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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

馬鹿団の女幹部

今日は四月一日ですねー。
今年もやってきちゃいました。
四月一日と言えばあのお方。
今年もどうぞお楽しみをー。


馬鹿団の女幹部

「うーん・・・いい陽気だわぁ」
私は思わず伸びをする。
お日様ポカポカ。
仕事なんて忘れたくなっちゃう。
私は思わずこみあげてくるあくびを必死に噛みこらえ、再び通りを歩き始める。

「おはようございます」
「婦警さん、おはようございます」
見知った町の人たちが挨拶してくれる。
だいたいいつもパトロールしているルートだから、見知った顔も多いのだ。
今年もここの交番か・・・
年度替わりの異動の辞令は出なかったから、もう一年ここにいろってことなのね。
早く階級を上げて私服警官になりたいなぁ。

あれ?
今何か急に周囲がかすんだというか、もやがかかったような感じがしたけど・・・
気のせいかな?
今は視界もすっきりしてるし・・・
目が疲れたのかな?

「えっ?」
急にけたたましいブレーキ音がして、小型トラックが民家に突っ込んでいく。
大変!
私はすぐに現場に向かって走り出し、民家の近くへ駆け寄っていく。
とりあえず周囲の状況にもかまわず、そのままトラックが突っ込んだ家に走りこむ。
「大丈夫ですか?」
私が声をかけると、トラックからよろよろと男性が下りてくる。
よかった、まだ生きている。
私が駆け寄ろうとすると、その男性は青ざめた顔で通りのほうを指さしている。
「えっ?」
私が振り返ろうとすると、背後で大きな爆発音がする。
と、同時に、風圧を感じ、爆風が来たのだと知らしめてきた。
「な、なにがいったい?」
私が通りのほうを見ると、そこには何か二本足で立つ人間ほどの大きさの奇妙なものが立っていた。
赤茶色のカニのような外皮を持ち、右手は巨大なカニのはさみみたいになっている。
全体的なフォルムは人間ぽいのだけど、なんというか化け物という言葉しか出てこない。
もしかしたらこれが宇宙人?
そ、そんなものがいるはずが・・・

「キーッ!」
「キキーッ!」
そのカニの化け物の背後では、なんだか全身を黒いぴったりした服、全身タイツっていうのかな、に身を包んだ男女が暴れまわってる。
あるものは高齢の女性を突き飛ばし、あるものは営業マンと思しきスーツ姿の男性を殴りつけている。
な、なんなの?
なんなのいったい?

その時私はハタと気が付いた。
これは何かの撮影に違いない。
きっと近くにカメラマンやスタッフがいて・・・
スタッフがいて・・・
いて・・・
いない?
どこにもいない?
どういうこと?
まさか本当にこの化け物たちが暴れているの?

「ぎゃー!」
「ひぃー!」
人々が悲鳴を上げている。
助けなきゃ・・・
助けなきゃ・・・
わたしは足が震えるのを必死で抑えつつ、人々のところへ向かっていく。
「皆さん! 逃げて、逃げてください! 避難してー!」
私は大声で叫びつつ、得体のしれない連中と人々の間に割り込もうとした。
その間にも、あのカニとも人ともつかない化け物が、そのハサミで人の首を刎ね飛ばす。
ごろりと転がった首と、残った胴体から勢いよく噴き出す赤い血が、これが撮影なんかじゃないことをまざまざと見せつけてくる。
信じられない・・・
でも・・・
でも、これは本当のことなんだわ。
なんだかわからないけど、何とかしなくちゃ・・・
「逃げて! 逃げてください!」
私は黒全身タイツの連中に今しも襲われそうになっていた若い女性の前に飛び出した。
「警察です! おとなしくしなさい!」
私は恐怖で膝ががくがくしながらも、必死で連中に警棒を突き付けた。

「カーーーーーーット!!」
そこに脇から声がかけられる。
途端に周囲から緊迫感が消えていく。
周囲が何かゆがんだ気がして、大きな反射板を持った人や、巨大なカメラを構えた人、長い棒の先に吊り下げたマイクを持った人などが現れる。
「え?」
な、なになになに?
何が起こったの?

「おーい! 周囲の通行を止めてなかったのか? 婦警さんが間違って入ってきちゃったぞ」
「すいませーーん! ちゃんと言ってあったんですが!」
「今のはエリカちゃんがザリガニ男や戦闘員に襲われるシーンなんだから、こういうのは困るよ!」
「すいませーん」
なんだか、ざわざわざわめいている。
なにこれ?
もしかしてやっぱり映画の撮影だった?
えええええ?
あれが撮影なの?

「いやー、婦警さん、すみません。映画の撮影なんですよ。驚かせてしまったようで。ちゃんと警察に許可は取ってあったんですけどねぇ。聞いてませんか?」
私のところにつばの広い帽子を深くかぶった人がやってくる。
もしかしてこの人が映画監督?
この暖かな陽気なのに、黒いコートをしっかりと着込んでいて暑くないのかな?
「うああ・・・そうでしたかぁ・・・すみません」
私は監督さんに頭を下げる。
やっぱり撮影の邪魔しちゃったみたいだわ。
でも・・・
でも・・・
あれが撮影だったなんて思えなかったんだもん。
「ああ、いえいえ、お気にせず、頭を上げてください。時々あることですから」
「そ、そうなんですか?」
私は少し救われた気がする。
「それよりも、婦警さんが血相変えて飛び出して来たときはこっちも驚きましたよ。まさか現実の話に思えちゃいましたか?」
「あ・・・う・・・は、はい。お恥ずかしい話なんですけど、人々が殺されるシーンがとても生々しくて、それにスタッフの方々の姿も見えなくて、思わずこれは現実に起きていることなんだって思ってしまって・・・」
私は正直にそういった。
これってむしろ監督さんには誉め言葉にならないかな。

「クククク・・・そうですかぁ。こんな現実味のない特撮映画が現実に思えましたかぁ」
何か監督の言い方が人をバカにしているようでちょっとむっとしたけれど、事実なんだから仕方がない。
「はい。すごく皆さん迫真の演技で、すっかり騙されてしまいました」
「ククククク・・・そうさ。お前は騙されたんだよ。荒唐無稽な特撮映画を本当の話と信じてすっかり騙されたのさ。この四月馬鹿様になぁ」
「えっ?」
監督さんが帽子を脱ぐ。
「ひっ!」
思わず私は口元を両手で押さえて小さな悲鳴を上げてしまった。
帽子の下からは、鼻づらの長い馬の頭が現れたのだ。
茶色の短い毛におおわれ、耳をぴんと立てて歯をむき出して笑っている。
でも、てっぺんには角が生えているわ。
あれって鹿の角?
え?
馬?
鹿?
どっち?

「クククク・・・混乱したか? 俺様は四月馬鹿(しがつうましか)。人をだますことを商売にしている妖怪だ」
「う、馬鹿?」
「そうだ。そしてお前はこの馬鹿様にまんまと騙されたバカな女というわけだ。クックックック・・・」
よ、妖怪?
そんなバカな・・・
そんなものがいるわけが・・・
「クックック・・・まあ、だまされたからと落ち込むことはない。今年は結構大掛かりにやったからな」
目の前の鹿の角を持つ馬の妖怪が手を一振りすると、突然周囲は闇になり、街並みも撮影スタッフも暴れていた怪物たちも消えてしまう。
「クククク・・・これでももう八年目なのでね。しもべたちも増え、俺様も少しは力が強くなっているというわけだ。こうして幻術を使えるぐらいにはな」
「幻・・・術?」
「そうさ。ここは朝の住宅街。お前はそこでぽかんと突っ立って、俺様の幻術に翻弄されていたというわけだ」
「そんな・・・」
なにがなんだかわからない。
これっていったい何なの?
私はどうなってしまったの?

「えっ?」
気が付くと、私は自分から警察の制服を脱いでいた。
「私は・・・何を?」
私は自分の両手を見る。
「えっ?」
すると私の両手は、奇妙な五本の細い指から、力強い蹄に変わっていた。
腕ものっぺりとしたものではなく、短い茶色の毛に覆われていく。
「えっ? えっ? えっ?」
なにこれ?
私はいったい?
「クククク・・・俺様に騙された人間はみな馬鹿になるのさ。お前も馬鹿になるんだ」
馬鹿に?
私が馬鹿に?
四月馬鹿様は何をおっしゃっていらっしゃるのかしら?
私が馬鹿なのは当たり前ですよぅ。

私の顔は鼻づらが伸びて馬の顔に。
頭頂部からは鹿の角が生え、全身は茶色の短い毛で覆われた。
きゃはははは・・・
アタシは馬鹿。
愚かな人間どもをだますのが私たちの喜び。
だまされた愚かな人間は馬鹿になってしまうの。
なんて素敵なことかしら。
「きゃははははは」
アタシは思わず笑ってしまう。
だってすごく気持ちがいいんだもん。
なんか心が解放された感じ。
馬鹿である喜びを感じるわぁ。
そうだ!
「ねえ、四月馬鹿様ぁ」
アタシは甘えたように猫なで声を出す。
だってぇ・・・
四月馬鹿様ってとっても素敵なんですもの。
渋くてかっこいい大ボスって感じ。
アタシ、自分が四月馬鹿様のしもべであることをうれしく思うわぁ。

「なんだ、急に? おかしなやつだな」
「きゃはっ、ねえ、四月馬鹿様ぁ」
「だから何だと言っている」
アタシの変わりぶりに苦笑している四月馬鹿様。
もう・・・あなたがアタシをこんなふうにしたんですわぁ。
「トリックじゃなくいっそのこと本当に“悪の組織馬鹿団”を作りませんかぁ? 四月馬鹿様が首領様でぇ、アタシが女幹部レディウマシカになるの。それで人間たちを馬鹿にして、団員にしちゃうんですわぁ」
「なんだそりゃ? お前、さっきの特撮もどきの影響を受けたか?」
「わかりませんけどぉ・・・四月馬鹿様が首領様でアタシが女幹部の悪の組織っていいと思いません?」
アタシは四月馬鹿様の腕に縋りつく。
「好きにしろ。首領様は忙しいので常に留守という設定でな」
「はぁい。仕方ないですー。でも、時々はお姿をお見せくださいね」
「いいだろう」
「きゃはっ、それじゃ女幹部レディウマシカは、これより団員増加のために働いてきます。きゃははは」
アタシは四月馬鹿様に一礼すると、腰を振って歩き出す。
今日一日でどれだけ団員が増えるかしら。
楽しみだわぁ。
きゃはははは・・・

エンド
  1. 2017/04/01(土) 20:38:45|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の連鎖

きょうから四月です。
四月となればあの方が・・・
と言うことで今年もお楽しみいただければと思います。


四月馬鹿の連鎖

「うーん・・・」
私は伸びをして朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「はあー」
そして吸い込んだ空気をゆっくりと吐く。
気持ちいい。
今日から四月。
桜も咲いて朝の空気もやわらかく感じる。
もう少ししたら新学期も始まるし、今年から一年生の担当だわ。
いろいろと大変だとは思うけど、きっとかわいいだろうなぁ・・・

さてさてこうしちゃいられない。
学校は春休み中とはいえ、教師はいろいろと忙しい。
早く学校へ行かなくては。
今年もまた一年が始まるわ。
私は暖かな春の風を感じながら、学校と言う職場へと歩き出すのだった。

                   ******

「おはようございます」
職員室のドアを開けて中へ入る。
「おはよう」
「おはよう」
すでに出勤していた教頭先生と白川先生が挨拶を返してくれる。
まだ朝早いせいで、ほかの先生たちは来ていないみたい。
ちょっと早く来すぎたかしら。

「富村(とみむら)先生」
私が自分の席に着くと、教頭先生が呼んでくる。
「あ、はい」
私は席から立ち上がると、教頭先生のところへ行く。
「なんでしょう?」
「校長が富村先生が来たら呼んでくれと。何か用事があるようですよ」
「は、はい・・・」
校長先生が私を呼んでいる?
いったい何かしら・・・
私はすぐに校長室へと向かった。

「富村です」
『お入りなさい』
校長室のドアをノックすると、すぐに中から返事がある。
私はドアを開けて中に入り、校長先生に一礼した。
「おはようございます。お呼びとお聞きしましたので」
「富村先生」
「は、はい」
私の言葉をさえぎるように校長が私の名を呼ぶ。
いつになく厳しい表情が私を見据えている。
いったいどういうこと?

「富村先生、あなた、生徒のご両親から訴えられましたわよ」
校長先生がとんでもないことを言ってきた。
「え? 私がですか?」
私は思わず聞き返す。
いったい何のことなのか・・・
「訴え? 本当ですか?」
苦情ぐらいは何度か受けたことはあるけど、訴えるなんてそんな・・・
「ここに裁判所からの書状があります」
そういって机の上に封書を置く校長先生。
普段はやさしい母親のようだと評判の校長先生が、なんだかまったく見知らぬ人のような感じがする。
「何か心当たりは?」
「い、いいえ」
私はぶんぶんと首を振った。
先日卒業生を送ったばかりだけど、問題のある子はいなかったし、何もトラブルはなかったはず。
心当たりなんていわれても・・・

「あ、あの・・・校長先生」
「なんですか?」
「し、失礼ですけど・・・エイプリルフール・・・なんてことは・・・?」
私は恐る恐る聞いてみる。
今日は四月一日だもの。
きっとエイプリルフールに違いないわ・・・
だって・・・
まるっきり心当たりなんて・・・

「富村先生・・・」
校長がそういって私をにらみつけてくる。
無言でふざけるなと言っているのだ。
そんなこと言われても・・・
「本当に心当たりはないのですか? 本当に?」
私は必死になって考える。
訴えられるようなトラブルがあっただろうか・・・
もしかして忘れ物を何度も注意したこと?
それとも、誰かに対するいじめを見逃していた?
それとも・・・
それとも・・・
思い返せばすべてが怪しく感じてしまう。
もしかしたら西岡君と上本君のじゃれあいはいじめだったのかもしれない。
梅野さんと岡崎さんも言い争いをしていたし、高山君と横田さんを先日のテストで褒めたのはえこひいきに思われたかもしれないわ。
ああ・・・
考えれば考えるほどどれもが心当たりのようで、どれもが違うような・・・
一体私の何が悪かったの?

「あの・・・校長先生、私はいったい何を訴えられたのでしょう?」
「本当に心当たりはないのね?」
「はい」
私はこくんとうなずく。
本当に心当たりなどないのだ。
「そう・・・それはよかったわ」
校長は突然にっこり微笑むと、机の上の封書を手に取り、真っ二つに引き裂いた。
「えっ? 校長先生何を! それは裁判所からの書状では?」
私は思わず近寄っていく。

「うふ・・・うふふふ・・・うふふふふ・・・」
校長先生がニヤニヤと笑っている。
いつもとは違うなんだか不気味な笑み。
なんなの?
いったい校長先生はどうしちゃったの?

「おほほほほ・・・だまされたでしょう?」
「えっ?」
「最初は信じてなかったでしょ? でも、途中からもしかしたらと思い始めた。そして、この封筒が裁判所からの書状と信じ込んだ。違うかしら?」
た、確かにそれはそうだけど・・・
校長先生がそう言ったんだもの、信じてしまうに決まっている。
「おほほほほ・・・訴えそのものは半信半疑でも、この封書が裁判所からのものということは信じた。あなたは信じてしまったわ。おほほほほほ・・・」
「えっ?」
笑い続ける校長先生の姿が奇妙にゆがんでくる。
何?
何なの?
校長先生の頭からはずんずんと大きなねじくれた角が伸び、顔は細長く伸びて馬のようになっていく。
ええ?
「こ、校長先生?」
「おほほほほ・・・これがアタシの正体なのよぉ。アタシは去年四月馬鹿(しがつうましか)様にだまされ、雌の馬鹿(うましか)にされてしまったのぉ」
校長先生の手はひづめのようになり、黒髪も茶色のたてがみのように変化する。
まさに馬と鹿が掛け合わさったような生き物だ。
「ひぃぃぃ!」
私は目の前で校長先生が化け物に変化していくのを見て悲鳴を上げる。
でも、なぜか逃げ出したいのに足が動かない。
恐怖ですくんでしまったというよりも、なぜか足を動かせなくなっているのだ。
ど、どうして?
私は自分の足元を見る。
「えっ? ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
私は先ほどよりもさらに大きな悲鳴を上げていた。
私の足が、私の足が何か奇妙なひづめのように変わっていくのだ。
ど、どうして?
どうして私まで?
変わっていくのは足だけじゃない。
悲鳴を上げとっさに口元に当てた両手もひづめのように変わっていく。
いったいどうして?

「おほほほほ・・・あなたも馬鹿になるのよ。アタシにだまされたことであなたも雌の馬鹿になるの。おほほほほ・・・」
鹿の角が生えた馬の顔をした校長先生が笑っている。
そんな・・・
私も校長先生のようになってしまうというの?
そんなのいやぁ!

頭を押さえて首を振る私だったが、その両手にずんずんと当たってくるものがある。
え?
ま、まさか・・・
私にも角が?
「いやぁっ! いやぁっ!」
私は必死に伸びてくる角を押さえ込もうとするが、ひづめのようになった手ではうまく押さえ込めない。
そうしている間にも、角はどんどんと伸びていく。
「おほほほほ・・・無駄よ。あなたはもう馬鹿になるしかないの。安心なさい。変化が進めば、気にならなくなるわ。むしろ馬鹿になれたことを喜びに感じるようになるわよぉ」
腕組みをして私の変化を眺めている校長先生。
その姿はすっかり雌の馬鹿と化していた。

「ああ・・・いやぁ・・・助けて・・・」
私の顔がじょじょに長く馬面になっていく。
手や足に茶色い毛が生え、全身へと広がっていく。
「ああ・・・あああ・・・」
私は絶望に打ちひしがれる。
もう私は人間じゃなくなってしまうんだわ・・・
このまま私は馬鹿になって、四月馬鹿様の命令で人間どもをたぶらかしていくのね・・・
なんてことなの・・・
あら?
でも・・・なんだかそれって・・・
楽しそうじゃない?

私は思わず笑みを浮かべる。
歯がむき出しになり、思わずいななきたくなるぐらい。
アタシは何を恐れていたのだろう・・・
馬鹿であることはとても楽しいことなのに・・・
バカな人間たちをだまし、自分たち人間がいかにおろかな存在であるか見せ付けてやるの。
なんて楽しいことかしら。
早く人間たちをだましてみたいわぁ・・・

「おほほほほ・・・どうやらあなたも身も心も馬鹿に変化したみたいね?」
「はい。おかげさまでアタシも雌の馬鹿に生まれ変わることができましたわぁ」
アタシは生まれ変わった自分の姿を先輩に見てもらう。
「おほほほほ・・・やったわぁ。これでアタシも四月馬鹿様のように仲間を増やせるのね」
先輩が喜んでいるわ。
なんだかアタシもうれしくなるわね。

「ほう・・・去年は仲間を増やさなかったのか?」
「え? 四月馬鹿様・・・」
先輩が驚いた顔をしている。
私も思わず振り向くと、いつのまに入ってきたのか、立派な体格の雄の馬鹿が立っていた。
「四月馬鹿様・・・」
アタシにもすぐにわかる。
このお方こそが私たち馬鹿の王である四月馬鹿様なんだわ。
アタシはすぐにひざまずいた。
「は、はい・・・去年はタイミングが悪く、アタシが馬鹿になってすぐに日付が変わってしまったもので・・・」
先輩も偉大な王にひざまずき、うつむいて返事をしている。
「ククククク・・・そうか。それはめでたいな。お前もこれで立派な馬鹿だ」
「ありがとうございます、四月馬鹿様」
かつて校長先生だった先輩馬鹿がお声をかけてもらっている。
アタシも早くお声をかけてもらえるようになりたいな。

「ククククク・・・お前も今日一日で仲間を増やすがいい」
え?
四月馬鹿様がアタシにもお声を掛けてくださったの?
うれしい。
「はい、四月馬鹿様。がんばります」
アタシは心をこめて返事をする。
そうよ。
今日一日はまだ始まったばかり。
子供たちにたっぷりとうそを教え込み、馬鹿をいっぱい増やしてみせますわぁ。
アタシは胸を弾ませながら、四月馬鹿様に誓うのだった。

END
  1. 2016/04/01(金) 21:01:12|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の勝負

今日は四月一日、エイプリルフールですね。
となりますと、またまたあの方の登場です。
今年は誰がだまされるのでしょうか?

それではどうぞ。


四月馬鹿の勝負

「それじゃ、また。来週は必ず空けておいてね」
「ええ、もちろん。あなたのご両親に会うんでしょ? 楽しみだわ」
私は精一杯の媚を売る。
「君なら大丈夫だよ。両親もきっと君を気に入ってくれるよ」
「そうだといいけど・・・」
「大丈夫さ。それじゃ」
私は別れ際に甘いキスを交わし、名残惜しそうな目で彼を見送る。
彼の乗る車が角を曲がって見えなくなったところで、私は思わず吹き出した。

「アッハハハハ・・・」
バーカ。
何が両親に会ってくれよ。
何がプロポーズよ。
あなたはただの金づる。
いろいろと貢いでくれちゃってまあ・・・
でもそろそろ見切ろうかと思っていたしいい頃合ね。
携帯のメルアドと番号を変更して連絡取れないようにしなきゃ。
それにしても男ってバカよねぇ。
ちょっとかわいこぶって甘い声で誘いをかければ、すぐに鼻の下伸ばしてだまされてくれるんだから。
親の手術?
弟の事故?
ホントこっちの嘘にすぐ引っかかっていくらでも金を出してくれるんだもの。
男をだますのって止められないわぁ。

まあ、見た目と頭の回転の良さではそう引けは取らないつもりだけど、こうも男どもがコロコロとだまされてくれると才能があるんじゃないかと思えちゃうわぁ。
詐欺師には向いているのかもね。
今の職場、そろそろ飽きたし身バレしたらヤバイしで転職するつもりだけど、職が見つからなかったら詐欺師をやるというのもいいかも。
たぶん、今の私ならあの噂に聞く四月馬鹿だってだませるんじゃないかしらね。

「ククククク・・・はたしてそうかな?」
えっ?
いきなり背後から声をかけられて私は驚いた。
足を止めて振り向くと、もう春だと言うのに黒いコートをしっかりと着込み、帽子を目深にかぶった男が立っていた。
「な、なんですか? 何か用ですか?」
私は少し驚いた。
歩いていた私の背後にいつの間にこんな近くに男が来ていたのだろう?
それに、私は考えを口にしていないはずなのに・・・

「おや? 用があるのはそちらではないのか? 四月馬鹿だってだませるんだろう?」
「あ、あれは言葉の綾で・・・って、ど、どうしてそのことを?」
「ふふふふ・・・わかるさ。なんてったって、俺がその四月馬鹿なんだからな」
男はそう言って帽子を取る。
「ひっ!」
思わず私は息を飲んだ。
だって、帽子の下からは、どう見ても動物の馬の顔とその上に生えている鹿の角が現れたのだから。
「あ・・・ああ・・・」
私は思わず後ずさる。
「ヒヒヒヒ・・・どうした? 四月馬鹿をだましてみせるんじゃなかったのか?」
「嘘・・・嘘よ・・・四月馬鹿なんて都市伝説のはず・・・実在するはずが・・・」
「おいおい、俺はまぎれもなく四月馬鹿さ。実在の妖怪だよ」
ニタァッと笑ってくる四月馬鹿。
その頭部はどう見ても作り物とは思えない。
で、でも・・・
「嘘・・・嘘よ・・・だ、だまされるもんですか。私をだまそうったってそうは行かないわ」
私は首を振って頭をはっきりさせる。
四月馬鹿なんているものですか!

「クックック・・・最初にだまそうとしたのはそちらだぜ。まあいい、今はお前をだますつもりはないよ」
「えっ?」
だますつもりはない?
どういうこと?
四月馬鹿は人をだまして仲間にしてしまうんじゃなかったかしら?
「だますつもりはないって・・・?」
「ああ、お前は人をだますのが得意そうだからな。俺がだまそうと思ってもなかなか引っかからないだろう?」
「まあ、そうね。ちょっとやそっとではだまされない自信はあるわ」
私は少しいい気分になる。
もしこの目の前のが本当の四月馬鹿なのだとしたら、褒められるのは悪くないわ。

「そこでだ」
四月馬鹿が歯をむき出す。
「ちょうど日付も変わったばかり。今日は四月一日だ。一年で一番人をだましやすく、だましづらい日でもある。そこで今晩23時までにどちらがどれだけ人をだましたか勝負しようではないか」
「勝負?」
「そうだ。人を何人だませるか数を競う。そうだな・・・相手からお金をだまし取れるぐらいだませたら成功ということにしよう」
ふーん・・・
結構面白そうじゃない。
男からお金をだまし取るのは得意だし、乗ってみてもいいかな。
「受けて立ってもいいけど、勝負に乗ったらだまされたなってのは無しよ」
「そんなことはしないさ。これでも四月馬鹿、そんな引っ掛けはたまにしかやらん」
「たまにはやるのね」
私は思わず苦笑する。
なんだかこの妖怪、嫌いじゃないわ。

                    ******

「ありがとう。このお礼は必ず・・・ううっ・・・」
「いいって、早く弟さんのところに・・・」
「ううっ・・・本当にありがとう・・・」
私はそう言って涙をぬぐいながら男の元をあとにする。
あはははは・・・
ホント男ってチョロイわぁ。
これで五人目っと。
お金も十万にはなったかしらね。

時間はもうすぐ23時。
エイプリルフールの一日をあちこち駆けずり回るなんてなにやってんだか。
でもまあ、面白かったし、結構私って人をだます才能みたいなのがあるってのを再認識できたからいいか。

「お待たせ」
私は待ち合わせ場所にやってくる。
四月馬鹿は黒いコートに帽子をかぶった姿でおとなしく待っていたみたい。
さーて、あっちは何人だましてきたのかしらね。

「ふむ。時間通りだな」
帽子の影から鋭い眼光が覗いている。
「遅刻するのは好きじゃないの」
「ふむ。いい心がけだ」
「そんなことどうでもいいわ。それよりも、そっちは何人だましてきたの?」
私は少しドキドキする。
考えてみればあっちは妖怪。
しかもだますのが仕事みたいなもの。
なんか勝負に乗っちゃったけど、失敗だったかも。

「五人だ」
四月馬鹿の言葉に私はホッとした。
五人か・・・
ならば同点だわ。
よかった・・・負けなくて。
「ふふふ・・・私も五人よ。この勝負は引き分けね」
うん、引き分けという結果は悪くないわ。

「クク・・・クククク・・・ククククク・・・」
えっ?
四月馬鹿が笑っている?
「な、何がおかしいの?」
「クックックック・・・引き分けだと? 本当にそう思っているのか?」
「えっ? どういうこと?」
引き分けじゃないの?

「よく見てみろ、お前が手にした金を」
「えっ?」
私はハンドバッグから財布を取り出してみる。
そこには今日男たちからだまし取ったお金が入っている。
ざっとみて十万ほど。
これが何か・・・
えっ?
これ・・・これって?
私は驚いた。
一万円札の中に、肖像画が馬の顔をしたものがあるのだ。
それも鹿の角が生えて・・・
これって・・・
「ひーっひっひっひ! そうさ。今日お前がだましたと思っていた男の中に俺が混じっていたのさ」
「そ、そんな・・・それって?」
「つまりお前がだましたと思った相手はだまされたふりをしていただけだったと言うわけさ。この俺様がな」
なんてこと・・・
なんて・・・

「ちょっと待って!」
私は四月馬鹿を怒鳴りつける。
「そんなの納得行かない! だまされたふりって、ふりだろうがなんだろうがお金をちゃんともらってきたじゃない。ふりだろうがなんだろうがだまして奪ったことには違いないはずよ!」
「ほう。おとなしく引き下がるかと思ったがそうきたか。じゃあ、だまされたと言うことにしてやってもよい」
えっ?
意外と簡単に引き下がる四月馬鹿。
ちょっと拍子抜けだけど、認めてくれるならいいわ。

「それじゃ五人対五人で引き分けでいいわね?」
「ひーっひっひっひっひ・・・」
再び笑い始める四月馬鹿。
今度はなんなのよ。
「お前、本当に引き分けだと思っているのか?」
「えっ?」
「あのなぁ。俺は四月馬鹿だ。人をだますのが商売の妖怪だ。なぜその俺が正しい人数を言うと思っているんだ?」
「あ・・・」
「残念だったなぁ。俺は六人だましてきていたのさ。ひーっひっひっひ」
「そ、そんな・・・」
「お前は俺の言った人数を信じた。つまりお前は俺にだまされたのさ。クックックック・・・」
「あ・・・あああ・・・そんなぁ・・・」
私の躰が変わり始める。
手がひづめに変化して行き、服が裂けて肌が茶色い毛に覆われていく。
鼻面が伸び、頭のてっぺんからは角も生えてくる。
そんなぁ・・・
私は・・・私は馬鹿になっちゃうのぉ?

「こわがることはない。お前はなかなかだますことに長けたメスだ。馬鹿のメスとなってもっともっと人間をたぶらかすがいい」
こわがることはない?
ああ・・・
おっしゃるとおりだわぁ・・・
私は何を恐れていたのかしら・・・
四月馬鹿様の手で私は馬鹿に生まれ変わるのよ。
これからはたくさん人間をだますことができるわ。
きっと楽しくてたまらないでしょう。
四月馬鹿様とともに、人間どもをたぶらかすのよ。
楽しみだわぁ・・・

私は完全に生まれ変わった躰に満足し、四月馬鹿様にひざまずく。
これからは四月馬鹿様に従い、馬鹿として生きるのよ。
なんてすばらしいのかしら。
私は興奮に思わずいななきを上げるのだった。

END
  1. 2015/04/01(水) 21:04:36|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の復活

日付が変わった。
今日は四月一日。
一年で一番私が輝ける日。
生まれ変わって初めての四月一日。
さあ、おろかな人間たちをたっぷりと馬鹿にしてやりましょうか。

私はつばの広い帽子を目深にかぶり、すその長いコートを着て夜の街へと繰り出す。
もしかしたら・・・
もしかしたら・・・
もしかしたらあの方にお会いできるかもしれない・・・
あの方が復活してくださるかもしれない・・・
そのためにも・・・
そのためにも楽しまなくちゃね。

                   ******

うふふふふ・・・
思わず笑いがこみ上げる。
男ってみんなバカばかり。
単純だからすぐだまされるのよね。
今日は大漁。
私にだまされた男たちが次々に馬鹿になってさらに仲間を増やしに町に散っていったわ。
うふふふふ・・・
あの方の復活のためにももっともっと馬鹿を増やさなきゃ・・・

「さて、次の獲物は・・・と」
私は帽子のつばの下からそっと周囲を探ってみる。
うららかな日差しの昼下がり。
昼食を終えたサラリーマンは仕事に戻り、春休み中の子供たちはまた遊びに出かけていく。
私に気を留める人などいやしないか・・・
ならば・・・
適当な家に入り込んでそこの人間をだますのも面白そうね。

そういえば、午前中にだました男の中に妻子持ちがいたいたわよね。
携帯の待ち受けを奥さんと娘の写真にしているような男だったけど、私が具合が悪くなったふりをしたらあっさりと引っかかって近くの病院に連れて行ってくれようとさえしたおろかな人間。
今度は彼の奥さんでもだましてみようかしらね。
たぶんこの近くに住んでいるはずだから・・・
私はあの男から得た知識を使って家を探しに行くことにした。

「ここのようね・・・」
私の前には一件の家。
どうやらあの男はそれなりの稼ぎだったらしい。
建て売りとはいえ一軒家に住んでいるようだ。
そういえば去年までの私もこんな家に住んでいた気がするわ。

私は帽子を目深にかぶり、コートの襟を立てて正体を知られないようにする。
もっとも、私たち馬鹿は相手の思考にある程度干渉できるので、こっちを人間と思わせるぐらいはたやすいこと。
今回はそれをちょっと強めに働かせ、素直そうな奥さんをだましてやるわ。

                   ******

「ただいまぁ」
私は無造作に玄関を開けて家に入り込む。
鍵がかかっているかと思ったけど、思った通りかかってはいなかった。
たぶんあの男の娘がもうすぐ帰ってくるからだろう。
馬鹿になってからそのあたりのことはなんとなくわかるようになっていた。
これも妖怪としての能力の一つなんだろう。
私たちはこういう能力を駆使して人間をだましていく。
そしてだまされた人間は馬鹿になっていくのだ。

「おかえりなさーい。おやつがあるから手を洗ってらっしゃい」
美人というよりもかわいいといったほうがいいような女性が私を出迎える。
私はすぐに帽子のつばの下から見上げるように女を見つめ、目と目を合わせた。
女は玄関にいる私を見て、一瞬怪訝そうな顔をしたが、目と目が合うとすぐに微笑を浮かべて私を家に招きいれた。
うふふふふ・・・
成功成功。
彼女は私を娘と思ったに違いないわ。
まったくだまされているとも知らないで・・・

私は彼女が用意してくれたお菓子を食べながら娘が帰ってくるのを待つ。
娘が帰ってくれば、きっとあの女はだまされたことに気が付くだろう。
そのときがとても楽しみ。
嘘でだますのも楽しいけど、こうして感覚をだますというのも面白いものね。

やがて玄関が開く音がする。
「ただいまぁ」
元気な女の子の声がする。
“本当の”娘が帰ってきたのだろう。
台所仕事をしていたらしい母親が首をかしげながら玄関に向かう。
うふふふ・・・
どんな顔して娘を迎えているのかしら。

「えっ? あっ? えっ?」
素っ頓狂な声を上げる母親。
不思議そうな顔をして娘とともにリビングに入ってきて、私がそこにいることに気が付いたのだ。
「あ、あの・・・あなたはいったい・・・?」
「ええっ? いやねぇ、お母さん。娘の顔を見忘れたの?」
私は帽子で顔を隠したまま意地悪く言ってやる。
「な、何を言ってるんですか! うちの娘はこの子です。あなたはいったい誰なの? 何をしに家に入ってきたの?」
「うふふふふ・・・何をしにって、あなたが私を娘だと思って家に招きいれたんじゃない」
「えっ?」
「あなたが私を何の疑念も抱かずに娘と思って家に入れたのよ」
はい、大事なことなので二度言いました。

「そ、そんな・・・わ、私は・・・」
うふふふ、うろたえてるうろたえてる。
「ママ、お客様?」
母親の隣できょとんとしている娘さん。
うふふふ・・・
結構かわいいじゃない。
「こんにちは。私はこの家の娘よ。あなたは?」
「う、嘘言わないでください! うちの娘はこの子です! 嘘言わないで!」
うふふふ、自分がだまされたことに気が付いて逆切れって所かしら。

「はい、嘘でした」
「えっ?」
母も娘も一瞬ぽかんとする。
まさかあっさり認められるとは思わなかったのかしら。
「私がこの家の娘と言うのは嘘。真っ赤な嘘。でもね」
私はニヤリと笑みを浮かべる。
「あなたは引っかかったのよ。私が娘だという嘘に見事に引っかかったわけ」
「えっ? あ・・・」
「自分の娘の顔もわからないのかしら? こんな嘘にだまされるなんてバカじゃないの?」
「な、なんですって!」
「あははははは・・・バーカバーカ! あんたはだまされたのよ、この私馬鹿にね。バーカ!」
私は帽子を脱いで顔を見せる。
「ひっ」
「きゃぁー!」
母と娘が悲鳴を上げる。

「ば、化け物!」
思わずしゃがみこんで娘を抱きかかえている母親。
「あら、失礼ね。私は化け物なんかじゃないわよ。私は妖怪馬鹿。よろしくね」
「う、馬鹿?」
「そう。そして私に見事にだまされたあなたも・・・馬鹿になるの」
「えっ?」
私の見ている前で彼女の手が変わり始める。
「えっ? な、何これ?」
茶色の毛が生えて先がひづめのように変わっていく彼女の手。
「マ、ママ?」
娘も驚いているみたい。
当然ね。
目の前で母親が変身していくんだもの。

「ああ・・・あああ・・・」
母親の顔がだんだんと変わっていく。
鼻が伸びて馬のような顔になり、頭からは鹿の角が生えていく。
着ている服はぼろぼろになって、下から茶色の毛に覆われた躰が現れる。
スリッパを履いた足もひづめのように変わっていく。
「ママ・・・ママァ・・・いやぁぁぁぁぁ!」
少女が母親の変化に目を見開いて叫び声をあげる。

「アハ・・・アハハハハ・・・」
全身を茶色の毛に覆われ馬面になった彼女が笑い始める。
「アハハハハ・・・なんて気持ちいいのかしら。最高よぉ。アハハハハ」
「マ、ママ?」
すっかり変化してしまった母親を不安そうに見ている少女。
無駄無駄。
もうあなたのお母さんは妖怪馬鹿になっちゃったのよ。

「うふふふ・・・あなたはもう妖怪馬鹿になったのよ。気分はどうかしら?」
私は新たに生まれた仲間に声をかける。
「ええ、とってもいい気分ですわぁ。早く誰かをだましたいですぅ」
まるで馬が鼻を鳴らすかのように笑う馬鹿となった彼女。
「マ、ママ・・・」
変わってしまった母親に恐る恐る少女が声をかける。
「あらぁ? ガキがいるわぁ。だましやすそうなガキねぇ。どんな嘘でだまそうかしらぁ」
まるで獲物を見つけたかのように目を細める彼女。
そこにはわが子への思慕の情などありはしない。
うふふふふ・・・
すっかり身も心も馬鹿になったようね。

「その娘はあなたに任せるわ。好きにしなさい」
「ハーイ。うふふふふ・・・」
ぺろりと舌なめずりをする彼女。
私は少女の泣き声を背にしてこの家をあとにした。

                   ******

「アハハハハ、あの娘これからどうなっちゃうのかしらね。パパもママも馬鹿になっちゃって。アハハハハ、面白かったー。次は誰をだまそうかしら」
「ククククク・・・面白いやりかただったじゃないか。他の馬鹿には思いつかないやり方だ」
背後から声がした・・・
聞き覚えの・・・ある声・・・
まさか・・・
まさか・・・
もしかして・・・
「四月馬鹿様?」
私は振り向いた。
そこには・・・
そこにはコートを着て帽子を目深にかぶった・・・
四月馬鹿様ぁ!!

「よぉ。一年ぶりだな」
「四月馬鹿様! 復活なされたんですね!」
「ククククク・・・四月馬鹿は滅びぬさ。エイプリルフールがある限り何度でもよみがえる」
にやっと笑う四月馬鹿様。
ああ・・・
四月馬鹿様・・・
お帰りなさいませ。

私は偉大なる主にひざまずいて改めて忠誠を誓う。
昨年はきちんと忠誠を誓う暇もなかった。
今年は目の前に四月馬鹿様がいらっしゃる。
私はそのことに大いなる喜びを感じていた。

END
  1. 2014/04/01(火) 21:25:07|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿の最期?

今日は4月1日、エイプリルフールですねー。

というわけで、わがブログにもあのお方が四年連続で登場です。
それではお楽しみくださいませー。




「だまされた・・・」
心の底からそう思う。
お母さんも塾の講師も学校の先生も、みんなみんな嘘つきだ。
みんなして私をだまし続けたんだ。

志望校合格疑いなしですって?
絶対合格間違いなしですって?
100パーセント合格するよですって?
嘘・・・
みんな嘘。
落ちたじゃない!
試験に合格しなかったじゃない!!

私はだまされた。
みんなで私をだましてきたんだ。
赦せない。
絶対に絶対に赦さない!

「彩華(あやか)、こんな時間にどこへ行くの?」
「・・・」
私は無言で家を出る。
あんな家になど居たくもない。
お母さんだって、今まで私をだましてきたことを知られたからおどおどしているんだ。
今までは私がだまされているのを見て笑っていたに違いない。
みんなみんな大っ嫌い。

もう夜か・・・
三月も今日で終わり。
明日からは四月。
本当なら憧れの高校の入学式を指折り数えて待っているはずだったのに・・・
悔しい・・・
悔しい・・・
試験なんて無ければいい。
それ以上に、無責任に合格間違いなしなんて嘘をついてきた連中が赦せない。
そんなこと言われなければ、もっとしっかりがんばったかもしれないのに・・・

わかってる・・・
自分が一番悪いのなんてわかってる・・・
でも・・・
でも・・・
悔しいよぉ・・・

                   ******

「あれ?」
あてども無くふらふらと歩いていた私。
気が付くとあたりはもう人通りも途絶えている。
時計を見るともう深夜。
日付も変わって4月1日になってしまっている。
いつの間にこんなに時間が経ってしまったんだろう・・・
あたりをぶらついて、ファストフードショップで食事して・・・
もやもやしながらうろついていたんだっけ・・・

ここは?
どこだろう・・・
広い公園。
うちの近くにこんな公園あったっけ?
それとも予想以上に私がふらふらと歩き回っていたということなのかな?

街灯が照らし出す人気(ひとけ)の無い公園。
木々の陰が真っ暗で不気味この上ない。
一陣の風に私は思わず身震いする。
春とはいえ、まだ夜は寒い。
帰りたくは無いけど、そろそろ家に帰らなきゃ・・・

「ん?」
なんだろう・・・
話し声が聞こえる。
それもなんだか女性の声のような・・・
なんだろう・・・
なんだか気になって、私はその声のほうに近づいた。

「本当なんですよね? あの言葉に嘘はないんですよね?」
街灯に照らされたベンチのあたりに二人の人影が見える。
一人はスプリングコートを羽織った中年の女性。
どこかで見たことがあるような気が・・・
もう一人は黒いコートにつば広の帽子を目深にすっぽりかぶっている人。
おそらくは男性。
もしかしてなにか揉め事かな?
聞いちゃいけないかな?

そんなことを考えて立ち去ろうとした私は、その女性のことをふと思い出す。
あ・・・
小学校のとき担任だった矢坂(やさか)先生だ。
いい先生ではあったけど、ちょっとヒステリックなところがあって私は苦手だったっけ・・・
お元気そうで何よりってことなのかしらね。
私は矢坂先生に間違いないか確かめようと、物陰から再度その女の人の様子を伺った。

「俺の言葉を信じたんだろ? 信じたからこそこんなところまでのこのこ付いてきたんだろう?」
「そ、それはそうですけど・・・」
うつむいている矢坂先生。
あの横顔は間違いないと思う。
「ひ・・・ひ・・・ひひゃははははは・・・バーーーカ! どこの世界にお前のような女を抱いて出世させてやるような偉いさんがいるんだよ!」
黒コートの男が突然笑い出す。
「な? 嘘だったんですか?」
驚いたように目を見開いている矢坂先生。
「嘘に決まっているじゃないか! あんな酒の席で教頭になりたい教頭になりたいって言ってるからからかったのさ」
「ひどい! 私はもうずっと教頭になりたいのになれなくて・・・だから・・・だからあなたの言葉を信じたのに!」
大声で相手を怒鳴りつける矢坂先生。
あー・・・
矢坂先生は出世思考だったもんね。
昔から校長になって自分の考える教育をしたいって言ってたもんね。

「ひーっひっひ・・・そうさ、お前は信じてしまったのさ、俺の言葉をな。四月一日だというのにな」
「し、四月一日? そんな・・・ふざけないで! バカにして、訴えてやる!」
ヒステリックに叫んでいる矢坂先生。
あれさえなければ見た目結構美人なのにな。
私はなんとなくおかしくなる。
必死に教頭になりたがった矢坂先生が、見事にあの男の人にだまされたということらしい。
それがなんだか滑稽に見えたのだ。

「ひーっひっひ・・・バーカ! もう遅いんだよ」
「もう遅い? どういうこ・・・うっ」
「えっ?」
私は驚いた。
突然矢坂先生が躰を硬直させたのだ。
そして、頭から角のようなものがにょきにょきと生えてきたのだ。
「えっ? な、何? 何なの?」
矢坂先生が戸惑っている。
でも、その間にも矢坂先生はだんだん変なものに変わっていく。
着ているものが裂け、顔が細長く伸びて馬のようになっていく。
手も指がなくなってひづめのような形になる。
肌にも茶色の毛が生えてくる。
いったい・・・いったい何なの?
先生に何が起こったの?

「ああ・・・ああ・・・私が・・・私は・・・」
「クックック・・・お前は馬鹿(うましか)になるのさ。人間どもをだまして喜ぶ妖怪馬鹿。俺様のしもべになるんだ」
黒コートの男がそういって帽子を取る。
そこには大きな鹿の角を生やした馬の顔があった。
そしてその帽子を取った手も先が馬のひづめのようになっていたのだ。
そんな・・・
化け物だったなんて・・・

「あは・・・あははは・・・」
なぜか矢坂先生が笑い始める。
その姿はもう以前の矢坂先生の姿とは大違い。
黒コートの化け物と同じような鹿の角を生やした馬面に、ひづめの生えた手足をして、茶色の毛に覆われた躰になってしまったのだ。
「すごい・・・気持ちいい・・・なんて素敵なのかしら・・・あはははは」
化け物になってしまった矢坂先生がくるくると回っている。
なんだかすごくうれしそうだわ。
「クックック・・・どうだ、妖怪馬鹿に生まれ変わった気分は?」
「はい、最高ですわぁ。私はもう人間なんかじゃありません。四月馬鹿様にお仕えする馬鹿のメスですわ。どうぞ何なりとご命令を」
とてもうれしそうに黒コートの化け物にひざまずく矢坂先生。
ううん・・・
矢坂先生はもう黒コートの化け物と同じ化け物になってしまったんだ。
確か妖怪馬鹿って言ってたっけ・・・

「クックック・・・それでいい。お前は妖怪馬鹿。人間どもをだまして社会を混乱させてやるのだ」
「はい、もちろんですわ。愚かな人間たちをたっぷりとだましてやりますわ。おほほほほ」
化け物になってしまった矢坂先生はそういって高笑いをすると、いそいそと楽しそうにどこかへ行ってしまう。
私はただあっけにとられてその後姿を見送った。

                   ******

「ケッケッケ・・・あのメスはなかなか活躍してくれそうだ。さて、次のバカを探しにいくか・・・」
「待って!」
立ち去ろうとした黒コートの化け物を私は思わず呼び止める。
そして、その行動自体を私自身が驚いた。
なぜ?
どうして?
どうして私は呼び止めたの?

「ん? ああ、さっきからのぞいていた小娘か。どうせ誰かに俺様のことを言ったところで信じてもらえないだろうからと放置しておいたんだが、なにか用か?」
ぎろりと私をにらみつけてくる黒コートの化け物。
「あなた・・・何者なの? 先生を・・・あの女の人をどうしちゃったの?」
私も負けずににらみ返しながらそうたずねる。
そんなことを聞きたいんじゃない気もするけど・・・
「先生? あの女は知り合いか? クックック・・・あの女はな、俺様の言葉をまともに信じた愚か者さ。だから、俺様の魔力で妖怪馬鹿にしてやったのさ。この俺様のしもべにな」
「妖怪馬鹿?」
「そうだ。俺たちの姿を見た人間どもは、勝手に俺たちのことを馬なのか鹿なのかと区別しようとして混乱し、簡単にだまされてしまうのさ。まさに人間をバカにしてやるわけだ。クックック・・・」
馬がいななくような奇妙な笑い声を上げる黒コートの化け物。
いや、妖怪馬鹿だったっけ。
その姿がなんとなく面白い。

ああ・・・そうか・・・
私が彼を呼び止めたのは、そのまま消え去って欲しくなかったからだ・・・
親にも先生にも塾の講師にもだまされてきた私。
だから・・・
だから今度は私がだましてやりたい。
そのために・・・

「だったら・・・」
「あん?」
「だったら私も・・・私も馬鹿にしてください」
私は勇気を出してお願いする。
「何? 馬鹿になりたいだぁ?」
目を丸くして驚いている馬鹿。
「はい。私は今まで散々だまされてきました。だから今度は私が人々をだましたい。だまされる人たちを見てあざ笑ってやりたい!」
「お前・・・自分で何を言っているのかわかっているのか?」
「たぶん・・・」
私はこくんとうなずく。
矢坂先生を馬鹿にしたのなら、私も馬鹿にできるはず。
「馬鹿になってしまったら、もう人間には戻れないんだぞ。一生俺様のしもべとして仕えることになるんだぞ」
「はい。覚悟してます。馬鹿の王よ」
私は多少芝居がかったしぐさでスッとひざまずく。
これからは彼に従うのだ。
彼を馬鹿の王として崇めるのだ。

「クハッ、こいつは面白い。長年生きてきたが、自ら馬鹿になりたいなんて言ってきたやつは初めてだ。うひゃはははは・・・」
大声で笑い始める馬鹿の王。
「えっ? えっ?」
腹を抱えて笑われていることに私は戸惑う。
そんなに笑わなくても・・・
「ひぃーっひっひっひ・・・いいだろう。お前を馬鹿にしてやるよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「ありがとうございます」
うれしくなって私は思わず頭を下げる。
馬鹿の王様、ありがとうございます。

「それじゃいくぞ。深呼吸して馬鹿になりたいと念じるんだ」
「はい」
私は言われたとおりに深呼吸をして、馬鹿になりたいと心の中で念じる。
馬鹿になりたい・・・馬鹿になりたい・・・馬鹿になりたい・・・

「あ・・・れ?」
私・・・変わったのかな?
でも服もそのままだし、手も指先がひづめに変わった様子もないし・・・
全然変わった気がしないよ・・・

「うひっ・・・うひひひ・・・ひーっひっひっひっひ・・・」
またしてもけたたましく笑い始める馬鹿の王。
「ど、どういうこと? 馬鹿になってないんですけど・・・」
「ひーっひっひっひっひ・・・バーーーカ! 馬鹿になれるわけなんかないだろ」
意地悪そうに歯をむき出して笑っている。
「そ、そんな・・・嘘、嘘でしょ?」
「ひーっひっひっひ・・・ああ、嘘だよ。お前はだまされたのさ。この四月馬鹿様にな。ひーっひっひっひ」
「だまされた? 私、まただまされたの?」
私は呆然としてしまう。
まただまされたというの?

「ひーっひっひっひ・・・誰がお前のような小娘の願いなんか聞いてやるかっての。お前なんか俺様のしもべになれるわけが無いだろ。ひーっひっひっひ・・・ひ?」
私を見て笑っていた馬鹿の王の笑いが止まる。
「えっ?」
私は驚いた。
私の両手がみるみると茶色の毛が生えて馬のひづめのように変わってきたのだ。
これって?
私・・・馬鹿に変わってきている?

「バ、バカな! 俺様はこいつを馬鹿にするつもりなどないぞ! なのになぜお前は馬鹿に変わっていくんだ?」
馬鹿の王の驚きをよそに、私の躰はどんどん馬鹿に変わっていく。
服がぼろぼろと崩れ、肌には短い茶色の毛が生えてきて、鼻面が伸びて馬のような顔になっていく。
頭の両脇からは鹿のような大きな角が生え、足にもひづめが生えてくる。
こっちは先が二つに割れた鹿のひづめだ。
まさに私の躰は馬と鹿の融合した馬鹿になっていくのだ。

「し、しまったぁ・・・俺様は・・・俺様はなんてことをしてしまったんだ・・・俺様はこいつに馬鹿にしてやるという嘘をついた。それを信じたこいつは俺にだまされた。俺にだまされたことでこいつは馬鹿になってしまうのだ」
両手のひづめで頭を抱えている四月馬鹿様。
そうか・・・そういうことだったのね。
私がだまされたことで、私は馬鹿に変わるんだわ。
なんてうれしいのかしら。
最高の気分だわ。

「こいつが馬鹿になる・・・すると俺様はどうなる? 俺様は本当のことを言ってしまったことになる。嘘で人間をだまし馬鹿にしていく俺が本当のことを言ってしまったことになる・・・」
「四月馬鹿様。ありがとうございます。おかげで私は馬鹿のメスになることができました」
私は生まれ変わった自分の姿に満足し、思わずくるくると回ってしまう。
なんだかとっても気持ちがいいわぁ。
「うああ・・・やめろ、やめろぉ」
あれ?
どうしたのだろう?
四月馬鹿様が愕然としている。
生まれ変わった私を見て震えている?

「俺様としたことが・・・俺様としたことがぁ・・・本当のことを・・・本当のことを言ってしまった。俺様の存在意義が・・・存在理由がぁ・・・うああ・・・」
「四月馬鹿様?」
私の目の前で姿が消えていく四月馬鹿様。
「消える・・・俺様が消える・・・俺様が嘘じゃないことを言ってしまったからだ・・・うああ・・・」
「四月馬鹿様!」
頭を抱えながら姿が薄れていく四月馬鹿様。
そんな・・・
せっかく馬鹿のメスに生まれ変わってお仕えするつもりだったのに・・・
「うああ・・・」
「四月馬鹿さまぁ!」
私の叫びもむなしく四月馬鹿様は消えてしまう。
あとには何も残ってはいなかった・・・

                    ******

「ねえ、あなた。彼女が本当に風邪で寝ているだなんて思っているの?」
帽子をかぶってコートを着た私の突然の言葉にぎょっとする男性。
「はぁ? そ、そりゃそうに決まっているだろ」
「うふふふ・・・本当かしら? 今頃は別の男を部屋に引き込んでいると思うわよ。嘘だと思うなら見に行ってきたら」
「えっ? そ、そんな・・・」
私の言葉に男はいそいそと彼女の家へと向かっていく。
あはははは・・・
バーカ!
こんな他愛もない嘘にだまされちゃって。
彼女の家に行ったらだまされたことに気が付くでしょうね。
それにしても人間なんてもろいもの。
ほんのちょっとしたことで疑心暗鬼を生じちゃう。
なんて楽しいのかしら。
人間をだますのは最高。
馬鹿に生まれ変わって本当に良かったわぁ。
これも四月馬鹿様のおかげね。
私は来年の四月一日にまた四月馬鹿様が復活されることを夢見て、人間どもをたっぷりとだましまくろうと心に決めたのだった。

END
  1. 2013/04/01(月) 21:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿VS退魔師

今日は4月1日で「エイプリルフール」です。
というわけで三年連続の「四月馬鹿」ネタです。
楽しんでいただければうれしいです。

それではどうぞ。



「きゃぁぁぁぁ・・・」
闇の中で絶叫を上げ、青白い炎に包まれる妖怪。
短い茶色の毛の生えた躰に馬のような顔と鹿のような大きな角。
昔から日本では有名な妖怪だ。
名を「馬鹿(うましか)」といい、人をだますことに長けている。
普段はめったに姿を見せないが、毎年今頃になると人里に現れて悪さをするのだ。

そう・・・日付の変わった今日はエイプリルフール。
一年でもっとも嘘が・・・それも他愛のない嘘があちこちでつかれる日。
多くの人はだまされたりしないだろうけど、逆にだまされやすい日でもある。
普段は嘘をつかない人が、この日に限って嘘を言ったりするからだ。
そして純真な人ほど、そういった他愛もない嘘にだまされやすいもの。

馬鹿はその純真な人がだまされることが大好物。
中でも凶悪な「四月馬鹿(しがつうましか)」はだますだけではなく、相手を取り込んで配下の馬鹿にしてしまうことがある。
純真な人がだまされ嘆くのを楽しみながら、さらにその人を馬鹿に変えてしまうのだ。
馬鹿に変えられた人は、身も心も馬鹿となって新たに人をだますようになる。
そうやって四月馬鹿は配下の馬鹿を増やしていくのだ。

青白い炎が消えていく。
夜の闇が再び周囲を染めていく。
あとに残されたのは白い裸体を横たわらせた若い女性。
彼女も四月馬鹿によって馬鹿に変えられてしまった犠牲者なのだろう・・・
私はとりあえずかばんの中から布を出すと、彼女の躰にかけてから彼女を起こす。
偶然出会ってしまったから着せるものを用意していなかったのはやむをえない。
とはいえ裸で起こすわけにも行かないものね。

「う・・・」
女性が息を吹き返す。
閉じられた目が開いて、きょろきょろと周囲を見回した。
「こ・・・ここは? 私はいったい? ひゃっ!」
自分が裸で布一枚かぶせられているだけに気がついたのだろう。
「落ち着いて」
私はそっと小声で言う。
「落ち着いてください。あなたはちょっとしたトラブルに巻き込まれていたんです。これからあなたを近くの神社まで連れて行きます。おとなしくしてください」
「は・・・はい・・・」
こくんとうなずく女性。
何がなんだかわからないという表情だ。
今まで妖怪になっていたんだから無理もないわ・・・

                   ******

私は彼女を近くの神社まで連れて行き、身分を明かした上で彼女の保護を求めた。
私は退魔師。
古来から日本に潜む邪悪な魔性のものを退治するのが仕事。
その仕事柄神社とのつながりは深く、日本各地の神社は私たち退魔師にいろいろと協力をしてくれるのだ。

私は彼女から情報を探る。
どうやら彼女は昨年のエイプリルフールに馬鹿にされたらしい。
そこから後のことはあんまりよく覚えていないらしいが、人をだますのが楽しかったということだけは覚えているらしい。
後遺症が残らなければいいのだけど・・・

四月馬鹿のことは彼女はよく覚えてなかった。
とはいえ、彼女はまだ単独でうろつくには未熟なはず。
近くに四月馬鹿がいるのは間違いない。

私は彼女を神社に託して夜の街に再び出向く。
今日は4月1日。
これから残り23時間ほど。
この街を四月馬鹿から守りきらなくては・・・

                   ******

「つーかーれーたー」
私は公園のベンチに腰を下ろしてへたり込む。
すでにお日様は中天高く、もう少しで天頂に差し掛かるという時間。
ぽかぽかといい陽気に思わず眠気を誘われる。
桜はまだほとんど咲いていないけど、この分では週末には花が咲きそうだわ。

結局いまのところ見つけたのは夜中に出会ったあの馬鹿のみ。
今年はこの街が狙われるといっていたけど、お師匠様の勘が外れちゃったのかな。
今頃はどこか別の街で四月馬鹿が暗躍しているのかも・・・

「ん?」
私は公園から見える通りを歩いている人物に気がついた。
その人物はこの暖かな陽気だというのに黒いコートをぴっちりと着込み、つば広の帽子を目深にかぶっている。
なんだか怪しそうな人物だ。
背格好からはおそらく大人の男性っぽいけど、もしかしたら女性ということもありうるか。
コートの襟を立ててゆったりと歩いている。

私がちょっと気になって見ていると、その人物は、公園に遊びに来たのであろう女の子を見つけると何事か声をかけて呼び止めたようだった。
私はコートの人物は変質者かもしれないと思い、すぐに少女を助けに行けるよう立ち上がる。
そして足早に公園の外へと向かった。

コートの人物はその女の子に何事か話しかけている。
そのことは雰囲気でわかるものの、いったい何を言っているのかまではここからではわからない。
このあたりは閑静な住宅街で、ほかに人通りもない。
私はもしかしたらコートの人物が単に道を尋ねているという可能性もあると思いながらも、足を止めずにそちらへ向かった。

「そんなの嘘! 嘘でしょ!」
近づくにつれて女の子の声が聞こえてきた。
嘘?
あの子は嘘を言われている?
「嘘なものか。おじさんはちゃんと知っているんだよ。嘘だと思うならママに聞いてごらん。おじさんの言うことが正しいと教えてくれるよ」
「そ、そんな・・・」
二人の会話が聞こえてくる。
私は背筋が冷たくなるのを感じていた。
馬鹿だ・・・
このコートの人物は馬鹿に間違いない・・・

「君のママがおじさんの言葉は嘘だって言ったら、またこの公園においで。そのときはおじさん、嘘を言ったことをちゃんと謝ろう」
「嘘だもん。そんなことないもん。ママに聞いてくる」
くるりと背を向けて来た方向に向かって駆け出していく女の子。
私はとりあえずホッとする。
コートの人物がその場で少女を捕まえようとしなかったことに対してだ。
だが、このまま見過ごすわけには行かない。
私はコートの人物に近づいた。

「ちょっとあなた、すみませんが帽子を取っていただけますか?」
私はコートの人物に声をかける。
すると、コートの人物は帽子で顔を隠したまま、私のほうへと振り向いた。
「おや、こんなところで退魔師と出会ってしまうとはついてない。まさかこんな街にまであなた方がうろついているとは思いませんでしたよ」
「私が退魔師と知っている?」
間違いない。
こいつは馬鹿だ。
私はすぐさま身構えた。

「ええ、すぐにわかりますとも。先ほどからずっと俺のほうを見てましたしね。俺があの子に声をかけるとすぐに立ち上がった」
「それはあなたが変質者かもしれないと思ったからかもしれないじゃない」
「こんな昼間に巫女服姿で公園でたたずんでいるあなたの方がむしろおかしなコスプレネーチャンかもしれませんよ・・・ククク」
「言ってくれるじゃない。そろそろ正体を現したらどうなの、妖怪!」
私は懐に手をやり、いつでも破魔札を取り出せるように指に挟む。

「ククククク・・・あせるなよ退魔師のネーチャン。相手の正体を尋ねるからには、まず自分から名乗るのが礼儀というものだ」
小バカにしたような物言いでせせら笑っているコートの人物。
「クッ、わかったわ。私は三須美秋穂(みすみ あきほ)。あなたの言うとおり退魔師をしているわ。覚悟することね」
私は相手をにらみつけながら名乗りを上げる。
相手の言いなりになっているようで癪ではあるが、これから退治する相手に名乗っておくのも悪くない。
「ククククク・・・三須美秋穂ね。俺様は四月馬鹿。察しの通り妖怪だ」
黒コートの人物がゆっくりと帽子を取る。
思ったとおりその下からは鼻面の長い馬の顔が現れ、その頭部からは立派な鹿角が生えている。
いったいどうやってあの帽子の中に収めていたのか理解できないが、それこそが妖怪の妖怪たるゆえんだろう。

「やはり四月馬鹿だったのね。あの娘に嘘をついてだまそうとしたんでしょうけど、私がそうはさせないわ」
「ククククク・・・俺様はちょっとからかっただけだぜ。それを信じるのは相手の勝手だ」
鼻を鳴らすようにして笑う四月馬鹿。
「黙りなさい!」
私は破魔札を投げつける。
もとより当たることを期待したものではないが、まずはご挨拶というところ。
案の定、四月馬鹿は破魔札をかわし、羽織っていたコートを投げ捨てる。
私はコートに視界をさえぎられないように動きを変え、再び破魔札を投げつけた。

                   ******

四月馬鹿はその角で私を攻撃する。
私はそれをかわしながら念を込めた術を使い、四月馬鹿の足を止めにかかる。
何合かのぶつかり合いののち、私の一撃が四月馬鹿の脚部に衝撃を与え、相手の躰を地面にたたきつけた。

私はすぐに浄化の破魔札を取り出し、四月馬鹿の額に貼り付けようとする。
これで四月馬鹿も終わり。
穢れを祓って消滅させるのだ。

「ま、待った待った!! 待ってくれ!」
両腕のひづめを私に向けて私を押しとどめようとする四月馬鹿。
「勝負あったわ。おとなしく浄化を受けなさい!」
「待ってくれって・・・俺様の負けだ。あんたつえーよ・・・」
素直に負けを認める四月馬鹿。
地面に横たわりもう身動きもできないようだ。
何度かのぶつかり合いがかなり堪えているのだろう・・・
「負けを認めたのならおとなしく浄化を受けなさい。そうすればいずれは転生ができる可能性があるわ」
「わかった。わかったよ。浄化を受けるよ。だが、少し待ってくれ」
「待ってくれ? 何を言っているの? 待てるはずないでしょう」
私は驚いた。
いったい何を言い出すのやら。

「わかってる。わかっているが、そこを曲げて待ってくれないか? 俺様は名の通り四月馬鹿だ。いわばエイプリルフールの妖怪ってわけだ。人をだましてバカにするのが俺様の性分だ・・・」
「ええ、あなたのためにエイプリルフールを素直に楽しめない人たちが出てしまうのよ」
「もうしない。もうしねーよ。だからだ。せめて今日一日が終わるまで浄化は待ってくれ」
「今日一日?」
私は浄化の破魔札を少しおろす。
「そうだ。今日は俺様の日だ。この4月1日に俺様が浄化されたんじゃ俺様の気がおさまらねぇ。せめて明日の日付に変わってから浄化してくれないか」
私を見つめて拝むようにして懇願してくる四月馬鹿。
確かに、今日4月1日はこの四月馬鹿にとっては特別な日なのかもしれない・・・

「本当に明日になれば浄化を受けるんでしょうね」
「もちろんだ。信じてもらってかまわない。なんだったら明日になるまで俺様をどこかに閉じ込めたっていい」
「ふう・・・」
私はため息を付く。
「仕方ないわねぇ。絶対に明日には浄化するからね」
私は捕縛の破魔札を取り出そうとした。

「えっ?」
私は驚いた。
破魔札を取り出そうとした私の手は、指先がなくなってまるで馬のひづめのようになっていたのだ。
「こ、これは?」
私はあわてて四月馬鹿を見た。

「ク・・・クク・・・クハ・・・クハハハハハハ・・・」
突然狂ったように笑い転げる四月馬鹿。
「信じたな! 信じちまったな!! 俺様の言葉をよ!! クハハハハハハ・・・」
私はハッとした。
そうだ・・・
私は信じてしまったのだ。
相手の嘘を・・・
明日まで待ってほしいと言った四月馬鹿のついた嘘を・・・

「だ、だましたのね!!」
「あーそうさ。俺様はお前をだましたのさ。そしてお前はまんまと引っかかったってわけだ。お前はおろかな馬鹿になるのさ」
「嘘・・・そ・・・そんな・・・」
だが、それはもう嘘ではなかった。
私の躰はじょじょに馬と鹿のかけ合わさったような躰に変化し始め、両手も両足もひづめのように変化してしまっていた。
巫女服はぼろぼろに破れ、全身には茶色の短い毛が生え、鼻先は前に伸びて頭のてっぺんからは鹿の角が生えてくる。
「ああ・・・ああああ・・・」
私は全身をかき抱くようにして何とか変化をとめようとしたが、もはやそんなことは無駄だった。
それどころかなんだかとっても開放されたような気分になってきていたのだ。

馬でも鹿でもない馬鹿。
人間たちはそんな私たちを見て馬だろうか鹿だろうかと混乱する。
おろかな連中・・・
私たちは馬でも鹿でもないのにどっちかに結び付けようとしてかえって混乱するバカな連中・・・
そんな連中をたぶらかすのはきっと気持ちがいいに違いないわ。
おろかな連中だから、きっと私たちが何を言っても信じたり疑ったりして疑心暗鬼を生じるだろう。
そして右往左往して無様な姿を見せてくれるに違いないわ。
あー、なんて素敵なのかしら。
人間どもをたぶらかすのは最高の楽しみ。
それこそが私たち馬鹿の喜びなんだわ。

「ククククク・・・これでお前も俺様のしもべ。妖怪馬鹿に生まれ変わったのだ」
痛めた足をかばうようにゆっくりと立ち上がる四月馬鹿様。
「はい。私は四月馬鹿様の忠実なるしもべ、妖怪馬鹿です」
私はすぐさまひざまずいて偉大なる主である四月馬鹿様に一礼する。
「ククククク・・・いいぞ。それでいい。これからはお前もたっぷりと人間どもをたぶらかすのだ」
「はい、もちろんです。人間どもにこの姿を見せつけて馬か鹿か存分に惑わしてやりますわ。うふふふふ・・・」
私は四月馬鹿様の下でおろかな人間どもをたっぷりとたぶらかしてやることを想像し、その喜びに身悶えた。

END
  1. 2012/04/01(日) 21:00:00|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿再び

一年ぶりのご無沙汰でした。
あの「四月馬鹿」が帰ってまいりました。(笑)
(タイトルクリックで過去作品に飛べます)

今回も怪しさ大爆発で一人の女性を狙ってます。
その活躍ぶりをよろしければごらん下さいませ。

それではどうぞ。


「クククク・・・お子さんを連れてお散歩ですかな?」
「は、はあ・・・」
誰、この人?
変になれなれしく声をかけてくるなんて・・・
私は無意識に息子を背中側においてカバーする。

それにしても不気味な人。
うちの近所にこんな人いたかしら?
もう春だというのに黒いコートを着て暑苦しいし、幅広のつばの帽子を目深にかぶっているから顔も見えやしない。
関わらないに越したことはないわね。

「それじゃ先を急ぎますので」
私は愛想笑いをしてその場を逃れようとする。
「孝弘(たかひろ)、行きましょう」
「クククク・・・今頃家では旦那さんが女を引き入れているころですかな?」
息子の手を引いてコートの男に背を向けたとき、背後からの言葉が私の足を止めてしまう。
「えっ?」
私は思わず振り返った。
夫が・・・明弘(あきひろ)さんが女を引き入れるですって?

私は足を止めてしまった自分に苦笑する。
そんなことあるわけがないわ。
明弘さんは私をとても愛してくれているし、孝弘の子育ても面倒見てくれるとてもいい人。
女がいるなんてありえない。

「どなたか知りませんけど、変なこと言わないでください。主人が女を引き入れるなんてありえ・・・」
「ありえませんかな? 本当に? あなたは夫をそこまで信用できるのですか?」
帽子のつばの影から見える男の口元に笑みが浮かぶ。
一体この人は何なの?
もしかして・・・
もしかして浮気調査の探偵さんとか?

「あなたの行動は実にわかりやすい。平日はいつもこの時間に子供を連れて散歩している。それは平日が休みのご主人がいても変わらない。そしていったん散歩に出れば、今日のように天気がうす曇りであれば一時間は戻らない。ほら、女を引き入れるには条件がそろっているではありませんか」
そ・・・そんなこと・・・
そりゃあ、いつも散歩はこの時間だし、今日みたいに風が気持ちいい日は一時間ぐらいゆっくりしちゃうけど・・・
にわか雨が降ってきて突然家に帰ることだってあるし、天気がよすぎても紫外線防止のために早めに帰るようにしているから、いつも一時間外にいるわけじゃないわ。
でも・・・
でも・・・
私が出かけた後で誰か呼んでいたりしたら・・・
誰か呼んでいたり・・・したら・・・

「嘘・・・嘘ですわ。あの人に限ってそのような・・・」
「あの人に限って。浮気される人はみんなそのように言うのです。そして知らないところで裏切られる。嘘だと思うなら突然帰ってみるといい。ご主人が誰と一緒にいるのか確かめてみなさい」
「そうさせてもらいます。あなたの言うことなんか絶対嘘に決まっているんだから」
私は孝弘の手を引いて急いでかえろうとする。
「ククククク・・・もし私の言うことが嘘だとわかればお詫びしましょう。あそこの公園におりますので来てください」
黒コートの男が公園を指差す。
「そうさせてもらいます。絶対謝ってもらうんだから」
私はそういって孝弘の手を引く。
「ママ、痛いよ」
「ごめんね。今日はもうお散歩はおしまいなの。急いでパパのところに戻りましょうね」
私は必死で胸騒ぎを抑えながら、夫の待つ我が家へと向かうのだった。

「ただいま! パパ、パパッ!」
玄関に入るなり私はたたきの上の靴を見る。
よかった。
私以外の女物の靴はないわ。
私は念のために下駄箱も開けてみるが、見慣れた自分の靴だけだった。

「お帰り。今日は早かったね」
居間から明弘さんが姿を見せる。
あくびをしているところを見ると、昼寝をしていたのかしら。
もしかして起こしちゃった?
「パパァ」
「孝弘お帰り。お散歩は楽しかったかい」
笑顔で孝弘を抱き上げる明弘さん。
うん・・・
大丈夫。
浮気なんかしていない。
明弘さんは浮気なんかしていないわ。

「変な人がいたよ」
「変な人?」
孝弘がさっきの男のことを言っている。
「うん、真っ黒な服着てたよ。ママとお話してた」
「そうなの。ねえパパ聞いて、私とんでもないこと言われたのよ」
なんだかもう誰もいなくてホッとしたような、変なこと言われて気にしてしまったのが悔しいやらで、話さずにはいられないわ。
「とんでもないこと?」
「ええ、その男が今すぐ家に帰ってみろ。夫が女を引き入れているはずだって・・・」
「へ? 女を?」
明弘さんの目が点になっている。
この反応はまったく予想外のことを言われたときの反応だわ。
やっぱり明弘さんは浮気なんかしていない。
間違いないわ。

「もしかして、それですぐに帰ってきたのかい?」
「だってぇ・・・もしかしたらって思ってしまったんだもの・・・」
もう・・・
どうして私ったら疑ってしまったのかしら。
明弘さんが浮気なんかするはずないのに・・・
「そんなわけないだろ。バカだな。ママ以外僕を相手にしてくれる人なんていないし、僕にはママだけだよ」
孝弘を下ろして私を抱きしめてくれる明弘さん。
あん・・・
うれしい・・・
そろそろ二人目もほしいわね。

って、それどころじゃないわ。
もう・・・
あの男、赦さないんだから。
私をこんなに疑心暗鬼にさせておいて、そのままだなんて赦せない。
嘘だったらお詫びするって言ってたわ。
絶対お詫びしてもらうんだから。
こうしちゃいられないわ。

「おい、どこに行くんだ?」
「孝弘をお願いね、パパ。私ちょっと公園に行ってくる」
私は明弘さんに孝弘を預け、そのまま玄関に走り出す。
「お、おい、ママ! 香織(かおり)!」
「すぐ戻ってくるわ」
私はサンダルを履いて家を飛び出した。

「もう・・・もう・・・もう・・・」
むしゃくしゃする。
あんな一言で明弘さんを疑ってしまうなんて・・・
いいえ、疑わせるように仕向けたあの男が悪いのよ。
絶対文句を言ってやるんだから。

私は公園までやってくると、あの男を捜す。
いた。
ベンチに座っている。
黒い幅広つばの帽子に黒いコート。
間違いないわ。

「ちょっとあなた」
私は歩み寄って声をかけた。
「クククク・・・誰かと思えばさっきの母親か」
首を小さく上に向けてこっちを見る男。
だが、帽子のつばにさえぎられてその目を見ることはできず、口元の薄ら笑いだけが見えている。
なんなの、こいつは?
私は無性に腹が立つ。
「あなたねぇ。主人が女を引き込んでいるなんて言ってどういうつもり? あなたのせいで私は散歩も途中で切り上げて帰るはめになったのよ」
私は男をにらみつける。
「おや、女を引き込んではいませんでしたか?」
「主人が女を引き込むなんてあるわけないでしょ! どうしてそんな嘘をついたの! 私をだましたんでしょ! 赦さないんだから!」
「ほう、赦さない・・・ふふふ・・・ふはははは・・・」
男が突然笑い始めた。
「な、何がおかしいの! 人をだましておいて!」
「ははははは・・・そうさ。俺はだましたのさ。そしてお前はまんまと俺の嘘にだまされたというわけだ」
くぅ・・・
悔しい・・・
しっかりとだまされちゃったんだわ。
「し、仕方ないでしょ。あんなこと言われたら誰だってまさかって思うわよ・・・」
「ククククク・・・いいや違うな。だまされたのはお前がバカだからだ」
「な、何ですって!」
言うに事欠いてバカですって?

「そうさ。お前はバカだ。俺様の嘘にだまされたバカなんだよ」
「バカバカうるさいわね。あなたいったい何なの! 顔を見せなさいよ!」
私がそう言うと男が立ち上がって帽子を取る。
「えっ? 嘘・・・」
私は思わず息を飲む。
そんな・・・
口元は人間みたいに見えたのに・・・

帽子を取った男の顔は競馬中継や時代劇などで見慣れた馬の顔だった。
そして頭には立派な鹿の角が生えている。
えっ?
馬なの?
鹿なの?
いったい何なの?

「ククククク・・・これが俺様の正体だ。馬と鹿の合わさった妖怪でな。名を四月馬鹿(しがつうましか)という」
「四月・・・馬・・・鹿・・・」
私は目の前で起こっていることが信じられなかった。
帽子を持つ男の手はひづめとなり、コートを脱いだ下には茶色の毛で覆われた躰があったのだ。
「嘘・・・ば、化け物・・・」
「ククククク・・・違うなぁ。化け物ではなく馬鹿者だ。そして俺様にだまされたお前も馬鹿者になるのだ」
突然私の周囲が暗くなる。
公園だった周りは漆黒の闇に覆われてしまう。
「えっ? こ、これは・・・」
私は周囲を見渡す。
闇だけで何も無い。
ブランコも鉄棒もベンチも樹木も何もない。
入ってきた入り口さえもなくなっている。
「いや・・・いやぁっ」
私は逃げ出したかった。
こんなのは夢だわ。
悪夢よ。

「ククククク・・・恐れることはない。お前は俺様のしもべとなるのだ。この四月馬鹿に仕える妖怪馬鹿(うましか)になるがいい」
四月馬鹿の目が赤く輝く。
「ひっ!」
私の手が・・・
私の手がひづめに変わっていく。
「いやっ! いやぁっ!」
服がぼろぼろに破け、私の躰が茶色い毛で覆われていく。
「助けてぇっ! 明弘さん! 孝弘ぉ! 誰か助けてぇっ!」
私はその場にへたり込んでしまう。
顔を覆った手のひらも、みるみるひづめになってしまい、サンダルが脱げた足も先が割れたひづめに変化する。
「泣き喚いても無駄だ。お前はもう馬鹿になるのだ」
四月馬鹿がニヤニヤ笑っている。
ああ・・・
そんな・・・
私も馬鹿になってしまうの?
そんなのいやよぉ・・・

鼻面が伸びていく。
頭からは角も生えてきた。
なんだかもうわけがわからない。
私はメスなんだけど、角があってもいいのかな・・・
そんなことまで考えちゃう。
うふふふ・・・
なんだろう・・・
何でさっきはあんなに悲しかったのかしら。
悲しいことなんか何も無いのに。
私は馬鹿なんだから、四月馬鹿様にお仕えしていればいいだけなのに。

「ククククク・・・どうやら変化は完了したようだな。さあ立つがいい。これでお前は俺様のしもべ。妖怪馬鹿になったのだ」
「はい、四月馬鹿様。私は妖怪馬鹿。四月馬鹿様の忠実なるしもべです」
私は立ち上がって四月馬鹿様に一礼する。
ああん・・・なんて素敵なんだろう。
私は馬鹿。
四月馬鹿様の忠実なるしもべ。
馬と鹿が融合しているなんてこれ以上ないぐらいすばらしいわ。
これなら馬と鹿を混同する馬鹿をもっと増やすことができるわね。

「ククククク・・・先ほどまで夫の浮気を疑ったことで俺様に食って掛かった女とは思えんな」
「ああん・・・四月馬鹿様ぁ、私にはもう夫も子供も関係ありませんわぁ。今の私はもう身も心も四月馬鹿様のもの。馬鹿のメスとして可愛がってくださいませぇ」
私はたくましいオスである四月馬鹿様に精一杯の媚を見せる。
ああん・・・
たまらないわぁ。
四月馬鹿様のたくましい胸に抱かれたいわぁ。
あん・・・そのことを思っただけで濡れてきちゃう。

「クククク・・・それでいい。今日はエイプリルフール。たくさんの嘘でおろかな人間どもを馬鹿にするのだ。そうすれば・・・」
四月馬鹿様が私の肩を引き寄せ、耳元でささやかれる。
「あとでたっぷりと可愛がってやる」
「ああ・・・はい。お任せくださいませ。私の嘘でおろかな人間どもをたくさん馬鹿にしてやりますわぁ」
私はこれからどんな嘘をつこうかとわくわくしながら、四月馬鹿様のために働くことを誓うのだった。

END
  1. 2011/04/01(金) 20:48:44|
  2. 四月馬鹿
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四月馬鹿

今日の日付に合わせてこんなものを書いちゃいました。
二時間ほどででっち上げたものですので拙いものですが、楽しんでいただけるとうれしいです。


「こんにちは、お嬢ちゃん」
学校から家に帰る途中、あたしはそう声をかけられた。
「おじさん、誰?」
もう春だというのに黒いコートを着て帽子をかぶっている。
怪しい人だ。
先生も怪しい人に声をかけられたり、連れて行かれそうになったら、すぐに周りの人に助けを求めなさいって言ってた。
だからあたしはすぐにでも大声を上げて逃げられるように身構える。
「おっと、怪しい者じゃないよ。ただお嬢ちゃんに大事なことを教えてあげようと思ってね・・・」
「大事なこと?」
なんだろう・・・
聞くだけなら聞いてもいいかなぁ。
「そう、大事なこと。知らないととっても困っちゃうことだよ」
黒コートのおじさんはじっとあたしを見てくる。
その目はなんだか吸い込まれそう。
「大事なことってなんですか?」
あたしは思い切って聞いてみた。
知らないと困っちゃうんだもん、知っておかなきゃ。

「それはね。今年はクリスマスがなくなっちゃうんだよ」
「えっ?」
あたしは驚いた。
クリスマスはまだまだずっと先だけど、今年はクリスマスがなくなっちゃうなんて・・・
「嘘、嘘でしょ!」
「さあ、どうかなぁ。おじさんの言うことが信じられないかい?」
黒コートのおじさんがにやりと笑う。
あたしはなんだかおじさんの言うことが本当のような気がして悲しくなる。
去年のクリスマスはお父さんとお母さんとお姉ちゃんとみんなで楽しくケーキを食べたのに・・・
今年はもうできなくなるんだ・・・
そんなのいやだよう・・・

「おじさんの言うことが信じられないなら、ママに聞いてごらん? おじさんは公園にいるからおじさんの言うことが嘘だったら公園においで。おじさんがちゃんと謝ろう」
あたしはすぐに家に向かって走り出す。
あんなおじさんの言うことは嘘に決まっている。
クリスマスにはプレゼントがもらえるのに・・・
美味しいケーキも食べられるのに・・・
嘘に決まっているよね。

「ただいまー! お母さぁん」
あたしは家に飛び込むと、カバンを置いてすぐにお母さんを探し出す。
おじさんの言ったことを確かめなくちゃ。
「お母さぁん」
「あら、お帰りなさい美帆(みほ)」
お母さんは台所でおやつを作ってくれていた。
今日は大学芋だ。
甘い香りがするよ。
でも、今のあたしにはおじさんの言葉のほうが気になった。
「お母さん、今年はクリスマスがなくなるって本当?」
「えっ? クリスマス?」
ぽかんとするお母さん。
なんだかわかってくれなかったのかな?
「学校の帰りに言われたの。今年はクリスマスはなくなるって・・・」
するとお母さんはちょっと笑った。
「うふふ・・・誰に言われたの? 引っかかっちゃったのね。今日はエイプリルフールよ。美帆は嘘を言われたの。クリスマスがなくなったりはしないわ」
「エイプリルフール?」
「そう。今日は4月1日だから、嘘をついてもいい日なの。美帆は嘘を教えられたのよ」
「じゃあ、クリスマスは?」
「大丈夫よ。ちゃんと今年もあります」
お母さんが断言してくれる。
よかったぁ。
やっぱり嘘だったんだ。
それにしてもひどいよ。
あたしは本当にクリスマスがなくなると思ってすごく悲しかったんだから。
おじさんに謝ってもらわなきゃ・・・
「ちょっと公園に行ってくるね」
「えっ? ちょっと、美帆?」
あたしはもうおじさんに絶対謝ってもらうつもりで家を飛び出した。
いくらエイプリルフールだからってひどいよ。

「おじさん!」
あたしは公園のベンチに座っている黒コートのおじさんに声をかけた。
「おや、さっきのお嬢ちゃんか」
おじさんはあたしを見て笑っている。
むう・・・
赦せない。
あたしは本当に悲しかったんだからね。
「おじさん! クリスマスがなくなるなんて嘘でしょ。お母さんがエイプリルフールだって。嘘を言われたんだって」
「ふふふ・・・」
「何が可笑しいの? 嘘だったんだから謝って!」
あたしはおじさんに近寄った。
ちゃんと謝ってもらわなきゃ。
「ふはははは・・・どうやらお嬢ちゃんは俺にだまされたようだねぇ」
「笑わないで。もしかしたらって思ったんだから」
「ふふふふふ・・・うれしいよお嬢ちゃん。最近はなかなか引っかかる子がいなくてねぇ」
なんだろう・・・
なんだか怖くなってきた。
あたし・・・知らないおじさんといっしょにいる・・・
大変・・・逃げなきゃ・・・
あたしは振り向いて走り出そうとした。
でも、躰が動かない。
何で?
どうして?

「ふふふふふ・・・無駄だ。お前はもう俺に魅入られたのさ。この俺様にな」
周りが急に暗くなる。
世界が急におじさんと私だけになったみたい。
どうしよう・・・
怖いよぉ・・・
どうしよう・・・
「俺様は四月馬鹿(しがつうましか)。人間どもをたぶらかすのが俺の仕事さ」
おじさんがゆっくりと帽子を取る。
すると、どうやって帽子の下に隠れていたのかわからないけど、大きな鹿の角が生えていた。
顔はいつの間にか馬のような顔になっている。
帽子を持つ手も馬のひづめのようになっていた。
「ククククク・・・これが俺の正体さ。馬と鹿の合わさった妖怪。それが俺様四月馬鹿だ」
「四月・・・馬鹿・・・」
あたしは恐ろしさに声も出ない。
黒いコートを脱いだおじさんは、茶色の毛に覆われて馬の頭に鹿の角を生やしたお化けだったのだ。
足が動かない・・・
逃げたいのに逃げられない。
お母さん。
助けてお母さん。

「ククククク・・・恐ろしさに声も出ないか? 心配するな。別にお前をとって食おうというわけじゃない。俺様にだまされたお前はバカだ。だからバカは馬鹿(うましか)に生まれ変わるのさ。ぐはははは・・・」
腹を抱えて笑っている四月馬鹿。
でもあたしにとっては笑い事じゃない。
馬鹿に生まれ変わる?
あたしがあたしじゃなくなっちゃうの?
そんなのいやだよぉ。
「いやだぁ。あーん」
あたしは恐ろしさと悲しさで泣き出してしまった。
普段は泣かないようにしていたんだけど、もう泣くのを止められなかった。

「クククク・・・泣いたって無駄さ。見ろ。お前はじょじょに馬鹿になっていくんだ」
四月馬鹿が言ったとおりだった。
あたしの手がだんだん馬のひづめのようになっていく。
「いやだぁっ! お願い、助けてぇっ! お母さぁーーん!!」
あたしは必死に叫ぶ。
でも変化は止まらない。
服がぼろぼろに崩れ、その下からは茶色の毛に覆われたあたしの裸が出てきた。
そんなぁ・・・
こんな毛に覆われた躰なんてやだよぉ・・・
脚も茶色の毛に覆われ、つま先がひづめに変わっていく。
こっちは鹿と同じく二つに割れたひづめだ。
ああ・・・
あたしは馬鹿になっちゃうんだ・・・
もう人間じゃなくなっちゃうんだ・・・
鼻先が長くなり、なんだか馬のようになっていく。
頭の両側からは角が生えてくる。
あたしはもう泣くのをやめた。
だって、何で泣いていたのかわからなくなってきたんだもん。
あたしは馬鹿。
馬鹿だから何も考えられない。
ただ、四月馬鹿様に従っていればいいんだ・・・

「クククク・・・これでお前は俺のしもべ。妖怪馬鹿になったのだ」
「はい。あたしは馬鹿。四月馬鹿様の忠実なるしもべです」
あたしはご主人様に跪く。
馬鹿族の中でも四月馬鹿様は最高位の妖怪だ。
あたしはその方のしもべであることがうれしかった。
「クククク・・・それでいい。今日はエイプリルフール。他にも馬鹿を増やさねばならん。お前も仲間を増やすがいい」
「かしこまりました。あたしの力で人間どもを馬鹿にしてやります。たくさん馬鹿を増やしてやります」
うふふふ・・・
そうよ。
今日はエイプリルフールじゃない。
たくさん馬鹿が生まれる日。
あたしと同じく馬鹿に生まれ変わるのよ。
まずは秋奈(あきな)ちゃんがいいかなぁ。
彼女はとっても優しいから、すぐに人を信じちゃうの。
きっと馬鹿にはふさわしいわ。
まずは彼女を馬鹿にしちゃおうっと。
あたしは仲間を増やすのを楽しみにして、四月馬鹿様の前から下がるのだった。

END
  1. 2010/04/01(木) 21:36:03|
  2. 四月馬鹿
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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