今日は超短編SSを一本投下します。
タイトルは「恐怖! 怪人イバラ女」です。
先日、ツイッターでフォローしておりますI.M.K様が、とても魅力的なツイートを投下されておりまして、今回I.M.K様のご承諾の下、SS化させていただきました。
そのもととなりましたツイートがこちら。
この一連のツイートを拝見し、思わずSS化してしまいました。
元ツイート同様お楽しみいただければと思います。
それではどうぞ。
恐怖! 怪人イバラ女
「うーん・・・気持ちいい!」
伸びをして胸いっぱいに新鮮な空気を吸う。
植物の香りに満ちたこの清浄な空気を吸うのがとても心地よい。
平日午前中のほとんど人気のない植物園。
ここで散歩をして思索に耽ったりするのが彼女、池早結衣(いけはや ゆい)の楽しみというか日常の一コマだった。
小説やコラムなどの文章を書いて収入を得ている彼女に取り、気分良く脳を働かせることは非常に大事なことであり、この植物園で散歩することで構想をまとめるのは彼女にとっては重要なことなのだ。
幸い、それほど注目される植物があるわけでもないこの植物園は、平日の午前中であればほとんど人はいない。
もちろん休日にはそこそこ人はやってくるので、そういう日には行かなければいいのだ。
静かな環境の中で植物の香りを楽しみながら思いをまとめていく。
この時間が彼女は非常に好きだった。
「あら?」
ふと彼女の足が止まる。
「確か・・・ここの咲いている花は昨日は白かったような・・・」
くいっと眼鏡を直して咲いている花を見つめなおす彼女。
そこには棘のついた蔓を這わせ、紫色の花を咲かせている植物が茂っていた。
なんとなくその花が、昨日は白かったような気がしたのだ。
とはいえ、彼女はいつもここに来ているものの、植物をじっくりと観察していたわけではない。
静けさや植物の香りといったものが良くてここで散歩をしていたまでで、花の色が白か赤かなどということはそれほど興味がなかったため、この花が白かったというのが勘違いということも充分にあり得る。
「テリハノイバラ・・・バラ科バラ属の蔓性低木。白い花を咲かせる・・・って、やっぱり花は白いんだ」
彼女は脇にある解説文を読み、花が白で間違いないことを確認する。
で、あれば、なぜ今ここで咲いている花は紫色なのか?
「光の加減?」
もう少しよく見ようと彼女が一歩近づいた時、その植物から突然蔓が伸びてくる。
そして彼女の首や胴体、足などに絡みついてきたのだ。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
彼女は悲鳴を上げるが、周囲には誰もいない。
管理棟も離れた位置にあるので、聞こえる者はいないだろう。
近くには監視カメラも見当たらず、彼女に蔓が巻き付いたことは誰にも知られずじまいだった。
「た、助けて! 誰か!」
必死で絡みついてきた蔓を外そうともがく彼女。
だが、蔓は所々で切れると、まるで輪のようになって彼女の首、両手首、胴、太ももをがっちりと固定してしまう。
最悪なことに両手を振り上げた状態で手首を固定されてしまったため、両手が頭の後ろで拘束されたような感じになってしまい、身動きが取れない。
「な、何なの? これ? だ、誰かぁ!」
必死にもがけばもがくほどリング状になった蔓はぎりぎりとその拘束を強めていく。
首も胴も太ももも、がっちりと締め付けられ、彼女はただ突っ立っているだけしかできなくなってしまった。
「ひっ!」
やがてリング状になった蔓からは棘が生え、彼女の肌に突き刺さってくる。
「い、痛い! 痛いぃぃぃ!」
手首や胴、太ももに食い込んでくる蔓の棘。
それ以上に首に刺さってくる棘が彼女に激痛をもたらしてくる。
「ひぃぃぃぃぃっ!」
激しい痛みに苦しむ彼女。
だが、蔓に生えた棘から何かが注入されてくるのを感じると、痛みがじょじょに治まり始めたことに彼女は気が付いた。
そして、むしろ痛みはじんわりとした気持ち良さに取って代わり始め、だんだんと拘束されていることに快感を覚えていくようになってくる。
「はぁぁぁん・・・なんでぇ?」
口から甘い吐息を漏らし始める彼女。
拘束された躰がくねくねと悩ましく動き始めていく。
気持ちいい・・・
もっと・・・
もっとしてぇ・・・
もっと流し込んでぇ・・・
知らず知らず彼女は自ら棘から流し込まれるものを求めるようになっていく。
やがて彼女の髪には変化が現れ、つややかな黒い色だった髪が、だんだんと濃緑色へと変わっていく。
それは蔓を伸ばしてきたテリハノイバラの葉と同じ色であり、同様につややかな濃緑色を帯びていた。
「はぁぁぁぁぁん!」
彼女がひときわ大きく喘ぐと、彼女の全身はまばゆい光に包まれる。
それは神々しくも禍々しくも見える光であり、彼女の姿はその光に覆われて見えなくなってしまった。
やがて光がじょじょに収まると、一つの人影が現れる。
その顔は先ほどまでの彼女と似た顔をしていたが、躰は大きく違っていた。
その躰はボディラインをあらわにした裸の女性のようであったが、全身はつややかな濃緑色に染まり、所々にうっすらと葉脈のようなものが浮き出ていた。
形の良い両胸には乳首の代わりに紫色の花が咲き、雄蕊や雌蕊が覗いている。
両手の甲や頭にも紫色の花が咲き、ふくよかな香りを漂わせている。
両胸や両腕には背中から伸びた蔓が巻き付いており、鋭い棘が付いていた。
唯一肌色を保ったその顔には、右頬に花の文様が現れ、口には笑みが浮かんでいる。
眼鏡の奥の知的な瞳は緑色に染まり、彼女がもはや人間ではないことを示していた。
「ウフフフフ・・・」
彼女の口から笑いが漏れる。
「ウフフフフ・・・なんて気持ちがいいのかしら。植物と一つになるのがこんなに気持ちがいいことだったなんて・・・ウフフフフ・・・」
彼女は笑みを浮かべながら足元を見る。
そこには先ほどまで咲いていたテリハノイバラの枯れた姿があった。
「そう・・・私と一つになったことであなたの役目は終わったのね。でも安心して。これからは私が種子を広げてあげる。そのためには・・・ウフフフフ・・・」
怪しく笑みを浮かべる彼女。
すでにその意識は以前の彼女のものではなかったのだった。
******
「ママー! お花ー!」
「ああ、美香(みか)ちゃん、走ったら危ないわよ」
咲き誇るきれいな花に興奮したのか、思わず駆け出してしまう少女を追いかける母。
散歩がてら以前から気になっていたこの植物園を訪れた母と娘だ。
「それにしてもきれいねぇ。いろいろな花がいっぱい」
「うん。きれいー」
花壇のそばで色とりどりの花に見惚れる二人。
その様子を樹々の陰から見つめる緑色の目があった。
「ウフフフフ・・・まずはあの二人を・・・ああん、楽しみだわぁ」
自らの躰をかき抱くようにして身もだえする全身濃緑色の女。
植物怪人に変化してしまった池早結衣の姿だった。
「ママ、向こうにもお花が」
「あ、美香、待ちなさい」
母の言葉も聞かずに行ってしまう少女を、やれやれという感じで苦笑しながら後を追おうとする母。
だが、その時、シュルシュルと伸びてきた蔓が母親の躰と腕、そして口をふさぐように絡みつく。
「うっ? む・・・むむーっ!」
慌てて悲鳴を上げようとした母だったが、口を抑えるように巻き付いた蔓のせいで悲鳴を上げることができない。
何とか逃れようともがく母を、じょじょに蔓が引き寄せていく。
「む、むー! むー! むむー!」
必死に手を伸ばして助けを乞う母だったが、やがてその姿は植物園の樹々の間に引きずり込まれて行ってしまう。
「あれ? ママー? ママー?」
てっきり自分を追いかけてきてくれていると思ったはずの母親の姿が見えなくなり、少女はとたんに不安になる。
「ママー? ママー?」
花壇のほうから樹々のほうへと戻って母親を探してみるが、どこに行ってしまったのか母親の姿はない。
「ママー?」
「・・・・・・こっちよ・・・」
心細くなった少女の耳に、ふと母の声が聞こえる。
「ママー!」
喜んで樹々の茂る小道に入っていく少女。
だが、すぐに彼女の細い腕は脇から伸びてきた蔓に絡めとられてしまう。
「えっ? きゃあっ!」
絡みついた蔓はすぐに少女の躰にも巻き付いて、彼女を拘束してしまう。
「いやぁっ! 助けてぇっ! ママーッ!」
「あらあら、おとなしくしなさい、美香。あなたもママと一緒にしもべになりましょうね」
そういって姿を見せた母親は、緑色の目をして首と頭に棘のついた蔓のリングをはめ、両腕にも棘のついた蔓を這わせていて、胸にはそれぞれ紫色の花が咲いていた。
顔色も薄い緑色に染まり、右の頬には花の文様が浮かび上がっている。
彼女は娘が蔓に絡まれているというのに助けようともせず、ただ笑みを浮かべて眺めていた。
「マ・・・ママ?」
先ほどまでとは違った姿の母親に少女はパニックに陥ってしまう。
「いやぁぁぁぁぁぁ! ママー! ママー!」
「ウフフフフ・・・心配はいらないわ。あなたもすぐに私のしもべにしてあげる。この女のようにね」
悲鳴を上げる少女のそばに植物の怪人が現れる。
「ひぃーー! お、お化けーー!」
「まあ、失礼ね。私はテリハノイバラと人間の女性が融合したより高度な生物なのよ。そうね、イバラ女様とでもお呼びなさい」
全身を濃緑色に染めたイバラ女が誇らしげに胸を張る。
両胸の先端で咲き誇る紫色の花がフルフルと雄蕊や雌蕊を揺らしていた。
「いやぁっ! いやぁっ!」
必死に首を振っていやいやをする少女。
だがイバラ女は背中から棘のついた蔓を伸ばすと、少女の頭に巻き付ける。
「ひっ!」
一瞬、棘の刺さる痛みに小さな悲鳴を上げるが、すぐに少女の目はうつろになり、だんだんと緑色に染まっていく。
首や腕にも蔓が巻き付いて融合し、肌も薄い緑色に染まっていく。
まだ未発達の胸の先端にはいずれ咲くであろう花のつぼみが付き、その代わり両手の甲には紫色の花が咲く。
最後に右頬に花の文様が浮かび上がると、少女の変化は完成した。
「ウフフフフ・・・気分はどうかしら? 私のしもべになった気分は?」
「・・・・・・はい、最高です、イバラ女様。私はイバラ女様のしもべです。何なりとご命令を・・・」
うつろな表情でイバラ女に応える少女。
その横には母親もそろい、少女とともにイバラ女に一礼する。
「ウフフフフ・・・思った通りだわ、私の蔓を巻き付けて棘を刺せば、私の思い通りにすることができる。ウフフフフ・・・この調子でもっとしもべを・・・アハハハハ」
イバラ女の笑い声が静かな植物園に響いていく。
母と娘のほかに数人の女性がこの植物園で行方不明になったというニュースが流れたのは、その日の夕方だった。
END
いかがでしたでしょうか?
今日はこんなところで。
それではまた。
- 2018/08/26(日) 17:48:47|
- 異形・魔物化系SS
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