「ある主婦のパート」二回目です。
この作品はこれで終了です。
本当は三回ぐらいに分けようかとも思ったんですが、切りのいいところがなくて結局二回で投下しました。
読んでくださる方にはこの方がよかったかな?
それではどうぞ。
う・・・
頭ががんがんする・・・
私・・・どうしたんだったっけ?
私はゆっくりと上半身を起こす。
どうも更衣室でそのまま倒れてしまったらしい。
ソファに寝かされていたようだわ。
「目が覚めたようね」
「あ、はい」
指導担当の先輩が私に水を差し出してくれる。
私は一息に水を飲み干すと、ようやく頭もすっきりする。
「私・・・どうしたんでしょう?」
どうして倒れていたのかいまいち思い出せないわ。
「気にしなくていいわ。ブラッキー薬の一種の副作用だから。もう大丈夫なら付いて来なさい」
「あ、はい」
私は躰を起こすと先輩のあとに続く。
先輩についていく途中、ここでのいろいろなしきたりを教わった。
組織員同士の挨拶は右手を斜め前に上げてヒーッと声を出す。
朝、鎌桐さんに見せたあれは挨拶だったんだわ。
それとワールドブラックの活動は秘密。
絶対に他人には漏らしてはいけない。
たとえそれがどんなに親しい間柄の人でもだ。
雄太さん、ごめんね。
あなたにも絶対言えない秘密なんですって。
先輩のナンバーはγ(がんま)63号って言うらしい。
やっぱり最初はパート採用だったそうなんだけど、今では身の回りを始末して正構成員の実働部隊員に昇格したそう。
だからあんなにきびきびしているのね。
今では工場長のカマキリ男様と言う方の下で監視員のチーフをやっていて、私の直属上司と言う形になるらしい。
まだ若いのにすごいよね。
先輩といっても私と同年代ぐらいだわ。
私もがんばらなくちゃ。
「「ヒーッ!」」
「「ヒーッ!」」
地下工場ブロックの入り口を警備する男性構成員と挨拶を交わす私たち。
黒の全身タイツは強化服だそうで、彼らは戦闘員と呼ばれているとのこと。
何でも私もパートとはいえ、女戦闘員δ167号と言うナンバーをもらったので、いざと言うときには戦闘もしなくてはならないらしい。
そのために出張があるんだとか。
うう・・・
私に勤まるかしら。
工場ブロックにはさまざまな機械があり、いろいろな部品が吐き出されている。
それをとなりの区画で組み立て、武器として完成させるのだ。
ワールドブラックは武器を世界中にばら撒いて、社会を混乱に落としいれ、裏から世界を操る組織と言う。
首領様の下、一丸となって目標達成に努力中なのだ。
私はその組立部門で働く奴隷たちの監視役。
単純だけど重要で気が抜けないと言うわ。
それにしても現代の日本で奴隷がいるとは思わなかったわ。
奴隷狩りで集めてくるって言ってたけど、どんな人たちなのかしら。
そこにいたのは若い高校生ぐらいから六十歳を過ぎたぐらいまでの老若取り混ぜた男性だった。
ただ、一ついえることは、いずれも覇気がなく無言で黙々と作業をしていると言うこと。
何かこうよどんだ空気みたいのすら感じるような・・・
こんな男たちだから奴隷になるんだわ。
自業自得よ。
「今日からここがあなたの担当よ」
「わかりましたγ63号。でも監視って何をすれば・・・」
そう言った私にムチが手渡される。
あの長いムチとはちょっと違う乗馬用の短い奴だ。
「こいつらはちょっと目を離すとすぐにサボるわ。どうしようもないくずどもなの。サボっているところを見つけたらこれで容赦なくぶちなさい。死んだって変わりはすぐ補充できるからかまわないわ」
え~っ?
死んでもかまわないなんてすごいわ。
奴隷の補充態勢が整っているのね。
でも、ムチで叩くってうまくできるかしら・・・
「戸惑っているようね。あそこの男を御覧なさい」
「はい」
指し示された位置には一人の奴隷が青い顔をしてハアハアと苦しそうにしながら銃のようなものを組み立てていた。
「手元を御覧なさい。部品がいくつも滞留しているわ。作業がぜんぜんはかどっていないのよ。一発背中を叩いてきて」
「あ、はい」
私は言われたとおりにその男のところへいく。
「す、すみません・・・今朝から具合が悪いんです」
私が来たことで男はおびえるようにして謝ってくる。
具合が悪いって言っても、作業を遅らせるわけには行かないわよね。
それに私は監視役なんだから、この奴隷を働かせなくちゃ。
「文句を言わないで働きなさい!」
私は手にした乗馬ムチで男の背中を叩きつける。
「うわあっ」
男は痛みに耐えかねて一度作業台に突っ伏するが、必死に起き上がって作業を始める。
うんうん、それでいいのよ。
それにしても気持ちいいものね。
奴隷をムチ打つって快感だわぁ。
うふふ・・・
癖になりそう。
「これでいいですか? γ63号」
「うふふ・・・ブラッキー薬のせいで状況を判断することができなくなってきたようね。言うことを素直に受け入れているわ」
「えっ? どういうことですか?」
今のはいったいどういうことかしら。
何かおかしなところがあったかしら・・・
「気にしなくていいわ。後は時間までこいつらをサボらせないこと。いいわね」
「はい、γ63号」
私は作業場のほかの監視役たちに今日から加わったことを告げ、いろいろと教わりながら奴隷たちをムチ打った。
先ほど私がムチ打った男は途中で心臓発作を起こしたようだったけど、すぐに補充が来たのでかえって作業ははかどった。
こうして私の初日は終わり、後は正構成員の人たちに引き継いで衣装を着替え、工場をあとにした。
「ただいま」
「お帰りなさい」
私は玄関に雄太さんを出迎える。
雄太さんが帰ってくるのはだいたい夜の七時半から八時ごろ。
私のほうが当然早い。
「疲れたー」
着替えを終えてテーブルに着く雄太さん。
ふふ・・・お疲れ様。
「仕事行ってきたのかい?」
「ええ、行ってきたわ」
私は夕食のおかずをテーブルに並べていく。
ごめんね。
今日はちょっとだけ手抜き。
スーパーで出来合いのとんかつを買ってきてキャベツを刻んで載せただけ。
なんだかやっぱり疲れちゃったのか、躰の調子がいまいちなのよ。
「どうだったい?」
「ええ、あなたの言ってた通り作業を見守るだけみたい。簡単だし結構面白いわ」
「そうか、そりゃよかったな。お、とんかつか」
私は冷蔵庫から缶ビールを出してあげる。
「サンキュ。ぷはー、うまい」
雄太さんたら本当においしそうに飲むわね。
でも、なんだかムカムカする。
食欲もないし・・・
やっぱり疲れたのかな?
今日は早く休もう。
私は早々に食事を切り上げると、雄太さんには悪いけど先に横にさせてもらった。
******
「ヒーッ!」
私はいつものように入り口を抜け、更衣室で強化レオタードに着替える。
今日でもう二週間。
着慣れたレオタードにさっと着替え、ブーツと手袋などを身につけてアイシャドウなどのメイクをする。
終わったところで用意されているブラッキー薬を一本飲んで準備完了。
最初はいやだったけど、飲みなれるとブラッキー薬のほろ苦さがたまらない。
躰の方もずいぶん強化されてきたようで、今ではリンゴを握りつぶすぐらいは簡単なこと。
なんだか最近はメイクをしなくてもうっすらシャドウがかかっているかのような感じだし、唇も黒っぽくなった気がするわ。
そういえばδ148号はメイクしなくてもよくなったようなこと言ってたわね。
そのうち私もそうなるのかしら。
うふふふ・・・
そうなったら家でもこの姿でいようかな。
雄太さん驚くかしら。
ううん・・・
ただ驚くだけじゃ許さないわ。
今度からδ167号って呼んで欲しいな。
昨日もそうだったけど、美乃里って呼ばれてもぴんと来ないのよね。
ナンバーで呼ばれるのに慣れちゃったせいかしら。
でも、ナンバーのほうがシックリくるのよね。
さてと、奴隷どもをしっかり働かせないとね。
うふふふふ・・・
「聞け! 戦闘員ども」
「「ヒーッ!」」
いっせいに右手を上げて敬礼する私たち。
午後になって工場長のカマキリ男様が参られたのだ。
我がワールドブラックの誇る改造人間であるカマキリ男様は、鎌桐と言う名前で工作活動にも従事されている。
私もカマキリ男様によってこの工場に配属されたんだったわ。
素質のある人間にしか見えないという特殊インクで印刷されたチラシ。
そのチラシで私は選ばれたのよ。
ああ、なんていう幸運だったのかしら。
私はこれからもずっとワールドブラックに忠誠を捧げるわ。
「奴隷の補充が行われた。担当の戦闘員は直ちに奴隷を作業に当たらせろ」
「「ヒーッ!」」
逆三角形の頭部を持つカマキリ男様が、右手の鎌を振るって指示を下す。
私たちはすぐに牢獄に入れられた奴隷を受け取りに行かねばならない。
同僚たちとともに私も向かおうとしたとき、γ63号が私を呼んでいることに気がついた。
「お呼びですか、γ63号」
ふと見ると彼女のとなりにはぼうっとした表情の高校生ぐらいの女の子がいる。
ハイネックのレオタードもまだまだ着こなせていない様子で、新入りであるのは明らかだった。
「δ171号よ。まだブラッキー薬の副作用でぼうっとしているけど、今日から監視役の一人に回すわ。みんなで面倒を見てあげてちょうだい」
「ヒーッ! かしこまりました。さあ、δ171号いらっしゃい。奴隷たちをこき使う楽しさを教えてあげるわ」
私はγ63号から彼女を預かると、ついてくるように促した。
なんとなくおどおどした様子で後をついてくるδ171号。
うふふふ・・・
可愛いわ。
私も二週間前はこうだったのね。
δ171号をつれて作業場に向かうと、すでに補充の奴隷たちが配置につかされていた。
うふふふ・・・
結構生きのよさそうな感じね。
あの男は大学生ぐらいかしら。
逃げ出そうとして暴れてくれないかしらね。
そうしたらみんなでたっぷりといたぶってやるのにね。
奴隷たちは私たち監視役が女だということで舐めてかかってくるくせがある。
だからたいてい一度は反抗してくれるのだけど、私たちワールドブラックの女戦闘員がそんなにやわなわけないじゃない。
私だってもう単独で奴隷二人ぐらいならあしらえるわ。
δ133号あたりなら華麗なムチ捌きで奴隷が三人かかったって敵わないでしょう。
私はδ171号を紹介するべく、みんなが集まっているところに進み出た。
「えっ?」
私は思わず脚が止まる。
補充で入ってきた奴隷の一人の顔を見た瞬間、動けなくなったのだ。
「あなた・・・」
「ん? ま、まさか美乃里・・・」
作業台につかされていたのは雄太さんだった。
どうしてこんなところに雄太さんが・・・
「み、美乃里。お、お前どうしてこんなところに・・・」
「あなたこそどうして? ここは私の職場よ。私はワールドブラックの女戦闘員としてここで監視役を務めているの」
仲間たちが何事かと私の方を見る。
どうして雄太さんがこんなところに・・・
「か、監視役? お前、あの化け物の仲間なのか?」
「化け物って・・・あなた失礼よ。カマキリ男様はこの工場の工場長なんですから」
まったく・・・人を化け物呼ばわりなんてどうかしているわ。
そんなことだからここへ連れてこられるのよ。
「た、助けてくれ美乃里。俺は仕事で外出中に襲われて連れてこられただけなんだ。なんかの間違いだよ」
雄太さんはすがるように私の両肩に手を置いた。
私はちょっとムッとした。
間違いですって?
ワールドブラックに間違いなんてあるわけないわ。
それになれなれしく私の肩をつかむなんてどういうつもり?
ここに来たからにはお前は奴隷なのよ。
武器を作る奴隷なのよ。
わかっているの?
監視役に手を触れるなんて赦さないわ。
「手を離しなさい! ゲスが!」
私は彼の両手を払いのける。
「うわ、あ、み、美乃里」
しりもちをつき、驚いたように私の顔を見上げる男。
「美乃里美乃里ってうるさいわね。私はワールドブラックの女戦闘員δ167号よ。奴隷のくせに私を変な名前で呼ばないで!」
私は乗馬ムチを手に取ると、二度三度と叩きつける。
ああ・・・
そうよ・・・
何でこんな男と今まで一緒に暮らしてきたのかしら。
ここにいるってことは戦闘員にもなれぬくずじゃない。
あのチラシだって読めないはずよね。
こんな男だったなんて最低よ。
男は頭を抱えてうずくまる。
何をやっているのこの男は?
ぐずぐずとうずくまっていて。
私は男のわき腹に蹴りを入れると、苦しんでいる男に向かって言い放った。
「さっさと作業につきなさい。ぐずぐずしていると食事も睡眠も与えないからそのつもりでね」
「み・・・美乃里・・・」
私はもう一度蹴りを入れてやった。
「うふふふ・・・これでもうあなたは立派なワールドブラックの正構成員の仲間入りね」
私の背後から声がかかる。
振り向くとγ63号が腕組みをしながら私の様子を見ていたのだ。
「ヒーッ! 申し訳ありません。すぐにこの男も作業に当たらせます」
「うふふ・・・いいの? その男、あなたの夫なんでしょ?」
「違います。こんな男はもう夫などではありません。ただのくず奴隷です」
私は憎しみを込めて男を見る。
今までこんな男に愛情を持っていたなんてぞっとする。
「それでいいわ。これで身の回りを始末したあなたはどこへも戻る必要がなくなった。今日からはここの一室を使いなさい」
「ヒーッ! ありがとうございます」
そうだったんだ。
身の回りを始末することで正構成員になれるんだわ。
うふふふ・・・
こんなことならもっと早くこいつをここへ連れてくるんだったわね。
でもいいわ。
今日からはもうパート構成員じゃない。
ワールドブラックの正構成員よ。
いいところに就職してよかったわぁ・・・
これからが楽しみよ。
私は喜びに打ち震えて、まだ床に転がっているくずのわき腹を蹴飛ばした。
END
以上です。
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よろしくお願いいたします。
それではまた。
- 2008/05/22(木) 20:37:14|
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