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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

ナイロンウーマン増殖編その3

三夜連続の「ナイロンウーマン増殖編」も今日で終わりです。

ホントにただ増殖するだけの話となってしまいましたが、楽しんでいただければと思います。
よろしければ、感想などいただけるとすごくすごく嬉しいです。
よろしくお願いいたします。


「うーん・・・なんか今朝変じゃない?」
「あ~、なんかそうかもしれないですね~」
ぐでーっと机に突っ伏しながら、隣に立つ友人の朝霜早由里(あさしも さゆり)につぶやく。
深夜アニメを見るために深夜2時過ぎまで起きていたのが響いている。
眠くて眠くて仕方ないのだ。
さっさとHRを終わらせて、気持ちよく眠れる英語の時間になって欲しい。
涼月麻里子(すずつき まりこ)は心からそう思う。
あの石橋(いしばし)先生の奇妙な英語は聞いているだけで睡魔が忍び寄ってくる。
いけないいけないと思いつつも、気が付くと授業が終わっていることが多く、後で早由里にノートを見せてもらうのだ。
ふわふわの髪を後ろで束ねた早由里は、ほんわかとした雰囲気を漂わせた優しい女性で、人当たりもよいので将来は教師になったらいいと麻里子は思う。
何せ麻里子が落第点を取らずにすんでいるのは、ひとえにこの早由里のおかげである面が大きいのだ。
学園の先生の授業よりも、早由里に教えてもらった方がよくわかるのはどうしてなんだろう。
そう思う麻里子ではあるが、いつものごとく早由里に甘えることにして英語の授業は寝てしまうつもりだったのだ。
「早く先生来ないかなー。眠いよー」
意味不明なことを言いながらぐてーっとだらけている麻里子に早由里は苦笑する。
「また深夜アニメ?」
「うん、魔法機動ジャスリオンってのが新しく始まってさ~。まだ第一話なんだけど、敵の司令官オルダー王子ってのがもうかっこよくてー」
突っ伏しながらもにへにへと笑顔を浮かべる麻里子。
その様子に早由里はすごく癒される。
麻里子は早由里にいろいろ世話になっているというが、早由里こそ麻里子の存在がどんなにありがたいことか。
かけがえの無い親友というのはきっとこういうことを言うのだと早由里は思う。

『ピル・・・皆さんおはようございます。これより緊急の全校集会を行ないます。生徒の皆さんは全員体育館に集合してください。これより緊急の全校集会を行ないます』
スピーカーから声が流れる。
教室に待機していた生徒たちは一斉に不満の声を上げた。
朝から全校集会なんて出たくも無いのだ。
しかし、こればかりはしかたがない。
みなしぶしぶといった表情で席を立つ。
「マリちゃん、行きましょう」
「うえー、めんどいよぅ・・・」
「そんなこと言わないで。後でクッキーあげるから」
キュピーンと形容が付きそうな勢いで目を輝かせる麻里子。
「やたっ! 早由里のクッキーだ! 嬉しいな。早く行こ」
モノに釣られてというのは褒められたことではないが、麻里子がいつも早由里のクッキーを楽しみにしているのが早由里には嬉しかったし、こうして麻里子の喜ぶ顔を見るのは早由里にとっても幸せなことだった。
ぎゅっといきなり手を握られ、引き摺られるように麻里子に連れ出される早由里。
二人は仲良く体育館に向かっていった。

ざわめきが静まらない体育館。
集められた女子生徒たちはみな一様に、手近の友人たちと不安そうに小声でおしゃべりを交わしているのだ。
それもそのはず。
体育館にいるのは女子生徒たちだけ。
緊急の全校集会だと言って呼び集めた教師たちが、誰一人として体育館にはいないのだ。
「ねえ、早由里。やっぱり朝から変だよ。先生が一人も居ないし、あちこちに黒い水溜りみたいのがある」
麻里子も小声で早由里に話しかける。
本来出席番号順に並ぶことになっているのだが、教師たちが誰も居ない現状では女子生徒たちがちらほらと小グループを作っておしゃべりしている光景があちこちでみられたのだ。
「そうですわね。いったいあれは何なのでしょう? 雨漏りとも油漏れとも思えませんが・・・」
「うん、スタンドと壇上にだけあるなんて変だよね。でもどうでもいいから早くしてくれないかなぁ」
ふわぁと大きなあくびをする麻里子。
その様子に早由里はちょっと苦笑する。
「マリちゃん、あんまり夜更かしするとお肌が痛みますよ」
「う~・・・でも深夜アニメ見たいよう」
「録画してあとで見たらいいのではないですか?」
「う~・・・それだと何かあって時間がずれたりしたらお終いだしなぁ・・・」
麻里子は眠そうな顔をしながらも、深夜アニメを見ないという選択肢を選ぶことは無さそうだ。
マリちゃんらしいな。
早由里は眠そうな顔の麻里子に微笑んだ。

「「「ピルルルルー!」」」
突然体育館中に奇声が響き渡った。
女子生徒たちは驚いて、きょろきょろと声の出所を探る。
その女性生徒たちの目の前で、体育館の両脇に設えられたスタンドと、正面壇上の床に広がっていた黒い液状のものが、突然するすると立ち昇り、見る間に真っ黒なのっぺらぼうの女性の姿に変化する。
「「キャー!!」」
いく人もの女子生徒が悲鳴を上げてへたり込み、いく人かの女子生徒は体育館を逃げ出そうと入り口に向かう。
しかし、体育館から廊下に続く入り口も、グラウンドにつながる脇の扉のところにも真っ黒い女性たちが立ちはだかり、女子生徒たちの逃げ道をふさいでしまった。

「な、何なの、あれ?」
「わかりません。わかりませんわマリちゃん」
周囲に突然現れた真っ黒い全身タイツ姿の女性たちを見て青ざめる麻里子と早由里。
いったい何事が起こっているというのか。
二人はどちらからともなく手を握り合っていた。

「ピルルルルー! おとなしくしなさい生徒たち」
一人の漆黒の女性、ナイロンウーマンがマイクに向かって話しかける。
生徒たちはざわめきながらも、壇上の真っ黒い女性に眼を向けた。
「ピルルルルー。怖がる必要はありません。私たちはナイロンウーマン」
「ナイロンウーマン?」
壇上の黒い女性の言葉につぶやく麻里子。
「あれは学園長のお声ですわ。あの衣装を着ているのは学園長ではないでしょうか」
「学園長? そういえばそんな気もするね。だとすると学園長は何であんな格好しているのかな?」
「わかりませんわ。でも何か怖い」
麻里子の手をぎゅっと握り締める早由里。
麻里子はそれを見て、同じように握り返す。
少しでも早由里が怖くなくなればいい。
そう思う麻里子だった。

「今日からこの学園はナイロンクイーン様によるナイロン化の拠点となりました。あなたたちもナイロンセルの洗礼を受けナイロン化するのです。そしてナイロンクイーン様のご指示に従い、世界をナイロンに染める手助けをするのです」
「ナイロン化? ナイロンセル?」
麻里子には初めて聞く言葉だし、何がなんだかわからない。
わかっているのは、壇上の学園長をはじめ、周囲にいる女性教師全てが黒い全身タイツを着ていること。
目も鼻も耳も口も無い。
あるのはのっぺりとした頭部に何となく目鼻口の形が浮き上がっているぐらい。
よくあんな姿で息苦しくないものだ。
「こんなことなら教室で寝ていればよかった」
麻里子はそうつぶやき、早由里は思わず苦笑する。
それが麻里子は意図していなかったとしても、早由里の恐怖をずいぶんとやわらげてくれたのだった。

ナイロン化などと言われてもよくわからない女子生徒たちは、みな一様に顔を見合わせたり小声で何かを話したりざわついていた。
体育館の中央付近に身を寄せ合うようにしていた生徒たちの周囲に、いつの間にか黒いタールのような液体が忍び寄る。
それが充分に近づいた頃合いを見計らい、壇上のナイロンウーマンはこう言った。
「それではナイロン化を始めましょう」

「「「ピルルルルー!」」」
女子生徒たちの周囲で一斉に奇声が上がり、黒い液状の物体が見る間にナイロンウーマンへと変化する。
すぐに彼女たちは腕を触手状に伸ばし、生徒たちの中で比較的外側に位置していた女子生徒を捕らえると、抱き寄せてキスをするように顔を寄せてナイロンセルを流し込む。
「あぐっ、げほっ」
「イヤァァァァァッ、ぐぼっ」
「助け・・・あぐぅ・・・」
たちまち数人の女子生徒がナイロンウーマンに抱きかかえられてナイロンセルを口に入れられてしまった。
つかまった女子生徒たちは、みなのどを押さえて苦しそうに床に倒れる。
ピクピクと痙攣しながら苦しんでいるようだ。
「ヒッ・・・」
「いやぁっ、な、何なの」
他の生徒たちはおびえてただ固まることしかできない。
床に倒れたナイロンウーマンに捕まった生徒がどうなったのか、みな恐怖の思いでただ見守っていた。

やがて、床に倒れた少女たちにも変化が訪れる。
着ていたセーラー服も履いていた上靴も分解され、白い肌が黒いナイロンに覆われて行くのだ。
そして、そのナイロンが全身に広がると・・・
「ピルルルルー」
「ピルルルルー」
真っ黒いナイロンの少女たちが起き上がる。
全身を黒いナイロンの全身タイツで覆ったような姿になった少女たちが歓喜の奇声を上げるのだった。

「ピルルルルー。おめでとう新たに生まれたナイロンウーマンたち。いいえ、あなたがたはナイロンガールとでも呼びましょうか」
壇上で新たな仲間となったナイロンガールに祝福を与えるナイロンウーマン。
「「「ピルルルルー。ありがとうございます。私たちはナイロンガール。ナイロンクイーン様の忠実なしもべです」」」
一斉に唱和するナイロンガールたち。
もはや以前が何者であったかなど彼女たちには意味がなかった。
「さあ、ナイロンガールたち、仲間を増やしなさい」
「「「ピルルルルー。はい、仲間を増やします」」」
先ほどまでおびえる少女たちだったナイロンガールたちは、新たな仲間を増やすべくその腕を伸ばしていった。

「キャー!!」
「いやぁー!」
「来ないでー!」
たちまちのうちに阿鼻叫喚の渦に包まれる体育館。
幾人もの女子生徒がある者はナイロンウーマンと化した教師に、またある者はナイロンガールと化した友人に捕らえられ、ナイロンセルを流し込まれていく。
「ピルルルルー」
「ピルルルルー」
そのたびに体育館のあちこちで新たに生まれたナイロンガールの歓喜の奇声が上がり、一人また一人とナイロンガールに変えられていく。

「早由里、逃げるよ!」
「ええ、マリちゃん」
ぎゅっと握った早由里の手を引いて走り出す麻里子。
勉強は苦手だけど、躰を動かすことなら多少の自信はある。
とにかくこの体育館から逃げなければ。
入り口の周囲では、すでにナイロン化したナイロンガールたちとナイロンウーマンが阻止戦を張って、新たな女子生徒をてぐすね引いて待っている。
グラウンドに出ることができる脇の出入り口にも同様にナイロンガールたちが蠢いていた。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう・・・
麻里子は悲しくなる。
さっきまでおしゃべりしていた友人たちが得体の知れない化け物になっちゃった・・・
もし・・・
もし早由里までも化け物になっちゃったら・・・
そう考えて麻里子は首を振る。
そんなことにはさせるもんか。

麻里子の狙いはただ一つ。
体育館の両脇に設えられたコンクリート製のスタンドの上にあるガラス窓。
確かに高さはあるが、あの窓は開くはず。
そこからグラウンドに飛び降りるのだ。
下手をすると足首の捻挫ぐらいはするかもしれないが、それしか脱出の道は無い。
麻里子は早由里の手を握り締め、必死にスタンドに向かって走る。
幸いというか全身タイツの女たちは体育館の中央で右往左往している女子生徒たちを捕らえるのに夢中であり、麻里子と早由里に目をつけている者は無いように思えた。
まず、急いで窓を開け早由里を放り出す。
その後で自分も飛び降りて脱出する。
もし足を痛めたら、手近の叢に隠れてやり過ごし、携帯で助けを求めればいい。
麻里子はそこまでシミュレートし、スタンドを駆け上がった。

「あっ」
それは一瞬だった。
麻里子の手から早由里の手が離れていく。
がっちりと握っていたはずなのに、あまりにもあっけなく早由里の手は離れていってしまったのだ。
「早由里!」
振り向いた麻里子の目に、触手のように伸びた腕を早由里の胴に絡ませる真っ黒な女がいた。
「うふふふふ・・・逃がさないわよ。あなたもナイロンガールになりなさい」
「いやっ、いやぁぁぁぁぁぁ!」
「早由里!」
必死に手を伸ばして叫ぶ早由里に麻里子も懸命に手を伸ばす。
だが、ぐいぐいと早由里は黒い女に引き寄せられ、麻里子からどんどん遠ざかる。
「マリちゃーん!!」
「早由里ぃ!」
なすすべなく引き寄せられていく早由里に、麻里子はついにスタンドを駆け下りる。
早由里を助けなきゃ。
麻里子はその一心で、早由里を捕らえた黒い女に向かっていった。

「うあっ」
スタンドを駆け下りた麻里子に群がってくる黒い女たち。
すでに体育館の中では悲鳴よりもピルルルという奇声の方が勝り始めている。
新たな仲間を増やすべくナイロンガールたちが群がってくるのだ。
麻里子は必死に彼女たちを避けながら早由里に向かう。
「早由里ぃ!」
「マリちゃん、助けてー!」
必死に身をよじり、麻里子に向かって手を伸ばしてくる早由里。
だが、麻里子の目の前で、早由里を捕らえたナイロンウーマンが早由里の口に覆いかぶさる。
「早由里ぃ!!」
麻里子の方に向かって伸びていた早由里の手が力なく垂れ下がる。
麻里子は全てが終わったことを理解した。

「ピルルルルー」
やがてゆっくりと起き上がる早由里だったもの。
全身を真っ黒な全身タイツに包んだその姿は奇妙にもとても美しい。
麻里子は泣いていた。
早由里はいなくなってしまった。
目の前のあれは早由里じゃない。
早由里はいなくなってしまったのだ。
麻里子はあふれる涙を拭うこともできなかった。

「泣いているの? マリちゃん」
麻里子の前にやってくる真っ黒な女。
口が無いにもかかわらず、それは早由里の声で話しかけてくる。
麻里子がうつむいて何も答えずにいると、黒い女の指がそっと麻里子の涙を拭う。
「泣かなくていいのよマリちゃん。ちょっとだけ世界が変わるだけなの。ナイロンセルに同化するのはとても素晴らしいことなのよ」
「・・・嘘だ・・・」
麻里子はようやくそう言った。
周りではもうほとんど悲鳴は聞こえない。
黒い女たちが生まれ変わった喜びに奇声を上げている。
「嘘じゃないの。マリちゃん、私がマリちゃんに嘘言ったことある?」
麻里子は首を振る。
「無い、無いよ」
「マリちゃん、怖がらないで。あなたもナイロンガールになるの。それは素晴らしい世界なのよ」
「ホント?」
麻里子は顔を上げる。
「ええ」
「痛くない?」
「ちょっと苦しいかな。でも大丈夫。すぐに気持ちよくなれるわ」
「早由里が・・・してくれるの?」
「ええ、私がしてあげるわ」
黒い女がそう言ったあと、麻里子はしばらく黙っていた。
そして・・・

「ピルルルルー」
新たなナイロンガールの産声とも言うべき奇声が体育館に広がった。

******

静寂に包まれる体育館。
時刻は午前10時。
あれから一時間ほどしか経っていない。

ざわめきは消え、無言で整列する黒い少女たちの姿が広がっている。
壇上とスタンドにはこれも黒い女性たちが居並び、新たな学園の門出を祝うかのようだ。

やがて壇上に一人の黒い女性が現れる。
凛とした姿に周囲にぴんとした張り詰めた空気が流れ、壇上の女性が只者ではないことをうかがわせた。

「ピルルルルー。新たに生まれしナイロンガールたちよ。私はナイロンクイーン」
「「「ピルルルルー! ナイロンクイーン様。私たちはナイロンガール。ナイロンクイーン様の忠実なしもべです。どうぞ何なりとご命令を」」」
一斉に唱和する黒い少女たち。
目も鼻も口も無いその頭部からは表情をうかがうことはできないが、彼女たちはみな一様に誇らしく胸を張っている。
「この学園はナイロン化の拠点となりました。お前たちはこれより家に帰り、母親や姉妹たちをナイロン化しなさい。そして・・・ナイロン世界に男は不要。男どもは始末するのです。いいですね」
「「「ピルルルルー! かしこまりましたナイロンクイーン様。女はナイロン化し男は始末します」」」
「ナイロンウーマンたちも行きなさい。この町をナイロン化するのです」
「「ピルルルルー! かしこまりましたナイロンクイーン様」」
体育館の両脇に控えるナイロンウーマンたちも一斉にうなずいた。
「では行きなさい」
「「「ピルルルルー」」」
一斉に体育館を出て行くナイロンウーマンとナイロンガールたち。
世界のナイロン化が始まったのだった。


現在「海」祭り開催中です。
会場はリンク先から行けますので、どうぞ足を運んで下さいませ。

現在一般の方々のご参加も受付中です。
ぜひぜひ皆様の作品をお寄せ下さい。
お待ちしております。

それでは次回作でまた。
  1. 2007/10/11(木) 19:12:35|
  2. ナイロンウーマン
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ナイロンウーマン増殖編その2

ナイロンウーマン増殖編の二回目です。
新たな犠牲者が次々と・・・


そろそろ日付も変わろうかという時間。
一台の車が学園の駐車スペースに止められる。
慌てたように車のドアを開けて出て来る一人の女性。
地味目のスーツを着てはいるものの、若くみずみずしい躰の張りは隠せない。
長い髪を後ろでまとめた彼女は、早足で職員用玄関に入ると、靴を履き替えるのもまどろっこしそうに一目散に学園長室へ向かっていった。

慌ただしくノックされる学園長室の扉。
「学園長、西丘です。誰に何があったんですか?」
返事を聞くのももどかしい。
いったい誰がどうしたというのだろう。
先ほどから西丘浅海はそればかり考えていた。
クラスの生徒には問題となるような娘はいないはず。
みんないい娘たちばかりだ。
そりゃあ、時々若気の至りでいさかいはあるにせよ、陰湿ないじめとは縁遠いクラスのはずだった。
だから、浅海がまず思い浮かんだのは事故。
事故か何かで生徒が大怪我でもしたのではないかということ。
たとえ事故だとしても聖リオン女学園にとってはイメージダウンになりかねない。
だから学園長は問題が起きたといったのではないのだろうか。

『ピル・・・どうぞお入りなさい』
「失礼します」
浅海はまったく無造作に扉を開ける。
「学園長、いったい何が・・・ えっ?」
学園長室に入った浅海の前に学園長はいなかった。
重厚な机が奥に鎮座し、そこに座っているはずの学園長はいなかったのだ。
「えっ?」
慌てて左右を見回す浅海。
だが、学園長室には誰もいない。
床に敷かれたふわふわの絨毯の上に、なぜかタールのようなどす黒くどろっとした液体が広がっているだけ。
いったい学園長はどうしたのか?
いったい誰がこんなものを床にぶちまけたのか?
浅海は何がなんだかわからなくなった。
「が、学園長、どこですか? ふざけてないで出てきてください」
浅海は徐々にいらだってくる。
こんな時間に呼び出しておいて、ふざけるなんてどうかしているわ。
『ピルルルルー。ふざけてなどいないわ。私はずっとあなたの前にいるわよ』
室内から聞こえてくる声に浅海はビックリした。
その声が足元から聞こえてきたような気がしたのだ。
「ど、どういうこと?」
浅海は恐る恐る床の黒い液体に目を落とす。
どろっとした感じの液体だ。
だが、別に異臭を放つでもないし・・・
これはいったい何なの?

『うふふふ・・・あなたの目の前にいるって言ったでしょ』
突然床のどろっとした液体の中心部が盛り上がる。
「えっ?」
浅海は一歩あとずさる。
液体からはみるみるうちに太い紐のようなものがひょろひょろと上に向かって伸び始め、やがて人の背丈ぐらいで止まったかと思うと、急速に人の形を取り始めた。
「ええっ、何これ?」
浅海が口元に手を当てて驚いているうちに、液体は完全に人の形、しかも胸が膨らみ腰がくびれた女性の形になったのだ。
それはまさに裸の女性に薄いナイロンの全身タイツを着せたような姿。
頭のてっぺんから脚のつま先まで真っ黒なナイロンに覆われた女の姿だった。
「ピルルルルー、いかがかしら西丘先生。生まれ変わった私の姿は?」
腰に手を当てて少しポーズを取る真っ黒な女。
目も鼻も口も耳もなく、かすかに凹凸がそれらがあったであろうことを伺わせるに過ぎない頭部。
すべすべで滑らかなナイロンによって、余計に艶めかしく感じる胸の膨らみと腰のくびれ。
ある意味それは美しかった。
だが、同時に不気味でもあったのだ。

「が、学園長なんですか?」
浅海は何がなんだかわからなかった。
こんな時間に呼ばれて学園に来てみれば、学園長が得体の知れない存在になってしまっていた。
こんなことが信じられるはずが無い。
冗談はやめてと一蹴してしまいたいぐらいだった。
だが、何かが・・・
人間の動物としての危機意識のようなものが、目の前の真っ黒い女がただの全身タイツを着た学園長ではないことを教えてくれていた。
「ええ、つい先ほどまではそうでしたわ。でも、今の私はナイロンウーマン。偉大なるナイロンクイーン様の忠実なしもべ」
「ナイロン・・・ウーマン・・・」
胸に手を当てて誇らしげに語る黒い女に浅海は底知れぬ恐怖を感じる。
これはまずい。
ここにいてはいけない。
感覚が必死に警報を発している。
浅海はそろそろと背後のドアのノブに手を伸ばした。

ヒュッと空気を切る音がする。
浅海は一瞬何の音かと思ったが、気が付くとドアノブにまわそうとしていた右の手首に黒いロープのようなものが巻きついたことを知った。
「えっ?」
「ピルルルルー。ダメよ西丘センセ。逃がしはしないわ」
そのロープのようなものが、目の前に立っている黒い女の左手が伸びたものだとわかったとき、浅海の恐怖は限界を超えた。
「キャァァァァァァァァ!」
悲鳴を上げて逃げ出そうとする浅海。
だが、彼女の右手は黒い女の伸びた手に捕らえられ、逃げ出すことができない。
必死に右手に巻きついた“触手”とも言うべきひも状のものを引き剥がそうとする浅海。
しかし、その間に目の前の真っ黒い女は肩や胸の先、背中の肩甲骨の辺りからも同じような“触手”を伸ばし、浅海を絡め取って行く。
「いやぁっ! やめてぇっ! 助けてぇっ!」
必死に逃れようとする浅海。
だが、その躰には次々と“触手”が巻きつき、身動きが取れなくなってしまう。
「いやぁっ、お願い助けてぇ・・・」
恐怖と逃げられないという絶望で泣き始める浅海。
気丈で芯の強い女性だが、さすがに耐え切れなくなったのだ。
「ピルルルルー。バカね、泣くことなんてないわ。あなたもこれから生まれ変わるのよ。素晴らしいナイロンセルによってね」
浅海の躰をじわじわと引き寄せ、優しく言い聞かせるナイロンウーマン。
そして、引き寄せた浅海を抱き寄せ、その唇に自らの口のあったあたりをそっと押し当てた。
「むぐっ・・・」
静かになる学園長室。
やがて・・・
「ピルルルルー!」
生まれ変わった浅海の歓喜の声が響いてきた。

******

「はわわー、ヤバいヤバい、遅れちゃう」
ラッシュにはいま少し早い駅前を駆け抜け、聖リオン女学園に向かう一人の女性。
紺のスーツのタイトスカートからはナチュラルベージュのストッキングに包まれた若々しい脚が覗いている。
黒のローヒールのパンプスがせかせかと動き、少しでも早く学園に着こうと焦っているようだ。
肩口までの髪を風に嬲らせ、腕時計に目を落とす。
「何とか間に合いそう。新しい学園長になったばかりで教頭のハゲも張り切っているからなぁ・・・ 遅刻なんてしたら・・・」
風は充分に暖かいはずなのに、なぜか彼女の躰はぶるっと震える。
新人教師である源本美帆(みなもと みほ)にとっては、それだけ恐怖の相手であるのだ。
朝早い生徒たちのまばらな登校と重なりながら、急ぎ足の美帆は聖リオン女学園の校門をくぐっていった。

「おはようございます」
挨拶の言葉を口にしながら、女性職員用更衣室のドアを開く美帆。
いつもなら先輩教師たちがにこやかに返事を返してくれるのだが、驚いたことに更衣室には誰もいない。
「えっ?」
あまりに遅くに来たので、もうみんな職員室に行ってしまったのか?
そんな疑問が浮かんだが、実際はそれほど遅くなったわけではない。
朝の定例職員会議だってまだ時間はある。
一人も更衣室にいないというのは驚きだった。
「みんなもう職員室に行っちゃったのかな」
ちょっと寂しく感じた美帆だが、とりあえず準備をするために自分のロッカーのところへ向かおうとする。
「ん?」
すると、彼女のロッカーの前の床にどす黒い水溜りのようなものがあることに気が付いた。
「な、何これ?」
見たところ光沢があり、黒い水というよりもタールかなんかのように見える。
「だ、誰? こんなことしたの・・・」
まさか誰かのいじめとも思われないが、朝から気分が殺がれることはおびただしい。
とにかく何とかしちゃわなきゃ・・・
美帆は雑巾かなんかを持ってこようと入り口の方を向く。
すると、先ほどまではまったく気が付かなかった黒い水溜りが入り口の床にも広がっているではないか。
「え、ええっ? いつの間に?」
慌てて自分の上履きを確認する美帆。
知らずに踏んでしまっていたら、液体がこびりついているかもしれないのだ。
だが、どうやらその様子は無い。
ホッとして顔を上げた美帆は、目の前の床に広がる液体がヒュルヒュルとひものように上に伸びて人間の形を作るのを見た。
「ひぃっ!」
驚いてあとずさる美帆。
しかし無駄だった。
ロッカーの足元からも人影が立ち上がり、背後から美帆の体を羽交い絞めにする。
「ヒッ、もごご・・・」
悲鳴を上げようとしたものの、黒い腕が素早く美帆の口を押さえてしまい、声をあげることができなくなる。
「ピルルルルー。源本センセ、あなたもナイロンウーマンに生まれ変わりなさい」
ゆっくりと近づく真っ黒な人影。
「むぐ・・・むぐぐ・・・」
恐怖におののく美帆の口にどろっとしたものが流れ込んできた。

「ピルルルルー」
やがて更衣室からは歓喜の声が聞こえてきた。

「おかしいですなぁ。教頭先生、何か聞いておりませんか? もうすぐ朝の職員会議だというのに女の先生が誰も来ないなんて・・・」
白衣を着た科学担当の中年男性教師が首をかしげる。
職員室の机は半数以上が無人のままだ。
しかもいずれもが女性教師ばかり。
職員室で顔を合わせているのは男性教師たちだけなのだ。
これはどう考えても妙すぎる。
「いや、私も何も聞いておりませんよ。しかし、女性だけいないというのは変ですなぁ。ちょっと探してみましょうか」
ハゲ頭の教頭も首をかしげつつ立ち上がる。
「そうですね。このままじゃ授業もできませんし」
それを見て他の男性教師たちも立ち上がった。
「ん?」
「どうしました、山音(やまね)先生?」
立ち上がった後足元に目を落としている初老の国語教師に教頭が声をかける。
いったい何を見ているのか?
「あちこちに黒い液体が・・・」
「えっ? あ、本当だ。いつの間に?」
「こちらも」
「ここにも」
山音先生の言葉に次々と足元を見る男性教師たち。
確かに職員室の床のあちこちに真っ黒いタールのようなものが広がっている。
「な、なんだこれは? いったいなぜこんなものが?」
教頭が恐る恐る床に顔を近づけて、この液状のものが何かを確かめようとした時だった。

「「「ピルルルルー」」」
職員室中に一斉に声が響き、液状の物体からひも状のものがヒュルヒュルと立ち昇る。
「な、なんだ?」
驚きあっけに取られる男性教師たちの前で、立ち昇ったひも状の黒い液体は見る間に人間の形を取り始めた。
「な、何なんだ、これは?」
教頭も唖然としてその様子を見ているしかない。
やがて黒い液体は全て真っ黒な女性たちへと変化し、滑らかなボディラインを晒していた。
「ピルルルルー。この学園はたった今よりナイロンクイーン様によるナイロン化の拠点となりました。私たちはナイロンセルにより生まれ変わったナイロンウーマン。ナイロンクイーン様の忠実なしもべですわ」
教頭の隣に現れたナイロンウーマンが誇らしげに宣言する。
すでに職員室には十数体のナイロンウーマンが出現していた。
夕べのうちにナイロンウーマンへと生まれ変わった瑠美と浅海によって、朝からほぼ全ての女性教師がナイロンウーマンへと変化させられていたのである。
中にはナイロンセルに拒否反応を起こして細胞が崩壊してしまった女性もいたが、それらはほぼ例外なく加齢により細胞活動が低下している者たちであり、40代を境にナイロンウーマンになれずに崩壊していったのだ。
「そ、その声は学園長? わ、悪ふざけはやめていただきたい!」
得体の知れない恐怖を感じた教頭だったが、目の前の黒い女性の声が学園長らしいとわかると怒りがこみ上げる。
朝の忙しい時に女性教師たちとこんな格好で男性教師をおちょくっていると思ったのだ。
「この朝の忙しい時に! ばかばかしい!」
いらだったように荒々しく席に着こうとする教頭。
こんなバカな話は無い。
「ピルルルルー。ナイロンセルと同化もできぬ無意味な存在たち。男などナイロン世界には不要」
「「「ピルルルルー。男など不要!」」」
ナイロンウーマンたちが一斉に唱和する。
「な、何!」
教頭が何を言うかと怒鳴りつけようとしたその瞬間だった。

「死ね!」
十数体のナイロンウーマンの全ての全身から無数の先の鋭くとがった触手が一斉に広がった。
「はぐぁっ」
「ひぐっ」
「げほっ」
職員室の窓に血しぶきが飛び散る。
一瞬にして職員室は無数の槍と化した触手によって覆われ、男性教師はそのすべてが数秒の間に全身をズタズタに貫かれ、あっという間に絶命した。

カタン・・・
初老の国語教師山音のかけていたメガネが床に落ちる音がした。
続いてナイロンウーマンたちから伸びていた槍状の触手がするすると彼女たちの躰に戻って行き、貫かれていた男たちの躰がどさどさと床に転がって行く。

「ピルルルルー。これでいいわ。さあ、さっさと片付けちゃいましょう」
「「「はい」」」
ナイロンウーマンたちは一斉に頷き、自らの躰を液状化し始める。
やがて液状となったナイロンウーマンたちは、男性教師たちの死体に覆いかぶさるように動いていき、覆った死体を分解して行く。
衣服も肉体も骨や髪の毛すらも残さずに分解し、ナイロンセルに取り込むのだ。
わずか数分で職員室の床は磨き上げられたようにぴかぴかになっていた。

「窓や机の上に飛び散った血は放って置きなさい。これから特別の学生集会を開きます。生徒たちを体育館に集合させなさい」
「ピルルルルー。かしこまりました」
ナイロンウーマンの一人がすぐさま放送機器を操作する。
最後の仕上げが始まるのだ。


現在「海」祭り開催中です。
会場はリンク先から行けますので、どうぞ足を運んで下さいませ。

現在一般の方々のご参加も受付中です。
ぜひぜひ皆様の作品をお寄せ下さい。
お待ちしております。

それではまた。
  1. 2007/10/10(水) 19:25:09|
  2. ナイロンウーマン
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ナイロンウーマン増殖編その1

今日から三日連続でSSを一本投下します。
先月9月19日に掲載した「ナイロンクイーン」の蛇足です。
蛇足という割りには長くなってしまったので、三日連続の投下となりますが、楽しんでいただければと思います。

「ナイロンウーマン増殖編」

静まりかえった郊外の街並み。
ひときわ広い一画を占めている建物群。
フェンスに覆われたグラウンドが月明かりに照らされている。
この時間、誰の出入りもなくなった校門には「聖リオン女学園」と記されていた。

「ふう・・・ こうしてみると学園長という立場も結構楽じゃないんだわ・・・ 伯父様がぼやいていたのもよくわかるわ」
重厚なデスクについていろいろな書類と格闘している古玉瑠美(こだま るみ)。
まだ三十代前半で、つい先日までは外資系企業で係長をしていたのだが、伯父の急病にともないこの私立聖リオン女学園の学園長に無理やりさせられたといっていい。
「まったく・・・伯父様も強引なんだから・・・」
苦笑いしながら書類にサインを入れていく。
学園長としての引継ぎにともなう雑処理がたくさんあるのだ。
ほとんどはサインを入れるだけの物なのだが、量が半端ではない。
結局、今日もすでに20時を過ぎていた。

うねうねと蠢く漆黒の水溜り。
アメーバのようにうねうねと動き、それがただの水溜りではないことを示している。
その不気味な液状の物体が二つ。
じわじわと流れるようにある建物に向かっていた。
その建物は・・・聖リオン女学園。

入り口のドアと床の隙間から難なく侵入し、ずるずると廊下を流れて行く黒いアメーバ。
やがてそれは、夜の暗闇の中、一つの部屋の前で動きを止める。
そして、ゆっくりとドアの隙間から染み込むように室内に入っていった。

「うん・・・っと、もうこんな時間か・・・残りは明日にしてもう帰ろうかしら」
瑠美は伸びをして首を左右に傾ける。
見れば時計はもう21時近く。
夕方に軽くお菓子を口にしただけなのでお腹も減っている。
「やれやれ・・・でも明日ぐらいには目処が立ちそうね」
だいぶ減った書類の山を前にして苦笑する瑠美。
これが終われば一息つけるだろう。
学園の教師たちともゆっくり面談できるかもしれない。
まだまだ学園内のことはわからないことが多いのだ。
いろいろと話したいことはいっぱいある。

『うふふふ・・・ それはよかったわね』
いきなり室内に声がして瑠美は驚いた。
この学園長室には誰もいないはずなのに・・・
事実室内を見渡しても、自分のほかには誰もいない。
「だ、誰? 誰なの?」
瑠美はきょろきょろしながら声の主を探す。
「えっ? あれは?」
見ると学園長室の応接セットの置かれた床、そのふかふかの絨毯の上にどす黒いタールのようなものが広がっていた。
「何? 何なの?」
いったいいつの間にあんな液体が広がったのだろう。
ここにはタールなんてあるはず無いのに・・・
瑠美が不思議に思う間もなく、そのどす黒い液状の物体の中心がせり上がり始めた。
「ヒッ!」
小さく悲鳴を上げ、思わず立ち上がる瑠美。
黒い液体は見る間に形を整えて行き、真っ黒ですべすべとしたナイロンの人型になっていく。
「な、何なの?」
瑠美は口元に手を当てて一歩二歩とあとずさる。
『ピルルルルルー』
やがて完全に人の形となった黒い液体は、奇妙な声を発声する。
そこには全身をナイロンの全身タイツですっぽりと覆われた女性が立っていた。
両の胸は丸みを帯びて膨らみ、腰は適度にくびれ、腰から両脚にかけて流れるようなラインを形作るこの人影はまさしく女性。
だが、それはあまりにも異形。
髪の毛はまったくなく、すべすべのナイロンマスクが頭の全てを覆っている。
目も鼻も口もなく、あるのはそれらがあったであろうことを示す凹凸だけ。
指先も真っ黒に覆われ手袋に包まれたかのよう。
つま先も真っ黒なタイツを穿いたように指先が無くなっていた。
「あ、あなたはいったい・・・」
いきなり液状から人型になった真っ黒な女性に瑠美は唖然としていた。
あまりのことにどうしていいのかわからない。

「私はナイロンクイーン」
漆黒の全身タイツの女性はそう言った。
「ナイロン・・・クイーン?」
瑠美は小さく繰り返す。
いったい何者なの?
どうやって入ってきたの?
さっきのは何かのトリックなの?
誰かが私を驚かそうとしているとでも言うのかしら?
幾つもの疑問がわきあがる。
「ナイロンクイーンだかなんだか知りませんけど、ここは聖リオン女学園の学園長室です。悪ふざけはやめて出て行ってください」
得体の知れない不気味さはあったものの、相手が人間の形を取ったことで、少しほっとしたのも事実である。
だから、瑠美は相手に対して立ち去るように言ったのだ。
「うふふ・・・ この学園はナイロンセルを広めるにはうってつけだわ。まずはあなたからね」
まったく表情が見えないにもかかわらず、瑠美は目の前の全身タイツの女が笑みを浮かべたように感じた。
そしてその笑みがぞっとするものであることも。

「もしもし、すぐに学園長室に来ていただけますか? 侵入者です」
机の上の電話を取り、内線で警備室にかける瑠美。
だが、警備員の返事は無い。
「もしもし、もしもし!」
血の気が引く瑠美。
まさか・・・
「くすくす・・・ 警備にあたっている男どもはみーんな殺しましたわよ」
いきなり背後から抱きすくめられる瑠美。
いつの間に近寄ったのか、全身タイツの女がもう一人背後にいたのだ。
瑠美が驚いたことに、背後の女の腕はまるでホースか触手のように長く伸び、瑠美の躰にぐるぐると巻きついてくる。
「い、いやぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴をあげ受話器を取り落とす瑠美。
両腕もグルグルと巻かれてしまって身動きが取れなくなる。
「うふふふ・・・ よくやったわ」
悠然とその様子を見ているナイロンクイーン。
すらっとした姿勢で立っているその姿はまさに女王。
「ありがとうございます、ナイロンクイーン様」
嬉しそうに瑠美の耳元で答える全身タイツの女。
クイーンによってナイロンウーマンと化した織江だ。
「うふふ・・・ さあ、彼女にもナイロンセルを注入してあげて」
「はい、ナイロンクイーン様」
「い、いやぁっ! たすけてぇっ!」
必死に身をよじる瑠美。
だがぎっちりと絡みついたナイロン触手はまったく身動きを許さない。
すべすべしている肌触りは気色悪くは無いものの、瑠美にとってはそれどころではなかった。
「くすくす・・・ あなたもナイロンウーマンになるのよ」
黒い全身タイツの女が顔を近づけたかと思うと、瑠美の唇にマスクの口が押し付けられ、そこからどろっとしたものが流れ込む。
「ん・・・んぐっ」
必死で飲み込まないようにしたものの、液体はまるで意思があるかのようにのどの奥に入り込んで行く。
のどを滑り降りて行く液体の感覚に、瑠美は恐怖を感じたが、どうすることもできなかった。

******

「うふふふふ・・・」
先ほどまで瑠美が座っていた革張りのいすに腰掛けたナイロンクイーンが小さく笑う。
その足元には真っ黒な全身タイツに包まれた姿になってしまった瑠美が、ナイロンクイーンの組んだ脚に頬擦りをしていた。
「ピルルルルー。ああ、ナイロンクイーン様。とっても気持ちいいです。ナイロンセルによって私はナイロンウーマンに生まれ変わりました。これからは身も心もナイロンクイーン様にお捧げいたしますわ」
「ピルルルルー。よかったですねぇ。これであなたもナイロンウーマン。一緒にナイロンクイーン様にお仕えいたしましょ」
同じように床に座ってナイロンクイーンの左手に頬擦りするもう一人のナイロンウーマン。
それがかつて織江と呼ばれていたことなど、本人はもはや忘れているかもしれない。
「ええ、もちろんですわ。私はナイロンクイーン様の忠実なしもべです」
ナイロンクイーンの右足の甲の部分に頬擦りをしながら、うっとりとも感じられる口調で答えるナイロンウーマンとなった瑠美。
先ほどまでの学園長であった姿はまったくうかがえない。
「ピルルルルー。すべすべでとても気持ちがいいです、ナイロンクイーン様」
「うふふ・・・ それはよかったわ。ナイロンの感触は最高ですものね。でも、いつまでそうしているつもりかしら?」
ギクッと弾かれたように立ち上がるナイロンウーマン瑠美。
「申し訳ありません。直ちに始めます」
ナイロンクイーンに一礼すると、彼女はすぐに机の上の電話の受話器を取る。
「もしもし・・・西丘先生ですか? 古玉です。ええ、学園長の」
学園の教師西丘浅海(にしおか あさみ)に電話をかけ呼び出すのだ。
「ええ・・・緊急です。先生のクラスの生徒がちょっと問題を起こしてしまいまして・・・ ええ・・・ ええ・・・ 大至急学園に来て頂けますか? ええ・・・ お待ちしています」
受話器を置くナイロンウーマン。
「ピルルルルー。すぐに西丘先生が参りますわ。彼女は優秀な教師です。きっとナイロンクイーン様のお気に召すものと思われますわ」
「そう。それは楽しみね。ではあなたが彼女をナイロン化しなさい」
「ピルルルルー。よろしいのですか?」
思ってもいなかった言葉に喜びを感じるナイロンウーマン瑠美。
優秀な女性教師をナイロン化できるなんて素晴らしいことだ。
「ええ、この学園はこれからナイロン化の拠点になるわ。その指揮をあなたが取るのよ」
「ピルルルルー。光栄ですナイロンクイーン様。この学園は私が全てナイロン化し、ナイロンクイーン様に捧げますわ。ピルルルルー」
歓喜の声を上げてナイロンクイーンに跪く。
ナイロンの世界を広める喜びに打ち震えるナイロンウーマン瑠美だった。


現在「海」祭り開催中です。
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現在一般の方々のご参加も受付中です。
ぜひぜひ皆様の作品をお寄せ下さい。
お待ちしております。

それではまた。
  1. 2007/10/09(火) 19:36:54|
  2. ナイロンウーマン
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ナイロンクイーン

いつもいつも当「舞方雅人の趣味の世界」においでくださり、誠にありがとうございます。

皆様のおかげで、本日当ブログが80万ヒットを迎えることができました。
夢の100万ヒットまであと20万にまでこぎつけることができました。
本当に本当にありがとうございます。

これからもできるだけこのブログを続けて行こうと思います。
趣味のミリタリーやゲームネタ、そして、皆様にとても支持していただいておりますSSをこれからも書き綴って行こうと思いますので、どうか応援をよろしくお願いいたします。

と、いうことで、短編を一本掲載いたします。
楽しんでいただけると嬉しいです。


「ナイロンクイーン」

うねうねとレンズの向こうで蠢く物体。
伸びたり縮んだりと脈動を繰り返す。
真っ黒いツヤ無しのアメーバと言っていいだろう。
まさに待ち望んでいた結果が目の前に動いているのだ。

「成功だわ。見て」
顕微鏡の接眼レンズから目を離し、研究所主任の歴木梨菜(くぬぎ りな)が興奮気味に周りに言う。
少しきつめの顔立ちに今は満面の笑みを浮かべていた。
すぐに周囲の研究者たちも入れ代わり立ち代わり顕微鏡を覗き込む。
「おお・・・」
「これは・・・」
彼らにも今目に見えているものが半ば信じられない思いである。
無機物と有機物の融合。
ナイロン繊維を自在に操る生き物とも言うべき存在が、そこに蠢いていたのだ。
「これは画期的な発明よ。衣服に対する認識が変わるわ」
梨菜は嬉しそうに両手を広げる。
研究所主任とはいうものの、まだ若い彼女の腕はさほど信用されていなかった。
この成功は長い間の苦労が報われたといっていい。
このナイロン細胞が自在に増殖したり形を変えたりすることで、衣服はいかようにもなるのだ。
普段着を着ている状態から水着に変化させて水に入るなどということも行えるようになる。
気分次第でファッションを変えることが可能なのだ。
「おめでとうございます。主任」
目を輝かせてうっとりと梨菜を見つめてくる白衣をまとった女性。
梨菜の助手を務める一人、香嶋織江(かしま おりえ)だ。
まだ若く、いわば雑用係のような位置づけだが、梨菜を尊敬しており、助手として献身的に努めている。
幼い顔つきが可愛らしく、大きめの目がくりくりとしていた。
「ありがとう織江ちゃん。後はコントロールの問題ね」
梨菜は織江の肩に手を置くと、これからの研究方針を思い描く。
第一歩は成功した。
この後も上手く行って欲しいものだわ。
梨菜は切れ長の目を細め、薄く笑みを浮かべた。

「ふう・・・あとはいかにイメージどおりに形作らせるかと色よね。まさか全部黒一色ってわけには行かないし・・・」
研究員たちが帰った深夜の研究室で、梨菜は一人ため息をつく。
第一段階の成功は無論喜ばしいことだったが、これからもやらねばならないことは目白押し。
休まる暇など無いのだ。
あのナイロン細胞、いや、ナイロンセルとでも呼ぼうか。
そのナイロンセルを増殖させ、形と色を自在に変化できるようにする。
それはまさにファッション界だけではなく、あらゆる生活をいっぺんさせるだろう。
服を脱ぐことなく着替えることができるようになるだけではなく、たとえば突然の火災に着ているものを耐火服にしたり、重い宇宙服の代わりに全身タイツのような軽いもので済ませることができたりと、応用は幅広いはず。
それだけに梨菜はこの発明が気に入っていたし、誇りにも思っていた。
「うふふ・・・ナイロンセルはこれからもっともっと広まるわ」
そう言って嬉しさに目を細める。
「さて・・・もう一仕事する前にコーヒーでも淹れようか」
んっと伸びをして立ち上がる梨菜。
そのまま研究室を出てキッチンに向かう。
静かになった研究室で、何かがパキッと音を立てた。

「ふんふんふん・・・」
お気に入りの曲を口ずさみながら、湯気の立ったコーヒーカップを片手にドアを開ける梨菜。
「えっ?」
部屋に入ったとたんにその足が止まる。
「な、何これ・・・」
梨菜は驚いていた。
研究室の床に水溜りのようなものが広がっている。
それは真っ黒でまるでコールタールのようなものだ。
見ると、ナイロンセルを培養していたビーカーを納めたケースが割れ、そこから液状のものが床に垂れて広がっていたのだ。
「ま、まさか・・・これはナイロンセル? どうしてこんなに?」
梨菜はコーヒーカップを脇のテーブルに置くと、近寄ってしゃがみこむ。
確かに彼女はナイロンセルを培養しようとはしていたが、たった数時間でこんなに増殖するはずが無い。
だいたいそのための養分はどうしたのか?
「これって本当に?」
黒いコールタールのような液体に梨菜は恐る恐る指を近づける。
人差し指で掬い取ってみると、ねばねばするというよりはすべすべした感じだ。
そう、あのナイロンストッキングを手に取ったような肌触りなのだ。
「これってやっぱり・・・ナイロンセルだわ・・・」
床にこぼれたナイロンセルを見下ろす梨菜。
これをどうやって掬ったものかと思案する。
「雑巾じゃ吸い取れないだろうし・・・スコップのようなもので掻き取るしかないか・・・」
ため息をついて立ち上がる梨菜。
だが、用具を取りに行こうとしたとたん、足をグッと引っ張られる。
「えっ?」
慌てて足元を見ると、右足に液状のナイロンセルが張り付いている。
「ええっ?」
梨菜は急いで右足を引き離そうとしたが、液状のナイロンセルはグニューッと糸を引くようにへばりつき、放れようとしない。
「な、何よこれ!」
梨菜は慌てて手で拭い取ろうと右手を伸ばす。
「ヒッ」
小さな悲鳴が口から漏れる。
伸ばした梨菜の右手は、先ほどナイロンセルを掬った人差し指と擦りつけた親指が、そこだけ薄いナイロンの手袋をしたように黒く染まっていたのだ。
「な、何これー!!」
梨菜はもう何がなんだかわからなくなり、必死で右手を振って払おうとする。
しかし、右手の先は徐々に手の平や甲まで薄い皮膜のようなものが広がり始め、すべすべした真っ黒なナイロン手袋に包まれていく。
「い、いやー!!」
右足からも液状のナイロンセルは這い上がり始め、彼女の履いていたパンプスはぐずぐずと溶けるように消えて行く。
「だ、誰か助けてー!」
必死で逃げようとするものの、ナイロンセルに捕らわれた右足は言うことを聞かず、逆に引きずり込まれるように梨菜の躰は液状のナイロンセルに近づいていく。
「いやぁー」
白のソックスもまるで吸い込まれるように黒い皮膜に取り込まれていき、梨菜の右足は徐々に真っ黒なタイツを穿いたような姿に変わっていく。
「あ・・・ああ・・・な、何これ・・・」
梨菜は悲鳴を上げることができなくなってしまっていた。
すべすべのナイロンが右足と右手を覆い始めると、そこからえも言われぬ快感が押し寄せてきたのである。
まるで皮膚を優しく愛撫されているよう。
ナイロンが皮膚全体に浸透してくるようなのだ。

いや、それはしてくるようではなく、本当に浸透してきているのだった。
ナイロンセルは梨菜の躰に広がって行き、彼女の全身を覆いつくして行く。
すでに両足に広がった快感で、梨菜はまるで呆けたように感じてしまっていた。
じわじわとナイロンセルが彼女の両脚を黒いタイツに変えて行く間、彼女は何度もエクスタシーを迎えていた。
ショーツには染みが広がり、後から後から愛液がにじみ出てくる。
口元には涎が垂れ、悲鳴を上げることなど不可能だ。
「あ・・・あああ・・・いい・・・いいよぉ・・・」
全身を走る快感になすすべもなく翻弄され、その間にもナイロンセルは梨菜の全身を覆って行く。
白衣とスカートは分解されて吸収され、ナイロンセルの養分になっていく。
梨菜の体表組織はナイロンセルと置き換わり、皮脂なども養分として取り込まれる。
服も下着も無くなって、首から下は真っ黒な全身タイツへと変貌する梨菜。
やがてナイロンセルは梨菜の首を伝い、顎から口の中へと進入する。
すでに抵抗のすべを持たない梨菜は、流れ込むままにナイロンセルを飲み込んでいった。

のどを滑り降りたナイロンセルは、梨菜の体内をも侵食して行く。
梨菜の体内は徐々にナイロン化し、ナイロンと人間の融合した新たなる生命体へと変化していった。
「がぼっ! ゴホッ!」
梨菜は口も鼻も覆われ、やがて漆黒のナイロン皮膜は梨菜の頭部全てを覆いこむ。
梨菜の躰はすべすべのナイロンの全身タイツに包まれてしまったのだ。

真っ黒なのっぺらぼうになってしまった梨菜は、静かに動きを止めると、やがてその躰がぐずぐずと崩れていく。
そして先ほどまで床に広がっていた真っ黒な液体のように液状になると、中心からするすると上に向かって太い紐のようなものが伸び始めた。
紐はやがて梨菜の身長ほどの高さで止まると、今度は膨らみ始めて人の形を形作る。
それは真っ黒な全身タイツを着た梨菜の形を形作り、足元の液体は全てその中に吸い込まれていった。
すらっとした女性らしい美しいラインをした真っ黒な全身タイツを着たデッサン用の木製人形。
彼女はまさにそんな感じに見えた。

「ピルルルルルルー」
やがて彼女の口だった辺りから奇妙な声が発せられる。
それは歓喜の声。
新たな生き物となった自分の誕生を祝う声だった。
「ああ・・・なんて素晴らしいの? 私の躰は全てナイロンセルに置き換わった。今の私はナイロンセルウーマン、ナイロンウーマンなんだわ」
くねくねと自分の躰を愛しそうに撫で回す梨菜。
すりすりとナイロン同士の擦れ合う音がかすかに響く。
梨菜は変わってしまった。
ナイロンセルによって体の細胞を変えられてしまったのだ。
だが、それはむしろ喜ぶべきこと。
彼女にとってはこれ以上無い幸福を味わっていたのだった。
「ピルルルルルルー」
梨菜は喜びの声を上げる。
ナイロンセルが彼女に命じるのだ。
仲間を増やす。
それは梨菜自身の望みにもなっていた。

「おはようございます」
いつものように出勤してくる香嶋織江。
朝が弱い彼女は、わりと時間ぎりぎりに来ることが多い。
白衣に着替えて研究室に行けば、いつもは梨菜や他の研究員たちが仕事に取り掛かろうとしているような時間だった。
だが、今日は勝手が違っていた。
いつになく研究所が静まっている。
研究員たちの話し声もまったくしない。
研究用器具の音すらしないのだ。
「何かあったのかしら・・・」
いつものようにロッカーに荷物を入れ、白衣に着替えて廊下を進む織江。
その途中で妙なにおいがする。
「えっ? なに、このにおい・・・」
嗅いだことがあるようでいて思い出せないようなにおい。
「何だろう・・・ガスとかじゃないし・・・」
何か危険な気体かとも思ったが、それなら感知器や警報機が働いても良さそうだし、うっすらとしたにおいなのでよくわからない。
織江はとにかく研究室に向かい、ドアを開けた。

「ヒッ」
織江は目の前に広がっていた光景に息を飲む。
研究室は赤黒かった。
そしてむっとするあのにおいが立ち込めていた。
あちこちに倒れている研究者たち。
そのいずれもが白衣を赤く染めている。
あちこちを何かで突き刺されたような痕があり、床にも赤黒いものが広がっていた。
血だ・・・
あのにおいは血のにおいだったんだわ。
織江はあまりのことに声も出ない。
悲鳴を上げたくてもできないのだ。
これは何?
これは夢?
私は悪い夢を見ているんだわ・・・

「おはよう、織江ちゃん」
背後から優しい声がする。
いつも聞きなれた主任の声。
織江はホッとすると同時に、中の惨状を知らせるべく振り返る。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴が上がった。

目の前にいるのは真っ黒なのっぺらぼう。
まるで影が形をもって起き上がったかのよう。
胸の膨らみや腰の括れがこの真っ黒な存在が女性であると思わせる。
「あ・・・あああ・・・」
一歩二歩とあとずさる織江。
「ピルルルルルルー、怖がらなくてもいいのよ織江ちゃん」
真っ黒な人影が言葉を発する。
口はまったく存在しないし目もありはしない。
ただ、ぼんやりとその形が浮き出ているだけといった感じだ。
でも、その人影は言葉を出した。
それは織江にとっては尊敬する主任の声だった。

「主、主任・・・主任なんですか?」
恐る恐る織江は尋ねる。
よく見ればこれはナイロンの全身タイツではないだろうか・・・
主任は黒い全身タイツを着て私をからかっているのではないだろうか・・・
いつも朝が遅い私への戒めとして・・・
でも・・・
でも、それじゃ大川さんや石黒さんは・・・
どうして血まみれなの?
背後の惨状を考えると、これがからかいなどではないことがよくわかる。
いったい何がどうなっているの?
織江はこんなところから一刻も早く逃げ出したかった。

「ピルルルルルー、ええ、私よ。遅いじゃない、織江ちゃん」
いつものように遅刻寸前だった織江を軽く咎めるような主任の声。
でも、それはこの異様な姿の人影から発せられているのだ。
「主任・・・本当に主任なんですか? いったいその格好はどうしたんですか? 大川さんや他の人たちはどうしちゃったんですか?」
織江はじわじわと後ろに下がる。
だが、ぬるっとした血溜まりに足を取られ、思わずよろめいた。
「織江ちゃん。怖がることは無いわ。あの男たちは私が殺したの。すぐに綺麗に片付けるつもりだったけど、その前に織江ちゃんが来ちゃったってわけ」
「ええっ?」
主任が殺した?
どうして?
どうしてそんなことを?
織江は信じられない。
あの聡明で優しい主任がどうして?
「男たちってだめねぇ。どうやらY染色体がナイロンセルには馴染まないらしいわ。同化しようと思ったけど、苦しむだけだし見苦しいから殺したわ」
「ナイロンセル? 同化?」
織江には何がなんだかわからない。
わかっているのは目の前の漆黒の全身タイツの女がどうやら主任であり、他の男性職員を殺してしまったらしいということ。
逃げなきゃ・・・
ここにいてはいけない・・・逃げなきゃ・・・
織江は逃げ道を探すべく視線を動かした。

「うふふふふ・・・織江ちゃん、私は生まれ変わったの。ナイロンセルによってナイロン生命体に変化したのよ。今の私は人間じゃないの。ナイロンウーマンとでも呼んでちょうだい」
ゆっくりと織江に近づいてくる真っ黒な梨菜。
織江は必死で逃げ道を探すが、入り口は梨菜がしっかり押さえてしまっている。
窓は遠いし、死体を踏み越えて行ける自信は無い。
まさに八方ふさがりの状態だった。
「ナイロン・・・ウーマン?」
織江は噛み締めるように梨菜の言葉を復唱する。
目の前の黒い人間はもはや主任では無いというのか?
そんなことがありえるのか?
「そう。私はナイロンウーマン。とても素晴らしいのよ。美しいでしょ、この躰? あなたは同化できるかしらね」
「えっ? いやっ」
突然目の前の黒い女の両手が伸びる。
それはまるでゴムの触手のようにうねうねと伸びて織江の躰に絡みつく。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
大声で悲鳴をあげ、必死に逃れようともがく織江。
だが、躰に何重にも絡みついた梨菜の両腕は解くことなどできはしない。
「いやぁっ! 助けてぇ!」
泣き叫ぶ織江。
その躰が徐々に梨菜の方へ引き寄せられる。
「ひいぃっ!」
「怖がることは無いの。ほんのちょっと苦しいけど、そのあとはもう気持ちよくてたまらなくなるのよ。ピルルルルルルー」
織江の顔に真っ黒な無貌の顔が迫る。
「いやぁっ!」
織江は必死にいやいやをするものの、無貌の顔がその口に覆いかぶさり、やさしくキスをした。

床に横たわる織江。
躰が小刻みに震え、痙攣しているようだ。
織江の躰にはたっぷりとナイロンセルが流し込まれていた。
織江の体内ではナイロンセルが順調に活動している。
そのことにナイロンウーマンとなった梨菜は満足していた。
やはりナイロンセルを広めるには女性をナイロン化するのがいいようだ。
無貌の真っ黒な梨菜がかすかに笑ったような仕草を見せる。
足元では織江の躰に変化が生じていた。

織江の着ている衣服がぼろぼろに分解されていく。
そして下から現れた肌は、真っ黒なナイロンと化していた。
両手、両脚にも漆黒のナイロン組織が形成され始め、織江の体表を覆っていく。
みるみるうちに織江の躰は真っ黒な全身タイツを着込んだように変化し、目も鼻も口も髪の毛も無い真っ黒なデッサン人形のように変わっていった。

やがて織江の躰はぐずぐずと溶けるように崩れ始め、床に黒い水溜りを形作る。
そしてその中心からするすると太い紐のようなものが立ち昇り、それが再び黒いデッサン人形を形作った。
着やせする織江同様に多少ぽっちゃりとしているものの、それがかえって美しく見せる漆黒の躰。
胸からお尻にかけての流れるラインはとても美しい。
「ピルルルルルルー」
生まれ変わった織江が歓喜の声を上げる。
「うふふふふ・・・これで織江ちゃんも私の仲間」
満足そうにうなずくナイロンウーマン。
新たな仲間とともにこれからはナイロンウーマンを増やしていくのだ。
「さあ、いらっしゃいナイロンウーマン」
新たな仲間を手招きする。
だが、新しく生まれたナイロンウーマンは彼女の予想外の行動を取った。
彼女のそばへやってくると、すっと跪いたのだ。
「ピルルルルー、私はナイロンウーマン。ナイロンクイーン様の忠実なるしもべ。どうかこの私にご命令を」

ナイロンクイーン・・・
そう呼ばれた梨菜だったナイロンウーマンはゆっくりとうなずく。
「私はナイロンクイーン。世界はわれらナイロンセルのもの。適応する全ての女性をナイロン化し、世界をナイロンの世界に」
「はい、ナイロンクイーン様。仰せのままに」
「ピルルルルー」
「ピルルルルー」
二人のナイロンの女たちの歓喜の声が室内に響いた。


現在「海」祭り開催中です。
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それではまた。
皆様どうもありがとうございました。m(__)m
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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