? 私は騙されてなんか……」
 私は変わっていく両手に恐怖を感じて首を振る。
 私は騙されてなんか……

 「いいや、お前は騙されたのさ。俺様の言葉に」
 「言葉?」
 思わず私は顔を上げる。
 どの言葉に騙されたというの?
 「そうさ。お前は俺様の言った『この病気で死ぬ』という言葉を疑うことなく受け入れた」
 「え? だって……」
 そうよ……
 私はこの病気で……
 えっ?
 「確かにお前はいずれは死ぬだろうさ。だが、それは『この病気』でじゃない。事故か、他の病気か、それとも老衰かもしれん」
 「う……そ……」
 私は愕然とする。
 「クックック……お前は思い込んでいたのさ。自分は『この病気』で死ぬと。だから俺様の言葉を信じた。というか疑うこともしなかった」
 「そんな……」
 「お前の病気は治るのさ。来月には退院していただろうよ。クックック……」
 四月馬鹿が笑っている。
 ああ……そんな……
 この病気が治るものだったなんて……

 着ていたパジャマが消え、私の躰から茶色の毛が生えてくる。
 両手はもう完全に蹄に変わってしまっている。
 鼻も伸びて馬の顔のようになってくる。
 頭には鹿の角が生えてきた。
 あはっ……
 あはははっ……
 馬鹿だわ。
 私は馬鹿になったんだわ。
 なんて気持ちがいいんだろう。
 私はもう人間なんかじゃないわ。

 私はベッドから降りて四月馬鹿様の前にひざまずく。
 偉大なる我が主様。
 なんとすばらしいお方だろう……
 「ご主人様、私を馬鹿に変えてくださりありがとうございます。私はご主人様のしもべです」
 私は心からの忠誠を主様に誓う。
 「クックックック……好きにするがいいさ」
 そっけなく私を見下ろしている主様。
 馬鹿になってしまった相手など、もう興味がなくなられたのだろう。
 主様にとっては騙すことが楽しいことなのだ。
 そしてそれは私もそう感じていた。

 「うふふ……」
 「どうした?」
 小さく笑った私が主様には気になったよう。
 「いえ、これからどうやって人を騙そうかなと思うと、楽しくなってしまったので」
 「ふん。せいぜいたっぷりと騙すんだな。新たな馬鹿よ」
 主様が苦笑している。
 「はい、主様」
 私が以前の姿に擬態すると、主様は何も言わずに消えてしまう。
 私は少し寂しさを感じたものの、それ以上にこれからのことに胸が躍る。
 私はベッドにもぐりこむと、誰か来ないかなとワクワクしながら待つのだった。

END

いかがでしたでしょうか?
来年はいよいよ15回目。
なんとか無事に過ごして15回目もお届けできるようにしたいですね。
(*´ω`)

今日はこんなところで。
ではではまた来年。
  1. 2023/04/01(土) 20:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿と催眠術

今日は新たな年度の始まりの四月一日です。
四月一日と言えばエイプリルフール。
エイプリルフールと言えば……

そう、今年も“あの方”に帰ってきてもらうことができました。(笑)
今年でなんと13回目。
そんなに続いておりますのかー。
Σ( ºΔº )

今回のタイトルは「四月馬鹿と催眠術」
お楽しみいただければ幸いです。

それではどうぞ。


四月馬鹿と催眠術

 「催眠術?」
 言葉の語尾を上げてキョトンとした顔をする彩華(あやか)。
 そりゃそうだよねぇ。
 私だって彩華がいきなり催眠術の話なんかしたら引いちゃうもん。
 でも、彩華はきょとんとはしているけど、その目はしっかり私を見てくれているし、ちゃんと話を聞こうとしてくれている。
 こういうところが私が彩華を信頼できる友人と思えるところだ。
 だから私は彩華に相談しようと思ったのだ。

 「催眠術って……あの、人を眠らせていろいろと術者の言うことを聞かせたりするようなやつ?」
 私は彩華の問いにコクンとうなずく。
 まさに私の言っている催眠術とはそういうものだ。
 目の前でゆらゆらさせた五円玉を見つめさせ、かかった人間にいろいろなことをさせちゃうやつ。
 かかった人間は術者の思うままに何でもしてしまうというやつだ。

 「その催眠術に……美織(みおり)の彼氏が嵌まってしまった……と?」
 「か、彼というか……お、幼馴染なんだけど……」
 な、なんだか急に顔が熱くなる。
 か、彼氏……なのかな?
 そりゃ……ずっとなんだかんだと一緒に遊んだりなんだりしているけど……

 「……」
 ポテトを無言で口に入れる彩華。
 あれ?
 やっぱりあきれた……かな?
 「美織は催眠術なんて……信じてるの?」
 私はブンブンと首を振る。
 信じているわけがない。
 そりゃテレビなんかで見ていると、たまにこれは本物かもと思うようなこともあるけど、少なくともよし君……吉広(よしひろ)にそんな能力があるなんて到底信じられない。
 だから私は……

 「信じてないけど……かかった振りをしちゃったの?」
 またコクンと私はうなずく。
 だってぇ……
 かかってあげないとよし君が……かわいそうかなと思って……

 「なるほど」
 今度はコーラを口にする彩華。
 うう……
 なんか突然刑事に尋問されているような気がしてきたよ。
 事件を起こした犯人の心境ってこんな感じなのかなぁ?

 「まとめると、美織の彼氏……幼馴染のよし君が、どこぞで催眠術を聞きかじってきたのか、美織にかけてきたというわけね? それで美織はかかってあげないとよし君がかわいそうだと思って、かかった振りをしてあげたと……こういうことね?」
 「そう! そうなの。さすが彩華」
 すごーい!
 やっぱり彩華頭いいなぁ。
 受験に失敗してうちの学校に来たというけど、正直もっと上の学校に行けたでしょ。
 でも、そのおかげで私は彩華と知り合えたんだから、彩華が受験に失敗してくれたおかげかも。
 おまけに頭だけじゃなく顔も美人だし、ホントうらやましいわぁ。

 「さすがでも何でもないわよ。それで美織は何を困っているの? 相談というからには何か困っているんじゃないの?」
 「うん……」
 今度は私がポテトを口にする。
 うう……
 なんて言ったらいいのやら……
 自分の考えをまとめるのって苦手なんだよねぇ。

 「その……」
 「うん」
 「えーと……」
 「うん」
 「そのね……」
 「うん」
 「えーとね……」
 「美織ぃ……」
 彩華が苦笑いしている。
 だって、なんて言っていいのか……
 わかんないよ……

 「じゃあ、私から聞くけど、美織はよし君が催眠術に嵌まっていることに関してはどう思うの?」
 「や、やめてほしい……とは思う」
 これは本当のこと。
 だって、よし君が催眠術なんて使えるはずが無いし。
 「じゃあ、素直にやめてって言えばいいんじゃないの?」
 「そ、そうなんだけど……」
 そうなんだけど……
 そうなんだけど……

 「もしかして……美織は催眠術にかけてもらいたいんじゃ?」
 「……」
 うう……
 「違う?」
 「そ、その……か、かけてもらいたい……というか……」
 顔が熱い。
 「というか?」
 彩華の顔が見られない。
 「と……言うか……かかった振りをしたい……」
 うう……は、恥ずかしい……

 「かかった振りをしたい?」
 「う……うん……」
 私はうなずく。
 「どういうこと? やめてほしいんじゃなかったの?」
 彩華が不思議そうな顔をしてる。
 「そ、そうなんだけど……私には……かけて欲しくて……その……」
 「よし君に催眠術をやめてほしいけど、美織はかかった振りをしたい……と?」
 「うん……」
 「それは難問だわ。詳しく聞いてもいい?」
 「う、うん……」
 うう……なんて言おう……

 「ふむ……つまり美織は、どうせからかわれているだけだからよし君が美織以外の人に催眠術を試すのはやめてほしいけど、美織自身はよし君に催眠術をかけてもらってかかった振りをしつつエッチな命令を期待したい……とこういうわけか」
 私のたどたどしい説明を我慢強く聞いてくれたあとで、すっかり冷めてしまってしんなりしたポテトを口に運ぶ彩華。
 「うん……たぶんクラスの男子がよし君をからかっているんだと思う。私にかけたときもクラスの男子だけじゃなく美織にもかかったって喜んでいたから」
 「でも、せっかく美織がかかった振りをしているのに、手を上げ下げしろとか、豚の鳴きマネしろとか、そういう命令しかしなかったと」
 「う……うん……」
 「で、キスをしろとか、下着を見せろとか、そういうエッチな命令を期待していた美織ちゃんとしては物足りなかったわけだ」
 「い、言わないでぇ」
 ニヤッとする彩華に、私は顔がカァーッと熱くなる。
 だ、だってぇ……
 よし君が私のことをどう思っているのかとか気になるし……

 「なるほどね。よし君ともう一段階進みたい美織ちゃんとしては、もう少しエッチな命令をしてほしかったと。だから催眠術を自分だけにはかけてほしいわけね」
 「う、うん……」
 たぶんクラスの男子たちはそのうち飽きて催眠術にかかった振りなんかしなくなると思う。
 そうなればよし君も私に催眠術をかけるのはやめちゃうだろうし、私がかかった振りをしていたことにも気づいちゃう。
 そんなことになったらよし君に幻滅されちゃうかも……
 そんなのいやだぁ!

 「ふう……あらためて聞くけど、美織は催眠術なんか信じていないのよね?」
 「うん。少なくともよし君が使えるとは思えない」
 「ふふっ……催眠術ねぇ……これは使えるかも……」
 彩華が小声で何かつぶやく。
 「えっ? 何?」
 「ううん、なんでも。ねえ、美織、それじゃ、私が催眠術を使えると言ったら……信じる?」
 ふふっと笑う彩華。
 「ええ? 彩華が?」
 「ええ、私が」
 私はしばし彩華の顔を見つめてから首を振る。
 「ご、ごめん。彩華のことは信用しているけど、それはちょっと信じられないかな」
 「ふふっ、そうよね。じゃあ、私の催眠術を見せてあげる」
 「えっ?」
 見せてあげるって?
 本当に彩華は催眠術が使えるの?
 嘘でしょ?

 「ここじゃなんだから、私の家に行きましょう。ここからそう遠くないし」
 そう言って立ち上がる彩華。
 「家って、彩華の家?」
 「ええそうよ。そういえば来るのは初めてだったかしら?」
 トレイを持って出口に向かう彩華。
 「う、うん」
 私もトレイを持って立ち上がる。
 そういえば一年ほど彩華と付き合ってきたけど、家に行くの初めてだ。
 いったいどんな家に住んでいるのだろう?
 私はごみをごみ箱に捨て、トレイを置いてハンバーガーショップを出る。
 そして彩華のあとについて歩いて行った。

                   ******

 「ここよ」
 「はえぇぇ……」
 思わず私は感嘆の声を上げてしまう。
 彩華に連れてこられたのはそこそこ立派なマンションの三階。
 こんな立派なところに住んでいたんだぁ。
 なんとなくお嬢様っぽい感じはしてたけどさ。

 「入って。誰もいないから」
 玄関を開けてくれる彩華。
 「ご両親はお仕事?」
 「両親? ふっ、ここにはそんなものいないわ」
 なんだかあざけるように鼻で笑う彩華。
 「えっ? それじゃ一人暮らし? こんなマンションに? すごい」
 うちは一軒家とはいえお祖母ちゃんまで入れると五人だから、一人暮らしってうらやましい。
 いいなぁ。
 「ふふっ、私はナンバーツーだから」
 「へ?」
 「ううん、なんでもないわ。さ、入って入って」
 彩華が私を玄関に招き入れる。
 ナンバーツーって何のことだろう?

 「お邪魔します」
 リビングに通された私はちゃんと片付いていることに驚いた。
 うちはいつもごちゃごちゃだから、毎回お母さんに怒られるのよね。
 ちゃんと片付けなさいって。
 高校生にもなってだらしないって。
 彩華はそんなことないんだろうなぁ。
 そもそも家にお母さんがいないなら怒られもしないよね。
 いいなぁ。

 「座って。あ、カバンは適当に置いていいわよ。何か飲む?」
 「あ、お構いなく」
 私は勧められた椅子に座って、カバンを脇に置く。
 テーブルの上もきちんと片付けられてて、きれいだぁ。
 ちょうどテレビや録画機があるから、普段の彩華はここでテレビを見るのかな?

 「はい、どうぞ。悪いわね。家まで来させちゃって」
 私の前にコーヒーを置いてくれる彩華。
 そのまま私の向かい側の席に着く。
 「あ、ううん。もともと私が休みなのに呼び出したんだし……」
 春休みなのにショッピングには付きあわせるわ相談には乗ってもらうわで、私の方が申し訳ないよ。

 「それで……催眠術の話だったわね」
 そう言ってコーヒーを飲む彩華。
 「うん」
 私も一口コーヒーを飲む。
 ふう……
 これは美味しい。
 「私が催眠術を使えると言ったこと、美織は信じないって言ったわね?」
 「うん」
 私はうなずく。
 そりゃ彩華の言うことだから信じたい気もするけど、さすがに催眠術はねぇ。

 突然私の目の前でパチンと指を鳴らす彩華。
 「ふふっ……これで美織は催眠術にかかったわ」
 「えっ? えええええっ?」
 今の?
 今の指パッチンで私が催眠術にかかったぁ?
 そ、そんな……
 「う、嘘でしょ?」
 「さあ、どうかしら? でも、あなたの腕はもうそのカップを持ち上げることはできないわ」
 にこっと微笑む彩華。
 まさにその笑みは天使の微笑みなんだけど……

 私は恐る恐るさっき飲んだコーヒーのカップを再度持ち上げようとする。
 えっ?
 嘘……
 そんな……
 私の腕が……上がらない?
 カップを手から離すと普通に上がるのに、もう一度カップを持つと、なぜか上に上がらない。
 ど、どうして?
 そ、そんな……

 「ふふっ……それじゃ今度は左手」
 「えっ?」
 私の左手がテーブルから下に降り、そのまま……
 「えっ? えっ? 嘘っ! や、やめて!」
 左手が勝手に私のスカートをめくり始めたのだ。
 なんで?
 なんでぇ?
 私は必死に止めようとするけど、左手は勝手にスカートをめくっていく。
 太ももがあらわになり、腰のあたりまでむき出しになる。
 「や、やめてやめてぇ」
 「ふふっ……美織は彼にこうしてほしかったんでしょ?」
 「そ、そうだけど……そうだけどぉ……」
 私は右手で左手を押さえつけ、なんとか動きを止めさせる。

 「ふふっ」
 彩華が私に向かって一回手を振ると、すぐに左手は治まってスカートから手を離す。
 私は自分の左手を改めて見直し、握ったり開いたりして確かめる。
 何の問題もないように普通に動く私の左手。
 えええ?
 一体どういうこと?
 本当に催眠術なの?

 「ねえ、美織。私にキスをして」
 「はい」
 えっ?
 今私は勝手に返事をした?
 えっ?
 えっ?
 私はどうして立ち上がって?
 えええええ?
 嘘でしょ?
 私の躰が勝手に彩華の方に歩いて……
 嘘ぉ!

 全然躰が自由にならない。
 いや、自由に動けているんだけど、まるで別の人に操られているかのよう。
 これが……
 これが催眠術なの?
 トリックなんかじゃない……
 信じられないけど、彩華は本当に……

 私の両手が彩華の頭をそっと引き寄せる。
 私の口が彩華の口に近づいていく……
 そこでスッと彩華の手が私の口を遮り、私は突然躰が自由になる。
 「あわっ」
 私は思わず飛び退るようにして彩華から離れ、そのまま床にしりもちをつく。
 「ハア……ハア……」
 「ふふふ……ごめんね。美織の唇はよし君のために取っておかないとね」
 いたずらっぽく笑っている彩華。
 も、もう……

 「で、どうだった? これでもトリック?」
 席に戻った私はブンブンと首を振る。
 トリックなんかじゃない。
 あれは絶対トリックなんかじゃない!
 私の躰は全然私の思い通りにはならなかったもん。

 「ふふふ……どうかしら? 私がこの技をよし君に教えるというのは?」
 「えっ? いいの?」
 彩華の催眠術をよし君に教えてくれるの?
 そうしたらよし君は本当に催眠術を使えるようになって……
 もしかしたらさっきみたいなことをしてくれちゃう?
 ええ?
 いいのぉ?

 「ええ、もちろんいいわ。ほかならぬ美織の相談だしね」
 「うわぁ、ありがとう彩華」
 すごくうれしい。
 やっぱり彩華はいい友達だよぉ。
 「ね、もう一度聞くけど、私の催眠術……信じた?」
 「もちろん!」
 私は大きくうなずいた。

 あ……れ……?
 なんだか目の前がゆがんだような……
 彩華が笑ってる?
 彩……華?
 え?
 彩華……なの?
 なんだか顔が馬みたいに……
 それに鹿のような角が……
 あ……れ……?

 「アハハハハ……」
 彩華が笑ってる。
 その姿がどんどん変わっていく。
 顔は馬のように長くなり、その上には枝分かれした鹿の角のようなものが伸びていく。
 口元に当てていた手は指がなくなり、馬の蹄のようになっていく。
 躰も制服は消えて茶色い毛におおわれていく。
 何これ?
 いったい何がどうなっているの?
 彩華はいったいどうなってしまったの?

 「アハハハハ……ああ気持ちいい。本当の姿になるのは気持ちがいいわぁ」
 椅子から立ち上がる彩華。
 「ねえ、見て? どう、私の姿? 何に見える?」
 彩華が私の目の前でクルリと一回転して見せる。
 そのお尻には尻尾があり、スラッとした足にも二つに割れた蹄がある。
 「何って……鹿? 馬?」
 これはいったい何なの?
 それよりもどうして彩華がこんな姿に?

 「アハハハハ……バカねぇ。私は鹿でも馬でもないわ。そうやってどっちかだと思おうとするから、あなたみたいに騙されるのよ」
 語尾が急に低くなり、あざけるように私を見る彩華。
 「騙……される?」
 「アハハハハ……そうよぉ。あなたは私に騙されたのよぉ」
 え?
 騙されたって何?
 私が何に騙されたというの?
 いったい何が起こっているの?

 「私は妖怪馬鹿(うましか)。人間をだますことがだーい好きな妖怪。あなたは見事に私に騙されたってわけ。クフフフフ……」
 「うま……しか?」
 「そうよぉ。私は妖怪馬鹿。人間は私たちを見て馬だろうか鹿だろうかと思い悩む。そして混乱しているうちに私たちの言葉に騙されるというわけ。アッハハハハ……」
 心底おかしそうに笑っている彩華。
 嘘……でしょ……
 彩華が妖怪?
 これこそ私を騙そうとしているんじゃないの?

 「ねえ、美織。あなた言ったわよね? 私の催眠術を信じると」
 「え、ええ……」
 言った……
 私は確かにそう言った……
 「クフフフフ……バカねぇ。私は催眠術なんて使えないわよぉ」
 「えっ?」
 催眠術を使えない?

 「嘘……だってさっき……」
 私の躰は彩華の言いなりになったし……キスしそうになったし……
 「アハハハハ……いい加減後ろに気が付いたら?」
 えっ?
 後ろ?
 私は急いで振り返る。
 「ひっ!」
 小さく悲鳴を上げてしまう私。
 私の背後には、いつの間にかつばの広い帽子を目深にかぶり、黒いコートを着た男性が立っていたのだ。

 「わあっ」
 そんな人物がいたことに驚いた私は、思わず椅子から立ち上がってあとずさる。。
 「クックック……初めまして、お嬢さん」
 コートの男性が蹄の先で引っかけるようにして帽子を脱ぐ。
 嘘……
 この人もなの?
 帽子を脱いだ下からは、馬のような長い顔に鹿のような角が生えた頭があったのだ。

 「ようこそおいで下さいました我が主(あるじ)様」
 その男の前で片膝をつく彩華。
 馬鹿が……二人も?
 「クックック……いきなり俺様に手伝いをさせるとは、お前も偉くなったものだな」
 「うふふ……主様こそおもしろそうだと思ったから来てくださったのでしょ? こうして来ていただけてとてもうれしいです」
 「ふん、お前には一度消滅させられているからな。無視してまた消されてはかなわん」
 「そんな……私にそんな力が無いことなどご存じのはず。それに、私は主様の忠実なるしもべ。身も心も主様に捧げております」
 ひざまずいた彩華がうっとりと見上げている。
 なんなの?
 これはいったいなんなの?

 「あ、彩華……」
 「クフフフフ……紹介するわ。このお方は私のご主人様の四月馬鹿様という偉大なるお方よ」
 彩華がゆっくりと立ち上がる。
 「四月……馬鹿……」
 「そう。そしてこれからはあなたのご主人様にもなられるお方」
 「えっ? 私の?」
 私のご主人様?
 えっ?
 えっ?

 「美織ったら……まだ自分が私に騙されたことに気付いていないのね? だから変化が始まらないんだわ」
 くすくすと笑う彩華。
 「えっ? でも……」
 「ねえ、いい加減に気付いたら? 腕ぐらい見なさいよ」
 えっ?
 腕?
 私が腕を見ようとすると、右手が勝手に前に伸びる。
 あっ、これ。
 これよ。
 さっき彩華に催眠術にかけられた……
 えっ?
 何これ?
 私の手首に糸が絡んで?
 糸が?

 「ひーっひっひっひ……催眠術ってのはこれかぁ?」
 彩華の隣にいる四月馬鹿とか言う妖怪が笑っている。
 その手からは糸が伸びていて、私の手首に付いた糸を繰り寄せて……
 えっ?
 私の手の糸を?
 えっ?

 「アハハハハ……そうよぉ。あなたの躰はずぅっと主様が操っていたのよ。その糸でね」
 「嘘……」
 「これは嘘じゃないわ。言ったでしょ。私は催眠術なんて使えないって。あなたは単に主様の操り人形になっていただけ。アッハハハハ……」
 「操り……人形……」
 そんな……
 「そう……それなのにあなたは私に催眠術をかけられたと思い込んだ。私の言葉を信じたってわけ」
 「彩華の……言葉を……」
 私は……信じた……
 「そう……あなたはぁ私にぃ騙されたの。アッハハハハ……」
 歯をむき出していななくように笑う彩華。
 ああ……
 私は……
 私は騙された……

 えっ?
 私の腕から茶色い毛が生えてくる。
 嘘……
 躰が?
 私の躰が?

 「うふふふ……やっと始まったわね。あなたも馬鹿になるのよ」
 「私も……馬鹿に……」
 「そうよ。ああ、待ち遠しかったわぁ。私ね、あなたをずっと馬鹿にしたかったの。あなたと出会ってからずっと。約一年間ね」
 彩華が私の躰にそっと触れる。
 「でも、ただ馬鹿にするだけじゃもったいなかったの。あなたには主様と一緒に馬鹿にしてやりたかった。だからこの日を待っていたの。主様が姿を見せるこの日を。騙す手段は即興だったけどね」
 「彩華……」
 私の躰が変わっていく。
 服は消え、躰には茶色の毛が広がっていく。
 足にも手にも蹄ができ、鼻も伸びて馬のようになっていく。
 「うふふ……おめでとう。これであなたも妖怪馬鹿よ」
 ああ……そうなんだ……
 私は馬鹿……
 妖怪馬鹿……
 彩華と一緒なんだわ。
 アハ……アハハハハ……

 私は偉大なる王のもとに行ってひざまずく。
 「四月馬鹿様、私は妖怪馬鹿。あなた様の忠実なるしもべです」
 「クックック……新たなしもべよ、これからは彩華とともに俺様に仕えるがいい」
 「はい。喜んで」
 ああ……
 なんてうれしい。
 今ならわかる。
 彩華がうっとりと主様を見上げていた気持ちが。
 偉大なる主様にお仕えできることがこんなに幸せだなんて。

 「それにしても彩華よ、お前いつまで女子高生でいるつもりだ?」
 「ええ? いいじゃないですかぁ。女子高生だとバカな男を騙しやすいんですよぉ」
 彩華が笑っている。
 なーんだ……
 彩華ったら妖怪であることをいいことに、ずっと女子高生やっているのね。
 「まあ、それもそうか。男を騙すには便利そうだな」
 「うふふ……いかがですか主様。これから女子高生の私とデートなど。すぐに擬態しますけど」
 そう言って彩華は以前の女子高生の姿に擬態する。
 「遠慮しておくさ。四月一日は短いんだ。お前にばかり付き合っていられん。あばよ。クックック……」
 「ああん、主様ぁ! ご主人様ぁ!」
 彩華の声に応えることなく、すうっと姿を消していかれる四月馬鹿様。
 私も寂しい気持ちを感じながらお見送りする。

 「あーあ、行っちゃった。また来年までお預けね。さて、美織も擬態したら。よし君を騙しに行くんでしょ?」
 「ええ、もちろん」
 私は彩華にうなずいて、人間の姿に擬態する。
 「じゃあ行きましょ。私ももう一人二人騙したいし」
 「じゃあ外まで一緒に」
 私は彩華と二人で外に向かう。
 うふふふふ……
 なんてすばらしい四月一日。
 彩華と一緒に妖怪馬鹿になれたなんて。
 最高だわ。

 私はこれからどうやってよし君を騙そうかと考えながら、彩華と二人で春の日差しの中を歩き出した。

END


いかがでしたでしょうか?
また一年無事に過ごして来年も四月馬鹿様にご登場いただけますよう頑張ろうと思います。
ではではまた来年。
(´▽`)ノ
  1. 2022/04/01(金) 20:00:00|
  2. 四月馬鹿
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娘の誕生日と四月馬鹿

月が替わりまして、今日は4月1日。
そう、エイプリルフールの日です。

エイプリルフールとなれば、はい、今年もまた“あのお方”が帰ってくることができました。
12回目の四月馬鹿様の登場です。

今年は誰がどんな騙され方になりますのか?
お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


娘の誕生日と四月馬鹿

 「ママ、パパは今日も遅いの? くるみの誕生日なのに帰ってきてくれないの?」
 娘のくるみが悲しそうな顔で私を見る。
 テーブルにはケーキを用意し、脇には誕生日のプレゼントも置いてある。
 くるみの大好きなハンバーグもそろそろ焼けるころ合いだ。
 時間的にもこれ以上遅くなれば、くるみの寝る時間に影響してしまう。
 せめて……せめて今日ぐらい帰ってきてくれてもいいものを……

 「ごめんね……今日もパパは忙しいんだと思う。決してくるみの誕生日を忘れたわけではないのよ」
 私はくるみの頭をなでる。
 その目がじっと私を見る。
 胸が痛い。
 私はくるみに嘘をつく。
 あの人は忙しくて帰ってこられないんじゃない。
 どうせ今頃は……

 「さあ、ハンバーグが焼けたわ。くるみの大好きなハンバーグよ。美味しいわよ」
 私はフライパンからハンバーグを皿に移す。
 「わぁい! くるみハンバーグ大好き」
 そのいい香りに悲しそうな表情は消え、にこやかな笑みが娘に浮かぶ。
 「パパはきっと遅くなると思うから、ママと先に食べちゃいましょうか。ろうそくの火を消すんでしょ?」
 「うん」
 大きくうなずくくるみ。
 ハア……
 私はどうしたら……
 胸が痛い……

 「美味しーい」
 「それはよかった。ママもくるみが美味しそうに食べてくれてうれしい」
 ハンバーグを頬張るくるみの顔は、私をとてもうれしくさせてくれる。
 母も私にハンバーグを作ってくれたものだったわ。
 きっとこんな気持ちだったのかもしれないわね。

 四本のろうそくの火を吹き消し、ケーキをひと切れ食べてハンバーグも食べる。
 あとはパパさえいてくれたら、くるみにとっては最良の誕生日となるというのに……
 こんな日ぐらいこっちに帰ろうとは思わないのだろうか……
 もう……ダメなんだろうな……

 えっ?
 玄関で音がする?
 誰?
 誰か入ってきたの?
 私は急いで玄関に行く。

 「ただいま。遅くなってすまん。もう始めちゃったか?」
 「嘘……」
 私は思わず驚きに両手で口元を隠してしまう。
 玄関では靴を脱いでいる男が一人。
 帰って……帰ってきてくれたの?
 「いいにおいだな。腹減ったよ。俺の分あるか?」
 「えっ、ええ、もちろん」
 あなたが食べなくたって、ずっとみんなの分を作ってきたわ。

 「パパだー! お帰りなさいー!」
 私が部屋に戻るのが遅かったからか、くるみも玄関にやってくる。
 口にはハンバーグのソースが付いたままだ。
 「おお、くるみ。ただいまー」
 男は駆け寄ってきたくるみを抱き上げて頬擦りする。
 「やーん」
 「それそれー」
 「おひげいたーい」
 「わははは……そうかそうか。ごめんごめん」
 嬉しそうにはしゃぐくるみを下ろし、手をつないで部屋に入っていく男。
 私は置き去られたカバンを持ち、二人のあとから部屋に入る。

 「おお、美味しそうだなー。ハンバーグかー」
 「パパもママのハンバーグ好き?」
 「好きだぞー。ママのハンバーグは美味しいからなぁ」
 「美味しいー」
 テーブルに並んだハンバーグやケーキを見て、楽しそうにくるみと話しているあの人の姿をした男。
 嘘だ……
 この人はあの人じゃない……
 あの人は……こんなところに帰ってきたりしない……
 いつだって……
 いつだって私もくるみもほったらかしてきたくせに……

 でも……
 でも、いい……
 この人が何者だっていい……
 他人のそら似だってかまわない……
 だって……
 だって……くるみがあんなに楽しそうに……

 「ママー、どうしたの? 泣いてるの?」
 「う、ううん。違うのよ。ちょっと目にゴミがね。それよりもパパの分のハンバーグ焼かなきゃ。ちょっと待っててね、パパ」
 私は慌てて目元をぬぐい、キッチンに戻る。
 「ああ、ゆっくりでいいよ。久しぶりにくるみとおしゃべりもしたいしな」
 「くるみもパパとおしゃべりする―」
 「くるみはちゃんとご飯を食べてからな」
 「はーい」
 私の背後でかわされる会話。
 どうか……
 どうかこれが夢なら覚めないで……

                   ******

 ご飯を終え、プレゼントの中身に大喜びをし、パパとおしゃべりを楽しんで、すっかりおねむになったくるみを私はベッドに連れていく。
 その間にパパにはお風呂に入ってゆっくりしてもらい、私は部屋に戻ってカバンの中身を確かめてみる。
 何もない?
 カバンの中身は空っぽ。
 一切何も入っていないなんて……
 でも、声も姿もあの人そっくり。
 いったい彼は何者なの?

 「ふう……気持ちよかった」
 用意したパジャマに着替えたあの人がお風呂から上がってくる。
 本当に、見れば見るほどそっくりだわ。
 でも……
 でも……

 「お疲れ様。はい」
 私は冷蔵庫から缶ビールを取り出して彼に渡す。
 「お、ありがとう」
 私の向かいの席に着き、濡れた髪をバスタオルで拭きながら、缶ビールを開ける彼。
 「ぷわぁー! うまい」
 ああ……美味しそうに飲む姿もあの人そっくりだ。
 こういうところが好きだったのよ……

 「くるみはもう寝たのか?」
 「ええ、ぐっすりと……今日はありがとう」
 「ん? いいさ、たまには」
 私はその言葉に首を振る。
 「いいえ、たまにはではなく、初めてのことですよね?」
 「ん?」
 何のことかわからないというような表情をする彼。
 でもね、わかっているの。
 あなたはあの人ではないのよ。

 「あなたはあの人ではありません。私にはわかります。でも、くるみにとっては本当にあなたはパパでした。とっても喜んでパパと一緒に過ごす誕生日を楽しんでいました」
 「ふむ」
 少し表情が厳しくなる彼。
 私が気付いていたからだろうか……
 「だから私は決めたんです。今晩一晩、あなたをあの人として扱おうと。くるみのパパとして過ごしてもらおうと……」
 「おいおい、待てよ。俺は」
 「いいえ、あなたはあの人ではありません。あの人なら今頃は女の家にいるでしょう。娘のことなど心から追い出し、楽しい時間を過ごしているはず。ですから、あなたはあの人ではありません」
 そう……
 あの人にとって私とくるみはもういないものとされた存在。
 世間体のために今はまだ生活費を入れてくれているけど、いずれは離婚になるでしょう。
 だから、くるみのために早く帰ってくるなどあり得ないの。

 「ククククク……結構うまく化けたつもりだったが、やはり気付いていたのか。残念だ」
 突然ニヤッと笑いを浮かべる彼。
 やはりこの笑い顔はあの人とは違う。
 「はい。気付いていました。でも、あなたがくるみのパパを演じてくださったことには、本当に感謝しております。ありがとうございました」
 私は頭を下げる。
 これは本当に私の気持ち。
 彼のおかげで娘はすごく楽しめた。
 だから、心から感謝しているの。

 「あなたが何者で、なぜこんなことをしたのかはわかりません。お金がご入用でしたら、いくらかはご用意できると思います。何をお望みなのか、教えてくれませんか?」
 「ククククク……察しがいいな。望みはある。だが、金じゃぁない」
 「ひっ!」
 私は思わず口を押えてしまう。
 私の目の前で彼の姿が変化し始めたのだ。
 顔が茶色の短い毛でおおわれ、鼻づらがぐんぐん前へと伸び、ニタァッと歯をむき出して笑っている。
 耳は頭頂部に移動し、その間からはするすると大きな角が伸びて枝分かれしていく。
 馬?
 これは馬の顔?
 あっという間に彼の顔は角の生えた馬の頭になってしまったのだ。
 「そ、そんな……ば、化け物……」
 「ククククク……そうさ、俺様は化け物さ」
 ニタニタと笑っている彼に、私は驚きを隠せなかった。

 私は知った。
 彼は悪魔なのだ。
 私は悪魔を招き入れてしまったのだ。
 だとすれば、悪魔が金など欲しがるはずがない。
 悪魔が欲しがるものと言えば……
 「ああ……そう……そうなのですね……あなたが……あなたが望むものは……私の魂……私の命なのですね……」
 「ククククク……そうだ」
 馬の顔をした彼がうなずく。
 ああ……
 そんな……
 「わかり……ました……」
 私は覚悟を決めて静かにそう答える。
 「私の命は差し上げます。一晩の代償としては高すぎるという気もしますけど、あなたがそう望むのなら仕方がないのでしょう。あなたを家に迎え入れ、受け入れたのは私ですから……」
 「ククク……」
 彼はただ笑みを浮かべているだけ。
 「ですが……どうかお願いです。あと十年……せめて五年は待ってもらえませんか? あの子はまだ四歳なんです。今私が死んでしまったら、あの子は一人になってしまう! せめてあと五年……」
 私は頭を下げて必死に頼み込む。
 あの子を残してなんて……

 「大丈夫よママ。四月馬鹿様はそんなことを望んではいないの」
 えっ?
 くるみ?
 背後から聞こえてきた声に、私は思わず振り向く。
 「ひっ!」
 振り向いた私の目の前には、娘のパジャマを着てうさちゃんのぬいぐるみを持つ、馬の頭部と鹿の角を生やした彼にそっくりの化け物だった。
 「く……くるみ?」
 「うふふふ……ええ、そうよ。でも、私は四月馬鹿様のおかげで馬鹿として生まれ変わったの。今の私は四月馬鹿様のしもべなのよ」
 ニタニタと笑っている馬と鹿の化け物。
 パジャマから覗くぬいぐるみを持った手も、蹄のようになってしまっている。
 「そ……んな……どうして……」
 「ククククク……その子は俺様に騙されたからなぁ。俺様に騙された者は馬鹿となるのさ。ククククク……」
 「そんな……そんな……」
 「そうよ。私は四月馬鹿様をすっかりパパだと信じ込んでいたわ。だから完全に騙されて馬鹿として生まれ変わったの。馬鹿はとっても素敵。これからは私もいっぱい人を騙してやるの」
 くるみのパジャマを着てくるみの声でしゃべっている化け物。
 そんな……
 そんなことって……
 ひどすぎる……

 「心配ないわ。ママもすぐに馬鹿になるわ。ほら」
 えっ?
 見ると、私の手が馬の蹄のように変わっている。
 「いやぁっ! そんな! どうして?」
 「ククククク……お前も俺様に騙されたからさ」
 「違う! 私は騙されてなんかいない! あなたがあの人だなんて信じたりしなかった! 騙されてなんかいない!」
 私は必死に首を振る。
 私は騙されてなんか……

 「ううん、ママは騙されたわ。四月馬鹿様に」
 小さな馬鹿が首を振る。
 「えっ?」
 「だって、四月馬鹿様は命も魂も取ったりなんかしないわ。騙した相手を馬鹿にすることがお望みなの。でもママは……」
 「そう……俺様に魂を取られると信じていたよなぁ? クックックック……」
 「あ……」
 そうだ……
 私は四月馬鹿様に魂を取られると思い、必死で命乞いをした……
 四月馬鹿様に殺されると信じてしまっていた……
 あは……
 あははは……
 私も騙されてしまったんだわ……

 私の鼻が伸びていく。
 茶色の毛が生え、頭には角も生えてきたみたい。
 立ち上がって服を脱ぐと、躰も茶色い毛におおわれていた。
 両手と両脚は蹄ができ、お尻からは尻尾が生えてくる。
 ああ……
 なんて気持ちいいの?
 私はもう人間なんかじゃないわ。
 馬鹿になったのよ。

 「おめでとう。これでママも馬鹿ね」
 一足先に馬鹿になったくるみがにこにこと微笑んでいる。
 「ええそうよ。私は馬鹿。もう人間の女なんかじゃないわ」
 私もうれしくて、思わず歯をむき出して笑ってしまう。
 「うふふ……これからは一緒に四月馬鹿様にお仕えしましょうね」
 「ええ、もちろん。私たちは馬鹿。四月馬鹿様のしもべですものね」
 そうよ……
 四月馬鹿様のためにも、いっぱい騙さなきゃね。

 「ククククク……これでもうパパなど必要なくなったな?」
 「はい。あの男などもう必要ありません。私に必要なのは私に騙されてくれる愚か者たちですわ。うふふふふ……」
 ああん……たまらないわぁ……早く愚か者たちを騙したい。
 「ククク……まあ、好きにやれ」
 そう言って、どこからかつばの広い帽子とコートを取り出す四月馬鹿様。
 やがてそれらを身にまとうと、新たな獲物を探しに行ってしまわれる。
 私たち二人はその後ろ姿を見送ると、これからの楽しみを思い、顔を見合わせて笑みを浮かべるのだった。

 END

いかがでしたでしょうか?
来年もまた四月馬鹿様に登場してもらうためにも、また一年間無事に過ごしたいですね。
ではではまた来年。
(´▽`)ノ
  1. 2021/04/01(木) 20:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿と痩せたい思い

世間はちょっと大変な状況になっておりますが、今日は四月一日。
そう、あの日です。
今年も奴がやってまいりました。

いやぁ、苦しかったです。
ホントまじめに昨年の10回でやめようかなと思いましたぐらいです。
でもまあ、何とか今年も奴を呼び戻すことができました。( ˘ω˘)

今年は11回目。
令和最初の四月馬鹿様の話をお楽しみくださいませ。

それではどうぞ。


四月馬鹿と痩せたい思い

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・」
トレーニングウェアに汗がじっとりと浸み込んでくる。
朝の冷涼な空気がそれを冷やし、やや肌寒さを感じさせる。
今朝からもう四月とはいえ、まだまだ朝の空気は冷たい。
まあ、だからこそ、ジョギングするにはいい気候ともいえるかもしれないけど・・・

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
公園に着いて私は脚を止める。
今日も行程の半分が終わり。
ここで一息入れて、また帰り道を走るのだ。

私は首に巻いていたタオルで汗を拭く。
ふう・・・
一旦休息。
私はベンチに腰掛ける。

あと二ヶ月しかない。
それまでにあと最低3キロは落とさなくちゃ・・・
できればくびれも欲しいし、二の腕のぷにぷにも・・・
あー、憂鬱だよー!
もしかして、これが世に言うマリッジブルー?

なんてバカなこと考えてないで、帰って会社に行かなくちゃ。
ふう・・・
今日もこのあと仕事だと思うとうんざりするわ・・・

「また走るのかい?」
えっ?
立ち上がった私に背後から声がかかる。
私が振り返ると、いつの間にか私が座っていたベンチに男の人が腰かけていた。
いや・・・男の人・・・なんだと思う。
つばの広い帽子のせいで顔は隠れて見えないけど、黒いコートを羽織った躰はがっしりとしているし、何より声も低く太い声だったから。

「また走るのか、と聞いている」
「え、ええ・・・」
思わず足を止めて答えてしまう私。
なんなのこの人は?
いったい何者?
関わらないほうが良さそう。

「なぜ走る?」
さっさとこの場を立ち去ろうと思った私に、再び問いかけてくるコートの男。
「なぜ走るのか聞いているのだが」
私は立ち去ることもできず男の方を向いたまま。
なぜって・・・
そんなの・・・
「痩せたいからよ」
「痩せたい? そんなに痩せているというのにか?」
驚いたような男の声。
痩せている?
私が?

「バカ言わないで! どこが痩せているっていうの?」
思わず私は声を荒げてしまう。
だって、私は痩せてなんかいないもの。
お腹だってポッコリお腹だし、くびれはないし、二の腕だってぷよぷよだし・・・
うっ・・・
自分で考えてダメージが・・・
ともかく私は痩せたいの!

「ククク・・・そうか・・・もっと痩せたいのか・・・」
今度は笑う?
「そうよ。私はもっと痩せたいの。ほっといて!」
私は今度こそ立ち去ろうと踵を返す。
やっぱりこんな人に関わるんじゃなかった。

「待て。いいものをやろう」
背後からまた声がかかる。
「結構です」
私はきっぱりと断る。
これ以上関わってなどいられない。
「クククク・・・いいのか? 痩せられるぞ」
ピタッと私の脚が止まってしまう。
どうして・・・
どうして止まっちゃうの?

「痩せられる?」
バカバカしい。
ダイエット商品ならとっくにいろいろと試したわ。
そんなに簡単に痩せられるなら誰も苦労しないわよ。
でも、私の心と裏腹に、私は男の方を再び振り返っていた。

「ほらよ」
男が何か投げてよこす。
私はそれをキャッチして、なんなのか確認する。
お菓子?
それはよくある錠剤型のお菓子を入れた平べったいケースのようなもの。
というか、ピルケースだわ。

「何これ、いらない。どうせ痩せるサプリメントでしょ。散々試したわ」
私はピルケースを投げ返す。
「ククク・・・そういわずに試してみたらどうだ? 劇的な効果があるかもしれんぞ」
キャッチしたケースを再び投げてよこすコートの男。
「いらないって言っているでしょ。だいたいこんな怪しいもの飲めますかっての」
私はそれをキャッチして、投げ返す。
「そう言うなって」
「いらないって」
何度かキャッチボールのようなことをしてしまう。
何やってんだ、私?
もう行かなきゃ。
「騙されたと思って」
「しつこいよ!」
私はまたしても投げ返されたケースを投げようとする。
「あれ?」
ベンチにはもう誰もいない。
嘘・・・
ほんの一瞬目を離した隙に?
周囲には隠れるようなところもないのに?
嘘・・・でしょ・・・
私は手元に残ったケースを見る。
いったい・・・あの男の人は何者だったのだろう・・・

                  ******

「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
出社して自分の席に着く。
ふう・・・
今日も一日が始まる。
結局あのケースは家にまで持ち帰ってしまった。
もちろん飲むつもりはみじんもない。
あんな怪しいものが飲めるわけがない。
即ゴミ箱行きだ。
公園にも帰り道にもゴミ箱がなかったから持ち帰っただけのこと。
ただ・・・それだけのこと・・・

「これ、お願いね」
「あ、はい」
渡される仕事。
処理しても処理しても回ってくる。
毎日毎日。
それでいてミスは許されない。
ふう・・・

やっとお昼。
今日も野菜サラダのみ。
ふう・・・
我慢我慢。
痩せるためには我慢あるのみ。
なんとしても痩せてウエディングドレスをきれいに着こなしてやるんだから。
彼をびっくりさせてやるんだから。
でも・・・
でも・・・
もう・・・限界かも・・・

二の腕ぷにぷに・・・
お腹もぷよぷよ・・・
くびれはナッシング・・・
痩せたいよぉ・・・
毎朝走っているのに・・・
腹筋だってやってるのに・・・
腕だって・・・
はあ・・・

「お疲れ様」
「お先にー」
「またねー」
今日も終わった・・・
お腹空いた・・・
晩御飯はしっかり食べなきゃ・・・
糖質とカロリーは抑えつつ・・・
はあ・・・

「ただいまぁ・・・」
誰もいない我が家。
あと二ヶ月でここもお別れ・・・
と行きたいところだけど、残念ながらしばらくはおあずけ。
彼の都合で新居で一緒に過ごすのはちょっと先になる。
まあ・・・いいけど・・・

「疲れたぁ・・・」
カバンを放り出し、上着を脱ぎ捨てて、ソファに横になる。
おかず・・・作らなきゃ・・・
今日は何を作る日だっけ?
あー・・・もう・・・めんどくさいなぁ・・・
痩せさえすれば・・・

「騙されたと思って・・・か・・・」
私は躰を起こして、ソファの横のごみ箱の中から、捨てたピルケースを取り出す。
「痩せる薬・・・か・・・」
怪しい薬・・・
効き目なんてあるはずがない・・・
毒かもしれない・・・
でも・・・
でも・・・

ケースを開けて中身を出す。
オレンジ色の錠剤が三粒。
たった三粒?
一回分?
それとも三回分?
説明も何もないし・・・

私はどうしちゃったんだろう。
なんでこんなものを飲もうとしているんだろう。
怪しいのに・・・
毒かもしれないのに・・・

私は台所に行き、コップに水を注いで、錠剤を全部口に入れる。
あまーい!
何これ?
やっぱり単なるお菓子じゃないの?
それに口の中で一瞬で溶けちゃったみたい。
水を飲む間もなかったわ。
あーあ・・・
もうどうにでもなれ・・・

                   ******

うーん・・・
目覚ましが鳴ってる・・・
もう朝かぁ・・・
起きてジョギングに行かなくちゃ・・・
あーあ・・・
めんどくさいなぁ・・・
でも・・・痩せなきゃ・・・

私はベッドから起き出すと、服を着替えるためにパジャマを脱ぐ。
あれ?
何か違和感を・・・
気のせいか・・・お腹周りがすっきりしているような・・・?

私は急いで姿見のところへ行く。
嘘?
これが私?
本当に?
お腹が・・・スリムになっている・・・
腰も・・・くびれている・・・
胸も・・・少しだけ大きくなったような・・・
二の腕だって・・・

えっ?
嘘でしょ?
どうなっているの?
私はほっぺたをつねってみる。
痛い・・・
夢・・・じゃないよね?
どうなっているの?

トレーニングウェアを身に着ける。
いつもより腰回りが確実にゆるい。
逆に胸元はちょっときつく感じる。
嘘じゃない。
嘘じゃないんだわ。

あの薬?
そうよ・・・
きっとあの薬のおかげ。
あの薬は本当だったんだわ。

私はいそいそと玄関を出る。
なんだか躰が軽くなったような気さえする。
あの人にお礼を言わなくちゃ。
これで何の気兼ねもなくウエディングドレスが着られる。
彼もきっと、痩せたね綺麗だよって言ってくれる。
ああ・・・
なんて嬉しいの。

「はっ、はっ、はっ、はっ」
息も弾む。
足取りも軽い。
なんだか生まれ変わったような感じ。
痩せるってこんなに素敵なことだったんだわ。

公園に到着。
ふう・・・
私は脚を止め、タオルで汗を拭く。
気持ちいい。
さて、昨日の人はいるかしら・・・

いた。
昨日と同じベンチに腰かけているわ。
つばの広い帽子も黒いコートも昨日のまま。
うふふ・・・

「おはようございます」
私は彼に声をかける。
「ん?」
疑問なのか肯定なのかわからないような返事。
顔を上げさえしない。
まあいいけど。

私は彼の隣に座る。
「昨日はありがとうございました」
「ああ・・・お前か。薬は役に立ったかい?」
「ええ・・・たぶん」
私は改めて自分の躰を見下ろしてみる。
昨日とは明らかに違う自分の躰がそこにはある。

「クックック・・・そいつはよかった」
彼のちょっと耳障りな声もなんだか心地よく聞こえてくる。
「おかげで二の腕のぷよぷよも無くなったし、お腹もへこんだし、なにより腰がキュッと引き締まってくれたのがうれしい。本当にありがとう。まるで夢でも見ているみたいだわ。信じられない」
「クックック・・・そうだな。夢かもしれんな」
「えっ?」
「夢かもしれんって言ったのさ。クックック・・・」
彼の妙な笑い声が頭の中で反響する。
夢?
夢?
えっ? えっ? えっ?

                   ******

「えっ?」
私は顔を上げる。
「クックック・・・おはよう。いい夢は見られたかな?」
隣に座る帽子の彼。
えっ?
私はいったい?

ここは公園。
いつもの朝の風景。
あっ!
えっ?
嘘?
お腹は?
くびれは?
ええっ?
私の躰はいったい?

「どうした? 何を驚いている?」
「あっ、えっ? わ、私はいったい?」
「突然居眠りを始めたみたいだぞ。かれこれ30分ほども寝ていたか?」
「居眠り? 嘘・・・私はあなたから薬をもらって・・・それで痩せることができて・・・」
なにがなんだかわからない。
いったい何がどうなったの?

「あの薬を飲んだのか?」
「飲んだわ。おかげで理想の躰になることができて・・・あなたにお礼を言いたくて・・・」
相変わらずこちらを向こうともしない彼。
「クックック・・・残念だったな。それは夢だ」
「夢? 嘘・・・嘘でしょ?」
「嘘じゃないさ。俺はお前に夢を見せてやった。だが、それはお前が望んだ夢」
「私が・・・望んだ夢?」
あれが・・・夢?

「クックック・・・お前はあの薬をもらった時、こんな胡散臭い薬など飲むものかと思ったはず。効果だって信じていなかっただろう」
確かにそう思っていた・・・
「だが、お前はこうも思った。“騙されたと思って”飲んでみようとな。そしてお前は飲んだ」
ああ・・・その通りだわ。
「お前が本当に俺に騙されていると思っていたのなら、夢の中でもお前の躰は痩せはしなかっただろう。だが、お前は、“騙されたと思ったけど、騙されてはいなかった”と思いたかった。だから夢の中のお前は痩せたのさ」
騙されたと思い込もうとしながら、騙されていなかったと信じたかった・・・
「結局お前は俺に騙されていないと信じて、俺に騙されたのさ」
そ・・・んな・・・

「教・・・えて・・・今日は何月何日なの?」
「今日は四月一日だ。クヒャヒャヒャヒャヒャ」
彼が帽子を取る。
その下から出てきたのは、まさに歯をむき出して笑っている馬の顔。
そしてその頭には立派な鹿の角が生えている。
「あ、あなたはいったい?」
「俺か? 俺は四月馬鹿(しがつうましか)。今日からお前の主となる者さ。クヒャヒャヒャヒャ」
彼の笑い声が周囲に響く。
ああ・・・
あああ・・・

                   ******

「クフフフフフ・・・」
私は偉大なるご主人様にひざまずく。
なんて気持ちがいいのだろう。
私はもう人間なんかじゃない。
両手は先が割れた二つの蹄となり、両脚はつま先が丸い一つの蹄となる。
躰には茶色の毛が覆い、お尻には尻尾が垂れ下がる。
頭にはご主人様と同じく鹿の角が生え、顔は突き出した馬の顔となる。
私は馬鹿(うましか)。
ご主人様にお仕えする馬鹿の一匹なのよ。

「クククククク・・・これでお前も立派な馬鹿だ。今日は四月一日。お前も楽しんでくるがいい」
「はい。ご主人様」
私はご主人様に頭を下げる。
これからは、ご主人様同様に愚かな人間を騙しまくるの。
「クフフフフ・・・」
楽しみだわぁ。
私は獲物を見つけるために、朝の街中へと走り出すのだった。

END


いかがでしたでしょうか?
なんか自分でも騙したんだか騙されたんだかよくわからなくなってしまいましたが、それこそが奴の手なのかも。(笑)
ではではまた来年。(´▽`)ノ
  1. 2020/04/01(水) 21:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿と騙される女

新元号発表で世間がざわめいている中ですが、今日は四月一日。
そう、奴が帰ってくる日です。
今年も何とか帰ってくることができましたー。ヽ(´▽`)ノ

そしてなんと、今年は四月馬鹿様のお話も10回目を迎えるという節目だったんですねー。
こんなネタを10年もやってきたのかー。(笑)

ということで、10回目の四月馬鹿様です。
平成最後の四月馬鹿様をどうぞお楽しみくださいませ。

それではどうぞ。


四月馬鹿と騙される女

「うん・・・うん・・・そう・・・わかった・・・うん・・・何とか用立てられると思う・・・うん」
電話の向こうから聞こえてくるつらそうな声。
でもそれは演技なのだろう・・・
嘘の事故・・・
嘘の病気・・・
嘘のデビュー資金・・・
そのたびに私は彼にお金を渡す。
戻ってこないということを知りながら・・・

優しい彼があんなつらそうな声を出すのだから、今度はきっと本当のことに決まっている・・・
そう思いたいのは私の方。
でも・・・
でも・・・
ううん・・・
信じよう・・・
彼のことを信じよう・・・

「ふう・・・」
吹き抜ける風に私は思わず身を縮こませる。
昼間はともかく、日が暮れるとまだまだ寒い。
春の陽気もまだ足踏みといったところかしら。
それに・・・
私は通帳に記された数字を見る。
もう残りはわずか・・・
この封筒に入った10万円を渡してしまえば・・・
お金が無くなった私を彼はどうするのだろう?
それでも私を愛してくれる?
それとも・・・
考えたくはない・・・

今日は四月一日。
エイプリルフール。
嘘をついてもいい日。
彼の言葉もきっと嘘。
このお金は・・・きっと彼の遊びに消えてしまう・・・

「うん・・・お金・・・用意した。うん・・・そう・・・うん・・・わかった・・・待ってる・・・うん・・・」
電話を切る私。
彼の指定してきた待ち合わせ時間までまだ少しある。
どこかで時間をつぶそうか・・・
どこがいいかしら・・・
あんまりお金を使わずに済むようなところがいいな・・・

「ククククク・・・あんた、騙されているぜ」
「えっ?」
どこで時間をつぶそうかと歩きながら考えていたら、いつの間にか後ろにいた人に私は声をかけられた。
思わず振り向くと、そこにはつばの広い帽子を目深にかぶり、黒いコートで身を包んだ男の人が立っていた。
いや、声と服装から男の人と判断しただけだけど・・・

「なんですか? いったい」
「あんたは騙されていると言ったんだよ」
その物言いに、私はちょっとムカッとする。
「何が騙されているというんですか?」
なんなのだろう、この人は?
私が騙されているって・・・そんなの・・・言われなくたってわかっているわ・・・

「あんた・・・これから会う男にバッグの中のお金を渡すつもりだろ? やめておいた方がいい。騙されているんだ。ククククク・・・」
「あなたに何がわかると! 騙されているなんて! 騙されているなんて・・・そんなのわかってます!」
ああ・・・
言ってしまった・・・
騙されているなんて・・・
そう・・・わかっていた・・・
わかっていたのよ・・・

「ほう? わかっていると? わかっていて金を渡すつもりか?」
相変わらず帽子の陰になってて顔が見えない。
いったいこの男は何者なの?
なぜ私にかかわってくるの?
「ええ、そうです。このお金は私のお金なんだから、私がどう使おうとあなたには関係ないでしょ!」
「ククククク・・・そうだな。俺様には関係がない。だが、騙されているのがわかっているのに騙されたふりをしている奴というのが、俺様は好きじゃなくてな」
「騙されたふり?」
「そうだろう? あんたは自分がその男に騙されているのをわかっている。だが、あえて騙されていようと望んでいる。それが騙されたふりでなくて何なんだ?」
それは・・・そうかもしれないけど・・・
「で、でも・・・お金があれば・・・お金を渡せば彼は私にやさしくしてくれる・・・私に笑顔を見せてくれるのよ」
そう・・・
そのためにお金を渡すの。
これは・・・これは一つの商品売買みたいなものよ!

「ククククク・・・たかだかつまらん男の笑顔がそれほど大事か? そんな男の歓心を金で買って満足か?」
「そ、そんなことどうだっていいでしょ! あなたはいったい誰なの? なんでそんなことを私に言うの?」
「ククククク・・・言っただろう? 俺様は騙されているのがわかっているくせに騙されたふりをしている奴が嫌いだと。なぜなら・・・」
「なぜなら?」
なんだか背筋がぞくっとする。
いったいこの男は何者なの?

「俺様は人間を騙すのが仕事の妖怪、四月馬鹿だからさ」
「ヒィィィィィ!」
男が帽子に手をかけて取った途端、私は悲鳴を上げていた!
帽子の下に隠れていた顔は人間のものではなかった。
それは歯をむき出して笑っている鼻づらの長い馬の顔。
それなのに頭には立派な鹿の角が生えている。
なんなの?
馬なの?
それとも鹿なの?
なんでこんなのがいるのよ!

気が付くと私は一目散に走っていた。
化け物!
化け物よ!
化け物が出たんだわ!
いやぁぁぁぁぁ!

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
ダメ・・・
もう走れない・・・
もうダメぇ・・・

私は公園のベンチに腰を下ろす。
どうやら追いかけては来ていないようだ。
助かったぁ・・・
いったい何なの、あれ?

そういえば・・・
以前何かで見たような気がするわ。
妖怪四月馬鹿。
エイプリルフールに現れて、人間をだまして仲間の馬鹿にしてしまうとか・・・
都市伝説だとばかり思っていたのに・・・
まさか本当にいるなんて・・・

とりあえず四月馬鹿がここまで追ってこなかったのを確認してホッとしたところにスマホが鳴る。
彼からだわ。
まだ待ち合わせにはもう少しあるけど・・・
「はい」
私は電話に出る。
彼のやさしい声。
とてもとてもやさしい声。
「えっ?」
思わず私は聞き返す。

「大丈夫って? えっ?」
お金はいらない?
どういうこと?
えっ?
今までごめんって?
何を言っているの?
デビューが?
今度こそ本当にデビューが叶うって?
先日のライブを見に偉いさんが来ていたって?
準備費用も用立ててくれるからって?

今まで本当にごめんって?
俺、本当にバカだったって?
売れない焦りをお前にぶつけていたって?
何を言っても俺を信じるお前に意地悪してしまったって?
でも、もうお金を請求したりしないって?
これからできる限り返していくって?
俺頑張るからって?

えっ?
彼は何を言っているの?
これは本当に彼なの?

あっ・・・
私はわかった。
これは彼じゃない。
そうよ・・・
これは彼じゃない。
だって彼がこんなこと言うはずがない。
それに待ち合わせしているのに電話をよこすのも不自然。
顔が見えないのをいいことに、私をだまそうとしているんだわ。
そうよ・・・
これこそが妖怪四月馬鹿なんだわ・・・

「騙されないわ」
私は電話に向かって冷たく言う。
「私はあんたなんかには騙されない! 私を仲間に引き入れようとしたって無駄なことよ! とっととあきらめて別の獲物でも見つけることね、四月馬鹿さん」
電話の向こうで何か言っていたけど、聞く気にもならない。
私が通話を切ると、スマホの画面に映った時間が目に入る。
いけない。
待ち合わせに遅れちゃうわ。
行かなくちゃ・・・

良かった・・・
まだ来ていない。
ぎりぎり間に合ったわ。

私は待ち合わせ場所の駅の広告柱の前に立つ。
たぶん彼のことだから、少し遅れてくるかな。
まあ、待つのも楽しいわよね。

「お待たせ。待ったかな?」
待ち合わせ場所にやってくる彼。
いつも通りのにこやかな笑顔。
今日は珍しくコート姿。
でも、なかなか様になっていると思うのは私の欲目だろうか?

「ううん、私も今来たところ」
そこまで言ったところで、私の唇はキスでふさがれる。
甘いキス。
抱き寄せられる私の躰。
もう・・・
いつもこうなんだから・・・
でも・・・
うれしい・・・

「それで、持ってきてくれた?」
「え・・・ええ」
私はバッグから封筒を取り出して彼に渡す。
彼はすぐに中身を数えて笑みを浮かべている。
「いやぁ、ありがとう。助かったよ」
「これで足りる・・・のよね?」
「ああ、たぶん大丈夫。そうだ。今日は美味いものでも食いに行こうぜ。フランス料理でもさ」
ああ・・・
やっぱりそう・・・
大事なことに使うお金じゃなかったの?
美味しい料理なんかに使ってしまうつもりなの?
やっぱりあなたは・・・

「麻梨恵(まりえ)ー!」
えっ?
私の名を呼ぶ声?
人ごみの中をこちらに向かってくる彼。
えっ?
春敏(はるとし)なの?
えっ?
どういうこと?
春敏なら今目の前に・・・

「ククククク・・・」
笑っているコートの男。
違う・・・
春敏じゃない・・・
彼じゃない・・・
似ているけど・・・違う・・・

「麻梨恵! 麻梨恵! 遅くなってごめん! 電話でも言おうとしたんだけど話がちょっと長くなって・・・そ、そいつはいったい?」
「春敏・・・」
走ってきたのか息を切らせている彼。
私が別の男といるのを見て困惑しているみたいだ。
「麻梨恵! 俺に・・・俺に愛想尽かしたのかもしれないけど。でも・・・でも・・・もう一度・・・もう一度チャンスをくれ! 俺、今度こそちゃんとするから。先の目処も立ったから。だから・・・」
違うの・・・
違うの・・・
愛想なんか尽かしていない。
私はあなたのことを・・・
でも・・・
何がどうなって?

「ククククク・・・さあ、行こうか麻梨恵」
コートの男が顔を上げる。
「ひっ!」
私は思わず息をのむ。
その男は・・・馬の頭に鹿の角を生やしていたのだ。
「四月・・・馬鹿・・・」
「そうさ。俺様は四月馬鹿。お前の愛する彼氏だよ」
歯をむき出してにたぁっと笑っている四月馬鹿。
「ち、違う・・・私は・・・」
「違わないさ。お前は俺様を受け入れた。俺様に金まで差し出した。俺様をすっかり彼氏だと信じ込んでいたのさ」
「そ・・・そんな・・・」
確かに・・・確かに私は・・・

「それにお前は彼の電話を拒絶した。お前にとって彼は善良な人間であってはならないのさ。お前から金をむしり取る悪人であり、お前は騙されている被害者でなければならない」
「ち、違う・・・」
「違わないさ。お前は騙されたふりをしている自分が好きで、そのことに酔いしれたいのさ。だから彼が立ち直ったことを受け入れず、自分の望んだイメージ通りの彼を演じた俺様を信じたのさ。ひーひっひっひっひ・・・」
ああ・・・そんな・・・そんな・・・
私は・・・私は・・・信じる信じると言いつつ、彼を一度も信じてはいなかったのか・・・
「おめでとう。お前はようやく騙された」
あああああ・・・

私の周囲が暗くなる。
すべてが消えうせた闇の中。
私と四月馬鹿だけがここにいる。
そして・・・

私の躰が変わっていく。
私の手は茶色の毛におおわれて指先は蹄となり、私の顔は鼻づらが伸びて馬の顔となり、頭からは鹿の角が伸びてくる。
私は服を脱ぎ捨てる。
もう私には必要のないものだ。
私の躰には茶色の毛が覆ってくれているのだから。
お尻からは尻尾も生えてくる。
あははははは・・・
騙されるなんてばからしいわ。
騙す方が楽しいに決まっている。
そうよ。
これからはたっぷりと騙してやるんだから。

「ククククク・・・馬鹿の世界にようこそ。新たなるしもべよ」
私はすっとひざまずく。
「ありがとうございます、主様。主様のしもべになれて幸せです」
目の前にいるのはわが主。
馬鹿の王、四月馬鹿様。
そして私は主様にお仕えする馬鹿の一人。
くふふふふ・・・
こんな素敵な姿になれるなんて・・・
これも主様のおかげだわぁ。

「ククククク・・・どうだ? まだ騙されたふりを続けたいかな?」
「とんでもありません。騙されるなどまっぴらです。私は馬鹿。人間どもを騙すのが私の喜びですわ」
そうよ。
これからは私が人間どもを騙す番よ。
「ククククク・・・それでいい。さあ、奴が待っているぞ。今度はお前が奴を騙してやれ」
「お任せくださいませ主様。あの男に私の力を見せつけてやりますわ。くふふふふ・・・」

闇が晴れていく。
私は人間の姿に擬態する。
四月馬鹿様は新たなしもべを探しに行ってしまった。
私も行こう。
あの男を騙すために。
今夜は楽しい夜になりそうだわ。
くふふふふ・・・

エンド

いかがでしたでしょうか?
ではではまた来年ー。(´▽`)ノ
  1. 2019/04/01(月) 20:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿とカメラウーマン

今日は4月1日です。
今年も4月1日がやってまいりました。
4月1日と言えばそう、エイプリルフールの日です。
となれば・・・

はい、今年も我がブログにあの方がやってまいりました。
はたして今年はどういうお話になったのか?
よろしければご覧ください。

それではどうぞ。


四月馬鹿とカメラウーマン

「三人目・・・四人目・・・五人目・・・すごい・・・どんどん来るわ」
私はカメラを持つ手にじっとりと汗をかくのを感じてくる。
私と一緒にあちこちで真実を撮ってきた自慢の一眼レフだ。
言ってみれば私の相棒である。
その相棒を手にしながら、私はゴクリと唾を飲んだ。

そろそろ人通りも少なくなってくる表通り。
連中が集まってきた公園にはもう他に人影はない。
まだまだ肌寒さを感じる夜遅く。
まもなく日付が変わる時刻。

そんな時間に公園に集まってくる連中。
ほとんどが二十代か三十代あたりの女性だが、中には男性もいれば少女のような子供もいる。
えっ、嘘?
女性警察官もいるの?
しかも制服姿じゃない。
彼女もそうだというの?

連中はみんな一様に笑みを浮かべ、日付が変わるのを待っている。
そう・・・
今日は三月の三十一日。
もう少しで日付が変わり、四月一日になる。
エイプリルフールだ。

この街にはある都市伝説がある。
この日、街には妖怪が放たれる。
四月馬鹿という妖怪だ。
馬のような姿とも鹿のような顔とも言われ、馬か鹿かわからず混乱してしまう人間をだまして同種の妖怪にしてしまうという。
その同種にされてしまった人々があんなにいるというの?
普段は何食わぬ顔で人間のふりをして過ごしているとでもいうの?
なんという・・・

私は時計を見る。
あとちょっとで0時。
日付が変わる。
草むらに潜んで張っていた甲斐があるというもの。
さぁ、姿を現しなさい、四月馬鹿。
私は連中に向けてカメラを構え、ファインダーをのぞき込んだ。

やがて連中が輪を作るように並び始める。
制服姿の女性警察官。
ビジネススーツ姿のOLらしき女性。
一家と思われるサラリーマンと主婦と娘。
学校の制服姿の女子高生もいる。
これがみんな四月馬鹿なのだろうか・・・
自分で探り始めたネタだけど、本当にそんなものがいるというのか?
でも・・・
そうじゃなければこの連中はいったい・・・

0時だ。
日付が変わると同時にいっせいにひざまずく連中。
そしてその輪の中心に黒いコートを着て幅広のつばの付いた帽子をかぶった人影が現れる。
えっ?
いつの間に?
どう見ても忽然と姿を現したとしか思えない。
まさか・・・
あれが四月馬鹿?

「「「偉大なる我らが主、四月馬鹿様。今年も四月一日が始まりました」」」
「「「どうかこのしもべたちに、偉大なる主様のご尊顔をお見せくださいませ」」」
輪になってひざまずいた連中が、中央の人影に向かって声を合わせている。
間違いないわ。
あいつこそが四月馬鹿。
その姿、今こそこのカメラで!
私は全身を緊張に震わせながらも、しっかりとカメラを向けていた。

「ククク・・・彩華(あやか)よ、こんなところに呼び出して何事かと思ったが、しもべたちを集めたのか」
「はい、四月馬鹿様。この街の我ら馬鹿の勢力をご覧になっていただきたく思いまして」
コート姿の人影の正面にいる制服姿の女子高生が立ち上がる。
あの娘がリーダーなの?
「なるほど。こうしてみると結構増えたものじゃないか。俺様が自らしもべにしたもの、お前たちがそれれぞれ増やしたものたちか。ククク・・・」
「はい。今では総勢三十名を下りません。そして今年も・・・うふふふ・・・」
「ふむ・・・ククク・・・お前たち、本性を現すがいい」
「「「はい、四月馬鹿様!」」」
嬉しそうな声を上げ、いっせいに立ち上がる連中。
その姿が見る間に人間とはかけ離れたものになっていく。
嘘でしょ・・・
私の目の前で次々と人ならざる者に変化していく男女。
その顔は伸びて馬のような顔となり、巨大な鹿の角のようなものが生えていく。
全身を茶色の毛が覆い、お尻からは尻尾も生えていく。
両手は先がひづめのように変化していき、足もひづめへと変化する。
面白いことに手のひづめは馬のもので、足のひづめは鹿のもの。
まさしく馬と鹿が合わさっているのだ。
これが・・・
これが妖怪馬鹿・・・

夢中でシャッターを切る私。
さっきまで人間の姿をしていた連中が一人残らず馬鹿になってしまった。
なんてこと。
これはスクープだわ!

「ククク・・・これは結構壮観じゃないか」
「はい、ここにいる者はすべて馬鹿。みんな四月馬鹿様の忠実なるしもべです。どうか私たちにも四月馬鹿様のお姿を・・・」
先ほどまで女子高生の姿だった馬鹿がコートの人影にすり寄っていく。
声からしてあのコートの人物は男だと思うけど、なにせ暗い上に帽子で顔が見えないわ。
でも、あれこそが四月馬鹿。
絶対にカメラに捉えてみせる。

「ククク・・・いいだろう」
中央の男が帽子を取る。
ええ?
どうやって帽子の下に隠れていたのというような巨大な鹿の角。
歯をむき出したような馬の顔。
どうやって持っているかわからないひづめにつかまれた帽子。
まさに周囲にいる連中とそっくりな顔が帽子の下から出てきたのだ。

私は何枚かシャッターを切ると、気付かれないように身を潜め、急いでその場を立ち去る。
速足で公園を抜け、表通りに駆け込むようにしてたどり着く。
背後から誰かが追ってくるような気配はない。
どうやら無事に気付かれずに済んだようだ。
ふう・・・

私はとりあえず近くの深夜営業しているファミレスに行く。
そこで軽く食事を注文し、水を飲んで一息つく。
やったわ・・・
あの四月馬鹿を写真に収めたわ。
私はデジカメの中身を確認する。
うんうん。
ちゃんとしっかり調整してあっただけに、あの暗さの中ストロボ無しでもしっかり写っているわ。
やったー!

「もしもし? 簔口(みのぐち)だけど夜分遅くにすみません、編集長に伝言をお願い・・・あ、編集長? こんな時間にまだいらっしゃったんですか? ええ、やったわ。やりましたわ。しっかり噂の都市伝説をカメラに収めましたよ。ええ・・・え、すぐに? 記事差し替える? ホントですか?」
私は懇意にしている週刊誌の編集長に電話する。
意外とこういうオカルトめいた話は、週刊誌の読者は喜ぶものだ。
だからこそ写真も買ってもらえるというもの。
ましてやまさに旬の話題ですものね。

私は編集長に居場所を伝え、食事をしながら到着を待つ。
スクープを収めた後の食事は美味しい。
「やぁ、待たせてすまんすまん」
太って頭がややはげかかった編集長がやってくる。
「いえ、こちらこそご足労いただいて・・・本来ならこちらから出向くのが筋でしたのに。それにしてもこんな時間まで大変ですね」
時間はもう1時に近い。
「なに、編集部なんてこんなものさ。どこもブラックだよ。で、噂の馬鹿には遭えたのか?」
汗を拭きながら席に着く編集長。
「はい。こちらを」
編集長が店員を呼んで注文を済ませたところで、私はデジカメのデータを見せる。
「これは・・・ずいぶん鮮明じゃないか・・・うーむ・・・うーむ・・・」
編集長がデジカメの写真に見入っている。
何せ都市伝説と言われた四月馬鹿ですものね。
夢中になるのも当然だわ。

「いやぁ、これは素晴らしいよ。想像以上だ。まさかこんなに鮮明な画像とはねぇ」
編集長がにんまりと笑みを浮かべている。
きっとこれなら記事差し替えでも充分と思っているのかも。
そりゃぁ、こっちも多少は危険な目を覚悟していたんですから、お金になってくれないと困るけど。
「ほら、よくあるじゃないか。正体不明のものを撮影したという写真。でも、大半はその撮影した写真も正体不明みたいなものばかりでさ」
確かに。
雪男なんだか登山者なんだかはっきりしないような写真とかあるものね。
「いやぁ、でもこれは違う。これなら充分に読者を惹き付けられるよ。むろんうちの社から賞金も出るに違いない。いや、うちだけじゃなく全世界の出版社から引き合いが来るに違いないよ」
そ、そこまで?
ああ・・・でもうれしい。
あの厳しい編集長がここまで今回褒めてくれるなんて。
この写真がきっかけで私自身の名が売れれば・・・
ああ・・・カメラマンとして有名になれたら・・・

いけない・・・
舞い上がりすぎだわ。
少し落ち着かなくちゃね。
「お姉さん、お水のお替りください」
私は店員さんを呼んで水のお替りをもらい、一口飲んで心を落ち着ける。
うふふふ・・・
それでも自然に笑みがこぼれちゃうわぁ。
編集長いくらの値を付けてくれるかしら・・・

「それにしてもよく撮れている。俺様をずいぶんと素敵に撮ってくれているじゃないか。クククク・・・」
えっ?
私は水を飲むのをやめて編集長のほうを見る。
えっ?
向かいの席にはさっきまで編集長が座っていたはずなのに・・・
いつの間にか黒いコートを着て幅の広いつばの付いた帽子をかぶった・・・
ま・・・まさか・・・
「四月・・・馬鹿・・・」
私の手からコップが落ちる。
カターンと硬質な音を立ててコップがテーブルに転がり、中の水がテーブルを濡らしていく。
「お客様、大丈夫ですか?」
店員さんが慌てて私に声をかけてきたので、私は大丈夫ですと言おうとそちらを向く。
「ひっ!」
そこにはこの店の制服であるフリフリのドレスを着た馬の顔をして鹿の角を頭に生やした異形のものが立っていた。
「あ・・・あああ・・・」
「うふふふ・・・いけませんわ、お客様。気を付けていただきませんと。テーブルが濡れてしまいました」
「そ、そんな・・・いつから?」
「お客様が私たちの集まりを見に来ていた時からですわ。うふふふふ・・・」
「ああ・・・そんな・・・」
ばれていた・・・
ばれていたんだ・・・
最初から・・・
なんてこと・・・

「それでどうだった?」
「えっ?」
「その写真が金になることを信じただろ? もしかしたら著名になれるかもとも」
「あ・・・」
信じた・・・
私はすっかり信じてしまった。
四月馬鹿を編集長だと思い込み、その言葉に有頂天になり・・・
この写真が金になることも、もしかしたら有名になれるかもとも・・・
私はすっかり騙されてしまったんだ・・・

「うふふふ・・・馬鹿の世界にようこそ。歓迎するわ、新入りさん」
店員姿の馬鹿の言葉をきっかけに、私の躰が変わっていく・・・
指先が馬のひづめのように変化する。
肌も茶色の毛が覆っていく。
鼻づらも伸び、頭には角の生える心地よい重さを感じていく。
あは・・・
あはははは・・・
なんだかとっても気持ちがいい・・・
馬鹿になるってこんなに気持ちがよかったんだ・・・
どうしてもっと早く知らなかったのか・・・
偉大なる四月馬鹿様のしもべになる喜びを、どうしてもっと早く・・・

「クククク・・・今年最初のしもべの完成だ」
「はい、四月馬鹿様。私は四月馬鹿様の忠実なるしもべですわ」
私は席を立つと、脇にひざまずいて主様に頭を下げる。
「それにしても写真とはな。いい写真だったぞ」
「ありがとうございます。うふふふ・・・」
私はデジカメを手に取ると、四月馬鹿様の写真を消去する。
主様のお姿を写真などに残すわけにはいかないわ。
「いいのか?」
「はい。四月馬鹿様のお姿を写真に残すなどできませんわ。それに・・・うふふふふ」
どうしてかわからないけど、私のひづめの手でもこうしてカメラを持つことができる。
これからもこのカメラは私の相棒。
二人でともに・・・
「先ほどまでの私は写真とは真実を写すものと思ってました。でも違います。写真こそ、愚かな人間をだますのに最良のもの。人間はたやすく写真に写ったものを信じます。それはもうたやすく・・・うふふふ・・・」
そう・・・これからの私は写真を使って人間をだますの。
私の写真で多くの人間をだましてやるわ。
ああ・・・なんて楽しそうなのかしら・・・楽しみだわぁ。
私は舌なめずりをしながらカメラを構える。
まずはアイドルのスキャンダル写真でもでっち上げようかしら。

「ククク・・・四月一日は始まったばかりだ。たっぷり楽しんでくるがいい」
「「はい、四月馬鹿様」」
私は店員に化けていたもう一人の馬鹿とともに四月馬鹿様に一礼する。
さあ、お楽しみはこれからね・・・
うふふふふ・・・

END
  1. 2018/04/01(日) 21:00:00|
  2. 四月馬鹿
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馬鹿団の女幹部

今日は四月一日ですねー。
今年もやってきちゃいました。
四月一日と言えばあのお方。
今年もどうぞお楽しみをー。


馬鹿団の女幹部

「うーん・・・いい陽気だわぁ」
私は思わず伸びをする。
お日様ポカポカ。
仕事なんて忘れたくなっちゃう。
私は思わずこみあげてくるあくびを必死に噛みこらえ、再び通りを歩き始める。

「おはようございます」
「婦警さん、おはようございます」
見知った町の人たちが挨拶してくれる。
だいたいいつもパトロールしているルートだから、見知った顔も多いのだ。
今年もここの交番か・・・
年度替わりの異動の辞令は出なかったから、もう一年ここにいろってことなのね。
早く階級を上げて私服警官になりたいなぁ。

あれ?
今何か急に周囲がかすんだというか、もやがかかったような感じがしたけど・・・
気のせいかな?
今は視界もすっきりしてるし・・・
目が疲れたのかな?

「えっ?」
急にけたたましいブレーキ音がして、小型トラックが民家に突っ込んでいく。
大変!
私はすぐに現場に向かって走り出し、民家の近くへ駆け寄っていく。
とりあえず周囲の状況にもかまわず、そのままトラックが突っ込んだ家に走りこむ。
「大丈夫ですか?」
私が声をかけると、トラックからよろよろと男性が下りてくる。
よかった、まだ生きている。
私が駆け寄ろうとすると、その男性は青ざめた顔で通りのほうを指さしている。
「えっ?」
私が振り返ろうとすると、背後で大きな爆発音がする。
と、同時に、風圧を感じ、爆風が来たのだと知らしめてきた。
「な、なにがいったい?」
私が通りのほうを見ると、そこには何か二本足で立つ人間ほどの大きさの奇妙なものが立っていた。
赤茶色のカニのような外皮を持ち、右手は巨大なカニのはさみみたいになっている。
全体的なフォルムは人間ぽいのだけど、なんというか化け物という言葉しか出てこない。
もしかしたらこれが宇宙人?
そ、そんなものがいるはずが・・・

「キーッ!」
「キキーッ!」
そのカニの化け物の背後では、なんだか全身を黒いぴったりした服、全身タイツっていうのかな、に身を包んだ男女が暴れまわってる。
あるものは高齢の女性を突き飛ばし、あるものは営業マンと思しきスーツ姿の男性を殴りつけている。
な、なんなの?
なんなのいったい?

その時私はハタと気が付いた。
これは何かの撮影に違いない。
きっと近くにカメラマンやスタッフがいて・・・
スタッフがいて・・・
いて・・・
いない?
どこにもいない?
どういうこと?
まさか本当にこの化け物たちが暴れているの?

「ぎゃー!」
「ひぃー!」
人々が悲鳴を上げている。
助けなきゃ・・・
助けなきゃ・・・
わたしは足が震えるのを必死で抑えつつ、人々のところへ向かっていく。
「皆さん! 逃げて、逃げてください! 避難してー!」
私は大声で叫びつつ、得体のしれない連中と人々の間に割り込もうとした。
その間にも、あのカニとも人ともつかない化け物が、そのハサミで人の首を刎ね飛ばす。
ごろりと転がった首と、残った胴体から勢いよく噴き出す赤い血が、これが撮影なんかじゃないことをまざまざと見せつけてくる。
信じられない・・・
でも・・・
でも、これは本当のことなんだわ。
なんだかわからないけど、何とかしなくちゃ・・・
「逃げて! 逃げてください!」
私は黒全身タイツの連中に今しも襲われそうになっていた若い女性の前に飛び出した。
「警察です! おとなしくしなさい!」
私は恐怖で膝ががくがくしながらも、必死で連中に警棒を突き付けた。

「カーーーーーーット!!」
そこに脇から声がかけられる。
途端に周囲から緊迫感が消えていく。
周囲が何かゆがんだ気がして、大きな反射板を持った人や、巨大なカメラを構えた人、長い棒の先に吊り下げたマイクを持った人などが現れる。
「え?」
な、なになになに?
何が起こったの?

「おーい! 周囲の通行を止めてなかったのか? 婦警さんが間違って入ってきちゃったぞ」
「すいませーーん! ちゃんと言ってあったんですが!」
「今のはエリカちゃんがザリガニ男や戦闘員に襲われるシーンなんだから、こういうのは困るよ!」
「すいませーん」
なんだか、ざわざわざわめいている。
なにこれ?
もしかしてやっぱり映画の撮影だった?
えええええ?
あれが撮影なの?

「いやー、婦警さん、すみません。映画の撮影なんですよ。驚かせてしまったようで。ちゃんと警察に許可は取ってあったんですけどねぇ。聞いてませんか?」
私のところにつばの広い帽子を深くかぶった人がやってくる。
もしかしてこの人が映画監督?
この暖かな陽気なのに、黒いコートをしっかりと着込んでいて暑くないのかな?
「うああ・・・そうでしたかぁ・・・すみません」
私は監督さんに頭を下げる。
やっぱり撮影の邪魔しちゃったみたいだわ。
でも・・・
でも・・・
あれが撮影だったなんて思えなかったんだもん。
「ああ、いえいえ、お気にせず、頭を上げてください。時々あることですから」
「そ、そうなんですか?」
私は少し救われた気がする。
「それよりも、婦警さんが血相変えて飛び出して来たときはこっちも驚きましたよ。まさか現実の話に思えちゃいましたか?」
「あ・・・う・・・は、はい。お恥ずかしい話なんですけど、人々が殺されるシーンがとても生々しくて、それにスタッフの方々の姿も見えなくて、思わずこれは現実に起きていることなんだって思ってしまって・・・」
私は正直にそういった。
これってむしろ監督さんには誉め言葉にならないかな。

「クククク・・・そうですかぁ。こんな現実味のない特撮映画が現実に思えましたかぁ」
何か監督の言い方が人をバカにしているようでちょっとむっとしたけれど、事実なんだから仕方がない。
「はい。すごく皆さん迫真の演技で、すっかり騙されてしまいました」
「ククククク・・・そうさ。お前は騙されたんだよ。荒唐無稽な特撮映画を本当の話と信じてすっかり騙されたのさ。この四月馬鹿様になぁ」
「えっ?」
監督さんが帽子を脱ぐ。
「ひっ!」
思わず私は口元を両手で押さえて小さな悲鳴を上げてしまった。
帽子の下からは、鼻づらの長い馬の頭が現れたのだ。
茶色の短い毛におおわれ、耳をぴんと立てて歯をむき出して笑っている。
でも、てっぺんには角が生えているわ。
あれって鹿の角?
え?
馬?
鹿?
どっち?

「クククク・・・混乱したか? 俺様は四月馬鹿(しがつうましか)。人をだますことを商売にしている妖怪だ」
「う、馬鹿?」
「そうだ。そしてお前はこの馬鹿様にまんまと騙されたバカな女というわけだ。クックックック・・・」
よ、妖怪?
そんなバカな・・・
そんなものがいるわけが・・・
「クックック・・・まあ、だまされたからと落ち込むことはない。今年は結構大掛かりにやったからな」
目の前の鹿の角を持つ馬の妖怪が手を一振りすると、突然周囲は闇になり、街並みも撮影スタッフも暴れていた怪物たちも消えてしまう。
「クククク・・・これでももう八年目なのでね。しもべたちも増え、俺様も少しは力が強くなっているというわけだ。こうして幻術を使えるぐらいにはな」
「幻・・・術?」
「そうさ。ここは朝の住宅街。お前はそこでぽかんと突っ立って、俺様の幻術に翻弄されていたというわけだ」
「そんな・・・」
なにがなんだかわからない。
これっていったい何なの?
私はどうなってしまったの?

「えっ?」
気が付くと、私は自分から警察の制服を脱いでいた。
「私は・・・何を?」
私は自分の両手を見る。
「えっ?」
すると私の両手は、奇妙な五本の細い指から、力強い蹄に変わっていた。
腕ものっぺりとしたものではなく、短い茶色の毛に覆われていく。
「えっ? えっ? えっ?」
なにこれ?
私はいったい?
「クククク・・・俺様に騙された人間はみな馬鹿になるのさ。お前も馬鹿になるんだ」
馬鹿に?
私が馬鹿に?
四月馬鹿様は何をおっしゃっていらっしゃるのかしら?
私が馬鹿なのは当たり前ですよぅ。

私の顔は鼻づらが伸びて馬の顔に。
頭頂部からは鹿の角が生え、全身は茶色の短い毛で覆われた。
きゃはははは・・・
アタシは馬鹿。
愚かな人間どもをだますのが私たちの喜び。
だまされた愚かな人間は馬鹿になってしまうの。
なんて素敵なことかしら。
「きゃははははは」
アタシは思わず笑ってしまう。
だってすごく気持ちがいいんだもん。
なんか心が解放された感じ。
馬鹿である喜びを感じるわぁ。
そうだ!
「ねえ、四月馬鹿様ぁ」
アタシは甘えたように猫なで声を出す。
だってぇ・・・
四月馬鹿様ってとっても素敵なんですもの。
渋くてかっこいい大ボスって感じ。
アタシ、自分が四月馬鹿様のしもべであることをうれしく思うわぁ。

「なんだ、急に? おかしなやつだな」
「きゃはっ、ねえ、四月馬鹿様ぁ」
「だから何だと言っている」
アタシの変わりぶりに苦笑している四月馬鹿様。
もう・・・あなたがアタシをこんなふうにしたんですわぁ。
「トリックじゃなくいっそのこと本当に“悪の組織馬鹿団”を作りませんかぁ? 四月馬鹿様が首領様でぇ、アタシが女幹部レディウマシカになるの。それで人間たちを馬鹿にして、団員にしちゃうんですわぁ」
「なんだそりゃ? お前、さっきの特撮もどきの影響を受けたか?」
「わかりませんけどぉ・・・四月馬鹿様が首領様でアタシが女幹部の悪の組織っていいと思いません?」
アタシは四月馬鹿様の腕に縋りつく。
「好きにしろ。首領様は忙しいので常に留守という設定でな」
「はぁい。仕方ないですー。でも、時々はお姿をお見せくださいね」
「いいだろう」
「きゃはっ、それじゃ女幹部レディウマシカは、これより団員増加のために働いてきます。きゃははは」
アタシは四月馬鹿様に一礼すると、腰を振って歩き出す。
今日一日でどれだけ団員が増えるかしら。
楽しみだわぁ。
きゃはははは・・・

エンド
  1. 2017/04/01(土) 20:38:45|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の連鎖

きょうから四月です。
四月となればあの方が・・・
と言うことで今年もお楽しみいただければと思います。


四月馬鹿の連鎖

「うーん・・・」
私は伸びをして朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「はあー」
そして吸い込んだ空気をゆっくりと吐く。
気持ちいい。
今日から四月。
桜も咲いて朝の空気もやわらかく感じる。
もう少ししたら新学期も始まるし、今年から一年生の担当だわ。
いろいろと大変だとは思うけど、きっとかわいいだろうなぁ・・・

さてさてこうしちゃいられない。
学校は春休み中とはいえ、教師はいろいろと忙しい。
早く学校へ行かなくては。
今年もまた一年が始まるわ。
私は暖かな春の風を感じながら、学校と言う職場へと歩き出すのだった。

                   ******

「おはようございます」
職員室のドアを開けて中へ入る。
「おはよう」
「おはよう」
すでに出勤していた教頭先生と白川先生が挨拶を返してくれる。
まだ朝早いせいで、ほかの先生たちは来ていないみたい。
ちょっと早く来すぎたかしら。

「富村(とみむら)先生」
私が自分の席に着くと、教頭先生が呼んでくる。
「あ、はい」
私は席から立ち上がると、教頭先生のところへ行く。
「なんでしょう?」
「校長が富村先生が来たら呼んでくれと。何か用事があるようですよ」
「は、はい・・・」
校長先生が私を呼んでいる?
いったい何かしら・・・
私はすぐに校長室へと向かった。

「富村です」
『お入りなさい』
校長室のドアをノックすると、すぐに中から返事がある。
私はドアを開けて中に入り、校長先生に一礼した。
「おはようございます。お呼びとお聞きしましたので」
「富村先生」
「は、はい」
私の言葉をさえぎるように校長が私の名を呼ぶ。
いつになく厳しい表情が私を見据えている。
いったいどういうこと?

「富村先生、あなた、生徒のご両親から訴えられましたわよ」
校長先生がとんでもないことを言ってきた。
「え? 私がですか?」
私は思わず聞き返す。
いったい何のことなのか・・・
「訴え? 本当ですか?」
苦情ぐらいは何度か受けたことはあるけど、訴えるなんてそんな・・・
「ここに裁判所からの書状があります」
そういって机の上に封書を置く校長先生。
普段はやさしい母親のようだと評判の校長先生が、なんだかまったく見知らぬ人のような感じがする。
「何か心当たりは?」
「い、いいえ」
私はぶんぶんと首を振った。
先日卒業生を送ったばかりだけど、問題のある子はいなかったし、何もトラブルはなかったはず。
心当たりなんていわれても・・・

「あ、あの・・・校長先生」
「なんですか?」
「し、失礼ですけど・・・エイプリルフール・・・なんてことは・・・?」
私は恐る恐る聞いてみる。
今日は四月一日だもの。
きっとエイプリルフールに違いないわ・・・
だって・・・
まるっきり心当たりなんて・・・

「富村先生・・・」
校長がそういって私をにらみつけてくる。
無言でふざけるなと言っているのだ。
そんなこと言われても・・・
「本当に心当たりはないのですか? 本当に?」
私は必死になって考える。
訴えられるようなトラブルがあっただろうか・・・
もしかして忘れ物を何度も注意したこと?
それとも、誰かに対するいじめを見逃していた?
それとも・・・
それとも・・・
思い返せばすべてが怪しく感じてしまう。
もしかしたら西岡君と上本君のじゃれあいはいじめだったのかもしれない。
梅野さんと岡崎さんも言い争いをしていたし、高山君と横田さんを先日のテストで褒めたのはえこひいきに思われたかもしれないわ。
ああ・・・
考えれば考えるほどどれもが心当たりのようで、どれもが違うような・・・
一体私の何が悪かったの?

「あの・・・校長先生、私はいったい何を訴えられたのでしょう?」
「本当に心当たりはないのね?」
「はい」
私はこくんとうなずく。
本当に心当たりなどないのだ。
「そう・・・それはよかったわ」
校長は突然にっこり微笑むと、机の上の封書を手に取り、真っ二つに引き裂いた。
「えっ? 校長先生何を! それは裁判所からの書状では?」
私は思わず近寄っていく。

「うふ・・・うふふふ・・・うふふふふ・・・」
校長先生がニヤニヤと笑っている。
いつもとは違うなんだか不気味な笑み。
なんなの?
いったい校長先生はどうしちゃったの?

「おほほほほ・・・だまされたでしょう?」
「えっ?」
「最初は信じてなかったでしょ? でも、途中からもしかしたらと思い始めた。そして、この封筒が裁判所からの書状と信じ込んだ。違うかしら?」
た、確かにそれはそうだけど・・・
校長先生がそう言ったんだもの、信じてしまうに決まっている。
「おほほほほ・・・訴えそのものは半信半疑でも、この封書が裁判所からのものということは信じた。あなたは信じてしまったわ。おほほほほほ・・・」
「えっ?」
笑い続ける校長先生の姿が奇妙にゆがんでくる。
何?
何なの?
校長先生の頭からはずんずんと大きなねじくれた角が伸び、顔は細長く伸びて馬のようになっていく。
ええ?
「こ、校長先生?」
「おほほほほ・・・これがアタシの正体なのよぉ。アタシは去年四月馬鹿(しがつうましか)様にだまされ、雌の馬鹿(うましか)にされてしまったのぉ」
校長先生の手はひづめのようになり、黒髪も茶色のたてがみのように変化する。
まさに馬と鹿が掛け合わさったような生き物だ。
「ひぃぃぃ!」
私は目の前で校長先生が化け物に変化していくのを見て悲鳴を上げる。
でも、なぜか逃げ出したいのに足が動かない。
恐怖ですくんでしまったというよりも、なぜか足を動かせなくなっているのだ。
ど、どうして?
私は自分の足元を見る。
「えっ? ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
私は先ほどよりもさらに大きな悲鳴を上げていた。
私の足が、私の足が何か奇妙なひづめのように変わっていくのだ。
ど、どうして?
どうして私まで?
変わっていくのは足だけじゃない。
悲鳴を上げとっさに口元に当てた両手もひづめのように変わっていく。
いったいどうして?

「おほほほほ・・・あなたも馬鹿になるのよ。アタシにだまされたことであなたも雌の馬鹿になるの。おほほほほ・・・」
鹿の角が生えた馬の顔をした校長先生が笑っている。
そんな・・・
私も校長先生のようになってしまうというの?
そんなのいやぁ!

頭を押さえて首を振る私だったが、その両手にずんずんと当たってくるものがある。
え?
ま、まさか・・・
私にも角が?
「いやぁっ! いやぁっ!」
私は必死に伸びてくる角を押さえ込もうとするが、ひづめのようになった手ではうまく押さえ込めない。
そうしている間にも、角はどんどんと伸びていく。
「おほほほほ・・・無駄よ。あなたはもう馬鹿になるしかないの。安心なさい。変化が進めば、気にならなくなるわ。むしろ馬鹿になれたことを喜びに感じるようになるわよぉ」
腕組みをして私の変化を眺めている校長先生。
その姿はすっかり雌の馬鹿と化していた。

「ああ・・・いやぁ・・・助けて・・・」
私の顔がじょじょに長く馬面になっていく。
手や足に茶色い毛が生え、全身へと広がっていく。
「ああ・・・あああ・・・」
私は絶望に打ちひしがれる。
もう私は人間じゃなくなってしまうんだわ・・・
このまま私は馬鹿になって、四月馬鹿様の命令で人間どもをたぶらかしていくのね・・・
なんてことなの・・・
あら?
でも・・・なんだかそれって・・・
楽しそうじゃない?

私は思わず笑みを浮かべる。
歯がむき出しになり、思わずいななきたくなるぐらい。
アタシは何を恐れていたのだろう・・・
馬鹿であることはとても楽しいことなのに・・・
バカな人間たちをだまし、自分たち人間がいかにおろかな存在であるか見せ付けてやるの。
なんて楽しいことかしら。
早く人間たちをだましてみたいわぁ・・・

「おほほほほ・・・どうやらあなたも身も心も馬鹿に変化したみたいね?」
「はい。おかげさまでアタシも雌の馬鹿に生まれ変わることができましたわぁ」
アタシは生まれ変わった自分の姿を先輩に見てもらう。
「おほほほほ・・・やったわぁ。これでアタシも四月馬鹿様のように仲間を増やせるのね」
先輩が喜んでいるわ。
なんだかアタシもうれしくなるわね。

「ほう・・・去年は仲間を増やさなかったのか?」
「え? 四月馬鹿様・・・」
先輩が驚いた顔をしている。
私も思わず振り向くと、いつのまに入ってきたのか、立派な体格の雄の馬鹿が立っていた。
「四月馬鹿様・・・」
アタシにもすぐにわかる。
このお方こそが私たち馬鹿の王である四月馬鹿様なんだわ。
アタシはすぐにひざまずいた。
「は、はい・・・去年はタイミングが悪く、アタシが馬鹿になってすぐに日付が変わってしまったもので・・・」
先輩も偉大な王にひざまずき、うつむいて返事をしている。
「ククククク・・・そうか。それはめでたいな。お前もこれで立派な馬鹿だ」
「ありがとうございます、四月馬鹿様」
かつて校長先生だった先輩馬鹿がお声をかけてもらっている。
アタシも早くお声をかけてもらえるようになりたいな。

「ククククク・・・お前も今日一日で仲間を増やすがいい」
え?
四月馬鹿様がアタシにもお声を掛けてくださったの?
うれしい。
「はい、四月馬鹿様。がんばります」
アタシは心をこめて返事をする。
そうよ。
今日一日はまだ始まったばかり。
子供たちにたっぷりとうそを教え込み、馬鹿をいっぱい増やしてみせますわぁ。
アタシは胸を弾ませながら、四月馬鹿様に誓うのだった。

END
  1. 2016/04/01(金) 21:01:12|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の勝負

今日は四月一日、エイプリルフールですね。
となりますと、またまたあの方の登場です。
今年は誰がだまされるのでしょうか?

それではどうぞ。


四月馬鹿の勝負

「それじゃ、また。来週は必ず空けておいてね」
「ええ、もちろん。あなたのご両親に会うんでしょ? 楽しみだわ」
私は精一杯の媚を売る。
「君なら大丈夫だよ。両親もきっと君を気に入ってくれるよ」
「そうだといいけど・・・」
「大丈夫さ。それじゃ」
私は別れ際に甘いキスを交わし、名残惜しそうな目で彼を見送る。
彼の乗る車が角を曲がって見えなくなったところで、私は思わず吹き出した。

「アッハハハハ・・・」
バーカ。
何が両親に会ってくれよ。
何がプロポーズよ。
あなたはただの金づる。
いろいろと貢いでくれちゃってまあ・・・
でもそろそろ見切ろうかと思っていたしいい頃合ね。
携帯のメルアドと番号を変更して連絡取れないようにしなきゃ。
それにしても男ってバカよねぇ。
ちょっとかわいこぶって甘い声で誘いをかければ、すぐに鼻の下伸ばしてだまされてくれるんだから。
親の手術?
弟の事故?
ホントこっちの嘘にすぐ引っかかっていくらでも金を出してくれるんだもの。
男をだますのって止められないわぁ。

まあ、見た目と頭の回転の良さではそう引けは取らないつもりだけど、こうも男どもがコロコロとだまされてくれると才能があるんじゃないかと思えちゃうわぁ。
詐欺師には向いているのかもね。
今の職場、そろそろ飽きたし身バレしたらヤバイしで転職するつもりだけど、職が見つからなかったら詐欺師をやるというのもいいかも。
たぶん、今の私ならあの噂に聞く四月馬鹿だってだませるんじゃないかしらね。

「ククククク・・・はたしてそうかな?」
えっ?
いきなり背後から声をかけられて私は驚いた。
足を止めて振り向くと、もう春だと言うのに黒いコートをしっかりと着込み、帽子を目深にかぶった男が立っていた。
「な、なんですか? 何か用ですか?」
私は少し驚いた。
歩いていた私の背後にいつの間にこんな近くに男が来ていたのだろう?
それに、私は考えを口にしていないはずなのに・・・

「おや? 用があるのはそちらではないのか? 四月馬鹿だってだませるんだろう?」
「あ、あれは言葉の綾で・・・って、ど、どうしてそのことを?」
「ふふふふ・・・わかるさ。なんてったって、俺がその四月馬鹿なんだからな」
男はそう言って帽子を取る。
「ひっ!」
思わず私は息を飲んだ。
だって、帽子の下からは、どう見ても動物の馬の顔とその上に生えている鹿の角が現れたのだから。
「あ・・・ああ・・・」
私は思わず後ずさる。
「ヒヒヒヒ・・・どうした? 四月馬鹿をだましてみせるんじゃなかったのか?」
「嘘・・・嘘よ・・・四月馬鹿なんて都市伝説のはず・・・実在するはずが・・・」
「おいおい、俺はまぎれもなく四月馬鹿さ。実在の妖怪だよ」
ニタァッと笑ってくる四月馬鹿。
その頭部はどう見ても作り物とは思えない。
で、でも・・・
「嘘・・・嘘よ・・・だ、だまされるもんですか。私をだまそうったってそうは行かないわ」
私は首を振って頭をはっきりさせる。
四月馬鹿なんているものですか!

「クックック・・・最初にだまそうとしたのはそちらだぜ。まあいい、今はお前をだますつもりはないよ」
「えっ?」
だますつもりはない?
どういうこと?
四月馬鹿は人をだまして仲間にしてしまうんじゃなかったかしら?
「だますつもりはないって・・・?」
「ああ、お前は人をだますのが得意そうだからな。俺がだまそうと思ってもなかなか引っかからないだろう?」
「まあ、そうね。ちょっとやそっとではだまされない自信はあるわ」
私は少しいい気分になる。
もしこの目の前のが本当の四月馬鹿なのだとしたら、褒められるのは悪くないわ。

「そこでだ」
四月馬鹿が歯をむき出す。
「ちょうど日付も変わったばかり。今日は四月一日だ。一年で一番人をだましやすく、だましづらい日でもある。そこで今晩23時までにどちらがどれだけ人をだましたか勝負しようではないか」
「勝負?」
「そうだ。人を何人だませるか数を競う。そうだな・・・相手からお金をだまし取れるぐらいだませたら成功ということにしよう」
ふーん・・・
結構面白そうじゃない。
男からお金をだまし取るのは得意だし、乗ってみてもいいかな。
「受けて立ってもいいけど、勝負に乗ったらだまされたなってのは無しよ」
「そんなことはしないさ。これでも四月馬鹿、そんな引っ掛けはたまにしかやらん」
「たまにはやるのね」
私は思わず苦笑する。
なんだかこの妖怪、嫌いじゃないわ。

                    ******

「ありがとう。このお礼は必ず・・・ううっ・・・」
「いいって、早く弟さんのところに・・・」
「ううっ・・・本当にありがとう・・・」
私はそう言って涙をぬぐいながら男の元をあとにする。
あはははは・・・
ホント男ってチョロイわぁ。
これで五人目っと。
お金も十万にはなったかしらね。

時間はもうすぐ23時。
エイプリルフールの一日をあちこち駆けずり回るなんてなにやってんだか。
でもまあ、面白かったし、結構私って人をだます才能みたいなのがあるってのを再認識できたからいいか。

「お待たせ」
私は待ち合わせ場所にやってくる。
四月馬鹿は黒いコートに帽子をかぶった姿でおとなしく待っていたみたい。
さーて、あっちは何人だましてきたのかしらね。

「ふむ。時間通りだな」
帽子の影から鋭い眼光が覗いている。
「遅刻するのは好きじゃないの」
「ふむ。いい心がけだ」
「そんなことどうでもいいわ。それよりも、そっちは何人だましてきたの?」
私は少しドキドキする。
考えてみればあっちは妖怪。
しかもだますのが仕事みたいなもの。
なんか勝負に乗っちゃったけど、失敗だったかも。

「五人だ」
四月馬鹿の言葉に私はホッとした。
五人か・・・
ならば同点だわ。
よかった・・・負けなくて。
「ふふふ・・・私も五人よ。この勝負は引き分けね」
うん、引き分けという結果は悪くないわ。

「クク・・・クククク・・・ククククク・・・」
えっ?
四月馬鹿が笑っている?
「な、何がおかしいの?」
「クックックック・・・引き分けだと? 本当にそう思っているのか?」
「えっ? どういうこと?」
引き分けじゃないの?

「よく見てみろ、お前が手にした金を」
「えっ?」
私はハンドバッグから財布を取り出してみる。
そこには今日男たちからだまし取ったお金が入っている。
ざっとみて十万ほど。
これが何か・・・
えっ?
これ・・・これって?
私は驚いた。
一万円札の中に、肖像画が馬の顔をしたものがあるのだ。
それも鹿の角が生えて・・・
これって・・・
「ひーっひっひっひ! そうさ。今日お前がだましたと思っていた男の中に俺が混じっていたのさ」
「そ、そんな・・・それって?」
「つまりお前がだましたと思った相手はだまされたふりをしていただけだったと言うわけさ。この俺様がな」
なんてこと・・・
なんて・・・

「ちょっと待って!」
私は四月馬鹿を怒鳴りつける。
「そんなの納得行かない! だまされたふりって、ふりだろうがなんだろうがお金をちゃんともらってきたじゃない。ふりだろうがなんだろうがだまして奪ったことには違いないはずよ!」
「ほう。おとなしく引き下がるかと思ったがそうきたか。じゃあ、だまされたと言うことにしてやってもよい」
えっ?
意外と簡単に引き下がる四月馬鹿。
ちょっと拍子抜けだけど、認めてくれるならいいわ。

「それじゃ五人対五人で引き分けでいいわね?」
「ひーっひっひっひっひ・・・」
再び笑い始める四月馬鹿。
今度はなんなのよ。
「お前、本当に引き分けだと思っているのか?」
「えっ?」
「あのなぁ。俺は四月馬鹿だ。人をだますのが商売の妖怪だ。なぜその俺が正しい人数を言うと思っているんだ?」
「あ・・・」
「残念だったなぁ。俺は六人だましてきていたのさ。ひーっひっひっひ」
「そ、そんな・・・」
「お前は俺の言った人数を信じた。つまりお前は俺にだまされたのさ。クックックック・・・」
「あ・・・あああ・・・そんなぁ・・・」
私の躰が変わり始める。
手がひづめに変化して行き、服が裂けて肌が茶色い毛に覆われていく。
鼻面が伸び、頭のてっぺんからは角も生えてくる。
そんなぁ・・・
私は・・・私は馬鹿になっちゃうのぉ?

「こわがることはない。お前はなかなかだますことに長けたメスだ。馬鹿のメスとなってもっともっと人間をたぶらかすがいい」
こわがることはない?
ああ・・・
おっしゃるとおりだわぁ・・・
私は何を恐れていたのかしら・・・
四月馬鹿様の手で私は馬鹿に生まれ変わるのよ。
これからはたくさん人間をだますことができるわ。
きっと楽しくてたまらないでしょう。
四月馬鹿様とともに、人間どもをたぶらかすのよ。
楽しみだわぁ・・・

私は完全に生まれ変わった躰に満足し、四月馬鹿様にひざまずく。
これからは四月馬鹿様に従い、馬鹿として生きるのよ。
なんてすばらしいのかしら。
私は興奮に思わずいななきを上げるのだった。

END
  1. 2015/04/01(水) 21:04:36|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の復活

日付が変わった。
今日は四月一日。
一年で一番私が輝ける日。
生まれ変わって初めての四月一日。
さあ、おろかな人間たちをたっぷりと馬鹿にしてやりましょうか。

私はつばの広い帽子を目深にかぶり、すその長いコートを着て夜の街へと繰り出す。
もしかしたら・・・
もしかしたら・・・
もしかしたらあの方にお会いできるかもしれない・・・
あの方が復活してくださるかもしれない・・・
そのためにも・・・
そのためにも楽しまなくちゃね。

                   ******

うふふふふ・・・
思わず笑いがこみ上げる。
男ってみんなバカばかり。
単純だからすぐだまされるのよね。
今日は大漁。
私にだまされた男たちが次々に馬鹿になってさらに仲間を増やしに町に散っていったわ。
うふふふふ・・・
あの方の復活のためにももっともっと馬鹿を増やさなきゃ・・・

「さて、次の獲物は・・・と」
私は帽子のつばの下からそっと周囲を探ってみる。
うららかな日差しの昼下がり。
昼食を終えたサラリーマンは仕事に戻り、春休み中の子供たちはまた遊びに出かけていく。
私に気を留める人などいやしないか・・・
ならば・・・
適当な家に入り込んでそこの人間をだますのも面白そうね。

そういえば、午前中にだました男の中に妻子持ちがいたいたわよね。
携帯の待ち受けを奥さんと娘の写真にしているような男だったけど、私が具合が悪くなったふりをしたらあっさりと引っかかって近くの病院に連れて行ってくれようとさえしたおろかな人間。
今度は彼の奥さんでもだましてみようかしらね。
たぶんこの近くに住んでいるはずだから・・・
私はあの男から得た知識を使って家を探しに行くことにした。

「ここのようね・・・」
私の前には一件の家。
どうやらあの男はそれなりの稼ぎだったらしい。
建て売りとはいえ一軒家に住んでいるようだ。
そういえば去年までの私もこんな家に住んでいた気がするわ。

私は帽子を目深にかぶり、コートの襟を立てて正体を知られないようにする。
もっとも、私たち馬鹿は相手の思考にある程度干渉できるので、こっちを人間と思わせるぐらいはたやすいこと。
今回はそれをちょっと強めに働かせ、素直そうな奥さんをだましてやるわ。

                   ******

「ただいまぁ」
私は無造作に玄関を開けて家に入り込む。
鍵がかかっているかと思ったけど、思った通りかかってはいなかった。
たぶんあの男の娘がもうすぐ帰ってくるからだろう。
馬鹿になってからそのあたりのことはなんとなくわかるようになっていた。
これも妖怪としての能力の一つなんだろう。
私たちはこういう能力を駆使して人間をだましていく。
そしてだまされた人間は馬鹿になっていくのだ。

「おかえりなさーい。おやつがあるから手を洗ってらっしゃい」
美人というよりもかわいいといったほうがいいような女性が私を出迎える。
私はすぐに帽子のつばの下から見上げるように女を見つめ、目と目を合わせた。
女は玄関にいる私を見て、一瞬怪訝そうな顔をしたが、目と目が合うとすぐに微笑を浮かべて私を家に招きいれた。
うふふふふ・・・
成功成功。
彼女は私を娘と思ったに違いないわ。
まったくだまされているとも知らないで・・・

私は彼女が用意してくれたお菓子を食べながら娘が帰ってくるのを待つ。
娘が帰ってくれば、きっとあの女はだまされたことに気が付くだろう。
そのときがとても楽しみ。
嘘でだますのも楽しいけど、こうして感覚をだますというのも面白いものね。

やがて玄関が開く音がする。
「ただいまぁ」
元気な女の子の声がする。
“本当の”娘が帰ってきたのだろう。
台所仕事をしていたらしい母親が首をかしげながら玄関に向かう。
うふふふ・・・
どんな顔して娘を迎えているのかしら。

「えっ? あっ? えっ?」
素っ頓狂な声を上げる母親。
不思議そうな顔をして娘とともにリビングに入ってきて、私がそこにいることに気が付いたのだ。
「あ、あの・・・あなたはいったい・・・?」
「ええっ? いやねぇ、お母さん。娘の顔を見忘れたの?」
私は帽子で顔を隠したまま意地悪く言ってやる。
「な、何を言ってるんですか! うちの娘はこの子です。あなたはいったい誰なの? 何をしに家に入ってきたの?」
「うふふふふ・・・何をしにって、あなたが私を娘だと思って家に招きいれたんじゃない」
「えっ?」
「あなたが私を何の疑念も抱かずに娘と思って家に入れたのよ」
はい、大事なことなので二度言いました。

「そ、そんな・・・わ、私は・・・」
うふふふ、うろたえてるうろたえてる。
「ママ、お客様?」
母親の隣できょとんとしている娘さん。
うふふふ・・・
結構かわいいじゃない。
「こんにちは。私はこの家の娘よ。あなたは?」
「う、嘘言わないでください! うちの娘はこの子です! 嘘言わないで!」
うふふふ、自分がだまされたことに気が付いて逆切れって所かしら。

「はい、嘘でした」
「えっ?」
母も娘も一瞬ぽかんとする。
まさかあっさり認められるとは思わなかったのかしら。
「私がこの家の娘と言うのは嘘。真っ赤な嘘。でもね」
私はニヤリと笑みを浮かべる。
「あなたは引っかかったのよ。私が娘だという嘘に見事に引っかかったわけ」
「えっ? あ・・・」
「自分の娘の顔もわからないのかしら? こんな嘘にだまされるなんてバカじゃないの?」
「な、なんですって!」
「あははははは・・・バーカバーカ! あんたはだまされたのよ、この私馬鹿にね。バーカ!」
私は帽子を脱いで顔を見せる。
「ひっ」
「きゃぁー!」
母と娘が悲鳴を上げる。

「ば、化け物!」
思わずしゃがみこんで娘を抱きかかえている母親。
「あら、失礼ね。私は化け物なんかじゃないわよ。私は妖怪馬鹿。よろしくね」
「う、馬鹿?」
「そう。そして私に見事にだまされたあなたも・・・馬鹿になるの」
「えっ?」
私の見ている前で彼女の手が変わり始める。
「えっ? な、何これ?」
茶色の毛が生えて先がひづめのように変わっていく彼女の手。
「マ、ママ?」
娘も驚いているみたい。
当然ね。
目の前で母親が変身していくんだもの。

「ああ・・・あああ・・・」
母親の顔がだんだんと変わっていく。
鼻が伸びて馬のような顔になり、頭からは鹿の角が生えていく。
着ている服はぼろぼろになって、下から茶色の毛に覆われた躰が現れる。
スリッパを履いた足もひづめのように変わっていく。
「ママ・・・ママァ・・・いやぁぁぁぁぁ!」
少女が母親の変化に目を見開いて叫び声をあげる。

「アハ・・・アハハハハ・・・」
全身を茶色の毛に覆われ馬面になった彼女が笑い始める。
「アハハハハ・・・なんて気持ちいいのかしら。最高よぉ。アハハハハ」
「マ、ママ?」
すっかり変化してしまった母親を不安そうに見ている少女。
無駄無駄。
もうあなたのお母さんは妖怪馬鹿になっちゃったのよ。

「うふふふ・・・あなたはもう妖怪馬鹿になったのよ。気分はどうかしら?」
私は新たに生まれた仲間に声をかける。
「ええ、とってもいい気分ですわぁ。早く誰かをだましたいですぅ」
まるで馬が鼻を鳴らすかのように笑う馬鹿となった彼女。
「マ、ママ・・・」
変わってしまった母親に恐る恐る少女が声をかける。
「あらぁ? ガキがいるわぁ。だましやすそうなガキねぇ。どんな嘘でだまそうかしらぁ」
まるで獲物を見つけたかのように目を細める彼女。
そこにはわが子への思慕の情などありはしない。
うふふふふ・・・
すっかり身も心も馬鹿になったようね。

「その娘はあなたに任せるわ。好きにしなさい」
「ハーイ。うふふふふ・・・」
ぺろりと舌なめずりをする彼女。
私は少女の泣き声を背にしてこの家をあとにした。

                   ******

「アハハハハ、あの娘これからどうなっちゃうのかしらね。パパもママも馬鹿になっちゃって。アハハハハ、面白かったー。次は誰をだまそうかしら」
「ククククク・・・面白いやりかただったじゃないか。他の馬鹿には思いつかないやり方だ」
背後から声がした・・・
聞き覚えの・・・ある声・・・
まさか・・・
まさか・・・
もしかして・・・
「四月馬鹿様?」
私は振り向いた。
そこには・・・
そこにはコートを着て帽子を目深にかぶった・・・
四月馬鹿様ぁ!!

「よぉ。一年ぶりだな」
「四月馬鹿様! 復活なされたんですね!」
「ククククク・・・四月馬鹿は滅びぬさ。エイプリルフールがある限り何度でもよみがえる」
にやっと笑う四月馬鹿様。
ああ・・・
四月馬鹿様・・・
お帰りなさいませ。

私は偉大なる主にひざまずいて改めて忠誠を誓う。
昨年はきちんと忠誠を誓う暇もなかった。
今年は目の前に四月馬鹿様がいらっしゃる。
私はそのことに大いなる喜びを感じていた。

END
  1. 2014/04/01(火) 21:25:07|
  2. 四月馬鹿
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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