なんか今日は年明け早々に掃除やったり洗濯したりと、いつもの日曜日にやる家事をやっておりましたので、ごく普通のいつもの日曜日という感じでお正月感がほとんどなくなってしまいましたねー。
とはいえ、今日は新年SS第二弾を投下したいと思います。
タイトルは「泥人間のつぶやき」です。
なんかいつもとは違う趣の作品になったような気もしますが、お楽しみいただけましたら幸いです。
それではどうぞ。
泥人間のつぶやき
私は泥人間です。
正確には何と呼ばれるのかわかりませんが、私たち親子はそう呼んでいます。
泥人間というのは、肉体がどろどろの泥のような粘りのある液状で、自分の意志によって人間の姿に擬態することができる生き物のことです。
でも、私は元からそういう生き物だったわけではありません。
私は以前は普通の人間でした。
でも、ご主人様によって泥人間に作り替えられてしまったのです。
ご主人様がどのような存在なのか、私は知りません。
お姿も見たことがありません。
どうして私を泥人間にされたのかもわかりません。
ただ、私の中に強いご主人様への服従心みたいなものがあることだけはわかります。
ご主人様の命令なら、私は何でもしてしまうでしょう。
私が泥人間に生まれ変わったのは、今から三週間ほど前のことでした。
その日、私は両親と一緒に田舎のおばあちゃんの家から家に帰る途中でした。
おばあちゃんの家ではいっぱい美味しいものを食べさせてもらい、高校生にもなったのに、こっそりお小遣いまでもらって、楽しかったです。
もちろん後でお母さんにはちゃんと言いました。
そんな楽しかったおばあちゃんの家から帰る途中、私たちの乗っていた車は、突然真っ白な霧に包まれてしまいました。
お父さんは慌てて急ブレーキをかけ車を止めました。
幸い事故を起こすようなことはなく、車は無事に止まりましたが、窓ガラスの外は真っ白で何も見えません。
霧にしてはいくらなんでも濃すぎます。
まるでミルクの中にでもいるかのようでした。
「まいったな、何も見えんぞ」
お父さんはそう言って窓を開け、外を見ようと身を乗り出しました。
すると、白い霧が車内に入り込み、お父さんの姿を見えなくしてしまいました。
続いて助手席にいたお母さんも。
後ろの座席にいた私のところへも霧は流れ込んできて、私はそれがなんだかとてもねっとりした感触だったことを覚えています。
やがて私の躰はどろどろと溶けだしていきました。
私は驚きましたが、不思議と恐怖はありませんでした。
なんというか……ああ、私は今作り変えられているんだ……そんな気持ちでした。
どろどろに溶けていく私の躰。
爪も歯も骨も硬いところも柔らかいところもすべてどろどろに溶け、私の躰は服から抜け落ちて、車の床に溜まってしまいました。
目も鼻も口も無くなってしまったのに、なぜか私は見ることも聞くこともできました。
その時は気付きませんでしたが、今ではその状態でしゃべることだってできます。
やがて私の中にある思いが生まれてきました。
私は作り変えられたのだ。
今の私は人間ではなく、泥人間なのだ。
ご主人様によって作り変えられ、その命令を待つ身なのだと。
でも、私は違うと思いました。
私は人間です。
泥人間なんかじゃありません。
ご主人様の命令には従いますけど、私は人間です……と。
やがて白い霧は消えました。
ずいぶん時間が経っていたようで、なぜか車は人気のない山道に止まっていました。
私はどろどろになった躰を動かし、人間へと擬態していきました。
擬態は簡単でした。
そうなりたいと思えば良かったのです。
どろどろの躰を服の中に潜り込ませ、そのまま人間の姿に擬態するだけでした。
それだけで私は、車に乗っていた時の姿に戻ることができました。
前の席では、お父さんもお母さんも姿を現しました。
二人とも擬態を終えたのです。
きっと私と同じようにして、元の姿に戻ったのでしょう。
「行こうか」
「ええ」
お父さんとお母さんがそう言いました。
私はその言葉を聞いて、何かが変わってしまったような気がしました。
家に帰ってきたのは、もう夜の九時ごろでした。
お父さんもお母さんも何事もなかったように家に入りましたが、部屋に入ると、いきなり躰をどろどろと液体のように変化させてしまいました。
『ふふふ……やっと本当の姿になれるな』
『ええ、ホントね。こっちの姿の方がいい気持ちだわ』
どろどろに液状化したお父さんとお母さんは、空気を振るわせて声を出しているのです。
いつもとは違う声ですけど、ちゃんと聞き取れました。
『奈菜美(ななみ)もそんな擬態は解いていいんだぞ』
『ええ、そうよ。ここには私たちしかいないわ』
どろどろのアメーバのようになったお父さんとお母さんがそう言ってきます。
でも、私はどうしてもその姿に戻る気にはなれませんでした。
だって、私は泥人間じゃありません。
私は人間です。
そう思ったんです。
「私はもう少しこの姿でいるわ」
私はそう言いました。
『あら、物好きねぇ』
『まあまあ、それもいいさ。いきなりご主人様に作り変えられて、まだ戸惑いがあるんだろう。それに、もしいきなり誰かが来たとしても、奈菜美に出てもらえばいいさ』
私が擬態を解くつもりがないと知ると、お母さんは笑い、お父さんはそう言いました。
私はそんなことよりも、夕食をどうするかの方が気になっていました。
なんだかお腹が空いていましたし、午前中におばあちゃんの家を出てから、何も食べてなかったんです。
『そうだなぁ……どこか食べに行こうか』
『それがいいわ。どこにしましょう……』
私が食事はどうするのか聞くと、お父さんとお母さんはそう言いました。
「ええ? 食べに行くの?」
私はちょっと面倒に感じてしまいました。
それならば、途中でどこかによればよかったじゃないかと思ったんです。
また出かけるなんて……
『ねえ、あの家はどう? 先日引っ越してきたって言うあの家』
『ん? 角の一軒家かい?』
『ええ。あの連中ならまだ近所づきあいも少ないでしょうし……』
えっ?
私はお父さんとお母さんは何を言っているのかと思いました。
近所に引っ越してきた人たちがどうしたというのでしょうか?
『そうだなぁ……でも、あそこは夫婦二人じゃなかったかい? 奈菜美の食べる分が無いよ』
『ああ……そうだったわねぇ』
「ちょ、ちょっと待って! お父さんもお母さんも何を言っているの?」
私は思い切ってそう聞きました。
二人がなんだかとても恐ろしいことを話しているような気がしたのです。
『何って、食べたいんじゃないのか?』
「食べたいけど……お父さんもお母さんも何を食べようとしているの?」
私は恐る恐る尋ねます。
なぜなら、私はその答えを半分知っていたからです。
『何って……人間でしょ?』
『ほかに何を食う気なんだい?』
アメーバのような躰をうねうねとさせながらお父さんとお母さんはそう言うのを、私はショックを受けつつも、やっぱりという思いで聞きました。
「いやっ! そんなのいやっ!」
私は思わず叫んでいました。
だってそうでしょ?
人間を食べるなんてありえない!
そんなの……
そんなの……
『どうしたの、奈菜美?』
『いやって、食べたくないのかい?』
お父さんとお母さんは心配そうに躰をグネグネさせていました。
私はうなずき、人間は食べたくないと答えました。
『変な子ねぇ。お母さんなんか早く食べたくてわくわくしているのに』
『お父さんもだぞ。みんなで一緒に食べに行こう?』
私は首を振りました。
人間を食べるなんてどうしてもいやです。
『そうか……奈菜美はまだ子供だから、以前の気持ちがまだ残っているのかもしれないな』
『そうなのかしら? 奈菜美、少しだけでも食べてみない? 私たち泥人間は人間を食べるのが当たり前なのよ』
私はもう一度首を振りました。
『そうか。それならそれで仕方がない。俺たちだけで行こう』
『そうね。それじゃ奈菜美にはお留守番をお願いしようかしら。ねえ、それならやっぱりあそこに行きましょ? 食べるなら若い人間の方がいいと思わない?』
お父さんもお母さんも、もう私のことなどどうでもよくなったかのようでした。
それよりも、早く人間を食べたくて仕方がないようでした。
「お父さん、お母さん!」
私は二人に行くのはやめてと言いましたけど、二人とも再び脱ぎ捨てた服の中に入り込むと、人間の姿になって、そのまま出かけてしまいました。
私は仕方なく、冷蔵庫にあったソーセージやチーズなどを取り出して、擬態を解いてそれらを取り込んでいきました。
泥人間の食事は、食べたいものに覆いかぶさるようにして包み込み、それから溶かして食べるのです。
今頃お父さんとお母さんは、そうやって人間を食べているのだと思いましたが、私にはできそうもありませんでした。
******
翌朝目が覚めると、擬態をしてパジャマを着て寝ていたはずなのに、いつの間にかすっかり擬態が解けてどろどろのアメーバ状に戻ってしまっていました。
「おはよう、起きた?」
擬態しなおして下に降りていくと、見知らぬ若い女性がいました。
「えっ?」
私が戸惑っていると、その女性はくすくすと笑いだしてしまいます。
「うふふふ……お母さんよ、お母さん。どう? 結構イケてない?」
「えっ? えええ?」
私が驚いていると、お母さんはその姿でポーズを取っています。
「ど、どうしたの?」
「うふふ……擬態に決まっているでしょ。どう? この姿なら人間の男が寄ってくると思わない?」
確かに今のお母さんの姿は、若くて美人です。
擬態で違う人の姿になるなんて思いもしませんでした。
「お母さんばかりじゃないぞ」
私が振り向くと、そこには若くてかっこいい男性が。
「お父さんなの?」
「ああ、これで女性を引き込もうと思ってな」
私に対してもウィンクをしてくるお父さん。
「うふふ……素敵よお父さん」
「いやいや、この姿なら康秀(やすひで)と名前で呼んで欲しいなぁ」
「まあ、それなら私も麻弥子(まやこ)と呼んでちょうだい」
「麻弥子」
「康秀さん」
私が唖然とする中で、お父さんとお母さんは互いの名前を呼び合って抱き合ってます。
今までのお父さんとお母さんとは全く思えません。
「で、今日は奈菜美はどうするんだ?」
「えっ? 学校に行こうと思っているけど」
「学校? どうして?」
若い女性の姿のお母さんがあきれたようにそう言います。
「だって、今日は月曜日だし」
「学校なんて行く必要はないんじゃないか? 俺たちは泥人間なんだ。人間のようなことをする必要はないんだぞ」
「そうよ。私たちみたいにこれから一緒に人間狩りに行きましょ? 夕べ食べたけど、人間ってとってもおいしいわよ」
私は首を振りました。
聞きたくなかった……
やっぱりお父さんもお母さんも人間を食べてしまったんだ。
本当に二人とも泥人間になってしまったんだわ……
私はお父さんお母さんを振り切るようにして学校へ行きました。
二人はそれぞれまた人間を食べに行ったとあとで聞きました。
人間を食べるということに、お父さんもお母さんももうなんとも思っていないようでした。
それどころか、むしろ楽しんでいたんだと思います。
お父さんは会社に行くのをやめ、お母さんと人間を食べたときのことを楽しそうに話します。
お母さんもいろいろな姿に擬態して男の人を引き寄せるのが楽しいようでした。
私は学校ではできるだけ以前と同じように暮らそうと思いました。
だってそうでしょう?
私は人間です。
躰がどろどろになるような生き物に作り変えられてしまいましたけど、私は人間なんです。
だから、人間を食べるのは違うと思ったんです。
友人ともいつもと同じように過ごしました。
家に帰ればお父さんとお母さんがどろどろのアメーバのような姿で楽しそうにしています。
昼間はそうして家で過ごし、夜になれば美男美女の姿に擬態して人間を食べに出かけるのです。
お父さんもお母さんももうそれが当たり前のようでした。
生活に必要なお金は、食べた人の財布を奪ってくるみたいでした。
ほかにもスマホや貴金属なども奪ってきたことがあるみたいです。
私がやめるように言っても、こんな面白い食事をどうしてやめなければならないんだという始末でした。
それに、泥人間が人間を食べた後に残るのは、その人が身に着けていたものだけです。
死体が残らないうえに、いつも違う人間の姿に擬態しているのですから、警察にだってわからないでしょう。
二人はそう言って笑ってました。
私はお母さんからお金をもらい、生肉とかお刺身とかを買ってきて食べてました。
やっぱり、火を通したものよりも、生の肉類の方が美味しいんです。
私は、必死に自分は人間だと心の中で言い続けながら、生肉を食べてました。
その日、私は友人の野乃香(ののか)と一緒に、校舎裏の用具倉庫に授業で使った道具を置きに行っていました。
野乃香とは、私の名前が奈菜美だったこともあり、何となく語感が似ているねということで仲良くなりました。
私たちは他愛のないおしゃべりをしながら用具倉庫に向かっていましたけど、途中、野乃香が何かに躓いて転んでしまったんです。
持っていた道具類とともに派手に転んでしまった野乃香を、私は立たせてあげようと手を差し伸べました。
幸い野乃香に怪我をした様子はなく、野乃香も苦笑いをしながら、差しだした私の手を握りました。
その時、私は知ってしまったんです。
人間の味を……
私はその日まで誰か他の人間と触れ合うようなことがありませんでした。
もし誰かと触れ合っていたら……
きっと野乃香には手を差し伸べなかったかもしれません……
ううん……
逆にもっと早かったかも……
私が引き起こしてくれないので、野乃香は不思議に思ったようでした。
「奈菜美?」
彼女は私をそう呼んだことに、私は気付きましたが、ほとんど耳に入ってきませんでした。
彼女の手が……あまりにも美味しくて……
私は周囲を確認しました。
ここは人気のない校舎裏。
今なら私たち以外ここにはいない。
そのことが私に行動をさせてしまいました。
誰かがいてくれていれば……
「ひっ!」
小さく悲鳴を上げる野乃香。
私は彼女が大声を上げられないように、すぐさま頭から覆いかぶさりました。
彼女が私の下でもがくのがわかりました。
楽しい……
逃げようともがく人間を覆い尽くしていくのが、こんなに楽しいことだとは知りませんでした。
私は擬態を解き、野乃香を覆い尽くします。
どろどろの私の躰は、簡単に野乃香の躰を包み込みました。
私の中で、野乃香はもがきながら溶けていきます。
それを私は食べるのです。
美味しい……
なんて美味しいんでしょう……
人間がこんなに美味しいなんて知りませんでした。
でも、この瞬間私は知ったのです。
人間こそが私の食べ物だと。
私は知ったのです。
野乃香がいなくなったことは、学校で騒ぎになりました。
でも、私は用具倉庫で別れた後は知らないと言い続けました。
見つかったのは野乃香の制服だけ。
躰は私が食べてしまっただなんて誰も思いません。
結局野乃香は用意していた別の服に着替えて姿をくらましたのだろうということになりました。
私は人間を食べたこと、それがとても美味しかったことをお父さんとお母さんに話しました。
二人はとっても喜んでくれて、これで奈菜美も完全な泥人間になれたねと言ってくれました。
私も、自分が泥人間として完成したという自覚が生まれ、これまでの自分がとても馬鹿らしく感じました。
私は人間なんかじゃありません。
私は泥人間なのです。
******
「うふふふ……今では私も、こうやって擬態して、人間狩りを楽しんでいるんですよ」
家では本当の泥人間の姿でリラックスして、外に出る時には擬態するんです。
生肉なんてもう食べることも無くなりました。
お父さんやお母さんと同じように、以前の自分とは違う姿に擬態して、こうやって獲物を誘うんです。
バカな人間が、のこのことやってくるんですよね。
そう言った連中を襲って食べて、所持金なんかを奪っちゃいます。
ホント、楽しいんですよ。
ご主人様がいつ命令をくださるのかはわかりませんけど、もしかしたら、こうやって人間を食べることこそがご主人様の望みなのかなという気もします。
だって、この星って人間が多すぎると思いません?
少し食べて減らすべきだと思うんですよ。
「今まで私の話を聞いてくれてありがとうございました。いかがでした? そんなに面白い話でもなかったとは思いますけど」
「えっ? どうしてそんな話をって? いやですね、あなたから聞いてきたんですよ? どこに住んでるのとか普段何しているのとか」
「顔が青ざめてますけど、大丈夫ですか? うふふ……もしかして逃げようとか考えてます?」
「いやですねぇ。逃がすはずないじゃないですか。こうしてがっちり手をつないでますし、今晩の食事はあなたなんですから」
「それじゃ、いただきまーす」
END
いかがでしたでしょうか?
よろしければコメント等いただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。
明日はもう4日で月曜日。
早いですねー。
それではまた。
- 2021/01/03(日) 21:00:00|
- 異形・魔物化系SS
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