昨日の続きです。
それではどうぞ。
「・・・・・・」
私は閉口した。
戦車ってこんなに乗り心地の悪いものなの?
エンジン音はうるさいし、がたがたと常に振動しているし・・・
お尻が痛くなっちゃうよ。
それにさっきから頭は前後左右に振られっぱなし。
ヘルメットが重たいから首が安定しないってのもあるかもしれないけど、このヘルメットがなかったらどうなっていたことか。
がつんがつんと頭をぶつけっぱなしだったのだ。
それでも30分も乗っていると、ようやく躰も慣れてくる。
振動にあわせて躰を揺らすことで、頭をぶつけることも少なくなってきた。
「ふふっ、慣れてきたようじゃん」
ハッチから身を乗り出して外ばかり見ていると思っていたのに、ミューラー少尉はいつの間にか私のことを気にかけていてくれたらしい。
「は、はい、おかげさまで」
私はなんだか気恥ずかしくなってしまう。
それにしても大声を出さないと聞こえないんだなぁ。
戦車兵って見た目ほど楽じゃないのね。
「ハンス、止めろ!」
ミューラー少尉の声に急停止する私たちの戦車。
「きゃあっ!」
思わず私は前につんのめる。
「騒ぐな。静かに」
「な、何が?」
私もすぐに異常を感じ取った。
車内が緊張している。
いったい何があったの?
外見えないからわかんないよ。
「まずいな。イワンの偵察隊だ。T-34が二両もいやがる」
「十字路に陣取ってますね。迂回しますか?」
T-34?
二両?
それって敵がいるってこと?
私は思わずハッチを開けて外を見ようとした。
「動くなバカ!」
頭の上から文句言われた。
だって、外見えないから・・・
どうなっているのか気になったのよ。
ポサッとひざの上に何か置かれる。
ヘッドフォン?
「それを耳に当てて」
通信手席のヨハンさんが耳に当てるような仕草をする。
私はよくわからなかったけど、とりあえずヘッドフォンを耳につけた。
「これはマイクだから喉に当てて」
もう一つ差し出されたのは喉当て型のマイク。
なるほど。
車内で通話するときはこういうものを使うわけか。
「迂回しようにも周囲は林だ。こいつが走れる地形じゃない」
「じゃ、どうします?」
「突破するしかないか・・・」
ミューラー少尉の苦悩する声が伝わってくる。
突破って・・・どうするのかしら・・・
「ヘレーナ」
「は、はい?」
いきなり名前を呼ばれた私はびっくりした。
突然で、しかもファーストネームなんだもん。
「すまん。これからヘレーナで呼ばせてもらう。そこののぞき窓からのぞいてみろ。見えるか?」
「は、はい」
のぞき窓?
これかしら・・・
私は目の前にあるレンズのようなものに目を当てる。
うわ・・・
外が見えるわ。
なんだ。
それならさっきもこれを覗けばよかったんだ。
「見えます」
意外と明るい感じ。
月が出ているせいかな・・・
道路の先になんか小山が二つ。
左側に棒が出てる。
何かしらね、あれ。
「よし、見えるんだな?」
「はい、見えます」
私はうなずいた。
「ようし。行くぞ」
するっと言う感じでミューラー少尉が中に滑り込んでくる。
そして先ほどまでの場所からずれ、私の反対側に身をおいた。
「いいか、ヘレーナ。よく聞くんだ」
「はい」
なんだろう。
暗いからよくわからないけど、ミューラー少尉はすごく真剣そう。
「そこに縦になっているハンドルがあるだろう?」
「えっ?」
私は一瞬面食らった。
でも、すぐに彼が言っているのが私の前にあるハンドルのことだと気が付いた。
私の前にはハンドルが二つある。
一つは縦型。
もう一つは床に水平っぽく横型についているのだ。
「それは俯仰角だ。砲身を上下にする」
「砲身を上下・・・」
「もう一つの横型のハンドルは左右だ。砲塔を左右に回す」
「砲塔を左右・・・」
「足元を見ろ」
「暗いですよぉ」
「足元に二つのペダルがある。砲塔の回転装置だ。右を踏めば急速回転、左を踏めばゆっくり回転する」
私はつま先で足元を探る。
確かにペダルが二つある。
「右を踏めば急速・・・左を踏めばゆっくり」
「そうだ。そして椅子の下にレバーがある」
「はい」
私はレバーの位置を確かめた。
「左右の切り替えレバーだ。手前に引くと右旋回。後ろに倒すと左旋回」
「手前、右旋回・・・後ろ、左旋回・・・」
「最後。縦型の俯仰角ハンドルの奥にボタンがある」
私は同じくボタンを確認する。
「はい、あります」
「発射ボタンだ。俺が撃てといったらそれを押せ」
「撃てといったら押す・・・ええっ?」
私は思わず大声を出してしまった。
じょ、冗談でしょ?
「いいな、ヘレーナ。今からお前は砲手だ。しっかりやれ」
「無、無、無、無理です! できません!」
「黙れ! やるんだ! 死にたいのか?」
「そ、そんなぁ・・・」
ミューラー少尉の迫力に、私は何も言えなくなる。
どうしよう・・・
「ハンス、エンジン音を絞ってぎりぎりまで近づけろ。奴らが横向けているうちに撃破する」
「了解」
再びゴロゴロと履帯の音が響き、私たちの戦車は前進する。
「照準器を覗いてろ」
「は、はい」
私はしがみつくようにして右目を照準器に当て続ける。
さっきまで二つの小山のようなものだった影が、どんどんどんどん近づいてくる。
あ、あれが戦車だったんだわ。
よく考えればそんなことはすぐにわかりそうなものだったのに、私はちっとも気が付いてなかったんだわ。
突然ゴトンという音が響く。
何がなんだかわからない。
いったい今のは何?
「徹甲弾装填完了。いいか、撃てといったらボタンを押すんだぞ」
「はい!」
私はあわてて発射ボタンを押していた。
突然車内に轟音が響く。
「きゃあー!」
私は思わず悲鳴を上げた。
「バカ! まだ早い!」
轟音とヘッドフォンからのミューラー少尉の声が錯綜し、耳が痛くなる。
大砲が発射されたんだと気が付いたのはその後のこと。
しかも、まだミューラー少尉は撃てと命じたわけじゃなかった。
撃てといったら押すんだと言われただけ。
でも私は思わずボタンを押してしまったのだ。
「ご、ごめんなさい」
「ちぃっ! イワンに気付かれた!」
ガコンという音とともに砲弾の殻が排出される。
ミューラー少尉はそこから砲身の中を覗きこんだ。
「外れた。畜生! 奴らこっちに来る」
「うあぁ・・・ごめんなさい」
「黙ってろ。舌噛むぞ! ハンス、構わんから突っ込め!」
「り、了解」
「この距離なら当てた者勝ちだ! ヘレーナ、横型のハンドルを4回左に回せ!」
砲身を覗きながらミューラー少尉が怒鳴る。
えっ?
もしかして砲身を覗いて照準してる?
「急げ!」
「は、はい」
私は急いで手前のハンドルを右に四回回していく。
「よし、そのまま来いよ! 照準器覗いてろ! もし敵戦車が見えなくなったら教えるんだ」
「は、はい」
再び照準器を覗く私。
敵戦車の姿がどんどん近づいてくる。
うわぁ・・・
ゴトンと言う音がして、ミューラー少尉が砲弾を装填する。
「まだ見えるか?」
「見えてます」
「ようし、撃て!」
今度こそ。
私は発射ボタンを押す。
「きゃー!」
またしても轟音が車内に響き、私は悲鳴を上げていた。
「きゃあきゃあ喚くな!」
「は、はい」
私はグッと歯を食いしばる。
「やりましたよ、少尉! 一台撃破。動きが止まりました」
「もう一発撃ちこんでやる。撃てっ」
ミューラー少尉が装填し、私が発射ボタンを押す。
三度目の轟音には、もう悲鳴を上げなくてもすんだ。
「ふう・・・逃げてくれたか・・・よかった」
車長席に戻り、ハッチから身を乗り出して周囲を確認するミューラー少尉。
「少尉、狙撃兵に気をつけてください」
「わかってる」
ヨハンさんの言葉に私はハッとした。
そうか・・・
身を乗り出すということは危険と隣りあわせなんだ。
「T-34一台炎上。一台逃走。助かったな・・・」
よかった・・・
私もホッとした。
「ヘレーナ。よくやったぞ。すまなかったな」
ハッチを閉めて車長席に戻るミューラー少尉。
「あ、いえ。こちらこそ」
私はなんだかもう何もいえなかった。
翌朝。
私たちは味方の前線にたどりついていた。
暖かいコーヒーを受け取り、みんなと一緒に飲むのはまた格別だった。
お母さん・・・
私生き残ったよ。
この灰色の四角い戦車のみんなと何とか生き残ったよ。
そう心の中で報告する。
これから反撃が始まるのだそう。
冬の間はソ連軍に痛い目に遭わされたけど、今度はこっちが痛い目を見せてやるって。
私はこれから空軍補助部隊を探して、元の部隊に戻ることになるんだろうけど、ミューラー少尉の第三装甲師団は第四十装甲軍団に編入され、第六軍に入るらしい。
何のことだかわからないけど、「青作戦」というのが始まって、ウクライナを目指すとのこと。
でも、彼らならきっとうまく生き延びてくれそうね。
「おーい、ヘレーナ」
ミューラー少尉の声だわ。
「はーい、なんですか?」
私はカップを置いて立ち上がる。
「これ。被服係に行ってもらってきた。一番小柄のもらってきたから合うと思う。戦車の中で着替えろよ」
手渡されたのは黒い布。
違う。
黒い戦車兵の服だわ。
「えっ? こ、これは?」
「員数合わせなら心配するな。それに、女だと言うことは内緒にしとけ」
ミューラー少尉がウインクする。
「えっ、ええっ?」
「正式に俺の戦車の砲手として登録しておいた。後は通信手待ちだが、これもおっつけ補充されるだろう」
「と、登録って? え、えええっ?」
私は開いた口がふさがらない。
「よろしく頼むぜ。幸運の女神様」
「よろしくな」
「よろしく。女神さん」
黒服を手に唖然としている私に対し、三人は次々とウインクをして去っていく。
「き、聞いてないわよ。ど、どうしよう・・・」
私はただただ立ち尽くすだけだった。
END
以上です。
戦闘シーンは難しいですね。
あっけなく終わらせてしまいすみません。
それと、三号戦車(F改修型)の砲塔操作方法については、いくつも資料を当たったのですがよくわからず、小林源文先生のマンガに出てきたティーガーⅠの砲塔操作方法を参考にさせていただきました。
それではまた。
- 2008/12/13(土) 20:16:13|
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いよいよあと数日で140万ヒットに到達しそうです。
今年中の到達はほぼ間違いなさそう。
それで前祝いというわけでもないのですが、先日の神代☆焔様の戦史ネタSSが見たいというコメント(12月9日記事のコメント欄)に対して、私が返したレスのネタで一本書いちゃいました。
それを今日明日の二日間で投下しようと思います。
まずお断りしておきますが、これはあくまでもファンタジーです。
こんなことあるわけないと思われるかもしれませんが、そのとおりです。
実際にはあるわけありません。
ですので、ファンタジーとしてお読みいただければと思います。
それではどうぞ。
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
息が切れる。
足がもつれる。
も、もうだめ・・・
もう走れない・・・
でも・・・
でも・・・
死にたくないよぅ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
私は一本の樹にもたれかかる。
もうだめ・・・
もう走れない・・・
思わずへたり込んでしまう私。
よく見ると足はもうぼろぼろ。
靴は泥だらけだしストッキングも穴が開いている。
服だってあちこちに破れたところがある。
最悪だわ・・・
そう思ってから私は首を振った。
違う・・・
最悪なんかじゃない。
最悪だったのは捕まった人たち。
ソ連軍に捕まったら生きてはいられない。
陵辱されて殺されるだけ。
わかっていた。
わかっていたはずなのに・・・
そんなことが起こるなんて考えもしなかったんだわ。
“ドイツ処女団”の団員だった私は、志願して空軍婦人通信補助員としてこのソ連の大地にやってきた。
私たち選ばれたドイツ国民は、偉大なる総統閣下の指導の下、生存圏を東方に伸ばして帝国千年の礎を作るんだって聞かされてこんなところまでやってきたのだ。
でも・・・
こんなところに本当に帝国の未来があるというの?
ここにあるのは血なまぐさい生と死だけ。
わかっていたはずなのに・・・
わかってなかったんだわ。
とにかくこうしてはいられない。
ソ連軍の大規模な反撃で前線は崩壊。
私たち空軍補助部隊のいる後方だったはずの場所もソ連軍が襲ってきた。
みんなと一緒に逃げ出した私だったけど、いつしか散り散りになってしまい、今ではこんな森の中に私一人。
とにかく味方のいるところに行かないと。
ソ連軍に見つかったら殺されちゃう。
私は疲労と恐怖で震える足を何とか奮い立たせ、味方の姿を求めて歩き出す。
もうすぐ日が暮れる。
夜の森は恐ろしい。
幸い、あと少しでこの森は切れるはず。
森を抜ければ味方の姿も見えるかも。
とにかく西へ向かって歩かなきゃ・・・
「ハア・・・ハア・・・」
ようやく森の切れ目が見えてきたわ。
道路に出れば味方の車両に出会えるかも。
私はそう思いながら足を速めた。
すでに悲鳴を上げている足を引きずるようにして、私は森を抜け出した。
「止まれ! 何者だ?」
森を抜け出したところで私はいきなり脇のほうから声をかけられた。
一瞬ビクッと身をすくめたが、相手の言葉がドイツ語だったことにホッとする。
「う、撃たないで! 私はドイツ人です」
言ってから私は後悔した。
もしかしたら、ソ連兵がドイツ語で話しかけたかもしれないのだ。
私は背筋に冷たいものが走るのを感じながら、両手を挙げて振り向いた。
振り向いた私の目に入ったのは、灰色に塗られた四角い戦車だった。
長い砲身がまるでにらみつけるように伸びており、車体には機関銃が付いている。
そしてその脇にいたのは黒い服を着た戦車兵。
拳銃を持って私に向けている。
私はそのことが気にはなったものの、急速に力が抜けていくのを感じていた。
味方だわ。
味方の戦車だわ。
助かった。
「ド、ドイツ人? 君のような女の子がどうして?」
黒服の戦車兵が驚きの表情を浮かべながらも拳銃をしまう。
どうやら信じてくれたらしい。
「わ、私は空軍補助部隊のヘレーナ・ゲルトマイヤーといいます。ソ連軍の攻撃で仲間とばらばらになってしまって・・・手を下ろしてもいいですか?」
私は彼に自己紹介する。
私のことを女の子だなんて言ってたけど、彼だって充分に若い。
せいぜい24、5歳ってところだわ。
制帽からはみ出た茶色の髪が結構素敵。
「あ、ああ、いいよ。俺はディーター・ミューラー。第三装甲師団の先遣隊としてこの近くまで来たんだが、待ち伏せにあってしまってな・・・」
思わず目を伏せるミューラーさん。
きっと彼もソ連軍につらい目に遭わされたんだわ。
「う・・・うあぁ・・・」
「おい、カール! しっかりしろ! カール!」
突然戦車の脇のほうで声がする。
気が付かなかったけど、そちらには横たわった人とかがんだ人がいたのだ。
「おい、カール! すぐに野戦病院へ連れて行ってやる。死ぬな!」
ミューラーさんもすぐにそっちへ駆け出して行く。
私も思わず駆け寄った。
「ひっ!」
私は息を飲んだ。
地面に横たわった人は右腕をもぎ取られていたのだ。
血の気のない青白い顔をして苦悶の表情を浮かべている。
「カール! カール!」
「だめです少尉・・・死にました・・・」
脇で片ひざをついていた人が首を振る。
見ると彼自身も片腕を怪我している。
私は思わず目をそむけてしまった。
「くそっ! イワンめ!」
ミューラーさんが地面を蹴る。
部下が亡くなったことが悔しいのだろう。
ソ連軍は悪魔だ。
奴らは人間じゃない。
「対戦車銃にやられたんだ。無線手のエリッヒも・・・」
二人も?
それじゃ・・・この戦車は?
「少尉、燃料補給終わりました。ありゃ? そちらの人は?」
戦車の後ろ側にいたのか、もう一人の戦車兵が顔を出す。
「ご苦労さん。この人はゲルトマイヤーさんだ。空軍の補助部隊の人で味方とはぐれちまったらしい。俺たちと同じさ」
えっ?
今なんと?
俺たちと同じ?
えっ?
彼らも迷子なの?
「そうでしたか。とにかくこれで燃料は満タンです。充分味方のところまで戻れますよ。まだ同じところにいてくれればですがね」
「そうだな。いったん戻って出直しだ。まだあちこちに味方が孤立しているはずだし、カールとエリッヒの仇も取ってやる」
ミューラー少尉がこぶしを握り締めている。
「カール・・・だめでしたか」
「ああ・・・こいつの装甲が弱すぎる。砲塔側面ハッチを狙われたらどうにもならん」
そうなの?
こんなにがっしりとした戦車なのに。
充分強そうなのに。
「なんせ旧式の三号F改修型ですからね」
「主砲も短砲身だからな。だが、新型のJ長砲身でもT-34には威力不足だ」
ミューラー少尉が首を振る。
T-34というのはソ連軍の戦車のことだろう。
あの斜めの装甲の戦車のことだろうか。
「そういえば紹介が遅れたな。こいつはハンス・ブレーマー伍長。操縦手だ」
「よろしく」
ハンスさんが頭を下げる。
ちょっと小柄でいろいろと器用そうな人だ。
「あっちがヨハン・エステンベック軍曹。装填手だ」
「よろしく。お嬢さん」
先ほどの右手を吊っている人が、右手を上げようとして苦笑した。
「はじめまして。ヘレーナ・ゲルトマイヤーです。よろしくお願いします」
私はあらためて三人に頭を下げた。
「とりあえずカールを埋葬したら飯にしよう。腹が減ってたら気分も滅入る」
そう言ってミューラー少尉はスコップを取り出す。
私も手伝おうとしたが道具がないと断られたので、仕方なく近くからいくつか花を摘んできた。
さすがにソ連でも五月になれば花もあちこち咲いている。
私は真新しい墓に花を供え、そっと彼らの冥福を祈った。
「どうします? 味方の前線まで10キロって所だと思いますが、夜のうちに動きますか?」
ハンスさんがミューラー少尉に話しかける横で、私はパンにかぶりついていた。
軍用パンにバター代わりの缶詰の肉を塗っただけの食事だけど、私にはすごく美味しく感じられた。
なんだかあらためて生きていることを感じさせてくれる。
すでに日はとっぷりと暮れ、周囲には漆黒の闇が広がっていた。
「そうだな。難しいところだがそのほうがよさそうだ。夜陰にまぎれて脱出しよう。もっとも、このあたりは敵味方の部隊が入り混じっているから、味方の対戦車砲にやられかねないが・・・」
「その可能性よりも、昼間動けば敵戦車に捕捉される可能性のほうが高そうですぜ」
ヨハンさんが不自由そうに左手でパンを食べている。
「ああ、そう思う。食事を終えたら出発しよう」
どうやら決まったらしい。
歩かなくてすむのは助かるわぁ。
「えっ? ここって大砲の真横なんですけど」
戦車の中に乗るように言われて私は驚いた。
さらにその席が大砲の真横なのだ。
「そうだよ。そこは砲手席だ。カールがいなくなったからそこに座っててくれ。ヨハンはその手じゃ無理だろうから通信手席に着け」
「了解」
ハンスさんが操縦手席に着き、その横にヨハンさんが座る。
「え、ええ?」
私は砲塔の中で大砲の真横に座り、大砲の真後ろにミューラー少尉が座るのだ。
「わ、私、外でもいいんですけど・・・」
戦車の中ってすごく狭い。
足のところやお腹の辺りにハンドルやらなんやらがいっぱいある。
「これをかぶってろ」
ミューラー少尉が差し出したのはヘルメット。
「頭ぶつけたら怪我するからな」
「は、はあ・・・ですから私外でも・・・」
「いいから座って、それをかぶってろ」
「は、はい」
私は何も言えずにヘルメットをかぶる。
うう・・・
重い。
これってこんなに重いの?
つらいよー。
- 2008/12/12(金) 20:38:51|
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終わりました・・・
阪神の四連敗で終わりました・・・
これほど一方的になるとはなぁ。
また来年頑張りましょう。
もう一つ大ボケしちゃいましたねー。
昨日のゴキブリ女さんのSSで蜘蛛女さんやゴキブリ女さんがしゃべる時に怪人特有のうなり声を入れるのをすっかり忘れておりました。
修正しましたのでご容赦を。
今日は先日の空風鈴ハイパー様のリクエストに応えてみようと思います。
ちょっとお付き合いいただけると嬉しいです。
「軍曹、ミューラー軍曹、出撃命令です。」
愛車のエンジンルームの上で寝そべっていた俺にシュミットが声を掛けてくる。
俺は顔に載せていた黒いベレー帽を取り上げて起き上がった。
「出撃命令?」
「はい、いよいよ開戦ですよ。今度は延期は無いでしょう」
シュミットは意気揚々とした表情でそういった。
「ふん・・・始まるか・・・」
俺は砲塔に登ってハッチを開けもぐり込む。
こうして俺の、いや、俺たちの戦争が始まった。
1939年9月、俺たちはポーランドに侵攻した。
ポーランドが我が国の要求を受け入れず、わが国に対して攻撃を仕掛けてきたらしい。
嘘かホントかなどはどうでもよかった。
大事なのは目の前に現れるポーランド軍を撃破することのみだ。
俺はシュミット、ハイドマンの両名と一台の二号戦車に乗り込み、ポーランドの平原を駆け抜ける。
「ミューラー軍曹、第二十歩兵師団が攻撃を受けているようです。われわれは支援に向かうとのことです」
ヘッドセットをつけたハイドマンが無線の指示を伝えてくる。
「了解だ、小隊長車に続け」
俺はハッチから身を乗り出して指示を伝える。
先頭の一号戦車が道を外れ、俺たちはそのあとに続く。
友軍の危機を放置することはできない。
待っていろよ。
「あれだ・・・」
俺は驚いた。
第二十歩兵師団はかなりの痛手を受けている。
我が軍の歩兵たちが右往左往する中をあの勇猛なポーランド騎兵が蹂躙しているのだ。
俺は血が上った。
あんな時代遅れの騎兵たちに負けるわけには行かない。
「シュミット! 全速だ。歩兵の援護をするぞ!」
俺はハッチを閉めて機関砲と機関銃のセットをする。
こいつならばむき出しの騎兵などは蹴散らせるだろう。
俺たちの戦車は小隊と一緒にポーランド騎兵たちに突っ込んでいった。
第二十歩兵師団の損害は思った以上に大きかったようだが、ポーランド軍は後退していった。
驚いたことに彼らは生身で戦車に立ち向かってきたのだ。
雄々しくサーベルを振り上げて突撃してくる彼らを俺は機関砲と機関銃でなぎ払った。
中にはサーベルで切りつけて来る奴もいたが、戦車の装甲を切り裂くことなどできはしない。
勇猛果敢ではあったが、彼らには後退しか道は無かった。
「ふう・・・」
戦闘終了後エンジンルームに寝そべって俺はタバコをふかす。
今日の戦いは終わった。
だが、この戦争はまだ始まったばかりだった。
[1939ポーランド]の続きを読む
- 2005/10/26(水) 22:27:49|
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