「ディメンザー人ヅェズー」も今日が四回目。
最終回となります。
今回はちょっと毛色の変わった感じのものになったかなという気がしますが、いかがでしたでしょうか?
それではどうぞ。
4、
「お母さん・・・」
食欲など沸きはしない。
隣のおばさんが心配しておかずを作って持ってきてくれたのだが、亮太は少し口をつけただけで残してしまった。
村雲綾子からも電話があったが、やはり今日も母は出勤していなかった。
間違いなく母はディメンザー人に連れて行かれてしまったのだ。
一刻も早く取り戻しに行きたかったが、亮太にはディメンザー人がどこにいるのかわからなかった。
相手の波動が感じられなくては、位置を知るすべが無い。
パワードボーイは常にディメンザー人の侵略に対処するだけ。
こちらから打って出ることはできなかったのだ。
それがとても悲しかった。
ディメンザー人に連れて行かれてしまった人がどうなるのか正確にはわかっていない。
ただ、二度と戻ってくることはないというのだけはわかっている。
でも、その前例をくつがえすのだ。
なんとしてもお母さんだけは取り戻して見せる。
亮太はそう固く決意していた。
「はっ?」
じわっと感じる不愉快な波動。
パワードボーイである亮太には特殊な感覚が備わっており、異次元人の活動による微妙な波動を感じることができていた。
「ディメンザー人だ」
すっくと立ち上がる亮太。
いつもなら遊びに行くような振りをしたりするのだが、今日はそんな必要はない。
もっとも、出かける亮太を見送る母の表情はいつも硬く、亮太がどこへ行くのかはわかっていただろう。
「お母さん・・・待っていて」
亮太は玄関を飛び出すと、光に包まれて変身した。
******
「おほほほほほ・・・いいわぁ。もっと暴れなさい、ヴィリザード!」
口元に手を当てて高笑いをするヅェズー。
目の前で繰り広げられている殺戮劇。
ワニのような姿の異次元獣は、その見かけによらずすばやい動きで、異空間に捕らわれた人々を爪とキバで引き裂いていく。
彼女はその様子を見ていて、心から楽しんでいたのだ。
悲鳴が上がり血しぶきが飛び散っていく。
下等な三次元人たちが何もできずに死んでいくのは、とても見ていて気持ちがいい。
まるで夫や息子とセックスをしているような快感さえ感じる。
ディメンザー人のメスとして、下等な生物の死はまさに快楽だったのだ。
「ママ、楽しい?」
異次元獣を暴れさせながら、ヴィヅズは母親となったメスに寄り添っていく。
彼女は目の前で殺されている連中と、以前の自分が同じ種だったなどとはまったく思っていないだろう。
むしろディメンザー人のメスとして三次元人に対し優越感を感じているはずだ。
以前のメスもそうだったから、おそらくこのメスもそうに違いない。
だからこそ可愛い。
このメスはボクの大事なママだ。
誰にも渡しはしない。
ボクの・・・ボクとパパだけのママなのだ。
「ええ、とても楽しいわぁ。三次元人どもの生命エネルギーをすするのもいいけれど、こうしてただ殺していくのも楽しいものねぇ」
異空間に取り込まれた人間は大勢いたが、すでにその三分の二は死んでいた。
必死になって逃げ惑う三次元人たち。
二人のディメンザー人は、それを楽しく見つめている。
「ふふふ・・・ママももうすっかりディメンザー人だね」
「ええ? いやだわヴィヅズったら。私は以前からディメンザー人のメスよ。それ以外の何者でも無いわ」
きょとんとするヅェズー。
「うん、そうだったね。ごめんねママ」
ヴィヅズは母親の手を取ると笑みを浮かべ、ギュッと大事そうに握り締めた。
「待て! ディメンザー人! これ以上は赦さないぞ」
突然漆黒の異空間を切り開いて飛び込んでくる銀色の少年。
青いラインの入った銀色のスーツを身に纏い、その頭部は銀色の仮面に覆われている。
亮太が変身したパワードボーイだ。
「くっ、またしても邪魔するのか、パワードボーイ!」
異空間に飛び込んできたパワードボーイの姿に歯噛みするヴィヅズ。
せっかくのママとの楽しいひと時を邪魔されたのだ。
こちらも赦せるものではない。
「パワードボーイ? お前が我らディメンザー人の邪魔をする憎き敵ね」
ヅェズーも現れた銀色の少年に敵意を燃やす。
私たちが楽しんでいる次元侵略を邪魔する者は、誰であろうと赦さない。
ヅェズーは心の底からそう思った。
「えっ?」
目の前にいるディメンザー人の女性に驚くパワードボーイ。
藤色とも言うべき淡い青紫色の肌をして頭には角を生やし、背中にはコウモリのような羽根が広がるその姿はまさにディメンザー人そのものなのに、その顔はパワードボーイである亮太にはとても見覚えのある顔だったのだ。
「お、お母さん・・・」
思わずパワードボーイがつぶやく。
「お母さん? おかしなことを言うものね。私はディメンザー人のメスヅェズーよ。私の息子はここにいるヴィヅズのみ。お前の母親などであるわけがないわ」
スッと傍らのヴィヅズを抱き寄せるヅェズー。
だが、その仕草は亮太を抱き寄せる母紗織のものにそっくりだった。
『ククククク・・・』
突然パワードボーイのそばで声が響く。
「誰だ!」
辺りを見回すパワードボーイ。
だが、そこには漆黒の異空間しかない。
『ククククク・・・紹介しようパワードボーイ。あのメスは我が妻にして息子ヴィヅズの母であるディメンザー人ヅェズーだ。もっとも、つい先日までは君の母親真木原紗織という三次元人のメスだったようだがな』
異空間にぼうっと現れるディメンザー人ヴィクゥズの姿。
どうやらどこからか投影されているらしい。
だが、そんなことは今のパワードボーイにはどうでもよかった。
耳にしたことがあまりにも衝撃的だったのだ。
「なんだって? お母さんが?」
『そのとおり。あのメスは貴様の母親さ。俺がお前の母親を犯し、ディメンザー人へと変えてやったのだ』
「ディメンザー人にだって?」
『そうだ。お前の母親をひいひいと善がらせてやり、たっぷりと精液を注ぎ込んでディメンザー人のメスにしてやったのさ。今では身も心も我らディメンザー人のメスとなって、三次元人どもを殺しまくって楽しんでいるよ。ハッハハハハハ・・・』
ヴィクゥズの高笑いが異空間に響く。
パワードボーイにはおぼろげにしかわからなかったが、自分の母がディメンザー人の男に穢され、ディメンザー人に変えられてしまったというのだけは理解した。
「うそだ・・・うそだーーーー!」
パワードボーイは絶叫した。
『ヅェズーよ、パワードボーイは混乱している。今のうちに始末するのだ』
投影されたヴィクゥズの映像がヅェズーのもとに近づく。
「ええ、わかりましたわあなた」
ヅェズーは口元に冷たい笑みを浮かべ、黒い唇を先が二つに分かれた舌でぺろりと舐める。
その姿の妖艶さに、ヴィヅズは思わず股間が硬くなるのを感じていた。
なんて素敵なメスだろう。
このメスはボクのママだ。
パパとボクのものだ。
誰にも渡すもんか。
ヴィヅズはそう心に誓った。
「うふふふふ・・・パワードボーイ、今楽にしてあげるわ」
黒革のロンググローブから覗く鋭く尖った爪を輝かせて歩み寄るヅェズー。
「いや、いやだ・・・お母さん・・・お母さん・・・目を覚ましてよお母さん!」
少しずつ後ずさりするパワードボーイ。
変わってしまったとはいえ、目の前にいるのは自分の母親なのだ。
顔つきだって変わらない。
自分の母親と戦うなんてできるはずもないのだ。
「お母さん、元に戻ってよ、お母さん!」
「うるさいガキねぇ。私はお前のお母さんなどではないわ。何度言ったらわかるのかしら」
冷たい笑みを浮かべながら近づいていくヅェズー。
その身がパワードボーイとの間合いに入ったと思った瞬間、彼女の右手が繰り出された。
「ぐあっ!」
左腕を押さえて後退するパワードボーイ。
すっぱりと切り裂かれたスーツから、真っ赤な血が流れ出す。
「おほほほほ・・・どうかしら、私の爪の味は。このままお前を切り刻んでやるわ」
パワードボーイの血が付いた爪を二つに分かれた舌でぺろりと舐め上げるヅェズー。
その顔にはまさに悪魔の笑みが浮かんでいた。
「お母さん・・・やめて・・・元に戻って!」
パワードボーイの言葉もむなしく、再び爪が繰り出される。
「あうっ」
とっさにかわしたものの、わき腹を一筋切り裂かれてしまう。
「お母さん・・・」
「おほほほほ・・・何を混乱しているのか知らないけれど、これがパワードボーイなの? よくも今まで私たちディメンザー人の邪魔をしてくれたものね」
手の甲を口元に当てて高笑いをするヅェズー。
「やあっ!」
ヅェズーの振上げた足がパワードボーイの腹に突き刺さる。
「がはっ!」
ブーツのヒールがめり込み、パワードボーイが蹴り飛ばされる。
そのままもんどりうって地面に叩きつけられるパワードボーイ。
「ぐ・・・」
あまりの衝撃にすぐには立ち上がれない。
「ママ、そのままそいつを殺しちゃえ」
「ええ、もちろんよヴィヅズ。すぐにこいつを始末するわ」
背後にいる“息子”に微笑み、ヅェズーは悠然とパワードボーイに歩み寄る。
腹部を押さえて苦しむパワードボーイを見下ろし、冷たい笑みを浮かべるヅェズー。
その顔が母そのものであることが、パワードボーイを絶望の淵に追いやっていた。
「お・・・かあ・・・さん・・・」
苦しい息で必死に母を呼ぶパワードボーイ。
「うふふふふ・・・死ね、パワードボーイ」
銀の少年の喉目がけて振り下ろされるヅェズーの足。
そのヒールがパワードボーイの喉を直撃する。
「ガッ・・・」
喉の骨が砕けなかったのが不思議なぐらいだったが、かろうじてパワードボーイのスーツは衝撃を受け止めていた。
だが、この一撃でスーツの機能は限界に達し、銀色の仮面が消えていく。
パワードボーイは亮太としての素顔を晒してしまうのだった。
「なかなかしぶといわね。でも、これで終わりよ。死ね! パワードボーイ!」
再び振上げられるヅェズーの足。
「おかあ・・・さん・・・もう・・・やめて・・・」
その声にヅェズーの足がぴたりと止まる。
「え? あ・・・えっ? り・・・亮太? えっ? わ・・・私はいったい?」
はっとしたように足を下ろし、亮太の顔を見下ろすヅェズー。
「私は・・・私はいったい? こ、この姿は? ああ・・・あああ・・・」
自分の両手と躰を見下ろしたあと、突然頭を抱えてしゃがみこむヅェズー。
その様子に思わずヴィヅズは駆け寄った。
「ママ、ママ、しっかりして・・・大丈夫? ママ、ママ」
「ああ・・・ああああ・・・」
頭を抱え込んだまま何かに苦しむヅェズー。
「お母さん! お母さん!」
亮太も苦しむ母に声をかける。
「うるさい! 黙れ! これはボクのママだ。ボクのママなんだ! お前になんかやるもんか!」
「いやだ。この人は僕のお母さんだ。僕のお母さんを返せ!」
にらみ合う二人の少年。
『いかん! ヴィヅズよ、ヅェズーをつれて戻るのだ。今は戻れ!』
ヴィクゥズが次元の穴を用意する。
「うん。さあママ、うちへ帰ろうね」
「え・・・ええ・・・」
よろめくように立ち上がるヅェズーを引き寄せ、次元の穴に消えていくヴィヅズ。
いまだ立ち上がれない亮太には、二人を追う力は残っていなかった。
「お母さん・・・行かないで・・・お母さーーーん」
消えていく異空間に亮太の叫び声が響き渡る。
だが、ディメンザー人の少年に連れ去られた母は、振り返りもせずに消えて行った。
「くそっ!」
握ったこぶしで地面を叩きつける亮太。
やがてゆっくりと立ち上がった亮太は、綺麗に晴れ渡った星空を見上げる。
「お母さん・・・待っていて。必ず僕がお母さんを元に戻してあげるからね・・・」
流れ落ちる涙をこぶしで拭い、亮太はあらためてそう心に誓ったのだった。
******
「ああん・・・あん・・・あん・・・いい・・・いいのぉ・・・オマンコいい・・・ヴィヅズのおチンポ最高よー」
“息子”に組し抱かれながら、ヅェズーは全身を貫く快感に自ら腰を動かしていた。
彼女の性器は“息子”の性器をしっかりとくわえ込み、そのピストン運動をすべて受け止めて射精に導こうとしている。
ヴィヅズもまた、自らの“母”をその手で犯すことこそが愛情であるかのように腰を振り続けていた。
「お前は・・・お前はボクのママだ。誰にもやらない。ボクだけのママだ。忘れるな! お前はディメンザー人のメスヅェズーなんだ。あんな亮太なんてやつのことは二度と思い出すなぁっ!!」
そう叫びながら腰を打ち付けるヴィヅズ。
赦せなかった。
ママが他の種の子供の名を呼んだことが赦せなかった。
もう二度とそんなことはさせない。
このメスはボクのママだ。
ボクの精液で今度こそ完全なるボクのママに変えてみせる。
まるで亮太への憎しみをぶつけるかのように腰を振るヴィヅズ。
その下でヅェズーは絶頂へと駆け上っていく。
「あん・・・ええ・・・もう思い出さないわ・・・亮太なんて知らない・・・私は・・・私はディメンザー人のメスよ・・・私の夫はヴィクゥズ・・・息子はヴィヅズ・・・それ以外の者はすべて敵だわぁ」
「そうだ。お前はボクとパパのものだ。それを忘れるなぁっ!」
「ええ・・・忘れないわぁ・・・私は・・・私は二人のものよ・・・ああ・・・イくイくイくぅぅぅぅぅぅ」
ヴィヅズが精液を注ぎ込むと同時に、ヅェズーの躰は絶頂を迎える。
かすかに思い出されていた亮太の記憶も、まるで風に吹き飛ばされる砂のようにヅェズーの脳裏から消えていく。
新たなる精液がヅェズーの躰に染み渡り、より完全なるディメンザー人へと変えていくのだった。
「ふふふふふ・・・気分はどうかな、ヅェズー」
息子とのセックスを終えた妻に声をかけるヴィクゥズ。
ますます妖艶さを増したヅェズーは、彼にとっても自慢できる逸品だ。
「ああ・・・ええ・・・とてもいい気分ですわ、あなた」
ヅェズーは股間からたれてくる精液を指ですくい、先が割れた舌でその指を舐めていく。
彼女の脇では、息子がすべての力を使い果たしたかのように横になって寝息を立てていた。
その寝顔がとても愛しいものであるかのように、そっとヅェズーは頬を撫でる。
その仕草にヴィクゥズは、完璧な“妻”であり“母”となったメスの姿を見出した。
「ふふふふ・・・それはよかった。次は頼んだぞ」
「はい、もちろんですわ、あなた。我らディメンザー人に歯向かう憎きパワードボーイ。必ずやこの私が始末いたします」
うっとりとした笑みを“夫”に向けるヅェズー。
その目は彼への心酔を浮かべていた。
「うむ。期待しているぞ、ヅェズー」
「あ・・・」
顎を持ち上げ、“夫”は舌を絡ませて妻と唇を合わせていく。
ヅェズーはその身に二人のディメンザー人からの愛を感じながら、パワードボーイを始末することを心に誓うのだった。
END
いわゆる「戦いはこれからだ」ENDともいうべき最後になりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
それではまた次回作でお目にかかりたいと思います。
ではでは。
- 2010/07/08(木) 20:45:25|
- ディメンザー人ヅェズー
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220万ヒット記念SS「ディメンザー人ヅェズー」の三回目です。
今回は堕ち後を重視してみました。
それではどうぞ。
3、
「お母さん・・・」
いまだ帰らぬ母を待ち続ける亮太。
時刻はとっくに深夜になっている。
母からは一度電話があっただけ。
それ以後は何度電話をかけても、何通メールを送っても、母からの答えはなかった。
「お母さん・・・」
仕事だと言っていた母。
でもこんなに遅くなったことなど一度もない。
買い置きのカップ麺で食事はすませたものの、亮太は寂しさと心配でほとんど喉を通らなかった。
おそらくは半分近くも無駄にしたに違いない。
「お母さん・・・」
何度つぶやいたことだろう。
亮太の目から涙が落ちる。
パワードボーイとして戦っていても、彼はただの少年だったのだ。
このまま母が帰ってこなかったら・・・
そう思うと涙をこらえられない。
亮太はただ一人の部屋で、声を押し殺して泣いていた。
******
「ふふふ・・・よく似合うぞ」
室内に入ってきたヅェズーの姿に満足そうにうなずくヴィクゥズ。
ヅェズーは黒革でできたコルセットとショーツのようなものを身に纏い、膝上までのロングブーツと二の腕までの指先の出るロンググローブを着けていた。
「うふふ・・・ありがとう、あなた。うれしいわ」
うっとりと濡れたような目で夫を見つめるヅェズー。
彼女は夫に心からの服従を誓っている。
まさに身も心も捧げているのだ。
「ヴィヅズはもう寝たのか?」
「はい。もうぐっすりと」
「そうか。これからはあいつのことを頼むぞ」
「もちろんですわ、あなた。私はヴィヅズの母親ですもの」
「うむ」
ヴィクゥズはあらためて目の前のメスに満足する。
息子のために母親を作ってやれただけではなく、妻としてもなかなかのものだ。
今後はいろいろと手助けになってくれるだろう。
そのためにも、このメスを我が物として登録する必要がある。
「こちらに来い」
ヴィクゥズは手招きをしてヅェズーを呼んだ。
「はい」
ゆっくりとそばに歩み寄るヅェズー。
「これを見るのだ」
ヴィクゥズの手元にはモニターがあり、そこには文字が並んでいる。
初めて見る文字のはずだったが、もちろん今のヅェズーには問題無く読むことができた。
そこには“三次元空間担当”として“ヴィクゥズ”と“ヴィヅズ”の名が表示されていた。
「あなたとヴィヅズの名がありますわ」
「そうだ。ディメンザー人の中でも、この三次元空間を担当するのは我ら二人のみ。だが・・・」
ヴィクゥズは手元の機械を操作する。
すぐにモニターには文字が現れ、二人の名の下に“ヅェズー”という名が書き入れられた。
「私の名前が・・・」
「クククク・・・これはいわば表札のようなもの。これでお前は我が一族として登録された。これからはお前にも三次元征服の手伝いをしてもらうぞ」
「はい・・・もちろんです。よろこんでお手伝いいたしますわ、あなた。ああ・・・なんてうれしいのかしら。私は幸せです、あなた」
胸に手を当てて喜びを噛み締めるヅェズー。
ディメンザー人のメスとしてオスに奉仕できるのは無上の喜びなのだ。
ヅェズーはヴィクゥズとヴィヅズのためなら、どのような命令にもよろこんで従うつもりだった。
******
「ん・・・」
突っ伏していたテーブルから顔を上げる亮太。
朝の日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。
昨夜はついに母は帰ってこなかった。
蛍光灯が点いたままの静かな部屋で、亮太は泣きながら過ごしたのだ。
そしていつしか眠ってしまったのだろう。
涙のあとがテーブルについていた。
亮太はグイッとこぶしで涙を拭く。
お母さんに何かあったのだ。
きっと帰れなくなってしまった何かがあったのだ。
行って確かめるしかない。
亮太は顔を洗って服を着替えると、もう一度母の携帯に電話する。
だが、相変わらず電波が届かないと答えてくるだけ。
亮太は意を決して出かけることにする。
お小遣いや貯金箱のお金を財布に入れ、亮太は母の職場に向かうのだった。
ラッシュアワーは大変だった。
電車の中で大人たちに揉まれながら、あらためて母の大変さを亮太は思う。
そして母の会社の近くの駅で降り、そこからてくてくと歩いていく。
本当なら学校へ行っている時間だ。
いつもは母といっしょに玄関を出る。
それが今日は一人だったことがとてもさびしかった。
「亮太君? 亮太君じゃない?」
会社の入り口で亮太は声をかけられた。
見ると、何度か家に来たことのある女性が、驚いたような表情で立っていた。
「あ、おはようございます。ええと・・・」
とっさに名前が出てこない。
タイトスカート姿の女性には、確かに見覚えがあるのだが・・・
「村雲よ。村雲綾子(むらくも あやこ)。でもどうしたの? 学校は? 真木原さんは亮太君が来たの知っているの?」
自己紹介をしながら立て続けに質問する綾子。
綾子にとって亮太の母紗織は会社の同僚で敬愛する先輩であり、ときどき家に遊びにお邪魔させてもらう間柄だ。
「それが・・・お母さんが昨日帰ってこなかったんです。それで・・・」
「えっ? 帰ってこなかった? えっ? それどういうこと?」
綾子は驚いて亮太を脇へ連れて行く。
真木原さんが帰ってないとはどういうことだろう。
「どういうことなの? 真木原さんは昨日家に帰ってないの?」
しゃがんで亮太に目線を合わせる綾子。
亮太は黙ってうなずいた。
「そんな・・・昨日は残業もなかったし、定時に帰られたはずなのに・・・」
「えっ? 残業じゃなかったんですか? 僕には残業で遅くなるって・・・」
「ええっ?」
どういうことなのか?
亮太君に嘘をついたということなのだろうか?
「わかったわ。ちょっとここで待ってて。会社に出てきているかどうか確かめてきてあげる」
そう言って綾子は会社に入っていく。
亮太は希望を込めてその後ろ姿を目で追った。
綾子はしばらくして戻ってきてくれた。
紺の会社の制服を着ていた綾子を見て、亮太は母もこんな制服を着ているのかと思い少しドキドキした。
「お待たせ。遅くなってごめんね。いてくれてよかった」
ホッとしたような表情を浮かべる綾子。
なんとなく少年の姉のような雰囲気を漂わせている。
だが、すぐに表情は険しくなった。
「それでね、お母さん、真木原さんは今日はまだ来ていないわ。電話もつながらないの」
「そうですか・・・」
亮太はがっかりして肩を落とす。
もしかしたら会社に来ているかもという淡い期待も打ち砕かれたのだ。
「それでね、ちょっと気になることがあるの」
「気になること?」
亮太は顔を上げる。
「ええ、うちの営業に東間って人がいるんだけど、その彼が真木原さんと歩いていたって言うの・・・」
東間?
亮太には聞き覚えのない名前だ。
母の口からその名前が出たことは多分ない。
「一緒だったんですか? どこに行ったんですか? 東間さんって人は今日は来ているんですか?」
「来ていないわ。二人とも来ていないの」
綾子は首を振る。
「そうですか・・・するとお母さんはその東間さんと今でもいっしょなのかな・・・」
亮太はなぜか胸が苦しくなる。
母が男の人といっしょにいるなんて考えたくない。
男と女の間柄などというものは思い浮かびもしなかったが、母にはいつも自分だけの母でいて欲しかったのだ。
「亮太君・・・落ち着いて聞いて」
突然真剣な表情でしゃがみこみ、目線を合わせてくる綾子。
「まだはっきりしたわけじゃないんだけど・・・もしかしたら・・・もしかしたら・・・真木原さんは・・・」
「どうしたんですか? お母さんがどうかしたんですか?」
「もしかしたら真木原さんは・・・ディメンザー人に連れて行かれてしまったかもしれないの」
「えっ? ディメンザー人に?」
亮太は驚いた。
ディメンザー人が関わっているというのか?
「ええ、真木原さんと東間さんが歩いているのを見た人がいて、珍しい組み合わせだなって思っていたらしいんだけど、それがいきなりすうって消えちゃったんだって」
「消えちゃった? それ、どこで?」
亮太はその場所が知りたかった。
消えちゃったとすれば、それはディメンザー人に異空間に連れ込まれたに違いない。
もしかしたらまだその影響が残っているかも。
「その人は最初、見失ったのかなって思ったらしいんだけど、そのうちディメンザー人のことを思い出して怖くなってしまったって。それで今朝まで誰にも言わなかったらしいんだけど、私が真木原さんの事を訊いたものだから・・・」
「それで、どこなんですか、その場所は?」
とにかくすぐにでもその場所へ行ってみなくては。
亮太ははやる気持ちを抑え切れなかった。
「二丁ほど行った先の裏通りだって。そっち側から行った先」
「ありがとうございます。僕、行ってみますね」
「あ、待って!」
駆け出そうとした亮太を綾子が止める。
「なんですか?」
「まだ・・・まだそうと決まったわけじゃないからね。いい、何かあったら私に言ってちょうだい。これ、携帯の番号だから」
綾子が携帯の番号を書いたメモを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
亮太は礼を言ってそれを受け取ると、綾子に教えてもらった裏通りへ向かって走り出す。
その様子を綾子は心配そうに見送った。
「ここがそうか・・・」
ラッシュも終わり、人通りの少なくなった裏通りにやってくる亮太。
かすかに異空間の残滓を感じる。
やはり母はディメンザー人に連れて行かれてしまったのに違いない。
「お母さん・・・」
膝をついて地面をこぶしで叩きつける。
「僕のせいだ。僕がパワードボーイなんてやっているから・・・僕のせいだ」
そう思うしかない。
偶然たまたまということもあるかもしれないが、それよりは自分の母だから狙われたと考えるほうが自然である。
「取り返さなくちゃ・・・お母さんを取り戻すんだ」
亮太はそう決意すると、裏通りをあとにした。
******
「ねえねえ、パパ、パパァ」
甘えた声を上げながら父親に寄っていくヴィヅズ。
その背後からはヴィヅズに手を掴まれたヅェズーが引き摺られるように付いて来ている。
「どうした、ヴィヅズ?」
さまざまなデータをシステムに打ち込みながら、ヴィクゥズは息子のほうに目をやった。
「ママといっしょに侵略してきていい? ママにもボクといっしょに侵略して欲しいんだ。ヴィリザードもいつでも暴れられるようになっているしね」
まるで遊園地にでも出向くように目を輝かせているヴィヅズ。
その様子に思わずヴィクゥズも笑みが浮かぶ。
「いいとも。ヅェズーといっしょに行っておいで。たっぷり暴れて三次元人どもを狩ってくるんだぞ」
「私も行ってもいいのですか?」
「もちろんだ。お前もディメンザー人のメスとして三次元人どもをいたぶってくるがいい」
「ああん・・・ありがとうございます、あなた。うれしいですわ。うふふ・・・私も次元侵略するのが楽しみだったんです」
胸に手を当ててうれしそうに微笑むヅェズー。
ディメンザー人としての思考が侵略を楽しみと感じさせている。
「やったぁっ! ママ行こ、早く行こ」
ヴィヅズが待ちきれないように再びヅェズーの腕を取る。
「あん、引っ張らないの。今行きますからあわてないで」
ヅェズーはやさしくヴィヅズにそう言うと、二人で連れ立ってでかけていく。
その様子を見ていたヴィクゥズは、にやりとほくそ笑んでいた。
******
「結局今日も来なかったな・・・真木原さんが二日連続で休むなんて・・・やっぱりディメンザー人に連れて行かれちゃったのかな・・・」
疲れた足取りで家路を急ぐ村雲綾子。
やはり紗織の不在は綾子にも影響が出ていたのだ。
しわ寄せがどうしてもでてしまい、綾子も残業を余儀なくされていた。
「ふう・・・亮太君大丈夫かな・・・私にはどうしてやることもできないけど・・・真木原さん旦那さんいないし、親戚の人とか来ているのかな・・・」
綾子は昨日の朝出会った少年のことを思い出す。
母親がいなくなってしまったとなれば、あの少年はどうしたらいいのだろう。
自分にどうにかできるわけではないが、やはり心配はしてしまう。
「明後日はお休みだし、お邪魔してみようかな。どうせ暇だしね」
思わず苦笑する綾子。
結婚適齢期の彼女でありながら、休日にデートする男性もいないことを自嘲したのだ。
「えっ?」
いきなり周囲が暗くなる。
まるで闇に包まれてしまったかのようだ。
「な、なにこれ?」
突然のことで何がなんだかわからない。
綾子は軽いパニックに陥ってしまい、きょろきょろとあたりをただ見回すだけだった。
「うふふふ・・・こうして次元断層を作るのね」
「うん、そうだよ。ママはもうこつを飲み込んだんだね。すごいや」
「うふふふ・・・ヴィヅズが丁寧に私に教えてくれたおかげよ。ありがとう」
カツコツと足音が響き、親子と思われる会話が近づいてくる。
「見て、ママ。獲物がかかったみたいだよ」
「あら、本当ね。三次元人のメスのようだわ」
姿を現した二人を見て綾子は息を飲んだ。
藤色ともいうべき淡い青紫色の肌に黒革の衣装を纏い、背中からは黒いコウモリのような羽根が生えている。
頭にはねじくれた角があり、金色の目に縦長の瞳が綾子を見つけてきらりと輝いていた。
「ディ、ディメンザー人・・・」
足が震える。
立っているのがやっとだ。
まさか自分がディメンザー人と関わることになろうとは・・・
逃げ出したいのに躰がすくんで動けない。
だが、近づいてきた二人のディメンザー人の姿を見た綾子は、よりいっそうの恐怖を感じることになったのだった。
「そ、そんな・・・真木原さんなの?」
近づいてきたディメンザー人は女性と少年のようだった。
仲良さそうに手をつないで歩いてくる。
その姿に敬愛する先輩とその息子の姿がなぜか一瞬重なったのだが、綾子にはその理由がすぐにわかった。
あまりにもそのディメンザー人の女性の顔が真木原紗織に似ていたのだ。
もちろん角があり耳も尖り瞳も縦長で金色の目をしているが、全体的な顔の作りは紗織そのものだったのだ。
「うそ・・・でしょ・・・真木原さんなの? 真木原さんがディメンザー人になってしまったの?」
がくがくと震えながらも、綾子は思わずそう口にする。
相手はまったく人間ではないにもかかわらず、綾子には他人の空似とは思えなかったのだった。
「真木原? 三次元人のメスはおかしなことを言うのね。私はディメンザー人のメスヅェズーよ。それ以外の何者でも無いわ」
口元に冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと近寄ってくるディメンザー人の女。
「そんな・・・」
愕然とする綾子。
これほどそっくりだというのに、違うというのだろうか・・・
「きっとボクらの姿を見て混乱しているんだよ。三次元人ってすごく精神がもろいんだ」
少年のほうもニヤニヤといやらしい笑いを浮かべている。
「そうなの? うふふふ・・・しょせんは哀れな下等生物ってことね。くだらない生きものだわ」
「そのとおりだよママ。さあ、早く食べてみてよ」
「ええ、そうするわね。こうだったかしら・・・」
少年に促されるようにしてスッと右手を上げるディメンザー人の女。
このディメンザー人は私を食べるつもりなんだ・・・
綾子はこれから自分が食べられるということをなぜか冷静に受け止めていた。
おそらく逃げても無駄だろう・・・どうせもう助からない・・・
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
闇の中に綾子の悲鳴が響き渡る。
ヅェズーがかざした手の先で、哀れな三次元人のメスは細かなチリへと分解された。
手元に集まってきた生命エネルギーを握り締め、ギュッと凝縮して命のしずくに変えていく。
そしてしたたってきた命のしずくを口で受け止め、その味を味わった。
「どう、ママ? 美味しい?」
ヴィヅズが彼女の行動をワクワクしながら見つめている。
「ええ、美味しいわ。この三次元人のメスはなかなかの味だったみたい」
しずくを飲み干して舌なめずりをするヅェズー。
「そうかー、よかったねママ。三次元人もあたりはずれがあるんだ。年取ったオスはあんまり美味しくなかったりするんだよ」
「そうなの? それじゃあたりだったのね。よかったわ」
二人は顔を見合わせてにっこりする。
その様子はまさに仲のいい母と息子のようだった。
「今度はボクの番だよ。ヴィリザードも暴れさせてやらなくちゃね。ママは他にも三次元人を狩ってもいいよ」
ヴィヅズが背後に控えさせていた異次元獣を呼び出し、その頭を撫でる。
巨大なワニのような姿をした異次元獣は、大きな口を開けてその並んだ鋭い牙を見せ付けた。
「うふふふ・・・ヴィリザードも暴れたがっているみたいね。私はもういいの。それよりヴィヅズといっしょに次元侵略をしたいわ」
これからおこなわれるであろう破壊と殺戮に胸を躍らせるヅェズー。
先ほど聞いた下等な三次元人の悲鳴をまた聞くことができると思うと、自然と快感を感じるのだ。
「うん、それじゃママもいっしょにね。行くよヴィリザード」
ヴィヅズがヅェズーの手を取り、二人は仲良く異次元獣を連れて三次元空間へと移動した。
- 2010/07/07(水) 20:16:31|
- ディメンザー人ヅェズー
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今日も早めの更新。
「ディメンザー人ヅェズー」の二回目です。
それではどうぞ。
2、
「お前たち三次元人のメスはすぐそうやって泣くのだな。安心しろ。殺しはしない」
「私を・・・私をどうするつもりなのです?」
ヴィクゥズを見上げる紗織。
「クククク・・・お前には我が妻に、そして息子の母になってもらおう」
「えっ?」
紗織は一瞬何を言われたのかわからなかった。
このディメンザー人の妻に?
そして息子の母になれというの?
「そ、そんなことができるはずありません! 私はディメンザー人ではありません! それに私にだって息子がいるんです! あなたなんかに誰が!」
あまりのことに思わず口調が荒くなる。
これでは東間と何も変わらないではないか。
だいたいディメンザー人ならば、ディメンザー人同士で結び合えばいい。
「ククククク・・・」
ヴィクゥズが笑っているのを見てぞっとする紗織。
拒否したことで殺されるかもしれないという恐怖が襲ってくる。
「お前の意思などは関係ない。お前は我らディメンザー人がどうやって子孫を残すか知っているか?」
「そ、そんなのわかるわけ・・・」
紗織が首を振る。
「我らディメンザー人はオスしか生まれないのだ。生まれるディメンザー人はすべてオス。そこで我らは異種族のメスと交尾をする。それが知的生命体のメスであれば文句はない。そしてその交尾のときに相手の肉体や精神を改変する精液を流し込み、ディメンザー人のメスへと変化させるのさ」
「ひぃっ!」
紗織は真っ青になって悲鳴を上げる。
それが本当ならば、自分はこのディメンザー人に犯され、ディメンザー人にされてしまうということなのか?
そんなのはとてもじゃないが耐えられない。
死んだほうがマシよ。
「パパ、呼んだ?」
突然スッと姿を現すもう一人のディメンザー人。
目の前のヴィクゥズに比べて小柄でどことなく幼い感じがある。
おそらくこれが息子なのだろう。
「うむ、ヴィヅズよ、今からお前に母を用意してやろう」
「えっ? ホント? やったぁ」
無邪気に喜ぶディメンザー人の少年に、紗織は背筋が冷たくなる。
彼らは本気で自分をディメンザー人のメスにするつもりなのだ。
「いやぁっ!」
紗織は思わず逃げ出した。
「むんっ!」
突然躰が動かなくなる。
背を向けて走り出したはずなのに、足がぴくりとも動かなくなったのだ。
「あ・・・ああ・・・」
必死に手足を動かそうとするが、紗織の意に反して手足はまったく動かない。
走り出した姿のままで固まってしまったのだった。
「逃げられるはずがないだろう。動きを封じるぐらいは簡単なことだ」
紗織に向かって手をかざし、にやりと笑うヴィクゥズ。
「ふうん・・・このメスがボクのママになるんだね? 大丈夫。心配しなくていいよ。パパに犯してもらえばすぐにディメンザー人のメスになれるんだ。きっととても気持ちいいよ」
「いや・・・そんなのいやぁ・・・お願い、赦してぇ」
ゆっくりと近づいてくるヴィクゥズに、紗織は絶望感に打ちひしがれる。
「あうっ」
力強い手で押し倒され、組み伏せられてしまう紗織。
目の前のヴィクゥズがまさに悪魔に見える。
左手で紗織の両手を頭の上で押さえこみ、のしかかるように覆いかぶさっていくヴィクゥズ。
紗織は身動きもできず、ただなすがままにされるしかなかった。
「ふふふ・・・いいメスだ。これからたっぷり可愛がってやる」
「いや・・・いやぁっ! 助けてぇっ! 誰か助けてぇっ!」
必死に叫び声を上げる紗織。
かろうじてできることはそれだけだった。
「無駄だ。ここは地下の上に異次元でもある。三次元人が来られるところではない」
「いやぁっ! お願い許してぇっ! 私には夫が・・・あの人がぁっ!」
「ふん」
布の引き裂かれる音がして、紗織のスカートが剥ぎ取られる。
鋭い爪が引き裂いたのだ。
穿いていたナチュラルブラウンのストッキングも破り捨てられ、白いショーツがあらわになる。
「ああ・・・お願いです・・・どうか許して・・・」
紗織はもはや叫ぶことさえできなかった。
「クククク・・・安心しろ。すぐに気持ちよくなり、自ら腰を振るようになる」
舌なめずりをして笑みを浮かべるヴィクゥズ。
その手が紗織のショーツを掴み、あっという間に引き裂いていく。
恥毛に覆われた紗織の股間があらわになり、紗織は目を閉じて涙を流す。
夫が死んだあとも守ってきた貞節を穢されるのが、ただただ悲しかった。
「クククク・・・これが三次元人のメスの性器か。なかなか具合がよさそうだ」
片手で器用に穿いているパンツを下げ、そそり立つ股間のモノを取り出すヴィクゥズ。
そして泣いている紗織の口に無理やりキスをすると、おもむろに紗織の膣内に突き入れる。
「ひぐぅっ!」
あまりのモノの巨大さに思わず紗織は悲鳴を上げる。
だが、すぐに痛みが快感へと変わって行き始めたことに紗織は驚いた。
「クククク・・・これはいい。変化する前だというのに、絡み付いて俺のモノを締め付けてくる」
「ああ・・・いやぁっ」
ずんずんとピストン運動で紗織を突き上げるヴィクゥズ。
股間のモノの先端からじわじわと先走りの液が染み出して、紗織の膣内をディメンザー人の性器へと変えていく。
「いや・・・いやぁ・・・」
むずがゆいような快感が全身を覆い、下半身が火照っていく。
それとともに快感はどんどん増していき、紗織の中の女の部分が目覚めていく。
「ああ・・・あああ・・・」
「どうした・・・もどかしいか? もっと俺のモノを感じたいのだろう? いいぞ。躰が動くようにしてやろう」
ヴィクゥズが紗織の戒めを解く。
だが、紗織は逃げ出すことができなかった。
このディメンザー人とのセックスが気持ちよく、離れることができなかったのだ。
いつしか紗織は自ら脚を絡め、腰を浮かすようにしてディメンザー人に突かれていた。
「おお・・・おおう・・・いいぞ・・・膣内が、膣内が変わってきた。まさにディメンザー人のメスの性器に変わってきたぞ」
紗織は悲しかった。
その言葉が意味することを理解していた。
愛していた夫にも息子にも申し訳なかった。
だが、それ以上にこの快楽から逃れることができなかったのだ。
あなた・・・亮太・・・ごめんなさい・・・
紗織は涙を流しながら、ディメンザー人の男の首に腕を回していくのだった。
「おお・・・出る・・・出るぞ。受け取るがいい。うぉぉっ」
「ああ・・・いやぁ・・・」
かろうじて膣内に出される恐怖にいやいやと首を振る紗織。
だが、次の瞬間、紗織の膣内には大量のヴィクゥズの精液が放出されていた。
この時点での精液は、ほぼ同化液と同じ役目しか果たさない。
大量に放出された精液は一瞬にして紗織の子宮や卵巣をディメンザー人のものへと変化させてしまう。
それどころか血液にまで入り込んで、紗織の肉体をも変えていくのだ。
「クククク・・・見るがいい。お前の躰が変わっていくところを」
「そ、そんな・・・いやぁっ!」
紗織の下腹部は肌の色が淡い青紫色である藤色に変わり、そこから急速にその藤色が広がっていた。
太ももも膝も藤色に染まり、へそから胸へも広がってくる。
紗織は驚いてブラウスを脱ぎ、ブラジャーもはずしてみた。
三十代の子持ち女性とは思えない形のよい胸も藤色に変わっており、乳首もどす黒く染まっている。
むずむずするお尻からは尻尾が伸びはじめ、鋭く尖った先端がぴくぴくと蠢いていた。
「あああ・・・いや・・・いやぁ・・・」
両手で顔を覆い泣き崩れる紗織。
変化はそこまでだったが、明らかに紗織の躰は人間ではなくなってしまっていた。
「ふむ。どうやら最初の変化はここまでのようだな。だが、あと二三回も注ぎ込めば、身も心も我らディメンザー人へと変わるだろう」
ヴィクゥズの言葉にドキッとする紗織。
事実先ほどに比べて心がじょじょに落ち着いて来ているのがわかる。
人間でなくなるという悲しみは薄れ、生えてきた尻尾も何か当たり前のような気がしてきていたのだ。
ああ・・・そんな・・・
嘆き悲しみたいのに、紗織の心はそれを許さない。
むしろもっと変えて欲しいとさえ感じ始めてきていたのだった。
「パパ、今度は上のお口から注いでやれば? きっとすぐに変わってくれるんじゃない?」
「ふむ・・・それもそうだな。よし、今度は上からだ。咥えろ」
ヴィヅズの言葉にうなずき、ヴィクゥズは力を取り戻してきたモノを紗織の前に差し出してくる。
人間の男性器と変わらない形をしたそれは、先端から液体をにじませながら、紗織に咥えられるのを待ちかねているようだった。
「あ・・・ああ・・・」
紗織は目が離せなくなってしまう。
そそり立つモノを見せ付けられ、紗織の中で何かが変わっていくのを感じる。
咥えたい・・・
しゃぶりたい・・・
喉の奥までこのそそり立つモノに犯されたい・・・
そんな気持ちがふつふつと沸き起こってくるのだ。
咥えてしまえばもう人間ではなくなるということがわかっていても、紗織は咥えずにはいられなかった。
「はむっ・・・んむ・・・んん・・・んぐっ」
むしゃぶりつくように肉棒を咥え込む紗織。
舌を這わせ、唇をすぼめて搾り取るように咥え込む。
「うぉぉ・・・いいぞ。いい舌使いだ。短い舌というのも悪くないものだな」
紗織の頭を抱え込み、より深く咥えさせるヴィクゥズ。
完全に硬くなった肉棒を、喉の奥まで差し入れる。
「んむ・・・んむ・・・」
ジュポジュポと音を立てながら肉棒を咥え込む紗織。
そこにはすでに貞淑な人妻の面影はない。
ただの一匹のメスに過ぎなかった。
「よし、出すぞ。飲めよ」
腰を前後させながら紗織を見下ろすヴィクゥズ。
その言葉に紗織はうなずき、よりいっそう肉棒を咥え込んでくる。
すでに紗織の首から下は、ほぼディメンザー人になっていた。
あとは口から精液を流し込み、完全なるディメンザー人へと変えるのだ。
このメスは悪くない。
いや、むしろ最高のメスになりえる存在だ。
パワードボーイの母親というだけで選んでみたが、どうしてどうして掘り出し物といえるだろう。
いいメスにめぐり合えたことに感謝しなくてはな。
そう思いながらヴィクゥズは紗織の口に精液をほとばしらせた。
ドクッドクッと口の中に注ぎ込まれるヴィクゥズの精液。
それは一瞬にして紗織の口の中を綺麗なピンクからどす黒い黒へと変化させる。
肉棒に絡んでいた舌も根元から伸びていき、黒く変色しながら先が二つに割れていく。
喉から滑り落ちた精液は内蔵を黒く染め、強化しながら血液へと混じっていく。
「ああん・・・うふぅ・・・」
唾液の糸を引きながら肉棒から口を離す紗織。
先が二つに割れた舌が、黒く染まった唇を嘗め回す。
顔の皮膚も青みの強い藤色に染まっていき、両耳の先が伸びて尖っていく。
耳の上からはメリメリと音を立てて角が生え、ねじくれるようにして額のほうへと伸びていく。
うっとりと見開いた目は金色に変わり、瞳が縦に細長くなっていた。
そして最後に背中から黒いコウモリのような形の羽根が広がって、紗織の変化は終了した。
どす黒く染まった鋭い爪の伸びた指をぺろりと舐め、うっとりとした表情を浮かべる紗織。
その姿はまさにディメンザー人のメスそのものだった。
「クククク・・・どうやら変化は完了したようだな。これでお前はディメンザー人のメスとなったのだ」
紗織の仕上がりに満足するヴィクゥズ。
「ああ・・・はい。私はディメンザー人のメス。ヴィクゥズ様の妻です。どうか可愛がってくださいませ」
ぺたんと座り込み、濡れたような目で自らの夫となったヴィクゥズを見上げる紗織。
変化は脳にまで及んでいた。
ヴィクゥズの精液にたっぷりと含まれていた精子は、卵子と結合するという本来の目的のほかに、相手の肉体を改変するという役目を持っている。
先端が接触したあらゆるものをディメンザー人のものとして変えてしまうのだ。
それは脳細胞も例外ではない。
紗織の脳は血液によって運び込まれたヴィクゥズの精子により、ディメンザー人の脳へと作り変えられた。
あっという間に紗織の脳裏からは愛していた夫の記憶は消えうせ、目の前にいるディメンザー人のオスに対する強烈な愛情と服従心が沸き起こる。
もはや脳まで犯され思考も変えられてしまった紗織の目には、死別した夫への愛情も罪悪感も見ることはできなかった。
「次はボクだよ。さあ、こっちへ来るんだ」
ディメンザー人の少年が紗織を呼ぶ。
紗織は一度ヴィクゥズを見上げ、彼がうなずいたのを見て少年の下へとにじり寄った。
「ボクの精液で、今度はお前をボクのママにしてやるよ。さあ、咥えるんだ」
まだ多少未発達ではあるものの、それでも充分に生殖行為が可能となったヴィヅズの肉棒が突き出される。
「ああ・・・はい。いただきます」
ディメンザー人のメスはオスに逆らうことはない。
メスになった時点で身も心もオスに捧げるのだ。
ヴィクゥズがうなずいた以上、これはヴィクゥズの命令と同じだった。
「んむ・・・ん・・・んちゅ・・・」
絶妙な舌使いでヴィヅズの肉棒を舐めしゃぶる紗織。
先端が二つに分かれた舌を上手に使い、ヴィヅズの射精感を高めていく。
「うわ・・・すごい。すごいよパパ。こんなに気持ちいいなんて知らなかった。ううっ、出、出るっ!」
ビュクビュクと紗織の口の中に出されるヴィヅズの精液。
紗織はそれを一滴残らず漏らすまいと飲み込んでいく。
精子たちがさらに紗織の変化を強固なものへとしていき、脳にも影響を与えていく。
うっすらとしか感じなくなっていた息子への思いが、目の前の少年への強烈な母性に取って代わられる。
この瞬間から紗織にとっての息子はヴィヅズであり、亮太という存在そのものが脳裏から消えうせていた。
「ああ・・・気持ちよかった。どう? これでお前はボクのママになったでしょ? どう?」
自分の精液を舐め取ったメスにヴィヅズはたずねる。
「うふふ・・・ええ、私はヴィヅズのママよ。あなたのことがとっても大好き。よろしくね」
「やったぁ! ママ、ママ、ボクのママだ!」
にっこりと微笑んだ紗織に抱きついていくヴィヅズ。
少年にとっては本当に久しぶりのママの誕生だったのだ。
それに以前のママは少年の精液ではなく、少年の血を与えられてママになっている。
そのせいか、少年にとってはあまり大事なメスだとは思えなかった。
自分の精液を与えてママにしたのは今回が初めてだった。
「あらあら、甘えん坊さんね」
紗織もうれしそうにヴィヅズを抱きしめる。
先日までその手に抱きしめていたのが違う存在だとは考えもしないのだ。
「クククク・・・よかったな、ヴィヅズ」
「うん、パパ。ボクうれしいよ」
父に頭を撫でられ目をきらきらと輝かせているヴィヅズ。
その様子にヴィクゥズも喜びを隠しきれない。
やはり子供には母が必要だったのだ。
少し遅くなったが、これからはこのメスがヴィヅズのために働いてくれるだろう。
「ねえパパ、ママに名前を付けてあげてよ。ディメンザー人になったママにふさわしい名前を」
「む? パパが付けていいのか?」
「うん、いいよ。だって、このメスはボクのママだけど、パパのメスでもあるんだから」
「そうか。うーん・・・そうだな・・・ヅェズーというのはどうかな? ありがちだがディメンザー人のメスにはふさわしいと思うが」
少し考えて名前を付けるヴィクゥズ。
「うん。それがいいよ。ヅェズー。ママ、ママの名前はヅェズーだ。いいね?」
「ええ、私の名前はヅェズー。ディメンザー人のメス、ヅェズー」
紗織はうれしそうにうなずく。
名前をもらったことがとてもうれしかったのだ。
紗織という名はこの瞬間にヅェズーとなった。
もはや彼女にとって紗織という名は何の意味も持たなかった。
「ねえ・・・ママ・・・」
少しもじもじしながらヅェズーを見るヴィヅズ。
「なあに、ヴィヅズ?」
その様子を見て愛しそうに微笑むヅェズー。
「ボク・・・もっとママといっしょになりたいよ」
少年はそう言ってそそり立つ肉棒を見せ付ける。
「まあ、うれしいわ。ママももっとヴィヅズを味わいたいの。ママをたっぷり可愛がってちょうだい」
ディメンザー人としての思考に染まってしまった彼女は、舌なめずりをして少年のモノを見つめている。
「ふふふ・・・それなら俺のも味わってもらわねばな」
ヴィクゥズが彼女の肩を抱く。
「ああん・・・もちろんよあなた。あなたのもたっぷりと味わわせてちょうだい」
いやらしく胸を揺らし、二人を誘うように床に腰を下ろすヅェズー。
やがて三人の快楽の宴が始まり、いつ果てるともなく続くのだった。
- 2010/07/06(火) 20:01:42|
- ディメンザー人ヅェズー
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今日は早めの更新。
大変お待たせいたしました。
220万ヒット達成記念SSを、今日から四日連続で投下させていただきます。
4月1日に「四月馬鹿」を投下して以来ですので、丸々3ヶ月間SS無しだったんですね。
本当にお待たせしてしまいまして申し訳ありませんでした。
今回のタイトルは「ディメンザー人ヅェズー」
どうかお楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
「ディメンザー人ヅェズー」
1、
「キシャアァァァァァァァァァ!」
断末魔の悲鳴を上げる漆黒の怪鳥。
パワードボーイのクラッシュキックを受けたのだ。
厚さ二メートルものコンクリートをぶち抜くキックの威力に、さしもの異次元獣も耐えることはできなかった。
「ああっ、ガラザール!」
カラスを巨大化させたような異次元獣ガラザールがあっけなく倒されたのをみて、思わず声を出してしまう。
空を飛べるガラザールは次元侵略にはうってつけだったし、パワードボーイにも充分対抗できると思っていたのだ。
「おのれパワードボーイ! ボクが相手だ!」
暗黒の異空間内に姿を現す声の持ち主。
それは身長など大きさ的には小学生ほどの少年のようだったが、その姿は紛れも無く人間ではない。
頭の両脇にある先が尖った耳の上からは、額のほうに向かって角が左右から生えており、金色をした目は瞳が縦に細長いトカゲのような目をしている。
肌は藤色のような淡い青紫色であり、背中からは黒いコウモリのような羽根が生えていた。
胴部を覆う皮鎧のようなものを着ており、お尻からは細長い尻尾まで生えている。
いわばその少年は、よく悪魔と呼ばれるような存在をイメージしたときに思い浮かべるであろう姿に似た形をしていたのだった。
「こい、ディメンザー人! 今日こそ決着をつけてやる!」
クラッシュキックでガラザールを倒したパワードボーイが体勢を整える。
こちらも銀色の仮面に銀色に青いラインの入ったスーツを着ているが、やはりその体格は小学生ほどの少年にすぎない。
だが、この銀色の仮面の少年こそがパワードボーイであり、異次元より突如として現れたディメンザー人による次元侵略を防ぐ正義の使者だった。
次元侵略を目論むディメンザー人の少年と、自らの住む次元を守ろうとするパワードボーイという二人の少年たちは、互いに向かい合い一触即発の態勢を取る。
はたから見れば、それはまるで二人の子供が遊んでいるかケンカをしているようにも見えるだろう。
しかし、その戦いはまさに世界の命運をかける戦いだったのだ。
にらみ合う二人の少年。
そのどちらもが相手の動きを警戒する。
だが、そこに新たな声がかけられた。
「ヴィヅズよ。お前はまだパワードボーイと戦うには力不足だ。引き上げるのだ」
新たな声をかけたのは、ディメンザー人の少年によく似たがっしりとした体格の男だった。
黒い皮鎧のようなものを着込み、筋肉を隆々とさせている偉丈夫。
少年と同様の藤色のような淡い青紫色のなめし皮のような皮膚をして、尖った耳の上からは角が生えており、背中からはコウモリのような羽根も生えている。
まさに少年がそのまま大人になったような存在であった。
「でもパパ、ガラザールが・・・」
「言うことを聞くのだ。ヴィヅズよ」
少年をにらみつけるディメンザー人の男。
ヴィヅズと呼ばれた少年は、仕方なくジャンプして後退する。
「逃げるのか、待て!」
パワードボーイは逃げ出そうとしたヴィヅズを追いかけようとする。
だが、新たに現れたディメンザー人の男の手が一閃すると、オレンジ色のリングが現れてパワードボーイの足元を切り裂いていく。
「くっ」
思わず足が止まるパワードボーイ。
「パワードボーイよ。今回もお前の勝ちだ。だがわれわれはあきらめん。この次元は必ず我らディメンザー人のものとしてくれる」
ディメンザー人の男はそういうと、異空間に次元の穴を開けて吸い込まれるように消えていく。
彼の隣に下がっていたヴィヅズと呼ばれた少年ももちろんいっしょに消えていた。
「また逃げられちゃった・・・」
周りで消滅していく異空間から通常空間に戻りながら、パワードボーイは肩を落とし残念そうにつぶやいた。
******
「ただいま」
そう言って少年は玄関のドアをくぐる。
「亮太(りょうた)・・・お帰りなさい」
すぐに奥から玄関に出てくる一人の女性。
少年の姿を見ると、ほっと胸をなでおろす。
「ただいま、お母さん」
少年の顔に笑顔が浮かぶ。
やはり母が出迎えてくれるというのは、とてもうれしく胸が温かくなるものなのだ。
「よかった・・・亮太・・・無事でよかった・・・」
膝をついて玄関先で少年を抱きしめる母。
いつも無事な顔を見るまでは気が気ではないのだ。
こんなまだ小学生の少年なのに、人類のために戦わなくてはならないとは、なんという運命なのだろう。
少年の母である紗織(さおり)はそう思わずにはいられない。
「お母さん・・・」
自らも母の背中に手を回す少年。
温かい母親のぬくもりがうれしい。
しばらくそうしていたのちに、抱きしめていた少年をその肩にそっと手をかけて引き離すと、母は愛しそうにその頬をそっと撫でる。
「さあ、手を洗ってうがいして。もうすぐ晩ご飯できるからね」
「うん」
少年はちょっと名残惜しそうに母から離れると、台所へ行って手を洗うのだった。
真木原亮太(まきはら りょうた)は紗織の一人息子だ。
まだ小学校の四年生だが、正義の少年パワードボーイとして、異次元からの侵略と戦っている。
亮太が言うには、何か次元を超えた正義の意思のようなものに選ばれたらしい。
異次元人であるディメンザー人の侵略を阻止するよう指示されたのだという。
ディメンザー人の親子が繰り出してくる異次元獣を打ち破り、この次元に平和をもたらしているのが銀色の仮面の少年パワードボーイだった。
紗織がそのことを知ったとき、亮太はすでにパワードボーイとしてディメンザー人と戦っていた。
年端も行かない小学生が人類のために戦うなんてことは、紗織には耐えられるものではなかったが、パワードボーイ以外にディメンザー人に対抗できるものはいなかった。
人類の兵器はことごとく無力化され、異次元獣には歯が立たない。
紗織が反対しようとも、亮太がパワードボーイとして戦うほか無かったのである。
無論亮太もそのことは承知していたし、逆に亮太自身はパワードボーイとして戦えることがうれしかった。
父親亡き後、女手一つで亮太を育ててくれている母を何とかして守りたい。
少しでも母の役に立ちたい。
亮太は常にそう思っていたのだ。
小学生の自分にできることなど多くはない。
でも、異次元からの侵略になら、パワードボーイとして戦うことができ、母を守ることができるのだ。
誰の力でもない、自分の力で母を守ることができる。
そのことが亮太にはとても誇らしかったのだった。
「今日は亮太の大好きなハンバーグよ」
手を洗ってリビングに戻ってきた亮太の耳に、なんともうれしい言葉が届く。
思わず亮太はやったぁと声を上げていた。
バンザイをしているその姿が紗織にはほほえましい。
一刻も早く亮太がパワードボーイとして戦わなくてすむ日が来ることを、紗織は祈らずにはいられなかった。
******
「グスッ・・・クスン・・・」
少年が泣いている。
「泣いていても何も変わりはしないぞ、ヴィヅズ」
少年に背を向け、父は次回の計画を考える。
パワードボーイを排除するしかない。
それはわかりきったことなのだが、異次元獣だけではなかなかパワードボーイに勝てないのだ。
何か今ひとつ決め手が欲しい。
その決め手となるようなことを見つけなくてはならないのだ。
悲しんでいる息子に声をかけてやる余裕などはなかった。
「ママ・・・」
その言葉にぴくりと耳を傾ける。
振り返ってみると、泣き疲れた少年は眠っていた。
今回の異次元獣は可愛がっていたようだから、きっと倒されたことがつらかったのだろう。
母親のぬくもりを求めるのも当たり前かもしれない。
前回の妻は早くに壊れてしまった。
その後、この世界の次元侵略を任されたために妻を作らずにいたが、やはり息子のためにも母というメスが必要かもしれない。
母がいれば息子を慰めることもできるだろう。
新たな息子は今のところは必要ないが、自分のためにもメスを手に入れることは気分的にもいいかもしれない。
手ごろなメスを見繕うことにしようか。
そう考えた彼の目に、ふと今までに集めたパワードボーイに関するデータが映り込む。
それを見た彼はにやりと口元に笑みを浮かべると、システムのスイッチを切って眠っている息子を抱え上げ、寝室へと連れて行った。
******
「真木原さん、今日はもうおしまい?」
その日の仕事を終え、帰り支度を整え会社を出たところで、紗織は声をかけられた。
見ると営業先から戻ってきた同僚の東間(あずま)がニヤニヤと笑っている。
東間はこのところ何かにつけて紗織に声をかけてきており、付き合って欲しいと思っているようだったので、その気のない紗織にはちょっと困る相手だった。
好青年ぽい見せかけをしているが、その笑いはどこか不気味な感じでもある。
その腹の底には何かがあるような気がして、紗織はこの男にいやなものを感じていた。
「ええ、今日はもうこれで、お先に失礼いたします」
やり過ごそうとする紗織に、東間は駆け寄ってきて追いすがる。
「だったらさ、ちょっと待っててよ。すぐに報告済ませて出てくるからさ。美味しい物を出す店に連れて行ってあげる」
「すみません。息子が待っておりますし、今日は早く帰らなくてはなりませんから」
紗織は表面上はにこやかに拒絶する。
「つれないなぁ。たまには誘わせてくださいよ。食事ぐらいいいじゃないですか。それに息子さんだってもう小学生なんでしょ? 一人で留守番ぐらいできますって」
「ごめんなさい。どなたか別の方を誘ってあげてください」
「待ちなよ。俺が誘っているんだからさぁ」
歩いていく紗織の腕を掴み取る東間。
「離してください。人を呼びますよ」
紗織は東間をにらみつける。
同僚だし揉め事にはしたくないが、これ以上黙っていると変な考えを起こされても困るのだ。
「おお、こわ。俺は単にいつもお世話になっている真木原さんに美味しいものを食べてもらいたいだけですよ。それでもだめ?」
「すみません。お断りさせていただきます」
紗織は東間が手を離したことで、頭を下げてきちんと断った。
「ふう・・・やれやれ。俺に付き合っておいたほうがいいと思うんだけどなぁ。息子さんのこと、知られたくないんでしょ?」
「えっ?」
背を向けて立ち去ろうとした紗織の足が止まる。
「俺、知っちゃったんだよね。あんたの息子のこと。マスコミとかに知られたらいろいろとやばいんじゃないの?」
いやらしい笑いを浮かべる東間。
このところ何かこの女の弱みはないかと思って調べていたのだ。
「そのことをどうして?」
紗織の顔が青ざめる。
「俺さ、あんたの息子があのパワードボーイとやらだかに変身する所をさ、見ちゃったわけ。それでどう? 食事は付き合ってくれる?」
紗織はうつむいて唇を噛んだ。
「お待たせ。さあ、行こうか」
会社を出てきた東間が紗織の腕を取る。
紗織は無言で東間に付き従った。
すでに亮太には携帯で遅くなることを知らせてある。
悔しいが、亮太がパワードボーイだと世間に知られたらどんなことになるかわからない。
マスコミは連日押しかけ、ディメンザー人に勝てるかどうか質問攻めにするだろうし、もしかしたらいろいろな検査や実験をさせられるかもしれない。
政府や自衛隊が戦いを強要するかもしれない。
一番の恐怖は、ディメンザー人が亮太そのものを狙うかもしれないのだ。
紗織は亮太をそんな危険な目に逢わせることはできなかった。
でも、ここで東間の言いなりになってしまえば、これからも関係を強要されてしまうだろう。
今日はうまく食事だけですませたとしても、明日以降はわからない。
いずれ肉体を要求されるのは火を見るよりも明らかだ。
そんなのはいやだ。
紗織はまだ夫を愛している。
亡くなってしまったとはいえ、夫以外に躰を許すなんてありえない。
どうしたらいいの?
紗織にはこの状況をどうしたらいいのかわからなかった。
「心配しなくてもいいんだよ。今日は食事だけにしてあげるからさ。まあ、そのうち俺のことしか考えられないように調教してあげるよ」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている東間。
紗織はそんな東間に心からの恐怖を感じた。
調教?
まるで人をペットか家畜のように扱う気なの?
紗織は思わずぞっとする。
今すぐにでも逃げ出したい。
でも、そうなると亮太はどうなるのか・・・
どうしたらいいのだろう。
答えは出ない。
紗織は黙ってうつむいて歩いているしかなかった。
「あれ?」
東間が思わず声を上げる。
紗織が顔を上げると、なぜか周囲が闇に包まれていた。
「な、なんだ? この道は明るい通りだったのに、何で突然暗くなるんだ?」
突然のことに周りをきょろきょろとする東間。
紗織も何が起こったのかわからず、思わず周囲を見渡した。
「ふん、どうやら余分なものが混じったようだな」
どこからともなく声がして、いきなり二人の前に人影が現れる。
「ひっ!」
「ああっ!」
東間も紗織も思わず息を飲んだ。
目の前に現れたのは、ディメンザー人だったのだ。
「ディ、ディメンザー人?」
「そんな・・・」
ディメンザー人の恐ろしさは誰でも知っている。
異次元獣を使い破壊をおこなうだけではなく、人間の生命エネルギーを吸い取るために連れ去ったりもするのだ。
ディメンザー人に異次元に連れて行かれてしまった人は、二度と戻ってくることはない。
人々はそのような事態が自分に降りかからぬよう、ただ祈るだけだった。
「我が名はヴィクゥズ。そこのメスよ、真木原紗織とはお前のことだな?」
屈強そうなディメンザー人の男が射るような目で紗織を見る。
黒い皮の胸当てとパンツのようなものを穿き、藤色をした皮膚はなめし皮のように強靭そうだ。
金色に輝く目は瞳が縦に細長く、まるで爬虫類の目を思わせる。
尖った耳の上からは角が生え、背中には黒いコウモリのような羽根が広がり、先の尖った細い尻尾をぶら下げているその姿は、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい。
その悪魔の問いに紗織は、思わずうなずいてしまっていた。
「こ、この女が目的なんだな? だ、だったら俺は関係ない。この女は好きにしていいから、俺をここから出してくれ。頼む」
東間ががたがたと震えている。
その様子に紗織はただ哀れさと情けなさを感じるだけだった。
「お前には用はない」
その言葉に一瞬安堵の表情を浮かべる東間。
だが、ディメンザー人ヴィクゥズが東間に向かって手をかざすと、その表情は苦悶の表情へと変わっていく。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁ」
みるみるうちに東間の躰は分解し、塵のようになって崩れていく。
そしてヴィクゥズがかざしていた手を握ると、上を向いて自らの口の上に持っていき、絞り出すように何かのしずくを口の中にたらしていく。
「ふん・・・あまり美味くない生命エネルギーだな」
滴ったしずくをゴクリと飲み干すと、ヴィクゥズはにやりと笑った。
あのしずくは東間の命だったんだわ。
そう理解したとき、紗織はどこかホッとした自分に気が付いていた。
これでもう脅迫されることはない。
どうあれ自分と亮太はもう東間に煩わされることがなくなったのだ。
だが、今の状況はもっと悪いものに違いない。
このディメンザー人は明らかに自分を狙ってきたのだ。
無事で返してはもらえないだろうと紗織は思う。
「私をどうするつもりですか?」
うかつなことは言えない。
亮太との関係を聞かれたら、できるだけとぼけるしかない。
紗織はそう決めていた。
まずは相手の出方を見る。
名指しで来た以上、すぐに殺されるとは思わなかった。
殺されるなら有無を言わさず殺しているだろう。
先ほどの東間のように。
「おとなしくしていろ。すぐに終わる」
じろりと紗織をにらむヴィクゥズ。
爬虫類のような縦長の瞳が不気味だった。
「うっ」
急に紗織をめまいのような感覚が襲う。
何が起こったのかわからなかったが、周囲が闇から硬質な壁に囲まれたホールのような場所に変わっていた。
「ふふふ・・・お前たち三次元人には理解できないだろうな。こうして瞬時に場所を移動するというのは」
「ここは・・・ここはどこなんですか?」
「我が拠点だ。お前たちの感覚では地下ということになるかな」
「そんな・・・」
紗織は言葉を失った。
まさか一瞬にして場所を移動するなどとは思いもしなかったのだ。
パワードボーイである亮太ならばわかっていたことかもしれないが、紗織はディメンザー人についてはニュースで報道されている程度のことしか知らなかった。
おそらくディメンザー人に連れて行かれた人々も、こうして瞬間移動で連れて行かれたのだろう。
「ああ・・・亮太・・・」
もしかしたら二度と会えなくなってしまったのかもしれない息子を思い、紗織はその場に崩折れた。
- 2010/07/05(月) 19:49:50|
- ディメンザー人ヅェズー
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