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舞方雅人の趣味の世界

あるSS書きの日々

グレイバー蛇足(4)最終回

グレイバー蛇足の最終回です。
盛逸司令の生まれ変わった姿を楽しんでいただければと思います。

読み終えましたらぜひぜひ感想を下さいませ。
面白かった、つまらなかった、どんな一言でも結構です。
よろしくお願いいたします。
それではどうぞ。

4、
ふふふ・・・
皮肉なものね。
さっきまではこの衣装のもたらす気持ちよさにぼうっとなったけど、被せられたヘルメットの痛みが私の頭をすっきりさせてくれたわ。
こんな衣装に負けるものですか。
私はヘルメットの後ろにたれたサソリの尾が、背中に張り付いていくのを感じながらグレイバーたちをにらみつける。
バイザーにさえぎられていることをまったく感じさせない私の視界。
背中に張り付いた尾は、そのままシュルシュルと伸びてお尻を超え、私の足元ぐらいまでの長さになる。
その先端からは強力な毒液が滴っていた。
うふふ・・・
この毒液なら象でも一刺しで死ぬわね。
私は何となく嬉しくなる。
ああ・・・早く躰の自由が利くようにならないかしら・・・

「ふふふ・・・なかなか似合っているじゃない。素敵よ」
インビーナが私を見下ろして笑っている。
それはどうも。
でもね・・・
躰の自由さえ利けば、こんな衣装はすぐに脱いで・・・
脱いで・・・
ああ・・・
これを・・・脱ぐ・・・?
こんなに私にピッタリなのに?
こんなに私を力強い存在にしてくれるのに?
脱いでしまうの?
ああ・・・
ど、どうして・・・

「ふふふ・・・しばらくおとなしくしているのね。お前たち、もういいわ。部屋で待機しなさい」
「「ルーィ!」」
グレイバーを下がらせるインビーナ。
二人のグレイバーはインビーナに敬礼をすると、部屋から出て行ってしまう。
本当にあの二人は秋奈ちゃんと美智代ちゃんなのか?
それを確かめることすらできなかった。
「こんな格好をさせてもあなたの思い通りにはならないわ。ヘルメットを被せられたときに感じた痛みで、あなたの洗脳は解けちゃったわよ」
そうだ・・・
確かにあのままでは危なかったかもしれない。
この衣装の気持ちよさに取り込まれていたかもしれないわ。
でも、今は違う。
頭もはっきりしているわ。
私はセーバーチームの・・・
セーバー・・・チームの・・・?
セーバー・・・チーム・・・の・・・
私は・・・?
私は?

「ふふふ・・・それはどうかしらね。言い忘れていたけど、あなたの躰に打ち込んだ薬はもうすぐ切れるわ。そうなれば躰の自由も利くはず」
インビーナの言葉に私は顔を上げた。
躰の自由が利く?
そうなればここを脱出してセーバーチームに連絡を・・・
その前に・・・
「そうなればその衣装を脱ぐのも、ここから出て行くのも自由よ。私たちは邪魔はしないわ。この部屋の鍵も開けておいてあげる」
「な、何をたくらんでいる?」
「何も・・・お前がどうなるのか、見ものだわ」
インビーナが出て行こうと背を向ける。
「待って!」
私は呼び止めてしまった。
「なんだ?」
インビーナが振り向く。
私は唇を噛み締めてこう聞くしかなかった。
「教えて・・・私の・・・私の名前は、なんと言うの?」
「ふっ」
酷薄そうなインビーナの笑み。
「それをじっくり思い出すのね。そのうちわかるわ」
「ま、待って! 待って!」
私の目の前で扉は閉じられた。

一人になった部屋で私は考え込む。
どうして?
どうして名前が思い出せないの?
私がどうしてここにいるのか、私がセーバーチームのどういう位置にいるのか、それはちゃんと思い出せるのに・・・
私には妹がいたのも覚えている。
名前はインビーナ。
今では暗黒結社ルインの女幹部となっているわ。
私は彼女に従って・・・
従って?
ああ・・・
頭が混乱している。
何がなんだかわからない。

カリカリカリ・・・
小さな音がする。
「ん?」
私はあれ以来床に寝かされたままだったが、首を動かして音の方を見てみた。
首が、動く・・・
躰が動き始めたんだわ。
私は手足を動かしてみようと力を込める。
きりきりきり・・・
また音?
私はすぐにそれが何かを悟った。
私の左手の爪が床を引っかいたのだ。
鋭い私の爪が床を削った音だったのだ。
私は左手を持ち上げて握ってみる。
握れた。
動かせるようになったんだわ。
次は右手。
大きなハサミを私は開く。
すぐに私の思い通りにハサミは開き、そして閉じられる。
カシッという硬質な音がハサミの硬さを教えてくれる。
どんなものでもへし折れそうで気持ちがいい。

ふう・・・
考えても仕方がないわ・・・
インビーナはいずれ思い出すって言っていたわ。
ならば、思い出すまで待つだけよ。
私はあらためて上半身を起こして室内を確認する。
よく見ると部屋の一角にはベッドやソファーもある。
これならゆったりくつろぐこともできそうだわ。
私は躰が動くことを確認するために立ち上がる。
外皮がつややかに輝いて美しい。
「ん」
両手を上に上げて伸びをする。
動かなかった筋肉がほぐれてとても気持ちいい。
「ふあぁ」
思わず声も出てしまう。
しばらく躰を動かしていなかったからね。
少し躰を動かさないと。
私は少し屈伸をしたあと、右手のハサミを振り上げ、すぐに左手の爪で獲物の喉をかき切るまねをする。
さらに見えない相手に蹴りを入れ、尖ったヒールが肉に食い込むさまを想像する。
ふふ・・・
気持ちいい・・・
これならいつでも戦えるわね。
すぐにでもセーバーチームに・・・

えっ?
私は思わず立ち尽くす。
セーバーチームに?
私は・・・
私は何をするつもりなの?
私は・・・いったい・・・
私はよろめくようにソファーに腰を下ろす。
ふかふかのソファーは私のお尻の尻尾もちゃんと優しく受け止めてくれる。
とりあえず落ち着くのよ。
今の私は混乱している。
OK、それははっきりしているわ。
きっと躰を動かなくしていた薬だかフィールドだかのせい。
それ以外におかしなところはない。
私の躰だって滑らかな硬い外皮が守ってくれているから傷一つない。
えーと・・・
躰が動いたら何をするつもりだったか思い出すのよ。
そう、脱がなくちゃ・・・
脱ぐ?
何を?
何を脱ぐというの?
脱ぐものなんてありはしないわ。
私の躰を覆うのは硬い外皮だけ。
人間どものようなくだらない衣服など身につけないもの。
私はいったい何を脱ぐつもりだったのかしら・・・

私は尻尾の先を器用に引っ掛け、クーラーボックスを開ける。
一般のサソリは尻尾の先が膨らんでいるけど、私の尻尾はどちらかというとムチに似ている。
先端の膨らみはごくわずかで、先端には鋭い針がついているのだ。
その先端部分を引っ掛けるようにすれば、クーラーボックスの扉を開くぐらいはわけはない。
クーラーボックスの中には見慣れた赤い缶。
私はそれを取り寄せると、プルを開けて中身を飲む。
コーラ特有の炭酸が喉を焼いて気持ちいい。
きっと頭もすっきりするはず。

OK。
もう一度考えて見ましょう。
まず始めに重要なこと。
私は何者?
私は・・・
私はスコーピオンルイン。
ルインビーストの一員。
ルインのしもべ。
うふふ・・・
そうよ、私はルインのしもべ。
ルインビーストの一員だわ。
どうして今まで気付かなかったのかしら。
あははは・・・
バカみたい。
私はスコーピオンルイン。
スコーピオンルインよ。

うふふ・・・
そうだわ。
私ったら何を考えていたのかしらね。
私の使命は決まっているじゃない。
セーバーチームを倒すこと。
セーバーチームの司令という記憶を生かして、奴らを抹殺する。
それこそが私の使命であり存在意義でもあるのよ。
ふふふ・・・
おろかなセーバーチーム。
ルインに歯向かった代償を身を持って知るがいいわ。

******

「がはぁっ!」
私のハサミの一振りで柱に叩きつけられるセーバーグリーン。
ここはセーバーベースの司令室。
いいえ、もはやその残骸といった方が相応しい。
「う・・・あ・・・ど、どうして・・・」
壊れた機器類の間に倒れたセーバーブルーが、壊れたヘルメットに包まれた顔を上げる。
「ルーィ・・・可哀想なお兄ちゃん。ルインに歯向かったりするからいけないんだよ」
哀れむようにそう言いながらも口元には笑みが浮かんでいるグレイバー320号。
かつてあの男の妹だったらしいが、そんなことは意味が無い。
それどころか、ルインに歯向かった者の末路を楽しんでいるに違いないわ。
そう、それは私も同じこと。
ここがかつて私のいた場所だなんて思えない。
こんな連中はさっさと始末してしまわないと。
「秋奈ちゃん・・・目を覚まして・・・司令も・・・」
私の足元に転がったセーバーレッドが手を伸ばしてくる。
いまいましい蛆虫め。
まだくたばっていなかったのか。
肉体的に痛めつけるのが楽しかったから毒を使わなかったけど、もういいわよね。
「ルーィ・・・私はもう秋奈じゃないって言ってるじゃないですか。私はグレイバー320号。あっちにいるのがグレイバー387号。そして、こちらのお方がスコーピオンルイン様。最強のルインビーストなんですよ」
「320号、説明は不要よ。このようなクズどもに理解できるはずがないわ」
私はそう言うと、セーバーレッドのスーツの裂け目に尻尾を滑り込ませ、先端の針を差し込んで毒を注入する。
「ふぁがっ!」
意味不明の叫び声をあげ、一瞬で絶命するセーバーレッド。
ああ・・・
なんて気持ちがいいのかしら。

「ふふふふ・・・セーバーチームもお終いのようね」
カツコツと足音を響かせてインビーナ様が姿を現される。
「これはインビーナ様。このようなところへようこそ。残り二体の始末ももうすぐですわ」
私はセーバーレッドの死体から尻尾を引き抜くと、柱を背に倒れているセーバーグリーンに向かう。
ブルーの始末は320号に任せてもいいだろう。
「うふふふ・・・これほどとは思わなかったぞスコーピオンルイン。お前を選んだのはやはり正解だったな」
「ああ・・・お褒めのお言葉ありがとうございます。とても嬉しいですわ、インビーナ様」
私はゾクゾクするほどの心地よさに打ち震え、セーバーグリーンの首を柱ごと右手のハサミで挟みこむ。
「この者の首、インビーナ様にお捧げいたしますわ」
私は右手に力を込める。
バキッという音とともに柱が砕け、床一面が赤く染まる。
「あははは・・・この司令室がセーバーチームの墓場となるとはな。こいつらも本望だろう」
インビーナ様の高笑いが破壊された司令室に響く。
私はそれを聞きながら、足元に転がって来たものを踏み潰す。
グチャッという音がインビーナ様の笑いをさらに高め、私は満足感とともにその笑いに聞き惚れていた。
  1. 2007/08/05(日) 19:26:29|
  2. グレイバー
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グレイバー蛇足(3)

3回目となります。
それではどうぞ。

3、
「和泉? 本当に・・・和泉な・・・の?」
「さっきからそう言っているわ。聡明なお姉ちゃんならわかるでしょ」
ああ・・・
あの笑顔だわ・・・
明るく暖かな和泉の笑顔・・・
ああ・・・
でも・・・
でも・・・
「和泉・・・どうして・・・」
どうしてあなたはルインの手先に・・・

「うふふ・・・私は選ばれたの」
「選ばれた?」
和泉の顔には誇りが満ちている。
「そう。私はルインに選ばれた。ルインによって生まれ変わったの。森嶋和泉は確かにあの時死んだと言ってもいいわ。今の私はルインの女幹部インビーナ」
クッ・・・
私は唇を噛む。
せっかく和泉に会えたというのに・・・
和泉が生きていたというのに・・・
「和泉、目を覚まして! あなたはルインに利用されているだけだわ! あなたはインビーナなんかじゃない! 森嶋和泉なのよ」
「あはははは・・・違うわ。この衣装を見て。素晴らしいでしょ? 私はインビーナ。ルインの女幹部インビーナ。森嶋和泉なんて女なんかじゃないのよ」
和泉は今の自分をよく見て欲しいかのように立ち上がってくるくると回って見せる。
黒のアンダーウェアが躰に張り付き、赤いアーマーがこの暗がりでも輝いている。
私はそれを複雑な思いで見るしかない。
「和泉・・・あなたはもう・・・」
私は首を振った。
和泉はやはりあの時死んだのだ。
ここにいるのは暗黒組織ルインの女幹部インビーナ。
もう・・・
もう私の妹じゃない・・・

「そんな顔をしないでいいわ。もうすぐお前もルインの一員になるのだから。」
すっかりインビーナとしての冷たい笑みを浮かべ、彼女は私を見下ろしてくる。
「なっ?」
どういうこと?
私もグレイバーにするつもり?
「秋奈ちゃんや美智代ちゃんと同じく私もグレイバーにするつもり? あいにくだけど私は彼女たちとは違うわよ」
どうやったかはわからないけど、黙ってルインの言いなりにはならないわ。
彼女たちオペレーターと違って、私は正規の訓練を受けているんですからね。
拷問や自白剤などに対する訓練だって受けているわ。
「ふふふ・・・お前はグレイバーなどにはしないわ。お前は私の姉。能力だってそれ相応なもの。時と場合によってはお前こそがインビーナになっていた可能性だってあったのよ」
そんな・・・
冗談じゃないわ。
誰がルインの手先なんかに・・・

インビーナがパチンと指を鳴らす。
今まで後ろに控えていたグレイバーが、先ほどインビーナに渡された包みを再度インビーナに手渡した。
「ふふふ・・・これをご覧」
インビーナが包みを広げて見せる。
「な、」
私は言葉を失った。
広げられたそれはインビーナの着ているような全身を覆う漆黒のウェアだったのだ。
しかも、胸と腰周りには赤茶色の硬そうなアーマーが付いている。
インビーナの着ているものと違うのは、そのアーマーの面積がほぼ上半身全体を覆うようになっているらしいのと、頭からすっぽり被るヘルメットのようなものがあることだ。
「ふふふ・・・これはルインビーストのスーツさ。お前はこれを着てわがルインのルインビーストになってもらう」
まさか・・・
そんなバカなことが・・・
これを着せられたら暗黒組織ルインの怪人になってしまうというの?
そんなバカな・・・
「ふふふ・・・信じられないみたいね。でも、お前たちセーバーチームが倒してきたルインビーストは全てこのスーツによって生まれ変わった女性たちだったのよ」
インビーナの言葉に私はショックを受ける。
なんてこと・・・
グレイバーも怪人も、もとはみんな人間だったなんて・・・
中枢部の連中は知っていたの?
知っていて隠していたの?
なんてこと・・・
そんなことって・・・

「グレイバー320号、387号。このスーツをあの女に着せなさい。優しく着せるのよ」
「「ルーィ!」」
右手を胸のところで水平にするルインの敬礼を躊躇いなく行い、グレイバーとしての鳴き声も出す二人。
もうあの娘たちはグレイバーになってしまった・・・
そして、あのスーツを着せられたら・・・
私もルインの化け物になってしまうというの?
「クッ」
私は必死に躰を動かそうとする。
お願い。
少しでもいいから動いて!
でも、私の躰はピクリとも動かない。
首から下はまるで鉛の塊のよう。
どうしたらいいの・・・

「ふふふ・・・盛逸司令、おとなしくしてくださいね。もっとも、身動きできない状態でしょうけど」
グレイバーの黒く塗られた唇が妖しく微笑んでいる。
これがあの優しくて兄思いの秋奈ちゃんだなんて信じられない。
「クッ、やめて! やめなさい二人とも! 目を覚まして!」
私はどうにもならない躰に歯噛みしながら、何とか思いとどまってもらおうとする。
でも、二人は手際よく私のブラジャーばかりかショーツまでも脱がせてしまった。
ああ・・・
私は思わず目をつぶる。
恥ずかしさと悔しさとで言葉が出ない。
どうしてこんな目に遭わなければならないの?
お願い・・・
誰か助けて・・・

私の右足がそっと持ち上げられる。
「えっ?」
私は何をされるのかと思わず目を開けてしまった。
「あっ」
私の目の前には、グレイバーが広げた漆黒の全身タイツのようなスーツがあった。
その背中の部分は広げられ、そこに私の右足が通されようとしていたのだ。
「いやぁっ! お願い、やめてぇっ!」
私はもう、ただ叫ぶ。
秋奈ちゃんや美智代ちゃんがグレイバーになってしまったのと同じように、このままでは私もルインビーストにされてしまう。
そんなのはいや。
そんなのはいやよぉ・・・

「ヒッ」
すべすべした肌触りが私の右足を伝ってくる。
私の右足がスーツのタイツ部分に滑り込むように入れられていくのだ。
何これ・・・
それは今まで穿いたどんなストッキングやタイツよりも肌触りがよく感じる。
うああ・・・
背筋をゾクゾクとさせる快感・・・
そう、これは快感だわ・・・に私は声を失った。
「ふふふ・・・気持ちいいでしょ? お姉ちゃん」
相変わらず冷たく妖しい笑みを浮かべているインビーナ。
その視線が私を絡め取っていた。
「ああ・・・何これ・・・」
するすると右足が覆われる。
見た目はゴムのラバースーツのような感じさえしたのに、まったく皮膚に張り付く感じがしない。
でも、適度な圧迫がスーツを着ているという快感を私に伝えてくるのだ。
「次は左足ですよ。盛逸司令」
「ああ・・・」
私はグレイバーたちのなすがままに左足を持ち上げられる。
そして、右足と同じようにスーツに左足が通される。
ああ・・・
気持ちいい・・・
気持ちいいよぉ・・・
私はもう何も考えられない。
ただただ、この快感をもっと味わっていたい。
躰が動かないことなんて、もうどうでもよかった。

両足を通されたスーツは私の太ももまでを覆い、ピッタリと密着する。
腰を浮かせられ、股間と腰周りをスーツに覆われた私は、下半身を走るゾクゾクする快感にもう翻弄されっぱなしだった。
やがて二人のグレイバーは私の右腕、次に左腕をスーツに差し入れ、肩を覆うようにして胸と腹部をスーツに密着させる。
「どうですか盛逸司令? 着心地は?」
「はあん・・・ああ・・・いいです・・・」
まるで夢を見ているみたい。
こんな気持ちいいスーツは生まれて初めてだわ。
「もっと締め付けられたいですか?」
グレイバーの問い掛けに私は無言でうなずく。
もっとこのスーツに包まれたい。
私はそう思ったのだ。
すると、きゅっと背中が引き締まる感じがして、胸と首周りが密着した。
「ふふふ・・・背中の開口部が閉まりましたよ。盛逸司令は自らこのスーツを着たんです」
そう・・・なの?
私自身で?
ああ・・・
気持ちいい・・・

「さあ、パーツを付けますね」
グレイバーたちの手には赤茶色の硬質な素材で作られたようなブーツや胸当てが握られている。
あれを私に付けるんだ・・・
私はぼんやりとそう思う。

真っ黒に覆われた私の足。
その足を伸ばして赤茶色のブーツが履かせられる。
ひざまで届くロングブーツは、つややかに光ってつま先も細くヒールも高くてかっこいい。
両足ともブーツに覆われると、私の足は黒と赤茶色のコントラストが素敵だった。
「うふふ・・・感じますか? つま先もヒールの先までも司令の足と一体化したのが」
えっ?
一体化?
ああ・・・
そう言われれば感じるわ。
このブーツが私の足。
つま先もヒールも私の躰なんだわ・・・

グレイバーたちは次に私の腰周りを覆うアーマーと、胸当てを付けて行く。
それらが付けられるたびに、私の躰は赤と黒に染められていく。
そして、右腕の先には、先端が左右に広がる大きなハサミになっている手袋が付けられる。
「慣れるまでちょっとかかるかもしれないですけど、慣れればまったく違和感なくなりますよ」
ああ・・・そうなのかしら?
私は嵌められた右手を動かしてみるが、やはり躰の自由がまだ利かない。
「左手は指先が鋭い爪になっています。獲物を引き裂くには好都合ですよ」
左手にも肘まで覆う赤茶色の手袋が嵌められて、つややかな爪が光っていた。
「うふふふ・・・最後はヘルメットですよ」
そこだけが覗く黒く塗られた唇に笑みを浮かべ、グレイバーは赤茶色のヘルメットを私の前に差し出した。

それは奇妙なヘルメット。
耳まで頭部をすっぽり覆う形をし、目のところが黒いバイザーになっている。
よく見ると、ヘルメットの上にサソリがへばりついているような形をしており、後ろにはサソリの尻尾がたれていた。
バイザーの部分はサソリの両のハサミが保持するような形になっていて、つまり被ると頭の上にサソリが乗る形となる。
私はそれを奇妙な思いで眺めていた。
被せて欲しい・・・
早くあれを被りたい・・・
あれと一体になりたい・・・
私はそんなことを思っていたのだ。

「あ・・・」
私の頭にヘルメットが被せられる。
短くした肩までの髪もヘルメットに包み込まれ、バイザーに覆われた私の視界が真っ暗になった。
「あうっ」
私の頭に激痛が走る。
まるでヘルメットに付いたサソリの脚が、私の頭に食い込んだかのよう。
八つの針が頭に刺さったみたいな痛みに私は頭を押さえようとしたけど、手足はまったく動かない。
反射さえも抑えられているんだわ。
いけない・・・
なんかぼうっとしちゃっていたわ・・・
こんなものを着せられてぼうっとしちゃうなんて・・・
どうやら痛みは治まったみたい。
目を開けたせいか、周りもよく見えるわ。
この部屋ってこんなに明るかったのね。
気がつかなかったわ。
  1. 2007/08/04(土) 19:36:39|
  2. グレイバー
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グレイバー蛇足(2)

「グレイバー蛇足」の二回目です。
それではどうぞ。

2、
ひんやりした暗い空間。
ここはいったい?
「くっ」
私は起き上がろうとして、躰の自由が利かないことに気がついた。
頭ははっきりしているし、首をめぐらせることもできるのだけど、手足はまったく動かない。
しかも、あろうことかスーツを脱がされ下着だけにされている。
これは確かに女を監禁するにはいい手段だわ。
下着だけしか身に着けていないなら、なかなか女は逃げ出せないもの。
私はそんなこと気にしないけど、手足が動かないのはどうにもならないわね。

「気が付いたようですね。盛逸司令」
闇の中から声がする。
振り向くと、ゆったりとした足取りで二体のグレイバーがこちらにやってきた。
口元だけを覗かせたマスク付きのレオタードにストッキングを身に付け、薄く笑みを浮かべている。
私をずっと監視していたということね。
「387号、インビーナ様に連絡を」
先に近づいてきたグレイバーが後ろのグレイバーに指示を出す。
「ルーィ!」
胸のところで右手を水平にし、直立不動になってしまう後ろのグレイバー。
いったい何を?
「ルーィ! 320号、インビーナ様に連絡いたしました。用意を終えたらすぐにこちらにいらっしゃるとのことです」
「ルーィ! 了解したわ。インビーナ様がご到着なさるまで私たちはこの女を監視します。いいわね」
「ルーィ!」
二人のグレイバーは互いに敬礼らしきものを交し合う。
くぅ・・・
躰の自由さえ利けば・・・
それにしても・・・
このグレイバーの声・・・
どこかで・・・

「もうすぐインビーナ様がいらっしゃいます。おとなしくしていてくださいね、盛逸司令」
「人違いだ。私は・・・」
「うふふ・・・ごまかしは無駄ですよ盛逸司令。私も387号もあなたのことはよく知っているんですから」
「何?」
私は時間稼ぎに別人を装おうとしたけれど、よく知っているとは?
「だめですよぉ、盛逸司令。一人でのこのこご自宅へ帰るなんて。しかも、以前の私が持っていた通信機にあっさりと引っかかるなんて」
ば・・・かな・・・
やはりこのグレイバーは・・・
秋奈・・・ちゃん?
「まさかあなたは・・・あなたは粟端秋奈なの?」
私は聞かずにはいられない。
まさか・・・
まさかまさか・・・
人間がグレイバーに?
研究部から漏れ出たうわさは本当だったの?
「うふふふ・・・それは以前の私の名前。私がくだらない人間だったときの名前ですね。でも今は違うんですよ。私はグレイバー320号。ルインの忠実なるしもべなんです。お前もそうよね、四釜美智代さん?」
そう言って背後のグレイバーに振り向く目の前のグレイバー。
「ルーィ。それは昨日までの私の名前です。今の私はグレイバー387号。320号のおかげで私は生まれ変わりました。すごく幸せです。ルインに栄光あれ」
私は目の前が暗くなった。
血の気が引いたことがよくわかる。
なんてこと・・・
セーバーチームのオペレーターがグレイバーになってしまった?
そんなことがありえるの?
信じられない・・・
いったいどういうことなの?

「ふふふ・・・こんばんは。セーバーチームの盛逸司令」
インビーナ!
私はありったけの憎悪を込めた目で彼女をにらみつける。
いつの間に入ってきたのか知らないが、小脇に何かを抱え、口元に笑みを浮かべたその顔を、私は唇を噛み締めながら見据えてやった。
「ふふふ・・・いい表情だわ。さすがはセーバーチームの司令官ね」
小脇に抱えていたものをグレイバーに手渡し、私のすぐそばまでやってきて私を見下ろしてくる。
悔しい悔しい・・・
躰の自由さえ利けば、この女を今すぐにでも殺してやりたい。
この女は・・・
この女は・・・
「インビーナ! お前は赦さない! その顔は・・・お前のその顔は絶対に赦せない!」
私は必死に躰を動かそうと試みる。
せめて脚だけでも動かせれば・・・
でも、私の躰はピクリとも動いてはくれない。
悔しい・・・

「ふふふ・・・この顔が赦せない? 私の顔がどうして赦せないのかしら?」
それは・・・
私は唇を噛む。
ニヤニヤと私を見下してくるインビーナの顔。
それは私にとってはこれ以上ない屈辱。
かつてその顔は・・・
「言えないか? ならば私から言ってやる。お前はこの顔が妹の顔に瓜二つだから赦せないのだろう?」
グ・・・
やはりそういうことか・・・
私は動揺しまいと必死に心を落ち着かせる。
しかし、あの事件を忘れることなどできはしない。
「二年前に死んだお前の妹、森嶋和泉(もりしま いずみ)にね。そうでしょう? 森嶋希望(もりしま のぞみ)」
本名まで・・・
防諜と安全のために私が盛逸成実という偽名を使っていることは、本部でも知る者は限られているのに・・・
ルインはどこまで知り尽くしているのか・・・

あの事件・・・
その事を思い出すと今でも私の心は張り裂けそうになる。
あの日・・・
私は和泉とともに訓練に勤しんでいた。
山林内のサバイバル訓練。
私たちはセーバーチームの候補の一人だったのだ。
セーバーチームはあらゆることを求められる。
サバイバル訓練もその一つ。
私たちはペアを組み、迷彩服に身を包んでの野外訓練を楽しんでいた。
厳しく危険な訓練だが、和泉と一緒なら楽しかった。
「お姉ちゃん!」
その時だった。
和泉が切迫した声をあげたのは。

私はすぐに和泉のところへ行った。
和泉の周りには数体のグレイバーがいて、彼女を取り囲んでいた。
「グレイバー!」
私はすぐにサバイバルナイフを構え、和泉を助けに駆け寄った。
ナイフだけでのサバイバル訓練だったので、武器は持っていなかったのだ。
「お姉ちゃん、逃げて!」
和泉もナイフで応戦していたが、とても対抗できるはずがない。
和泉が私を呼んだのは、私には逃げて欲しかったからなのだ。
「クッ」
私はどうにかグレイバーたちをかわして和泉のところへ行きたかった。
でも、グレイバーは私の方にも迫ってくる。
ナイフではグレイバーの服を切り裂くことさえできはしない。
銃弾だって歯が立たないのだ。
ナイフだけではどうしようもない。
「和泉ー!」
私は和泉の名を叫んでいたが、和泉とは離されるばかり。
私はじりじりと追い詰められ・・・
やがて足場を踏み外してがけ下に転落した。

しばらくして気が付くと、あたりはすでに夕闇が迫っていた。
幸い肩関節の脱臼程度で済んでいたが、下に樹木がなかったら死んでいたはず・・・
いや、むしろその方がよかったかもしれない・・・
無傷で済んだ通信機で助けを呼び、自衛隊員たちの協力のもと周囲の捜索が行なわれ・・・
和泉の死体ががけ下から見つかったのだ。

「和泉は・・・和泉はルインに殺された! お前たちに殺されたのよ」
私は叫ぶようにそう言ってインビーナをにらみつける。
視線で相手が殺せるものならば、インビーナは私の視線で焼き尽くされているに違いない。
「ふふふ・・・うふふふ・・・あははははは・・・」
可笑しそうに笑い出すインビーナ。
和泉の顔で笑うその姿に私は耐え難いものを感じる。
「何が可笑しい!」
「ふふ・・・私がこの顔をしているのはどうしてだかわからないの?」
インビーナがすっとしゃがみこむ。
私の顔に顔を近づけ、もっとよく見なさいと言わんばかりだ。
「決まっているでしょう、私を苦しめるため。私を苦悩させ、判断力を低下させるため。でもその手には乗らないわ」
本部の出した結論も、私の出した結論も同じ。
ルインはインビーナにあえて和泉の顔をさせ、生き残った私の無力化を計ったのだ。

和泉の死は私を打ちのめすには充分だった。
セーバーチームは一挙に二人の候補者を失ったのだ。
ルインは本当は私も殺すつもりだったのだろう。
だが、予想に反して私は生き残った。
でも、ただそれだけだった。
怪我が回復しても、私にはもう訓練を続ける気力も何も湧いてはこなかった。
セーバー候補者としての誇りも失せ、和泉を失ったことを嘆くだけの私は、やがて候補者から外される。
ただ、知識とルインに対する怒りとを持った私を本部は司令部要員として配属し、昨年私はセーバーチームの司令官となった。
でも・・・
和泉のことはいつも忘れない。
それどころか、こいつが忘れさせてくれない。
私はインビーナが憎かった。
殺したかった。
躰さえ動けば・・・
「お前たちの作戦は成功したんでしょうね。候補者を二人とも抹消できたのだから」
私は皮肉っぽくそう言ってやる。
セーバーチームは結局今のレッド、ブルー、グリーンが立派に引き継いでいるわ。
ルインの手に引っかかったのは癪だけど、殺されれば和泉に会える。
私の恨みはきっと彼らが・・・

「うふふふ・・・あははははは」
「何が可笑しいの!」
私は目の前で笑うインビーナを怒鳴りつける。
「あはははは・・・ああ、可笑しい」
ひとしきり笑ったインビーナは、驚いたことに私の首に手を回して上半身を抱き起こすように抱え込んでくる。
「な、何を」
私は躰が動かないことにいらだちながらも、なすすべがない。
「うふふ・・・小さい頃は私の方がこうしてお姉ちゃんに抱いてもらったよね」
えっ!
ま・・・まさか・・・
「ねえ、お姉ちゃん。本当に私が死んだと思っていたの? あれは偽者だって思わなかったの?」
偽者?
それは・・・そう思いたかった・・・
でも・・・
でも・・・
がけ下に落ちていた和泉は間違いなく和泉だった。
私が見間違えるはずはないし、がけ下に落ちたにしては死に顔も綺麗で判別が付いた。
信じられなかった。
和泉じゃない。
私はそう思いたかった。
でも・・・
でも・・・
念のために実施してもらったDNA鑑定でも、本人に間違いはないと言われたのよ。
「そう思いたかったわ。絶対違うって思いたかった! でも・・・でも・・・」
私の目から何かがこぼれる。
「うふふ・・・泣いてるの? お姉ちゃん」
「な、泣いてなど・・・」
「あんなの出来損ないを一つ作ればいいだけ。死体でいいなら不完全なクローンで充分なの。DNA検査ぐらいは一致するしね。だから、だまされてくれたのは嬉しいけど、他愛もなく信じてしまうなんてね」
そ・・・そんな・・・
確かにクローンならDNAや血液型は一致する。
でも・・・
そこまでして?
「ねえ、お姉ちゃんは覚えている? 小さい頃学校を抜け出して林に行ったこと・・・」
林?
ああ・・・
和泉は言い出したら聞かないところがあったから・・・
どうしてもウサギに会いたいんだって言って・・・
ウサギを探しに学校近くの林に行ったんだわ・・・
「あとで怒られたけど、お姉ちゃんが私をかばって、自分がカブトムシを取りに行くんで私も連れて行ったって言い張ったよね」
ああ・・・
そうだったわ・・・
和泉が怒られるのは耐えられなかったから・・・
私が怒られたほうがましだと・・・
ま、待って・・・
そのことは誰も・・・
和泉?
やはりあなたは和泉なの?
「うふふ・・・思い出してくれたかしら? お姉ちゃん」
インビーナの笑顔が私に向けられていた。
  1. 2007/08/03(金) 19:12:15|
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グレイバー蛇足(1)

今日から四日連続でSSを一本投下いたします。

これは先日投下しました「グレイバー」の続編ですが、言ってしまえば蛇足です。

本来「グレイバー」はあれで完結したものでしたが、私自身が続きを妄想してしまったのと、多少の続きが見たいと言うリクエストをいただいたことで、つい形にしてしまいました。

あくまで蛇足ですので、お気に召さないところが有るかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。

1、
「チクショー!!」
苛立ちの声とともにテーブルに叩きつけられる拳。
セーバースーツを着ていないからいいようなものの、もし着ていたらあのテーブルは粉々に砕け散っていたに違いない。
「落ち着けよ政司(せいじ)! 秋奈(あきな)ちゃんは頭のいい娘だ。きっと無事にどこかで救出を待っているさ」
永戸(ながと)君がいらだつ粟端(あわはし)君を落ち着かせようとするけど、たぶんあれでは落ち着けないわ。
「落ち着けだって? もう秋奈がいなくなって一週間にもなるんだぞ! てめえよくそんなことが言えるなっ!」
今にも永戸君に掴みかかろうとする粟端君。
これではチームワークはズタズタだわ・・・
「政司、秋奈ちゃんがいなくなって苦しんでいるのはお前だけじゃない。このベースにいる誰もが心配しているんだ。警察だって優先的に動いてくれているし、このベースの警務部門も動いている。そのうち結果は出る。それまで待て」
私が口を開こうとした時、西下(にしした)君が静かに口を開く。
体格の大きさのせいもあるのか、どっしりと構えているようなところが頼もしい。
「とにかく、何らかの事件に巻き込まれたことは疑いないわ。ただ、それがルイン絡みであるという証拠はないし、捜査力を持たない我々が動いたところで得るものは少ないわ。粟端君、待つのも重要なことよ」
そう、二十歳そこそこの女性が行方をくらませるような事件はルイン絡みでなくても充分に起こりえる。
むしろ陵辱目的あたりで連れ去られたと考える方が正しいのかもしれない。
「盛逸(もりはや)司令・・・」
唇を噛んで拳を握り締めている粟端君。
無理もないわ・・・
秋奈ちゃんはたった一人の大事な妹ですものね。
私は秋奈ちゃんが今どういう状況なのかを憂えて、胸が苦しかった。

「そういえば、四釜(しかま)さんもここ二日ばかりいないんですね?」
私は西下君にうなずく。
「美智代(みちよ)ちゃんは体調不良でお休み中よ。彼女も秋奈ちゃんの失踪を相当気にかけていたから、きっとそのせいもあるかもしれないわ」
交代制とは言え、メインオペレータの二人がいない。
これはセーバーチームにとっても少なくない痛手だ。
もし、これがルインの手によるものだとしたら・・・
でも、彼女たちがセーバーチームのオペレーターであるということは第一級の機密事項のはず。
ルインに知られるということなど万が一にもありえるはずが・・・
「どっちにしても、何かあったときにはすぐに出動できるようにしていてちょうだい。あなたたちだけが世界を救う希望なんですからね」
私がそう言ってセーバーチームの面々を見渡すと、彼らは力強く頷いた。

「それじゃ、後はお願いね」
私はハンドバッグの中身を確認して立ち上がる。
「了解です。司令も少し休んでくださいね。お疲れのようですから」
副司令の神楽崎安奈(かぐらざき あんな)が少し心配そうに私の方を見つめている。
大丈夫よ。
まだまだ二日三日の徹夜ぐらいは大丈夫。
でも、気力は保てても、お肌にはよくないわよね。
「大丈夫よ。でも、家に帰って少し休むわ。何かあったら連絡をちょうだい」
「はい。お疲れ様でした」
安奈に手を振って、私はセーバーベースの司令室を後にする。
彼女はこの春に着任したばかりの若手士官。
防衛大のエリート教育を受けているけど、少し杓子定規というか臨機応変さが足りなく感じる。
規程に乗っ取って組織を運用することはもちろん重要だけど、そればかりでは足元をすくわれるかもしれない。
そのあたりを上手く教えてあげられればいいんだけど・・・

「お疲れ様でした。お気をつけて」
「ありがとう。それじゃお先に失礼するわ」
ゲートの警備員に見送られ、私はカモフラージュされた建物から外へ出る。
残業を終えたOLのような振りをして建物から出てきた私を気に留めるものなど誰もいない。
これこそがセーバーチームを安全に保つための工夫なのだ。
仰々しく護衛の車付きで送り迎えするのも悪くはないのかもしれない。
でも、それこそ目立つことこの上ないし、護衛を上回る戦力で攻められたらどの道意味がない。
目立たないこと。
一般人であること。
これこそが最大の防御になるはず。
もちろん最大限の注意は払う。
ハンドバックの中にはスタンガンや位置報知システムや通信機などが入っている。
何かあれば、すぐにでもセーバーチームに知らせが行くようになっているのだ。
さて、今日はどのように帰ろうか。

宵の口の街なかは人でにぎわっている。
そういえばもうすぐ七夕だわね。
私のふるさとは八月に七夕を行なうから、かえってちょっとぴんと来ないけど、デパートなどのショーウィンドウは浴衣や夏物衣料のマネキンで楽しげだ。
そろそろ冷たいものの美味しい季節。
秋奈ちゃんが無事に戻ったら、お祝いにみんなでビヤガーデンに繰り出すのもいいかもしれない。
私はそんなことを考えながら、駅前の大型書店に立ち寄った。

できるだけパターンにならないように、それでいて気まぐれに行き先を決めて帰り道のルートを分散する。
そのためにまっすぐ家に帰ることはほとんどない。
尾行などにもできるだけ気を付けて、人ごみの中を縫うようにして歩く。
書店に寄って出たばかりの小説を一冊買ってきたのもそのため。
尾行に気がつきやすく撒きやすい。

で、ケーキ屋の前にいるのは予定外中の予定外。
まずったわね。
この通りを通るんじゃなかったわ。
ここのケーキって美味しいのよ。
ついつい食べたくなっちゃうじゃない。
どうせ家に戻ったって、秋奈ちゃんの事もあるし休むに休めないわ。
仮眠を取るぐらいが関の山。
食事は司令部でサンドイッチをつまんだから問題ないし・・・
ケーキかぁ・・・
私は自分のスタイルが気になる。
こればかりは世の女性はみんな気になることよね。
普段から体力維持と体型維持を兼ねた運動をしているとは言え、少しでも気を抜くわけには行かない。
でも・・・
疲労回復のためにも甘いものの一つぐらいは・・・
決めた。
一個だけ買って、家でお茶にしましょう。
小説を読みながらお茶してリラックスすれば、少しは疲労も取れるでしょうしね。
うん、そうしましょう。
私は一人頷くと、ケーキショップの入り口をくぐっていた。

ふう・・・
近づいてくる私のマンション。
と言っても、半分以上はセーバーチームの予算から出されているんだけどね。
今日も何事も無く帰りつけたみたい。
マンションはセキュリティもしっかりしているし、まず問題ない。
この行き帰りの時間だけが危険といえば危険な時間。
でも、ルインが嗅ぎつけているとは思えな・・・
あれは?
マンションの玄関付近の植え込みの脇に放り投げられたように置かれたピンク色の携帯端末。
作動していることを示す赤いLEDが点滅している。
間違いない。
あのピンクの携帯端末は秋奈ちゃんの携帯端末だわ。
この近くに来ているの?
もしかしたら逃げてきて私に助けを求めに来たの?
私はすぐにそのピンク色の携帯端末に近づいた。

「こんばんは」
その声を暗がりの中から聞いた時、私は自分のうかつさに呪詛の言葉を吐きたくなった。
こんなのは罠に決まっていたのだ。
都合よく私の住むマンションの入り口近くに落ちていた秋奈ちゃんの携帯端末。
ちょっと考えればわかることだったのに・・・
私は暗がりの中の人影を確認することもなく飛び退る。
距離をとって逃げ出すのだ。
そしてすぐさまセーバーチームに・・・

だが遅かった。
振り向いた私の前に黒尽くめの女が立っていた。
のっぺらぼうのように目も鼻も耳もない。
その代わり、口元だけが黒一色の中から覗いていた。
その唇も黒いことに気が付いたとき、私は首筋に衝撃を受ける。
「あぐっ」
全身に痺れが走り、私はその場に崩折れた。
うふふという笑い声とともに足音が近づいてくる。
意識がどんどん遠くなっていく。
「ダメですよ、司令。いくらルートを変えたって、行き着くところは同じなんですから」
ああ・・・その通りだわ・・・
でもね・・・
ここを嗅ぎつけられるとは思っていなかった・・・の・・・よ・・・
  1. 2007/08/02(木) 19:12:45|
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グレイバー(5)最終回

五日間連続で投下してきましたグレイバーも今日で終了です。
拙い作品をお読みくださいました皆様、本当にありがとうございました。

そして、なんとなんと、いつもお世話になっております「Kiss in the Dark」のg-than様より、作中に出てきます暗黒組織ルインの女幹部インビーナ様のイラストをいただきました。

20070706191824.jpg

なんと素敵で凛々しいインビーナ様でしょうか。
g-than様、本当にありがとうございました。

それではグレイバーの最終回、お楽しみいただければと思います。
よろしければ読んだあとにコメントなどいただけると、とてもとても嬉しいです。
お読みいただきまして、本当にありがとうございました。


5、
弥生ちゃんはしぶしぶながらだったのかもしれないけど、立ち上がってベルトを外し、手袋を脱いでいく。
私はそれを横目で見ながら、自分のベルトや手袋を外し始めた。
心臓がドキドキする。
衣服を脱ぐことがこんなにも苦しいことだなんて・・・
脱ぎたくない・・・
私の中で何かが命令してくるよう・・・
脱ぐな、脱ぐなって言ってくる。
ダメ!
脱がなきゃダメ!
脱がなきゃグレイバーになってしまうわ。
私はセーバーチームのオペレーターなんだから・・・

私はどうにかレオタードを脱ぎ捨てる。
必死に脱ぐって考えていたら、背中にスリットが入って脱げるようになったのだ。
今まで明るく感じていた室内が、マスクを外すと急に真っ暗な闇になる。
怖い・・・
こんな闇の中で裸でいるなんて・・・
いやだ・・・いやだよ・・・
でも、私は首を振り、必死の思いでストッキングも脱ぎ捨てる。
すっかり裸になった私は、手探りに近い状態でベッドの上からシーツを外し、それを躰に巻き付けた。
「ふう・・・」
真っ暗な中、とりあえずシーツにくるまれた私は一息つく。
弥生ちゃんはどうかしら。
私は暗がりの中に弥生ちゃんの姿を探した。

「すん・・・すん・・・」
弥生ちゃんは泣いていた。
私の言うとおりに裸になった弥生ちゃんは、肩を震わせて泣いていたのだ。
きっとつらい思いだったに違いない。
私だってレオタードを脱ぐのに必死の思いだったもん。
でも、弥生ちゃんは脱いでくれた。
私はそれが嬉しかった。
「弥生ちゃん・・・」
私は近づいて声をかけ、そっとシーツでくるんであげる。
恥ずかしいよね。
心細いよね。
こんな暗闇の中、裸でいるなんて耐えられないよね。
ごめんね。
私がこんな衣装を着て変装しようなんて言ったから・・・
「秋奈さん・・・」
弥生ちゃんが振り向いた。
闇の中でも涙に濡れた頬がわかる。
私は思わず抱きしめた。
「ごめんね、弥生ちゃん」
「秋奈さん・・・私怖い。裸でいるなんて怖い。着たいの・・・あのレオタードが着たいの」
弥生ちゃんは必死に私を見つめてくる。
でも私は首を振った。
「ダメ。それだけはダメ。あれを着たら敵の思う壺よ。私たちはグレイバーになっちゃう」
「敵? 敵ってなんですか? 本当にグレイバーになっちゃうんですか? 秋奈さんは確かめたんですか?」
「えっ?」
私はどきっとした。
そ、そりゃあ、確かめてはいないけど・・・
でも、あのレオタードを着ていたら・・・
着ていることがすごく気持ちよくて・・・
ルーィなんて言うようになって・・・
ダメ!
とにかくダメなの!
「ダメ! とにかくダメ! お願い弥生ちゃん。きっと助けが来るから。お兄ちゃんが助けに来てくれるから」
私はギュッと弥生ちゃんを抱きしめ、そう自分に言い聞かせた。

渇く・・・
渇く・・・
渇いていく・・・
露出しているのは耐えられない・・・
着たい・・・
着たい・・・
包まれたい・・・
闇の衣装に包まれたい・・・

暗闇の中、私は弥生ちゃんと二人でシーツにくるまって時を過ごす。
あれから何時間経ったのだろう・・・
何時間?
ううん・・・何日かもしれない・・・
レオタード・・・
レオタード・・・
すべすべしてとても気持ちいい・・・
着たい・・・
着たい・・・
あの心地よさに包まれたい・・・

どうしてこんなところにいるんだろう・・・
私たちはここで何をしているんだろう・・・
心が渇く・・・
じりじりと焼き尽くされるような思い。
裸だから・・・
裸だから心が渇く・・・
満たされたい・・・
漆黒の闇に包まれたい・・・

「秋奈・・・さん・・・」
弥生ちゃんが顔を上げる。
ずっとうつむいて躰を震わせていた弥生ちゃん。
「弥生ちゃん・・・もうすぐだよ・・・もうすぐ・・・」
何がもうすぐ?
もうすぐ何だと言うの?
変だ・・・
頭が働かない・・・
思うことはただ一つ・・・
レオタードが着たい・・・
「秋奈さん・・・私・・・レオタード・・・着たい・・・」
弥生ちゃんの目が私を見つめてくる。
その目が必死に訴えてくる。
「ダメ・・・着てはダメ・・・」
私はもう何度言ったかわからない言葉を繰り返す。
着てはダメ・・・
なぜダメなんだろう・・・
「秋奈さ・・・ん・・・だったら・・・だったら触るだけ・・・触るだけでいいの・・・触るだけで・・・」
「ダメ・・・それでもダメ・・・」
「どうして? どうしてなの? 触るだけでどうしていけないの?」
弥生ちゃんの声がきつくなる。
「どうしてって・・・あれに触ったら・・・触っちゃったら・・・」
触ったら・・・どうだというの?
何があるというの?
わからない・・・
思い出せない・・・
暗闇の中でどうして私たちは裸でいるんだろう・・・
手を伸ばせば、すぐにレオタードが手に届く・・・
レオタード・・・着たい・・・
あのレオタードに包まれたい・・・

「レオ・・・タード・・・」
ふらっと立ち上がる弥生ちゃん。
何をする気かしら?
シーツがはずれ、暗闇の中に彼女の裸身が浮き上がる。
「レオ・・・タード・・・」
そのまま彼女はふらふらと脱ぎ散らされたレオタードやパンストのところへ向かって行く。
いけ・・・ない・・・
私もシーツを纏ったまま立ち上がる。
レオタードはダメ・・・
レオタードはダメ・・・
私は半ば朦朧とする意識の中でそれだけを思っていた。

「ハア・・・レオタード・・・」
弥生ちゃんがぺたんと床に座り込んでレオタードに手を伸ばす。
私は倒れこむようにして、その手の先にあるレオタードを奪い取った。

ああ・・・
なんて素敵な肌触りなんだろう・・・
これ・・・
これが欲しかったの・・・
私はこの瞬間に確信する。
このレオタードが私を満たしてくれるのだ。
このレオタードが私を包んでくれるのだ。
ああ・・・
私が飢えていたのはこの感触に包まれること。
このレオタードに包まれることだったんだわ。
私は手に取ったレオタードを思いっきり抱きしめた。

飢えた目で私をにらみつける弥生ちゃん。
私はうなずくと、抱きしめていたレオタードをそっと渡す。
このレオタードは弥生ちゃんのもの。
私のはあっちにある。
私をずーっと待っているのだ。
いつ着てくれるのかと言わんばかりに、私を待っている。
私は立ち上がるとシーツを放り出す。
こんなものに躰を包むなんてバカみたい・・・
私はすぐに私のレオタードを手に取った。

パンストに脚を通し、レオタードを身に付ける。
すべすべした肌触りがとても気持ちいい。
どうしてこれを脱いだりしたんだろう。
もう絶対に脱いだりしないわ。
これは私そのものなの。
私はこの衣装と一体なのよ。

膝上までのブーツを履き、両手には肘までの長手袋。
マスクに覆われた頭はすっきりとして周囲もよく見える。
「ルーィ!」
再びルインの紋章の入ったベルトを締めた私は、すごく嬉しくなって叫んじゃった。
私の隣では、弥生ちゃんも同じように背筋を伸ばして立っている。
スタイルがいいからすごくよく似合う。
「ルーィ!」
弥生ちゃんも嬉しそうに声をあげた。
ああ、なんて素晴らしいんだろう・・・
ルインに栄光あれ!

瞑想。
誓いの言葉。
ルインへの忠誠。
グレイバーとしての誇り。
私たちはそういったものを心行くまで味わう。

319号と一緒にする誓いの言葉の唱和。
「・・・しもべ・・・」
頭の中に囁かれる言葉と同じ言葉を紡ぐ319号の唇。
それがふと私に近づき、私の唇と重ね合わさる。
はあん・・・
全身を駆け抜ける電流のような快感が気持ちいい。
「・・・喜び・・・」
くらくらするような快楽に酔い痴れながら、私も誓いを唱和する。
そして、今度は私の唇が319号の唇と重なった。
黒く艶めかしい319号の唇。
「・・・服従・・・」
それが次の誓いの言葉を奏で、再び私の唇と重なり合う。
「ルイン・・・」
私は誓いの最後のフレーズをつぶやきながら、319号と抱き合った。
もう私は迷ったりしない。
私はグレイバー320号。
この身はルインのもの。
もう以前の私ではないわ。

           ******

「ふふふ・・・どうやら、完了したようだな」
私たちの前に立っているのはインビーナ様。
赤いビキニ型のアーマーがつややかに輝いている。
一体何のことなのか私にはわからない。
でも、インビーナ様のお言葉は力強い。
私たちグレイバーを導いてくださる強さにあふれている。
「320号」
「ルーィ!」
私はインビーナ様に敬礼する。
番号を呼んでいただけるのは光栄なこと。
「お前には特別任務についてもらうぞ」
「ルーィ!」
特別任務?
私はまだ作られたばかりだというのに・・・
「以前のお前はセーバーチームのオペレーターだった。その記憶はあるな?」
「ルーィ! もちろんです。ですがそれは過去のことです。思い出したくもありません」
それは本当のこと。
あんな人間なんていう統制の取れない生き物だったなんて考えたくも無いわ。
グレイバーであることは本当に幸せ。
「ふふ・・・それでいい。だが、セーバーチームを壊滅させるためにはお前の記憶が不可欠。従うのだ」
「ルーィ! もちろんです。何なりとご命令を」
「セーバーチームの要、司令の盛逸成実を捕らえよ。いいな!」
インビーナ様のご命令だわ。
「ルーィ! かしこまりました。セーバーチームの司令官、盛逸成実を捕らえます」
私は胸を張って命令に答える。
命令は絶対服従。
それがグレイバーの喜びなの。

「319号、お前にはこれからも320号の指導に当たってもらう」
えっ?
それは本当ですか、インビーナ様?
私は思わず嬉しさに飛び上がりそうだった。
おそらくは別々に配属されるもの。
そう思っていた私にとっては、319号とこれからもともにあることができるのはすごく嬉しい。
インビーナ様、ありがとうございます。
「いいか320号、お前はわがルインへの昇華にとまどいと抵抗を感じていたな。だがそれを319号が取り除いてくれたのだ。これは評価に値する」
ああ・・・
その通りです、インビーナ様。
私はおろかにも人間であろうといたしました。
319号はそんな私を救ってくれたのです。
「320号、お前はこれからも319号とともに行動し、服従の喜びを自らのものにするがいい!」
「ルーィ!」
「ルーィ!」
私がインビーナ様のお言葉に、大いなる喜びを感じて声をあげると、319号が続いて綺麗に和した服従の声をあげてくれた。

「よし、では誓いの言葉を」
「「ルーィ!」」
私と319号はうなずいた。
誓いの言葉。
私たちの頭の中にいつも語りかけられる言葉。
グレイバーにとっての大事な言葉。
それを口にすることは喜び以外の何者でもない。
「「ルインのしもべ」」
「「ルインに身を捧げることは喜び」」
「「ルインに全てを、命令には絶対服従を」」
「「ルインに栄光あれ!」」
私は胸の奥から声を出し、319号とあの部屋で何度となく交し合った誓いの言葉を誇らしく宣言した。
  1. 2007/07/06(金) 19:26:23|
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グレイバー(4)

今日はグレイバーの四回目です。

お楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。

4、
「弥生ちゃん、ルーィって言ってみて」
「えっ? ルーィ・・・ですか?」
弥生ちゃんが不思議そうにする。
でもこれは重要なこと。
私たちはグレイバーなんだから。
「そう、ルーィ。これはグレイバーたちの鳴き声って言うか発声なの。グレイバーとして行動するならこれは欠かせないわ」
「は、恥ずかしいですね・・・」
弥生ちゃんのマスクから見える口元がほんのり染まる。
そりゃあ、私だって恥ずかしいけど・・・
この格好をしている以上仕方ないじゃない・・・
「いい、ちょっと練習するよ? ルーィ!」
私はグレイバーたちがよくやる右手を胸のところで水平にする敬礼をしながら声を出してみる。
あは・・・
なんか別人になったみたいで気持ちいいね。
「ル、ルーィ・・・」
最後は蚊の鳴くような声になっちゃう弥生ちゃん。
きっと恥ずかしさでいっぱいなんだろうな。
でも、右手はちゃんと胸のところで水平にしている。
スタイルいい弥生ちゃんはレオタードがとてもよく似合っていた。
「弥生ちゃん。今の私たちは暗黒組織ルインの女戦闘員グレイバーなんだよ。恥ずかしがることないよ。顔だって見えないんだし」
確かに顔は見えない。
でも、表情は何となくわかるんだけどね。
「ルーィ! ルーィ! ルーィ!」
弥生ちゃんは何度か声を出して練習してる。
もしかしたら努力家なのかも。
敬礼も何度も繰り返して可愛いなぁ。
「うん、その感じ、忘れないでね」
「ルーィ!」
「あはは・・・」
弥生ちゃんがグレイバーの鳴き声で返事したので、私は思わず笑っちゃった。

「さ、行くよ」
「はい。じゃなかった、ルーィ」
私は思わず笑みを浮かべると、ゆっくりとドアを開ける。
うわぁ・・・
通路がすごく明るい。
さっきまでとはまったく違うわ。
やっぱりグレイバーたちに合わせて作ってあるようね。
左右を見るけどグレイバーたちの姿はなし。
よし、このままエレベータに向かって行けばいいわね。
「ついてきて、弥生ちゃん」
私は先に立って、通路をエレベータに向かって歩き出す。
先ほどまでは迷路のように感じたこのアジトが、今は手に取るようにわかる。
この通路を右に行けば司令室。
この部屋は動力室。
あっちはグレイバーの居住区。
外部へのエレベータは・・・こっちね。
私は自信を持って角を曲がる。
もう迷うことはないわ。

と、曲がり角からそっと通路を伺っていた私たちの前を、一列になった三人のグレイバーたちが通り過ぎていく。
みんな背筋がスラリと伸びて、いかにも目的のために働いているって感じがする。
いつもお兄ちゃんの後ろにくっついている私とはずいぶん違うわ。
やっぱりかっこいいよね。

あれ?
彼女たち何か言っている?
彼女たちが立ち去っていく時に何か聞こえたような・・・
違う?
今も聞こえる?
なんだろう・・・
私はその囁くような声に耳を・・・ううん、全身の神経を向けた。

『・・・イン・・・もべ』
『・・・身を・・・び』
『・・・に・・・を・・・服従』
『ル・ン・・・栄光・れ』
よく聞き取れない。
でも意味があるような・・・
ううん、すごく大事なことのような気がする・・・
不快じゃない・・・
何となく心地いい・・・
もっと聞いていたい・・・

カツコツという足音。
私たちのブーツの足音とは明らかに違う音。
それが私たちの向かっているエレベータの方からやってくる。
「秋奈さん」
どうやら背後の弥生ちゃんも気が付いたらしい。
不安そうな声に内心が現れている。
「だ、大丈夫。堂々としていればばれない」
私もそう言うのが精いっぱい。
心臓はドキドキ。
全身から冷や汗が出そう。
私は振り返って逃げ出したい気持ちを必死に抑え、ゆっくりと歩みを進める。
こんなところで逃げ出したら、変装している意味がなくなってしまう。
できるだけ普段の行動と見せかけなきゃ。

最悪だわ。
通路の向こうから歩いてきたのは、黒い全身タイツ型のインナーの上に赤いビキニ型のアーマーを身に付けた暗黒組織ルインの女幹部インビーナ。
人間と変わらない姿は、グレイバーのように顔を隠してすらいない。
黒いショートの髪にサークレットを嵌め、赤いロンググローブを嵌めた手には乗馬ムチを携えている。
逆らうことなどできない偉大な女幹部だ。
背後に二体のグレイバーを従えて歩いてくる姿はまさに女王様。
思わずひれ伏してしまいそうだわ。
私はできるだけ平静を装いつつ通路の端に直立して、インビーナが通り過ぎるのをやり過ごそうとした。

カツコツとインビーナの赤いブーツの足音が響く。
私も弥生ちゃんも生きた心地がしない。
お願い・・・
早く通り過ぎて・・・
思わず目をつぶってしまう。

足音が止まる。
心臓がキューッと締め付けられるよう。
「お前たち」
インビーナの威厳ある声が響く。
「私はインビーナだぞ。敬礼はどうした!」
しまったぁ・・・
敬礼するのを忘れていたわ。
「ル、ルーィ」
「ルーィ」
私は慌てて右手を胸のところで水平にし、たどたどしく鳴き声をあげる。
私の脇では弥生ちゃんもどうにか鳴き声をあげて敬礼した。
「ふふふ・・・」
私はどきっとする。
インビーナが笑っているのだ。
何かおかしなところがあったのだろうか・・・
私はもう全身から冷や汗がにじみ出そうな思いで立ち尽くす。
でもすごい。
全然このレオタードはべたつかないわ。
これだけ汗をかけば、べたついて当然なのに・・・
「どうやらお前たちは作られたばかりのようだな。そんなお前たちがどこへ行くつもりだ? え? 320号」
320?
私のこと?
ど、どうして?
私はハッと気がついた。
私の身につけている腰のベルト。
このバックルにはルインの紋章と数字が入っていたのだ。
まさしくその数字は320。
これはグレイバーのナンバーだったんだわ。
「そ、それは・・・」
私はどうにかこの場を逃れるべく頭を働かせる。
作られたばかりの新人ということなら、多少の変な行動はごまかせるかもしれない。

「ん? ばか者!」
突然インビーナのムチが私を打ち据える。
私はいきなりの肩口への一撃に、思わずその場にしゃがみこんだ。
「作られたばかりとはいえ、ナンバーが先の者より前に出るとは何事だ! 愚か者め!」
私は何がなんだかわからずに、肩口の痛みに顔をゆがめる。
「す、すみません。お赦しを・・・」
痛みをこらえながら、私は土下座をするようにインビーナに頭を下げた。
今は逆らわない方がいい。
とにかくこの場を乗り切らなきゃ・・・
「お前もお前だ」
インビーナの乗馬ムチの先がすっと弥生ちゃんに向けられた。
「ル、ルーィ・・・も、申し訳ありません」
弥生ちゃんも何がなんだかわかっていないと思うけど、とにかく彼女も頭を下げる。
一体何がいけなかったの?
「ほぼ同時に作られたのだろうが、ナンバーが一つでも少ない者は先任として行動する。それがグレイバーの行動理念ではないか! え、319号!」
あ・・・
弥生ちゃんは319号だったんだ・・・
私が先に歩いちゃいけなかったんだ・・・
なんてうかつ。
先任のグレイバーより先に立つなんて・・・
責めを受けて当然だわ。
私ったら・・・
「申し訳ありません。私がおろかでした。グレイバー319号より先に歩くなど、あってはならないことでした。お赦し下さいませ」
私は必死に頭を床にこすり付けるようにしてあやまった。
インビーナ様だけじゃなく、弥生ちゃんにも失礼なことしちゃったんだもの・・・
どうか赦してください。

「まあよい。それでどこへ行くつもりだ?」
インビーナ様のお言葉が重くのしかかる。
脱走しようとしていたなんて言えるはずがない。
「ル、ルーィ・・・アジト内の確認です。脱走した人間の捜索に協力しようと・・・」
319号の弥生ちゃんが何とかごまかそうとしている。
あまり追求しないで下さい、インビーナ様。
「そうか。それならば他の者に任せるがいい。お前たちはついてくるのだ」
ええっ?
インビーナ様と一緒なんて・・・
「ル、ルーィ・・・しかし」
弥生ちゃんもどうにかついて行かずに済ませようとしてくれている。
ごめんなさい、私の数字が後なばかりに・・・
「口答えするつもりか? しつけがなっていないようだな」
ビュッとインビーナ様のムチが空を切る。
「ルーィ! 申し訳ありません。従います」
319号の弥生ちゃんの背筋が伸びる。
私はただひれ伏して、事の成り行きを見ているしかない。
「320号をつれて後に続け。いいな」
「ルーィ! かしこまりました、インビーナ様。320号! いつまで這い蹲っているの? 立ち上がってインビーナ様に敬礼をしなさい!」
私はその言葉に弾かれたように立ち上がる。
そして全身に緊張をみなぎらせて背筋を伸ばし、これ以上はない敬礼でインビーナ様に敬礼をする。
「ルーィ!」
「ふっ・・・」
インビーナ様は何か笑みを浮かべると、私と319号を交互に見て、おもむろに背を向ける。
そしてインビーナ様に付き従うグレイバー41号と173号の後に続き、私たちは通路を歩き出した。

『・イン・・・もべ』
『・・・身を・・・ことは・・・』
『・・・すべて・・・絶対・・・』
『・・・栄光・』
ずぅっと聞こえてくるこの囁き。
なんだかとても心地いい。
思わず私自身がそうつぶやきたくなるような気がする。
でも・・・
でも・・・
なんか変じゃない?
私の中で何かが警告を発している。
いけない・・・いけない・・・
心地よさに惑わされてはいけない・・・
そんな気がするわ。

「319号、320号、お前たちは別命あるまでここで待機するのだ。いいな!」
連れてこられたドアの前でインビーナ様がそう命じる。
命令には絶対服従。
「ルーィ!」
私と319号はすぐさま右手を胸のところで水平にして敬礼する。
背筋を伸ばして、胸を張って敬礼するのはとても気持ちがいい。
「ふふっ」
インビーナ様はにっこりと微笑まれると、二人のグレイバーを連れて通路を歩き出す。
私はその後ろ姿が見えなくなるまで敬礼をし続けると、319号に続いてドアをくぐった。

ドアの中はこじんまりとした部屋だった。
作り付けのベッドがあり、テーブルも置かれている。
きっとグレイバーにとっての個室なのだろう。
ベッドの広さから言って二人用だわ。
「私たちは別命あるまで待機よ。ゆっくりしましょ、320号」
319号がそう言ってベッドに腰掛ける。
黒いレオタードに包まれた姿がとても素敵。
柔らかそうな太ももは、ストッキングで薄墨色に染まっている。
「ルーィ」
私は少し間を開けて、319号の隣に腰掛けた。
柔らかなベッドがすごく心地いい。
グレイバーって、決して使い捨てなんかじゃないんだわ。
私はそれがすごく嬉しかった。

ベッドに腰掛けた私は、なんだか眠くなってきた。
319号は先ほどから何かをつぶやいているし・・・
そういえば・・・今は何時なんだろう・・・
今まで私って何していたっけ?
確か・・・セーバーベースからの帰り道・・・
私は弾かれたようにハッとなる。
私ったら何を・・・
すっかりグレイバーとしてこんな部屋で落ち着いて・・・
私は思わず自分の両手を見る。
黒くつややかな長手袋を嵌めた両手。
力強く、グレイバーの活動を支える両手。
違う!
違う違う!
この服だ。
この服が私をおかしくしちゃう。
グレイバーであることを喜んじゃう。
私は隣の319・・・違う違う、えーと・・・弥生ちゃんだ!
弥生ちゃんの方を振り向いた。

「・・・しもべ・・・」
「・・・を捧げる・・・喜び・・・」
「ルイン・・・命令・・・服従を・・・」
「・・・栄光・・・」
私はぞっとした。
弥生ちゃんはさっきからそうつぶやいていたのだ。
あの声。
耳元で囁いていた心地よい声。
あの声が囁いていた言葉。
私たちグレイバーにとっての大事な誓い・・・
グレイバーにとって?
誓い?
違う違う!
いけない、このままじゃ・・・
私は弥生ちゃんを正気づかせるために頬を張ろうとする。
先任グレイバーである弥生ちゃんを叩こうとすることは、すごく勇気が要ることだったけど、私は必死で弥生ちゃんの頬を張る。
「弥生ちゃん! しっかりして!」
一瞬敵意とも言うべきものを弥生ちゃんより感じたものの、頬を押さえた弥生ちゃんの口元が少し緩んだ。
「320・・・じゃない、秋奈さん?」
「ごめん、悪いけど、すぐそれ脱いで!」
「えっ、ええっ?」
私は弥生ちゃんの返事を聞かずに、すぐにブーツを脱がし始める。
「や、やめてください。ど、どうして脱がなきゃ・・・」
弥生ちゃんは脚を引っ込めようとするけど、私はやめるつもりはない。
右足のブーツを脱がせ、左足も脱がせにかかる。
「ごめんね弥生ちゃん。でもこれを着ているとおかしくなっちゃうの。グレイバーになっちゃうのよ」
「グレイバーに・・・?」
弥生ちゃんの躰がピクッと固くなる。
「だから脱がなきゃならないの。ごめんね」
私は左足のブーツも脱がせ、ストッキングに包まれた脚を解放する。
後はベルトも手袋も外しちゃって・・・
「本当なんですか? 本当にグレイバーになっちゃうんですか?」
「確信はないけれど・・・でも、弥生ちゃんだって自分の名前よりもナンバーのほうがしっくりする気がしたでしょ?」
「そ、それは・・・」
口ごもる弥生ちゃん。
もしかして脱ぎたくないのかも・・・
私はどきっとした。
弥生ちゃんを脱がせることだけ考えていて、自分が脱ぐときのことを考えていなかった・・・
このレオタードを脱ぐ?
裸になるの?
以前の衣装は処分しちゃったし・・・
でも・・・
脱がなければ・・・
私は首を振って再度弥生ちゃんのベルトに手を掛ける。
「恥ずかしいかもしれないけど我慢して」
「わ、わかりました。わかりましたから手を離してくれませんか? 自分で脱げますから」
弥生ちゃんが私を押しとどめた。
それもそうか。
いくら同性だって衣装を脱がされるのは抵抗あるよね。
「わかったわ」
私はうなずいて手を離す。
  1. 2007/07/05(木) 20:50:48|
  2. グレイバー
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グレイバー(3)

グレイバーの三回目です。

ちょうど中間なので、中だるみ的なシーンかもしれません。
それではどうぞ。

3、
「ひゃぁっ」
「ど、どうしたんですか?」
思わず私が上げてしまった声に、弥生ちゃんが心配して声をかけてくる。
「あ、いや、なんでもないの。なんでもない」
私は思わず首を振る。
穿いた瞬間の肌触りがあまりにもよくて思わず・・・なんて言えるわけないもんね。
それにしてもなんて肌触りなの・・・
すべすべしてするすると肌を滑るように引き上げられる。
つま先から足首の辺りはきゅっと引き締まるように密着して、そのまま太ももまで張り付いてくるよう。
両脚入れて腰まで引き上げると、しわも一切なく、完全に肌に吸い付いてくる。
ずり下がる気配なんてまったくない。
こんなパンスト初めてよ。
いつも穿いているパンストとは全然違うわ。
私はちょっと脚を動かしてみる。
まったく問題なく肌に密着しているわ。
すごい。

もしかしたら、私は少し呆けていたかも。
それほどこのパンストの履き心地はよかったのだ。
パンストでこれなら・・・レオタードなら・・・
私の心臓はドキドキと激しく打つ。
私・・・興奮している?
レオタードを着るのを楽しみにしている?
ち、違うよ・・・
これは仕方なく着るんだから・・・
私はマスク付きレオタードをそっと手に取る。
すべすべした感触が気持ちいい。
ちょっとだけ・・・
ちょっとだけ・・・ね・・・
私はレオタードに頬擦りする。
気持ちいい・・・
すべすべで気持ちいいよぉ・・・

心地よさを満喫した私は、次にレオタードを着ようとしてふと気がついた。
これって・・・どうやって着るのかな?
開口部はマスクに開いた口元のわずかな部分だけ。
まさかここから躰を入れられるとは思えない。
でも、他には開口部なんて・・・
あら?
ここが開いている。
レオタードの背中にあるシーム部分が開いているのだ。
なるほど、これならここから着られるわ。
でも、ファスナーもマジックテープのようなものもない。
一体どうやって留めるのだろう。
グレイバーの背中が開いていたなんて聞かないし・・・
ええい、考えていてもしょうがない。
今はこれを着て変装することが大事なのよ。
私はレオタードの背中にある開口部を広げ、脚から通していく。
ショーツを穿くように両脚を通して腰までたくし上げ、次に胸のあたりまで持ち上げて両腕を片方ずつ通していく。
袖口から両手を出すと、今度は前からかぶりこむようにして、マスク部分に頭を入れていく。
後頭部まで覆われたところで、肩などをちゃんと収め、背中を閉じるだけに整えていく。
すべすべの生地が肌にさらさらと擦れていくのがとても気持ちいい。
「弥生ちゃん、背中を見てくれる?」
私は弥生ちゃんにお願いした。
もしかしたら見逃していただけで、ファスナーが隠れていたのかもしれないし、そうじゃないにしても、素肌が出ていないか確認してもらわなきゃ。
「はい、もうそちらを向いてもいいですか?」
「いいよ。もう着ちゃったから」
私は全身を包み込む滑らかな生地の感触を楽しみながら、マスクの位置を整えた。
グレイバーたちもこんなふうに見えているのだろうか?
頭部を覆うマスクは、耳も目も鼻も髪の毛も全部包み込み、唯一口元だけが覗いている。
そのため呼吸に困ることはないけれど、きっと外は見づらいだろうと思っていたのだ。
でも、そんなことはまったくない。
暗い部屋の中なのに、マスクをかぶった方がよく見えるのだ。
きっと何かの仕掛けがあるのかもしれないわ。
だからアジト内が薄暗いのも納得いく。
きっとかえって明るすぎると物が見づらいのかもしれない。

「背中・・・どうすればいいんですか?」
私の背後に回ってくる弥生ちゃん。
闇の中、さっきよりもすごく気配を感じ取れる。
まるで全身が神経になったみたい。
これなら暗闇の中でも問題なく動けそう。
「背中開いているでしょ? 素肌が出ていないか見てくれる?」
「えっ? 開いてなんてないですよ。ていうか、開いていたんですか?」
「えっ? 開いてない?」
弥生ちゃんがふしぎそうに訊いてきたことに私は驚いた。
あれほど明確に開いていたのに・・・
「背中、何もないですよ。開いているどころか縫い目もないですよ」
「ええっ? 本当?」
私は躰をくねらせて背中を見てみようとする。
でも見られるはずもない。
まあ・・・いいか。
開いてないならそれでいいよね。
それよりも・・・
全身が密着するレオタードとパンストに包まれる。
あはあ・・・
気持ちいいわぁ。
これってすごく気持ちいいよ。
グレイバーたちはみんなこんな感触を味わっているのかな?
それとも人間が着たからなのかな?
どっちにしても、この感触は素晴らしいよぉ。
「秋奈さん・・・秋奈さん!」
「はあ・・・素敵ぃ・・・」
私はきっと艶めかしい声を出していたに違いない。
だって、すごく気持ちよくて淫靡な気分になっちゃいそうなんだもん。
全身をくまなく愛撫されるようなそんな感じ・・・
もう最高・・・
「大丈夫ですか? 変じゃないですか?」
弥生ちゃんが心配してる。
変なわけない。
こんなに気持ちいいんだもん。
絶対変なわけないよ。
「大丈夫。さ、弥生ちゃんも着るのよ」
私は全身を包む心地よさに捕らわれながら、弥生ちゃんにもこの感触を味わって欲しいと思っていた。

「どう? とっても着心地がいいでしょ?」
私はパンストとレオタードを身につけた弥生ちゃんに訊いてみた。
確かに背中の開口部は綺麗に消えている。
どういう仕組みなんだろ。
脱げなくなったりしたら大変かなぁ・・・
「はあん・・・はい、とっても・・・」
うっとりとした笑みを口元に浮かべている弥生ちゃん。
その笑みはとても淫蕩だ。
きっとあまりにも気持ちよくて蕩けるような気分になっているに違いない。
「はい、ブーツと手袋。ベルトも忘れないでね」
私がそれらを差し出すと、弥生ちゃんはこくんとうなずいて受け取り、無言でそれらを身につける。
つま先にご丁寧に切り返しの付いたパンストを穿いた弥生ちゃんの綺麗な脚が、漆黒のブーツに差し込まれていき、両手に履いた長手袋をぎゅっぎゅっと握って指になじませる。
私は何となくその仕草に見惚れ、ただただ弥生ちゃんを眺めていた。
最後にベルトを付けた弥生ちゃんは、一瞬躰をピクッとさせる。
あ、しまった!
何かあるとまずいと思って、私が先に全てを身につけるつもりだったのに、弥生ちゃんが着ていくのを見ているうちに先に全部つけられちゃった。
「弥生ちゃん、大丈夫?」
私は心配になる。
レオタードそのものは問題なくてもブーツやベルトに仕掛けがあったかも・・・
「えっ? なんともないですよ」
あっさりと拍子抜けするような弥生ちゃんの返事。
「ホント? なんかピクってなったから」
「そうですか? 特に何も・・・」
すっかりグレイバーの姿になった弥生ちゃんが首をかしげる。
わあ・・・
全身のラインが美しい・・・
すごく似合うよ・・・
私も似合うかなぁ・・・
「ならいいけど・・・」
私は弥生ちゃんが問題無さそうなのを確認して、自分の手袋とブーツを身につける。
最後にベルトを付け終わって完成。
ベルトを付けたとき、一瞬全身に電気が走ったような気がして、すごく気持ちよかった。

全て身に付け終わった私たちは、どこから見ても立派なルインの女性型戦闘員グレイバーだ。
「うん、これでいいわ」
私はグレイバーの姿になった弥生ちゃんとお互いの姿を確認すると、今まで私たちが着ていた服やバッグなどをひとまとめにする。
これをどうにかしないと、もし見つかったりしたら私たちがグレイバーの姿をしているってばれちゃうわ。
どこかに隠さないと・・・
見つけた。
あれはダストシュートだわ。
ごみにしてしまえば見つかることもないはず。
全てごみとして処分してしまおう。
弥生ちゃんには悪いけど、ここから無事に帰ったら弁償するからね。
「弥生ちゃん、手伝って」
「えっ? どうするんですか?」
「ごめんね、悪いんだけど、この服とかバッグを処分するの。これが見つかったら変装しているのがばれちゃうでしょ」
私はとりあえず持てる分を持ってダストシュートのところへ行く。
閉じられたシューターの蓋を開け、中を覗きこんでみた。
下に向かって口が開いており、ここから投げ込めばちょっとやそっとでは見つかりそうにない。
「服・・・捨てちゃうんですか?」
「ごめんね。ここから脱出したら私が責任持って弁償するから」
私は両手を合わせて拝みこむように頭を下げた。
セーラー服も下着も何もかも捨てるって言われたら、そりゃあ困るよね。

『・・・・・・』
えっ?
今何か?
「弥生ちゃん、今何か言った?」
「えっ? いえ、別に何も」
「そう・・・」
なんか聞こえた気がしたんだけど・・・
気のせいか・・・
「じゃ、まず私のから捨てるね」
不安そうな弥生ちゃんの口元。
全身を黒で覆われている弥生ちゃんはとても可愛い。
口元だけが見えているのも艶めかしくて素敵だわ。
それにスタイルもいいから、レオタードがよく似合っている。
私もそうなのかな・・・
そうだといいな・・・

服も下着も靴もバッグも通信機も何もかもダストシュートに投げ捨てる。
通信機はちょっと躊躇ったものの、持っていることがばれたら取り返しがつかないので、やむを得なかった。
これで私がセーバーチームのオペレーター粟端秋奈であることを証明するものは何も無いはず。
グレイバーの一員としてごまかせるはずよね。
「ごめんね、弥生ちゃん。弥生ちゃんのもちょうだい」
弥生ちゃんは黙ってうなずくと、セーラー服や白のソックス、黒革の靴やカバンを手渡してくれた。
私はそれらを全てダストシュートに放り込み、弥生ちゃんの痕跡を抹消する。
これで私たちはグレイバーの一員。
アジト内をうろついても怪しまれることは少ないはず。
さあ、脱出路を探さなきゃ。
  1. 2007/07/04(水) 20:33:08|
  2. グレイバー
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グレイバー(2)

本日21時ごろ、七十万ヒット到達しました。
皆さんありがとうございました。

これからもよろしくお願いいたします。

今日はグレイバーの2回目です。
楽しんでいただければ幸いです。


2、
気を失わせたグレイバーを弥生ちゃんの替わりに牢に入れて鍵をかける。
「さ、脱出よ」
私は弥生ちゃんにそう言うと、ドアをそっと開けて左右を見た。
薄暗い通路は静かで不気味。
でも、人影は無い。
私は後ろにいる弥生ちゃんにうなずいて見せると、彼女を連れてそっと部屋を出る。
こんなところはさっさと抜け出さないとね。
セーバーチームに知らせれば、お兄ちゃんたちがこんなアジトは破壊してくれるわ。
そのためにも一刻も早く・・・

変・・・だ・・・
この通路はまっすぐだったはず・・・
こんなところに曲がり角なんて・・・
迷った?
似たような通路だったから・・・
でも、一本道だったはず・・・
どうして?
私は少し焦っていた。
エレベータを降りて、一本道の通路をやってきたはずなのに・・・
部屋を出た時に左右を間違えた?
そんなはずないよ。
方向音痴じゃないもん。
でも・・・
それじゃどうしてエレベータに着かないの?

「秋奈さん・・・」
心配になったのか弥生ちゃんが背後から声をかけてくる。
「ん、何?」
私は努めて明るい声を出した。
内心の不安を知られるわけには行かないもんね。
「・・・大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。もう少しで出口よ」
私は自分自身に言い聞かせるようにそう言った。

突然、ウインウインウインと警報が鳴り始める。
いけない!
見つかった?
『グレイバーに告ぐ、グレイバーに告ぐ。確保した人間が脱走した。直ちに捕獲せよ!』
インビーナの声だわ。
きっと牢に入れたグレイバーが気がついたんだ。
どうしよう・・・

「秋奈さん、大変。後ろから足音が」
弥生ちゃんが不安そうに私の肩を叩く。
振り向いた私の耳にも、確かに複数の足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
この通路は左右を壁に囲まれたトンネル状の通路。
前後を挟まれたら逃げ場所はない。
「弥生ちゃん、走るわよ!」
「はい」
私は弥生ちゃんを引き連れて走り出す。
お願い・・・
エレベータにたどり着いて・・・

『ルーィ』
『ルィ、ルーィ』
私は足を止める。
前からもグレイバーたちの声がするのだ。
「秋奈さん・・・」
「弥生ちゃん、ごめんね。どうやら挟まれちゃったわ」
私は必死に左右を見る。
どうにか逃げ場は・・・
あった!
通路の脇にドアがある。
何があるかわからないけど、このままここにいるよりはずっとマシ。
「秋奈さん」
「うん、あそこに隠れよう」
私は弥生ちゃんを連れてドアのところに行き、手を掛ける。
幸い鍵は掛かっておらず、ギイという音を立ててドアは開いた。
私は素早く中を覗く。
中は真っ暗で、何となくひんやりしていた。
どうやら敵の気配はないわね。
隠れるには都合が良さそう。
「弥生ちゃん、入るよ」
「はい」
私は弥生ちゃんをカバーするようにして部屋に入り、ドアを閉じた。

『ルーィ』
『ルーィ』
ドアの向こうではグレイバーたちの声が錯綜している。
きっと私たちを見つけられないで焦っているのかもしれない。
どうにかここを脱出しなきゃ・・・
私はともかく弥生ちゃんは民間人。
なんとしても助けなきゃ・・・
「秋奈さん・・・」
私の上着の裾をそっと握り締めてくる弥生ちゃん。
心細いんだわ。
私がもっとしっかりしなきゃ。
「大丈夫よ弥生ちゃん。絶対にここから連れ出してあげるからね」
「はい」
不安そうにしながらも笑みを見せてくれる弥生ちゃん。
えらいなぁ。
私を励ましてくれているんだわ。
ありがとう。

闇の中、寄り添って壁に背中を付け座り込んでいる私たち。
通路からはグレイバーの声はもうあまり聞こえない。
どうやら助かったようね。
でも、油断は禁物。
もう少し様子を見た方がいいわ。
「秋奈さん・・・あれ、なんでしょう?」
弥生ちゃんが闇の中を指差す。
薄暗い通路だったとはいえ、それでも明かりのあった通路からこの真っ暗な部屋に入ったのだ。
闇に目が慣れるまでは少しかかった。
「あれは・・・」
部屋自体はさほど広くない部屋だ。
いくつもの箱が置いてあり、上からは何か薄っぺらなものがぶら下がっている。
私は立ち上がると、そのぶら下がっているものを見に行った。

「レオタード?」
ぶら下がっていたのは、なんとあのグレイバーたちの着ているような漆黒のレオタードだった。
口元だけが覗くような頭部を覆うマスクが付いたレオタード。
これって、つまりグレイバーたちの衣装ってことよね。
「これって・・・レオタードですか?」
弥生ちゃんも驚いたのか口元に両手を当てている。
「そのようね。でも、これはチャンスだわ」
「チャンス?」
弥生ちゃんに私はうなずいた。
グレイバーがどのように作られているのかはともかく、この衣装を着てグレイバーに変装したら、きっと怪しまれずにこのアジトを出ることができるわ。
「これを着て奴らの仲間に変装するの。そうしたら、怪しまれずに行動できるわ。出口も探しやすくなる」
「でも・・・そんなに上手く行くでしょうか? それに・・・着ても大丈夫なんでしょうか?」
弥生ちゃんの心配ももっともだわ。
でも、今のままじゃ、他に手段がないことも事実。
細心の注意を払って着れば、何とかなると思うわ。
「ここを抜け出すまでの間だけ。ここを抜け出したらすぐに脱ぎましょう。だからほんのちょっとだけ我慢して」
私の言葉にしぶしぶうなずく弥生ちゃん。
当然だよね。
私だってこんなところでレオタード着るなんて思わなかったもん。
でも、今のカッコじゃすぐ見つかっちゃうわ。
仕方ないのよ。

私は手を伸ばすと、ぶら下げられているマスク付きレオタードを取り外す。
すべすべした手触りがなんだかとても素敵。
これを素肌に着るって、もしかしてすごく気持ちいいのかも・・・
何を考えているの、私?
私は首を振ると、手近な箱を開け、一式全てを取り出した。
うわぁ・・・
黒い革でできたような長手袋。
かかとが高いハイヒールになっているロングブーツ。
薄い滑らかな繊維でできているパンティストッキングのようなもの。
そして、暗黒組織ルインの紋章の入ったバックルのついたベルト。
まさにグレイバーのコスプレセットだわ。
どうしてこんなものが・・・
やっぱり中身は女の人?
そういえば女幹部インビーナだって普通の女性と変わりない姿だわ。
暗黒組織の連中、人間と同じ姿をしているのかも・・・

見ると弥生ちゃんもレオタードを取り外して、コスプレセットを広げている。
こんなところで真剣にコスプレしようとしているなんて、なんか私たちって間抜けっぽいね。
「まず、私が着てみるね。外から見てて変だったらすぐに教えて」
「はい」
真剣な表情でうなずく弥生ちゃん。
可愛いなぁ。
こんな妹欲しいなぁ。
お兄ちゃんじゃ可愛らしさどころか、かっこよさもないもんね。

私は意を決すると、上着もスカートもブラウスも脱いでいく。
弥生ちゃんのじっと見つめる視線がちょっと恥ずかしいけれど、服の上から着るわけにいかないもんね。
靴を脱いで、ナチュラルベージュのパンストも脱ぎ・・・
「ご、ごめん。ちょっとだけ後ろ向いてくれる?」
女同士でも何となく恥ずかしい。
「えっ? 下着も脱ぐんですか?」
弥生ちゃんが驚いた。
「うん。レオタードって下着の線も出ちゃうから、下着も脱がないとまずいと思うの」
「あ、はい。わかりました」
くるっと振り向いて私に背を向けてくれる弥生ちゃん。
私も弥生ちゃんに背を向けながら、ブラとショーツを脱いでいく。
ひんやりした空気が肌寒い。
まずはこれよね。
私は裸になったところで、急いで黒のパンストのようなものを手に取った。
サイズ的に問題は無いと思うけど・・・
伸縮性有りそうだし・・・
でもこれって・・・
確かに形はいつも穿いているパンストだけど・・・
腰のところの伸縮部分もボトムの継ぎもないわ。
穿いても下がってくるんじゃないかなぁ。
レオタード着るから大丈夫なのかな?
でも、それにしたって・・・
私は少しの間目の前のパンストのようなものを見つめていた。
とにかく裸でいるわけにいかないわ。
私は気を引き締めると、くしゃくしゃとつま先を手繰り寄せ、右足から通していった。
  1. 2007/07/03(火) 21:04:18|
  2. グレイバー
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グレイバー(1)

ようやく書きあがったので、今日から五日間連続で中篇SSを一本投下いたします。

一日か二日ほど早いのですが、ちょうど七十万ヒットに到達するので、記念作品となりますね。

皆様に楽しんでいただければと思います。


1、
「グゲェェェェェ!」
光の中に包まれて崩壊して行く暗黒組織ルインの怪人。
セーバーチームの必殺技が炸裂し、怪人は砕け散ったのだ。
私はその様子をモニターで見ながらホッと息を吐く。
『こちらセーバーレッド。怪人は撃破した。他にいないか探ってくれ』
「了解、セーバーレッド。現在周囲にはルインの残党は潜んでいないようです」
私はすぐに周囲を全周探査してクリアなことを確認し、報告する。
「秋奈(あきな)ちゃん、みんなを撤収させてちょうだい。警戒も解除」
背後の一段高くなった位置から、司令の盛逸成実(もりはや なるみ)の指示が飛ぶ。
まだ若いものの、冷静沈着な司令官だ。
「了解しました」
私はいったん背後の司令にうなずくと、すぐにヘッドフォンのマイクに向かって指示を伝える。
「セーバーチームの皆さんは撤収してください。警戒態勢も解除になりました。状況終了です」
『了解した。セーバーチーム、撤収する』
セーバーレッドの永戸(ながと)さんが指示を受け取って、他のメンバーにも伝えて行く。
『秋奈ちゃん。政司(せいじ)は無事だよ。心配要らないからね』
「な、永戸さん!」
私はきっと真っ赤になっちゃったかもしれない。
そ、そりゃあお兄ちゃんのことは心配だけど、ここでモニターしているんだから無事なことぐらいわかるもん。
『秋奈! お前戦闘中もう少しましな指示よこせよな! 敵の位置とか的確に。隣の四釜(しかま)さんを見習え』
ヘッドフォンにお兄ちゃんの怒鳴り声が入ってくる。
「な、何よ! 私だって一所懸命やっているんだからね! そりゃ四釜さんのようには上手くできないけど・・・」
私は思わず言い返す。
私だってちゃんと指示を送っているつもりなのだ。
セーバーチームに頑張って欲しいのはみんな一緒なんだからね。
『秋奈ちゃん』
「あ、は、はい、永戸さん」
『大丈夫だよ。政司は憎まれ口を聞いているだけさ。俺たちには秋奈ちゃんのこと褒めているんだぜ』
『だ、誰が褒めているかよ! 薫(かおる)、変なこと言ってんじゃねえよ!』
『変なことか? いっつも秋奈もだいぶ上手くなったよなって言っているのは誰だっけ?』
セーバーグリーンの西下(にしした)さんだ。
おとなしい人だけど、怒らせると怖いんだぞってお兄ちゃんがいつも言ってる。
『うわわっ、誰がそんなこと言っているかよ! 了(りょう)てめえっ!』
『あははは・・・さあ、撤収しようぜ』
笑い声がヘッドフォンに交錯した。
セーバーチームは無敵だわ。

「お疲れ様でした」
制服を着替えて、警備員の前を通り過ぎる。
私たちオペレーターには交代要員がいて、半日ずつの勤務。
ルインの動き次第だけど、休日もちゃんとある。
でも・・・セーバーチームは交代要員も休日も無い。
お兄ちゃん・・・大変だよね。
日本の平和は俺が守るって意気込んでいるけど・・・
早くルインが壊滅して、平和な世界にならないかなぁ。
私は何の変哲も無い建物を、普通のOLのような顔をして出る。
まさか日本の平和を守るセーバーチームのオペレーターが、こんなところから電車通勤しているとは思わないでしょう。
私は駅へ向かって歩き出した。

あれ?
電車を降りた私はアパートへ向かって歩いていたが、人気の無い公園のところで何か物音がしたような気がしたのだ。
なんだろう?
もしかしたら誰かが乱暴されているのかもしれない。
私はよく考えもせずに公園に入り込む。
樹木が月明かりをさえぎって暗がりを作っている。
街灯の明かりもその暗がりには差し込まない。
私はそっとその暗がりに近づいた。

「気を失ったようね。連れて行きなさい!」
「「ルーィ!」」
私は思わず息を飲んだ。
そこにいたのは、赤いビキニ型のアーマーに身を包んだ暗黒結社ルインの女幹部インビーナと、結社の女性型戦闘員グレイバーたち四体だったのだ。
口元だけをのぞかせた頭部を覆うマスクと、それにつながった黒いレオタードを着て、腰にはルインの紋章の入ったベルトを締め、両手にはロンググローブ、両脚にはストッキングと黒いロングブーツという姿で暗躍するグレイバーは、暗黒結社ルインの尖兵として怪人たちのサポートをする連中だ。
全員が女性の姿をしているのは、戦う男たちを惑わせるためといわれるが、案外アリのような生き物なのかもしれない。
グレイバーの足元にはセーラー服姿の少女が横たわっている。
大きな怪我はしていないようだわ。
どうやら気を失っているらしい。
塾の帰りにでもばったり奴らに出会ってしまったのだろうか。
何とかして助けなきゃ。

「もしもし、こちら粟端(あわはし)です。本部応答願います」
私は植え込みの影に身を隠し、セーバー本部に連絡を取る。
バッグの中から取り出したハンディタイプの通信機は、電波妨害に強い最新型。
のはずなんだけど・・・
イヤホンから聞こえてきたのはガリガリザリザリというノイズだけ。
なんてこと・・・これじゃ連絡取れないじゃない。
お兄ちゃんたちに来てもらわなくちゃならないのに・・・
あ、大変。
グレイバーがセーラー服の少女を抱え上げたわ。
このままじゃ連れて行かれちゃう。
ど、どうしよう・・・
公衆電話探している時間も無いよ。
どうしよう・・・

「引き揚げるわよ。周囲を警戒しなさい。アジトへの入り口を見つけられないようにね」
にやりと笑って乗馬ムチを振るうインビーナ。
彼女の指示でグレイバーたちが公園の奥に向かって行く。
そうか、このまま後をつけて行けばルインのアジトがわかるんだ。
アジトを見つければセーバーチームにきてもらうこともできるよね。
よし、このまま後をつけよう。
彼女を見捨てるわけにいかないよ。
私はそっとグレイバーたちの後を追った。

どうやらあいつらは私には気がついていないみたい。
私はスパイ映画のヒロインみたく、できるだけ付かず離れずに付いていく。
インビーナは意気揚々とグレイバーたちを従え、先頭に立って歩いていく。
まだそれほど遅くない時間帯なのに、公園はしんとして静か。
きっと奴らが何か仕掛けをしているのかもしれない。
だから通信機も作動しないんだわ。

ええっ?
おトイレ?
まさかみんなでおしっこ?
なわけないよね・・・
きっとあの公衆トイレがアジトの出入り口なんだわ。
考えたものね。
公衆トイレから出入りするなんて想像もつかないものね。

インビーナが乗馬ムチをさっと振って、グレイバーたちをトイレに入れていく。
黒いマスクレオタード姿の女たちが一斉にトイレに入っていくなんて、ちょっと異様かも。
でも、どうしよう・・・
あの少女も連れて行かれちゃう・・・
通信機はさっきからノイズばっかりだし・・・
あっ!
私は急いで身を隠す。
今、一瞬インビーナがこっちを見た?
こっちを見て笑ったような・・・
気のせいかな・・・
あ、入っていっちゃった・・・
どうしよう・・・

「もしもし・・・もしもし・・・」
ダメだわ・・・
聞こえるのはノイズばかり。
肝心な時に役に立たないんだから。
こうなったら公園の外へ出て公衆電話か通信機が回復するところへ戻るしか・・・
でも待って。
このまま戻ったら信じてもらえないかもしれないわ。
完璧なカムフラージュされていたら、いったん離れたらわからなくなっちゃうかもしれない。
ここは一度あのトイレを調べなきゃ・・・
セーバーチームのお仕事を少しでも減らすのも、オペレーターとしての任務よね。
私は意を決して、公衆トイレに近づいた。

「くっさーい・・・」
どうしてこう公衆トイレってくさいのかしら・・・
私は思わず顔をしかめながら女性用に入っていく。
そこには三つほどの個室があって、いずれもが扉は開いていた。
「うそ・・・誰もいない?」
私は目を疑った。
清潔とはお世辞にもいえない便器が各個室にあるだけで、ほかには何も無い。
「あいつらはどこへ行ったの?」
その時、私は個室の一つの床に何かが落ちていることに気が付いた。
ピンク色の四角いもの。
開いたドアの影でよく見えない。
私は仕方なくその個室に入って、ドアを閉めた。

ガクン
えっ?
いきなり床が沈み始める。
私は危うくバランスを崩しそうになったものの、どうにか壁によりかかって躰を支えた。
なるほどね。
ドアを閉めるとエレベータになっているのか。
やっぱりここがルインのアジトの入り口なんだわ。
私はハンドバッグの中から護身用のスタンガンを取り出すと、あらためて落ちていたピンク色の物を拾ってみる。
なーんだ。
パスケースじゃない。
きっとあの少女のものだわ。
後で渡してあげなくちゃ。
私はパスケースをハンドバッグに入れ、スタンガンを構えてエレベータが止まるのを待った。

誰もいない?
エレベータが止まったところで扉が開く。
私はできるだけ壁に身を寄せて扉の向こう側を覗いてみた。
白く薄暗い通路。
奥の方で曲がっているのか、突き当たっているようにも見える。
無用心なのか・・・それとも侵入されることなど考えていないのか。
私は監視カメラみたいなものが無いかどうか確認する。
少なくともそれと思われるようなものは見当たらない。
とにかく、ここにいたらいつあいつらが戻ってくるかもしれないわね。
私はそっとエレベータをおり、通路を歩き出した。

静かな通路。
何か不気味さを感じるわ。
いったん戻った方がいいかなぁ。
でも・・・なんだかまっすぐ歩いているはずなのに、通ってきた後ろは真っ暗でよくわからない。
通信機はさっぱりだし・・・
どうしよう・・・
あ、扉があるわ。
とりあえず中を確認してみましょう。

「開いている?」
ドアノブは意外にもするりとまわった。
もしかして罠?
でも、いまさら遅いよぉ。
私は意を決してドアを開く。
そして素早く入り込んでドアを閉め、中の様子を窺った。

「だ、誰?」
薄暗がりの向こうから声が聞こえた。
え?
もしかして?
私は良く目を凝らして闇を見る。
あ・・・
どうやら部屋の奥、薄闇の向こうに鉄格子の嵌まった牢屋が設えてあるらしい。
しかも、そこにはあのセーラー服の少女が腰を下ろしていたのだ。

「大丈夫? 怪我は無い?」
私はすぐに鉄格子に駆け寄った。
「あ、あなたは?」
セーラー服の少女がすぐに起き上がって私の方に来る。
涙を浮かべている彼女はなんかとても可愛い。
「私は粟端秋奈(あわはし あきな)。セーバーチームの一員よ。助けに来たわ」
「セーバーチームの? ああ、ありがとうございます」
見るからにホッとした表情を浮かべる少女。
セーバーチームってこうしてみんなに安心を与えているんだわ。
「あなたは神宮(こうみや)さんね? パスケースを拾ったわ」
「はい、神宮弥生(こうみや やよい)です」
「珍しい苗字ね、普通はじんぐうって読んじゃうわよ」
「ええ、よく間違われます」
にこやかに笑顔を見せてくれる弥生ちゃん。
よかった、無事で。
そうとなったら脱出しなきゃ。

牢には頑丈な鍵が掛かっている。
それはそうよね。
捕らえた少女を逃がすわけにはいかないもの。
見張りもいないということは、鍵だけで充分と踏んだんでしょう。
「見張りがいないようだけど、鍵も持っていっちゃった?」
「ごめんなさい、よくわかりません。でも、そこらへんに置いてあるかも」
弥生ちゃんが首を振る。
仕方ないわよね。
気を失わされて連れて来られたんだもの。
「わかったわ。探してみるね」
私は薄闇の中、何か無いかと探してみる。
鍵さえあれば、弥生ちゃんを連れて脱出すればいいだけだ。

さすがに何も無い部屋。
鍵は見つからない。
そろそろあきらめて別の手を考えた方がいいかもしれないわね。
「粟端さん」
心細そうに牢の中で私を伺っていた弥生ちゃんが私を呼んでいる。
「秋奈でいいわよ。どうしたの?」
「壁の向こう側で声がするんです。こっちにくるみたい」
どうやら弥生ちゃんは彼女なりに様子を探ってくれていたみたい。
壁の向こうの音を聞いてくれていたんだ。
「本当? 来るのは一人?」
「一人みたいです。私の様子を確認しにくるみたい」
私はうなずいた。
一人ならばスタンガンで気絶させればいいし、上手くいけば鍵を持っているかも。
「わかったわ。入り口で待ち伏せしてやっつけちゃいましょう。どのみちここには隠れる場所が無いから、入ってこられたらばれちゃうわ。その前に・・・」
私はスタンガンを握り締める。
スタンガンと言ってもこれは強力なもの。
目盛りを最大にすれば、グレイバーぐらいは倒せるはず。
「気をつけてください、秋奈さん」
「ええ、任せて」
大丈夫大丈夫。
私はセーバーチームの一員。
ちゃんと護身術の訓練だって受けているんだから。

私は入り口のすぐ脇にへばりつき、敵が入ってくるのを待ち受ける。
グレイバーだったら、とにかくスタンガンで倒して鍵のありかを訊き出すの。
弥生ちゃんと一緒に脱出するんだから。

シュッと音がして扉がスライドする。
黒い人影が入ってきたその時、私は思い切りスタンガンを押し付けた。
「ギャウッ」
そのまま悲鳴を上げて崩れる人影。
私は急いで廊下を確かめ、他に誰もいないことを確認したところで、倒れたグレイバーを引きずり込んだ。

ピクリともせずに意識を失っているグレイバー。
見れば見るほどこいつってば人間の女性そのものだよね。
まさに、そこらへんからスタイルのいい女性を誘拐して、マスクつきの黒レオタを着せ、ブーツと手袋を履かせましたって感じ。
でも・・・
まさか、本当にそうなんじゃ・・・
倒されたグレイバーを持ち帰って解剖したことがあるはずだけど・・・
人間とは違う生き物だって言っていたはず・・・
でも・・・
黒く塗られた唇は、女の人の唇そのものだよ・・・

「秋奈さん、どうですか?」
あっ、いけないいけない。
私は弥生ちゃんの言葉にハッとなる。
鍵を探さなきゃ。
って、ラッキー!
この腰のベルトに付いているのは鍵束じゃない。
ツいているぅ。
私は鍵束を手にとって、弥生ちゃんの閉じ込められている牢に向かう。
きっとこの中のどれかが牢の鍵に違いない。
私は一つずつ鍵を合わせ、どうにか弥生ちゃんを救出することに成功した。
  1. 2007/07/02(月) 20:11:34|
  2. グレイバー
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(まいかた まさと)と読みます。
北海道に住む悪堕ち大好き親父です。
このブログは、私の好きなゲームやマンガなどの趣味や洗脳・改造・悪堕ちなどの自作SSの発表の場となっております。
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