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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

女幹部誕生

あけましておめでとうございます。

新年一発目のブログはSSを投下しますねー。
一回読みきりの単発ものです。
楽しんでいただければと思います。

ううっ・・・泣けるよう・・・
私は必死に涙をこらえるけれどだめだった。
さっきから私の涙腺は私の意思に反して緩みっぱなし・・・
頬を伝う涙が握り締めた手の甲に落ちてくる。
うううっ・・・
私こういう話だめなのよぅ・・・
スクリーンの中では、主人公の胸に抱かれてヒロインがその命の最後の輝きを放っている。
作り話だとわかっているのに私の涙は止まらない。
私はバッグからハンカチを取り出して涙をぬぐう。
愛するもの同士が戦う羽目になったあまりにも残酷な結末。
捕らわれて洗脳されてしまったヒロインは、邪悪な意思に導かれるままにロボットを駆り、破壊を続けたのだ。
主人公が必死に彼女を取り戻そうとしたものの、彼女は主人公に攻撃を続け・・・
もう!
どうしてハッピーエンドじゃないのよぉ!
こんなのってあんまりじゃない!
責任者出て来い!
私は恥ずかしくもその映画の残りを涙でよく見えないままに終わることになってしまった。

「ご、ごめんね・・・」
「えっ?」
私はオレンジジュースのストローを口から離して、一瞬ぽかんとしてしまった。
ここはハンバーガーショップ。
私の前には孝志(たかし)君が座っている。
一緒に映画を見て、その帰りにここに入ったのだ。
「い、いや、途中で泣き出すとは思わなかったから・・・あの映画、楽しみにしてたって言ってたから・・・」
あ・・・
私は恥ずかしくなってしまう。
孝志君は私が泣いちゃったことを気にしていたんだ。
「た、孝志君は何も悪いこと無いよ。わ、私がちょっとああいうシーンが苦手で・・・」
「ごめんね」
「ち、違うってば・・・その、映画見られたのはすっごく嬉しかったし・・・その・・・誘ってもらえて舞い上がったのは事実だし・・・」
「えっ? 本当?」
うわわ・・・わたしってば何を言っているの?
でもこれは本当のこと。
先日学校の帰りに映画に誘われた時は、飛び上がるぐらいに嬉しかった。
もう、あの日は寝られなかったんだっけ・・・
「う、うん・・・」
「よかったー」
恥ずかしくてうつむいてしまう私に孝志君は飛びっきりの笑顔を見せてくれる。
うわぁ。
最高だよー。
今日はいい日だよー。
「でも、フェリーナがあんな形で死んじゃうとはね。驚きだったよね」
フェリーナというのは先ほどの映画のヒロイン。
主人公の腕の中で最後に洗脳が解けて正気に返るんだけど・・・
その時にはもう瀕死の状態で・・・
いかん。
思い出したらまた涙が・・・
私は慌てて目を擦りごまかす。
ごまかせたかどうかはわからないけど。
「孝志君もそう思うでしょ? ひどいよね」
「うんうん。正気に返ってジークと一緒に戦うとばかり思ったもんなぁ」
「うん、そうだよね。フェリーナの死によってジークの能力が覚醒して勝てたわけなんだけど・・・死なせて欲しくはなかったよね」
物語の中でもやっぱりアンハッピーエンドは嫌い。
人が死ぬのは見たくない。
こういったロボットアニメは敵も仲間も死んじゃうのが多いけど・・・
やっぱり私はハッピーエンドがいい。
「今度は由美(ゆみ)ちゃんがお勧めの映画に行こうよ。お金は僕が出すからさ」
ポテトを食べながら、孝志君がさらっと言う。
「ありがとー」
嬉しいな。
今度は何見ようかな・・・

「それじゃまた明日学校で」
バスを降りる私に孝志君は優しく声をかけてくれる。
ここから家までは目と鼻の先だし、孝志君はわざわざ違う路線のバスに乗ってここまで送ってくれたのだ。
「うん。また明日ね。バイバーイ」
私はにこやかに手を振って、バスの扉が閉まるまで立ち尽くす。
「気を付けてね。最近物騒だから」
「ハーイ」
私の目の前で扉が閉まる。
クラクションとともに走り出すバスを見送り、ちょっとの間寂しさを感じる。
付き合い始めて初めてのデート。
映画を見ながら泣いちゃったのはまずかったかな・・・
そんなことを考えながら私は帰路に付く。

時刻は夕暮れ。
あまり遅くならないうちに帰ってきたのだ。
ホントは晩御飯を一緒に食べる・・・なんてのもいいかもしれないけど・・・
でも、孝志君が言っていた通り最近は物騒なのだ。
何か得体の知れないことが起こっているらしい。
いわく、人間ほどの大きさのハエが飛んでいた。
いわく、ファミレスのウェイトレスがいなくなってしまった。
いわく、真っ赤なコスチュームの女が黒い人間と戦っていた。
噂もあれば、ニュースでそれらしいのを言っていたこともある。
だから夜はあまり遅くまで出歩かないようにと学校でも言っているのだ。

「お姉さん」
「ひゃあっ!」
私は突然背後から声を掛けられビックリした。
きっと飛び上がっちゃったと思う。
うー、心臓に悪いよぉ。
振り返った私の前には、鞄を持った男の子が立っていた。
「な、なあんだ。翔君だったのか。脅かさないでよぉ」
私はホッと胸をなでおろす。
目の前の男の子は、近所に住んでいる小学生だ。
瀧澤翔(たきざわ しょう)君といって、確かお父さんが単身赴任とかで地方へ行っているんで、お母さんと暮らしているとか。
時たま顔をあわせるので、顔見知りになっている。
特撮とかが好きな男の子だ。
「お姉さん。今の人誰?」
翔君がちょっと怒ったような顔をして訊いてくる。
どうしたのかな?
「え? 孝志君のこと?」
私はたぶん彼のことだと思ったのでそう言った。
「あの人孝志って言うんだ? お姉さんの恋人?」
キャー!
キャー! キャー! キャー!
こ、こ、こ、恋人だなんて・・・
「ち、違う違う違う」
気がつくと私は必死になって首を振っていた。
でも・・・
恋人になれたら・・・いいな・・・と思う。
孝志君は優しくてかっこよくてさわやかで・・・
本当に素敵なのだ。
「違うんだ。それならいいけど・・・」
えっ?
どういうこと?
「お姉さん」
「なあに?」
翔君が私をじっと見上げてくる。
小学生としても小柄な方かもしれないね。
「お姉さんって由美さんって言うんでしょ? 待っててね。もうすぐプログラムが組みあがるんだ。そしたらお姉さんは僕のものだよ」
プログラム?
僕のもの?
なんだかわからないけど、子供の夢を壊しちゃ悪いわよね。
「あら、私をもらってくれるの? それじゃ楽しみにしているね」
私の言葉に翔君はにっこりとする。
なんかすごく嬉しそう。
私も釣られて笑顔になっちゃう。
「うん。約束だよ。待っててね。すぐにお姉さんをエミーにしてあげるから」
そう言うと翔君はたたたっと駆け出して行く。
「きっとだよー!」
「ハーイ。それじゃねー」
手を振りながら駆けて行く翔君に、私も手を振ってあげる。
翔君は私の方を振り返り振り返りしながら、家に向かって走っていくのだった。
それを見送りながら私も家に帰った。

「遅くなっちゃったなぁ」
私は思わずそうつぶやく。
今日はもう一人のバイトの娘が急に休んじゃったので、シフトをずらされてしまったのだ。
私はバイト先のコンビニから夜道を家に向かって歩いていく。
うう・・・
だいぶ遅くなっちゃったよぉ。
時計を見るともう夜の八時を回っている。
お腹空いたなぁ。
私は急ぎ足で道を進む。
あたりは暗い。
このあたりは新興住宅街で、まだまだ空き地とか雑木林とかが多いのだ。
おかげで街灯もまだ未整備なところが多い。
だから夜は真っ暗になっちゃうのだ。
私はバッグを抱きかかえるようにして早足で歩いていく。
家までは十分ほど。
何にも起こらない。
何にも起こらないよね。
ううーっ・・・
怖いなぁ。
孝志君がいてくれたらなぁ・・・
こんな怖い思いはしなくてすむのに・・・

「お帰りなさい。お姉さん」
「ひゃうっ!」
暗がりから声がして、私は飛び上がるほど驚いた。
「あ、ごめん、ごめんね、お姉さん」
すぐに暗がりから少年が姿を現した。
「し、翔君。脅かさないでよぉ」
この子はもう・・・
先日だって驚かされたし・・・
ビックリさせないでよね。
私はバッグを抱きしめて立ち尽くしていたのを、ホッとして胸をなでおろす。
「ごめんね。脅かすつもりは無かったんだ。お姉さんの帰りを待っていたんだよ」
えっ?
だってこんな時間だよ。
お母さん心配しているよ。
「そ、そうなんだ。でもきっとお母さんが心配しているよ。早く帰ったほうがいいよ」
私は翔君と向かい合うようにしてひざを折る。
目線を合わせてあげるのだ。
「大丈夫。ハエ女は僕の言う通りにするから問題ないんだ」
は、ハエ女?
翔君って変な子だっけ?
「それよりも僕はお姉さんを迎えに来たんだ。さあ、僕と一緒に来て」
翔君が手を差し出してくる。
でも私はその手には触れずに、翔君の頭に手を置いた。
「そっかー。先日そんなこと言っていたもんね。でもごめんね。今日はもう遅いからまた今度誘ってね」
私はそう言って翔君の頭を撫でる。
「そうだ。今度の土曜日あたりなら遊んであげられるよ。土曜日にしようよ」
「ふふふ・・・お姉さん。もうそんなこと気にしなくていいんだよ。お姉さんはこれから生まれ変わるんだから」
「えっ?」
私はぞっとした。
なんだろう・・・
何か変だよ。
この子は何か変だよ・・・
私はちょっと怖くなる。
「翔君ごめんね。お姉ちゃんもううちへ帰んなくちゃ」
私は立ち上がる。
でも家に向かおうと振り向いた時、私の目の前には巨大なゴキブリが立っていた。
「ゴキブリ女、由美さんをお連れするんだ。丁寧にね」
「グギギ・・・かしこまりましたわ。首領様」
巨大なゴキブリが私の目の前で人の言葉をしゃべる。
私は気が遠くなるのを必死でこらえたけど無駄だった。
巨大なゴキブリが私の首筋に手を伸ばし・・・
「ふふふ・・・」
薄れ行く意識の片隅で、私は翔君の笑いを聞いていた・・・

う・・・
寒い・・・
さむ・・・
あっ。
私はハッとして目を覚ました。
そして思い切り躰を起こそうとして・・・
「痛たたた」
両手首が固定されていて、起き上がれなかったのだ。
「えっ? ええっ?」
私は驚いてまわりを見渡す。
薄暗い中に、さまざまな色の灯りがついたり消えたりしている。
透明なカプセルや、手術に使うような無影灯、ほかにもなんだかよくわからない機械でいっぱいだ。
ここはどこなんだろう・・・
私はそんなことを考えたけど、今一番考えなくちゃならないのは裸だってことだった。
すごく恥ずかしい。
私は裸にされて、なんだか知らないけど両手足を固定されちゃっているのだ。
ど、どうしよう・・・
助けを呼びたいけど・・・
裸を見られるのもいやだよぉ。
どうしよう・・・
それにしても・・・
天井が高いなぁ。
まるでこの部屋と天井とは別の空間みたい。
ここはどこなんだろう・・・
あの化け物はなんだったんだろう・・・
あ・・・
それよりも今は何時なんだろう・・・
お母さんもお父さんも心配しているよぅ・・・
早く帰りたい・・・
そんなことを考えているとじわっと涙が浮かんでくる。
「お父さん・・・お母さん・・・」
私は思わずそうつぶやいていた。

「あ、気が付いたかな?」
私はハッとした。
今のつぶやきを聞かれたんだ。
私は躰を硬くする。
見られたくないよぉ・・・
裸なんてひどい・・・
まるであのアニメの洗脳シーンみたいじゃない・・・
「お姉さん、目が醒めた?」
「ヒッ!」
私はまた気を失うところだった。
天井から恐ろしく巨大な翔君の顔がのぞきこんできたのだ。
「あ、お姉さんは今小さくなっているんだよ。でも心配しないで。すぐにこの『悪の組織を作ろう』でお姉さんを改造してあげる」
巨大な翔君はそう言って笑っている。
嘘でしょ?
これは夢?
何かのトリック?
「お願い、翔君。うちへ帰して。お願いよ」
私は何とか手足の固定を排除しようとしたけど、ちっとも動かない。
お願いよ。
夢なら醒めて!
「僕はお姉さんをずっと見ていたんだよ。お姉さんってエミーに似ているんだもん」
エミー?
エミーって誰?
何のことなの?
私は裸を見下ろされている恥ずかしさよりも、恐怖に打ち震えていた。
「これがエミーだよ。どう? 似ているでしょ?」
巨大なノート型パソコンの画面が私の上に現れる。
その画面に映し出されている妖艶な美女。
髪を後ろでポニーテールにし、ワイン色のブラジャーとパンティ、それに網タイツを穿いて手袋とブーツを身につけている。
そしてマントを羽織ったその姿は、確かに何となくではあるけれど、私に似ている感じがした。
「な、何なの? それは?」
「これはね、エミーっていって僕のサポートをしてくれるんだ。すごく有能な副官なんだよ」
楽しそうに話す翔君。
「あ、あのね、翔君。ゲームだったら今度遊んであげるから。ね?」
私は何とかこの場を逃れたかった。
そのためならゲームで遊ぶぐらい何でもない。
「わかっていないなぁ。お姉さんはこれからエミーになるんだよ」
「えっ?」
エミーになる?
どういうこと?
「僕は悪の組織イレースの首領なんだ。そしてお姉さんはこれから僕の忠実な副官エミーになるんだよ。今まではエミーはこの画面の中だけの存在だったんだけど、僕はエミーのデータをお姉さんに移してエミーを生み出すことにしたんだ」
私は背筋が凍った。
狂っている。
この子狂っているよぉ・・・
「僕はそのためにお姉さんのことを調べたんだ。お姉さんのことは何でも知っているよ。お尻の右側にほくろがあることも知っているよ」
えっ?
そんなのあるの?
知らなかった・・・
「お姉さんのデータとエミーのデータをできるだけ一致させ、あとは肉体を強化改造するだけなんだ」
「そ、そんなのいや」
私は首を振っていやいやをする。
お願いだから家に帰して。

「それじゃ始めるね」
巨大な翔君がノートパソコンに何かを打ち込む。
とたんに私の周囲でさまざまな機械がうなりをあげ、私の躰に向かってきた。
「いやぁー!」
私は悲鳴を上げたけれど、機械はお構い無しに私の躰に襲い掛かる。
針が次々と突き立てられ、チューブがくねくねと接続される。
「痛い痛い! やめてー」
私の叫びも翔君には届かない。
「最初は少し痛いかもしれないけど、すぐに躰が変わっていくよ。細胞を変化させて強化させていくんだ」
翔君の声は苦しむ私には何のことだかわからない。
まるでドリルで躰の中をかき回されるような痛み。
「ガハッ、ゲホッ」
呼吸が困難になり、のどが痛い
「ふふふ・・・それじゃエミーのデータを流してあげるね。お姉さんの脳はコンピュータのように変わり、エミーと平城由美(ひらき ゆみ)が一体になるんだ」
翔君がパソコンをいじる。
すると、私の頭に繋がった機械から何かが流れ込んでくる。
それはものすごいデータの奔流。
止めることなんてできない。
「や、やめてー」
叫んでもどうすることもできないのだ。
「あぐぅ・・・がはぁっ・・・悪の・・・組織を作ろう・・・サポートキャラ・・・エミー・・・データ融合・・・開始」
私の口から私の意図しない言葉が紡がれる。
な、何なの?
躰の激痛が徐々に治まり、今度は頭に激痛が走る。
目を開けていられないけど、目蓋の裏側で火花が散るような感じ。
「平城由美・・・個性吸い上げ開始・・・データ融合の上再インストール・・・」
あ・・・
な、何なの?
私の心が・・・吸い取られる・・・
私・・・
何も・・・
かんがえ・・・られ・・・ない・・・

やがて私の中に“私”が入り込んでくる。
私は砂漠が水を吸い取るかのように、その“私”を吸い取って行く。
私は“私”
“私”はエミー。
悪の組織イレースの首領様をサポートする忠実なしもべ。
“私”は私となり、私は全てを理解する。
私はエミー。
イレースの女幹部エミー。
私はゆっくりと目を開けた。

一階のリビングに私たちは集結する。
ソファーに座る首領様の横が私の居場所。
すでに首領様の前にはハエ女、ゴキブリ女、カマキリ女、クモ女とそれぞれの配下である戦闘員たちがはべっている。
「うふふ・・・我が名はエミー。首領様にお仕えする忠実なしもべ。これよりはお前たちの指揮を取り、首領様の望む世界を作り上げる。いいな」
私は手にしたムチを振り、誇らしげに宣言する。
すでにパソコンの中に私はいない。
私はこうして生まれ変わったのだ。
改造獣たちは恭しく頭を下げる。
私はこの者たちを使い、首領様の手助けをするのだ。
「気分はどうだい? エミー」
首領様の愛しい声がする。
私はすぐに跪き、我が敬愛する首領様に頭を下げた。
「はい、最高の気分ですわ。首領様」
「ふふふ・・・それはよかった。ねえ、エミー。孝志って男のこと、どう思う?」
「孝志・・・ですか?」
私はすぐにデータを拾い出す。
「ああ、私がエミーになる前に気になった男子高校生ですね? このような男、今の私には意味の無い男に過ぎませんわ」
私は吐き捨てるように言う。
このような男が気になっていたなど忌々しい。
私が全てを捧げるのは首領様のみ。
それ以外の人間などは記号に過ぎないわ。
「よかった。エミーは僕のものだからね」
ホッとしたような首領様の言葉が嬉しい。
首領様のためなら何でもできるわ。
「私は身も心も首領様のものですわ。未来永劫身も心も・・・」
私は確信をもってそう答えるのだった。
  1. 2007/01/01(月) 19:32:16|
  2. 悪の組織を作ろう
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悪つく最終回

とりあえず「悪の組織をつくろう」は今回で終わりです。
思ったように書ききれなかった面もありますが、とにかく完結できたことに満足です。

謎がいっぱいあったりしますが、こういうもんだと思って読んでやってください。
お楽しみいただければ幸いです。

ジュウジュウと言う音とともにいい香りが台所から漂ってくる。
翔の大好きなハンバーグの焼けるにおいだ。
台所ではハエ女に変貌した母親がかいがいしく食事を作っている。
「グギギギ、ああ、いい匂いですね、首領様」
二階から降りてきたゴキブリ女が入ってくる。
姿が変わり、思考も変わっているが、こうしているといつもの家族団欒と変わらない。
「うん。やっぱりお母さん、じゃ無かったハエ女の作るハンバーグは最高だよ」
「キキキキ、褒めていただけて光栄ですわ、首領様」
人間と変わらぬ口元に微笑みを浮かべ、焼きあがったハンバーグを持ったハエ女がテーブルのそばに来る。
背中の翅をふるふると震わせている姿はなかなかに可愛らしい。
「キキキキ、さあ、召し上がってください。首領様」
翔の前に綺麗に盛り付けられたハンバーグが差し出される。
「わあ、美味しそうだ」
待ち切れなさそうにすでに箸を手に取っていた翔は、早速茶碗を差し出してご飯を盛ってもらう。
「グギギギ、ホント美味しそう・・・でもハエ女、私・・・生ごみとかも結構好きなのよね」
ゴキブリ女となった恵美にとってはハンバーグよりも生ごみの方が食欲をそそるのかもしれない。
「キキキキ、わかっているわ。こっちに用意してあるわよ。ちゃんと腐りかけのをね」
「グギギギ、さすがハエ女ね。ちゃんとわかっているのね」
嬉しそうに台所へ向かうゴキブリ女。
「キキキキ、首領様のご気分を害してはいけませんから私たちはあちらで食べますわ。実は私も生ごみを食べたくて・・・」
「あ、そうなんだ・・・改造したから食べ物も変わっちゃうのか・・・」
ちょっと寂しくなる翔。
食事は一人で食べても美味しくない。
今度は一緒に食事ができる改造獣を作らなきゃ・・・
「キキキキ、それでは失礼しますわ」
そう言ってハエ女はゴキブリ女とともに台所の方へ行ってしまった。
その後ろ姿を翔は寂しく見送り、無言でハンバーグを食べる。
さっきまで美味しかったハンバーグは何か味気なくなっていた。

食事が終わったあとで翔は再び自室でパソコンに向かう。
エミーを呼び出してこのあとのことを考えなければならない。
そういえばハエ女も戦闘員がほしいって言っていたっけ・・・
翔はハエ女用の戦闘員の確保を含めるようにエミーに指示を出す。
『かしこまりました首領様。それではこんな作戦はいかがでしょうか?』
画面上に記される作戦案。
にこやかなエミーの笑顔とともに翔ははいをクリックしていた。

                 ******

カーテンの隙間から差し込む日差し。
ベッドの上で翔はその日差しに起こされる。
「ん・・・あ・・・朝かぁ」
翔は上半身を起こすと、うんと腕を伸ばして背伸びをする。
結局夕べは0時近くまで起きていたのだ。
ハエ女の戦闘員確保と組織の資金調達のために行なったファミリーレストラン襲撃。
ハエ女とゴキブリ女、それに戦闘員たちの働きによって新たにウエイトレス三人を手に入れ、彼女たちはすでに戦闘員へと改造を行なってある。
資金の方も売り上げの15万円を奪ってあり、まずは上々の滑り出しと言っていいだろう。
あとはこの調子で改造獣を増やして・・・
そういえば今日は先生が家庭訪問に来る日だった。
ちょっときつめの顔立ちだけど、美人の部類に入る芹蔵先生。
先生を改造獣にしちゃえば、もうお小言を言われなくて済む。
あとは隣に座っている白糸(しらいと)さん。
結構可愛いし、猫あたりと合成したらきっと可愛い改造獣になるに違いない。
喉なんか鳴らして僕に擦り寄って・・・ふふふ・・・
そこまで考えたところでドアの向こうから声がする。
「グギギギ、首領様、起きていらっしゃいますか? 朝ですよ」
「あ、うん。今行く」
翔は起き上がってパジャマを着替える。
すでにハエ女がいつものように着替えを用意してくれているのだ。
着替えを終えた翔は下のリビングに降りて行く。
そういえば今日は土曜日だったっけ。
時計を見るとすでに9時を過ぎている。
いつもなら休みと言ってもこんなに寝てはいられない。
母親が起こしに来てしまうからだ。
でも今の翔はイレースの首領なのだ。
首領の眠りを妨げる者はいない。
「おはようお母さん、じゃないハエ女。それにゴキブリ女も」
「キキキキ、おはようございます、首領様」
「グギギギ、おはようございます、首領様」
二人ともすっと跪いて一礼をする。
「キキキキ、朝食の用意はすでに整っております」
ハエ女が指し示す先には美味しそうなベーコンエッグとトーストが置かれていた。
「美味しそう。いただきまーす」
翔はテーブルに着くと、手を拭いてトーストを手に取る。
「グギギギ、首領様、今日はいかがなさるおつもりですか?」
「うん、そうだね。今日はお昼に先生が来ることになっているから、三人目の改造獣を作るよ。そのためにも何か用意しておかなきゃね」
翔は芹蔵先生と合成する生き物を考える。
何がいいかなぁ・・・
ハエとゴキブリと来たから・・・
蜂? いやいやクモも捨てがたいよね・・・
そんなことを考えている翔。
TVのワイドショーでは昨夜起こったファミリーレストラン襲撃事件が報じられている。
『全身を特撮で使うような着ぐるみで覆った犯人は被害者の三人を拉致し、信じられないほどの速度で逃げ去ったとのことです』
「キキキキ、おろかな人間どもが昨晩のことをほざいておりますわ。被害者だなんて・・・あの三人も戦闘員になれたことを光栄に思っておりますのにね」
それは本当だ。
すでに三人とも戦闘員へ生まれ変わり、そのつややかな躰を喜んでいる。
でも、翔にとっても夕べの襲撃は驚きだった。
実際やってみるまではドキドキだったのだが、エミーの指示に従って襲撃をさせてみたら、あっけないほどたやすく行なえたのだ。
これからは誰に気兼ねをする必要も無い。
翔は力を手に入れたのだ。
立ちふさがるものは潰してやるのだ。
エミーに従っていれば何も心配する必要は無いのだから・・・

朝食を終えた翔は早速芹蔵先生と合成するための生き物を探しに行く。
本当はサソリとか毒グモとかあればよかったが、近所にそんなものがいるはずも無い。
だから翔は手近な生き物で何かいいものは無いかと探していた。
「あれ?」
翔は通りを歩いていく先生を見かける。
スーツ姿で颯爽と歩いていく芹蔵先生はすらっとしており、肩までの髪をなびかせている。
「そういえば午前中は赤林さんの家に行くって言っていたな・・・」
赤林由美(あかばやし ゆみ)もクラスでは一人で居ることが多く、おとなしい女の子だ。
普段から本を読んでいる姿しか見たことが無い。
でも、翔は一度だけ彼女がスーパーヒロインにあこがれていると聞いたことがあった。
特撮にでてくるような強いヒロインは彼女にとってはアイドルなんかよりも素敵な存在なのだろう。
でも、やっぱり一人で居ることが多いから芹蔵先生が家庭訪問に行くんだろうな。
土曜日だと普通の家は家族の人がいるだろうし・・・
でも今日から先生は生まれ変わるんだよ。
僕が先生を改造獣にしてあげる。
楽しみにしていてね。
翔は一人ほくそえむと、また生き物を探し始めた。

「ふふふ・・・」
翔は捕獲室に入った大きなカマキリを見つめていた。
あのあと探し回ってようやく手に入れたカマキリ。
翔はこのカマキリを芹蔵先生と融合させることに決めていた。
先生はカマキリ女となり、イレースのために働くようになるだろう。
翔はわくわくしながら先生を待っていた。

ピンポーンというベルの音が鳴る。
「来た!」
翔は玄関へ向かって階段を下りて行く。
ハエ女やゴキブリ女にはあらかじめ待機しているように言ってある。
後は先生を家の中へ入れてしまえばいいのだ。
『ごめんくださーい』
ドアの向こうで声がする。
芹蔵先生の優しい声だ。
「はーい」
翔が玄関を置ける。
少し茶色みがかった髪の毛をしたきつめの顔立ちだが充分に美人である。
「こんにちは瀧澤君。お父さんかお母さんはいらっしゃる?」
「こんにちは先生。奥にいますので入ってください」
翔は頭を下げて先生を迎え入れた。
「えっ?」
そのとき翔は玄関の向こう、通りの方に人影を見た。
「赤林・・・さん?」
それはチラッとしか見えなかったが、赤林さんのようだった。
翔は確かめたかったが、先生が待っているのでそうすることができず、結局そのまま扉を閉める。

「お邪魔いたします」
靴を脱いでストッキングの綺麗な足を見せる芹蔵先生。
そのまま廊下を過ぎて居間に入る。
「こんにちは。えっ?」
部屋に入るなり驚きの表情を見せる芹蔵先生。
そこには翔の指示で待機していたハエ女とゴキブリ女、それに戦闘員たちが控えていたのだ。
「な、あ、あなた方はいったい?」
「キキキキ、ようこそ芹蔵先生。我が組織イレースは先生を新たな改造獣として迎え入れますわ。おほほほほほ」
ハエ女が口元に手の甲を当てて高笑いをする。
改造獣として人間を見下すようになっているんだろう。
「あ、あああ・・・」
驚きのあまり口も聞けない芹蔵先生。

と、翔は自分が思い違いをしていたことに気がついた。
先生は恐怖で震えてなどいない。
どちらかというと戦うつもりに見える。
「由美司令! 現れました! 悪の組織のモンスターです!」
先生は突然腕時計に向かってしゃべり始める。
「由美司令?」
翔は何かいやな予感がした。
こういった悪の組織の暗躍には、いつも正義のヒーローが現れるものではなかったっけ・・・
『嘘? ホントにぃ? そんなのいたんだ?』
「はい、今目の前にいます。どうしますか?」
腕時計と会話する芹蔵先生。
そこから流れてくる声はあの赤林由美の声じゃないだろうか。
『もちろん退治よ。そのために私はあなたを正義のヒロインに改造したんじゃない』
「了解しました。変身!」
そう言うと芹蔵先生の姿が光に包まれる。
「キキキキ、これはどういうこと?」
「グギギギ、ちょっとまずいんじゃない?」
ハエ女もゴキブリ女も戸惑っている。
光が晴れると、そこには真っ赤なヘルメットと真っ赤なミニスカート型コスチュームを身につけた芹蔵先生が立っていた。
「悪の組織のモンスターども! あなたたちの野望はこのスーパーヒロイン、“シスターローズ”が打ち砕きます!」
「シスターローズですって? キキキキ、いかがいたしますか、首領様?」
ハエ女が翔の方を向く。
「仕方ない、押さえつけろ!」
「キキキキ、かしこまりました」
ハエ女はゴキブリ女に目配せしてシスターローズに立ち向かう。
でもあのヒロインは只者ではない。
二人係でも倒せるかどうか・・・
翔は二階へ駆け上がってパソコンのキーボードを叩く。
「エミー! 正義のヒロインが現れたよ! どうしたらいいんだい?」
『データを確認しました。どうやら“ヒーロー戦隊を作ろう”で作り出されたヒロインのようですわ』
エミーがこともなげに表示する。
「ヒーロー戦隊を作ろう?」
そんなものがあったなんて・・・
どうしたらいい?
翔はキーボードに打ち込む。
『戦うのです、首領様』
戦う?
『戦うか降伏するかですわ。戦いますか?:はい/いいえ』
翔は一瞬迷ったが、その間にも下ではドタンバタンと音がしている。
はい。
翔ははいを選んでクリックした。
『ふーん、そうかぁ』
突然パソコンから声が流れる。
『瀧澤君があたしの敵なんだね? すごいすごい。ようし、こうなったらもっと正義のヒロインを集めなくちゃ』
「赤林さんなのか?」
翔は画面に向かって話しかける。
『そうよ。私の夢がかなったわ。私ね、戦隊ヒロインの司令官になりたかったの』
「何だって・・・?」
翔はいやな予感が現実になったことにショックを受けていた。
しかもそれはクラスメイトなのだ。
『今日は引き上げるわね。でも覚悟してね。あなたの組織は私が潰すわ!』
一方的な宣言。
どこがおとなしい女の子なんだ?
いつもは猫をかぶっていたのか?
どちらにしてもこちらも対応策を考えなくちゃならないだろう。
新たな改造獣を揃え、ヒロインたちに対抗するのだ。
翔はまた新たな高揚感がわいてくるのを感じていた。
これから悪と正義の戦いが始まるのだ。
負けるわけには行かない。
翔は決意を新たにした。

[悪つく最終回]の続きを読む
  1. 2006/02/28(火) 22:19:51|
  2. 悪の組織を作ろう
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三人の女戦闘員

えーと・・・まずは言い訳から。

すみません。m(__)m
休みだったんでしたが、いろいろとやることがあってあまり書くことができませんでした。

「悪つく」のけりをつけたかったんですが、かないませんでした。
とりあえず出来上がった部分です。
楽しんでいただければ幸いです。

ウインウイン・・・
カプセルの周囲の機械がうなりを上げる。
それと同時にカプセルには光が走り、彼女たちの躰を照らし出して行く。
着ていたセーラー服はその光によるものかぽろぽろと剥がれ落ち、下着やソックス、明音が履いていた黒いタイツも崩れていく。
「ああっ、いやぁっ!」
「見ないで、見ないでぇ!」
「くそっ、変態野郎っ!」
三人は光の中に自分の裸体が晒されたことに驚きは隠せない。
みんな一所懸命になって両手で胸と股間を隠そうとするが、続いて光のリングのようなものが上から次々と降りてきてパルス状にカプセルの中を流れていく。
そしてカプセル内にはガスが充満し始めて、彼女たちの躰を作り変え始めるのだった。

「ひやぁっ!」
「ああっ!」
「くうっ、な、何なのよ、これ!」
白いガスとオレンジ色の光が彼女たちに苦痛を与えて行く。
痺れるような感覚と頭の中をかき混ぜられるような痛み。
頭を押さえたくても、狭いカプセルの中ではそれもかなわない。
「あうう・・・えっ? うそ・・・」
澪が気丈にも苦痛をこらえて目を開けた時、自分の躰に生じている変化に気が付いた。
いつも丁寧にボディソープで洗ってきた素肌が黒く変色し始めていたのだ。
「いやぁっ! なにこれぇっ!」
澪は悲鳴を上げる。
すでに他の二人は頭の中を襲う激痛に意識を取られて躰を見る余裕など無い状態だ。
「嘘、嘘よぉっ!」
黒くつやつやとした皮膚が澪の躰の表面を覆って行く。
恐る恐る指で触ると、とても硬くまるで昆虫の外骨格のようだ。
「私も・・・私も化け物になるんだ・・・」
澪はすごく悲しくなった。
頭を襲う激痛もこの悲しさに比べればさほどのものとは思えない。
いや、先ほどに比べると激痛は少し治まっているような気がする。
澪は悲しみに包まれながら躰を見下ろす。
形の良い、ひそかな自慢のバストはそのままの形を保ちながらも、黒いつやつやした外骨格に包まれていてどんな攻撃にも耐えられそうだ。
先ほどまで滑らかだった指先にも鋭い爪が伸びて来始めている。
柔らかで脆弱なぶよぶよした肉も硬い外骨格がしっかりと護ってくれている。
澪はなんだか、なぜ悲しかったのかよくわからなくなっていた。

私・・・何を悲しんでいたんだろう・・・
ガスの充満したカプセルの中で澪の躰はしっかりと強化されていく。
つややかな外骨格が黒々として美しい。
額には触角が伸びてきて命令をしっかりと受け取れる。
視界も複眼が確保してくれるので、広い範囲を同時処理できる。
そんな当たり前のことを悲しむなんてどうかしているわ。
澪はもう悲しくなかった。
それどころかこの状態こそが自然であり、当たり前の姿だった。
澪は深呼吸してガスを思い切り吸い込む。
躰の中にまで浸透したガスは、内臓も彼女に相応しいものに変えていく。
はあん・・・なんだか気持ちいい・・・
澪はゆったりした気分でカプセルの中で身を任せていた。

三人の姿はみるみるうちに変化していった。
黒い外骨格が皮膚を覆い、額の触覚と黒く大きな複眼。
それはまるで直立した蟻のような姿をしていた。
それもそのはずで、翔は戦闘員のモデル生物に黒蟻の働き蟻を選んでいたのだ。
『戦闘員が完成しました。このまま戦闘員という名称でよろしいですか?:はい/いいえ』
エミーの指し示す問いに翔は考える。
そのまま女戦闘員というのも捨てがたいが、何か別の名称を与えてやるのもいいかもしれない。
「うーん・・・何かあるかな・・・」
「キキキキ・・・女戦闘員でよろしいのではありませんか?」
ハエ女の言葉に翔は頷く。
お母さんもお姉ちゃんもシンプルなネーミングだったんだし、下っ端にかっこいい名前をつけてやる必要はないだろう。
翔はいいえでクリックして、新たに女戦闘員と打ち込んだ。
『女戦闘員一号、二号、三号の完成ですわ。これで組織構成に厚みが出ますわね、首領様』
画面でエミーがにこやかに微笑んでいる。
翔はカプセルを解放した。

白い靄のようなガスがカプセルから流れ出る。
その霧の中から黒々とした躰を誇らしげに晒しながら出てくる三人の女戦闘員たち。
すでにその脳には女戦闘員としての思考がインプットされ、人間の女子高校生であったことなど意味を無くしてしまっている。
三人はハエ女やゴキブリ女と同じようにまだ人間の形状を残している口元に笑みを浮かべ、直立不動の姿勢を取った。
「グギギギ、うふふ・・・戦闘員に生まれ変わったようね。これからは首領様のために働くのよ」
三人の前に立ち、満足そうに頷くゴキブリ女。
「「ヒュイーッ! もちろんです。私たちはイレースの女戦闘員。首領様のためにこの身を捧げます」」
三人は声を揃えて右手を上げる。
黒々とした外骨格が光を反射して輝いていた。
「グギギギ、いい娘ね。さあ、いらっしゃい」
先頭に立ち戦闘員たちを司令室へ連れて行くゴキブリ女。
三人の女戦闘員たちは無言でそのあとに続く。
その姿は仲のよかった女子高生グループとはまったくかけ離れたものだった。

「グギギギ、首領様、新たに三人の女戦闘員が完成いたしましたわ。さあ、お前たち、ご挨拶なさい」
レリーフを見上げて一礼するゴキブリ女。
「「ヒュイーッ。私たちはイレースの女戦闘員。首領様、何なりとご命令を」」
右手を上げて直立不動の姿勢を取る三人の少女たち。
蟻と見紛う外骨格の姿はそれぞれのラインを反映して美しかった。
「よし、お前たちはゴキブリ女に預けよう。命令があるまで待機室で待機するがいい」
「「ヒュイーッ。かしこまりました首領様」」
三人の声はまったく乱れなくハモッている。
すぐに回れ右をしてカツコツとヒール状に変化した足音を響かせて司令室を出ていった。
「あの三体を私の配下にしていただけるなんて嬉しいです、首領様」
ゴキブリ女が喜びに微笑む。
「ふふふ・・・友達が戦闘員になるなんて素敵だよね? お姉ちゃん」
「はい、おっしゃるとおりです。あの三人はきっと使い勝手が良いと思いますわ」
翔の言葉に改めて膝をつくゴキブリ女。
「キキキキ、いいわねぇゴキブリ女。私も戦闘員が欲しいですわ」
ちょっと寂しげにハエ女が言う。
翔は苦笑した。
「わかったよハエ女。でもその前にお腹すいたよ。ご飯できてる?」
「はい、首領様。あとは焼くだけですわ」
ハエ女が頷いた。
「そうか、それじゃ晩御飯にしようよ。ゴキブリ女も転送室へ入って」
「かしこまりました首領様」
ゴキブリ女は立ち上がり転送室へ向かった。

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  1. 2006/02/20(月) 22:29:59|
  2. 悪の組織を作ろう
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新たな改造獣

今日も「悪つく」の続きを投下しますねー。
来週こそはホーリードールを書きますのでお赦しを。

今回新たな改造獣はリクエストに基づきゴキブリ女です。
ゴキブリ嫌いな方も多いでしょうけど、ご勘弁下さいませ。m(__)m

3、
「お姉ちゃんってさ、ゴキブリが嫌いだったよね?」
翔がにやりと笑みを浮かべる。
「ええっ? ゴ、ゴキブリ? い、いやよ、見るのもいや」
恵美の背筋をぞっとしたものが走る。
ゴキブリは生理的に受け付けないのだ。
台所の隅で見かけたりするとそれだけで足がすくんでしまう。
そんなときにはいつも決まって翔を呼んでいたのだった。
「お姉ちゃんはいつもゴキブリが出たら僕に取らせようとしてたよね。僕はあんまり運動神経がよくないからいつも逃げられていたけど」
「ご、ごめんなさい。赦して。もう言わないから私を自由にして」
円形の台に固定された恵美は必死で手足をばたつかせるが、まったく効き目が無い。
それに恵美は裸にされていた。
高校生になった今、弟に裸を見られているというのがすごく恥ずかしかった。
「お願い・・・翔・・・許してぇ。もうゴキブリ取ってって言わないからぁ」
「ふふふふ・・・ねえ、お姉ちゃん、右側を見てみてよ」
翔に言われて恵美は右手の方を見る。
そこにはカプセルに入った巨大な黒ゴキブリが脚をばたつかせていた。
まるで大型の犬ほどの大きさのゴキブリを見た瞬間、恵美は失禁してしまっていた。
それほど恵美にとってゴキブリは不気味で汚らわしいものだったのだ。
「いやぁっ!」
顔をそむける恵美。
「あははは・・・ごめんねお姉ちゃん。でも僕はゴキブリって嫌いじゃないんだ。それにすぐに手に入る生き物ってこれぐらいしかなかったんだよ」
悪魔のような笑みを見せる翔。
翔はこの光景にすごく興奮していた。
美しい裸体の姉とグロテスクなゴキブリ。
その取り合わせは再び母親のような美しい改造獣を生み出すに違いない。
「お願い・・・赦して・・・」
泣きながら赦しを請う恵美。
「キキキキ、心配いらないのよ恵美。あなたも私と同じように改造獣として生まれ変わるの。素晴らしい世界が待っているのよ」
ハエ女が優しく言葉をかけるが、恵美には絶望を与えるに過ぎない。
「いや、いやぁ」
首を振り泣きじゃくる恵美。
その様子に翔はドキドキしていた。
普段見たことの無い姉の泣きじゃくる表情。
それは翔の心にどす黒い喜びを与えてくれる。

『首領様。改造獣の作成準備は完了いたしております。改造を開始しますか?:はい/いいえ』
画面ではエミーがムチを手に笑顔を見せていた。
「作成開始だ」
カーソルをはいに合わせてクリックする。
『かしこまりました。改造獣作成開始!』
一礼をしてムチを振るい画面上で指示を出すエミー。
緑色の液体がゴキブリのカプセルに注入され、たちまちのうちにどろどろに溶かされていく。
ゴキブリの溶けた液体はカプセルの下から吸収され、今度は恵美の横たわっている手術台からせり出す各種のチューブに送り込まれるのだ。
「いやぁっ!」
恵美の躰に突き立てられる複数のチューブ。
それらから液体が注入されると同時に光線が降り注いで行く。
「あぐ・・・あぐぅぅ」
恵美の躰に激痛が走る。
細胞が無理やり変えられ悲鳴を上げているのだ。
ゴキブリの遺伝子を飲み込み、人とゴキブリの融合した生物に作りかえられていく。
そんな変化に躰が痛みを訴えているのだ。
「あがぁぁぁ・・・ぐあぁぁぁ・・・」
躰をビクビクと震わせて痙攣する恵美。
やがて恵美の頭部に差し込まれた電極が洗脳パルスを流し込んで行く。
「ひ、ひぃぃぃぃ・・・」
躰だけではなく思考まで作り変えられていく恐怖。
恵美は必死に自分を保とうとする。
助けて・・・誰か助けて・・・
いやだいやだいやだ・・・
改造なんてされたくない・・・
改造なんていやだよぉ・・・
私は改造される・・・
改造されちゃう・・・
改造・・・
改造・・・
あはぁ・・・
なんだろう・・・
改造される・・・
そう・・・私は改造される
私は・・・
私はイレースの改造獣・・・
恵美の心が変えられる。
それとともに躰の方も変わって行く。
目は少し大きめの複眼に変わり、額からは細く長い触角が伸びて行く。
黒々とした外骨格が皮膚を覆っていき、つややかな翅が形成される。
腹部には節ができ、形の良い胸もくびれた腰もそのままのラインで黒い外骨格が覆って行く。
両手の肘から先は手袋を嵌めたようになり、鋭いとげが外側につく。
両脚はハイヒールのブーツ状になり、強靭な脚力が蓄えられる。
恵美の躰はゴキブリと融合し、美しいゴキブリ人間へと変化していった。

『改造が終了いたしましたわ、首領様。名前を付けてあげてください』
エミーが画面の上に入力スペースを表示する。
『      』
「ゴ、キ、ブ、リ、女・・・と」
翔は手早く入力した。
『ゴキブリ女』
Enter。
『ゴキブリ女と命名してよろしいですか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
恵美の脳に名前がインプットされる。
この瞬間から彼女は自分をゴキブリ女として認識した。
私は・・・ゴキブリ女・・・
人間のときの形状を残している口元に笑みが浮かんだ。
『改造獣ゴキブリ女が完成しました。どうかお声を掛けてあげてください首領様』
エミーがにこやかにゴキブリ女のスペックを表示する。
翔はハエ女のときと同様に手足の固定を解除してゴキブリ女を自由にする。
ハイヒール上に変化した両脚ですっと立ち上がるゴキブリ女。
体操で引き締まっていた恵美のボディラインをそのまま踏襲しているため、そのボディラインは流れるようだ。
ゴキブリ女は躊躇い無くその躰を司令室へ運び込み片膝をつく。
「ふふふふ・・・どうだい、お姉ちゃん。ゴキブリ女に改造された気分は?」
「グギギギギ、はい、首領様。すごくいい気分です。こんな素敵な躰に改造してくださって感謝しております」
喜びを微笑みで表わすゴキブリ女。
「あははは・・・ねえ、今もゴキブリは嫌いかい?」
「グギギギ、とんでもありませんわ。私はゴキブリ女です。ゴキブリは頬擦りしたくなるほど大好きですわ」
ゴキブリ女にされてしまった恵美はもはや本気でそう思っているのだろう。
満足げにレリーフを見上げている。
「キキキキ、首領様、可愛いゴキブリ女の完成ですわね」
ハエ女も嬉しそうに翔のそばに寄って司令室を見下ろす。
「キキキキ、首領様、早く実体化してあげて下さいませ。ゴキブリ女の姿を間近で見たいですわ」
「いや、その前にやることがあるよ」
翔は首を振った。
「ゴキブリ女。甲原玲奈、四坂澪、瑞原明音の三人は知っているよね?」
「グギギギ、もちろんです、首領様。私がまだ人間だった時の友人連中です」
ゴキブリ女は頷いた。
「グギギギギ、今日は一緒に勉強するつもりで連れてきて居ましたが、あの三人が何かしたのでしょうか、首領様?」
「いや、違うんだ。あの三人は捕獲室に捕まえてあるから、戦闘員にしちゃうんだ」
翔はパソコンを操作し、戦闘員化の項目を呼び出す。
『戦闘員を作成いたしますか?:はい/いいえ』
エミーが項目を指し示している。
すでにタイプは二足歩行タイプの生物を利用することで決定されていた。
「ゴキブリ女、三人をカプセルに入れて」
『グギギギ、かしこまりました首領様。クククク・・・』
冷酷な笑いを発するゴキブリ女。
すぐに立ち上がって捕獲室へ向かう。

「私たちどうなっちゃったの?」
「ここはどこなの?」
三人の女子高校生が捕獲室に捕らわれている。
ひざを抱えてうずくまっている者、出口は無いかと探す者、じっと天井から見下ろしている翔の顔をにらみつけている者。
さまざまな姿を見せる女生徒たちを翔は優越感を持って見下ろしていた。
「この人たちも僕のしもべになるんだ・・・」
つぶやく翔。
その思いはわくわくするような高揚感に繋がっている。
「キキキキ、この娘たちも首領様のしもべになれば幸福を感じるはずですわ」
ハエ女がくすくすとしのび笑いをもらしている。
彼女もしもべとなった幸福を感じているのだ。
「そうかな・・・幸せかな? 僕のしもべで」
「キキキキ、もちろんですわ」
ハエ女は微笑んだ。

シュインと音を立てて扉が開く。
透明な天井から不気味な巨大な少年の顔に見下ろされていた少女たちは、新たに現れた不気味な姿に再び悲鳴を上げた。
「グギギギギ、おとなしくするのね。これからお前たちを改造するわ。光栄に思いなさい」
ゴキブリ女が腰に手を当てて威圧する。
「いやぁ、お願い、家へ帰して・・・」
「瀧澤さんはどうなったの? 恵美に会わせて」
四坂澪がキッとゴキブリ女をにらみつけた。
「グギギギギ、おろかな女ね。目の前にいるじゃない」
「えっ?」
澪も玲奈も明音もその言葉の意味を図りかねた。
「グギギギ、私こそが恵美なのよ。もっとも、今の私は改造獣ゴキブリ女なんだけどね。クククク・・・」
聖子と同じく口元に手の甲を当てる仕草で笑うゴキブリ女。
「ま、まさか・・・そんな」
「いやぁっ! 瀧澤さんがそんなぁっ!」
「め、恵美ぃ」
三人の顔に衝撃が走る。
「グギギギ、さあ、お前たちにも新しい世界が待っているわ。来るのよ」
手を差し伸べるゴキブリ女。
その手には鋭い爪が光っていた。
「い、いや・・・いやよ」
あとずさる明音。
「グギギギ、手間を取らせるんじゃないわ」
手の甲で明音を張り飛ばすゴキブリ女。
「ギャッ」
たまらず明音は倒れこむ。
「ヒッ」
残る二人も身をすくめた。
「グギギギ、さあ、来るのよ」
「ああ、はい・・・」
仕方なく三人はゴキブリ女のあとに続いた。
そうするしかなかったのだ。

改造室の隣にある戦闘員製造室。
その前に三人は連れてこられていた。
セーラー服姿の三人は皆一様におびえた表情でゴキブリ女を見る。
「グギギギ、さあ、そのカプセルに入りなさい」
ゴキブリ女が指差す先には透明なカプセルが五つ並んでいた。
「あ、ああ・・・お願いよ、うちに帰して・・・」
玲奈が跪いて懇願する。
しかしゴキブリ女はその複眼で黙って見下ろすだけだった。
「グギギギ、もしかして死にたいのかしら? だったらすぐに殺してあげるわ」
ゴキブリ女が爪をかざす。
「玲奈、無駄だよ。こいつはもう恵美じゃないんだ・・・」
澪が玲奈を立たせる。
「グギギギ、そうよ。私はゴキブリ女。恵美ではなく生まれ変わったのよ」
ゴキブリ女の口元に冷たい笑みが浮かぶ。
「グギギギ、さあ、さっさと入りなさい!」
「入るよ。くそっ、死ぬよりはましか・・・」
澪が玲奈と明音を抱えるようにしてそれぞれをカプセルに入れる。
「み、澪ちゃん・・・」
「明音、我慢するんだ。死ぬよりはましだよ」
「う、うん・・・」
澪の言葉に頷き、しぶしぶカプセルに入る明音と玲奈。
最後に澪も自らがカプセルに入る。
「入ったぞ。これでいいんだろ!」
ふてくされたように言い放つ澪。
「グギギギ、その強がりがいつまで続くかしら? 首領様、準備完了です」
「よくやったぞ、ゴキブリ女」
翔は頷き、戦闘員作成をスタートさせた。

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  1. 2006/02/14(火) 21:07:07|
  2. 悪の組織を作ろう
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姉と弟

今日は「悪つく」の第二弾です。
まるでドラ○もんの道具を悪用するの○太君のようですが、実際にこんなセットがあったらいいと思うのは私だけ?

2、
『改造獣をご使用になるときには転送室へ連れて行き転送をしてください』
パソコンの画面に表示が出る。
翔は今まで気がつかなかった感情にドキドキしながら、ハエ女に転送室へ向かうように指示を出した。
翔の言葉はどういう理由か司令室の壁のレリーフから聞こえるらしく、ハエ女はレリーフに一礼すると転送室へ向かう。
ハエ女が転送室に入り気を付けをすると、再びパソコンに文字が映し出される。
『転送の準備が整いました。転送しますか?:はい/いいえ』
はいでクリックする。
するとハエ女の躰が光に包まれ消えて行き、換わりに翔の部屋に大きくなった姿のハエ女が現れた。
改めて翔はハエと融合し改造獣となった母親をじっくりと眺めた。
綺麗だったお母さん・・・
口やかましかったけれど優しかったお母さん・・・
でも・・・
それがいまや改造獣として翔の前に立っている。
巨大な複眼と額から伸びる触角。
口元だけは人間のままなのが余計に美しく思える。
肩までの黒髪もそのままだが、首から下は黒と緑色の混じった皮膚に硬く短い毛が生えていた。
両手の先は形は人間のままだが鋭い爪が生えていて、両脚はハイヒールのブーツでも履いたように形が変わっていた。
背中には薄く透明な翅が生え、まさしくハエ女に相応しい姿をしている。
美しい・・・
翔は本気で今の母親のすがたを美しいと思っていた。
特撮に出てくる怪人たちの中には魅力的な者も居て、翔はそういった怪人が大好きだったけれど、このハエ女はそれらにまったく負けないほど魅力的だった。
「綺麗だ・・・お母さんとても綺麗だよ・・・」
「キキキキキキ。私は首領様にお使えする改造獣ハエ女。もはや母親などではございませんですわ」
微笑むハエ女。
「そ、そうだったね。僕は首領なんだから、ハエ女は僕の言いなりになるんだ・・・」
翔はドキドキしながらも自分を首領であると言い聞かせる。
「はい、首領様。何なりとご命令を」
深々と頭を下げるハエ女。
「そ、そうだな・・・な、何をしてもらおうか・・・」
翔は考えるが、取り立ててしなければならないことは何だろうかと思う。
何を・・・
ぐう・・・
お腹が鳴る。
あれ?
そういえばもう午後の五時に近い。
「ま、まずは食事を作ってもらおうか。作れるよね?」
何となく命令というよりお願いになってしまう。
「キキキキ・・・もちろんです、首領様。お好きなハンバーグをお作りいたしますわ」
ハエ女がにっこりと微笑む。
「そ、それじゃ頼む。美味しいハンバーグを作れ」
「キキキキ、かしこまりました、首領様」
ハエ女はくるりと身を翻すと台所へ向かって部屋を出て行った。

「はあ・・・すごいや・・・」
ハエ女が出て行ったあとで、翔は改めてセットを見下ろした。
こんなおもちゃは見たこと無い。
いや、ただのおもちゃじゃない。
お母さんをあんなふうに改造しちゃうなんておもちゃにできるはずが無い。
でも・・・
そんなことはどうでもいいや。
僕はこれで好きなように生きるんだ。
僕が作った悪の組織イレースが日本を支配するんだ。
このセットはそのために僕に神様が与えてくれたんだ。
僕は首領様なんだから好きなようにしていいんだ。
そう思うと自然に笑いがこみ上げてくる。
翔は椅子に深々と腰掛けて満足感を味わっていた。

「でも、次はどうしたらいいんだろう・・・それにそろそろお姉ちゃんが帰ってくるなぁ」
翔には姉が居た。
高校一年生になる姉で、翔とは違って友人も多く、体操部で部活動もしているため帰りが遅いのだ。
翔はパソコンの画面を見る。
『チュートリアルを続けますか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
すると画面上に一人の女性が現れた。
黒いマントを羽織って、レオタードを着た妖艶な美女。
金色の髪が長く、手にはムチを持っている。
「あ、あれ?」
翔は驚いた。
今までこんな画面はでてこなかったのに・・・
『こんにちは、首領様』
画面の美女がにっこりと微笑む。
『私はエミー。首領様はすでに改造獣を手に入れ、悪の組織としての第一歩を踏み出されました。これからは私が首領様の片腕としてアドバイスをさせていただきますわ。よろしくお願いいたします、首領様』
エミーと名乗った画面の女性はそう言って片膝をつく。
『エミーを使用しますか?:はい/いいえ』
「うわ、どうしよう・・・」
翔は迷った。
確かに悪の組織に幹部は必要かもしれない。
特撮にでてくる悪の組織には美女が幹部として出てくることも多い。
迷った挙句に翔ははいを選んだ。
『ありがとうございます首領様。やはり組織にとって必要なのは兵力ですわ。戦闘員を量産されることをお薦めいたします』
エミーはすくっと立ち上がると画面の端へ移動し、開いたスペースに戦闘員の概要を表示する。
「戦闘員?」
そこには改造室の隣にあるさまざまな生物を使って戦闘員を量産するカプセルが表示され、基本形が示されていた。
『ごらんのように戦闘員は手に入りやすい素材でお作りすることをお薦めいたしますわ。飛行生物型、四足歩行生物型、二足歩行生物型と基本形は取り揃えてありますので、首領様はただお選びいただくだけで結構でございます』
エミーの示す表示を翔は見る。
「戦闘員か・・・簡易改造型の改造獣と言ってもいい存在・・・手軽に作れるだけに戦闘力は改造獣の比ではないが、集団戦闘による戦闘力は侮れない・・・か。いいぞぉ」
以前の悪の組織にはこういった雑魚が重要な戦力として配置されていたはずだった。
最近の特撮には無いけど、翔はビデオで見て結構気に入っていたのだった。
「二足歩行タイプで行こうっと」
翔はもう決めていた。
悪の組織は人間を改造して戦闘員にするのだ。
だから翔も人間を改造することに決めていた。
「でもお姉ちゃんは戦闘員にはしない。お姉ちゃんは・・・ふふふ」

「ただいまー」
「「お邪魔しまーす」」
階下から複数の声が響いてくる。
どうやらお姉ちゃんが友人を連れてきたみたいだ。
翔は嬉しくなった。
戦闘員にする人間が向こうから来てくれたのだ。
幸運に違いない。
翔は転送機を用意して、部屋を出る。
階段から下を見ると玄関に三人の女子高校生が鞄を持って立っていた。
姉の友人の甲原玲奈(かんばら れな)と四坂澪(しさか みお)、それに瑞原明音(みずはら あきね)の三人である。
姉の恵美(めぐみ)は台所に向かっているらしい。
きっとすぐに悲鳴が上がるかもしれないので、翔は部屋に戻って急いでパソコンに名前を打ち込む。
玄関にいる三人は翔にも顔見知りで、いつも姉と一緒に遊びに来る人たちだ。
「甲原玲奈、四坂澪、瑞原明音・・・と」
パソコンに名前を打ち込み、レンズ状の装置を手に取る翔。
この三人は戦闘員として組織の一員に迎えてやろう。
翔はわくわくしながら階下の三人にレンズ状の転送機を向けた。
「キャー!」
台所で上がる悲鳴。
三人がぎょっとした瞬間、転送機が光り輝き三人の女子高生を飲み込んでいった。

「ただいまー。友達を・・・」
恵美の声が凍りつく。
台所で包丁を握っていたのは不気味な生物であり、それが振り向いて微笑んだのだ。
「キキキキ、お帰りなさい。恵美」
巨大な複眼と額に生えた触角。
背中には透明な薄い翅。
黒と緑に包まれ、硬い毛の生えた皮膚。
ハエと人間が混じったような化け物がそこにはいたのだ。
「キャー!」
恵美は思わず悲鳴を上げていた。
「あ、あああ・・・ば、化け物・・・」
後ずさり壁に背中を付ける恵美。
「キキキキキ、失礼ね。化け物だなんてひどいわ」
笑みを浮かべてゆっくりと近づくハエ女。
「あああ・・・お母さん・・・お母さんをどうしたの?」
あまりの恐怖にへたり込んでしまう恵美。
その顔は引きつっている。
「キキキキ、心配はいらないわ。お母さんはイレースの改造獣にしていただいたの。見て、この素敵な躰。最高なのよ。ホホホホ・・・」
口元に手の甲を当てて笑うハエ女。
その仕草は以前聖子がよくしていたものだ。
「か、改造?」
「キキキキ、そうよ。とても素敵なのよ。あなたをどうするのか首領様にお伺いしなければね」
ハエ女は恐怖のあまり動けないでいる恵美の首を掴みあげる。
「あ、あががが・・・」
すごい力で持ち上げられ、足をじたばたさせる恵美。
「キキキキ、少し眠っていなさい」
右手に少し力を入れ血流を制御するハエ女。
やがて恵美はくたっとなり気を失ってしまう。
「キキキキ、首領様にお届けしなくちゃね」
そう言ってハエ女は恵美を抱きかかえると二階の翔の部屋へ向かった。

「ハッ」
ひんやりとした風に目を覚ます恵美。
「こ、ここは?」
躰を起こそうとするが、何か枷のようなものを嵌められていて手足が動かせない。
「ああ、そ、そんな・・・」
首をまわして両手を見ると、手首のところが固定されていた。
「だ、誰か・・・誰か助けてぇ!」
「おとなしくしてよ、お姉ちゃん」
どこからか翔の声が聞こえる。
「し、翔? 翔なの? 聞いて、お母さんが・・・お母さんが化け物に・・・」
「失礼だなぁ、お姉ちゃんは。ハエ女が聞いたら気分を悪くするよ」
恵美の上から覗きこんでくる巨大な翔の顔。
「いやぁぁぁぁぁ!」
恵美の悲鳴が上がる。
「ふふふふ・・・僕はイレースの首領なんだよ、お姉ちゃん」
得意げな翔の顔。
それは恵美にある意味恐怖を感じさせる。
「しゅ、首領? 翔が?」
「そうさ。そして僕がお母さんを改造してあげたんだ。今じゃお母さんは僕の忠実な改造獣に生まれ変わったんだよ」
「く、狂ってる・・・翔、あなた気が狂ったんじゃないの?」
恵美は何とか逃げ出そうと必死に身をよじる。
しかし手足の固定はびくともしない。
「狂ってなんかいないよ。僕は日本を支配するんだ。僕が作ったイレースが日本を支配するんだよ」
翔のそばにはうっとりとした笑みを口元に浮かべたハエ女が寄り添っていた。
「ば、馬鹿言ってないで離してよ! いい加減にして!」
「ふふふふ・・・おねえちゃんもすぐにわかるよ。これからお姉ちゃんも改造獣にしてあげるからね」
翔が笑う。
「か、改造獣?」
恵美の顔色が蒼白になった。

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  1. 2006/02/13(月) 22:45:15|
  2. 悪の組織を作ろう
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悪の組織をつくろう

えーと、本来ならホーリードールの更新をする日なんですが、ちょっと書いてみたくなったものがあったのでそちらを書いてみちゃいました。
この作品を書く元となったネタを下さったg-than様にこの場を借りてお礼を申し述べさせていただきます。

ホーリードールはまた日を改めて書きますので、お待ち下さいませ。

それでは投下です。

1、
「あーあ・・・明日は家庭訪問かぁ・・・いやだなぁ・・・」
面白く無さそうに足元の小石を蹴る。
小石はアスファルトの道路を音を立てて転がって行く。
鞄を持った少年はとぼとぼと独りで帰り道を歩いていた。
ここは小学校の通学路ではあるものの、新興住宅街であるため雑木林も多く、少年が歩いている道路もまわりは林が続いていて人通りは少ない。
変質者などの噂は出ていないが、何かあった時に助けを求めるのは困難だろう。

少年は憂鬱だった。
学校では目ぼしい友達も居なく、成績だってあまり良いほうではない。
虐められているわけではないものの、孤立しているには違いなかった。
そのことを担任の芹蔵亜希子先生が気に掛けていて、明日家庭訪問に来ることになっていたのだった。
芹蔵先生は嫌いな先生ではない。
しかし、あること無いこと言われて母親からお小言を受けるのはいやだった。
そして、そうなるであろう確率は非常に高いのだ。

「いやだなぁ・・・」
もう何度つぶやいたかわからないその言葉を少年は再びつぶやく。
また足元に転がっている小石を彼は蹴飛ばした。
石は勢いよく飛び出し、道路脇の林へ入って行く。
その様子をただ眺めていた少年は、その林の中に大きなトランク型のケースが二つ転がっていることに気がついた。
「あれ? なんだろう?」
少年はその黒いトランクケースが気になって林の中に入って行く。
このあたりの雑木林は人目に付きづらいこともあって不法投棄がよく行なわれるのだが、そういったものはたいてい壊れたりしたテレビとかであり、少年の気を引くようなものではなかった。
しかし、今林の中にあるのは大きな旅行鞄のような黒いトランクケースであり、しかも薄汚れていない捨てられたばかりのようなものが二つだったのだ。
少年はケースのところにたどり着くとそれを開けてみようと思った。
しかし、鍵が掛かっているのかスライドスイッチをずらそうとしても開かない。
「ちぇっ。開かないや」
二つとも試してみたが両方とも開かない。
「こっちも開かないや・・・」
少年はちょっと残念そうにしてその場を立ち去ろうとした。
しかし、二三歩歩いたところで立ち止まる。
「う~・・・気になるなぁ。中身は何なんだろう」
少年は振り向いてそう言うとトランクケースのところへ戻り、取っ手を持ち上げる。
「あ、そんなに重く無いや。これなら持って帰れるかな」
家に持って帰れば工具もあるし開けられるだろう。
開けてみて何かまずいものだったらおまわりさんに届ければいい。
少年はそう思うと、トランクケースを道路まで運び出す。
トランクケースはそれほどの重さではなく、下にキャスターが付いていたので道路まで持ち出せば転がして行けそうだった。
少年は二つのトランクケースを道路まで運び出すと、鞄を背中に背負ってガラガラと両手にトランクケースを持って引き摺って行く。
その様子はどこか滑稽でもあったが、少年は中身のことが気になって気になってひたすら自宅への道を急いでいた。

「ただいまー」
少年は自宅の玄関を開けて入り込む。
「お帰りなさい。おやつの用意があるから手を洗っていらっしゃい」
キッチンの方から優しい母親の声がする。
今年37歳の母親は充分に美しく、料理も得意でいつも美味しいおやつを作ってくれる。
「はあーい」
少年はそう言ったものの、すぐに二階の自分の部屋へトランクを運び込もうと階段を上り始めた。
「よいしょ、よいしょ」
大きなトランクケースはそれだけで少年の手に余る。
少年は必死になって何とか一つ目のケースを部屋に運び込む。
「ふう・・・」
汗がじわっと吹き出てくる。
「翔? 何やっているの?」
階下から母親の声がする。
「何でもないよ、鞄を部屋に置いているだけ」
嘘ではない。
少年は鞄を部屋に置き、上着を脱ぐとハンガーにかけて階下へ向かう。
そしてまた大きなケースを抱えてよろよろと階段を上がり始めた。
「翔?」
「お母さんに見せるプリントがあったんだ、取ってくる」
少年は必死になってごまかし、二つ目のケースも何とか部屋に運び込む。
こんな大きなものを拾ってきたと知ったら、きっと母親はいい顔はしないだろう。
少年は鞄から今日たまたま配られたお知らせのプリントを持って階下に下りていった。

チーズケーキを食べ終わった少年はすぐに自分の部屋に戻る。
部屋には先ほど運び込んだトランクケースが鎮座していた。
「ようし」
少年は力強く頷くとトランクケースを開けるためにケースの前にしゃがみこんだ。
スライドスイッチは再び試してもびくともしなかった。
しかも鍵穴らしきものも無い。
ところがよくよく調べてみると、側面にスライドカバーがあって、そこをスライドさせるとパソコンによく見られるようなUSB端子のような差込口のついたケーブルが現れる。
「あれ? パソコンとつないでキーロックするタイプなのかな?」
そんな鞄は聞いたことも無いが、とりあえず試してみることにする。
机の上のノート型パソコンを手元に寄せ、そのケーブルをUSB端子に差し込んでみる。
驚いたことに何となく形が違うような気がしたのだが、差込口に当てるとケーブルはぴったり嵌まった。
「当然か・・・規格で作られているんだし・・・」
少年はパソコンを立ち上げて、新しく接続された機器を認識させる。
するとパソコンの画面に変化が現れた。
『生体認証:OK』
『データ登録を行ないますか?:はい/いいえ』
データ登録?
少年は気になったものの、中身を見るという誘惑に負けて、はいを選ぶ。
『名前を入力してください:        』
た、き、ざ、わ、しょ、う・・・と。
漢字変換して入力する。
『名前を入力してください:瀧澤 翔』
Enterキーを押す。
『性別は存在しますか?:はい/いいえ』
性別がって・・・もちろんはいだよね。
翔ははいと入力する。
『性別区分を入力してください:    』
男性・・・と。
『性別区分を入力してください:男性』
Enter。
『生体年齢を入力してください:    』
生体年齢?
要するに歳ってことだよね・・・
『生体年齢を入力してください:11』
Enter。
『あなたの居住地域では?:成年/未成年』
未成年に決まっているよね。
『入力されたデータに間違いはありませんか?:はい/いいえ』
はい・・・と。
『入力されたデータを登録します。よろしいですか?はい/いいえ』
はい・・・と。
『データ登録が終了いたしました。お買い上げありがとうございました。これより起動いたします』
「ええっ?」
翔は驚いた。
まさかこれで僕が買っちゃったことになるんだろうか・・・
うわぁ、だとしたらすごくヤバいや。
翔は取り消しをしようと思ったものの、パソコン画面は一切の制御を受け付けず、カチッと言う音とともにトランクケースが二つとも開いてしまった。
「うわぁっ」
がたんと音を立ててトランクケースは片方を下にして開いている。
恐る恐る中を覗いてみる翔。

「えっ?」
トランクケースの中は驚いたことにミニチュアのセットだった。
「ミニチュア?」
それはすごく精密にできた特撮に出てくる秘密のアジトそのものだった。
片方のトランクは中を二つに仕切られ、その片方はふたを背景にするように壁におどろおどろしい髑髏のマークがかかれていて司令室になっている。
もう片側には通路を挟んでまた部屋があり、中央に円形の台があって周囲にいろいろな機械が取り巻いている。
「もしかして・・・改造室かな?」
翔は特撮は結構好きだった。
悪の組織と戦うヒーローもかっこよくて好きだが、悪の組織の首領になってみたいという気持ちも確かにあって、こういったアジトはすごく興味があったのだ。

もう片方のトランクはいくつかの部屋に仕切られている。
居住区と思われる部屋や、トレーニングルームなどもあるし、科学者用の実験室もある。
そしてこの二つのトランクは互いに隣接させることで接合でき、互いに行き来ができるようになっていた。
まさに二つ合わせることでミニチュアの悪の秘密結社のアジトのセットが出来上がるのである。
「へえ、よくできているなぁ」
翔は感心する。
こういったミニチュアは結構誰でも見ていて楽しいものである。
翔もいつしか見入ってしまっていた。

ピーという警告音がパソコンから流れる。
「あれ?」
翔はパソコンの画面を見た。
『このたびは弊社&%¥@#製の“悪の組織をつくろうDXセット”のご購入、誠にありがとうございました』
「悪の組織をつくろうDXセット?」
これはおもちゃなんだ・・・
きっと誰かが購入したものの、使えなかったか何かで捨てられていたんだ・・・
翔はわくわくしてきた。
悪の組織を作れるおもちゃなんて聞いたことが無いけど、きっと面白いに違いない。
『このセットは先に発売されました“悪の組織をつくろう基本セット”に追加キットであります“悪の組織をつくろう追加キット”をセットにした商品であり、内容に変更はありません』
「へえ、そんなセットがあったんだ」
翔は結構特撮のテレビ番組を見ているのだが、そんな商品のコマーシャルは見たことが無い。
『この商品は実際に悪の組織を運営する上での出来事をシミュレーションする玩具であり、法律上の許可も得ておりますが、くれぐれもA及びBランクの知的生命体への改造実験は行なわないようにしてください』
「A及びBランク?」
何のことかわからない。
『お客様は未成年との登録をされておりますので、くれぐれも保護者の方とご一緒にお楽しみになられますようお願いいたします』
「あ、それは無理だよ・・・」
翔の母親は特撮やアニメにはほとんど興味を持ってくれないのだ。
翔が勝手に見ているのを止めもしなければ一緒に見ようともしない。
きっと一緒に遊んでと言ったって遊んでくれるはずが無いし、翔にしても一緒に遊ぶなんて子供っぽい真似はしたくない。
『保護者の方々へ』
『商品の安全には充分気を配っておりますが、お子様が違法行為を行わないようご注意をお願いいたします』
「おもちゃで違法行為って何なのさ」
『それではお楽しみ下さいませ』
翔はわくわくしながらスタートにカーソルを合わせてクリックした。

『悪の組織本部へようこそ。このアジトはあなたのために設えられましたあなた専用の秘密のアジトです。どうぞお楽しみ下さいませ』
画面が暗くなり、怪しい感じのBGMが流れ始める。
『まずは組織の名前をお決め下さい。首領様』
翔はぞくっとした。
首領様・・・
いいぞいいぞ・・・
そうだ僕は首領様なんだ。
「えーと・・・何がいいかなぁ・・・」
翔はしばしモニターの前で悩みこむ。
「ゲームに出てきた悪の組織の名前をそのまま使おうっと・・・」
翔はイレースと打ち込む。
『組織名はイレースでよろしいですか?:はい/いいえ』
はいでクリック。
『組織名はイレースとなりました。それでは組織運営についてのアドバイスを受けますか?:はい/いいえ』
どうしようかな・・・
翔はとりあえずはいでクリックする。
『それではまず組織に忠実な改造獣を作りましょう。組織の尖兵として破壊活動や誘拐、暗殺など首領様の手足となって働く人造生命体です』
「へえ、改造獣か・・・モンスターってところだな」
『まずは首領様の手近に居る生物を改造獣にすることをお薦めします。その方が手に入れやすいでしょう』
『改造する生物を入力してください:    』
「手近の生物か・・・何がいいかなぁ。」
翔は考える。
そのとき部屋の片隅を飛び回るハエが目に入る。
「こんなものでもいいのかな・・・」
翔はパソコンに向かってハエと入力する。
『改造する生物を入力してください:ハエ』
これでよしと。
『改造する生物に向かってキットの転送機を向けてください』
転送機?
これかな?
翔はトランクケースの脇についている四角いレンズ状のものを取り、飛んでいるハエに向ける。
『取り込み開始』
すると一瞬のうちにハエが消え去り、改造室の隣の捕獲室にハエが捕らえられていた。
『取り込み完了』
「へえ、本当に生き物を改造するのかな? すごいや」
翔はもうドキドキしていた。
『改造獣は二種類の生物を合成することが可能です。第二の生物を選んでください』
「第二の生物か・・・何がいいかなぁ」
翔は周りを見渡した。

「翔、翔! いつまで遊んでいるの? 少しは手伝ってちょうだい」
階下から母親の声が聞こえてくる。
「ああ、もう、うるさいなぁ」
いつもそうだ・・・
お母さんはいっつも勉強しろとかお手伝いしろとかしか言わないんだ。
こっちにだって都合があるのに・・・
そうだ。
人間なんて大きいものはどうせ無理だろうけど・・・
お母さんを改造獣にしちゃえば僕の言いなりになるんだ。
お母さんの改造獣を作ってこき使ってやるぞ。
翔はそう決めると第二の生物として瀧澤聖子と打ち込んだ。
『転送機を向けてください』
「向ける相手が居ないよ・・・」
そういいながらも翔はレンズ状の物体をドアの方へ向けた。
「翔! 入るわよ!」
「えっ?」
翔は驚いた。
いつもなら下へ降りて行くまで待っているのに・・・
今日は急ぎの用事だったらしい・・・
「急いでお使いに行ってちょうだ・・・えっ?」
レンズ状の物体が輝く。
「嘘だろ!」
「キャァッ!」
一瞬のうちに母親の姿は消え去っていた。

「お母さん! お母さん!」
翔は叫んだものの、母親はすでに転送されてしまい、捕獲室に捕らえられていた。
「こ、これはどうことなの? 翔! すぐにここから出して!」
聖子が周囲を見ると、無機質な何も無い部屋に閉じ込められていた。
片面だけがアクリルのような透明な壁になっていて、扉もあるもののまったく開けることができないのだ。
しかもそこから見える部屋の様子は、まるで自分が小さくなってしまったかのように見える。
「翔! 聞いてるの? 翔!」
「お母さん、ごめん。まさか取りこま・・・」
「キャァッ!」
翔が覗き込んだ途端に悲鳴を上げる聖子。
巨大な翔の顔が覗き込んできたことで驚いたのだ。
「し、翔・・・これはいったいどうなって?」
わなわなと震える聖子。
そこへパソコンの警告音が鳴る。
『取り込み完了。改造を開始します』
「わ、わあっ!」
慌てて取り消そうとする翔。
しかし、パソコンは受け付けない。
『改造作業中は改造終了まで操作できません』
「ち、違う! 違うんだぁっ!」
必死になってパソコンからケーブルを抜こうとする翔。
だがケーブルが抜けることも、電源を切ることもできない。
「ああっ! いやぁっ!」
聖子の悲鳴が再び上がる。
どこかから現れた円筒形のロボットのような物体が、聖子の居る捕獲室へ入ってきたのだ。
「くそっ! やめろぉっ!」
「いやぁっ! ヒッ!」
ロボットは聖子に電撃を与えて失神させると、そのまま引きずるようにして改造室へ連れて行く。
「ああ・・・あああ・・・」
それを翔は黙って見ているしかできなかった。

「ん・・・んん・・・」
うっすらと目を開ける聖子。
その目が自分を見下ろしている翔の巨大な顔を捉える。
「ひあっ! し、翔?」
「お母さん、ごめんね。もう止められないんだ・・・」
巨大な翔が首を振る。
「ど、どうなっているの? 私は・・・私はどうなるの?」
聖子は躰を起こして立ち上がろうとする。
しかし、その躰は台の上に固定され、身動きが取れなくなっていた。
「あ・・・いやぁっ! な、なによこれぇっ!」
「お母さんはこれから改造されるんだよ。僕の作った組織“イレース”の改造獣になるんだ・・・」
「ば、馬鹿なこと言ってないで私を早く出しなさい!」
必死になって躰をよじる聖子。
しかしがっちり固定された躰はどうにもすることができない。
「無理だよ・・・もう僕にもどうすることもできないのさ。それに・・・綺麗だよ・・・お母さん」
「えっ?」
聖子は自分が裸になっていることに気がついた。
「いやぁっ!」
思わず身をよじる聖子。
しかし両手両脚を固定されている今はどうしようもない。
聖子はただ恥ずかしさのあまり顔をそむけた。
「ヒッ!」
息を飲む聖子。
そこにはカプセルに入れられた巨大なハエが翅を震わせて彼女をにらんでいた。
「嘘・・・こんな巨大なハエが・・・」
「ハエが巨大なんじゃないんだ・・・お母さんが小さくなったんだよ・・・」
「わ、私が・・・?」
聖子は巨大な自分の息子を見上げる。
「これは何かの間違いよ・・・私は夢でも見ているんだわ・・・」
「ごめんなさい、お母さん。でもこれは夢じゃないんだ・・・お母さんはそのハエと融合して改造獣になるんだよ・・・」
翔は次第に興奮してきていることに気がついていた。
まだ充分に美しいお母さんの裸体。
それがハエと融合し、どんな姿になるのか?
改造獣になった人間がどうなるのか?
もしかしたら自分は本当にすごいものを拾ってしまったのかもしれない・・・
「そ、そんな・・・そんなのはいやぁっ!」
聖子の何度かの悲鳴が上がる。
ピー・・・
警告音だ。
翔はモニターを覗き込む。
『改造獣作成開始します』
翔はうっすらと笑みを浮かべた。

聖子の寝かされている台の周囲から幾つもの機械がせりあがってくる。
「いやぁっ!」
カプセルの中ではハエがどろどろに溶かされていき、その液体が泡を立てて床下に吸い込まれていく。
「たすけてぇっ! 翔!」
聖子が叫ぶ。
だが、その聖子に容赦なく機器が襲い掛かる。
躰のあちこちに打ち込まれるチューブを伝ってさまざまな液体が体内に注入されていく。
それと同時に周囲からさまざまな光線が照射され、聖子の細胞を活性化していく。
液体と光線の照射によって聖子の細胞は変化を受け入れ、ハエの遺伝子を受け入れて行く。
「あが・・・あががが・・・」
変化にともなう激痛が聖子を襲う。
それと同時に頭部に埋め込まれた電極からさまざまなパルスが送り込まれていく。
ビクビクと躰をしならせて痙攣する聖子の裸体は翔の股間を硬くさせ、まだあまり感じたことの無い性への欲望を感じさせた。
「あが・・・た・・たすけ・・・」
苦痛に躰を震わせている聖子。
「素敵だよ、お母さん」
翔の目の前で聖子はじょじょに躰を変化させ始める。
「あがががが・・・」
美しく滑らかだった手足に黒々とした剛毛が生え始め、じょじょに全身が黒と緑色の混じったつややかな皮膚に変化して行く。
「グギグギギギ・・・キ・・・キキキ・・・キキキキキキ」
聖子の声色が変わってくる。
肉体の変化とともに思考も変化し始めてきたのだ。
「キキ・・・キキキキ・・・」
聖子の目の周りが大きく変化し始め、巨大な複眼が形成されていく。
額からは触角が伸び、小刻みに震えている。
「キキキキキキキ」
口元だけを残し、聖子の躰はハエと人間の融合した改造獣へと変化していった。

パソコンの警告音が鳴る。
『改造獣が完成しました。名前をつけてください:     』
翔はベッドの上で薄く笑みを浮かべて横たわっているハエと母親の合体した生物を見つめる。
「は、え、お、ん、な・・・と」
『改造獣が完成しました。名前をつけてください:ハエ女』
Enter。
『改造獣ハエ女の完成です。声を掛けてあげてください。首領様』
翔はゾクゾクする喜びを感じた。
ハエ女だ・・・
お母さんはハエ女になったんだ・・・
もう僕の思いのままに動くんだ・・・
翔はパソコン画面で固定解除をクリックする。
カシンと音がして、ハエ女の手足の固定が解除された。
「キキキキキキ」
ゆっくりと立ち上がるハエ女と化した聖子。
ハイヒール状と化した脚でカツコツと音を立てて改造室を後にする。
そのままハエ女は司令室に入り、髑髏のレリーフの前に立った。
「ふふ・・・ふふふ・・・気分はどうだいハエ女?」
その声は髑髏のレリーフより発せられる。
司令室を覗き込む翔。
ミニチュアサイズだが、紛れも無く改造獣となった母親がそこにはいた。
「キキキキ・・・最高の気分ですわ首領様」
すっと膝をつき、敬意を表するハエ女。
「キキキキ、私はイレースの改造獣ハエ女。首領様、何なりとご命令を」
「はは・・・はははははは」
翔は笑いをこらえ切れなかった。
「これで・・・これでお母さんは改造獣だ。僕の言いなりなんだ! あははははは」
部屋には翔の笑い声がいつまでも響いていた。

[悪の組織をつくろう]の続きを読む
  1. 2006/02/07(火) 18:20:24|
  2. 悪の組織を作ろう
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舞方雅人

Author:舞方雅人
(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
どうぞ楽しんでいって下さいませ。

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