他所様のことになってしまいますが、私がいつも大変お世話になっておりますg-than様のサイト「
Kiss in the dark」が、本日めでたく四周年を迎えられました。
g-than様、四周年おめでとうございます。
そして、先日はこちらも私がお世話になっておりますxsylphyx様のサイト「
x only」も二周年を迎えられ、その記念として当ブログを含めまして三サイトでいっせいに、xsylphyx様が創作なされました魔法機動ジャスリオンの新作SSを掲載することとなりました。
すでにx only及びKiss in the darkでは公開されており、当ブログが一番最後となりましたが、xsylphyx様ならびにg-than様より文章と挿絵の掲載許可をいただいておりますので、ここに掲載させていただきます。
それではxsylphyx様のすばらしいSSと、g-than様の素敵なイラストのコラボレーションを、心ゆくまでお楽しみくださいませ。
魔法機動ジャスリオン2nd 第10話『マナミとチヒロ』
19時15分
川霧女学園『パソコン研究会』の部室だけ明かりが灯っている。
「あとは静電気に気をつけてメモリーを取り付けるだけっと」
「またぁ こんな時間まで残ってちゃダメだって言ったでしょう!」
戸締りの見回りをしていた大河内真奈美(おおこうち まなみ)が苦笑いで常習犯に声をかける。
「あっ 真奈美先生 もうちょっと、もうちょっとで新しいパソちゃんが組み上がるの! あと30分だけ 30分で帰りますからお見逃し下さいませ」
手を合わせて拝むように頭を下げる常習犯、パソコン研究部部員三枝椎子(さえぐさ しいこ)。
彼女は川霧女学園2年生で真奈美も日本史を教えていた。
「だ~めっ 直ぐに帰る用意をしなさい」
「あうッ… で、でも… このパソちゃんをこのままの姿で放って帰るなんてわたしには……真奈美先生! 真奈美先生は大好きなケーキを半分だけ残して止められますか!! 彼氏と会って、おやすみのキスもしないで別れて帰れますか!!! どうなんですか!!!!」
「いや…あのね三枝さん ちょっと例えがヘンかな… それと…いないんだな…彼氏…」
「そうでしたか それは失礼… ってことで、あと30分だけわたしに時間を下さい」
「軽く流すなっ!! 仕方ないなぁ わたしが迎えに来るまで そうね、あと10分くらいかな」
「えぇぇ!! あと10分… わかりました 全力で組み上げます!!」
「う~ん この可愛いピンクのボディがたまりませ~ん」
組み立てを終えたパソコンを見つめながら椎子はニヤニヤしている。
「明日は朝からOSのセットアップ走らせて… いや、今から走らせるか…」
椎子がブツブツ独り言を言いながら、ディスクの群れを物色しはじめると…
「へえぇ CPUはペンシルの1.5THzか」
「うん 海外からお取り寄せしたんだよ Vittaは評判悪いから問題外と」
椎子は手に取った三枚のうちから一枚のディスクを机の上に放り出した。
「となると、サービスパック9で安定性と信頼性を向上させたXOか、無理やりNyacOSVVにするか」
「なに言ってるのよ これからはVitta! Vittaの時代よ」
椎子が放り出したディスクを黒い手が拾い上げ、有無を言わさず彼女自慢のパソコンに挿入していた。
「ちょ、ちょっとキミ! 勝手にセットアップしな あっ…あぁぁ…走っちゃったよ」
「重いけど、まぁ1.5Tならそこそこ動くんじゃない」
「そ、そこそこって失礼ね 最強のペンシル1.5Tよ! 放熱にも工夫してるんだからね!!」
「だってこの闇機械なら、何倍?何十倍?何百倍? ううん、何千倍の処理能力があるから」
「ナッ! そんなサイコロみたいなのが……って言うかさ、キミだれ?」
黄色い回路図模様が画かれた黒い躯で、額の黄色い眼と冷たい輝きを秘めた瞳で自分を見つめている美少女を見て、驚きもせず椎子は尋ねていた。
「私? 私はメモリ 闇機械軍団アクマシン 記の魔女メモリ」
「闇機械軍団? アクマシン? 記憶の魔女? メモリー?」
「アッ、それ間違ってるから 記憶の魔女じゃなくて記の魔女ね メモリーってのばさないでメモリね」
「名前はどうでもいいけど その小さいサイコロに、わたしの傑作パソ君が足元にも及ばないですって?」
椎子は鼻で笑いながら、メモリが手の平に乗せている立方体を指でつついた。
「フフ… どうでもいいって失礼なヤツ」
「失礼なのはあなたでしょう こんな時間に学校に忍び込んで………あれ? あなたどこかで…」
「見たことある? 当然よ…」
微笑みながら、持っていた闇機械を椎子の額に押し付けると、柔らかい物に突き刺すかのように椎子の額に指を沈め、闇機械を彼女の頭の中に埋め込んだ。
「エッ、エエぇッ! イ、イタッ…くない… あ、あれ、あれ?」
闇機械を押し付けられた額を擦り、どうもなっていないことに首を傾げる椎子。
「あれ?あれ?? サイコロどこ行った? サイコロと指が刺さったように思えたけど…」
『フフフ… プロセッサの言ったとおり あなたは役に立ちそうね…』
いつのまにかメモリの姿も消え、彼女の声だけが椎子の頭の中に響いた。
「エェェ!! 消えた?消えた!! 夢?じゃない! 声が聞こえた! 役に立つって言われた!! 役に立つ? なんの?」
「三枝…さん? 何してるの?」
訳の分からないことを叫びながら、キョロキョロしている椎子を、見回りを終えて迎えに来た真奈美が不思議そうに見つめていた。
「あっ! 真奈美先生、いま、いまッ」
【RESET】
真奈美にメモリのことを話そうとした椎子が固まったように動かなくなり、抑揚のない口調で話し出す。
「データを復元中・・・・復元完了 システムを再起動します しばらくお待ち下さい・・・・起動完了」
「三枝さん? そうしたの?」
【RESTART】
「組み立て完了っと!! 見て下さい この美しいピンクのボディ!! カワイイと思いませんか」
「えっ? ええ、そ、そうね…」
組み立てたパソコンに頬擦りをして、いつも以上に奇妙な行動をとる椎子を、真奈美は怪訝な顔で見つめていた。
「ホントにもう! みんなと一緒に帰らないとダメよ」
「わかってるけど、パソ君たちを弄りだすと止まらなくなってしまうんですよね」
真奈美は見回り当番があった日、必ずこうして椎子と一緒に夜道を歩いている。
「そうだ! 真奈美先生にお聞きしたいことがあるんですけど…」
「えっ? なに? またヘンなこと聞かないでよ」
「ヘンなこと…かな… さっき真奈美先生、彼氏いないって言ってたでしょう」
「エッ!! そ、それがどうかしたのか、か、かしら」
「でも 彼女とかは、いるんじゃないですか?」
「か、か、彼女って! バ、バ、バカなこと、い、言わないでよ!」
「ふふぅ~ん… そうです…か やっぱりそうきますか…」
意味深な笑みを浮かべた椎子が、カバンの中からデジカメを取り出していた。
「わたし見ちゃったんですよねぇ 真奈美先生と3年の山咲センパイが××してるところ…」
「な、なに言ってるのよ! 3年の山咲さんとわたしがそんなことするわけ… おかしなこと言わないでよ!」
「ふぅ~ん… おそろいの服を着た真奈美先生と山咲センパイ とっても綺麗でしたよぉ でもどうしてあんな格好を?」
撮影した写真を探しながら歩いている椎子を、真奈美は横目でみつめていた。
「あったぁ!! ホラ見て下さい! これってレオタード…かな? 色はパープル…だと思うんです」
椎子がデジカメの液晶に映し出されている映像を真奈美に見せる。
「先週末の深夜、新作ソフトを買った帰りに撮ったんです」
「ちょ、ちょっと三枝さん! この写真、顔がはっきり写ってないじゃない これでどうして、わたしと山咲さんだって言うのよ!」
「フッフッフ… 確かに顔は写っていません マスクのような物を着けてる感じがするし… でも、間違いなく真奈美先生と山咲センパイです」
「三枝さん! いい加減にしないと」
「まだあるんです!」
「エッ…」
不敵な笑みを浮かべる椎子のメガネが輝いた。
「この写真を画像分析した物が家のパソに…」
「そこまでしなくても…」
街灯の明かりがとどかない薄闇を歩いているため、真奈美の顔は見えなかったが、いつもの優しい笑顔のない、冷たい瞳で椎子の横顔を見つめていた。
「でも残念なことに、元ネタが鮮明じゃないから全く判別できませんでしたw でも、わたしには真奈美先生と山咲センパイにしか見えなくて…… この人たち、どうしてこんな格好してるのかなぁ 深夜にコスプレってのもなぁ」
「もうッ! 三枝さんが勝手に、わたしと山咲さんだと思い込んでただけじゃないの!」
「アハハハッ ごめんなさぁい それじゃ真奈美先生、今日もありがとうございました 明日からはなるべく気をつけますので~」
「ホントにそう思ってる? 毎回そう言って別れてますけど?」
「アハハハッ おやすみなさぁい」
「おやすみなさい」
椎子が少し先に見える我が家に向かって走り出すと真奈美は立ち止まり、彼女が家に入るのを確認してから、きびすを返した。
深夜
高層マンションの屋上
二つの影が眼下に見える部屋の明かりを見つめている。
「マナミ あの娘なの?」
「ええそうよ チヒロ クス…そんな眼をしないの」
美しい黒髪を風になびかせ、チラリと自分を見やるチヒロをマナミは後ろから抱きしめた。
「結構カワイイじゃない 気になる娘なんでしょう」
「ええ とっても気になるわ 魔力を纏い、闇に同化しているわたしたちの姿があの娘には見えている」
「そんなに嬉しい? 今日のマナミ、ずっとあの娘のことばかり…」
「エッ? クスクス… チヒロ、妬いてるの?」
「そんなことない!」
チヒロの両肩をやさしく掴んだマナミはくるりとチヒロを振り向かせて唇をあわせる。
「ンふ… あの娘はそんなのじゃないわ 私が欲しいのはチヒロだけ…」
「…ホント? ホントにわたしだけ?」

マナミは小さく頷き…
「大好きよ チヒロ」
「わたしもマナミが好き… 大好き」
マナミの首に腕をまわして抱きついたチヒロは唇を重ね、赤紫の瞳を輝かせるとマナミの体を優しく弄りはじめた。
「マナミがキスするから… したくなってきたじゃない…」
「ダメ…チヒロ… いまは…あの娘を私たちの…あぁっ…」
頬を紅潮させてチヒロの腕を抑えたマナミが愛しい恋人の頬を優しく撫でる。
「仕事が終わってから…ね だからいまは…」
マナミは体を密着させて、チヒロを強く抱きしめると唇を奪い、激しく舌を絡ませた。
同じ時刻
帰宅後、食事とお風呂を適当に済ませた椎子が、マイパソコンの改造を完了させていた。
「学校から借りてきた予備ペンシルへの換装完了!! さっそくスピード測定っと… うひゃあぁ♪ Vittaの起動が速い速い速~い!! これが1.5Tの力かぁッ! これだったら学校のパソ」
ご機嫌に話をしていた椎子の言葉と動きが止まる。
「アクマシンモード起動・・・ピ…ピッピ……キュイーンー……ピロン…ポロロン…」
椎子の瞳が金色に輝き、抑揚のない言葉を並べると、全身が深緑のゼンタイスーツを着込んだように変化し、その表面に金色の回路図のような模様が描かれた。
人間の体内に埋め込まれた闇機械は精神と肉体を支配し、アクマシンの『械人』に改造する。
椎子もメモリに埋め込まれた闇機械で械人に改造されていた。
「オプション接続・・・」
異様な姿に変貌した椎子は、机の上に置いてあった銀色のデジカメを自分の顔に押し付け、デジカメを体内に取り込むと、右眼をレンズ、左眼を液晶に置き換え、頭部全体をシルバーの金属で覆った。
「ピッピ…ウォーニング デスマドーハンノウ・・・・ピッピ… サクテキカイシ・・・・・・」
椎子は電子音のような声で話、窓の外を見やると、右眼のレンズをズームさせて、マナミとチヒロが潜んでいるマンションの屋上にフォーカスを合わせた。
右眼で捉えている映像が左眼の液晶に映し出され、頭に埋め込まれた闇機械が画像を分析する。
「ピッピ… デスマドーホソク ズームイン・・・」
マンションの壁しか映っていなかった左眼の液晶に、うしろからマナミに抱きしめられているチヒロと、彼女の耳元で囁いているマナミの姿が浮かびあがり、二人の顔だけがズームアップされた。
「ピッピ… サーチ・・・」
左眼の液晶にアイマスクを着けた二人の顔が表示され、その隣に椎子が記憶している人物の顔が次々に映し出される。
「ピッピ…ターゲット1 ヤマサキチヒロ ピッピ…ターゲット2 オオコウチマナミ シュウシュウデータヲソウシン・・・・・・・・・ピッピ…プロセッササマカラノ シレイヲジュシン・・・メイレイプロセスヲジュンビチュウ・・・・・・オプションユニットセットアップ・・・」
椎子が自慢の手作りパソコンや部屋中に散乱しているパソコンパーツを体内に取り込みはじめると、深緑の躯がパソコンや周辺機器のカバーを変質させた白い西洋風の鎧で覆われ、腰や背中、腕などに怪しい武器に改造されたパーツが装備された。
「ピッピ…オプションヲユウコウニスルタメ システムヲサイキドウシマス・・・・・・・・・ピッピ…サイキドウカンリョウ・・・メイレイプロセスヲジッコウ・・・」
窓から外に飛び出した椎子は、背中と足の裏に装備されたファンで宙に浮くと、二人がいるマンション屋上へ向かう最短距離を移動した。
「…マナミ…そんなにされたら… もう我慢できないよ…」
「ダメよ… んムぅ…」
「ムグぅ…」
妖艶に微笑んだマナミが激しくチヒロの唇を奪う。
「ンン… つづきは三枝椎子を仲間にしてから、ゆっくり楽しみましょね チ・ヒ・ロ」
「もう…いじわる… あとでいっぱいしてもらうから…」
向かい合い、しっかり指を絡ませて手を握り合っていた二人が、背中合わせになり魔力を高めた。
「敵… ジャスリオンじゃないわ」
「ええ 例の敵…ね 気をつけて、チヒロ」
「マナミもね」
宿敵ジャスリオンとは違う邪悪な気配を感じ取った二人。
「ピッピ…ターゲットロックオン・・・ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「マナミ、上!!」
頭上からの電子化された女性の声に素早く反応したチヒロが、腕の怪しげなパーツで二人を狙っている椎子に向けて魔弾を放つ。
魔弾の軌道を瞬時に計算した椎子は回避行動をとりながら、先端に四角いソケットが付いたケーブルを発射してチヒロの腹部、ヘソに命中させていた。
「ウッ…」
「チヒロ!!」
「ピッピ…ケーブルセツゾクカンリョウ・・・インストールディスクセット・・・ドライブユニットセツゾク・・・」
椎子が腰の黒いボックスにディスクを挿入し、チヒロの腹部に打ち込んだケーブルの反対側を接続するとボックスはチヒロに向かって飛んで行き、彼女の腰にグルグルとケーブルを巻きつけるとベルトのバックルのように納まった。
「ピッピ…ターゲット1 データコピーカイシ・・・」
「何よこんなもの!」
「チヒロ すぐに外してあげるわ!」
「エッ…なに…」
怪しい黒いベルトを装着されたチヒロがボックスを剥がそうとしていると、ボックスの表面に+(プラス)の文字が現れ、青紫に明滅しはじめる。
それと同時に、チヒロは頭の中に何かが流れ込んでくるような不愉快な感覚に襲われた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
チヒロに取り付けられたボックスを取り外そうとしているマナミに椎子が狙いをさだめる。
「外れない… チヒロ、魔力を高めて! 破壊するわ」
「ダメッ! マナミ アイツが狙ってる わたしのことは後でいいから」
「大丈夫? 動けるの? 私がアイツを引き付けるから、その間にここから」
「次は外さない! 何があっても私はマナミと一緒に戦うから!!」
力強く輝くチヒロの瞳と言葉がマナミの言葉を遮る。
「チヒロ… わかった 無理しないでね」
マナミは鈍い音とともに打ち出されたケーブルをかわしながら威嚇の魔弾を放ち、チヒロは意識を集中し、魔力を最高まで高めた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
何度目かの攻撃をかわしたマナミは、なかなか攻撃をはじめないチヒロを見やった。
「チヒロ! どうしたのチヒロ!!」
チヒロの体全体に金色の回路図様の模様が拡がり、纏っている魔力も異質な波動を帯びていた。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「…ダ…メ……マナ…ミ…… …にげ…て… …わたしが… …わたし…じゃ… ウグゥッ…」
「チヒロッ!!」
様子がおかしいチヒロに駆け寄ろうとするマナミの行く手を阻み、椎子がチヒロのとなりに舞い降りると、彼女に取り付けたボックスにアクマシンシの紋様が描かれたディスクを挿入した。
「ピッピ…ターゲット1 データコピーカンリョウ・・・アクマシンスレイブシステムディスクセット・・・」
「なに…を…する……やめ…アガッ… ……マ…ナ……ィ………」
ディスクを挿入されるとすぐ、チヒロの体に描かれた回路図に光が走り、ボックスの+の文字が青紫に輝くと、チヒロの瞳に青紫が滲む。
そして全身に描かれた回路図を保護するかのように、青紫のメタル皮膜がボックスから拡がり、さらにその上から透明の樹脂膜がチヒロの全身を覆っていった。
「チヒロ チヒロ! チヒロッ!!」
「………」
無表情になったチヒロはマナミの呼びかけに答えようともせず…
「アクマシンスレイブシステム起動… …闇機械が確認できません… …セーフモードで再起動… …機能制限中…」
感情のない口調で話すチヒロが冷たい異質な魔力を纏う。
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
「かしこまりました… デスマドー戦闘員捕獲をサポートします…」
誰かの命令に答えるかのように言葉を並べたチヒロが、鏡面のように月明かりを反射する体をマナミに向けた。
「チヒ…ロ… …いや…そんな眼で見ないで…お願いだから… チヒロ…」
冷ややかにマナミを見つめたまま、コツコツと音をたて近づくチヒロが、歩きながら手のひらをマナミに向けると、迷うことなく魔弾を放った。
「アウッ …やめてチヒロ… おねがいだから…」
何も出来ずにいるマナミを見据え、チヒロは躊躇なく魔弾を打ち込む。
全身に魔力を纏い、チヒロの魔弾を防ごうとしたが、アクマシンで異質に変化したチヒロの魔弾を完全に防ぐことができず、肩、胸、お腹と次々に魔弾を撃ち込まれたマナミはその場に膝をついた。
「ウッ… カハッ… ゴフッ… クッ…… や…やめて…チヒロ…」
「デスマドー戦闘員を捕獲します」
マナミは自分を捕らえようと手を伸ばすチヒロの腕を掴み、引き寄せると強く抱きしめた。
「私はチヒロが好き…大好きなの… ずっと一緒にいたい… チヒロと戦うくらいなら…私も…」
「川霧女学園教員 大河内真奈美 暗黒魔界デスマドー デスマドー少女隊を率いる中心的存在 マナミ」
「チヒロ… 私のこと…わかるの…」
マナミの手を振り払い、冷たい体を密着させて、後ろからマナミを取り押さえるチヒロ。
「ターゲットを捕獲 アクマシンスレイブドライブを装着して下さい」
「ピッピ…ターゲット2 ケーブルセツゾクジュンビ・・・」
チヒロが完全に敵の手に堕ちていることを悟ったマナミは、何も言わず、されるがままだった。
「…これでまた…一緒に戦える… でも… もうあなたのぬくもりを感じることは…」
悲しそうに微笑むマナミの体にケーブルが撃ち込まれ、チヒロの物とは少し異なる、表面に-(マイナス)の文字が描かれた黒いボックスが取り付けられた。
漆黒の体に描かれた回路図に赤、青、黄色の光りを走らせている三つの影。
アクマシン三幹部、知の魔女プロセッサ、記の魔女メモリ、動の魔女ドライブが並んで立っている。
そしてその後ろの闇で、二つの黄色い眼が開いた。
「デスマドーの戦闘員をアクマシンの支配下においたようですね わが娘たちよ」
「はい マザー デスマドーの亡霊とアクマシンの技術を融合させた闇携帯端末『ERO-G』が選び出した二人の戦闘員を」
「アクマシンの忠実なシモベに改造し、二人に、自分たちが指揮していた戦闘員たちを」
「闇機械軍団アクマシンの戦闘員に改造する手伝いをさせてあげました」
三人はボードマザーに作戦完了の報告を行い頭を下げる。
「お前たち、マザーに自己紹介なさい」
プロセッサの命令に従い、青紫に輝いている体で跪いていた集団が顔を上げ、青紫に染まった瞳を頭上の黄色い眼に向ける。
彼女たちは装着された黒いボックスに描かれている+と-それぞれに分かれ、マナミとチヒロを先頭にピラミッド状に整列していた。
「マナミRe(アールイー)」
立ち上がり敬礼の姿勢で答えるマナミ。
続いてチヒロたちも同じ姿勢で応える。
「チヒロRe」
「アサミRe」
―――
―――
―――
「ミノリRe」
「「「「 アクマシン少女隊 闇機械軍団アクマシンに永遠の忠誠を誓います 」」」」

アクマシンのシモベと化した少女たちは、最後の一人が挨拶を終わらせると声を揃えて宣誓の言葉を唱えた。
「マザー このようにアクマシン少女隊は、アクマシンスレイブシステムと魔動力コンバータを内蔵した外付け闇機械で制御、完全にわれらの支配下にあります」
少女隊全員の体にはウエストの黒いボックスの他に、手にガントレット様のユニットが装着されており、マナミとチヒロだけはヘッドセットが取り付けられていた。
「わが娘プロセッサ その二人、他にはない装備が装着されているのはなぜですか」
「はい マザー この二人、いまはスレイブシステムと闇機械、そしてこのシールドリングで完全に支配管理しています ですが、システムのバージョンアップとシールドリングを装備するまでは、不可思議な力でお互いを惹きつけ合い、自我を取り戻すことがたびたびあり、二人が自我を取り戻すと他の少女隊も自我を取り戻すという興味深い反応を見せていました」
「闇機械の絶対支配力から逃れることなど、あり得ない事です」
「ホントです マザー プロセッサの言ってることは」
「わかっています わが娘メモリ その力、魔動力の秘密を知る手掛かりになるかもしれません」
「はい マザー マナミReとチヒロReに装備したシールドリングで二人を監視しています」
「よろしい その二人については、プロセッサ、おまえにすべて任せます」
「はい かしこまりました マザー」
「おっはよー!!」
「「エッ!!」」
「ん? んん?」
「ど、どうしたの…純玲ちゃん…」
「なにが? 千尋、風邪は大丈夫? 頑丈な千尋が一週間も休むから心配したよ」
「なにがって… だって純玲ちゃんが…」
「頑丈って… 人を何だと思ってる! わたしはスミスミが予鈴の前に、教室にいるってことが心配だッ!」
「うん… わたしも心配… 何か良くない事が…」
「な、なんてこと… 綾がそんなこと言うなんて… コイツか! コイツが綾を悪の道に!! 許さんぞぉ●ョ●ー!!」
千尋に向かってファイティングポーズを決める純玲。
「誰が悪だ! 誰が●ョ●ーだ! スミスミ、また昭和の特撮モノに嵌ったな」
「そう! そうなの!! あの主役の渋クサイ芝居は癖になるよぉ」
「純玲ちゃん…千尋ちゃん…先生だよ」
「ハーイ とっくに本鈴鳴ってますよ! みんな席に…… うそッ なんで?」
呆然と純玲を見つめる真奈美。
「ん?」
じっと自分を見つめる真奈美を見つめ返して、純玲は小首を傾げた。
「ん? んん? んーん? あっ 真奈美先生も風邪治ったんだ」
「う、うん もう大丈夫だけど… それより い、雷さん ど、どうしたの…」
「どうしたの?って…」
教室の掛け時計と腕時計を何度も確認する真奈美の仕草に純玲もようやく気づき。
「ま…まさか…真奈美先生まで… ひどぉいよぉ…」
教室が笑い声で溢れる。
だがそれはアクマシンの械人にされた下級生と戦ったばかりの純玲には辛すぎる光景だった。
そして…
笑いの中心で無理して明るく振舞ってみせている純玲を、冷たく見つめる真奈美と千尋。
その二人を妖しく微笑み見る綾。
純玲は周囲が大きく動き始めていることに、まだ気づいていなかった。
【 次週予告 】
純玲だよっ
アクマシンってほんっとに頭にきちゃう
わたしの登校時間に限って現れるなんて!
おかげで、今日も遅刻しちゃって…ち、違うよ
今朝は遅刻なんかしてないんだからねっ。
じゃ、次回第11話「暗黒の日」に
リードネオジャスリオン!
はわっ、綾~~~、おいてかないでぇ~~~!
いかがでしたでしょうか。
xsylphyx様、いつもながらすばらしいSSをありがとうございました。
g-than様、素敵なイラストをありがとうございました。
(架空の深夜アニメの形をとっておりますので次回予告が入っておりますが、続けてSSが投下されるということではございませんので、ご了承くださいませ。)
それではまた。
- 2008/06/23(月) 20:25:01|
- 魔法機動ジャスリオン
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魔法機動ジャスリオン2ndシーズン先行販売DVD、「プロローグ・魔女生誕」の三回目、これが最終回となります。
できましたらお読みになった感想をコメントでも拍手でもいいからお寄せくださいませ。
コメントや拍手はすごく励みになるんです。
よろしくお願いいたします。
それではお楽しみいただければと思います。
『吹雪摩子。そなたはそのような生命体にしては頭がよい。知識の活用の仕方も心得ていると見える。わが娘の中核、プロセッサとして生まれ変わるがよい』
その言葉と同時に摩子の躰が黄色い眼に引き寄せられる。
「えっ? ええっ?」
驚いてあわてて引き寄せられまいと必死にもがく摩子。
「ま、摩子! このやろう、摩子を放せっ!」
「摩子ちゃん!」
寿美は必死に手を伸ばして摩子の腕を掴み取ろうとした。
だが、先ほどですら届かなかった摩子の腕が届くはずも無い。
「い、いやっ! いやぁぁぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げてもがく摩子だったが、抵抗もむなしく黄色の眼の正面に位置する場所に移される。
そして・・・
黄色の眼が瞬きをすると、摩子のポケットに納まっていた携帯電話がするりと摩子の前に浮かび上がった。
『ふふふふ・・・この携帯電話とやらは非常に便利なものですね。妾の力を存分に受け止めてくれる』
「け、携帯電話が・・・」
恐怖におののきながら、自分の携帯電話を見つめてしまう摩子。
今まで日常の道具であった携帯電話が、今は恐怖の象徴のようにすら思えている。
『ふふふふ・・・そなたの携帯電話はもはやわがアクマシンの闇機械へと変貌しました。そして、そなたも妾の力を受け取るのです』
「い、いやぁっ!」
「摩子!」
「摩子ちゃん!」
寿美と珠恵の見ている前で宙に浮いた摩子の携帯電話が怪しく光り始める。
決してまぶしいものではなく、ぼうっと赤く輝いているのだ。
そして黄色の眼が再び瞬くと、摩子の着ていた制服や下着類がずたずたになってはじけ飛ぶ。
「ひぃっ!」
もはや摩子は恐怖で真っ青になっていた。
「やめてぇ! お願いだからやめてぇ!」
「チックショウ! やめてくれよぉ!」
寿美も珠恵もなすすべがない。
ただ親友が裸にされてしまうのを眺めているだけだ。
「いやっ、いやぁっ」
首を振っていやいやをする摩子。
躰が固定されてしまっているのか、裸を隠そうともせずに大の字に手足を広げている。
その適度な大きさの形のよい胸も、うっすらと陰毛に覆われた大事なところも黄色の眼にさらけ出されているのだ。
おそらく恐怖と恥ずかしさで気も狂わんばかりかもしれなかった。
やがて赤くぼうっと輝いていた携帯電話がすうっと摩子の胸の辺りに近づいていく。
そしてこの場にはまったくふさわしくない軽妙なドラマ主題歌の着メロが流れ、本体そのものがぶるぶるとバイブレーションし始める。
「電話が・・・鳴ってる」
もしかしたら誰かがこの状況を知ってかけてきてくれたのかも・・・
そんな寿美の思いは一瞬にして打ち砕かれた。
どうしてだか知らないが、寿美にはその着信があの黄色い眼、マザーからの着信に他ならないことに気が付いたからだ。
そして、ぶるぶると震え着メロを流している携帯電話は、そのまま裸の摩子の胸にすっと張り付いていく。
「ひいっ」
摩子の悲鳴が上がり、まるで二人に見せ付けるかのように摩子の躰が回転して正面が寿美たちに向いた。
「摩子!」
「摩子ちゃん!」
珠恵は先ほどから必死に走っていた。
足を動かして走っているのだ。
だが、位置が変わらない。
どんなことをしても摩子との距離は決して縮まらない。
だがそれでも珠恵は走り続けた。
涙を流しながら走り続けた。
摩子に張り付いた携帯電話はやがてずぶずぶと摩子の胸にめり込み始める。
二つの形よいふくらみの間に挟まるような形でめり込んでいくのだ。
「あ・・・あああ・・・」
自分の躰に携帯電話が入っていく恐怖。
摩子は知らずのうちに失禁してしまっていた。
めり込んでいく携帯電話はやがて完全に摩子の躰に飲み込まれてしまう。
「あああ・・・あああ・・・」
恐怖のあまり口を開けて呆けてしまっている摩子。
次の瞬間、摩子の胸から全身に黒い色が爆発的に広がっていく。
「えっ?」
「きゃぁー!」
珠恵と寿美の見ている前で摩子の躰は見る見る漆黒に染まっていく。
首から上を除く全身がまるで漆黒の全身タイツでも着たかのように真っ黒く染まるのだ。
ほんの数秒とも言う時間で、摩子の躰は完全に黒く染まってしまった。
だが、変化はそれだけにとどまらなかった。
全身を覆い尽くした漆黒の全身タイツに、まるで機械の回路図のような赤いラインが走り始めたのだ。
それは摩子の胸を中心に広がっていき、全身を一つの回路として組み込むかのように網の目のように張り巡らされる。
両手も指先まで漆黒に包まれ、手の甲に回路が刻まれる。
足の先は指が無くなってかかとが伸び、ハイヒールのような形を形成した上で回路が張り巡らされ、赤と黒の見事なコントラストを見せていた。
そして最後に摩子の可愛い顔はそのままに額に黄色の一つ眼が現れ、パチッと見開いた。
「摩子・・・」
「摩子ちゃん・・・」
珠恵も寿美もただ変わってしまった摩子を見つめていた。
回路図を描かれた黒い全身タイツを着ただけとも思える摩子はそのボディラインを余すところ無くさらけ出している。
いつしか眼をつぶってしまっていた摩子だったが、額の黄色い眼が代わりに二人を見つめていた。
やがてうっすらと眼を開ける摩子。
その眼にはぞっとするような冷たい光が満ちていることに珠恵も寿美も気が付いた。
「ふふ・・・うふふふふ・・・あははははは」
摩子が笑い始める。
それは狂気の笑いでも自己の状況を嘆くような笑いでもない。
心の底からの楽しそうな笑い。
新たに生まれ変わったことを心底喜んでいる笑いだ。
「なんてすばらしいの。最高だわぁ。私はもう不完全な生命体じゃない。マザーのお力によって生まれ変わったアクマシン軍団の一員。知の魔女プロセッサよ」
摩子は高らかにそう言い放つと、振り返って黄色い眼に向かいひざまずく。
「マザー。私にこのようなすばらしい躰を与えてくださりありがとうございます。今日からは知の魔女プロセッサとしてマザーに永遠の忠誠をお誓いいたします」
「摩子・・・」
「摩子ちゃん・・・」
親友の変わりぶりに言葉を失う二人。
その二人に振り返った摩子は冷たい笑みを浮かべてこう言った。
「うふふふ・・・次はあなたたちよ。二人ともマザーのお力で生まれ変わるのよ」
******
絶望が寿美の心にのしかかる。
黄色い眼によって摩子だけではなく珠恵も変えられてしまった。
先ほどまで必死に抵抗していた珠恵は、摩子と同じような漆黒の全身タイツに回路図を張り巡らした全身タイツ状の皮膚を持つ動の魔女ドライブとなってしまっていた。
違うところといえば、知の魔女プロセッサの回路が赤いのに対して、動の魔女ドライブは青い回路図ということ。
二人は額に黄色い一つ眼を輝かせ、邪悪な笑みを浮かべて寿美が変えられてしまうのを待っている。
記の魔女メモリとしてマザーのしもべとなるのを望んでいるのだ。
いやだ・・・
いやだいやだいやだ・・・
そんなのはいやだぁ・・・
夢なら・・・夢なら早く覚めて・・・
寿美の躰が引き寄せられる。
黄色い眼の正面に磔にされるように両手両足を広げられ、制服も下着もすべて剥ぎ取られてしまう。
先ほどまで恐怖におびえていた友人たちはもはやその光景を楽しむかのように笑っている。
神様・・・
今まで悪いところがあったのなら直します。
だから・・・だから助けて・・・
『睦月寿美。そなたには礼を言います。そなたのおかげでこうしてプロセッサとドライブを手に入れることができたのですからね』
「私のおかげ?」
『そう。そなたの携帯電話のデータからこの二人を割り出すことができました。そして・・・妾に力をもたらす存在、魔法機動ジャスリオンが雷純玲という少女であることも』
「えっ?」
寿美は驚いた。
昨年流行った噂というよりも都市伝説に近いもの。
“魔法機動ジャスリオン”
パワードスーツに身を固めた少女が悪の存在を打ち倒していく。
特撮かアニメの世界の話が、にわかに現実味を帯びて語られた都市伝説魔法機動ジャスリオン。
それが雷先輩だというの?
「うそ・・・」
『ふふふ・・・そなたは雷純玲が好きなのですね?』
好・・・き?
私は雷先輩を・・・好き?
そうか・・・
私は・・・
雷先輩が好きだったんだ・・・
『かわいそうに・・・』
「えっ?」
寿美が顔を上げる。
どうして私がかわいそうなの?
『雷純玲をあなたは好き。ですが雷純玲はあなたのことなどなんとも思ってはいない』
あ・・・
ドクン・・・
寿美の心臓が跳ね上がる。
無意識に避けてきたその言葉。
遠くから見つめていられればよしと言い聞かせてきた自分が今までごまかしてきた言葉。
『そして・・・雷純玲には巻雲綾という存在がいる』
やめて・・・
その名前は出さないで・・・
寿美は首を振る。
わかっている。
雷先輩と巻雲先輩が仲がいいのはわかっているよ・・・
だから・・・
だから憧れだけでよかった。
好きだという自分の気持ちになど気が付きたくは無かった。
『苦しいでしょう? 悲しいでしょう? それは不完全な生命体だからなのよ』
「不完全?」
『そうです。人間を含め機械との融合を果たしていない生命体はすべて不完全。そのような不完全な生命体を救い支配して導くのが妾の役目』
「支配して導くのが・・・役目?」
黄色い目が瞬きをする。
『さあ・・・苦しみから解放してあげましょう。生まれ変わるのです。記の魔女メモリに』
寿美の前に浮かんだ携帯電話の着メロが鳴り響く。
そして寿美は胸に衝撃を受けて意識が遠くなった。
******
何も無い虚無。
身を守るすべは何も無い。
凍てつくような闇にただ一人で放り出されている。
怖い・・・
怖い怖い・・・
助けて・・・
誰か助けて・・・
雷先輩・・・
雷先輩助けて・・・
怖いよぅ・・・
助けてぇ・・・
寿美は必死に呼びかける。
いつかと同じように・・・
柄の悪い男子学生に絡まれた時のように・・・
またあの時と同じように助けて欲しかった。
雷純玲に助けて欲しかった。
だが・・・
寿美にはわかってしまっていた。
ここは虚無の空間。
たとえ雷純玲でも来ることはできない。
ここへ来るには完全な生命体でなくてはならない。
雷純玲のような不完全な生命体ではここへ来ることはできないのだ。
そう・・・
寿美を助けてくれる者は誰もいない。
寿美は悲しくなって、ひざを抱えて丸くなってしまった。
『寿美』
えっ?
『寿美』
誰?
誰なの?
闇の中に二つの黄色い眼が現れる。
それは優しい母の眼。
闇の中から寿美を救ってくれるものの眼だった。
あ・・・
寿美は顔を上げてその眼を見つめる。
胸の中に温かいものが湧き、力が満ちてくる。
『恐れることはありません。そなたは完全な生命体になるのです』
完全な生命体?
そうだ・・・
完全な生命体になればいいんだ・・・
そうすればこんな闇なんか怖くない。
いや、むしろ闇を従えることだってできるんだ。
完全な生命体になれば・・・
『寿美・・・いえ、わが娘メモリよ。受け入れるのです』
はい、マザー。
寿美は立ち上がってそう答えていた。
次の瞬間、寿美は全身に力がみなぎってくるのを感じていた。
******
ゆっくりと眼を開ける寿美。
いや、今の彼女はもはや寿美などという名前ではない。
闇軍団アクマシンの一員、記の魔女メモリだ。
彼女の全身は漆黒の全身タイツ状に変化しており、黄色の回路図がびっしりと張り巡らされている。
今までの脆弱な肉体とはまったく違う研ぎ澄まされた肉体だ。
完全な生命体となった自分。
メモリはそれがとてもうれしかった。
ゆっくりとマザーに対してひざまずくメモリ。
「マザー、このようなすばらしいアクマシン軍団の一員に加えていただきありがとうございます。私は記の魔女メモリ。マザーに永遠の忠誠を誓います」
「ふふふ・・・これでそろったな」
「ええ。これからは私たちがマザーのお手伝いをして地上支配をしなくては。ドライブもメモリもよろしくね」
メモリの背後にやってくるドライブとプロセッサ。
赤と青、それに黄色の回路図に光が走る。
「うふふふふ・・・もちろんよ。まずはマザーの望まれる“マジカルクロノブック”を手に入れなきゃね」
メモリがすっと立ち上がる。
マジカルクロノブックは魔法機動ジャスリオンの手の内にある魔道書だ。
それを手に入れればマザーのお力はより強大になるだろう。
それはメモリにとっても喜ばしいこと。
そのためには魔法機動ジャスリオンである雷純玲の動きを封じる必要がある。
「うふふふ・・・そういえばメモリは雷純玲のことが好きなんだったわね」
「そうなのか、メモリ?」
プロセッサが含み笑いを浮かべ、ドライブが驚きの表情を見せる。
「うふふ・・・ええ、そうよ」
メモリははっきりと言い放った。
以前の脆弱な人間だったとき、メモリは雷純玲の強さと凛々しさにあこがれていた。
だが、その雷純玲はマジカルクロノブックで魔法機動ジャスリオンという戦士に変身する。
それはあまりにも歪んだ存在だ。
今のメモリには魔道書の力を借りて肉体を強化する人間などいびつでおぞましく感じる。
不完全な生命体ゆえにそのようなことをしているのだろう。
ジャスリオンを倒しマジカルクロノブックを奪い取って雷純玲を救ってやらなくてはならない。
マザーのお力で彼女も完全な生命体へと変えてもらうのだ。
「雷純玲はジャスリオンなどといういびつな存在にされてしまっているわ。マジカルクロノブックを奪い取って完全なる生命体へと生まれ変わらせてあげないとね」
メモリの言葉にプロセッサもドライブもうなずいた。
『オホホホホホ・・・頼もしい娘たち。いいですか、三人が力をあわせてマジカルクロノブックを奪ってくるのです。決して侮ってはいけません。愚か者とは言えあのデスマダーを封じた相手であることを忘れないように』
マザーの重々しい声に三人はいっせいにひざまずく。
「どうかお任せくださいませ」
「私たちにかかればジャスリオンなど」
「必ずやマジカルクロノブックは私たちが」
深々と一礼し、三人は生まれ変わった喜びを胸にしてマジカルクロノブックの奪取を誓うのだった。
END
- 2008/02/16(土) 19:49:49|
- 魔法機動ジャスリオン
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魔法機動ジャスリオン2ndシーズン先行販売DVD、「プロローグ・魔女生誕」の二回目です。
楽しんでいただければ幸いです。
「それじゃさようならー」
「気をつけてお帰りになってくださいね」
「また明日ね~」
何事も無く迎えた放課後。
陸上部の珠恵をいつも待っているために帰りは少し遅くなる。
その間、摩子と寿美は図書館で時間をつぶすのだ。
もっとも読む本は大いに違う。
意外と化学系の本をたしなむ摩子に対し、寿美は普通の小説やライトノベルを読むことが多かった。
待たなくていいと言う珠恵だったが、摩子も寿美もなんとなく待ってしまう。
どうせ早く帰ってもすることもないし、手伝いを言いつけられるのが関の山。
それなら好きな小説を静かに読んでいるのも悪くない。
寿美はそう思っているし、そういう時間が好きだった。
それに珠恵が戻れば三人でおしゃべりの時間になる。
ファーストフードのお店に寄って、軽く食事をしながらのおしゃべりはこの上なく楽しい。
このなんでもない日常が寿美はとても好きだった。
そして、いつもの交差点でそれぞれが帰路に就いたのだった。
突然寿美のポケットの中で携帯電話が振動する。
振動パターンを変えてあるので、メールではなく電話の着信だ。
寿美は急いで携帯電話を取り出して開いてみる。
「えっ?」
摩子か珠恵だろうと思っていた期待は見事に裏切られた。
着信:マザー
「だ、誰?」
寿美の手が震える。
通話ボタンに伸ばしかけていた指が止まる。
マザーなんて知らない。
そんな人知らない。
だが、振動は続いている。
やむ気配は無い。
寿美は昼間の得体の知れない恐怖を思い出した。
思わず携帯電話を投げ出したくなる。
だが・・・
手が動かなかった。
「えっ?」
見ると携帯電話のボディに機械の回路図のようなものが浮かび上がっている。
その回路図のようなものが携帯電話のボディから広がって、寿美の手に絡み付いてくるのだ。
「いやぁっ!」
寿美は辺りもかまわずに叫び声を上げる。
いく人かの通りがかりの人が彼女の方を見るが、やがて何事も無かったかのように通り過ぎていく。
「な、なんなのぉ」
寿美は周りの様子を気にする余裕など無かった。
必死で手を振って携帯電話を放り投げようとするが、彼女の右手はいうことを聞いてくれない。
ゆっくりと通話ボタンに伸びていく寿美の指。
「いやぁっ!」
通話ボタンが押され、携帯電話の振動が止まる。
画面が通話中の表示に変わり、そしてその表示画面が真っ黒になっていく。
そして、その漆黒の画面の中に黄色い眼が現れたとき、それを見た寿美の眼から意思の光が失われた。
ゆっくりと携帯電話を耳に当てる寿美。
彼女の眼はまっすぐ正面を見据えてはいたが、何も映し出してはいない。
「はい・・・かしこまりましたマザー」
寿美の唇がゆっくりと言葉をつむぎだし、携帯電話がパタンと閉じられる。
寿美はそのまま何事も無かったかのように家路を歩き始めるのだった。
******
「あれ?」
寿美はふとわれに返る。
気が付くともう夜の九時。
「あれれ?」
ベッドに座ってぼんやりしていたらしい。
布団の上には携帯電話が置かれている。
メールチェックでもしているうちにうつらうつらしちゃったかな?
よくわからないけどそういうことなのかもしれない。
見るとメールを発信した跡がある。
摩子ちゃんと珠恵ちゃんにだ。
何を送ったっけ?
送った内容を確認しようと思ったところに母親の声が聞こえてくる。
『寿美ー、お風呂入っちゃいなさいよ』
「あ、ハーイ」
寿美はとりあえずお風呂を優先して入ることにした。
メールに関してはいずれ摩子や珠恵から返事が来るだろう。
多分明日のこととか他愛もないことを送ったから記憶に残っていないんだ。
寿美はそう結論付け、お風呂に入るために自室を後にした。
「ふう・・・いいお風呂だったよぅ」
新しいパジャマに着替えて自室に戻ってくる寿美。
短めの髪は乾かすのに手間がかからなくていい。
摩子ちゃんはきっと大変なんだろうなぁと思う。
つやつやの髪を手入れするのは大仕事だ。
でも、摩子ちゃんはお嬢様だから、もしかしてそういうのを手伝ってくれる人がいたりするのかも。
そんなことを考えてポフッとベッドに腰を下ろす。
その手が携帯電話に触れ、寿美は携帯電話に眼をやった。
そうだ・・・お声を聞かなくちゃ・・・
寿美はなぜかそんなことを思う。
なぜそんなことを思ったのかわからないが、声を聞かなくてはならない。
寿美はおもむろに携帯電話を手にとって開くと、ゆっくりと耳に当てる。
寿美の眼がすぐにとろんとうつろになり、まるで子守唄でも聞いているかのような心地よさを感じているようだった。
「はい・・・マザー。おやすみなさいませ」
パタンと携帯電話を閉じると寿美は布団にもぐりこむ。
そして携帯電話を握り締めたまま眠るのだった。
******
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
いつもと変わらぬはずの登校時の出会い。
いつもと変わらぬはずの挨拶。
だが、何かが微妙に違っていた。
寿美も摩子も珠恵もどこかうつろな眼をしている。
そして三人とも一様に携帯電話を握り締めていた。
「あら?」
いつものように玄関付近で純玲の到着を待っている巻雲綾。
その眼がなんとなくふらふらと校門を通り過ぎていく三人の女子生徒に注がれる。
学校に入ってこないでどこに行くのかしら・・・
不思議に思ったが、知り合いでもないし声をかけるには遠すぎる。
どこかに寄ってからまた学校へ来るのかもしれない。
何せ朝礼まではまだ時間がある。
純玲ちゃんがその時間内に来てくれればいいのだけど・・・
くすっと笑みを漏らす綾。
今日はたぶんぎりぎりだろう。
何せ夕べは純玲の好きな深夜アニメの日。
間に合ってくれるといいのだけれど・・・
綾は息を切らせて走ってくるであろう純玲に思いを馳せていた。
先ほどの三人のことなど、綾にはもう思い出すことなどできなかったのだ。
******
ふらふらと何かに導かれるかのように歩みを進めていく三人の少女たち。
いつしか彼女たちは無言でただ歩いていた。
学校を通り過ぎ、駅とも反対方向に歩いていく。
途中、いく人かの通りがかりの人々がいぶかしげにはしたものの、声などかけるはずも無い。
やがて三人は無言で人通りの少ない裏路地に入っていった。
寂れたビルディングの地下の廊下。
誰も周囲に人はいない。
廊下の左右には鍵のかかった部屋がある。
以前はアルコールを中心とした飲食店が数件入っていた地下店舗だが、今はいずれも空き店舗だ。
その廊下の突き当たりに三人は立っていた。
三人の少女たちは、無言で携帯電話を突き当たりの壁にかざす。
すると、彼女たちの持っていた携帯電話からまたしても機械の回路状のものが広がり、壁に向かって伸びていく。
回路状の筋は壁に到達するとそこで広がり始め、やがて漆黒の円形の回路図として形を形成する。
やがて、彼女たち三人は無言でその円形の回路図に向かって歩いていき、その躰がどうしたことか回路図の中に消えていった。
コンクリートの壁しかなかった地下の通路の突き当たり。
黒い回路図が消えた後には少女たち三人の姿はまったく消えうせていた。
******
「ん・・・んあ・・・あれ?」
「ううーん・・・こ、ここは?」
漆黒の闇の中、少女たちがゆっくりと目を覚ます。
ふわふわして足元がおぼつかない。
何か宙に浮いているような感じがする。
「こ、ここはどこ?」
「わ、私たちは一体どこにいるの?」
「な、何なんですかここは?」
いきなりの事態に頭がパニックになる。
周りはまったく何も見えないし、手がかりも無ければ立つための床も無い。
ともすれば叫びだしたくなりそうな思いを寿美は必死に押さえつける。
「摩子ちゃん、珠恵ちゃん」
「寿美、摩子、ここは一体?」
きょろきょろと左右を見渡す珠恵にも、この状況は理解できないようだった。
「寿美さん、珠恵さん、とにかく落ち着きましょう。とりあえず三人とも無事なようですね」
摩子の言葉は二人に向けられたものであったが、彼女自身にも向けられている。
こんな上下左右の無い空間に突然放り出されれば、誰だってパニックになってしまうだろう。
それでも三人いるという心強さが、彼女たちを多少救っているのも確かであった。
寿美と珠恵は摩子の言葉にこくんとうなずくと、何とか三人の距離を縮めようと動いてみる。
だが、何か濃密な液体の中にでも漬けられているような感じがして、三人の距離は付かず離れずのままだった。
泳ぐようなマネまでして見せる珠恵だったが、それでもさっぱり近づかない。
会話もできるし、そう離れているわけではないのだが、お互いの手同士が微妙に届かないというもどかしい距離。
三角形の頂点のそれぞれで互いに手を伸ばしている光景は、普通街中でやっていればおかしな光景だったろう。
「無理だね」
「そのようですわ」
珠恵も摩子もため息をついて肩を落とす。
寿美も二人と触れ合えないことでまたしても恐怖感が募ってくるのを押さえ切れなかった。
『ふふふふふ・・・』
突然闇の中に不気味な笑い声が響いてくる。
一瞬顔を見合わせた三人は、その声が互いに発したものではないとわかり、周囲に眼を凝らした。
「誰? 誰なの?」
「誰なんですか? どこにいるんですか?」
寿美は恐怖に震えて声も出せないというのに、珠恵も摩子も不気味な笑い声に呼びかけている。
二人がいてくれて本当によかったと寿美は思った。
『ようこそ、可愛い娘たちよ』
闇の中から再び声がする。
そして、闇の中に巨大な黄色い切れ長の眼が二つ浮かび上がった。
「ひっ」
「きゃぁー」
寿美は思わず悲鳴を上げてしまう。
それは・・・その眼は紛れもなくあの携帯電話の液晶画面に映し出された眼に違いなかったからだ。
「あなたは一体誰なんですか? ここは一体どこなんですか? 私たちをどうするつもりなんですか!」
語尾を強くしてその眼に摩子が問いかける。
それは彼女たち三人の共通した思いだ。
こんなわけのわからない空間にはいたくない。
そもそもこれは現実なのかどうかもわからない。
『妾はマザー。ボードマザー。この暗黒の世を統べる闇機械軍団アクマシンの母』
「ボード・・・マザー?」
珠恵が思わず漏らした言葉に、それを肯定するかのように黄色の目が瞬きをした。
『妾はボードマザー。そして・・・そなたたちはこれよりそのような不完全な生命体であることを捨て、妾の可愛い娘として生まれ変わるのです』
「えっ?」
「生まれ変わる?」
互いの顔を見合わせる三人。
生まれ変わるとはどういうことなのだろう・・・
- 2008/02/15(金) 19:28:41|
- 魔法機動ジャスリオン
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100万ヒット記念SS、本日もう一つは先日予告しましたとおり、「魔法機動ジャスリオン」2ndシーズンの先行販売DVDとなったストーリー、「プロローグ・魔女生誕」です。
今日明日明後日と三日連続で投下しますので、どうか楽しんでいただければと思います。
皆様、あらためまして100万ヒットありがとうございました。
「魔法機動ジャスリオン2ndシーズンプロローグ・魔女生誕」
いずことも知れぬ闇の中。
その一点にぼんやりとした明かりが現れる。
その数二つ。
薄く黄色く輝くその明かりは、周囲を照らすものではなく、まるで誰かが開けた眼のように切れ長で、闇の中に二つ淡く浮いていた。
『うふ・・・うふふふふ・・・』
どこからか笑い声が漏れてくる。
その笑いが闇の中からのものであることに気が付くのはたやすいこと。
まるで闇そのものが眼を開き、笑みを浮かべているかのようだった。
『おろかですねデスマダー・・・おのれの一部でありながら、それによっておのれを封じられてしまうとは・・・』
闇に篭る声が響く。
それは艶のある女の声。
何者かはわからぬものの、この声の持ち主は女性であるかのようだった。
『まあよい・・・おかげで妾(わらわ)はこうして目覚めることができました。礼を言わねばなりませんね・・・オホホホホホ・・・』
甲高い女の笑い声が周囲を圧する。
闇が震えたように感じたのはその笑いのせいだったかもしれなかった。
******
「おはよー」
「おはよー」
いつもの朝が今日もやってくる。
学生カバンを手にした睦月寿美(むつき かずみ)もいつものように学校へと向かっているところだった。
川霧女学園の校門付近には、今日も女子生徒たちが登校してくる。
また新たなる一日がスタートするのだ。
春の温かい日差しと、ちょっぴり冷たい空気を胸に含んで、寿美は気持ちよい朝を迎えていたのだった。
「おはよう寿美」
「おはようございます、寿美さん」
背後から声をかけられて寿美は振り返る。
そこには温かな笑顔を浮かべた二人の女子高生が立っていた。
「おはよう、珠恵ちゃん、摩子ちゃん」
寿美はにこやかに二人の級友に挨拶を返す。
昨年一緒になったクラスメートだが、三人はとても馬が合うらしく、まるで生まれたときから親友であることを定められたかのようなつながりを感じることもある。
ちょっと背の高い涼風珠恵(すずかぜ たまえ)は運動神経抜群で、体育はいつも上位の成績を誇るが、反面学業がおろそかになりがちで、試験前には二人に勉強を教えてもらうこともしばしば。
長い黒髪をなびかせる吹雪摩子(ふぶき まこ)は正真正銘のお嬢様で、いつも丁寧な物腰を崩さない。
勉強も得意で試験では常に学年上位を保っていた。
そんな二人に囲まれる寿美にはこれと言ってとりえがない。
しいて言えば家事が得意ということになるのだが、そんなのは母の手伝いをしていれば自然とできてしまうものであると寿美は思う。
だから、体育では珠恵に教わり、勉強では摩子に教わりという形になってなんとなく肩身が狭いのだが、そのことを二人に言うと、二人はそろって驚いたような顔をしてこう言うのだ。
「「知ってる? 私たちはすごく寿美に助けられているんだよ。寿美がいるから私たちは私たちでいられるんだよ」」と。
それがどういうことを意味しているのか寿美にはいまいち飲み込めないことであったが、時々寿美が手作りのお菓子を作って持って行くと二人ともすごく喜んでくれるので、それで恩返しになっているのかなと勝手に思うことにしていた。
「英語の宿題やってきましたか?」
カバンを両手で持って歩く姿はまさにお嬢様という感じの摩子が言う。
「う~~~、やろうとは・・・やろうとはしたんだよ。でも・・・でもワィーが、ワィーが私を呼んでいたのさ」
こぶしを握り呼ばれたことを力説する珠恵。
ワィーというのはゲーム機だ。
要はゲームで遊んでしまったということなのだが。
「私も・・・やってはみたんだけど、半分ぐらいしかできなかった」
寿美も肩をすくめる。
英語は苦手だ。
どうして外国の言葉など学ばなくてはいけないのか?
どうせなら英語圏の国に生まれていれば英語に苦労しなくてもいいのに・・・
「摩子~~~。三時間目までによろしく」
珠恵が頭を下げる。
「くすっ、そんなことしなくてもいいですわ。みんなで一緒に休み時間にやりましょう」
「おおー、ありがとう摩子様。あなたは女神様のような人だ」
「あははは、大げさだよ珠恵ちゃん」
三人はいつものように笑いあい、楽しく校門をくぐるのだった。
「う~~~、遅刻遅刻ぅ」
校門に駆け込んでくる活発そうな女子生徒。
玄関のところでは、にこやかに微笑みながら彼女を待つもう一人の生徒が手を振っている。
「えっ、遅刻?」
珠恵が思わず腕時計を見た。
時刻はまだ八時半。
朝礼までにはまだ十分もある。
「あれは三年生の雷(いかづち)先輩ですわね。どうも口癖になっちゃっているのではないでしょうか」
「うんうん。私もそう思う。いっつも走るときに遅刻遅刻ぅって言っているもん」
寿美は先ほどから先輩の姿を眼で追っていた。
昨年、ふとしたことで知り合ってから、雷先輩は寿美の気になる人になっていたのだ。
親友の巻雲先輩や山咲先輩といつも楽しそうに過ごしている雷先輩。
雷なんていういかめしい苗字とは裏腹に、純玲(すみれ)という素敵な名前であることを寿美は知っている。
珠恵や摩子に感じるのとは違う思い。
それが憧れだけなのかどうかは寿美にもわからないが、玄関に入って行く純玲を寿美の眼は最後まで追っていた。
******
「ふう・・・」
お腹すいたなぁ・・・
そう寿美は思う。
時刻は十二時少し前。
四時間目も半ば近くなったころだ。
ふと窓に眼をやると、下に広がるグラウンドでは体育の授業が行われているところだった。
どうやら走り幅跳びの時間らしい。
白い体操着に紺のスパッツ姿の女子生徒たちが次々とジャンプを繰り広げている。
窓際の席であることをいいことに、授業にも飽きてきていた寿美はその様子をなんとなく眺めていた。
その眼が一点に凝集する。
次にスタートに立ったのは、誰あろう雷純玲だったのだ。
教師に右手を上げて報告し、スタートを切る。
カモシカのような引き締まった脚が、ぐんぐんと純玲の体を加速する。
「ふわぁ・・・」
運動神経がいいとは知っていたが、こうしてみるとすごく素敵だ。
珠恵ちゃんとどっちが速いかななどとも考えてしまう。
純玲はその加速のピークで踏み切り板を踏むと、ぐんと高くジャンプしてそのまま前方に躰を投げ出して行く。
着地したのは踏み切り板からかなり離れたところ。
寿美には天地がひっくり返っても到達し得ない場所だ。
すごい・・・
寿美は心の底からそう思う。
だが・・・
踏み切り板のところにいた女生徒が旗を上げた。
ファールだ。
ガッツポーズをしていた純玲がその揚がった旗を見てへなへなと崩れ落ちる。
思わず寿美は笑みが漏れた。
かっこいいのに、素敵なのに、どこかドジな純玲先輩。
寿美はそんな純玲がとても好きだった。
プルプルとポケットの中で何かが震える。
えっ?
思わず寿美はポケットに手を入れるとともに、周囲に気を配る。
マナーモードになっているから着信音はないものの、突然のバイブレーションは寿美をドキッとさせるには充分だった。
きっとぼんやりしていた自分を見て、珠恵ちゃんがメールでも送ってきたのだろう。
振動で授業に集中させようと思ったのかもしれない。
寿美はそう思って珠恵の方を見たが、肝心の珠恵は空腹を紛らわせるには寝るのが一番とばかりに机に突っ伏している。
あれ?
それじゃ摩子ちゃんかな?
彼女たち三人は一年の時から一緒のクラスだ。
二年生へは持ち上がりなので、今年になっても一緒のクラスは変わりがない。
三年生になれば進学組みや就職組みなど進路によってクラスが変わるが、今年一年は一緒にいられるのだ。
寿美は摩子の方を見るが、授業が楽しい摩子は寿美には注意を払っていない。
おそらくメールも彼女ではないだろう。
じゃ、誰かしら・・・
もしかして迷惑メール?
授業が終わった後に確認すればいいだけなのだが、寿美はなんとなく着信したものが気になった。
先生が黒板に向かった時を利用して寿美は携帯電話を取り出してみる。
開いてみると着信が一件入っていた。
差出人:mother@akumasin.com
件名:見つけたわ
「?」
寿美は首をかしげた。
迷惑メールはフィルターがかかっているから着信しないはず。
もちろんそれをかいくぐっての迷惑メールだってありえるし、開いたらやばいものもあるのはわかっていた。
だけど・・・
寿美はこのメールが気になった。
中を見たくて仕方なかったのだ。
見つけたというのは何を見つけたのか。
こういう場合はたいていいやらしいサイトを見つけたとかいう迷惑メールだと思うのだけど、寿美は何か得体の知れないものを感じてもいた。
怖いからこそ見たくなる。
まさにそういう状況だったかもしれない。
寿美は授業中であることも忘れ、メールを開いてみた。
「ひゃぁっ!」
思わず声を上げてしまう寿美。
携帯電話の液晶画面いっぱいに黄色く輝く眼が映し出され、それが彼女をぎょろりとにらんできたのだ。
さらに、機械の回路図のようなものが画面から湧き出して、携帯電話の赤いボディに広がっていく。
寿美は授業中であるにもかかわらず、携帯電話を放り出してしまったのだった。
しんと静まり返った教室。
一瞬後教室に忍び笑いが広がっていく。
「睦月さん」
あきれたような表情で寿美を見ている日本史の教師。
親しみやすいという評判の真奈美先生でも、授業中に携帯電話をいじっていたら怒るに決まっている。
寿美は自分が何をしてしまったのかに気が付き、うなだれた。
「す、すみません」
「もうすぐお昼で授業に身が入らないのはわかるけど・・・携帯をいじるなんてだめじゃない」
真奈美先生は苦笑している。
寿美は何も言えなかった。
まさか携帯電話に眼が表示されたからだなんて言えるはずが無い。
「ふう・・・もうだめよ。携帯を拾ってしまっておきなさい」
「はい」
寿美は席を立ち、放り出してしまった携帯電話を取りに行く。
床に転がった携帯電話はいつもと変わった様子は見受けられない。
全体に広がった回路図のようなものもきれいさっぱりと消えていた。
なんとなくホッとして寿美は携帯電話に手を伸ばす。
「!」
携帯電話に触れた寿美の手にピリッと小さな痺れが走る。
一瞬顔をしかめた寿美だが、真奈美先生が見ている以上再度放り出すこともできず、すぐに携帯電話をポケットに放り込んだ。
******
「それで? 今はどうなんですか?」
心配そうに摩子が寿美の顔をうかがう。
お昼休みの校舎の屋上。
寿美たちは春の温かい風が吹くこの屋上でお昼を食べていたのだ。
「うん、今はなんとも無いよ。待ち受け画面もお気に入りのやつだし」
寿美がわざわざ携帯電話の待ち受け画面を二人に見せる。
そこには以前三人で撮った写真が表示されていた。
本当はこっそり撮った純玲の写真を待ち受け画面にしたいのだけど、さすがに恥ずかしくてそれはできなかった。
「ふうん、でも妙だね。着信したメールって消えちゃったんだろ?」
「そうなの。着信したはずなんだけどなぁ」
それは寿美が一番不思議に思ったことだった。
確かにあの時メールは送られてきていたのに・・・
『見つけたわ』と件名も入っていたというのに・・・
「まあ、そういうこともあるってことじゃないの? 携帯会社の新企画とかさ」
「そういうことも考えられますわね。最初にドッキリさせておいて迷惑メール対処には月額何百円のセットをどうぞって」
摩子の言葉に珠恵がうんうんとうなずいている。
確かにそんなこともあるかもしれない。
でも、あれはそんなものじゃないと思う。
もっと・・・
もっと恐ろしい何かが・・・
寿美は表示されたあの眼を思い出しぞっとした。
- 2008/02/14(木) 20:05:43|
- 魔法機動ジャスリオン
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いよいよ100万ヒット到達まであと少しとなりました。
到達の暁には皆様と一緒に喜びをかみしめたいと思います。
記念SSも準備しております。
楽しみにしていただければと思います。
その記念SSの前段階として、ジャスリオン2ndシーズンの企画書をでっち上げてみました。
妄想の一助にしていただければ幸いです。
魔法機動ジャスリオン2nd企画原案
あの高視聴率を稼ぎ出した深夜アニメが帰ってくる。
魔法機動ジャスリオン2nd。
これがその企画原案だ。
新たな敵
闇機械軍団アクマシン
機械科学を信仰する闇の機械軍団
ボードマザーを頂点にしたピラミッド型社会を形成し、地上の人間を機械によって支配しようとたくらむ。
そのためにデスマドーの魔動力及びマジカルクロノブックの奪取を図る。
三幹部たち
アクマシン軍団三人の女幹部。
知の魔女・プロセッサ
記の魔女・メモリ
動の魔女・ドライブ
いずれ劣らぬ美少女たちが全身に回路図を書き込んだ全身タイツを着たような姿をしている。
プロセッサが作戦立案を、メモリが情報収集を、ドライブが実戦指揮を執り行うことが多い。
雷 純玲
マジカルクロノブックにより魔法機動ジャスリオンに変身する正義のヒロイン。
高校三年生に進学し、デスマドー無き後の平和を楽しんでいる。
巻雲 綾
デスマドーによりダークウィッチアヤとされてしまった純玲の親友。
ダークウィッチとしての力は封じられているものの、いつその力が表面化するかわからない不安定な存在となっている。
ユリジーム
今のところ消息不明。
だが、綾は行方を知っている?
真奈美センセ&千尋
真奈美は変わらずに川霧女学園の教師であり、千尋も三年生に進級。
しかし、その内部にはデスマドー少女隊としての人格が眠っている。
サブタイトル(仮)
先行販売DVD:プロローグ・魔女生誕
第一話:奪われたページ
第二話:新たなる敵
第三話:アヤ覚醒
第四話:機械と人と
第五話:眠り姫
第六話:魔王帰還
第七話:信号機に気をつけろ
第八話:メモリの思い
第九話:デスマドー少女隊復活
第十話:マナミとチヒロ
第十一話:暗黒の日
第十二話:悪夢
第十三話:帰って来たオルダー
第十四話:機械の兄
第十五話:魔女たちの宴
第十六話:制御不能
第十七話:信じる力
第十八話:闇の学園
第十九話:純玲とアヤ
第二十話:ユリジーム
第二十一話:漆黒の聖母
第二十二話:メモリの最後
第二十三話:デスマダーとボードマザー
第二十四話:マジカルクロノブック
以上、全二十四話+一話を予定
監督は前回に引き続き戸佐又海馬。
脚本は縁根百合子に加え、これまた新進気鋭の若手脚本家である風精(ふうせい)氏を抜擢。
縁根ワールドに新たな視点での展開を付け加え、ジャスリオンがさらに面白くなるだろう。
キャストは前回に引き続き雷純玲は安住瀬怜奈、巻雲綾は速水真李亜が担当。
そのほかの役も「ノワールプロダクション」の実力派声優が担当の予定。
スポンサーはS・S・B食品に加え今回新たに総合通信産業の魔道通信(株)が参入。
インターネットにてdeathmado.comを展開する同社の参入により、魔法機動ジャスリオンも更なる飛躍に挑戦する。
さらに玩具メーカーより、ロボットアニメプラモデルで有名なサンザイ(株)も参入が決定。
ジャスリオンキャラフィギュアで消費者の購買意欲をそそる予定。
以上です。
こんなサブタイトルはどう? とか、こんなキャラはどう? というのがありましたら、ぜひぜひお寄せくださいませ。
それではまた。
- 2008/02/13(水) 20:09:39|
- 魔法機動ジャスリオン
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本日日付の変わった直後の午前0時10分ごろ、ありがたいことに90万ヒットを迎えることができました。
いつも申していることではありますが、これもひとえに皆様のご支援の賜物。
決して自分の力のみで達成できるものではありません。
訪れて下さっている皆様に心よりお礼申し上げます。
本当にどうもありがとうございました。
思えば夢のような数字ですね。
私の住んでいる北海道では、この数字を超える人口の都市は札幌しかないんですよね。
100万ヒットという数字もわずかに見えてきたような気もします。
これからもできるだけ突っ走るつもりでおりますので、これからもご声援のほどよろしくお願いいたします。
今日の日の記念にと書いてきたSSだったわけではありませんが、期せずして90万ヒット記念になりました「デスマドー少女隊復活」、今日はその締めの日です。
どうか楽しんでいただければ幸いです。
そして願わくば、何らかのコメントがいただければ嬉しいです。
作者にとって作品に何らかの反応があるということほど嬉しいものはありませんのですから。
それでは「デスマドー少女隊復活」の3回目をどうぞ。
放課後、真奈美は一心に仕事に打ち込んだ。
小テストの採点や教科の確認事項などを済ませ、退勤時間を待ちわびる。
帰りにデパート寄らなくちゃ・・・
もう真奈美の心を占めているのは赤紫色のレオタードを探すことだけ。
お昼に千尋に会ってわかったわ・・・私たちには赤紫のレオタードが必要なのよ・・・
ああ・・・早く赤紫のレオタードを身に付けたいわ・・・
自分でも異様な気持ちだなとも感じるが、それを不思議とは感じない。
とにかく赤紫色のレオタードが着たいのだ。
他の事などどうでもいい。
真奈美は先ほどからもう何度目を落としたか知れない腕時計に、再度また目を落とした。
「先生さよーならー」
委員会などを終えた生徒たちが校門で真奈美に手を振ってくる。
挨拶もそこそこに真奈美は繁華街に向かって歩を進めた。
十数分後、真奈美は繁華街の一画にあるデパートに入って行く。
脇目も振らずに歩いていくその姿は、傍から見れば一種異様だったかもしれない。
そのまま真奈美は五階にあるダンス用品の専門店に入って行く。
カラフルでとりどりのレオタードがディスプレイを飾っているお店だ。
七階にはスポーツ用品店もあり、レオタードはそちらでも売っているが、カラフルなレオタードならダンス洋品店の方があるだろう。
そう思って真奈美はここを選んだのだ。
まあ、無ければ七階に行ってみればいいわね。
そう思いながらレオタードの棚を見ていく真奈美。
丸首やVネック、ハイネックなどの襟の形や、長袖半袖袖無しにハイレグや下にカラータイツを穿くこと前提のTバックなど、さまざまな形のレオタードが揃っている。
これなら形を選ぶのも楽しいかもしれない。
色もカラフルなものがたくさんだ。
黒白はもとより、ピンクやグリーンやネイヴィーブルー。
蛍光系の派手な色もいくつかある。
今まで気にもしていなかったけど、レオタードっていろんな種類があるんだわ・・・
真奈美は棚やマネキンを目で追いながら、目的のレオタードを探して行く。
これだわ・・・
やがて真奈美は一着のレオタードを手に取った。
それはVネックのレオタードで、長袖のそれほどハイレグではないものだった。
何よりも鮮やかな赤紫色が真奈美の目を捕らえて離さなかったのだ。
真奈美はすぐに同じものをもう一着手に取ると、小物類のところへ行く。
夢の中の真奈美は両手に手袋をしていた。
紫の手袋があればいいのだけど・・・
駆け込むように自宅の玄関に入り込む真奈美。
もう、どこをどう歩いてきたのかも覚えていない。
確かなのは抱えた紙袋の感触だけ。
他にはもう何もいらない。
真奈美は靴を脱ぐと、早速部屋に行って紙袋を置く。
ドキドキが止まらない。
服を買ってこんなにドキドキするのは初めてかもしれない。
真奈美は少し落ち着こうとコートを脱いでハンガーにかける。
だが、心はちっとも落ち着いてくれない。
早く紙袋の中身を取り出したくて仕方ないのだ。
真奈美は結局、グレーのスーツを脱いでハンガーにかけると、下着とパンティストッキング姿のままで紙袋の前に腰を下ろした。
広げられる赤紫色のレオタード。
同じものが二着ある。
なぜそんなことをしたのだろうとも思ったが、今となってみるとわかりきったことだ。
着せる。
そのために同じものを買ったのだ。
夢と同じように・・・
一緒にこのレオタードを着るのが当然なことなのだ。
そう・・・
これを着て行かなくては・・・
真奈美はレオタードを着るためにストッキングと下着を脱ぐ。
その上であらためて出したばかりのナチュラルベージュのパンストを穿いていく。
もちろん下着などは付けずに直穿きだ。
普段の真奈美なら絶対にやらなかっただろうが、今の彼女にはそれが当然のように思う。
本当はレオタードの下には何も付けたくなかったが、素足ではいけない。
激しい戦闘に備えるためにはむき出しの部分があってはならないのだ。
パンティストッキングならば、充分に彼女の脚を守ってくれるだろう。
なぜだかわからないが、真奈美はそう思っていた。
パンティストッキングを穿いたら、次はいよいよレオタードだ。
脚を交互に入れて腰までたくし上げ、そこから徐々に胸まで上げて行く。
その上で両腕を通し、肩まで上げてフィットさせる。
はふう・・・
ただレオタードを身につけただけなのに、強烈な快感が全身を走る。
まるで全身を愛撫されているかのようだわ・・・
真奈美は熱い息を漏らしながら両腕で自分の躰を抱きしめる。
赤紫のレオタードが心地よかった。
姿身の前に立つ真奈美。
おもむろに買ってきた紫色の手袋を両手に嵌めて行く。
残念ながら紫のブーツは見つからなかったので、足先が定まらない。
でも、レオタードを着て手袋を嵌めただけでも、気持ちが引き締まる。
手袋を嵌め終えた真奈美は、おもむろに紫色の口紅を塗り始める。
唇が紫色に染まって行くのは本当に気持ちがいい。
何か自分が新しく生まれ変わって行くかのよう。
口紅を塗り終えた真奈美は、姿見の前で自分の姿を確認する。
口紅をわざわざ目蓋にも塗って即席のアイシャドウとし、紫の唇とあわせてコーディネートしてある。
赤紫色のレオタードを着て紫色の手袋も嵌めている。
ブーツこそないものの、ナチュラルベージュのパンティストッキングも穿いている。
だが、真奈美は何か物足りなさを感じていた。
何か、何かが足りないのだ。
いったい何が足りないのか・・・
改めて姿見の中の自分を見つめる真奈美。
あ・・・
何が足りないのかがわかったような気がする。
両手で目の周りを覆ってみる。
もう間違いない。
真奈美は材料を探し始めた。
ボール紙を切り抜いてこしらえたアイマスク。
サインペンで黒く塗って目のところに当ててみる。
ゾクゾクッという快感が背筋を駆け抜けていく。
真奈美は再び姿見の前に立つ。
アイマスクで目の周りが覆われて目元だけが覗く形になり、いっそう紫色が引き立っている。
ああ・・・
これよ・・・
これこそが私の姿・・・
これこそが本当の私の姿なんだわ。
真奈美はうれしくて姿見の前でくるくると回って見せる。
内からあふれてくる悦びに叫びだしたくなる。
「・・・ドー・・・」
思わず口をついて出てくる言葉。
昼間頭の中をぐるぐる回っていたあの意味不明な言葉が今はっきりと意味を成す。
「マドー・・・」
おずおずと小さな声で口にしてみる。
その瞬間に全身がまるで性感帯にでもなったかのような快感が走る。
真奈美はもう少しで床にへたり込んでしまいそうになるほどだった。
「マドー!」
もうためらわない。
「マドー!!」
真奈美は大声でそう叫んでいた。
突然湧き起こる黒い渦。
足元から立ち昇る黒い霧の渦に真奈美は巻き込まれる。
「えっ? ええっ?」
いきなりのことに何がなんだかわからない。
だが、足元がグニャリと歪んで感触がなくなり、真奈美は漆黒の中空に浮いたような感じを受ける。
「い、いやぁっ! だ、誰か助けてぇっ!」
手足をばたつかせてもがいたものの、どこにも手がかりはなく、まるで濃い闇の中を泳いでいるかのようだった。
「いやぁっ! 怖い、怖いよぉ!!」
本能的な恐怖に襲われ、真奈美は必死にどこかにすがれるものはないかと手を伸ばす。
やがて、真奈美が着ているものに変化が訪れた。
赤紫色のレオタードが、ナチュラルベージュのパンティストッキングが、そのほか身に着けていたものすべてが細かい塵のようになってぼろぼろと崩れていくのだ。
「ええっ?」
闇の中で白い裸身をさらけ出すことになった真奈美は、思わず躰を丸めて隠そうとした。
だが、このふわふわした闇の中に漂うことが、とても気持ちがよいことが次第に感じられてくる。
誰も見ているものなどない闇の中で、躰を隠すなんて馬鹿らしいことだ。
真奈美は恐る恐る両手両足を広げて、闇の中に身を任せる。
先ほどまで感じていた恐怖はすでに綺麗になくなり、心地よさだけが広がっている。
それどころか、この状態に恐怖を感じていた自分が馬鹿みたいに思え、思わず真奈美の口元には苦笑が浮かんでいた。
ああ・・・気持ちいい・・・
裸のまま大の字になって闇にたゆたう真奈美。
やがて最後の変化が真奈美を包み込む。
周りの闇が真奈美の躰に染み込んで、真奈美の体表に衣装を形作り始めたのだ。
すらっとした白く長いすべすべの脚は、薄い皮膜のナイロンストッキングを穿いたように包まれていき、くるぶしから下は紫色のショートブーツを履いたようにつま先がとがって高いヒールが作られる。
股間から胴体、そして首周りまでは赤紫色のハイネックレオタードを着たようにすべすべのナイロン状の皮膜が覆い、手首から先は紫色の手袋を穿いたように染められていく。
唇は口紅ではなくその色自体が紫色となり、目蓋のアイシャドウも目蓋自身の色となる。
額には金色に染め抜かれたデスマドーの紋章が輝き、そして目の周りと鼻の頭にかけて、黒いアイマスクが仮面舞踏会の仮面のように載せられ、真奈美の顔を妖しく美しく彩った。
それは、以前エロジームの手により作り出され、ユリジームによって強化されたデスマドー少女隊、そのリーダーソルジャーだったマナミの姿に他ならなかった。
闇が晴れ、先ほどと同じく姿見の前に真奈美は立っていた。
しかし、その姿は以前とは微妙に異なっていた。
すべての衣装が暗黒魔界の力によって作られ、その姿を誇らしげにさらしている真奈美は、もはや生徒に親しまれた日本史教師の大河内真奈美ではなく、デスマドー少女隊のリーダーソルジャーマナミへと生まれ変わっていた。
「うふふふ・・・ようやく本当の姿を思い出したわ。ジャスリオンによって封じ込められていた本当の私。今まで忘れさせられていたんだわ」
姿見の前でくるっと回って自分の姿を確認する。
「うふふふ・・・素敵。これこそが私の姿。私はデスマドー少女隊、リーダーソルジャーマナミ。あははははは・・・」
気持ちが高ぶり思わず笑いが出る。
「ふふふ・・・さあ、千尋に会いに行きましょう。私の可愛い大事なパートナー、リーダーソルジャーチヒロにね・・・」
******
「買っちゃった・・・」
手に持っている口紅のスティックを見つめながら、千尋はポツリとつぶやいた。
どうしてかわからない。
でも、紫色の口紅がどうしてもほしくなったのだ。
「真奈美・・・先生・・・」
今日の昼、千尋は真奈美先生に紫色の口紅を塗ってもらった。
すぐに拭ってもらったものの、それがあまりにも気持ちよくて、しばらくはぼうっとして授業に集中もできなかった。
どうしてこんなにも紫色に心惹かれるのだろう・・・
考えてもわからない。
ただ言えることは、つい先日まではそんなに惹かれる色ではなかったということだけ。
でも・・・
千尋はそっとキャップをはずし、下部をひねって口紅を出す。
鮮やかな紫色が千尋の目を釘付けにする。
綺麗・・・
千尋はゆっくりと口紅を唇に塗りつける。
しっとりとした口紅の冷たさが唇に染みとおるような感じがする。
「ん・・・」
唇を前後に滑らせ、口紅がきちんと載るように整える。
机の引き出しから手鏡を取り出して見ると、千尋の唇は鮮やかな美しい紫色に染め上げられていた。
「はあ・・・なんだろう・・・なんだか躰が熱いよぉ」
じんわりと躰が火照るような気がする。
内から何かがあふれ出してくるような、何か閉じ込められていたものが出てくるようなそんな感じ。
「なんだろう・・・これ・・・」
思わず胸に手を当てる。
千尋はその得体の知れない感覚をいつの間にか楽しんでいた。
『チヒロ・・・チヒロ・・・』
誰かが呼んでいる。
『チヒロ・・・私の可愛いチヒロ・・・』
誰だろう・・・
千尋は少し考える。
だが、その声はすごく優しく、そして聞き覚えがあるような感じがする。
「誰? 誰なの?」
千尋はあたりを振り返る。
だが、ここは自分の部屋。
ベッドと机、本棚や洋服ダンスがあるだけの自分の部屋。
誰もいるはずがない。
『チヒロ・・・私のチヒロ・・・迎えに来たわ』
ドクン
千尋の心臓が跳ね上がる。
ああ・・・
来てくれたんだ・・・
私の・・・
私のパートナーが・・・
千尋はふらふらと窓を開ける。
外は夜。
住宅街の静けさに包まれて、街灯の明かりが寒々と輝いている。
そこに真奈美がいた。
赤紫のハイネックのレオタードと紫のショートブーツに手袋、漆黒のアイマスクといういでたちをして、二階の千尋の部屋の窓の外に浮いている。
「真奈美先生・・・」
千尋はその真奈美の姿と状況が異様とも感じないどころかとても素敵に思えた。
できることなら自分もその姿になりたいとそう思う。
真奈美はちょっと身をかがめるようにして窓をくぐり、千尋の部屋に入り込む。
「今晩はチヒロ。迎えに来たわ」
「真奈美先生・・・」
千尋はうっとりと真奈美を見つめる。
すらりとしたスタイルのよい真奈美にはレオタードがよく似合っていた。
「さあ、これを・・・」
真奈美が差し出すものを千尋は黙って受け取る。
それは赤紫色のレオタード。
千尋が求めてやまない赤紫色のレオタードだった。
「ああ・・・」
まるで失ったものを取り返したかのように、千尋はレオタードを抱きしめる。
「ありがとうございます、先生」
「礼はいいわ、着て御覧なさい」
「はい」
千尋はためらいもなく着ているものを脱ぎ捨てていく。
室内着はおろか下着までも脱ぎ捨てると、美しい裸身が姿を見せた。
自慢の胸は巨大すぎてバランスが悪いなどということはなく、腰のくびれは極端すぎず、お尻の丸みはみずみずしい果実のよう。
まさに天が与えたバランスのよさと千尋自身のたゆまぬ努力の結晶だ。
「綺麗だわ、チヒロ」
「ありがとうございます」
少し頬を赤らめる千尋。
「これも使うといいわ」
手渡されたのは紫色の手袋とベージュのストッキング。
無くてはならないものばかりだ。
「はい、それじゃ着ますね」
千尋はゆっくりと渡されたものを身に着けていった。
「いかがですか? 先生」
真奈美の前でくるっと回転してみせる千尋。
赤紫色のレオタードがぴったりと吸い付くように躰のラインをさらけ出している。
「うふふ・・・素敵よチヒロ。気持ちいいでしょ?」
「はい、とっても・・・」
うっとりと自らの躰を抱きしめる千尋。
「うふふ・・・さあ、目覚めるのよチヒロ。マドーって叫んで御覧なさい」
「えっ? マドー・・・ですか?」
一瞬意味がわからない千尋だったが、その言葉がすごく心に響いてくる。
「そう、内なる力を呼び覚ましなさい。目覚めるのよチヒロ!」
千尋ではなくチヒロと呼ばれるうれしさが千尋の躰を駆け抜ける。
音は同じでも意味がまったく違うことがすぐにわかる。
「ああ・・・はい、先生。マドー!!」
その悦びに包まれて力いっぱい千尋は叫ぶ。
その瞬間、千尋の周囲に闇が湧き起こり、彼女の姿を飲み込んだ。
闇の中から姿を現す千尋。
その姿は先ほどとそんなには変わらない。
だが、漆黒のアイマスクが鼻梁から目の周囲を覆っており、きている赤紫のレオタードもハイネックに変化している。
足元にはショーツブーツが形成され、額には金色のデスマドーの紋章が、目元には紫色のアイシャドウが入っていた。
「ふふふ・・・おめでとうチヒロ。これであなたも・・・」
「ええ、ありがとうマナミ。私はデスマドー少女隊リーダーソルジャーチヒロ。デスマダー様復活のためにこの身をささげるわ」
デスマドー少女隊の姿に変化した千尋は、口元に冷たい笑みを浮かべて妖しくチロリと舌先を覗かせた。
******
「今晩は、卯月さん。あなたを迎えに来たわ」
「あ、あなたたちは? いったいどこから?」
突然自室に現れた二人の異様な姿の女性に卯月麻美(うづき あさみ)は恐怖する。
「すっかり忘れさせられてしまったのね。でも心配は要らないわ。すぐに思い出させてあげる」
赤紫のレオタードに身を包んだ二人の女性は、アイマスクの奥の瞳を輝かせながらそっと麻美に手を差し伸べる。
「い、いや、こないで」
逃げようとした麻美だったが、すぐに二人の女性に前後を挟まれてしまう。
「ひいっ」
「怖がらないで。すぐにあなたも思い出すわ」
二人は前後から麻美を挟み込んで抱きしめると、意味不明の叫び声を発した。
「「マドー!」」
「きゃあーっ」
足元から黒い霧が湧き上がって麻美もろとも全員を包み込んでいく。
やがて闇が晴れていくと、挟み込まれていた麻美の姿も赤紫色のレオタードを身にまとったデスマドー少女隊の姿へと変化していた。
「うふふふ・・・どうかしら、ソルジャーアサミ」
前後を挟んでいたマナミとチヒロがアサミを離す。
「ありがとうございますマナミ様、チヒロ様。私はデスマドー少女隊、ソルジャーアサミ。デスマドーに忠誠を誓います」
すっとひざまずき忠誠を誓うアサミ。
だが、その瞳からは意思の輝きは失せ、アイマスクの奥の瞳はガラス作りのように透き通っていた。
川霧女学園。
深夜だというのに、教室の一つに灯りがついている。
「私はデスマドー少女隊、ソルジャーミノリ。リーダーソルジャーチヒロ様、何なりとご命令を」
赤紫のレオタードを身にまとって生まれ変わった少女がひざまずく。
その背後には十数人の同じ姿をした少女たちが控えていた。
「うふふ・・・これでデスマドー少女隊は完全復活ね。お疲れ様リーダーソルジャーチヒロ」
マナミはそっとチヒロのあごを持ち上げて口付けをする。
「ああ・・・ありがとうマナミ。デスマドー少女隊は滅びないわ。何度でも蘇るの。エロジーム様やユリジーム様の力に頼らなくてもこうして蘇ったんだもの」
「ええ・・・そのとおりよチヒロ」
マナミもうなずいた。
明日からは忙しくなる。
デスマダー様を復活させ、暗黒魔界を地上に広げるのだ
「ねえ、チヒロ。デスマダー様の復活にちょうどいい生贄がいるんだけど」
「うふふふ・・・雷純玲のことね」
「そうよ、チヒロは賢いわね」
「うふ、マナミに褒められちゃった。あの娘こそが憎むべき敵、魔法機動ジャスリオンだものね」
ペロッといたずらっぽく舌を出すチヒロ。
その仕草がすごく愛らしい。
「ええ、でも油断は禁物。まずは力を蓄えないとね。美並原先生あたりは魔力が豊富そうだし・・・」
「幾人かの生徒も魔力を持っているわ。まずは新たな少女隊メンバーを補充しましょうか」
「ええ、二人で楽しみましょう」
お互いに見つめあい、求め合うように抱き合う二人。
新たな闇が学園に広がろうとしているのだった。
END
- 2007/11/29(木) 19:09:02|
- 魔法機動ジャスリオン
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二回目です。
それではドゾー。
「おはようございます」
職員室にはまだ人影はまばら。
真奈美は割りと早めの出勤を心がけているために、まだ来ていない教師たちも多いのだ。
とりあえず自分の席に着き、通勤途中で買ってきた無糖の缶コーヒーと眠気覚まし用のガムをカバンの中から取り出す。
えっ?
真奈美の表情から血の気が引く。
ど、どうしてこれが?
真奈美はすぐさまカバンの中にあった“それ”を取り出してポケットに入れる。
そして周囲を窺うようにして、誰も今の行為を見ていないことにホッとした。
真奈美はすぐさま立ち上がると、職員用のトイレに向かう。
その間、彼女の右手はポケットの中に押し込まれたままだった。
ど、どうして・・・
私・・・
どうして?
トイレの個室に入り込んで鍵をかける。
心臓がドキドキと早鐘のように打っている。
右手に感じる硬質な気配。
あってはならないものがそこにある。
どうして?
確かに見惚れて手に取ったけど・・・
ちゃんと置いてきたはずよ。
恐る恐る取り出される真奈美の右手。
握られたこぶしの中にその感触は確かに存在している。
でも・・・
これは何かの間違いだわ・・・
私はこんなのもっているはずが無い。
目を閉じておずおずと手を開く。
目を開ければそこには何も無いはず。
そう信じて真奈美は目を開け・・・そして唇を噛み締めた。
真奈美の右手の上にあるのは一本の口紅のスティック。
朝、いつものコンビニで見かけたものだ。
今までならまるで気にもしなかったはずの色の口紅。
鮮やかな赤紫色の口紅が真奈美の手の平に乗っていた。
「持って・・・来ちゃったんだ・・・わ」
そんなことは信じたくない。
口紅を持ってくるなんてありえない。
しかもこんな毒々しい赤紫色の口紅なんて・・・
確かに朝これに目を惹かれたのは事実。
でも・・・
置いてきた記憶が・・・
どうして・・・
どうしてこんな色の・・・
こんな赤紫色の・・・
綺麗な赤紫色の・・・
綺麗・・・
「うふふっ・・・」
真奈美の口元に笑みが浮かぶ。
ぎゅっと握り締められる右手。
そのまま個室を出ると、手洗い場の鏡に向かい合う。
右手に持ったスティックのキャップが抜き取られる。
下部をねじって中身を露出させる。
赤紫色の口紅が姿を現し、真奈美はそれを少しの間うっとりと眺めていた。
やがて、真奈美の右手はおもむろに口紅を口元に運んで塗っていく。
綺麗なナチュラルピンクの唇が、見る間に赤紫色に染まっていく。
「ん・・・」
唇を重ね合わせ、前後にずらして口紅の載りを確かめる。
赤紫色の唇をした真奈美が、鏡の向こうで微笑んでいた。
「あ、大河内センセ、おはようございます」
職員用トイレに入ってくる白衣の女性。
養護教諭の美並原紀江だ。
いつものように優しい笑顔に真奈美もつられて笑みが浮かぶ。
「おはようございます美並原先生」
にこやかに微笑んだ真奈美の顔に一瞬怪訝な顔をする紀江。
だが、その違和感の元が真奈美の唇にあることに気がつくと、その表情から笑顔が消える。
「大河内センセ、とても素敵な色の口紅ですけど、そのまま授業を行うつもりですか?」
「えっ?」
慌てて鏡を見直す真奈美。
妖しい赤紫色の唇がその目に飛び込んでくる。
「ええっ? わ、私・・・どうして・・・」
愕然としながらもティッシュを取り出して口紅を拭い落とす。
「気がついていなかったんですか?」
「あ・・・それは・・・あの・・・」
唇を拭いながら言葉を捜す真奈美。
どうしてこんな口紅をつけてしまったのだろう・・・
わからない・・・
わからない・・・
「どうしたんですか? 大河内センセ」
様子のおかしさに紀江はちょっと戸惑うが、真奈美は何も言わずにトイレから飛び出して行ってしまう。
残された紀江は首をかしげるしかなかった。
どうかしてる・・・
私どうかしてるよ・・・
いったいどうしちゃったんだろう・・・
何かの病気かしら・・・
トイレを飛び出した真奈美は、廊下の壁によりかかって呼吸を整える。
気がつくとポケットに入れていたはずの口紅を握り締めていた。
こんな口紅を盗んじゃったから?
こんな口紅を・・・
一瞬口紅を放り投げてしまおうかとも思ったが、そうも行かない。
使ってしまったけれど、ちゃんと帰りにでもあのコンビニで代金を支払わなければ・・・
そう思いなおして、真奈美は再びポケットに口紅を入れなおした。
シンと静まりかえっている教室内。
筆記具が紙に擦れる音しかしてこない。
期末試験を目前に控えた段階での小テスト。
みんなが必死に取り組むのも無理は無い。
この問題の中から期末試験に出ることもありえるのだ。
日本史と言う個々人の興味の差がはっきりする分野の授業では、こういう小テストで繰り返しポイントを教えて行くのが有効だと真奈美は思う。
残り10分・・・
腕時計から目を上げると、早くもあきらめムードを漂わせた娘と、仕上げてしまって用紙の裏にイラストを書いている娘とが見受けられる。
窓際の席にいるあきらめムードの少女は、もはやテストには何の興味も無いように窓の外に目を向けていた。
真奈美は苦笑した。
頴原(のぎはら)さんたら・・・マドの外に何かあるとでもいうのかしらね・・・
マド・・・?
マド・・・
マドー・・・
マドー・・・
マドーマドーマドーマドー・・・
マドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドーマドー・・・
頭の中で渦を巻く意味不明な言葉。
「うわあぁぁぁぁぁ」
自分が悲鳴を上げたことに気がつき、真奈美は我にかえる。
生徒たちがいっせいに彼女の方を見て、困惑の表情を浮かべていた。
「あ・・・ご、ごめんなさい。ついうとうとしちゃったみたい」
とっさにごまかす真奈美。
爆笑に包み込まれる教室内。
親しみやすい教師と評判の大河内真奈美は、さらにその評判を高めるのだった。
面白くない・・・
教室でうたた寝をしたとして、真奈美は教頭に説教を食らったのだ。
事実はそうではなかったが、何が起こったのか自分でもわかっていないだけに腹立たしい。
それに今日はいつもよりも教頭のことが憎らしく感じる。
くだらない人間のくせに偉そうに説教するなんて赦せない。
ボキリ
握っていたプラスチックのボールペンが二つに折れる。
いらいらするわ・・・
こんなもの折ったぐらいじゃ落ち着かない。
いっそ一人ぐらい殺してしまおうかしら・・・
どうせ役に立たない人間たちばかりだもの・・・
「大河内先生、ボールペンが・・・」
隣の席の男性教師が驚いて彼女の方を見ている。
この男もくだらない人間の代表格。
つまらない授業で彼女の可愛い教え子たちの成績を下げている。
生きている資格など無い人間だわ・・・
始末してやりたいぐらい・・・
真奈美は男性教師をにらみつけると席を立つ。
少しこの場から離れないと息が詰まってしまいそうだ。
真奈美はポケットの中に手を入れ、そこにあるスティックを取り出して、職員トイレに向かっていった。
紫色の口紅。
とても美しくて見ているだけで吸い込まれそう。
自分の唇が紫色に染まったら・・・
どんなに気持ちがいいだろう・・・
赤い口紅なんて気持ち悪い。
紫色こそが私には相応しいわ。
でも・・・
でも今はダメ。
今はまだその時ではない・・・
今はまだ・・・
真奈美は口紅をネジって先端を出すと、手洗い場の鏡に映る自分の姿の唇にそっと塗りつける。
鏡の中で真奈美の唇は紫に染まり、とても妖しく微笑んでいる。
真奈美はしばらくうっとりとそれを眺め、やがて職員トイレを後にした。
「スミスミー! アヤアヤー! 待ってよぉ」
廊下を走っていく一人の少女。
先に行く二人の少女を追っているのだろう。
でも、だからといって廊下を走っていいことにはならない。
ましてや常日頃から個人的付き合いも無いではないとは言え、教師の前で走るなど論外なことだ。
「山咲さん!」
真奈美の制止の声に思わず足を止める少女。
恐る恐る振り返り、声の主を確認する。
「ま、真奈美先生」
あちゃーと言う感じで思わず天を仰ぐ。
「廊下を走ってはいけないことぐらい知っているでしょ? ダメじゃない」
いつもならこの程度で終わらせるのだが、真奈美はふと少女の向こうではらはらしながら待っている二人の少女が目に止まった。
綾・・・それに雷純玲・・・
どす黒い感情が沸き起こる。
目の前の少女、山咲千尋はあの二人の元に行こうとしていたのだ。
よりにもよってあの純玲のところに・・・
「ちょっと来なさい」
真奈美は思わず千尋の手を取っていた。
「えっ? あ・・・その・・・真奈美先生?」
千尋は何がなんだかわからない。
確かに廊下を走ったのはまずかったけど、説教を食らうほどじゃないはずだ。
だが、千尋の手はがっちりと握られて、とても離せる状況じゃない。
あうー・・・お昼ご飯がぁ・・・
千尋は大人しく着いていくしかなかった。
階段の影になるあたり、人目につかない場所に千尋を連れ込む真奈美。
勢い込んでつれてきてみたものの、真奈美にはもう千尋に説教しようという気などはない。
ただ・・・
ただあの純玲に千尋を近づけたくなかった。
どうしてかわからないけど、純玲に千尋を近づけたくはなかったのだ。
「あ、あの・・・真奈美先生?」
不安そうに真奈美を見上げている千尋。
いったいどうしたのだろうと思っているに違いない。
真奈美はどうしたものかとあらためて千尋を見る。
長めにした黒髪がつややかで美しい。
ピンク色の唇もつやつやしている。
ピンク色?
違う・・・
この娘にピンクは似合わないわ・・・
それに・・・セーラー服・・・
どうしてこんなものを着ているのかしら・・・
この娘にはもっと違うもの・・・そう・・・レオタードだわ・・・紫色のレオタードこそ相応しいのに・・・
ああ・・・どうしてこの学校は制服が紫色のレオタードじゃないの?
変よ。
おかしいわ。
紫色のレオタードを着るべきよ。
赤紫色のレオタードを・・・
「真奈美先生?」
「千尋、動かないで」
「えっ?」
千尋は戸惑った。
親友の綾の従姉妹である真奈美先生は、純玲や千尋とも個人的に親しい関係を持っている。
日曜日に綾の家に遊びに行くと、真奈美先生も遊びに来たりすることが多いのだ。
だから、担任教師というよりも友達のお姉さんと言うイメージのほうが近く、真奈美先生自身も綾の家などでは千尋ちゃんと呼んでくる。
それでも、公私混同を避けるということで、学校ではきちんと苗字で呼んでいるのが普通だったのに。
千尋なんて呼び捨てにされるなんて・・・
だが、それがちっともいやじゃない。
それどころか今までよりももっと真奈美に近い存在であることを感じるようで嬉しかった・・・
真奈美がポケットから口紅のスティックを取り出す。
キャップを開けて下部をネジって先端を覗かせる。
その瞬間、千尋はその素敵な紫色に目を奪われた。
綺麗な紫色・・・
とても素敵だわ・・・
そう思っていると、真奈美の手が千尋に向かって伸びてくる。
あ・・・
真奈美の持つ紫色の口紅が、千尋の唇を染めて行く。
紫色が千尋の唇に広がると同時に、千尋はえも言われぬ幸福感を感じていた。
目の前で紫色に染まって行く千尋の唇。
見ているだけでゾクゾクする快感が背筋を抜けて行く。
これだわと真奈美は確信する。
これこそがこの娘には相応しい色。
彼女とともに歩むのに相応しい色なのだ。
後はレオタード。
赤紫色のレオタードを着る。
二人でおそろいの赤紫色のレオタードを着て、紫色の口紅を塗る。
それこそが二人の絆をより強固にすることになるのだ。
ああ・・・
なんて素敵なの・・・
真奈美は叫びだしたいくらいの悦びに包まれる。
千尋・・・
あなたは私のものよ・・・
一緒に・・・
一緒にお仕えしましょうね・・・
「はあ・・・真奈美先生・・・」
うっとりと夢心地でつぶやく千尋。
どうしたんだろう・・・
躰がふわふわする・・・
まるで雲の上にでもいるみたい・・・
嬉しい・・・
気持ちいいよぉ・・・
口紅を塗られることがこんなにも気持ちいいなんて・・・
先ほどまでは紫色の口紅なんてって思っていた千尋だったが、今では口紅は紫以外考えられなくなっている。
はあん・・・
先生にキスしたくなっちゃう・・・
一緒に抱き合いたいよぅ・・・
真奈美先生・・・
ま・・・な・・・み・・・
どちらからともなく抱きしめ合う真奈美と千尋。
お互いの唇が重なり合い、濃厚なキスが交わされる。
うっとりとした表情を浮かべ、目を閉じて唇の感触だけで心を通わせる二人。
やがて離される唇の間に唾液が一筋糸を引いた。
「先生・・・」
「千尋、あなたは私のものよ。これからも一緒に・・・」
真奈美は優しく語りかける。
「はい・・・」
先ほどまでのいぶかしげな表情とはまったく違う表情を浮かべ、千尋はゆっくりとうなずいた。
「先生と千尋、どこに行っちゃったのかなぁ。早くしないとお昼終わっちゃうのに・・・」
「廊下を走ったぐらいでお小言とは真奈美先生らしくないですわ」
「真奈美先生もお腹空いていたんじゃない? だから怒りっぽくなっていたとか。真奈美先生ってあれで結構食べる人だし」
「まあ、純玲ちゃんたら。うふふふ・・・」
「とりあえず教室へ戻ろうよ。千尋も戻っているかもしれないしさ」
廊下の方から声が聞こえてくる。
きっと純玲と綾の二人が千尋を探しに来たのだろう。
真奈美はハッと我にかえると、そそくさと千尋から手を離す。
「千尋、またあとにしましょう。気をつけるのよ」
何に気をつけなくてはいけないのかさっぱりわからなかったが、真奈美がそう言うと千尋もこくんとうなずく。
先ほどのキスで口紅が乱れていたので、ティッシュを取り出してそっと拭う。
紫色が落ちてしまうのは悲しいが、今はまだつけていないほうがいいだろう。
「それじゃね、千尋」
「はい、先生」
真奈美は自分の唇もティッシュで拭いながら、千尋のそばを後にした。
- 2007/11/28(水) 19:39:40|
- 魔法機動ジャスリオン
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期せずして90万ヒット記念作品になっちゃいましたけど、今日から三日間連続でSSを一本投下いたします。
今回の作品は、またしてもと思われるかもしれませんが、「魔法機動ジャスリオン」の二次創作(という扱い)です。
(架空の)本編終了後の後日談として作られていますが、独立した作品として読んでいただいても大丈夫だと思います。
以前xsylphyx様にいただきました「魔法機動ジャスリオン」の本編第八話に出てきたデスマドー少女隊が、あまりに魅力的なので使わせていただきました。
xsylphyx様ありがとうございました。
「デスマドー少女隊復活」
「あ・・・痛っ」
思わず額に手を当てる。
どうしたのかしら・・・
最近頭痛が時たま起こるわ。
特にあの日とは関係ないみたいだけど・・・
やがて少しずつ引いていく痛みに、額から手を離してふうと一つため息をつく。
作成中の試験問題から目を離し、いすにもたれ掛かるようにして背筋を伸ばす。
それほど根を詰めているわけではないはずだが、やはり試験問題作成は疲労を増幅させているのかもしれない。
やだな・・・まだ若いのに・・・
そりゃあ担当している女子生徒たちに比べれば、すでにおばさんと言われたってしかたがない。
でもでも、二十代半ばのみずみずしい肉体は疲労など無縁のはずだと思いたかった。
「どうかしましたか? 大河内センセ」
白衣を着た若い女性が声をかけてくる。
こげ茶色の長い髪が柔らかそうに波打ち、優しそうな眼差しが心配そうに彼女の方を向いていた。
養護教諭の美並原紀江(みなみはら のりえ)だ。
きっと、彼女が頭痛に顔をしかめていたことに気がついたのだろう。
よく気がつく美並原のおねーさんと言われ、女子生徒の間でも“お嫁さん”にしたい女性の上位に来る常連だ。
「あ、ちょっとここのところ頭痛が時たまね」
思わず大丈夫と言うふうに両手を振る。
ちょっとした頭痛だし、いつもすぐに治まるのだ。
きっと疲れがたまっているのだろう。
認めたくは無いが、いつまでも若いままではいられないと言うことか・・・
ハア・・・
彼女は心の中でため息をついた。
「風邪じゃ無さそう・・・ですけど・・・それでは頭痛薬を上げましょうか? それと、しょっちゅう起こるようでしたら、一度診ていただいた方がいいですわよ」
にこやかに微笑み、一応の忠告をする紀江。
養護教諭として、教職員の健康にも留意しなくてはならないのだ。
「ええ、そうします。ありがとう美並原先生」
「どういたしまして」
そう言ってなにやら教頭に話しかけにいく紀江。
保健室の備品などの件で何か話があるのだろう。
白衣に包まれた小柄な躰だが、結構胸が大きいと噂では言われている。
大きさではともかく形では・・・って、何を考えているのか・・・
彼女は思わず苦笑した。
大河内真奈美は、この川霧(かわぎり)女学園で日本史を教える女性教師である。
二年C組の担任も担当しており、生徒の気持ちを汲んでくれる若手女性教師として生徒の人気も高い。
そんな真奈美だったが、彼女はここ数日、頭痛とともにある出来事に心を悩ませていた。
「思い出せないなぁ・・・なんかあったはずなんだけど・・・」
学校からの帰途、真奈美はそうつぶやく。
ここ数日真奈美の心を悩ませているのは、ここ数ヶ月の間に時々記憶が定かでない時期があることだった。
特に学園の行事である演奏会や学園祭の頃の記憶があやふやで、しかもそれが彼女だけのことではないと言うことだった。
従姉妹の綾も同時期の記憶が定かでないらしく、どうもその頃に学園で何かあったらしいのだけど、それが思い出せないと言うもどかしさが、真奈美の心を悩ませていたのだ。
「まあ・・・学園祭の時の事故が原因なのかもしれないんだけど・・・お医者さんは何でもないって言ってたのよね・・・」
今年の学園祭では、ある事故がおきてしまい、学園の生徒の半数近くが昏倒すると言う事態があったのだ。
調理室からのガス漏れと科学部の実験の相互作用らしいのだが、その後の検査とかでも特に異常は見られず、生徒たちも問題は無かった。
ただ、若干の学園のイメージ低下になったのは間違いなく、しばらく理事長のぴりぴりしたムードに職員室は暗くなったものだったわね・・・
でも・・・
真奈美は思う。
それだけではなかったはず・・・
私は・・・
私は誰かと・・・
生徒たちとともに誰かと・・・
そこらへんがもやもやする。
忘れてはいけないものを忘れてしまったような・・・
いや、無理やり忘れさせられたような・・・
ハア・・・
悩んでも仕方ないわね。
それよりも今晩は何を食べようかしら。
そろそろ街は冬支度。
来月ともなればクリスマス一色だろう。
今年は綾に何を買ってあげようかしら・・・
叔母さんにも何か買ってあげないとヤバいわよね。
いつもいつもただでご飯食べさせてもらっているし・・・
ボーナス入ったら何か考えなくちゃ・・・
そんなことを考えながら家路を急ぐ真奈美。
街は平和に包まれていた。
ふと何かが真奈美の目に止まる。
それは通りに面した大型電気店のディスプレイ。
幾つものハイビジョンや薄型のデジタルテレビが、昆虫の複眼のごとくに同じ映像を映し出している。
「フィギュアスケートかぁ・・・もうそんな季節なのね」
画面には氷上を軽やかに舞うフィギュアスケートの選手が映し出されていた。
紫色のレオタードを身に纏い、表情豊かに滑っている選手の姿は、見る者に美を感じさせるには相応しい。
「紫色のレオタードかぁ。紫って着こなすのが難しい色なのよね」
ドクン・・・
えっ?
ドクン・・・ドクン・・・
真奈美の心臓が跳ね上がる。
な、何?
何なの?
画面から目が離せない。
紫色のレオタードが真奈美の目に焼きついてくる。
あ・・・
ああ・・・
紫色・・・
赤紫と青紫・・・
な、何なの・・・一体?
ハア・・・ハア・・・
息が苦しい・・・
誰か・・・
たす・・・け・・・て・・・
「真奈美先生!」
「真奈美先生!」
いつの間にか大型電気店の前の通りにうずくまってしまっていた真奈美に声がかけられる。
えっ?
気がつくと、そこには心配そうな顔をして彼女を覗き込んでいる従姉妹とその親友の少女の姿があった。
「先生大丈夫? 顔真っ青だよ」
そう言って手を差し伸べてきたのは、その親友の方である雷純玲。
朝は苦手としているが、いつも元気で活発な少女だ。
だが、真奈美はその手を受け取ることができなかった。
な、何?
黙って今まで見ていたとでも言うの?
こんな時間まで綾を連れまわしていたの?
綾が大人しいのをいいことに好きほうだいしているんじゃない?
それに今だって私が苦しんでいたのをあざ笑っていたんだわ。
わざとらしく手を出して恩を売ろうとするなんて・・・
やっぱりこの女・・・なんだわ・・・
「結構よ」
真奈美は手を借りずに立ち上がる。
「今何時だと思っているの? 生徒がうろついていていい時間?」
「えっ、あ、その・・・」
差し出した手を拒否されてしまい、純玲はちょっと困惑する。
「ご、ごめんなさい真奈ちゃん、あっ、真奈美先生。私が純玲ちゃんを引き止めちゃったんです」
突然の真奈美の叱責に驚いた綾だが、正直に謝り非を認める。
確かに時間的にはもうすぐ7時過ぎ。
母がそろそろ心配する時間だ。
でも、いつもなら教師とは言えこんなふうに頭ごなしに怒鳴りつける真奈美ではないはずなのに・・・
綾はそう思う。
「綾は黙っていなさい。どうせ雷さんが連れまわしたのをかばっているんでしょ」
ああ・・・私はどうしちゃったんだろ・・・
真奈美はぼんやりとそう思う。
このぐらいの時間なら、外出している事だってあるだろう。
でも、純玲の顔を見たとたんに、真奈美の中でどす黒いものが沸いてくるのを止められなかったのだ。
「とにかくさっさと家へお帰りなさい!」
そう言い捨てて二人に背を向ける真奈美。
一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
そうしないと純玲にさらに何か言ってしまいそうな自分が怖かったのだ。
いったいどうしてしまったというのだろう・・・
繰り返されるその疑問。
だが、答えなどでるはずも無い。
従姉妹の綾の一番の親友。
綾が一番信頼している純玲ちゃんに対して、無性に憎しみを感じてしまったのだ。
まさか嫉妬とも思えないが、どす黒い感情は止めようが無かった。
明日・・・謝らなくちゃ・・・
そう思う反面、なぜ教師である自分が謝らなくてはならないのかとも思う。
私はあの娘たちに注意をしただけ。
謝るような事は何もしていないわ・・・
でも・・・
傷つけてしまったかもしれない・・・
そう思うとまた謝らなくてはとも思う。
先ほどから同道巡りで考えが先へ進まない。
今は考えるのはよそう・・・
真奈美は結局考えるのをやめる。
結論がでない以上しかたがない。
なるようにしかならないわ。
帰宅して、食事の後にお風呂に入ってさっぱりすると、どうにか気分も落ち着いてくる。
そうすると、少し心に余裕も出てくるのか、やはり先ほどのことは大人げなかったと思い、明日には謝ろうという結論に達する。
いったんそう決めると、やはり心が少し軽くなり、真奈美はホッとした気分に包まれていた。
やっぱり今日の私はどうかしていたんだわ・・・
頭痛のせいもあったのかも・・・余計なことを考えすぎていたのかな・・・
そんなことを思いながら、明日の仕度を整えてパジャマに着替えベッドに乗る。
これから一時間ほどはゆったりした時間だ。
いつものように寝ながらでも見られる位置のテレビをつけ、読みかけの本のページを開く。
一人暮らしだと何となく音が無いと寂しくて、見ていると言えないまでもテレビをつけてしまうのだ。
それにニュースを聞いておくのも悪くは無い。
もっとも、本に集中してしまえば、テレビの音声など耳に入らなくなるのだけど。
あ・・・
だが、真奈美の視線は手元の本には下りなかった。
テレビでは今日行なわれたフィギュアスケートのダイジェストがニュースの中で流れている。
大型電気店で見た紫色のレオタードが、今また画面の中で舞っていた。
紫のレオタード・・・だわ・・・
ドクン・・・
あ・・・
真奈美の心臓が再び大きな音を立てて鼓動する。
紫のレオタード・・・
紫のレオタード・・・
紫のレオタード・・・
ドクンドクン・・・
心臓が高鳴り、他には何も聞こえない。
もっと・・・
もっと赤い・・・
もっと赤い色・・・
この紫じゃない・・・
でも紫色のレオタード・・・
赤い紫のレオタード・・・
赤紫のレオタード・・・
あああああ・・・
何なの?
これは何なの?
赤紫のレオタードがどうして頭から離れないの?
いやぁ・・・
いやぁっ!!
真奈美の目の前が暗くなる・・・
そのまま真奈美の意識は闇の中に飲み込まれていった。
「・・・ドー!」
闇の中を駆け抜けていく。
背後には同じように赤紫色のレオタードを着た少女たち。
みな口元に冷たい笑みを浮かべ、彼女の後をしっかりと付いてくる。
闇の中では身に纏っている赤紫のレオタードは、暗闇の中に溶け込んで相手の目をごまかしやすいのだ。
さらに彼女も少女たちも身に魔力を帯びており、人間ども程度には見つけられないだろう。
破壊と殺戮を楽しむには相応しい衣装なのだ。
両手には一見皮でできているような手袋。
両脚はハイヒール状のくるぶしよりちょっと上ぐらいまでのショートブーツ。
いずれもレオタードよりは青みが強く、普通の紫色と言っていい色をしている。
ともに魔力を帯びているのは当然で、ブーツはハイヒールだというのに走るにも戦うにもまったく不自由は感じないし、手袋のほうも両手をカバーして指先の動きも阻害しない上に、車のドアぐらいはパンチで撃ちぬけるほどの威力をもたらしてくれている。
赤紫のレオタードはまさに彼女たちの象徴であり、このレオタードを着ているということが部隊の一員であることを示している。
少々のことでは傷付かないようカバーしてくれ、ブーツとレオタードのカバーの無いように見える両脚もナチュラルベージュのストッキングが覆っているので、ダメージの心配はほとんど無い。
この魔法の衣装を着て戦うことこそが彼女に与えられた使命であり、この魔法の衣装に身も心も捧げ支配されることに彼女は誇りと悦びを感じていた。
そして彼女の傍らにはもう一人。
彼女の背後にいる少女たちとは異なり、彼女と同じ悦びに身を震わせている少女がいる。
疾走の中、ふとその少女と目が合って、二人はひそかに微笑んだ。
気持ちいい・・・
闇の中を駆け抜ける彼女は心からそう思っていた。
う・・・
朝の陽射しがカーテンの隙間から入ってきている。
朝・・・?
ズキン
痛っ・・・
思わず両手で頭を抱える真奈美。
痛みは徐々に引いていき、霞がかかったような頭の中も次第にはっきりし始める。
つきっぱなしの蛍光灯と、つきっぱなしのテレビが夕べそのまま寝てしまったことを物語る。
知らない間に寝ちゃったんだわ・・・
するとさっきのは夢?
なんだか奇妙な夢を見たような気がする。
何人かの生徒たちを引き連れて闇の中を駆け巡っていたような・・・
ズキン
痛っ・・・
病院で診てもらったほうがいいかしら・・・
とりあえず仕事に行かなきゃ・・・
今日は小テストをしなくては・・・
もうすぐ期末試験だし、少しでもいい点をとって欲しいわ・・・
そんなことを考えながら、真奈美は支度を始めるのだった。
- 2007/11/27(火) 19:47:45|
- 魔法機動ジャスリオン
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いつもお世話になっております「Kiss in the Dark」のg-than様より、架空の深夜アニメ「魔法機動ジャスリオン」の設定画(ぽく仕上げたもの)をいただきました。

元気で凛々しい純玲嬢。
かっこいいオルダー王子。
いやらしそうなエロジームなど、今にもアニメーションで動きそうなイラストです。
何より、「スタジオきっしん」のハンコが設定画っぽく見せますよね。
g-than様、素晴らしいイラストをありがとうございました。
皆様に愛されてここまで広がりを見せました「魔法機動ジャスリオン」
あらためて皆様にお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。
- 2007/11/12(月) 21:04:51|
- 魔法機動ジャスリオン
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皆様に大変ご好評をいただいております、架空の深夜アニメ「魔法機動ジャスリオン」
その熱心な大ファンでおられますxsylphyx様より、なんとまたSSをいただいてしまいました。
すでにxsylphyx様のサイト「X only」では公開されておりますが、「魔法機動ジャスリオン」の第三話でございます。
いつも変わらぬxsylphyx様の筆の冴えで、純玲や綾ばかりか、千尋、真奈美センセ、エロジームなどの脇キャラも生き生きと動き回っております。
xsylphyx様の素晴らしい出来栄えの「魔法機動ジャスリオン」第三話。
どうぞ、存分にお楽しみいただければと思います。
第三話『綾が失踪? 卑劣なエロジーム!』
「やっほ!! 海だぁ!! 海と言えば海の家~ やきそば食べ行くぞぉ!!」
「千尋ったら、着いたばかりなのにもう食べるの?
やきそばか… でもその言葉を聞くと食べたくなってきたような…」
雷純玲(いかずち すみれ)と山咲千尋(やまさき ちひろ)は一足先に浜辺に出ていた。
そしてなぜか、腰に手をやり海に向かって話をしている奇妙な2人。
「でも、軽く小腹を空かせてから食べるやきそば、いいと思わない?」
「おっ! スミスミいいこと言うねェ~ んじゃ、かる~く」
「コラァ~少女たち! 海に入る前には準備体操するんだぞ」
惚れ惚れするような美乳、羨ましいほどくびれたウエスト
キュッと締まったヒップの持ち主が、その抜群のスタイルを自慢するかのような
黒のビキニで2人と海の間に割り込み、意味無く髪をかきあげセクシーなポーズを決めている。
「ま、真奈美先生… その体にビキニ…ですか……
それにポーズまで… 引率だから目立たないようにするって言ってたのに…」
「ホントあんまりですよ、真奈美先生~ 視線を独占するなんて…許せません!!」
千尋が真奈美の横に並び、同じように黒髪をかきあげて
唯一真奈美に対抗できるであろう胸を強調したポーズを決めていた。
「ちょっと、先生はやめてよ 今日はお友達ってことで真奈美さんでどう?」
純玲、綾、千尋、そして3人の担任教師である
大河内真奈美(おおこうち まなみ)は夏の海に来ていた。
なぜ担任の真奈美が3人と一緒に海に来ているのか?
それは綾と真奈美が従姉妹で、一人暮らしの真奈美は週末になると
叔母である綾の母親の手料理を食べに綾の家を訪れていた。
そのとき3人が海水浴に行くことを耳にした真奈美は
引率とかこつけて無理やり同行して来たのだった。
「ち、千尋まで…
もう! 2人ともやめてよォ、注目のマトになってるって!!
…あれ? そう言えば、真奈美先生 綾は一緒じゃないんですか?」
「えっ? 綾なら純玲ちゃんの後ろに居るじゃない」
音も無く純玲の背後に現れた綾は
もじもじと周囲の目を気にしながらTシャツに短パン姿で立っていた。
「あれ? アヤアヤどうして水着じゃないの? もしかして、水着忘れた?」
千尋の質問に綾は紅くなり小さく首を振る。
「ま、まさか、綾 恥ずかしいの?」
純玲の言葉に綾は小さく頷いた。
「ハハッ アヤアヤ みんな水着なんだから、恥ずかしくないって」
「そうよ わたしほどじゃないけど、綾もスタイルいいんだし」
「真奈美先生… それ、説得になってないと思いますけど…
でも、綾が脱げないって言うなら仕方ないよね…」
目配せした3人の目が怪しい輝きを見せる。
「山咲さん、雷さん 巻雲さんが着ている邪魔な物をひっぺがしなさい!!」
「ハイ! 先生!!」
「エッ!? 止めて…止めてったら…」
綾の抵抗空しく、Tシャツと短パンが千尋と純玲によって奪い取られた。
そして露になった綾の姿に3人は凍りつく。
「こ、これ……ちょっと危ないよね…」
「アヤアヤ…そ、それは……ス…ス…スク…」
「あ、綾、その水着は危険すぎるわ
どうしてわたしが買ってきてあげた水着を着ないのよ!」
「だ、だって、真奈ちゃんがくれた水着……恥ずかしくて…」
綾の視線は真奈美の黒いビキニに向けられていた。
「ま、まさか、これと同じ黒のビキニ?」
綾の目線の先を見やった純玲が恐る恐る言葉を口にすると
目線を逸らした綾は小さく頷いた。
「い、いや、アヤアヤ… 確かに真奈美さんのビキニ、羨ましいくらい凄いけど
その水着の方が、ある意味… それに真奈美さん以上に視線を独占してるし…」
通り過ぎる子連れの父親、カップルの彼氏などがチラチラと横目で綾を見やり
それに気付いたパートナーと言い争う声が多くなり始めていた。
「確かに…スク水はダメね 代わりの水着を何とかしないと…」
考えを巡らせる真奈美の視線が剥ぎ取ったシャツを綾に着せている千尋で止まった。
「千尋ちゃん スタイルいいよね きっと黒のビキニが似合うと思うなぁ」
真奈美の邪悪な言葉が千尋の心を手繰り寄せる。
「エッ! そうですかw」
「その綺麗な黒髪に白い肌 貴女にピンクの花柄は似合わない」
真奈美は千尋に近づき、耳元で悪魔のように囁く。
「3人の中で、わたしのパートナーを任せられるのは千尋ちゃんだけ…
どう? 一緒に素敵な出会いをゲットしてみない?」
日ごろから彼氏が欲しいとぶっちゃいている千尋には効果的な一言だった。
「で、出会い…とは……か、彼氏が…………………
ア、アヤアヤさ、持ってきた黒のビキニ、わたしに貸してくれないかナ
で、スク水やめて、わたしの水着に着替えた方がよくなぁい?」
悪魔に魅入られた千尋が虚ろな眼で綾に言い寄る。
「うんうん それがいいわ 綾、千尋ちゃんの水着を貸して貰いなさい
スク水を学校以外で着用するのは危険すぎる行為だから」
「う、うん… 千尋ちゃんがいいなら…」
「もちろん問題ないですよォ!」
「ひ、ひどい…ひどすぎるよ……この人…悪魔だ…
背中に黒い羽根が…お尻に尖った尻尾が見える……」
「ん? 純玲ちゃん 何か言った?」
自分を見やり微笑む真奈美に恐怖を覚えた純玲は無意識に半歩退いていた。
「い、いえ、何も… いい考えだと…思います…」
そんな4人のやりとりを見つめる目があった。
「ヒヒッ… ヒィヒッヒッヒッヒッ… あの4人、手ごろじゃわい」
岬の崖の上に立っている廃墟としか思えない洋館。
その一室から白衣を着た老人が無機質な黒い筒を通して浜辺の4人を眺め見ていた。
「アヤアヤ サイズどう?」
「う、うん 大丈夫みたい… 千尋ちゃん先に行ってて」
「わかった ドリンクはホントに冷やしあめでいいの? 注文しとくよ」
「うん ありがとう」
黒いビキニに着替えを終えた千尋が更衣室を去り
しばらくすると綾が個室から出て来た。
「千尋ちゃんの水着でも……恥ずかしいな…」
大人しい感じのワンピースだったが足回りのカットは深く、綾には十分抵抗があった。
「やっぱりさっきの水着で… キャッ!」
個室に戻ってスク水に着替えようとした綾は
白いパーカーにサングラスを掛けた女性とぶつかり、尻餅をついて転んだ。
「あっ すみません…わたしがよそ見してたから…」
「クス… わたしは大丈夫よ それより貴女の方が怪我しなかった?」
「…………は、はい 大丈夫ですっ」
心に響く美しい声。
なぜか綾は、直ぐに返事を返せなかった。
「あら?」
「えっ? なん…ですか…」
女性はサングラスをとり、じっと綾の瞳を覗き込んだ。
「これの所為かしら 貴女の瞳に受難が見える」
「エェ… 受難?」
「何かよくない事が起こる? 起きた?
どっちにしても気をつけたほうがいいかも…
あっ、ゴメンなさい 初対面でいきなりなりこんな事を」
「い、いえ、あのぉ…占いか何かを…」
「ちょっと趣味程度に…ね 貴女、占いに興味あるの?」
「はい!」
「だったら今度、わたしのお店に寄ってみて
お友達になれた貴女… クスッ…お名前聞いてもいいかしら?」
「えっ、お友達? は、はい 綾です 巻雲綾です」
「綾ちゃんか… わたしはユリよ お店に来てくれたら、ただで何でも占ってあげる」
床に座ったままの綾は手を差し伸べてくれたユリの手を掴んで立ち上がる。
「綺麗なブレスレットですね」
ユリの手首で優しく輝いている水晶の珠で出来たブレスレットのことを綾は何気なしに口にした。
「あぁこれ? これは… あ、そうだ このお守りを持っているといいわ」
「そ、そんな、ダメですよ」
「気にしなくていいわよ 今度お店に来たときに、返してくれたらいいから」
ユリは一方の手からブレスレットを外すと、綾の手首に嵌めた。
「綺麗… ホントにお借りしていいんですか?」
「クスクス… どうしてかなぁ、綾ちゃんといると楽しい気分になれるのよ
だから、気にしないで持ってて」
優しく微笑みかけるユリに綾も不思議な安心感を抱いた。
「はい それじゃ 少しの間、お借りします ユリさん」
「どうぞどうぞ それとこれ、わたしのお店の住所と電話番号、携帯のメアドね」
「あぁ、ここなら学校の帰りに寄れます あとでわたしの携帯からメール送ります」
「ありがとう、それじゃ綾ちゃん 気をつけてね」
「はい ユリさんもお気をつけて」
手を振ってユリを見送った綾は
ユリから借りたブレスレットを光にかざして眺め見ていた。
「綺麗な水晶… 通り抜けてくる光…なんだか温かくて気持ちが安らいでくる」
しばらくじっと、光を眺め見て佇んでいた綾の耳に、怪しく不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ヒィヒッヒッヒッヒッ…」
「エッ?」
「ヒィヒッヒッヒッヒッ… ワシの館に招待してやろうかの」
「エェ…だ、だれ…ですか…… キャアァァ!」
キョロキョロと周りを見渡していると足元が紅く輝き
丸い魔方陣が描かれて、綾の体はその中に吸い込まれてしまった。
「うぅん…」
「ヒィヒッヒ… 目が覚めたようじゃな」
「キャアッ!」
自分の体を撫で回している白衣を着た老博士に驚きの声を上げた。
「や、やめて下さい… お、お爺さんはどちら様ですか… わたしをどうしようと…」
薄い翠に輝いている方陣の上に寝かされている綾は水着を脱がされ
大の字にされた状態で宙に浮かんでいる。
「ヒィヒッヒ… この綺麗な体でワシを悦ばせてくれんかのぉ」
「ヒッ!! や、やめて下さい…そんなところ…イヤッ…」
体を動かして抗おうとするが、綾の体はピクリとも動かず
目を瞑り、顔をそむける程度のことしか出来なかった。
「ヒィヒ…ヒィヒッヒ… まだ汚れを知らぬ いい匂いじゃ」
「イッ…やめ、やめて…」
自分の唾液で濡らした指を綾の秘唇に挿入するとイヤらしい笑いを浮かべた。
「イャッ……や…やめて……」
「中もいい感じじゃ…
いずれはここに、ワシのモノを挿れてやるからの ヒィヒ…ヒィヒッヒ…」
「わた…わたしを…どうする…おつもりですか…」
恐怖で目を開くことも出来ない綾の目から涙が零れ落ちる。
「ヒヒッ…ヒィィヒィヒィ…
お前はこれからワシを悦ばせる玩具になるんじゃ
暗黒魔界デスマドーにこの人ありと謳われたエロジーム博士の玩具にじゃ
ヒヒ…ヒィィヒッヒ…」
笑いながらエロジームが方陣の外に移動する。
「か…帰して下さい… わたしを友達のところに帰して下さい」
「ヒィィヒッヒ… もちろん帰してやるとも
ワシの言うことなら何でも聞く玩具にしてからじゃがな」
「イヤッ… なりません…
お爺さんの言うことを聞く… 玩具になったりしません…イヤです!」
「ヒヒッ… 魔法手術が終わったあとで、同じことが言えるかの ヒィィヒッヒ…」
聞き取れない言葉を唱えだしたエロジームの手が黒く輝き
綾の下の方陣も黒く輝きだした。
「ヒグゥッ!」
ビクンと体を痙攣させた綾が大きく目を見開く。
「ヒッヒッヒッ… お前の心を暗い闇の底に堕とし、魔に従う悦びを教えてやるわい」
「ハァア……アッ…アァァ……」
「ヒッヒッヒッ… これくらいで十分じゃろうて」
何人もの女を同じように堕として来たエロジームが余裕の笑みを浮かべ綾に近づく。
「娘、お前の名は何という」
「ィャ……お爺さんの………なったり…しません…」
「な、なんじゃと!! 此奴まだ堕ちておらんのか!
人間を魔に従わせるには十分すぎる魔力を送り…
ヒッ…ヒヒッヒィィヒッ…そうか、そうじゃったか」
天井の一点を見つめたまま涙を流している
綾の瞳を覗き込んだエロジームの顔が好色と歓喜に歪む。
「ヒヒ…ヒィィッヒッヒッ… これは面白い物を手に入れたかもしれんわい
水晶のように澄んだ瞳… もしや水晶眼 試してみる価値はありそうじゃな」
方陣の外に出たエロジームの顔から笑顔が消え、声に出さず呪文を唱える。
すると方陣にかざした手が赤紫色に輝き、方陣も同じ色に染まる。
「ハヒィ…ヒャアァァァ……アッ…アァァァァァァ…」
背中を反らせ、見開かれた綾の瞳が方陣と同じ赤紫に染まる。
「ヒヒッ…ヒッヒッヒィッ…やはりそうじゃったか
水晶眼、魔力に適応する能力を備え持つと言う話じゃが
ヒヒッ…これは面白い玩具になりそうじゃわい」
エロジームが魔力を高め、呪文を唱える。
「ヒャィィィィィ……」
綾の下腹部に赤紫色の魔方陣が浮かびあがると
そこから複雑な文字や模様が全身に拡がってゆく。
「ヒッ…ヒッヒッヒィッ…
全身に支配印紋が刻まれれば、手術は完了じゃ
お前はワシの忠実なシモベに生まれ変わるわい……ムゥゥ…」
額に汗を滲ませ、エロジームは更に魔力を高める。
「ハァァァァァァァァァ…」
眉をしかめている綾の全身は赤紫色の印紋で埋め尽くされ
四肢の爪までもが、赤紫のマニキュアを塗ったように染まる。
「ヒッ…ヒ……ヒ… そろそろ仕上げの印紋じゃな
これで…お前は……お前はワシのシモベじゃて…」
魔力を消耗したエロジームはフラフラしながら綾に近づき
人差し指に集中させた赤紫の輝きで、息を荒げ、苦悶の表情を浮かべている
綾の瞼と唇に仕上げの印紋を施した。
すると綾の全身に浮かび上がっていた支配印紋は薄れてなくなり
仕上げに施された印紋だけが、アイシャドーとルージューをひいたように残っていた。
「ヒヒッ…… 完成じゃ…絶対服従のシモベの完成じゃ…
ヒッ…ただの人形ではないぞ… 意志を持った人形じゃぞ!」
力尽きたようにその場に座り込んだエロジームが宙に浮いたままの綾を見上げる。
「いつまで寝ておるのじゃ! はやくワシを助け起こさんか!!」
エロジームの喝に綾の体がピクリと反応し、体が垂直に起き上がるとゆっくりと床に着地した。
そしてエロジームの傍らに歩みよるとしおらしく両膝をついて、エロジームを膝の上に座らせた。
「申し訳ございません…エロジームさま…… 頂いた魔力…少しお返し致します…」
濡れた赤紫色の唇をエロジームの唇に重ね、自ら舌を絡ませた。
「ンフゥ…如何ですか…エロジームさま…」
陶酔し潤んだ瞳は赤紫色に輝いていた。
「ウホォォ…いい具合じゃ……出すぞ…全部飲み干すのじゃ」
「ふぁい…えりょじぃぃむしゃまぁ…」
綾はベッドの上で大の字で寝転んでいる老人の傍らに跪き
老人の股間のモノを口に咥え、激しく口を窄めていた。
「ヌホォォ……ンホォ…」
「ン!…ンン…ジュル…ングゥ…」
「ヒッヒッ…舌の使い方が上手くなったわい もう一度…いや、今度は胸じゃ、胸を使え」
「お褒めの言葉ありがとうございます エロジームさま」
口のまわりに付いた白濁を舌で舐め取りながらエロジームを起こし
ベッドに腰掛けさせると、老人のモノとは思えない代物を白い乳房で挟み込み
ゆっくりと上下に動かしはじめた。
「ニヒィ…ヌホホホッ… これはいい…柔らくていい具合じゃわい」
「エロジームさまに悦んで頂けて光栄です」
綾は嬉しそうに微笑むと精一杯、奉仕を続ける。
「ヌホォゥ…そういえば…まだ…お前の名前を…聞いておらなんだ…」
「ン…ンンフン……綾です…巻雲綾でございます…ハグゥ」
「ウホォゥ……アヤか…」
綾はエロジームの股間のモノを口に咥え舌先で刺激する。
「ムヒョゥ……ヌホォォ…ンホォ…ンホォ…」
「ン!…ケホッ…ケホケホッ…… も、申し訳ございません…エロジームさま…」
前触れも無く喉の奥に白濁を放たれた綾は、咽て全てを吐き出した。
「ヒッヒッヒッ…今回だけは許してやるわい」
「はい…ありがとうございます…エロジームさま…」
「お前の奉仕のお陰で魔力もずいぶん回復したわい」
綾は床に降り立ったエロジームに衣服を着せると両膝をついたまま
しおらしく俯き、眼を伏せてエロジームの命令を待っていた。
「水晶眼 玩具だけにしておくにはちと…」
考えを巡らせながらも胸やお尻を弄ってくるエロジームに綾は笑顔で答える。
「そうじゃ! お前ならばワシの傑作を使いこなせるじゃろう」
エロジームが資料に埋もれた机の中から
暗黒魔界デスマドーの紋様を模ったブローチを取り上げた。
「いつかはと考えておった魔法戦士の試作品じゃ」
綾は両手でブローチを受け取るとエロジームを見やった。
「ヒッヒッ… ブローチを胸に近づけて魔力を注ぎ込むのじゃ」
「はい ブローチを胸に近づけて…魔力を…」
綾の瞳が赤紫色に輝き、全身に魔力を纏うと
ブローチは白とピンクの輝きを放ち、綾の体を輝きで包み込む。
そして弱まった輝きの中から現れた綾の姿は
暗黒魔界という言葉とは不釣合いなコスチュームを纏っていた。
ピンクのハイレグレオタードとアームカバーに
白とピンクの2枚重ねのレーススカート。
腰にはピンクの大きなリボンが羽根のようについており
膝から下が白いブーツで覆われている。
だがその愛らしい姿の綾が暗黒魔界デスマドーの戦士であることは
胸のリボンの真ん中で禍々しいオーラを放っているデスマドーの紋様が証明していた。
「魔法戦士ダークウィッチアヤ ここに降臨!」
変身するまでは少し垂れ気味だった綾の目尻がつり上がり
キリっとしてクールな感じに変わった。
ダークウィッチアヤとなった綾の顔は
エロジームやデスマドーの者たちには巻雲綾として映っていたが
他の者が見れば、全く別人の顔に映り
ダークウィッチアヤが巻雲綾だと気付かれることはなかった。
「どこの家にも、アヤアヤいなかったけど」
「おっかしいなぁ どこ行ったんだろう 綾」
注文したドリンクを飲み干した3人が
30分経っても姿を見せない綾を探しはじめて2時間が経過していた。
「これは本格的に捜索して貰わないとダメかなぁ…」
学校や周囲にバレると不味いことが多い真奈美の顔が一気に憂鬱になる。
「マズいよなぁ…従姉妹とは言え、毎週生徒の家にご飯食べに行ってる事がばれたら…
マズいよなぁ…一部の生徒と親密な関係になって、海に遊びに来てるのバレたら…
マズいよなぁ…」
「ま、真奈美先生 もうちょっとだけ、わたしたちで探してみましょうよ!」
「そ、そうですよ、ああ見えてもアヤアヤしっかりして… あれ、アヤアヤだ」
フラフラと浜辺の人込みに揉まれながら歩いて来る綾を見つけた千尋が指を差す。
「どこ行ってたのよ、綾! 心配してたのよ!」
「ホントだよ、綾どこ行ってたの?」
「うん 水着着替えて出て来たら、困ってるお爺さんが居たの
それでお家まで送り届けてあげたら お茶と食事をご馳走してくれて…
連絡しようと思ったけど…携帯は荷物の中だったし…ゴメン…なさい…」
「そうなんだ、綾らしいね」
「どこまで行ってたの? 随分疲れてるみたいだけど」
「あの岬の洋館まで…」
「うわぁ あんなところまで… アヤアヤ歩いて往復したの?」
「うん そう…だけど」
「とりあえず綾も無事だったんだし、もういいじゃない ねっ真奈美先生」
「ホント、何もなくてよかったぁ…」
「で、アヤアヤどうする?」
「えっ? なにが?」
「ご飯! ご飯だよぉ!! わたしたちはまだ食べてないからさぁ」
「あっ、ごめん…なさい… わたしだけご馳走になってきて…」
「気にしなくていいから、綾はわたしたちが食べてる間、休んでなよ」
「そうね、ご飯食べたらみんな… わたしと千尋ちゃんはちょっとだけ、浜辺を散歩するわ」
「……じゃあさ 綾とわたしはちょっとだけ海に入ろうよ」
「う、うん… いいよ、純玲ちゃん」
普段と変わらない綾。
千尋、真奈美は当然のこと、暗黒魔界デスマドーと戦っている純玲でさえ
綾の身に起きた異変に気付くことはなかった。
そして…
「待てッ逃がさない!! リード、マジックワード『ソニックブーム!!』」
「フフ… ウィッチマジック『デスエアーウォール!!』」
ジャスリオンブレードから放たれる空気の刃で
逃げるモンスターを仕留めようとしたジャスリオンだったが
見えない空気の壁で囲まれ、放たれたソニックブームも無力化された。
「エッ!? 防御魔法!! まさかオルダー… でも今の声は」
ジャスリオンのヘルメットに別のデスマドー反応が表示され、距離と方角が示されると
その方向を見やったジャスリオンはビルの屋上で月を背にして立っている人影を見た。
「やっぱり… あれはオルダーじゃない、新しいデスマドー!!」
「フフフフ…」
人影はフワリとジャンプするとビルの影に溶け込み姿を消した。
「待て!! 逃げるなァ!!」
だが全てのデスマドー反応が消え、夜の町は静けさを取り戻した。
「新しいモンスター? 違う、人みたいだった…魔法を使ってた…
オルダーとは違う強い魔力を感じた いったい何者なんだろう…」
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「純玲だよっ、みんな、朝ごはんはちゃんとたべてるかな?
食べないと元気が出ないよ?
わたしなんか、今朝もしっかり食べてるから元気だよ。
しっかり食べたら学校まで走っていかないと遅刻…
うきゃ~また遅刻だっ
あ、次回第四話:ダークウィッチ? 忍び寄る黒い影!
来週もこのチャンネルで リードジャスリオン!
遅刻だよ~~っ!」
いかがでしたでしょうか。
次週予告はEnneさんの別バージョンを掲載させていただきました。
xsylphyx様、Enne様、どうもありがとうございました。
- 2007/11/12(月) 20:56:20|
- 魔法機動ジャスリオン
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