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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

掃除機と加湿器 (後)

昨日に続きまして「掃除機と加湿器」の後編をお送りいたします。
ザラベダみたいな悪魔っ娘が私のところにも来ないかなー。

それではどうぞ。


                   ******

うう・・・ん・・・
だんだん意識が戻ってくる。
ゆっくりと目を開ける紗枝梨。
ここはどこ?
私はいったい?

紗枝梨はゆっくりと周囲を見る。
どうやら我が家のリビングのようだわ。
私、いつの間にか眠ってしまっていたのかしら・・・
ゆっくりと躰を起こす紗枝梨。
だが、自分の躰に何となく違和感を覚える。
『あら? どうかしちゃったかしら?』
自分の声がすごくくぐもって聞こえる。
それもそのはず、彼女の躰は先ほどまでとは全く違っていたのだ。

彼女は裸だった。
ゆっくりと立ち上がった彼女の姿は、確かに人間の女性としてのボディラインは保っていた。
それは二人の子を持つ四十台の女性としてはかなり美しいもので、彼女の夫もよくそのスタイルの良さを褒めていたものだった。
しかし、今の彼女の姿は、人間らしいのはそのラインだけだったのだ。

彼女の躰からは頭髪を含めた毛髪がすべて消え失せており、後頭部は剥きたてのゆで卵のようにつるんとしていて、股間の茂みも全くない。
全身は白かった肌の色が濃いグレーになっており、躰の脇にオレンジ色のラインが走っている。
何よりその皮膚は柔らかみのない硬質なプラスチックになっており、首や肩、腕や足などの関節部は球体関節となっていた。
彼女の異質さを際立たせるのがその顔で、鼻と口が酸素マスクのような三角形のカバーで覆われ、そこから床にまで達するような長い灰色の蛇腹のホースが伸びている。
ホースの先端にはT字型をした掃除機の吸い込み口があり、彼女の声はそこから聞こえていたのだ。
背中には持ち手のようなコの字型のでっぱりができ、尾てい骨のところからはコンセントに差し込む電源コードのプラグが見えている。
膝と足首のところには回転するキャスターが付いていて、四つん這いになったときに腕だけで移動できるようになっていた。
両方の形の良い乳房には、先端に押しボタンになった乳首が付いており、右側に“電源”と、左側には“コード”と書かれている。
それはまさに、紗枝梨と彼女が先ほどまで手にしていた掃除機が融合した姿に他ならなかった。

紗枝梨は躰に感じた違和感を確認するべく、戸棚のところにある鏡を見る。
そこにはまるで酸素マスクを付けたように鼻と口をすっぽりと覆われ、頭髪がすっかり抜け落ち、肌の色もグレーとなった自分の顔があった。
だが、紗枝梨はもうそれを変だとは思わなくなっていた。
それどころか、掃除機である自分にとっては当たり前の姿だと思うようになっていた。
『どこもおかしいところはないわね。気のせいだったみたい。今はもう違和感も感じないし』
T字型の吸い込み口の先からくぐもった声がする。
それももう、紗枝梨の中では当たり前のことになっていた。

『ああ・・・そうだわ、掃除を・・・掃除をしなきゃ・・・掃除をしたいわ』
まるで美味しいものを嗅ぎつけたかのようにホースの先端を床に下ろしてクンクンと嗅ぐようなしぐさをする紗枝梨。
チリやホコリの臭いがたまらなく彼女をそそる。
『ああ・・・掃除・・・掃除よ・・・』
紗枝梨は尾てい骨のところの電源プラグを持ち、ずるずるとひっぱっていく。
すると彼女の体内からコードが伸びていき、やがて黄色い目印のラインが現れる。
そのことを感じ取った紗枝梨は、すたすたとコンセントのところへ歩み寄り、プラグを差し込む。
『ふわぁ・・・』
体内に電気が巡ってくる気持ちよさ。
思わず声が出てしまう。
体内に電気が通ったことで、紗枝梨は右胸の乳首スイッチを押す。
すぐさまヒュゴーーーというモーター音が唸り、紗枝梨の口から伸びたホースの先端にあるT字の吸い込み口から大量の空気が吸い込まれ始める。
そして空気は紗枝梨の体内を通り、お尻の穴から排気として噴出していくのだ。
ああ・・・気持ちいいわぁ。
紗枝梨は体内を空気が流れていく快感に酔いしれる。
空気が流れるだけでこれなら、実際にゴミを吸ったらどんなに気持ちがいいのだろう。
もう、紗枝梨は我慢ができなくなっていた。

紗枝梨はすぐに四つん這いになり、ホースの先端を床に付ける。
ゴーッという音とともに床の空気がチリやホコリと一緒に吸い込まれ、紗枝梨の体内を流れていく。
あん・・・なんて気持ちいいの・・・ゴミを吸い取ることがこんなに気持ちよかったなんて・・・
紗枝梨はその気持ちよさに感動さえ覚えてしまう。
これこそが彼女が生まれてきた喜びと言ってもいいだろう。
チリやホコリは彼女の体内に取り込まれ、空気だけがお尻から出ていく。
呼吸などはもう必要がない。
前から吐き出すなどありえないではないか。

四つん這いになって床のチリを吸い込んでいく紗枝梨。
時々腕を使って躰を前進させる。
カラカラと膝と足首のところのキャスターが回り、彼女の躰をスムーズに移動させていく。
紗枝梨はもう、掃除が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
あらかた床のごみを吸い取ってしまうと、胸の電源ボタンで一度電源を切り、紗枝梨は今度は股間に手を伸ばす。
彼女の股間部分は収納ケースになっていて、そこに隙間用の細くなった吸い込み口がセットされているのだ。
紗枝梨はそれを取り出すと、ホースの先端のT字型吸い込み口をはずし、隙間用吸い込み口をセットする。
『うふふふ』
先端の形状が変わり、それがまた紗枝梨を喜ばせる。
これで隙間のゴミを吸い取れるのだ。
楽しみだわ。

再び電源ボタンで電源を入れると、また猛烈な勢いで空気を吸い込み始める紗枝梨。
そのまま姿勢を低くし、口から伸びるホースを家具の隙間に差し入れていく。
毎日掃除しているはずなのに、いつの間にか溜まっているチリやホコリ、さらには虫の屍骸なんかも紗枝梨の中に吸い込まれていく。
ひゃー・・・なんて気持ちいいのぉ・・・ゴミがこんなにたくさん・・・最高だわぁ・・・
ゴミを吸い込めば吸い込むほど気持ちがいい紗枝梨。
もはやゴミを吸わない生活など考えられない。
もっと・・・もっとよ・・・
紗枝梨はさらにゴミを求めていく。
ここが終わったら寝室ね・・・その次は・・・そうだわ、愛由美の部屋も幸雄の部屋もあるわ・・・
あの子たちの部屋なら、きっと多くのゴミがあるに違いない。
そう思うだけで紗枝梨は身震いするほど興奮してしまう。
もはや子供たちの部屋には立ち入らないなどという考えは彼女から消え去っていた。
ああん・・・楽しみだわぁ・・・
これからのことを思いながら、紗枝梨は隙間のゴミを吸い込み続けていく。
その様子をザラベダは満足そうに眺めていた。

                  ******

「ただいまぁ」
玄関で少女の声がする。
学校を終えた愛由美が帰ってきたのだ。
紺色の制服に身を包んだ愛由美は高校生になったばかり。
なんとなく制服もまだしっくりと馴染んではいないような感じだ。

「あー、お腹空いたぁ。ママァ、何か食べるものあるー?」
リビングに入るなり、カバンを置いてソファに腰を下ろす。
とりあえず一息入れておやつか何かを食べたいところなのだ。
「ママァ?」
いつもならお帰りなさいと言ってくれるはずの母が出てこないことに、首をかしげる愛由美。
だが、すぐに疑問は解ける。
両親の寝室のほうから掃除機の音が聞こえるのだ。
どうやら掃除をしているところだったらしい。
「もう・・・」
愛由美は何か食べるものがないかどうか聞くため、寝室に行こうと立ち上がった。

「ママァ、ただいまぁ・・・えっ?」
両親の部屋に入った愛由美は目を疑った。
そこには母親ではなく、灰色の躰をした裸の女性が四つん這いになって何かをしていたのだ。
「ひっ! だ、誰?」
思わず小さく悲鳴を上げる愛由美。
その声に反応したのか、掃除機の音が止まり、裸の女がゆっくりと立ち上がる。
『あら、お帰りなさい』
「ひーっ!」
その姿はまさに異形。
裸の女性には違いないのに、灰色の肌をしており、足にはキャスターが付いていて、むき出しの胸は乳首が押しボタンのようになっている。
顔からは口と鼻がマスクのようなもので覆われ、そこから床にまで長いホースが伸びており、その先端には掃除機の吸い込み口のようなものが付いていたのだ。

「ば、化け物!」
あまりのことに床にへたり込んでしまう愛由美。
『まあ、いきなりなぁに? 母親を見て化け物だなんて。何かのギャグ?』
灰色の女の化け物が腰に手を当ててにらんでくる。
「は? え? ママ? ママなの?」
愛由美にはとても信じられない。
目の前のこの異形の女が母親とは思えるわけがないのだ。
『何を言ってるの? ママの顔を見忘れたの?』
愛由美はぶんぶんと首を振る。
母の顔を見忘れたりするはずがない。
はずがないからこそ、今この目の前にいるのが母とは思えないのだ。
『おかしな娘ねぇ。あ、おやつならゴミ箱から適当にあさっていいわよ』
「えっ?」
ゴミ箱から?
いったい何がどうなっているの?

「マ、ママなの? ど、どうしてそんな姿に?」
『ええ? ママの姿が何か変?』
灰色の女が自分の躰を見降ろしてみる。
『どこも変じゃないわよ。足のキャスターもちゃんと回るし、モーターも問題ないわ。ゴミだってまだ詰まってないわよ』
そう言ってお腹のふたを開け、中からピンクの四角いケースを取り出して中を見る。
『うん。まだいっぱいになってないわ。問題ないわよ。ほら』
そう言ってケースの中身を愛由美に見せる。
ピンク色の箱の中に床から吸い取ったゴミが少し溜まっていた。

「ひーっ!」
たまらず悲鳴を上げる愛由美。
何?
なんなの?
ママが・・・ママが化け物になっちゃったの?
『いちいちうるさい娘ねぇ。今日はどうしたの? ママ、今掃除しているんだからあっちへ行ってなさい』
「そ、掃除?」
『ええ、そうよ。私は掃除機ですもの。掃除をするのは当たり前だわ』
「掃除・・・機?」
『ええ、そうよ。私は掃除機。ゴミを吸うのが大好きなの。ベッドの下のゴミを吸うのが楽しみだわぁ』
そう言って胸のボタンを押すと、モーター音がし始め、彼女はそのまま四つん這いになる。
『私は掃除するんだから邪魔しないで』
「あ・・・あああ・・・」
あまりのことに、愛由美はまるで這うようにしてその場を後にする。

どうしよう・・・
どうしよう・・・
ママが掃除機になっちゃった・・・
どうしよう・・・
病気?
それとも何かの呪い?
とにかく誰かに知らせなきゃ・・・
でも誰に?

必死になって何度も転びそうになりながらリビングに戻ってくる愛由美。
中に入ろうとしたその瞬間、何かが愛由美の胸に当たる。
「きゃん!」
声を出したのは愛由美ではない。
「えっ?」
思わず何がぶつかったのか確かめる愛由美。
すると、彼女の足元に奇妙な小さい女の人の形をしたものが倒れていた。
「えっ? 人形?」
愛由美は思わずその人形のような小さな女を拾い上げる。
その女は奇妙な恰好をしており、躰にぴったりした紫色の服を着て、背中からコウモリのような羽を生やしている。
お尻からも先がとがった矢じりのようになった尻尾が生えており、まるで絵本に出てくる女の悪魔のようだ。
手にした感触は柔らかく、また温かみもあるので、もしかしたら生きているのかもしれない。
「な、なにこれ?」
愛由美はその奇妙な小さな女に戸惑った。

「う・・・うーん・・・」
小さな女が目を覚ます。
「ひゃっ! い、生きてる!」
思わず手から振り落としてしまう愛由美。
小さな女は、床に落ちそうになる寸前で背中の羽を広げ、ふわりと飛び上がった。
「と、飛んだ?」
「もう、いきなりぶつかってきて、何するのよ」
小さな女は愛由美の顔のあたりまで飛んでくると、腰に手を当てて怒っている。
「な、なに? なんなのあんた?」
先ほどから信じられないようなことばかりが起き、愛由美はもう何が何だかわからない。
「何って・・・あー、いけない! また見られちゃったわ。もう・・・ユキオに石をぶつけられてから散々だわ」
「えっ? 幸雄?」
いきなりこの小さな女から弟の名が出たことに驚く愛由美。
「そう。ユキオに石をぶつけられたの。でもね、美味しいチョコをくれたからもういいの。赦してあげたわ。わざとじゃないって言ってたし」
「幸雄を知ってるの?」
「知ってるわよ。あなたの弟なんでしょ?」
「そうだけど・・・あなたはいったい?」
この小さな女と弟はいったい何の関係があるのだろうか?
いったい我が家に何が起こっているというのか?

「見てわからない? 私は悪魔。ユキオと契約したの。だからユキオにだけは名前を教えてあげたわ」
「契約? 何の契約?」
「ユキオの望みをかなえてあげたのよ。ユキオはママに掃除機になっちゃえって言ったの」
ふふんと胸を張る女悪魔。
そうだったのか・・・
ママが掃除機になってしまったのは幸雄が原因で、この悪魔がママを掃除機に変えたんだ・・・
愛由美は愕然とする。
まさか弟がそんな望みを悪魔に言うなんて思ってもいなかったからだ。
確かに掃除は好きじゃない様子だったし、私もママが掃除掃除っていうのはいやだったけど・・・
掃除機になってしまえなんて言っていいはずがない。

「あなたがママをあんなふうにしたのね!」
愛由美は目の前でひらひらと飛んでいる女悪魔をつかみ取る。
「キャッ! 何するのよ! 離しなさい!」
「離してもいいから、ママを元に戻しなさい!」
愛由美はぐっと顔を近づけて女悪魔をにらみつける。
とにかく今は母親を元に戻すのが先決だ。
「はあ? あなたバカ? ゆでタマゴを生タマゴに戻せるとでも?」
憐れんだような笑みを浮かべる悪魔に愛由美はムッとなる。
「あなたがやったんでしょ? 元に戻しなさいよ! 何とかして」
思わず手にも力が入る。
「痛い痛い! 何するのよ! このバカ女! あんたも何かに変えてやる! えーい!」
いきなり悪魔の手が光ったかと思うと、愛由美は急速に意識が遠くなってしまった。

                   ******

「あ・・・れ?」
目を覚ます愛由美。
なぜ眠っていたのか思いだせない。
何か大変なことが起こっていたような気もするけど・・・

ゆっくりと躰を起こす愛由美。
どうやらリビングの床で寝ていたらしい。
愛由美はボディに傷がついていないか確認する。
女性の柔らかなラインはそのままだが、その姿は先ほどまでの彼女とは一変していた。
頭髪などの毛髪はすべて消え、白い肌はよりつややかな白のプラスチックの肌へと変化している。
関節はボール型ジョイントになっていて、お尻からは尾てい骨のあたりから黒いコードが伸びている。
小ぶりだが形の良い両胸は右が電源ボタン、左がダイヤル式のタイマーになっていた。
お腹の部分は取り外しができるようになっていて、コの字型の取っ手が付いている。
顔の造りは以前の愛由美のままだったが、口だけは大きく開いたままで固定されていた。

自分の硬質な白いプラスチックのボディを確認した愛由美は、どこにも傷がついていないことに安堵する。
そしてクンクンと空気を嗅ぐようなしぐさをする。
「いけない。部屋が乾燥しているわ」
愛由美はそういうと、カツカツと硬質な足音をさせ、台所へ行ってお腹の取っ手を持って引っ張り出す。
すると、お腹の部分が四角く外れ、大きなタンクになっていた。
愛由美は無言でそのタンクに水を入れ、再び自分のお腹にはめ込んで、台所を出る。
そしてリビングの隅っこに行き、お尻から伸びたコードをコンセントにつなぐと、そのまま床に座り込む。
お尻をぺたんと床に付けるいわゆるアヒル座りという座り方で座ると、愛由美は右胸の電源ボタンを押す。
すると、愛由美の体内でかすかな振動が起き、口から霧状になった水が吐き出され始める。
ああ・・・気持ちいい・・・
愛由美はうっとりとして目を閉じる。
空気中に霧状の水を吐き、空気を湿らせることがこんなにも気持ちがよかったなんて・・・
愛由美は大きな口を開け、霧状の水を吐き続ける。

「どう? 加湿器になった気分は?」
愛由美の肩に女悪魔が飛んできて腰を下ろす。
そんなの決まっているじゃない。
「最高よ。部屋を加湿するのがこんなに素晴らしいことだとは思わなかったわ。加湿器になれて幸せ」
愛由美は心からそう思う。
加湿器じゃない自分などもう考えられない。
このままずっと部屋の加湿をしていたい。
愛由美はただそれだけを考えていた。

「くふふ・・・チョコのお礼にしてはサービスしすぎたかしら。でもまあ、二人の女たちも幸せそうだし問題ないでしょ。いい事したわぁ」
三つ又のトライデントを手に愛由美の肩から飛び上がる女悪魔ザラベダ。
そのままリビングを出ると、ちょうど寝室の掃除を終えて、いそいそと二階へ上がっていく紗枝梨の姿が見える。
きっと愛由美や幸雄の部屋を掃除しに行くのだろう。
邪魔しちゃ悪いわね。
それじゃ二人ともお幸せにー。
ザラベダは笑みを浮かべると、そのまま窓を開けて飛び去って行く。

幸雄が智樹とたっぷりゲームを楽しんでから家に帰ってきたのは、夕方も遅くなってからのことだった・・・
「うわーーーん! ママーー! お姉ちゃーーん!」
ブォーーーン
シュコーーー

END


明日はヒロイン悪堕ち短編を投下いたしますのでお楽しみに。
  1. 2017/11/11(土) 20:36:02|
  2. 異形・魔物化系SS
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掃除機と加湿器 (前)

昨日告知いたしました通り、ブログ開設から4500日達成記念といたしまして、今日から四日連続でSSを三本投下したいと思います。
今日明日と前後編で一本、12日に一本、13日に一本投下する予定です。
お楽しみいただければと思います。

今日は「掃除機と加湿器」の前編です。
なんのこっちゃと思われるタイトルかと思いますが、異形化作品の一種と思っていただければと思います。

それではどうぞ。


掃除機と加湿器

「ヤバ・・・」
玄関へ向かおうと階段を下りてきた幸雄(ゆきお)は思わずそう口にしてしまう。
リビングで母親がこれから掃除機をかけようとしていたところだったのだ。
うわぁ・・・
心の中でまずいところに来てしまったと焦る幸雄。
ちょうど母の掃除タイムに当たってしまったらしい。
何とか見つかりませんようにと念じながら、彼はこっそりと玄関へ向かう。
だが・・・

「幸雄! どこへ行くの? お部屋の掃除はしたの?」
黙って通り過ぎようとしていた息子を目ざとく見つける母親。
彼女は持っていた掃除機を置き、そのまま息子のほうへと向かう。
見つかっちゃった・・・
幸雄は思わず肩をすくめる。
またお小言が始まってしまうよ。
急いでいるのになぁ・・・
そう思ってももはやどうしようもない。
幸雄は仕方なく母親のほうを向いた。

「友達のところに行く約束をしてるんだよ。帰ってきたら掃除するよ」
そう言って何とかこの場を逃れようとする幸雄。
「またそんなこと言って! 日曜日だって掃除するって言って結局しなかったじゃない!」
その態度に思わず口調が荒くなってしまう母の紗枝梨(さえり)。
どうせこの調子なら帰ってきたところで掃除などするはずがないのだ。
「今日はするよぉ」
幸雄は必死に弁解する。
「本当に? しなかったら、今日こそママがあなたの部屋に入って掃除するからね」
腰に手を当てて息子をにらみつけている紗枝梨。
もちろんそれは最終手段である。
紗枝梨には、たとえ子供であろうと一人の人間として過度にプライバシーには立ち入らないというルールを自分で決めている。
だからこそ、自分の部屋は自分でちゃんときれいにしてほしいのだ。
姉の愛由美(あゆみ)はそこそこ掃除をしているようだけど、この子はなかなか掃除をしようとはしない。
おそらく部屋の中はホコリでいっぱいだろう。
そんな部屋にいたら具合悪くなってしまうのにと紗枝梨は思う。

「そ、それはだめだよ。いろいろと置いてあるから、ママが勝手に動かすとどこに行ったか分からなくなっちゃう」
幸雄は慌てて首を振る。
母親に部屋に入られたら、ゲームやマンガが片付けられていないことがわかってしまう。
いや、彼も自分なりには置き場所を把握しているし、片付けているつもりではあるのだが、母親にとっては散らかっていると見えるらしいのだ。
だから本棚とかゲーム入れに勝手に戻されて、あとで探す羽目になるのはいやだった。
「だったらちゃんと自分で掃除しなさい! ホコリだらけの部屋にいたら病気にもなっちゃうのよ!」
「わかりました! 行ってきます!」
「あ、待ちなさい!」
逃げるが勝ちだとでも言わんばかりに、幸雄は母に背を向けた。

逃げ出すようにして玄関から外に飛び出す幸雄。
ふう・・・
やれやれ。
ママのきれい好きにも困ったものだよ。
毎日毎日掃除機をかけないと気が済まないんだもの・・・
うんざりした表情を浮かべる幸雄。
母の紗枝梨は病的なほどのきれい好きなのか、毎日掃除機をかけている。
そのため、幸雄にも毎日掃除しろ掃除しろとうるさいのだ。

あーあ・・・
せっかくこれから智樹(ともき)のところでゲームやるっていうのに、すっかり出ばなをくじかれちゃった。
ホントにもう腹が立つ。
一週間ぐらい掃除機かけなくたって平気だよ!
ママのバカ!
そんなことを思いながら、幸雄は腹立ちまぎれに転がっていた石を蹴飛ばす。

「キャッ!」
突然石が飛んで行った方向から声がした。
えっ?
驚く幸雄。
なんか変な声がしたぞ。
えっ?
何?
不思議に思って幸雄が石の転がったあたりに行くと、石の下敷きになっている変なものを見つける。
「えっ? お人形?」
それは、一見女の子たちが遊ぶような着せ替え人形みたいなものだった。
大きさ的にも着せ替え人形のようなもので、身長30センチぐらいだろうか。
二本の変な角の付いたフードが首から上を覆っており、躰も紫色のぴったりした全身タイツみたいなのを着ているため、女性であることが一目でわかる。
だが、背中からはコウモリの羽のようなのが生えていて、お尻からは先のとがった尻尾が伸びている。
なんと言うか、マンガに出てくる女の悪魔みたいな人形だ。

「えっ? これって生きてるのかな?」
幸雄はしゃがみこんで、彼女をそっと指先でつついてみる。
「う・・・うう・・・ん」
倒れていた小さな女がもそりと動く。
「うわ、生きてる」
思わず驚いて声を出す幸雄。
何これ?
初めて見るその小さな女性に、幸雄はちょっと興味を持った。

「ううーん・・・あっ!」
女悪魔の人形みたいなのが、目を覚まして幸雄を見上げてくる。
「あなたね! 石をぶつけたの!」
どうやらやっぱりさっきの石が当たっていたらしい。
「ご、ごめん。当たるなんて思わなかったんだ」
思わず謝る幸雄。
まさか石を蹴った先にこんなのがいるなんて思いもしなかったのだ。
「ひどいわ! ケガしなかったからいいけど、もしかしたら死んでいたかもしれないのよ!」
起き上がって腰に手を当てて怒っている女悪魔。
だが、なんというか小さくてかわいい感じで、怖さを感じさせるものがない。
いったいこれは何なのだろう。
幸雄はついまじまじと見てしまう。
躰は小さいが、大人の女性ぽくもある。
スタイルがいいうえに、躰にぴったりしたタイツ状の服だから、いやでも躰のラインに目が行ってしまう。
幸雄はなんだかちょっとドキドキしてしまった。

「ごめんなさい。ホントに当たるなんて思わなかったんだ。ところで、君は何者なの?」
幸雄はとりあえず彼女に謝ると、彼女が何者なのか尋ねてみる。
「何者って・・・えっ? もしかして私が見えて? キャッ! 私見られてるの?」
突然うろたえる彼女。
両手で顔を覆っている。
「うん。見えてるけど・・・」
「見られた―。石をぶつけられたせいだわ。どうしよう・・・ちょっとあんた! 責任取りなさい!」
いきなりビシッと彼女が幸雄を指さしてくる。
「せ、責任?」
びっくりする幸雄。
いきなり責任なんて言われても・・・
「ど、どうすればいいの?」
「うーん・・・とりあえず名前を教えなさい」
「い、池島(いけしま)幸雄」
「ユキオね。とりあえず私のことは誰にも言わないこと。いいわね?」
「いいけど、そっちも名前を教えてよ」
こっちが名乗ったんだから、そっちも名乗ってほしいと幸雄は思う。
「そんなことできるわけないでしょ!」
ふんという感じで横を向く彼女。
「むっ、じゃあ君を見たことをクラスのみんなに言いふらす」
「なっ! わ、わかったわよ。私はザラベダよ」
意外とあっさり名前を教えてくれたことに幸雄は拍子抜けした。
まさか言いふらすなんてことが通じるとは正直思っていなかったのだ。
「ザラベダだね。で、君はいったい何者なの?」
「もお、この姿見てわからないの? 悪魔よ! あ・く・ま!」
キッと幸雄をにらみつけ、その前でくるっと一回転してみせるザラベダ。
なんと言うか、躰のラインがしっかり出ていてすごくきれいだと幸雄は思う。

「で、なぜ私に石をぶつけたのか白状しなさい!」
ザラベダは落ちていた自分のトライデントを拾って突き付ける。
先が食事に使うフォークのように三つ又に分かれた槍の一種だ。
「だから、君を狙ったんじゃないよ。ちょっとむしゃくしゃしてさぁ。あっ、こんなことしてられないんだ」
幸雄は智樹のところへ行かなくちゃならなかったことを思い出す。
「ごめんね。石をぶつけちゃったお詫びにこれをあげるよ」
ポケットから板チョコを取り出す幸雄。
智樹の分と合わせて二枚持ってきたけど、智樹とは一枚を半分こすればいいやと思ったのだ。
「えっ? こ、これは?」
自分の躰ぐらいもある大きさのチョコを手にしてよろけるザラベダ。
なんと言うか可愛い。
「チョコだよ。その躰の大きさだと、いっぺんに食べると鼻血が出るかも。じゃあね」
幸雄はそう言ってその場を後にする。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ザラベダはそういうと、チョコをもって幸雄を追いかける。
背中のコウモリの羽で空を飛び、幸雄の肩に乗っかるのだ。
幸いザラベダの声に幸雄が立ち止まったため、彼女は何とか彼の肩に乗ることができた。
「ふう・・・もう! こんなのもらったら私のほうがもらいすぎじゃない! いいわ。取引しましょう。何が望み?」
ザラベダは彼の肩に座り込むと、そのままチョコの包み紙を剥いてむしゃむしゃと食べ始める。
小さな躰なのに大きなチョコにかぶりつく姿に、幸雄は思わず苦笑した。
「望みって言われても・・・これと言って望みなんてないけど・・・」
チョコを食べ終わるまでは降りそうもないザラベダに、幸雄は仕方なくそのまま歩き出す。
それにしても、ザラベダはボクに姿を見られて慌てていたのに、ほかの人にも見えちゃうんじゃないのだろうか?
ちょっとそんなことも頭をよぎったが、気にすることもないのだろう。

「嘘! 望みがないなんて嘘よ。たいていの人間は望みがあるわ」
幸雄の肩でキッと彼をにらみつけるザラベダ。
欲のない人間など彼女は会ったことがないのだ。
これまでの人間は、彼女が悪魔だと知ると、逆に利用してやろうという連中だった。
その上で彼女を何とか出し抜こうとするばかり。
この少年ユキオだってそうに違いない。

「そりゃボクだって、もっとゲームが欲しいとかもっとお小遣いが欲しいとかあるけどさ。悪魔にお願いはしないよ。だって、悪魔にお願いしたらよくないことがあるじゃないか」
多くの物語じゃ悪魔にお願いした人はろくなことにならないということを幸雄は知っている。
だから、ザラベダがどんなにかわいい見た目をしていても、何かをお願いするという気にはならなかった。
というよりも、ザラベダが悪魔ということ自体が信じられない。
むしろ、物語に出てくる妖精だと言ってくれた方がまだ信じられるような気がしたのだ。
「それはその人の受け取り方次第よ。一つの事象も見る方向によっていいことにもよくないことにも見えるもの」
チョコの甘い香りを漂わせてザラベダはそういう。
今回彼女にユキオをだまそうとかそういう意識はなかった。
石をぶつけたことを素直に謝り、悪魔だという彼女を見ても特に驚かず、それどころかチョコをくれるなんてお人よしもいいところだ。
だから、こっちもお人よしになってやろうというのだ。
悪い話じゃないだろうに・・・
そう彼女は思う。
一方で、幸雄はザラベダのいう見る方向によっていいことにも悪いことにも見えるという言葉に戸惑った。
それは見方によっては悪いこともいいことだっていうことなのだろうか?
ママが掃除しろ掃除しろと言うのも、悪いことではなくいいことだというのだろうか・・・

「ねえ、望みはないの?」
重ねて問いかけるザラベダ。
「ないってば」
幸雄は首を振る。
「それじゃ私が困るわ。チョコもらっちゃった分取引で返さなきゃ。石をぶつけられたにしては受け取りが多いのよ。そういえば、なんで石をぶつけたのかまだ聞いてないわ」
「だからザラベダを狙ったんじゃないってば。ママに小言を言われてむしゃくしゃしてたから、石を蹴飛ばして気を晴らそうとしたんだ。そうしたらそこにザラベダが・・・」
出がけの一件を思い出す幸雄。
ああ・・・帰ったら掃除しなくちゃならないのかぁ。
そう思っただけで家に帰りたくなくなる。
いっそ今日は智樹の家に泊まらせてもらおうか?
そんなことすら考えてしまうのだ。

「お小言?」
人間の親にはよくある行為だ。
子供を躾けるため、自分の思いをぶつける行為。
子供がどう思おうと、子供のためという名目で押し付ける。
それこそ受け取る側次第の行為だ。
「うん。ママはきれい好きでさ。毎日掃除機をかけないと気が済まないんだ。それをボクや姉さんにも押し付けてさ。姉さんはまだ一日おきぐらいに掃除するからそうでもないけど、ボクはあんまり掃除しないから、毎日毎日掃除しろ掃除しろってうるさいんだ」
「ふーん・・・ユキオも大変ねぇ」
同情するようにうなずくザラベダ。
「もうさ、そんなに掃除が好きなら、ママが掃除機になっちゃえばいいんだよ。そうしたら好きなだけ掃除できるじゃん」
その言葉にザラベダの目が輝く。
「承ったわ」
「えっ?」
幸雄がザラベダのほうを見ると、彼女は板チョコを一枚きれいに食べ終えていて、彼の肩から飛んでいく所だった。
「ザラベダ?」
「ふふふ・・・私に任せて」
「えっ?」
幸雄が何を任せてなのか聞こうと思った時には、ザラベダはもうそこにはいなかった。
なんだろう?
ボクなんか言ったかな?
ちょっと思い返してみるものの、何かを望んだつもりはない。
まあ、いいや。
智樹のところに急がなきゃ。
それにしても、悪魔と話したなんて言ったって、誰にも信じてもらえないよな、きっと。
幸雄はそう思って苦笑した。

                   ******

「ふう・・・」
思わずため息をついてしまう紗枝梨。
またやってしまったわ・・・
怒ったり声を荒げたりしないようにって思っていたのに・・・
それもこれもあの子がきちんと自分の部屋を掃除しないから。
根本的な原因はそこなのだと紗枝梨は思う。
姉の愛由美はそこそこ掃除をするのに、どうしてあの子は掃除をしないのだろう?
きっとあの子の部屋にはホコリが溜まっているんだわ。
私ならホコリまみれの部屋にいるなんて耐えられない。
呼吸をするだけでホコリを吸ってしまいそうでゾッとするわ。
紗枝梨はホコリまみれの部屋にいる自分を想像して身震いをする。
子供のころからきれい好きだった紗枝梨にしてみれば、どうしてそんなところにいられるかがわからないのだ。

ふう・・・
こんなことしていても仕方がないわね。
さっさと掃除機をかけてしまいましょう。
そう思い椅子から立ち上がる紗枝梨。
掃除機かけなんてめんどくさいだけだけど、ホコリが溜まることに比べたらマシだもの。
はあ、ホコリなんて溜まらない世界ならいいのに・・・
心の中でそう文句を言いながら、紗枝梨は掃除機をセットしていく。
さあ、掃除をしてしまわなくては・・・

「ふーん・・・あなたがユキオのママなのね」
「えっ?」
突然背後から声をかけられて驚く紗枝梨。
慌てて振り返るが、誰もいない。
「えっ?」
きょろきょろと部屋を見渡しても人がいる様子はない。
夫は会社だし、娘はまだ学校だ。
幸雄はさっき出かけてしまったし、それに女の声だったような気がする。
空耳?

紗枝梨がそう思って再び掃除機のセットをしようと思った時、ふと目に付くものがあった。
リビングのテーブルに人形が腰かけているのだ。
しかも、長くすらっと伸びた足をぶらぶらと揺らしているではないか。
「えっ? 人形?」
まさかそんなところに人形が置いてあるだなんて思いもしなかった。
しかも、なんだか不気味な人形だ。
躰全体にぴったりしたタイツのような黒い服を着ており、背中からはコウモリのような羽が生えている。
頭には先端が丸くなった角のようなものが左右に生え、手にはフォークのように先が三つに分かれた槍のようなものを持っている。
まさかさっきの声はこの人形が?
もしかして愛由美のものかしら・・・

「ユキオの願いをかなえに来たわ」
紗枝梨がよく確かめようとテーブルに近づくと、驚いたことにその人形が立ち上がる。
「えっ?」
人形がひとりでに立ち上がってしゃべった?
いや、人形にしては生き生きとしすぎている。
まさか本当に生きている人形?
紗枝梨は自分が見ているものがとても信じられない。
「ユキオはね、あなたが掃除機になっちゃえばいいって言っていたわ。だから私がその願いをかなえてあげるの。取引成立よ」
人形が背中の羽を広げ、くすくすと笑っている。
「え? 幸雄が? あ、あなたはいったい?」
違う・・・
これは人形なんかじゃない・・・
紗枝梨はだんだん恐ろしくなる。
「私は悪魔。悪魔ザラベダ。さあ、あなたは掃除機になりなさい!」
ザラベダはニヤッと笑みを浮かべると、持っていたトライデントの先端を紗枝梨に向ける。
そして何事かをつぶやくと、紗枝梨は糸の切れた操り人形のようにその場で意識を失った。

(続く)
  1. 2017/11/10(金) 20:47:34|
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サキュバスに堕ちる女たち

ブログ開設12周年記念SS週間も今日で七日目となりました。
中編が四日間で一本。
そして短編が今日を含めて三本連続投下となりました。

今日のタイトルは「サキュバスに堕ちる女たち」です。
まさにタイトル通りの作品ですので、さらさらっと読んでいただければと思います。
それではどうぞ。


サキュバスに堕ちる女たち

「遅くなってしまったわ・・・ヒロちゃんきっとお腹を空かせてるわね」
暗くなった夜道を急ぐ一人の女性。
タイトスカートのビジネススーツに身を包み、肩からはバッグを、手には食材の入った買い物袋を提げている。
自宅では子供が腹を空かせて待っているのだ。
自然と足取りが早くなるのは仕方がない。

いつもならこんな時間にはもう家で夕食の支度をしているはずだった。
今日に限って会議に駆り出され、しかもそれが長引くという最悪の状況。
途中で家に電話をかけ、子供には伝えてはいたものの、きっと一人で留守番は心細かったに違いない。
夫が早く帰っていればいいが、いつもの状況だと望み薄だろう。
彼とて決して好きで残業をしているわけではないはず。
定時に退社できるなど、今の社会では難しいのだ。

「こっちを・・・」
そこは家への近道。
公園を抜けて行けば外周を回るよりははるかに近い。
だが、自然公園でもあるその場所は、昼間こそ木々が木陰をもたらし人々が安らぐものの、夜は街灯の明かりが遮られ、闇が濃くなってしまう。
自然と人々も夜には公園に近づかなくなり、女性の一人歩きにはやや難があるところでもあった。
だが、背に腹は代えられない。
一刻も早く家に帰って子供を安心させたい。
その思いが彼女の脚を公園へと向けていた。

公園の中ほどまでは遊歩道も明るく、人気が少ないことを除けば何もない。
むしろ喧騒が薄れて静かになり、これはこれでホッとする人もいるであろう。
落ち着いて空を見れば星空も見え、天体観測が好きな者にはいい場所かもしれない。
だが、さらに足を進めていた彼女の前に、一人の男が現れた。

それは突然だった。
まるで空中から現れたかのよう。
もちろんおそらくは木陰になった闇の中に紛れていたのだろうが。
男はラフなTシャツにジーンズという格好だったが、それほど怪しい感じはしない。
むしろちょっと遅い時間に散歩がてら公園を通ってコンビニにでも行くような感じだ。
いや、実際そうなのかもしれない。
だから、男の姿を見た時に息をのんだ彼女だったが、ことさら騒ぎ立てることもなくやり過ごそうとしたのだった。

男が何事もなく脇を通り過ぎようとしたとき、彼女は男がこう口にしたのを聞く。
「いい女だな。我が物にふさわしい」
「えっ?」
その言葉に彼女は反射的に振り向いてしまう。
「あ・・・」
彼女のほうを向いていた男の目が赤く光り、彼女はその場から動けなくなってしまった。
なんで?
動けない・・・
た、助けて・・・
悲鳴を上げたくても上げられない。
そんな彼女に男はゆっくりと近づいてくる。
「そう怖がるな。お前はこれからとても楽しい暮らしを送ることになるのだ」
い、いや・・・
来ないで・・・
来ないでぇ!
心の中で必死に叫ぶ。
だが、躰は自由にならず、男にゆっくりと服を脱がされていく。
いやぁっ!

あん・・・あん・・・あん・・・ああん・・・
ピストンされるたびに躰を快感が走る。
犯されているというのになんという気持ちよさ。
夫とのセックスでは考えられない快感。
彼女はもう犯されていることも忘れ、彼の躰にしがみつく。
すでに躰は自由になっているというのに、逃げることも助けを呼ぶことも考えられない。
それどころかもっともっと犯してほしいと彼女は望む。
目の前の男の姿が変化し、青い肌に赤い目、牙の覗く口、背中にはコウモリのような翼が広がっているというのに、彼女にはまったく見えていないかのようだ。

「クククク・・・思った通りいいマンコだ。キュウキュウと締め付けてくる。いい淫魔になる素養があるぞ」
「ああ・・・淫魔?」
「そうだ。俺は淫魔。そしてお前もそうなるのだ」
「ああ・・・そんな・・・」
彼女は力なく首を振っていやいやをする。
だが、もはや心からの拒絶ではなくなっていた。
「ああん・・・あん・・・ああん・・・イく・・・イくぅ・・・イっちゃうぅ・・・」
「イけ。イって淫魔になってしまえ」
「ああああああああああ・・・ん」
全身を快楽にゆだねて絶頂を迎える彼女。
その様子に男は先が二つに割れた舌を出してぺろりと唇を舐めた。

気が付くと彼女は公園に一人でいた。
脱がされた着衣を身に着け、買い物袋やバッグを拾う。
そして何事もなかったかのように歩き出す。
その顔には妖しい笑みが浮かび、時々舌で唇を舐めるのだった。

                   ******

「ただいまぁ」
自宅の玄関を開けると、すぐに少年がやってくる。
「お帰りなさい」
まるで飛びついてきそうなぐらいの勢いだ。
きっとかなり一人で待っていたのだろう。
「ごめんねぇ。今日ママかなり遅くなっちゃった」
「ボクちゃんと留守番できたよ」
目に涙をいっぱい溜めながらも、必死に泣かないようにしている少年。
いつもより帰りが遅い母をずいぶんと心配していたのだろう。
「えらいわぁ、ヒロちゃん。ご褒美にいいことしてあげる。うふふふ・・・」
妖しい目で少年を見下ろし、舌なめずりをする母。
少年はその様子にどこか不安を覚える。
「い、いいよ、ママ。それよりお腹が空いた」
時間的に言っていつもなら夕食を終えている時間だ。
少年の訴えはもっともなものだったが、母は荷物を床に下ろすと、そのまま少年の前にしゃがみ込む。
「うふふふ・・・実はママもとってもお腹ペコペコなの。あなたじゃちょっと物足りなさそうだけど、まずはあなたで味見するわね」

「な、なに? ママ、そこは汚いよ・・・」
いきなりズボンのチャックを開けられ、おちんちんを取り出される少年。
その小さなものを欲望に濡れた目で見つめる母。
「うふふふ・・・まだまだ未熟ねぇ。でもおいしそう。大丈夫よヒロちゃん。おちんちんは汚くなんかないの。それどころかママの大好物なのよぉ」
そう言って少年のおちんちんを口にくわえる母。
「マ、ママ、やめてぇ」
未知の体験といつもの母とは違うことにショックを受ける少年だったが、彼女の舌の動きにすぐに躰が反応してしまう。
「んふふふ・・・んちゅ・・・んむ・・・んちゅ・・・」
優しく、激しく、少年のおちんちんを口内で愛撫する母。
その目がだんだんと赤く輝きはじめる。
「マ、ママ?」
「んちゅ・・・くちゅ・・・んむ・・・」
少年は母から離れようとするが、なぜか躰が離れてくれない。
それどころか、躰の中から何かが出てこようとすることに恐ろしさを感じていた。
「ママ、なんか出ちゃう・・・出ちゃうよぉ・・・あああああ・・・」
「んむ・・・んぐ・・・ぷふぅ・・・うふふふ・・・美味しい」
少年の出した精液をおいしそうに飲み干す母。

「マ、ママァ・・・」
思わず床にへたり込んでしまう少年。
いきなりおちんちんをしゃぶられたうえ、何か出てしまったのだから当然かもしれない。
「あらら・・・だめよ、ヒロちゃん。あなたにはもっともっと出してもらうんだから。ママこれっぽっちじゃ全然足りないわぁ」
ジュルリと舌なめずりをする母。
その目は赤く輝き、肌の色が濃い青に染まっている。
「マ、ママ・・・いったい?」
母親の変貌に恐怖を覚える少年。
「クフフフフ・・・なんだかいい気持ち・・・もっともっと男のエキスがほしいわぁ」
「や、やだ・・・やだぁ・・・」
お尻をついたままの姿勢で何とか後ずさる少年。
だが、母はそれを逃がそうとはしない。
「だめよぉ、ヒロちゃん。逃がしはしないわぁ。キヒヒヒヒ・・・」
爪が長くなった手で少年の肩を抑え込む母。
そしてそのまま少年にキスをする。
「あ・・・」
途端に目がとろんとなってしまう少年。
「キヒヒヒヒ・・・一番搾りだけじゃなく、二番絞りもいただくわね。キヒヒヒヒ・・・」
そのまま再度むき出しになった少年のおちんちんをくわえ込む。
出したばかりのおちんちんは、再び彼女の口内で硬くなっていくのだった。

                   ******

「お帰りなさい。あなたぁ」
うるんだような目で夫の帰りを出迎える妻。
先ほどまで少年に見せていた母親の顔とはまた違うのはいつものことだが、今日はより一層違った表情を浮かべている。
まさに女という表情に、帰ってきた夫も戸惑った。
「ただいま。どうしたんだい? なんだか今日はいつもとは雰囲気が違うね」
「だってぇ・・・ずっとあなたの帰りを待っていたんですもの」
人差し指を口にくわえておねだりをする妻。
「おいおい、いきなりどうしたんだ? 弘樹(ひろき)はどうした?」
「ううーん・・・疲れたのかお風呂場で転がってるわ。萎びちゃったみたい」
「えっ?」
驚いて風呂場の方へ行こうとする夫。
だが、妻がその腕を取って引き寄せる。
そして空いた方の手で彼の股間をさすり始めた。
「いいじゃない、あの子のことなんかぁ。それよりもぉ・・・私これが欲しくてたまらないのぉ・・・いいでしょ」
「おい、どうしたんだ? いつものお前らしくないぞ」
掴まれた腕を振りほどこうとする夫。
「ん、もう・・・うるさい男ね。死んだガキのことなんかどうでもいいじゃない。えい!」
振りほどこうとする夫を強い力で引き寄せ、いきなりキスをする妻。
「なっ?」
突然のことに驚く夫だったが、やがてその目がとろんとなってしまう。
「クフフフフ・・・お前のエキスもたっぷりといただくわね。キヒヒヒヒ・・・」
先が二つに割れた舌で舌なめずりをする妻。
その肌の色がみるみる青く染まっていく。
「う・・・あ・・・」
「キヒヒヒヒ・・・どう、あなたぁ? アタシ淫魔になっちゃったのよぉ。すてきでょ? おチンポ勃っちゃうでしょぉ? キヒヒヒヒ・・・」
ばさりと服を脱ぐ妻。
そこにはみだらな黒い下着を身に着け、背中からコウモリを翼を生やした女の姿があった。
「キヒヒヒヒ・・・以前あなたにもらった下着よぉ。前はいやらしくて着ける気にならなかったけど、今のアタシにはふさわしい衣装だわぁ。キヒヒヒヒ・・・」
妖しい笑みを浮かべて笑う女淫魔。
「ああ・・・あああ・・・」
夫はその姿にうっとりと見惚れ、ズボンの前をはちきれんばかりにする。
「キヒヒヒヒ・・・さあ、たっぷりと吸い取ってあげる。あの子よりは長持ちしてよね。キヒヒヒヒ・・・」
女淫魔はそういうと、夫だった男のズボンを爪が長く伸びた指先で下ろしていった。

                   ******

「ああん・・・もう終わりぃ? だらしない男ね。やっぱりあのガキの父親ということかしら・・・キヒヒヒヒ・・・」
萎びて床に転がっている男の死体を見下ろし笑う女淫魔。
「ああん・・・まだまだ男のエキスが欲しいわ。もっともっと・・・」
自分の胸を揉みしだき、先が二つに割れた舌で唇を舐める。
「キヒヒヒヒ・・・まだまだ男を漁ってこなきゃ・・・」
女淫魔はそう言うと、窓を開けて飛び立った。

                   ******

「えっ? 何?」
公園の奥から聞こえてくる喘ぎ声のようなもの。
まさかとは思うが、夜の公園で・・・その・・・“あれ”をやっている人がいるということなのだろうか?
帰宅途中のこんな時間帯に公園なんか通るんじゃなかったとは思ったものの、なんとなく気になってしまう。
それに・・・
もしかしたらうちの学校の生徒かもしれない・・・
教師である彼女にはそれが一番気がかりである。
高校生というまだ未熟な精神は、時に肉体の快楽を求めてしまう可能性があるのだ。
それを教え諭し、導くのも教師の仕事ではないだろうか。
ともかく状況の確認だけでも・・・
彼女は音のする方へと足を向けてしまった。

「ひっ」
その場の光景に思わず息をのむ彼女。
そこには真っ青な肌で黒い下着を身に着け、背中からコウモリの翼を生やした女が、男の上にまたがって腰を振っていたのだ。
思わず振り返って逃げ出そうとした彼女だったが、その前に別の男が立ちはだかる。
「ひぃっ!」
「ククククク・・・のぞき見とはよくないな。何なら一緒に混じったらどうだ?」
「い、いえ・・・結構、結構です」
そう言って逃げようとするが、なぜか足が動かない。
それどころか、男の赤い目を見ていると、なんだか躰が熱くなってくるようだ。

「キヒヒヒヒ・・・ご主人様ではありませんか」
男から離れ、青い肌の女が立ち上がる。
男はしわしわに萎びていて、すでに生きていないようだ。
「クククク・・・淫魔になった気分はどうだ?」
「はい。最高の気分ですわぁ。もっともっと男たちのエキスを味わいたいですぅ。キヒヒヒヒ・・・」
「ひぃーっ!」
彼女の目の前で男のほうも青い肌に変色していく。
背中からはシャツを突き破るようにしてコウモリの翼が生えてきた。
「どうも人間の服は合わないな。まあいい。女、お前にも快感を与えてやろう」
「い、いや・・・いやですぅ!」
大声をあげて逃げ出したいのに、躰がいうことを聞いてくれない。
それどころか彼に抱かれたいとすら思ってしまうのだ。
「キヒヒヒヒ・・・淫魔はいいわよぉ。大好きなセックスを存分に味わえるわぁ。あなたも淫魔になりなさい。キヒヒヒヒ・・・」
彼女の背後から躰を押さえつけてくる女淫魔。
その二つに割れた舌先が、彼女のうなじをぺろりと舐める。
「クククク・・・さあ、たっぷりと楽しむがいい」
「ああ・・・あああ・・・」
彼女の意識は闇に飲み込まれた。

                  ******

「うふふふふ・・・」
真っ赤な舌で唇を舐める女。
先ほどまでとは全く違う欲望にうるんだ目。
そこには以前の彼女とは全く違う彼女がいる。
「キヒヒヒヒ・・・ご主人様に抱いてもらって気持ちよかったでしょ?」
「はい、とっても・・・うふふふ・・・これからは男のエキスをたっぷりと味わいたいですわぁ」
自分の豊かな胸を両手でもてあそぶ彼女。
「クククク・・・すぐにお前も男のザーメンなしではいられない淫魔になる。楽しみにしていろ」
「はい。うふふふ・・・明日の学校が楽しみ。男子生徒のエキスをいっぱいいただきますわ。うふふふふ・・・」
「あら、いいわね。アタシも一人二人もらおうかしら。キヒヒヒヒ・・・」
「ええ、いいわよ。二人で生徒たちをいっぱい食べましょうね。うふふふ・・・」
顔を見合わせて妖しい笑みを浮かべる女教師と女淫魔。
いや、すでに彼女たちは女淫魔同士なのだ。
その様子に、二人を変えた男の淫魔はにやりとほくそ笑むのだった。

END


今回の作品は、いつも素敵な作品をpixivに投下していらっしゃいますmarsa様https://www.pixiv.net/member.php?id=375450の作品に影響を受けて書きました。
特に新任教師https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=62260018シリーズや、改宗の村https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=62882446シリーズに登場する青肌の淫魔が素晴らしかったので、作中の淫魔のベースとさせていただきました。
marsa様、勝手にイメージとして使わせていただきすみません。
ありがとうございました。

  1. 2017/07/23(日) 20:13:56|
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妻も娘も失った男

ゴールデンウィークですので、一本SSを投下いたします。
タイトルは「妻も娘も失った男」です。

実はこのSSは、すでに約二年前にはできあがっていたのですが、いいタイミングで発表しようとか考えているうちに、どんどん時間がたってしまいました。orz

もともとこのSSはpixivでお世話になっておりますnezumi様のイラスト、「昆虫怪人」や、「怪人製造中」に刺激を受けて書いたものでして、さっさと公開しなくてはならないなぁとは思ってはいたのですが・・・ (^_^;)ゞ
(「」内タイトルをクリックでpixivに飛べます)

nezumi様のイラストを脳裏に浮かべながらお読みいただければと思います。
それではどうぞ。


妻も娘も失った男


それは一本の電話からだった・・・
仕事中の会社にかけられた妻からの電話。
パニックを起こしているのか、支離滅裂なことをわめきながら、とにかく帰ってきての一点張りだったため、仕方なく上司に早退の許可をもらって俺は家に帰った。

家に着くと、妻が泣いていた。
俺を見ると飛びついてきて、あの子が、智香(ともか)がと言ったきり、嗚咽を漏らすだけで要領を得ない。
何とか妻をなだめ、落ち着かせて話を聞き、そして俺は言葉を失った。

なんと智香の通う小学校が、テロリストに占拠されたというのだ。
あわててテレビを点けてみたが、どこにもそんなニュースは流れていない。
妻が言うには、今のところ報道管制がしかれているのだと言う。

発端は小学校から路上に飛び出してきた男だったらしい。
その男は、躰の半分がまるで焼け爛れたかのようにグズグズになっており、助け起こした人に苦しい息の下から、学校に化け物が現れ、占拠してしまったと言ったのだ。
化け物は学校の女性教師を取り込み、真っ黒な蟻のようなものにしてしまったらしい。
蟻になった女性教師は化け物の手先となって、ほかの女性教師を襲いだし、さらには女子生徒までもが化け物によって蟻にさせられたという。
男は酸によって溶かされるか、蟻となった女性教師や女子生徒の餌とされてしまったとも。

もちろん最初は怪我による男の精神異常と思われたが、学校に確認に行った警察官が二人とも戻ってこず、窓から全身真っ黒な女の姿を見かけたことから、学校で何かが起こったというのはほんとらしいというのだ。

確かに本当ならそろそろ家に帰ってきてもいい時間なのに、智香は戻ってきていない。
俺は背筋が冷たくなるのを感じていた。

                   ******

数日が経った・・・
智香は帰ってこなかった。
妻は憔悴し、食事ものどを通らないようだ。
俺も食欲がない。
我が家はまるで灯が消えたみたいだ。

学校で何があったのかはわからない。
情報が錯綜し、本当にわからないのだ。
突入した警官隊は誰一人戻ってこなかった。
機動隊も遠巻きに眺めるだけ。
学校の付近は立ち入り禁止になっている。
そして、黒い女たちが時々目撃された。
それはいずれも裸に近いような姿だが、全身は真っ黒で、口元だけが白く覗いているらしい。
眼はなく、額に一対の触覚が伸びていて、どうやらそれで周囲を把握するようだ。
お尻は巨大に突き出しているらしくまさに直立した蟻のような姿。
そしてその黒い女には、大人も子供もいるらしい・・・

やがて黒い女だけではなくなった。
黄色や白や茶色の女も現れたのだ。
それと同時に、奇妙なうわさが流れてきた。
黒い娘が帰ってくると、その家の母親がいっしょに消えるというのだ。
黒い娘とともにどこかへ行ってしまうらしい。
旦那さんはどうなったのか・・・
俺には悪い想像しか浮かばない・・・
智香・・・
頼むから無事に戻ってきてくれ・・・

                   ******

何度目かの眠れぬ夜を過ごしていると、不意に玄関が開いた音がした。
おかしいな、鍵はかけたはずなのに・・・
俺は様子を見にベッドを抜け出して玄関へ向かおうとする。
「あなた?」
隣で妻が眼を覚まし、俺を見上げた。
彼女もあんまり眠れていないようだ。
「もしかして智香が・・・」
それは彼女の心からの希望なのだろう。
「そこで寝ていなさい。俺が様子を見てくるから」
俺はそういうと部屋を出る。
後ろで小さく、気をつけてと言う妻の声が聞こえた。

リビングに入ったところで俺は足を止める。
闇の中に人影があることに気が付いたのだ。
「誰だ?」
俺はすぐに室内の明かりをつける。
明かりに照らされたその姿に俺は思わず息を呑んだ。

リビングにいたのは少女だった。
いや、少女のような姿をした何かだ。
それは頭から足の先まで真っ黒に覆われており、つややかに輝いている。
躰の線はまだ少女そのもののやわらかさを見せており、そこだけを見れば少女が奇妙な全身タイツを着ているようにも見えるだろう。
だが、頭は口元だけを除きすっぽりと覆われており、目も耳も髪の毛も存在しない。
額からは一対の触角のようなものが生えていて、小刻みに揺れている。
お尻のところには巨大な昆虫の腹部のようなふくらみが付いており、どう見ても蟻と少女が融合した生き物にしか見えなかった。

「うふふ・・・ただいまかな、パパ」
俺が何も言えずにいると、その蟻少女がそう口にした。
「ま・・・まさか・・・智香、智香なのか?」
「違うよー」
くすくすと笑う黒い少女。
「それは私が生まれ変わる前までの名前。私は女王様に生まれ変わらせていただいたの。今の私はクロアリ0125なの。間違えないでね」
笑みを浮かべたまま蟻少女はそう言った。
「クロアリ0125・・・」
「うん。見て。私の躰。素敵でしょ? 女王様に蟻にしていただいたのよ」
くるりと一回転して自分の躰を見せ付ける蟻少女。
「な、なんで・・・なんでそんな躰に・・・」
「うふふ・・・女王様がね、最初にこの服を用意してくださったの。最初は裸みたいで恥ずかしいって思ったけど、着るとすごく気持ちよくて・・・みんなで気持ちいいねって言っていると順番に女王様に呼ばれて、触覚とお尻を付けてもらって蟻になったの。香織ちゃんも沙耶ちゃんもみんな蟻になったんだよ」
それがとても楽しい思い出であるかのように無邪気に話す蟻少女。
俺は頭を何かで殴られたかのような気がした。
この蟻少女は智香なのだ。
人間のままの口元にほくろがある。
間違いなく智香のほくろだ。
「智香・・・」
「もう違うってばぁ。私はクロアリ0125なの。それよりママはいないの?」
触角をぴくぴくと震わせている蟻少女。
なぜだ・・・
なぜこんなことになってしまったんだ・・・

「あなた? もしかして智香が帰ってきたの?」
奥から妻がやってくる。
きっとリビングで話し声がしたからだろう。
俺はしまったと思ったが、もう後の祭りである。
「あ、ママだ。ママこんばんはー」
蟻少女がにこやかに話しかける。
「えっ? えっ? えっ?」
目の前の蟻少女がママと呼びかけることに混乱したのか、妻が困惑の表情を浮かべる。
「喜んで、ママ。女王様がね、ママも蟲にしてくれるんだって。ママもいっしょに蟲になろ。いっしょに女王様にお仕えしよ」
「な!」
俺は驚いた。
うわさはこのことだったんだ。
変わり果てた子供たちが、その母親まで連れて行ってしまうのだ。
そんなことはさせてたまるものか。

「ママ、これを着てね」
蟻少女が茶色の布のようなものを取り出す。
バサッと広げられたそれは、両手両足の付いた全身タイツ。
これを妻に着せようというのか?
「だめだ! 着ちゃだめだ!」
俺は思わず声を荒げる。
「もう、パパったら邪魔しないで! これを着ればママも蟲になれるんだよ。いっしょに女王様にお仕えすることができるんだよ」
俺が止めたことで、蟻少女は腰に手を当てて怒っている。
だが、あれを着せるわけにはいかない。
あれを着せたら妻も智香といっしょに行ってしまうに違いないのだ。
「だめだ! 着るんじゃない!」
俺は妻をにらみつける。
明らかに妻はどうしようか悩んでいるのだ。
ここで強く止めねば、きっとこの子と行ってしまう。

「智香? あなたは本当に智香なの?」
「それは私が人間だったときの名前だよ。今の私はクロアリ0125なの。ママもすぐに蟲になれるよ。だからそれを着ていっしょに行こ」
無邪気な笑顔で妻に語りかける蟻少女。
その声は智香のものだ。
その口元のほくろも智香のものだ。
躰つきだって智香のものに間違いない。
畜生・・・
畜生・・・
どうして智香がそんな蟻の格好をしているんだ・・・

「あなた・・・」
俺のほうを見る妻。
その目は行かせてくれと言っている。
おずおずと床に置かれた全身タイツを手に取ろうとしている。
「だめだ! 許さん!」
俺は首を振る。
「もうパパったらうるさいなぁ。最後のお別れに今晩一晩待ってあげてもいいよって思っていたのに、こんなんじゃすぐにママをつれてっちゃうよ?」
触角を震わせている蟻少女。
目はないのに、きっと俺をにらみつけているのだろう。
「だめだ! ママは行かせない! 女王様とやらに言え! ママは行かせないし智香も返してもらうって!」
そうだ。
智香を返してもらうんだ。
こんな奇妙な格好はやめさせ、家に戻ってこさせるんだ。
女王とやらに会いに行ってやる!

「パパって何もわかってないんだね。ママが一緒に来ないとママは女王様に逆らう生き物だから溶かせって言うよ。そうしたらママ死んじゃうんだよ? それでもいいの?」
「いいわけないだろう! だから俺を女王様のところに連れて行け! 女王様やらと話し合う!」
俺は妻の前に立つように進み出る。
「パパは男だからだめ。女王様は男はいらないっていうの。だからママだけ連れて行くの」
「いいから連れて行け!」
「もう、パパはうるさい。少しおとなしくしてて」
そういうと蟻少女はくるりと背を向けた。
「うおばっ!」
蟻少女の巨大なお尻から何かの液が吹きかけられる。
俺は急速に躰がしびれ、その場に倒れこむ。
「あなたっ!」
あわてて妻がそばに寄ってくるが、俺は意識ははっきりしているものの、躰が動かず、声もうまく出てこない。
「大丈夫だよママ。女王様は何も言ってないからパパを動けなくしただけ。ねえ、早くあれを着ていっしょに来て」
だめだ・・・
行ってはだめだ・・・
俺はそう言いたかったが、口が思うように動かない。
首を振ることもできず、ただ妻を見上げるだけだ。
妻は俺と蟻少女を交互に見比べながら、やがて意を決したようにこう言った。
「あなた・・・ごめんなさい」
そして茶色の全身タイツを持って奥の部屋へと行ってしまった。
俺はそれをただ見ているだけだった。

妻が出て行ったあとも、俺は何とか躰を動かそうと努力した。
だが、しびれは一向に収まらず、まったく身動きが取れない。
そんな俺を蟻少女は笑みを浮かべながら、ソファに座って眺めていた。

やがて奥の部屋から妻が出てくる。
俺はその姿に思わず息を呑んでしまった。
妻は首から下をあの茶色い全身タイツで覆っており、まるで何も着ていないかのように躰の線があらわだったのだ。
考えてみれば、もうしばらく妻の躰を見ていない。
普段わりとゆったりした服を着ていることもあって、妻の躰がまだこれほどきれいなラインを保っているとは思わなかったのだ。

俺がじっと見ていることに気が付いたのか、妻は少しほほを赤らめる。
「いやだわ・・・そんなに見ないで。恥ずかしい」
躰のラインを隠そうとする妻。
だが、もちろん全身タイツでは隠せるものではない。
きれいだよと妻に言ってやりたかったが、俺の口は少しうめき声を出せただけ。
畜生・・・
畜生畜生畜生・・・

「わぁ、やっぱりママは女王様が選んだだけのことはあるね。すごくきれい。とても似合っているよ」
蟻少女が立ち上がって妻にそういう。
目がないのに見えているのは不思議だが、おそらくあの触覚の力なのだろう。
もしかしたらあの触覚によって操られているのかもしれない。
「さ、ママ行こう。女王様がお待ちかねよ」
すっと手を差し出す蟻少女。
妻はその手を受け取るかどうか迷っている。
「どうしたのママ? ママが行かないと私の蟻酸でパパを溶かしちゃうよ」
その言葉にはっとしたように俺を見る妻。
だめだ・・・
俺は溶かされてもいい・・・
だから・・・
だから行ってはだめだ・・・
俺は必死にそう訴えようとした。
だが、妻は俺から目をそらすと、蟻少女の手を取った。
「お願いだからパパには手を出さないで」
「うん。ママが来てくれればパパはどうでもいいの」
「わかったわ。行きましょう」
妻は蟻少女といっしょに玄関へ向かう。
途中、一度だけ俺のほうを振り返ったが、妻は何も言わずに少しだけ悲しげな表情で俺を見つめるだけだった。
俺はただそれをなすすべなく見送るしかなかった・・・

                   ******

「う・・・くそっ」
やっと躰が動くようになってくる。
あれからどのくらい経ったのか?
俺は必死に躰を動かして起き上がる。
よし。
何とかなりそうだ。
俺はよろめきながら玄関へと向かう。
待ってろ・・・
すぐに助けに行く。
女王とやらをぶちのめし、妻と娘を救うのだ。
畜生!
絶対助けてやるからな・・・

俺は玄関を出ると周囲を見渡した。
まだ夜は明けていない。
それほど時間は経っていないということか?
パジャマ姿のままだがかまうものか。
たぶん妻たちは学校にいるだろう。
だが今は学校は立ち入り禁止のはず。
どうやってここまで・・・
そう思った俺の目に地面に開いた穴が映る。
これか・・・
確かに智香は蟻になってしまっていた。
蟻だから穴を掘ってきたというわけか。
この穴を通れば学校まで続いているかも。
考えている暇はない。
俺は穴にもぐりこんだ。

穴は大人の俺が通ってもまだ余裕があるぐらいの太さだった。
きっと妻を連れて行くために広めにしたのかもしれない。
だとすれば、横穴など作らず、まっすぐ学校まで通じている可能性が高いだろう。
俺は這いずるようにして穴の中を進んでいく。
二人とも待っていろ。
きっと俺が助けてやるからな。

どれぐらい進んだだろうか?
穴の中では右も左もわからない。
ただとにかく先へ進むだけ。
いつになったら出口に付くのかまったくわからない。
だが、とにかく俺は先へ進むだけだった。

不意に周囲が広がった。
どうやら穴から抜け出たらしい。
幸い蟻少女とは出くわさなかったようだが、ここはいったい?
そう思って周りを見ると、どうやら思ったとおり学校の敷地内らしい。
しかも、体育館の裏手である。
芝生になっていて地面がやわらかそうだから、ここから穴を掘り始めたのかもしれない。
見るとほかにもいくつか地面に穴が開いている。
ここから蟻少女たちは外へ出て行っているのだろうか。

俺は妻を捜すために校舎に近づいていく。
真っ暗な校舎。
どこにも明かりはついていない。
月明かりのおかげで多少は見えるが、蟻少女たちは明かりは必要ないらしい。

体育館の脇に扉がある。
あそこから入れるかもしれない。
俺は近づいてそっと扉をスライドさせてみる。
すると思ったより簡単に扉が開いた。
覗き込むと、中はやはり暗い。
だが、窓から差し込む月明かりで、中の様子はうっすらとわかる。
何だあれは?
思わず声に出しそうになって慌てて口を押さえてしまう。
がらんとした体育館の中央に、小山のような物体がうごめいていたのだ。
そう、それはまさにうごめいていた。
何か巨大な心臓かなんかのように脈動していたのだ。
赤黒い巨大な小山のような肉の塊。
そんなのが体育館にあったのだ。

「あっ」
今度はついに声を上げてしまった。
その巨大な肉の塊に、先ほど見た茶色の全身タイツ姿の女性が捕らえられているのだ。
両手両足を肉の壁にめり込ませ、まるで磔にされているみたい。
間違いない。
あれは妻だ。
妻があの肉の塊に捕まっているんだ。
「由梨香(ゆりか)!」
俺はすぐさま駆け寄っていく。
だが、妻のところにたどり着けはしなかった。

妻に駆け寄ろうとした俺は、足元の変化に気づかなかったのだ。
今まで固い床だと思っていた足元は、妻に近づくに連れて変化し、その肉の塊と同じような肉の床になっていたのだ。
気が付いたときには足元は肉に埋まり、俺はバランスを崩して前のめりに倒れてしまう。
躰を支えるために床に着いた手も、見る間に肉に埋もれていき、俺はまるで泥沼に四つん這いで這っているような体勢になっていた。
「うわっ、くそっ」
俺は必死に両手を引き抜こうとしたものの、まさしく泥沼の中に手を突っ込んでいるようなもので抜けてこない。
足もひざまで埋まってしまってどうしようもない。
くそっ・・・
ここまで来て・・・

「もう、パパったら、また邪魔しに来たの? しつこいなぁ」
口元に笑みを浮かべた蟻少女がもがいている俺の前に現れる。
「智香・・・」
「違うって言ってるでしょ! 私はクロアリ0125。やっぱり人間って下等で頭悪いのね」
「くそっ、そこをどくんだ!」
俺は蟻少女をにらみつける。
だが、威勢のいい言葉とは裏腹に、俺の両手両脚はがっちりと肉の中に埋もれている。
「だめだよパパ。今ママが女王様に蟲にしてもらっている最中なの。終わるまで邪魔しないで」
「蟲にだと?」
「そうだよ。ママは女王様に選ばれたの。連れてきても中には女王様に選ばれない人もいるから、ママは幸運だったのよ」
肉の床の上に問題なく立っている蟻少女。
どうしてなんだ?
なぜ妻と智香なんだ?
「幸運だなんてことあるものか。女王とやらに会わせろ! 由梨香と智香を返せ!」
「うるさいなぁ。少しは静かにして。またしびれさせちゃうよ」
くっ・・・
ここまで来てしびれさせられてはかなわない。
何とかこの手足を引き抜いてしまうまでは・・・

「あなた? あなたなの?」
俺の声が届いたのか、巨大な肉の塊に捕らわれている妻の声がする。
「由梨香。俺だ。待ってろ、すぐに助けに行く」
くそっ、何でこう手足が引き抜けないんだ・・・
「どこにいるの? いやぁ! 何も見えない! 何も聞こえないわ! あなた、どこなの?」
何だって?
俺は驚いて顔を上げる。
見ると、妻の頭は口元だけが覗くマスクのようなものをかぶせられていた。
眼も耳も完全にマスクに覆われており、髪の毛もまったくない。
まるで目の前にいる蟻少女の頭部とほとんど同じなのだ。
そんな・・・
もう妻は蟲にされつつあるというのか?
「由梨香! 由梨香!」
「いやぁっ! 怖い! 何も見えない! 何も聞こえない!」
俺の呼びかけも聞こえていないようで、恐怖に首を振っている。
「大丈夫だよママ。すぐに女王様が触角をつけてくださるわ。そうすれば女王様のお声も聞こえるようになるし、周りのこともすごくはっきり感じるようになるわ」
蟻少女は妻を見上げて笑みを浮かべている。
もうすぐ仲間になるとでも言うつもりか?

「いやぁ・・・いやよぉ」
「由梨香! 由梨香ぁ!」
俺は必死に手足を動かそうとするが、まったく動かせない。
絶望だけが重くのしかかってくる状態だ。
俺の声も妻には聞こえないようで、妻は恐怖に小刻みに震えている。
いや、違う・・・
恐怖に震えているんじゃない。
妻の躰に何かが流し込まれているんだ。
妻の躰には肉塊から何本かのチューブのようなものが伸びている。
あちこちにつながれているそれらから、何かが流し込まれているのだ。
そんな・・・
妻が蟲にされてしまう・・・

「ああ・・・あああ・・・何? 何なのこれ?」
妻の声がちょっと変化する。
先ほどまでの恐怖ではなく、甘い感じだ。
「気持ちいい・・・何だか気持ちいいの・・・ああ・・・いい・・・」
躰を身悶えさせている妻。
全身のラインがあらわになっているので、それがなんともなまめかしい。
こんな状況なのに、俺は思わず見つめてしまう。

やがて妻の体に変化が現れる。
形のよかった両胸が、まるでメロンかスイカのように巨大になっていくのだ。
躰を覆っている全身タイツは、その変化を何の問題もなく受け入れていくようで、まるで妻の肌そのもののよう。
チューブがつながった背中からは、じょじょに薄い膜のようなものが広がり、左右に伸びて巨大な斑点のある翅になっていく。
まるで蝶か蛾の翅のようだ。
妻は・・・
妻は蛾になるというのか?

「ああ・・・ああ・・・」
口をだらしなく開き、まるで快感に酔いしれているかのような妻の声がする。
妻の躰を覆う茶色の全身タイツもつややかに輝き、まるでエナメルのようだ。
広がった翅は大きく、妻の背丈ほどにもなっていく。
翅には黒い大きな斑点が付いており、まるで目玉のよう。
俺は妻の変化をただ黙って見ているしかなかった。

「ひぎぃっ!」
突然妻が悲鳴を上げる。
あまりのことにうつむいていた俺が顔を上げると、妻のマスクに覆われた頭の額部分に二本のチューブが突き立っていた。
「由梨香!」
チューブはすぐに引き抜かれ、その開いた穴に、なにやら木の葉の葉脈のような形のものがはめ込まれる。
「ひゃうっ!」
それは妻の額に密着し、二本の震える触角となる。
蛾の触角だ。
「由梨香!」
「ああ・・・ああああ・・・何これ・・・感じる・・・感じるわぁ・・・すごく感じるのぉ」
妻の額で触角が揺れ、そのたびに妻の躰が小刻みに揺れている。
「ああ・・・はい・・・私は毒蛾・・・女王様にお仕えする毒蛾・・・」
「由梨香! しっかりしろ! 負けるんじゃない! 気をしっかりと持つんだ!」
俺は必死に呼びかける。
聞こえなくたってかまわない。
もう叫ぶしかないのだ。

不意に妻につながっていたチューブがすべてはずされる。
チューブの抜けたあとは痛々しい穴が開いていたものの、それらは見る見るうちに消えていく。
やがて、両手両足が自由になった妻は、ふわりと床に降り立った。
「由梨香・・・」
俺は床に四つんばいになったまま、妻の姿を見上げる。
背中に大きな翅を広げた妻の姿は美しかった。
だが、それはもう人間の美しさではなかった。
着ていた全身タイツは肌に密着し、巨大な胸には乳首が浮き出ている。
股間も性器が浮き出ていて、とてもなまめかしい。
足はハイヒールのような形になっていて、尖ったつま先と高いかかとが肉の床を踏みしめていた。
マスクで覆われた顔は口元だけが元のまま。
目も耳も髪の毛もなくなっている。
変わりに木の葉の葉脈のような触角が二本、額でさわさわと動いていた。
「由梨香・・・」
俺はもう一度妻の名を呼ぶ。
返事が返ってくることを期待して・・・

「うふふふふ・・・」
妻の口から小さな笑いが漏れる。
「あなたったら、まだそこにいたの? バカねぇ。さっさと逃げ出せばいいものを」
「由梨香・・・」
「違うわ。それは私が生まれ変わる前の名前よ。私は女王様のおかげで生まれ変わったわ。見て。私は毒蛾。今の私の名はドクガ0021。女王様にお仕えする蟲の一員なの。うふふふふ」
笑みを浮かべながらゆっくりと俺のほうへ歩いてくる妻。
俺は絶望に打ちひしがれる。
助けられなかった・・・
妻は蟲に・・・毒蛾にされてしまったのだ。
智香同様、女王に仕える蟲になってしまったんだ・・・
「くっ・・・」
俺は歯噛みする。
畜生畜生・・・

「うふふふ・・・おめでとうママ。これでママも蟲の仲間ね」
蟻少女の智香が妻のそばで微笑んでいた。
「ありがとう、クロアリ0125。でも私はもうあなたのママなんかじゃないわよ。私たちは蟲同士。女王様にお仕えする仲間でしょ」
「そうね。私たちは蟲同士。仲良くしましょ」
「もちろんよ。よろしくね、クロアリ0125」
「こちらこそ、ドクガ0021。触角の具合はどう? 素敵でしょ?」
「ええ、すばらしいわ。今まで目や耳に頼っていたなんてバカみたい。触角がすべて教えてくれるわ。獲物がどこにいてどんな姿でどんな匂いを出しているのか。空気の動きさえ感じ取れる」
くるりと一回転して喜びを表している妻。
俺は二人の会話をなすすべなく聞いているだけだった。

「うふふふふ・・・ところで、この床に這いつくばっている無様な男をいつまで放っておけばいいのかしら? 私、生まれ変わった自分の能力を確かめてみたいわ」
妻が俺のほうを向く。
床に這いつくばった無様の男とは俺のことか?
「うふふふ・・・私は女王様から何も命じられてはいないわ。あなたの好きにすればいいんじゃない? ドクガ0021」
「うふ・・・そうね。そうさせてもらおうかしら。うふふふふ・・・」
さらに俺に近づいてくる毒蛾になった妻。
その口元には今まで見たこともないような冷酷な笑みが浮かんでいた。
「由梨香・・・俺を殺すつもりなのか?」
「ほんとバカねぇ。言ったでしょ。私は由梨香なんていう名前じゃないって。私はドクガ0021。それぐらい覚えなさい」
「ドクガ・・・0021・・・」
「ハイ、よくできました。見てぇ、このおっぱい。大きいでしょ? この中には毒液がたくさん詰まっているの。あなたにたっぷりと味わわせてあげるわぁ」
両手で巨大な胸を持ち上げる毒蛾女。
俺はその様子を黙って見ているだけだ。
「さようなら・・・“あなた”」
彼女の胸から紫色の液体が吹きかけられ、俺は全身に激痛を感じて悲鳴を上げながら意識を失った。
俺は妻も娘も、そして命さえも失ってしまったのだった・・・

END
  1. 2017/05/05(金) 20:28:33|
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二人はプリキュラ

一昨日投下した超短編SS「吸血鬼プリキュラ」に、ふと続きめいたものを思いついたので、今日は技能訓練がお休みだったこともありちゃちゃっと書いてみちゃいました。
お楽しみいただけましたら幸いです。


二人はプリキュラ

「こんばんは」
玄関のドアが開き、お下げ髪にメガネの少女が入ってくる。
幼さを感じさせるそのイメージとは裏腹に、少女からは妖しい魅力がにじみ出ていた。
「いらっしゃい、霧華ちゃん」
出迎えたのは活発そうな少女。
明るい表情をしているものの、こちらからもどことなく妖しいものが漂っている。
「待ってたわ。さあ、入って入って」
「お邪魔します」
まるで友人の家に遊びに来たように靴を脱いで入っていく霧華。
訪問した時間がそろそろ真夜中になりそうな時間だということ以外は何もおかしなところはない。

「座って座って」
自室に案内し、座布団を進める汐里。
「ありがと。でも、こんな時間にお邪魔してご両親が変に思わない?」
座布団に腰を下ろす霧華。
だが、時間が時間なことがやはり気にはなるようだ。
「問題ないわ。お父さんもお母さんも弘樹もみんな目で支配しちゃったから、文句を言う人は誰もいないの」
「ああ、そうなんだ。うふふ、私もパパとママ、それとおばあちゃんみんな支配してやったわ」
「血は吸ったの?」
「ううん、まさか。あんな連中の血を吸ったっておいしくないに決まってるもの」
フルフルと首を振る霧華。
その言葉にうんうんと汐里がうなずく。
「だよねー。私もお父さんやお母さんの血を吸いたいなんて思わないもん。どうせ吸うならイケメンとか、かわいい男の子とかがいいな」
「わ、私は素敵な女の子も・・・」
少しうつむき気味に小声で言う霧華。
その頬が赤く染まる。
「ほほぅ、霧華殿は女の子もいける口ですか?」
にやりと笑う汐里。
親友と言っていい霧華のことなので、とっくの昔にそんなことはわかっているのだが、つい意地悪したくなってしまうのだ。
これも赤くなった霧華がかわいいからに他ならない。
「も、もう、汐里ちゃんったら!」
赤くなりながらもこぶしを振り上げる霧華。
「ごめんごめん、冗談」
「もう・・・」
いつもと変わらない掛け合いに二人の表情が緩んでいる。
「でもさ、霧華ちゃんの気持ちもわかるな。女の子じゃないけど、例えば奉村(ほうむら)先生なんて美人で素敵でしもべにしちゃいたくなるもん」
汐里がぺろりと舌なめずりをする。
奉村めぐみは二人の担任の女性教師だ。
残念ながら既婚者で、旦那さんラブを隠そうともしない女性だが、美人で知的で物腰もよく、同僚教師からも生徒たちからも人気が高い。
彼女が結婚するとわかったときは、学校中がショックを受けたと言われるぐらいだったのだ。
だから、そんな彼女が担任と決まったときは、汐里も霧華もうれしかったものだった。

「あー、わかるぅ。確かに奉村先生はしもべにふさわしい女性だよね。でも、汐里ちゃん、私たちが勝手にしもべを作ることは許されないわ。それは愚か者の考えよ」
「うー、ドラキュラ様はきっと奉村先生を自らのしもべにしちゃうだろうからなぁ。何とか私たちのしもべにしたいと思わない?」
ちょっと口をとがらせて不満そうにする汐里。
奉村先生がドラキュラ様のしもべとなって仲間になるのは全く構わないのだが、どうせならしもべとしてかわいがってみたいのだ。
「もう、汐里ちゃんったら・・・ドラキュラ様に怒られるよ。愚か者と同じになるつもりかって・・・」
「うー・・・愚か者みたいにしもべを増やしまくったりはしないよぉ。奉村ちゃんだけでいいんだけどなぁ。バレないって、きっと」
ますます口をとがらせる汐里。
「霧華ちゃんだって、奉村センセの血を吸ってみたいと思うでしょ? きっとおいしいって。で、しもべにして二人でかわいがってあげるの。きっといい声で鳴くよぉ」
「汐里ちゃんってば!」
思わずまた顔を赤くする霧華。
「うー、やっぱダメかぁ。仕方ない。ドラキュラ様に逆らうのはちょっと恐ろしそうだし、あきらめてセンセもドラキュラ様のしもべにしてもらおう・・・」
どうやら汐里の中では奉村めぐみが吸血鬼化するのは既定の事実のようらしい。
「もう・・・」
苦笑するしかない霧華だった。

                   ******

マンションの駐車スペースに一台の車が止まる。
そのエンジンが停止しライトが消えて、中から一人の女性が降り立った。
「遅くなっちゃったぁ。ヤマ君もう寝ちゃったかなぁ。食事の用意してくれていたりとかは・・・ないよねぇ」
車のドアに鍵をかけて歩き出す女性。
スーツ姿がすらりとしてとても美しい。
「ククク・・・これはいい」
どこからか声が聞こえる。
「えっ? 誰?」
女性は周囲をうかがうが、夜中の駐車場には誰の姿もない。
だが、植え込みから巨大な黒い犬が現れたことに彼女は驚いた。
そしてその黒い犬が、みるみる白人の男性に変化したことにも。
「な、なに? なんなの?」
「クククク・・・なかなかいい女だ。我がしもべにふさわしい」
ゆっくりと女性に近づく白人男性。
パッと見は黒いスーツ姿が似合うハンサムだが、醸し出す雰囲気は恐ろしさを感じさせた。
「い、いやっ!」
女性は思わず逃げ出そうとしたが、その腕を素早く掴まれ、逃げられなくなってしまう。
大声を出そうにも、震えて声がうまく出ない。
「な、なにをするの?」
男がクワッと口を開ける。
そこには尖った牙が見え、その牙が彼女の首筋に突き立てられた。
「あ・・・」
女性の顔からみるみる血の気が引いていき、ぐったりとなっていく。
男はそれを抱きかかえると、静かにそっと口づけをした。

「ん・・・んちゅ・・・んん・・・」
じゅぷじゅぷと屹立する男のモノを咥え込む女性。
その首筋には牙の跡があり、男根を見つめる目は真っ赤に輝いている。
先ほど駐車場で車から降りた時とは全く別人のような雰囲気だ。
まるで娼婦のように男のモノにしゃぶりつき、ザーメンが出るのを待っている。
彼女の足元には干からびた男の死体が転がっているが、そんなものにはまったく目もくれようとはしない。
「ん・・・んんん・・・ぷあっ」
やがて男根からザーメンが吐き出され、彼女の口の中を満たしていく。
彼女は満足そうにそれをくちゅくちゅと味わってから、ごくりと飲み干した。
「クククク・・・美味いか?」
「はい。ご主人様のザーメン。とても美味しいです」
うっとりとした表情で男を見上げる女性。
その口からはさっきまで存在しなかった牙が覗いていた。
「クククク・・・そこで転がっている愛する夫の血よりもか?」
「もちろんです。それに、私が愛し崇拝するのはご主人様のみ。こんな男など愛してはおりません」
「クククク・・・そういえばまだ名前を聞いていなかったな。お前の名はなんという?」
「ああ・・・私はご主人様のしもべ。ご主人様のお好きなようにお呼びください」
女性が男の足元にひれ伏すようにする。
「元の名だ」
「はい。先ほどまでは奉村めぐみと呼ばれておりました」
「そうか。ではメグミよ。お前は今日から我がしもべ。我のために働くがよい」
「はい、ご主人様。何なりとご命令を・・・」
汐里と霧華の担任として慕われていた女性教師が闇に染まった瞬間だった。

                   ******

「それで霧華ちゃん、ちゃんと用意してきた?」
「あ・・・う、うん・・・」
霧華が思わず目を伏せる。
「そっか、じゃ、まずは私からね」
汐里がスッと立ち上がり、上着とスカートを脱いでいく。
すると、真っ赤な革製の下着が現れ、霧華は思わず目を丸くした。
「し、汐里ちゃん、それ?」
「じゃーん! どうかな? せくしー?」
汐里は真っ赤な革製のブラジャーとショーツ、それに太ももまでの赤いストッキングを身に着けていたのだ。
「これで霧華ちゃんが黒でそろえれば、プリキュラとして完成しないかな? ドラキュラ様喜んでくれないかな?」
腰に手を当ててポーズをとる汐里。
「そ、それって…だ、大胆過ぎない?」
思わず目をそらしてしまう霧華。
彼女には刺激的すぎるようだ。
「そうかな? アメコミの吸血鬼ってこんな感じじゃない?」
「そ、そうかもしれないけど・・・私たちにはまだ・・・」
「赤のキュラファング、黒のキュラティースでいいと思うんだけどなぁ」
「わ、私は・・・無理―――!」
ぶんぶんと首を振ってしまう霧華。
「そうかー。残念。霧華ちゃんはどんなの?」
その格好のまま座布団にぺたんと座る汐里。
「わ、私はもっとおとなしくて・・・動きやすくて・・・」
おずおずと上着とスカートを脱いでいく霧華。
「おおーーう」
汐里が思わず声を上げる。
霧華の服の下から現れたのは、紺の競泳水着と黒タイツの組み合わせだったのだ。
「こ、これなら・・・肌の露出も少ないし、動きやすいかなって・・・」
「いやー、確かにそうだけど、一部のマニアにすごく受けそうな組み合わせだねぇ」
にやにやと笑みを浮かべる汐里。
地味目の霧華が、こんないいスタイルをしているとは思わなかったのだ。
出るところは出てくびれるところはくびれている。
それが競泳水着ですっかりラインがあらわになっているのだ。
「ダメ・・・かな?」
「ダメじゃないダメじゃない」
今度は汐里がぶんぶんと首を振る。
「じゃさ、これ基調で考えようか。水着じゃなくてレオタードとかでタイツ組み合わせて。うんうん。むしろあのアニメらしくていいか」
腕を組んで一人うんうんとうなずく汐里。
彼女の中では二人の衣装が決まったようだ。
「それじゃ作るぞー。お母さんにも手伝わせようかな」
「あ・・・なんかまずい方向に火をつけたかも?」
霧華が手を口元に持って行ってしまったという顔をするが、すでに後の祭りだった。

                   ******

「ふわぁーーー!」
大きなあくびをする汐里。
どうやら遅刻はしないで済みそうだが、吸血鬼になって以来ますます朝が苦手になったらしい。
「おはよう汐里ちゃん」
こちらも眠そうな表情の霧華。
以前は朝を得意としていた彼女も、吸血鬼となった今は夜のほうがいいのは当然である。
ドラキュラ様の命で極力以前と同じように過ごすように言われてはいるが、変化してしまった体質は仕方がない。
「あれから型紙とか作ったから、週末で一気に仕上げるよ。来週にはドラキュラ様にプリキュラの新衣装をお披露目できると思う」
「そ、そう? 無理しないでね」
苦笑する霧華。
レオタードにミニスカートとタイツを組み合わせ、背中には黒マントを羽織るというスタイル。
どうやらこれがプリキュラのスタイルになりそうだ。
まあ、汐里ちゃんがそうしようというのならしょうがない。
なんといっても二人はキュラファングとキュラティース。
二人はプリキュラなのだから。

そして・・・
職員室の窓から登校してくる女子生徒たちを、じっと見つめる奉村めぐみの赤い目があった・・・

エンド

続きは・・・まあ、ご希望があればということで。(^_^;)ゞ
  1. 2017/04/18(火) 20:30:00|
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吸血鬼プリキュラ!

やっつけですが超短編SSを一本投下します。

ことの発端は、今朝のプリキュアを見ていた時、そういえばプリキュアとドラキュラって言葉の響きが似てるなぁって思ったことでした。
で、吸血鬼プリキュアってのも面白そうだなと思い、ツイッターでツイートしたところ、思いのほか賛同者が多かったので、これは書いてみようかなと。

ドラキュラ様を不思議な生き物代わりにしちゃいましたが、楽しんでいただけましたら幸いです。


吸血鬼プリキュラ!

「はわわー! 遅刻しちゃうー!」
まだセットも途中といった感じで髪を振り乱しながら走る少女。
もうすぐ朝礼が始まってしまう。
髪の毛などにかまっている暇はないのだ。
「もう! お母さんったら起こすのが遅いんだもん!」
少女は母親に文句を言うが、実のところはお門違いである。
彼女の母親は、今朝も数度にわたって彼女を起こしていたからだ。
つまり起きられなかった彼女の自業自得なのだが、彼女自身はそれを認めたくはない。
母親が起こしてくれなかったのが悪いのである。

「もう・・・どうして朝が来ちゃうのよー! ずっと夜だったらいいのにぃ! 私、夜だったらいくらでも起きていられるんだから!」
息を切らせながらも通学路を走り続ける少女。
その姿を上空から見ている姿があった。

「うむ、そなたのような夜に強い者こそ余が求めていた少女だドラ」
突然少女の横に奇妙なものが現れる。
「えっ? 何?」
それは黒いもこもこした丸い毛玉のようなもので、両側にはコウモリの羽のようなものが生えており、ぴょこぴょこと動いている。
おそらくはその羽の力なのだろうが、毛玉はふわふわと浮きながら、少女の横に並んでいた。
「え? えええええ? 何これ?」
驚きつつも足を止めないのは、これ以上遅刻したくないという気持ちの表れか。
しかし、彼女の眼はその浮遊する毛玉に釘付けになっていた。
「余はドラキュラドラ。吸血鬼一族の長だドラ」
「ドラキュラドラさん?」
お約束の返しを行う少女。
もっとも本人にはそのつもりはない。
「違うドラ。このドラは口癖にされてしまったのだドラ」
「ふうん・・・どこから声を出しているのかな?」
少女がよく見ると、どうやら毛玉の正面と思しきところには水平に裂け目があり、そこから牙が覗いている。
おそらくこれが口なのだろう。
「捕まえて売ったらお金になるかな?」
やや物騒なことを考える少女。
「なかなか邪悪な性格らしいドラ。まさに我がしもべにふさわしいドラ」
「しもべ?」
「そうドラ。お前は余のしもべとなり、あのバカを始末するのに頑張ってもらうドラ」
「何それ? 今学校に行くのに忙しいからヤダ」
「問答無用だドラ!」
そういうと黒い毛玉は少女の首筋のところに飛んでいくと、がぶりと噛みついた。
「あ・・・いや・・・あ・・・」
力が抜けて地面にへたり込んでしまう少女。
その間にも黒い毛玉は彼女の首筋から血を吸っていく。
「ドラ・・・キュラ・・・って・・・マジ・・・」
前のめりに倒れこみ、意識を失ってしまう少女。
「だから最初からそう言ってるドラ」
少女の首筋から離れ、ふわふわと再び飛び始める黒い毛玉。
やがて毛玉は意識を失っている少女の口元に近づくと、黒いしずくを一滴たらす。
しずくは少女の口にたれ、少女はそれを舌で舐め取った。

静かに起き上がる少女。
その口元に笑みが浮かび、瞳は真っ赤に輝いている。
「これでお前は余のしもべになったドラ」
少女の前にふわふわと飛んでくる黒い毛玉。
「はい。ドラキュラ様。私はドラキュラ様のしもべです」
少女がにっこりとほほ笑むが、その様子は先ほどとはガラッと変わっていた。
「それでいいドラ。これからは余の命令に従うドラ」
「はい、ドラキュラ様。何なりとご命令を」
こうして黒い毛玉は新たなしもべを一人手に入れたのだった。

                   ******

「汐里(しおり)ちゃん、こんなところに呼び出してどうしたの? 今日は朝から何か変だよ」
少女の後について人気のない校舎裏にやってくるもう一人の少女。
メガネの奥の瞳がくりくりとしていて、お下げ髪がかわいい。
「そうかな? 今朝、ドラキュラ様のしもべになったからかしら・・・」
メガネの子に背を向けたままにやりと笑みを浮かべる汐里。
その口からは尖った牙が見えている。
「ドラキュラ? しもべ?」
何のことだかわからないという表情のメガネっ子。
「うふふ・・・霧華(きりか)ちゃんもすぐにわかるわ。ドラキュラ様に血を吸ってもらえばね」
くるりと振り返る汐里。
真っ赤な唇から尖った牙が見えている。
「ひっ! し、汐里ちゃん?」
「うふふふ・・・私はドラキュラ様に血を吸っていただいて、しもべになったの。霧華ちゃんもしもべになるのよ」
そう言った汐里の肩にふよふよと黒い毛玉が飛んできて、クワッと口を開ける。
「い、いやっ!」
慌てて逃げ出そうとする霧華。
だが、黒い毛玉が素早くその肩口に飛びつき、首筋に牙を突き立てる。
「あ・・・あああ・・・」
そのまま地面に崩れ落ちる霧華。
黒い毛玉はその首筋から思う存分に血を吸うと、霧華の口にも黒いしずくを一滴たらした。

                   ******

青白い炎に包まれて崩れ落ちる人影。
「うふふふ・・・まずは一人」
「ドラキュラ様に逆らう愚か者のしもべの末路ね」
二人の少女が冷たい笑みを浮かべている。
「よくやったドラ。これでこいつがしもべを増やすことはもうないドラ」
「ありがとうございます、ドラキュラ様」
「愚か者のしもべの処理は私たちにお任せくださいませ。ドラキュラ様」
スッと黒い毛玉にひざまずく二人の少女。
学校の制服に黒いマントを羽織った姿はなかなかになまめかしい。
「余のしもべたちよ、頼んだドラ。一刻も早く我が力を取り戻すためドラ」
「「はい、ドラキュラ様」」
二人の少女たちが声をそろえる。
「さあ、今度は私たちの番ね」
「ええ、おいしい血をたっぷりと吸いたいわ」
スッと立ち上がる二人。
「それじゃ行きましょう、キュラファング」
「ええ、行きましょう、キュラティース」
二人はそれぞれをそう呼び合う。
日曜朝の少女アニメのファンだった汐里が名付けたものだったが、霧華もそれを気に入っていた。
「私たちはプリキュラ。ドラキュラ様の忠実なしもべ」
「ドラキュラ様に歯向かう愚か者は、私たちプリキュラが始末するわ」
二人はそういうと、楽しみな食事をするためにマントを広げて夜空に消えていった。

エンド

  1. 2017/04/16(日) 20:50:19|
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鬼母、鬼姉、そして・・・

今日は2月3日の節分ですねー。
ということで、久しぶりに超短編SSを一本書きました。
ネット復活記念としてはたいしたものじゃないですけど、楽しんでいただければ幸いです。


鬼母、鬼姉、そして・・・


「ただいまぁ」
玄関で声が聞こえる。
父さんが帰ってきたな。
今日は結構早いんだな。
ぼくはスマホでゲームをやりながら、リビングに入ってきた父さんに目をやった。

「お帰りなさい。今日は早かったのね」
台所から母さんが出てくる。
「ああ、このところ仕事も少ないからな。そういえば今日は節分なんだな。駅で豆を売るコーナーがあったよ」
「そうよ。うふふ、ちゃんと恵方巻き買ってあるわよ」
母さんが笑顔を浮かべてる。
そうか。
それで今日は夕食の支度をしている様子がなかったんだ。
「お、いいね。それじゃ風呂入ったら一杯やりながらつまむとするかな? どうせもう豆まきなどはせんだろう?」
「でしょうね。詩織(しおり)も智樹(ともき)ももういい大人だし、やらないでしょ?」
父さんと母さんがぼくと姉ちゃんのほうを見る。
当然豆まきなんてやる気はない。
ぼくは首を振ったし、姉ちゃんはパスというだけでスマホから顔を上げようともしなかった。
「ハハ・・・子供のころは喜んで豆を撒いていたものだがなぁ」
「うふふ・・・仕方ないわよ。いつまでも子供じゃないから」
ちょっと寂しそうにする父さんと母さん。
やれやれ。
いつまでも仲がいい感じで結構だけど、見ているこっちが恥ずかしくなるよ。
ぼくはスマホのゲームに目を移した。

「お、うまそうだ」
テーブルに並べられる恵方巻き。
美味しそうな海鮮太巻きが四本だ。
「楽でいいわぁ。切らなくてもいいしね。恵方巻き様様よ」
母さんが笑いながらそういう。
まあ、たまには主婦が楽する日があってもいいよね。
「あー、お腹空いたぁ」
姉ちゃんもスマホを置いてテーブルに着く。
ぼくもゲームをやめてテーブルに向かう。
珍しく四人そろっての夕食だね。
父さんは早速冷蔵庫からビールを出して注いでいる。
サラリーマンの楽しみだそうだけど、この程度の楽しみってのはいやだなぁ。
ぼくも就職したらそうなるのかなぁ・・・

「?」
なんだ?
今玄関ですごい音がしたな?
ぼくが玄関のほうを見ると同時に、みんなも一斉に玄関を見る。
ぼくが何が起こったのか確かめようと腰を浮かせた時、リビングにそいつらは入ってきた。
「うわっ!」
「な、なんだお前ら!」
思わず声が出る。
リビングに入ってきたのは、まさしく鬼だったのだ。

「グフフフフフ・・・思ったとおりだ。この家は豆撒きをやっていない」
「ギヒヒヒヒヒ・・・小さい子供がいない家は豆撒きをやらないというのは本当だったな」
「しかもだ。なかなかいい女も二人もいやがるぜ」
筋肉質の大柄な体格をした三人の男たち。
そのいずれもが額から一本、もしくは二本の角を生やしている。
躰は赤や青の色をしており、腰には虎縞のパンツを穿いているのだ。
どこからどう見ても鬼だ。
まるで子供の絵本から抜け出てきたような鬼たちに、ぼくはあっけに取られるだけだった。

「な、なんだお前たち! 出て行け! 出て行かないと警察を呼ぶぞ!」
少し震える声で父さんが鬼たちに出て行くように言う。
だめだ・・・
そんなんじゃ、こいつらは出て行かないよ・・・
ぼくはそう思ってしまう。
こいつらはコスプレなんかじゃない。
本物だ。
本物の鬼がなぜか突然現れたんだ。
ぼくはそう感じていた。
だって、こいつらには人間なんかはるかに超えるようなとてつもない威圧感があったのだ。

「グフフフフフ・・・何か言ったか?」
「で、出て行かないと警察を・・・グハッ」
「と、父さん!」
精一杯鬼を出て行かせようとした父さんを、赤鬼が殴り飛ばす。
「きゃーっ!」
「あ、あなた!」
姉ちゃんが悲鳴を上げ、母さんが殴り飛ばされた父さんのところに駆け寄る。
くそっ!
よくもよくも・・・
でも、だめだ・・・
足が動かない。
父さんや母さんを何とかして守りたいのに、恐怖でまったく躰が動かない。
ど、どうしたらいいんだ・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・お前はこっちだ」
「あ、いやっ! 何を!」
父さんのそばに駆け寄った母さんを、青鬼の腕がつかみ寄せる。
「お前もだ」
「いやぁっ! 離して!」
「ね、姉ちゃん!」
壁際で震えていた姉ちゃんも、緑色の鬼がグフグフ笑いながら近づいてつかみ寄せてしまう。
くそっ!
足よ動け!
動いてくれ・・・
情けないことにぼくの足はガタガタ震え、まるで床に張り付いてしまったかのようだ。
父さんは殴られたせいか床でぐったりしているし、母さんと姉ちゃんは鬼に腕をつかまれて動けない。
「か、母さんと姉ちゃんを放せ!」
ぼくは必死にそう叫ぶ。
「グフフフフフ・・・ガキはおとなしくしていろ!」
赤鬼がぎろりとぼくをにらんでくる。
それだけでもうぼくは何も声が出せなくなってしまった。
立っているのが精一杯だ。
母さん・・・姉ちゃん・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・こいつはなかなかいい女だぜ」
「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちの若いのもなかなかだぜ」
「いやぁっ! 助けてぇ!」
「離してぇ!」
必死にもがく母さんの首をべろりと舌で舐める青鬼。
緑の鬼も姉ちゃんの頬を舐めている。
「グフフフフフ・・・俺たちには女が少ないからな。こいつらをいただくとしよう」
「そうだな、ギヒヒヒヒヒ・・・」
三人の鬼たちがいやらしい笑みを浮かべている。
「な・・・なにを・・・」
ぼくはかろうじてそれだけを口にする。
「ガキはおとなしくしろと言ったろう!」
「ひっ!」
ぼくの全身を恐怖が走る。
だめだ・・・とても逆らえない・・・
誰か・・・
誰か助けて・・・

「グフフフフフ・・・まずはお前だ」
「い、いやっ! 何をするの?」
青鬼に腕をつかまれて身動きできなくされている母さんに赤鬼が近づいていく。
赤鬼は穿いている虎縞のパンツの中から何かを取り出すと、それを母さんの額に突き立てた。
「ひぃっ!」
それは彼らと同じ鬼の角だった。
母さんは額に鬼の角を付けられてしまったのだ。
「か、母さん!」
「ひぃっ! な、何これ? いやぁっ! 頭に・・・頭に何かがぁっ!」
「グフフフフフ・・・お前はメスの鬼になるのだ」
なんだって?
母さんが鬼に?
メスの鬼になってしまうというのか?
「ああ・・・いやぁ・・・アガッ・・・アガガガ・・・」
母さんの目が赤く染まっていく。
筋肉が盛り上がり、着ている服が内側から破れていく。
「アガガ・・・い、いやぁ・・・アグゥ・・・」
めきめきと音を立てて母さんの耳が尖っていき、口からは牙が生えてくる。
「そ、そんな・・・か、母さん」
「う、うそでしょ・・・」
緑の鬼に腕をつかまれている姉ちゃんもあまりのことに声が出ないようだ。
母さんの胸は大きくなり、指には尖った爪が伸びてくる。
肌の色は青くなり、母さんを捕まえている青鬼の肌の色とほとんど同じになっていく。
「ギヒヒヒヒヒ・・・どうやら青鬼になるようだな。うれしいぜ」
「ちっ、まあいいさ。メス鬼はみんなのものだぜ」
「ギヒヒヒヒヒ・・・わかっているって」
鬼たちがニヤニヤと母さんが変わっていくのを楽しんでいる。
母さん・・・
母さんが鬼になってしまうなんて・・・

「ア・・・グゥ・・・」
ぐったりとなる母さん。
着ているものはぼろぼろとなって腰の周りに巻きついているだけになり、その躰は青く額からは一本の角が伸びている。
「ブフ・・・ブフフフフフ・・・」
不気味な笑い声を出して母さんが顔を上げる。
「うわぁ」
「きゃーっ!」
ぼくも姉ちゃんも思わず悲鳴を上げる。
母さんはにたぁっと牙の生えた口をゆがめて笑みを浮かべ、真っ赤な眼をらんらんと輝かせていたのだ。
「グァァァァァァァァッ! なんだか力がみなぎってくるわぁ! 気持ちいいぃ!」
「グフフフフフフ・・・メス鬼になった気分はどうだ?」
「最高! 最高よぉ! ブフフフフフ・・・鬼は最高だわぁ」
べろりと舌なめずりをする母さん。
いや、メスの青鬼だ。
母さんはもうメスの青鬼になってしまったんだ・・・

「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちも早く頼むぜ」
姉ちゃんを押さえつけている緑の鬼が催促する。
「おう、待ってな」
赤鬼は再びパンツの中から角を取り出す。
今度は母さんのより小さめだが、二本だ。
「いやっ! いやぁっ! いやぁぁぁぁぁ!」
「ね・・・姉ちゃん・・・」
ぼくにはもうどうしようもない。
ただ見ているしかない・・・
「きゃーーー!」
姉ちゃんの額に二本の角が突き立てられた・・・

                   ******

「ブフフフフフ・・・」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
ぼくの目の前で繰り広げられる惨劇。
さっきまで母さんだったメスの青鬼と、姉ちゃんだったメスの黄色の鬼が、父さんの死体を貪り食っているのだ。
それもとても美味しそうに。
「ブフフフフフ・・・美味しいわぁ」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・ホント、恵方巻きなんかよりずっと美味しいわ。どうして今まで人間の肉を食べなかったのかしら」
くちゃくちゃと音を立てて肉を租借する姉ちゃん。
母さんも父さんの腕にかぶりついている。
「ギヒヒヒヒヒ・・・そろそろいいだろう?」
青鬼がじれったそうに声を掛ける。
「ブフフフフフ・・・わかってますわぁ。腹ごしらえがすんだら気持ちいいことしましょ。ブフフフフフ・・・」
べろりと舌なめずりをする母さんだったメス青鬼。
その真っ赤な眼は欲望に潤んでいる。
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・アタシもアタシもー。ふっといおチンポほしいわぁ。ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
黄色鬼になってしまった姉ちゃんも爪で歯をほじりながら緑鬼のほうを見ている。
「ゲヘヘヘヘへ・・・楽しもうぜぇ」
黄色鬼の腰に手を回し、緑鬼も舌なめずりをする。

「グフフフフフ・・・あの二人はもう完全なメスの鬼になったのさ。これから俺たちはあのメスたちとたっぷり楽しむつもりだ。お前はどうする? 鬼になりたいのなら、この角を付けてやってもいいんだぜ」
ぼくの肩をぽんと叩く赤鬼。
ぼくは・・・
ぼくは・・・
ぼくは・・・

                   ******

「ゲヒヒヒヒヒ・・・君の母さんもすっかりメスの鬼になったようだね」
ぼくは角を付けられてメスの緑鬼になった女を彼女に見せ付ける。
彼女はぼくのクラスメートだ。
クラスの中でもかわいくてぼくは前から気になっていた。
だから角を付けてぼくのメスにしちゃうのだ。
「そんな・・・お母さん・・・どうして? 高谷(たかや)君ひどいよ」
ぼくに腕をつかまれて身動きができなくなっている彼女。
名前はなんていったっけ?
もう思い出せないけどどうでもいいや。
鬼になれば名前なんて必要なくなるんだから。
「ゲヒヒヒヒヒ・・・君も鬼になるんだよ」
「いやっ! いやぁっ!」
ぼくは彼女の頬をべろりと舐める。
かわいいなぁ。
この娘が鬼になったらもっとかわいくなるに違いない。
ぼくはパンツの中から赤鬼にもらった角を取り出すと、彼女の額に無理やりねじ込んだ。

エンド
  1. 2017/02/03(金) 19:11:42|
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遠吠え (後)

昨日に引き続きまして10年記念&400万ヒット記念オリジナルSS「遠吠え」の後編をお送りします。

お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


「ん?」
一歩その家の中に入って感じたのは、においだった。
農場だから家畜を飼っているのは当たり前かもしれないが、なんというか獣臭いにおいを感じたのだ。
見るとディブも感じているらしく、鼻に手をやっている。
強烈なものではなく、微かといってもいいぐらいなのだが、なんとも獣臭かったのだ。
「エランドさん。いるなら出てきなさい。保安官だ」
ディブが奥に向かって声をかける。
玄関から奥に向かっていくと、リビングがあった。
小奇麗で片付いてはいるものの、さっきよりも獣臭さが強く感じる。
大型犬でも室内で飼っているのか?

「いったいなんですか? いきなり」
部屋の奥の扉が開き、男が一人現れる。
やつだ。
夕べ妻をさらっていった男だ。
「失礼、郡保安官だ。トニー・エランドだな? 聞きたいことがあったので入らせてもらった」
ディブがライフルを肩に担ぐ。
「ああ、こんにちは保安官。今日はいったい何の用です?」
ふてぶてしくも落ち着いた表情の男。
こいつ、保安官といっしょに俺がいるのに、なんとも思わないのか?
「彼を知っているだろう? 町の雑貨商のオスカーだ」
「ああ・・・知ってる。何回か買い物をした。もっとも、あんたに言われてからは行ってないがね」
チラッとこっちに一瞥をくれる男。
歳は俺とそう変わらない若さのようだが、体格はがっしりしている。
だが、雰囲気は優男そうに感じないこともない。

「それで、どうも彼が言うには、君が・・・」
『アオーーーーン』
な、何だ?
犬の遠吠え?
やはりここは犬を飼っているのか?
「今のは?」
ディブも驚いてきょろきょろしている。
それにしても大きな吠え声だ。
「ふふふ・・・新たな仲間が興奮して吠えたようで」
男はニヤニヤしながら奥に通じる扉のほうを見る。
「そ、そうなのか・・・それで」
「あら、あなた・・・来てたの?」
ディブが話を続けようとしたとき、奥から現れたのはサリーナだった。
「サリーナ・・・お前・・・無事で・・・」
俺は妻の無事を喜ぼうとしたが、何かが変に感じる。
どうにも目の前の妻に違和感を感じて仕方がなかったのだ。
いったいどうしたというのだ?
着ているのはブラウスとジーンズという姿だし、どこも変わったところなどないはずなのに・・・

「サリーナ、旦那さんが迎えに来たようだよ」
何?
こいつは今妻のことを名前で呼んだのか?
「うふふふ・・・そうみたいですわね」
なんだかねっとりした視線を俺に向け、ぺろりと唇をなめるサリーナ。
そのしぐさは妙にエロティックでいやらしい。
「サリーナさん、無事でよかった。彼に連れ去られたというので心配で来てみたところだ。ご主人もいるし帰りましょう」
ディブが手を差し伸べる。
だが、サリーナは驚いたことに、やつの元へ行き、その躰にしなだれかかったのだ。
「うふふ・・・ありがとうラウエルさん。でも私はもう戻るつもりはないの。あなたもわかって頂戴。私はもう彼のメスになったのよ」
「な?」
俺は耳を疑った。
サリーナは今何を言ったのだ?
なぜサリーナはあの男に恋人のように寄り添っているのだ?
いったい何があったのだ?

「ねえ、トニー。私、生まれ変わったばかりでお腹が空いたわ。肉が食べたい」
先ほどよりもいっそう舌を出して唇を舐めるサリーナ。
何だ?
彼女は以前の彼女じゃない。
いったい・・・
「ふふふ・・・それならちょうど目の前にいるじゃないか」
「ああん・・・でも、彼を食べるのはまだ気がすすまないわぁ。それにイザベラさんが狙っているみたいだし」
「そうなのか? それじゃ、そっちのほうにするか」
二人の視線がディブに向く。
いったい・・・
二人はいったい何を言っているんだ?
俺は躰が震えていることに気がついた。
何だ?
こいつらはいったい何なんだ?

妖艶な笑みを浮かべているサリーナ。
普段の・・・今までのサリーナでは絶対に浮かべないような笑みだ。
美しさを通り過ぎ、不気味ささえ感じさせる笑みだ。
「うふふふ・・・ねえ、ラウエルさん・・・あなたとても魅力的ね。おいしそうだわぁ」
ゆっくりとディブに近づくサリーナ。
いったい何をするつもりだ?
俺は恐怖を感じる。
なぜだ?
なぜ俺は妻に恐怖を感じなくてはならないんだ?

「奥さん、いったい?」
ディブも戸惑っている。
いつも笑顔でおいしいドーナツを作ってくれた女性だ。
その彼女が妙な笑みを浮かべて近づいてくる。
戸惑うのが当たり前だ。
「うふふ・・・いただきます」
ディブの首に両手を回すサリーナ。
まさかキスでもするつもりなのか?
だが俺のそんな考えは一瞬で裏切られた。

「ギャッ!」
小さな悲鳴とともに、血しぶきが上がる。
「うわぁーーーーーーー!」
気がつくと俺も悲鳴を上げていた。
妻が、サリーナがディブの首筋に噛み付いたのだ。
そして肉をえぐるように噛み千切り、むしゃむしゃと食っているではないか。
「うわぁーーーーーーー!」
悲鳴が止まらない。
口から血を滴らせた妻が俺に笑みを向けたのだ。
その瞬間俺は入り口に向かって駆け出していた。
違う!
違う違う!
あれは俺の妻じゃない!
何か別の存在だ!
俺の妻はあんなことはするはずがない!

あと少しで玄関だというところで、目の前に人影が現れる。
いや、人じゃない!
犬?
いや、狼だ?
巨大な人ほどの大きさのある狼が玄関先にいて、俺をにらんでいるのだ。
何なんだ?
いったいなんでこんなところに狼なんかがいるんだ?
俺は追い払おうと拳銃を抜く。
威嚇して追い払うつもりだった。
だが、だめだった。
拳銃を抜いたとたん、狼は一直線に俺に飛びかかってきたのだ。
俺は拳銃を発射したが、狼は俺に体当たりをかけて押し倒す。
床に倒れた衝撃で俺は頭を打ち、そのまま意識を失った。

                   ******

ん・・・んちゅ・・・ぴちゃ・・・ちゅぷ・・・
何の音だ?
俺はゆっくりと目を覚ます。
あたたた・・・
頭が痛い。
そうだ・・・
俺は狼に押し倒され、頭を床に・・・
俺ははっとした。
ここは?
俺はいったい?

「う・・・」
目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。
見ると俺はイスに座らされ、両手を後ろ手に縛られている。
しかも下半身はむき出しにされ、股間のものを一人の女性が舐めていた。
「うわっ」
俺は驚いて思わず声を出す。
「フフ・・・目が覚めたみたいね」
上目遣いで俺を見上げる女性。
この女性はいったい?
さらに奥ではベッドをギシギシと鳴らしながら、一組の男女がセックスをしているではないか。
いったい何なんだ?

「あはぁ・・・いいわぁ・・・最高・・・最高よぉ・・・」
聞きなれた知っている声が聞こえてくる。
そんな・・・
ベッドの上で男にまたがって腰を振っているのは、紛れもなく妻だ。
いやらしい姿で腰を振り、いやらしい声で男に媚びている。
そんな妻を見る羽目になるなんて・・・
「あはぁ・・・あなたぁ、目が覚めたのね? 見てぇ・・・私・・・彼のメスになっちゃったのぉ」
口元に指を当て、潤んだ目で俺を見るサリーナ。
その間も腰の動きは止まらない。
「気持ちいいのぉ・・・獣のセックスは最高なのぉ・・・はぁん」
「ふふふふふ・・・どうだ? 彼に生まれ変わった姿を見せてやったら」
男がサリーナを下から突き上げる。
そのたびにベッドがギシギシと揺れている。
「ええ、そうしますわぁ・・・あなた、見てね・・・私の生まれ変わった姿。彼のメスになった姿を・・・ワオ・・・ワオーーーーーーン」
俺は目を疑った。
サリーナが・・・彼女の躰がみるみるこげ茶色の毛に覆われていき、鼻が突き出し、耳も尖って伸びていくのだ。
それはそう、まるで人間が狼になっていくような姿。
サリーナの口からは尖った牙がのぞき、両手の指からは鋭いつめが伸びていく。
「ワオーーーーン!」
誇らしげな遠吠えが彼女の口から放たれ、その姿こそが本当の姿だと訴えているようだ。
「アオーーーーン!」
彼女の下にいた男も、彼女同様に姿が狼に変わっていく。
やがて二人は、二頭の狼の姿となり、更なるセックスを楽しんでいく。

「うふふふ・・・驚いた? すっかり元気がなくなっちゃったみたいね」
さっきから俺の股間に顔をうずめていた女性が顔を上げる。
「うふふふ・・・私たちは狼人間なの。兄が彼女を気に入ったのよ。彼女はもう狼人間の仲間。兄のメスとして生まれ変わったの」
「狼・・・人間・・・」
俺は何が真実なのかもうわからない。
目の前で起こっていることは本当なのか?
妻は・・・サリーナはもう人間じゃなくなったというのか?
「うふふふ・・・彼女を取り戻しにきたのは立派よ。でももうあきらめたほうがいいわ。彼女はもう兄のメスとしての気持ちしかないの。あなたのことはもうどうでもよくなっているわ」
「そんな・・・」
「でも心配しないで。今度は私があなたのメスになってあげる。あなたのこと気に入ったわ。私といっしょになりましょう」
「えっ?」
俺が彼女が何を言ったのか理解する前に、彼女は再び俺のものを口にする。
うわ・・・
さっきまでは気づいていなかったが、なんて気持ちがいいんだ。
こんなフェラチオは今まで経験がない。
たまらない。
俺の股間はこんな状況にもかかわらず反応し、むくむくと屹立する。
「うふふ・・・これでよし」
彼女は下着を脱ぎ捨てると、イスに座る俺の上からまたがるように座ってくる。
そして俺のそそり立ったものを彼女の中へと導いた。
ああ・・・
なんてこった・・・
妻の・・・サリーナの目の前で、俺も別の女性とセックスしているではないか・・・
だがなんという快感・・・
気持ちいい・・・
なんだか力がみなぎってくる感じだ・・・
ああ・・・
世界が・・・
世界が変わっていく・・・

                   ******

「いらっしゃいませ、こんばんは。うふふふふ・・・」
店に入ってきたのがトニーだとわかると、すぐに彼女の表情がうっとりとしたものになる。
「ああん・・・トニー・・・待ってたわぁ・・・」
いそいそと彼の元へ行くと、彼に腕と片足を絡め、濃厚なキスを味わっていく。
サリーナは彼のメスだ。
いずれ彼の子を孕み、産むことになるのだろう。
少し複雑な気持ちだが、そうなってしまったものは仕方がない。
「ふふふふ、彼と浮気していたんじゃないか?」
「ああん、そんなことないに決まっているでしょ。彼はイザベラのものですもの。それに、私はもう身も心もあなたのものよ、トニー」
「そうかい? じゃあ、食事にでも行こうか。この町の郊外にはまだまだ獲物がいっぱいいる」
「狩りに行くのね。うれしいわ」
目を輝かせているサリーナ。
以前の弱弱しさは姿を潜め、野性味あふれる生気に満ちている。

「ハイ、オスカー」
トニーといっしょにやってくるイザベラ。
俺は彼女を抱き寄せると、その口にキスをする。
かわいい俺のメス狼。
猛々しさを持つその姿は彼女にふさわしい。
「私たちも食事に行きましょう」
そういって俺に腕を絡めてくるイザベラ。
失ったものもあったが得たものもあった。
そして、俺は今とても気分がいい。
外は満月。
俺たちの世界だ。
俺はイザベラとともに店の外に出ると、夜空に向かって思い切り吠え声を上げるのだった。

END
  1. 2015/07/18(土) 21:11:53|
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遠吠え (前)

今日明日で10年更新達成記念&400万ヒット記念SS第一弾ということで、短編オリジナルSSを一本投下します。

タイトルは「遠吠え」

悪堕ちという面ではちょっと物足りないかもしれませんがお楽しみいただければと思います。
あと寝取られ注意です。

それではどうぞ。


遠吠え

「あなた・・・」
妻のサリーナが青ざめた顔をして俺を呼ぶ。
店の表に止まったピックアップトラックに、俺はなぜ妻が青い顔をしているのかがすぐにわかった。
俺は妻に店の奥に行っているように言う。
妻が店の奥に入るのとほぼ同時に、ピックアップトラックから降りてきた男が店の入り口を開けて入ってきた。

「いらっしゃい」
俺は努めてにこやかに出迎える。
一応客は客だ。
うちのような小さな雑貨屋では、来てくれる客は大事にするしかない。
もっとも、こいつ一人来なくなってもかまわないと言えばかまわないんだが・・・

男はカウンターに俺しかいないのを見て舌打ちをする。
そして店の奥の部屋に通じるドアを忌々しげに見つめていた。
がっしりした体格の男で、いかにも農場での力仕事をやっているという感じの男だ。
穿き古されたジーンズと色あせたシャツがその肉体を覆っている。

「今日は何をお求めで?」
「ん・・・ああ・・・」
俺には興味がないように一瞥をくれてくるだけ。
残念だったな。
あいにくお前の目的のモノは先ほど店の奥に仕舞ったばかりだ。
お前が帰るまで再び出すつもりはないよ。

男は少しの間何かを探すふりをして店の中をうろつき、妻が出てくるのを待っている。
だが、表に新たな車が止まった音が聞こえ、それが保安官事務所のパトロールカーだとわかると、棚から適当に二つ三つ商品を持って来た。
「1ドル45セントになります」
「・・・・・・」
男は無言で金を置く。
それと同時に、店に制服姿の保安官補が入ってきた。
少し恰幅のよい赤ら顔に広いつばが全周に広がったキャンペーンハットを被っている。
「よぉ!」
「いらっしゃい、ディブ」
にこやかに俺に手を上げてくる保安官補に、俺も思わず笑顔になる。
それと入れ替わるように、男は俺が紙袋に入れた商品をひったくるようにして受け取り、さっさとドアを開けて店の外へと出て行った。
ふう・・・やれやれだ。
ディブが来てくれて助かったよ。

「助かったよ、ディブ」
「ん? なんかあったのか?」
お目当ての商品を物色しながら俺のほうを向きもしないが、ディブはちゃんと俺の言葉を聞いている。
彼はこのあたりの郡保安官事務所の保安官補であり、この村の担当だ。
いつもお昼ごろにはうちに来て、妻の手作りのドーナツを買っていってくれるのだ。
「いや、さっきの客なんだがね」
「ああ、あんまり見かけん顔だな」
「二ヶ月ほど前に村外れの農場に越してきた連中の一人らしいんだが・・・」
「ああ、あそこの。それで奴がどうかしたのか?」
商品を棚から手に取り、抱えるようにして振り向くディブ。
おいおい、お菓子ばかりじゃないか?
「実は、うちの妻に色目を使うんで困っているんだ。いやらしそうな目つきで見つめてくるらしくて、妻が怖がってしまって・・・」
まるで舌なめずりでもするような表情で見てくるらしい。
俺が仕入れなどで外出していると、いつ襲われるかと恐怖さえ感じると言うのだ。
それでここ数日は妻には奴が来たときには店に出ないようにさせているんだが・・・
「なんだって? 奥さんにか? そいつはけしからんな」
ディブの表情が険しくなる。
「ああ・・・」
「よしわかった。今度巡回に行ったときに俺がそれとなく言っておいてやろう。ところで」
ディブの目がカウンターに釘付けになっている。
「俺が楽しみにしていたドーナツが無いのも、奴のせいなのか?」
「ああ、こりゃすまない。おーい、サリーナ。ディブにドーナツを」
俺は店の奥に声をかける。
今日は午前中に客が多かったせいで、ドーナツは予定の数が出てしまったんだ。
もちろんディブの分はちゃんと妻が取っておいてあるはずだが。

「いらっしゃい、ラウエルさん。はい、ドーナツ。揚げたてよ」
店の奥から妻が湯気の立つドーナツを持ってくる。
「いやぁ奥さん、ありがとう。この店のこいつを食べないと昼を食った気がしないんでね」
ディブがにこやかにドーナツの包みを受け取る。
俺は会計を済ませると、店から出て行くディブを見送った。
彼が今回のことを気にしてくれるのであれば、何とか問題は済みそうだ。
俺は妻にそのことを言って、安心するように言ってやった。

                   ******

ディブがあの男に何か言ってくれたおかげなのか、あれから男は店に姿を見せなくなった。
売り上げ的にはほんのほんのちょっとだけ落ちたが、もとより気にするほどのことではない。
むしろあの男が来なくなったことで、妻も気が楽になったらしく、にこやかに接客をしてくれている。
ディブは毎日のようにドーナツを買いに来てくれ、妻も作る張り合いがあるらしい。
ありがたいことである。

                   ******

ん?
何だ?
俺はふと夜中に目が覚めた。
何か、物音か気配のようなものを感じたのだ。
いったい・・・

「ゴフッ!」
ベッドから躰を起こしたところいきなり頭に衝撃を受ける。
「うっ、ううっ・・・」
必死に遠くなりそうな意識を引き戻し、何事が起きたのかを確認しようとする。
「あっ、いやっ! 何を! やめてっ!」
サリーナの声だ!
くそっ、何がどうなっている?
暗くてよくわからん・・・
俺は窓のカーテンを乱暴に開く。
月明かりが煌々と差し込んできて、室内が少し明るくなる。
「あっ、お、お前は!」
見ると、隣のベッドから妻を抱えあげた男が立っていた。
しばらく店に顔を見せなかったあの男だ。
「貴様! 妻に何をする!」
俺は男に怒鳴りつける。
くそっ、後頭部がずきずきして躰が思うように動かない。
男は妻の気を失わせたのか、ぐったりとした妻を抱きかかえながら、俺のほうを見て笑みを浮かべる。
「この女、気に入った。俺のものにする」
「なんだ・・・と」
何を言ってるんだ、こいつ!
「ふざけるな! 妻を置いて出て行け! さもないと・・・」
俺はベッド脇のチェストに目をやる。
あそこには拳銃があるのだ。
拳銃さえ取り出せれば・・・

「ふっ」
男は俺に一瞥をくれると、もはや眼中にないとでも言うのか、妻を抱えたまま後ろを向く。
そのままこの部屋を出ようというのだろう。
そうはさせるか!
俺はチェストに飛びつき、拳銃を取り出そうとした。
「うがっ!」
引き出しを開けようとしたその瞬間、俺は再び背中に強烈な痛みを受ける。
「な・・・」
床に崩れ落ち、急速に意識が遠くなる中で、俺は何が起こったのかを確認する。
「兄さん、こいつ殺さなくていいの?」
「かまわん。この女を奪い返しに来ることもあるまい。行くぞ、イザベラ」
「OK」
閉ざされていく視界の中で部屋を出て行く男女。
まさかもう一人いたとは・・・
まったく気がつかなかった・・・
サリーナ・・・
すぐ・・・助けに・・・行く・・・

                   ******

「う・・・」
頭がずきずきする。
起き上がるとふらふらする。
もう朝・・・いや、昼近いじゃないか。
なんてこった。
サリーナを・・・サリーナを助けに行かなきゃ・・・
俺はふらつく脚をなだめながら、店に出る。
ちきしょう!
サリーナに手を出したら撃ち殺してやる。
と、いかんいかん。
拳銃を忘れるところだった。
俺は部屋に戻ると、チェストから拳銃を取り出し、予備の弾もポケットに入れる。
六連発の回転弾倉式拳銃なので、予備の弾はそう使うことはないだろうが、用心に越したことはない。

俺は家を出ると、車のエンジンをかける。
やつは確か郊外の農場だったな。
待ってろサリーナ。
俺は車に乗り込むとアクセルを踏む。
いつものように調子よく走り出す車。
20世紀の偉大な発明品だ。
馬なんかよりもはるかに早い。

農場に向かって車を走らせていると、向かい側から一台の車が土ぼこりを立てながら走ってくる。
ありがたい。
あれはディブのパトロールカーだ。
昼近くなったので、俺の店に来るつもりなんだ。

俺は窓から手と顔を出してディブの車を呼び止める。
ディブもすぐに気づいてくれたようで、車を止めてくれた。
「よう、オスカー。急いでいるようだがどこへ行くんだ」
「ディブ、いいところに来てくれた。大変なんだ。いっしょに来てくれ」
俺は窓から顔を出したディブに、いっしょに来てくれるように頼み込む。
妻を取り戻すのに、これ以上はない援軍だ。
あいつら、誘拐犯としてディブに突き出してやる。

「どうした? 何があったんだ?」
俺の切羽詰った表情に、ディブも気がついてくれたのか、彼の表情も真剣みを帯びる。
「あいつが、あいつが妻を連れ去ったんだ。妻があいつに連れて行かれた!」
「何? 奥さんがどうしたって?」
「農場のやつだ。あの男が昨晩俺の家に押し入って、妻を連れて行ったんだよ!」
「何だって? 本当か?」
保安官というものは何でも疑わないと気がすまないのか?
こんなときに嘘を言ってどうなるというんだ。
「嘘じゃない! 本当だ! 早くしないと妻が!」
「わかった。連れて行ったのは農場のやつで間違いないんだな?」
「間違いない。顔もしっかり見た。妹だかもいっしょにいた」
「よし、ついて来い」
ディブはパトロールカーをUターンさせると、そのまま俺の車の前を走って先導する。
ありがたい。
俺はすぐに車をディブのパトロールカーの後ろにつけて走らせた。

農場は寂れた感じで静かだった。
ディブと俺はパトロールカーと車を適当に止め、外に出る。
ディブはパトロールカーからライフルを取り出した。
俺も拳銃をズボンのベルトに刺し、ディブのあとについていく。
「まあ、まずは俺が話をして、奥さんがいるかどうか確かめる。君は落ち着いて何もするな。いいな」
ディブが俺にそういうのを、俺は素直にうなずく。
とにかく妻さえ無事なら、あとはディブに任せればいい。
誘拐だろうが住居侵入だろうが悪いようにはされないだろう。
ここのやつらも出て行くに違いない。

「エランドさん、トニー・エランドさん」
農場の一角にある住宅の入り口をたたくディブ。
「いないんですか? エランドさん」
何度かドアをノックするも返事がない。
ガレージには店に来るときに乗ってくるピックアップトラックがあるので、いるとは思うのだが・・・
「エランドさん! 保安官だ! 聞きたいことがあるんだ! いないのか?」
返答がないことにディブもだんだんといらだってきたようだ。
「くそっ」
そういってドアノブをまわすディブ。
「ん?」
すると、ドアは何の抵抗もなく開いた。
「開いている?」
思わずディブは俺のほうを向き、二人で顔を見合わせる。
「こうなったらとにかく入ってみよう。何かあったのかも知れん」
ディブはそういってドアをさらに開け、中に入る。
俺もそのあとに続き、家の中に入ることにした。

(続く)
  1. 2015/07/17(金) 21:22:38|
  2. 異形・魔物化系SS
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退魔少女の母親をかぼちゃ頭にするだけの簡単なお仕事

今日はハロウィンですね。
と言うわけでハロウィンにちなんだ(?) 超短編SSを一本投下しますー。
お楽しみいただけましたら幸いです。


退魔少女の母親をかぼちゃ頭にするだけの簡単なお仕事

「ターッ!」
少女が奇妙な杖を振り上げる。
やや「く」の字に折れ曲がった杖は少女の背丈ほどもあり、その一番上に付いている青く輝く玉から稲妻のようなものが発射される。
それは狙いたがわず少女が相対している虎のようなものに向かって伸びていき、その虎を轟音とともに燃え上がらせた。
「ウギャァァァァァ!」
少女との戦いで疲れ果てていた虎はもはやなすすべはなく、全身が燃え上がったことで止めを刺されたのか、断末魔の叫びを上げて倒れていく。
やがて虎は燃え尽き、あとにはわずかなカスのような物だけが残るだけだった。

「ふう・・・」
少女は一息つくと杖を振って変身を解く。
白を基調にしたミニスカート型コスチュームから、普通の服へと戻っていく。
バイザー付きヘルメットのようなものに覆われていた頭部も、ごく普通のあどけない少女の顔へと戻っていた。
少女は最後に持っていた杖を一振りして光の粒子に戻すと、何事もなかったかのように去っていく。
たった今までそこで死闘が繰り広げられていたなどとは、誰も夢にも思わないに違いない。

だが、その少女と虎のようなものとの戦いを見ていたものは確かにいた。
『妖虎がやられたようだな・・・』
『クククク・・・奴は我らの中では小者・・・などと言っていいものではないぞ』
『ああ・・・あの少女、ますます強くなっている・・・』
『どうする? 妖虎ですら歯が立たぬとなると、そうそう手出しはできなくなる。正面から向かっても返り討ちにされるのが落ちだ』
『ぬう・・・退魔少女、恐るべし・・・』
『むう・・・』
『ククククク・・・』
『貴様・・・何がおかしい?』
『ククククク・・・いや、なに、ちょっとしたアイディアを思いついたのだ。あの少女のことは俺に任せてくれないか?』
『ほう・・・自信がありそうだな』
『お前のその頭で何ができるというのだ?』
『まあ、待て。やらせてみようではないか』
『うむ、あの少女のことはお前に任せる。好きにするがいい、ジャック』
『ククククク・・・心得た』
そこで複数の者たちが行っていた会話は途切れ、一つの気配が消えていった。

                   ******

「ただいまぁ」
少女が玄関を開けて入ってくる。
「おかえりなさい」
奥の部屋から母親が顔を出す。
にこやかな笑顔が美しい女性だ。
「ただいま、お母さん」
少女は先ほどまでの死闘のことなどおくびにも出さず、まるで友達の家ででも遊んできたかのような表情だ。
「おかえりなさい、恵美(めぐみ)。帰ってきてくれてちょうどよかったわ。料理酒の買い置きを切らしてしまっていたのを忘れていたの。ちょっと買いに行ってくるからお留守番お願いね」
エプロン姿でいそいそと財布と買い物袋を手に取る母。
「ハーイ、いってらっしゃーい」
少女はちょっと苦笑すると、入れ替わりに玄関を出て行く母を見送る。
なんていうことはないありふれた日常の光景だ。
このありふれた光景こそ少女が守りたいと思うものだった。

「はぁ・・・全くいつもながらドジだわぁ・・・買い置きを切らしちゃっているなんて・・・」
ため息をつきながら近所のスーパーへと急ぐ。
せっかく今日は美味しい肉じゃがを作ろうと思っていたのに・・・
そのための準備はしっかりしていたはずなのだ。
牛肉、ジャガイモ、にんじん、タマネギ、鞘インゲン・・・
いっけない!
白滝を買うのを忘れていたわぁ!
はあ・・・
どうして私っていつもこうなのかしら・・・
ドジってばかりであの人も恵美も私に愛想を尽かしちゃう・・・
ドジを治すにはどうしたらいいのかしら・・・
そんなことを考えながら足早にスーパーに向かう少女の母。

「あら?」
ふと見ると、通りに沿った塀の上になにやら大きなオレンジ色の丸い物体がごろんと置いてある。
形から言ってどうやら巨大なかぼちゃのようだが、奇妙なことに、そのかぼちゃには大きな丸い目玉のような穴が二つに、ぎざぎざだが両端がつり上がって笑っているように見える口とがくり抜かれている。
なんとなく雪ダルマの頭の部分のようだと言えないこともない。
「ああ、そういえばもうすぐハロウィンだったわね。かぼちゃのランタンだわ。この家の方が作ったのかしら」
巨大なかぼちゃのランタンにほほえましさを感じる彼女。
最近流行ってきたと言っていい西洋の行事だが、そのおかげでこのかぼちゃのランタンもよく見かけるようになってきたものだ。
とはいえ、こんなふうに通りに沿った塀の上に一個だけごろんと置いてあると言うのも変かもしれない。
なんとなく気になった彼女は、そのままそのかぼちゃランタンのところへと近づいていく。

「変だわ・・・あのかぼちゃランタン・・・」
気が付くと、そのかぼちゃランタンは常に彼女のほうを見ているのだ。
遠くから歩いてきたときも、こうやって近くに寄ってきたときも、常にその丸い目は彼女のほうを向いている。
塀の上に置かれただけのかぼちゃランタンにそんなことができるだろうか?
まるで・・・
まるで自分をじっとみているかのようではないか。
そう思いながらも彼女は近づくのをやめない。
まるでそのかぼちゃランタンの目に吸い寄せられているかのようだ。
じょじょに近づいた彼女は、ついにかぼちゃランタンの前に立つ。
スーパーに急いでいたはずなのに、彼女の足はそこで止まる。
そして、正面からかぼちゃランタンと向き合うと、おもむろに手にとって持ち上げた。
「結構重いのね。見たところ普通のかぼちゃのよう。でも大きいわ。すっぽりと被れる感じね」
ずっしりとした重さがあるかぼちゃランタンは、下側に丸く穴が開けられ、そこから中身がくり抜かれている。
その穴がなんとなく頭に被れるような感じに見えたのだ。

「被れ・・・る・・・」
ふと彼女の目と手に持ったかぼちゃランタンの目が合う。
単にくり抜かれただけの丸い穴だが、なぜか彼女はその穴から目が離せなくなった。
やがて、彼女はゆっくりと手にしたかぼちゃランタンの向きを変える。
そして両手でささげ持つようにかぼちゃランタンを高く掲げると、ゆっくりと自分の頭に被っていった。
「は・・・はああ・・・」
かぼちゃランタンはまるであつらえたかのように彼女の頭にすっぽりと被さると、その口から彼女の声が漏れてくる。
「ああ・・・あああああ・・・」
両手をだらんとぶら下げて小刻みに躰を震わせる彼女。
「あああ・・・いやぁ・・・ゃぁ・・・」
がっくりとひざを着いてしまう彼女。
その彼女の躰が、じょじょに黒い雲のようなものに覆われていく。
その黒い雲は彼女の躰にまとわりつくと、まるで液状化したかのように張り付いて、彼女の躰にぴったりとした全身タイツのような衣装へと変貌する。
セーターにスカートを身に着け、その上からエプロンをしていた彼女の躰が、ボディラインも露わな黒い全身タイツのような衣装へと変ったのだ。
そして、雲の一部は彼女の背中に張り付き、長いマントへと変わっていく。
やがて彼女の首から下は、黒い全身タイツに背中からマントを羽織った姿に変化した。

ゆっくりと立ち上がる彼女。
頭部のかぼちゃランタンのくり抜かれた目の奥に赤い光が灯る。
先ほどまで丸かった目は、やや上部が欠けて、意地悪そうな笑みへと変る。
「うふ・・・うふふふふ・・・」
その口から笑い声が漏れてくる。
先ほどまでとはうって変わった冷酷な笑い声だ。
「うふふふふ・・・なんだかお腹が空いたわ。狩りに行かなくちゃ・・・」
彼女はマントの前を閉じると、全身から黒い雲を湧き立たせ、その中へと消えていく。
やがて黒雲が晴れると、通りには彼女の持っていた買い物袋だけが落ちていた。

                    ******

夕暮れの中、家路を急ぐ一人の女性。
会社帰りのOLなのか、タイトスカートのビジネススーツにショルダーバックを下げ、いつもどおりにやや空腹を抱えながら慣れた自宅への道を歩いていた。
『うふふふふ・・・』
どこからともなく女性の笑い声が聞こえてくる。
「えっ?」
OLはふと足を止めて周囲を見るが、人気のないさびしい道には誰もいない。
立ち並ぶ家々からの声でもなさそうだ。
気のせいかと思って再び歩き始めたOLの前に、突然黒雲が湧き起こる。
「えっ?」
「うふふふふ・・・見つけたわ。美味しそうな生きのいい魂を・・・」
OLの目の前で黒雲が晴れていくと、そこにはマントを羽織って黒い全身タイツに身を包み、頭には笑みを浮かべたようにくり抜かれた巨大なかぼちゃを載せた女性が立っていた。
「ひっ?」
突然現れた不気味な人影にOLは思わず声を上げる。
「うふふふふ・・・お前の魂をお寄こし!」
かぼちゃ頭の女性は両手に死神の持つような長い柄のカマを出現させると、それをOLめがけて振り下ろす。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
OLの悲鳴が上がり、カマはOLの躰を一閃する。
すると、OLの躰は見た目には全く何の傷もつかなかったように見えたが、淡いオレンジ色の光の玉のようなものがOLの胸から現れ、ふわふわとOLを離れてかぼちゃ頭の女性の手に渡る。
「うふふふふ・・・美味しそうな魂。いただきます」
かぼちゃ頭の女性はその淡いオレンジ色の光の玉を、くり抜かれた口のところから吸い込むと、満足そうに手の甲で口をぬぐった。
「うふふふふ・・・美味しい。やはり生きのいい魂は格別の味だわ」
かぼちゃ頭の女性がそういうと、OLの躰がどさりと倒れた。
「ご馳走様。美味しかったわよ。うふふふふ・・・」
かぼちゃ頭の女性は、その内部で赤く燃える目で倒れたOLを見下ろすと、現れたときと同様に黒雲を湧き起こしてその中に消えていく。
あとにはカッと目を見開いたOLの死体だけが残されていた。

『ククククク・・・』
その様子を見ていたものがいる。
先ほど姿を現したかぼちゃ頭の女性と同じように、頭にかぼちゃのランタンを載せ、どこかみすぼらしい姿をした男だ。
彼のことを人々は「ジャック・オー・ランタン」と呼ぶ。
『ククククク・・・これでいい。これであの女は人間の魂を口にした。もはや身も心も魔物と化し、わがしもべとなっただろう』
くり抜かれた口に笑みが浮かんでいる。
『ククククク・・・さあ、退魔少女よ、今度は自らの母親が相手だ。うまく戦えるかな? ククククク・・・』
ジャックは今頃何食わぬ顔で自宅に戻ったであろう退魔少女の母親のことを思い浮かべる。
そしてこれから苦悩することになるであろう退魔少女を、新しいしもべとともにどうやっていたぶるかを想像し、楽しみに思うのだった。

END
  1. 2014/10/31(金) 21:02:12|
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Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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