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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

美女仮面マリフィーヌ(3)

三日連続の「美女仮面マリフィーヌ」も今日で最後です。
お楽しみいただけますとうれしいです。

それではどうぞ。


3、
「赦せない・・・やっぱりアクノー帝国の仕業だったのね。お父さん、お母さん、それに乃莉子まで・・・なんて卑怯なの。赦さない!!」
「あらら・・・なんだか知らないけど怒ってるんだ。で、赦さないなんて言ってどうするつもり? あたしたちとやりあおうっての? 言っとくけどあたしたちは強化されているから、男だって二三人程度じゃ勝てないよ」
ギリッとこぶしを握り締めてにらんでくる姉を、こともなげに見やる妹。
「乃莉子、あなたはアクノー帝国に洗脳されているのよ。待ってて、お姉ちゃんがすぐに助けてあげる」
「助けてなんて頼んでないし。洗脳なんてされてないし。これはあたしが自分の意思で行っていることよ。お姉ちゃんに邪魔されたくないな」
「せんぱーい、いつまでおしゃべりしているんですか? さっさと殺しちゃいましょうよ」
「あたしも賛成です。こいつ、うざい」
黒いレオタードに身を包んだ二人の少女も茉莉子に冷たい視線を投げつける。
「やれるものならやってごらんなさい! 着装!」
茉莉子は両手を上に掲げてポーズをとる。
すると、彼女の周りに光が渦巻き、彼女の衣服を分解する。
一瞬すべての衣服が消滅し、茉莉子の綺麗な姿を見せつけると、今度は光の粒子が纏わりついてマリフィーヌの衣装を形成していく。
一秒にも満たないうちに、茉莉子はドミノマスクにレオタード姿という美女仮面マリフィーヌへと変身を遂げていた。
「美女仮面マリフィーヌ! ここに参上!」
マントを翻してポーズをとるマリフィーヌ。
これは一連の儀式であり、これをおこなうことで、戦いに望む気構えを作るのだ。

「うそ・・・お姉ちゃんがマリフィーヌだったなんて・・・」
目の前で姉が変身したことに驚く乃莉子。
だが、すぐに口元に笑みが浮かぶ。
「そう・・・だったら手間が省けたわ。あたしたちの次の任務はマリフィーヌをおびき出すことだったんだから」
「えっ? おびき出す?」
意外な言葉にマリフィーヌは驚く。
「そうよ。カメラカメレオン様、マリフィーヌが現れました。すぐに来て下さい」
どことも知れぬ場所に向かって声をかける乃莉子。
「ケケケケケ・・・コマンドレディノリコよ、心配するな。俺様はずっとそばについていたぞ」
「「カメラカメレオン様」」
乃莉子の声に答えるように突然声がして、三人の少女達の顔に喜びの表情が浮かぶ。

「どこ? どこなの? 姿を見せなさい!」
突然の声に周囲を探るマリフィーヌ。
「ケケケケケ・・・あわてるなマリフィーヌ。可愛い顔が台無しだぞ」
「むっ!」
背後に気配を感じ、すばやく振り返る。
すると、部屋の壁の前に突然、緑と赤の体色をした巨大なトカゲ男が現れる。
その目は二つとも突き出たカメラのレンズのようになっており、額にはストロボがついている。
「あなたがカメラカメレオンね? 保護色で隠れていたってわけ?」
「ケケケケケ・・・そういうことだ。気配すら感じなかっただろう?」
大きく裂けた口でニヤニヤと笑っているカメラカメレオン。
「さすがに隠れるのはお手の物ってわけね。でも、こうして姿を現したからにはあなたなどマリフィーヌの敵ではないわ」
グッと両手を再び高く掲げ、ロッドを手にするマリフィーヌ。
そのロッドがくるくると回転し、腰のところでぴたっと止まる。
マリフィーヌのファイティングポーズだ。
「ケケケケケ・・・それはどうかな? もっとも俺様はお前と戦うつもりはない。お前の写真を撮りたいだけだ」
そう言って両目の突き出したレンズをきらりと輝かせる。
「えっ? 写真を? そうか・・・あの娘たちはお前に写真を撮られたことでこうなったのね? 赦さないわ。あの娘たちを元に戻しなさい!」
「ケケケケケ・・・そう喚くな。いい写真が撮れないではないか」
ニタニタと笑うカメラカメレオン。
「お黙り! どうしても撮りたければ実力で撮ってみせることね。行くわよ!」
ロッドを構えてカメラカメレオンに一撃を食らわせようとするマリフィーヌ。
だが、その一撃を繰り出すことはできなかった。

「見て、お姉ちゃん」
ガシャンという音がして、横合いから声をかけられる。
とっさにその声のほうを見るマリフィーヌ。
「はっ」
思わず息を飲む。
そこには砕いたガラスのコップの破片を首に当てる乃莉子の姿があったのだ。
「乃莉子・・・あなた・・・」
「んふふ・・・ねえ、お姉ちゃん。自殺って悪いことだよね。あたし悪いこと大好きなんだ。お姉ちゃんがそのままカメラカメレオン様と戦うなら、あたし自殺しちゃおっかな」
破片の先が首筋に当たり、そこからつうっと血が垂れる。
「乃莉子、やめて! あなたまで失ったら・・・私は・・・」
必死に止めようとするマリフィーヌ。
それはただ妹を心配する姉に他ならない。
「だったらおとなしくしてよ。いいじゃない。一枚ぐらい写真撮られたって」
「ああ・・・でも・・・」
ニヤニヤと笑っているカメラカメレオンに目をやるマリフィーヌ。
どういうことかはわからないが、写真を撮られてはいけないに違いない。
どうしたらいいの・・・

「ケケケケケ・・・いいねぇその憂いを帯びた表情。一枚いただくよ。はい、チーズ!」
カメラカメレオンの両目のレンズが焦点を合わせる。
「あっ、だめ!」
思わず両手で顔を覆うマリフィーヌ。
バシャッというシャッター音とともに、室内が明るく照らされる。
カメラカメレオンの額のストロボが光ったのだ。
「ケケケケケ・・・顔を覆ったって無駄なことさ。俺様のカメラは心を写すんだからな」
ストロボの残光が収まると、そこには顔を覆ったポーズのまま動かなくなってしまったマリフィーヌが立っていた。
「うまく行きましたね、カメラカメレオン様」
ガラスの破片を投げ捨て、カメラカメレオンに近づいていく乃莉子たち。
「よくやったぞ、コマンドレディノリコよ。お前のおかげでシャッターチャンスができた」
「ありがとうございます。カメラカメレオン様」
褒められたことでとてもうれしくなる乃莉子。
こんなことぐらいならお安い御用なのだ。

「んあー」
奇妙な音を立ててカメラカメレオンの口から写真が吐き出される。
「うん、よく撮れているよく撮れている」
その写真を手に思わず自画自賛するカメラカメレオン。
赤やオレンジに彩られた写真は、まさにマリフィーヌの正義の心を写し取ったものだ。
「ケケケケケ・・・コマンドレディノリコよ、そこにあるライターでこの写真を燃やしてしまえ」
「はい、カメラカメレオン様」
テーブルの上にあったライターを取り、受け取った写真に火をつける乃莉子。
火はあっという間に燃え広がり、マリフィーヌの正義の心を燃やしていく。
冷たい笑みを浮かべる乃莉子は、写真が真っ黒に燃え尽きると足元に落としてその燃えカスを踏みつけた。
「んふふ・・・これでマリフィーヌも悪いことが大好きな女になるわね」
「ケケケケケ・・・そういうことだな。おい、いつまで固まっている!」
乃莉子の足元でぼろぼろになった写真の燃えカスを見て取ったカメラカメレオンは、いまだショックで動けずにいたマリフィーヌの元へと歩み寄った。

「う・・・はっ、えっ?」
ピクッと躰を震わせて両腕を下ろすマリフィーヌ。
その目の焦点がじょじょに合ってくる。
「ケケケケケ・・・気分はどうかな、マリフィーヌ?」
なれなれしく声をかけてくるカメラカメレオンに、マリフィーヌはじろっときついまなざしを向ける。
だが、すぐにその口元には笑みが浮かんだ。
「ふふふ・・・悪くはないわ。なんだか解放されたような気分。いい気分と言ってもいいわね」
眼差しも柔らかくなり、妖艶さを漂わせ始めている。
「それで私に何をさせてくれるの? 楽しませてくれるんでしょうね?」
「ケケケケケ・・・それはキサーイ博士やコー・ワモテ将軍次第だな」
カメラカメレオンがマリフィーヌの変化に満足する。
「そう・・・じゃ、さっさとアジトへ案内してちょうだい。今日から私もアクノー帝国に参加するわ。悪いことがいっぱいできて面白そうだもの」
小悪魔のように微笑み舌なめずりをするマリフィーヌ。
そこに先ほどまでの正義のヒロインの面影はなかった。

                   ******

「なんと・・・これがあのマリフィーヌだというのか?」
「おうおう、とてもよく似合っておるわい。まさに悪の女といった格好じゃ」
コー・ワモテ将軍もキサーイ博士も目を丸くする。
「んふふ・・・ありがと」
そう言って二人の目の前に立っている女は、細長いシガレットホルダーに取り付けられたタバコを真っ赤に塗られた唇で吸っていく。
「ふう・・・うふふふ・・・いい気分だわぁ。前からこんな格好をしてみたかったのよね」
その声はまさに美女仮面マリフィーヌの声に間違いないものであったが、その姿はまったく違っている。
今の彼女は、蝶が羽根を広げたような形をした派手なバタフライマスクを顔につけ、紫色のアイシャドウをした目を妖しく覗かせている。
唇は塗れたように赤く、まるで熟れた果実のようだ。
躰には胸とおへそをむき出しにした黒エナメルのボンデージを身につけ、網タイツを穿いた脚には膝上までの黒エナメルのブーツが輝いている。
手にも黒エナメルのグローブを嵌め、先端の火の付いたタバコをさしたシガレットホルダーを持っていた。
背中には黒いマントが翻り、全体を引き締めている。
まさに漆黒の妖艶な美女であり、SMの女王様のような格好でもあった。
「まさかあの美女仮面マリフィーヌが、こうまで変わるとはな・・・」
コー・ワモテ将軍も目の前の姿に驚きを隠せない。
「確かにのう、結構いろいろと心の中に溜め込んでおったのではないかな? 今のマリフィーヌは美女仮面ではなく悪女仮面と言ったところじゃろうて」
キサーイ博士もマリフィーヌの変化に驚くとともに満足する。
カメラカメレオンはいい働きをしてくれたのだ。
これで恐るべき敵が頼もしい味方になったというもの。
アクノー帝国の未来も明るいというものだ。
「うふふふ・・・ふう・・・ええ、そうね。私は悪女仮面マリフィーヌ。これからは悪いことをたっぷりと楽しませてもらうわぁ」
美味しそうにタバコの煙を吐きながら、悪女仮面へと生まれ変わったマリフィーヌは妖しく微笑む。
「うむうむ・・・好きにするがいい」
「うふふ・・・アクノー帝国のあなたがたには感謝しているわ。私の心から正しい心などというわずらわしいものを取り去ってくれたんですもの。うそで塗り固めた以前の私はもういない。これからは思う存分好きなことをするの。まずはあの男を・・・うふふふふ・・・」

                   ******

「うわぁっ! な、なんなんだ、いったい?」
いきなり現れたバタフライマスクに黒エナメルのボンデージ姿の女性に壁に叩きつけられる白幡洋。
「んふふふ・・・こんばんは、あなた。愛する妻の顔をお忘れなのかしら?」
「ぐふっ!」
起き上がろうとした洋に、ハイヒールのブーツのかかとが腹に押し込まれる。
「ば、バカな・・・茉莉子なのか?」
「ええ、そうよ。あなたの妻の白幡茉莉子よ。こんな仮面をしているからわからなかった?」
バタフライマスクの下で冷たく微笑むマリフィーヌ。
「ど、どうして? いったい?」
「あなたのモラハラにはもう愛想が尽きたの。それに私はアクノー帝国のおかげで生まれ変わったわ。もうあなたのようなクズは必要ないのよ」
グッとかかとに体重をかけるマリフィーヌ。
先のとがったピンヒールが洋の腹部を圧迫する。
「ぐ、ぐあっ」
「あはははは・・・いい声で鳴くのねぇ。もっと聞かせてもらおうかしら」
「や、やめろ・・・こんなことしてタダで・・・」
「タダですまないのはそっちでしょ? わかっているの? 自分の立場が」
ぐいぐいとヒールを押し付けるマリフィーヌ。
「や、やめ・・・やめてくれ・・・頼む」
「やめてください・・・でしょ? クズは口の聞きかたも知らないのね」
「や、やめてください・・・」
ヒールの痛みに耐えかね、許しを請う洋。
だが、マリフィーヌは冷たく笑って言い放つ。
「い、や、よ。うふふふ・・・あんたもしかして私に踏まれてチンポおっ勃てているんじゃない?」
「ぐ、ぐはっ・・・そ、そんなことあるわけが・・・」
ヒールがさらに食い込んだことで、洋の躰に激痛が走る。
「まあいいわ。どの道あんたには死んでもらうの。最初は緑の紙を渡そうかとも思ったけれど、どうせなら夫のまま死んでもらって保険金もらったほうがいいものね」
悪魔のように冷酷な目で夫を見下ろしているマリフィーヌ。
「ま、茉莉子・・・お前・・・」
「安心して。最近はアクノー帝国の被害者にも保険金が出るのよ。事故や災害といっしょなの。あんた一人を殺したら変かもしれないけれど、このあたり一帯を殺せばアクノー帝国の無差別殺戮になるでしょ?」
「ば・・・バカな・・・」
真っ青になる洋。
この女は俺を殺すために近所も皆殺しにするつもりなのか?

「お姉ちゃん、こっちは終わったよ」
可愛らしい声がして、三人の少女達が入ってくる。
いずれもまだ高校生ぐらいの娘だが、三人ともみな黒いレオタードを着ているのが一種異様だった。
「の、乃莉ちゃん・・・」
「お義兄さんこんばんは。もうすぐさようならだね。お姉ちゃんにちゃんと殺されてね」
可愛らしく手を振ってくる義理の妹。
だが、その表情は冷たかった。
「ご苦労様、コマンドレディノリコ。それにコマンドレディミカ、コマンドレディマナミも」
振り返って三人の少女達をねぎらうマリフィーヌ。
まさに三人の侍女を従える女王といった趣だ。
「うふふふ・・・ねえ、あなた。人を殺すのって楽しいのよ。私も最近知ったの。これからはどんどん悪いことをするわ。私は悪女仮面マリフィーヌなんですもの」
「悪女仮面・・・マリフィーヌ・・・」
「ええ、そうよ。それじゃね、あ、な、た」
スッと脚を引き、そのまま洋の顔面に向かって蹴りを入れる。
後頭部が壁に叩きつけられて血しぶきが飛ぶ。
そしてそのまま胸に向かって再度振り下ろされた脚が、洋の心臓を踏み抜いた。

「うふふふふ・・・」
絶命した洋を見下ろして満足そうに笑うマリフィーヌ。
「これで私はもう自由。あとはアクノー帝国のもとで楽しく暮らすのよ。あはははは・・・」
口元に手の甲を当てて高笑いをするマリフィーヌ。
その楽しそうな笑いが、主を失った家の中で響いていた。

END


いかがでしたでしょうか?
モラハラ旦那に束縛されている人妻ヒロインを目指したんですが、あんまりうまく機能しなかったような気もします。
次回はもう少し腕を上げたいと思います。
今回もお読みいただきましてありがとうございました。

それではまた。
  1. 2010/08/04(水) 21:15:41|
  2. 美女仮面マリフィーヌ
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美女仮面マリフィーヌ(2)

「美女仮面マリフィーヌ」の二回目です。

それではどうぞ。


2、
「ん・・・」
薄暗い中で目を覚ます乃莉子。
冷んやりした空気が頬を撫でる。
腰を床に下ろして両足は投げ出されているものの、両手は頭の上で吊るされているらしく、どうやら囚われの身であることは間違いない。

「目を覚ましたようじゃな」
ぬっと姿を表す白衣の老人。
めがね型のゴーグルをかけ、頭からはいろいろな機械が突き出して明滅しているという不気味な老人だ。
「ひっ」
思わず乃莉子は声を上げる。
「怖がらんでよい。まったく、あやつは手加減を知らん」
「ふん・・・お前が女子(おなご)がいいというからこの娘を連れてきたのだ。だいたいこんな小娘をどうするつもりだ」
老人の背後から姿を表したのは、紛れも無く自分を殴ったあの甲冑を着た男だった。
「実験するなら可愛い女子のほうがいいに決まっておろうが。もしかして将軍は男の子が好みじゃったかな?」
「バカを言うでない」
ムッとした表情を浮かべるコー・ワモテ。
どうもこの老人とはウマが合わないのかもしれない。

「で、実験とは?」
「うむ、先日言っていたカメラが完成したのでな。この娘で実験してみるのじゃ」
ニタリと笑うキサーイ博士。
その様子に乃莉子は背筋が凍りついた。
「実験って、私をどうするつもりなんですか? そもそもあなたがたは何なんですか?」
「おや、気がついてなかったのかい? 我らはアクノー帝国の一員じゃ。こちらがコー・ワモテ将軍。ワシはキサーイ博士じゃ。よろしくな」
「アクノー帝国・・・そんな」
最近ニュースでもしばしば取り上げられる謎の組織だ。
さまざまな悪事をおこなう暴力集団らしいが、警察も対応できずに苦慮しているとか。
乃莉子は言葉が出なかった。

「カメラカメレオン、略してカメラオンよ、来るがいい」
キサーイ博士が呼び出すと、突然コー・ワモテ将軍の隣に緑に赤の混じった体色のトカゲのような怪人が現れる。
「何? いつの間に」
いきなり隣に現れたことにコー・ワモテまでもが驚いていた。
「ふん、最初からいたわい。こいつはカメレオンの魔怪人じゃでな、保護色で姿を消すのは得意というわけじゃ」
「ケケケケケ・・・キサーイ博士、お呼びにより姿を現しましたが、略すのはちょっと・・・」
両目がまるで一眼レフカメラのレンズのようになっており、額の位置にはストロボが、後頭部にはファインダーまでついているカメラ型の頭部を持つカメラカメレオンが膝を折る。
「ええい、お前などカメラオンで充分じゃ。さあ、お前の力を見せてみろ。この娘から道徳心や良心を写し取ってしまうのだ」
「ケケケケケ・・・お任せあれ」
カメラカメレオンはすっくと立ち上がると、怯えて身をすくませている乃莉子のほうへと近づいた。
「ああ・・・いやぁ・・・来ないでぇ」
「ケケケケケ・・・怖がることはないよお嬢ちゃん。笑って笑ってー。はい、チーズ」
バシャッというシャッター音と同時にストロボが光り、乃莉子の姿を浮き上がらせた。
「あ・・・」
その瞬間、まるで何か衝撃を受けたかのように身動きをしなくなってしまう乃莉子。
その目は焦点を失い、呆けてしまったようにも見えた。

「む? いったいどうしたというのだ?」
「まあ、黙って見ておれと言うに」
いぶかしげにする将軍を尻目に、キサーイ博士はニヤニヤと笑っている。
「んあー」
やがて妙な声を出して、カメラカメレオンの口から一枚の写真が出てくる。
それはまるでポラロイドカメラが写真を吐き出す様子にそっくりだった。
「どれどれ、うまく写っておるかの?」
カメラカメレオンの舌が伸びて写した写真をキサーイ博士に渡す。
「ふむ、これは綺麗な写真じゃ」
満足そうにカメラカメレオンが写した写真を眺めるキサーイ博士。
その様子に思わずコー・ワモテ将軍も横から写真を覗きこむ。
「こらこら、そんなことせんでもちゃんと見せるわい」
キサーイ博士が持っていた写真を手渡すと、そこには淡いオレンジ色の綺麗な球体がいくつも浮かんでいるような写真だった。
「なんだ、これは? あの娘を写したのではないのか?」
渡された写真と呆けている娘があまりにもかけ離れていることに驚くコー・ワモテ将軍。
いったいこれは何を写した写真なのだろう。

「もちろんあの娘を写したのじゃよ。どうじゃ、その写真の綺麗なこと。あの娘はとても綺麗で正しい心を持っているようじゃて」
「綺麗で正しい心? まさか・・・」
驚いたように写真を見つめなおすコー・ワモテ将軍。
「以前言ったじゃろが。昔の人間は写真を写されると魂を抜かれると言ったものだと。その言葉にヒントをいただいたのじゃ」
「するとこれは・・・あの娘の魂だとでも言うのか?」
「正確にはあの娘の道徳心や良心といった正しい心じゃな。カメラカメレオンはそれをあの娘の中から写し取ったのじゃよ」
コー・ワモテ将軍から写真を取り戻し、不気味にほくそえむキサーイ博士。
「写し取った? するとあの娘の中は空っぽになったのか?」
「空っぽではないのう。あの娘の中にあるどす黒い汚れた邪悪な心は残っておるよ。ホンのわずかしかないようじゃがな。だが・・・」
「だが?」
「今はまだあの娘に結びついているが、ここに写っている正しい心を燃やしてしまえばどうなるかのう」
「なんと・・・」
コー・ワモテ将軍は絶句する。
写し取った正しい心を燃やしてしまうというのか。
「おそらく正しい心を失ったあの娘の中では、歯止めを失った邪悪な心が膨れ上がってあの娘の心を満たすはずじゃ。そうなればあの娘は悪いことが大好きな邪悪な娘になるじゃろうて。ククククク・・・」
笑いながらポケットから百円ライターを取り出すキサーイ博士。
そして手にした写真に火をつけようとする。
「ん・・・んっ・・・んっんっんっ・・・ん?」
だが、何度ホイールを回しても火花が散るだけで、ライターにはいっこうに火がつかない。
「むぅ・・・」
あきらめて他のライターがないか白衣のポケットを探り始めるキサーイ博士。
「ほら」
見かねて自分のライターを差し出すコー・ワモテ将軍。
「ふん、あるのならさっさと出すもんじゃ」
キサーイ博士はライターを受け取ると、そのまま火をつけて手にした写真を燃やしていく。
写真は青白い炎を上げて燃えていってしまった。

「これでいいはずじゃ。おい、小娘。しっかりするのじゃ」
燃えカスとなった写真を足元に捨て、靴で踏みにじるキサーイ博士。
燃えカスとはいえ正しい心を踏みにじるというのも気持ちがいいものだ。
「ん・・・」
ぼんやりとしていた乃莉子の目が、やがて焦点をあわせていく。
「あ・・・あれ? 私・・・いったい・・・」
正気に返ったかのようにきょろきょろと周りを見渡す乃莉子。
「意識が戻ったようじゃな。どうかな、気分は?」
「えっ? あ・・・」
キサーイ博士に声をかけられ、とたんに乃莉子の口元に歪んだ笑みが浮かぶ。
「そっか、私、アクノー帝国に捕らえられていたんだっけ・・・ねえ、逃げたりしないからこの手を解いてくれない?」
「む、よかろう」
キサーイ博士が乃莉子の戒めを解いてやる。
「ありがと。ねえ、アクノー帝国って悪いことするんでしょ? 私も仲間に入れて欲しいなぁ。なんだかすっごく悪いことがしたくなっちゃった」
両手の手首をさすりながら、乃莉子は邪悪な笑みを浮かべている。
「ほう・・・なるほど・・・」
先ほどとは雰囲気が変わった少女にコー・ワモテ将軍も驚きを隠せない。
「よいのかな? いろいろと命令に従ってもらうかも知れんぞ」
ニタニタと笑っているキサーイ博士。
実験は大成功なのだ。
もはやこの娘の心は真っ黒に染まっているに違いない。
「それぐらいは仕方ないかな。でも、まずは好きにやらせて欲しいの。すっごく殺しちゃいたいやつがいるのよ。そいつらを殺せたら、とっても気持ちいいと思うんだ」
今までの乃莉子からは考えもつかない言葉が飛び出してくる。
「ほう、誰を殺したいんじゃ?」
「クソオヤジとクソババァよ。それと学校にいけ好かない先公がいるの。もうぶっ殺してやりたいわ」
苦々しく吐き捨てる少女に、将軍と博士の二人は顔を見合わせてにやりと笑う。
「いいだろう。お前の好きにさせてやる」
「本当? やったぁ」
目を輝かせる乃莉子。
「そうじゃのう。それじゃやりやすいように、お前さんの肉体を少し強化してやるとするかな」
キサーイ博士は自慢の薬品棚に手を伸ばし、一つの薬ビンを取り出すのだった。

                   ******

「離して、お願いだから離して」
腕をがっちりと掴む夫の手を振り切って外へ飛び出そうとする茉莉子。
「だめだ。どこへ行くつもりなんだ? 当てでもあるというのかい?」
今にも玄関から出て行ってしまいそうな妻の腕を、夫は掴んで離さない。
「当ては・・・当ては・・・」
はっとしたように夫の顔を見る茉莉子。
確かに当てなどないのだ。
だが、家でじっとしているなんて耐えられるものではない。
「乃莉ちゃんなら大丈夫だ。警察に任せておけばいい。どうせボーイフレンドのところにでも行っているんだろう」
乃莉子がいなくなって今日で三日目の夜になる。
その間連絡もなく携帯もつながらない。
ボーイフレンドのところ?
そんなはずあるわけがない。
最後の学園祭に向けてがんばっていたのだ。
家出なんて考えられるわけがない。
「でも・・・あの娘が三日も連絡なしだなんて考えられない。きっと何か事件に・・・」
そう・・・
事件に巻き込まれたに違いないのだ。
それがもしアクノー帝国の仕業だったとしたら・・・
「そうだとしても茉莉子に何ができるというんだ? 君は僕のそばから離れてはいけないんだ。君は僕だけの奥さんなんだよ。家族のことなんてどうでもいいじゃないか。警察に任せておくんだ」
「そんな・・・あなた・・・本気で?」
茉莉子は愕然とする。
家族がどうでもいい存在だなんて信じられない。
「あなた・・・」
「どうしても出かけるというなら離婚だよ。それは君だっていやだろう? 君は僕無しじゃ生きていけないんだからね」
冷たく笑っている夫の顔。
茉莉子は初めて夫が恐ろしく感じていた。

「ごめんなさい、あなた」
意を決して夫の手を振り解く茉莉子。
そのまま玄関へ駆け込んで靴を履く。
「な、なんだよ! ふざけんなよ! 誰がお前を養っていると思っているんだよ! そんなに家族が大事なら家族のところへ行っちゃえよ! もう帰ってきたって二度と家には入れてやらないからな!!」
夫の罵声を背中に浴びながら外へ駆け出す茉莉子。
今までさんざん尽くしてきたつもりだったのに・・・
愛されていたと思っていたのは幻想だったのだろうか。
でも、今は一刻も早く乃莉子を見つけたい。
乃莉子さえ見つかれば、洋さんに謝って赦してもらうことができるかもしれない。
茉莉子は一度実家に戻ることにする。
父と母なら何か情報を持っているかもしれない。
それがちょっとしたことで、父と母は気がついていないだけなのかもしれないのだ。
とにかく今は一度両親に会いに行こう。
茉莉子はそう思い、やって来たバスに乗り込んだ。

               ******

「ただいま、お母さん。乃莉子のこと何かわかった?」
そう言って勢いよく玄関を開けた手がはたと止まる。
何かがおかしい。
何かが変だと研ぎ澄まされた神経が感じているのだ。
明かりはついているのに静かな室内。
玄関に誰かが出てくる様子はない。
もしかして父も母も乃莉子を探しに行っているのかもしれないが、それにしては雰囲気が変だ。
茉莉子はそっと靴を脱ぐと、ストッキングの脚でそっと床を踏みしめた。

「ひっ」
思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
リビングに入った茉莉子は、そこで床の血溜まりの中に倒れている父の姿を見つけたのだ。
「お父さん!」
思わず駆け寄って抱え起こすが、父親はすでに事切れていた。
「お父さん・・・どうして・・・」
あまりのことにショックで言葉も出ない。
無残にも首をへし折られた挙句、胸から心臓を抉り出すという凄まじい殺し方。
尋常な殺人ではない。
「いったい誰が・・・」
茉莉子はショックで胸を押しつぶされそうになりながらも、誰がこんなことをしたのか考えていた。

「あら、お姉ちゃん帰ってきたんだ。タイミング悪ーい」
背後から聞きなれた声がする。
その声に無事でいてくれたことでホッとしたものを感じたものの、とても冷たさをにじませていることに驚きも感じていた。
「乃莉子、無事だったのね? の、乃莉子?」
父親をそっと床に横たえ、立ち上がって振り返った茉莉子の目に、普段とはまったく違う乃莉子の姿が映る。
ニヤニヤと冷たく笑っているその目元には濃い目のアイシャドウが塗られ、唇には黒い口紅が塗られている。
何より衣装も普通じゃなく、黒いレオタードを着込んだ上に赤いサッシュを腰に巻き、室内だというのに黒い膝下までのブーツを履いていたのだ。
「乃莉子・・・あなたいったい・・・お母さんは? お母さんはどこ?」
「うふふ・・・あのクソババァなら二階で死んでるよ。悲鳴上げられないように最初に喉つぶしてさ。首折って心臓抉ってやった。感謝して欲しいな。クソオヤジと一緒の死に方させてやったんだからさ」
ケラケラと笑っている乃莉子。
まるでゲームでもして楽しんだかのようだ。
「乃莉子・・・」
茉莉子はあまりのことに何も言葉が出なかった。

「せんぱーい、こっちは終わりましたよ。人を殺すって楽しいですねぇ。あれ? その女は誰なんですか?」
乃莉子の背後に二人の少女が現れる。
二人とも乃莉子と同じようなレオタード姿をして、やはり冷たい笑みを浮かべていた。
「ああ、うちのお姉ちゃん。バカだよねー。こんなときに帰ってきちゃうなんてさ。あのモラハラ義兄に媚び売っていればいいのにさ」
ニヤニヤと笑いながら二人に言う乃莉子。
そこには姉に対する思いなど微塵もない。
「その二人は?」
茉莉子が乃莉子に背後の二人の事を訊く。
「んふふ・・・あたしの後輩だよ。二人ともやさしくておしとやかで反吐が出そうなぐらいいい人だったからさ。なんだかむちゃくちゃ気に食わなくなっちゃったから、カメラカメレオン様にお願いして二人のいい心ってやつを抜き取って燃やしちゃったの」
「いい心を抜き取って燃やした?」
どういう意味なのだろう?
カメラカメレオン?
まさか・・・
「そうだよ。そしたら二人ともいい感じに悪いことが大好きな娘になったから、キサーイ博士がこの娘たちも強化してくれたの。今のあたしたちはアクノー帝国のコマンドレディなんだよ」
「んふふ・・・せんぱーい、この人どうするんですか? もちろん始末するんですよね。だったらあたしにやらせてくれません? 隣の家ジジィとババァしかいなくてつまらなかったんです」
「ミカばかりずるいわよ。あたしもまだ殺し足りないんだからね」
乃莉子の背後にいる二人がペロッと舌なめずりをする。
茉莉子は唇を噛み締めた。
やっぱりアクノー帝国が絡んでいたのだ。
まさかこんなことになってしまうなんて・・・
  1. 2010/08/03(火) 21:05:56|
  2. 美女仮面マリフィーヌ
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美女仮面マリフィーヌ(1)

お待たせいたしました。
今日から三日連続でSSを一本投下させていただきます。

丸五年連続更新達成記念と230万ヒット達成記念としては、少々物足りない長さかもしれませんが、そこはどうかご容赦くださいませ。

今回のタイトルは、「美女仮面マリフィーヌ」です。
お楽しみいただければ幸いです。
それではどうぞ。


1、
「きゃぁー!!」
静かな夜の通りに悲鳴が響き渡る。
「グフフフフ・・・そう怖がることはない。俺様はアクノー帝国の魔怪人ファンダロス。俺様の腹にあるファンでお前を吸い込みばらばらにしてやろう」
目の前に現れた異形の化け物に思わず腰を抜かしてしまった会社帰りの女性に対し、なぜか犬の頭をしてお腹の真ん中を円形のプロペラ換気扇が回っているモンスターがそう言い放つ。
彼こそが地上侵略をたくらむアクノー帝国の放った魔怪人ファンダロスであり、その腹部のファンはいかなるものも吸い込んで切り刻んでしまう殺人ファンなのだ。

「い・・・いや・・・お願い、助けて」
這いずるようにして異形の化け物から距離をとろうとする女性。
着ているスーツは汚れ、穿いているストッキングも足を引きずったことで伝線してしまっている。
「グフフフフ・・・命乞いか? 無駄なことだ。さあ、俺様のファンに吸い込まれてしまうがいい」
ギューンと音を立て、ファンダロスの腹部にぽっかり空いた穴の中のプロペラが高速で回り始める。
「ああ・・・いやぁ」
たちまち周囲の空気が吸い込まれていき、女性もその勢いに吸い込まれそうになる。
路上の石などが吸い込まれ、プロペラに切り刻まれてチリになって行くのが女性の目にも見えていた。
「誰かぁ、助けてぇ!」
必死で叫ぶ女性。
だが、アクノー帝国の魔怪人の恐ろしさを知っている人々は、誰も外に出てこようとはしなかった。

「待ちなさい!」
そのとき別の声が夜空に響く。
「むっ? 何やつ?」
思わずファンダロスは犬の形の頭をめぐらして声の主を探す。
このアクノー帝国の魔怪人に待ったをかけるとは生意気なやつだ。
お仕置きをしてやらねばな。
ファンダロスはそう思う。

「私はここです。この犬頭!」
ファンダロスが声のするほうに頭を上げる。
すると、近くの五階建てほどの雑居ビルの屋上に、夜空を背景にして一人の人物が立っていた。
「むむ、貴様はまさか・・・」
暗くてその姿ははっきりしないが、ファンダロスの目にはその人物が女であるように映る。
やがて翳っていた月が姿を現してその人物の姿をはっきりと映し出すと、ファンダロスは自分の想像が悪いほうに当たったことを知った。
「ゲゲッ、貴様は美女仮面マリフィーヌ!」
そこに立っていたのは、仮面舞踏会などで使われる目の周りだけを隠すアイマスク、いわゆるドミノマスクを着け、ピンクに白のラインのレオタードを着て膝までのロングブーツを履き、白いマントを身につけた一人の女性だったのだ。

「私のことを知っているとは光栄だわ。だったら私の実力も知っているわよね。おとなしく自分の巣、アクノー帝国のアジトに帰りなさい!」
ドミノマスクの女性は高らかに言い放つ。
これまでも数々のアクノー帝国の魔怪人を倒してきた実績が彼女の自信の源だ。
「グフフフフ・・・巣に帰れと言われて、はいそうですかと帰る2チャンネラーがいるものか。ちょうどいい。わがファンでお前を切り刻んでやる」
ファンダロスは不適に笑うと、腹部のファンをビルの屋上に向けた。
「おろかな。その判断が過ちであることを己の身で味わうがいい」
マリフィーヌはすばやくジャンプすると、空中で一回転してファンダロスの背後に回りこむ。
「な、なにぃ?」
距離的に相当あったはずなのに、一瞬にして背後をとられたことに愕然とするファンダロス。
「やぁっ!」
背中からマリフィーヌに蹴りを入れられ、思わず前のめりに倒れこむ。

「おのれぇ・・・赦さん!」
さすがにアクノー帝国の魔怪人であるファンダロスは、すばやく立ち上がると、その鋭い爪でマリフィーヌを傷つける。
「キャッ」
豊かな胸をかすめた爪がピンクのレオタードを引き裂き、乳房に一筋血がにじむ。
「グフフフ・・・伊達に犬型の魔怪人なわけじゃねえぜ。俺様のフルネームはハウンズ・オブ・ファンダロスというんだからな」
「どこぞのクトゥルフモンスターのパクリってわけね。でも私を傷つけたことを後悔させてあげるわ。マリフィーヌロッド!」
一歩距離をとると、マリフィーヌは両手を高く掲げ、頭上に一本のロッドを作り出す。
「さあ、覚悟しなさい! 決定的な実力差というものを思い知らせてあげるわ」
ロッドを構え、ファンダロスに対峙するマリフィーヌ。
「しゃらくさい!!」
爪とキバをむき出しにして、ファンダロスはマリフィーヌに飛びかかった。

                   ******

「で、結果はこのありさまか・・・」
大型モニターの前で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる二人の男。
一人はまだ若く精悍な顔つきの男で、全身をメタリックのフルアーマーで覆っている。
アクノー帝国のコー・ワモテ将軍だ。
皇帝陛下より実戦指揮を任されている。
「まさかロッドをファンの間にはさみこんで放り投げてくるとは思わなんだ。意外と怪力な女子(おなご)じゃて」
白衣を着た老人はキサーイ博士。
アクノー帝国の鬼才であり、地上侵略の尖兵である魔怪人を作り出す能力に長けている。
その目はめがね型のゴーグルになっており、頭からはさまざまな機械がむき出しになって明滅していた。
「そのようなことはどうでもいい! 何だあのざまは! これこそ最高の魔怪人だと言ったではないか!」
「ええい、マリフィーヌの能力を少しだけ見誤っただけじゃ! 見ておれ、次回こそは・・・」
「そのセリフは聞き飽きたわ! このままでは我ら二人とも皇帝陛下に顔向けができんぞ」
背後の壁に作られた悪魔のレリーフに目をやるコー・ワモテ将軍。
その額に冷や汗が浮かぶ。
「わかっておる。何とかせねばのう・・・何とかせねば・・・」
キサーイ博士の額にも、同じように冷や汗が流れていた。

                   ******

「ふう・・・今回もどうにか勝てたわね。あの女の人も無事にすんだし、めでたしめでたしかな」
ファンダロスを打ち破り、わらわらと沸いてでてきた野次馬をかわすようにして身を隠したマリフィーヌは、物陰で変身を解くと、どこにでもいるごく普通の若い主婦としての姿にもどる。
アクノー帝国の野望を打ち砕く正義のヒロイン美女仮面マリフィーヌは、平凡な一主婦白幡茉莉子(しらはた まりこ)だったのだ。
「いけない、こんな時間だわ。早く帰らなくちゃ。また洋(ひろし)さんに怒られちゃう」
時計を見て急ぎ足で自宅へ向かう茉莉子。
そのエプロン姿は近所にちょっと出かけた主婦そのものだ。

「た・・・ただいま・・・」
玄関をそっと開ける。
できれば夫がまだ帰ってきていないほうがいい。
そんな思いは玄関に脱ぎ散らかされた靴を見て吹き飛んだ。
「はあ・・・」
覚悟を決めてリビングに向かう。
「どこへ行ってたんだ!」
はたしてリビングに入ったとたん、夫の怒声が響き渡った。
「ご、ごめんなさい。ちょっとお醤油を切らしちゃったものだから・・・」
茉莉子は片手に下げたコンビニの袋をそっと見せる。
「またか! 君はいつも何かを切らしているな。そんなことで主婦が勤まると思っているのか?」
「ご、ごめんなさい。今度は気をつけるから」
肩をすくめる茉莉子。
夫の洋はちょっと束縛がきついところがある。
だが、根は優しい人なので、茉莉子も我慢して聞いていた。
「謝ればいいというものじゃない。こんな時間に出歩いて何かあったらどうするつもりだ? 変質者にでも襲われてみろ! どうなるかわかるだろう!」
「ごめんなさい。でも明るい道だし・・・」
茉莉子の頬を張る音が響く。
「口答えするな! お前は俺の言うとおりにしていればいいんだ。俺が養ってやっているのを忘れるな!」
「・・・はい」
叩かれた頬を押さえ、茉莉子は口をつぐんだ。
「・・・・・・ああ、すまない。ごめんよ。痛かっただろう」
すぐに洋が茉莉子を優しく抱きしめる。
「茉莉子が悪いんだよ。僕に心配をかけるから。だから僕はちょっとお仕置きをしたんだ。わかるよね」
「ええ・・・」
茉莉子もそっと夫を抱きしめる。
少し行き過ぎのきらいはあるが、これがこの人なりの愛し方なんだと茉莉子は思っていた。
「さあ、僕はお風呂に入ってくるよ。茉莉子は美味しいものを作ってくれ。いいね」
「ええ、あなた」
茉莉子は優しく微笑むと、風呂に向かう夫の背中を見送った。

                    ******

「何をしておるのだ?」
自らの研究室に閉じこもり、なにやらごそごそとやっているキサーイ博士の元に顔を出すコー・ワモテ将軍。
「何って、次の魔怪人の研究じゃよ」
わざわざ呼びもしないのにやって来たフルアーマーのいかつい男をチラッと見やり、すぐに手元に目を戻すキサーイ博士。
「それはわかっておる。今度はどんな魔怪人にするつもりかと訊いているのだ」
ムッとした表情を浮かべるコー・ワモテ将軍。
「将軍はカメラというものをご存知かな?」
キサーイ博士が振り返ってにやりと笑う。
「む? バカにするな。カメラぐらい知っておる」
「クヒヒ・・・ではカメラにまつわる俗説は知っておるかの?」
ニタニタと笑うキサーイ博士。
何を考えているのか不気味この上ない笑みだ。
「俗説? そんなものは知らんが・・・」
「昔の人は言ったものじゃ。カメラで写真を撮られると、魂を抜かれてしまうと」
「おお、その話なら知っておるぞ。写されると早死にするとか」
ポンと手を打つコー・ワモテー将軍。
だが、ふと首をかしげる。
「それが魔怪人と何の関係があるのだ?」
「まあ、最後まで聞くのじゃ。マリフィーヌは確かに手ごわい。じゃが、あの戦い方はどうも普通では無いような気がする。なんというか、まるでストレスをすべて魔怪人にぶつけてきているかのような・・・」
「だから、それが何の関係があるのかと聞いているのだ!」
少しいらついてしまうコー・ワモテ将軍。
老人の話は要領を得ない上に長ったらしいのが困る。
「ええい、せっかちな奴め。つまりじゃ。マリフィーヌとて、心の奥底にはなにやらどす黒いものを持っているかも知れんと言うことじゃよ」
「どす黒いものだと?」
驚いたように目を見開く将軍を前にして、キサーイ博士は不気味に笑みを浮かべている。

「そうじゃ。人間というものはみな大なり小なり心の奥底には歪んだものを持っておる。普段はそれを表に出さないようにしているがな」
「うむ、確かにそうだ」
「いわば本音と建前というか、道徳心や良心などというもので自分の心に蓋をしているわけじゃな」
「うむ」
こくんとうなずくコー・ワモテ将軍。
いつしかキサーイ博士の言葉に引き込まれている。
「その蓋を取り払ってやったらどうなるかな?」
「むぅ・・・それは互いに好き勝手なことをしはじめるのではないか?」
「そうじゃ。人間どもが道徳心や良心、正義の心などを失って好き勝手な行動をする。それは我がアクノー帝国の望むところではないかの?」
「むぅ・・・確かにそうだが・・・すると貴様はマリフィーヌの正義の心を取り払おうというのか?」
キサーイ博士の言わんとすることがようやくわかるコー・ワモテ将軍。
「そのとおりじゃよ。コー・ワモテ将軍」
「だが、だがしかし、どうやって・・・」
「そこがこのカメラの出番じゃて。ケケケケケ・・・」
手元に置かれたなにやら奇妙な装置を前に、キサーイ博士は笑っていた。

                   ******

『え~? お姉ちゃんやっぱり来られないんだ。今年は最後の学園祭だから見に来て欲しかったんだけどなぁ』
電話の向こうで落胆した声がする。
茉莉子自身も残念であるがどうしようもない。
夫の洋がいい顔をしないのだ。
男女共学の高校の学園祭に行くなどといえば、烈火のごとく怒りまくるに違いない。
襲われたらどうするつもりだと怒鳴りまくってくるだろう。
洋は茉莉子が道端で男性に道を聞かれたとしても機嫌が悪くなるのだ。
それが彼なりの愛し方だと思うと、茉莉子も無碍にはできなかった。
「ごめんね。乃莉子(のりこ)がうちに遊びに来る分にはちっともかまわないんだけど、私が外に出ることには洋さんが機嫌悪くなっちゃうから」
妹が遊びに来るのは何の問題もない。
むしろ洋も可愛い義妹に会えるのが楽しみでさえある。
だが、茉莉子が外で会うのはいい顔をしないのだ。
『お義兄さんちょっと神経質すぎるよ。お姉ちゃんを束縛しすぎだと思う』
「そんなことを言わないで。洋さんは私を心配してくれているんだから」
『違うんじゃない? お義兄さんはお姉ちゃんを誰にも見せたくないだけ。自分の物が取られるのがいやなだけよ』
「乃莉子も結婚すればわかるわよ。旦那さんの愛は時にはうっとしいぐらいのほうがいいの。洋さんは私を愛してくれているわ」
『そうかなぁ・・・あーあ、最後の舞台、見て欲しかったなぁ』
「ごめんね。今度遊びにいらっしゃい。美味しいもの用意しておくから」
『うん、楽しみにしてる。じゃーね』
最後は明るい声で電話が切れる。
妹に対してはちょっと申し訳なかったが、こればかりは仕方がない。

「電話終わった? 乃莉ちゃんからかい?」
リビングでテレビを見ていた洋が立ち上がる。
「ええ、今度遊びに来るって」
「そっかー、楽しみだね。念のため見せて」
手を差し出してくる洋。
茉莉子はいつものように携帯を差し出して、夫が着信履歴を見るのを見つめていた。
「うん。間違いなく乃莉ちゃんの番号だ。他に怪しいものもないし、合格」
何が合格なのかわからないが、ホッとする茉莉子。
「茉莉子。僕は君を守りたいんだ。わかってくれるよね。君をどこのウマの骨ともつかない奴から守りたい。君を大事にしたいからこそきついことも言うかもしれない。でも、これは僕の愛なんだ」
「ええ、わかってますわ、あなた」
茉莉子は笑顔でそう答えた。

「あーあ、やっぱりお姉ちゃんは来られないか・・・お義兄さんの顔色伺い過ぎの気もするけどなぁ」
携帯を閉じて自宅への道を歩き出す乃莉子。
秋の夜は日の暮れるのも早く、周囲はすっかり暗くなっている。
学園祭に向けての練習をしていたら遅くなってしまったのだ。
「やば、早く帰らなくちゃ」
乃莉子はセーラー服のスカートを翻し、足取りを速めようとする。
「えっ?」
いきなり目の前に影が下り、金属の甲冑を着たがっしりした男が現れる。
「ふん、小娘か。まあいい」
ずしっという重い痛みが腹部を襲い、乃莉子は意識が急速に失われていくのを感じた。
それが男に殴られたものだと理解したときには、乃莉子は闇に飲み込まれていた。
  1. 2010/08/02(月) 20:40:39|
  2. 美女仮面マリフィーヌ
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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