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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

クモとアリ

ブログ開設から4500日記念SSの第三段です。
今日はショッカー風女怪人SSです。

タイトルは「クモとアリ」です。
まあ、そのまんまです。(笑)
お楽しみいただけましたら幸いです。

それではどうぞ。


クモとアリ

「はあ・・・」
玄関を開けた時の絶望感・・・
今日もまた家には誰もいなかった・・・
一人・・・
たった一人の人がいてくれないことがこれほどつらいことだとは・・・
「優斗(ゆうと)さん・・・」
確かに時間的にはまだ帰っていない時間かもしれない。
いつもなら誰もいない家に帰ってくるのは普通のことだった。
でも・・・
それはあと二時間もすれば彼が帰ってくるのがわかっていたからのこと。
だが今は・・・
「優斗さん・・・あなたはいったいどこに・・・」
今日は・・・
今日こそは家に戻ってきてくれているかもしれない・・・
そう希望をもって家に帰るようになって一週間。
いまだ彼は戻っていない。
誰も出迎えてくれなかった玄関で、紗月(さつき)は思わず膝をつき、涙を流すのだった。

「それじゃ行ってくるよ」
いつも通りに玄関を出ていく優斗。
「あ、行ってらっしゃい。私もすぐ出ます」
身支度を整えながら彼を見送る紗月。
スーツ姿の優斗がにこやかに手を振っていく。
いつもと変わらぬ二人の朝。
だが、この日から優斗は帰ってこない。
会社はいつも通りに退社したという。
事故や事件という話もない。
両親や親戚の家に行ったという報告もない。
共通の友人に聞いても誰一人彼の行方を知る者はいなかった。

三日後には警察にも届け出た。
もはやそれ以上できることはなく、あとは帰りを待つしかない。
最初は浮気も疑ったが、もはや戻ってきてくれるのならどうでもいい。
結婚して一年ちょっと。
スポーツマンの彼にあこがれたのは彼女の方。
それからはことあるごとにアタックし、彼女の座を射止めた。
そして結婚。
本当に幸せだった。
でも・・・
幸せだったのは自分だけだったのではないだろうか・・・
魅力のない自分に飽きられてしまったのだろうか・・・
もっと女を磨いていればよかったのだろうか・・・
何となく惰性で夫婦をしていたからではないだろうか・・・
いろいろなことが思い浮かぶ。
とにかく戻ってきてほしい。
彼がいないのでは生きている意味がない・・・

食事を作る気にもならず、部屋に一人でいることにも耐えられず、紗月は家を飛び出した。
どこへ行く当てがあるわけでもない。
ただ一人でいるのがいやだった。
いつも二人で笑って過ごしていたあの部屋。
一人でいるのは耐えられない・・・
「優斗さん・・・どこなの?」
夜の街をうろつく紗月。
いつしかその足は人気のない暗闇へと向かっていた。

「えっ? あれ?」
気が付くと暗い裏路地を歩いていた紗月。
どこをどうやって歩いてきたのか・・・
そもそもここはどこなのか?
「いけない・・・戻らなきゃ」
そう思って来た道を戻ろうとはするものの、はたして自分が来たのは右の道からだっただろうか、左の道からだっただろうか記憶がない。
「えっ? どうしよう・・・ここどこ?」
昼間ならまだ周囲の風景から判別がついたかもしれない。
だが、今はもう夜。
街灯も少なく、住宅もちらほらとしかなく、さっぱり方角がわからない。
「どうしよう・・・」
紗月は青ざめたが、とにかく行けるところまで行ってみようと道を歩き出す。
その時だった。

「きゃっ!」
突然彼女の躰に何かが絡みつく。
ねばつく太いヒモのようなものが手足に絡みついて、もがけばもがくほど絡まってしまうのだ。
「やだ、何これ? 何なの?」
引きちぎろうとしても、彼女の力では引きちぎることもできない。
それどころか、かえって絡まりを深めてしまう。
「だ、だれか・・・助けて」
まるで蜘蛛の巣にでも引っかかてしまったかのように、ヒモに絡めとられてしまう紗月。
そこに数人の人影が現れる。
「あ、すみません、たすけ・・・」
一瞬助けを求めかけた紗月だったが、現れた人たちの異様な姿に言葉を失ってしまう。

それは何とも異様な姿。
体形から男性が二人に女性が一人ということはわかるものの、そのいずれもが頭のてっぺんからつま先までの全身を黒いタイツ状の衣服で覆っており、顔も目の部分以外は覆われているため、日本人なのか外国人なのかもよくわからない。
両手両足は黒いブーツと手袋を付けており、腰にはドクロのマークの付いたベルトを締めている。
まるで何かで見た特撮のキャラクターみたいだ。
そしてそれ以上に驚くべき姿なのが、彼らの後ろに立っている異形の姿。
がっしりした体格だが、全身を黒く短い剛毛が覆い、ところどころに赤い筋状の毛が走っている。
頭には角のような二本の突起があり、赤く丸い目が大きいのが二つに小さいのが四つこちらをにらんでいる。
口元には左右に開くあごのようなものがあり、肩からは片方二本ずつの人間の腕のようなものが生えていた。
「あ・・・あああ・・・」
まるで蜘蛛と人間が融合したかのようなその異形の姿に、紗月は声も出ない。
この躰に絡みついたヒモのようなものは、この化け物の巣だったとでもいうの?

「シュシュ―! この女だ。連れていけ」
「キキィーッ!」
蜘蛛の化け物の言葉に黒づくめの連中が奇声を上げて応える。
男二人が左右から紗月の腕を抑え、女は紗月の口に何やら布をかぶせてくる。
「やっ、何を、やめ・・・て・・・」
何かの薬品の臭いが紗月の鼻を通り、彼女は急速に意識が遠くなっていった。

                   ******

「ん・・・」
意識が戻ってくる。
「ここは?」
ぼんやりと見上げる天井。
そこにはTVなどでよく見る手術用の無影灯のようなものが点いていた。
「えっ?」
慌てて躰を起こそうとしたものの、両手と両足が固定されていて起き上がれない。
それどころか、首まで固定されているではないか。
「ちょ、ちょっと、何これ?」
自分がいったいどうなったのか、紗月は全く見当もつかない。
わかっているのは、自分があの化け物たちに捕らえられたことと、ここに寝かされていることだけ。
いったい何がどうなっているのか・・・

スッと彼女の額に何かが触れる。
「ひっ!」
思わず小さな悲鳴を上げる紗月。
見ると、彼女の頭のところに、あの蜘蛛の化け物が立っているではないか。
「ひぃーー! いやぁぁぁぁぁ!」
恐怖のあまり大声でわめき首を振る。
「シュシュ―! サツキ・・・」
「えっ?」
突然自分の名前が呼ばれたのだ。
「ど、どうして?」
「シュシュ―! サツキ・・・怖がるな・・・」
彼女の額をなでながら、躰の位置を彼女の横に移す蜘蛛怪人。
「ど、どうして私の名を・・・」
そう尋ねた紗月の脇に、チャラッと音がしてペンダントが置かれる。
それは新婚旅行で二人で買ったペンダント。
もう片方は紗月の首にかかっており、もう片方は・・・
「まさか・・・優斗・・・さん?」
「シュシュ―! それは改造を受ける前の俺の名だ。今の俺は組織の改造によって生まれ変わり、クモ男となったのだ」
複数の赤く丸い目が紗月を見つめている。
「まさか・・・そんな・・・」
紗月は言葉が出ない。
探していた愛する人がまさかこんな姿になっていようとは・・・

「シュシュ―! 恐れることはない。お前は試験に合格した。お前も組織の改造人間になれるのだ」
「えっ? 改造人間?」
「シュシュ―! そうだ。首領様にお仕えし、組織の一員として人間どもを支配する改造人間だ。俺はお前を俺のパートナーとして改造人間に推薦した。そしてお前は見事に試験に合格したのだ」
何を言っているのか?
改造人間?
組織?
紗月には何が何だかさっぱりわからない。
そもそもこの状況は現実なのだろうか?
本当に目の前のこの異形の姿があの優斗さんなのだろうか?

「シュシュ―! 俺はお前を失うのが怖かった。下等な人間のままでは、いつかお前は組織によって単なる奴隷にされてしまう。だから俺はお前を改造人間に推薦したのだ。せめて女戦闘員でもと・・・だがお前は改造人間になれるのだ。俺も誇らしく思うぞ」
紗月の耳元で語り掛けているクモ男。
だが、紗月にはそんな言葉は耳に入ってこない。
「いやぁ・・・いやです。お願い・・・家に、家に帰して」
「シュシュ―! バカなことを。お前は選ばれたのだ。組織の一員となる栄誉を与えられたのだ。おとなしく改造を受けるのだ」
「いやっ! いやぁっ! 改造なんていやよぉ!」
必死になって身をよじる紗月。
化け物になんかなりたくない。
そう思い、何とか逃げ出そうとするものの、手足の枷は彼女の力ではどうすることもできない。
「シュシュー! 構わん。この女の手術を始めるのだ」
「キキィーッ!」
いつの間に現れたのか、全身を白い全身タイツに包んだ男女がクモ男の指示に従い、紗月の手術を開始する。
「いやっ! いやぁぁぁぁっ!」
もがく紗月の口に麻酔のマスクが付けられ、紗月はまたしても深い闇の中へと意識が沈んでいくのを感じていた。

                   ******

紗月は夢を見ていた。
夫優斗との楽しい夢。
二人で他愛もない話をして笑い、手をつないで抱きしめ合う。
夫のたくましい胸に抱かれ、そのぬくもりに包まれる。
安心と希望に満ちた世界だ。
やがて夫の姿が変化する。
その躰には黒く短い剛毛が生えていき、腕も四本に分裂する。
顔も剛毛に覆われ、角のような突起や赤く丸い目ができていく。
紗月は一瞬驚いたものの、むしろその姿を好ましく感じることに気が付いた。
改造人間となり、蜘蛛の力を手に入れた夫。
下等な人間からより高い存在へと生まれ変わったのだ。
なんて素敵なのだろう・・・
羨ましい・・・
自分もそうなりたい・・・
改造され、改造人間として生まれ変わりたい・・・
紗月は強くそう思う自分に気が付いた。

すると、紗月の躰に変化が起こる。
内臓が強化され、補助機械がその機能をサポートする。
心臓も、肺も、消化器官も、すべてが強化されていく。
力も強くなっていく。
筋肉が強化されていくのだ。
人間の何倍もの力が出せる筋肉。
それが紗月の躰を変えていく。

脳にも機械が埋め込まれる。
より自分の躰を制御できるように、より組織のことを理解するために。
新たな社会をつくる組織。
自分もその一員に加わるのだと紗月は理解する。
首領様に従い、一糸乱れぬ統率で組織のために働く。
それが組織の一員である自分の務めなのだ。
なんてすばらしいのだろう。
今までの自分はおろかだった。
下等な人間どもの一部として地球を汚すことしかできなかった。
だが、これからは違う。
自分は選ばれたのだ。
首領様に選ばれたのだ。
改造人間になる栄誉を与えられたのだ。
こんなうれしいことはない。
これからは首領様のためなら何でもする。
紗月はそう思う。

やがて紗月の躰に黒くて硬い外皮が貼り付けられていく。
銃弾すら跳ね返すことのできる硬い外皮だ。
これからはこの外皮が自分の肌となる。
そのことが紗月はうれしかった。
両手も、両脚も、胴体も外皮に覆われていく。
胸のところは形良く膨らんだ昆虫のお尻を思わせる感じだ。
ここからは酸を吹き出すことができる。
母乳などというくだらないものではない。
下等な人間を溶かす強力な酸だ。
なんと素晴らしい事だろう・・・

最後は頭も変わっていく。
髪の毛はきれいになくなり、硬い外皮で覆われる。
額には二本の触角が作られ、これまで以上に感覚が研ぎ澄まされていく。
これなら暗闇の中で行動しても問題はないだろう。
目も複眼に置き換わり、より多数の目で見ることができる。
たった一つの目でものを見ていたなど、なんと下等だったのだろう。
自分は進化するのだ。
改造人間というより高度な存在に。
そして組織のために行動する。
それこそが自分が生まれ変わる意味なのだ。

『目覚めよ。アリ女よ』
首領様の声が響く。
その瞬間、紗月は自分が何者かを理解した。
自分はアリなのだ。
強靭な外皮を持ち、両手の爪でトンネルを掘り進み、不要な人間を蟻酸で始末するアリなのだ。
紗月などという名前にはもはや用はない。
それは下等な人間だった時の名前。
今の自分はアリ女。
改造人間アリ女なのだ。

「リリリリー!」
彼女はゆっくりと起き上がる。
そして手術台からゆっくりと降り、首領に対して一礼した。

                   ******

ドアをたたくノックの音。
硬質な響きが気持ちいい。
あらためて自分の躰が硬質化したことを感じさせてくれる。
「シュシュー! 誰だ?」
ドアの向こうからクモ男の声がする。
それだけでアリ女の心は踊る。
「リリリリー! 私はアリ女。入ってもいいかしら、クモ男?」
あらためて自分の名を口にして喜びに浸る。
アリ女・・・
なんていい響きだろう。

「シュシュー! もちろんだ。今開ける」
ドアのロックが外される。
先ほどまでトレーニングをしていたと戦闘員に聞いていたので、おそらく今は休息中だったはず。
もしかしたら後にしてくれと言われるかと思っていたが、入れてもらえてうれしい。
「シュシュー! よく来たな、アリ女。歓迎するぞ」
ドアを開けてアリ女を出迎えるクモ男。
その剛毛に包まれた躰がたくましい。
改造人間というのはこんなにも素敵なものだったなんて・・・

「リリリリー! 休息中にお邪魔だったんじゃないかしら?」
「シュシュー! とんでもない。お前が来てくれるのを待っていた」
「リリリリー! ホント? うれしいわ」
クモ男の部屋に入るアリ女。
アジトの控室は質素だが一通りのものはそろっている。
椅子、テーブル、ベッドなど。
室内にある鏡に彼女の姿が映っている。
大きな頭には額から触角が伸び、楕円形の複眼が鏡の中から彼女を見ている。
左右に開くあごは鉄の棒さえ噛みちぎる。
全身は黒光りする外皮に覆われていてとても硬いが、滑らかなラインは彼女が女性の改造人間であることをあますところなく表している。
二つの胸のふくらみはアリの腹部を模しており、そこから出る蟻酸は強力だ。
まさにアリと人間の融合した姿は、彼女にとって誇らしい姿だった。

「シュシュー! 座るがいい」
クモ男が椅子をすすめてくる。
どうやら彼自身はベッドにでも腰掛けるつもりらしい。
「リリリリー! 私もそっちへ行っていいかしら?」
せっかく二人になったのだ。
そばに行って触れ合いたい。
アリ女はそう思う。
自分が改造人間になれたのはクモ男の口添えがあってのこと。
そのお礼もしたい。

アリ女はクモ男の返事を待つことなく彼の隣に座る。
そしてその身を彼にもたれかけさせる。
温かい。
クモ男の体温を感じる。
なんだかとても懐かしい。
もちろん、あのころのことなど思いだしたくもない。
自分が人間だったなど吐き気がする。
だから・・・
私たちは新たに時を刻んでいこう。
改造人間同士の素晴らしい時間を・・・
「リリリリー! ねえ、クモ男。どう? 私は生まれ変わったわ。私は改造人間アリ女。あなたのおかげよ。感謝しているの」
「シュシュー! 俺もうれしいぞ。お前は美しい。これからはともに組織のため、首領様のために働こうではないか」
「リリリリー! ええ、もちろんよ。偉大なる首領様。あの方のためなら何でもするわ。でも、その前に・・・」
アリ女はクモ男の顔を見つめる。
「シュシュー! その前に?」
「リリリリー! あなたにお礼がしたいのよ。私を改造人間に推薦してくれたお礼。それにね、私、まだ自分の躰のすばらしさを味わいきってないの。あなたが味わわせてくれると嬉しいんだけど・・・」
クモ男の顔を手で引き寄せながら、アリ女はベッドに躰を横たえる。
「シュシュー! それじゃたっぷりと味わわせてやるとしよう。ケケケケケ・・・」
クモ男は奇妙な笑い声をあげ、そっとアリ女の上に重なった。

                   ******

「うわーーー! ば、化け物だーー!」
悲鳴を上げて逃げてくる警備員。
失礼な男だわ・・・私たちは化け物なんかじゃないわよ・・・
もうすぐここにやってくるであろう警備員に対してアリ女はそう思う。
自分たちは首領様に選ばれた改造人間なのだ。
下等な人間どもとは違う。

警備員の背後では、シュシューというクモ男の声や、キキーッという戦闘員たちの声が聞こえてくる。
既に大半の警備員は始末したはずだが、生き残りがいたようだ。
私たちの姿を見たからには始末しなくてはならない。
人間を殺せると思うとアリ女の心は高ぶってくる。
まるでこれからセックスでもするかのよう。
アリ女の顎が笑みを浮かべるようにやや左右に開く。
クモ男とのセックスは最高。
改造人間同士のセックスがあんなに気持ちがいいものとは思わなかったわ。
任務が終わったらまた・・・
くふふ・・・

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
息を切らせた警備員がやってくる。
もうすぐ玄関ということで、少し安堵したのかもしれない。
愚かな男。
所詮は下等な人間ということね。
暗闇からゆっくりと姿を現すアリ女。
薄暗い中に黒光りする外皮が反射する。
「うわーーー! こ、こっちにも化け物がーーー!」
「リリリリー! まったく失礼な男ね。私たちは化け物なんかじゃないわ。私たちは改造人間。お前たち下等な連中とは違うのよ」
腰が抜けたのか、へたり込んでしまった警備員を見下ろすアリ女。
おびえた表情で自分を見上げる警備員に、アリ女は嗜虐心をくすぐられる。
「リリリリー! 私たちを見たものは死あるのみ。死ね!」
両手でアリの腹部のような乳房を持ち上げ、そこから強力な蟻酸を吹きかける。
「ギャーーー!」
蟻酸をかけられた警備員は断末魔の悲鳴を上げ、ドロドロに溶けていく。
その姿がなんとも見ていて気持ちいい。
人間を殺すことがこんなにも気持ちがいいなんて・・・
アリ女は改めて改造人間となった自分を素晴らしく感じた。

「シュシュー! 始末したようだな」
クモ男が天井から降りてくる。
どうやら彼のほうも終わったようだ。
「リリリリー! ええ、始末したわ」
足もとの液体を見やるアリ女。
警備員は骨も残さずに溶けきっていた。
「シュシュー! よくやったぞ。これでお前も組織の立派な一員だ」
我がことのようにうれしそうなクモ男。
推薦したことが間違っていなかったと思っているのだろう。
「リリリリー! 当然でしょ。私は改造人間アリ女。組織の忠実なしもべよ」
「シュシュー! そうだな」
「リリリリー! それにしても・・・人間を殺すのって楽しいのね。もっともっと殺したいわ。クフフフ」
「シュシュー! 安心しろ。次の任務ではもっともっと殺せるさ。それより・・・」
二本ある右手でアリ女の腰を抱き寄せるクモ男。
「シュシュー! 早くアジトに帰って楽しもうぜ」
「リリリリー! ええ、もちろんよ。今夜は寝かせてあげないんだから。クフフフフ」
自らも躰を寄せるアリ女。
二体の異形の怪人たちは、仲良く闇に消えていくのだった。

END


四日間にわたりましたSS投下期間、お楽しみいただけましたでしょうか?
お読みいただきまして本当にありがとうございました。
また次回作に向けて執筆頑張りますので、どうか今後とも当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」をよろしくお願いいたします。

それではまた。
  1. 2017/11/13(月) 20:47:19|
  2. 改造・機械化系SS
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ハニトラボーグ

今日は短編SSを一本投下します。
短編と言いましても、できれば二回に分けたかったぐらいの長さなのですが、どうも分けるところがなかったので、今回は一気に投下しちゃいます。

タイトルは「ハニトラボーグ」です。
楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。


ハニトラボーグ

「すんすん・・・ぐすん・・・」
どこかですすり泣く声が聞こえる・・・
「ぐすっ・・・お願い・・・助けてぇ」
だれが助けを求めているのだろう・・・
私はいったい・・・

「ハッ」
私は目を覚ます。
ここは?
私はいったい・・・

私は躰を起こそうとして、手足と首が固定されていることに気が付いた。
「えっ?」
まるで台の上に大の字で磔にされているみたい。
かろうじて首を左右に振ることはできたので、私は周囲を確認する。
「くすんくすん・・・」
私の右側には少女が寝かされている。
しかも全身丸裸にされているではないか。
いったいこれは?

躰の感じからどうやら私も裸らしい。
ひんやりとした部屋の空気を肌に感じる。
顔を上げて確認しようにも、首が固定されているのでそれもできない。
どうしてこんなことに・・・

確か私は職場を出て家に帰る途中だった。
晩御飯の食材の買い出しに行こうと思って、スーパーへの道を歩いている途中、向かい側から歩いてきた男性にスプレーを浴びせられ・・・
そのまま気が遠くなってしまったんだった・・・

どうしよう・・・
私誘拐されてしまったんだわ。
おそらく隣の彼女もそうなんだ。
どうしよう・・・
助けて・・・晴樹(はるき)さん・・・

「すん・・・すん・・・ママ・・・パパ・・・」
隣で少女がすすり泣いている。
年のころは中学生か高校生ぐらいかしら・・・
「あなたもさらわれたの?」
私は思い切って声をかけてみる。
可能なら二人でここから脱出したい。

「あ・・・は、はい。学校から帰る途中で・・・」
私の声に気が付いたのか、彼女はこっちを向いてくれる。
どうやら彼女も手足と首を固定されているみたい。
どことなく幼さが残るかわいい顔立ちの子だ。
「やっぱり学生さんなんだ。高校生?」
「はい。東高校の二年生です」
「わお、有名な進学校じゃない。頭いいんだ」
私は思わずそう言ってしまう。
私は東高入れなかったもんなぁ。
「いいって程では。たまたま受かっただけで」
「謙遜謙遜。あ、私は島月春歌(しまづき はるか)って言います。春の歌って書いて春歌」
「私は森生更紗(もりお さらさ)って言います。よろしく。島月さんも誘拐されて?」
こんな状況なのに、丁寧にわざわざよろしくまで付けてくれる。
きちんとしたお嬢様なのかもしれない。
「春歌でいいわ。ええ、どうやらそうみたい。それにしてもこんな格好にさせられて、どういうつもりなのかしら・・・」
私は今更ながらに自分が素っ裸なことに恥ずかしくなる。
「わかりません・・・うち、貧乏なので身代金なんか払えない・・・」
「うちもそうよ・・・貯金は結婚式で結構使っちゃったしなぁ・・・」
私は思わず苦笑する。
もちろんお金はこれから晴樹さんと二人で貯めていけばいいねって話していたところだったけど。
「島月さん、あ、春歌さんは結婚されていたんですか?」
「そうよぉ。まだ新婚半年ちょっとなんだぞ。それなのに・・・」
ちょっとおどけて見せる私。
もう一度晴樹さんに会いたい・・・
会って思い切り甘えたい・・・

「いいなぁ、結婚。私もいつか・・・」
「更紗ちゃんならいい人とめぐりあえるわよ。あ、それとももう彼氏がいた?」
「いいえ、まだいません」
「そうか。でも、すぐに見つかるわよ」
うん。
ちょっと話しただけだけど、更紗ちゃんいい子だもん。

「さて、おしゃべりはそろそろやめにしてもらおうか。準備が整ったのでね」
突然部屋に数名の男たちが入ってくる。
黒いスーツにサングラスをかけた男や、白衣を着てサングラスをかけている男。
共通しているのは全員がサングラスをかけていることで、それがとても不気味だ。
「私たちをどうするつもりですか?」
「お願い。家に帰して!」
私も更紗ちゃんも男たちをにらみつける。
どうして私たちのような女を誘拐したりなんかしたのか。

「心配はいらない。君たちはすぐに家に帰れることを約束しよう。ただ・・・ちょっとした手術を受けてもらうことになるが・・・」
家に帰れるという言葉に一瞬喜んだ私だったが、男の次の言葉に背筋が凍る。
手術ですって?
「いったい何の手術ですか?」
「私はどこも悪くないです!」
私だって悪いところなんか・・・
そう考えて、私はある考えに思い至る。
「まさか腎臓や肝臓とかを・・・」
臓器売買の組織があるとかいう噂はネットでは見かけるもの。
まさか私たちはそのために誘拐されたのでは・・・

「はっはっは・・・そうだね。確かにそれも有効な資源なのだが、もっと単純に君たちそのものが必要なのだ」
黒服のサングラスの男が冷たく笑う。
私たちが必要?
どういうこと?
「ふむ。見せたほうが早いだろう。おい、ナンバー12を呼べ」
男は脇にいるもう一人のサングラスの男に指示をすると、その男が部屋を出る。
しばらくすると、男は赤いロングドレスを身にまとった一人の女性を連れてきた。
とても美しい女性だわ。
「12号。二人に挨拶を」
「かしこまりました。私はハニートラップ用サイボーグナンバー12です。よろしくお願いいたします」
女性が私たちのほうに優雅にお辞儀をする。
サイボーグ?
ハニートラップ用?
サイボーグというのはアニメなどで聞いたことがある。
この人は・・・
もしかしてこの人は機械?

「ナンバー12よ、お前の任務はなんだ?」
「はい。私の任務は組織の命令に従い、ターゲットにハニートラップを仕掛け、目的を達成することにあります」
サングラスの男の質問にすらすらと答えていくドレスの女性。
直立不動で微動だにしない。
「目的は主にどんなものがある?」
「はい。目的は主にターゲットが所有する情報の引き出しです。ほかにターゲットそのものの暗殺も含まれます」
「今まで何人のターゲットを暗殺した?」
「はい。三人です」
えっ?
この女性は人を三人も殺したことがあるというの?
私は驚いた。
そんなことって・・・

「二人に胸を見せてやれ」
「かしこまりました」
そう言って女性はドレスから形良い胸をさらけ出す。
全く頬を赤らめたりもせずに胸を出す彼女に対し、逆に私のほうが恥ずかしさを感じてしまう。
「針を出せ」
「かしこまりました」
えっ?
彼女の胸の乳首から針がのびてくる。
注射器についているような針だ。
ど、どうして?
サ、サイボーグって・・・
「その針は何のためにある?」
「薬物注入のためです。主に自白剤の注入や、麻痺毒の注入に使われます」
「その針をターゲットに突き刺すわけだな?」
「その通りです」
彼女はにこやかに両手で胸を持ち上げ、乳首の先端の針を私たちに見せつける。

「もういいぞ。下がってよし」
「失礼いたします」
ドレスの中に胸をかくし、一礼して下がっていく女性。
歩き方も優美で、男なら見惚れてしまうに違いない。

「彼女も元は君たちと同じく一般人でね。優れた容姿に目を付けた我々が拉致してサイボーグ化したというわけだ。以前は普通のOLだったが、今では我々の忠実な手駒となっているよ」
サングラスの男がにやりと笑う。
「君たちにもそうなってもらう。光栄に思いたまえ。君たちは選ばれたのだよ。我々に」
「いやぁっ! いやですっ! 帰して! おうちに帰してぇ!」
悲鳴を上げる更紗ちゃん。
無理もないわ。
私だって大声で叫びたい。
サイボーグにされるのなんていやぁっ!

「まあ、そういわずに。なに、サイボーグ化が終われば、プログラムの影響でいやだなどとは思わなくなるよ。それどころか組織のために働くのこそ使命だと思うようになる」
「ど、どうして・・・どうして私たちなんですか? 容姿ならほかに優れている方がいっぱい・・・モデルさんとか」
「顔が知られているようなのは目立つし警戒もされる。君たちのように普通からやや上ぐらいのほうが需要が多いのだよ。もちろん女子高生も好まれる」
「そんな・・・」
私は言葉を失う。
どうしたらいいの・・・

「それでは始めよう。スタッフも待ちかねているしね。なに、麻酔から覚めれば君たちは新たな自分に生まれ変わるのだ。期待したまえ」
「いやっ! いやぁっ!」
「いやっ! やめてください! 放して!」
私たちの叫びもむなしく、私の顔には麻酔用のマスクがかぶせられ、私は急速に意識が遠くなっていった・・・

                   ******

ピッ・・・
電源接続完了・・・
充電中・・・
脳内で私がしゃべっている・・・
胸の部分が少し熱くなって、バッテリーに充電されていくのがわかる・・・
充電率20%
作動最低値に到達、各部チェック開始・・・
下肢、上腕ともに異常なし、関節正常。
脳への循環液流入正常。
疑似体温発生問題なし、体表面32度まで上昇、なおも上昇中。
充電率30%
制御プログラム作動開始。
メモリーチェック、人格制御異常なし。
理念改変正常、異常衝動なし。

私は躰の各部をチェックしていく。
どこにも問題はない。
まだ筋肉動作が行われていないため動作は不能だが、思考作業は可能。
各部痛覚センサー異常なし。
音声センサー正常値。
発声装置試験開始。
「あ・・・あ・・・あいう・・・えお・・・私は・・・サイボーグです・・・」
発声機能正常。
胸部薬液注入装置試験開始。
注入針伸縮装置正常。
薬液注入装置正常。
カートリッジ交換装置正常。
私の胸から薬液注入針が伸び縮みするのを感じる。
うふっ・・・
なんだかくすぐったい・・・

充電率40%
視覚センサー試験開始。
私はゆっくりと目を開ける。
天井の位置に自動で焦点が合わさり、くっきりと見える。
これなら遠くまで見ることも問題ない。
赤外線視覚に切り替え。
私の目の中で小さく音がして視覚が切り替わる。
赤外線で見ているのだ。
一瞬異質な感じがしたけど、すぐに慣れてしまう。
視覚センサー正常、通常視覚に切り替え。
また小さな音がして赤外線から普通の視覚に切り替わる。
うふふ・・・
とても便利。
これなら暗闇の中でも行動できるわ。

「充電率はどのくらいだ、ナンバー23?」
「はい。現在52%です」
隣の手術台から声が聞こえる。
「ナンバー24はどうか?」
「はい。現在47%です」
私は現在の充電率を答える。
「起動には問題ないな。よし、ナンバー23、ナンバー24、起動して状況を知らせろ」
「「はい、かしこまりました」」
私とナンバー23が同時に返事をして躰を起こす。
各部動作に異常なし。
関節部の駆動正常。
私は手術台から降りて床に立ち、体内の再チェックを行う。
異常なし。
「報告します。ハニートラップ用サイボーグナンバー23、起動しました。各部異常ありません。すべて正常です」
「報告します。ハニートラップ用サイボーグナンバー24、起動しました。各部異常ありません。すべて正常です」
私はナンバー23に続いて現状報告を行う。
「うむ。お前たちは今日から我々の指示に従って行動してもらう。いいな?」
「「かしこまりました」」
ナンバー23とともに一礼する私。
組織によってサイボーグとなった私ですもの、組織の命令に従うのは当然のこと。

「ではまずお前たちに最初の任務を命じる。写真のターゲットにハニートラップを仕掛け、会社の同僚の名前を二人聞き出したうえで暗殺せよ。ただし女性ターゲットに対しては暗殺のみでよい」
コマンダーから写真を受け取る私。
ナンバー23は二枚受け取ったようだけど、私は一枚のみ。
写真には男性が写っている。
メモリーに照会し、この男性が島月晴樹と確認する。
私の夫だ。
この男がターゲットなのね。
「確認したら写真は返せ。お前たちは記憶できるだろう?」
コマンダーの言うとおり、私はターゲットを記憶して写真を返す。
この男にハニートラップを仕掛け、情報を引き出して暗殺すればよい。
私はもうどのように行動するかを考えていた。
「では行け。24時間以内に完遂するのだ。いいな」
「「かしこまりました」」
私とナンバー23は頭部に差し込まれた充電用コードを引き抜き、髪の毛で差込口を隠すとそのまま部屋を出る。
服を着てターゲットの元へ行かなくてはならないのだ。
24時間もあるのだから急ぐ必要はない。

「ナンバー23、あなたのターゲットは二人なのね?」
廊下を並んで歩くナンバー23に私は尋ねる。
彼女は同じハニートラップ用サイボーグで、私よりナンバーが一つ若い。
外見はおとなしく優しそうな少女であり、メモリーによれば人間の時は女子高校生だった。
「ええ、ナンバー24。私が人間だった時の父と母よ」
仲間に対する礼儀か表情を笑顔にして私に答えてくれるナンバー23。
「私のターゲットは一人。夫だった男ね」
「そうなんだ。一番近い身内をターゲットにしているのね」
「その確率は80%以上だと判断するわ。身内だったターゲットに怪しまれずに任務を遂行できなければ意味がないということでしょう」
「私もその判断を支持するわ、ナンバー24。ターゲットがこちらを怪しむ可能性は時間ごとに高くなるわ。その前に行動するのがベスト」
「ええ、ターゲットに接触後5時間以内であれば、成功率は95%と判断するわ。とはいえ、24時間後でも怪しまれない可能性は70%以上とも判断できるけど」
ターゲットに対する行動はすでに過去のデータから適切なものを選び出せる。
予期せぬエラーが起こらない限り、ターゲットの暗殺はたやすいはず。
「ええ、私もそう判断するわ。お互いに任務成功を目指しましょう」
「ええ、ナンバー23」
私たちはインプットされていた部屋に入り、服装を整える。
ここへ連れてこられたときに着ていた服を着て、鏡で身だしなみを整える。
この状態では外見から私をサイボーグだと認識できる可能性は1%にも満たない。
完璧と言っていいわ。

私は着替えを終えて部屋を出る。
廊下で同じく着替え終わったナンバー23と合流すると、私たちは目的地へ向かうために車に向かう。
途中で処置前に出会ったナンバー12と廊下で会う。
「ふふ・・・処置が終わったみたいね。サイボーグになった気分はどう?」
そんなこと聞かれるまでもないわ。
「最高に決まっているでしょ」
どうやらナンバー23も私と同じ気持ちらしい。
「ええ、こんな素晴らしい躰になれたなんて。感謝しているわ」
私も歩みを止めることなくそう答える。
全身が機械に置き換わったのはとても素晴らしいこと。
私の脳がそうささやいてくるの。
「うふふ・・・でしょ。初任務頑張ってね」
「ありがとう、ナンバー12」
「問題はないわ。ナンバー12」
私たちは手を振ってナンバー12と別れ、駐車場でワンボックスカーに後部シートに乗り込む。
これで目的地に向かうのだ。

向かい合わせのシートに黒いスーツと黒いサングラスを身に着けたソルジャーが一人座る。
今回の任務のサポートに当たる人間だ。
コマンダーから直接指示を受けている。
「今回は任務についての説明は省く。すでにコマンダーより指示があったはずだ」
こくりとうなずく私。
サイボーグ同士と違い、人間にはきちんと態度や行動で見せなくてはならない。
「お前たちが連れてこられてから、すでに20時間が経っている。つまり一晩過ぎている。すべてのパーツをあらかじめ準備しておくとはいえ、サイボーグ処置にはそれだけの時間がどうしてもかかるのだ」
私のデータはあらかじめ入手され、それに基づいて内部部品は準備できるが、外装や脳に対する処置など、どうしても素体本体に手がかかってしまうということだ。
「一応携帯などからナンバー23に関しては友人宅に宿泊する旨、ナンバー24に関しては急なトラブルによる残業という旨を各家庭に伝えてはあるが、いろいろと聞かれることは想定しておけ。お前たちには人間としての脳が残っているから、そのあたりはうまくやれるだろう。そうでなきゃサイボーグにする意味がない」
私がサイボーグである大きな理由の一つだわ。
プログラムに従うとはいえ、瞬時の判断に人間の脳は必要ということ。
「ターゲットの処理が終わったら連絡しろ。迎えに行く」
私はこくんとうなずいた。

一棟のマンションの前で停車するワンボックスカー。
私は車を出てそのマンションに入っていく。
ここはターゲットと私が暮らしていたマンション。
私はこれまでと同じようにエレベーターに乗り、5階の507号室へと向かう。

鍵を開けて部屋の中に入る私。
時間は15時を過ぎたところ。
ターゲットはまだ会社から帰宅していない。
私はメモリーをもとに自分の部屋に向かう。
メモリーによれば、昨日まで私はここで過ごしていたはずなのに、全く異質な空間に感じるわ。
今の私には何の関係もない空疎な部屋。
私は組織のハニートラップ用サイボーグ。
このような場所で暮らすことなどありえない。

私は自分の部屋に入ると着ていた服を脱ぐ。
仕事のときに着ていた服をずっと着ているのはターゲットに怪しまれる。
以前と同じように行動しなくてはならない。
私は下着も脱ぐと、クロゼットから黒の下着と普段着を取り出す。
以前の私は好まなかったようだが、今の私にはこういう黒の下着は好ましい。
ターゲットを誘惑する確率が上がるのを、ほかのサイボーグが実証しているからだ。
過去にターゲット自体がこの下着を購入してくれたことは幸運と言えるだろう。
私は下着を身に着け、普段通りの地味な服を着る。
以前の私が好んだ服だが、誘惑効果は乏しい。
だが、今回の任務ではこの服のほうがターゲットに怪しまれる確率は低くなる。

服を着替えた私は着ていたものをクロゼットに押し込むと、偽装工作のために料理を作る。
冷蔵庫内のものを使ったありあわせだが、こうして料理を作っておけば、ターゲットの警戒心は50%以上落ちると判断する。
男を誘惑するには手料理をふるまうのも手段の一つだわ。

一通りの料理を作った私は、ターゲットの帰宅までに追加の充電をおこなう。
私たちハニートラップ用サイボーグは、施設での急速充電のほかに家庭用コンセントからも充電が可能だ。
私はコンセントの前に四つん這いになると、喉の奥のカバーを外してコードを引き出し、伸ばして差込口をコンセントに嵌める。
電流が胸のバッテリーに流れ込んでくるのが感じられて気持ちがいい。
ターゲットが帰宅するまでに充電率が60%ぐらいにまで上がってくれればいいのだが。

                   ******

20時。
メモリーによれば、ターゲットがだいたい帰宅する時刻。
私は充電を切り上げ、冷めた料理を温め直す用意をする。
幸い充電は64%まで上昇した。
行動に問題はない。
私は椅子に座り、ターゲットの帰宅を待つ。
念のためにテレビも点けておく。
見るつもりはないが、これもターゲットの警戒心を解くのに有効と判断する。

20時13分にターゲットが帰宅する。
私は玄関に出迎えに行く。
「お帰りなさい。晴樹さん」
メモリーと照合。
ターゲットと確認。
「ただいま。今日は帰ってこれたんだね。良かった。心配したよ」
にこやかな笑顔で私にカバンを渡してくるターゲット。
「ごめんなさい。急なトラブルで帰るに帰れなくて。終電も逃してしまったから会社に泊まるしかなかったの」
私は全力で申し訳ないという表情を作る。
女のこういう表情に男は弱いというデータもある。
「そういうことはあるからなぁ。でも今日は早く帰ってこられたのかい?」
「ええ、おかげで料理を作る時間も作れたわ」
「おっ、そりゃ楽しみだ」
ターゲットは計算通りに私への警戒を解き、そのまま室内へと入っていく。
無防備な背中をさらして私の前を歩いていく。
私は持っていたカバンを置くと、ターゲットに後ろからそっと抱きつく。
「おっ? おいおい、どうしたんだい?」
「だってぇ・・・昨夜は会えなかったんですもの・・・」
メモリーでは以前の私はこのターゲットと結婚して一年に満たない。
ならばこういう接し方でターゲットに甘えるのは80%以上の確率で有効だ。
「ははは、春歌は甘えん坊だな。あっ、痛っ!」
「えっ? どうかした?」
私は何も気づかないふりをして胸の針を引っ込める。
媚薬入りの自白剤の注入に成功。
ターゲットに充分な量を打ち込んだわ。
「あ、いや、背中に針が刺さったような痛みが・・・」
「えっ? ご、ごめんなさい。ピンが刺さっちゃったのかも」
私はターゲットから離れ、髪のピンをいじる。
これでターゲットは疑問に思うのを70%以上の確率でやめるはず。
「そ、そうか? なんかちくっと痛かったから・・・」
「本当にごめんなさい」
振り返ったターゲットに私は頭を下げて謝る。
あとは5分ほど待てばいい。

私がターゲットに食事を温め直している間に、ターゲットが着替えを終えて戻ってくる。
見ると、ターゲットの穿いているスウェットパンツの股間が膨らみ、うつろな目で私を見つめている。
先ほどの薬が効いたのね。
「どうかした、晴樹さん?」
私は気が付かないふりを装ってそう尋ねる。
「あ・・・いや・・・その・・・なんというか・・・」
言いにくそうにもごもごしているターゲット。
「言いなさい」
自白剤の効果を確かめるためにも、少し高圧的に私は言う。
「あ、ああ・・・昨日顔を見ていないからかなぁ・・・君が・・・すごく欲しいんだ・・・」
「ふふっ・・・そう・・・それじゃ食事の前に二人で楽しむ?」
私は温め直した料理をテーブルに置き、ターゲットの元へと歩み寄る。
そしてしなだれかかるようにして、ターゲットの股間に手を這わせ、耳元でささやいた。
「ここはもうこんなになっているのね・・・うれしいわ」
「いや・・・その・・・」
「さあ、ベッドへ行きましょう。二人でたっぷり楽しみましょうね」
「あ・・・ああ・・・」
私はターゲットをベッドルームへと誘い、リビングを後にした。

                 ******

んちゅ・・・くちゅ・・・
私はプログラムを駆使してコマンダーのペニスを舐めしゃぶる。
その表情からコマンダーも満足してくれている確率は80%以上と判断する。
このまま射精に導き、ご満足いただくのが私の使命。
先日のターゲットも、早々に私の口の中に射精していたわ。

「うっ・・・ん・・・」
私の口中にコマンダーの精液が流れ込む。
私はそれを喉を鳴らすようにして飲み込んだ。
後で吐き出して洗浄すればいい。
もちろんワギナもアヌスも洗浄済みだから、コマンダーには気持ちよく使っていただける。
カバーのおかげで内部にも影響はない。

「それで? 報告の続きを」
「かしこまりました。ターゲットをベッドルームに連れ込んだ後は、フェラチオをしつつ情報を引き出しました。二名の名をご報告いたしましょうか?」
私はコマンダーを優しく寝かせ、その横に寄り添うように寝そべると、彼のペニスをそっと握る。
「いや、必要ない。今回の任務はお前の能力のチェックにすぎない。続きを」
「はい。情報を聞き出したあとは、ターゲットと性行為をおこない、充分に興奮させたところで麻痺毒を注入し殺害いたしました。心臓の停止を確認後、ご指示通りに連絡を取りました」
私は報告を続けながらも、コマンダーのペニスを優しく愛撫する。
私にプログラミングされた愛撫に勃起しない男性はほぼ皆無と言っていいだろう。
コマンダーのペニスもすぐに力強さを取り戻してくださった。
「ご苦労だった。すると彼は、最後に愛する妻の手料理を食べることもできなかったわけか。クククク・・・」
「死亡確認後、すぐに生ごみとして処理いたしました。私には必要のないものでしたので。いけなかったでしょうか?」
私にはあのような食事など必要はない。
電気を充電していただければいいの。
「いや、問題はない。さて、じっくりとお前の躰を堪能させてもらうとするか、ナンバー24」
「はい、存分にご堪能くださいませ」
私はコマンダーの躰にやさしく乗り、その大きくて太いペニスを入れてもらう。
ああ・・・
私はハニートラップ用サイボーグナンバー24。
次のご命令を心からお待ちいたします。

END

  1. 2017/10/07(土) 20:24:33|
  2. 改造・機械化系SS
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おまわりさんがパトカーモチーフのセクサロイドに

Twitterで私がいつもお世話になっております彗嵐(すいらん)さんというお方が、スロットメーカーで「ろぼっこめーかー」なる、人物機械化シチュスロットを制作されまして、そこで出来上がったシチュ「おまわりさんが パトカーモチーフの セクサロイドに」というのをご自身でイラスト化されたものをツイッターにアップされておりました。

DKde7FOUIAEPsel.jpg   DKde7FNVAAEA7nX.jpg   DKde7FPUIAAz3mX.jpg
(彗嵐さんがお描きになられましたイラスト)

そのシチュとイラストが、私のとてもツボにはまりまして、これはもうSS化したいという欲求がむくむくと湧きましたので、短いながらSSを作ってしまいました。
彗嵐さんにご覧になっていただいたところ、快く公開を許諾していただきましたので、今回SSを公開させていただきます。
彗嵐さん、本当にありがとうございます。

それではどうぞ。


おまわりさんがパトカーモチーフのセクサロイドに

「待たせたね」
深夜、一台のセダンの助手席に恰幅のいい男が乗り込んでくる。
髪の生え際も後退し、そこそこ歳を取っているのが見て取れる。
「いえいえ、お気になさらず。それよりも署長自らお呼び出しとは、何かありましたか?」
運転席の男がちらっと助手席を見る。
こちらは一見しておとなしめのサラリーマンのようなスーツ姿だ。
「うむ。どうも我々のことに探りを入れてきている者がいるようだ」
「探りを?」
「うむ。それも署内にな。全く頭が痛いよ」
「それはそれは・・・どこかへ飛ばすなりしてはいかがで?」
運転席の男が苦笑する。
「それも考えてはみたが・・・余計なことをして藪を突いて蛇を出してもなぁ。目が届かなくなったら何をするかわからん」
助手席の男は逆に苦虫を噛み潰したような顔をする。
「どんな人間なのです?」
「署内の刑事課の婦警でな。このところ管内で若い女性の行方不明者が数人相次いだことに疑念を持ったらしい。君らが少しやりすぎたということだ」
「これは手厳しい。われわれとしては一定地域に偏らないようにしているつもりなのですけどね」
「ともかく、少しの間おとなしくしてくれんか? ほとぼりが冷めるまで。まったく・・・あの女、顔や躰は最高なんだが・・・」
腕を組んで仏頂面をする署長。
闇組織とのつながりが表に出たりしたら、目も当てられない。

「顔や躰は・・・ということは、署長好みなのですか、その女は?」
ぼそっとつぶやくように運転席の男がたずねる。
「ああ、わしがもう少し若ければ口説いてみたかもしれん。今はもう人妻だがな」
「ならばいっそのこと、その女刑事を“処理”してしまうのはいかがです? 署長好みにプログラムして差し上げますよ」
「何っ?」
思わず運転席の男を見る署長。
「署長にはいろいろと便宜を図っていただいてますからね。これもサービスです」
「なるほど・・・その手があったか・・・ちょうどいい、近々交通安全啓発用に何か用意しようと思っていたところだ」
「ではそっち方面で資料を用意しておきますよ」
二人の男はそれぞれにやりと笑みを浮かべた。

                  ******

「ようこそNRSナアシルカロボットサービスの工場へ。お待ちしておりました」
ブルーの作業着を身に着けたメガネの男性が出迎える。
作業着とはいえシミひとつないことから、実際に作業に当たる人物ではないのだろう。
「初めまして。東中警察署から参りました三坂壬鈴梨(みさかみ すずり)と申します。今日は見学よろしくお願いします」
タイトスカートのスーツを素敵に着こなしたスタイルのいい女性が笑顔で挨拶する。
「三坂壬さんですか、珍しいご苗字ですなぁ。あ、私はここの管理主任をやっております林(はやし)と言います。よろしくお願いします」
受け取った名刺に目を落とし、自己紹介する林。
「早速ですが、お話によりますと、交通安全啓発用のマスコットになるようなロボットということでよろしかったですか?」
「はい。上司から女性の視点でデザインを確認してほしいとのことでしたので。本来なら交通課の人の仕事なんでしょうけど・・・」
やや不満げな表情の鈴梨。
本来の仕事ではないことに時間を取られるのだから無理もない。
「そうでしたか。ちょうど今デザインがあがったところですので、ご確認いただきましょう。こちらへどうぞ」
林に促されて事務室に向かう鈴梨。
鈴梨に背を向けた林の口がにたっと笑う。

「これがそうなんですか?」
鈴梨の前に広げられる何枚かのデザイン資料。
白と黒で大まかにまとめられ、ところどころに赤が混じる。
いわば警察のパトカーをモチーフにしたもので、全体のフォルムは女性らしい形状をしている。
頭部はまさにパトカーと言ってもいい感じで、ヘッドライトが目を、タイヤがヘッドフォンのような耳を、そして頭頂部には赤色回転灯が付いている。
胴体部は白いプラスチックボディに黒いアーマーが付けられたようになっており、それがまるで女性のブラジャーとショーツのように胸と腰の部分を覆っている。
背中側にもウイング状の赤色回転灯が付いていて、点滅するようになっていた。

「なんというか・・・確かに女性ぽくて親しみやすいのかもしれませんけど、どことなく女性過ぎるような・・・もっと丸みのある・・・そうゆるキャラのようなもののほうがいいのではないでしょうか?」
デザイン資料を見た鈴梨は林にそう提案する。
なんと言うか、口は人間そのもののような感じだし、何より股間のところにある開閉可能な開口部が、いやらしく感じてしまったのだ。
だが、林はにやりと笑って首を振る。
「いやいや、これでいんですよ。なんと言っても署長様が結構気に入られたようでして」
「えっ? 署長が?」
「はい。あの女もロボットになってしまえばいうことを聞くだろうし、これならなかなかいやらしそうでいいじゃないかと」
「なんですか、それ? あの女とはどういう・・・うっ!」
突然立ち眩みのようなめまいに襲われる鈴梨。
「ああ、薬が効いてきましたか。先ほどのお茶に混ぜておきましたので。ご安心を。死にはしません」
「ど、どうし・・・」
必死に意識を保とうとする鈴梨。
だが、強い眠気が彼女を襲う。
「このロボットは、あなたを改造してつくられるのですよ。あれをごらんなさい」
林が部屋の窓から見える工場内部を指し示す。
そこにはまだ高校生ぐらいの少女が、装置に裸で磔にされていた。
「な・・・」
「クライアントからの要望でしてね。彼女をバニーガール型ロボットにしてほしいとのことで、これから改造をはじめます。あなたより一足先に完成するでしょう」
「ふざけ・・・」
必死に立ち上がって怒りをぶつけようとする鈴梨。
だが、躰がもう言うことを聞かない。
「ごゆっくりお眠りください。次に目覚めた時には、新しい自分に生まれ変わってますよ。そう、セクサロイドという新しい自分にね」
林がそういうのをかすかに聞きながら、鈴梨の意識は闇へと沈んだ。

                   ******

「ピポー! 皆様コンニチワ。ワタシはこの交通安全教室のサポートを行いますSR37とモウシマス。よろしくお願いイタシマス」
ところどころ発音が機械的になる声であいさつをする一台の女性型ロボット。
白と黒を基調とし、頭部や腰にはウィング型の赤色回転灯が明滅している。
頭はパトカーのような形になっており、ヘッドライトが目、タイヤが耳になっている。
どういうわけか人間らしい口元はなまめかしさも感じられ、大きな胸とお尻、それとくびれた腰は女性のラインをこれでもかと意識させる。
その姿に保護者の一部はやや眉をひそめたが、子供たちにとってはかっこいい女性パトカーロボであり、彼女の登場で会場は大いににぎわっていた。

「ピポー! 皆様も、交通ルールはヨクマモリ、交通安全にツトメマショウ。SR37とのオヤクソクです」
彼女が口元に笑みを浮かべると、子供たちから歓声が起こる。
今日も交通安全教室は成功をおさめていた。

                   ******

「今日も盛況のようだったね。お前が来てから我が署で行う交通安全教室はいつも子供たちが大勢来てくれるそうじゃないか」
署長室で椅子にふんぞり返り、机の前に立つSR37を眺めている所長。
その口元には下卑た笑みが浮かんでいる。
「ピポー! ハイ。オオゼイの方に来てイタダキマシタ」
直立不動で署長に答えるSR37。
その姿はやはりどことなくなまめかしい。
「うむ。いい事だ。ところで、我が署の刑事課の三坂壬という婦警が行方不明になっているのだが、お前は何か知っておらんか?」
「ピポー! メモリー検索イタシマシタところ、三坂壬鈴梨はワタシの素体とナッテオリ、現在は存在イタシマセン」
「するとお前が三坂壬鈴梨なのかね?」
「ピポー! チガイマス。ワタシはSR37です」
「わしに対しては正式名称で答えたまえ」
「ピポー! カシコマリマシタ。ワタシはパトカーモチーフセクサロイド37デス」
その返事に満足そうにうなずく署長。
「そうだ。お前はわしのために作られたセクサロイドだ。わしのために奉仕するのがお前の役目だ。忘れるな」
「ピポー! ハイ。マスター」
「ふふふ・・・お前の口が人間のようなのも、お前の股間が開閉式なのも、すべては男を喜ばせるためのもの。さっそく奉仕してもらおうか。こっちへ来い」
「ピポー! カシコマリマシタ、マスター。ご奉仕させてイタダキマス」
署長の元に歩み寄り、ひざまずいてズボンのファスナーを開け、肉棒を取り出すSR37。
その口が署長の肉棒を愛しそうに舐めしゃぶる。
こうして一人の女性警察官が、一体のセクサロイドへと生まれ変わってしまったのだった。

END
  1. 2017/09/27(水) 20:45:18|
  2. 改造・機械化系SS
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そしてネコ

今日はSSを一本投下です。

タイトルは「そしてネコ」です。
先日投下してご好評をいただきました拙作「オオカミとコウモリ(前)」及び「オオカミとコウモリ(後)」で、ちらっとだけ触れられた遊佐司令の堕ちるシーンで、いわば続編となっております。
お楽しみいただければと思います。

それではどうぞ。


そしてネコ

「うーん・・・」
ゆっくりと目を開ける遊佐明香(ゆざ めいか)。
「ここは? 私はいったい・・・」
薄暗い中で自分がどうなったのかを思い出す。
確か私は・・・
そこで初めて彼女は自分が今どうなっているのかを把握した。
全ての衣服を取り去られ、生まれたままの姿で台の上に寝かされている。
両手と両足は金具のようなもので固定され、上からみると大の字のようにされているようだ。
「こ、これは・・・」
彼女はどうにか頭を持ち上げて、自分が身動きできなくさせられていることを確認した。
「捕らわれた・・・というわけね・・・」
どのみち彼女の力でこの金具をはずすことはできないだろう。
ならば、何らかの隙を見つけて脱出するしかない。
その隙はきっとあるはずだ・・・

それにしても・・・と明香は思う。
アースダガーのうち二人の女性が敵に回ったというのは大きな衝撃だった。
あの凛とした由梨(ゆり)、優しかった絵里(えり)が仲間を引き裂いて殺しただなんて・・・
異形化した姿を見せられ、こうして捕らわれているにもかかわらず、なおも明香にはそのことが信じられない思いだった。

「キキキキー! お目覚めですか、遊佐司令?」
甲高い鳴き声を上げ、そばにやってくるバットピンク。
その濃いグレーのバイザーに覆われた顔からは、中の絵里の表情はうかがえない。
いや、すでにこのバイザーがバットピンクの顔であり、絵里という人間はもういなくなってしまったのかもしれない。
あらためて目の前で見せつけられる事実。
あの優しい絵里はもういない。

「アオーン! あんまり目を覚まさないから、強く殴りすぎたかと心配になりましたわ。ホント、人間って下等でもろいわねぇ」
吠え声をあげながらバットピンクの隣にやってくるウルフイエロー。
彼女もグレーのバイザーの顔で明香を見下ろしてくる。
表情こそないものの、二人とも人間を下等な存在と軽蔑しているのは間違いない。

「アオーン! でももうすぐ司令は生まれ変われますわ。偉大なるガブーのガブー怪人として。うらやましいですわ」
「キキキキー! ええ、本当に。首領様がきっと素敵なガブー怪人にしてくださいますから、安心してその身をささげてくださいね」
二人が顔を見合わせて笑うのを見て明香は青ざめる。
この二人は本当に自分をガブー怪人にするつもりなのだ。
地球人がガブー怪人になるなど聞いたことがない。
そんなことが本当に?
だが、すでに目の前の二人がそれを証明している。
地球を守るアースダガーの二人は、今や地球を支配しようとするガブーの一員なのだ。
私もそうなってしまうというの?
明香は背筋が凍るような気がした。

「グルルルル・・・首領様はまだお姿を見せないのか?」
「アオーン! はい、いまだお見えになっておりません」
ゆっくりと姿を現したウルフガブーにそう答えるウルフイエロー。
その青白い毛皮に覆われて立つ姿は、まさに狼男であり、明香を驚かせるには充分だったが、それ以上に明香が愕然としたのは、やってきたウルフガブーにまるで恋人のようにしなだれかかって甘え始めるウルフイエローの姿だった。
「ケケケケ・・・これが首領様の所望された人間の女か? このままでもなかなかいい女ではないか」
「キキキキー! アースダガーチームの司令官遊佐明香です。きっと有能な女ガブー怪人に生まれ変わるはずですわ」
もう一体のガブー怪人バットガブーが現れ、バットピンクの肩を抱く。
こちらもウルフイエローに負けじとバットガブーに甘えるようだ。

「ああ・・・そんな・・・」
思わず目をそらす明香。
二人がガブー怪人に寄り添うのを目にして、改めて二人が悪に染まってしまったことに悔しさと悲しさを感じてしまう。
できれば二人をもとの姿に戻したい。
ガブーの侵略を阻止したい。
そのためには何とか隙を見て逃げ出さなくては・・・
きっとチャンスは来るはず。
明香はそのチャンスをじっと待つ。

『皆そろったようであるな』
突然部屋に重々しい声が響く。
「「「「ハッ、ハハーッ!」」」」
その声にいっせいに答え、ひざまずく四体の怪人たち。
まさか・・・
これがガブーの首領の声なの?
明香はその声の圧倒的な重厚さに驚いた。

『その女が遊佐明香か?』
「アオーン! 偉大なるガブーの首領様、その通りでございます」
「キキキキー! ガブーに歯向かう愚かなアースダガーチームの司令官を勤めていた女でございます」
ウルフイエローとバットピンクが顔を上げ、声に答える。
見ると、彼女たちの向いた方の壁に、大きく開いた獣の口のような紋章があり、上下に伸びた鋭い牙が、鈍い光を放っていた。
どうやら声はその牙の紋章から発せられているらしい。

『うむ。アースダガーの働き、なかなかに手強いものであった。よって、そなたに我がガブーの一員となる栄誉を与えよう。我が力を受け、生まれ変わるがいい』
まるで死刑の宣告であるかのような重々しい宣言。
ガブーの首領の手で、このままガブー怪人にされてしまうというの?
それだけは・・・
「ま、待って! 待ってください!」
思わず声をあげる明香。
何とかこの場を切り抜けなくては・・・
ガブー怪人になどされてたまるものですか・・・

『何か言いたいことがあるのか? 遊佐明香よ』
「は、はい。も、もう抵抗はしません。降参です。ですから・・・ですから私もガブーの一員にお加えくださいませ」
『ほう。自ら我がガブーに加わりたいと申すか?』
「はい。どうせもう人類は負けです。ならば、ガブーの一員に加わって生き残り、来るべき社会で支配者側になって暮らしたいですわ」
心にもないことを明香は必死に訴える。
ここで首領に信用してもらえば、何とかチャンスができるかもしれない。
『ふむ。なるほど』
「私は首領様に忠誠を誓います。それに、怪人やクグチューばかりではなく、人間の姿のままの部下がいれば、潜入活動等で何かと役に立つはずです。怪人化などしていただかなくとも、このままで充分にお役に立って御覧に入れますわ」
ガブー怪人などにさえされなければ、いつか首領を出し抜くことだってできるはず。
それまでは多少のことも我慢して・・・
明香はそう思う。
しかし、彼女は肝心なことを失念していた。

『ブォッフォッフォッフォ・・・』
紋章から奇妙な笑い声が響く。
「な、う、嘘ではございません。私は心からガブーに・・・」
『なるほどそなたは頭が切れる。人間にしておくにはもったいない』
「いえ、むしろ人間のままでいさせていただく方が・・・」
なんとか怪人化をまぬがれようと、明香は訴える。
『確かに人間の姿で活動できる者がいるほうが、我がガブーにとっては便利であろう。だが、それは何もそなたである必要はない。見よ!』
紋章からの声にうなづき、ウルフイエローとバットピンクが右腕のブレスレットを操作する。
すぐさま黄色とピンクの粒子が飛び散り、二体の女怪人は辛木(からき)由梨と相園(あいぞの)絵里の姿となる。
「あっ!」
その姿に臍を噛む明香。
確かに彼女のいた司令室に入ってきたとき、二人は人間の姿だったではないか。
だからこそ自分は怪しまなかったのだ。
つまり、彼女が提言した、人間の姿で暗躍できる部下をすでに首領は持っていたということなのだ。

『理解したようだな、遊佐明香よ。人間のままのそなたなど欲しくはない。むしろ我はそなたを完全なる我がしもべとしたいのだ』
「いやぁっ! いやよぉっ!」
明香は何とか手足の枷を振りほどこうと身をよじる。
もはやチャンスを待つなどと悠長な場合ではなくなってしまったのだ。
『無駄なことはやめるのだ。そなたの力ではその枷ははずせぬ。我が力を受け取るがいい』
「いやぁ! 助けてぇ! いやよぉっ!」
明香の叫び声が部屋中に広がった。

『むん!』
首領の声とともに、明香の躰を色とりどりの光が照らし始める。
光はスポットライトのように明香の躰を円形に照らし出し、赤や緑や黄色の光が明滅しながら回転する。
「いやぁっ! 何? なんなの? 躰が熱い! いやぁっ!」
首を振って苦悶の表情を浮かべる明香。
やがてその躰に変化が起き始める。
明香の躰が黒く染まっていき、まるでナイロンの全身タイツを着たかのようなつややかになっていくのだ。
胸の部分と股間にはまるで黒い毛で作られたブラジャーやショーツを穿いているかのように、毛が生えていって形作られる。
両手首から先はこれも黒い毛が生えていき、指先からは鋭い爪がのびていく。
両足はひざ下のあたりから黒い毛が生えていき、猫の足先のように変化する。
お尻からは黒くて長い尻尾がのび、ゆらゆらと揺れていた。
変化は頭部にも及んでいき、明香の顔は鼻がのびて頬からはひげが生え、両耳も三角形の猫の耳へと変化する。
口からは尖った牙が覗き、両目は瞳が細い猫の目へと変わり、完全なる黒猫の頭部へと変わっていった。

同時に明香の中でも変化が起こる。
まるで洪水のように流れ込んでくるガブーの思想。
それは明香の中にある人間への愛情や平和への思いをあっという間に塗りつぶしていく。
人間は下等で地球を食いつくす害獣であり、首領に選ばれたもののみがガブーの管理の下で生き残ることができるもの。
それ以外の人間はすべて狩りの対象であり、ガブー怪人によって狩りつくさなくてはならないのだ。
そして彼女は首領に選ばれ、ガブー怪人に生まれ変わる。
それは光栄なことであり、喜ぶべきこと。
そういった思考が彼女の中で作られていく。

「ああ・・・あああ・・・いやぁーぉぅ・・・うなぁーおぅ」
無意識のうちにだんだんと明香の悲鳴が鳴き声に変わる。
人間の肉に牙を突き立て、鋭い爪で引き裂きたい。
人間を殺してその血を浴びて酔いしれたい。
人間は獲物。
殺したい殺したい殺したい。
「ウナーオ! ナーオゥ!」
自然と鳴き声が漏れてくる。
私は猫。
偉大なる首領様に作られた猫。
私はガブーの女怪人キャットガブー!

明香の価値観が上書きされる。
地球は守るべきものではなく支配するもの。
偉大なるガブーの首領様によって支配され、人類は管理されなくてはならない。
その尖兵となるのがガブー怪人であり、首領様の手足となって働くのだ。
偉大なる首領様にお仕えできる喜び。
ガブー怪人に生まれ変われる幸せ。
明香の中でそれらが増幅されていく。
私はガブーの女怪人。
偉大なる首領様のしもべ。

「ウナーーーオゥ!」
ひときわ高く鳴き声を上げ、明香は目を開ける。
その目は金色に輝き、瞳は細く縦に長い。
同時に両手と両足の枷が外れ、躰が自由になる。
すぐに彼女は躰を起こし、台から降りる。
ひたひたと静かな足音を立て、彼女は牙の紋章に近づいていく。
そしてゆっくりとひざまずくと一礼した。
「偉大なる首領様。私をこのような素晴らしい躰にしてくださり、感謝いたします。ウナーオゥ!」
『うむ。気分はどうか?』
「はい。とてもいい気分です。ガブー怪人に生まれ変わることがこんなにも素晴らしい事だったなんて。なぜあのように嫌がったりしたのか・・・バカみたいですわ。私はガブーの女怪人キャットガブー。どうぞ何なりとご命令を」
誇らしげに顔をあげる明香。
いや、黒猫のようなその顔といい、もはや彼女は身も心も完全なガブー怪人キャットガブーと化していたのだった。

『うむ。期待しておるぞ、キャットガブー』
「はい。お任せくださいませ、首領様。ナーオゥ!」
首領の言葉に嬉しそうに返事をして立ち上がるキャットガブー。
すらりとした全身は女性らしいラインをあらわにし、両手両足に頭部、それに胸と股間と尻尾だけに毛が生えているのがなんともなまめかしい。

「キキキキー! お誕生おめでとうございます、キャットガブー様」
「おめでとうございます。アオーン!」
バットピンクとウルフイエローがそばにやってきてひざまずく。
彼女たちはバットガブーやウルフガブーの眷属という位置であり、ガブー怪人であるキャットガブーは彼女たちより上位なのだ。
「ありがとう二人とも。これもあなた方のおかげよ。私をここに連れてきてくれたことに礼を言うわ。ナーオゥ!」
鋭い牙をのぞかせて笑みを浮かべるキャットガブー。
生まれ変わった自分の躰が誇らしい。

「ケケケケ・・・これは何とも美しいガブー怪人ではないか。吾輩はバットガブー。以後お見知りおきを」
「グルルルル・・・まあ、見た目はわるくない。だが、実力のほどはどうかな? 首領様の失望を買わねばいいがな」
バットガブーとウルフガブーもやってくる。
新たな仲間、しかも女怪人の誕生に立ち会うなど初めてのことだ。
「ケケケケ・・・ウルフガブーめ、そんなことを言っているが、キャットガブーを一目見てずいぶんと発情していたようではないか?」
「ば、バカを言うな、バットガブー! いくらお前でも俺様の牙の餌食にしてやるぞ!」
図星を指されたのか、慌てたようにバットガブーをにらみつけるウルフガブー。
「ウナーオゥ! そんなふうに言ってくださるなんて嬉しいですわ。こちらこそよろしく、ウルフガブーにバットガブー。お二人ともとても素敵ですわよ。私も思わず発情しちゃいますわぁ。ウナーオゥ!」
二人の怪人に笑みを見せながら、胸を揺らして見せつけるキャットガブー。
「グルルルル・・・なんだったらたっぷりと可愛がってやるぜ、キャットガブー」
「ケケケケ・・・吾輩も楽しませてもらうとしようか」
「まあ、うれしい。三人でたっぷりと楽しみましょう。怪人同士の濃厚なセックスを・・・ウナーオゥ!」
二人の間に入り、両腕を二人の腕にからめるキャットガブー。
三体のガブー怪人と二体の眷属は、そろって牙の紋章の間を後にするのだった。

                  ******

「キャーッ!」
「が、ガブー怪人だ!」
悲鳴を上げる男と女。
親子と見えて、女性のほうは少女を足もとに抱いている。
楽しい遊園地からの帰り、自宅まであと少しという夜道でこんなことになるとは思わなかったに違いない。
「ナーオゥ! 私は偉大なるガブーの女怪人キャットガブー! お前たち、私の餌食になりなさい!」
両手の鋭い爪を光らせる黒猫のガブー怪人。
黒い全身タイツを着た女性のようだが、両手両足や頭部は猫のものであり、長い尻尾も揺れている。

「く、くそっ! この化け物め!」
なんとか妻と娘を逃がす時間を稼ごうとしたのか、男が背負っていたリュックを振り回して立ち向かう。
「ぐわっ」
だが、あっさりとかわされたうえ、キャットガブーの蹴りを食らって地面にうずくまってしまう。
「あなた!」
「パパ!」
逃げなくてはとは思うものの、足がすくんで逃げることもできず、目の前で打ち倒された男に思わず声が出てしまう妻と娘。
「ナーオゥ! 愚かな男ね。ガブー怪人に人間ごときが立ち向かえるとでも思っているの? そこでおとなしく見ていなさい!」
うずくまった男に蹴りを入れ、妻と娘に向かっていくキャットガブー。
「い、いやっ、来ないで!」
「いやぁっ!」
慌てて走り出す二人だったが、キャットガブーは難なく追いついて母親のほうを捕まえてしまう。
「きゃぁー!」
「マ、ママ!」
「郁美(いくみ)!」
思わず足を止めて母親を見る少女。
母の向こうには地面に倒れて必死に手を伸ばしている父もいる。
「に、逃げて! 香奈(かな)は逃げなさい! きゃぁー!」
必死に娘を逃がそうとした母親だが、その首筋にキャットガブーが噛みついた。
その場にどさりと倒れる母。
「ママ!」
動かなくなった母を見てどうしていいかわからない少女。
逃げることも母に駆け寄ることもできずにただ立ち尽くしていた。

「ウナーオゥ! クフフフ・・・私のエキスを流し込んだわ。さあ、起きなさい」
血の付いた牙を手の甲で拭うキャットガブー。
その目が怪しく輝いている。
「ニャーオ!」
むくりと起き上がる母親。
その目の瞳は細く、頭には三角の猫耳が生えている。
口には犬歯が長くのび、両手の爪は鋭く尖っていた。
「ニャーオ!」
もう一度猫の鳴き声を上げる母親。
「ナーオゥ! クフフフ・・・これでお前は私のしもべ。人間たちはおそらくお前のことを化け猫とでも呼ぶのかしら。さあ、あの子を取り押さえなさい」
「はい・・・キャットガブー様。ニャーオ!」
両手の爪をかざし、目を光らせて娘に向かう母。
「キャー!」
娘は逃げようとするが、母は人間を超えたジャンプで娘を飛び越えて立ちはだかる。
「マ、ママ・・・」
「ニャーオ!」
おびえる娘をがっちり捕まえ、母はぺろりと舌なめずりをする。
「あああ・・・」
目の前の母親がもう人間ではないことに、娘は恐怖した。

「クフフフフ・・・よくやったわ。さあ、お前も私のしもべになるのよ。ナーオゥ!」
一声鳴いて娘の首筋に噛みつくキャットガブー。
娘はすぐに地面に倒れ込み動かなくなる。
やがて母親と同様に瞳が細くなった目を輝かせ、口からは伸びた犬歯をのぞかせ、頭に猫耳を生やした娘が起き上がる。
「ニャーオ! 私はキャットガブー様のしもべです。どうぞ何なりとご命令を」
鋭い爪の伸びた手を胸元で丸め、甘えたような目でキャットガブーを見上げる娘。
「ナーオゥ! それでいいわ。さあお前たち。その爪であそこに倒れている男を引き裂きなさい」
「はい、キャットガブー様。ニャーオ!」
「ご命令のままに、キャットガブー様。ニャーオ!」
猫女になった二人がかつての夫、かつての父にとびかかる。
「や、やめろ! ぎゃーーー!」
血が飛び散り、男の悲鳴が闇に響く。
その様子を見てほくそ笑むキャットガブー。
「クフフフフ・・・なんてすばらしいのかしら。この調子でどんどん私のしもべを増やし、下等な人間どもを駆逐するの。世界は偉大なるガブーのものになるのよ! ウナァーーーオゥ!」
キャットガブーは大きく鳴き声を上げ、ガブーの女怪人に生まれ変わったことを心の底から喜ぶのだった

END
  1. 2017/09/24(日) 21:02:02|
  2. 改造・機械化系SS
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オオカミとコウモリ(後)

新作SS「オオカミとコウモリ」の後編です。
タイトル通りコウモリが登場です。
お楽しみいただけましたら幸いです。


                   ******

クレープ屋からの帰り道。
夕暮れの中、二人の女戦士が道を歩く。
「うーん・・・美味しかったぁ」
クレープのおいしさに満足気な顔の絵里。
その様子に隣で由梨が苦笑する。
「ん? 由梨は美味しくなかった?」
確かにあんまり多くは食べてはいなかったようだが・・・
「いや、そんなことは・・・」
だが、由梨にとって物足りなかったのも事実だった。
人肉を食べてみたい・・・
ウルフイエローとなった由梨には、クレープなんかよりもそっちの方がよほどおいしそうに感じるのだ。

「やっぱりあれ? 昼間の一件が尾を引いてる?」
目の前で人間が引き裂かれるのを見たというのだ。
食欲がなくて当然だろう。
甘いもので元気を出してもらおうと思ったけど、もしかしたら裏目に出てしまったのかもしれない。
絵里は自分の考えの浅さに思い至る。
「ううん・・・そんなことないわ」
「だといいけど・・・」
「ねえ・・・ちょっとこっちを通っていかない? 夕陽がきれいなところがあるのよ」
「えっ? ええ」
突然の由梨の申し出に一瞬戸惑う絵里。
だが、気晴らしになるならそれもいいとすぐにうなずく。
二人は高台にある公園へと向かった。

「うわぁ、きれいねぇ」
高台から夕陽を望む絵里。
確かに由梨の言う通り夕陽がとてもきれいに見える。
この街でこんなところがあるとは知らなかった。
いや、この高台公園そのものは知っていたのだが、夕陽がきれいとまでは知らなかったのだ。
「でしょ。まるで血の色みたい」
「えっ?」
驚いて隣の由梨に目をやる絵里。
そこにはとても冷たい目と笑みを浮かべた由梨が立っていた。
「由梨・・・どうしたの? 何か変よ?」
「そうかしら。ほら、人間どもの血の色って素敵じゃない?」
「由梨・・・昼間の件がそんなにショックで?」
「ショック? いいえ、とても楽しかったわよ。泣きわめく家族を爪で引き裂いていくのは本当に楽しかったわ。うふふふふ・・・」
「ゆ、由梨? いったい何を・・・?」
絵里は思わず一歩後ずさる。
いつも仲良く付き合っていた友人が急に全く知らない人物に思えたのだ。

「うふふ・・・あの人間どもを引き裂いて殺したのは私だって言っているのよ。楽しかったわ」
冷たい目を輝かせて笑う由梨。
その手に付けられたブレスレットのスイッチが押される。
「由梨! 何を?」
こんなところで変身するなんてどういうつもりなの?
そう思う絵里の目の前で、由梨の躰に黄色の粒子がまとわりつき、彼女をウルフイエローに変えていく。
大まかな外見はかつてのイエローダガーと変わらない。
だが、両脇の白いラインは黒くなり、両手の手袋と両足のブーツには毛が生え、足先はオオカミの足のようになっている。
お尻には黄色のふさふさの尻尾が生え、ヘルメットにはオオカミの耳が付いていた。
「由梨・・・その姿は・・・?」
思わず息をのむ絵里。
「アオーン! うふふふふ・・・これが本当の私の姿よ。私はウルフイエロー。ウルフガブー様によって眷属に生まれ変わったの。アオーン!」
「そ、そんな・・・由梨が・・・そんな・・・」
目の前で起こった出来事が信じられない絵里。
だが、周囲にいた市民たちの悲鳴が絵里をハッとさせる。
「皆さん、逃げて! 早く逃げて!」
すぐに周囲の人たちに逃げるよう指示する絵里。
そして自分もブレスレットに手をかける。
「由梨、待ってて、すぐに元に戻してあげる。ダガーチェンジ!」
絵里の躰にピンク色の粒子がまとわりつき、それがダガースーツへと変化する。
ピンク色に白のラインが両脇に入ったミニスカート型のスーツ。
バイザーに前面を覆われたフルフェイス型のヘルメット。
両手両足もブーツと手袋でカバーされ、露出部分は一切ない。
「ピンクダガー、降臨!」
アースダガーチームの一人、ピンクダガーがそこにいた。

「由梨、目を覚まして! あなたはガブーに操られているのよ!」
「アオーン! 違うわ。私は生まれ変わったの。ウルフガブー様のおかげで偉大なるガブーのすばらしさに目覚めたのよ」
鋭い爪をピンクダガーに向けるウルフイエロー。
あの爪ならダガースーツも無事では済まないかもしれない。
ピンクダガーがそう思うほどの鋭さだ。
「仕方ないわ。あなたを倒して由梨を取り戻す!」
ぐっとこぶしを握り締め、ウルフイエローに対峙するピンクダガー。
だが、彼女は背後から近づくもう一体の存在に気が付かなかった。

「グッ! えっ?」
いきなり背後から首を絞められるピンクダガー。
「グルルルル・・・油断したようだな。敵が目の前にいるだけとは限らんのだ」
「ガッ・・・ま、まさか・・・ガブー怪人?」
両手で首に回された相手の腕を引きはがそうとするピンクダガー。
だが、すぐにその手をウルフイエローが引き離し、左右に広げられてしまった。
「なっ?」
「グルルルル・・・俺様はガブー怪人のウルフガブーだ。そしてこいつは俺様の忠実なしもべになったというわけさ。そうだな?」
「アオーン! はい、ウルフガブー様。私はウルフガブー様のためなら何でも致します。アオーン!」
嬉しそうに吠え声をあげるウルフイエロー。
バイザーに浮き出た牙の模様が心なしか笑ったようにすら見える。
「くっ・・・あなたが由梨を・・・」
「グルルルル・・・そうさ。だが心配はいらん。お前もこいつと同じ俺様の眷属にしてやろう」
「本当ですか、ウルフガブー様? よかったわね。あなたも私と同じウルフガブー様のしもべになるのよ」
「くっ! だ、だれが・・・あなたの眷属になど・・・」
必死にもがき、何とか逃れようとするピンクダガー。
だが、二人がかりで押さえられてはどうしようもない。

「ケケケケケ・・・そいつは吾輩にもらえないかな? ウルフガブーよ」
「むぅ! 誰だ?」
夕闇が広がってきた公園に声が響く。
「ケケケケケ・・・吾輩だよ、ウルフガブー」
バサッと空気を切る音がして、黒い影が降りてくる。
全身を短い黒い毛に覆われ、両耳が大きく広がり、両腕には大きな羽が広がっている。
「グルルルル・・・バットガブーではないか。どうしてここへ?」
「ケケケケ・・・お前が面白いことができたと言っていたのでな。どうだ、その女は吾輩のモノにさせてもらえぬか?」
コウモリの怪人バットガブーがウルフガブーに話しかける。
「グルルルル・・・ほう、いいとも。ほかならぬお前の頼みだ。この女はお前のモノにするがいい」
あっさりと了承するウルフガブー。
同じガブー怪人同士ということもあるが、バットガブーとは妙に馬が合うのだ。
そのバットガブーの頼みであれば断る理由はない。

「ケケケケケ・・・それはありがたい。では早速」
「いやっ! 何を!」
ピンクダガーの両手をイエローウルフから受け取り、そのままその首筋に牙を突き立てるバットガブー。
「ひぐっ! ダ、ダガースーツが・・・そんな・・・」
バットガブーの牙に貫かれた首筋から何かが流れ込んでくる。
「ケケケケケ・・・吾輩のエキスをたっぷりと注入してやったぞ」
首筋から牙を離し、満足そうに笑みを浮かべるバットガブー。
「あ・・・躰が・・・しびれ・・・」
突き飛ばされるようにウルフガブーに放り出され、そのまま地面に倒れ込むピンクダガー。
その躰が小刻みに痙攣し、もはや声も上げられないようだ。

やがてピンクダガーのスーツにも変化が起き始める。
両脇の白いラインがすうっと黒く染まっていき、両足のブーツがコウモリの足のように変化する。
両腕からピンクの飛膜が形成し始め、コウモリの羽のように広がっていく。
手袋の指先からは鋭い爪がのびて尖っていく。
フルフェイスのヘルメットの両脇には大きなコウモリの耳ができ、バイザーの口のあたりに三角系の牙の模様が浮かび上がった。

「ケケケケ・・・ほう、これはこれは。さあ、起きるがいい」
バットガブーの言葉にゆっくりと起き上がるピンクダガー。
だが、その姿は以前とは異なり、両腕から胴体にかけてコウモリのような飛膜が広がっている。
「キキキキキー! なんて気持ちがいいのかしら。素晴らしいわ。私は生まれ変わりました。ありがとうございます、バットガブー様」
自分の躰をかき抱くようにしてくるくると回るピンクダガー。
「ケケケケ・・・これでお前は吾輩の眷属となったのだ。バットピンクと名乗るがいい」
「はい。それが私の新しい名前なのですね。私はバットピンク。バットガブー様の忠実な眷属です。何なりとご命令を。キキキキキー!」
スッとひざまずいて一礼するピンクダガー。
いや、もはや彼女はバットガブーによってバットピンクに作り替えられてしまったのだった。

「ケケケケケ・・・これは何とも面白いではないか。ウルフガブーよ、どうしてこんなことができるとわかったのだ?」
ピンクダガーが眷属と化したことに満足しながらも、なお驚きを隠せないバットガブーがウルフガブーに振り返る。
「グルルルル・・・先日人間を襲った時にな、噛みついたところに唾液を流し込んでしまったのだ。そうしたらその人間がオオカミ人間になったのでな。これは面白いと思ったのさ」
「なるほどなぁ」
腕を組んでうんうんとうなずくバットガブー。
「まあ、そいつは変化に耐えきれずにすぐに死んだがな。こいつらアースダガーならもしかしてと思ったのさ。こうもうまくいくとはね」
ウルフガブーがウルフイエローを抱き寄せる。
「あん・・・」
うっとりとしたしぐさでウルフガブーに寄り添うウルフイエロー。
「グルルルル・・・よくやったぞウルフイエロー。お前はもう完全に俺様のモノだな」
「もちろんですウルフガブー様。私はウルフガブー様の忠実なる眷属です。アオーン!」
それを見てバットピンクを立たせ、その肩を抱き寄せるバットガブー。
「ケケケケケ・・・これからはお前にも働いてもらうぞ、バットピンク」
「はい。何なりとご命令を。バットガブー様。キキキキー!」
ウルフイエローに負けずバットガブーにしなだれかかるバットピンク。
彼女ももはや身も心もバットガブーに完全に支配されてしまったのだ。

「ケケケケケ・・・まったく最高ではないかウルフガブーよ。で、どうするのだ? ほかの連中も眷属にするのか?」
「グルルルル・・・お前がそうしたければするがいい。俺様は野郎の眷属などいらんがな」
「ケケケケケ・・・それもそうだ。吾輩もいらん」
ウルフガブーの言葉に苦笑して首を振るバットガブー。
「グルルルル・・・だが、これで奴らを倒すのはこいつらにやらせればいい。できるな?」
「もちろんです。あんな連中と仲間だったなんて思いだしたくもありません。アオーン!」
「私もですわ。この生まれ変わった素晴らしい躰を見せつけ、奴らをこの爪で引き裂いてやります。キキキキー!」
ウルフイエローもバットピンクも両手の爪をかざしてみせる。
「ケケケケケ・・・どうやらもう仲間に対する親愛の情はなくなったようだな」
バットガブーの言葉に二人は深くうなづいた。

                   ******

「失礼します。うふふふふ・・・」
「うふふふふ・・・」
執務室に入ってきた由梨と絵里の二人に、机から顔をあげる遊佐司令。
二人が妙に冷たい笑みを浮かべており、また二人とも濃いアイシャドウを引いているのが明香には気になった。
「どうしたの、二人とも? 何か用?」
「うふふふふ・・・司令は今日何の日かご存知ですか?」
「当ててみてください。ふふふふ・・・」
つかつかと机のそばまでやってくる二人。
どうにもいつもと雰囲気が違う。
いったいどうしたというのだろう?

「さあ、わからないわ。ごめんなさい。誰かの誕生日だったかしら?」
首をかしげる明香。
いろいろと考えてみるが思い当たるものはない。
「うふふふ・・・残念」
「残念ですわ。ふふふふ・・・」
冷たく微笑んでいる由梨と絵里の二人。
「もう。意地悪しないで教えてちょうだい。いったい何の日なの?」
務めて明るくしようとする明香。
きっと二人は何かサプライズを仕掛けようとしているのかもしれない。

「うふふふ・・・それでは発表です」
「ふふふふ・・・実は・・・アースダガーの最後の日なんですよ、遊佐司令」
「えっ? 最後の?」
きょとんとしてしまう明香。
いったい二人は何を言っているのだろう?
最後の日とは?
「最後の日って・・・どういうこと?」
「うふふふふ・・・人間は察しが悪いですね」
「ふふふふ・・・仕方ないわよバットピンク。下等な人間どもには理解しがたい事なんだわ」
「それもそうね、ウルフイエロー」
顔を見合わせてくすくすと笑っている二人。
下等な人間だなどと、ガブーのようなことを・・・
えっ?
思わず椅子から立ち上がる明香。
「あなたたち・・・まさか?」
「うふふふふ・・・ようやく気が付いたのかしら?」
「ふふふふ・・・愚かな人間ね。さあ、私たちの本当の姿を見せてあげましょう」
そう言って二人は腕のブレスレットに手を伸ばす。
すぐさまピンクと黄色の粒子が彼女たちを包み込み、由梨と絵里の姿をウルフイエローとバットピンクへと変貌させた。
「アオーン! やっぱりこの姿がいいわぁ。人間の姿なんてしたくないわね」
「キキキキー! まったくだわ。この姿こそ本当の私」
以前のイエローダガーやピンクダガーの姿とそれほど変わっていないはずなのに、耳や尻尾、羽が付いただけでこうもまがまがしい雰囲気になるものか?
明香は二人の変化に愕然としていた。

「あ、あなたたち・・・」
「アオーン! どう? この姿。素敵でしょ? 私はウルフガブー様のおかげで生まれ変わったの。今の私はウルフガブー様の眷属ウルフイエロー」
「キキキキー! 私も生まれ変わりました。今の私はバットガブー様の眷属バットピンクなんですよ、遊佐司令」
「そんな・・・くっ!」
我に返った明香はすぐにインターコムに手を伸ばす。
自分はともかくこの状況をほかに知らせなくてはならない。
「レッド! ブルー! グリーン! 大至急司令官室へ来て! イエローとピンクがガブーに取り込まれたわ! 大至急来て!」
きっと呼び出している最中に襲われるものと覚悟していた明香だったが、意外にも二人は襲ってはこなかった。
それどころか腕組みをして明香の様子をうかがっている。
「もういいんですか? 司令。キキキキー!」
「何なら、もっと助けを呼んでもいいんですよ。アオーン!」
その言葉に色を失う明香。
「ま・・・まさか・・・」
「ふふふふ・・・厚司の躰を切り裂くのは気持ちがよかったわ。アオーン!」
「大樹もよ。結構筋肉質だったから切り裂き甲斐があったわ。キキキキー!」
鋭い爪をかざして見せつける二人。
「博人はちょっとだけ私たちを疑ったみたいだけど・・・」
「二人で襲えばなんてことなかったわね」
「三人とも・・・なの?」
がっくりと椅子に崩れ落ちる明香。
「ほかにもオペレーターとか警備兵とか。アオーン!」
「いっぱい切り刻んでやりましたわ。キキキキー!」
「最後は私というわけなのね・・・」
あきらめた表情を浮かべつつ、机の下の拳銃に手を伸ばす明香。
この拳銃の特殊弾ならダガーショットと同じ程度の威力を持つ。
おそらくこの二人にもかなりの効果があるに違いない。

「うっ? うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然頭の中をかき混ぜられるような激しい頭痛が明香を襲う。
思わずもんどりうって椅子から転げ落ちる明香。
取り出した拳銃も床に転がってしまう。
「ああ・・・あああ・・・」
「アオーン! ふふふふ・・・バットピンクの超音波はさすがね」
「キキキキー! ダメですよ、司令。そんなもので私たちに歯向かおうとするなんて」
超音波を止め、転がっている拳銃を遠くへ蹴り飛ばすバットピンク。
「うう・・・ううう・・・」
超音波が止まったことで頭痛は収まったものの、激しい衝撃で躰がうまく動かない。
「うふふふふ・・・心配はいりませんわ。司令を殺すつもりはありません。キキキキー!」
彼女のそばにやってくるイエローウルフとバットピンク。
「な・・・なんで?」
「ふふふふ・・・偉大なるガブーの首領様は、司令の才能を見込まれたのです。人間にしておくには惜しいと。アオーン!」
「ですから、司令を首領様の下へお連れして、首領様のお力で生まれ変わらせていただけるのですわ。キキキキー!」
動きのとれない明香を見下ろし、楽しそうに話している二人。
「うらやましいな。私たちは眷属だけど、司令はガブー怪人に生まれ変われるんだもの。アオーン!」
「本当ですわ。司令ならきっと素敵なガブー怪人に生まれ変われますよ。キャットガブーなんてどうでしょう? キキキキー!」
「そんな・・・ことは・・・」
「さあ、行きましょう司令。首領様がお待ちですわ。キキキキー!」
「や・・・やめろ・・・」
何とか抵抗しようとする明香。
だが、ウルフイエローが抱きかかえるようにして彼女を連れ去っていく。

やがてオオカミとコウモリのガブー怪人と、そいつらに率いられる黄色とピンクの女怪人に加え、黒猫と人間の女性が合わさったようなガブー怪人が現れるようになるまでに、そう時間はかからなかった。

END
  1. 2017/09/06(水) 20:49:32|
  2. 改造・機械化系SS
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オオカミとコウモリ(前)

久しぶりにSSが一本書きあがりましたので、今日明日の二日間で投下したいと思います。
タイトルは「オオカミとコウモリ」です。
楽しんでいただけると幸いです。

それではどうぞ。


オオカミとコウモリ

『イエロー、そっちは大丈夫?』
ヘルメットの内蔵スピーカーから聞こえてくるピンクの声。
「こっちは大丈夫。クグチューぐらいは私だけで充分」
そう答えて路地に逃げ込むクグチューたちを追っていくイエローダガー。
奴らを逃がしてしまえば、いずれまたどこかで悪事をおこなうに違いないのだ。
非情なようだが、敵は殲滅する。
それが地球を守るアースダガーの一員たる彼女の役目。

「ガブーのクグチューめ、ちょこまかと・・・でも逃がしはしないわよ!」
脇に白いラインの入った、黄色のミニスカート型のダガースーツと呼ばれるバトルスーツで全身を覆い、フルフェイスのヘルメットで頭部をカバーした姿は、まさに特撮番組に出てくるヒロインそのものだが、彼女の所属するアースダガーもまさにその特撮番組に出てくる正義の戦隊と言っていい。
レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクの五人の戦士たちが、地球侵略をもくろむ謎の組織ガブーと戦っているのだ。
現実だと言ってもなかなか信じてもらえないに違いない。

近年世界を騒がせている謎の組織ガブー。
最初は新たなテロリストの組織かと思われたものの、まるで動物の着ぐるみを着ているかのようなガブー怪人や、灰色の全身タイツにネズミのような頭と尻尾を持つクグチューと呼ばれる戦闘員が集団で現れ、世界征服を表明するに至っては冗談としか思われなかった。
だが、ガブー怪人やクグチューたちの力はすさまじく、警察力で抑え込むのは不可能と理解されるのにそれほど時間はかからなかった。
各国は軍隊による対応に乗り出したが、それさえも簡単に蹴散らしていくガブー怪人たちに、世界は驚愕し、頭を悩ませることになったのだ。

そんな中、日本では特殊バトルスーツの開発に成功し、アースダガー戦隊を作ることによってガブー怪人たちの阻止に成功していた。
ガブー怪人を五人のコンビネーションで翻弄して倒していくアースダガー戦隊。
これによって各国もそれぞれ自前の戦隊チームを編成し、ようやくガブー怪人に対処する目途が立ってきたという現状だったのだ。

「チュチュ―!」
「チュチュ―!」
お尻から伸びる尻尾を振りながら狭い路地を逃げていく二体のクグチューたち。
頭には大きな丸い耳が付いていて、時々ぴくぴくと動いている。
彼らがかぶり物や着ぐるみを着ているわけではないことが、そのことからもわかる。
「くそっ、こうも動き回られては・・・」
戦闘区域の周辺には警報が出され、一般市民は屋内待機を指示されてはいるものの、こうした狭い路地ではいつ市民と出くわさないとも限らない。
また、塀や生垣の向こうには民家があるわけで、こういう場所では拳銃型の武器「ダガーショット」を撃つわけにもいかなかった。
なんとか追いついて格闘戦に持ち込まねば・・・
次第に焦りを感じてくるイエローダガー。

「チュチュ―!」
「チュチュ―!」
突然クグチューたちの脚が止まる。
行き止まりの路地に入り込んでしまったのだ。
すぐさま戻って違う道に入ろうとしたものの、その前にイエローダガーが立ちはだかる。
「追いつめたわよ。もう逃がさない」
急いでクグチューたちを倒してしまわなくてはならない。
時間がかかれば、どっちかが塀を乗り越えて民家に入ってしまうかもしれないのだ。
そのため、一気に片をつけるべくイエローダガーはクグチューたちに飛び掛かった。
「ヤーッ!」
イエローダガーの手刀がクグチューの喉を砕く。
「チュチュ―!」
もんどりうって倒れるクグチュー。
すかさずもう一体の方には長い足を生かして蹴りを入れる。
「チュチュ―!」
蹴り飛ばされて塀に躰をたたきつけられたクグチューは、これもその場に倒れて動かなくなった。
「ふう・・・」
肩の力を抜いて息を吐くイエローダガー。
どうやらこいつらを逃がさずに済んだようだ。
思わずヘルメットのまま額の汗をぬぐおうとし、気が付いて苦笑する。

「グルルルルル・・・」
「えっ? 誰?」
背後からの唸り声に振り向くイエローダガー。
そこには青白い毛皮に覆われ、耳をぴんと立て、黄色の目をらんらんと輝かせ、牙をむき出して唸る直立したオオカミの姿があった。
「ガブー怪人!」
驚くイエローダガー。
先ほどタイガーガブーというガブー怪人をアースダガーは倒したばかりだったのだ。
これまでのガブーの動向から言って、数日は動きがなくなるはずだった。
それなのにまさかという思いがあったのだ。

「グルルルル・・・俺様はウルフガブー。イエローダガー、よくもクグチューたちを倒してくれたな」
牙をむき出し鋭い爪を向けてくるウルフガブー。
その威圧感に思わず一歩後ずさりしてしまう。
まずい・・・みんなを呼ばなければ・・・
ガブー怪人と一対一では倒すのは難しい。
負けるとまでは言わないものの、やはりチームで当たるのが正しいだろう。
だが、そんな思いをよそにウルフガブーが飛び掛かってくる。
「くっ!」
間一髪のところでウルフガブーの爪を避けるイエローダガー。

「ほう、よく避けたな。俺様の動きについてこられる奴はそうはいない」
振り向いてにらみつけてくるウルフガブー。
「くっ・・・」
奴の言うとおりだ。
一瞬でも気を抜けばあの爪や牙に引き裂かれてしまうだろう。
みんなを呼ぶにはどうしてもそちらに気をとられる。
いったいどうしたら・・・
イエローダガーのヘルメットの中で冷や汗が流れる。

「グルルルル・・・今度はどうかな?」
挑発するかのように笑みを浮かべるウルフガブー。
その鋭い爪がギラリと光る。
勝負は一瞬。
奴が飛び掛かってくるときの一瞬にかけるしかない。
ごくりとつばを飲み込むイエローダガー。
その手のひらにも汗が浮く。
失敗は許されない。
なんとしても・・・

「ガァァァァァッ!」
唸り声をあげて飛び掛かってくるウルフガブー。
「今だ!」
イエローダガーの手が腰のホルスターからダガーショットを抜き、そのまま射撃する。
狭い路地だがやむを得ない。
「グオッ!」
「ガッ!」
お互いに苦悶の声をあげる二人。
イエローダガーを飛び越えて着地したウルフガブーは、その肩の毛皮がちりちりと焦げている。
イエローダガーのほうも右肩に受けた衝撃で思わずダガーショットを落としていた。

「グルルルル・・・なかなかやるな。気に入ったぞ」
「それはどうも」
お互いにまた向き直る二人。
だが、イエローダガーは確実にダメージを受けていた。
衝撃で右手がしびれて、ダガーショットを拾えないのだ。
次に飛び掛かってこられたら・・・
どうしたらいいの・・・

「ガァァァァァッ!」
「グッ!」
飛び掛かってくるウルフガブーに身構えるイエローダガー。
だが、予想された爪による攻撃は来ず、代わりに素早く背後に回ったウルフガブーに羽交い絞めにされてしまう。
「なっ?」
いきなりのことに驚くイエローダガー。
次の瞬間、彼女の首筋に痛みが走る。
「あぐぅ!」
それがウルフガブーに噛みつかれたものだということにイエローダガーは気付く。
そ、そんな・・・
ダガースーツを貫いたというの?
防弾防刃の強化服であるダガースーツを貫くなど、通常では考えられない。
だが、現に彼女は首筋に食い込む牙の痛みを味わってしまっていた。

「グルルルル・・・これでいい」
あっさりとイエローダガーを離すウルフガブー。
がっくりとその場に膝をつくイエローダガー。
か、躰がしびれ・・・る・・・
全身に広がる痛みとしびれ。
立っていることもできないのだ。
「な・・・何を・・・」
「グルルルル・・・俺様のエキスをたっぷり含んだ唾液をお前の中に流し込んでやったのさ」
「だ・・・えき・・・?」
たまらず地面に倒れ込むイエローダガー。
その躰が小刻みに痙攣している。
「そうだ。お前を俺様の眷属にするためにな。喜べ。お前は俺様のものとなる」
「そ・・・んな・・・」
必死に立ち上がろうとするイエローダガー。
だが、すでに目はかすみ、意識も朦朧となってくる。
やがて彼女の意識は闇の中に沈んでいった・・・

ぴくぴくと痙攣するイエローダガーの躰。
やがてその躰に変化が表れてくる。
黄色のダガースーツの脇にある白いラインが黒く染まっていき、ブーツにもこもこと毛が生え始め、つま先がオオカミの足先のように変化する。
お尻からは黄色の毛におおわれたオオカミの尻尾が生え、ぱたぱたと揺れ動く。
「グルルルル・・・ほう、スーツごと変化していくか。面白い」
鼻づらの長いオオカミの口元に笑みを浮かべるウルフガブー。
その間にもイエローダガーの躰は変化し、両手の手袋にも毛が生え、指先からは鋭い爪がのびていく。
フルフェイスのヘルメットにも毛に覆われたオオカミの耳が生え、バイザーの口元のあたりには白い三角の牙のようなマークが描かれる。

「うう・・・ううう・・・アオ・・・アオーーン!」
やがてオオカミのような吠え声をあげ、ゆっくりと起き上がるイエローダガー。
両手両足に毛が生え、尻尾と耳が付いた姿は、まさにオオカミと化したイエローダガーの姿だった。
「グフフフフ・・・どうやら俺様の眷属に生まれ変わったようだな。今日からお前はウルフイエローと名乗るがいい」
「アオーン! それが私の新しい名前なのですね? ありがとうございますウルフガブー様。私はウルフイエロー。ウルフガブー様の忠実な眷属です」
尻尾をぱたぱたと振り、ウルフガブーの足元にひざまずくイエローダガー。
いや、もはや彼女はウルフガブーによって作り出されたウルフイエローだった。

「グルルルル・・・ではお前の力を見せてみろ。そこの民家にいる連中を始末するのだ」
路地脇の一軒を指し示すウルフガブー。
「かしこまりました。うふふふふ・・・アオーン!」
こくりとうなずき、吠え声をあげて民家に飛び込んでいくウルフイエロー。
悲鳴と笑い声が交錯し、やがて両手を血に染めたウルフイエローが戻ってくる。
「三人ほどいましたので皆殺しにしてまいりました。人間を爪で切り裂くのって楽しいです。アオーン!」
「グフフフフ・・・よくやったぞ。完全に俺様の眷属と化したようだな」
「ありがとうございます、ウルフガブー様」
足元にひざまずき、ウルフガブーに頭をなでられ尻尾をぱたぱたと振るウルフイエロー。
「グルルルル・・・ところで人間の姿になることはできるのか?」
「やってみます。アオーン!」
以前と同じように右腕のブレスレットでスーツの解除をするウルフイエロー。
すると、一瞬全身が光に包まれ、アンダースーツ姿の女性の姿が現れた。
だが、その目には冷たい光が宿り、濃いアイシャドウが引かれ、口元にも邪悪な笑みが浮かんでいる。
「どうやら可能なようです、ウルフガブー様」
「グルルルル・・・そのようだな。これはいい・・・いいか、お前はその姿で奴らの元へ戻るのだ。そして俺様からの次の命令を待て。いいな?」
顎に手を当ててうんうんとうなづくウルフガブー。
これはいい手駒が手に入ったと考えたのだ。
「かしこまりました。ウルフガブー様のご命令のままに」
再びひざまずく彼女。
そして立ち上がると、くるりと振り返り、かつての仲間たちの元へと戻っていった。
邪悪な笑みを浮かべたまま・・・

                   ******

「あ、居た居た。おーい! こっちだ!」
「大丈夫? 由梨!」
路地から出たところで、レッドダガーとピンクダガーの二人が駆け寄ってくる。
レッドダガーはほかの二人も手招きして呼んでいるようだ。
真っ先に駆け寄ってきたピンクダガーが、自分もダガースーツを解除する。
茶色のショートカットの似合う、少し幼い感じのする女性だ。
凛として少しきつめの感じのイエローダガーこと辛木由梨(からき ゆり)とは対照的だが、ダガーチームの女性陣は二人きりということもあって仲は良い。
「ええ、大丈夫よ、絵里」
心配そうなピンクダガーこと相園絵里(あいぞの えり)にちらっと眼をやりそう答える由梨。
その目のいつもと違う冷たい感じに絵里は違和感を感じる。
それにいつもこんなに濃いアイシャドウを引いていただろうか・・・
「クグチューたちはどうしたの? 何かあった?」
「倒したわ。何も問題はないわよ」
表情を変えずに歩きだす由梨。
躰にぴったりしたアンダースーツがそのラインを際立たせている。
「お、無事だったな? なんだもう解除したのか? その格好で歩くと男たちには目の毒だぜ」
遅れてやってきたブルーダガーが軽口をたたく。
「やめてよ。もう敵はいないんだしいいでしょ。なんならあなたたちもアンダースーツ姿になれば?」
じろりとブルーダガーを見やる由梨。
思い過ごしだろうか・・・
だが、どことなくいつもと感じが違う・・・
絵里は何となくそう感じるのだった。

迎えの車に乗り込みアースダガーベースへ向かう五人。
その中で由梨はぼんやりと外を見ている。
何となく周囲を拒絶しているようで、絵里はやはり気になった。
ダガーチーム五人のうち、ピンクダガーの絵里とイエローダガーの由梨だけが女性であり、絵里と由梨という名前の語感も似ていることから、二人はユリエリコンビとして知られていた。
絵里にしても由梨は頼りになるメンバーだし、全幅の信頼を寄せている。
逆に由梨に頼ってもらえているかというと・・・
そっちの方はやや心もとないと絵里は思う。
だが、今日の由梨はどうしたのだろう・・・
どうにも違和感がぬぐえないのだ。

「あの路地で惨殺死体が見つかったぞ! 由梨、何か見なかったか?」
今日の戦いのデータをチェックしていたレッドダガーこと熱野厚司(ねつの あつし)が振り返る。
「えっ?」
「聞いてなかったのか? お前がクグチューを追いかけて入ったあの路地で惨殺死体が見つかったんだよ」
上の空のような返事をする由梨に、厚司が繰り返す。
「あ・・・ああ・・・ガブーの怪人が・・・」
何か言いよどむ由梨。
「怪人が? 怪人がいたのか?」
「なんで言わないんだ?」
アンダースーツ姿のブルーダガーこと空田博人(そらた ひろと)と、グリーンダガーこと林原大樹(はやしばら だいき)も振り返る。
まさかあの場に怪人がいたなんて・・・
タイガーガブーだけじゃなかったの?
由梨の言葉に絵里も驚きを隠せなかった。

「すぐに立ち去って行ったし、クグチューたちを相手にしてて報告が後回しになってしまって・・・ごめん」
頭を下げる由梨。
「そうか・・・まあ、次回はすぐに俺たちにも知らせてくれ」
「ああ。奴らが一度に二体以上の怪人を送り込んできたとなると・・・」
「厄介だな・・・」
腕を組んで今後のことを考える大樹や博人。
厚司も今のことをノートPCに打ち込んで報告する。
アースダガーベースに着くまでにも、リーダーはやることはいろいろとあるのだ。

「それで・・・その怪人がやったの?」
「ええ・・・ずたずたに切り裂いて・・・楽しんでいたわ」
「そう・・・」
絵里は由梨の違和感の理由がわかった気がした。
怪人が人間をずたずたに切り裂くところなんて正視に耐えられるものじゃない。
きっとそれで由梨はショックを受けたんだわ・・・
そう自分で納得し、あとで気晴らしに連れ出そうと考える絵里だった。

                   ******

「みんなお疲れ様。第二の怪人が現れていたということは、今後の対応として留意すべきことだけど、とりあえず今のところ動きはないみたい。みんなには準待機態勢で申し訳ないんだけど、それぞれ休息に入ってちょうだい」
アースダガーベースに戻ってきたチームのメンバーを出迎える、アースダガーチーム司令官の遊佐明香(ゆざ めいか)。
まだ三十代の若さでアースダガーチームの指揮を執る有能な女性だ。
個性の強いメンバーをしっかりと把握して取りまとめている。
彼女に敬礼し、それぞれの部屋に引き上げるメンバーたち。
そんな中、絵里は部屋に入ろうとした由梨に声をかける。
「由梨」
「・・・何?」
一瞬にらまれたような感じがしてドキッとする絵里。
だが、すぐにいつもの由梨の表情に戻っていた。
「一息ついたら甘いもの食べに行かない? クレープの美味しい店が雑誌に紹介されていたの」
「・・・いいわ」
ぎこちなく笑みを浮かべる由梨。
やはり目の前で行われた惨殺が堪えているのかもしれない。
それでも気丈にふるまっているのが由梨らしいと絵里は思う。
「それじゃあとで呼びに来るね」
「ええ」
そう言って絵里は手を振って由梨と別れる。
絵里が立ち去ったことで、どことなくホッとしたような顔をする由梨。
そのまま自分の部屋に入ってドアを閉める。

「アオーーーーン!」
自室に入ると由梨は思わず吠え声をあげる。
胸糞の悪い連中と一緒にいたので気分が悪かったのだ。
早くあんな連中は皆殺しにしたい。
由梨は心の底からそう思う。
奴らは偉大なるガブーとウルフガブー様に歯向かう愚かな連中。
ウルフガブー様の命令でなければ、さっさと爪で引き裂いているだろう。
由梨はダガースーツを起動させ、本当の姿に変身する。
黄色い粒子が彼女の躰にまとわりつき、彼女の姿を変えていく。
黒いラインが入った黄色のスーツ。
その足は毛に覆われたオオカミの足。
その手は鋭い爪がとがった毛むくじゃらの手。
お尻からもふさふさした尻尾が生え、ヘルメットにはオオカミの耳がぴんと立つ。
これこそがウルフイエローに生まれ変わった彼女の本当の姿だ。
「アオーン! なんて気持ちがいいのかしら。これこそが本当の私。私はウルフガブー様の眷属、ウルフイエロー」
姿見に映った自分の姿に満足するウルフイエロー。
とりあえずアースダガーベースへの潜入には成功した。
今後のことをウルフガブー様に伺わなくてはならない。
「ウルフガブー様・・・ウルフガブー様・・・」
彼女は心から崇拝するウルフガブーに思念派を送る。
眷属に許された能力だ。
「ウルフガブー様・・・」
まるで愛しい恋人の声を聞きたいかのように、彼女はウルフガブーを呼び続けた。

(グルルルル・・・どうやらうまく忍び込めたようだな?)
「はい、ウルフガブー様。奴らの基地に忍び込みました。途中、奴らの仲間を引き裂きたいのをこらえるのに大変でした」
主からの思念派に思い切り尻尾を振るウルフイエロー。
(グルルルル・・・我慢しろ。近いうちに思い切り暴れさせてやる。だがその前に強敵アースダガーを始末しなくてはならん)
「はい。もちろんです。奴らの仲間だったことなど早く忘れたいですわ。アオーーン!」
(そのためには一人ずつになった時を狙うのだ。できれば外へおびき出し、お前と俺様の二対一になったところで仕留める)
「それならばさっそくいいチャンスがございます。先ほどピンクダガーより一緒に外出しないかと誘われました」
(ほう・・・それはいい。では俺様の元へ連れてくるのだ。いいな?)
「かしこまりましたウルフガブー様。必ずや仰せの通りに。アオーン!」
吠え声をあげて思念派を切るウルフイエロー。
胸のところで構えた爪がきらりと光った。

続く
  1. 2017/09/05(火) 20:38:40|
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女怪人を造ロット

昨日でSS週間は終わりと思ったかな?
だが、もうちょっとだけ続くんじゃ。

ということで、12周年記念SS週間も今日が最後となります。
タイトルは「女怪人を造ロット」です。

この作品はツイッター等でお世話になっておりますTAOむらさき様が制作なされましたスロット、「女怪人を造ロット」(https://slot-maker.com/slot/6381/)が面白かったので、これに基づいて作ってみました。
お楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。


女怪人を造ロット

「いらっしゃいませ。どのようなお花をお求めですか?」
にこやかに入ってきた客に笑顔で挨拶する女性店員。
だが、入ってきた客はこの夏空にコート姿で帽子を目深にかぶっているという怪しい格好で、しかも並べられたとりどりの花々には目もくれず、彼女の方ばかりを見つめている。
「あ、あの・・・」
さすがに彼女も戸惑いを隠せない。
「ふむ・・・いい肉付きだな」
「えっ?」
「それに健康そうだ。ようやく目当てのものが見つかったか・・・」
「あ、あの・・・お花のこと・・・ですよね?」
店員は男が花を一切見ていないことに気が付いてはいたが、無理やりにそう話を持っていく。
「いや、お前のことだ。健康そうでその上いい肉付きをしている」
「や、やめてください。単に太っているだけです」
彼女は男の態度にとてつもなく不快感を感じたものの、まだ相手に何かされたわけでもなく、お客として花を買ってくれる可能性もあるため、強く出ることはできなかった。
「いや、肉付きのいい胸とお尻だが、腰はきちんと括れている。いわゆる豊満な女性というべきだろう」
「やめてください。いい加減にしてくれませんか? お花を買わないなら出て行ってください」
なおも続けてきた男性に、さすがに彼女もこれ以上はと意を決する。
どのみち彼女をからかいに来たに違いないのだ。
彼女にとって自分のスタイルは決して好みではなかったのだから。

「いや、お前に決めた。喜ぶがいい。お前は選ばれたのだ。我が組織のコンピューターに」
男がにやりと笑う。
「えっ?」
男が指を鳴らすと、突然どこから現れたのか、黒い全身タイツに身を包んだ男たちが四五人店内に入ってくる。
「ひっ!」
「この女だ。連れて行け!」
「キキーッ!」
コートの男の命令に従い彼女を捕まえる全身タイツの男たち。
「いやっ! いやぁっ!」
彼女の叫びもむなしく、すぐに店先に一台のワンボックスカーが現れ、彼女を無理やり押し込んでしまう。
そしてコートの男もワンボックスに乗り込むと、そのままいずこかへ走り去る。
この日、花屋の女性店員が一人、忽然と姿を消した・・・

                   ******

「は、放して! 私をどうするつもりなの?」
「は、放して―!」
「お願いです。家に帰して・・・」
裸で牢に入れられた三人の女性たち。
一人は先ほどさらわれてきた花屋の店員である。
女性たちはあまりのことに涙を浮かべ、躰を抱えて震えている。
「黙れ! お前たちは我が組織のコンピューターによって、女怪人の素体に選ばれたのだ。光栄に思うがいい!」
泣き叫ぶ彼女たちのところへコートの男がやってきて怒鳴りつける。
その顔には目当ての素体が手に入った満足そうな笑みが浮かんでいた。
「なんなんですかそれって!」
「私はただの主婦です。そんなのに選ばれるなんて何かの間違いです」
「黙れと言っている! お前たちを見つけるのに、どれだけ苦労したかわかっているのか? 見ろ!」
男の指さす先には大きなモニターがあり、そこには三段のパネルが並んでいて、文字がちらちらと目まぐるしく変化していた。

「これは“女怪人を造ロット”というものでな、我が組織はこれに基づいて女怪人の素体を選んでいるのだ。まずはお前」
男が一番年上と思われる女性を指さす。
「お前が選ばれた理由はこれだ」
男がモニターの前のボタンを押すと、モニターの文字が停止して文字列が現れる。
作ろっと3
そこには、“清楚な” “熟女を” “毒蛾女に” と表示されていた。
「どうだ? お前は清楚な熟女だ。だからお前はこれから改造を受け、我が組織の女怪人毒蛾女となるのだ。うわはははは・・・」
「そんな・・・清楚な熟女って・・・私じゃなくても・・・」
「うるさい、黙れ! それからそこのお前!」
次に男は真ん中にいた元気そうな女性を指さす。
「お前には苦労させられたぞ! 見ろ!」
男がボタンを押すと、また画面の文字列が替わる。
作ろっと2
“臭いフェチの” “OLを” “毒蜘蛛女に”
その画面を見た時、彼女は青ざめた。
「同僚に隠れてこっそりと靴の臭いを嗅いでいただろう? お前のような女性を見つけるのは本当に苦労したぞ」
「な、なんですか、そのあまりにもピンポイントな・・・」
「黙れ! だから言っただろう! 組織のコンピュータが選び出すことに間違いはないのだ。お前は毒蜘蛛女にしてやろう」
「い、いやぁ! いやよぉ! いっそ殺してぇ!」
がっくりとうなだれるOL。
まさかこんなところで性癖をばらされてしまうとは・・・

「最後にお前!」
男は最後に先ほど拉致してきた店員を指さす。
するとモニターの文字がまた変化し、“豊満な” “花屋さんを” “毒キノコ女に” と表示される。
作ろっと1
「そんな・・・」
それで男が妙に肉付きにこだわっていた理由がわかった彼女だったが、もはやそんなことはどうでもいいほどの絶望感しか彼女にはない。
「うわはははは。お前は毒キノコ女となるのだ。これ以上ない毒々しい毒キノコを用意してやろう」
「ああ・・・いやぁ・・・」
絶望のあまり床に伏して泣き出す店員。
だが、男はそんな三人の姿を、不敵な笑みを浮かべながらただ見下ろしていた。

                   ******

手術台からゆっくりと起き上がる異形の姿。
頭と思われる部分には毒々しい赤い大きな傘が開き、ひだひだから白い胞子が舞い落ちる。
全体のフォルムは柔らかな女性のようであり、大きく豊かな胸が二つぷるんと揺れていた。
「ケケケケケ・・・」
人間のままの唇に笑みが浮かび、奇妙な笑い声が漏れてくる。
その姿にコート姿の男は満足そうにうなずいた。
「うむ、毒キノコ女よ。生まれ変わった気分はどうかな?」
「ケケケケケ・・・最高の気分ですわ。私は毒キノコ女。偉大なる組織に心からの忠誠を誓います。ケケケケケ・・・」
コートの男にひざまずいて一礼する毒キノコ女。
以前、花屋で笑顔を見せ花を売っていたあの女性店員とはとても思えない。

「キシュシュシュシュ・・・これで全員の改造が終わったわね」
「ヒュヒュヒュヒュヒュ・・・おめでとう毒キノコ女。これで私たちは全員が女怪人に生まれ変わったわ」
コートの男の後ろから姿を現す二人の異形の女たち。
全身を黒い毛におおわれ、両脇に四本の脚が蠢いている毒蜘蛛女と、茶色の毛に覆われ背中に極彩色の翅を広げる毒蛾女だ。
「ケケケケケ・・・ありがとう毒蛾女、それに毒蜘蛛女も。二人と同じ仲間になれてうれしいわ。ケケケケケ・・・」
「キシュシュシュシュ・・・私たちはみな毒をもつ者同士ね。私は毒液を」
「ヒュヒュヒュヒュヒュ・・・私は毒鱗粉を」
「ケケケケケ・・・私は毒の胞子をそれぞれ人間に吹きかけるのね」
三体の女怪人たちが皆妖しい笑みを浮かべている。
「それにしても、こんなに素敵な躰に生まれ変われるなんて思わなかったわ」
「ヒュヒュヒュヒュヒュ・・・まったくね。あんなに嫌がっていた過去の私がバカみたい」
「ケケケケケ・・・これからは三人で組織のために働きましょうね」
「ええ、もちろんよ。キシュシュシュシュ・・・」
「組織のためなら何でもするわぁ」
「ケケケケケ・・・私たち、仲良くやれそうね。ケケケケケ・・・」
三人の女怪人たちの楽しそうな会話に、あらためて深い満足感を感じるコートの男であった。

END


いかがでしたでしょうか?
これでブログ開設12周年記念のSS週間はすべて終了しました。
手持ちをすべて吐き出してしまいましたので、しばらくは新作を作るまでお時間をいただくかと思います。
なるべく早く新作を書いて皆様に公開できるようにいたしますので、今後とも当ブログ「舞方雅人の趣味の世界」を、どうぞよろしくお願いいたします。

それではまた。
  1. 2017/07/24(月) 20:08:29|
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ママはおんなかいじん

ブログ12周年記念といたしまして、昨日まで四日連続で中編SSを一本投下させていただきましたが、今日からは短編を二三本投下していこうと思います。

第一段は「ママはおんなかいじん」です。
すごく短いSSでして、さらにかなーりダークかつ救いのないお話となっておりますので、そういうのはちょっとなーと思われます方は、そのままブラウザを閉じていただけるよう、SS自体は「追記」のほうに載せますので、読んでもいいよと思われます方は「追記」からお入りくださいませ。

なお、明日はちょっとしたMCモノを一本投下しようと思いますので、そちらもどうかお楽しみに。












[ママはおんなかいじん]の続きを読む
  1. 2017/07/21(金) 20:19:01|
  2. 改造・機械化系SS
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試験に向けて

ストレスが溜まっているのでしょうか?
妄想が結構わいてきます。
一方でWordの検定も近づいてます。

うおお!
どうすりゃいいんだ!

ということで、ついついSSを書いてしまいました。
これも文字入力の練習さと自分をごまかして。(笑)
楽しんでいただければ幸いです。


試験に向けて

「ふう、これで美香(みか)も大学生か。おめでとう。しっかり勉強してくれよ」
娘のグラスにビールを注ぐ父。
まだ未成年ではあるが、お祝いの時ぐらいはいいだろう。
「本当よー。学費高いんですからね。ちゃんと勉強して元を取ってもらわないと」
決して嫌味ではなく、半分冗談ではあるのだが、目が笑っていない母。
「わかってます。ちゃんとやるから」
注いでもらったビールのグラスを手に取る娘。
どこにでもあるような普通の家庭だ。
今日は娘が大学に合格したことによるお祝いなのだろう。
テーブルの上には出前で取り寄せたお寿司が置かれ、デコレーションケーキもその横に鎮座する。
組み合わせ的にはあり得ないのだろうが、お祝いを豪華にしたいと思うとこうなるのだろう。

「それじゃ美香の大学合格を祝してカンパーイ!」
父の掛け声とともにグラスを掲げる三人。
だが、その腕が宙で止まり、その目が驚愕に見開かれる。
突然室内に黒雲が沸き起こり、その中から一人のいかつい男が現れたのだ。
男はマントを羽織り、肩などにとげのついた黒い軍服のような服を着て、軍帽のようなものをかぶっている。
全くこの場には似つかわしくない人物だ。

「な、なんだお前は?」
一瞬の驚愕ののち、我に返った父親が男に声をかける。
「やかましい! 俺様は忙しいんだ! おとなしくしていろ。死にたくなければな」
男が口を開いて一喝する。
その迫力と威圧感に、我に返っていた三人はまたしても動きが止まってしまう。
「まったく・・・新型プログラムの検定試験など、なぜ俺様がやらねばならんのだ」
ぶつぶつ言いながら勝手に椅子に座り、小脇に抱えていたノートパソコンを開く男。
いかつい男とノートパソコンの取り合わせも何か妙におかしみを感じさせる。
「あの・・・家をお間違えでは? ここは私たちの家なのですが・・・」
「黙れと言っているだろう! 殺されたくはあるまい?」
黙ってしまった父親に対し、何とか男を追い出そうとした母親も、一喝されて黙ってしまう。
それほどに男の発する威圧感はすごかったのだ。

「まったく・・・あいつは自分ができるからといろいろとうるさいからな。まずは『ワープロソフト風改造ソフト』とやらを立ち上げてと・・・立ち上げると言っても立ち上がってはいかんぞ」
なにやらぶつぶつ言い始めるいかつい男。
背中を丸めてノートパソコンの画面に見入っている。
「よしよし立ち上がったな。次はと・・・新規ファイルを作成し書式を整えてと・・・で?」
男が唐突に顔を上げ、三人を見回す。
ひそかにテーブルの下でスマホで警察に連絡を取ろうとしていた美香は、思わず手が止まってしまった。
「ん? どうやらここは三人家族のようだな? まあ、練習にはちょうどいいか」
うんうんと一人でうなずき、男は再びノートパソコンの画面に目を落とす。
「あ、あの・・・家を間違ってませんか? そろそろ出て行って・・・」
「うるさいやつらだな。まずはお前らを黙らせるか」
言葉を途中で遮り、ぎろりと父親をにらみつける男。
「ええと、挿入タブから表の挿入を選んでと・・・三人だから四行二列でいいか・・・」

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すると、ノートパソコンの画面に表が表示される。
「うむ、名前は・・・ええい、いちいち聞くのも面倒だからこれでいいか」

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男はこう文字を打ち込んだ。
すると、三人の躰に一瞬ピリッと電気が走ったような感覚が起きる。
「ん?」
「い、今のは?」
顔を見合わせる三人。
楽しいはずの合格祝いパーティーがどうしてこんなことになってしまったのか・・・

「よしよし。うまく認識が行われたようだな。それではこうだ・・・」
再び文字入力を行っていく男。

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男が入力を終えると、三人から表情が消える。
そして、じっと男に注目を始めるのだった。
「よしよし。うまく作動したな。俺様の名はバゴーズ。お前たちは俺様に従うのだ」
「「「はい。バゴーズ様」」」
無表情のままで一斉に返事をする三人。
「よしよし。ではまずお前からだ・・・」
そういって父親にいくつか質問をするバゴーズ。
その答えをノートパソコンに入力していく。

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次に母親と娘にも同じように質問し、文字入力をしていく。

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「うむうむ。あとはこの表の中を変更していけばいいわけだな。なんだ。簡単ではないか。これなら検定も楽勝だな」
うんうんと一人うなずくバゴーズ。
だいたい試験しますからねとは何事だ!
アルフィナめ、単なる秘書官のくせして生意気にも俺様に指図とは。
ちょっと技術部門にいいものを作らせたからと自慢げにしおって。
このようなもの、すぐに使いこなして見せるわ。
作戦に必要なものを自分が使えないのでは指揮官として問題だからな。
いちいちアルフィナを戦場に呼ぶわけにもいくまい。
そう思い、予想外に使いやすそうなことにホッとするバゴーズ。

一方で、表中に“バゴーズに従う”と表記されてしまったことで、バゴーズに逆らえなくなってしまった三人。
みんなそれぞれが不安そうな表情でバゴーズがこれから何をするのかを見つめている。
助けを求めたくても、先ほどバゴーズにおとなしくしていろと言われてしまったので、大声を出すこともできない。
「まずはお前からだ。お前は何にしようか・・・」
ぎろりと父親の伸夫(のぶお)を見やるバゴーズ。
そのままにやっと笑ってカタカタとキーボードに文字を入力していく。

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「ひぐっ」
突然しゃっくりのような声を出す伸夫。
その躰がじょじょに茶色の毛におおわれていく。
「あがっ! あがががが・・・」
のけぞるように躰をそらし、苦しみ始める伸夫。
着ている服も掻きむしるようにして引き裂き、その茶色の毛におおわれた躰をあらわにしていく。
「ひぃっ!」
「パ、パパッ!」
思わず立ち上がり、苦しむ父親に駆け寄ろうとする母と娘。
「座っていろ! 座っておとなしく見ているのだ。その男が変化するところをな」
「「は、はいっ!」」
立ち上がりかけた二人は、すぐに背筋を伸ばして返事をし、そのまま椅子に座ってしまう。
父親のところに行きたくても、座っていろと言われたので立つこともできないのだ。
その間にも、父親の変化は進んでいく。
躰全体を茶色の短い毛が覆い、まるで何かの動物にでもなったかのようだ。
「あ、あなた・・・」
「パパ・・・」
立ち上がれないもどかしさと、父親が何か得体の知れないものになっていくような恐怖に、母と娘は包まれていた。

「キキ・・・キキキキ・・・キキーッ!」
苦しんでいた父親の口から奇声が発せられる。
服がちぎれぼろぼろになった躰は毛で覆われ、その両腕からは膜のようなものが躰の両脇にかけて広がっている。
耳は先端がとがって大きくなり、口からは乱杭歯となった牙がのぞいている。
「キキーッ! キキーッ!」
奇声を上げるその姿は、まさに人間離れした異形という感じだ。
「あ、あなた!」
「パ、パパ!」
席を立てないまま、父親の変化に衝撃を受ける二人。
目の前で人間が異形の化け物になっていくのだから当然だろう。

「キキキキー! 俺は人間伸夫と吸血コウモリの合体怪人コウモリ男41歳! オスでジャクドのメンバー。バゴーズ様に従います。キキキキー!」
すっくと立ちあがり、奇声を上げて書き換えられた表のとおりに宣言するコウモリ男。
まさしくその姿はコウモリと人間が合体したものにほかならず、両腕から両わき腹にかけて広がる羽が印象的だ。
「うむ。それでいい。お前はコウモリ男。これからはジャクドのために働くのだ」
完全に変化したコウモリ男に満足するバゴーズ。
これは面白いではないか。
これなら現場で簡単に怪人を作り出すことができる。
今までのようにアジトに連れ帰る必要もなくなるではないか。

「あなた・・・」
「パパ・・・」
青ざめた表情でコウモリ男を見つめる母と娘。
愛する夫と父が化け物になってしまったのだから無理もない。
「キキキキー! 素晴らしいぞこの躰は。お前たちも早くバゴーズ様に書き換えてもらうがいい。キキキキー!」
牙を剥きだしてにたぁっと笑うコウモリ男。
「うむ。次はお前だ」
コウモリ男の言葉に促されたわけでもないだろうが、バゴーズは次の標的に母親を選ぶ。
「ヒイッ!」
恐怖に悲鳴を上げる慶子(けいこ)。
だが、座っていろと言われた躰は頑ななまでに動かない。

その間にバゴーズはカタカタとキーボードで文字を入力する。

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入力を終えてEnterボタンを押した途端、慶子が躰をびくっと震わせる。
「ひぐっ! い、いや・・・あ・・・あがががが・・・」
先ほどの伸夫と同じように苦しみ始める慶子。
強い力で服を引き破り、下着もむしり取っていく。
「マ、ママ!」
先ほどと同様に見ているしかない美香。
一方、すでに変化を終えたコウモリ男はにやにやしながら妻の変貌を眺めている。
「あぐぐぐぐ・・・」
裸になってしまった慶子の肌が、じょじょに緑色に染まっていく。
さらに表面がびっしりと細かいうろこ状へと変化していく。
苦しげな息をする口からは、舌がだらんと飛び出すと、そのままシュルシュルと床に付くまで伸びていく。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
母親の変化に目を覆って悲鳴を上げる美香。
ついに恐怖がバゴーズのおとなしくという指示を超えてしまったのだ。
それでも両手で口元を抑え、できるだけ声を抑えた悲鳴になっているところは、この表による指示の拘束力の強さを示しているだろう。
その間にも母親の変化は続いており、両目がギョロッと飛び出したかと思うと、そのまま顔の両側へと移動し、そこで上下左右自由に動く目玉へと変化する。
両手の指先の爪は鋭く尖り、両足はハイヒールのブーツのように変化する。
お尻からは小さく短い尻尾が伸び、そこで変化は終了した。

「ケケ・・・ケケケ・・・ケケケケケ・・・」
奇妙な笑い声をあげる慶子。
「マ、ママ・・・?」
「ケケケケケ! アタシは人間慶子とカメレオンの合体怪人カメレオン女39歳よぉ! メスでジャクドのメンバー。バゴーズ様に従いますわぁ。ケケケケケ!」
垂れ下がっていた舌をシュルッと引っ込めると、今度は素早く伸ばしてテーブルの上のフォークをはじき飛ばし、壁に突き立てる。
「フフフ・・・それでいい」
二人目も問題なく怪人に変化させることができ、バゴーズは笑みを浮かべる。
「キキキキー! いい女怪人になったではないか。美しいぜ、カメレオン女」
コウモリ男がぺろりと舌なめずりをする。
性的興奮をしているのは間違いない。
「ケケケケケ! でしょう? アタシもまだまだ捨てたもんじゃないわよねぇ。ケケケケケ」
頭の後ろに手を当て、クイとポーズをとるカメレオン女。
自らの肉体に誇りを感じているようだ。
確かに緑や赤のうろこ状の皮膚に覆われてはいるものの、そのラインは女性の柔らかさや腰の括れ、形の良い乳房など美しいと言えなくもない。
二人とも完全に自分が怪人となったことを喜んでいるようだ。
これも表の威力なのだろう。

「いやぁ・・・いやぁ・・・」
両手で顔を覆って泣き出してしまう美香。
両親がともにおぞましい化け物になってしまったのだ。
当然だろう。
「戻して・・・パパとママを元に戻して!」
涙ながらに美香がバゴーズに懇願する。
「キキキキー! 冗談じゃない! ただの人間に戻るなんて願い下げだぜ」
「ケケケケケ! アタシもごめんだわぁ。この躰はとても素晴らしいのよ! 下等な人間なんていやよ!」
だが、完全に身も心も怪人と化した二人は逆に人間に戻ることを拒否してくる。
「ケケケケケ! それよりも、あなたこそ早くバゴーズ様に書き換えてもらいなさい。怪人になるのはとてもいい気持ちよぉ。ケケケケケ!」
「キキキキー! まったくだ! お前も早く怪人になるがいい」
「いや! いやぁっ!」
頭を抱えるようにして首を振る美香。
「クククク・・・嘆くことはない。お前もすぐに書き換えてやる」
そう言ってノートパソコンに文字を入力し始めるバゴーズ。
二人が順調にいったことで、気をよくしているのだ。
「やめ! やめてぇっ!」
美香が必死に訴えるものの、バゴーズの指はたどたどしくもキーを打ち込んでいた。

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入力を終えてEnterキーを押すと同時に、美香の躰に異変が起こる。
「あぐっ・・・あぐぅ・・・ぐぅ・・・」
喉を掻きむしるように苦しみ始める美香。
そのまま胸から服を引き裂いてちぎっていく。
やがてその躰が変化し始め、頭部が巨大に膨らんでいき、躰にも毒々しく赤黒いイボが現れていく。
膨らんだ頭部はやがて傘のように開いていき、顔の部分は襞が作られて目鼻がその中に埋もれていく。
服を引きちぎった爪は鋭く尖り、脚はハイヒールのブーツのように変化する。
「ふう・・・ふう・・・ふう・・・」
全身が巨大な毒キノコのように変化する美香。
その苦しそうな息遣いがやがて収まっていく。

「クシュ・・・クシュシュシュシュ・・・」
奇妙な声を発する美香。
その閉じられていた目が開き、口元にニタァッと笑みが浮かぶ。
「クシュシュシュシュ! アタシは人間美香と毒キノコの合体怪人毒キノコ女18歳! メスでジャクドのメンバーよ。バゴーズ様に従いますわ。クシュシュシュシュ!」
表のとおりに声を上げる毒キノコ女。
もはやそこに清楚な女子大生の姿はない。
むしろ不気味な妖艶さを漂わせる女怪人の姿がそこにあった。
「よし、これでお前もジャクドの怪人だ。これからは俺様の命令に従うのだ」
「クシュシュシュシュ! もちろんです、バゴーズ様。どうぞ何なりとご命令を。クシュシュシュシュ!」
毒キノコ女が巨大な傘の広がる頭を下げる。
「キキキキー! これでわれら親子はみんな怪人に生まれ変わったわけだな」
「ケケケケケ! まあ、いやだわコウモリ男ったら。あたしたちはもう親子なんかじゃないでしょ? アタシたちはお互いジャクドの怪人同士。仲間でしょ」
「クシュシュシュシュ! そうよ。あたしたちは仲間。一緒にジャクドのために働くのよ。」
「キキキキー! そうだったな。俺たちは仲間だ。よろしく頼むぜ」
「ケケケケケ! こちらこそよぉ」
「クシュシュシュシュ! 仲良くしましょうね」
三体の怪人たちが仲良く笑いあっている。
それは数十分前と同じような光景だが、その姿は大きく変わっていた。

「クシュシュシュシュ! それにしても最高だわ。なんて気持ちがいいの。こんな素晴らしい怪人になれるのに嫌がっていたなんてバカみたい」
広がった頭部の傘を揺らしながら毒キノコ女が躰をかき抱く。
「キキキキー! まったくだ。怪人になれて最高だぜ。これもバゴーズ様のおかげだな」
「ケケケケケ! 本当ね。バゴーズ様には感謝してもしきれないわぁ」
シュルシュルと舌を伸ばすカメレオン女。
コウモリ男もうんうんとうなずいている。
「ふん・・・感謝などはいらん。しっかり働いてくれればいい」
「「「ハッ、バゴーズ様!」」」
感謝などという言葉を聞き、ぶっきらぼうにいうバゴーズ。
それにも三体の怪人たちは声をそろえて返事をする。
「ふん・・・お前たちは単に俺様の検定試験対策の結果生み出されたにすぎんのだ。せいぜいそれを忘れるな。まあ、当面は今まで通り人間どもに紛れて暮らすのだ。いいな。命令は追って与える」
「キキキキー! かしこまりました。しかし、この姿では人間どもに紛れるというのは・・・」
コウモリ男が困ったような顔をする。
怪人の姿のままではいずれ騒ぎになりかねない。
「むっ、そういえば擬態能力を書き込んでいなかったな」
急ぎカタカタとキーボードに打ち込むバゴーズ。
擬態能力は基本設定ではなかったようで、書き加える必要があったのだ。
ついでに表の枠を広げ、メインの能力も書き加えておく。

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Enterキーを押すとすぐに以前の人間の時の姿に変化する三体の怪人たち。
「キキキ・・・おっと、この姿ではキキキキーはまずいな。だが、これで周囲の人間どもに怪しまれることはないな」
「怪しむような人間は殺してしまえばいいのよ。こんな姿いやだわ。無防備すぎるじゃない」
「アタシもいやよ。毒キノコ女の姿がいいわ」
すぐにカメレオン女と毒キノコ女は怪人としての姿に戻ってしまう。
「ふん、家の中ぐらいならいいだろう。だが外に出るときは注意しろよ」
「ケケケケケ! わかっておりますわぁ」
「クシュシュシュシュ! 早くこの姿で常にいられる社会にしたいです」
「それなら俺も。キキキキー!」
そういってコウモリ男も怪人の姿に戻る。
まあ、よかろう。
いざとなればこの家の周囲を始末すればいい。
そう思い、バゴーズは苦笑した。

                     ******

「それでそのまま戻ってこられたんでしたね?」
赤いボンデージ衣装に身を包んだ妖艶な美女が書類束を片手に立っている。
バゴーズの秘書官を務めるアルフィナという女性だ。
有能で事務処理は完全に任せている。
「ああ、何か問題があったか?」
グラスを傾け酒を飲むバゴーズ。
いつ飲んでもこのワインという酒はうまい。
地球を占領した暁には母星に持ち帰るのもいいだろう。
「特に何も。というより、こちらの指示を完璧にこなしてくれています。元が家族だったからなのか、コンビネーションもいいようです。行き当たりばったりで怪人にしたにしては優秀かと」
「ほう。それはいい」
うんうんとうなずくバゴーズ。
あの三体は確か、バゴーズが引き上げるときには怪人化祝いとか言って用意したごちそうを食べていたのではなかったか。
「特にカメレオン女の暗殺の能力はなかなかです。保護色を使ってターゲットに忍び寄り、その舌で縊り殺す。彼女自身暗殺をかなり楽しんでいるようですわ」
「クククク・・・俺様の目に狂いはなかったということだ。あの主婦はどこか屈折したものを持っていたのだろう」
「おそらくその通りかと」
「それで? 結果は出たのか?」
「はい。バゴーズ様の検定試験の結果が出ました」
書類束を開くアルフィナ。
そのしぐさが美しい。
「もちろん合格だろうな? 俺様はきちんと使いこなしたのだから」
「いいえ、不合格です」
あっさりと言い放つアルフィナ。
「な、なんだと? どうしてだ!」
思わずグラスを取り落としそうになるバゴーズ。
不合格など信じられない。
だが、アルフィナはふうとため息をついた。
「解答欄をすべて一つずつずれて記入されてました。ですからバゴーズ様はそそっかしいところがあるとあれほど・・・」
「な・・・それは何とかインチキできんのか!」
「できません!」
きっぱりとアルフィナに言われて頭を抱えるバゴーズ。
「ですが、追試を行います。今度はしっかり注意してくださいませ」
「う・・・わかった」
「大丈夫です。解答自体は合っていたものばかりですから。解答欄さえ間違えなければ・・・」
「わかった、気を付けよう」
苦笑するしかないバゴーズ。
だがまあよかろう。
ジャクドに三体の怪人が加わったのだ。
それもアルフィナによればなかなか有能そうではないか。
それでいい。
バゴーズはグラスをぐいっと傾け、アルフィナの腰を抱き寄せるのだった。

エンド

うーん、表を別に画像として掲載しなきゃならないのは面倒ですね。
いかがでしたでしょうか?
よろしければコメントなどいただけますとうれしいです。

それではまた。
  1. 2017/03/21(火) 21:19:13|
  2. 改造・機械化系SS
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夢がかなうとき

4000日&丸11年連続更新達成記念というにはあまりにも短編ではありますが、SSを一本投下いたします。
タイトルは「夢がかなうとき」です。

もうね、まさに私個人の夢がかなったらこうなるのだろうなというシチュエーションの短編です。
本当にシチュのみの短編SSですが、楽しんでいただければ幸いです。
それではどうぞ。


夢がかなうとき

「ん・・・んちゅ・・・れろ・・・んぷ・・・」
まさか・・・本当だったなんて・・・
俺の股間に顔をうずめ、一心不乱に俺のモノをしゃぶる黒髪の女子の姿に俺は驚きを隠せない。
驚きはその少女の行為だけではない。
その少女は黒いレオタードを身につけ、黒タイツを穿いて目の周りに黒いアイシャドウを引いている。
両手には黒い長手袋をはめ、脚にはヒールが長い黒のブーツが履かれていて、頭には黒いベレー帽をかぶっている。
つまり全身を黒一色で固めているのだ。
なぜそんな服装をしているのかといえば、俺がそう願ったからに過ぎない。
悪の組織の女戦闘員はそういう姿であるべきだと俺が思ったからなのだ。
だからと言って彼女がそんな格好をする理由はなかったはずだ。
これもまた俺の願いがかなったということなのだ。
学校で一番の美人と言われている彼女をだますのはちょっと気が引けたけど、どうせ試すなら手の届かない相手にしようと思ったのだ。
先生が呼んでいるという嘘に簡単に引っかかってくれた彼女は、あっさりと俺に拉致され、こうして体育倉庫につないだ隠し通路からアジトへと連れ込んだのだ。
そこから先は簡単だ。
気を失わせた彼女を、手術台に寝かせるだけ。
あとは自動で行われる。
俺がスイッチを入れただけで、彼女はあっという間に俺の思う悪の組織の女戦闘員に変わっていったのだった。

そして今、彼女は俺を首領様とあがめて崇拝し、自分の口で俺のモノをしゃぶってくれているのだ。
地下に作られた謎の施設。
その入り口がなぜ俺の部屋につながっていたのかはわからない。
だが、これで俺の夢はかなうのだ。
古い特撮番組にでてきた悪の組織。
その首領になりたいという俺の夢が・・・
ばかばかしいがあのDVDを見たときから、俺はいつか悪の組織の首領になりたかったのだ。
それがまずかなわないものだったとしてもだ。
だが今は違う。
彼女を見れば、夢はかなうに違いない。
そうだ・・・俺の夢はかなうのだ。

                   ******

「尾野(おの)さん・・・いや、今は女戦闘員01号だったな。今の気分はどうだ?」
俺はゆったりしたイスに座りながら、目の前にひざまずいている彼女に尋ねる。
その口には先ほどザーメンを出したばかりだ。
「はい。とてもすばらしい気分です。私は女戦闘員になるために生まれてきたと感じます。こうして首領様に女戦闘員にしていただきましてとても幸せです」
片ひざを付いて頭を下げる女戦闘員01号。
学校一の美人が俺の前にひざまずいている。
しかも俺の大好きな特撮の女戦闘員の格好をしてだ。
それだけで俺の股間はまた膨らんでくる。

「01号、今お前に家族を始末して来いと言ったらどうする?」
「もちろんすぐに始末してまいります。それにあのような下等な人間どもはもう私の家族などではありません。私は首領様にお仕えする女戦闘員です」
ひざまずいたまま顔を上げて笑みを浮かべる女戦闘員01号。
その笑みは冷酷な笑みだ。
家族思いだった彼女は、もう家族を下等な存在としか思わなくなっているのだ。
「それでいい。今は命じる気はない。それよりも・・・」
彼女が女戦闘員になったことで、この設備が本当に使えるということがわかった。
ならば夢をかなえるためにも、組織員を増やすのが次の仕事だろう。
「01号。お前の友人たちを拉致して連れてくるのだ。お前の友人たちもかわいい娘が多かったはずだな。お前同様女戦闘員にしてやろう」
「はい。かしこまりました。きっとみんな女戦闘員となる喜びを感じるでしょう」
家族を始末しろと言われたときとはまた違ううれしそうな笑みを浮かべる01号。
心から友人たちが女戦闘員となることをうれしく感じているに違いない。
俺がうなずくと、彼女はすっと立ち上がり、美しいボディラインを惜しげもなくさらしたレオタード姿の背を見せて、俺の前を後にした。

                   ******

「えっ? ど、どういうこと?」
「いやっ! な、なんなの?」
「は、放して! 助けてぇ!」
「美理(みり)、どういうことなの? 私たちをどうするつもりなの?」
ずらりと並んだ女子たち。
いずれもが手術台に寝かせられ、手かせ足かせで固定されている。
今から彼女たちを改造し、女戦闘員に仕立て上げるのだ。
01号が連れてきただけあって、みんなかわいい女子たちだ。
きっと素敵な女戦闘員になるに違いない。

「うふふふふ・・・みんな怖がることはないわ。あなたたちも私と同じく首領様にお仕えする女戦闘員になるの。すばらしいわよ」
心から信じきっている笑顔で友人たちにそういう01号。
「01号。お前がスイッチを押すといい。友人たちを女戦闘員にしてやるのだ」
「はい、首領様」
「いやぁっ!」
「やめてぇっ!」
女子たちの悲鳴が響く中、01号は嬉々としてスイッチを押す。
たちまち手術台には色とりどりのカラフルな光線が照射され、女子たちの躰を染め上げた。

カツコツとヒールの音が床に響く。
「うふふふふ・・・」
「うふふ・・・」
「うふふふふ・・・」
かすかな笑い声を上げながら一様に冷酷な笑みを浮かべている女子たち。
いずれ劣らぬ学校内の美人たちが一列に並んで俺の前に立っている。
しかも全員がそろって01号同様に黒いレオタードに黒いタイツを身に着け、黒い長手袋とブーツを穿き、黒いベレー帽をかぶっている。
そして目には黒いアイシャドウを引いているのだ。
なぜそうなるのかはわからないが、着ていた物を分解し再合成したりするのかもしれない。
もっとも、彼女たちにとってはもはや衣服ではなく肌なのかもしれないけど。

「「「イーッ!」」」
いっせいに右手を挙げて敬礼する女子たち。
いや、今はもう女戦闘員たちだ。
「私は女戦闘員02号です。首領様に永遠の忠誠を誓います」
「私は女戦闘員03号。どうぞ何なりとご命令を」
「私は女戦闘員04号です。首領様のためなら何でもいたします」
「女戦闘員05号です。首領様にはむかうものは私が始末いたします」
先ほどまで必死に逃げようとしていた彼女たちが、今では俺に忠誠を誓っている。
これだ。
これこそが俺の求めてきたもの、俺の夢だったものだ。
「イーッ! 首領様。私たち女戦闘員に何なりとご命令を」
俺の脇に立っていた01号が、彼女たちの横に行き、右手を挙げる。
これで女戦闘員たちは一応そろった。
あとは女怪人だ。

                   ******

「う・・・うーん・・・」
手術台に寝かせられている里倉弥生(さとくら やよい)先生。
メガネをかけた童顔が特徴で、そのせいか年より若く見え、生徒たちよりも幼い印象すら与えてくる。
教え方は上手で、俺は里倉先生のおかげで数学の成績が上がったようなものだ。
やさしくてかわいらしいと生徒たちの間でも人気が高い。
「よくやったぞお前たち」
俺は居並ぶ女戦闘員たちに声を掛ける。
「「「イーッ! ありがとうございます。首領様!」」」
いっせいに右手を挙げて敬礼する女戦闘員たち。
その表情は俺の言葉にうれしさをにじませている。
みんな俺の命令に従うのが気持ちよくて仕方がないのだ。
俺の忠実なしもべたち。
かわいいやつらだ。

「うーん・・・こ、ここは?」
メガネの奥の目をゆっくりと開ける里倉先生。
「え? え?」
起き上がろうとして自分の両手両足が固定されていることに気が付いたらしい。
周囲も薄暗いし、きっとかなり驚いているだろう。
「うふふふふ・・・」
「うふふふふ・・・」
「うふふふふ・・・気が付いたようね」
周囲にいる女戦闘員たちが里倉先生を見下ろしている。
黒い衣装に身を包み、黒いアイシャドウを引いた女子たち。
里倉先生は何がなんだか理解できまい。
「あ、あなた方はいったい? 飯野(いいの)さん? 川島(かわしま)さん? 野村(のむら)さん?」
「うふふふふ・・・それは私たちが女戦闘員になる前の名前」
「今の私たちにそのような名前は無意味」
「私たちは首領様にお仕えする女戦闘員なのよ」
冷たい笑みを浮かべながら里倉先生を見下ろしている五人の女戦闘員たち。
「女戦闘員? どういうことなの? 私をいったいどうするつもりなの? 悪ふざけはやめて!」
身をよじって手足の固定から逃れようとしている里倉先生。
小柄な躰と童顔のせいで、なんだか少女を捕らえているような感じがする。
だが、躰つきは紛れもなく大人の躰で、バランスの取れたボディラインが美しい。

「うふふふふ・・・恐れることはないわ」
「うふふふふ・・・先生は選ばれたのです」
「先生は首領様に選ばれ、女怪人に生まれ変わるのです」
相変わらず笑みを浮かべている女戦闘員たち。
これから起こることに胸を躍らせているのだろう。
「03号」
俺は一段高くなっている席から女戦闘員03号に声を掛ける。
本当ならレリーフ越しに声を掛けてやるほうがそれらしいのだろうが、まあ、それはおいおい。
「イーッ! お呼びですか首領様?」
すぐに03号が俺の足元にやってくる。
「お前は里倉先生を尊敬していたそうだな」
03号、川島愛華(かわしま あいか)は教職希望で、里倉先生のような教師になりたいと言っていたらしい。
「イーッ! それは以前の人間だったころの私の考えです。今の私が尊敬するのは首領様ただお一人のみ。あのような下等な人間を尊敬することなどありえません」
まさに俺好みの返事を返してくる03号。
アイシャドウを引いた目がうっとりと俺を見上げている。
「そうか。それなら彼女を再び尊敬できる存在にしてやるのだ。スイッチを入れろ」
「イーッ! かしこまりました」
一礼して手術台に戻る03号。
里倉先生のかけているメガネをやさしくはずし、そっと脇によけておく。
そして脇にあるスイッチのそばに行き、力強くそれを押した。

「きゃあーーっ!」
すぐさま里倉先生の躰に色とりどりの光が放射される。
先生の着ているものが粉々に分解され、一糸まとわぬ裸になる。
そしてすぐに先生のきれいな肌が黒く短い剛毛に覆われ始め、その形も変わっていく。
思ったとおりだ。
このシステムは女戦闘員どころか女怪人を作ることさえできる。
それも俺の思ったとおりにだ。
誰が用意したものかは知らないが、有効に活用させていただこう。

光が明滅するたびに先生の躰は変わっていく。
もはや以前の先生の面影はどこにもない。
だが、全体的なラインはやっぱりあのかわいらしい先生だ。
俺はその姿を見ているだけで、股間が硬くなっていた。

「ケケ・・・ケケケケケ・・・」
光の明滅が終わり、手術台の上から奇妙な声が漏れてくる。
俺があごをしゃくると、01号が手足の固定をはずす。
ゆっくりと躰を起こす異形の姿。
なれど、それは妙に美しく俺には感じた。

「ケケケケケ・・・なんだかすごく気分がいいわぁ・・・力がみなぎってくる感じ」
床に脚を下ろし、立ち上がるかつての先生。
黒と黄色の剛毛に覆われた手足。
両脇からは新たに小さな脚も生えている。
お尻には大きなふくらみが付き、額には小さな単眼が並んでいる。
それは蜘蛛の姿。
里倉先生は蜘蛛と人間が合わさった蜘蛛女になったのだ。

鋭い爪が付いた手をすっと脇に置かれたメガネに伸ばす蜘蛛女。
だが、手にとって持ち上げたところで、その手が止まる。
「ケケケケケ・・・こんなものはもう必要ないんだわ」
口元に冷酷な笑みを浮かべ、そのままメガネを床に落とす。
そしてハイヒール状になった足でメガネを踏み潰した。
「ケケケケケ・・・」
つぶれたメガネを満足そうに見下ろす蜘蛛女。
「改造が終わったようだな、蜘蛛女よ」
俺は蜘蛛女に声を掛ける。
やはり組織の怪人第一号は蜘蛛でなくてはな。
「ケケケケケ・・・蜘蛛女・・・それが私の新しい名前なのですね?」
先ほどとは違い、やさしい笑みを浮かべる蜘蛛女。
「そうだ。お前は俺の手で生まれ変わった。今のお前は怪人蜘蛛女だ」
「ケケケケケ・・・なんて素敵なのかしら。私はもう下等な人間なんかじゃないわぁ。私は蜘蛛女。私をこんなすばらしい躰にしてくださってありがとうございます。どうぞ何なりとご命令を、首領様」
俺の座っている場所にまで近づいてきて、すっとひざまずく蜘蛛女。
そうだ。
これこそが俺の夢だ。
俺は悪の組織の首領なのだ。
今は第一歩を歩き始めたに過ぎない。
これからどんどん組織を大きくしてやろう。
女怪人も女戦闘員もたくさん作り出そう。
そして世界を裏から混乱させてやるのだ。
表立って世界征服なんてめんどくさいことはしない。
俺は俺の好きなように生きる。
そのための女怪人であり女戦闘員なのだ。

「蜘蛛女よ。組織のために有用な女たちを次々とさらってくるのだ。いいな?」
「かしこまりました。首領様のお目にかなう女性たちをたっぷりと捕らえてまいりますわ。お任せくださいませ」
一礼していた顔を上げ、牙のある口元につめたい笑みを浮かべる蜘蛛女。
やさしい里倉先生はもういない。
ここにいるのは俺の命に忠実に従う怪人蜘蛛女だ。
「ケケケケケ・・・お前たち、私に付いていらっしゃい」
立ち上がりざまに振り向き、女戦闘員たちに声をかける蜘蛛女。
「「「イーッ! かしこまりました、蜘蛛女様!」」」
右手をいっせいに挙げて従う女戦闘員たち。
蜘蛛女が自分たちの指揮官であるということを、ごく自然に受け入れているのだ。
もちろんそれは俺がそう設定したからだが。
蜘蛛女と女戦闘員たちはカツコツとヒールの音を響かせてアジトを後にする。
その後姿の美しさに、俺はしばらく見惚れていた。

                   ******

「ケケケケケ・・・あなたは選ばれたのですわ、森沢(もりさわ)先生」
「こ、これいったい? いやっ、いやぁっ!」
学校でも美人の誉れ高い森沢めぐみが手術台に寝かされている。
美貌と知性を兼ね備えた才女だ。
確かに彼女なら組織の女怪人にふさわしい。
必死に嫌がる彼女だが、極彩色の光が彼女の躰に照射されると、みるみるうちに彼女の躰が変化する。
やがてゆっくりと立ち上がる異形の姿。
「ああ・・・なんていい気分なのかしら。私はもうくだらない人間なんかじゃないわ。首領様にお仕えする女怪人サソリ女よぉ。キキキキキ・・・」
右手の毒針から毒を滴らせながら、うれしそうに笑うサソリ女。
また一人、俺の配下の女怪人が増えたのだ。

「そんなぁ・・・」
「先生が・・・森沢先生が・・・」
「いやぁ! いやぁ!」
サソリ女の脇では、数人の女子生徒たちが女戦闘員に拘束されて立っている。
目の前で起こったことが衝撃的だったようで、みんな青ざめた顔をしているようだ。
「うふふふふ・・・心配は要らないわ」
「お前たちもすぐに私たちのように女戦闘員に生まれ変わるの」
「そうなれば、首領様にお仕えする喜びと、怪人様に対する尊敬の念が芽生えるわ」
女子生徒たちを逃がさないように囲んでいる女戦闘員たち。
サソリ女の手術が終わった手術台に、次々と女子生徒たちを寝かせていく。
やがて彼女たちも黒レオタードに黒タイツという姿の女戦闘員へと生まれ変わっていった。

これでいい。
俺の組織はどんどんと構成員が増えていく。
いずれは学校だけにとどまらず、町や県へと広がるだろう。
そしてやがては世界へも。
俺の作った悪の組織が暗躍するのだ。
なんて楽しい夢の世界。
ここまで来たら組織名を決めようと思う。
もちろんその名は一つしかない。
俺は偉大なるあの作品に敬意を表し、心をこめて組織の名を「ショッカー」と名づけるのだった。

エンド
  1. 2016/07/23(土) 22:08:33|
  2. 改造・機械化系SS
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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