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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

恐怖! 怪人イバラ女

今日は超短編SSを一本投下します。
タイトルは「恐怖! 怪人イバラ女」です。

先日、ツイッターでフォローしておりますI.M.K様が、とても魅力的なツイートを投下されておりまして、今回I.M.K様のご承諾の下、SS化させていただきました。
そのもととなりましたツイートがこちら。



この一連のツイートを拝見し、思わずSS化してしまいました。
元ツイート同様お楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


恐怖! 怪人イバラ女

「うーん・・・気持ちいい!」
伸びをして胸いっぱいに新鮮な空気を吸う。
植物の香りに満ちたこの清浄な空気を吸うのがとても心地よい。

平日午前中のほとんど人気のない植物園。
ここで散歩をして思索に耽ったりするのが彼女、池早結衣(いけはや ゆい)の楽しみというか日常の一コマだった。

小説やコラムなどの文章を書いて収入を得ている彼女に取り、気分良く脳を働かせることは非常に大事なことであり、この植物園で散歩することで構想をまとめるのは彼女にとっては重要なことなのだ。
幸い、それほど注目される植物があるわけでもないこの植物園は、平日の午前中であればほとんど人はいない。
もちろん休日にはそこそこ人はやってくるので、そういう日には行かなければいいのだ。
静かな環境の中で植物の香りを楽しみながら思いをまとめていく。
この時間が彼女は非常に好きだった。

「あら?」
ふと彼女の足が止まる。
「確か・・・ここの咲いている花は昨日は白かったような・・・」
くいっと眼鏡を直して咲いている花を見つめなおす彼女。
そこには棘のついた蔓を這わせ、紫色の花を咲かせている植物が茂っていた。
なんとなくその花が、昨日は白かったような気がしたのだ。
とはいえ、彼女はいつもここに来ているものの、植物をじっくりと観察していたわけではない。
静けさや植物の香りといったものが良くてここで散歩をしていたまでで、花の色が白か赤かなどということはそれほど興味がなかったため、この花が白かったというのが勘違いということも充分にあり得る。

「テリハノイバラ・・・バラ科バラ属の蔓性低木。白い花を咲かせる・・・って、やっぱり花は白いんだ」
彼女は脇にある解説文を読み、花が白で間違いないことを確認する。
で、あれば、なぜ今ここで咲いている花は紫色なのか?
「光の加減?」
もう少しよく見ようと彼女が一歩近づいた時、その植物から突然蔓が伸びてくる。
そして彼女の首や胴体、足などに絡みついてきたのだ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
彼女は悲鳴を上げるが、周囲には誰もいない。
管理棟も離れた位置にあるので、聞こえる者はいないだろう。
近くには監視カメラも見当たらず、彼女に蔓が巻き付いたことは誰にも知られずじまいだった。

「た、助けて! 誰か!」
必死で絡みついてきた蔓を外そうともがく彼女。
だが、蔓は所々で切れると、まるで輪のようになって彼女の首、両手首、胴、太ももをがっちりと固定してしまう。
最悪なことに両手を振り上げた状態で手首を固定されてしまったため、両手が頭の後ろで拘束されたような感じになってしまい、身動きが取れない。
「な、何なの? これ? だ、誰かぁ!」
必死にもがけばもがくほどリング状になった蔓はぎりぎりとその拘束を強めていく。
首も胴も太ももも、がっちりと締め付けられ、彼女はただ突っ立っているだけしかできなくなってしまった。

「ひっ!」
やがてリング状になった蔓からは棘が生え、彼女の肌に突き刺さってくる。
「い、痛い! 痛いぃぃぃ!」
手首や胴、太ももに食い込んでくる蔓の棘。
それ以上に首に刺さってくる棘が彼女に激痛をもたらしてくる。
「ひぃぃぃぃぃっ!」
激しい痛みに苦しむ彼女。
だが、蔓に生えた棘から何かが注入されてくるのを感じると、痛みがじょじょに治まり始めたことに彼女は気が付いた。
そして、むしろ痛みはじんわりとした気持ち良さに取って代わり始め、だんだんと拘束されていることに快感を覚えていくようになってくる。

「はぁぁぁん・・・なんでぇ?」
口から甘い吐息を漏らし始める彼女。
拘束された躰がくねくねと悩ましく動き始めていく。
気持ちいい・・・
もっと・・・
もっとしてぇ・・・
もっと流し込んでぇ・・・
知らず知らず彼女は自ら棘から流し込まれるものを求めるようになっていく。
やがて彼女の髪には変化が現れ、つややかな黒い色だった髪が、だんだんと濃緑色へと変わっていく。
それは蔓を伸ばしてきたテリハノイバラの葉と同じ色であり、同様につややかな濃緑色を帯びていた。

「はぁぁぁぁぁん!」
彼女がひときわ大きく喘ぐと、彼女の全身はまばゆい光に包まれる。
それは神々しくも禍々しくも見える光であり、彼女の姿はその光に覆われて見えなくなってしまった。

やがて光がじょじょに収まると、一つの人影が現れる。
その顔は先ほどまでの彼女と似た顔をしていたが、躰は大きく違っていた。
その躰はボディラインをあらわにした裸の女性のようであったが、全身はつややかな濃緑色に染まり、所々にうっすらと葉脈のようなものが浮き出ていた。
形の良い両胸には乳首の代わりに紫色の花が咲き、雄蕊や雌蕊が覗いている。
両手の甲や頭にも紫色の花が咲き、ふくよかな香りを漂わせている。
両胸や両腕には背中から伸びた蔓が巻き付いており、鋭い棘が付いていた。
唯一肌色を保ったその顔には、右頬に花の文様が現れ、口には笑みが浮かんでいる。
眼鏡の奥の知的な瞳は緑色に染まり、彼女がもはや人間ではないことを示していた。

「ウフフフフ・・・」
彼女の口から笑いが漏れる。
「ウフフフフ・・・なんて気持ちがいいのかしら。植物と一つになるのがこんなに気持ちがいいことだったなんて・・・ウフフフフ・・・」
彼女は笑みを浮かべながら足元を見る。
そこには先ほどまで咲いていたテリハノイバラの枯れた姿があった。
「そう・・・私と一つになったことであなたの役目は終わったのね。でも安心して。これからは私が種子を広げてあげる。そのためには・・・ウフフフフ・・・」
怪しく笑みを浮かべる彼女。
すでにその意識は以前の彼女のものではなかったのだった。

                   ******

「ママー! お花ー!」
「ああ、美香(みか)ちゃん、走ったら危ないわよ」
咲き誇るきれいな花に興奮したのか、思わず駆け出してしまう少女を追いかける母。
散歩がてら以前から気になっていたこの植物園を訪れた母と娘だ。
「それにしてもきれいねぇ。いろいろな花がいっぱい」
「うん。きれいー」
花壇のそばで色とりどりの花に見惚れる二人。
その様子を樹々の陰から見つめる緑色の目があった。

「ウフフフフ・・・まずはあの二人を・・・ああん、楽しみだわぁ」
自らの躰をかき抱くようにして身もだえする全身濃緑色の女。
植物怪人に変化してしまった池早結衣の姿だった。

「ママ、向こうにもお花が」
「あ、美香、待ちなさい」
母の言葉も聞かずに行ってしまう少女を、やれやれという感じで苦笑しながら後を追おうとする母。
だが、その時、シュルシュルと伸びてきた蔓が母親の躰と腕、そして口をふさぐように絡みつく。
「うっ? む・・・むむーっ!」
慌てて悲鳴を上げようとした母だったが、口を抑えるように巻き付いた蔓のせいで悲鳴を上げることができない。
何とか逃れようともがく母を、じょじょに蔓が引き寄せていく。
「む、むー! むー! むむー!」
必死に手を伸ばして助けを乞う母だったが、やがてその姿は植物園の樹々の間に引きずり込まれて行ってしまう。

「あれ? ママー? ママー?」
てっきり自分を追いかけてきてくれていると思ったはずの母親の姿が見えなくなり、少女はとたんに不安になる。
「ママー? ママー?」
花壇のほうから樹々のほうへと戻って母親を探してみるが、どこに行ってしまったのか母親の姿はない。
「ママー?」
「・・・・・・こっちよ・・・」
心細くなった少女の耳に、ふと母の声が聞こえる。
「ママー!」
喜んで樹々の茂る小道に入っていく少女。
だが、すぐに彼女の細い腕は脇から伸びてきた蔓に絡めとられてしまう。
「えっ? きゃあっ!」
絡みついた蔓はすぐに少女の躰にも巻き付いて、彼女を拘束してしまう。
「いやぁっ! 助けてぇっ! ママーッ!」
「あらあら、おとなしくしなさい、美香。あなたもママと一緒にしもべになりましょうね」
そういって姿を見せた母親は、緑色の目をして首と頭に棘のついた蔓のリングをはめ、両腕にも棘のついた蔓を這わせていて、胸にはそれぞれ紫色の花が咲いていた。
顔色も薄い緑色に染まり、右の頬には花の文様が浮かび上がっている。
彼女は娘が蔓に絡まれているというのに助けようともせず、ただ笑みを浮かべて眺めていた。

「マ・・・ママ?」
先ほどまでとは違った姿の母親に少女はパニックに陥ってしまう。
「いやぁぁぁぁぁぁ! ママー! ママー!」
「ウフフフフ・・・心配はいらないわ。あなたもすぐに私のしもべにしてあげる。この女のようにね」
悲鳴を上げる少女のそばに植物の怪人が現れる。
「ひぃーー! お、お化けーー!」
「まあ、失礼ね。私はテリハノイバラと人間の女性が融合したより高度な生物なのよ。そうね、イバラ女様とでもお呼びなさい」
全身を濃緑色に染めたイバラ女が誇らしげに胸を張る。
両胸の先端で咲き誇る紫色の花がフルフルと雄蕊や雌蕊を揺らしていた。

「いやぁっ! いやぁっ!」
必死に首を振っていやいやをする少女。
だがイバラ女は背中から棘のついた蔓を伸ばすと、少女の頭に巻き付ける。
「ひっ!」
一瞬、棘の刺さる痛みに小さな悲鳴を上げるが、すぐに少女の目はうつろになり、だんだんと緑色に染まっていく。
首や腕にも蔓が巻き付いて融合し、肌も薄い緑色に染まっていく。
まだ未発達の胸の先端にはいずれ咲くであろう花のつぼみが付き、その代わり両手の甲には紫色の花が咲く。
最後に右頬に花の文様が浮かび上がると、少女の変化は完成した。

「ウフフフフ・・・気分はどうかしら? 私のしもべになった気分は?」
「・・・・・・はい、最高です、イバラ女様。私はイバラ女様のしもべです。何なりとご命令を・・・」
うつろな表情でイバラ女に応える少女。
その横には母親もそろい、少女とともにイバラ女に一礼する。
「ウフフフフ・・・思った通りだわ、私の蔓を巻き付けて棘を刺せば、私の思い通りにすることができる。ウフフフフ・・・この調子でもっとしもべを・・・アハハハハ」
イバラ女の笑い声が静かな植物園に響いていく。
母と娘のほかに数人の女性がこの植物園で行方不明になったというニュースが流れたのは、その日の夕方だった。

END

いかがでしたでしょうか?
今日はこんなところで。
それではまた。
  1. 2018/08/26(日) 17:48:47|
  2. 異形・魔物化系SS
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ゴム女のフェラ

昨日予告しました通り、今日から三日間連続で短編SSを三本投下いたします。
今日はその一本目。
タイトルは「ゴム女のフェラ」です。
いつもの私の作品とはちょっと違う、ある意味「変な」作品になってしまいましたが、よろしければご覧くださいませ。

それではどうぞ。


ゴム女のフェラ

「浩一(こういち)が?」
俺は思わず聞き返す。
確かに昨日今日とあいつ学校に来ていないから気にはなっていたし、風邪かなんかだとは思うけど、しばらく学校に来られないようなら様子をうかがおうとも思っていたんだが・・・
でも、無気力状態だって?

「ああ、LINEにも既読がつかないしスマホに電話しても出ないからさ、さっき自宅の方に電話してみたんだけど、そしたら母親が出てさ、浩一のやつ呼びかけても返事すらしないっていうんだ」
確かに健司(けんじ)の言う通り俺が送ったLINEにも既読がつかない。
でも無気力状態で返事もしないって何なんだ?
「原因は? 病気か?」
「それが、よくわからないらしい。ただ、多少衰弱しているのはあるとかないとか」
「なんだそりゃ?」
俺は首をかしげる。
とにかくそれなら一度見舞いにでも行って様子を見た方がいいだろうか・・・

結局俺は健司と二人で帰りに浩一の家に行ってみることにする。
まあ、無気力状態といったところで、俺たちが行ったら話ぐらいはできるだろうと思ったのだ。
だが、結果はそうではなかった・・・

浩一は青ざめてやつれた姿でベッドに座ったまま、薄ら笑いを浮かべているだけだった。
俺や健司、そして浩一の母が何を言っても返事すらしない。
ただ薄く笑いを浮かべて・・・その・・・股間をさすっているだけだったのだ。
もちろんあれをむき出しにしてしごいたりするわけじゃない。
ただ、パジャマのズボンの上からさすっているだけだ。
だが、薄笑いで股間をさすっているというのは、どう見ても尋常ではなかった。
浩一の母親も俺たちが会うことで浩一の変化を期待したようだったが、残念ながらそうはならなかった・・・

俺たちは浩一の家からの帰り道無言で歩くだけだった。
だが、バス停で自宅方向へ向かうバスを待つ間、健司がふとつぶやいた。
「なあ・・・浩一のやつ、もしかしてゴム女にフェラされたんじゃないのかな・・・」
「は?」
俺は思わず変な声を上げてしまう。
なんだ?
何を言い出すんだ、健司のやつ?
「ゴム女にフェラ?」
「うん。なんとなくそんな気がして・・・」
「なんだそりゃ?」
ゴム女?
フェラ?
フェラって・・・あれだろ?
チンポをしゃぶってもらうやつだろ?
浩一が女にチンポしゃぶってもらったっていうのか?

健司がスマホを操作して俺に見せる。
何やらオカルトのサイトらしい。
都市伝説の一つとしてゴム女のことが紹介されていた。
それは、全身をゴムの衣装で覆った女だそうで、頭までゴムマスクに覆われているそうだ。
いわゆる巨乳で腰はくびれお尻も大きくて魅力的らしい。
口の部分だけはゴムに覆われていないそうで、そこからは真っ赤な口紅を塗った唇が露出しているんだそう。
そのなまめかしいボディラインを見せつけ、男が思わず勃起をすると、そのゴム女はアイ・ワント・ザーメンとたどたどしい英語とも日本語ともつかない言葉をしゃべり、フェラチオをしてくれるという。
それはとても気持ちよく、男はすぐに射精してしまいたくなるらしいが、そこで射精をしてしまうと、ゴム女の虜となり、ゴム女にフェラしてもらうことしか考えられなくなってしまう。
そしてゴム女に三度フェラチオをされると、男は姿を消してしまうというのだ。
食われるのか連れていかれるのかは定かではないという。

「なんだこりゃ? どう見たって作り話だろう?」
結局俺はバスを降りるまでずっとそのゴム女のことが載ったサイトを読み続けていた。
「俺もそうは思うけどさ。何だか浩一の様子を見ていたら・・・さ・・・」
確かに記述的にはなんとなく一致するような気がしないでもない・・・
でも、だからと言って、そんなバカな・・・
「きっとオナニーのやりすぎなんだよ、あいつ。結構エロ画像をあさっていたらしいしさ」
「まあ、そうなんだとは思うけど・・・」
俺の言葉に健司も一応はうなずく。
だが、そのあとは二人ともまた無言だった。

                   ******

「浩一がいなくなった?」
俺は青ざめた。
それって・・・マジで・・・
「ああ、俺、結局気になって今朝浩一の家に電話してさ、今日は学校に来れそうか聞こうとしたんだよ。そしたらおばさんが浩一がいなくなったって・・・」
健司はきっと浩一がいなくなっていないか確かめたかったんだろう。
あいつが学校に来なくなって三日目だし。
「どこかそのあたりをうろついているとかじゃ? 夢遊病みたいにさ」
「おじさんもおばさんも探しているらしいし、警察にも言うって言ってた。でも・・・」
「でもなんだよ! まさかお前、浩一がゴム女に連れていかれたって思っているのか?」
俺は少し語気が荒くなっていたと思う。
健司はそんな俺から顔をそらし、ごめんと謝った。
「いや、こっちこそごめん。すまん」
俺も頭を下げる。
チクショウ!
なんだってこんなことに・・・

結局その日に浩一が見つかることはなかった。
そして、次の日も、その次の日もまた見つかることはなく・・・
俺たちは浩一のいない一週間を終えようとしていた。

                   ******

ん?
寝ていた俺は何かの気配を感じてふと目が覚めた。
なんだ?
俺は闇の中に目を凝らす。
すると、窓から入る薄明りの中、部屋に誰かが立っているのがわかる。
「えっ?」
俺は思わず声を出してしまう。
だが、不思議と恐怖や驚きは感じない。
なんだろう。
どこか心の片隅で、来ることを感じていたからなのだろうか?

それは女の姿をしていた。
全身を真っ黒いゴムに覆われた女。
薄明りの中にシルエットが浮き出ている。
生唾を飲み込みたくなるほどの美しさ。
真っ黒なゴムに包まれ、見事なボディラインが浮き出ている。
大きなおっぱいはまるでメロンのようだ。
腰はコルセットのようなもので絞られ、キュッと括れて豊かな尻へとラインを作っている。
脚はすらっとしてて、よく見るとブーツのようなものを履いている感じだ。
見せつけるように胸を持ち上げている両手もゴムの手袋に包まれている。
頭部も髪の毛は全く見えず、目も耳もゴムマスクでおおわれている。
唯一真っ赤な唇だけが闇の中でなまめかしく覗いていた。

ゴム女。
彼女こそがあのサイトに載っていたゴム女なんだ。
俺ははっきりと理解した。
ゴム女が俺のところにやってきたのだ。

『アイ・ワント・ザーメン』
真っ赤な唇が蠢き、英語とも和製英語ともつかないような言葉を話す。
私はザーメンが欲しい・・・と言っているんだろう。
俺はごくりと唾をのむ。
言われるまでもない。
彼女の姿を見た時から、俺のチンポは痛いほどに勃起しているのだ。
彼女のなまめかしい姿を見て、勃起しない男などいるものか。

『アイ・ワント・ザーメン』
彼女は俺の前にかがみこみ、俺の股間を優しくまさぐってくる。
唇以外すっぽりと覆われていると思っていた彼女の頭は、後頭部から髪の毛がポニーテールのように外に出されているのがわかる。
そのつややかさが、全身を覆うゴムとはまた違う質感で美しい。

『アイ・ワント・ザーメン』
彼女は俺のパジャマのズボンの前を開け、俺のチンポを取り出していく。
すでにパンツの中で先走りを出していた俺のチンポは、彼女のゴムに包まれた手に触れられて、今にも発射しそうにいきり立っていた。

『アイ・ワント・ザーメン』
あむっと彼女の真っ赤な唇が俺のチンポをくわえ込む。
温かいヌルッとした感触が俺のチンポを包み込み、俺の全身にぞくぞくする快感を与えてくる。
「うわぁ・・・」
たまらない。
俺は情けなくもすぐに射精してしまう。
『ん・・・んむ・・・』
口の中に出された精液をおいしそうに飲み込んでいくゴム女。
ぺろりと舌なめずりをして笑みを浮かべる。
『おいしい・・・』

『アイ・ワント・ザーメン』
まだ飲み足りないとでもいうかのように、再びそう口にするゴム女。
その言葉に一度射精したはずの俺のチンポは、またむくむくとたぎってくる。
すぐにゴム女は嬉しそうに俺のチンポを頬張り、今度はねっとりと舌を絡めて俺のチンポをしゃぶっていく。
なんだ・・・
なんなんだこの快感は・・・
たまらない・・・
こんな気持ちよさがこの世にあったなんて・・・
いや、俺はもうこの世じゃないところに来てしまっているのか?
ああ・・・
たまらない・・・

                   ******

気が付くと朝になっていた。
ゴム女はいつの間にか消え、俺は下半身をむき出しにしたままベッドの上に横たわっていた。
ああ・・・
あれから何度射精をしたのだろう・・・
気持ちよかった・・・
あんな気持ちよかったことは他にはない。
もう一度・・・
もう一度でいいからゴム女にフェラチオをしてもらいたい・・・
もう一度・・・

何もする気になんかなれない。
とりあえず上掛けだけは掛けたが、それ以上のことなどする気になれない。
思う浮かぶのはあのフェラチオのことだけ。
真っ黒のゴム女が真っ赤な唇で俺のチンポをしゃぶってくれたことだけ。
それ以外のことなどどうでもいい。
全くどうでもいい。
もう一度・・・
もう一度ゴム女に会いたい・・・
ゴム女にフェラチオをしてほしい・・・

母さんが来て何か言っていた。
俺の額に手を当てて何か言っていた。
父さんも来て何か言っていた。
どうでもいい。
俺が来てほしいのはゴム女だ。
それ以外のことなどどうでもいい。
俺は股間をそっと探る。
もう一度しゃぶってほしい。
もう一度フェラチオしてほしい。
もう一度あのねっとりとした感触を味わいたい・・・

腹が減った気もするけどどうでもいい。
夕方になったのか、夕日が差し込む中で健司が来たような気もするがどうだったろう。
何だか俺の様子を見て青ざめてあたふたと帰っていったような気もする。
どうでもいい・・・

夜が来る。
待ち望んでいた時間。
俺は寝ずに待っている。
そして彼女が現れる。
全身をゴムに包んだ彼女。
真っ赤な唇に笑みを浮かべた彼女。
美しいボディラインを惜しげもなく見せつけてくる彼女。

『アイ・ワント・ザーメン』
なまめかしい唇が動き、そう言葉を紡いでくる。
それを聞いただけで俺のチンポはもうはち切れんばかりだ。
ザーメンを出したくて仕方がない。
俺のザーメンをたっぷりと味わってほしい。
俺のチンポをたっぷりとしゃぶってください。
ああ・・・

ちゅぶっちゅぶっという音がする。
気持ちいい。
たまらなく気持ちがいい。
何度でも出してしまう。
もうすべて出し尽くした感じがするのに、まだ出したい。
彼女が求めるなら俺のすべてを出し切ってもいい・・・

『エイスケの味は好き。アイ・ワント・ザーメン』
マスクで顔が覆われているのに、まるで彼女がほほ笑んでいるかのように感じる。
どうして彼女は俺の名前が栄介(えいすけ)だと知っているのだろう・・・
一瞬そんな疑問も湧くが、そんなことはどうでもいい。
もっと・・・
もっと俺を味わってくれ・・・

                   ******

誰かが何か言っている・・・
ああ・・・
朝なのか・・・
あれは母さんか・・・
ゴム女じゃないんだ・・・
だったらどうでもいい・・・
今の俺に必要なのはゴム女だけだ・・・
彼女にフェラチオしてもらうことだけが俺にとっては必要なことなのだ・・・
ははは・・・
俺のチンポよもっと頑張れ・・・
もっともっとザーメンを出してくれ・・・
そうじゃないと・・・
そうじゃないとゴム女が来てくれなくなるじゃないか・・・
だから・・・
だからもっとザーメンを・・・

夜が待ち遠しい・・・
まだ夜にならないのか?
何もかもがどうでもいい・・・
ただゴム女だけいてくれればいい・・・

もうすぐ夜が来る・・・
夜になれば彼女が来てくれる・・・
チンポはさっぱり大きくならなくなっちゃったけど、彼女がしゃぶってくれればきっと元気になってくれるはず・・・
チンポをしゃぶってくれさえすれば・・・
ゴム女にチンポを・・・

いつの間にか眠っていたらしい
目を覚ました俺の目の前に立っていたのは、全身真っ黒のゴム女だった。
なまめかしい躰のラインを見せつけ、赤い唇に笑みを浮かべている。

『エイスケ、アイ・ワント・ザーメン』
それは俺にとってはアイ・ラブ・ユーと同じ意味。
俺はすぐに躰を起こし、股間のまだ小さなままのチンポを出す。
ゴム女は俺のチンポがまだ小さいままなのが分かったのか、笑みがスッと消えたものの、それでも俺の股間に顔を寄せてくる。

『アイ・ワント・ザーメン』
俺のチンポに吹きかかる吐息。
それだけでもう射精してしまいたいぐらいなのに、俺のチンポは大きくならない。
なんでだよ・・・
大きくなれよ・・・
ザーメン出してくれよ・・・
俺がそう思いながら必死になっているにもかかわらず、相変わらずにチンポは小さいまま。
その小さなチンポに、ゴム女はそっとキスをして、ちゅるっと口にくわえ込む。
その瞬間、俺の意識はどこかへ飛んだ・・・

                   ******

う・・・
あれ・・・
俺は・・・
俺はいったい?

目が覚めた俺は周囲をうかがう。
どうやらまだ夜中なのか真っ暗闇だ。
いや、夜中だって俺の部屋はこんなに暗くはならないはず。
なんというか墨汁の中にいるみたいに真っ黒というか暗闇の中なのだ。
いったいここはどこなんだろう・・・
俺の部屋ではないみたいだけど・・・

だが、何だか気分がいい。
先日までのような搾りつくされたような疲労感は消え失せている。
でも、その代わり何だか躰が圧迫されるような感じがする。
身をよじるたびにぎちぎちと音がする。
それに胸もなんだか重たい気が・・・

(アイ・ワント・ザーメン)
ドクン
心臓が跳ね上がる。
ゴム女の声。
それが頭の中に響いてくるのだ。
(アイ・ワント・ザーメン)
ゴクリと俺は唾をのむ。
嘘だろ・・・
俺はザーメンなんか・・・
でも・・・
でも・・・
何だかのどが渇く・・・

俺は水でも飲もうと起き上がる。
きっとフェラチオしてもらってザーメン出しちゃったからのどが渇いているんだ。
だからあんな言葉が・・・
ぎちぎちぎゅむっ
俺が躰を動かすとゴムがよじれる音がする。
えっ?
どういうこと?
俺は自分の躰を見ようとして、目が見えていないことに気が付いた。
えっ?
俺?
俺目が見えてない?
でも感じている。
周囲が闇の中だということを感じているんだ。
見えなくても感じているんだ。
それににおい。
ゴムの心地いいにおいを感じる。
俺はぺろりと唇を舐める。
自分の唇が真っ赤なことも、そこからピンクの舌が覗くのも感じられる。
なんなんだこれ?
俺はいったいどうなったんだ?

(アイ・ワント・ザーメン)
『アイ・ワント・ザーメン』
ああ・・・
そうか・・・
俺は水なんかが飲みたいんじゃない・・・
ザーメンが欲しいんだ・・・

(アイ・ワント・ザーメン)
『アイ・ワント・ザーメン』
俺の真っ赤な唇が蠢いてそう呟いている。
(アイ・ワント・ザーメン)
『アイ・ワント・ザーメン』
『アイ・ワント・ザーメン』
うふふふふ・・・
ザーメンが欲しい・・・
ザーメンが欲しい・・・
元気のいい男のおちんちんをしゃぶっておいしいザーメンをたっぷりと味わいたい・・・

私は両手で自分の豊かな胸を持ち上げる。
ゴムに包まれた大きな胸がたゆんたゆんと揺れている。
素敵・・・
ゴムに包まれた手とゴムに包まれた胸がこすれあい、ぎちぎちという音を立てる。
ああ・・・
なんて心地いい音。
ゴムは最高。
あとはザーメンを・・・

『アイ・ワント・ザーメン』
私は舌なめずりをする。
挑発するように腰をくねらせ、胸を揺らして男の勃起を促していく。
この姿を見れば、たいていの男はおちんちんを大きくさせておいしいザーメンを出すだろう。
『アイ・ワント・ザーメン』
私においしいザーメンを飲ませてちょうだい・・・
さて、誰のザーメンがいいかしら・・・

ああそうか・・・
私はハッと気が付いた。
ゴム女が私の以前の名前を知っていて、あの部屋を知っていたのは当然だ。
だって・・・
だってあのゴム女はコーイチだったんだもの。
彼も私と同じようにゴム女になったんだわ。
そしておいしいザーメンを出してくれる男として私のところに来てくれたんだ。
うふふふふ・・・

それじゃ私はケンジのところに行こう。
彼ならきっとおいしいザーメンを出してくれるはず。
少なくとも家にいた年老いた男よりはずっとおいしいはず。
私はケンジのザーメンを搾り取ることを思い浮かべて笑みを漏らす。
カツコツとヒールの音を鳴らして、私はケンジの部屋に行くために闇の中へと向かう。
待っててねケンジ。
あなたのおいしいザーメンをいただくわ。
『アイ・ワント・ザーメン』
私はそう呟くと、闇の中へと姿を消した。

エンド

いかがでしたでしょうか?

明日はオーソドックスとも言える怪人改造ものを投下しようと思います。
どうぞお楽しみに。
  1. 2018/07/17(火) 21:00:00|
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河童に奪われた母

お正月以降創作意欲が下がったのと、いろいろと精神的に創作向きの状況にならなかったためにしばらく間が空いてしまいましたが、今日はSSを一本投下いたします。

タイトルは「河童に奪われた母」です。
タイトルを一見してわかるように寝取られSSですので、そういうのがお好きでない方はご注意ください。

それではどうぞ。


河童に奪われた母

お婆ちゃんの家に来てからママの様子が何だか変な気がする。
なんだかときどきぼうっとしたような表情をしているし、ボクの言うことにも上の空で聞いていたりするし、時々ボクのことが誰だったか思い出そうとしているような気さえする。
いったいどうしちゃったんだろう・・・

今ボクはママと一緒にお婆ちゃんの家に来ている。
夏休みだし、お盆はパパの方のお爺ちゃんの家に行くことになっているから、ちょっと早いけどママの方のお婆ちゃんの家に来たのだ。
考えてみたら当たり前のことなんだけど、パパとママにもパパとママに当たる人がいて、ボクにはお爺ちゃんとお婆ちゃんが二人ずつもいるのだ。
そのうちママのパパはボクが生まれる前に死んでしまったそうで、ママの子供のころの家には今はお婆ちゃんが一人で住んでいるらしい。
裏には畑があって、伯父さんも時々顔を出すそうだからお婆ちゃん一人で生活するのは問題ないそうだけど、パパの方のお婆ちゃんと比べると、確かに元気そう。

ここの近くには山や林があって、林の中には沼もあるんだけど、その沼には近づいちゃダメなんだって。
なんでもその沼には昔から河童が住んでいて、子供や女の人に悪さをするらしく、この付近の人は近づかないようにしているんだとか。
ママは、きっと子供が沼に遊びに行って溺れたりしないようにするためなんでしょうねと言って笑っていたから、たぶん河童なんていないんだろう。
実際こっそり行ってみたけど、とてもきれいな場所で、ちょうどお日様が水面に当たってキラキラしてた。
思わず泳ぎたくなっちゃったけど、ちょうど探しに来たママに見つかって怒られちゃったんだよね。
やっぱり今でも近づいちゃダメみたい。
確かに柵とかないし、すぐに深くなっていそうだったから危ないのかもしれないけど・・・

そういえばあの時ママはちょっとキョロキョロしていたっけ。
なんか誰かに見られているような気がするって言ってた。
河童かもねって言ったら、まさかって笑っていたけど・・・

「お盆には敬一(けいいち)も帰ってくるそうだよ」
「兄さんが? 残念。会いたかったな」
ママとお婆ちゃんが話をしている。
あれ?
ママの首筋、赤くなってる・・・
髪もなんだかしっとりしている感じだし・・・
どうしたんだろ?
朝シャワーでも浴びたのかな?

「あんたはあちらの実家にも行くんでしょ?」
「うん。正樹(まさき)さんのお休みがお盆しか取れないし。やはり顔を出さないと」
「そうだねぇ。あちらさんに顔を出すのも大事だからね」
「兄さんには母さんからよろしく言っておいて」
「そうするよ」
ママはお婆ちゃんのことお母さんって呼ぶんだな。
なんだかちょっと変な気持ちだ。

「それじゃお婆ちゃんはちょっと畑に行ってくるね。健(たける)ちゃん、このあたりは何にもないからつまらないでしょ?」
「大丈夫だよ。ゲームボーイとかも持ってきてるし」
「そうかい。最近はどこでもゲームができるね。それじゃ行ってくるね」
お婆ちゃんが身支度して出かけていく。
裏の畑に行くようだ。
ボクも来た時に見せてもらったけど、キュウリやトマトやナスなんかが作られている。
キュウリがあんなふうになっているなんて面白いよね。
ママはあんまり野菜が好きじゃないから見ようとしなかったけど、どうしようかな、また見せてもらおうかな?

                   ******

結局ボクはお婆ちゃんに付いて畑に行ってきた。
そしてキュウリやトマトの収穫のお手伝いというか、もぐのを少し手伝ってきた。
お婆ちゃんは上手だねって褒めてくれたけど、正直お世辞なんだと思う。
でも、自分でもいだトマトやキュウリはとても美味しそうで、戻って食べるのが楽しみだ。
ママはなんだか寝不足だったみたいで、少し横になると言っていた。
風邪とかじゃないみたいで大丈夫そうだけど、そんなに夜更かししていたのかな?
なんだかこっちに来てから変だよね。

「ただいまぁ」
ボクはいつもとは違うお婆ちゃんの家の玄関を入り、台所に行って手を洗う。
取ってきたトマトやキュウリも洗わなきゃ。
「お帰りなさい」
ママも起きてきたのか台所に入ってきた。
「ただいま。見て、こんなに取ってきたんだよ」
ボクは籠に入ったトマトやキュウリをママに見せる。
「あら、美味しそうね。一本ちょうだい」
「えっ?」
ボクが驚いていると、ママはまだ洗ってもいないキュウリを一本つかみ取り、そのままポリポリと食べ始める。
「えっ? ママキュウリは嫌いなんじゃ?」
確かボクには、健はパパに似たからキュウリ食べられていいわよねって言ってたよね。
ママはどうもこのキュウリの青臭いにおいが苦手だって・・・
「ん・・・そうだったかしら? 美味しいわ。もう一本ちょうだい」
そういうとママは一本どころか三本まとめて持っていく。
「それまだ洗ってないよ」
「いいわ、別に」
ポリポリと音を立てながらキュウリを食べるママ。
なんだかいつものママと違うような・・・
どうしちゃったんだろう・・・
ママ・・・

「そうだ・・・健、泳ぎに行きましょう」
「えっ?」
「どうせ午後は暇なんでしょ? ここはちょっと離れたところに町営のプールがあるの。行きましょ」
なんだか急にうきうきしているママ。
泳ぎに行こうなんてどうしたんだろう。
いつもならボクが誘っても、友達と一緒のほうが楽しいわよとか言って来てくれないことの方が多いのに。
「ね。いいでしょ? 健が行かないならママ一人でも行っちゃうけど」
「い、行くよ。行く」
ボクは慌てて部屋に海パンを取りに行こうとする。
「あらあら、お昼食べなくていいの?」
「た、食べるよー! うーん・・・」
「あははは・・・慌てちゃってダメねぇ。そんなんじゃダメよぉ」
ボクはなんだかママが笑いながら何か言っているのを聞きながら、海パンを取りに行った。

                   ******

「ふう・・・疲れたぁ」
お婆ちゃんの作ってくれた晩御飯のカレーを食べた後、部屋に戻ったボクはもうぐったりだった。
ママがあんなに泳ぎが上手だなんて思わなかった。
それにずいぶん長く水に潜っていられるのでびっくりだ。
どうやったらそんなに長い間水に潜っていられるのって聞いたけど、そういえばいつの間にかできたわってなんだか不思議そうに自分の手を見つめていたっけ。
それにずっと水の中に入りっぱなしで、泳いでいる方が気持ちよさそうにしてた。
プールの閉館ぎりぎりまでいるんだもん、こっちが疲れちゃった。
あ・・・
ダメだ・・・
ご飯食べて床に横になったら、もう目が開けていられないや・・・
ねむ・・・い・・・

あ・・・れ・・・?
いつのまにか寝ちゃっていたのかな?
もう真っ暗だ・・・
毛布がかかってる。
ママがかけてくれたのかな?
ママは?
いない?
トイレにでも行ったのかな?
一緒の部屋で寝ているはずなのに・・・
布団は敷いてあるけど・・・
ボクもトイレに行きたくなったし、行ってみようか。

あれ?
トイレは真っ暗だ。
誰もいないや。
てっきりママが入っているんじゃないかと思ったんだけど・・・
どこに行ったんだろう・・・

ボクはとりあえずおしっこをして部屋に戻る。
やはりママはいない。
なんだかボクは急に不安になってしまう。
ママはどこに行ったのだろう?
もしかして・・・もう帰ってこなくなったんじゃ?
そんなの嫌だよ!

ペシャ・・・
えっ?
なんだろう、今の音。
何かの水音?
ボクが不思議に思い耳を澄ますと、ひたひたと廊下を歩く音がする。
その音が近づいて・・・
「わぁっ!」
ボクは思わず声を上げてしまった。
いきなりふすまがすうっと開いて、ママが入ってきたからだ。
「あら? 目が覚めていたの?」
「マ、ママ・・・どこに行ってたの?」
ボクはドキドキする心臓を抑えてママに聞く。
「ん・・・トイレよ」
「えっ? いなかったよ?」
「・・・・・・どこだっていいでしょ。早く寝なさい」
なんだかママの目がボクをにらんでいるようだ。
それに、髪の毛がびしょぬれじゃないか。
「ママ、髪が濡れて・・・」
「いいから早く寝なさい。子供がいつまでも夜更かししているものじゃないわ」
そう言ってママは服のまま布団にもぐりこんでしまう。
ボクは仕方なく自分も布団に入って目をつぶる。
ママはいったいどうしちゃったんだろう・・・

「ん・・・あ・・・あん・・・はい・・・」
ん?
ママの声?
何か言ってる?
「ああ・・・沼の水の味・・・うふ・・・あの子の精液のにおい・・・はふぅ・・・気持ちいい・・・」
ママが布団の中でごそごそしている。
何をしているんだろう?
ボクはそっと目を開けて、ママのほうを見る。
暗いからよくわからないけど、濡れた髪の毛がママの顔にかかっているみたいだ。
「はい・・・私は・・・私はもう・・・私はあなたのママですぅ・・・」
何を言っているんだろう?
ママは目が覚めているのかな?
「あ・・・はぁぁぁ・・・い、イく・・・あふ・・・」
えっ?
またどこかへ行っちゃうの?
「ママ?」
ボクは思わずママに呼びかける。
でも、ママから返事はなく、すうすうという寝息が聞こえてくる。
なんだ・・・
寝言だったのかな?
マンガなんかで寝言って知っていたけど、これがそうなのかな?
ママも寝言を言うんだ・・・
あはは・・・

                   ******

うーん・・・なんだか夜中の変な時間に起きたせいか眠いや。
でももう朝だから起きなきゃ。
ママはもう起きたみたい。
ボクも起きよう。

「おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう」
ボクが居間に行くと、お婆ちゃんとママがいた。
ママは朝からポリポリとキュウリを食べている。
それになんだか顔色もいつもとちょっと違う感じだ。
髪も濡れている。
「ママ・・・今朝も髪が濡れているの?」
「えっ? ああ、これ? なんかね、髪が乾くのがいやなのよ。だからシャワーでちょっとね」
「もう、だから健ちゃんにも言われたでしょ。ちゃんと髪を乾かしなさい」
お婆ちゃんがボクの分の朝食を用意してくれながら、ママに言う。
「ええ? いやよ。髪が乾いたら死んじゃうわ」
「えっ?」
「えっ?」
ボクとお婆ちゃんが顔を見合わせる。
髪が乾いたら死んじゃう?
どういうこと?

「優香(ゆか)、あんたまさか沼に行ったんじゃ・・・」
お婆ちゃんが驚いている。
沼って・・・あの沼?
「さあ・・・どうだったかしら・・・どうだっていいでしょ。ごちそうさま」
ママはそう言って席を立ってしまう。
そして置いてあったキュウリをわしづかみにして持って行ってしまう。
「ママ・・・」
「ああ・・・どうしよう・・・あの娘まさか・・・」
「お婆ちゃん?」
何だろう?
お婆ちゃんが慌てている。
どうしたんだろう?

「健ちゃん。いい? ママのそばにいてちょうだい。目を離しちゃだめよ」
「あ・・・う、うん」
ボクはうなずく。
「お婆ちゃんちょっと住職様と相談してくるから。いいわね、ママから目を離さないでね」
「はい」
住職様って、お坊さんのことだっけ?
お婆ちゃんは慌てたようにあたふたと出かけてしまう。
ボクは朝食を食べ終えると、ママのところへ行こうと思って部屋に戻った。

あれ?
ママがいない?
てっきり部屋に戻ったんだと思っていたんだけど・・・
ボクは慌ててママを呼びながらお婆ちゃんの家の中を探してみる。
お婆ちゃんからママから目を離さないでって言われていたのに・・・
「ママ! ママ!」
ボクは仏間やらトイレ、押し入れのふすまも開いて中を見る。
でもママはどこにもいない。
どうしよう・・・
ママはどこへ行っちゃったんだろう・・・

もしかして畑?
キュウリが食べたくて畑に行ったのかも。
ボクはそう思い、急いで靴を履いて外に出る。
そして裏の畑に行ってみる。
でも・・・
ママはいない。
畑にもいなかった。
ママ・・・
どこへ行ったの?

沼・・・
ママはもしかしたら沼に行ったのかもしれない。
沼にいるのかも。
ボクは急いで沼の方へと駆け出した。

「あ、いた」
ボクは思わず声を上げる。
沼にまでやってきたボクは、沼で泳いでいるママを見つけたのだ。
しかもママは水着も着ないで裸で泳いでいる。
なんだかボクは見てはいけないものを見たような気になって、ついママに声をかけるのをためらってしまった。

「ケケケ・・・」
ハッと気が付くと、ボクの後ろにそいつはいた。
頭のてっぺんが平らになっていて、そこが濡れている。
鋭い目でボクを見つめる顔には、黄色みががったくちばしのような口がある。
躰はアマガエルのようなヌメッとした緑色の肌に覆われ、手の指の間には水かきが付いていた。
背中には亀の甲羅のようなものを背負っていて、お腹の部分はやや白みがかって他とは色が違っていた。
背丈はボクと同じぐらい。

「か・・・河童?」
絵本で見た河童にそっくりだ。
まさか本当に河童がいるなんて・・・
「ケケケ・・・お前、あのメスの子供か? あのメスを取り返しに来たのか?」
「マ、ママのこと?」
「ケケケ・・・あのメスはもうオイラのお母ちゃんになるんだ。もうオイラのものだからな」
えっ?
ママが河童のお母さんになるだって?
「だ、ダメだよ! ママはボクのママなんだから!」
ボクは思い切り首を振る。
冗談じゃない!
ママを河童になんか取られてたまるもんか!

「ケケケケ・・・ちょうどいいや。お前の尻子玉をもらおう。お前の尻子玉を食わせれば、あのメスは完全に河童のメスになるんだ」
「ふ、ふざけるな!」
尻子玉が何だか知らないけど、ママを河童になんかさせるもんか!
「よし、じゃあ、オイラが勝ったらもらうことにする。行くぞ! はっけよい! ケケケケ・・・」
「えっ?」
ボクが驚く間もなく、河童は両手を一瞬地面に着き、ボクめがけて突っ込んでくる。
あ、これは相撲だとボクが気が付いた時には、ボクはもう思い切り河童に投げ飛ばされてしまっていた。
「あ・・・ぐぅ・・・」
ボクは背中から地面にたたきつけられ、痛みで一瞬息ができなくなる。
「よし。オイラの勝ちだな。お前の尻子玉をいただくよ。ケケケ・・・」
「ひぎゃぁっ!」
ショックで動けなくなっていたボクは、くるんと地面にうつぶせにされると、あっという間にズボンを降ろされてお尻の穴に手を突っ込まれてしまう。
そしてその手がボクの中から何かを奪い取ってしまう。
あ・・・
急激に力が抜けていく・・・
頭もぼうっとして、何も考えられなくなっていく・・・
ボクは・・・いったい・・・

「ケケケ・・・見ろ。こいつがお前の尻子玉さ」
河童がボクに手にしたきれいな小さな赤いガラス玉のようなものを見せてくる。
あれが・・・ボクの・・・尻子玉?
「こいつをあのメスに食べさせれば、あのメスは完全に河童になる。オイラのお母ちゃんになるんだ。ケケケケ・・・」
「や・・・め・・・」
ダメだ・・・力が出ないよ・・・
「ケケケ・・・いやなこった。オイラそのために三日もかけてあのメスに精を注ぎ込んできたんだからな。すでにもう半分は河童になっているさ」
「マ・・・ママ・・・」
そんな・・・
ママが河童になっちゃうなんて・・・
そんなの嫌だよ・・・
「お前はそこであのメスがオイラの母ちゃんになるのを見ているんだな。あとで会わせてやるよ。ケケケケ・・・」
「ま・・・て・・・」
ボクは必死で手を伸ばしたけど、河童は笑いながら沼へと戻っていってしまう。
くそ・・・躰が・・・動けぇ・・・

「あ・・・いたぁ。もう・・・昼間だから出てきてくれないかと思ったわ」
沼の方からママの声がする。
ボクは必死の思いで躰を動かし、沼のほうが見られるように向きを変える。
ママ・・・
ボクの目の前で裸のママが河童とキスをしている。
そんな・・・
ママ・・・

「ケケケ・・・昼間から会いに来るなんてどうしたんだ?」
「あん・・・だってぇ、躰が乾くし、沼で泳いでいる方が気持ちいいんですもの。それにあなたにも会えるし」
「ケケケ・・・やっとオイラのお母ちゃんになる気になったみたいだな」
「あん・・・ええ・・・私はもうあなたのもの。あなたのママになります」
ママが河童の躰を抱き寄せる。
いやだ・・・
いやだいやだいやだ!
「や・・・め・・・ろ・・・」
力が出ないせいで声も思うように出せない。
悔しい悔しい悔しい・・・
ママ・・・
ボクはここにいるよ・・・
ボクのところに戻ってきてよー!

「ケケケ・・・この唇は誰のものだい?」
「んん・・・ぷはぁ・・・もちろんあなたのものよ」
「ケケケ・・・このおっぱいは誰のものだい?」
「あん・・・もう・・・あなたのものよぉ」
「ケケケ・・・それじゃここは?」
「ひゃん・・・あなたのものです。ああ・・・おねがい・・・入れて・・・」
ボクは思わず目をつぶる。
あんなママは見たくない。
あんなの・・・
あんなのママじゃない・・・
ボクのママは・・・
ボクのママは・・・

「ケケケ・・・それじゃその前にこれを食べるんだ」
「えっ? これは何?」
えっ?
もしかして?
ボクが目を開けると、河童がママにあの赤いガラス玉を渡すところだった。
「それは尻子玉さ。美味しいよ。ケケケケ・・・」
「尻子玉? 綺麗・・・いただきます」
「だ・・・め・・・マ・・・マ・・・」
ボクは必死に止めようと叫ぶけど、ママはボクの尻子玉を口に入れてしまう。
「んふ・・・飴玉みたい。美味しい」
あ・・・
そんな・・・
ボクの尻子玉が・・・
食べられちゃった・・・

「ケケケケ・・・美味しいだろう?」
「ええ、とっても。美味しいわ」
「それじゃ、たっぷり可愛がってあげる。行こうかお母ちゃん。ケケケケ・・・」
「はい。行きましょ。ケケケケ・・・」
ママが笑って水の中に潜っていく。
そのあとで、河童がこっちをちらっと見て、同じように潜っていく。
ボクはそれを見て、意識が遠くなっていった・・・

                   ******

「うっ・・・」
なんだ?
冷たいっ!
ボクは思わず目を開ける。
どうやら水が顔にかかったみたいだ。
「ん・・・目が覚めた、健ちゃん? ケケケケ・・・」
ママの声がする。
ママがいたずらしてボクに水をかけたのかな?
「マ、ママ?」
ボクは声のする方に顔を向ける。
なんだかまだ力が全然入らない・・・
「ブッブー! ざーんねんでしたー! アタシはもうあなたのママじゃありませーん。ケケケケ・・・」
「えっ?」
驚いたボクの目に映ったのは、以前とは全く違ったママの姿だった。
「どうぉ? 見てぇ、この姿。素敵でょう? アタシは河童になったのよぉ。ケケケケケ・・・」
笑いながらくるりと一回転してみせるママ。
その姿はあの河童と同じように、頭のてっぺんが平らで濡れた黒髪をたらし、カエルのような緑色の肌が全身を覆っていた。
顔には黄色みがかったくちばしが付いてて、両手の指の間には水かきもある。
背中には楕円形の亀の甲羅のようなものがあり、おっぱいからお腹の部分だけはやや白い。
それはいつも見慣れていたママの面影を色濃く残した河童だった。

「そんな・・・」
呆然とするボクの前で、あの河童がママのところにやってくる。
ちょうどボクとママが並んだら、あのぐらいの身長差だろう。
「ケケケケ・・・お前の尻子玉でこいつは完全に河童になった。もうこいつはオイラのお母ちゃんだ」
そう言って河童がママに抱き着いていく。
「あん・・・もう・・・甘えん坊ねぇ。アタシのことはママって呼んでほしいわぁ。その方が母親って気がするの。ケケケ・・・」
子供を抱き寄せるように河童を抱き寄せて頬擦りするママ。
そんな・・・
ひどすぎる・・・

「ケケケ・・・なんか呼び慣れないけどお母ちゃんがそういうならママって呼ぶよ」
「うふ・・・ありがと。うれしいわ。ケケケ・・・」
にこやかにほほ笑んでいる河童のママ。
「やめろー! ママを・・・ママを返せ!」
畜生・・・躰が・・・躰が動けば・・・
「ケケケ・・・いやなこった。こいつはもうオイラのママだ。そうだろ、ママ?」
「ええ、もちろんよぉ。残念ね、健ちゃん。アタシはもうこの子のママなの。もうあなたのママじゃないのよ。ケケケケケ・・・」
まるでボクに見せつけるかのように河童を抱き寄せるママ。
ボクは涙が止まらない。
畜生・・・

カチッと音を立ててくちばしを合わせる二人。
「ケケケ・・・このママのくちばしは誰のもの?」
「もちろんあなたのものよぉ。ケケケケ・・・」
「それじゃ、このママのおっぱいは?」
「もちろんあなたのものに決まっているわぁ。たっぷり揉んでちょうだいね。ケケケ・・・」
ゆさゆさと揺れるおっぱいが河童の手で揉まれている。
「ケケケケ・・・それじゃママのここもオイラのものかな?」
「あん・・・その通りよぉ。ここにあなたの太いのを入れてもらいたいわぁ。そしてあなたの弟や妹をたくさん産むの。最高だわぁ。ケケケケケ・・・」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
いやだぁいやだぁ!
そんなママなんて見たくないーー!

「ケケケケ・・・うるさい子ねぇ。いい? アタシはもうあなたとは何の関係もないの。もう少ししたら動けるようになるから、おとなしく戻りなさい。二度と沼には来ちゃだめよ。もし来たら・・・」
ママがボクを怒ったようににらみつけてくる。
「アタシがあなたを殺すから。ケケケケケ・・・」
ママが高笑いしている。
ボクを殺す?
ママが?
嘘でしょ・・・?

「ケケケケ・・・そういうこった。お前は運がいいぜ。普通は尻子玉を抜くと死んじゃうんだ。お前は子供だから命が強かったのかもな」
「ママを・・・ママを返して・・・」
ボクは必死で河童に手を伸ばす。
ママを返せ・・・
「ケケケケ・・・じゃあな。行こう、ママ」
「ええ。それじゃね、健ちゃん。アタシのことはもう忘れるのよ。アタシはこの子のママなんだから。ケケケケケ・・・」
河童と手をつなぎ水の中へと入っていくママ。
ボクが何度ママと呼んでも、ママはもうこっちを振り返らなかった・・・

                   ******
                   ******

「それで・・・どうなったの?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる彼女。
なんというか・・・かわいいんだが、この笑顔はどこかで見たような気もする・・・
「どうというか・・・俺は婆ちゃんと住職さんに沼の近くで倒れているところを見つけられ、病院に連れていかれてしばらく入院したよ」
「お母さんは?」
「それっきりだった・・・消防団とか警察の方たちが沼をさらってくれたけど、河童も母も出てこなかったよ」
そう・・・あの日以来俺は母と会っていない・・・
「ふーん・・・」
プールサイドに腰かけるようにして水に浸けた足をパシャパシャさせている彼女。
健康維持と体力維持を兼ねてジムのプールで泳いでいたら、いつの間にか俺は彼女と知り合い、仲良くなっていた。
今日も俺は彼女と二人で会社帰りのジムのプールで運動がてらデートみたいなもの。
なんというか彼女かわいいんだけど、なんで俺こんな話をしたんだっけ?

「そっかー。ごめんね、つらい話させちゃって。健君のご両親にご挨拶しなきゃって思ってたから」
「えっ? それって?」
「うん。先日の話、ちゃんとご両親にご挨拶してお返事しようと思ったんだけど・・・」
俺は何ともうれしくなる。
さっきまで母との別れを思い出し、少し気分が落ち込んでいたんだけど、そんなのどこかに吹き飛んでった。
「じゃ、じゃあ」
「はい。お受けします。よろしくね、健君」
俺の方を見て力強くうなずいてくれる彼女。
やった!
俺は思わず心の中でガッツポーズをとる。
「それじゃ、俺の方こそ君のご両親に挨拶に行かなくちゃ。さっきも言った通り、俺の方は父さんももう死んじゃってるし挨拶する人なんていないから」
「ええ、そうね。今度の週末にでも行きましょ。その沼に」
ケケッと笑う彼女。
「えっ?」
沼?
沼って・・・あの?

「アタシも久しぶりだわ。ママとお兄ちゃんに会うの。あ、ママは健君のママでもあるんだっけ? ケケ・・・」
そう言ってプールに入って泳ぎ出す彼女。
「アタシね・・・ママとお兄ちゃんの娘なの。これからもよろしくね、健君。アタシはもうあなたのものよ。ケケケ・・・」
トプンと水の中に潜っていく彼女。
ああ・・・そうか・・・
彼女の笑顔はママに似ていたんだ・・・
彼女がキュウリサンドが好きなのも、泳ぎが得意なのも当然か・・・
ははは・・・
おそらく沼にもどれば、彼女も河童の姿に戻るのだろう。
すると俺は、ママの義理の息子になるってことになるのかな?
あははははは・・・
まあ、それも悪くないか・・・

END
  1. 2018/03/10(土) 20:36:42|
  2. 異形・魔物化系SS
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掃除機と加湿器 (後)

昨日に続きまして「掃除機と加湿器」の後編をお送りいたします。
ザラベダみたいな悪魔っ娘が私のところにも来ないかなー。

それではどうぞ。


                   ******

うう・・・ん・・・
だんだん意識が戻ってくる。
ゆっくりと目を開ける紗枝梨。
ここはどこ?
私はいったい?

紗枝梨はゆっくりと周囲を見る。
どうやら我が家のリビングのようだわ。
私、いつの間にか眠ってしまっていたのかしら・・・
ゆっくりと躰を起こす紗枝梨。
だが、自分の躰に何となく違和感を覚える。
『あら? どうかしちゃったかしら?』
自分の声がすごくくぐもって聞こえる。
それもそのはず、彼女の躰は先ほどまでとは全く違っていたのだ。

彼女は裸だった。
ゆっくりと立ち上がった彼女の姿は、確かに人間の女性としてのボディラインは保っていた。
それは二人の子を持つ四十台の女性としてはかなり美しいもので、彼女の夫もよくそのスタイルの良さを褒めていたものだった。
しかし、今の彼女の姿は、人間らしいのはそのラインだけだったのだ。

彼女の躰からは頭髪を含めた毛髪がすべて消え失せており、後頭部は剥きたてのゆで卵のようにつるんとしていて、股間の茂みも全くない。
全身は白かった肌の色が濃いグレーになっており、躰の脇にオレンジ色のラインが走っている。
何よりその皮膚は柔らかみのない硬質なプラスチックになっており、首や肩、腕や足などの関節部は球体関節となっていた。
彼女の異質さを際立たせるのがその顔で、鼻と口が酸素マスクのような三角形のカバーで覆われ、そこから床にまで達するような長い灰色の蛇腹のホースが伸びている。
ホースの先端にはT字型をした掃除機の吸い込み口があり、彼女の声はそこから聞こえていたのだ。
背中には持ち手のようなコの字型のでっぱりができ、尾てい骨のところからはコンセントに差し込む電源コードのプラグが見えている。
膝と足首のところには回転するキャスターが付いていて、四つん這いになったときに腕だけで移動できるようになっていた。
両方の形の良い乳房には、先端に押しボタンになった乳首が付いており、右側に“電源”と、左側には“コード”と書かれている。
それはまさに、紗枝梨と彼女が先ほどまで手にしていた掃除機が融合した姿に他ならなかった。

紗枝梨は躰に感じた違和感を確認するべく、戸棚のところにある鏡を見る。
そこにはまるで酸素マスクを付けたように鼻と口をすっぽりと覆われ、頭髪がすっかり抜け落ち、肌の色もグレーとなった自分の顔があった。
だが、紗枝梨はもうそれを変だとは思わなくなっていた。
それどころか、掃除機である自分にとっては当たり前の姿だと思うようになっていた。
『どこもおかしいところはないわね。気のせいだったみたい。今はもう違和感も感じないし』
T字型の吸い込み口の先からくぐもった声がする。
それももう、紗枝梨の中では当たり前のことになっていた。

『ああ・・・そうだわ、掃除を・・・掃除をしなきゃ・・・掃除をしたいわ』
まるで美味しいものを嗅ぎつけたかのようにホースの先端を床に下ろしてクンクンと嗅ぐようなしぐさをする紗枝梨。
チリやホコリの臭いがたまらなく彼女をそそる。
『ああ・・・掃除・・・掃除よ・・・』
紗枝梨は尾てい骨のところの電源プラグを持ち、ずるずるとひっぱっていく。
すると彼女の体内からコードが伸びていき、やがて黄色い目印のラインが現れる。
そのことを感じ取った紗枝梨は、すたすたとコンセントのところへ歩み寄り、プラグを差し込む。
『ふわぁ・・・』
体内に電気が巡ってくる気持ちよさ。
思わず声が出てしまう。
体内に電気が通ったことで、紗枝梨は右胸の乳首スイッチを押す。
すぐさまヒュゴーーーというモーター音が唸り、紗枝梨の口から伸びたホースの先端にあるT字の吸い込み口から大量の空気が吸い込まれ始める。
そして空気は紗枝梨の体内を通り、お尻の穴から排気として噴出していくのだ。
ああ・・・気持ちいいわぁ。
紗枝梨は体内を空気が流れていく快感に酔いしれる。
空気が流れるだけでこれなら、実際にゴミを吸ったらどんなに気持ちがいいのだろう。
もう、紗枝梨は我慢ができなくなっていた。

紗枝梨はすぐに四つん這いになり、ホースの先端を床に付ける。
ゴーッという音とともに床の空気がチリやホコリと一緒に吸い込まれ、紗枝梨の体内を流れていく。
あん・・・なんて気持ちいいの・・・ゴミを吸い取ることがこんなに気持ちよかったなんて・・・
紗枝梨はその気持ちよさに感動さえ覚えてしまう。
これこそが彼女が生まれてきた喜びと言ってもいいだろう。
チリやホコリは彼女の体内に取り込まれ、空気だけがお尻から出ていく。
呼吸などはもう必要がない。
前から吐き出すなどありえないではないか。

四つん這いになって床のチリを吸い込んでいく紗枝梨。
時々腕を使って躰を前進させる。
カラカラと膝と足首のところのキャスターが回り、彼女の躰をスムーズに移動させていく。
紗枝梨はもう、掃除が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
あらかた床のごみを吸い取ってしまうと、胸の電源ボタンで一度電源を切り、紗枝梨は今度は股間に手を伸ばす。
彼女の股間部分は収納ケースになっていて、そこに隙間用の細くなった吸い込み口がセットされているのだ。
紗枝梨はそれを取り出すと、ホースの先端のT字型吸い込み口をはずし、隙間用吸い込み口をセットする。
『うふふふ』
先端の形状が変わり、それがまた紗枝梨を喜ばせる。
これで隙間のゴミを吸い取れるのだ。
楽しみだわ。

再び電源ボタンで電源を入れると、また猛烈な勢いで空気を吸い込み始める紗枝梨。
そのまま姿勢を低くし、口から伸びるホースを家具の隙間に差し入れていく。
毎日掃除しているはずなのに、いつの間にか溜まっているチリやホコリ、さらには虫の屍骸なんかも紗枝梨の中に吸い込まれていく。
ひゃー・・・なんて気持ちいいのぉ・・・ゴミがこんなにたくさん・・・最高だわぁ・・・
ゴミを吸い込めば吸い込むほど気持ちがいい紗枝梨。
もはやゴミを吸わない生活など考えられない。
もっと・・・もっとよ・・・
紗枝梨はさらにゴミを求めていく。
ここが終わったら寝室ね・・・その次は・・・そうだわ、愛由美の部屋も幸雄の部屋もあるわ・・・
あの子たちの部屋なら、きっと多くのゴミがあるに違いない。
そう思うだけで紗枝梨は身震いするほど興奮してしまう。
もはや子供たちの部屋には立ち入らないなどという考えは彼女から消え去っていた。
ああん・・・楽しみだわぁ・・・
これからのことを思いながら、紗枝梨は隙間のゴミを吸い込み続けていく。
その様子をザラベダは満足そうに眺めていた。

                  ******

「ただいまぁ」
玄関で少女の声がする。
学校を終えた愛由美が帰ってきたのだ。
紺色の制服に身を包んだ愛由美は高校生になったばかり。
なんとなく制服もまだしっくりと馴染んではいないような感じだ。

「あー、お腹空いたぁ。ママァ、何か食べるものあるー?」
リビングに入るなり、カバンを置いてソファに腰を下ろす。
とりあえず一息入れておやつか何かを食べたいところなのだ。
「ママァ?」
いつもならお帰りなさいと言ってくれるはずの母が出てこないことに、首をかしげる愛由美。
だが、すぐに疑問は解ける。
両親の寝室のほうから掃除機の音が聞こえるのだ。
どうやら掃除をしているところだったらしい。
「もう・・・」
愛由美は何か食べるものがないかどうか聞くため、寝室に行こうと立ち上がった。

「ママァ、ただいまぁ・・・えっ?」
両親の部屋に入った愛由美は目を疑った。
そこには母親ではなく、灰色の躰をした裸の女性が四つん這いになって何かをしていたのだ。
「ひっ! だ、誰?」
思わず小さく悲鳴を上げる愛由美。
その声に反応したのか、掃除機の音が止まり、裸の女がゆっくりと立ち上がる。
『あら、お帰りなさい』
「ひーっ!」
その姿はまさに異形。
裸の女性には違いないのに、灰色の肌をしており、足にはキャスターが付いていて、むき出しの胸は乳首が押しボタンのようになっている。
顔からは口と鼻がマスクのようなもので覆われ、そこから床にまで長いホースが伸びており、その先端には掃除機の吸い込み口のようなものが付いていたのだ。

「ば、化け物!」
あまりのことに床にへたり込んでしまう愛由美。
『まあ、いきなりなぁに? 母親を見て化け物だなんて。何かのギャグ?』
灰色の女の化け物が腰に手を当ててにらんでくる。
「は? え? ママ? ママなの?」
愛由美にはとても信じられない。
目の前のこの異形の女が母親とは思えるわけがないのだ。
『何を言ってるの? ママの顔を見忘れたの?』
愛由美はぶんぶんと首を振る。
母の顔を見忘れたりするはずがない。
はずがないからこそ、今この目の前にいるのが母とは思えないのだ。
『おかしな娘ねぇ。あ、おやつならゴミ箱から適当にあさっていいわよ』
「えっ?」
ゴミ箱から?
いったい何がどうなっているの?

「マ、ママなの? ど、どうしてそんな姿に?」
『ええ? ママの姿が何か変?』
灰色の女が自分の躰を見降ろしてみる。
『どこも変じゃないわよ。足のキャスターもちゃんと回るし、モーターも問題ないわ。ゴミだってまだ詰まってないわよ』
そう言ってお腹のふたを開け、中からピンクの四角いケースを取り出して中を見る。
『うん。まだいっぱいになってないわ。問題ないわよ。ほら』
そう言ってケースの中身を愛由美に見せる。
ピンク色の箱の中に床から吸い取ったゴミが少し溜まっていた。

「ひーっ!」
たまらず悲鳴を上げる愛由美。
何?
なんなの?
ママが・・・ママが化け物になっちゃったの?
『いちいちうるさい娘ねぇ。今日はどうしたの? ママ、今掃除しているんだからあっちへ行ってなさい』
「そ、掃除?」
『ええ、そうよ。私は掃除機ですもの。掃除をするのは当たり前だわ』
「掃除・・・機?」
『ええ、そうよ。私は掃除機。ゴミを吸うのが大好きなの。ベッドの下のゴミを吸うのが楽しみだわぁ』
そう言って胸のボタンを押すと、モーター音がし始め、彼女はそのまま四つん這いになる。
『私は掃除するんだから邪魔しないで』
「あ・・・あああ・・・」
あまりのことに、愛由美はまるで這うようにしてその場を後にする。

どうしよう・・・
どうしよう・・・
ママが掃除機になっちゃった・・・
どうしよう・・・
病気?
それとも何かの呪い?
とにかく誰かに知らせなきゃ・・・
でも誰に?

必死になって何度も転びそうになりながらリビングに戻ってくる愛由美。
中に入ろうとしたその瞬間、何かが愛由美の胸に当たる。
「きゃん!」
声を出したのは愛由美ではない。
「えっ?」
思わず何がぶつかったのか確かめる愛由美。
すると、彼女の足元に奇妙な小さい女の人の形をしたものが倒れていた。
「えっ? 人形?」
愛由美は思わずその人形のような小さな女を拾い上げる。
その女は奇妙な恰好をしており、躰にぴったりした紫色の服を着て、背中からコウモリのような羽を生やしている。
お尻からも先がとがった矢じりのようになった尻尾が生えており、まるで絵本に出てくる女の悪魔のようだ。
手にした感触は柔らかく、また温かみもあるので、もしかしたら生きているのかもしれない。
「な、なにこれ?」
愛由美はその奇妙な小さな女に戸惑った。

「う・・・うーん・・・」
小さな女が目を覚ます。
「ひゃっ! い、生きてる!」
思わず手から振り落としてしまう愛由美。
小さな女は、床に落ちそうになる寸前で背中の羽を広げ、ふわりと飛び上がった。
「と、飛んだ?」
「もう、いきなりぶつかってきて、何するのよ」
小さな女は愛由美の顔のあたりまで飛んでくると、腰に手を当てて怒っている。
「な、なに? なんなのあんた?」
先ほどから信じられないようなことばかりが起き、愛由美はもう何が何だかわからない。
「何って・・・あー、いけない! また見られちゃったわ。もう・・・ユキオに石をぶつけられてから散々だわ」
「えっ? 幸雄?」
いきなりこの小さな女から弟の名が出たことに驚く愛由美。
「そう。ユキオに石をぶつけられたの。でもね、美味しいチョコをくれたからもういいの。赦してあげたわ。わざとじゃないって言ってたし」
「幸雄を知ってるの?」
「知ってるわよ。あなたの弟なんでしょ?」
「そうだけど・・・あなたはいったい?」
この小さな女と弟はいったい何の関係があるのだろうか?
いったい我が家に何が起こっているというのか?

「見てわからない? 私は悪魔。ユキオと契約したの。だからユキオにだけは名前を教えてあげたわ」
「契約? 何の契約?」
「ユキオの望みをかなえてあげたのよ。ユキオはママに掃除機になっちゃえって言ったの」
ふふんと胸を張る女悪魔。
そうだったのか・・・
ママが掃除機になってしまったのは幸雄が原因で、この悪魔がママを掃除機に変えたんだ・・・
愛由美は愕然とする。
まさか弟がそんな望みを悪魔に言うなんて思ってもいなかったからだ。
確かに掃除は好きじゃない様子だったし、私もママが掃除掃除っていうのはいやだったけど・・・
掃除機になってしまえなんて言っていいはずがない。

「あなたがママをあんなふうにしたのね!」
愛由美は目の前でひらひらと飛んでいる女悪魔をつかみ取る。
「キャッ! 何するのよ! 離しなさい!」
「離してもいいから、ママを元に戻しなさい!」
愛由美はぐっと顔を近づけて女悪魔をにらみつける。
とにかく今は母親を元に戻すのが先決だ。
「はあ? あなたバカ? ゆでタマゴを生タマゴに戻せるとでも?」
憐れんだような笑みを浮かべる悪魔に愛由美はムッとなる。
「あなたがやったんでしょ? 元に戻しなさいよ! 何とかして」
思わず手にも力が入る。
「痛い痛い! 何するのよ! このバカ女! あんたも何かに変えてやる! えーい!」
いきなり悪魔の手が光ったかと思うと、愛由美は急速に意識が遠くなってしまった。

                   ******

「あ・・・れ?」
目を覚ます愛由美。
なぜ眠っていたのか思いだせない。
何か大変なことが起こっていたような気もするけど・・・

ゆっくりと躰を起こす愛由美。
どうやらリビングの床で寝ていたらしい。
愛由美はボディに傷がついていないか確認する。
女性の柔らかなラインはそのままだが、その姿は先ほどまでの彼女とは一変していた。
頭髪などの毛髪はすべて消え、白い肌はよりつややかな白のプラスチックの肌へと変化している。
関節はボール型ジョイントになっていて、お尻からは尾てい骨のあたりから黒いコードが伸びている。
小ぶりだが形の良い両胸は右が電源ボタン、左がダイヤル式のタイマーになっていた。
お腹の部分は取り外しができるようになっていて、コの字型の取っ手が付いている。
顔の造りは以前の愛由美のままだったが、口だけは大きく開いたままで固定されていた。

自分の硬質な白いプラスチックのボディを確認した愛由美は、どこにも傷がついていないことに安堵する。
そしてクンクンと空気を嗅ぐようなしぐさをする。
「いけない。部屋が乾燥しているわ」
愛由美はそういうと、カツカツと硬質な足音をさせ、台所へ行ってお腹の取っ手を持って引っ張り出す。
すると、お腹の部分が四角く外れ、大きなタンクになっていた。
愛由美は無言でそのタンクに水を入れ、再び自分のお腹にはめ込んで、台所を出る。
そしてリビングの隅っこに行き、お尻から伸びたコードをコンセントにつなぐと、そのまま床に座り込む。
お尻をぺたんと床に付けるいわゆるアヒル座りという座り方で座ると、愛由美は右胸の電源ボタンを押す。
すると、愛由美の体内でかすかな振動が起き、口から霧状になった水が吐き出され始める。
ああ・・・気持ちいい・・・
愛由美はうっとりとして目を閉じる。
空気中に霧状の水を吐き、空気を湿らせることがこんなにも気持ちがよかったなんて・・・
愛由美は大きな口を開け、霧状の水を吐き続ける。

「どう? 加湿器になった気分は?」
愛由美の肩に女悪魔が飛んできて腰を下ろす。
そんなの決まっているじゃない。
「最高よ。部屋を加湿するのがこんなに素晴らしいことだとは思わなかったわ。加湿器になれて幸せ」
愛由美は心からそう思う。
加湿器じゃない自分などもう考えられない。
このままずっと部屋の加湿をしていたい。
愛由美はただそれだけを考えていた。

「くふふ・・・チョコのお礼にしてはサービスしすぎたかしら。でもまあ、二人の女たちも幸せそうだし問題ないでしょ。いい事したわぁ」
三つ又のトライデントを手に愛由美の肩から飛び上がる女悪魔ザラベダ。
そのままリビングを出ると、ちょうど寝室の掃除を終えて、いそいそと二階へ上がっていく紗枝梨の姿が見える。
きっと愛由美や幸雄の部屋を掃除しに行くのだろう。
邪魔しちゃ悪いわね。
それじゃ二人ともお幸せにー。
ザラベダは笑みを浮かべると、そのまま窓を開けて飛び去って行く。

幸雄が智樹とたっぷりゲームを楽しんでから家に帰ってきたのは、夕方も遅くなってからのことだった・・・
「うわーーーん! ママーー! お姉ちゃーーん!」
ブォーーーン
シュコーーー

END


明日はヒロイン悪堕ち短編を投下いたしますのでお楽しみに。
  1. 2017/11/11(土) 20:36:02|
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掃除機と加湿器 (前)

昨日告知いたしました通り、ブログ開設から4500日達成記念といたしまして、今日から四日連続でSSを三本投下したいと思います。
今日明日と前後編で一本、12日に一本、13日に一本投下する予定です。
お楽しみいただければと思います。

今日は「掃除機と加湿器」の前編です。
なんのこっちゃと思われるタイトルかと思いますが、異形化作品の一種と思っていただければと思います。

それではどうぞ。


掃除機と加湿器

「ヤバ・・・」
玄関へ向かおうと階段を下りてきた幸雄(ゆきお)は思わずそう口にしてしまう。
リビングで母親がこれから掃除機をかけようとしていたところだったのだ。
うわぁ・・・
心の中でまずいところに来てしまったと焦る幸雄。
ちょうど母の掃除タイムに当たってしまったらしい。
何とか見つかりませんようにと念じながら、彼はこっそりと玄関へ向かう。
だが・・・

「幸雄! どこへ行くの? お部屋の掃除はしたの?」
黙って通り過ぎようとしていた息子を目ざとく見つける母親。
彼女は持っていた掃除機を置き、そのまま息子のほうへと向かう。
見つかっちゃった・・・
幸雄は思わず肩をすくめる。
またお小言が始まってしまうよ。
急いでいるのになぁ・・・
そう思ってももはやどうしようもない。
幸雄は仕方なく母親のほうを向いた。

「友達のところに行く約束をしてるんだよ。帰ってきたら掃除するよ」
そう言って何とかこの場を逃れようとする幸雄。
「またそんなこと言って! 日曜日だって掃除するって言って結局しなかったじゃない!」
その態度に思わず口調が荒くなってしまう母の紗枝梨(さえり)。
どうせこの調子なら帰ってきたところで掃除などするはずがないのだ。
「今日はするよぉ」
幸雄は必死に弁解する。
「本当に? しなかったら、今日こそママがあなたの部屋に入って掃除するからね」
腰に手を当てて息子をにらみつけている紗枝梨。
もちろんそれは最終手段である。
紗枝梨には、たとえ子供であろうと一人の人間として過度にプライバシーには立ち入らないというルールを自分で決めている。
だからこそ、自分の部屋は自分でちゃんときれいにしてほしいのだ。
姉の愛由美(あゆみ)はそこそこ掃除をしているようだけど、この子はなかなか掃除をしようとはしない。
おそらく部屋の中はホコリでいっぱいだろう。
そんな部屋にいたら具合悪くなってしまうのにと紗枝梨は思う。

「そ、それはだめだよ。いろいろと置いてあるから、ママが勝手に動かすとどこに行ったか分からなくなっちゃう」
幸雄は慌てて首を振る。
母親に部屋に入られたら、ゲームやマンガが片付けられていないことがわかってしまう。
いや、彼も自分なりには置き場所を把握しているし、片付けているつもりではあるのだが、母親にとっては散らかっていると見えるらしいのだ。
だから本棚とかゲーム入れに勝手に戻されて、あとで探す羽目になるのはいやだった。
「だったらちゃんと自分で掃除しなさい! ホコリだらけの部屋にいたら病気にもなっちゃうのよ!」
「わかりました! 行ってきます!」
「あ、待ちなさい!」
逃げるが勝ちだとでも言わんばかりに、幸雄は母に背を向けた。

逃げ出すようにして玄関から外に飛び出す幸雄。
ふう・・・
やれやれ。
ママのきれい好きにも困ったものだよ。
毎日毎日掃除機をかけないと気が済まないんだもの・・・
うんざりした表情を浮かべる幸雄。
母の紗枝梨は病的なほどのきれい好きなのか、毎日掃除機をかけている。
そのため、幸雄にも毎日掃除しろ掃除しろとうるさいのだ。

あーあ・・・
せっかくこれから智樹(ともき)のところでゲームやるっていうのに、すっかり出ばなをくじかれちゃった。
ホントにもう腹が立つ。
一週間ぐらい掃除機かけなくたって平気だよ!
ママのバカ!
そんなことを思いながら、幸雄は腹立ちまぎれに転がっていた石を蹴飛ばす。

「キャッ!」
突然石が飛んで行った方向から声がした。
えっ?
驚く幸雄。
なんか変な声がしたぞ。
えっ?
何?
不思議に思って幸雄が石の転がったあたりに行くと、石の下敷きになっている変なものを見つける。
「えっ? お人形?」
それは、一見女の子たちが遊ぶような着せ替え人形みたいなものだった。
大きさ的にも着せ替え人形のようなもので、身長30センチぐらいだろうか。
二本の変な角の付いたフードが首から上を覆っており、躰も紫色のぴったりした全身タイツみたいなのを着ているため、女性であることが一目でわかる。
だが、背中からはコウモリの羽のようなのが生えていて、お尻からは先のとがった尻尾が伸びている。
なんと言うか、マンガに出てくる女の悪魔みたいな人形だ。

「えっ? これって生きてるのかな?」
幸雄はしゃがみこんで、彼女をそっと指先でつついてみる。
「う・・・うう・・・ん」
倒れていた小さな女がもそりと動く。
「うわ、生きてる」
思わず驚いて声を出す幸雄。
何これ?
初めて見るその小さな女性に、幸雄はちょっと興味を持った。

「ううーん・・・あっ!」
女悪魔の人形みたいなのが、目を覚まして幸雄を見上げてくる。
「あなたね! 石をぶつけたの!」
どうやらやっぱりさっきの石が当たっていたらしい。
「ご、ごめん。当たるなんて思わなかったんだ」
思わず謝る幸雄。
まさか石を蹴った先にこんなのがいるなんて思いもしなかったのだ。
「ひどいわ! ケガしなかったからいいけど、もしかしたら死んでいたかもしれないのよ!」
起き上がって腰に手を当てて怒っている女悪魔。
だが、なんというか小さくてかわいい感じで、怖さを感じさせるものがない。
いったいこれは何なのだろう。
幸雄はついまじまじと見てしまう。
躰は小さいが、大人の女性ぽくもある。
スタイルがいいうえに、躰にぴったりしたタイツ状の服だから、いやでも躰のラインに目が行ってしまう。
幸雄はなんだかちょっとドキドキしてしまった。

「ごめんなさい。ホントに当たるなんて思わなかったんだ。ところで、君は何者なの?」
幸雄はとりあえず彼女に謝ると、彼女が何者なのか尋ねてみる。
「何者って・・・えっ? もしかして私が見えて? キャッ! 私見られてるの?」
突然うろたえる彼女。
両手で顔を覆っている。
「うん。見えてるけど・・・」
「見られた―。石をぶつけられたせいだわ。どうしよう・・・ちょっとあんた! 責任取りなさい!」
いきなりビシッと彼女が幸雄を指さしてくる。
「せ、責任?」
びっくりする幸雄。
いきなり責任なんて言われても・・・
「ど、どうすればいいの?」
「うーん・・・とりあえず名前を教えなさい」
「い、池島(いけしま)幸雄」
「ユキオね。とりあえず私のことは誰にも言わないこと。いいわね?」
「いいけど、そっちも名前を教えてよ」
こっちが名乗ったんだから、そっちも名乗ってほしいと幸雄は思う。
「そんなことできるわけないでしょ!」
ふんという感じで横を向く彼女。
「むっ、じゃあ君を見たことをクラスのみんなに言いふらす」
「なっ! わ、わかったわよ。私はザラベダよ」
意外とあっさり名前を教えてくれたことに幸雄は拍子抜けした。
まさか言いふらすなんてことが通じるとは正直思っていなかったのだ。
「ザラベダだね。で、君はいったい何者なの?」
「もお、この姿見てわからないの? 悪魔よ! あ・く・ま!」
キッと幸雄をにらみつけ、その前でくるっと一回転してみせるザラベダ。
なんと言うか、躰のラインがしっかり出ていてすごくきれいだと幸雄は思う。

「で、なぜ私に石をぶつけたのか白状しなさい!」
ザラベダは落ちていた自分のトライデントを拾って突き付ける。
先が食事に使うフォークのように三つ又に分かれた槍の一種だ。
「だから、君を狙ったんじゃないよ。ちょっとむしゃくしゃしてさぁ。あっ、こんなことしてられないんだ」
幸雄は智樹のところへ行かなくちゃならなかったことを思い出す。
「ごめんね。石をぶつけちゃったお詫びにこれをあげるよ」
ポケットから板チョコを取り出す幸雄。
智樹の分と合わせて二枚持ってきたけど、智樹とは一枚を半分こすればいいやと思ったのだ。
「えっ? こ、これは?」
自分の躰ぐらいもある大きさのチョコを手にしてよろけるザラベダ。
なんと言うか可愛い。
「チョコだよ。その躰の大きさだと、いっぺんに食べると鼻血が出るかも。じゃあね」
幸雄はそう言ってその場を後にする。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ザラベダはそういうと、チョコをもって幸雄を追いかける。
背中のコウモリの羽で空を飛び、幸雄の肩に乗っかるのだ。
幸いザラベダの声に幸雄が立ち止まったため、彼女は何とか彼の肩に乗ることができた。
「ふう・・・もう! こんなのもらったら私のほうがもらいすぎじゃない! いいわ。取引しましょう。何が望み?」
ザラベダは彼の肩に座り込むと、そのままチョコの包み紙を剥いてむしゃむしゃと食べ始める。
小さな躰なのに大きなチョコにかぶりつく姿に、幸雄は思わず苦笑した。
「望みって言われても・・・これと言って望みなんてないけど・・・」
チョコを食べ終わるまでは降りそうもないザラベダに、幸雄は仕方なくそのまま歩き出す。
それにしても、ザラベダはボクに姿を見られて慌てていたのに、ほかの人にも見えちゃうんじゃないのだろうか?
ちょっとそんなことも頭をよぎったが、気にすることもないのだろう。

「嘘! 望みがないなんて嘘よ。たいていの人間は望みがあるわ」
幸雄の肩でキッと彼をにらみつけるザラベダ。
欲のない人間など彼女は会ったことがないのだ。
これまでの人間は、彼女が悪魔だと知ると、逆に利用してやろうという連中だった。
その上で彼女を何とか出し抜こうとするばかり。
この少年ユキオだってそうに違いない。

「そりゃボクだって、もっとゲームが欲しいとかもっとお小遣いが欲しいとかあるけどさ。悪魔にお願いはしないよ。だって、悪魔にお願いしたらよくないことがあるじゃないか」
多くの物語じゃ悪魔にお願いした人はろくなことにならないということを幸雄は知っている。
だから、ザラベダがどんなにかわいい見た目をしていても、何かをお願いするという気にはならなかった。
というよりも、ザラベダが悪魔ということ自体が信じられない。
むしろ、物語に出てくる妖精だと言ってくれた方がまだ信じられるような気がしたのだ。
「それはその人の受け取り方次第よ。一つの事象も見る方向によっていいことにもよくないことにも見えるもの」
チョコの甘い香りを漂わせてザラベダはそういう。
今回彼女にユキオをだまそうとかそういう意識はなかった。
石をぶつけたことを素直に謝り、悪魔だという彼女を見ても特に驚かず、それどころかチョコをくれるなんてお人よしもいいところだ。
だから、こっちもお人よしになってやろうというのだ。
悪い話じゃないだろうに・・・
そう彼女は思う。
一方で、幸雄はザラベダのいう見る方向によっていいことにも悪いことにも見えるという言葉に戸惑った。
それは見方によっては悪いこともいいことだっていうことなのだろうか?
ママが掃除しろ掃除しろと言うのも、悪いことではなくいいことだというのだろうか・・・

「ねえ、望みはないの?」
重ねて問いかけるザラベダ。
「ないってば」
幸雄は首を振る。
「それじゃ私が困るわ。チョコもらっちゃった分取引で返さなきゃ。石をぶつけられたにしては受け取りが多いのよ。そういえば、なんで石をぶつけたのかまだ聞いてないわ」
「だからザラベダを狙ったんじゃないってば。ママに小言を言われてむしゃくしゃしてたから、石を蹴飛ばして気を晴らそうとしたんだ。そうしたらそこにザラベダが・・・」
出がけの一件を思い出す幸雄。
ああ・・・帰ったら掃除しなくちゃならないのかぁ。
そう思っただけで家に帰りたくなくなる。
いっそ今日は智樹の家に泊まらせてもらおうか?
そんなことすら考えてしまうのだ。

「お小言?」
人間の親にはよくある行為だ。
子供を躾けるため、自分の思いをぶつける行為。
子供がどう思おうと、子供のためという名目で押し付ける。
それこそ受け取る側次第の行為だ。
「うん。ママはきれい好きでさ。毎日掃除機をかけないと気が済まないんだ。それをボクや姉さんにも押し付けてさ。姉さんはまだ一日おきぐらいに掃除するからそうでもないけど、ボクはあんまり掃除しないから、毎日毎日掃除しろ掃除しろってうるさいんだ」
「ふーん・・・ユキオも大変ねぇ」
同情するようにうなずくザラベダ。
「もうさ、そんなに掃除が好きなら、ママが掃除機になっちゃえばいいんだよ。そうしたら好きなだけ掃除できるじゃん」
その言葉にザラベダの目が輝く。
「承ったわ」
「えっ?」
幸雄がザラベダのほうを見ると、彼女は板チョコを一枚きれいに食べ終えていて、彼の肩から飛んでいく所だった。
「ザラベダ?」
「ふふふ・・・私に任せて」
「えっ?」
幸雄が何を任せてなのか聞こうと思った時には、ザラベダはもうそこにはいなかった。
なんだろう?
ボクなんか言ったかな?
ちょっと思い返してみるものの、何かを望んだつもりはない。
まあ、いいや。
智樹のところに急がなきゃ。
それにしても、悪魔と話したなんて言ったって、誰にも信じてもらえないよな、きっと。
幸雄はそう思って苦笑した。

                   ******

「ふう・・・」
思わずため息をついてしまう紗枝梨。
またやってしまったわ・・・
怒ったり声を荒げたりしないようにって思っていたのに・・・
それもこれもあの子がきちんと自分の部屋を掃除しないから。
根本的な原因はそこなのだと紗枝梨は思う。
姉の愛由美はそこそこ掃除をするのに、どうしてあの子は掃除をしないのだろう?
きっとあの子の部屋にはホコリが溜まっているんだわ。
私ならホコリまみれの部屋にいるなんて耐えられない。
呼吸をするだけでホコリを吸ってしまいそうでゾッとするわ。
紗枝梨はホコリまみれの部屋にいる自分を想像して身震いをする。
子供のころからきれい好きだった紗枝梨にしてみれば、どうしてそんなところにいられるかがわからないのだ。

ふう・・・
こんなことしていても仕方がないわね。
さっさと掃除機をかけてしまいましょう。
そう思い椅子から立ち上がる紗枝梨。
掃除機かけなんてめんどくさいだけだけど、ホコリが溜まることに比べたらマシだもの。
はあ、ホコリなんて溜まらない世界ならいいのに・・・
心の中でそう文句を言いながら、紗枝梨は掃除機をセットしていく。
さあ、掃除をしてしまわなくては・・・

「ふーん・・・あなたがユキオのママなのね」
「えっ?」
突然背後から声をかけられて驚く紗枝梨。
慌てて振り返るが、誰もいない。
「えっ?」
きょろきょろと部屋を見渡しても人がいる様子はない。
夫は会社だし、娘はまだ学校だ。
幸雄はさっき出かけてしまったし、それに女の声だったような気がする。
空耳?

紗枝梨がそう思って再び掃除機のセットをしようと思った時、ふと目に付くものがあった。
リビングのテーブルに人形が腰かけているのだ。
しかも、長くすらっと伸びた足をぶらぶらと揺らしているではないか。
「えっ? 人形?」
まさかそんなところに人形が置いてあるだなんて思いもしなかった。
しかも、なんだか不気味な人形だ。
躰全体にぴったりしたタイツのような黒い服を着ており、背中からはコウモリのような羽が生えている。
頭には先端が丸くなった角のようなものが左右に生え、手にはフォークのように先が三つに分かれた槍のようなものを持っている。
まさかさっきの声はこの人形が?
もしかして愛由美のものかしら・・・

「ユキオの願いをかなえに来たわ」
紗枝梨がよく確かめようとテーブルに近づくと、驚いたことにその人形が立ち上がる。
「えっ?」
人形がひとりでに立ち上がってしゃべった?
いや、人形にしては生き生きとしすぎている。
まさか本当に生きている人形?
紗枝梨は自分が見ているものがとても信じられない。
「ユキオはね、あなたが掃除機になっちゃえばいいって言っていたわ。だから私がその願いをかなえてあげるの。取引成立よ」
人形が背中の羽を広げ、くすくすと笑っている。
「え? 幸雄が? あ、あなたはいったい?」
違う・・・
これは人形なんかじゃない・・・
紗枝梨はだんだん恐ろしくなる。
「私は悪魔。悪魔ザラベダ。さあ、あなたは掃除機になりなさい!」
ザラベダはニヤッと笑みを浮かべると、持っていたトライデントの先端を紗枝梨に向ける。
そして何事かをつぶやくと、紗枝梨は糸の切れた操り人形のようにその場で意識を失った。

(続く)
  1. 2017/11/10(金) 20:47:34|
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サキュバスに堕ちる女たち

ブログ開設12周年記念SS週間も今日で七日目となりました。
中編が四日間で一本。
そして短編が今日を含めて三本連続投下となりました。

今日のタイトルは「サキュバスに堕ちる女たち」です。
まさにタイトル通りの作品ですので、さらさらっと読んでいただければと思います。
それではどうぞ。


サキュバスに堕ちる女たち

「遅くなってしまったわ・・・ヒロちゃんきっとお腹を空かせてるわね」
暗くなった夜道を急ぐ一人の女性。
タイトスカートのビジネススーツに身を包み、肩からはバッグを、手には食材の入った買い物袋を提げている。
自宅では子供が腹を空かせて待っているのだ。
自然と足取りが早くなるのは仕方がない。

いつもならこんな時間にはもう家で夕食の支度をしているはずだった。
今日に限って会議に駆り出され、しかもそれが長引くという最悪の状況。
途中で家に電話をかけ、子供には伝えてはいたものの、きっと一人で留守番は心細かったに違いない。
夫が早く帰っていればいいが、いつもの状況だと望み薄だろう。
彼とて決して好きで残業をしているわけではないはず。
定時に退社できるなど、今の社会では難しいのだ。

「こっちを・・・」
そこは家への近道。
公園を抜けて行けば外周を回るよりははるかに近い。
だが、自然公園でもあるその場所は、昼間こそ木々が木陰をもたらし人々が安らぐものの、夜は街灯の明かりが遮られ、闇が濃くなってしまう。
自然と人々も夜には公園に近づかなくなり、女性の一人歩きにはやや難があるところでもあった。
だが、背に腹は代えられない。
一刻も早く家に帰って子供を安心させたい。
その思いが彼女の脚を公園へと向けていた。

公園の中ほどまでは遊歩道も明るく、人気が少ないことを除けば何もない。
むしろ喧騒が薄れて静かになり、これはこれでホッとする人もいるであろう。
落ち着いて空を見れば星空も見え、天体観測が好きな者にはいい場所かもしれない。
だが、さらに足を進めていた彼女の前に、一人の男が現れた。

それは突然だった。
まるで空中から現れたかのよう。
もちろんおそらくは木陰になった闇の中に紛れていたのだろうが。
男はラフなTシャツにジーンズという格好だったが、それほど怪しい感じはしない。
むしろちょっと遅い時間に散歩がてら公園を通ってコンビニにでも行くような感じだ。
いや、実際そうなのかもしれない。
だから、男の姿を見た時に息をのんだ彼女だったが、ことさら騒ぎ立てることもなくやり過ごそうとしたのだった。

男が何事もなく脇を通り過ぎようとしたとき、彼女は男がこう口にしたのを聞く。
「いい女だな。我が物にふさわしい」
「えっ?」
その言葉に彼女は反射的に振り向いてしまう。
「あ・・・」
彼女のほうを向いていた男の目が赤く光り、彼女はその場から動けなくなってしまった。
なんで?
動けない・・・
た、助けて・・・
悲鳴を上げたくても上げられない。
そんな彼女に男はゆっくりと近づいてくる。
「そう怖がるな。お前はこれからとても楽しい暮らしを送ることになるのだ」
い、いや・・・
来ないで・・・
来ないでぇ!
心の中で必死に叫ぶ。
だが、躰は自由にならず、男にゆっくりと服を脱がされていく。
いやぁっ!

あん・・・あん・・・あん・・・ああん・・・
ピストンされるたびに躰を快感が走る。
犯されているというのになんという気持ちよさ。
夫とのセックスでは考えられない快感。
彼女はもう犯されていることも忘れ、彼の躰にしがみつく。
すでに躰は自由になっているというのに、逃げることも助けを呼ぶことも考えられない。
それどころかもっともっと犯してほしいと彼女は望む。
目の前の男の姿が変化し、青い肌に赤い目、牙の覗く口、背中にはコウモリのような翼が広がっているというのに、彼女にはまったく見えていないかのようだ。

「クククク・・・思った通りいいマンコだ。キュウキュウと締め付けてくる。いい淫魔になる素養があるぞ」
「ああ・・・淫魔?」
「そうだ。俺は淫魔。そしてお前もそうなるのだ」
「ああ・・・そんな・・・」
彼女は力なく首を振っていやいやをする。
だが、もはや心からの拒絶ではなくなっていた。
「ああん・・・あん・・・ああん・・・イく・・・イくぅ・・・イっちゃうぅ・・・」
「イけ。イって淫魔になってしまえ」
「ああああああああああ・・・ん」
全身を快楽にゆだねて絶頂を迎える彼女。
その様子に男は先が二つに割れた舌を出してぺろりと唇を舐めた。

気が付くと彼女は公園に一人でいた。
脱がされた着衣を身に着け、買い物袋やバッグを拾う。
そして何事もなかったかのように歩き出す。
その顔には妖しい笑みが浮かび、時々舌で唇を舐めるのだった。

                   ******

「ただいまぁ」
自宅の玄関を開けると、すぐに少年がやってくる。
「お帰りなさい」
まるで飛びついてきそうなぐらいの勢いだ。
きっとかなり一人で待っていたのだろう。
「ごめんねぇ。今日ママかなり遅くなっちゃった」
「ボクちゃんと留守番できたよ」
目に涙をいっぱい溜めながらも、必死に泣かないようにしている少年。
いつもより帰りが遅い母をずいぶんと心配していたのだろう。
「えらいわぁ、ヒロちゃん。ご褒美にいいことしてあげる。うふふふ・・・」
妖しい目で少年を見下ろし、舌なめずりをする母。
少年はその様子にどこか不安を覚える。
「い、いいよ、ママ。それよりお腹が空いた」
時間的に言っていつもなら夕食を終えている時間だ。
少年の訴えはもっともなものだったが、母は荷物を床に下ろすと、そのまま少年の前にしゃがみ込む。
「うふふふ・・・実はママもとってもお腹ペコペコなの。あなたじゃちょっと物足りなさそうだけど、まずはあなたで味見するわね」

「な、なに? ママ、そこは汚いよ・・・」
いきなりズボンのチャックを開けられ、おちんちんを取り出される少年。
その小さなものを欲望に濡れた目で見つめる母。
「うふふふ・・・まだまだ未熟ねぇ。でもおいしそう。大丈夫よヒロちゃん。おちんちんは汚くなんかないの。それどころかママの大好物なのよぉ」
そう言って少年のおちんちんを口にくわえる母。
「マ、ママ、やめてぇ」
未知の体験といつもの母とは違うことにショックを受ける少年だったが、彼女の舌の動きにすぐに躰が反応してしまう。
「んふふふ・・・んちゅ・・・んむ・・・んちゅ・・・」
優しく、激しく、少年のおちんちんを口内で愛撫する母。
その目がだんだんと赤く輝きはじめる。
「マ、ママ?」
「んちゅ・・・くちゅ・・・んむ・・・」
少年は母から離れようとするが、なぜか躰が離れてくれない。
それどころか、躰の中から何かが出てこようとすることに恐ろしさを感じていた。
「ママ、なんか出ちゃう・・・出ちゃうよぉ・・・あああああ・・・」
「んむ・・・んぐ・・・ぷふぅ・・・うふふふ・・・美味しい」
少年の出した精液をおいしそうに飲み干す母。

「マ、ママァ・・・」
思わず床にへたり込んでしまう少年。
いきなりおちんちんをしゃぶられたうえ、何か出てしまったのだから当然かもしれない。
「あらら・・・だめよ、ヒロちゃん。あなたにはもっともっと出してもらうんだから。ママこれっぽっちじゃ全然足りないわぁ」
ジュルリと舌なめずりをする母。
その目は赤く輝き、肌の色が濃い青に染まっている。
「マ、ママ・・・いったい?」
母親の変貌に恐怖を覚える少年。
「クフフフフ・・・なんだかいい気持ち・・・もっともっと男のエキスがほしいわぁ」
「や、やだ・・・やだぁ・・・」
お尻をついたままの姿勢で何とか後ずさる少年。
だが、母はそれを逃がそうとはしない。
「だめよぉ、ヒロちゃん。逃がしはしないわぁ。キヒヒヒヒ・・・」
爪が長くなった手で少年の肩を抑え込む母。
そしてそのまま少年にキスをする。
「あ・・・」
途端に目がとろんとなってしまう少年。
「キヒヒヒヒ・・・一番搾りだけじゃなく、二番絞りもいただくわね。キヒヒヒヒ・・・」
そのまま再度むき出しになった少年のおちんちんをくわえ込む。
出したばかりのおちんちんは、再び彼女の口内で硬くなっていくのだった。

                   ******

「お帰りなさい。あなたぁ」
うるんだような目で夫の帰りを出迎える妻。
先ほどまで少年に見せていた母親の顔とはまた違うのはいつものことだが、今日はより一層違った表情を浮かべている。
まさに女という表情に、帰ってきた夫も戸惑った。
「ただいま。どうしたんだい? なんだか今日はいつもとは雰囲気が違うね」
「だってぇ・・・ずっとあなたの帰りを待っていたんですもの」
人差し指を口にくわえておねだりをする妻。
「おいおい、いきなりどうしたんだ? 弘樹(ひろき)はどうした?」
「ううーん・・・疲れたのかお風呂場で転がってるわ。萎びちゃったみたい」
「えっ?」
驚いて風呂場の方へ行こうとする夫。
だが、妻がその腕を取って引き寄せる。
そして空いた方の手で彼の股間をさすり始めた。
「いいじゃない、あの子のことなんかぁ。それよりもぉ・・・私これが欲しくてたまらないのぉ・・・いいでしょ」
「おい、どうしたんだ? いつものお前らしくないぞ」
掴まれた腕を振りほどこうとする夫。
「ん、もう・・・うるさい男ね。死んだガキのことなんかどうでもいいじゃない。えい!」
振りほどこうとする夫を強い力で引き寄せ、いきなりキスをする妻。
「なっ?」
突然のことに驚く夫だったが、やがてその目がとろんとなってしまう。
「クフフフフ・・・お前のエキスもたっぷりといただくわね。キヒヒヒヒ・・・」
先が二つに割れた舌で舌なめずりをする妻。
その肌の色がみるみる青く染まっていく。
「う・・・あ・・・」
「キヒヒヒヒ・・・どう、あなたぁ? アタシ淫魔になっちゃったのよぉ。すてきでょ? おチンポ勃っちゃうでしょぉ? キヒヒヒヒ・・・」
ばさりと服を脱ぐ妻。
そこにはみだらな黒い下着を身に着け、背中からコウモリを翼を生やした女の姿があった。
「キヒヒヒヒ・・・以前あなたにもらった下着よぉ。前はいやらしくて着ける気にならなかったけど、今のアタシにはふさわしい衣装だわぁ。キヒヒヒヒ・・・」
妖しい笑みを浮かべて笑う女淫魔。
「ああ・・・あああ・・・」
夫はその姿にうっとりと見惚れ、ズボンの前をはちきれんばかりにする。
「キヒヒヒヒ・・・さあ、たっぷりと吸い取ってあげる。あの子よりは長持ちしてよね。キヒヒヒヒ・・・」
女淫魔はそういうと、夫だった男のズボンを爪が長く伸びた指先で下ろしていった。

                   ******

「ああん・・・もう終わりぃ? だらしない男ね。やっぱりあのガキの父親ということかしら・・・キヒヒヒヒ・・・」
萎びて床に転がっている男の死体を見下ろし笑う女淫魔。
「ああん・・・まだまだ男のエキスが欲しいわ。もっともっと・・・」
自分の胸を揉みしだき、先が二つに割れた舌で唇を舐める。
「キヒヒヒヒ・・・まだまだ男を漁ってこなきゃ・・・」
女淫魔はそう言うと、窓を開けて飛び立った。

                   ******

「えっ? 何?」
公園の奥から聞こえてくる喘ぎ声のようなもの。
まさかとは思うが、夜の公園で・・・その・・・“あれ”をやっている人がいるということなのだろうか?
帰宅途中のこんな時間帯に公園なんか通るんじゃなかったとは思ったものの、なんとなく気になってしまう。
それに・・・
もしかしたらうちの学校の生徒かもしれない・・・
教師である彼女にはそれが一番気がかりである。
高校生というまだ未熟な精神は、時に肉体の快楽を求めてしまう可能性があるのだ。
それを教え諭し、導くのも教師の仕事ではないだろうか。
ともかく状況の確認だけでも・・・
彼女は音のする方へと足を向けてしまった。

「ひっ」
その場の光景に思わず息をのむ彼女。
そこには真っ青な肌で黒い下着を身に着け、背中からコウモリの翼を生やした女が、男の上にまたがって腰を振っていたのだ。
思わず振り返って逃げ出そうとした彼女だったが、その前に別の男が立ちはだかる。
「ひぃっ!」
「ククククク・・・のぞき見とはよくないな。何なら一緒に混じったらどうだ?」
「い、いえ・・・結構、結構です」
そう言って逃げようとするが、なぜか足が動かない。
それどころか、男の赤い目を見ていると、なんだか躰が熱くなってくるようだ。

「キヒヒヒヒ・・・ご主人様ではありませんか」
男から離れ、青い肌の女が立ち上がる。
男はしわしわに萎びていて、すでに生きていないようだ。
「クククク・・・淫魔になった気分はどうだ?」
「はい。最高の気分ですわぁ。もっともっと男たちのエキスを味わいたいですぅ。キヒヒヒヒ・・・」
「ひぃーっ!」
彼女の目の前で男のほうも青い肌に変色していく。
背中からはシャツを突き破るようにしてコウモリの翼が生えてきた。
「どうも人間の服は合わないな。まあいい。女、お前にも快感を与えてやろう」
「い、いや・・・いやですぅ!」
大声をあげて逃げ出したいのに、躰がいうことを聞いてくれない。
それどころか彼に抱かれたいとすら思ってしまうのだ。
「キヒヒヒヒ・・・淫魔はいいわよぉ。大好きなセックスを存分に味わえるわぁ。あなたも淫魔になりなさい。キヒヒヒヒ・・・」
彼女の背後から躰を押さえつけてくる女淫魔。
その二つに割れた舌先が、彼女のうなじをぺろりと舐める。
「クククク・・・さあ、たっぷりと楽しむがいい」
「ああ・・・あああ・・・」
彼女の意識は闇に飲み込まれた。

                  ******

「うふふふふ・・・」
真っ赤な舌で唇を舐める女。
先ほどまでとは全く違う欲望にうるんだ目。
そこには以前の彼女とは全く違う彼女がいる。
「キヒヒヒヒ・・・ご主人様に抱いてもらって気持ちよかったでしょ?」
「はい、とっても・・・うふふふ・・・これからは男のエキスをたっぷりと味わいたいですわぁ」
自分の豊かな胸を両手でもてあそぶ彼女。
「クククク・・・すぐにお前も男のザーメンなしではいられない淫魔になる。楽しみにしていろ」
「はい。うふふふ・・・明日の学校が楽しみ。男子生徒のエキスをいっぱいいただきますわ。うふふふふ・・・」
「あら、いいわね。アタシも一人二人もらおうかしら。キヒヒヒヒ・・・」
「ええ、いいわよ。二人で生徒たちをいっぱい食べましょうね。うふふふ・・・」
顔を見合わせて妖しい笑みを浮かべる女教師と女淫魔。
いや、すでに彼女たちは女淫魔同士なのだ。
その様子に、二人を変えた男の淫魔はにやりとほくそ笑むのだった。

END


今回の作品は、いつも素敵な作品をpixivに投下していらっしゃいますmarsa様https://www.pixiv.net/member.php?id=375450の作品に影響を受けて書きました。
特に新任教師https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=62260018シリーズや、改宗の村https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=62882446シリーズに登場する青肌の淫魔が素晴らしかったので、作中の淫魔のベースとさせていただきました。
marsa様、勝手にイメージとして使わせていただきすみません。
ありがとうございました。

  1. 2017/07/23(日) 20:13:56|
  2. 異形・魔物化系SS
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妻も娘も失った男

ゴールデンウィークですので、一本SSを投下いたします。
タイトルは「妻も娘も失った男」です。

実はこのSSは、すでに約二年前にはできあがっていたのですが、いいタイミングで発表しようとか考えているうちに、どんどん時間がたってしまいました。orz

もともとこのSSはpixivでお世話になっておりますnezumi様のイラスト、「昆虫怪人」や、「怪人製造中」に刺激を受けて書いたものでして、さっさと公開しなくてはならないなぁとは思ってはいたのですが・・・ (^_^;)ゞ
(「」内タイトルをクリックでpixivに飛べます)

nezumi様のイラストを脳裏に浮かべながらお読みいただければと思います。
それではどうぞ。


妻も娘も失った男


それは一本の電話からだった・・・
仕事中の会社にかけられた妻からの電話。
パニックを起こしているのか、支離滅裂なことをわめきながら、とにかく帰ってきての一点張りだったため、仕方なく上司に早退の許可をもらって俺は家に帰った。

家に着くと、妻が泣いていた。
俺を見ると飛びついてきて、あの子が、智香(ともか)がと言ったきり、嗚咽を漏らすだけで要領を得ない。
何とか妻をなだめ、落ち着かせて話を聞き、そして俺は言葉を失った。

なんと智香の通う小学校が、テロリストに占拠されたというのだ。
あわててテレビを点けてみたが、どこにもそんなニュースは流れていない。
妻が言うには、今のところ報道管制がしかれているのだと言う。

発端は小学校から路上に飛び出してきた男だったらしい。
その男は、躰の半分がまるで焼け爛れたかのようにグズグズになっており、助け起こした人に苦しい息の下から、学校に化け物が現れ、占拠してしまったと言ったのだ。
化け物は学校の女性教師を取り込み、真っ黒な蟻のようなものにしてしまったらしい。
蟻になった女性教師は化け物の手先となって、ほかの女性教師を襲いだし、さらには女子生徒までもが化け物によって蟻にさせられたという。
男は酸によって溶かされるか、蟻となった女性教師や女子生徒の餌とされてしまったとも。

もちろん最初は怪我による男の精神異常と思われたが、学校に確認に行った警察官が二人とも戻ってこず、窓から全身真っ黒な女の姿を見かけたことから、学校で何かが起こったというのはほんとらしいというのだ。

確かに本当ならそろそろ家に帰ってきてもいい時間なのに、智香は戻ってきていない。
俺は背筋が冷たくなるのを感じていた。

                   ******

数日が経った・・・
智香は帰ってこなかった。
妻は憔悴し、食事ものどを通らないようだ。
俺も食欲がない。
我が家はまるで灯が消えたみたいだ。

学校で何があったのかはわからない。
情報が錯綜し、本当にわからないのだ。
突入した警官隊は誰一人戻ってこなかった。
機動隊も遠巻きに眺めるだけ。
学校の付近は立ち入り禁止になっている。
そして、黒い女たちが時々目撃された。
それはいずれも裸に近いような姿だが、全身は真っ黒で、口元だけが白く覗いているらしい。
眼はなく、額に一対の触覚が伸びていて、どうやらそれで周囲を把握するようだ。
お尻は巨大に突き出しているらしくまさに直立した蟻のような姿。
そしてその黒い女には、大人も子供もいるらしい・・・

やがて黒い女だけではなくなった。
黄色や白や茶色の女も現れたのだ。
それと同時に、奇妙なうわさが流れてきた。
黒い娘が帰ってくると、その家の母親がいっしょに消えるというのだ。
黒い娘とともにどこかへ行ってしまうらしい。
旦那さんはどうなったのか・・・
俺には悪い想像しか浮かばない・・・
智香・・・
頼むから無事に戻ってきてくれ・・・

                   ******

何度目かの眠れぬ夜を過ごしていると、不意に玄関が開いた音がした。
おかしいな、鍵はかけたはずなのに・・・
俺は様子を見にベッドを抜け出して玄関へ向かおうとする。
「あなた?」
隣で妻が眼を覚まし、俺を見上げた。
彼女もあんまり眠れていないようだ。
「もしかして智香が・・・」
それは彼女の心からの希望なのだろう。
「そこで寝ていなさい。俺が様子を見てくるから」
俺はそういうと部屋を出る。
後ろで小さく、気をつけてと言う妻の声が聞こえた。

リビングに入ったところで俺は足を止める。
闇の中に人影があることに気が付いたのだ。
「誰だ?」
俺はすぐに室内の明かりをつける。
明かりに照らされたその姿に俺は思わず息を呑んだ。

リビングにいたのは少女だった。
いや、少女のような姿をした何かだ。
それは頭から足の先まで真っ黒に覆われており、つややかに輝いている。
躰の線はまだ少女そのもののやわらかさを見せており、そこだけを見れば少女が奇妙な全身タイツを着ているようにも見えるだろう。
だが、頭は口元だけを除きすっぽりと覆われており、目も耳も髪の毛も存在しない。
額からは一対の触角のようなものが生えていて、小刻みに揺れている。
お尻のところには巨大な昆虫の腹部のようなふくらみが付いており、どう見ても蟻と少女が融合した生き物にしか見えなかった。

「うふふ・・・ただいまかな、パパ」
俺が何も言えずにいると、その蟻少女がそう口にした。
「ま・・・まさか・・・智香、智香なのか?」
「違うよー」
くすくすと笑う黒い少女。
「それは私が生まれ変わる前までの名前。私は女王様に生まれ変わらせていただいたの。今の私はクロアリ0125なの。間違えないでね」
笑みを浮かべたまま蟻少女はそう言った。
「クロアリ0125・・・」
「うん。見て。私の躰。素敵でしょ? 女王様に蟻にしていただいたのよ」
くるりと一回転して自分の躰を見せ付ける蟻少女。
「な、なんで・・・なんでそんな躰に・・・」
「うふふ・・・女王様がね、最初にこの服を用意してくださったの。最初は裸みたいで恥ずかしいって思ったけど、着るとすごく気持ちよくて・・・みんなで気持ちいいねって言っていると順番に女王様に呼ばれて、触覚とお尻を付けてもらって蟻になったの。香織ちゃんも沙耶ちゃんもみんな蟻になったんだよ」
それがとても楽しい思い出であるかのように無邪気に話す蟻少女。
俺は頭を何かで殴られたかのような気がした。
この蟻少女は智香なのだ。
人間のままの口元にほくろがある。
間違いなく智香のほくろだ。
「智香・・・」
「もう違うってばぁ。私はクロアリ0125なの。それよりママはいないの?」
触角をぴくぴくと震わせている蟻少女。
なぜだ・・・
なぜこんなことになってしまったんだ・・・

「あなた? もしかして智香が帰ってきたの?」
奥から妻がやってくる。
きっとリビングで話し声がしたからだろう。
俺はしまったと思ったが、もう後の祭りである。
「あ、ママだ。ママこんばんはー」
蟻少女がにこやかに話しかける。
「えっ? えっ? えっ?」
目の前の蟻少女がママと呼びかけることに混乱したのか、妻が困惑の表情を浮かべる。
「喜んで、ママ。女王様がね、ママも蟲にしてくれるんだって。ママもいっしょに蟲になろ。いっしょに女王様にお仕えしよ」
「な!」
俺は驚いた。
うわさはこのことだったんだ。
変わり果てた子供たちが、その母親まで連れて行ってしまうのだ。
そんなことはさせてたまるものか。

「ママ、これを着てね」
蟻少女が茶色の布のようなものを取り出す。
バサッと広げられたそれは、両手両足の付いた全身タイツ。
これを妻に着せようというのか?
「だめだ! 着ちゃだめだ!」
俺は思わず声を荒げる。
「もう、パパったら邪魔しないで! これを着ればママも蟲になれるんだよ。いっしょに女王様にお仕えすることができるんだよ」
俺が止めたことで、蟻少女は腰に手を当てて怒っている。
だが、あれを着せるわけにはいかない。
あれを着せたら妻も智香といっしょに行ってしまうに違いないのだ。
「だめだ! 着るんじゃない!」
俺は妻をにらみつける。
明らかに妻はどうしようか悩んでいるのだ。
ここで強く止めねば、きっとこの子と行ってしまう。

「智香? あなたは本当に智香なの?」
「それは私が人間だったときの名前だよ。今の私はクロアリ0125なの。ママもすぐに蟲になれるよ。だからそれを着ていっしょに行こ」
無邪気な笑顔で妻に語りかける蟻少女。
その声は智香のものだ。
その口元のほくろも智香のものだ。
躰つきだって智香のものに間違いない。
畜生・・・
畜生・・・
どうして智香がそんな蟻の格好をしているんだ・・・

「あなた・・・」
俺のほうを見る妻。
その目は行かせてくれと言っている。
おずおずと床に置かれた全身タイツを手に取ろうとしている。
「だめだ! 許さん!」
俺は首を振る。
「もうパパったらうるさいなぁ。最後のお別れに今晩一晩待ってあげてもいいよって思っていたのに、こんなんじゃすぐにママをつれてっちゃうよ?」
触角を震わせている蟻少女。
目はないのに、きっと俺をにらみつけているのだろう。
「だめだ! ママは行かせない! 女王様とやらに言え! ママは行かせないし智香も返してもらうって!」
そうだ。
智香を返してもらうんだ。
こんな奇妙な格好はやめさせ、家に戻ってこさせるんだ。
女王とやらに会いに行ってやる!

「パパって何もわかってないんだね。ママが一緒に来ないとママは女王様に逆らう生き物だから溶かせって言うよ。そうしたらママ死んじゃうんだよ? それでもいいの?」
「いいわけないだろう! だから俺を女王様のところに連れて行け! 女王様やらと話し合う!」
俺は妻の前に立つように進み出る。
「パパは男だからだめ。女王様は男はいらないっていうの。だからママだけ連れて行くの」
「いいから連れて行け!」
「もう、パパはうるさい。少しおとなしくしてて」
そういうと蟻少女はくるりと背を向けた。
「うおばっ!」
蟻少女の巨大なお尻から何かの液が吹きかけられる。
俺は急速に躰がしびれ、その場に倒れこむ。
「あなたっ!」
あわてて妻がそばに寄ってくるが、俺は意識ははっきりしているものの、躰が動かず、声もうまく出てこない。
「大丈夫だよママ。女王様は何も言ってないからパパを動けなくしただけ。ねえ、早くあれを着ていっしょに来て」
だめだ・・・
行ってはだめだ・・・
俺はそう言いたかったが、口が思うように動かない。
首を振ることもできず、ただ妻を見上げるだけだ。
妻は俺と蟻少女を交互に見比べながら、やがて意を決したようにこう言った。
「あなた・・・ごめんなさい」
そして茶色の全身タイツを持って奥の部屋へと行ってしまった。
俺はそれをただ見ているだけだった。

妻が出て行ったあとも、俺は何とか躰を動かそうと努力した。
だが、しびれは一向に収まらず、まったく身動きが取れない。
そんな俺を蟻少女は笑みを浮かべながら、ソファに座って眺めていた。

やがて奥の部屋から妻が出てくる。
俺はその姿に思わず息を呑んでしまった。
妻は首から下をあの茶色い全身タイツで覆っており、まるで何も着ていないかのように躰の線があらわだったのだ。
考えてみれば、もうしばらく妻の躰を見ていない。
普段わりとゆったりした服を着ていることもあって、妻の躰がまだこれほどきれいなラインを保っているとは思わなかったのだ。

俺がじっと見ていることに気が付いたのか、妻は少しほほを赤らめる。
「いやだわ・・・そんなに見ないで。恥ずかしい」
躰のラインを隠そうとする妻。
だが、もちろん全身タイツでは隠せるものではない。
きれいだよと妻に言ってやりたかったが、俺の口は少しうめき声を出せただけ。
畜生・・・
畜生畜生畜生・・・

「わぁ、やっぱりママは女王様が選んだだけのことはあるね。すごくきれい。とても似合っているよ」
蟻少女が立ち上がって妻にそういう。
目がないのに見えているのは不思議だが、おそらくあの触覚の力なのだろう。
もしかしたらあの触覚によって操られているのかもしれない。
「さ、ママ行こう。女王様がお待ちかねよ」
すっと手を差し出す蟻少女。
妻はその手を受け取るかどうか迷っている。
「どうしたのママ? ママが行かないと私の蟻酸でパパを溶かしちゃうよ」
その言葉にはっとしたように俺を見る妻。
だめだ・・・
俺は溶かされてもいい・・・
だから・・・
だから行ってはだめだ・・・
俺は必死にそう訴えようとした。
だが、妻は俺から目をそらすと、蟻少女の手を取った。
「お願いだからパパには手を出さないで」
「うん。ママが来てくれればパパはどうでもいいの」
「わかったわ。行きましょう」
妻は蟻少女といっしょに玄関へ向かう。
途中、一度だけ俺のほうを振り返ったが、妻は何も言わずに少しだけ悲しげな表情で俺を見つめるだけだった。
俺はただそれをなすすべなく見送るしかなかった・・・

                   ******

「う・・・くそっ」
やっと躰が動くようになってくる。
あれからどのくらい経ったのか?
俺は必死に躰を動かして起き上がる。
よし。
何とかなりそうだ。
俺はよろめきながら玄関へと向かう。
待ってろ・・・
すぐに助けに行く。
女王とやらをぶちのめし、妻と娘を救うのだ。
畜生!
絶対助けてやるからな・・・

俺は玄関を出ると周囲を見渡した。
まだ夜は明けていない。
それほど時間は経っていないということか?
パジャマ姿のままだがかまうものか。
たぶん妻たちは学校にいるだろう。
だが今は学校は立ち入り禁止のはず。
どうやってここまで・・・
そう思った俺の目に地面に開いた穴が映る。
これか・・・
確かに智香は蟻になってしまっていた。
蟻だから穴を掘ってきたというわけか。
この穴を通れば学校まで続いているかも。
考えている暇はない。
俺は穴にもぐりこんだ。

穴は大人の俺が通ってもまだ余裕があるぐらいの太さだった。
きっと妻を連れて行くために広めにしたのかもしれない。
だとすれば、横穴など作らず、まっすぐ学校まで通じている可能性が高いだろう。
俺は這いずるようにして穴の中を進んでいく。
二人とも待っていろ。
きっと俺が助けてやるからな。

どれぐらい進んだだろうか?
穴の中では右も左もわからない。
ただとにかく先へ進むだけ。
いつになったら出口に付くのかまったくわからない。
だが、とにかく俺は先へ進むだけだった。

不意に周囲が広がった。
どうやら穴から抜け出たらしい。
幸い蟻少女とは出くわさなかったようだが、ここはいったい?
そう思って周りを見ると、どうやら思ったとおり学校の敷地内らしい。
しかも、体育館の裏手である。
芝生になっていて地面がやわらかそうだから、ここから穴を掘り始めたのかもしれない。
見るとほかにもいくつか地面に穴が開いている。
ここから蟻少女たちは外へ出て行っているのだろうか。

俺は妻を捜すために校舎に近づいていく。
真っ暗な校舎。
どこにも明かりはついていない。
月明かりのおかげで多少は見えるが、蟻少女たちは明かりは必要ないらしい。

体育館の脇に扉がある。
あそこから入れるかもしれない。
俺は近づいてそっと扉をスライドさせてみる。
すると思ったより簡単に扉が開いた。
覗き込むと、中はやはり暗い。
だが、窓から差し込む月明かりで、中の様子はうっすらとわかる。
何だあれは?
思わず声に出しそうになって慌てて口を押さえてしまう。
がらんとした体育館の中央に、小山のような物体がうごめいていたのだ。
そう、それはまさにうごめいていた。
何か巨大な心臓かなんかのように脈動していたのだ。
赤黒い巨大な小山のような肉の塊。
そんなのが体育館にあったのだ。

「あっ」
今度はついに声を上げてしまった。
その巨大な肉の塊に、先ほど見た茶色の全身タイツ姿の女性が捕らえられているのだ。
両手両足を肉の壁にめり込ませ、まるで磔にされているみたい。
間違いない。
あれは妻だ。
妻があの肉の塊に捕まっているんだ。
「由梨香(ゆりか)!」
俺はすぐさま駆け寄っていく。
だが、妻のところにたどり着けはしなかった。

妻に駆け寄ろうとした俺は、足元の変化に気づかなかったのだ。
今まで固い床だと思っていた足元は、妻に近づくに連れて変化し、その肉の塊と同じような肉の床になっていたのだ。
気が付いたときには足元は肉に埋まり、俺はバランスを崩して前のめりに倒れてしまう。
躰を支えるために床に着いた手も、見る間に肉に埋もれていき、俺はまるで泥沼に四つん這いで這っているような体勢になっていた。
「うわっ、くそっ」
俺は必死に両手を引き抜こうとしたものの、まさしく泥沼の中に手を突っ込んでいるようなもので抜けてこない。
足もひざまで埋まってしまってどうしようもない。
くそっ・・・
ここまで来て・・・

「もう、パパったら、また邪魔しに来たの? しつこいなぁ」
口元に笑みを浮かべた蟻少女がもがいている俺の前に現れる。
「智香・・・」
「違うって言ってるでしょ! 私はクロアリ0125。やっぱり人間って下等で頭悪いのね」
「くそっ、そこをどくんだ!」
俺は蟻少女をにらみつける。
だが、威勢のいい言葉とは裏腹に、俺の両手両脚はがっちりと肉の中に埋もれている。
「だめだよパパ。今ママが女王様に蟲にしてもらっている最中なの。終わるまで邪魔しないで」
「蟲にだと?」
「そうだよ。ママは女王様に選ばれたの。連れてきても中には女王様に選ばれない人もいるから、ママは幸運だったのよ」
肉の床の上に問題なく立っている蟻少女。
どうしてなんだ?
なぜ妻と智香なんだ?
「幸運だなんてことあるものか。女王とやらに会わせろ! 由梨香と智香を返せ!」
「うるさいなぁ。少しは静かにして。またしびれさせちゃうよ」
くっ・・・
ここまで来てしびれさせられてはかなわない。
何とかこの手足を引き抜いてしまうまでは・・・

「あなた? あなたなの?」
俺の声が届いたのか、巨大な肉の塊に捕らわれている妻の声がする。
「由梨香。俺だ。待ってろ、すぐに助けに行く」
くそっ、何でこう手足が引き抜けないんだ・・・
「どこにいるの? いやぁ! 何も見えない! 何も聞こえないわ! あなた、どこなの?」
何だって?
俺は驚いて顔を上げる。
見ると、妻の頭は口元だけが覗くマスクのようなものをかぶせられていた。
眼も耳も完全にマスクに覆われており、髪の毛もまったくない。
まるで目の前にいる蟻少女の頭部とほとんど同じなのだ。
そんな・・・
もう妻は蟲にされつつあるというのか?
「由梨香! 由梨香!」
「いやぁっ! 怖い! 何も見えない! 何も聞こえない!」
俺の呼びかけも聞こえていないようで、恐怖に首を振っている。
「大丈夫だよママ。すぐに女王様が触角をつけてくださるわ。そうすれば女王様のお声も聞こえるようになるし、周りのこともすごくはっきり感じるようになるわ」
蟻少女は妻を見上げて笑みを浮かべている。
もうすぐ仲間になるとでも言うつもりか?

「いやぁ・・・いやよぉ」
「由梨香! 由梨香ぁ!」
俺は必死に手足を動かそうとするが、まったく動かせない。
絶望だけが重くのしかかってくる状態だ。
俺の声も妻には聞こえないようで、妻は恐怖に小刻みに震えている。
いや、違う・・・
恐怖に震えているんじゃない。
妻の躰に何かが流し込まれているんだ。
妻の躰には肉塊から何本かのチューブのようなものが伸びている。
あちこちにつながれているそれらから、何かが流し込まれているのだ。
そんな・・・
妻が蟲にされてしまう・・・

「ああ・・・あああ・・・何? 何なのこれ?」
妻の声がちょっと変化する。
先ほどまでの恐怖ではなく、甘い感じだ。
「気持ちいい・・・何だか気持ちいいの・・・ああ・・・いい・・・」
躰を身悶えさせている妻。
全身のラインがあらわになっているので、それがなんともなまめかしい。
こんな状況なのに、俺は思わず見つめてしまう。

やがて妻の体に変化が現れる。
形のよかった両胸が、まるでメロンかスイカのように巨大になっていくのだ。
躰を覆っている全身タイツは、その変化を何の問題もなく受け入れていくようで、まるで妻の肌そのもののよう。
チューブがつながった背中からは、じょじょに薄い膜のようなものが広がり、左右に伸びて巨大な斑点のある翅になっていく。
まるで蝶か蛾の翅のようだ。
妻は・・・
妻は蛾になるというのか?

「ああ・・・ああ・・・」
口をだらしなく開き、まるで快感に酔いしれているかのような妻の声がする。
妻の躰を覆う茶色の全身タイツもつややかに輝き、まるでエナメルのようだ。
広がった翅は大きく、妻の背丈ほどにもなっていく。
翅には黒い大きな斑点が付いており、まるで目玉のよう。
俺は妻の変化をただ黙って見ているしかなかった。

「ひぎぃっ!」
突然妻が悲鳴を上げる。
あまりのことにうつむいていた俺が顔を上げると、妻のマスクに覆われた頭の額部分に二本のチューブが突き立っていた。
「由梨香!」
チューブはすぐに引き抜かれ、その開いた穴に、なにやら木の葉の葉脈のような形のものがはめ込まれる。
「ひゃうっ!」
それは妻の額に密着し、二本の震える触角となる。
蛾の触角だ。
「由梨香!」
「ああ・・・ああああ・・・何これ・・・感じる・・・感じるわぁ・・・すごく感じるのぉ」
妻の額で触角が揺れ、そのたびに妻の躰が小刻みに揺れている。
「ああ・・・はい・・・私は毒蛾・・・女王様にお仕えする毒蛾・・・」
「由梨香! しっかりしろ! 負けるんじゃない! 気をしっかりと持つんだ!」
俺は必死に呼びかける。
聞こえなくたってかまわない。
もう叫ぶしかないのだ。

不意に妻につながっていたチューブがすべてはずされる。
チューブの抜けたあとは痛々しい穴が開いていたものの、それらは見る見るうちに消えていく。
やがて、両手両足が自由になった妻は、ふわりと床に降り立った。
「由梨香・・・」
俺は床に四つんばいになったまま、妻の姿を見上げる。
背中に大きな翅を広げた妻の姿は美しかった。
だが、それはもう人間の美しさではなかった。
着ていた全身タイツは肌に密着し、巨大な胸には乳首が浮き出ている。
股間も性器が浮き出ていて、とてもなまめかしい。
足はハイヒールのような形になっていて、尖ったつま先と高いかかとが肉の床を踏みしめていた。
マスクで覆われた顔は口元だけが元のまま。
目も耳も髪の毛もなくなっている。
変わりに木の葉の葉脈のような触角が二本、額でさわさわと動いていた。
「由梨香・・・」
俺はもう一度妻の名を呼ぶ。
返事が返ってくることを期待して・・・

「うふふふふ・・・」
妻の口から小さな笑いが漏れる。
「あなたったら、まだそこにいたの? バカねぇ。さっさと逃げ出せばいいものを」
「由梨香・・・」
「違うわ。それは私が生まれ変わる前の名前よ。私は女王様のおかげで生まれ変わったわ。見て。私は毒蛾。今の私の名はドクガ0021。女王様にお仕えする蟲の一員なの。うふふふふ」
笑みを浮かべながらゆっくりと俺のほうへ歩いてくる妻。
俺は絶望に打ちひしがれる。
助けられなかった・・・
妻は蟲に・・・毒蛾にされてしまったのだ。
智香同様、女王に仕える蟲になってしまったんだ・・・
「くっ・・・」
俺は歯噛みする。
畜生畜生・・・

「うふふふ・・・おめでとうママ。これでママも蟲の仲間ね」
蟻少女の智香が妻のそばで微笑んでいた。
「ありがとう、クロアリ0125。でも私はもうあなたのママなんかじゃないわよ。私たちは蟲同士。女王様にお仕えする仲間でしょ」
「そうね。私たちは蟲同士。仲良くしましょ」
「もちろんよ。よろしくね、クロアリ0125」
「こちらこそ、ドクガ0021。触角の具合はどう? 素敵でしょ?」
「ええ、すばらしいわ。今まで目や耳に頼っていたなんてバカみたい。触角がすべて教えてくれるわ。獲物がどこにいてどんな姿でどんな匂いを出しているのか。空気の動きさえ感じ取れる」
くるりと一回転して喜びを表している妻。
俺は二人の会話をなすすべなく聞いているだけだった。

「うふふふふ・・・ところで、この床に這いつくばっている無様な男をいつまで放っておけばいいのかしら? 私、生まれ変わった自分の能力を確かめてみたいわ」
妻が俺のほうを向く。
床に這いつくばった無様の男とは俺のことか?
「うふふふ・・・私は女王様から何も命じられてはいないわ。あなたの好きにすればいいんじゃない? ドクガ0021」
「うふ・・・そうね。そうさせてもらおうかしら。うふふふふ・・・」
さらに俺に近づいてくる毒蛾になった妻。
その口元には今まで見たこともないような冷酷な笑みが浮かんでいた。
「由梨香・・・俺を殺すつもりなのか?」
「ほんとバカねぇ。言ったでしょ。私は由梨香なんていう名前じゃないって。私はドクガ0021。それぐらい覚えなさい」
「ドクガ・・・0021・・・」
「ハイ、よくできました。見てぇ、このおっぱい。大きいでしょ? この中には毒液がたくさん詰まっているの。あなたにたっぷりと味わわせてあげるわぁ」
両手で巨大な胸を持ち上げる毒蛾女。
俺はその様子を黙って見ているだけだ。
「さようなら・・・“あなた”」
彼女の胸から紫色の液体が吹きかけられ、俺は全身に激痛を感じて悲鳴を上げながら意識を失った。
俺は妻も娘も、そして命さえも失ってしまったのだった・・・

END
  1. 2017/05/05(金) 20:28:33|
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二人はプリキュラ

一昨日投下した超短編SS「吸血鬼プリキュラ」に、ふと続きめいたものを思いついたので、今日は技能訓練がお休みだったこともありちゃちゃっと書いてみちゃいました。
お楽しみいただけましたら幸いです。


二人はプリキュラ

「こんばんは」
玄関のドアが開き、お下げ髪にメガネの少女が入ってくる。
幼さを感じさせるそのイメージとは裏腹に、少女からは妖しい魅力がにじみ出ていた。
「いらっしゃい、霧華ちゃん」
出迎えたのは活発そうな少女。
明るい表情をしているものの、こちらからもどことなく妖しいものが漂っている。
「待ってたわ。さあ、入って入って」
「お邪魔します」
まるで友人の家に遊びに来たように靴を脱いで入っていく霧華。
訪問した時間がそろそろ真夜中になりそうな時間だということ以外は何もおかしなところはない。

「座って座って」
自室に案内し、座布団を進める汐里。
「ありがと。でも、こんな時間にお邪魔してご両親が変に思わない?」
座布団に腰を下ろす霧華。
だが、時間が時間なことがやはり気にはなるようだ。
「問題ないわ。お父さんもお母さんも弘樹もみんな目で支配しちゃったから、文句を言う人は誰もいないの」
「ああ、そうなんだ。うふふ、私もパパとママ、それとおばあちゃんみんな支配してやったわ」
「血は吸ったの?」
「ううん、まさか。あんな連中の血を吸ったっておいしくないに決まってるもの」
フルフルと首を振る霧華。
その言葉にうんうんと汐里がうなずく。
「だよねー。私もお父さんやお母さんの血を吸いたいなんて思わないもん。どうせ吸うならイケメンとか、かわいい男の子とかがいいな」
「わ、私は素敵な女の子も・・・」
少しうつむき気味に小声で言う霧華。
その頬が赤く染まる。
「ほほぅ、霧華殿は女の子もいける口ですか?」
にやりと笑う汐里。
親友と言っていい霧華のことなので、とっくの昔にそんなことはわかっているのだが、つい意地悪したくなってしまうのだ。
これも赤くなった霧華がかわいいからに他ならない。
「も、もう、汐里ちゃんったら!」
赤くなりながらもこぶしを振り上げる霧華。
「ごめんごめん、冗談」
「もう・・・」
いつもと変わらない掛け合いに二人の表情が緩んでいる。
「でもさ、霧華ちゃんの気持ちもわかるな。女の子じゃないけど、例えば奉村(ほうむら)先生なんて美人で素敵でしもべにしちゃいたくなるもん」
汐里がぺろりと舌なめずりをする。
奉村めぐみは二人の担任の女性教師だ。
残念ながら既婚者で、旦那さんラブを隠そうともしない女性だが、美人で知的で物腰もよく、同僚教師からも生徒たちからも人気が高い。
彼女が結婚するとわかったときは、学校中がショックを受けたと言われるぐらいだったのだ。
だから、そんな彼女が担任と決まったときは、汐里も霧華もうれしかったものだった。

「あー、わかるぅ。確かに奉村先生はしもべにふさわしい女性だよね。でも、汐里ちゃん、私たちが勝手にしもべを作ることは許されないわ。それは愚か者の考えよ」
「うー、ドラキュラ様はきっと奉村先生を自らのしもべにしちゃうだろうからなぁ。何とか私たちのしもべにしたいと思わない?」
ちょっと口をとがらせて不満そうにする汐里。
奉村先生がドラキュラ様のしもべとなって仲間になるのは全く構わないのだが、どうせならしもべとしてかわいがってみたいのだ。
「もう、汐里ちゃんったら・・・ドラキュラ様に怒られるよ。愚か者と同じになるつもりかって・・・」
「うー・・・愚か者みたいにしもべを増やしまくったりはしないよぉ。奉村ちゃんだけでいいんだけどなぁ。バレないって、きっと」
ますます口をとがらせる汐里。
「霧華ちゃんだって、奉村センセの血を吸ってみたいと思うでしょ? きっとおいしいって。で、しもべにして二人でかわいがってあげるの。きっといい声で鳴くよぉ」
「汐里ちゃんってば!」
思わずまた顔を赤くする霧華。
「うー、やっぱダメかぁ。仕方ない。ドラキュラ様に逆らうのはちょっと恐ろしそうだし、あきらめてセンセもドラキュラ様のしもべにしてもらおう・・・」
どうやら汐里の中では奉村めぐみが吸血鬼化するのは既定の事実のようらしい。
「もう・・・」
苦笑するしかない霧華だった。

                   ******

マンションの駐車スペースに一台の車が止まる。
そのエンジンが停止しライトが消えて、中から一人の女性が降り立った。
「遅くなっちゃったぁ。ヤマ君もう寝ちゃったかなぁ。食事の用意してくれていたりとかは・・・ないよねぇ」
車のドアに鍵をかけて歩き出す女性。
スーツ姿がすらりとしてとても美しい。
「ククク・・・これはいい」
どこからか声が聞こえる。
「えっ? 誰?」
女性は周囲をうかがうが、夜中の駐車場には誰の姿もない。
だが、植え込みから巨大な黒い犬が現れたことに彼女は驚いた。
そしてその黒い犬が、みるみる白人の男性に変化したことにも。
「な、なに? なんなの?」
「クククク・・・なかなかいい女だ。我がしもべにふさわしい」
ゆっくりと女性に近づく白人男性。
パッと見は黒いスーツ姿が似合うハンサムだが、醸し出す雰囲気は恐ろしさを感じさせた。
「い、いやっ!」
女性は思わず逃げ出そうとしたが、その腕を素早く掴まれ、逃げられなくなってしまう。
大声を出そうにも、震えて声がうまく出ない。
「な、なにをするの?」
男がクワッと口を開ける。
そこには尖った牙が見え、その牙が彼女の首筋に突き立てられた。
「あ・・・」
女性の顔からみるみる血の気が引いていき、ぐったりとなっていく。
男はそれを抱きかかえると、静かにそっと口づけをした。

「ん・・・んちゅ・・・んん・・・」
じゅぷじゅぷと屹立する男のモノを咥え込む女性。
その首筋には牙の跡があり、男根を見つめる目は真っ赤に輝いている。
先ほど駐車場で車から降りた時とは全く別人のような雰囲気だ。
まるで娼婦のように男のモノにしゃぶりつき、ザーメンが出るのを待っている。
彼女の足元には干からびた男の死体が転がっているが、そんなものにはまったく目もくれようとはしない。
「ん・・・んんん・・・ぷあっ」
やがて男根からザーメンが吐き出され、彼女の口の中を満たしていく。
彼女は満足そうにそれをくちゅくちゅと味わってから、ごくりと飲み干した。
「クククク・・・美味いか?」
「はい。ご主人様のザーメン。とても美味しいです」
うっとりとした表情で男を見上げる女性。
その口からはさっきまで存在しなかった牙が覗いていた。
「クククク・・・そこで転がっている愛する夫の血よりもか?」
「もちろんです。それに、私が愛し崇拝するのはご主人様のみ。こんな男など愛してはおりません」
「クククク・・・そういえばまだ名前を聞いていなかったな。お前の名はなんという?」
「ああ・・・私はご主人様のしもべ。ご主人様のお好きなようにお呼びください」
女性が男の足元にひれ伏すようにする。
「元の名だ」
「はい。先ほどまでは奉村めぐみと呼ばれておりました」
「そうか。ではメグミよ。お前は今日から我がしもべ。我のために働くがよい」
「はい、ご主人様。何なりとご命令を・・・」
汐里と霧華の担任として慕われていた女性教師が闇に染まった瞬間だった。

                   ******

「それで霧華ちゃん、ちゃんと用意してきた?」
「あ・・・う、うん・・・」
霧華が思わず目を伏せる。
「そっか、じゃ、まずは私からね」
汐里がスッと立ち上がり、上着とスカートを脱いでいく。
すると、真っ赤な革製の下着が現れ、霧華は思わず目を丸くした。
「し、汐里ちゃん、それ?」
「じゃーん! どうかな? せくしー?」
汐里は真っ赤な革製のブラジャーとショーツ、それに太ももまでの赤いストッキングを身に着けていたのだ。
「これで霧華ちゃんが黒でそろえれば、プリキュラとして完成しないかな? ドラキュラ様喜んでくれないかな?」
腰に手を当ててポーズをとる汐里。
「そ、それって…だ、大胆過ぎない?」
思わず目をそらしてしまう霧華。
彼女には刺激的すぎるようだ。
「そうかな? アメコミの吸血鬼ってこんな感じじゃない?」
「そ、そうかもしれないけど・・・私たちにはまだ・・・」
「赤のキュラファング、黒のキュラティースでいいと思うんだけどなぁ」
「わ、私は・・・無理―――!」
ぶんぶんと首を振ってしまう霧華。
「そうかー。残念。霧華ちゃんはどんなの?」
その格好のまま座布団にぺたんと座る汐里。
「わ、私はもっとおとなしくて・・・動きやすくて・・・」
おずおずと上着とスカートを脱いでいく霧華。
「おおーーう」
汐里が思わず声を上げる。
霧華の服の下から現れたのは、紺の競泳水着と黒タイツの組み合わせだったのだ。
「こ、これなら・・・肌の露出も少ないし、動きやすいかなって・・・」
「いやー、確かにそうだけど、一部のマニアにすごく受けそうな組み合わせだねぇ」
にやにやと笑みを浮かべる汐里。
地味目の霧華が、こんないいスタイルをしているとは思わなかったのだ。
出るところは出てくびれるところはくびれている。
それが競泳水着ですっかりラインがあらわになっているのだ。
「ダメ・・・かな?」
「ダメじゃないダメじゃない」
今度は汐里がぶんぶんと首を振る。
「じゃさ、これ基調で考えようか。水着じゃなくてレオタードとかでタイツ組み合わせて。うんうん。むしろあのアニメらしくていいか」
腕を組んで一人うんうんとうなずく汐里。
彼女の中では二人の衣装が決まったようだ。
「それじゃ作るぞー。お母さんにも手伝わせようかな」
「あ・・・なんかまずい方向に火をつけたかも?」
霧華が手を口元に持って行ってしまったという顔をするが、すでに後の祭りだった。

                   ******

「ふわぁーーー!」
大きなあくびをする汐里。
どうやら遅刻はしないで済みそうだが、吸血鬼になって以来ますます朝が苦手になったらしい。
「おはよう汐里ちゃん」
こちらも眠そうな表情の霧華。
以前は朝を得意としていた彼女も、吸血鬼となった今は夜のほうがいいのは当然である。
ドラキュラ様の命で極力以前と同じように過ごすように言われてはいるが、変化してしまった体質は仕方がない。
「あれから型紙とか作ったから、週末で一気に仕上げるよ。来週にはドラキュラ様にプリキュラの新衣装をお披露目できると思う」
「そ、そう? 無理しないでね」
苦笑する霧華。
レオタードにミニスカートとタイツを組み合わせ、背中には黒マントを羽織るというスタイル。
どうやらこれがプリキュラのスタイルになりそうだ。
まあ、汐里ちゃんがそうしようというのならしょうがない。
なんといっても二人はキュラファングとキュラティース。
二人はプリキュラなのだから。

そして・・・
職員室の窓から登校してくる女子生徒たちを、じっと見つめる奉村めぐみの赤い目があった・・・

エンド

続きは・・・まあ、ご希望があればということで。(^_^;)ゞ
  1. 2017/04/18(火) 20:30:00|
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吸血鬼プリキュラ!

やっつけですが超短編SSを一本投下します。

ことの発端は、今朝のプリキュアを見ていた時、そういえばプリキュアとドラキュラって言葉の響きが似てるなぁって思ったことでした。
で、吸血鬼プリキュアってのも面白そうだなと思い、ツイッターでツイートしたところ、思いのほか賛同者が多かったので、これは書いてみようかなと。

ドラキュラ様を不思議な生き物代わりにしちゃいましたが、楽しんでいただけましたら幸いです。


吸血鬼プリキュラ!

「はわわー! 遅刻しちゃうー!」
まだセットも途中といった感じで髪を振り乱しながら走る少女。
もうすぐ朝礼が始まってしまう。
髪の毛などにかまっている暇はないのだ。
「もう! お母さんったら起こすのが遅いんだもん!」
少女は母親に文句を言うが、実のところはお門違いである。
彼女の母親は、今朝も数度にわたって彼女を起こしていたからだ。
つまり起きられなかった彼女の自業自得なのだが、彼女自身はそれを認めたくはない。
母親が起こしてくれなかったのが悪いのである。

「もう・・・どうして朝が来ちゃうのよー! ずっと夜だったらいいのにぃ! 私、夜だったらいくらでも起きていられるんだから!」
息を切らせながらも通学路を走り続ける少女。
その姿を上空から見ている姿があった。

「うむ、そなたのような夜に強い者こそ余が求めていた少女だドラ」
突然少女の横に奇妙なものが現れる。
「えっ? 何?」
それは黒いもこもこした丸い毛玉のようなもので、両側にはコウモリの羽のようなものが生えており、ぴょこぴょこと動いている。
おそらくはその羽の力なのだろうが、毛玉はふわふわと浮きながら、少女の横に並んでいた。
「え? えええええ? 何これ?」
驚きつつも足を止めないのは、これ以上遅刻したくないという気持ちの表れか。
しかし、彼女の眼はその浮遊する毛玉に釘付けになっていた。
「余はドラキュラドラ。吸血鬼一族の長だドラ」
「ドラキュラドラさん?」
お約束の返しを行う少女。
もっとも本人にはそのつもりはない。
「違うドラ。このドラは口癖にされてしまったのだドラ」
「ふうん・・・どこから声を出しているのかな?」
少女がよく見ると、どうやら毛玉の正面と思しきところには水平に裂け目があり、そこから牙が覗いている。
おそらくこれが口なのだろう。
「捕まえて売ったらお金になるかな?」
やや物騒なことを考える少女。
「なかなか邪悪な性格らしいドラ。まさに我がしもべにふさわしいドラ」
「しもべ?」
「そうドラ。お前は余のしもべとなり、あのバカを始末するのに頑張ってもらうドラ」
「何それ? 今学校に行くのに忙しいからヤダ」
「問答無用だドラ!」
そういうと黒い毛玉は少女の首筋のところに飛んでいくと、がぶりと噛みついた。
「あ・・・いや・・・あ・・・」
力が抜けて地面にへたり込んでしまう少女。
その間にも黒い毛玉は彼女の首筋から血を吸っていく。
「ドラ・・・キュラ・・・って・・・マジ・・・」
前のめりに倒れこみ、意識を失ってしまう少女。
「だから最初からそう言ってるドラ」
少女の首筋から離れ、ふわふわと再び飛び始める黒い毛玉。
やがて毛玉は意識を失っている少女の口元に近づくと、黒いしずくを一滴たらす。
しずくは少女の口にたれ、少女はそれを舌で舐め取った。

静かに起き上がる少女。
その口元に笑みが浮かび、瞳は真っ赤に輝いている。
「これでお前は余のしもべになったドラ」
少女の前にふわふわと飛んでくる黒い毛玉。
「はい。ドラキュラ様。私はドラキュラ様のしもべです」
少女がにっこりとほほ笑むが、その様子は先ほどとはガラッと変わっていた。
「それでいいドラ。これからは余の命令に従うドラ」
「はい、ドラキュラ様。何なりとご命令を」
こうして黒い毛玉は新たなしもべを一人手に入れたのだった。

                   ******

「汐里(しおり)ちゃん、こんなところに呼び出してどうしたの? 今日は朝から何か変だよ」
少女の後について人気のない校舎裏にやってくるもう一人の少女。
メガネの奥の瞳がくりくりとしていて、お下げ髪がかわいい。
「そうかな? 今朝、ドラキュラ様のしもべになったからかしら・・・」
メガネの子に背を向けたままにやりと笑みを浮かべる汐里。
その口からは尖った牙が見えている。
「ドラキュラ? しもべ?」
何のことだかわからないという表情のメガネっ子。
「うふふ・・・霧華(きりか)ちゃんもすぐにわかるわ。ドラキュラ様に血を吸ってもらえばね」
くるりと振り返る汐里。
真っ赤な唇から尖った牙が見えている。
「ひっ! し、汐里ちゃん?」
「うふふふ・・・私はドラキュラ様に血を吸っていただいて、しもべになったの。霧華ちゃんもしもべになるのよ」
そう言った汐里の肩にふよふよと黒い毛玉が飛んできて、クワッと口を開ける。
「い、いやっ!」
慌てて逃げ出そうとする霧華。
だが、黒い毛玉が素早くその肩口に飛びつき、首筋に牙を突き立てる。
「あ・・・あああ・・・」
そのまま地面に崩れ落ちる霧華。
黒い毛玉はその首筋から思う存分に血を吸うと、霧華の口にも黒いしずくを一滴たらした。

                   ******

青白い炎に包まれて崩れ落ちる人影。
「うふふふ・・・まずは一人」
「ドラキュラ様に逆らう愚か者のしもべの末路ね」
二人の少女が冷たい笑みを浮かべている。
「よくやったドラ。これでこいつがしもべを増やすことはもうないドラ」
「ありがとうございます、ドラキュラ様」
「愚か者のしもべの処理は私たちにお任せくださいませ。ドラキュラ様」
スッと黒い毛玉にひざまずく二人の少女。
学校の制服に黒いマントを羽織った姿はなかなかになまめかしい。
「余のしもべたちよ、頼んだドラ。一刻も早く我が力を取り戻すためドラ」
「「はい、ドラキュラ様」」
二人の少女たちが声をそろえる。
「さあ、今度は私たちの番ね」
「ええ、おいしい血をたっぷりと吸いたいわ」
スッと立ち上がる二人。
「それじゃ行きましょう、キュラファング」
「ええ、行きましょう、キュラティース」
二人はそれぞれをそう呼び合う。
日曜朝の少女アニメのファンだった汐里が名付けたものだったが、霧華もそれを気に入っていた。
「私たちはプリキュラ。ドラキュラ様の忠実なしもべ」
「ドラキュラ様に歯向かう愚か者は、私たちプリキュラが始末するわ」
二人はそういうと、楽しみな食事をするためにマントを広げて夜空に消えていった。

エンド

  1. 2017/04/16(日) 20:50:19|
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鬼母、鬼姉、そして・・・

今日は2月3日の節分ですねー。
ということで、久しぶりに超短編SSを一本書きました。
ネット復活記念としてはたいしたものじゃないですけど、楽しんでいただければ幸いです。


鬼母、鬼姉、そして・・・


「ただいまぁ」
玄関で声が聞こえる。
父さんが帰ってきたな。
今日は結構早いんだな。
ぼくはスマホでゲームをやりながら、リビングに入ってきた父さんに目をやった。

「お帰りなさい。今日は早かったのね」
台所から母さんが出てくる。
「ああ、このところ仕事も少ないからな。そういえば今日は節分なんだな。駅で豆を売るコーナーがあったよ」
「そうよ。うふふ、ちゃんと恵方巻き買ってあるわよ」
母さんが笑顔を浮かべてる。
そうか。
それで今日は夕食の支度をしている様子がなかったんだ。
「お、いいね。それじゃ風呂入ったら一杯やりながらつまむとするかな? どうせもう豆まきなどはせんだろう?」
「でしょうね。詩織(しおり)も智樹(ともき)ももういい大人だし、やらないでしょ?」
父さんと母さんがぼくと姉ちゃんのほうを見る。
当然豆まきなんてやる気はない。
ぼくは首を振ったし、姉ちゃんはパスというだけでスマホから顔を上げようともしなかった。
「ハハ・・・子供のころは喜んで豆を撒いていたものだがなぁ」
「うふふ・・・仕方ないわよ。いつまでも子供じゃないから」
ちょっと寂しそうにする父さんと母さん。
やれやれ。
いつまでも仲がいい感じで結構だけど、見ているこっちが恥ずかしくなるよ。
ぼくはスマホのゲームに目を移した。

「お、うまそうだ」
テーブルに並べられる恵方巻き。
美味しそうな海鮮太巻きが四本だ。
「楽でいいわぁ。切らなくてもいいしね。恵方巻き様様よ」
母さんが笑いながらそういう。
まあ、たまには主婦が楽する日があってもいいよね。
「あー、お腹空いたぁ」
姉ちゃんもスマホを置いてテーブルに着く。
ぼくもゲームをやめてテーブルに向かう。
珍しく四人そろっての夕食だね。
父さんは早速冷蔵庫からビールを出して注いでいる。
サラリーマンの楽しみだそうだけど、この程度の楽しみってのはいやだなぁ。
ぼくも就職したらそうなるのかなぁ・・・

「?」
なんだ?
今玄関ですごい音がしたな?
ぼくが玄関のほうを見ると同時に、みんなも一斉に玄関を見る。
ぼくが何が起こったのか確かめようと腰を浮かせた時、リビングにそいつらは入ってきた。
「うわっ!」
「な、なんだお前ら!」
思わず声が出る。
リビングに入ってきたのは、まさしく鬼だったのだ。

「グフフフフフ・・・思ったとおりだ。この家は豆撒きをやっていない」
「ギヒヒヒヒヒ・・・小さい子供がいない家は豆撒きをやらないというのは本当だったな」
「しかもだ。なかなかいい女も二人もいやがるぜ」
筋肉質の大柄な体格をした三人の男たち。
そのいずれもが額から一本、もしくは二本の角を生やしている。
躰は赤や青の色をしており、腰には虎縞のパンツを穿いているのだ。
どこからどう見ても鬼だ。
まるで子供の絵本から抜け出てきたような鬼たちに、ぼくはあっけに取られるだけだった。

「な、なんだお前たち! 出て行け! 出て行かないと警察を呼ぶぞ!」
少し震える声で父さんが鬼たちに出て行くように言う。
だめだ・・・
そんなんじゃ、こいつらは出て行かないよ・・・
ぼくはそう思ってしまう。
こいつらはコスプレなんかじゃない。
本物だ。
本物の鬼がなぜか突然現れたんだ。
ぼくはそう感じていた。
だって、こいつらには人間なんかはるかに超えるようなとてつもない威圧感があったのだ。

「グフフフフフ・・・何か言ったか?」
「で、出て行かないと警察を・・・グハッ」
「と、父さん!」
精一杯鬼を出て行かせようとした父さんを、赤鬼が殴り飛ばす。
「きゃーっ!」
「あ、あなた!」
姉ちゃんが悲鳴を上げ、母さんが殴り飛ばされた父さんのところに駆け寄る。
くそっ!
よくもよくも・・・
でも、だめだ・・・
足が動かない。
父さんや母さんを何とかして守りたいのに、恐怖でまったく躰が動かない。
ど、どうしたらいいんだ・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・お前はこっちだ」
「あ、いやっ! 何を!」
父さんのそばに駆け寄った母さんを、青鬼の腕がつかみ寄せる。
「お前もだ」
「いやぁっ! 離して!」
「ね、姉ちゃん!」
壁際で震えていた姉ちゃんも、緑色の鬼がグフグフ笑いながら近づいてつかみ寄せてしまう。
くそっ!
足よ動け!
動いてくれ・・・
情けないことにぼくの足はガタガタ震え、まるで床に張り付いてしまったかのようだ。
父さんは殴られたせいか床でぐったりしているし、母さんと姉ちゃんは鬼に腕をつかまれて動けない。
「か、母さんと姉ちゃんを放せ!」
ぼくは必死にそう叫ぶ。
「グフフフフフ・・・ガキはおとなしくしていろ!」
赤鬼がぎろりとぼくをにらんでくる。
それだけでもうぼくは何も声が出せなくなってしまった。
立っているのが精一杯だ。
母さん・・・姉ちゃん・・・

「ギヒヒヒヒヒ・・・こいつはなかなかいい女だぜ」
「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちの若いのもなかなかだぜ」
「いやぁっ! 助けてぇ!」
「離してぇ!」
必死にもがく母さんの首をべろりと舌で舐める青鬼。
緑の鬼も姉ちゃんの頬を舐めている。
「グフフフフフ・・・俺たちには女が少ないからな。こいつらをいただくとしよう」
「そうだな、ギヒヒヒヒヒ・・・」
三人の鬼たちがいやらしい笑みを浮かべている。
「な・・・なにを・・・」
ぼくはかろうじてそれだけを口にする。
「ガキはおとなしくしろと言ったろう!」
「ひっ!」
ぼくの全身を恐怖が走る。
だめだ・・・とても逆らえない・・・
誰か・・・
誰か助けて・・・

「グフフフフフ・・・まずはお前だ」
「い、いやっ! 何をするの?」
青鬼に腕をつかまれて身動きできなくされている母さんに赤鬼が近づいていく。
赤鬼は穿いている虎縞のパンツの中から何かを取り出すと、それを母さんの額に突き立てた。
「ひぃっ!」
それは彼らと同じ鬼の角だった。
母さんは額に鬼の角を付けられてしまったのだ。
「か、母さん!」
「ひぃっ! な、何これ? いやぁっ! 頭に・・・頭に何かがぁっ!」
「グフフフフフ・・・お前はメスの鬼になるのだ」
なんだって?
母さんが鬼に?
メスの鬼になってしまうというのか?
「ああ・・・いやぁ・・・アガッ・・・アガガガ・・・」
母さんの目が赤く染まっていく。
筋肉が盛り上がり、着ている服が内側から破れていく。
「アガガ・・・い、いやぁ・・・アグゥ・・・」
めきめきと音を立てて母さんの耳が尖っていき、口からは牙が生えてくる。
「そ、そんな・・・か、母さん」
「う、うそでしょ・・・」
緑の鬼に腕をつかまれている姉ちゃんもあまりのことに声が出ないようだ。
母さんの胸は大きくなり、指には尖った爪が伸びてくる。
肌の色は青くなり、母さんを捕まえている青鬼の肌の色とほとんど同じになっていく。
「ギヒヒヒヒヒ・・・どうやら青鬼になるようだな。うれしいぜ」
「ちっ、まあいいさ。メス鬼はみんなのものだぜ」
「ギヒヒヒヒヒ・・・わかっているって」
鬼たちがニヤニヤと母さんが変わっていくのを楽しんでいる。
母さん・・・
母さんが鬼になってしまうなんて・・・

「ア・・・グゥ・・・」
ぐったりとなる母さん。
着ているものはぼろぼろとなって腰の周りに巻きついているだけになり、その躰は青く額からは一本の角が伸びている。
「ブフ・・・ブフフフフフ・・・」
不気味な笑い声を出して母さんが顔を上げる。
「うわぁ」
「きゃーっ!」
ぼくも姉ちゃんも思わず悲鳴を上げる。
母さんはにたぁっと牙の生えた口をゆがめて笑みを浮かべ、真っ赤な眼をらんらんと輝かせていたのだ。
「グァァァァァァァァッ! なんだか力がみなぎってくるわぁ! 気持ちいいぃ!」
「グフフフフフフ・・・メス鬼になった気分はどうだ?」
「最高! 最高よぉ! ブフフフフフ・・・鬼は最高だわぁ」
べろりと舌なめずりをする母さん。
いや、メスの青鬼だ。
母さんはもうメスの青鬼になってしまったんだ・・・

「ゲヘヘヘヘへ・・・こっちも早く頼むぜ」
姉ちゃんを押さえつけている緑の鬼が催促する。
「おう、待ってな」
赤鬼は再びパンツの中から角を取り出す。
今度は母さんのより小さめだが、二本だ。
「いやっ! いやぁっ! いやぁぁぁぁぁ!」
「ね・・・姉ちゃん・・・」
ぼくにはもうどうしようもない。
ただ見ているしかない・・・
「きゃーーー!」
姉ちゃんの額に二本の角が突き立てられた・・・

                   ******

「ブフフフフフ・・・」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
ぼくの目の前で繰り広げられる惨劇。
さっきまで母さんだったメスの青鬼と、姉ちゃんだったメスの黄色の鬼が、父さんの死体を貪り食っているのだ。
それもとても美味しそうに。
「ブフフフフフ・・・美味しいわぁ」
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・ホント、恵方巻きなんかよりずっと美味しいわ。どうして今まで人間の肉を食べなかったのかしら」
くちゃくちゃと音を立てて肉を租借する姉ちゃん。
母さんも父さんの腕にかぶりついている。
「ギヒヒヒヒヒ・・・そろそろいいだろう?」
青鬼がじれったそうに声を掛ける。
「ブフフフフフ・・・わかってますわぁ。腹ごしらえがすんだら気持ちいいことしましょ。ブフフフフフ・・・」
べろりと舌なめずりをする母さんだったメス青鬼。
その真っ赤な眼は欲望に潤んでいる。
「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・アタシもアタシもー。ふっといおチンポほしいわぁ。ヒヒャヒャヒャヒャヒャ・・・」
黄色鬼になってしまった姉ちゃんも爪で歯をほじりながら緑鬼のほうを見ている。
「ゲヘヘヘヘへ・・・楽しもうぜぇ」
黄色鬼の腰に手を回し、緑鬼も舌なめずりをする。

「グフフフフフ・・・あの二人はもう完全なメスの鬼になったのさ。これから俺たちはあのメスたちとたっぷり楽しむつもりだ。お前はどうする? 鬼になりたいのなら、この角を付けてやってもいいんだぜ」
ぼくの肩をぽんと叩く赤鬼。
ぼくは・・・
ぼくは・・・
ぼくは・・・

                   ******

「ゲヒヒヒヒヒ・・・君の母さんもすっかりメスの鬼になったようだね」
ぼくは角を付けられてメスの緑鬼になった女を彼女に見せ付ける。
彼女はぼくのクラスメートだ。
クラスの中でもかわいくてぼくは前から気になっていた。
だから角を付けてぼくのメスにしちゃうのだ。
「そんな・・・お母さん・・・どうして? 高谷(たかや)君ひどいよ」
ぼくに腕をつかまれて身動きができなくなっている彼女。
名前はなんていったっけ?
もう思い出せないけどどうでもいいや。
鬼になれば名前なんて必要なくなるんだから。
「ゲヒヒヒヒヒ・・・君も鬼になるんだよ」
「いやっ! いやぁっ!」
ぼくは彼女の頬をべろりと舐める。
かわいいなぁ。
この娘が鬼になったらもっとかわいくなるに違いない。
ぼくはパンツの中から赤鬼にもらった角を取り出すと、彼女の額に無理やりねじ込んだ。

エンド
  1. 2017/02/03(金) 19:11:42|
  2. 異形・魔物化系SS
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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