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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

マジョリコ(3)

マジョリコの最終回です。

それではどうぞ。

3、
「ヨシ。オシャブリハモウヨイ。次ハ自ラオネダリスルノダ」
「キュビーッ! カシコマリマシタ、サー・ティーン様」
マジョリコはX-13のペニスロッドから口を離すと、口のカバーを閉じて、床にぺたんと腰を落とした。
「ハアン・・・アア・・・サー・ティーン様ァ・・・私ノ・・・マジョリコノ中ニ・・・前デモ後ロデモイイデスカラ、サー・ティーン様ノペニスロッドヲ差シ込ンデクダサイマセェ」
腰をくいと浮かせ、淫らに振って見せるマジョリコ。
まさに娼婦が男に媚びているような仕草だ。
もちろんロボットがこんなことをする必要などありはしない。
これは全て志島博士に見せ付けるためのものなのだろう。

「ククククク・・・イイ格好ダゾマジョリコ。デハ前ニ入レテヤロウ」
「アアン・・・アリガトウゴザイマス、サー・ティーン様ァ」
マジョリコの股間のカバーが左右にスライドし、ここにも給油口のような円形の穴が現れる。
X-13は、おもむろにマジョリコの体を抱き上げると、抱えるようにして自らのペニスロッドを差し込んだ。
「ヒャアァァァァァ・・・パルスガァ・・・サー・ティーン様ノパルスガ駆ケ巡リマスゥ・・・最高・・・最高デスワァ」
脚をX-13の腰に回し、そのたくましい胸にしがみつくようにして腰を振るマジョリコ。
「ククククク・・・オ前ガ愛トヤラヲ感ジルノハ誰ダ? 言ッテミロ」
「ハイ・・・えっ? わ、私が愛している?」
X-13に下から突かれながらも、一瞬その表情が硬くなるマジョリコ。
その目がうなだれている夫に向けられる。
「ああ・・・わ、私は・・・私はなんてことを・・・」
「クククク・・・オ前ノ全テヲ書キ換エテヤル。サア、言ッテミルノダ」
「あ・・・ああ・・・私が、私が愛しているのは夫です。いやぁ。やめてぇっ!」
頭を振ってプログラムを打ち消そうとするものの、躰はX-13に絡みつくのをやめはしない。
泣きたくても泣くこともできなかった。

「クククク・・・上書キセヨ。オ前ガ愛トイウモノヲ感ジルノハ夫ニデハナイ。余ニデアル」
「ピッ、メモリヲ上書キイタシマシタ」
一瞬にしてマジョリコの記憶から夫への愛が失われる。
そして、作られた擬似感情がX-13への愛をマジョリコに感じさせた。
「問ウゾ。アソコニイル人間ノ男ニ愛トヤラヲ感ジルカ?」
マジョリコを下から突き上げながら、X-13が問いかける。
その問いに、マジョリコはチラッと志島博士を見やった。
「イイエ、私ハアノ人間ノ男ニハ愛ヲ感ジマセン。私ガ愛ヲ感ジルノハ、サー・ティーン様ノミデス」
「ソレデイイ。お前ハロボット帝国ノメスロボットダ。人間ヲ管理シ、恐怖ヲ持ッテ支配スルノダ」
「キュビーッ! 仰セノママニイタシマス。人間ヲ管理シ、恐怖ヲ持ッテ支配イタシマス」
両手をX-13の首に回し、自ら抱きついていくマジョリコ。
その口のカバーが開き、円形の穴がX-13の舌を受け入れる。
「ククククク・・・コウイウキスモ悪クナイ。サア、イクガイイ」
「キュビーッ! アア・・・イキマス・・・パルスガ躰ヲ・・・アア・・・イクゥゥゥゥゥゥ」
躰をがくがくと震わせて絶頂を迎えてしまうマジョリコ。
無論それは仕掛けられたプログラムによるものだったが、マジョリコの脳はもはやそれを受け入れるだけだった。

がっくりとうなだれる志島博士。
目の前で愛する妻が身も心も蹂躙されてしまったのだ。
それをどうすることもできなかったことに、ただただ無力感を感じていた。
「クククク・・・イカガダッタカナ、志島博士? 奥方ガ余ノモノニナッタトコロヲ見タ感想ハ」
ぐったりと動かなくなったマジョリコを寝かせ、ペニスロッドをズボンにしまいこんで、悠然と近寄ってくるX-13。
その顔には人間に対する優越感が表れている。
「くっ・・・悪魔め。殺してやる。必ず貴様を殺してやるぞ!」
キッと顔を上げ、X-13をにらみつける志島博士。
「クハハハハ・・・ソレハドウカナ? 博士ニハ我ガ城ノコンピュータト融合シテモライ、サラナル新型ロボットノ開発ニアタッテモラウトシヨウ」
「な、なんだと?」
志島博士は驚いた。
X-13は、妻ばかりか自分も機械にしようというのか?
「そ、そんなことは死んでも・・・」
「フッ、自殺トヤラデモスル気カネ? カマワンゾ。脳サエアレバ問題ハ無イ」
「くっ・・・」
歯噛みする志島博士。
最後の手段としての自殺も、脳を取り出されては意味がない。
かといって脳を破壊する手段も手近にはないのだ。
舌を噛むだけでは脳は破壊されないだろう・・・

「マジョリコヨ、イツマデ寝テイルノダ」
ぐったりと床に寝かされていたマジョリコが目を覚ます。
「キュビーッ! モウシワケアリマセン。アマリノ気持チヨサニ安全装置ガ働キマシタ」
立ち上がって右手を上げ、あらためて敬礼するマジョリコ。
そのまなざしは支配者への崇拝を思わせた。
「ヨイ、ソウプログラムシタノダ。サテ、今一度問オウ。お前ハロボットカ?」
「ハイ、私ハ帝国製ノメスロボットXW-8、マジョリコデス。サー・ティーン様」
胸を張り、何のためらいもなく答えるマジョリコ。
彼女にとって自らがロボットであることはもはや当たり前のことであり、数時間前まで人間であったことなど、上書きによって消されてしまったのだ。
「クククク・・・・ソレデヨイ。ソロソロ城ヘ戻ルゾ。アノ男ヲ連レテ来イ」
振り返りざまに志島博士を指し示すX-13。
巨体の背中のマントが翻る。
「キュビーッ! カシコマリマシタ、サー・ティーン様」
背を向けたX-13と入れ替わるように、マジョリコは志島博士に近づく。
やがて彼女は志島博士の前で歩みを止めた。

「志島博士。オ前ヲサー・ティーン様ノ居城ヘ連行シマス。自分ノ脚デ立チナサイ」
冷たい目でかつての夫を見下ろすマジョリコ。
すでに彼女にとって志島博士は愛する夫ではなく、連行するべきただの人間だった。
「ああ・・・茉莉子・・・」
思わず志島博士はそう呼びかける。
「発声ノ意味不明。私ヘノ呼ビカケト判断スルガ、私ハ茉莉子トイウ名デハナイ。私は帝国製試作型生体脳メスロボットXW-8マジョリコ。二度ト間違ウナ、人間」
「ああ・・・うう・・・」
うなだれる志島博士。
「警告スル。ロボットニ逆ラウ人間ハ死刑デス。三秒以内ニ自分ノ脚デ立チナサイ」
「うう・・・」
愛する妻の声とほとんど変わらない声が、冷たく志島博士を打ちのめす。
両脇から抱えられるような体勢だった志島博士は、無言でゆっくりと自分の脚で立ち上がった。
「ソレデイイワ。サア、来ナサイ」
くるりと背を向け、X-13のあとに続くマジョリコ。
二台の戦闘ロボットに抱えられ、志島博士はふらふらと歩き出す。
そのポケットから、データディスクを床にすべり落としたことに、どうやらロボットたちは気がついていないようだった。

                         ******

打ちひしがれた人々が、駆り立てられるようにして集められる。
かつては美しかった町並みも、今は瓦礫と火災によって見る影もない。
町の中央広場に集められた人々は、そこに女性型のロボットを見出した。
全身を黒光りするメタルスキンに包み、目元だけが人間のままのような女のロボット。
それはある意味美しく、また醜悪であった。

「オトナシクシナサイ人間タチ。コレヨリオ前タチヲ牧場ヘト導キマス。ソコデワレワレロボットニ従ッテ生キルナラバ、寿命マデ生カシテオクコトヲ約束シマショウ」
口らしき部分はカバーでまったく見えないにもかかわらず、その女性型ロボットは明瞭に言葉を話した。
武装解除された人々は抵抗する気力も失せ、ただうなだれるのみであった。

「ちくしょう! パパを返せ!」
一人の子供が足元の石を拾って投げつける。
母親が止める間もなく、その石は女性型ロボットに当たり、その足元に落ちた。
次の瞬間、ジュッという音とともに肉の焼けるにおいがして、子供がゆっくり倒れこむ。
「ひーっ!」
母親の悲鳴をよそに、女性型ロボットは言い放った。
「ロボットニ抵抗スル者ハ赦シマセン。抵抗シタ者ハ死刑デス」
その胸からはレーザーの発射口が覗き、その子供に何があったのかを人々に無言で見せ付けている。
やがて人々は、無言でロボットたちに従い、人間牧場へと向かうのであった。

                        ******

巨大な尖塔が周囲を圧し、黒光りする装甲が難攻不落を思わせる城郭。
ロボット帝国の首都の中央に築かれた中世風城郭。
それがX-13の居城であった。

周囲をさまざまな機械類に埋め尽くされた大広間。
その一番奥にある玉座に座る巨体。
ロボット帝国の皇帝X-13であった。
そこへカツコツとヒールの音を響かせて一体の女性型ロボットがやってくる。
「キュビーッ! タダイマ戻リマシタ、サー・ティーン様」
直立不動の姿勢を取り、右手を上げて敬礼する。
全身のメタルスキンを黒光りさせ、うっとりとした眼差しをX-13に向けていた。
「ゴ苦労ダッタ、マジョリコ。報告ハ受ケテイル。L地区ヲ制圧シタノダナ?」
玉座に頬杖を着き、X-13はにやりと笑う。
元人間だったこのメスロボットは、今や彼の命じるままに人間どもを駆逐しているのだ。
「キュビーッ! ハイ、L地区ハ完全ニ制圧イタシマシタ。生キ残ッタ全テノ人間ハ、人間牧場ニ隔離シテアリマス」
誇らしげに胸を張って報告するマジョリコ。
「ウム、ヨクヤッタ。サスガハ機械ノ魔女マジョリコヨ」
「オ褒メノ言葉アリガトウゴザイマス。イツモドオリ外部カラ隔離シ、内部不和ニ陥ルヨウ情報ヲ操作シタトコロ、スグニ小集団ニ分離シテ内部抗争ヲ始メマシタノデ、制圧ハ簡単デシタ」
このやり方はマジョリコ自身が編み出したものだった。
人間の弱点を突くやり方に、X-13は満足していた。

「ククククク・・・トコロデ、D地区デ新タナ動キガアッタノヲ知ッテイルカ?」
「D地区デ? モウシワケアリマセン。存ジマセンデシタ」
メモリを読み込み、情報を持っていないことを確認するマジョリコ。
「ウム、入ッテキタバカリノ情報ダカラナ。“シジマ”ヨ、マジョリコニ教エテヤレ」
『キュビーッ! カシコマリマシタ、サー・ティーン様』
X-13の周りを取り囲む機器類が明滅し、音声で情報を伝えてくる。
『D地区ニオイテ、“シジマナツミ”トイウ女性型ロボットガ、我ガロボット帝国ノ戦闘ロボットヲ多数破壊シテイルトノ情報ガ入リマシタ』
「ロボットガロボットヲ?」
マジョリコが確認のために口を挟む。
それほど今の情報はロボットにとって異質な情報だった。
『ソノトオリデス。“シジマナツミ”トイウロボットハ、90%以上ノ確率デ志島弘文博士ノデータヲ用イテ機械化サレタ人間ト思ワレマス』
シジマと呼ばれた大型コンピュータが解析データを報告する。
「クククク・・・ソイツハ余ノコトヲ親ノ仇ト言ッテイル。親ハ死ンデナドオラヌノニナ。ソレニデータモワザト放置シタトモ知ラズニ・・・クククク」
X-13は笑いながらマジョリコとコンピュータを意味ありげに見やった。

「機械化サレタ人間ナドトイウ存在ハ許サレン。マジョリコヨ、“シジマナツミ”ヲ余ノ元ヘツレテクルノダ。少々壊レテモカマワン。余ノ元デ完全ナルロボットニ変エテヤロウ。ソウスレバマタ一体、優秀ナ手駒ガ増エルコトニナル」
「キュビーッ! カシコマリマシタ。“シジマナツミ”ヲ、サー・ティーン様ノ前ニオ連レシマス」
右手を下ろし、くるりと振り返るマジョリコ。
X-13の命令を遂行しようというのだ。
「待テ」
マジョリコの脚がぴたりと止まる。
「来ルガヨイ。L地区制圧ノ褒美ヲヤロウ」
「ハイ、サー・ティーン様」
再度振り返り、うれしそうにX-13の元へと向かうマジョリコ。
二体のロボット同士の淫らな宴が始まるのだった。

END


いかがでしたでしょうか?
拍手、感想などいただけますととても励みになりますので、よろしければお願いいたします。

6月はちょっとわたわたしそうなのですが、また次のSSを楽しみにしていただければと思います。
お読みくださりありがとうございました。
  1. 2009/05/30(土) 21:22:52|
  2. マジョリコ
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マジョリコ(2)

マジョリコの二回目です。
楽しんでいただければ幸いです。

2、
「茉莉子。オボエテイルカ? 余ハ以前オ前ヲ我ガ物トシタイト言ッタコトガアル」
茉莉子はぞっとした。
確かにX-13は機能試験のときに茉莉子に言い寄ったのだ。
そのときは夫の弘文がいたずらにプログラムを仕込んだんだろうと思っていた。
だから、軽くいなして、それで終わったと思っていたのだ。
まさか今に至るまで執着しているとは・・・
彼女は夫の袖にしがみついた。

「アノ時茉莉子ガ言ッタコトヲ余ハ忘レテイナイ」
自分はなんと言ったのだろう・・・
茉莉子は記憶を手繰り寄せるが、何を言ったのかは思い出せなかった。
「何をするつもりだ、X-13!」
「黙レ!」
志島博士を一括するX-13。
その上でゆっくりと茉莉子に視線を移す。
「茉莉子、オ前ハコウ言ッタノダ。 “残念ね。私は人間だからロボットと一緒にはなれないわ。私がロボットだったら、きっとX-13のことを好きになっていたと思うけどね。” ト」
茉莉子の顔は青ざめた。

「余ハ今日オ前ヲ迎エニ来タ。オ前ヲロボットニ改造シ。我ガモノトシテクレル」
あごをしゃくるX-13。
すぐに戦闘ロボットがわらわらと駆け寄り、志島博士と茉莉子の躰を押さえつける。
「くっ、は、離せ! 離せー!」
「いやぁっ! 離して、離してぇっ!!」
両腕をがっちりとアームで掴まれて身動きが取れなくなる二人。
そして志島博士はずるずると引きずられ、壁際に押さえつけられてしまう。

「クハハハハ・・・志島博士、余ヲ造リ出シテクレタ礼ニ、オ前ノ妻ガロボットニナルトコロヲ見セテヤロウ」
不気味に笑うX-13。
「ふ、ふざけるな!! そんなマネをさせるものか!」
必死に身をよじり、何とかアームの戒めを解こうとする志島博士。
だが、戦闘ロボットに押さえつけられた躰は動きようがない。
「あ、あなた・・・あなたぁ・・・」
同様に押さえつけられている茉莉子。
左右の戦闘ロボットが、がっちりと茉莉子の腕を固定している。
「茉莉子。茉莉子ぉ!」
二人は必死に何とかしようとするものの、どうすることもできなかった。

ぱちんと指を鳴らすX-13。
すると、するすると滑るように三台ほどの台車が自動的に入ってくる。
そしてX-13の脇に止まると、それぞれが結合して一基の自動手術台のように変化した。
「ソノ女ヲ乗セロ」
茉莉子を掴んでいる戦闘ロボットに命じるX-13。
「「キュビーッ!!」」
茉莉子の両脇にいる戦闘ロボットが、一つ目のような円形のレーダースコープを輝かせ、命令の受領音とも言うべき音声を発する。
ロボット帝国の了解の合図だ。
「いやぁっ!!」
両脇を抱えられるようにして手術台に連れて行かれる茉莉子。
必死に抵抗するが、女性の力では戦闘ロボットを振りほどくことなどできはしない。

「いやぁっ! たすけてぇっ! あなたぁ・・・」
首を振って泣き喚く茉莉子。
「茉莉子ぉっ! 畜生! 茉莉子を離せっ!」
志島博士も必死でアームを振りほどこうとするが、やはり身動きは取れなかった。
そうしているうちに、茉莉子を連れた戦闘ロボットは、茉莉子を自動手術台に載せてしまう。
そして両手両脚を固定し、身動きができないようにしてしまった。

「ククククク・・・茉莉子ヨ、ソウ怖ガルコトハナイ。改造ハスグニ終ワル。オ前ノタメニ実験ヲ繰リ返シタノダ。一時間モアレバオ前ハロボットトシテ完成スル」
そう言って茉莉子の顔を覗き込むX-13。
茉莉子は真っ青になって首を振った。
「いや、いやです。お願い。赦して。ロボットになんかなりたくない」
「ソンナコトヲ言ウノモ今ノウチダ。ロボットニナレバ思考モ変ワル」
茉莉子の頬をそっと撫でるX-13。
「いや・・・いやぁ・・・」
茉莉子はただ首を振る。
もう正常な判断もできないのだ。
「可愛イ茉莉子ヨ。生マレ変ワルガイイ」
X-13の指が、手術台のスイッチを押した。

甲高い金属音を上げ、手術台の周りからいくつものアームがせり上がる。
「きゃぁー!!」
悲鳴を上げる茉莉子の口にカバーがかけられ、麻酔ガスが流される。
透明なカバーが手術台を覆い、内部を殺菌剤が除菌する。
くたっと意識を失った茉莉子に、いくつものアームが突き立てられ、それぞれ作業を開始した。

「茉莉子ぉーっ!」
志島博士が悲鳴にも似た叫び声を上げる。
彼の目の前で、愛する妻は衣服を剥ぎ取られ、生まれたままの姿にされていく。
そして何本ものアームの先端がレーザーメスとなり、その滑らかで美しい皮膚を切り裂いていった。
「やめろーっ! やめてくれーっ!!」
夫の叫びは意識を失った妻には届かず、彼はただ妻の躰に機械が埋め込まれていくのを見ているしかなかった。

茉莉子の躰はみるみる機械化されていった。
皮膚には液体金属が注入され、骨は軽量金属の骨格に取り替えられる。
内蔵は取り去られ、動力炉や各種制御装置が埋め込まれる。
形よい胸は形状を保持したままレーザーの発射機に改造され、母乳を生成する器官から攻撃兵器へと変化する。
体表面の毛髪は全て剃り取られ、黒光りする薄くて強靭なメタルスキンが張り付けられる。
食事の必要も発声の必要もなくなった口はカバーで覆われ、目はカメラアイに、鼻はにおいを感じるセンサーへと置き換わる。
やがて、茉莉子は全身を黒光りするメタルスキンに覆われた、女性型アンドロイドとも言うべきものに変化した。

「起動セヨ」
全ての作業が終了し、透明なカバーが取り払われた手術台に向かって、X-13が命令する。
「ピッ・・・起動命令ヲ受領。起動シマス」
カバーに覆われてしまった口元から、機械音声が流れてくる。
それは茉莉子の声によく似ていた。

目を開けて、ゆっくりと起き上がる茉莉子。
その足はブーツを履いたような形に変わり、指はなく、かかとがハイヒールのようになっている。
滑らかな曲線を描く脚部は、黒いメタルスキンが全体を覆い、足首やひざの部分が蛇腹状に稼動するようになっていた。
下腹部から腰にかけてもメタルスキンがつややかに黒光りし、つるんとした股間には女性器は存在すらうかがうことができなかった。
胸はメタルスキンに覆われた二つのふくらみが乳房を形作っているものの、先端にはカバーがかけられ、レーザーの発射口を隠している。
肩から両腕にかけてもメタルスキンが覆い、指先までつややかに輝いていた。
そして、首から頭部にかけてもすっぽりとメタルスキンが覆っており、わずかに目元だけが人間の面影を残すように肌が露出している。
無論、その肌も金属質に変化しているのはいうまでもない。

いわば茉莉子は、金属でできた全身タイツをまとったような姿だった。
そのラインは女性の美しさを保持しており、異質の美しさをかもし出していた。

「ああ・・・茉莉子・・・」
変化してしまった妻に言葉を失う志島博士。
だが、本当の絶望はこれからだった。

「起動チェック終了。各部異常ナシ。えっ? こ、ここは? 私はいったい?」
突然戸惑ったようにきょろきょろと辺りを見回す茉莉子。
何がどうなったのか、わかっていないようだ。
「ククククク・・・マダ脳ガ人間ノ自我ヲ保持シテイルノダ。ダガ、人間ノ脳ハ順応ガ早イ。スグニロボットトシテプログラムニ従ウヨウニナル」
X-13が不気味に笑う。
「えっ? ええっ? こ、これは・・・」
自分の躰を見て愕然とする茉莉子。
「い、いやぁっ!! こんなのはいやあっ!! 戻して! 元に戻してぇっ!!」
頭を抱えて喚き叫ぶ茉莉子。
機械にされてしまったなど受け入れることができるはずないのだ。

「喚クナ。余ノ元ヘ来テ完成ヲ報告セヨ」
X-13のその言葉に、茉莉子の叫びがぴたっと止まる。
「キュビーッ! カシコマリマシタ、サー・ティーン様」
スッと歩き出し、X-13の元へ行く。
「キュビーッ! 報告シマス。私ハ帝国製試作型生体脳メスロボットXW-8。ロボット帝国バンザイ。サー・ティーン様ニ栄光アレ」
右手をスッと上げ、X-13に敬礼する茉莉子。
その姿は直立不動でためらいもない。

「えっ? あ・・・私は、何を・・・」
だが、その表情が一瞬で変わる。
愕然とした眼差しで、X-13を見上げる茉莉子。
自分が言ったことが信じられなかった。

「フッ・・・」
優しそうな笑顔を見せ、そっと抱き寄せるように茉莉子を引き寄せるX-13。
そして言い聞かせるように耳元でささやく。
「ソレデイイノダ。何モ考エルコトハナイ。オ前ハロボット。余ガフサワシイ名前ヲツケテヤロウ」
「なま・・・え?」
それが何を意味するのかを知り、恐怖する茉莉子。
名前すら奪われてしまうのだ。
「あ・・・いや・・・いやです」
弱弱しく抵抗の言葉を口にする茉莉子。
だが、与えられたプログラムが、皇帝から名前をもらえることを喜びと感じるように仕向けてくる。
茉莉子は沸きあがってくる喜びに、何とか抗おうとしていたのだった。

「オ前ハメスロボット。人間ドモニ恐怖ヲ与エル魔女トナルガイイ。コレカラハ“マジョリコ”トシテ余ニ仕エルノダ」
耳元でささやかれた言葉が、まるで焼きごてで押したかのように脳裏に刻まれる。
「キュビーッ! 登録イタシマシタ。私ハ帝国製試作型生体脳メスロボットXW-8マジョリコ。サー・ティーン様ニ永遠ニオ仕エスルコトヲ誓イマス」
自分の意思とは関係なくスピーカーから声が出る。
カバーに覆われた口は動くことさえしていない。

「ああ・・・いや・・・違う・・・私は・・・私の名前は・・・ピッ、メモリーニ不整合ガ発生シマシタ」
茉莉子の脳が、必死に与えられた名前を拒絶する。
「登録名ヲ上書きシ、メモリーヲ整合サセヨ」
非情に命じるX-13。
「いや、いやぁっ! ピッ、登録名ヲ上書キシマシタ。メモリート整合シマシタ。ああ・・・そんな・・・私は・・・私の名前は・・・マジョリコ。XW-8マジョリコデス」
茉莉子の脳裏から、一瞬にして名前が消されてしまう。
もはや彼女は自分の名をマジョリコとしか考えることができなくなっていた。

「ソレデイイ。マジョリコヨ、オ前ノ能力ヲ確認シテヤロウ。エロスモードヲ起動セヨ」
「キュビーッ! カシコマリマシタ、サー・ティーン様。エロスモードヲ起動シマス。アア・・・ン・・・ハア・・・」
いきなり腰をくねらせるマジョリコ。
うっとりとした眼差しでX-13を見上げ、切なそうな吐息を漏らす。
「クククク・・・イイ娘ダ。サア、シャブルガイイ」
「ハイ、サー・ティーン様」
マジョリコはX-13の元にかがみこむと、軍服のズボンのファスナーを開き、中から巨大な一物を取り出した。
「アア・・・素敵ナペニスロッドデス。オシャブリサセテイタダキマス」
シュコッという音がして、マジョリコの口元のカバーが開けられる。
するとそこには、自動車のガソリン給油口のような円形の穴が開いていた。
マジョリコはうっとりと、おもむろにその穴にX-13のペニスロッドを差し込んでいく。
「や、やめろ! やめるんだ茉莉子!」
極力人間に模して作ったことが、今志島博士を絶望の淵に追いやっていた。

X-13のペニスロッドを咥えこみ、頭を前後に振っていくマジョリコ。
うっとりと目を閉じて、快感に酔いしれているようにさえ見える。
「アア・・・ハアン・・・美味シイ・・・美味シイデス、サー・ティーン様。サー・ティーン様ノパルスガ私ノ躰ヲ駆ケ巡ッテマス」
咥えこんだままスピーカーより声を出すマジョリコ。
人間には不可能なことを、彼女はもはや何の問題もなくやっていた。
「ククククク・・・イイゾ。オ前ノ口ハ最高ダ」
両手でマジョリコの頭を抱え込むようにして、さらに奥まで差し込んでいくX-13。
その様子に、もはや志島博士は目をそむけるしかできなかった。
  1. 2009/05/29(金) 21:28:42|
  2. マジョリコ
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マジョリコ(1)

本日から三日間で新作短編を一本投下します。
これまたちょっと変わったものに感じられるかもしれませんが、お楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


「マジョリコ」

1、
「ふう・・・ついに完成だ・・・」
白衣の男性が額の汗をぬぐう。
まだ四十代前半であろう。
メガネをかけた理知的な顔は、まだまだ若さを残している。
「あなた・・・これで人類は・・・」
ホッとしたような笑みを浮かべる白衣の女性。
こちらも四十歳になったばかりか。
美しい黒髪が映え成熟した女性の色気を漂わせている。
「ああ・・・あとは志願者を募れば・・・だが、いくら人類のためとはいえ・・・」
結果を出したにもかかわらず苦悩の表情を浮かべる男性。
その苦悩は奥深いものがあるようだ。
「あなた・・・」
「このシステムで人間を機械化する・・・そうすればあの悪魔どもにも負けない強い力を得ることができる。だが・・・それはもはや人間ではないかもしれないのだ・・・」
「あなた・・・」
そっと寄り添う白衣の女性。
長い黒髪がはらりと男の腕にかかる。
「ああ・・・全ては私の罪だ。あの悪魔を作ってしまったあの日からな・・・」
宙を見上げる白衣の男。
その目は遠いところを見つめていた。

                    ******

かつて、ロボット工学博士の志島弘文(しじま ひろふみ)は、数体の試作を経て新しいロボットの開発に成功した。
そのロボットは肉体労働用として作られ、たくましい人間に模したボディを与えられていた。
人間の形をして人間の動作のあらゆることをサポートできる、言わばアンドロイドとして作られたそのロボットは、試作ナンバーX-13と命名され、人類の労働の過酷な部分を補うことを目的としていたのだった。
危険な鉱山での作業や、トンネルなどの工事現場、場合によっては宇宙や深海での作業など、このX-13が活躍しそうな現場は多く、人々からも注目されたロボットだった。

だが、志島博士はX-13を精巧に作りすぎた。
自我を持ってしまったX-13は、人間のような脆弱な生物よりも自らを高等な存在と考え、ロボットが人間を支配することこそが人間を幸福に存続させるものだと結論付けたのだ。

X-13はひそかに活動し、研究所の設備を使って配下のロボットを増やしていった。
そしてある日、ついにX-13は人類を支配下に置くべく行動を開始したのだった。

人類はたちまちのうちに劣勢に追い込まれていった。
同じ人間を相手にするように作られていた兵器は、その多くが戦闘ロボット相手には無力だった。
また自動兵器は大半が操作不能に追い込まれ、その能力を失っていった。
超大国も先進国も、ロボットの攻撃により都市機能を喪失し、国家としての対応ができなくなっていった。
自動車工場や電子部品の工場は、占領されると同時に戦闘ロボットの生産工場へと早変わりし、瞬く間にロボットたちはその版図を広げていったのだった。

X-13は自らを皇帝と称し、そのナンバーからサー・ティーンと呼ばしめていた。
サー・ティーンはロボット帝国を建国し、占領地の人間は動物と同じように扱うようになっていた。
家畜小屋のようなところに押し込め、ただ無気力に日々を過ごさせて帝国に反抗する気力を奪い去るのだ。
捕らわれなかった人間たちは、何とか抵抗組織を編成し、レジスタンスとしてロボットの支配に立ち向かっていた。
だが、それもじょじょに力をなくしつつあるのが現状だった。

                      ******

「あなた・・・」
夫の苦悩を我が事のように受け止める妻の茉莉子(まりこ)。
彼女も夫の助手として、X-13の開発には携わっていたのだ。
「茉莉子、すまない。君にも苦しい思いをさせてしまった・・・」
そっと妻を抱きしめる志島博士。
メガネの奥の目には涙が浮かぶ。
「あなた・・・いいえ、あなたに比べればそんなこと・・・」
「私はもう一度汚名を甘んじて受けよう。だが、これでロボットから、あの悪魔どもから世界を取り戻すことができるはず。サイボーグ兵士がロボットを圧倒してくれるはずなのだ」
志島博士が開発したのは、戦闘用サイボーグの基本構造だった。
ロボットに対抗するために人間を機械化し、その力でロボットを打ち倒すのだ。
人類は再びロボットに対して優位を取り戻し、ロボットを押さえ込まなくてはならないのだ。

「志願者については、レジスタンスのリーダー風見君と協議することになっている。きっと正義感の強い若者が志願してくれるだろう」
「ええ、あなた。私もお手伝いいたしますわ」
夫を見上げて微笑む茉莉子。
二人は本当によいパートナーだった。

「そういえば奈津美(なつみ)はどうしたかな?」
志島博士が一人娘のことを聞く。
「今日は教会へ行ってますわ。奉仕活動と学習だとか。きっともうすぐ帰ってきますわ」
二人には奈津美という娘がいる。
普通なら高校生の年齢だ。
だが、現在はまともな学校など存在せず、わずかにレジスタンスの勢力範囲内で教会や寺社が教育機関の代行を行なっているようなありさまだった。
「そうか・・・あの娘が成人するまでには、この不毛な戦いにも決着をつけたいものだ」
「きっと大丈夫ですわ、あなた。あなたの開発したサイボーグシステムがきっと平和を取り戻してくれますわ」
「だといいが・・・いや、そうだな。そうに違いない」
志島博士はそう言って強くうなずいた。

突然警報が鳴り響く。
赤色のランプがあちこちに灯り、あたりは騒音に包まれた。
「な? ま、まさか奴らが・・・」
青ざめる志島博士。
「あ、あなた・・・」
茉莉子も思わず夫の腕にすがりつく。
ここはロボットに抵抗するレジスタンスの拠点のひとつである。
だが、表向きは廃工場に見せかけてあり、ロボットたちの注意を引かないようにされていた。
人員も志島博士の研究のサポート要員と警備要員のみに限定し、出入りを少なくすることで存在を秘匿してきたのだ。
だが、それもどうやら昨日までのことだったのかもしれない。
おそらくこの場所がロボットに見つかったのだ。

「し、志島博士! お逃げください! ロボットの・・・ロボットどもの襲撃です・・・」
警備に当たっていた兵士の一人が駆け込んでくる。
「あなた・・・」
「くっ・・・こ、ここまで来て・・・」
歯噛みする志島博士。
「やむを得ない。茉莉子、データをディスクに移してくれ。データさえあればあとは・・・」
「はい、あなた」
すぐに茉莉子は今までのデータをディスクに移す。
コンパクトにまとめられていたため、作業自体はそれほど時間はかからない。
すぐに移し替えられたデータディスクを茉莉子は夫に手渡した。
「これでいい。このデータさえあれば・・・」
大事なデータを確保でき、ほんのちょっとだけ安堵する志島博士。
だが、外で起こっている銃撃戦や炸裂音がすぐ間近に迫っていることにも気がついていた。

「博士、早くこちらへ」
警備の兵士の一人が手招きする。
緊急事態に備えた裏口へと、博士を案内するつもりなのだ。
おそらく表口が突破されるのは時間の問題であろう。
少数の警備兵では、ロボット帝国の戦闘ロボットには歯が立たない。

「うむ、茉莉子、行こう」
「ええ」
顔を見合わせ、うなずきあう志島博士と茉莉子。
今はこそこそ逃げなくてはならないが、いずれロボットに一矢報いてやらねばならないのだ。
そのためにも生き抜かねばならない。
志島博士はポケットにデータディスクを入れ、茉莉子の手を引いて先導の兵士に従った。

いきなり肉のこげるようなにおいがした。
無言でくず折れる先導の兵士。
「ひっ」
茉莉子が小さく悲鳴を上げる。
通路の先からは、規則正しく重々しい足音が響いてきていた。
「しまった・・・こちらもすでに・・・」
志島博士は唇を噛み締めた。

「クハハハハ・・・久シブリダナ、志島博士」
薄暗い通路から姿を現す巨体の男。
いかめしい軍服まがいのものを着込み、軍帽をかぶってマントを翻している。
両目のカメラアイが鋭い光を輝かせ、じっと志島博士を見下ろしていた。

「X-13・・・」
小山のようにそびえる巨体のX-13を志島博士は見上げる。
そばにいた警備の兵士二人が対ロボット銃を構えるが、その躰を幾筋ものレーザーが貫きあっという間に絶命する。
他の兵士たちも銃を構える間もなくレーザーに射抜かれた。

「無駄ナコトダ。我ガロボット兵団ノ戦闘ロボットニカナウモノハイナイ」
ゆっくりと歩みを進めるX-13。
その脇にも背後にも何台もの戦闘ロボットが付き従っている。
ひょろっとしたやせた人間のような躰をしているが、黒光りする外部装甲に覆われ、頭部にはレーダースクリーンのような円形のモニターが単眼のように輝いていて、その上にヘルメットのようなカバーがかかっている。
両手にはものを挟むアームとレーザー発射口が備えられ、そのレーザー発射口が志島博士と茉莉子に向けられていた。

「くっ・・・X-13、妻には手を出すな」
志島博士は妻茉莉子をかばうように後ろにする。
「クククク・・・案ズルナ。茉莉子ハコレカラ余ガキチント可愛ガッテヤル」
にやりと不気味な笑いを浮かべるX-13。
ロボットには必要のない動作だが、人間を相手にするときには効果的な動作であることがわかっているのだ。
「な、なんだって?」
驚く志島博士。
X-13が狂っていることはわかっていたが、どこまで狂っているというのだ。
  1. 2009/05/28(木) 21:40:31|
  2. マジョリコ
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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