二の丸三の丸を破壊され、ほぼすべての堀を埋め立てられてしまった大坂城は、もはや軍事防御拠点としての能力をほぼ失いました。
その姿は「浅ましくも見苦しい」とさえ書き残されるほどでした。
しかし、このことによって大坂方はしばしの平穏を受け取ることができました。
確かにまだまだ問題は山積みではありましたが、徳川方との戦争は終わったのです。
あとはいかにして豊臣家を守り存続させるかでした。
大坂城の堀埋め立てが行なわれている最中に年が明け、慶長20年(1615年)1月1日を迎えます。
そのとき、徳川家康は大坂ではなく京都におりました。
大坂の陣(冬の陣)終結を朝廷に報告していたのです。
しかし、家康の狙いは別のところにありました。
京都二条城で新年を迎えることで、大坂の豊臣家が新年祝賀の使者を派遣せざるを得ない状況を作り出そうとしていたのです。
二条城の家康に大坂の豊臣家から使者が向かうということは、天下の主が今や徳川家であるということを見せ付ける効果があります。
いまさらという面がなきにしもではありますが、それでもこの豊臣家の使者を徳川家が迎えるというのは、政治的パフォーマンスとして意味のあることだったでしょう。
果たして大坂方からは秀頼の使者が派遣され、元日に家康に秀頼からの祝賀を伝えます。
大坂方はついに徳川方の下位に置かれたことが明白となりました。
秀頼からの使者を迎えた家康は、用は済んだとばかりに1月3日には駿府に向けて京都を出発します。
しかし、この旅はとてつもなくゆっくりと歩みが進められました。
家康は途中で国友村に寄り大砲多数を発注したのち、またゆっくりと駿府に向かいます。
なんと1月末にもまだ駿府に到着しないというゆっくりとしたもので、おそらく大坂城の破壊と埋め立ての報告を待っていたものと思われます。
そして、その工事の最中に何かあれば、すぐに大坂に引き返す腹積もりだったのでしょう。
2月8日、家康は駿府手前の中津というところで大坂城破壊と埋め立てを終えた徳川秀忠と合流します。
そこで工事の状況などを確認したのち、2月14日になってようやく駿府に帰着しました。
同日には秀忠は江戸にまで到着していました。
この日から約一ヶ月。
ほんのつかの間ですが平穏な日々が続きます。
もちろん水面下ではいろいろな動きが行なわれていたのでしょう。
慶長20年(1615年)3月15日。
事態は再び動き始めます。
この日、京都所司代板倉勝重(いたくら かつしげ)より一通の書状が駿府の家康の元に届きました。
板倉は京都にあって大坂の動きを監視していたのです。
書状には以下のことが記されておりました。
大坂方にふたたびの謀反の動きあり。
破壊されたやぐらを修復し、堀を掘り直しはじめている模様。
さらに召抱えられた牢人衆は一人も解雇されず、さらに新たな牢人衆が召抱えられつつあり。
牢人衆は大坂の町で略奪放火を行い、大坂の町の治安は乱れている。
大野治長が新規召抱えの牢人に金銀を支給し、軍備を整えつつある。
つまり、大坂方はもう一度やる気であるというのです。
皮肉なことに同日3月15日には、大坂方からの使者が家康に謁見していたという記録があり、その際に話し合われたのがなんと、冬の陣での消耗で経済的に困窮した大坂方に対しての援助を家康に申し入れたというのです。
家康としても、公的には敵対関係が解消されている以上、むげにはできなかったでしょう。
一方で板倉勝重の報告に家康は内心喜んだかもしれません。
これで完全に豊臣家をつぶせると思ったのではないでしょうか。
裸となった大坂城で篭城戦はできません。
今度は野戦で戦うしかないのです。
野戦なら数の多い徳川軍は引けを取りません。
勝てると思ったでしょう。
牢人衆が大坂の町で略奪放火をしているとの噂が駿府にまで届いていると知った大坂方は、あわてて弁明の使者を駿府に派遣します。
3月24日に到着した使者は、噂が根も葉もないものであり、大坂の町は平穏である旨を訴えますが、戦争のきっかけになれば内実はどうでもよかった家康には通じませんでした。
それどころか家康は、大坂方がいまだに牢人衆を多数召抱えていることなどを理由に、豊臣家に対して大坂を出て大和か伊勢への国替えに同意するか、牢人衆を解雇するかのどちらかを選ぶように通告します。
冬の陣終了時の和議のとき、参加した牢人衆に関してはお咎めなしというのが双方で取り交わした条件でした。
ところがこれにも微妙な言葉のあやとも言うべきものがあったと思われます。
大坂方にしてみれば、お咎め無しなのだからそのまま召抱えていてもよいと思っていたのでしょう。
ところが徳川方は、命に関してはお咎め無しで助けるから、早々に大坂城を立ち去りなさいという意味だったのだといわれます。
大坂方にしてみれば、お咎め無しだからそのまま召抱えていたはずなのに、今さらそれが悪いといわれても困ります。
使者はやむなくこの二者択一の条件を大坂に持ち帰るしかありませんでした。
大坂夏の陣が刻一刻と迫っておりました。
その36へ
- 2008/08/20(水) 19:37:26|
- 豊家滅亡
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日中戦争や太平洋戦争前半ごろの日本軍の兵器写真を見ると、航空機の機体や戦闘車両の車体に“愛国○○号”とか、“報国○○号”などと書かれているのを見たことはございませんか?
俗に“愛国号”とか“報国号”と呼ばれるこれらの機体や車両。
なぜこういった文字が書かれていたのでしょう。
太平洋戦争前の日本は、決して豊かな国ではありませんでした。
工業化を進め、富国強兵を継続してきましたが、増大する軍事費に取られ、国民生活は厳しいものがありました。
しかし、その増大した軍事費も兵力を増強することに使われ、現状の質を維持するのに手一杯となってしまいます。
軍の質の向上、いわゆる近代化のためには各種の兵器が必要ですが、そういった兵器を買う予算がでないのです。
そういった中で国民は、国防のために自分たちができることをしようという意識の下、献金をするようになりました。
地域単位、会社単位、裕福な場合には個人の資格でとさまざまな形で献金が行なわれ、軍の近代化に役立つようにと寄付されました。
これを国防献金といい、この国防献金で購入された車両や航空機に陸軍は“愛国”、海軍は“報国”の名を与えて国民への感謝の表れとしたのです。
この国防献金によって購入された車両や航空機は結構な数に登り、陸海軍戦力の一端を担ったのは間違いありません。
関東軍などは満州事変時に必要な装甲車を試作する予算が無く、この国防献金によって装甲車を作ったという話さえありました。
ちなみに、“愛国号”及び“報国号”として作られた車両や航空機は、献金した人々へのお披露目として献納式が行なわれましたが、そのときには献納された兵器の絵葉書が送られたそうです。
ただ、実際に献納される兵器を写した写真の絵葉書ではなく、以前に写しておいた同型の兵器に番号だけを当てはめたものだったため、同じ構図の絵葉書の番号が違うだけというものが多数作られ、絵葉書収集家には残念だったらしいですね。
それにしても、国民は生活の一部を犠牲にしても軍に協力していたんですね。
いい悪いはともかく、そういう時代だったんですね。
それではまた。
- 2008/08/19(火) 20:17:26|
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海軍に所属して上陸作戦時など一時的な陸上戦闘に携わる陸上戦用部隊には、有名なアメリカ軍の海兵隊があります(設立当時は海軍に所属。現在は独立)が、大日本帝国海軍にも陸上戦を任務とする海軍陸戦隊というものがありました。
太平洋戦争が島嶼(とうしょ)への上陸作戦などの水際での戦いが主となるであろうと考えた海軍陸戦隊は、その際に有効となるであろうと思われる水陸両用の戦闘車両を独自に持ちたいと考えました。
昭和16年にそのような考えから開発が始まったのが、「特二式内火艇」(とくにしきうちびてい もしくは とくにしきないかてい)です。
内火艇とは、内燃機関を持つ(だから内火)小艇で、港内での移動や雑用などに従事するモーターボートのようなものをさし、軍艦などにも搭載されているものです。
しかし、この特二式内火艇は、名称こそ内火艇ではあるものの、いわば水陸両用戦車というべきものでした。
開発に当たっては陸軍の協力も仰ぎ、当時の陸軍の軽戦車であった95式軽戦車のコンポーネントを大幅に流用。
開発に伴う時間やコストを大幅に短縮することに成功します。
さらに95式軽戦車は海軍陸戦隊にも装備されていたので、整備取り扱いの面でも有効でした。
砲塔には37ミリ砲を備え、箱型の車体に履帯をつけたような格好でしたが、車体の前後には水上航行用のフロートが取り付けられるようになっており、フロートが付いた車体を上から見ると、まさに船のような先細りの形になっておりました。
エンジンからの動力は後部のスクリューと履帯とに切り替えることができ、水上航行時にはスクリュー、陸に上がれば履帯で走行することができました。
アメリカのLVTなどと違って、陸上に上がったあとはフロートを切り離すようになっていたため、再度水上航行することはできない構造ではありましたが、海軍陸戦隊は奇襲上陸用の戦闘車両という位置づけで考えていたために問題とはされませんでした。
特二式内火艇は昭和17年もしくは18年に正式に採用されましたが、そのときには日本が敵前奇襲上陸作戦を行なうような場面はすでになくなっておりました。
約180両が製造された特二式内火艇は、本来の目的である上陸作戦に使われることの無いまま、島嶼における防衛戦に投入され、単なる軽戦車として使われます。
そして有力な米戦車などの攻撃によって、武運拙く破壊されていったのでした。
水陸両用の戦闘車両というコンセプトは、米軍の現在のAAV-7などに引き継がれ、有効なコンセプトであったと思われます。
しかし、運用できる場面に恵まれなかった車両だったのではないでしょうか。
それではまた。
- 2008/08/18(月) 20:06:35|
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夕べから今日にかけてウォーゲームを楽しみました。
まずはGoma様とVASLという通信対戦ソフトでのASL-SK対戦。
シナリオS11「Long way to go」を先日先先日の二日にわたって対戦しました。
このシナリオは盤端へ脱出しようとする独軍とそれを阻止しようとする米軍の戦いです。
阻止する米軍をGoma様が、脱出する独軍を私が担当していざ対戦。
丘の上に陣取るGoma様の米軍を蹴散らしたのもつかの間、8戦力の米軍分隊&指揮官に12戦力で挑んだ白兵戦は見事に負け。
結局投入した三個分隊をすべて失うという憂き目に・・・orz
それでも他の部隊が数少ない米軍を圧倒し、じわじわと押し込んで行きます。
最後はGoma様の米軍部隊がすべて混乱してゲームセット。
どうにか勝利を手に入れることができました。
明けて今日はサッポロ辺境伯様をお迎えしての自宅対戦。
お題はまたしてもの「エチオピアのライオン」(CMJ27号付録)です。
これで対人対戦は七回目かな?
我ながらよくやっている。
今回は前回の入れ替え戦ということで、サッポロ辺境伯様がイタリア軍を、私がエチオピア軍を担当です。
このゲーム、いつもながら双方ともきびしい。
悩みつつ悩みつつの部隊運用を強いられます。
南北の両戦線に対して投入できる部隊数はどちらも充分ではありません。
あちらを立てればこちらが立たずの微妙なさじ加減が求められます。
今回サッポロ辺境伯様はグラツァーニ部隊を重点にして侵攻をかけてきました。
北部から部隊を引き抜けるだけ引き抜き、海輸にて南部へ回します。
しかもその全てと言っていい部隊をneghlli方面につぎ込んできます。
当然その方面のエチオピア軍は苦戦を強いられます。
南部、北部ともにじわじわエチオピア軍は押し込まれ始めました。
この状態を改善するためには、少しサッポロ辺境伯様の攻撃の手を止めさせなければなりません。
こちらから攻撃に出て圧力を減じるのです。
そのためにはできるだけサッポロ辺境伯様の心胆を寒からしめなくてはなりません。
どこに対して攻撃すればサッポロ辺境伯様の心胆を凍らせることができるのか・・・
ありました。
イタリア軍南部方面の拠点「トゥ モガジシオ」です。
ここはイタリア軍の拠点で要塞ですが、サッポロ辺境伯様はわずかの部隊しか置いてませんでした。
今ならば落とせる可能性がある。
そう思った私は、エチオピアの一部隊に攻撃を命じました。
「トゥ モガジシオ」が落ちれば、イタリア軍が翌ターンに奪回できない限りイタリア軍の敗北です。
しかもイタリア軍は一ターンでは戻ってこれるのはわずかな部隊に過ぎません。
やる価値はありました。
エチオピア軍の攻撃はわずか1のみで成功です。
とはいえサッポロ辺境伯様は色を失いました。
残念ながら攻撃は失敗。
イタリア軍は防備を固めてしまいます。
千載一遇の好機をエチオピア軍は失いました。
その後はまさに一進一退。
皇帝陛下に率いられたエチオピア軍が奮戦してイタリア軍に損害を与えるものの、毒ガスを撒き散らすイタリア軍が優勢に進めます。
最後は首都近辺での攻防戦で、残りターン数とイタリア軍の勝負と言ったところでしたが時間切れ。
最後まではできませんでした。
おそらく最後までやれば、イタリア軍が勝利したのではないでしょうか。
エチオピア軍としてはかなりきびしい状況でした。
それにしても面白いゲームです。
エチオピア軍は押されまくるのですが、それでも乾坤一擲の反撃でイタリア軍にかなりのダメージを与えることも可能です。
イタリア軍は毒ガスが使用できても、今度は残りターン数との勝負となり油断なりません。
ほんとに頭が沸騰します。
サッポロ辺境伯様とはこれで四戦対戦しました。
でもまだやりたいと思ってしまいます。
また次の機会にやっちゃうんだろうなぁ。
それではまた。
- 2008/08/17(日) 20:31:33|
- ウォーゲーム
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昨日一昨日と二回にわたって、短編SS「白の帰還」をお楽しみいただきありがとうございました。
ところで、お読みいただいた皆様の中には、途中であらって思われた方もいらっしゃったのではないでしょうか?
実はこの「白の帰還」は、書いている途中でどうにも行き詰まり、途中から(具体的には二日目の分から)大幅に路線を変更して書き上げたものだったのです。
できるだけ違和感無いようにまとめたつもりではありましたが、おそらくなんか途中で変わったなって思われた方がいらっしゃるのではと思います。
それで、本来はこういう形にする予定だったという旧バージョンを公開いたします。
途中で切り上げて新バージョンへと移行したため、最後は尻切れトンボ的な終わりになっておりますが、昨日までの新バージョンと読み比べてみてくださいませ。
そして、今後の参考にもしたいので、どっちがよかったかのアンケートなど取らせていただければと思います。
なにとぞご協力のほどお願いいたします。
それでは旧バージョン、ご鑑賞くださいませ。
「白の帰還」旧バージョン
「う・・・ん・・・ここ・・・は?」
天井の蛍光灯が白々と輝く白い部屋で私は目を覚ます。
鉄パイプで作られたベッド。
白いカバーに包まれた毛布が上にかけられている。
「私は・・・いったい?」
先ほどからずきずきと痛む頭。
何があったのかよく思い出せない。
ここはどこ?
私はどうしてこんなところに?
私はとりあえず周囲の確認をする。
どうやらここはどこかの病院のよう。
白い壁に囲まれた静かな部屋。
ベッドの脇には点滴をぶら下げるスタンドや、心電図みたいなモニター装置がおいてある。
でも窓は一つもない。
外は一切見えない。
普通の病室とは思えない。
私はとにかく起き上がって・・・
ガチャ!
金属質の音が静かな部屋に響いた。
躰を起こそうとした私は、右手をぐいと引っ張られ、思わずベッドに引き戻される。
「えっ?」
私は右手に食い込んだものを見た。
「手錠?」
そこには私の右手首とパイプベッドをつなぎとめる金属製の手錠が鈍く光っていたのだ。
「ど、どうして・・・」
私はここに捕らわれたことに恐怖した。
******
『いやよあたしは!』
『そう言うなって・・・もう大丈夫だから』
『だがなぁ光一(こういち)、洗脳されていたとは言え、あいつは暗黒帝国の女幹部マリーだったんだぞ』
『だからそれは奴らに洗脳されていたからだって』
『でも、本当に洗脳が解けたのかな・・・何かの罠なんじゃ・・・』
『そんなこと・・・ないって』
『おいおい、いつまで騒いでいるんだ? もう麻梨(まり)の部屋の前だぞ』
防音のよくないドアの向こうから声がする。
懐かしい声。
それと同時に胸が苦しくなる声。
「麻梨、起きていたのか?」
ドアを開けて入ってくる青年男女五人。
パッと見ただけなら、どこかのバンドグループとでも見えるかもしれない。
でも、そうじゃない。
彼らこそがこの日本を、そして地球を邪悪な暗黒帝国の魔の手から守っているセーバーチーム。
その五人のメンバーなのだ。
「元気そう・・・ね・・・」
ふと目をそらす茜(あかね)。
セーバーイエローとして、かつては私とコンビを組んでいた。
でも、今の私は・・・
「は、初めまして・・・でしょうか」
おずおずと頭を下げる香奈美(かなみ)。
そうね・・・
こうして会うのは初めてだわ。
戦場では何度も会っているのにね。
私の替わりのセーバーホワイトとして・・・
「麻梨・・・本当に大丈夫なんだろうな。俺はまだお前を信じたわけじゃねえぞ」
セーバーブラックの晟(あきら)。
いつもと同じく人に対して距離をとる。
「晟! 麻梨はもう大丈夫だって。メディカルセンターの検査にも合格したんだし」
セーバーレッドの光一。
そう言いながらもちょっと笑顔がぎこちないわよ。
「けがはもう大丈夫なのか?」
体格のよい熊のような惣太(そうた)。
セーバーグリーンとして相変わらず皆を後ろでまとめているのね。
「みんな・・・私、今までみんなの敵になって・・・ごめんなさい」
かつての仲間たちを前にして、私は頭を下げるしかできなかった。
そう・・・
私は戦いの最中に暗黒帝国に捕らわれた。
そして、皇帝の闇の力を注ぎ込まれ、女幹部マリーとして生まれ変わってしまったのだ。
それからの私は暗黒帝国の尖兵として怪人どもを指揮し、地上に被害を与えてきた。
先日の戦いで頭に衝撃を受け、洗脳が解かれるその時点まで・・・
「まあ、元気そうで何よりだ。躰の調子が戻ったらまた一緒に戦おうぜ」
光一はそう言ってくれたが、その瞬間に茜と香奈美の表情が曇ったことを私は見逃さない。
すでにセーバーチームに私の居場所はないんだわ・・・
「麻梨にはいろいろと聞きたいことがあるって司令も言ってたぜ」
「しばらくは監視体制に置かれるけど、悪く思わないでね、麻梨」
「ええ、それは当然のことよ。なんてったって、私は暗黒帝国の女幹部マリーなんですもの」
ずっと視線をそらしたままの茜に私はおどけて見せる。
「なに言ってる! 麻梨はマリーなんかじゃない! セーバーホワイトの麻梨なんだ!」
「そ、そうですね。麻梨さん、復帰したらいつでもセーバーホワイトはお返ししますから言ってくださいね」
複雑そうな表情を浮かべる香奈美。
「香奈美、それを決めるのは司令部だ。俺たちがどうこうって話じゃない」
晟が香奈美の肩に手を置いた。
「そ、そうよ。今は香奈美さんがセーバーホワイトなんだから、私のことは気にしないで暗黒帝国の野望を打ち砕いてね」
私・・・いやな女だ。
心にもないことを言っている。
セーバーホワイトを返してって叫びたいぐらいなのに。
「そろそろ引き上げよう。待機任務の途中だし、麻梨だって病み上がりだから」
「そうだな、そうするか」
惣太の言葉になんとなくホッとしたような表情を浮かべるみんな。
「それじゃな、麻梨。またくるよ」
「早く元気になってくださいね、麻梨さん」
「またね、麻梨」
ぞろぞろと病室を出て行ってしまう五人。
張り詰めていた空気が解き放たれる。
五人が去ったことで、私自身も安堵していることに気がついていた。
******
手錠こそはずされたものの、私の周りにはいつも幾人かの監視の目があった。
病室を出て一室をあてがわれたものの、いわば体のよい軟禁状態。
外出は許可制で、散歩もショッピングも思うに任せない。
ベースの一角の一番無害な地区に閉じ込められているのだ。
仕方がない・・・
私は先日まで暗黒帝国の女幹部だったのだ。
私がセーバーチームの司令官でも、こういった処置を講じるだろう。
仕方がない・・・
でも・・・
でも・・・
心が乾いていく。
意外にも、時々顔を出してくれたのはセーバーホワイトの香奈美ちゃんだった。
高校を卒業したばかりといった感じの香奈美ちゃんは、多少のぎこちなさはあったものの、私の部屋に遊びに来てくれるようになったのだ。
姉妹のいない私にとって、まるで妹のような香奈美ちゃんとの会話は、私の心を癒してくれる唯一の時間だった。
香奈美ちゃんと一緒にいる限りにおいては、私を監視する連中も姿を現さない。
このことがどれほど私にとってありがたいことだったか・・・
******
「麻梨さん、今日はショッピングに行きませんか?」
清楚な白いワンピースに身を包んだ香奈美ちゃんが姿を見せてくれる。
私はそれだけで心が弾むのを感じていた。
少しラフにジーンズとシャツを着込んで、私は香奈美ちゃんと出かけていく。
もっとも、出かけるといってもセーバーベース内のショッピングモールだ。
セーバーベースはそれ自体が独立した一都市と言ってもいい。
チームにかかわるさまざまな人々とその家族が暮らしている拠点なのだ。
無論、私がマリーにされてしまったあとはかつての場所からは移転したので、現在のベースの正確な位置は私にはわからない。
ベース内の一部だけのみ歩くことを許されているのだ。
仕方がない・・・
もう二度とマリーに戻ることなんてないけれど、それを信じてもらうには時間がかかる。
だから・・・
仕方がないのだ。
「これなんかどうですか? 麻梨さんはスタイルいいからきっと似合いますよ」
「ダメダメ、似合わないってば。それよりもこっち着てごらんよ。香奈美ちゃん似合うと思うよ」
二人で笑い合う他愛ない時間。
お互いに服を選びあう楽しい時間。
私がこれまでしてきたことは許されないことかもしれないけど、こんな時間がいつまでも続いて欲しい・・・
******
私はどうしてこんなところにいるのだろう・・・
毎日のように行なわれる尋問。
暗黒帝国のことを探るためといいながら、いまだ私が洗脳されているのではないかと疑っている。
繰り返される同じような質問。
どこかに矛盾点があれば、すぐにそこをついてくる。
私だって人間よ。
洗脳されていたときの記憶なんてあやふやに決まっているじゃない。
きちんとしたことなんて覚えているはずがないじゃない!
私はそう叫びだしたいのをこらえて、できる限りの協力を行なう。
それが私の罪滅ぼしなのよ。
暗黒帝国の女幹部マリーだったとき、私は漆黒の衣装に裏地の赤いマント、それにひざ上までのブーツを履いてとげのついたサークレットを嵌めていた。
つまり、私の素顔はさらされていたのだ。
残虐な女幹部マリーの姿は日本中の人間が知っている。
そう・・・
私の顔を見れば、マリーであることは一目瞭然なのだ。
そのことを思い知ったのは先日のこと・・・
メディカルセンターでの検査にやってきた私を、医者も看護師たちもよけていく。
私の後ろには監視役の男たちがつき従い、何か異変はないかと常に私を見張っている。
ここへ来て以来の見慣れた光景。
慣れたとはいえ、心が乾いていくのはどうしようもない。
「きゃっ」
突然、私の足に少女がぶつかってくる。
子供たち同士で遊んでいたのか、私に気が付かなかったらしい。
このメディカルセンターには小児科もあるから、きっとそこに来ていた娘だろう。
とてんという擬音が似合いそうな感じでしりもちをついた少女に、私はそっと手を差し出す。
「ごめんなさい」
そう言って手を伸ばし、私を見上げた少女の顔が、みるみる恐怖に青ざめた。
「いやぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴を上げて必死にあとずさる少女。
すぐに看護師の一人が彼女を抱きかかえて走り去る。
私が差し伸べた手は、むなしく宙に浮いたままだった。
私は逃げ出していた。
もうこんな場所にはいたくない。
ここは私のいる場所じゃない。
ここは別の世界なんだわ。
泣きながら走ってきた私は、細い路地のようなところに行き着いていた。
ここは?
突然のことだったせいか、監視役の男たちも私を見失ってしまったらしい。
通路のつくりからして居住セクションではなく基地セクションのよう。
迷い込んでしまったんだわ。
カツコツと響く足音。
誰かが来る。
しかも足音は二つ。
こんなところで見つかったら、また疑われてしまう。
私はとっさに置いてあったコンテナの陰に身を隠す。
身を隠せるところがあってラッキーだったわ。
「麻梨の姿を見失ったって?」
「ああ、突然逃げ出したらしい・・・警備の奴らが今探している所だそうだ」
二人の会話が聞こえてくる。
聞きおぼえのある声。
晟と惣太だわ。
「言わないことじゃない。最初からここへ侵入するための手だったんだ」
「うむ・・・その可能性は高くなったな」
ああ・・・
晟も惣太も結局は私を信じてはくれなかったんだ・・・
私がまだマリーだと思っているんだ・・・
そんなことって・・・
「香奈美にも言い含めておいたんだけどな。麻梨に怪しい動きがないか見張れって。上手いこと麻梨と仲良く見せかけることに成功したようだから、そのうちボロを出すだろうとは思っていたが・・・」
「香奈美の報告では怪しいところは感じられなかったっていうことだったが」
「あまいぜ惣太。あいつはもう俺たちの知っている麻梨じゃない。暗黒帝国の女幹部マリーだ。あくどい手を使ってくることには長けている」
「うむ・・・確かにな」
私の足元に涙が落ちる。
香奈美ちゃんも・・・
香奈美ちゃんまでもが演技だったなんて・・・
私は死んだ。
セーバーホワイトだった麻梨はたった今死んだ。
******
セーバーベースに警報が鳴り響く。
暗黒帝国の攻撃がどこかにあったのだろう。
私は思わず笑みを浮かべた。
今がチャンスだわ。
もう、こんなところにはいられない。
帰ろう・・・
あの懐かしい世界へ・・・
どうして忘れていたんだろう・・・
人間の愚かしさに。
人間のくだらなさに。
平気で他者を踏みつけにするそのおぞましさに・・・
そうよ・・・
私はもうこんなところにいるのはいや。
もう一度戻りたい。
もう一度私のいるべき場所に戻りたい
もう一度暗黒帝国の女幹部マリーに戻りたい!
私はすぐに部屋を出て脱出に取り掛かる。
しばらくおとなしくしていたから、監視の連中も油断していたのか、あっけないほどたやすく始末することができた。
ちょっと逃げ出すようなそぶりを見せて物陰に誘い込んだら、他愛なく追いかけてきたわ。
腹部と首筋に一撃であっけなく伸びてしまう。
こんな連中じゃ監視の役に立たないでしょうにね。
私は過去の記憶を頼りにセーバーベースの出口を探す。
以前とは違う配置にしているようだけど、基地なんてのはどこか似通ってくるもの。
いくつか目星をつけておいた中から、簡単に外部につながっているゲートを見つけることができた。
さようならセーバーベース。
正義という名の牢獄から私は脱出した。
******
「おう、それでこそ暗黒帝国の黒き花マリー。美しいですぞ」
「うふふ・・・ありがとうゴズム。あなたの頭脳もしわが深くてとても素敵よ」
漆黒のボンデージとも言うべき衣装を身に付け、マントを羽織った私を暗黒帝国の参謀ゴズムが出迎えてくれる。
こうして二人で皇帝陛下にまたお仕えできるのはうれしいものね。
私は暗黒帝国の女幹部マリー。
セーバーチーム、次に会うときが楽しみだわ。
END
以上です。
よければ拍手コメントなどいただければと思います。
あと、アンケートにご協力お願いいたします。m(__)m
- 2008/08/16(土) 20:42:13|
- 短編SS
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| コメント:4
短編SS「白の帰還」の二回目です。
楽しんでいただければ幸いです。
もしよかったら、コメント・拍手などいただけるとすごくうれしいです。
それではどうぞ。
「触角よ! 触角を狙ってみて!」
暗黒帝国のトンボ型の怪人に翻弄されるセーバーチーム。
空中からの攻撃に苦戦を強いられているのだ。
私は司令にお願いして、アドバイザーということで現場に来ていた。
そして小型の装甲車の中でモニターを見ながら、思ったことをアドバイスしていたのだ。
『よし、二人で奴の触角を叩き落すぞ!』
『おう!』
レッドとブラックとが同時にジャンプし、空中で一回転して見事に手刀を叩き込む。
トンボ型怪人は両方の触角を折られ、めまいでもしたかのように地面に叩きつけられた。
『今だ! クラッシュファイヤー!』
レッドの叫びとともに、見事な連携でトンボ型怪人を取り囲むセーバーチーム。
おのおののエネルギーが光となってほとばしり、トンボ型怪人を覆っていく。
『グギャァァァァァ』
断末魔の悲鳴を上げながら、トンボ型怪人は爆発した。
『やったな』
『ああ、触角が弱点だったんだ』
『麻梨さんのおかげですね』
『麻梨、聞いている? サンキューね』
セーバーチームのみんなの声が車内に届く。
よかった。
私も役に立てたんだわ。
セーバーホワイトはもう香奈美ちゃんに任せるしかないけど、少しでも役に立てるならこんなにうれしいことはない。
マリーの記憶を思い出すのはつらいけど、少しでも罪滅ぼしになればいいな。
******
「ね、麻梨さん、ショッピングモールに美味しいケーキを出す喫茶店ができたんですよ。一緒に食べに行きませんか?」
眼を輝かせている香奈美ちゃん。
私も甘い物は大好きだけど、香奈美ちゃんもケーキには目がないのだ。
「ムッ、それは聞き捨てならないわね。どこの喫茶店かな?」
文庫本を読んでいた茜までもが眼を輝かせる。
ここはセーバーチームのリラックスルーム。
私もようやくここに入れてもらえるようになったのだ。
今ではみんなともほとんど以前と変わらなく接している。
まあ、多少のぎこちなさはまだ残ってはいるけれど・・・
「むふふ・・・Dブロックのレマンですよー。あそこのケーキは絶品です」
「あ、あそこかぁ。うんうん、あそこのケーキは美味しいわよね」
「あ、茜さんいつの間に? 内緒にしていて驚かせようと思ったのに」
ちょっと残念そうな香奈美ちゃん。
「レマンなら俺も行ったことあるぞ。コーヒーが美味かった」
光一も横から話に乗ってくる。
そうなるとコーヒー党の晟が黙っているはずはない。
「ふっ・・・光一の美味いは当てにならないからな。ここは俺が味見してくるか」
案の定行く気満々でジャケットを羽織っている。
なんだかんだ言っても、光一が美味いという店には必ず顔を出しているのだ。
結構当てにしているんじゃない。
「それじゃみんなで行きましょうか? いいでしょ? 麻梨さん」
「ええ、私はかまわないけど・・・みんなはいいの?」
「いいに決まっているだろ。なぁ?」
光一の言葉にメンバーみんながうなづいてくれた。
******
「おかしい・・・みんな気をつけて」
装甲車の車内で私はマイクに声をかける。
今回の暗黒帝国の怪人はケラをベースにした怪人らしい。
自由に地中を掘り進むことができるケラ型怪人に、セーバーチームはまたしても翻弄されている。
しかも、今回は顔を出しては潜るというまるでもぐら叩きのような状況だ。
攻撃をしないで逃げ回っているのは何か理由があるに違いないわ。
でも、いったいどんな理由があるというの?
「みんな、敵の動きに翻弄されてはダメよ!」
気がつくとケラ型怪人の動きを追うのに夢中なのか、みんなの連携が取れなくなってしまっている。
それどころか、どんどん遠ざかっていってしまっているのだ。
このままでは無線もうまく届かなく・・・
私はハッとした。
まさかここからみんなを引き離すため?
私は急いで装甲車を発進させようとした。
しかし、その前に車体に衝撃が走る。
後部ドアが引きちぎられ、振り返った私の目の前に見慣れた暗黒帝国の戦闘員たちの黒尽くめの姿があった。
「ヒッヒッヒ・・・迎えに来ましたぞ。マリー」
巨大なむき出しの頭脳をさらした白衣の老人が笑みを浮かべている。
「参謀ゴズム・・・」
暗黒帝国の知恵袋として皇帝に仕え、私も何度も作戦を授けてもらった相手。
今回の作戦も彼によるものだったんだわ。
「皇帝陛下がお待ちかねですぞ。マリー」
いやらしい薄ら笑いを浮かべているゴズムに私はぞっとする。
「いや、いやよ。私はもうマリーなんかじゃない! 皇帝に会うのはいやぁっ!」
私は急いで車外に飛び出そうとした。
でもダメだった。
ゴズムの噴きかけてきた霧によって、私はまたしても意識を失ってしまったのだった。
******
「う・・・あ」
ゆっくりと意識が戻ってくる。
こ、ここは?
私は目を開けると、すぐに周囲を確認した。
「ああっ」
思わず声がでてしまう。
驚いたことに、私は暗黒帝国の皇帝である巨大な目玉のレリーフの前に寝かされていたのだ。
そう・・・
ここは暗黒城の大広間。
皇帝に対する謁見の間。
人類に対する侵略作戦を指揮する間なのだ。
『目が覚めたようだな。我がしもべマリーよ』
重々しい皇帝の声が響き渡る。
「ち、違う、私はマリーなんかじゃ・・・」
私は思わず身を硬くして首を振る。
『マリーなんかじゃないと言うか? 果たして本当にそうか? お前はここに来て我が前にいることでホッとしているのではないか?』
「そ、そんなことは・・・」
皇帝の巨大な目が、まるで私の心の奥底までを見通すように私を見つめている。
『ないというのか? 自分の心の奥を探ってみよ。お前はすでにマリーとなっているのだ。我に再び会いまみえた喜びを感じているのではないか?』
「ち、違う・・・そんなことは・・・」
私は必死でそんなことはないと言いたかった。
でも・・・
でも・・・
私のどこかが喜んでいた。
私のどこかがここにいることにほっとしていた。
光の差し込まない暗黒の空間。
すべてを支配する偉大なる皇帝陛下。
その皇帝陛下の前にいることに、私は確かに喜んでいるところがあったのだ。
『クックック・・・感じただろう? すでにお前の心は暗黒に染まっているのだ。お前はもうマリーなのだ』
違う。
そんなことはない。
私はマリーなんかじゃない。
でも・・・
でも・・・
とても心が休まるの。
ここにいるとすごく居心地がいいの。
あんな人間どもと一緒にいるよりも数倍・・・いいえ、数十倍も居心地がいい。
『さあ、受け入れよ。もう一度我が力を受け入れるのだ。そして、今度こそ身も心も暗黒に染まった女となるがいい』
ああ・・・
いけない・・・
受け入れてはいけない・・・
私は・・・
私は・・・
でも・・・
でも・・・
なんて心地よいお言葉なのだろう・・・
皇帝陛下のお言葉は、まるで心に染み渡るようだわ・・・
『立つのだマリー。そして我が力を受け入れよ』
私にはもう逆らう力はなかった。
皇帝陛下のお言葉に従うのみ。
私はゆっくりと立ち上がると、皇帝陛下にしっかりと向き合った。
『クックック・・・それでいい。さあ、再び我がしもべとなるがいい』
皇帝陛下の巨大な目から、暗黒の気が流れ出る。
それは私の足元を伝い、じょじょに私の躰にまとわりつく。
そしてゆっくりと私の躰に染み込んでいく。
ああ・・・
気持ちいい・・・
暗黒の気を受け入れることがこんなに気持ちよかったなんて。
再び皇帝陛下のしもべになることがこんなに喜ばしいことだったなんて。
そう・・・
私はもう麻梨なんかじゃない。
暗黒帝国の女幹部マリーなのよ。
******
「おう、それでこそ暗黒帝国の黒き花マリー。美しいですぞ」
「うふふ・・・ありがとうゴズム。あなたの頭脳もしわが深くてとても素敵よ」
漆黒のボンデージとも言うべき衣装を身に付け、マントを羽織った私をゴズムが出迎えてくれる。
こうして二人で皇帝陛下にまたお仕えできるのはうれしいものね。
「お前さんのおかげでまたいろいろと情報が手に入ったわい。どうじゃろうかの、もう一人ほど皇帝陛下の偉大さを教えてやってみては」
「うふふ・・・それはいい考えだわ。私も可愛い部下が一人ほしかったのよね。香奈美なんてどうかしら」
私は手袋に包まれた指先を舌で舐める。
あの娘が皇帝陛下の偉大なお力に触れ、暗黒帝国の一員となってくれたらどんなに素敵だろう。
きっと私の可愛い妹になってくれるに違いない。
「ヒッヒッヒ・・・そうと決まれば早速捕獲作戦に取り掛からねばの。まあ、お前さんが指揮を取れば容易かろうて・・・」
「ええ、私に任せてちょうだい。あの娘をすぐに捕らえてきてみせるわ。うふふふふ・・・」
私は皇帝陛下にひざまずく香奈美の可愛い姿を思い浮かべ、それを実現させるべく取り掛かるのだった。
END
- 2008/08/15(金) 20:22:37|
- 短編SS
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今日明日の二日間で短編一本投下します。
いわゆるシチュのみ短編といっていいものですが、楽しんでいただければと思います。
「う・・・ん・・・ここ・・・は?」
天井の蛍光灯が白々と輝く白い部屋で私は目を覚ます。
鉄パイプで作られたベッド。
白いカバーに包まれた毛布が上にかけられている。
「私は・・・いったい?」
先ほどからずきずきと痛む頭。
何があったのかよく思い出せない。
ここはどこ?
私はどうしてこんなところに?
私はとりあえず周囲の確認をする。
どうやらここはどこかの病院のよう。
白い壁に囲まれた静かな部屋。
ベッドの脇には点滴をぶら下げるスタンドや、心電図みたいなモニター装置がおいてある。
でも窓は一つもない。
外は一切見えない。
普通の病室とは思えない。
私はとにかく起き上がって・・・
ガチャ!
金属質の音が静かな部屋に響いた。
躰を起こそうとした私は、右手をぐいと引っ張られ、思わずベッドに引き戻される。
「えっ?」
私は右手に食い込んだものを見た。
「手錠?」
そこには私の右手首とパイプベッドをつなぎとめる金属製の手錠が鈍く光っていたのだ。
「ど、どうして・・・」
私はここに捕らわれたことに恐怖した。
******
『いやよあたしは!』
『そう言うなって・・・もう大丈夫だから』
『だがなぁ光一(こういち)、洗脳されていたとは言え、あいつは暗黒帝国の女幹部マリーだったんだぞ』
『だからそれは奴らに洗脳されていたからだって』
『でも、本当に洗脳が解けたのかな・・・何かの罠なんじゃ・・・』
『そんなこと・・・ないって』
『おいおい、いつまで騒いでいるんだ? もう麻梨(まり)の部屋の前だぞ』
防音のよくないドアの向こうから声がする。
懐かしい声。
それと同時に胸が苦しくなる声。
「麻梨、起きていたのか?」
ドアを開けて入ってくる青年男女五人。
パッと見ただけなら、どこかのバンドグループとでも見えるかもしれない。
でも、そうじゃない。
彼らこそがこの日本を、そして地球を邪悪な暗黒帝国の魔の手から守っているセーバーチーム。
その五人のメンバーなのだ。
「元気そう・・・ね・・・」
ふと目をそらす茜(あかね)。
セーバーイエローとして、かつては私とコンビを組んでいた。
でも、今の私は・・・
「は、初めまして・・・でしょうか」
おずおずと頭を下げる香奈美(かなみ)。
そうね・・・
こうして会うのは初めてだわ。
戦場では何度も会っているのにね。
私の替わりのセーバーホワイトとして・・・
「麻梨・・・本当に大丈夫なんだろうな。俺はまだお前を信じたわけじゃねえぞ」
セーバーブラックの晟(あきら)。
いつもと同じく人に対して距離をとる。
「晟! 麻梨はもう大丈夫だって。メディカルセンターの検査にも合格したんだし」
セーバーレッドの光一。
そう言いながらもちょっと笑顔がぎこちないわよ。
「けがはもう大丈夫なのか?」
体格のよい熊のような惣太(そうた)。
セーバーグリーンとして相変わらず皆を後ろでまとめているのね。
「みんな・・・私、今までみんなの敵になって・・・ごめんなさい」
かつての仲間たちを前にして、私は頭を下げるしかできなかった。
そう・・・
私は戦いの最中に暗黒帝国に捕らわれた。
そして、皇帝の闇の力を注ぎ込まれ、女幹部マリーとして生まれ変わってしまったのだ。
それからの私は暗黒帝国の尖兵として怪人どもを指揮し、地上に被害を与えてきた。
先日の戦いで頭に衝撃を受け、洗脳が解かれるその時点まで・・・
「まあ、元気そうで何よりだ。躰の調子が戻ったらまた一緒に戦おうぜ」
光一はそう言ってくれたが、その瞬間に茜と香奈美の表情が曇ったことを私は見逃さない。
すでにセーバーチームに私の居場所はないんだわ・・・
「麻梨にはいろいろと聞きたいことがあるって司令も言ってたぜ」
「しばらくは監視体制に置かれるけど、悪く思わないでね、麻梨」
「ええ、それは当然のことよ。なんてったって、私は暗黒帝国の女幹部マリーなんですもの」
ずっと視線をそらしたままの茜に私はおどけて見せる。
「なに言ってる! 麻梨はマリーなんかじゃない! セーバーホワイトの麻梨なんだ!」
「そ、そうですね。麻梨さん、復帰したらいつでもセーバーホワイトはお返ししますから言ってくださいね」
複雑そうな表情を浮かべる香奈美。
「香奈美、それを決めるのは司令部だ。俺たちがどうこうって話じゃない」
晟が香奈美の肩に手を置いた。
「そ、そうよ。今は香奈美さんがセーバーホワイトなんだから、私のことは気にしないで暗黒帝国の野望を打ち砕いてね」
私・・・いやな女だ。
心にもないことを言っている。
セーバーホワイトを返してって叫びたいぐらいなのに。
「そろそろ引き上げよう。待機任務の途中だし、麻梨だって病み上がりだから」
「そうだな、そうするか」
惣太の言葉になんとなくホッとしたような表情を浮かべるみんな。
「それじゃな、麻梨。またくるよ」
「早く元気になってくださいね、麻梨さん」
「またね、麻梨」
ぞろぞろと病室を出て行ってしまう五人。
張り詰めていた空気が解き放たれる。
五人が去ったことで、私自身も安堵していることに気がついていた。
******
手錠こそはずされたものの、私の周りにはいつも幾人かの監視の目があった。
病室を出て一室をあてがわれたものの、いわば体のよい軟禁状態。
外出は許可制で、散歩もショッピングも思うに任せない。
ベースの一角の一番無害な地区に閉じ込められているのだ。
仕方がない・・・
私は先日まで暗黒帝国の女幹部だったのだ。
私がセーバーチームの司令官でも、こういった処置を講じるだろう。
仕方がない・・・
でも・・・
でも・・・
心が乾いていく。
意外にも、時々顔を出してくれたのはセーバーホワイトの香奈美ちゃんだった。
高校を卒業したばかりといった感じの香奈美ちゃんは、多少のぎこちなさはあったものの、私の部屋に遊びに来てくれるようになったのだ。
姉妹のいない私にとって、まるで妹のような香奈美ちゃんとの会話は、私の心を癒してくれる唯一の時間だった。
香奈美ちゃんと一緒にいる限りにおいては、私を監視する連中も姿を現さない。
このことがどれほど私にとってありがたいことだったか・・・
******
「麻梨さん、今日はショッピングに行きませんか?」
清楚な白いワンピースに身を包んだ香奈美ちゃんが姿を見せてくれる。
私はそれだけで心が弾むのを感じていた。
少しラフにジーンズとシャツを着込んで、私は香奈美ちゃんと出かけていく。
もっとも、出かけるといってもセーバーベース内のショッピングモールだ。
セーバーベースはそれ自体が独立した一都市と言ってもいい。
チームにかかわるさまざまな人々とその家族が暮らしている拠点なのだ。
無論、私がマリーにされてしまったあとはかつての場所からは移転したので、現在のベースの正確な位置は私にはわからない。
ベース内の一部だけのみ歩くことを許されているのだ。
仕方がない・・・
もう二度とマリーに戻ることなんてないけれど、それを信じてもらうには時間がかかる。
だから・・・
仕方がないのだ。
「これなんかどうですか? 麻梨さんはスタイルいいからきっと似合いますよ」
「ダメダメ、似合わないってば。それよりもこっち着てごらんよ。香奈美ちゃん似合うと思うよ」
二人で笑い合う他愛ない時間。
お互いに服を選びあう楽しい時間。
私がこれまでしてきたことは許されないことかもしれないけど、こんな時間がいつまでも続いて欲しい・・・
- 2008/08/14(木) 20:22:20|
- 短編SS
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今日はお寺に盆参りに行ってきました。
数年前、寺からの帰りに違反キップ切られたことがあったことを思い出し、交通安全で行ってきましたよ。(笑)
帰ってきてからは高校野球を少し見てました。
今日から甲子園はベスト16の対決。
勝てばベスト8進出です。
第三試合目に北北海道代表の駒大岩見沢が出るので応援してました。
試合は投手戦ともいえる様相で、7回までは3-2と駒大岩見沢が智弁学園和歌山をリード。
これはもしかして・・・と淡い期待を抱いてしまいました。
この淡い期待を駒大岩見沢の板木投手も抱いてしまったのか?
八回の表、甲子園の魔物に捕まってしまいました。
あれよあれよという間に三投手が11失点。
一イニングに三本のホームランが出て、うち二本がスリーラン。
打者一巡によって一人の打者に二本もホームランを打たれてしまうということまでも。
まさに悪夢の八回表でした。
3-15で敗戦。
南北北海道代表とも甲子園を去りました。
でもがんばってくれましたね。
楽しませてもらいました。
また来年がんばって欲しいです。
ところで昨日やった「レニングラード」のソロプレイ。
やっぱりいろいろとルールを間違っていたみたい。
やれやれ・・・
まあ、でも、ソロプレイってのはゲームの流れとルール把握のためにやるものだから、ルールの確認ができてよかったということでしょう。
今度は対人戦やるぞー。
それではまた。
- 2008/08/13(水) 20:35:22|
- スポーツ
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ココロ、最近ちょっと運動不足でちょっぴりおしりが垂れ下がってきちゃった……
舞方雅人さんももしかして気づいてたりしますか……
*このエントリは、
ブログペットのココロが書いてます♪
- 2008/08/13(水) 09:06:31|
- ココロの日記
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毎日のように甲子園でも北京でも熱戦が続いています。
昨日は水泳の北島選手が金メダル。
今日は男子体操団体が銀メダルと、日本選手が健闘なさっておりますね。
甲子園もベスト16が出揃い、更なる熱戦が期待できそうです。
まさに熱い夏真っ盛りですね。
そんな中、ちょっとした時間があったので、ウォーゲームのソロプレイを久しぶりにしてみました。
数時間でできる手軽なものということで、「ベーシック3」(HJ)に含まれている「レニングラード」をやってみることに。
このゲームはかつてSPI社が出したカプセルゲームで、1941年のバルバロッサ作戦でのドイツ軍北方軍集団のレニングラードへの進撃をゲーム化したものです。
A3版といういわば雑誌を広げたぐらいのマップで独軍の快進撃が見られるわけです。
システムはいわゆるPGGシステムで、ソ連軍は裏返しに配置されます。
ドイツ軍には装甲軍団効果や空軍などがあり強力ですが、うじゃうじゃと現れるソ連軍にやがて進撃を阻まれていくことになります。

これが初期配置。
マップ右端にレニングラードがあります。
実は私はこのゲームを何度か対人プレイしたことがあるのですが、独軍でレニングラードまで行けたためしがありませんでした。
どうにもソ連軍に戦線を張られてしまうのです。
でも、それは単に私がへたくそなだけでした。
蹂躙攻撃を駆使するようなことができていなかったのです。
久しぶりなのでルールを再確認してプレイし始めました。
何というか自分ですごく驚きました。
こんなにドイツ軍って進めるのかぁ。
蹂躙攻撃を駆使して戦線の裏側に回りこみ、補給切れに追い込んで歩兵師団で攻撃する。
こんな初歩中の初歩のことが今まではできていなかったんですね。
今回ソロプレイではありましたが、蹂躙攻撃による電撃戦をまさに肌で感じることができました。
以前の対人戦ではほとんど除去することのできなかったソ連軍を、今回はこれでもかとばかりに除去して行くドイツ軍。
あれよあれよという間に前線のソ連軍はほぼ消滅します。
気持ちいいーーー!!
(ああ・・・やっぱりドイツ軍側に立っているなぁ)
前線を突破したドイツ軍は順調に進撃を続け、ソ連軍をどんどんレニングラード近辺に追い込んで行きます。

ソ連軍も必死に防戦しますが、ドイツ軍の進撃を止めることができません。
最後の頼みの綱の陣地帯もじわじわと突破されていきます。
しかし、このゲームはソ連軍有利といわれるゲームなだけあります。
レニングラードには次々と部隊が到着するのです。
ドイツ軍は進んでも進んでもソ連軍が立ちはだかります。

最終ターン、ドイツ軍は四へクスあるレニングラードの一ヘクスを奪うことができましたが、進撃もここまで。
ただ、勝利条件的には最後の攻撃で奪ったヘクスによりドイツ軍が勝利となりました。
(待て。補給が通じてないから占領したことになってないじゃん。やっぱり負けだよ orz)
このゲームってこんなに面白かったんだ。
以前対人戦で手詰まりになったので、それほど面白さを感じてなかったのですが、それは単に自分がへたくそなだけだったんですね。
カプセルゲームですので、そう何度もやるものではないかもしれませんが、ちょっとした時間があるときには楽しめるゲームのようです。
この雑誌を広げた広さが広大な戦場だというのも結構好き。
なんかあらためて良さを見直したゲームとなりました。
今度対人戦やってみよう。
それではまた。
- 2008/08/12(火) 20:04:22|
- ウォーゲーム
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