こちらも超お久しぶりの「グァスの嵐」です。
23回目となります。
ではどうぞー。
23、
雨が強くなってくる。
それに伴い、風も勢いを増してきたようだ。
何をしに行ったのかわからないが、一人で大丈夫だろうか・・・
そう思うと気が気ではない。
これがエミリオのいいところでもあり困ったところでもある。
「ゴル、後を頼む。僕、ちょっと様子を見てくるよ」
立ち上がるエミリオ。
浅黒いたくましい青年の姿がそこにある。
「ん、わかった。船は任せろ」
ゴルドアンがうなずく。
こうなったらエミリオをとめることなどできはしない。
とことん納得するまで自分で動かないと気がすまないのだ。
そのことを知っているゴルドアンは、ただエミリオを送り出すだけだった。
「私も行く」
予想外の声がする。
ゴルドアンの横でスッと立ち上がるフィオレンティーナ。
その目はエミリオの背中に見据えられ、口をきっと引き締めていた。
「フィオ、だめだよ。嵐が来てるんだ。ここにいたほうがいい」
驚いたエミリオがすぐに止める。
「そのとおりだ。行くのはエミリオだけで・・・」
「ぐずぐずしてないで行くわよ。ミューちゃんが危ないかもしれないじゃない。それに二人いたほうが何かと便利よ」
ゴルドアンの声をさえぎり、ひょいと渡し板を飛び越えるフィオレンティーナ。
ここのところの航海で、だいぶ船の乗り方に慣れたらしい。
「フィオ、だめだって」
押し留めようとするエミリオの腕を掴み、そのままぐいぐいと引っ張っていく。
逆にエミリオがフィオレンティーナの後ろにつくことになってしまった。
「やれやれ、言い出したら聞かないのがここにもいたか。エミリオ、連れて行ってやれ。何言ってもあきらめないだろう」
苦笑するゴルドアン。
大きく広がった口の端が笑いに歪んでいる。
「ちょ、こら、フィオったら・・・わ、わかったから手を離して」
フィオレンティーナに引きずられる様な格好のエミリオ。
二人は桟橋からミューの向かった島の奥へと向かっていった。
物置小屋の火はくすぶっただけで消えてしまった。
家の方はちゃんと燃えたのに、風雨の強まりが火を急速に弱めてしまったのだ。
ミューは少しの間空を見上げ、渦巻く黒雲を見て首を振る。
「この風と雨では燃やすことができません。嵐が過ぎ去るのを待つしかないです」
左手首のレーザートーチを格納し、手首を嵌めなおす。
二、三度手首をひねって落ち着かせると、継ぎ目も目立たなくなった。
「一度船に戻り、嵐が過ぎたらまた・・・」
そうつぶやいて振り向いたミューの耳に、エミリオとフィオレンティーナの声がかすかに響く。
「エミリオ様とフィオレンティーナ様? どうして?」
二人はファヌーにいるはずなのに。
どうしてこちらに来たのだろう。
二人が彼女を探しに来たとは、まだミューには思えなかったのだった。
「ミュー! どこだーい? 嵐が来ているから戻っておいでー!」
桟橋から続く小道を上っていくエミリオとフィオレンティーナ。
どうやらここは人が住んでいる島らしい。
誰かの家に行ったのなら、そこで嵐が過ぎるのを待てばいいが、そうじゃなかったときが大変だ。
それを確かめたかったのだ。
「ミューちゃーん! どこにいるの? 返事をしてー!」
びゅうびゅうと吹き始めた風の音に逆らうように、フィオレンティーナが大声を張り上げる。
彼女にとってもなんだかあの少女はほっとけないものを感じたのだ。
なんだか可愛い妹のような感じを、フィオレンティーナはミューに抱いていた。
「エミリオ様、フィオレンティーナ様」
岩陰に続く小道から姿を現すミュー。
雨のおかげで着ているものが濡れている。
「ミューちゃん、ちょっと、ずぶ濡れじゃない」
自分も大して変わらず濡れているのを棚に上げ、フィオレンティーナは思わずミューに駆け寄る。
そして、腰にかけていた汗拭き用のタオルで、ミューの顔を拭ってやった。
「大丈夫かい、ミュー?」
エミリオも心配そうに尋ねるが、無事にミューが見つかったことで表情は明るかった。
「ミューは大丈夫です。でも、どうしてここへ?」
おとなしく顔を拭ってもらいながら、ミューは不思議そうな表情でエミリオを見上げた。
「嵐が来ているからね。ミューが心配だったんだ。雨風をしのげるところはあるのかい? なければエレーアに戻ってそこで嵐をやり過ごそう」
「あ・・・」
ミューは困ってしまった。
エミリオの言葉にどう答えようかとシナプス回路を電流が走りぬける。
だが、結局は正確な答えを言うしかミューには許されなかった。
「あります。ミューとマ・・・チアーノ様の家は半分以上焼けましたが、物置小屋がまだほとんど焼けずに残ってます。そこならば現状の損傷度合いでも嵐を避けることが可能と判断します」
ミューはそう言ってうつむいた。
「エミリオ・・・」
フィオレンティーナが驚いて顔を上げる。
「ミュー。やっぱりここは君とマスターの住んでいた場所だったのか」
「そうです。チアーノ様はここで十八年と四ヶ月間、ミューは十一ヶ月と二十四日間をここで暮らしました」
ミューがうなずき、雨に濡れた金髪が揺れる。
「ミュー・・・君がここへ来たのは、君たちが住んでいた家を焼くためだったのかい? もしかして自航船の痕跡を?」
「そうです。チアーノ様がいなくなってしまった今、蒸気ボイラーやプロペラなど自航船に関わるものを残してはいけないのです。この星の人々に技術を知らしめてもいいかの判断をミューがしてはいけなかったのです。ミューはこれ以上過ちを犯してはいけないのです」
「ミュー・・・」
エミリオは言葉が出なかった。
「ミュー。君はいったい何者なんだ? 君はこの星の人々って言った。この星ってなんだ? 星ってのは夜空に光るものじゃないのか?」
「ミューは正式にはM-T6(ミュー-タウゼクス)というナンバーの帝国製擬生物型星系探査補助ロボットです」
「へ?」
エミリオもフィオレンティーナも目が点になる。
ミューが言った言葉は何がなんだかわからない。
「帝国探査局の星系探査用宇宙船『プローバー73』に搭載され、この“グァス”にやってきました。任務は“グァス”の探査をする探査員のサポートでした」
「ミュー・・・」
「ミューちゃん・・・」
雨の中ミューを見つめる二人。
「ミューは“ターラック”の工場で作られた工業製品です。別の星から来た機械なんです」
そこまで言ってミューは黙り込む。
それは二人の反応をうかがっているようにも見えた。
「機械・・・ってなんだ? ロボなんとかって何なんだ? ミューは人間じゃないってことなのか?」
「嘘でしょ? だって・・・ミューちゃんこんなに温かいよ」
ミューの手を握るフィオレンティーナ。
「ミューの躰が温かいのは、擬生物型として作られたからです。燃料電池による発電の一部を熱に回しているのです」
「なに言ってるのかわからないよ。難しいこと言わないでよ」
フィオレンティーナは首を振った。
稲光が三人を照らし出す。
少し遅れて雷鳴が鳴り響いた。
「今はそのことはあとにしよう。その物置小屋に案内してくれ。そこで嵐を避けよう」
「そうね。今はそうしましょう。ミューちゃん、お願い」
「こちらです」
一瞬迷ったように動きを止めたミューだったが、すぐに二人を物置小屋に案内する。
三人は小道伝いに岩陰を抜け、一部が焼けた物置小屋に入っていった。
- 2009/07/13(月) 21:27:13|
- グァスの嵐
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科学は、未開の惑星の人類から見たら、魔法のように映るでしょうね。
もし、そんな系列の魔術があるとしたら、一番近いのは、様々な機能が山の様に付いたゴーレムと言った感じでしょうか。
- 2009/07/13(月) 21:37:00 |
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