四日間連続投下してまいりました250万ヒット記念SS「科学主任穂純」も、今日が最終回です。
穂純の堕ちっぷりを堪能していただければうれしいです。
どうかお楽しみくださいませ。
4、
「とりあえずはめてみなさい。文句は後で聞くわ。もっとも、文句なんて言わないと思うけど・・・」
ホズミの言葉に仕方なく三人はブレスレットを手に取ると、今まではめていたおしゃれな感じの片手用ブレスレットを左手からはずしていく。
今ひとつ納得いかないような表情を浮かべつつも、三人はそれぞれ両手に黒革にトゲのついたブレスレットをはめた。
「それじゃいくよ」
早智恵の言葉に美愛と佳乃がうなずく。
「「「装着!!」」」
三人の声がハーモニーとなり、それぞれの躰を光が包む。
最新の転送技術が強化スーツであるガーズスーツを転送し、三人の少女たちの周囲に送りこんでくる。
ガーズスーツはすぐさまそこで実体化し、三人の躰を覆うことで、三人はテラズガーズへと変身するのだ。
「装着完了って・・・えええー?」
装着し終わったガーズスーツに思わず早智恵は声を上げてしまう。
「な、何ですの、これは?」
「こ、これはいったい・・・」
美愛も佳乃も驚きを隠せない。
それもそのはず、彼女たちが身にまとったガーズスーツは、今までのガーズスーツとはまったく違うデザインだったのだ。
今までのガーズスーツは赤、青、黄色の三色をベースに白が一部取り入れられたもので、全身を覆うスーツにミニスカートが付き、ブーツと手袋、それにヘルメットが組み合わされるものだった。
それが今彼女たちが身に着けているのは、漆黒を基調としたものにほんの申し訳程度に赤、青、黄色が配色されたもので、デザインも大幅に変わっている。
膝上までの黒革のブーツはピンヒールタイプになっており、太ももの部分は網タイツになっている。
手袋はひじまでの長さの長手袋になっていて、手首のところには変身前と同様にトゲの付いたブレスレットがはまっている。
胴部は胸元の開いた黒いレオタードになっており、腰にもアクセントとして金属のトゲの付いたベルトが巻かれていた。
背中には小さなコウモリ型の羽があり、頭部のヘルメットは魔物が口をあけたようなデザインとなっていて、そのあいた口の部分がバイザーになっている。
魔物はそれぞれが微妙に異なってはいるものの、総じて瞳の細長い不気味な目をしており、邪悪な感じを漂わせていた。
「ほ、穂純博士、これは何なんですか?」
「いったいどうしてこんな・・・」
「これじゃまるで悪魔のようです。テラズガーズにふさわしいとはとても・・・」
三人は自分とほかの二人の衣装を見比べ、それぞれが同じような漆黒のスーツであることに驚いていた。
「うふふふ・・・よく似合っているわよ。お前たちの任務にぴったりだわ」
ホズミが笑っている。
「穂純博士!」
「任務って・・・こんな胸が開いたような格好は恥ずかしいですわ」
「これじゃまるで私たちのほうが邪悪な感じがするじゃないですか」
三人は次々に不満と疑問を口にした。
「お黙りなさい。これからはそういった威圧的な衣装のほうが都合がいいのよ。弱い上におろかな地球人でも、これなら自分たちの置かれた立場に気が付くでしょう。お前たちは今日から我ら神聖帝国のインペリアルソルジャーとして地球人を支配する尖兵となるのよ」
腕組みをして冷たい笑みを浮かべているホズミ。
「インペリアルソルジャー?」
「地球人を支配って?」
「な、何を言っているんですか穂純博士? それじゃまるで私たちが神聖帝国に仕えるみたいじゃないですか」
三人は何が何だかわからない。
いったい穂純博士は何を言っているのだろう・・・
「ええ、そうよ。お前たちには今日から神聖帝国の一員になってもらうわ」
「ば、バカなことを言わないでください」
「そうです。いくらなんでも冗談にしては性質が悪すぎます」
「私たちが神聖帝国の一員になるなんてありえません!」
思わず佳乃はヘルメットを脱ぎ捨てようとした。
こんなスーツは着ていられない。
冗談にしてもひどすぎる。
それとも、穂純博士は自分たちの地球を護るという気持ちを試すつもりなのだろうか・・・
「あれっ? 脱げない・・・」
ヘルメットが脱げないことに気が付く佳乃。
「えっ?」
あわてて早智恵も美愛もヘルメットを脱ごうとするが、やはり同じように脱げなかった。
「これは?」
「ど、どうして?」
戸惑う三人。
今までのスーツは着用していた状態でも、ヘルメットを脱ぐことはいつでもできたのだ。
「無駄よ。そのスーツはこちらが解除しない限り脱げないわ。うふふふふ・・・」
「は、博士・・・」
「ど、どうしてしまったんですか、博士?」
「わ、私たちをどうするつもり?」
穂純博士の異様さに恐怖を感じる三人。
「言ったでしょ。お前たちは神聖帝国のために働くインペリアルソルジャーになるの。今からお前たちをそのように洗脳してあげる」
「せ、洗脳?」
「私たちを洗脳?」
「や、冗談はやめてよ。そんなことできるはずが・・・」
思わず一二歩後退る三人。
今はもう目の前の穂純博士がまったく理解できない化け物のような気がしていた。
「うふふふふ・・・それができるのよ。そのヘルメットには洗脳装置が仕掛けてあるの。私がスイッチを入れればその洗脳装置が働くわ」
「せ、洗脳装置?」
「ど、どうしてそんなものが?」
「うふふふふ・・・私がワゼック様のために作ったの。ワゼック様はその装置で私を洗脳してくださったわ。今では私はワゼック様と神聖帝国の忠実なるしもべなのよ。うふふふふ・・・」
不気味に笑うホズミ。
三人の背筋が凍りついた。
「なるほど・・・そういう趣向であったか」
奥の扉が開き、スーツ姿の男が入ってくる。
「だ、誰?」
とっさに身構えるテラズガーズの三人。
「あら、もう出ていらっしゃったのですかワゼック様? 私のほうから呼びに伺いましたものを」
入ってきた神能姿のワゼックに微笑むホズミ。
「わ、ワゼック?」
「ワゼックだって?」
三人が驚く。
まさか神聖帝国の大幹部であるワゼックがここにいるなんてありえないはずなのに・・・
「ええ、そうよ。この方こそ偉大なる神聖帝国の皇子ワゼック様。お前たちのご主人様になられるお方よ」
ホズミが入ってきたワゼックを紹介する。
「ククククク・・・直接的にはお初にお目にかかる、テラズガーズの三人よ。それにしてもなんとも魅力的なコスチュームではないか。わがしもべにふさわしい」
スーツ姿を解き、漆黒の鎧姿に戻るワゼック。
彼がこの状況を楽しんでいることは、その冷たい笑みを浮かべた表情からも明らかだった。
「クッ、プリムラ! 早く非常ベルを!!」
「わかった!」
基地内に異常を知らせる非常ベルを押そうと、すばやく壁のスイッチに向かおうとする早智恵。
それをガードするように美愛と佳乃が身構える。
「無駄よ」
ホズミが手元のスイッチを押す。
とたんに三人のヘルメットに電磁パルスが走り、三人はその場に頭を抱えてくず折れた。
「うあぁぁぁぁぁ・・・」
「きゃあぁぁぁぁぁ・・・」
「うわあぁぁぁぁぁ・・・」
三人の絶叫が響き渡る。
全身を貫くような苦痛が彼女たちを襲っているのだ。
その中でパルスがじっくりと彼女たちの脳に突き刺さり、心を歪めていくのである。
「うふふふふ・・・ワゼック様、どうぞ」
ホズミがマイクを渡す。
このマイクで三人に暗示をかけるのだ。
最初は自分でやろうと考えていたホズミだったが、こうしてワゼックが姿を現した以上、彼に三人を洗脳してもらうほうがいいと思ったのだ。
「ククククク・・・お前たちよ、よく聞くのだ。お前たちは神聖帝国の忠実なるしもべ」
ワゼックがマイクに向かって話しかける。
その声は洗脳装置となった三人のヘルメットを通して、三人の脳に刻み込まれていく。
「うあぁぁぁ・・・わ、私は・・・神聖帝国の・・・」
「あああ・・・し、神聖帝国の・・・しもべ・・・」
「ち、違う・・・しもべなんかじゃ・・・」
床に転がりもだえ苦しむ三人の少女たち。
みな頭を抑えて必死に刷り込みに耐えていた。
「ククククク・・・苦しむことはない。お前たちは神聖帝国の一員。弱きものを支配する尖兵、インペリアルソルジャーなのだ」
「私たちは・・・ああ・・・ち、違う・・・神聖帝国の・・・一員・・・一員・・・神聖帝国の一員・・・」
「私たちは弱きものを支配なんて・・・支配・・・支配・・・支配する・・・」
「や、やめてぇ・・・私たちを洗脳しないでぇ・・・私たち・・・インペリアル・・・ソルジャー・・・私たちはインペリアルソルジャー・・・」
「そうだ。お前たちは神聖帝国のインペリアルソルジャー。力こそがすべて。弱きものには死か服従を」
「私たちは・・・インペリアルソルジャー・・・」
「力こそが・・・力こそがすべて・・・」
「弱きものには・・・弱きものには死か・・・服従を・・・」
ワゼックの言葉を無意識的に繰り返すようになっていく三人。
じょじょにその声はうつろになり、苦しんだ様子も治まってくる。
「ククククク・・・いい感じになってきたようだな。お前たちは神聖帝国のインペリアルソルジャー。皇帝陛下に忠誠を誓い、俺とホズミに従うのだ。そして弱きものを支配するがいい」
「私たちは神聖帝国のインペリアルソルジャー」
「皇帝陛下に忠誠を誓い、ワゼック様とホズミ様に従います」
「弱きものを支配し、服従させます」
ワゼックの言葉が三人の脳に焼き付けられ、三人の思考は変わってしまう。
もはや苦痛はなく、ただ、ワゼックの言葉を繰り返すのみであった。
「さあ、立ちなさい、インペリアルソルジャーたち」
ホズミの命令にゆっくりと立ち上がる三人の少女たち。
バイザーの下から覗く口元には、冷たい笑みが浮かんでいる。
「うふふふふ・・・言葉による暗示とともに、わが神聖帝国に必要な冷酷さも送り込んであげたわ。もうお前たちは地球を守るテラズガーズではなく神聖帝国のインペリアルソルジャー。そうよね?」
「はい。私たちは神聖帝国にお仕えするインペリアルソルジャーです」
「皇帝陛下に永遠の忠誠を誓い、ワゼック様とホズミ様の命令に従います」
「力こそがすべて。弱きものには死か服従を」
直立不動の姿勢で答える三人の少女。
ワゼックとホズミに対する忠誠心を植え込まれた今、二人の命令は絶対なのだ。
「うふふふふ・・・それでいいわ。早智恵、お前は今日からソルジャーワイバーン。美愛はソルジャーサーペント。佳乃はソルジャーバジリスクとして地球制圧のために働きなさい。いいわね」
「「「はい、ホズミ様」」」
声をそろえて答える三人。
もはやそこには地球を守るという意識は存在しなかった。
「ククククク・・・なんとも頼もしい少女たちよ。これでテラズガーズは壊滅したも同然だな」
「はい、ワゼック様。ですがもう一人、ワゼック様のお役に立つ女を用意いたしますわ。この娘たちの指揮を執るのにふさわしい女を・・・うふふふふ・・・」
ホズミが妖しい笑みを浮かべるのを、ワゼックは頼もしげに見つめていた。
『桃子、いる? 入ってもいいかしら?』
インターコムから穂純博士の声がする。
「穂純さんですね? どうぞ」
いつものように何の疑いもなくホズミを通してしまう桃子。
だが、室内に入ってきたホズミたちの様子がいつもと違うことに戸惑いを覚えてしまう。
整列するかのようにホズミの後ろに立つ三人。
いつもの陽気な感じはなく、むしろ冷たい表情で桃子を見つめてくるのだ。
いったいどうしたというのだろうか・・・
「ど、どうしたの? みんな・・・なんか様子が変よ」
「うふふふ・・・彼女たちは洗脳され生まれ変わったわ。もはやこの娘たちはテラズガーズなどではないの。わが神聖帝国の忠実なしもべ、インペリアルソルジャーになったのよ」
ホズミがくすくすと笑っている。
「な、何を言っているんですか、穂純さん? いったい何の・・・」
桃子の背中を冷たいものが走る。
たった数十分の間に、何かが劇的に変化してしまったような感じだった。
「お前たち、桃子に生まれ変わった姿を見せてあげなさい」
「「「はい、ホズミ様」」」
すっと両手のブレスレットを掲げる三人。
「「「装着!!」」」
一瞬にして三人の姿が変わり、インペリアルソルジャーとしての姿になる。
「ひっ」
息を呑む桃子。
三人は今までとはまったく違う漆黒の衣装を身に着けていたのだ。
「うふふふ・・・インペリアルソルジャーワイバーン」
「くすくす・・・インペリアルソルジャーサーペントですわ」
「インペリアルソルジャーバジリスク。神聖帝国に栄光あれ」
三人が新たな名を名乗るのを見て、桃子はただ唖然とするばかりだった。
「これは・・・」
「言ったでしょ。この娘たちはもう神聖帝国の一員。地球支配の尖兵たるインペリアルソルジャー」
「穂純さん、あなたはいったい」
桃子がホズミをにらみつけるが、ホズミはまったく意に介した様子もない。
「うふふふふ・・・私は神聖帝国のワゼック皇子様付き女秘書官ホズミ。これが私の本当の姿よ」
ホズミが桃子の前でメガネを外して白衣を脱ぎ捨てる。
そこには漆黒に銀のトゲの付いたボンデージレオタードを身に着け、黒の長手袋と膝上までのハイヒールブーツを履いた神聖帝国の女幹部の姿があった。
このボンデージレオタードは、自らが開発した自分専用の強化スーツである。
無論適合者である三人が着ているソルジャースーツには及びも付かないが、それでも充分にホズミの力を増幅してくれるのだ。
「そ、そんな・・・穂純さん・・・あなたは・・・」
「うふふふふ・・・今日でテラズガーズは壊滅するわ。でも心配は要らないの。桃子にも私と一緒に来てもらうから」
桃子を見つめ、妖しく微笑むホズミ。
「ふざけないで! 誰があなたと一緒になど」
机の中の拳銃を取り出そうとする桃子。
だが、それを見たインペリアルソルジャーの三人が、すばやく桃子を取り押さえてしまう。
「あっ、やめて! は、放しなさい! 手を放して!」
取り出そうとした拳銃を取り上げられ、床に組み伏せられてしまう桃子。
強化スーツを着たインペリアルソルジャーに生身の人間がかなうはずがない。
「うふふふ・・・怖がることはないわ桃子司令」
「ええ、すぐに桃子司令も神聖帝国のすばらしさがわかるようになります」
「桃子司令もワゼック様とホズミ様の忠実なしもべになるんですよ」
「いやっ! そんなのはいやぁ!」
必死にもがく桃子に、ホズミが洗脳装置のリングをはめる。
「いやぁっ!!」
「うふふふふ・・・さあ、生まれ変わるのよ。桃子」
ホズミの手がスイッチを押した。
******
「ああ・・・ん・・・ワゼック様のおチンポ最高ですわぁ・・・しゃぶってもしゃぶってもまだおしゃぶりしたくなっちゃいますぅ」
うっとりと蕩けたような表情でワゼックのモノを口にするホズミ。
漆黒のボンデージ姿が美しい。
いまや神聖帝国の女幹部として、ワゼック皇子付き女秘書官ホズミのことを知らぬものはいないぐらいだ。
もちろんワゼックの性のお相手も充分に勤め、ワゼックにとって必要不可欠の女になっている。
「ん・・・うふふふ・・・ご覧くださいませ、ワゼック様」
ワゼックのモノから顔を上げ、スクリーンになっている壁面を指し示すホズミ。
そこには赤茶けた星が映し出されている。
宇宙空間を進む魔空城の次なる目標だ。
「我が神聖帝国の新たなる支配地となる星ですわ。もはやあの星もワゼック様のもの同然」
「ククククク・・・またお前たちの力を見せてもらうとしようか」
ホズミの肩を抱き寄せ、その髪を撫でてやるワゼック。
あのあと地球はあっという間に神聖帝国の支配下となり、地球人は奴隷として帝国のために働いている。
それもホズミやモモコたちインペリアルソルジャーの働きがあってこそだ。
「お任せくださいませ、ワゼック様。コマンダーモモコ、資料は用意できている?」
「はい、ホズミ様。こちらに」
カツカツとハイヒールブーツのかかとを鳴らし、神聖帝国の戦闘指揮官となったコマンダーモモコがやってくる。
ホズミの作ったインペリアルソルジャー同様の漆黒のスーツを身にまとい、ヘルメットのバイザーから覗く口元には冷たい笑みを浮かべていた。
「うふふふ・・・さしたる戦力は持っていないようですわ。インペリアルソルジャーの力があれば、制圧はたやすいことかと」
資料を見たホズミがぺろりと舌なめずりをする。
弱きものを屈服させるのは実に気持ちがいいこと。
歯向かうものは皆殺しにしてしまえばいい。
それもまた楽しみの一つなのだ。
「コマンダーモモコ、インペリアルソルジャーたちを引き連れてあの星を制圧しなさい。ワゼック様にささげるのよ」
「かしこまりましたホズミ様。どうぞお任せくださいませ」
コマンダーモモコが一礼して振り返る。
「ワイバーン、サーペント、バジリスク、ホズミ様のご命令よ。あの星を制圧しなさい。いいわね」
「「「はい、仰せのままに」」」
ひざまずいていた三人が一礼して一斉に立ち上がる。
その口元には、これからの侵略が楽しみであるかのように、妖しい笑みが浮かんでいた。
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければ、拍手やコメントなどをお寄せいただけますととてもうれしいです。
お読みいただきましてありがとうございました。
それではまた次作でお目にかかりましょう。
- 2010/12/27(月) 21:03:31|
- 科学主任穂純
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「科学主任穂純」の三回目です。
それではどうぞー。
3、
テーブルの上に置かれた穂純の機械にワゼックの手が伸びる。
かちりと音がして、スイッチが入れられる。
「うぎぃぃぃぃぃ・・・」
穂純が絶叫を上げ、躰をぴくぴくと跳ねらせる。
頭の中に手を突っ込まれ、グニグニとこねくり回されているような激痛が彼女を襲っていたのだ。
自分で作ったものなのである程度は予測していたものの、実際に自分に使われたときの痛みは想像を超えたものだった。
「や、やめて・・・やめてぇ!」
必死に苦痛に耐える穂純。
それをワゼックは冷ややかに見つめ、機械につながっているマイクを口元へと持っていく。
「やめてぇぇぇぇ!!」
穂純は目を見開いて絶叫した。
ラブホテルというものは便利なものだ。
人間どもが行為に及ぶときの音が隣に伝わらないよう、結構な防音が施されている。
まさかこれほどの叫び声をあげるとは思わなかったが、ここを選んで置いてよかったものだ。
さて、ホズミの作ってくれたこの機械、じっくりと試させてもらうとしよう。
ワゼックはマイクのスイッチを入れる。
このマイクで彼女に語りかけることで、その言葉が彼女の脳に刷り込まれることになるらしい。
いわば焼き付けることになるので、暗示がとても強固なものになるそうだ。
はたしてそれが本当か。
彼女自身で実演してもらおう。
「カザトホズミ。お前は神聖帝国の忠実なしもべだ」
「いやぁっ! わ・・・私は・・・神聖・・・帝・・・国の・・・しも・・・べ・・・」
激痛に苦しみながらもワゼックの言葉を繰り返す穂純。
暗示が脳に刷り込まれているのだろう。
「そうだ。お前は神聖帝国の忠実なるしもべ。神聖帝国に尽くすことこそが喜び」
「ああ・・・あああ・・・神聖・・・帝国に・・・尽くす・・・喜び・・・」
ベッドをきしませて躰を跳ねらせている穂純。
その目は大きく見開かれ、口からはよだれが一筋たれている。
「神聖帝国こそが宇宙を支配するにふさわしい存在。力こそがすべて。弱きものには死か服従を」
「あぐぅ・・・神聖・・・帝国こそ・・・ふさわしい・・・力こそがすべて・・・弱きものには死か服従を・・・」
激痛に躰を震わせ、失禁をしてしまっているものの、じょじょに口調が滑らかになっていく穂純。
「神聖帝国皇帝こそ全宇宙の支配者。その息子たる我に従うことこそお前の喜び」
何度も同じようなことを言って暗示を強固にする。
繰り返しが重要だと穂純は神能に伝えていたのだ。
「あなたに従うことこそが・・・私の喜び・・・」
穂純の躰の震えがおさまってくる。
目は焦点を失い、宙を見つめているだけになっていた。
「テラズガーズは憎むべき敵。お前は我がメス奴隷として我に忠誠を誓うのだ」
「テラズガーズは憎むべき敵・・・私はワゼック様の忠実なるメス奴隷」
ワゼックがにやりと笑う。
単なる繰り返しではなく、穂純の中でワゼックの言葉が自分なりの言葉に置き換えられていっているのだ。
「お前は冷酷な魔女となって神聖帝国と我がために尽くすがいい。それがお前の生きるすべてである」
「私は冷酷な魔女として神聖帝国とワゼック様のために尽くします。それが私の生きるすべて・・・」
穂純の目に輝きが戻ってくる。
だが、それは先ほどまでの穂純の目ではなかった。
シャワーを浴び終えた穂純がワゼックの前にやってくる。
全裸にバスタオル一枚で、肩までの黒髪を拭いていた。
「クククク・・・洗脳された気分はどうかな? カザトホズミよ」
ベッドに腰掛けたワゼックが含み笑いをもらす。
手足の戒めをとり頭から装置を外してやると、穂純はシャワーを浴びさせてほしいと訴えたのだ。
「はい。とてもいい気分ですわ。洗脳していただくことがこんなにすばらしいとは思いませんでした。私はもう神聖帝国とワゼック様の忠実なるしもべ。洗脳していただいて感謝しております」
にっこりと微笑む穂純。
だがその笑みにはどこか冷たいものがあった。
「クククク・・・まさか自分の作った機械で洗脳されるとは思わなかっただろう。洗脳具合はどうなのだ?」
「予想以上に強固かと。これならば改良の必要もなく充分に実用化できます。私はもう以前のようにテラズガーズの連中を仲間だと思うような気持ちはありません。テラズガーズは敵です。この気持ちが元のように戻るなど考えられませんわ」
「それならいい。お前は我がメス奴隷だ。これからは我のためにたっぷりと働いてもらうぞ」
「はい、もちろんですワゼック様。私はワゼック様の忠実なメス奴隷。どうぞ何なりとご命令を」
そういってひざまずくと、穂純はワゼックの靴にキスをする。
偉大なる支配者への当然の行動だった。
******
「それで、カザトホズミをそのまま解放してきたのですか? この魔空城に連れてこずに?」
驚いた表情を浮かべるゴモー。
せっかく洗脳したというのに解放してしまうなど、いったい何を考えているのか?
「ああ、俺も最初はこの魔空城に連れてこようと思った。だが、ホズミが面白いことを考えているというのでな」
「面白いこと?」
「ああ・・・まあ、黙ってみているがいい」
にやりと笑うワゼック。
なるほど。
テラズガーズを内部より崩壊させる・・・か。
ゴモーにはなかなか思いつくまい。
******
「穂純さんがどうかしたの?」
司令室に集まってきた三人の少女に紅茶を振舞う桃子。
彼女はテラズガーズの司令官だが、普段まで厳しく上下関係を求める人間ではないし、むしろ友人めいた付き合いを好むほうだったから、こうして三人に紅茶を振舞うのもいつものことだった。
「ううん。どうかしたってわけじゃないんだけど、このごろなんか雰囲気が違う気がしませんか?」
美味しい紅茶とクッキーという午後のティータイムを楽しみながらも、早智恵が気になっていたことを言う。
「あ、それは私も感じていた。なんていうか人を近づけないような感じで・・・」
佳乃も早智恵に同意する。
彼女も数日前から、あの穂純博士がなんとなく近づきがたい雰囲気を持つようになったと感じていたのだ。
「何かあったんでしょうか? もしかしてお相手に傷付けられてしまわれたとか?」
美愛が心配になる。
穂純博士にいい人が現れたというのはすでにみなの噂になっていたから、もしかしたら彼に振られたりしたことでショックを受けてしまったのかもと思ったのだ。
「うわ、そうなのかな? 穂純博士ケンカでもしちゃったかな?」
佳乃が悲しそうな表情を浮かべる。
人が傷付いたり傷付けられたりというのは彼女にはたまらないことなのだ。
「そっか・・・みんなにはまだ言ってなかったわね。ごめんなさいね。心配しなくても大丈夫よ」
桃子が三人に頭を下げる。
「えっ?」
「どういうことですか? 桃子司令」
「実はね。今穂純博士は次期ガーズスーツを目指して新ガーズスーツの開発に取り掛かっているの」
「「「新ガーズスーツの開発?」」」
三人が口をそろえ、桃子がうなずく。
「おそらくかなり難しい作業になると言っていたわ。そのためしばらくあまり人と接しないようにするって言っていたの。多分そのためにぴりぴりしているんだと思うわ」
桃子の言葉に目に見えてほっとしたような表情を浮かべる三人の少女たち。
「なんだぁ。そうだったのかぁ」
「よかったぁ」
「ホントよかった。もう、言って置いてくださいよ」
口々に安堵の言葉を漏らしていく三人。
「彼との事は聞いていないけど、そう悪い雰囲気でもないみたいよ。いずれ私たちにも紹介してくれるんじゃない?」
「うふふ・・・そのときは未来の旦那様ですかね?」
「そうかもしれませんわね」
「今頃穂純博士くしゃみしているかも」
気にかかっていたことが解消され、四人は笑顔で笑いあう。
それだけ穂純のことが気がかりだったのだ。
電子音が鳴って笑い声がさえぎられる。
司令官席のインターコムが鳴ったのだ。
はいはいといいながら、桃子は席に戻ってインターコムの通話ボタンを押す。
「はい、塩村です」
『私だけど』
インターコムから穂純の声がする。
「あ、穂純さん。どうしました?」
噂をすれば影だと思い、桃子は思わず苦笑した。
『そちらにテラズガーズの三人は行っていない? 今日は顔を出していると思ったんだけど』
三人が自分たちのことだと知って顔を見合わせる。
「来てますよ。今お茶していたんです。穂純さんもいかが?」
『・・・結構よ。それよりも三人をすぐにラボによこしてほしいの。いいわね』
それだけ言うとインターコムは切れてしまう。
そのあまりにも冷たく感じる物言いに、桃子も戸惑いを感じてしまう。
「穂純さん・・・やっぱり煮詰まっているのかなぁ・・・とにかくあなたたち、ラボに行ってくれるかしら?」
「はい。かまいません」
「どうせ準待機だったわけですし」
「穂純博士の様子も見て来たいしね」
三人はなんとなくまた多少の不安を感じながらも、にこやかに立ち上がった。
「クククク・・・」
ワゼックは笑いがこらえきれなかった。
まさか地球の守りの要とも言うべきガーズベースに自分が入ることができるとは、つい先日までなら思いもしなかったことだからだ。
もちろん地球人神能聖の姿をとってではあるものの、ホズミの導きであっさり入ることができたことはむしろ拍子抜けを感じるほどだったのだ。
どんなに強固な要塞であっても、内側から侵食されてはたまらない。
このガーズベースももはや終末が近い。
ホズミの洗脳が予想以上の結果をもたらしそうであることに、ワゼックは充分以上の満足感を感じていた。
「クククク・・・こうも簡単にガーズベースに入り込むことができるとはな」
「うふふふ・・・しょせんここの警備などザル同然ですわ。私が神聖帝国の一員になったことなど誰も気付きもしないのですから」
スーツ姿の神能、いや、ワゼックにひざまずきうっとりとした目で見上げている穂純。
科学主任として白衣を着てはいるものの、今はもう神聖帝国のワゼック付き女秘書官ホズミへと生まれ変わった女である。
「今日は楽しいものを見せてもらえるそうだな。楽しみにしているぞ」
「うふふふ・・・お任せくださいませワゼック様。わが神聖帝国の憎むべき敵、テラズガーズの最後をごらんいただこうと思いますわ」
冷たい笑みを浮かべているホズミ。
メガネの奥の瞳が邪悪に輝いている。
「ほう・・・それは面白い」
ワゼックも興味を引かれる。
テラズガーズの科学主任である穂純が神聖帝国の一員であるホズミとなったからには、程遠くない時期にテラズガーズ壊滅に持ち込めるだろうとは思っていたが、それがこれほど早く訪れようとは・・・
ここはホズミの腕前を見せてもらおうと、ワゼックは楽しみにしていたのだった。
研究室の扉がノックされる。
「どうやら三人が来たようですわ。ワゼック様はしばしそちらでお待ちくださいませ」
別室へと続く扉を指し示すホズミ。
ワゼックはホズミに一度うなずくと、扉の向こうに姿を隠した。
「穂純博士ー、来ましたよー」
「私たちに何か御用でしょうか?」
「またデータの収集ですか?」
入り口を開けてにこやかに入ってくる三人の少女たち。
「よく来てくれたわね、三人とも」
ホズミも穂純としてのにこやかな表情で三人を出迎える。
「いえいえー」
「博士に呼ばれましたら、来ないわけには参りませんわ」
「そうそう。来なかったら何されるかわからないもんね」
悪気のない佳乃の冗談に、残りの二人も思わず笑う。
「あれ? 今日はお一人なんですね? いつもは研究員さんたちがいるのに」
そんな中、佳乃は周りを見て人がいないことに気がついた。
「ホントだ。穂純博士、ほかの人たちは?」
「ああ、もう不要だから消えてもらったの。今日のお披露目には必要ないし」
「不要?」
「必要ない・・・ですか?」
ホズミの冷たい感じのする言葉にちょっと驚く早智恵と美愛。
思わず三人は顔を見合わせる。
「ええ、そうよ。いなくてもいい人にわざわざいてもらうこともないでしょう? それよりも、今日はこれを装着してみてほしいの。新しいガーズスーツよ」
ホズミが三人の前に真新しいブレスレットを置く。
ガーズスーツは、このブレスレットを介して少女たちに転送され、その身に装着することになるのだ。
「あ、なるほど」
佳乃がうんうんとうなずく。
「新型ガーズスーツの装着テストですか。それならあんまり人がいてもらっては困りますよね」
「あ、そうか」
「確かにそうですわね。ガーズスーツは重要機密ですから、人が少ないほうが機密保持には有利ですわ」
先ほどのホズミの言葉を自分たちなりに解釈してしまう三人。
そのことがホズミには可笑しかった。
「でも・・・」
テーブルに置かれたブレスレットを見て手を伸ばすのをためらう美愛。
「何だか気味悪いデザインですね。何とかならなかったのでしょうか?」
テーブルの上には、両手にはめるタイプのブレスレットが置かれており、黒革に銀色のトゲや目玉のような紋様がついている。
「何だかパンクロックのファッションブレスって感じだな。普段はめるにはちょっときついかも」
「確かに。これをはめて学校へ行くのはちょっとつらいよぉ」
佳乃も早智恵もその異様なブレスレットが気味悪く感じてしまう。
どうして穂純博士はこんなデザインにしたのだろう?
- 2010/12/26(日) 20:09:06|
- 科学主任穂純
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| コメント:5
「科学主任穂純」の二回目です。
楽しんでいただけましたらうれしいです。
2、
それからの穂純は、時々神能の誘いに応えるようになっていた。
もちろん仕事に差し支えるようなことはまったくなかったが、今までなら自主的に残って作業にあたっていた時間も、神能からの誘いがあればいそいそと出かけることが多くなっていった。
「それじゃ、あとはお願いね。そっちの作業は止めといてもいいわ。あとで私がやるから」
作業員に指示を出し、あわただしく更衣室に消える穂純。
その様子を技師たちは微笑ましく見ている。
男っ気のなかった風戸博士にも春が来た。
そう言われていたのだ。
「それじゃお先にー」
短めのタイトスカートのスーツに身を包んだ穂純が手を振って出て行く。
司令室で桃子の指示を受けていたテラズガーズの三人が、思わずその姿を目で追った。
「穂純博士はこれからデートかな?」
「そのようですね。楽しそうです」
佳乃と美愛がその様子を微笑ましそうに見送る。
タイトスカートから伸びる穂純の脚は、同性から見てもきれいで美しい。
あれなら心惹かれる男性も多いはずなのに、今までは白衣のすそで隠してしまっていたのだ。
「でも、大丈夫なのかな? 穂純博士がいないときに神聖帝国が攻めてきたりしたら・・・」
早智恵が心配そうに司令官の桃子を見る。
だが、桃子はまったく心配していなかった。
「大丈夫よ。穂純さんは仕事をおろそかにするような人じゃないし、すぐに連絡はつくようになっているわ。それに・・・」
「それに?」
「穂純さんに頼らなくても、あなた方がしっかりしていれば問題ないことよ」
にやりと笑う桃子。
もちろんこれは意地悪で言っているのではなく、三人に心配ないことを告げているだけなのだ。
「うわっ、やぶへび」
「仕方ない、トレーニングルームで一汗流してくるか」
「そうしましょう」
苦笑しながら司令室を出て行く三人。
「遅くなったかしら・・・」
腕時計に目をやりながら道のりを急ぐ穂純。
待ち合わせ場所には、すでに神能が待っていた。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって」
「いや、今来たところだから気にしないでいいよ」
神能はそう言ってくれるが、おそらくは10分ぐらいは待たせたはずだ。
穂純は神能の心遣いがうれしかった。
「それじゃ行こうか。美味しい店があるんだ」
「ええ、聖さん」
穂純はいつものように神能の腕を取る。
男性の腕に寄り添って歩くのは素敵だった。
穂純は神能に連れられ、今日も楽しい時間をすごすのだった。
こういうのも悪くないものだな・・・
ワゼックは、隣で寄り添うように寝ている女を再び抱き寄せる。
カザトホズミ・・・
最初はテラズガーズの科学主任ということで、うまく行けば手駒とし、悪くても抹殺することでテラズガーズの力を弱めることができればいいと思っていた。
だが、ここ数日付き合っているうちに、この女を心底から配下にできればと思っていたのだ。
そのために洗脳装置を作らせる。
この女の持つ技術であれば、おそらく不可能ではないだろう。
問題はいかにして作らせるかだ。
幸い、精神感応の力で、この女はかなり自分に気を許している。
こうしてベッドを共にすることもできるようになった。
セックスの相性も悪くない。
自分に抱かれて淫らにあえぎまくるところは可愛いものだ。
この女ならそばに置いてもいいだろう。
ククククク・・・
******
「穂純博士、どうしたんです?」
「何かあったんですか?」
ぼうっとしている穂純を見かけ、早智恵と美愛がやってくる。
「えっ? あ、ああ、なんでもないのよ」
穂純は笑みを浮かべて首を振った。
まさか作業中にほかの事を考えていたとは言えない。
今は作業に集中しなくては・・・
そう思う穂純だったが、頭の中は神能に言われたことでいっぱいだった。
心を開かせるための機械・・・
それが聖さんには必要だという。
重病を患っている少年。
だが、手術を受ければ助かる見込みはあるらしい。
でも、少年は病気のせいで心を閉ざし、誰の言うことも信じない。
手術を受けるように説得しても、どうせ手術したって苦しんで死ぬだけだと拒絶する。
聖さんは何とかその少年を助けたいのだ。
だから、一時的なものだとしても少年に彼のことを信じさせたいのだという。
聖さんは私が科学技術に通じていると叔父から聞いて知っていた。
だから、もしその子の心を開いてくれるような機械があれば・・・と言ったのだ。
私なら・・・
私なら多分できる。
人間の脳波に影響を与え、暗示を焼き付けて心理的な障壁を取り除くような装置を作る。
私ならできる。
でも・・・
そんなものを作ってもいいのだろうか・・・
もし・・・
もし悪用されたりしたら・・・
人の心に影響を与えてしまうような装置だから・・・
「穂純博士!」
「えっ?」
「データいつまで取るんですか?」
「えっ? あ、ああ、もういいわ」
あわてて穂純は早智恵から機器を取り外す。
ガーズスーツの強化に向けて、三人の基礎的データを取り直しているのだ。
今日は早智恵と美愛の二人だが、明日には佳乃も参加する。
神聖帝国が動きを見せない今のうちに、ガーズスーツの強化に取り込み、いずれ訪れるかもしれないピンチに備えるのだ。
「穂純博士・・・」
「えっ? 何?」
自分の躰から計測機器を外している穂純に美愛が声をかける。
「やっぱり変ですわ。心ここにあらずという感じです。何かあったのですか? もしかして彼氏さんとケンカでもしたのですか?」
背中までの長いつやつやした黒髪と切れ長の目をした物静かな雰囲気の少女が、穂純をじっと見つめている。
その目には彼女のことへの心配が浮かんでいた。
「ううん・・・そんなことないわ。ただ、ちょっと考え事をしていただけ」
穂純は微笑んで首を振る。
この子達に心配をかけることなどできない。
今回のことは単なる個人的なことなのだから。
だが、彼氏とケンカしたのかと言われたとき、穂純の心臓はどきんと跳ね上がったのだ。
聖さんとケンカ・・・
もし、今回のことを断ったことで聖さんとケンカ別れになってしまったとしたら・・・
キューっと胸が痛くなる。
いやだ・・・
そんなのはいやだ・・・
穂純にはもう神能のいない状況など考えられない。
神能を失うなど考えたくもなかった。
早智恵と美愛が退室してから、穂純はいつしか機能の計算を始めていた。
神能に頼まれた機械を作るのだ。
もちろんその少年にだけ使うことを約束してもらう。
一回だけ使ってすぐに廃棄すればいい。
そうすれば誰かに悪用されることもないだろう。
設計図も完成後は廃棄して、二度と作らなければいいのだ。
一回だけ。
一回だけ聖さんに使ってもらえればいい。
穂純は一心に少年の心を解きほぐすための機械を作り始めていた。
******
「ふあ・・・」
思わずあくびが出てしまう。
「眠そうだね。退屈かな?」
笑いながら話しかけてくる神能。
あわてて穂純は首を振った。
「とんでもない。聖さんとのおしゃべりが退屈だなんてことはぜんぜん。ただ、ちょっと寝不足で・・・」
「おや、仕事が忙しいのかい?」
穂純はまた首を振った。
「そんなことはないんだけど・・・聖さんに喜んでほしくて・・・」
少し頬が赤くなったのは、食事についているワインのせいではないだろう。
「ほう・・・もしかして脇にあるそれかな? 楽しみだね」
「あとでお渡ししますね」
穂純はそういって脇に置いた紙袋に目をやった。
美味しい食事と楽しい会話。
穂純は神能と過ごすこの時間が本当に好きだった。
食事を終え、少しほろ酔い気分の穂純を、神能が優しくエスコートする。
二人はいつもと同じく、二人きりになれる場所に入っていった。
すとんとベッドに腰を下ろす穂純。
隣には神能が腰掛け、穂純の肩に手を回す。
「聖さん・・・」
「穂純」
神能の唇が穂純の唇と重ね合わされる。
その手が胸に滑り降りてきたとき、穂純は残念そうにこう言った。
「待って・・・先にお渡ししたいものが」
「先に?」
お預けを食らったことに面食らう神能。
だが、渡したいものがあると言っていたことを思い出す。
「明日の朝バタバタするのはいやだし、きちんと話をしておきたいの」
「わかった。穂純の言うとおりにするよ」
ちょっと残念そうに穂純から身を引く神能。
ここ数回の逢瀬で、ワゼック自身穂純の躰に惚れ込んでもいたのだ。
穂純は一息ついてから、ゆっくりと紙袋の中のものを取り出した。
紙袋から出てきたものが、手編みのマフラーなどではないことに、思わず神能は笑みを浮かべる。
だが、穂純はまったくそれに気が付いた様子もなく、二人の間に取り出したものを置いていった。
「これは?」
おおよその見当は付いていたが、ワゼックである神能が問いかける。
「聖さんに頼まれたものを私なりに作ってみたの。おそらく、これで聖さんの言っていた少年の心を開くことができると思う」
真剣な表情を浮かべる穂純。
人の心を外部からいじろうという機械なのだ。
真剣になって当然である。
「本当かい? これで人の心を操ることができるのかい?」
「操るというのとは違うわ。これは相手に強力な暗示を刷り込む機械なの」
「暗示?」
「ええ。たとえば、聖さんはとても信用置ける人だから、その言うことには素直に従わなくちゃいけない。彼の言葉は信用できるから従わなくちゃいけないって言うような暗示を相手に刷り込むの。そうすれば、相手の少年は聖さんを信用するようになって、聖さんが手術を受けるように言えば、きっと言うとおりにするわ」
穂純の言葉にうなずく神能。
まさにこれこそが望んでいたものだ。
それをわざわざ敵である穂純が作ってくれるとはな。
「暗示か・・・だがすぐに暗示が解けてしまうような心配はないのかい? そのせいで逆にもっとかたくなになられてしまっては・・・」
「それは大丈夫だと思うわ。暗示はかなり強力に焼き付けられるはず。少々のことでは暗示が解けてしまうようなことはないと思うの」
「そうか。それならばいいんだ。ありがとう穂純。これで俺の願いがかなうよ」
神能は穂純の両手を取り、握り締めて感謝の意を伝える。
地球人には効果的なしぐさのはずだ。
「聖さん」
「ん? なんだい?」
「約束してほしいの。その少年に暗示をかけたら、すぐにこの機械を私に返すって。その子にだけ使って、ほかには一切使わないって約束して。そうじゃないと、私・・・」
真剣な表情を向ける穂純。
「わかったよ。俺が使うのは一回だけだ。約束する。それでいいかい?」
穂純が安心したようにうなずく。
メガネの奥の瞳もようやく安堵の色を浮かべていた。
「ん・・・」
意識がゆっくりと戻ってくる。
朝が来たのだろうか?
穂純はゆっくりと目を開けた。
見知らぬ部屋・・・ではない。
夕べ泊まったラブホテルの一室だ。
そういえば、夕べは聖さんと一緒に泊まったんだったっけ・・・
ベッドから起き上がろうとした穂純は違和感を感じた。
手足が動かないのだ。
「えっ?」
穂純は驚いた。
両手が後ろ手に縛られ、両足も足首のところで縛られている。
まったく身動きが取れなくなっているのだ。
「ど、どうして? 聖さん。聖さん!」
パニックに陥って神能の名を呼ぶ穂純。
その声を聞いたのか、すぐに神能が現れる。
「やあ、お目覚めかな? カザトホズミ」
「ああ、聖さん。お願い、誰かに縛られたの。解いてくださいませんか?」
「それはできないな。縛ったのは俺なんだから」
「えっ? ど、どうして?」
穂純は神能の言葉に面食らう。
いったいなぜ自分が縛られなくてはならないのだろう?
「君の作ってくれた機械の性能を、これから君で試させてもらうんだ。暴れられたりしたら厄介だからね」
「そんな・・・試すなんてしなくても・・・機械の性能は保証します」
「まだわかっていないんだね、カザトホズミ。俺はこの機械をガキのために使うつもりなんかないんだよ」
笑みを浮かべる神能に、穂純は背筋が冷たくなるのを感じた。
もしかして、自分はとんでもないことをしてしまったのではないのだろうか・・・
「テラズガーズの科学主任カザトホズミ。君にはいろいろと苦労をさせられたものだ。わが神聖帝国の魔獣をことごとく返り討ちにしてくれたね」
「えっ? どうしてそのことを?」
穂純がテラズガーズに所属していることは極秘中の極秘である。
知っているものは彼女の身内にさえいないはずなのだ。
なぜそのことを神能は知っているのだろう。
「ククククク・・・まだ気が付かないのか? 俺は神能聖などという地球人ではない。神聖帝国の皇子にして地球侵略の指揮官であるワゼックである」
神能の姿が揺らぎ始め、じょじょに黒い金属質の鎧とマントを身にまとった姿となる。
それは穂純も見たことのある、神聖帝国の指揮官の姿に他ならなかった。
「うそ・・・うそでしょ? 聖さんがワゼックだなんて・・・」
目の前のことが信じられない。
あの優しい聖さんが神聖帝国のワゼックだなんて・・・
そんなバカなことがあるはずが・・・
「うそではない。俺はお前を信用させるために地球人神能聖として振舞った。お前はそれにまんまと引っかかったというわけだ」
冷たい笑みを浮かべるワゼック。
穂純の目から涙が落ちる。
「信じていたのに・・・聖さんとなら一緒に生きていけると信じていたのに・・・だましたのね!」
「そういうことだ。俺はお前をだました。だが安心するがいい。すぐにまたお前は俺を信じ、俺のために尽くすようになる」
穂純の目が見開かれる。
「まさか・・・そんな・・・」
自分の頭に感じる異物感は、あの機械のリングだったのだ。
穂純は一度しか使わないという神能の言葉を信じ、機械の使い方を教えていた。
相手の頭にリングをはめ、暗示をパルスとして脳に送り込む。
そうして暗示を焼き付けることで、相手の心に作用し、暗示を強固に植え付けるのだ。
そのやり方を一から丁寧に穂純は神能に教えていた。
まさかそれが自分に使われることになるなどとは思いもせずに。
「お前の作った機械を、俺は有効に使わせてもらう。お前を俺のそばで働く一匹のメスにしてやろう。一生手元で可愛がってやるぞ」
「いやぁ・・・いやぁっ! やめてぇっ! 使わないでぇっ!」
必死に身をよじって手足の戒めを解こうとする穂純。
だが、ベッドに寝かされている穂純の両手も両足も自由にはならず、頭のリングも何かに引っ掛けてはずすということはできなかった。
- 2010/12/25(土) 20:31:33|
- 科学主任穂純
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今日は早めに更新です。
本当に本当にお待たせいたしましたー。
ようやく250万ヒット記念SSが完成いたしましたので、今日から四日間連続で投下させていただきます。
タイトルは「科学主任穂純(ほずみ)」です。
いつもと代わり映えのしない作品ですが、クリスマスプレゼントとしてお楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
1、
「「「ピーチスラッシュ!!!」」」
三人の少女の声がハーモニーとなり、それぞれの振るう剣の先から赤、青、黄色の三本の光がらせん状に渦を巻いて魔獣の躰に突き刺さる。
「グギャァァァァァァッ!」
すでに動きが鈍くなるほどダメージを受けていた魔獣に、それを避けることなどできるはずもなく、魔獣は断末魔の声を上げながら光の中で崩壊する。
またしても地球侵略のために送り込んだ魔獣が、テラズガーズの三人に倒された瞬間だった。
「クッ・・・」
モニターに映し出された光景に歯噛みする男。
ここは魔空城。
神聖帝国の地球侵略の拠点であり、また異次元に浮かぶ巨大な宇宙船でもある。
男はトゲの付いた金属質のアーマーに身を包み、背中にはマントを羽織って、額には皇族のしるしである角の付いたサークレットをはめている。
全身を黒一色で統一したその姿からは、怒りのオーラとも言うべきものが立ち上っていた。
「ゴモー」
「ハ、ハハァッ!」
彼の背後でモニターを見ていた白衣の老人が青ざめた顔でひざまずく。
彼の繰り出した魔獣がまたしても敗れた以上、叱責は免れない。
「お前はなんと言った? 今度こそテラズガーズを葬り去る。そう言っていたはずだな」
振り返る男の整った顔には、むしろ笑みさえ浮かんでいた。
「も、申し訳ありません。今一歩、今一歩のところでしたが、あの女の邪魔が入り・・・」
床にひれ伏して顔を上げることさえできないゴモー。
だが、確かにそうなのだ。
今回の魔獣はあと一歩のところでテラズガーズに敗れたのだ。
まさかあのタイミングで新装備を繰り出してこられるとは・・・
「わが神聖帝国は宇宙を支配せねばならん。宇宙は強いものが支配し、弱いものはそれにひれ伏さなくてはならんのだ。大宇宙の摂理に従い、強い我らが弱い奴らを支配する。それこそがわが父神聖帝国皇帝ワデックの望み」
男はふと虚空を見上げる。
まるでそこに父がいるかのように。
だが、その表情が厳しくなる。
「ゴモー! 今の我らはどうだ! これでは我らの方が弱きものではないか」
「ハハァッ! 申し訳ありません」
「何かいい手はないものか・・・このままでは父上に顔向けができん。しょせん親の七光りとあざけられるのみ。そのような屈辱は耐えられん・・・」
ひれ伏しているゴモーのことなどもはや眼中にないかのように男は背を向ける。
ふと男の目がモニターに向けられた。
「あの女・・・確かカザトホズミとか言ったな・・・」
モニターの中には、テラズガーズの三人に駆け寄る一人の女性が映っていた。
「は、はい、左様です。あの女こそテラズガーズの科学主任カザトホズミ。ガーズスーツをはじめとする装備の開発者です」
ゴモーの言葉に男がうなずく。
「ふむ・・・あの女を何とか我らの仲間に引き込めないものかな。わが手駒となれば、かなり役に立ちそうだが・・・」
男があごに手を当てて考える。
あのさまざまな機器類を作り出す能力は並ではない。
手駒にすることができれば、神聖帝国の強化にも役立つだろう・・・
「それは・・・難しいところかと・・・地球人は精神力が強く、我らの精神感応では支配できません。せいぜい多少の好感触を与えることができるだけ。それでは我らの手駒にはなりますまい」
ようやく顔を上げるゴモー。
どうやら嵐は去ったらしい。
「ふむ・・・あの女は科学主任と言ったな」
「左様です、ワゼック皇子」
「ならば、あの女自身にそういったものを作らせてみればよい。そう、自らを洗脳するための洗脳装置のようなものをな」
「うまく行きましょうか・・・」
ゴモーの顔に疑問の色が浮かぶ。
「だめでもともとだ。やってみる価値はあろう。ククククク・・・」
ワゼックは自分の思いつきに、思わず笑いがでるのを止められなかったのだった。
******
「みんなお疲れ様。今回の敵はかなりの強敵だったけど、無事に撃退することができたわ。これもみんなのおかげよ」
司令官室に集まってもらった三人を前に、テラズガーズ司令官の塩村桃子(しおむら ももこ)がねぎらいの言葉をかける。
司令官の前にそろった三人の少女が、その言葉に柔らかな微笑を浮かべた。
まだ幼い雰囲気の残る高校生ほどの少女たち。
それが地球を神聖帝国の魔手から守っているテラズガーズの三人である。
これにはもちろん理由があり、彼女たちのまとうガーズスーツの適合者が、今のところこの三人しかいないということが大きい。
原因はいろいろと考えられているものの、そのいずれもが未確定の域をでずに解消されておらず、自衛隊員のような戦闘訓練を受けた人間がガーズスーツをまとって戦うという状況には今のところいたっていない。
そもそも、ガーズスーツそのものが、テラズガーズ科学主任の風戸博士による偶然の産物的な存在なので、三人の適合者がいたというだけでも驚きと言っていいのだ。
とはいえ、適合者への特化は進んでおり、三人のガーズスーツはそれぞれ赤、青、黄色の三色に塗られてそれぞれが特定のスーツを着るようになっている。
赤のガーズプリムラの狗川早智恵(いぬかわ さちえ)は、折川高校の二年生で陸上部に所属している。
身体を動かすことが大好きで、いつもトレーニングでランニングを欠かさない。
青のガーズサルビアの砂流美愛(すながれ みあ)は、お嬢様学校で名高い私立美望女子学院の同じく二年生。
砂流家のお嬢様であり、華道や茶道のたしなみを持つしとやかな女性だ。
もっとも、ガーズサルビアとして戦いに臨むときには、その限りではない。
黄色のガーズクロッカスは柿地佳乃(かきじ よしの)といい、王林大学付属高校三年生。
物静かな知的美女で、将来は医師を目指している。
読書が趣味で暇を見ては本を読んでいることが多いが、知的好奇心も強く、科学主任の風戸博士のところに顔を出すこともままあった。
この三人が地球を守るテラズガーズなのだった。
「これまでの傾向から言って、神聖帝国も魔獣の再投入までは時間がかかるでしょう。少しの間、羽を伸ばせると思うわ。次の呼び出しまでは自由に過ごしてもOKよ。ただし、常に連絡が取れるようにしておくことと、トレーニングは欠かさないようにね」
「「「ハイ、桃子司令」」」
三人は声を合わせて返事する。
ここまでになるには時間がかかったものだった。
塩村桃子は、そんなことをふと思って笑みが浮かぶ。
本当に三人はよくやってくれている。
適合者というだけで戦いに駆りだされ、考え方も生活様式もまったく違う三人が力を合わせる羽目になったのだ。
今のチームワークは奇跡に近い。
すっかり仲のよくなった三人を前に、なんとなく保護者気分になる桃子だった。
「それじゃ解散」
「「「ハイ、失礼します」」」
三人がにこやかに司令官室を後にする。
おそらくこれから食べ歩きとショッピングとカラオケだろう。
自分も暇なら行きたいところだが、司令官と一緒では羽も伸ばせないだろうし、何より報告書の作成等やることがある。
地球を守るのも、彼女たちだけでできるものではない。
戦闘による被害や損害を算定して報告し、政府が速やかに復旧や金銭保障が行えるようにしなくてはならないのだ。
そのための基礎資料として報告書の持つ意味は大きい。
テラズガーズ司令官として、報告書作成も重要なる任務の一つだったのだ。
「お疲れ様」
三人と入れ替わりにそう言って入ってくる一人の女性。
白衣を着て、手には書類のフォルダを持っている。
メガネをかけた知的で清楚な感じを漂わせる女性だ。
肩までの黒髪が美しい。
「穂純さんもお疲れ様です」
迎える桃子がにこやかに微笑む。
入ってきたのは、テラズガーズの科学主任風戸穂純(かざと ほずみ)。
先ほどのテラズガーズの三人が着る、無敵のガーズスーツの開発者である。
ほかにもテラズガーズの武器や、さまざまな支援装置を開発するテラズガーズの頭脳であり、彼女のおかげで地球の平和が保たれているといっても過言ではない。
もっとも、本人いわく、多少頭のねじがゆるかったり一本二本はずれているから、ほかの人が思いつかなかったことをするだけよ、とは言うのだが。
「はい、報告書」
桃子の机の上に持ってきた書類を置く穂純。
今回の魔獣の動きを封じた妨害波発生装置のことも触れられているに違いない。
実際あれがなければ今回は危うかったのだ。
いいタイミングで装置を開発してくれる穂純の能力に、桃子も全幅の信頼を寄せていた。
「ありがとうございます。それにしてもよく今回の敵がこちらの動きを先読みしてくるとわかりましたね」
「別にわかっていたわけじゃないのよ。いずれはそういう作戦を取ってくるんじゃないかなと思ってね。こっちが先回りして作っておいたの」
「なるほど。“こんなこともあろうかと思って”って奴ですね」
「まあね」
古いアニメの有名なセリフに、思わず笑い出す二人。
もっとも、当のキャラはそのセリフを言ってはいないらしいが。
「それじゃあとはよろしく」
「あら、お茶でもいかがですか? 美味しい紅茶淹れますけど」
報告書を置いてすぐに出て行こうとする穂純を引き止める桃子。
「ごめんね、ガーズスーツのメンテをしなきゃ。今回結構手ひどくやられたからね」
ひらひらと手を振って出て行く穂純。
その姿を苦笑しながら見送る桃子だった。
******
「お見合いですか?」
思わず紅茶を淹れる手が止まる桃子。
それほど、今聞いた言葉は驚きだったのだ。
いや、普通に考えれば、なんら驚くべき言葉ではないのだが、その言葉を発したのが穂純であるということが、驚きを誘発していたのだ。
「みたいなものっていうか・・・叔父さんの紹介なのよ。いい人がいるから今度会ってみないかって・・・」
なんとなく困ったような表情を浮かべている穂純。
無論彼女とて適齢期であり、男性に興味がないわけではない。
だが、今はテラズガーズの科学主任としての仕事があるし、またそれにやりがいも感じている。
また、今まで研究一筋だった彼女は、男と付き合った経験に乏しく、それが尻込みをさせることにもなっていた。
「いいことじゃないですか。穂純さんはずっと研究室に篭もりっぱなしなんですから、少しは外に目を向けるのもいいことだと思いますよ」
湯気の立ち上るいい香りのする紅茶を穂純に手渡す桃子。
テラズガーズの司令官という立場に着かなければ、喫茶店でも開いていたかもしれない。
「そうかもしれないけど・・・まあ、叔父さんの顔を立てるためにも、一度は会うつもりだけどね」
穂純は手にした紅茶を一口飲む。
「美味しい」
紅茶特有の味が口の中に広がり、心も躰も温かくなる。
「いつ会うかもう決まっているんですか?」
自分もカップに口をつける桃子。
自分より年上ということもあり、穂純にはだいたい敬語を使うことが多い。
「明日」
なんとなく憂鬱そうに穂純が答え、思わず桃子は苦笑した。
叔父さんに対する義理がなければ、まず会おうとはしないんだろうなと桃子は思う。
「明日はおやすみですし、神聖帝国の襲撃も多分ないでしょう。ゆっくりしてきてくださいね」
「うん。ありがと・・・はあ・・・」
思わずため息の出る穂純であった。
******
「こちら神能聖(かみの たかし)君。まだ若いが医師を務めていてね。将来を嘱望されているんだ。神能君、こちらが私の姪でね、風戸穂純という。いろいろと面倒を見てやってくれないか」
頭髪の薄くなった中年の男がメガネをかけた女性を紹介する。
モニター越しに見て知ってはいたものの、こうして対面すると、なかなかどうしてこちらの美的感覚にも美しいと思える女性だとワゼックは思った。
地球人とほぼ同じような外見を持つワゼックにとって、地球人に変装するのはわけもない。
地球侵略にあたりそろえた情報によれば、地球人はきわめて種族的にも近く、おそらくは子孫を残すことさえ可能だという。
ワゼックは、素直に目の前の女性とセックスをしてみたいものだと感じていた。
「神能です。将来を嘱望なんてとんでもない。まだまだ駆け出しで未熟な男です」
「風戸です。はじめまして。私こそ何もできない未熟者ですけど、よろしくお願いいたします」
挨拶を返してくる穂純に、ワゼックはすぐさま精神感応を送り込む。
精神的に同調し、こちらへの警戒心を薄めて好印象を持たせるのだ。
神聖帝国の宇宙支配には欠かせない能力である。
弱きものを支配する上で、支配者に対し好印象を持たせることができれば、それだけ反抗しようとする意識は低くなる。
だが、しょせんは印象操作に過ぎず、相手を言いなりにするようなことはできない。
せいぜい魔獣の意識コントロールを行うぐらいのものなのだ。
だからこそ、この女に対象を言いなりにさせる装置を作ってもらわなくてはならない。
敵の能力を利用する。
これも強いものの特権だ。
思ったより素敵な人だわ。
穂純は目の前の男性にそういう印象を抱いた。
すらっとして背が高く、ハイヒールを履いた穂純を少し上から見つめている。
その目がとても優しい感じで、穂純は一目で気に入っていた。
肉体も無駄がなさそうで、医師というよりもスポーツマンに近い感じだ。
おそらく何かの運動をしているのは間違いないだろう。
叔父さんに言われてしぶしぶ来たけど、これはいい人と巡り会えたのかもしれないわ。
穂純はそう思い、久しぶりに胸がときめくのを感じていた。
「さあさ、後は若いもの同士で話しなさい。わしはちょっと用事があるのでこれで失礼するよ。神能君、姪をよろしく頼んだよ」
「はい、もちろんです。今日はありがとうございました」
ワゼックはそういって頭を下げる。
ターゲットに接触するために接近したが、思った以上にこちらの役に立ってくれた。
精神感応がかなり有効に効いたらしい。
そそくさと立ち去る中年男の後姿に、ワゼックは冷ややかな笑みを浮かべていた。
それからの時間は、穂純にとってはとても楽しい時間だった。
男性とお付き合いしたことなどなかった穂純は、楽しい会話と美味しいお酒と食事にすっかり魅せられていた。
最初ということもあり、あまり遅くまではという神能の紳士的な態度にも感心した穂純は、別れ際には携帯の番号とメールアドレスを交換することに何の問題も感じなかった。
- 2010/12/24(金) 19:53:18|
- 科学主任穂純
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